血液成分測定装置を較正するための較正用構造体及びその較正方法
【課題】較正用構造体を用いて較正を行うことによって血液成分測定装置の測定誤差をより一層低減し、測定精度の向上を図る。
【解決手段】較正用構造体10は、内部に光散乱体22を有した本体部24と、較正液26の充填されたフローセル28とを備え、前記フローセル28は、血液成分測定装置12の発光部18から照射される近赤外光を透過させる透過体40と、該透過体40に接続されるチューブ42とからなる。そして、透過部は、近赤外光の光路長が短い第1透過部44と、前記第1透過部44と接合され前記近赤外光の光路長が長い第2透過部46とを備え、較正用構造体10スライド変位させることによって発光部18に対する透過体40の位置を切り換える。
【解決手段】較正用構造体10は、内部に光散乱体22を有した本体部24と、較正液26の充填されたフローセル28とを備え、前記フローセル28は、血液成分測定装置12の発光部18から照射される近赤外光を透過させる透過体40と、該透過体40に接続されるチューブ42とからなる。そして、透過部は、近赤外光の光路長が短い第1透過部44と、前記第1透過部44と接合され前記近赤外光の光路長が長い第2透過部46とを備え、較正用構造体10スライド変位させることによって発光部18に対する透過体40の位置を切り換える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体における血液成分を透過光によって測定するための血液成分測定装置に用いられ、該血液成分測定装置を較正するために用いられる較正用構造体及びその較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者は、日常的に血糖値の変動を自分自身で測定することが推奨されており、例えば、従来から患者自身が手指等を穿刺して血液を採取し、測定装置を用いて血糖値を測定することが行われていた。しかしながら、上述した測定方法は、患者に対して多大な負担を強いることとなるため、近年、近赤外光を患者に照射して血液中に含まれる血液成分を測定可能な非侵襲技術を用いた血液成分測定装置が開発されている。
【0003】
この血液成分測定装置を用いた測定方法では、例えば、血液中に含まれるグルコースが近赤外光の一部を吸収することを利用し、患者の身体の一部(例えば、手指等)に近赤外光を照射して前記身体を透過した近赤外光を受光し、その透過率又は吸光度を測定することにより血糖値(グルコース濃度)を算出している。また、この血糖値を測定する際、測定された透過率又は吸光度が、血液中のグルコース濃度か体組織に含まれたグルコース濃度であるかを判断することが困難であるため、血管の拍動を利用して周期的に変化するグルコース量に基づいて血液のグルコース濃度を算出している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、上述したような血液成分測定装置では測定精度が要求されるため、その測定誤差を小さくするために較正作業が行われる。この較正作業は、例えば、装置の工場出荷時や定期的なメンテナンス時及び血糖値の測定前に行われ、所定の較正体を用いて行われる。較正体は、近赤外光を透過し、且つ、内部に所定濃度のグルコースを含む水溶液の充填されたものである。そして、異なる濃度のグルコース水溶液が充填された複数の較正体に対して近赤外光を順に透過させ、その透過率又は吸光度に基づいて得られる信号強度から検量線を作成して血液成分測定装置においてデータベース化する。この検量線に基づいて血糖値を算出することにより、血糖値の測定において精度向上が図られる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3903340号公報
【特許文献2】特開2000−258344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した方法で血液成分測定装置の較正を行う場合、最初の較正体に近赤外光を透過させた後、次の較正体と交換して前記近赤外光を透過させる作業を行うこととなる。しかしながら、容器の材質や形状、内部に充填された較正液中の血液成分の濃度、温度、不純物の含有量等のばらつきや、較正体の交換による測定装置の環境変化等が複数の較正体間にあった場合、近赤外光を透過させた際の透過率又は吸光度に基づいた信号強度に誤差が生じることが懸念される。その結果、信号強度から得られる検量線を基礎とした血液成分濃度の算出を高精度に行うことができないという問題が生じる。
【0007】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、血液成分測定装置における測定誤差をより一層低減し、測定精度の向上を図ることが可能な血液成分測定装置に用いられる較正用構造体及びその較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、赤外光を身体に透過させて血液成分の測定を行う血液成分測定装置に用いられ、該血液成分測定装置の較正を行うための較正用構造体において、
内部に所定濃度の前記血液成分を含む較正液が満たされ前記赤外光が透過する透過体と、
前記赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間で、前記発光部と前記受光部の間の光路上に前記透過体を移動させる移動手段と、
を有し、
前記透過体が、前記赤外光の前記透過体における光路長が異なる少なくとも2つ以上の透過部、又は、前記光路長が連続的に変化する透過部を備えると共に、前記透過部は、前記移動方向に沿って前記光路長が異なるように形成されることを特徴とする。
【0009】
これにより、発光部と受光部との間に、透過部を移動手段によって確実且つ容易に配置することができ、しかも、透過体は、少なくとも2つ以上の透過部が一体的に形成されているため、別体からなる複数の透過体を用いて較正作業を行う従来技術と比較し、前記透過体の材質や形状、予め含まれる血液成分の濃度及び較正体の交換等に起因した測定結果のばらつきを回避することができる。その結果、透過部によって得られた透過スペクトルに基づいて高精度な検量線を作成することが可能となり、該検量線を利用して血液成分の測定を行うことによって該血液成分の測定誤差をより一層低減し、測定精度の向上を図ることができる。
【0010】
また、透過体の光路上には、赤外光の入射側及び該透過体を透過した出射側の少なくともいずれか一方に光散乱体を設けることにより、実際に身体の血液成分を測定する際に生じる血管周辺の生体組織での散乱を再現することが可能となり、より高精度な較正を行うことができる。
【0011】
さらに、移動手段には、透過部を発光部に臨む位置に位置決めする位置決め機構を備えることにより、少なくとも2つ以上設けられた透過部をそれぞれ発光部に臨む位置に確実且つ簡便に配置し、血液成分測定装置の較正作業を行うことが可能となる。
【0012】
またさらに、較正液が循環する循環路及び該較正液を流動させるポンプとを備えることにより、血液の血球成分や該血球成分に模した散乱粒子を含ませた溶液を用いて、該溶液を流動させながら測定を行うことができるため、前記血液の自然な状態により近い状態で較正を行うことができる。
【0013】
また、本発明は、赤外光を患部に透過させて血液成分の測定を行う血液成分測定装置に対して較正用構造体を用いて較正を行うための方法であって、
前記較正用構造体において、赤外光の光路長が異なる少なくとも2つ以上の透過部のいずれか1つを前記赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間に配置し、前記赤外光を前記透過部に対して透過させて透過スペクトルを得る工程と、
前記較正用構造体を前記血液成分測定装置に対して移動させ、光路長の異なる別の透過部を前記発光部と前記受光部との間で位置決めし、前記赤外光を前記別の透過部に対して透過させて透過スペクトルを得る工程と、
得られた少なくとも2つ以上の前記透過スペクトルから差分解析によって信号強度を算出し、該信号強度に基づいた検量線を得る工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0015】
すなわち、透過体が、異なる光路長を有した少なくと2つ以上の透過部、又は、前記光路長が連続的に変化する透過部を備え、移動手段を介して前記透過部が赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間で移動可能とすることにより、前記透過部を移動手段によって確実且つ容易に発光部から受光部への光路上に配置することができ、しかも、透過体は、少なくとも2つ以上の透過部が一体的に形成されているため、別体からなる複数の透過体を用いて較正作業を行う従来技術と比較し、前記透過体の材質や形状、所定血液成分の濃度及び較正体の交換等に起因した測定結果のばらつきを回避することができる。その結果、透過部によって得られた透過スペクトルに基づいて高精度な検量線を作成することが可能となり、該検量線を利用して血液成分の測定を行うことによって該血液成分の測定誤差をより一層低減し、測定精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る較正用構造体を適用した血液成分測定装置の概略構成図である。
【図2】図1の血液成分測定装置の一部断面側面図である。
【図3】較正用構造体を構成するフローセルの外観斜視図である。
【図4】図1に示す血液成分測定装置において、較正用構造体を基端側へと移動させた場合を示す概略構成図である。
【図5】較正用構造体を用いて得られる近赤外光の信号強度と較正液の濃度との関係に基づいた検量線を示すグラフである。
【図6】異なる濃度を有した複数の較正液を用いて得られた信号強度と該較正液の濃度との関係に基づいた検量線を示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る較正用構造体の外観斜視図である。
【図8】図8Aは、図7に示すフローセルの縦断面図であり、図8Bは、図8Aに示すフローセルの横断面図であり、図8Cは、変形例に係るフローセルの横断面図を示す。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る較正用構造体の外観斜視図である。
【図10】図9に示す較正用構造体の上面図である。
【図11】図9に示す較正用構造体を発光部及び受光部に対してガイド溝に沿って移動させた状態を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る血液成分測定装置を較正するための較正用構造体及びその較正方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0018】
先ず、較正用構造体10によって較正がなされる血液成分測定装置12について図1及び図2を参照しながら簡単に説明する。
【0019】
この血液成分測定装置12は、血液中のグルコース濃度を非侵襲で測定するものであり、図1及び図2に示されるように、ベースボディ14と、該ベースボディ14の先端側の上部に設けられ、血液成分を測定する際に、例えば、被検者の手指が挿入されるソケット16と、前記ベースボディ14の内部に設けられ前記ソケット16側に向けて発光可能な発光部18と、該発光部18から発光されて手指を透過した光が入射される受光部20とを含む。なお、血液成分測定装置12は、発光部18および受光部20を含めてコンピュータ(図示せず)によって統合的に制御されている。
【0020】
なお、図1において、ソケット16を有する血液成分測定装置12の上側を「先端」側(矢印A方向)、前記血液成分測定装置12の下側を「基端」側(矢印B方向)と呼び、他の各図についても同様とする。
【0021】
ベースボディ14は、その上面が平面状に形成され、例えば、手指等を前記上面に沿ってソケット16側(矢印A方向)へと移動可能に形成される。
【0022】
ソケット16は、例えば、手指の先端を挿入可能な空間を内部に有したカバー状に形成され、前記空間及びベースボディ14の上面に臨むように受光部20が設けられている。この受光部20は、例えば、フォトダイオードからなる。
【0023】
発光部18は、例えば、近赤外光を取り出す分光器を備えたハロゲンランプ、若しくは、近赤外光を発光可能なLEDからなり、ベースボディ14において受光部20と対向する位置に設けられる。換言すれば、発光部18及び受光部20は、ソケット16の空間を介してベースボディ14及びソケット16において上下方向に対向配置される。すなわち、血液成分測定装置12では、下方に設けられた発光部18から鉛直上方向に向かって発光され受光部20で受光される(図2参照)。
【0024】
そして、血液成分測定装置12では、ソケット16の内部に手指(例えば、人差し指)を挿入した後、作業者が図示しない測定ボタンを押すことにより、発光部18から発光された近赤外光が前記手指において動脈、静脈及びその他の組織を透過し、受光部20で受光される。コンピュータでは、脈拍に相当する期間において受光部20から信号を受信し、スペクトル解析、差分解析を経て血糖値を求める。
【0025】
次に、上述した血液成分測定装置12を較正するために用いられる第1の実施の形態に係る較正用構造体10について、図1〜図6を参照しながら説明する。
【0026】
この較正用構造体10は、図1〜図3に示されるように、光散乱体22が内装された本体部24と、その一部が前記本体部24の内部に設けられ較正液26の充填されたフローセル28と、前記フローセル28の端部に設けられ前記較正液26が貯えられたリザーバタンク30と、前記較正液26を前記フローセル28に沿って循環させるポンプ32とからなる。なお、較正液26としては、例えば、グルコース水溶液や散乱性粒子の含まれた粒子懸濁液が用いられる。
【0027】
本体部24は、例えば、手指を模して先端が円弧状となった断面長円状に形成され、光散乱体22である寒天等が内部に充填されている。すなわち、較正用構造体10では、光散乱体22を内部に設けることによって被検者の手指に近赤外光を透過させた際に血管周辺の生体組織で生じる散乱を再現している。
【0028】
また、本体部24において幅方向に沿った側面には、2組の第1及び第2凹部34、36が該本体部24の軸線方向(矢印A、B方向)に沿って互いに所定間隔離間して形成される。この第1及び第2凹部34、36は、例えば、断面三角形状に窪んで形成され、該第1凹部34が本体部24の基端側(矢印B方向)、第2凹部36が前記本体部24の先端側(矢印A方向)に設けられ、較正用構造体10がソケット16の内部に挿入された際、前記第1及び第2凹部34、36のいずれか一方に対して前記ソケット16の内壁面に形成された断面三角形状の凸部38が係合される。これにより、ソケット16に対して本体部24を含む較正用構造体10が位置決めされて固定されることとなる。
【0029】
すなわち、第1及び第2凹部34、36と凸部38とは、血液成分測定装置12に対する較正用構造体10の位置決めを行う位置決め機構として機能する。
【0030】
フローセル28は、例えば、近赤外光を透過可能な透明なガラス又は樹脂製材料からなり中空状に形成された透過体40と、該透過体40の両端部にそれぞれ接続されるチューブ42とからなり、前記透過体40及びチューブ42の内部がそれぞれ連通し、較正液26が充填されている。透過体40は断面長方形状に形成され、本体部24の幅方向に沿って幅広状に形成された第1透過部44と、前記第1透過部44の端部に接合され、前記本体部24の幅方向と直交した高さ方向に沿って幅広状に形成された第2透過部46とを有する(図3参照)。
【0031】
第1及び第2透過部44、46は、図3に示されるように、中空且つ断面長方形状でほぼ同一形状に形成され、その端部同士が中央部分で互いに略直角に交差するように接合されると共に、本体部24の内部において、第1透過部44が基端側(矢印B方向)、第2透過部46が先端側(矢印A方向)となるように配置される。
【0032】
換言すれば、チューブ42の軸線方向(矢印A、B方向)に沿って見た第1透過部44の水平断面の面積と第2透過部46の縦断面の面積とが同一となるように形成されている。ここで、第1及び第2透過部44、46は容積が同一となるように形成されているので、較正液26を透過体40の内部に流通させる際に、その流速が変化することがなく好適である。
【0033】
そして、透過体40は、図1に示されるように、本体部24の第1凹部34が血液成分測定装置12の凸部38に係合された状態で、第1透過部44が発光部18及び受光部20に臨む位置に配置され、一方、図4に示されるように、第2凹部36が前記凸部38に係合された状態では、第2透過部46が前記発光部18及び受光部20に臨む位置に配置される。
【0034】
チューブ42は、透過体40における第1透過部44とリザーバタンク30との間を接続する第1管路48と、前記透過体40における第2透過部46と前記リザーバタンク30とを接続する第2管路50とを備え、前記第1管路48は、前記第1透過部44から本体部24の基端側(矢印B方向)に向かって延在し、一方、前記第2管路50は、第2透過部46から本体部24の先端側(矢印A方向)に向かって延在した後、U字状に折曲されて前記基端側(矢印B方向)に向かって延在している。
【0035】
そして、第1管路48の途中にはポンプ32が設けられ、リザーバタンク30内の較正液26を前記第1管路48を通じて透過体40へと流動させ、第2管路50を通じて再び前記リザーバタンク30へと循環させている。すなわち、フローセル28とリザーバタンク30は、較正液26の循環路を構成している。
【0036】
なお、ポンプ32は、例えば、粒子懸濁液を較正液として用いる場合に、含有された粒子が沈降してしまわないように前記較正液を流動させるために用いられており、前記較正液26を流動させる必要がない場合には、前記ポンプ32を特に設けなくてもよい。
【0037】
また、図1及び図4に示されるように、例えば、異なる濃度の較正液26が貯えられた別のリザーバタンク30aを設け、図示しない切換手段を介して複数のリザーバタンク30、30aとフローセル28との接続状態を選択的に切換可能としてもよい。この場合、単一の較正用構造体10において、異なる濃度の較正液26を前記フローセル28に対して供給して血液成分測定装置12の較正作業を行うことが可能となる。
【0038】
次に、血液成分測定装置12の較正方法について説明する。なお、ここでは、較正液26として同一濃度Qのグルコース水溶液が用いられると共に、較正用構造体10を構成する透過体40及びチューブ42の内部に予め較正液26が満たされ、ポンプ32を介して常に循環している状態とする。
【0039】
先ず、この準備状態にある較正用構造体10を作業者が把持し、本体部24の先端側から血液成分測定装置12におけるソケット16の内部に挿入していく。そして、図1に示されるように、ソケット16の凸部38に対して前記本体部24の第1凹部34を係合させることにより、透過体40を構成する第1透過部44が、血液成分測定装置12の発光部18及び受光部20に対峙する位置で位置決めされて固定される。
【0040】
次に、作業者が、血液成分測定装置12の計測ボタン(図示せず)を押すことにより、発光部18から照射された近赤外光が較正用構造体10における本体部24及び第1透過部44を透過して受光部20において受光される。この際、本体部24は光散乱体22を有しているため、近赤外光が散乱され、且つ、前記近赤外光が第1透過部44を透過する際に較正液26に含まれるグルコース分子によって該近赤外光の一部が吸収された後に受光部20で受光される。詳細には、固有の波長を有する近赤外光の一部が、グルコース分子によって吸収される。
【0041】
そして、受光部20で受光した透過光の強度に基づいた出力信号が図示しないコンピュータへと出力され、該コンピュータにおいて行われるスペクトル解析を経て透過スペクトルPAが作成される。詳細には、コンピュータでは、発光部18から較正用構造体10に対して照射される光の強度と、受光部20からの出力信号に基づいた透過光の強度とから吸光度が算出され、前記吸光度に基づいて透過スペクトルPAが作成される。
【0042】
次に、作業者が、較正用構造体10を血液成分測定装置12のソケット16から離間させる方向、すなわち、血液成分測定装置12の基端側(矢印B方向)へと引っ張ることにより、第1凹部34から凸部38が離脱して第2凹部36に係合される(図4参照)。これにより、図4に示されるように、血液成分測定装置12の発光部18及び受光部20に対して較正用構造体10の第2透過部46が対峙した位置で位置決めされる。
【0043】
そして、作業者が再び計測ボタンを押すことにより、発光部18から発光された近赤外光が較正用構造体10の本体部24及び第2透過部46を透過して受光部20において受光される。この際、図3に示されるように、近赤外光の透過する第2透過部46は、該近赤外光の照射方向に沿った光路長L2(断面積)が、第1透過部44における光路長L1(断面積)に対して大きく形成されているため(L2>L1)、前記近赤外光の較正液26を透過する距離が長くなる。
【0044】
その結果、第2透過部46では、近赤外光を第1透過部44に透過させた場合と比較し、較正液26によって吸収される光が増加し、それに伴って、受光部20において受光される近赤外光の光が減少することとなる。すなわち、近赤外光を較正用構造体10に透過させる際、第2透過部46を透過させた際の吸光度が、第1透過部44を透過させた際の吸光度に対して大きくなる。
【0045】
すなわち、光路長L1が短い第1透過部44は、血管が拍動によって収縮して血液量が減少した場合における身体の透過スペクトルを再現するためのものであり、一方、光路長L2の長い第2透過部46は、前記血管が拍動によって拡張して前記血液量が増加した場合における前記身体の透過スペクトルを再現するために設けられている。
【0046】
そして、この受光部20で受光した透過光の強度に基づいた出力信号が再び図示しないコンピュータへと出力され、該コンピュータでは、スペクトル解析を行い、吸光度に基づいて透過スペクトルPBが作成される。
【0047】
最後に、較正用構造体10における第1及び第2透過部44、46を透過させた際に得られた透過スペクトルPA、PBに基づいて差分解析を行い、較正液26における信号強度Sを算出することにより、図5に示されるような前記信号強度Sと前記較正液26の濃度Qとの関係に基づいた直線状の検量線Kが得られる。
【0048】
そして、血液成分測定装置12では、この検量線Kをデータベースとして保存し、血糖値を測定する際に参照することで高精度な測定を行うことができる。
【0049】
また、上述した説明においては、所定濃度Qを有した単一の較正液26を用いて血液成分測定装置12の較正を行う場合について説明したが、例えば、図1及び図3に示されるように複数のリザーバタンクを較正用構造体10に設け、異なる濃度Q、Q1〜Q3の較正液26を順番にフローセル28へと送り込み、各較正液26における信号強度S、S1〜S3を得るようにしてもよい。この場合、図6に示されるように、信号強度S、S1〜S3と較正液26の濃度Q、Q1〜Q3との関係からより高精度な検量線K1を作成することが可能である。その結果、血液成分測定装置12において、より高精度に作成された検量線K1を用いて血糖値の測定精度を向上させることができる。
【0050】
以上のように、第1の実施の形態では、血液成分測定装置12の較正を行う較正用構造体10において、内部に較正液26が充填されるフローセル28が、異なる光路長L1、L2を有した第1及び第2透過部44、46を備え、前記較正用構造体10を前記血液成分測定装置12に対して先端側又は基端側へとスライド変位させることにより、前記第1透過部44又は第2透過部46のいずれか一方を、近赤外光を照射する発光部18と、較正用構造体10を透過した前記近赤外光を受光する受光部20とに対峙する位置に確実且つ容易に配置することができる。
【0051】
このように、透過体40は、その第1及び第2透過部44、46が一体的に形成され、且つ、同一の較正液26が充填されているため、前記透過体40を血液成分測定装置12に対してスライドさせて較正作業を行うことにより、前記透過体40の材質や較正液26の濃度Q、温度、不純物の含有量等のばらつきが生じることが回避され、前記第1透過部44で得られた透過スペクトルPAと、前記第2透過部46で得られた透過スペクトルPBとの間においてばらつきに起因する差異が生じることがない。
【0052】
その結果、高精度に得られた透過スペクトルPA、PBに基づいた信号強度Sから検量線K、K1を作成し、例えば、血液成分測定装置12内にデータベースとして保存し利用することにより、該血液成分測定装置12で被検者の血糖値を測定する際に高精度な測定結果を得ることが可能となる。換言すれば、血液成分測定装置12における血糖値の測定誤差をより一層低減することができる。
【0053】
また、第1及び第2透過部44、46が一体的に形成されているため、透過体40を含む較正用構造体10を血液成分測定装置12に対してスライド変位させるという簡便な作業で、前記較正用構造体10をその都度血液成分測定装置12から着脱させることなく、光路長L1、L2の異なる第1及び第2透過部44、46を介して連続的に較正作業を行うことができる。その結果、従来の較正方法と比較し、血液成分測定装置12の較正作業を効率的に行うことが可能となる。
【0054】
次に、第2の実施の形態に係る較正用構造体100を図7及び図8に示す。なお、上述した第1の実施の形態に係る較正用構造体10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0055】
この第2の実施の形態に係る較正用構造体100は、図7及び図8に示されるように、断面略長方形状の透過体102と該透過体102の両端部に接続されるチューブ104とからなるフローセル106と、該フローセル106を変位自在に保持するホルダ108とを備える。
【0056】
透過体102は、例えば、近赤外光を透過可能な透明なガラス又は樹脂製材料からなり、幅広状の下面及び上面が、ホルダ108を介して血液成分測定装置12における発光部18及び受光部20にそれぞれ対峙するように配置される。
【0057】
この透過体102には、一端部にチューブ104の第1管路48が接続され、他端部には前記チューブ104の第2管路50が接続されており、前記第1及び第2管路48、50が、前記透過体102の長手方向(矢印A、B方向)に沿って貫通した連通路110と連通している。
【0058】
連通路110は、水平断面が略矩形状に形成され、血液成分測定装置12に較正用構造体100が設置された際、図8Aに示されるように、発光部18からの近赤外光の照射方向と直交した幅寸法が略一定に形成されると共に、図8Bに示されるように、前記照射方向に沿った前記連通路110の幅寸法は、フローセル106の基端側(矢印B方向)に形成された第1透過部112が最も大きく、該フローセル106の先端側(矢印A方向)に向かって順に形成された第2透過部114、第3透過部116、第4透過部118が段階的に徐々に小さくなるように設定されている。
【0059】
換言すれば、連通路110は、第1管路48の接続される基端側(矢印B方向)の幅寸法が最も大きく、反対に、第2管路50の接続される先端側(矢印A方向)の幅寸法が最も小さく設定されている。
【0060】
これにより、透過体102に対して発光部18から近赤外光を照射して透過させる際、第1〜第4透過部112、114、116、118においてそれぞれ光路長L3〜L6が異なることとなる。そのため、近赤外光を第1〜第4透過部112、114、116、118に透過させることによって、単一の透過体102から複数の透過スペクトルが得られる。
【0061】
また、透過体102には、その側面にスケール120が設けられ、該スケール120は前記透過体102の長手方向(矢印A、B方向)に沿って等間隔で刻まれている。そして、スケール120は、フローセル106がホルダ108に装着された際、開口した窓部122に臨んで視認可能に設けられている。
【0062】
ホルダ108は、内部にフローセル106を挿通可能な中空状に形成され、該フローセル106の挿通される一組の開口部124を有すると共に、該開口部124の形成された側面と別の側面に窓部122が開口している。この窓部122の略中央部には、該スケール120の位置を確認する際に用いられるインジケータ126が設けられている。
【0063】
そして、フローセル106が、ホルダ108の開口部124を通じて内部に挿入され、チューブ104が前記ホルダ108の外部に突出すると共に、前記ホルダ108の下面及び上面には、ホルダ108を貫通して設けられた光散乱体22を含む本体部128を介して、発光部18及び受光部20がそれぞれプローブに連結されて設けられる。すなわち、発光部18は、ホルダ108及びフローセル106の下方に配置され、受光部20は、前記ホルダ108及びフローセル106を挟んで前記発光部18の上方となる位置に設けられる。
【0064】
なお、較正用構造体100が血液成分測定装置12に装着された際、ホルダ108の窓部122側から見てインジケータ126と発光部18及び受光部20とが一直線上となるように設けられる。
【0065】
次に、このような較正用構造体100を用いて血液成分測定装置12の較正を行う場合には、先ず、作業者がホルダ108に対してフローセル106をスライドさせ、第1透過部112を発光部18と受光部20との間となる位置へと配置する。この場合、作業者は、例えば、フローセル106の透過体102に設けられたスケール120とホルダ108のインジケータ126とを目安にしながら前記フローセル106を移動させ、第1透過部112を発光部18及び受光部20に臨む位置へと配置する。
【0066】
次に、発光部18から照射され第1透過部112を透過した近赤外光を受光部20で受光して透過スペクトルPAを作成した後、再びフローセル106をスライドさせて第2透過部114を発光部18及び受光部20に臨む位置に配置する。そして、発光部18から照射され第2透過部114を透過した近赤外光を受光部20で受光して透過スペクトルPBを作成する。このように、順番に、フローセル106における第3及び第4透過部116、118に対して発光部18から近赤外光を照射して透過させ、受光部20で受光して透過スペクトルPC、PDを作成していく。
【0067】
この場合、第1〜第4透過部112、114、116、118は、それぞれ近赤外光が透過する際の光路長L3〜L6がそれぞれ異なるため、最大の光路長L3を有する第1透過部112を透過させた際の吸光度が最も大きく、最小の光路長L6を有する第4透過部118に向かって前記近赤外光の吸光度が段階的に小さくなる。
【0068】
最後に、得られた透過スペクトルPA、PB、PC、PDから差分解析によって較正液26の信号強度をそれぞれ算出し、該信号強度に基づいた検量線Kを得ることができる。
【0069】
これにより、較正用構造体100を構成するフローセル106の透過体102をホルダ108に沿って安定的にスライド変位させることができると共に、前記透過体102のスケール120を目安に変位させることにより、光路長の異なる第1〜第4透過部112、114、116、118を発光部18及び受光部20に臨む位置へと確実に移動させて配置することが可能となる。
【0070】
その結果、血液成分測定装置12の較正作業を確実且つ高精度に行って血糖値の測定誤差を低減することが可能となる。
【0071】
なお、透過体102における連通路110は、上述した第1〜第4透過部112、114、116、118のように幅寸法(光路長)が段付状に異なる場合に限定されるものではなく、例えば、図8Cに示されるフローセル138のように、透過体140の一端部から他端部側に向かって徐々に幅寸法(光路長L7)の小さくなる先細状の連通路142としてもよい。この場合には、フローセル138に設けられたスケール120及びホルダ108のインジケータ126を用いて該フローセル106を微小量ずつ変位させることによって透過体140における光路長L7を連続的に変化させることが可能となる。その結果、単一の透過体140で得られる透過スペクトルのサンプル数を飛躍的に増加させることができ、それに伴って得られる検量線Kの精度を向上させることができる。そのため、血液成分測定装置12の較正作業をより一層高精度に行って血糖値の測定誤差をさらに低減することができる。
【0072】
最後に、第3の実施の形態に係る較正用構造体150を図9〜図11に示す。なお、上述した第1及び第2の実施の形態に係る較正用構造体10、100と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0073】
この第3の実施の形態に係る較正用構造体150では、図9〜図11に示されるように、本体部152に対して発光部18及び受光部20をスライド可能な構成とし、且つ、フローセル154が管状に形成されている点で、第1及び第2の実施の形態に係る較正用構造体10、100と相違している。
【0074】
本体部152は、内部に光散乱体22を有した略円柱状に形成され、その軸線方向に沿ってフローセル154が設けられている。フローセル154は、内部に較正液26が循環可能な管状であり、その一端部側となり、管路径D1の第1透過路(透過部)156と、他端部側となり該第1透過路156より大きな管路径D2の第2透過路(透過部)158とを有する(図10参照)。第1及び第2透過路156、158は、互いに所定間隔離間して略平行に配置され、本体部152の一端部側において突出して図示しないリザーバタンク30にそれぞれ接続される。また、第1及び第2透過路156、158は、本体部152の他端部から突出し、平面視で断面U字状に折曲されて連結している。この際、フローセル154の管路径は、第1透過路156から第2透過路158に向かって徐々に大きくなるように形成されている。
【0075】
また、本体部152の外周面には、第1及び第2透過路156、158の軸線と直交し、該第1及び第2透過路156、158に臨む位置に一組のガイド溝160が形成される。ガイド溝160は、第1及び第2透過路156、158を挟むように配置され、該第1及び第2透過路156、158と直交方向に延在している。
【0076】
そして、一方のガイド溝160には、血液成分測定装置12を構成する発光部18が挿入され、他方のガイド溝160には、前記血液成分測定装置12の受光部20が挿入され、それぞれガイド溝160に沿ってスライド変位自在に保持される。この場合、発光部18及び受光部20は、互いに対向した位置を維持しつつガイド溝160に沿って変位する。
【0077】
このような較正用構造体150を用いて血液成分測定装置12の較正を行う場合には、作業者が発光部18及び受光部20に結合したプローブ(図示せず)を把持してガイド溝160に沿って移動させ、発光部18及び受光部20をフローセル154の第1透過路156に臨む位置に配置する。そして、第1透過路156を透過させた近赤外光を受光部20で受光して透過スペクトルPAを作成した後、再びプローブを把持してガイド溝160に沿って移動させ、発光部18及び受光部20をフローセル154の第2透過路158に臨む位置へと配置する。
【0078】
そして、第2透過路158を透過させた近赤外光を受光部20で受光して透過スペクトルPBを作成する。第2透過路158の管路径D2は、第1透過路156の管路径D1に比べて大きく設定されているため、その内部に充填された較正液26による吸光度が大きくなる。そして、透過スペクトルPA、PBから差分解析によって較正液26の信号強度を算出し、該信号強度に基づいた検量線を得ることができる。なお、本実施の形態では、本体部152に対して発光部18及び受光部20をスライドさせる構成としているが、前記本体部152をスライドさせるようにしてもよい。
【0079】
これにより、較正用構造体150の構成を簡素化して製造コストを削減できると共に、血液成分測定装置12の較正作業を確実且つ高精度に行って血糖値の測定誤差を低減することが可能となる。
【0080】
なお、本発明に係る血液成分測定装置を較正するための較正用構造体及びその較正方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0081】
10、100、150…較正用構造体 12…血液成分測定装置
16…ソケット 18…発光部
20…受光部 22…光散乱体
24、128、152…本体部 26…較正液
28、106、138、154…フローセル
30、30a…リザーバタンク 32…ポンプ
40、102、140…透過体 42、104…チューブ
44、112…第1透過部 46、114…第2透過部
48…第1管路 50…第2管路
108…ホルダ 110…連通路
116…第3透過部 118…第4透過部
120…スケール 126…インジケータ
156…第1透過路 158…第2透過路
160…ガイド溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体における血液成分を透過光によって測定するための血液成分測定装置に用いられ、該血液成分測定装置を較正するために用いられる較正用構造体及びその較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者は、日常的に血糖値の変動を自分自身で測定することが推奨されており、例えば、従来から患者自身が手指等を穿刺して血液を採取し、測定装置を用いて血糖値を測定することが行われていた。しかしながら、上述した測定方法は、患者に対して多大な負担を強いることとなるため、近年、近赤外光を患者に照射して血液中に含まれる血液成分を測定可能な非侵襲技術を用いた血液成分測定装置が開発されている。
【0003】
この血液成分測定装置を用いた測定方法では、例えば、血液中に含まれるグルコースが近赤外光の一部を吸収することを利用し、患者の身体の一部(例えば、手指等)に近赤外光を照射して前記身体を透過した近赤外光を受光し、その透過率又は吸光度を測定することにより血糖値(グルコース濃度)を算出している。また、この血糖値を測定する際、測定された透過率又は吸光度が、血液中のグルコース濃度か体組織に含まれたグルコース濃度であるかを判断することが困難であるため、血管の拍動を利用して周期的に変化するグルコース量に基づいて血液のグルコース濃度を算出している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、上述したような血液成分測定装置では測定精度が要求されるため、その測定誤差を小さくするために較正作業が行われる。この較正作業は、例えば、装置の工場出荷時や定期的なメンテナンス時及び血糖値の測定前に行われ、所定の較正体を用いて行われる。較正体は、近赤外光を透過し、且つ、内部に所定濃度のグルコースを含む水溶液の充填されたものである。そして、異なる濃度のグルコース水溶液が充填された複数の較正体に対して近赤外光を順に透過させ、その透過率又は吸光度に基づいて得られる信号強度から検量線を作成して血液成分測定装置においてデータベース化する。この検量線に基づいて血糖値を算出することにより、血糖値の測定において精度向上が図られる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3903340号公報
【特許文献2】特開2000−258344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した方法で血液成分測定装置の較正を行う場合、最初の較正体に近赤外光を透過させた後、次の較正体と交換して前記近赤外光を透過させる作業を行うこととなる。しかしながら、容器の材質や形状、内部に充填された較正液中の血液成分の濃度、温度、不純物の含有量等のばらつきや、較正体の交換による測定装置の環境変化等が複数の較正体間にあった場合、近赤外光を透過させた際の透過率又は吸光度に基づいた信号強度に誤差が生じることが懸念される。その結果、信号強度から得られる検量線を基礎とした血液成分濃度の算出を高精度に行うことができないという問題が生じる。
【0007】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、血液成分測定装置における測定誤差をより一層低減し、測定精度の向上を図ることが可能な血液成分測定装置に用いられる較正用構造体及びその較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、赤外光を身体に透過させて血液成分の測定を行う血液成分測定装置に用いられ、該血液成分測定装置の較正を行うための較正用構造体において、
内部に所定濃度の前記血液成分を含む較正液が満たされ前記赤外光が透過する透過体と、
前記赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間で、前記発光部と前記受光部の間の光路上に前記透過体を移動させる移動手段と、
を有し、
前記透過体が、前記赤外光の前記透過体における光路長が異なる少なくとも2つ以上の透過部、又は、前記光路長が連続的に変化する透過部を備えると共に、前記透過部は、前記移動方向に沿って前記光路長が異なるように形成されることを特徴とする。
【0009】
これにより、発光部と受光部との間に、透過部を移動手段によって確実且つ容易に配置することができ、しかも、透過体は、少なくとも2つ以上の透過部が一体的に形成されているため、別体からなる複数の透過体を用いて較正作業を行う従来技術と比較し、前記透過体の材質や形状、予め含まれる血液成分の濃度及び較正体の交換等に起因した測定結果のばらつきを回避することができる。その結果、透過部によって得られた透過スペクトルに基づいて高精度な検量線を作成することが可能となり、該検量線を利用して血液成分の測定を行うことによって該血液成分の測定誤差をより一層低減し、測定精度の向上を図ることができる。
【0010】
また、透過体の光路上には、赤外光の入射側及び該透過体を透過した出射側の少なくともいずれか一方に光散乱体を設けることにより、実際に身体の血液成分を測定する際に生じる血管周辺の生体組織での散乱を再現することが可能となり、より高精度な較正を行うことができる。
【0011】
さらに、移動手段には、透過部を発光部に臨む位置に位置決めする位置決め機構を備えることにより、少なくとも2つ以上設けられた透過部をそれぞれ発光部に臨む位置に確実且つ簡便に配置し、血液成分測定装置の較正作業を行うことが可能となる。
【0012】
またさらに、較正液が循環する循環路及び該較正液を流動させるポンプとを備えることにより、血液の血球成分や該血球成分に模した散乱粒子を含ませた溶液を用いて、該溶液を流動させながら測定を行うことができるため、前記血液の自然な状態により近い状態で較正を行うことができる。
【0013】
また、本発明は、赤外光を患部に透過させて血液成分の測定を行う血液成分測定装置に対して較正用構造体を用いて較正を行うための方法であって、
前記較正用構造体において、赤外光の光路長が異なる少なくとも2つ以上の透過部のいずれか1つを前記赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間に配置し、前記赤外光を前記透過部に対して透過させて透過スペクトルを得る工程と、
前記較正用構造体を前記血液成分測定装置に対して移動させ、光路長の異なる別の透過部を前記発光部と前記受光部との間で位置決めし、前記赤外光を前記別の透過部に対して透過させて透過スペクトルを得る工程と、
得られた少なくとも2つ以上の前記透過スペクトルから差分解析によって信号強度を算出し、該信号強度に基づいた検量線を得る工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0015】
すなわち、透過体が、異なる光路長を有した少なくと2つ以上の透過部、又は、前記光路長が連続的に変化する透過部を備え、移動手段を介して前記透過部が赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間で移動可能とすることにより、前記透過部を移動手段によって確実且つ容易に発光部から受光部への光路上に配置することができ、しかも、透過体は、少なくとも2つ以上の透過部が一体的に形成されているため、別体からなる複数の透過体を用いて較正作業を行う従来技術と比較し、前記透過体の材質や形状、所定血液成分の濃度及び較正体の交換等に起因した測定結果のばらつきを回避することができる。その結果、透過部によって得られた透過スペクトルに基づいて高精度な検量線を作成することが可能となり、該検量線を利用して血液成分の測定を行うことによって該血液成分の測定誤差をより一層低減し、測定精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る較正用構造体を適用した血液成分測定装置の概略構成図である。
【図2】図1の血液成分測定装置の一部断面側面図である。
【図3】較正用構造体を構成するフローセルの外観斜視図である。
【図4】図1に示す血液成分測定装置において、較正用構造体を基端側へと移動させた場合を示す概略構成図である。
【図5】較正用構造体を用いて得られる近赤外光の信号強度と較正液の濃度との関係に基づいた検量線を示すグラフである。
【図6】異なる濃度を有した複数の較正液を用いて得られた信号強度と該較正液の濃度との関係に基づいた検量線を示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る較正用構造体の外観斜視図である。
【図8】図8Aは、図7に示すフローセルの縦断面図であり、図8Bは、図8Aに示すフローセルの横断面図であり、図8Cは、変形例に係るフローセルの横断面図を示す。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る較正用構造体の外観斜視図である。
【図10】図9に示す較正用構造体の上面図である。
【図11】図9に示す較正用構造体を発光部及び受光部に対してガイド溝に沿って移動させた状態を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る血液成分測定装置を較正するための較正用構造体及びその較正方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0018】
先ず、較正用構造体10によって較正がなされる血液成分測定装置12について図1及び図2を参照しながら簡単に説明する。
【0019】
この血液成分測定装置12は、血液中のグルコース濃度を非侵襲で測定するものであり、図1及び図2に示されるように、ベースボディ14と、該ベースボディ14の先端側の上部に設けられ、血液成分を測定する際に、例えば、被検者の手指が挿入されるソケット16と、前記ベースボディ14の内部に設けられ前記ソケット16側に向けて発光可能な発光部18と、該発光部18から発光されて手指を透過した光が入射される受光部20とを含む。なお、血液成分測定装置12は、発光部18および受光部20を含めてコンピュータ(図示せず)によって統合的に制御されている。
【0020】
なお、図1において、ソケット16を有する血液成分測定装置12の上側を「先端」側(矢印A方向)、前記血液成分測定装置12の下側を「基端」側(矢印B方向)と呼び、他の各図についても同様とする。
【0021】
ベースボディ14は、その上面が平面状に形成され、例えば、手指等を前記上面に沿ってソケット16側(矢印A方向)へと移動可能に形成される。
【0022】
ソケット16は、例えば、手指の先端を挿入可能な空間を内部に有したカバー状に形成され、前記空間及びベースボディ14の上面に臨むように受光部20が設けられている。この受光部20は、例えば、フォトダイオードからなる。
【0023】
発光部18は、例えば、近赤外光を取り出す分光器を備えたハロゲンランプ、若しくは、近赤外光を発光可能なLEDからなり、ベースボディ14において受光部20と対向する位置に設けられる。換言すれば、発光部18及び受光部20は、ソケット16の空間を介してベースボディ14及びソケット16において上下方向に対向配置される。すなわち、血液成分測定装置12では、下方に設けられた発光部18から鉛直上方向に向かって発光され受光部20で受光される(図2参照)。
【0024】
そして、血液成分測定装置12では、ソケット16の内部に手指(例えば、人差し指)を挿入した後、作業者が図示しない測定ボタンを押すことにより、発光部18から発光された近赤外光が前記手指において動脈、静脈及びその他の組織を透過し、受光部20で受光される。コンピュータでは、脈拍に相当する期間において受光部20から信号を受信し、スペクトル解析、差分解析を経て血糖値を求める。
【0025】
次に、上述した血液成分測定装置12を較正するために用いられる第1の実施の形態に係る較正用構造体10について、図1〜図6を参照しながら説明する。
【0026】
この較正用構造体10は、図1〜図3に示されるように、光散乱体22が内装された本体部24と、その一部が前記本体部24の内部に設けられ較正液26の充填されたフローセル28と、前記フローセル28の端部に設けられ前記較正液26が貯えられたリザーバタンク30と、前記較正液26を前記フローセル28に沿って循環させるポンプ32とからなる。なお、較正液26としては、例えば、グルコース水溶液や散乱性粒子の含まれた粒子懸濁液が用いられる。
【0027】
本体部24は、例えば、手指を模して先端が円弧状となった断面長円状に形成され、光散乱体22である寒天等が内部に充填されている。すなわち、較正用構造体10では、光散乱体22を内部に設けることによって被検者の手指に近赤外光を透過させた際に血管周辺の生体組織で生じる散乱を再現している。
【0028】
また、本体部24において幅方向に沿った側面には、2組の第1及び第2凹部34、36が該本体部24の軸線方向(矢印A、B方向)に沿って互いに所定間隔離間して形成される。この第1及び第2凹部34、36は、例えば、断面三角形状に窪んで形成され、該第1凹部34が本体部24の基端側(矢印B方向)、第2凹部36が前記本体部24の先端側(矢印A方向)に設けられ、較正用構造体10がソケット16の内部に挿入された際、前記第1及び第2凹部34、36のいずれか一方に対して前記ソケット16の内壁面に形成された断面三角形状の凸部38が係合される。これにより、ソケット16に対して本体部24を含む較正用構造体10が位置決めされて固定されることとなる。
【0029】
すなわち、第1及び第2凹部34、36と凸部38とは、血液成分測定装置12に対する較正用構造体10の位置決めを行う位置決め機構として機能する。
【0030】
フローセル28は、例えば、近赤外光を透過可能な透明なガラス又は樹脂製材料からなり中空状に形成された透過体40と、該透過体40の両端部にそれぞれ接続されるチューブ42とからなり、前記透過体40及びチューブ42の内部がそれぞれ連通し、較正液26が充填されている。透過体40は断面長方形状に形成され、本体部24の幅方向に沿って幅広状に形成された第1透過部44と、前記第1透過部44の端部に接合され、前記本体部24の幅方向と直交した高さ方向に沿って幅広状に形成された第2透過部46とを有する(図3参照)。
【0031】
第1及び第2透過部44、46は、図3に示されるように、中空且つ断面長方形状でほぼ同一形状に形成され、その端部同士が中央部分で互いに略直角に交差するように接合されると共に、本体部24の内部において、第1透過部44が基端側(矢印B方向)、第2透過部46が先端側(矢印A方向)となるように配置される。
【0032】
換言すれば、チューブ42の軸線方向(矢印A、B方向)に沿って見た第1透過部44の水平断面の面積と第2透過部46の縦断面の面積とが同一となるように形成されている。ここで、第1及び第2透過部44、46は容積が同一となるように形成されているので、較正液26を透過体40の内部に流通させる際に、その流速が変化することがなく好適である。
【0033】
そして、透過体40は、図1に示されるように、本体部24の第1凹部34が血液成分測定装置12の凸部38に係合された状態で、第1透過部44が発光部18及び受光部20に臨む位置に配置され、一方、図4に示されるように、第2凹部36が前記凸部38に係合された状態では、第2透過部46が前記発光部18及び受光部20に臨む位置に配置される。
【0034】
チューブ42は、透過体40における第1透過部44とリザーバタンク30との間を接続する第1管路48と、前記透過体40における第2透過部46と前記リザーバタンク30とを接続する第2管路50とを備え、前記第1管路48は、前記第1透過部44から本体部24の基端側(矢印B方向)に向かって延在し、一方、前記第2管路50は、第2透過部46から本体部24の先端側(矢印A方向)に向かって延在した後、U字状に折曲されて前記基端側(矢印B方向)に向かって延在している。
【0035】
そして、第1管路48の途中にはポンプ32が設けられ、リザーバタンク30内の較正液26を前記第1管路48を通じて透過体40へと流動させ、第2管路50を通じて再び前記リザーバタンク30へと循環させている。すなわち、フローセル28とリザーバタンク30は、較正液26の循環路を構成している。
【0036】
なお、ポンプ32は、例えば、粒子懸濁液を較正液として用いる場合に、含有された粒子が沈降してしまわないように前記較正液を流動させるために用いられており、前記較正液26を流動させる必要がない場合には、前記ポンプ32を特に設けなくてもよい。
【0037】
また、図1及び図4に示されるように、例えば、異なる濃度の較正液26が貯えられた別のリザーバタンク30aを設け、図示しない切換手段を介して複数のリザーバタンク30、30aとフローセル28との接続状態を選択的に切換可能としてもよい。この場合、単一の較正用構造体10において、異なる濃度の較正液26を前記フローセル28に対して供給して血液成分測定装置12の較正作業を行うことが可能となる。
【0038】
次に、血液成分測定装置12の較正方法について説明する。なお、ここでは、較正液26として同一濃度Qのグルコース水溶液が用いられると共に、較正用構造体10を構成する透過体40及びチューブ42の内部に予め較正液26が満たされ、ポンプ32を介して常に循環している状態とする。
【0039】
先ず、この準備状態にある較正用構造体10を作業者が把持し、本体部24の先端側から血液成分測定装置12におけるソケット16の内部に挿入していく。そして、図1に示されるように、ソケット16の凸部38に対して前記本体部24の第1凹部34を係合させることにより、透過体40を構成する第1透過部44が、血液成分測定装置12の発光部18及び受光部20に対峙する位置で位置決めされて固定される。
【0040】
次に、作業者が、血液成分測定装置12の計測ボタン(図示せず)を押すことにより、発光部18から照射された近赤外光が較正用構造体10における本体部24及び第1透過部44を透過して受光部20において受光される。この際、本体部24は光散乱体22を有しているため、近赤外光が散乱され、且つ、前記近赤外光が第1透過部44を透過する際に較正液26に含まれるグルコース分子によって該近赤外光の一部が吸収された後に受光部20で受光される。詳細には、固有の波長を有する近赤外光の一部が、グルコース分子によって吸収される。
【0041】
そして、受光部20で受光した透過光の強度に基づいた出力信号が図示しないコンピュータへと出力され、該コンピュータにおいて行われるスペクトル解析を経て透過スペクトルPAが作成される。詳細には、コンピュータでは、発光部18から較正用構造体10に対して照射される光の強度と、受光部20からの出力信号に基づいた透過光の強度とから吸光度が算出され、前記吸光度に基づいて透過スペクトルPAが作成される。
【0042】
次に、作業者が、較正用構造体10を血液成分測定装置12のソケット16から離間させる方向、すなわち、血液成分測定装置12の基端側(矢印B方向)へと引っ張ることにより、第1凹部34から凸部38が離脱して第2凹部36に係合される(図4参照)。これにより、図4に示されるように、血液成分測定装置12の発光部18及び受光部20に対して較正用構造体10の第2透過部46が対峙した位置で位置決めされる。
【0043】
そして、作業者が再び計測ボタンを押すことにより、発光部18から発光された近赤外光が較正用構造体10の本体部24及び第2透過部46を透過して受光部20において受光される。この際、図3に示されるように、近赤外光の透過する第2透過部46は、該近赤外光の照射方向に沿った光路長L2(断面積)が、第1透過部44における光路長L1(断面積)に対して大きく形成されているため(L2>L1)、前記近赤外光の較正液26を透過する距離が長くなる。
【0044】
その結果、第2透過部46では、近赤外光を第1透過部44に透過させた場合と比較し、較正液26によって吸収される光が増加し、それに伴って、受光部20において受光される近赤外光の光が減少することとなる。すなわち、近赤外光を較正用構造体10に透過させる際、第2透過部46を透過させた際の吸光度が、第1透過部44を透過させた際の吸光度に対して大きくなる。
【0045】
すなわち、光路長L1が短い第1透過部44は、血管が拍動によって収縮して血液量が減少した場合における身体の透過スペクトルを再現するためのものであり、一方、光路長L2の長い第2透過部46は、前記血管が拍動によって拡張して前記血液量が増加した場合における前記身体の透過スペクトルを再現するために設けられている。
【0046】
そして、この受光部20で受光した透過光の強度に基づいた出力信号が再び図示しないコンピュータへと出力され、該コンピュータでは、スペクトル解析を行い、吸光度に基づいて透過スペクトルPBが作成される。
【0047】
最後に、較正用構造体10における第1及び第2透過部44、46を透過させた際に得られた透過スペクトルPA、PBに基づいて差分解析を行い、較正液26における信号強度Sを算出することにより、図5に示されるような前記信号強度Sと前記較正液26の濃度Qとの関係に基づいた直線状の検量線Kが得られる。
【0048】
そして、血液成分測定装置12では、この検量線Kをデータベースとして保存し、血糖値を測定する際に参照することで高精度な測定を行うことができる。
【0049】
また、上述した説明においては、所定濃度Qを有した単一の較正液26を用いて血液成分測定装置12の較正を行う場合について説明したが、例えば、図1及び図3に示されるように複数のリザーバタンクを較正用構造体10に設け、異なる濃度Q、Q1〜Q3の較正液26を順番にフローセル28へと送り込み、各較正液26における信号強度S、S1〜S3を得るようにしてもよい。この場合、図6に示されるように、信号強度S、S1〜S3と較正液26の濃度Q、Q1〜Q3との関係からより高精度な検量線K1を作成することが可能である。その結果、血液成分測定装置12において、より高精度に作成された検量線K1を用いて血糖値の測定精度を向上させることができる。
【0050】
以上のように、第1の実施の形態では、血液成分測定装置12の較正を行う較正用構造体10において、内部に較正液26が充填されるフローセル28が、異なる光路長L1、L2を有した第1及び第2透過部44、46を備え、前記較正用構造体10を前記血液成分測定装置12に対して先端側又は基端側へとスライド変位させることにより、前記第1透過部44又は第2透過部46のいずれか一方を、近赤外光を照射する発光部18と、較正用構造体10を透過した前記近赤外光を受光する受光部20とに対峙する位置に確実且つ容易に配置することができる。
【0051】
このように、透過体40は、その第1及び第2透過部44、46が一体的に形成され、且つ、同一の較正液26が充填されているため、前記透過体40を血液成分測定装置12に対してスライドさせて較正作業を行うことにより、前記透過体40の材質や較正液26の濃度Q、温度、不純物の含有量等のばらつきが生じることが回避され、前記第1透過部44で得られた透過スペクトルPAと、前記第2透過部46で得られた透過スペクトルPBとの間においてばらつきに起因する差異が生じることがない。
【0052】
その結果、高精度に得られた透過スペクトルPA、PBに基づいた信号強度Sから検量線K、K1を作成し、例えば、血液成分測定装置12内にデータベースとして保存し利用することにより、該血液成分測定装置12で被検者の血糖値を測定する際に高精度な測定結果を得ることが可能となる。換言すれば、血液成分測定装置12における血糖値の測定誤差をより一層低減することができる。
【0053】
また、第1及び第2透過部44、46が一体的に形成されているため、透過体40を含む較正用構造体10を血液成分測定装置12に対してスライド変位させるという簡便な作業で、前記較正用構造体10をその都度血液成分測定装置12から着脱させることなく、光路長L1、L2の異なる第1及び第2透過部44、46を介して連続的に較正作業を行うことができる。その結果、従来の較正方法と比較し、血液成分測定装置12の較正作業を効率的に行うことが可能となる。
【0054】
次に、第2の実施の形態に係る較正用構造体100を図7及び図8に示す。なお、上述した第1の実施の形態に係る較正用構造体10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0055】
この第2の実施の形態に係る較正用構造体100は、図7及び図8に示されるように、断面略長方形状の透過体102と該透過体102の両端部に接続されるチューブ104とからなるフローセル106と、該フローセル106を変位自在に保持するホルダ108とを備える。
【0056】
透過体102は、例えば、近赤外光を透過可能な透明なガラス又は樹脂製材料からなり、幅広状の下面及び上面が、ホルダ108を介して血液成分測定装置12における発光部18及び受光部20にそれぞれ対峙するように配置される。
【0057】
この透過体102には、一端部にチューブ104の第1管路48が接続され、他端部には前記チューブ104の第2管路50が接続されており、前記第1及び第2管路48、50が、前記透過体102の長手方向(矢印A、B方向)に沿って貫通した連通路110と連通している。
【0058】
連通路110は、水平断面が略矩形状に形成され、血液成分測定装置12に較正用構造体100が設置された際、図8Aに示されるように、発光部18からの近赤外光の照射方向と直交した幅寸法が略一定に形成されると共に、図8Bに示されるように、前記照射方向に沿った前記連通路110の幅寸法は、フローセル106の基端側(矢印B方向)に形成された第1透過部112が最も大きく、該フローセル106の先端側(矢印A方向)に向かって順に形成された第2透過部114、第3透過部116、第4透過部118が段階的に徐々に小さくなるように設定されている。
【0059】
換言すれば、連通路110は、第1管路48の接続される基端側(矢印B方向)の幅寸法が最も大きく、反対に、第2管路50の接続される先端側(矢印A方向)の幅寸法が最も小さく設定されている。
【0060】
これにより、透過体102に対して発光部18から近赤外光を照射して透過させる際、第1〜第4透過部112、114、116、118においてそれぞれ光路長L3〜L6が異なることとなる。そのため、近赤外光を第1〜第4透過部112、114、116、118に透過させることによって、単一の透過体102から複数の透過スペクトルが得られる。
【0061】
また、透過体102には、その側面にスケール120が設けられ、該スケール120は前記透過体102の長手方向(矢印A、B方向)に沿って等間隔で刻まれている。そして、スケール120は、フローセル106がホルダ108に装着された際、開口した窓部122に臨んで視認可能に設けられている。
【0062】
ホルダ108は、内部にフローセル106を挿通可能な中空状に形成され、該フローセル106の挿通される一組の開口部124を有すると共に、該開口部124の形成された側面と別の側面に窓部122が開口している。この窓部122の略中央部には、該スケール120の位置を確認する際に用いられるインジケータ126が設けられている。
【0063】
そして、フローセル106が、ホルダ108の開口部124を通じて内部に挿入され、チューブ104が前記ホルダ108の外部に突出すると共に、前記ホルダ108の下面及び上面には、ホルダ108を貫通して設けられた光散乱体22を含む本体部128を介して、発光部18及び受光部20がそれぞれプローブに連結されて設けられる。すなわち、発光部18は、ホルダ108及びフローセル106の下方に配置され、受光部20は、前記ホルダ108及びフローセル106を挟んで前記発光部18の上方となる位置に設けられる。
【0064】
なお、較正用構造体100が血液成分測定装置12に装着された際、ホルダ108の窓部122側から見てインジケータ126と発光部18及び受光部20とが一直線上となるように設けられる。
【0065】
次に、このような較正用構造体100を用いて血液成分測定装置12の較正を行う場合には、先ず、作業者がホルダ108に対してフローセル106をスライドさせ、第1透過部112を発光部18と受光部20との間となる位置へと配置する。この場合、作業者は、例えば、フローセル106の透過体102に設けられたスケール120とホルダ108のインジケータ126とを目安にしながら前記フローセル106を移動させ、第1透過部112を発光部18及び受光部20に臨む位置へと配置する。
【0066】
次に、発光部18から照射され第1透過部112を透過した近赤外光を受光部20で受光して透過スペクトルPAを作成した後、再びフローセル106をスライドさせて第2透過部114を発光部18及び受光部20に臨む位置に配置する。そして、発光部18から照射され第2透過部114を透過した近赤外光を受光部20で受光して透過スペクトルPBを作成する。このように、順番に、フローセル106における第3及び第4透過部116、118に対して発光部18から近赤外光を照射して透過させ、受光部20で受光して透過スペクトルPC、PDを作成していく。
【0067】
この場合、第1〜第4透過部112、114、116、118は、それぞれ近赤外光が透過する際の光路長L3〜L6がそれぞれ異なるため、最大の光路長L3を有する第1透過部112を透過させた際の吸光度が最も大きく、最小の光路長L6を有する第4透過部118に向かって前記近赤外光の吸光度が段階的に小さくなる。
【0068】
最後に、得られた透過スペクトルPA、PB、PC、PDから差分解析によって較正液26の信号強度をそれぞれ算出し、該信号強度に基づいた検量線Kを得ることができる。
【0069】
これにより、較正用構造体100を構成するフローセル106の透過体102をホルダ108に沿って安定的にスライド変位させることができると共に、前記透過体102のスケール120を目安に変位させることにより、光路長の異なる第1〜第4透過部112、114、116、118を発光部18及び受光部20に臨む位置へと確実に移動させて配置することが可能となる。
【0070】
その結果、血液成分測定装置12の較正作業を確実且つ高精度に行って血糖値の測定誤差を低減することが可能となる。
【0071】
なお、透過体102における連通路110は、上述した第1〜第4透過部112、114、116、118のように幅寸法(光路長)が段付状に異なる場合に限定されるものではなく、例えば、図8Cに示されるフローセル138のように、透過体140の一端部から他端部側に向かって徐々に幅寸法(光路長L7)の小さくなる先細状の連通路142としてもよい。この場合には、フローセル138に設けられたスケール120及びホルダ108のインジケータ126を用いて該フローセル106を微小量ずつ変位させることによって透過体140における光路長L7を連続的に変化させることが可能となる。その結果、単一の透過体140で得られる透過スペクトルのサンプル数を飛躍的に増加させることができ、それに伴って得られる検量線Kの精度を向上させることができる。そのため、血液成分測定装置12の較正作業をより一層高精度に行って血糖値の測定誤差をさらに低減することができる。
【0072】
最後に、第3の実施の形態に係る較正用構造体150を図9〜図11に示す。なお、上述した第1及び第2の実施の形態に係る較正用構造体10、100と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0073】
この第3の実施の形態に係る較正用構造体150では、図9〜図11に示されるように、本体部152に対して発光部18及び受光部20をスライド可能な構成とし、且つ、フローセル154が管状に形成されている点で、第1及び第2の実施の形態に係る較正用構造体10、100と相違している。
【0074】
本体部152は、内部に光散乱体22を有した略円柱状に形成され、その軸線方向に沿ってフローセル154が設けられている。フローセル154は、内部に較正液26が循環可能な管状であり、その一端部側となり、管路径D1の第1透過路(透過部)156と、他端部側となり該第1透過路156より大きな管路径D2の第2透過路(透過部)158とを有する(図10参照)。第1及び第2透過路156、158は、互いに所定間隔離間して略平行に配置され、本体部152の一端部側において突出して図示しないリザーバタンク30にそれぞれ接続される。また、第1及び第2透過路156、158は、本体部152の他端部から突出し、平面視で断面U字状に折曲されて連結している。この際、フローセル154の管路径は、第1透過路156から第2透過路158に向かって徐々に大きくなるように形成されている。
【0075】
また、本体部152の外周面には、第1及び第2透過路156、158の軸線と直交し、該第1及び第2透過路156、158に臨む位置に一組のガイド溝160が形成される。ガイド溝160は、第1及び第2透過路156、158を挟むように配置され、該第1及び第2透過路156、158と直交方向に延在している。
【0076】
そして、一方のガイド溝160には、血液成分測定装置12を構成する発光部18が挿入され、他方のガイド溝160には、前記血液成分測定装置12の受光部20が挿入され、それぞれガイド溝160に沿ってスライド変位自在に保持される。この場合、発光部18及び受光部20は、互いに対向した位置を維持しつつガイド溝160に沿って変位する。
【0077】
このような較正用構造体150を用いて血液成分測定装置12の較正を行う場合には、作業者が発光部18及び受光部20に結合したプローブ(図示せず)を把持してガイド溝160に沿って移動させ、発光部18及び受光部20をフローセル154の第1透過路156に臨む位置に配置する。そして、第1透過路156を透過させた近赤外光を受光部20で受光して透過スペクトルPAを作成した後、再びプローブを把持してガイド溝160に沿って移動させ、発光部18及び受光部20をフローセル154の第2透過路158に臨む位置へと配置する。
【0078】
そして、第2透過路158を透過させた近赤外光を受光部20で受光して透過スペクトルPBを作成する。第2透過路158の管路径D2は、第1透過路156の管路径D1に比べて大きく設定されているため、その内部に充填された較正液26による吸光度が大きくなる。そして、透過スペクトルPA、PBから差分解析によって較正液26の信号強度を算出し、該信号強度に基づいた検量線を得ることができる。なお、本実施の形態では、本体部152に対して発光部18及び受光部20をスライドさせる構成としているが、前記本体部152をスライドさせるようにしてもよい。
【0079】
これにより、較正用構造体150の構成を簡素化して製造コストを削減できると共に、血液成分測定装置12の較正作業を確実且つ高精度に行って血糖値の測定誤差を低減することが可能となる。
【0080】
なお、本発明に係る血液成分測定装置を較正するための較正用構造体及びその較正方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0081】
10、100、150…較正用構造体 12…血液成分測定装置
16…ソケット 18…発光部
20…受光部 22…光散乱体
24、128、152…本体部 26…較正液
28、106、138、154…フローセル
30、30a…リザーバタンク 32…ポンプ
40、102、140…透過体 42、104…チューブ
44、112…第1透過部 46、114…第2透過部
48…第1管路 50…第2管路
108…ホルダ 110…連通路
116…第3透過部 118…第4透過部
120…スケール 126…インジケータ
156…第1透過路 158…第2透過路
160…ガイド溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光を身体に透過させて血液成分の測定を行う血液成分測定装置に用いられ、該血液成分測定装置の較正を行うための較正用構造体において、
内部に所定濃度の前記血液成分を含む較正液が満たされ前記赤外光が透過する透過体と、
前記赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間で、前記発光部と前記受光部の間の光路上に前記透過体を移動させる移動手段と、
を有し、
前記透過体が、前記赤外光の前記透過体における光路長が異なる少なくとも2つ以上の透過部、又は、前記光路長が連続的に変化する透過部を備えると共に、前記透過部は、前記移動方向に沿って前記光路長が異なるように形成されることを特徴とする血液成分測定装置に用いられる較正用構造体。
【請求項2】
請求項1記載の較正用構造体において、
前記透過体の光路上には、前記赤外光の入射側及び該透過体を透過した出射側の少なくともいずれか一方に光散乱体が設けられることを特徴とする血液成分測定装置に用いられる較正用構造体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の較正用構造体において、
前記移動手段には、前記透過部を前記発光部に臨む位置に位置決めする位置決め機構を備えることを特徴とする血液成分測定装置に用いられる較正用構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の較正用構造体において、
前記較正液が循環する循環路と、前記較正液を流動させるポンプとを備えることを特徴とする血液成分測定装置に用いられる較正用構造体。
【請求項5】
赤外光を患部に透過させて血液成分の測定を行う血液成分測定装置に対して較正用構造体を用いて較正を行うための較正方法であって、
前記較正用構造体において、赤外光の光路長が異なる少なくとも2つ以上の透過部のいずれか1つを前記赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間に配置し、前記赤外光を前記透過部に対して透過させて透過スペクトルを得る工程と、
前記較正用構造体を前記血液成分測定装置に対して移動させ、光路長の異なる別の透過部を前記発光部と前記受光部との間で位置決めし、前記赤外光を前記別の透過部に対して透過させて透過スペクトルを得る工程と、
得られた少なくとも2つ以上の前記透過スペクトルから差分解析によって信号強度を算出し、該信号強度に基づいた検量線を得る工程と、
を有することを特徴とする血液成分測定装置の較正方法。
【請求項1】
赤外光を身体に透過させて血液成分の測定を行う血液成分測定装置に用いられ、該血液成分測定装置の較正を行うための較正用構造体において、
内部に所定濃度の前記血液成分を含む較正液が満たされ前記赤外光が透過する透過体と、
前記赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間で、前記発光部と前記受光部の間の光路上に前記透過体を移動させる移動手段と、
を有し、
前記透過体が、前記赤外光の前記透過体における光路長が異なる少なくとも2つ以上の透過部、又は、前記光路長が連続的に変化する透過部を備えると共に、前記透過部は、前記移動方向に沿って前記光路長が異なるように形成されることを特徴とする血液成分測定装置に用いられる較正用構造体。
【請求項2】
請求項1記載の較正用構造体において、
前記透過体の光路上には、前記赤外光の入射側及び該透過体を透過した出射側の少なくともいずれか一方に光散乱体が設けられることを特徴とする血液成分測定装置に用いられる較正用構造体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の較正用構造体において、
前記移動手段には、前記透過部を前記発光部に臨む位置に位置決めする位置決め機構を備えることを特徴とする血液成分測定装置に用いられる較正用構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の較正用構造体において、
前記較正液が循環する循環路と、前記較正液を流動させるポンプとを備えることを特徴とする血液成分測定装置に用いられる較正用構造体。
【請求項5】
赤外光を患部に透過させて血液成分の測定を行う血液成分測定装置に対して較正用構造体を用いて較正を行うための較正方法であって、
前記較正用構造体において、赤外光の光路長が異なる少なくとも2つ以上の透過部のいずれか1つを前記赤外光を発光する発光部と前記赤外光を受光する受光部との間に配置し、前記赤外光を前記透過部に対して透過させて透過スペクトルを得る工程と、
前記較正用構造体を前記血液成分測定装置に対して移動させ、光路長の異なる別の透過部を前記発光部と前記受光部との間で位置決めし、前記赤外光を前記別の透過部に対して透過させて透過スペクトルを得る工程と、
得られた少なくとも2つ以上の前記透過スペクトルから差分解析によって信号強度を算出し、該信号強度に基づいた検量線を得る工程と、
を有することを特徴とする血液成分測定装置の較正方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−71036(P2012−71036A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219659(P2010−219659)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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