説明

血管撮影画像処理装置及び血管撮影画像処理方法及び血管撮影画像処理プログラム

【課題】ディジタル血管画像撮影装置の運用におけるDSA画像選択の作業負担を軽減する。また、アーチファクトを低減したDSA画像を作成する。
【解決手段】 血管撮影画像記憶部11は、造影剤注入前の画像であるマスク画像と、注入後の画像であるターゲット画像とを記憶する。マスク画像自動選択部20は血管撮影画像記憶部11からターゲット画像と複数のマスク画像とを入力し、複数のマスク画像のそれぞれについて各マスク画像とターゲット画像とを使用して、各マスク画像とターゲット画像との間の呼吸位相の位相差を位相差評価関数により評価する。位相差評価関数は予め設定され関数格納部21に格納されている。マスク画像自動選択部20は、位相差評価関数の値に基づいてマスク画像を選択する。DSA画像作成部30は選択されたマスク画像と血管撮影画像記憶部11が記憶するターゲット画像とを使用してDSA画像を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ディジタル血管撮影装置においてDSA画像を作成、保存、表示するシステムに適用する画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国内においては、ディジタル血管撮影装置が普及し、臨床において活用されている。これらのディジタル血管撮影装置においては、造影剤注入前後の差分画像を得るDSA(Digital Subtraction Angiography)画像も作成されて臨床使用されており、これまで様々な改良が実施されてきた。
【0003】
しかし、従来のディジタル血管撮影装置においては、DSA画像を作成するに当たり、どのような画像の組み合わせによりDSA画像を作成すればアーチファクトの少ないDSA画像が得られるのかが事前に分からないため、予め多数のDSA画像を作成しておく必要があった。そのため、多数のDSA画像の中から有効なDSA画像を放射線技師の判断で選択している。このような選択作業は、放射線技師にとり大きな負担となっている。
【0004】
この点に関し、例えば特開平6−125499号公報(特許文献1)では、「該差分演算部7にて被検体の少なくとも1心周期にわたって計測された複数のマスク像の各々と一のライブ像との間で差分を演算した結果を基に、上記一のライブ像がいずれのマスク像と類似度が高いかを求める類似度算出部11を設け、この類似度算出部11からの算出結果により上記一のライブ像との間で差分をとるマスク像を選択し、これらの両画像間で差分をとって差分画像を表示する」ようにしている。
【0005】
しかし、特許文献1では、算出の際に画像全体を使用しているため、最適マスク画像が選択されない場合も生じる。例えば、注目している領域の類似度が高くても部分的に類似度が小さい(アーチファクトの大きい)領域がある場合、そのマスク画像は選択されない。
【特許文献1】特開平6−125499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、DSA画像の作成に使用する最適なマスク画像を自動的に選択し、血管撮影装置を運用する場合におけるDSA画像を選択する作業負担を軽減することを目的とする。また、本発明は、アーチファクトを低減したDSA画像を作成し、病変判別の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の血管撮影画像処理装置は、
生体の血管に造影剤を注入する前の血管撮影画像を示す複数のマスク画像と、生体の血管に造影剤を注入した後の血管撮影画像を示すターゲット画像とを記憶する画像記憶部と、
前記画像記憶部からターゲット画像と複数のマスク画像とを入力し、入力した複数のマスク画像のそれぞれについて、それぞれのマスク画像と入力したターゲット画像とを使用してマスク画像の撮影時とターゲット画像の撮影時とにおける生体の変動状態の差異を評価し、評価した変動状態の差異に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択するマスク画像選択部と、
前記マスク画像選択部が選択した選択画像と前記画像記憶部が記憶するターゲット画像とを使用して差分画像を作成する差分画像作成部と
を備えたことを特徴とする。
【0008】
前記マスク画像選択部は、
変動状態の差異として、呼吸状態の差異を評価することを特徴とする。
【0009】
前記マスク画像選択部は、
呼吸状態の差異の評価としてマスク画像撮影時における生体の呼吸サイクルの呼吸位相とターゲット画像撮影時における生体の呼吸サイクルの呼吸位相との位相差を指標する位相差評価値を算出し、算出した位相差評価値に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択することを特徴とする。
【0010】
前記マスク画像選択部は、
所定の規則に従って位相差評価値を算出する位相差評価関数を格納する関数格納部を備え、前記関数格納部が格納する位相差評価関数により位相差評価値を算出することを特徴とする。
【0011】
本発明の血管撮影画像処理方法は、
生体の血管に造影剤を注入する前の血管撮影画像を示す複数のマスク画像と、生体の血管に造影剤を注入した後の血管撮影画像を示すターゲット画像とを記憶する工程と、
記憶したターゲット画像と記憶した複数のマスク画像を入力し、入力した複数のマスク画像のそれぞれについて、それぞれのマスク画像と入力したターゲット画像とを使用してマスク画像の撮影時とターゲット画像の撮影時とにおける生体の変動状態の差異を評価し、評価した変動状態の差異に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択する工程と、
選択した選択画像と記憶したターゲット画像とを使用して差分画像を作成する工程と
を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の血管撮影画像処理プログラムは、
生体の血管に造影剤を注入する前の血管撮影画像を示す複数のマスク画像と、生体の血管に造影剤を注入した後の血管撮影画像を示すターゲット画像とを記憶する処理と、
記憶したターゲット画像と記憶した複数のマスク画像を入力し、入力した複数のマスク画像のそれぞれについて、それぞれのマスク画像と入力したターゲット画像とを使用してマスク画像の撮影時とターゲット画像の撮影時とにおける生体の変動状態の差異を評価し、評価した変動状態の差異に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択する処理と、
選択した選択画像と記憶したターゲット画像とを使用して差分画像を作成する処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、血管撮影装置を運用する場合における作業負担を軽減することができる。従来の血管撮影装置を運用する場合、放射線技師は、臨床に有用な画質のDSA画像を人間の判断操作により選択する必要がある。通常、DSA画像の枚数はかなり多い。そのため、このような選択作業は放射線技師にとり大きな負担となっている。本発明より、DSA画像の作成に適したマスク画像を自動的に選択し、選択した最適なマスク画像を用いてDSA画像を作成するので、DSA画像は自動的に作成される。このため、従来と比べて作業負担が軽減する。
【0014】
また、本発明により病変判別の精度が向上する。本発明によれば、従来と比べてアーチファクトの少ないクリアなDSA画像を容易に得ることができる。医師がこのDSA画像を用いて読影することで、医師による病変判別の精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1〜図5を用いて実施の形態1を説明する。実施の形態1は、複数のマスク画像(血管撮影画像のうち造影剤注入前の画像)のなかからDSA画像の画質がもっとも向上すると予想されるマスク画像を自動的に選択し、選択したマスク画像とターゲット画像(血管撮影画像のうち造影剤注入後の画像)とを用いて、ターゲット画像から選択したマスク画像を減算処理し、DSA画像を作成する血管撮影画像処理装置に関する。本装置は、マスク画像を自動的に選択することを特徴とする。
【0016】
ここで、「血管撮影画像」とは、ディジタル血管撮影装置によって撮影されたディジタル画像(以下、単に画像という)をいう。血管撮影画像は、それぞれの患者に対して、1検査で数10枚〜数100枚の一連の画像として撮影される。その際、造影剤を注入することにより、造影剤が血管中を拡散していく様子が画像中に写っていくことになり、血管を観察することができる。
【0017】
また、「DSA画像」(差分画像)とは、「血管撮影画像」のうち、造影剤注入後の画像(ターゲット画像)から造影剤注入前の画像(マスク画像)を差し引いて作成される画像をいう。「DSA画像」では造影剤の存在する箇所のみが陰影として得られることになり、血管をより鮮明に観察することが可能となる。
【0018】
図1は、実施の形態1に係る血管撮影画像処理装置100の構成図である。血管撮影画像処理装置100は、画像記憶部10、マスク画像自動選択部20(マスク画像選択部の一例)、DSA画像作成部30(差分画像作成部の一例)、及び表示部40を備える。
【0019】
画像記憶部10は、血管撮影画像記憶部11、DSA画像記憶部12、画像データ記憶部13、画像データ蓄積メモリ14を備える。
【0020】
表示部40は、画像表示処理部41、画像表示装置42を備える。
【0021】
次に、血管撮影画像処理装置100の各構成要素の機能を説明する。「血管撮影画像記憶部11」は、血管撮影画像処理装置100において入力画像となる血管撮影画像をファイル、データベース等の形式で格納する。前記のように、「血管撮影画像」は、造影剤注入前の「マスク画像」と、造影剤注入後の造影画像(ターゲット画像)に分けられる。「血管撮影画像記憶部11」は、「マスク画像」と「造影画像(ターゲット画像)」とを格納する。
【0022】
「DSA画像記憶部12」は、血管撮影画像処理装置100において出力画像となるDSA画像をファイル、データベース等の形式で格納する。
【0023】
「画像データ記憶部13」は、指定された要求に基づいて「血管撮影画像記憶部11」から血管撮影画像を読み込み、読み込んだ血管撮影画像を「画像データ蓄積メモリ14」に格納する。また、「DSA画像作成部30」で作成されたDSA画像を「画像データ蓄積メモリ14」から取り出し、指定された要求に基づいて、ファイル、データベース等の何らかの形式で「DSA画像記憶部12」に保存する。
【0024】
「画像データ蓄積メモリ14」は、「画像データ記憶部13」で読み込まれた血管撮影画像、あるいは「DSA画像作成部30」で作成されたDSA画像を蓄積しておく。
【0025】

「マスク画像自動選択部20」は、「画像データ蓄積メモリ14」から、ターゲット画像および複数のマスク画像を入力し、DSA画像を作成するために最適なマスク画像を選択して、「DSA画像作成部30」に出力する。血管撮影画像処理装置100の構成要素の中で、特徴的な構成要素である。
【0026】
「DSA画像作成部30」は、「画像データ蓄積メモリ14」から入力されたターゲット画像と、「マスク画像自動選択部20」から入力された最適マスク画像(選択画像)とを基にして、DSA画像を作成し、「画像データ蓄積メモリ14」に出力する。
【0027】
「画像表示処理部41」は、「画像データ蓄積メモリ14」に格納されている画像を、指定された要求に基づいて「画像表示装置42」に表示する処理を行う。
【0028】
「画像表示装置42」は、DSA画像などの画像を表示する表示装置である。例えば、CRT(Cathode Ray Tube)、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ等の装置である。本装置は、医用の装置であるため、例えば走査線1000本以上の高精細CRTであることが望ましい。
【0029】
図2は、血管撮影画像処理装置100によりDSA画像を作成する概略の動作を説明するフローチャートである。図2を用いて動作を説明する。
(1)マスク画像自動選択部20は、画像記憶部10の血管撮影画像記憶部11から、ターゲット画像と複数のマスク画像(以下、マスク画像候補ともいう)とを入力する(S101)。
(2)マスク画像自動選択部20は、マスク画像候補の中からDSA画像の作成に使用するためのマスク画像(選択画像)を自動的に選択する(S102)。このマスク画像の自動選択が特徴である。自動選択の内容につては、別途後述する。
(3)DSA画像作成部30は、マスク画像自動選択部20からマスク画像(選択画像)を入力するとともに、画像データ蓄積メモリ14からターゲット画像を入力する。そして、入力したターゲット画像からマスク画像(選択画像)を減算処理してDSA画像を作成し、作成したDSA画像を画像データ蓄積メモリ14に出力する(S103)。
(4)画像データ蓄積メモリ14に蓄積されたDSA画像は、画像データ記憶部13を介してDSA画像記憶部12に格納される(S104)。
(5)DSA画像記憶部12に格納されたDSA画像は、画像データ記憶部13及び画像データ蓄積メモリ14を介して画像表示処理部41に読み込まれて画像表示装置42に表示される(S105)。
【0030】
次に図3〜図6を用いて、マスク画像自動選択部20によるマスク画像の自動選択について説明する。
【0031】
マスク画像自動選択部20は、血管撮影画像記憶部11から入力した複数のマスク画像のそれぞれについて、それぞれのマスク画像とターゲット画像とを使用してマスク画像の撮影時とターゲット画像の撮影時とにおける人体(生体の一例)の「変動状態」の差異を評価する。ここで「変動状態」とは、生体の動きを意味する。例えば、「呼吸状態」や、心臓の鼓動や、筋肉による「体の動作状態」をいう。また「評価する」とは、所定の規則に基づき「変動状態の差異」を数値に換算することを意味する。
【0032】
例えばマスク画像候補がマスク画像1〜マスク画像5の5枚ある場合に、マスク画像1とターゲット画像とを使用してマスク画像1とターゲット画像の両者の撮影時における人体の「変動状態の差異」を評価する。同様にマスク画像2、マスク画像3等についてもターゲット画像との撮影時における「変動状態の差異」を評価する。そして、マスク画像自動選択部20は、マスク画像1〜マスク画像5についての「変動状態の差異」の評価に基づき、複数のマスク画像のなかからDSA画像の作成に使用するマスク画像を選択する。すなわち、マスク画像自動選択部20は、5枚のマスク画像のそれぞれについて「変動状態の差異」を評価し、「変動状態の差異」の最も小さいマスク画像とターゲット画像の組におけるマスク画像を選択する。選択されたマスク画像はターゲット画像に対して「変動状態の差異」が最も小さいので、これを使用してDSA画像を作成する場合は、他のマスク画像を使用して作成する場合にくらべてDSA画像の画質が向上する。このように、複数のマスク画像から最適なマスク画像を自動的に選択するとともに、DSA画像の画質を向上することができる。
【0033】
図3は、マスク画像自動選択部20による、マスク画像の自動選択の動作を説明するフローチャートである。図3を用いてマスク画像の自動選択の動作を説明する。以下では、生体の「変動状態」として、人体の呼吸状態を例にとり説明する。
【0034】
(1)S201において、マスク画像自動選択部20はターゲット画像について、「人体構造物」を解析して「人体解析データ」を作成する。
(2)ここで「人体構造物」とは、例えば、横隔膜、脊椎、心臓など、「ターゲット画像」においてランドマークとなる人体の構造物をいう。また、「人体解析データ」とは、横隔膜、脊椎、心臓など、「ターゲット画像」に写っているランドマークとなる「人体構造物」の位置、形状に関する情報をいう。「人体解析データ」は、DSA画像を作成しようとするターゲット画像が人体のどの部分の画像であるかを特定するために参照するデータである。図4、図5は人体構造物を説明するための図である。図4は腹部血管撮影画像を示す。図5は、胸部血管撮影画像を示す。図4の腹部血管撮影画像では、人体構造物は、例えば横隔膜(右)、脊椎、心臓などである。また図5の胸部血管撮影画像では、人体構造物は、胸郭、横隔膜、脊椎である。
(3)なおDSA画像を作成しようとする対象部位によって、ランドマークとなる人体構造物が異なる。頭部、頚部、胸部、腹部、四肢といった全身の部分がDSA画像作成の対象と成りうる。また、人体に対する撮影方向も正面、側面、斜位など、いかなる撮影方向についても適応させることが可能である。
(4)この「人体解析データ」を作成する処理においては、別のタイミングで導出された同一患者の同一検査の「既導出の人体解析データ」も参考情報として利用できるようにする。「別のタイミングで導出された、同一患者の同一検査の既導出の人体解析データ」とは、次の人体解析データを意味する。すなわち、血管撮影画像は時間的に連続して撮影される。時間的に連続して撮影された一連の血管撮影画像群は、ターゲット画像、マスク候補画像、及び後述の血管撮影画像Aを含むとする。一連の血管撮影画像群のうち、造影剤注入後の「血管撮影画像A」についてすでに「人体解析データ」が作成されている場合(既導出の場合)には、その既導出の「人体解析データ」を意味する。この既導出の「人体解析データ」を参照して、血管撮影画像Aとは異なる画像であるターゲット画像が、人体のどの部位の画像かを判定することができる。「人体解析データ」は、後段のステップにおいて、人体構造の知識(解剖学的情報)に沿った処理ができるように利用される。
(5)上記の人体解析データについては、同一患者の同一検査の血管撮影画像であれば、それほど大きな変動はしないことが予想される。したがって、DSA画像を作成するときには、上記のように、異なるタイミングの血管撮影画像から導出された「既導出の人体解析データ」も参考情報として使用することができる。また骨、肺、腸管ガス、体外の空気等の高コントラストを形成する成分はいずれも利用可能である。また、DSA画像を作成する際の差分に用いる2画像の呼吸位相差(後述する)を類推するには、血管内に挿入された、コイル、ステント、カテーテルのマーカーなども、利用可能である。
【0035】
(1)S202において、マスク画像自動選択部20は、「人体解析データ」の情報を参照して、マスク画像候補の画像それぞれについて、後述する「位相差評価関数」の値を導出する。「人体解析データ」を参照することにより画像が人体のどの部位であるかを判定し、後述の領域を決定し、決定した領域を対象として前記の「位相差評価関数」の値を導出する。
(2)位相差評価関数について説明する。ターゲット画像とマスク画像候補であるそれぞれのマスク画像との間で、呼吸位(呼吸状態)の位相差(以下、位相差という)が少ない場合に、血管撮影画像上の被写体形状が同一に近くなり、DSA画像の画質が向上する。従って、それぞれのマスク画像について、各マスク画像とターゲット画像との間の呼吸位相の位相差を「位相差評価関数F」により評価し、「位相差評価関数F」の値の大小から、位相差が最小となるマスク画像とターゲット画像との組におけるマスク画像を選択する。このように「位相差」の違いを評価する関数を「位相差評価関数F」として定義し、あらかじめマスク画像自動選択部20の関数格納部21に格納する。「位相差評価関数F」の値の大小を比較評価し、マスク画像候補から最適マスク画像を選択する。次の式は、「位相差評価関数F」の値が、各マスク画像ごとに算出されることを示している。
【0036】
【数1】

【0037】
(3)具体例を、図6、及び下記の式に示す。具体例として図4の腹部血管撮影画像の場合を説明する。呼吸位を評価する方法としては、図4の腹部血管撮影画像の場合は、右横隔膜の上下方向位置を見るとよい。図6は、図4の腹部血管撮影画像について右横隔膜を含む領域を「位相差評価関数F」の値を算出する指定領域として指定した場合を示している。この右横隔膜を含む指定領域の相互相関係数(所定の規則の一例)を示す下記の式を「位相差評価関数F」として与える。そして、関数Fの値が最大となるようなマスク画像をマスク画像候補から選択する。
【0038】
【数2】

【0039】
(4)なお、「位相差評価関数F」はDSA画像を作成する対象部分ごとに、あらかじめ所定の規則に従い設定しておき、関数格納部21に格納しておいてもよい。すなわち、上記のように、頭部、頚部、胸部、腹部、四肢といった全身の部分がDSA画像作成の対象と成りうる。このため、頭部、頚部等のそれぞれの部分について生体の変動状態を評価可能な関数式を所定の規則に従って「位相差評価関数F」として予め設定し、関数格納部21に格納する。そして、頭部等の部位に対応する「位相差評価関数F」を用いて評価するようにしても構わない。
【0040】
S203において、マスク画像自動選択部20は、個々のマスク画像候補に対して導出された位相差評価関数の値を比較して、最適なマスク画像を選択する。以上のS201〜S203のステップにより最適なマスク画像を選択することができる。
【0041】
本実施の形態1の血管撮影画像処理装置100は、マスク画像自動選択部20が複数のマスク画像から最適なマスク画像を自動的に選択してDSA画像を作成するので、DSA画像を手動で選択する負担を軽減することができる。また、複数のマスク画像のうち最適マスク画像を選択してDSA画像を作成するので、DSA画像の画質を向上することができる。
【0042】
本実施の形態1の血管撮影画像処理装置100では、マスク画像自動選択部20が、撮影時ごとに生体変動に影響の大きい呼吸状態の差異を評価するので、DSA画像の画質を向上することができる。
【0043】
本実施の形態1の血管撮影画像処理装置100では、マスク画像自動選択部20が位相差評価値を算出し、算出した位相差評価値に基づいてマスク画像を選択するので、迅速なマスク画像の選択、DSA画像の作成をすることができる。
【0044】
本実施の形態1の血管撮影画像処理装置100では、マスク画像自動選択部20の関数格納部21が位相差評価関数を格納するので、DSA画像を作成する対象部分ごとに、ターゲット画像とマスク画像との変動状態の差異をきめ細かく評価し、最適なマスク画像を選択することができる。
【0045】
実施の形態2.
次に、図7、図8を用いて実施の形態2を説明する。実施の形態2は、前記の実施の形態1に係る血管撮影画像処理装置100の各構成要素の動作をソフトウェア(プログラム)により実施する実施形態である。
【0046】
前記の実施の形態1に係る血管撮影画像処理装置100の各構成要素である画像記憶部10、マスク画像自動選択部20、DSA画像作成部30、表示部40等の各動作は互いに関連しており、各構成要素の動作は、前記に示した動作の関連を考慮しながら、一連の動作として置き換えることができる。そして、このように置き換えることにより、血管撮影画像処理方法の発明として実施することができる。
【0047】
図7は、血管撮影画像処理方法の工程を示すフローチャートである。S301は、複数のマスク画像と、ターゲット画像とを記憶する工程である。S302は、記憶したターゲット画像と記憶した複数のマスク画像を入力し、入力した複数のマスク画像のそれぞれについて、それぞれのマスク画像と入力したターゲット画像とを使用してマスク画像の撮影時とターゲット画像の撮影時とにおける生体の変動状態の差異を評価し、評価した変動状態の差異に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択する工程である。S303は、選択した選択画像と記憶したターゲット画像とを使用して差分画像を作成する工程である。
【0048】
また、上記各構成要素の動作を、各構成要素の処理と置き換えることにより、画像診断プログラムとして実施することができる。すなわち、上記血管撮影画像処理方法において「工程」を処理と置き換えることによりコンピュータに実行させる血管撮影画像処理プログラムの実施形態とすることができる。
【0049】
また、血管撮影画像処理プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録させることで、血管撮影画像処理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の実施形態とすることができる。
【0050】
プログラムの実施の形態及びプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の実施の形態は、すべてコンピュータで動作可能な血管撮影画像処理プログラムにより構成することができる。
【0051】
図8は、実施の形態1に係る血管撮影画像処理装置100の動作をプログラムにより実行する場合を示す、実施の形態2に係る血管撮影画像処理装置200の構成図である。図8において、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)280は、バス298を介して、磁気記憶装置290、外部装置接続部294、表示部270、入力部の例としてのキーボード260、及びROM(Read Only Memory)295等と接続されている。磁気記憶装置290には、オペレーティングシステム(OS)291、プログラム群292、ファイル群293が記憶されている。プログラム群292は、CPU280、OS291により実行される。また、外部装置接続部294には、DVD(Digital Versatile Disc)ドライブが接続可能である。血管撮影画像処理プログラムを記録したDVD297(プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の一例)をDVDドライブ296にセットして、この血管撮影画像処理プログラムをプログラム群292の一つとして記憶させることができる。
【0052】
プログラムの実施の形態及びプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の実施の形態における各処理は、プログラムで実行されるが、このプログラムは、磁気記憶装置290に記録されていて、磁気記憶装置290からCPU280に読み込まれ、CPU280によって各動作が実行される。また、各実施の形態のソフトウェアやプログラムは、ROM295に記憶されたファームウェアで実行されても構わない。あるいは、ソフトウェアとファームウェアとハードウェアの組み合わせで前述した血管撮影画像処理プログラムを実現しても構わない。
【0053】
実施の形態2に係る血管撮影画像処理方法によれば、複数のマスク画像から最適なマスク画像を自動的に選択してDSA画像を作成するので、DSA画像を手動で選択する負担を軽減することができる。また、複数のマスク画像のうち最適マスク画像を選択してDSA画像を作成するので、DSA画像の画質を向上することができる。
【0054】
実施の形態2に係る血管撮影画像処理プログラムによれば、専用装置を必要とすることなくコンピュータにこのプログラムを読み取らせることにより、DSA画像を手動で選択する負担を軽減することができる。また、複数のマスク画像のうち最適マスク画像を選択してDSA画像を作成するので、DSA画像の画質を向上することができる。
【0055】
実施の形態2に係る血管撮影画像処理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体によれば、血管撮影画像処理プログラムの保管、管理を容易化するとともに、血管撮影画像処理プログラムをコンピュータに読み取らせることにより、DSA画像を手動で選択する負担を軽減することができる。た、複数のマスク画像のうち最適マスク画像を選択してDSA画像を作成するので、DSA画像の画質を向上することができる。
【0056】
以上、実施の形態2に係る血管撮影画像処理方法は、血管撮影装置によって撮影された血管撮影画像の組み合わせを自動決定する方法であり、指定された血管撮影画像に対して、DSA画像の画質が最も向上すると予想されるマスク画像を自動的に判定して抜き出して、血管撮影画像の組み合わせを検出することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施の形態1における血管撮影画像処理装置100の構成図である。
【図2】実施の形態1における血管撮影画像処理装置100の動作の概要を示すフローチャートである。
【図3】実施の形態1におけるマスク画像の選択の動作を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態1における腹部血管撮影画像を示す図である。
【図5】実施の形態1における胸部血管撮影画像を示す図である。
【図6】実施の形態1における領域指定を示す図である。
【図7】実施の形態2における方法の発明の工程を示すフローチャートである。
【図8】実施の形態2における血管撮影画像処理装置200のハードウェア構成図である。
【符号の説明】
【0058】
10 画像記憶部、11 血管撮影画像記憶部、12 DSA画像記憶部、13 画像データ記憶部、14 画像データ蓄積メモリ、20 マスク画像自動選択部、21 関数格納部、30 DSA画像作成部、40 表示部、41 画像表示処理部、42 画像表示装置、100,200 血管撮影画像処理装置、260 キーボード、270 表示部、280 CPU、290 磁気記憶装置、291 OS、292 プログラム群、293 ファイル群、294 外部装置接続部、295 ROM、296 DVDドライブ、297 DVD。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の血管に造影剤を注入する前の血管撮影画像を示す複数のマスク画像と、生体の血管に造影剤を注入した後の血管撮影画像を示すターゲット画像とを記憶する画像記憶部と、
前記画像記憶部からターゲット画像と複数のマスク画像とを入力し、入力した複数のマスク画像のそれぞれについて、それぞれのマスク画像と入力したターゲット画像とを使用してマスク画像の撮影時とターゲット画像の撮影時とにおける生体の変動状態の差異を評価し、評価した変動状態の差異に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択するマスク画像選択部と、
前記マスク画像選択部が選択した選択画像と前記画像記憶部が記憶するターゲット画像とを使用して差分画像を作成する差分画像作成部と
を備えたことを特徴とする血管撮影画像処理装置。
【請求項2】
前記マスク画像選択部は、
変動状態の差異として、呼吸状態の差異を評価することを特徴とする請求項1記載の血管撮影画像処理装置。
【請求項3】
前記マスク画像選択部は、
呼吸状態の差異の評価としてマスク画像撮影時における生体の呼吸サイクルの呼吸位相とターゲット画像撮影時における生体の呼吸サイクルの呼吸位相との位相差を指標する位相差評価値を算出し、算出した位相差評価値に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択することを特徴とする請求項2記載の血管撮影画像処理装置。
【請求項4】
前記マスク画像選択部は、
所定の規則に従って位相差評価値を算出する位相差評価関数を格納する関数格納部を備え、前記関数格納部が格納する位相差評価関数により位相差評価値を算出することを特徴とする請求項3記載の血管撮影画像処理装置。
【請求項5】
生体の血管に造影剤を注入する前の血管撮影画像を示す複数のマスク画像と、生体の血管に造影剤を注入した後の血管撮影画像を示すターゲット画像とを記憶する工程と、
記憶したターゲット画像と記憶した複数のマスク画像とを入力し、入力した複数のマスク画像のそれぞれについて、それぞれのマスク画像と入力したターゲット画像とを使用してマスク画像の撮影時とターゲット画像の撮影時とにおける生体の変動状態の差異を評価し、評価した変動状態の差異に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択する工程と、
選択した選択画像と記憶したターゲット画像とを使用して差分画像を作成する工程と
を備えたことを特徴とする血管撮影画像処理方法。
【請求項6】
生体の血管に造影剤を注入する前の血管撮影画像を示す複数のマスク画像と、生体の血管に造影剤を注入した後の血管撮影画像を示すターゲット画像とを記憶する処理と、
記憶したターゲット画像と記憶した複数のマスク画像とを入力し、入力した複数のマスク画像のそれぞれについて、それぞれのマスク画像と入力したターゲット画像とを使用してマスク画像の撮影時とターゲット画像の撮影時とにおける生体の変動状態の差異を評価し、評価した変動状態の差異に基づいて、入力した複数のマスク画像から選択画像としてマスク画像を選択する処理と、
選択した選択画像と記憶したターゲット画像とを使用して差分画像を作成する処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とする血管撮影画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−51070(P2006−51070A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233090(P2004−233090)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(591102095)三菱スペース・ソフトウエア株式会社 (148)
【Fターム(参考)】