衝突エネルギー吸収用鋼管およびその製造方法
【課題】十分な衝突エネルギー吸収特性を示し、しかも異形断面の取り付けスペースにも対応可能な新規な衝突エネルギー吸収用鋼管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、外側鋼管1の内部に複数本の内側鋼管2が挿入された複合管構造を備えたもので、外側鋼管1が引抜き加工によって内側鋼管2の外周面に圧着されている。そして外側鋼管1の内周長のうち、内側鋼管2との非接触長の和が、内周長の20%以下である。内側鋼管2は断面円形の鋼管であっても、断面非円形の異形鋼管であってもよい。自動車のバンパーやドアインパクトビームに適する。
【解決手段】本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、外側鋼管1の内部に複数本の内側鋼管2が挿入された複合管構造を備えたもので、外側鋼管1が引抜き加工によって内側鋼管2の外周面に圧着されている。そして外側鋼管1の内周長のうち、内側鋼管2との非接触長の和が、内周長の20%以下である。内側鋼管2は断面円形の鋼管であっても、断面非円形の異形鋼管であってもよい。自動車のバンパーやドアインパクトビームに適する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバンパーやドアインパクトビームのような衝突エネルギー吸収特性が要求される部分に用いるに適した衝突エネルギー吸収用鋼管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のバンパーやドアインパクトビームのような部材は、自動車が衝突した際にそれ自体が変形することによって衝突エネルギーを吸収し、乗員の生存空間を確保する役割を果たしている。この目的のためには、圧壊時や曲げ変形時における衝突エネルギーの吸収量が大きいことが必要であることはいうまでもない。しかしこれらの部材は自動車内部の限られたスペースに収納する必要があることから、断面積ができるだけ小さく軽量であることも要求されており、最近における自動車の小型化・軽量化の傾向に伴い、この要求が一段と強まっている。
【0003】
このために従来から様々な構造の衝突エネルギー吸収部材が提案されているが、中でも特許文献1に示されるような、円形の外側管の内部に単数または複数の内側管を収納した複合管構造は、軽度の衝突時には外側管が変形し、強い衝撃時には内側管も変形して大きな衝突エネルギーを吸収できる点で優れている。
【特許文献1】特開2003−137129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが特許文献1に示された複合管構造の衝突エネルギー吸収部材は、外側管の内部に内側管を挿入して溶接するか、あるいは外側管の内部に内側管を圧入したものであり、外側管と内側管との間に多くの隙間がある。このために外側管の管壁の一部は内側管に拘束されることなく比較的容易に変形することとなり、その間は衝突エネルギーの吸収量が小さい。このため十分な衝突エネルギー吸収特性を示すとは言えない点があった。
【0005】
また特許文献1に示された複合管構造の衝突エネルギー吸収部材は、円形または角形の外側管の内部に単数または複数の内側管を収納した構造を基本とするため、断面形状が円形または四角形に限定されている。このため取り付けスペースが限定される場合があった。
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、十分な衝突エネルギー吸収特性を示し、しかも異形断面の取り付けスペースにも対応可能な新規な衝突エネルギー吸収用鋼管およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管が挿入された複合管構造を備え、外側鋼管が引抜き加工によって内側鋼管の外周面に圧着されており、かつ外側鋼管の内周長のうち内側鋼管との非接触長の和が、内周長の20%以下であることを特徴とするものである。なお請求項2に記載のように、内側鋼管を断面円形の鋼管または断面非円形の異形鋼管とすることができる。
【0008】
また本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管の製造方法は、断面円形の外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管を挿入し、複数本の内側鋼管の断面形状に対応した孔型、もしくは外側鋼管を縮径する孔型を有するダイスにて引抜き加工を施し、外側鋼管を内側鋼管の外周面に圧着させることを特徴とするものである。なお請求項4に記載のように、内側鋼管として、断面円形の鋼管または断面非円形の異形鋼管を用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、外側鋼管が引抜き加工によって内側鋼管の外周面に圧着されており、かつ外側鋼管の内周長のうち内側鋼管との非接触長の和が、内周長の20%以下である。このために外側鋼管のほとんどの部分は内側鋼管の外周面により拘束されており、二重管のような肉厚となっている。しかも内側鋼管は複数本であるから、単なる二重管とは異なり外側鋼管の内部に円形断面の複数の隔壁が形成された構造である。したがって衝突時には優れた衝突エネルギー吸収特性を示す。
【0010】
また本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、断面円形の外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管を挿入し、複数本の内側鋼管の断面形状に対応した孔型、もしくは外側鋼管を縮径する孔型を有するダイスにて引抜き加工を施し、外側鋼管を内側鋼管の外周面に圧着させたものであるから、内側鋼管の断面形状や配置を変えることによって外形状を様々に設定することができる。このため異形断面の取り付けスペースしか確保できない場合にも対応可能である。
【0011】
さらに本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、外側鋼管は引抜き加工時の加工硬化によって機械的強度が上がり衝突エネルギー吸収特性が向上する一方、内側鋼管は引抜き加工時にさほど変形しないため延性を残している。従って外剛内柔の複合管構造となり、大きな衝突エネルギーを受けたときには適度の変形を生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に図面を参照しつつ本発明の好ましい実施形態を示す。
図1と図2は本発明の第1の実施形態を示す図である。先ず図1に示されるように、外側鋼管1の内部に複数本の内側鋼管2を挿入する。外側鋼管1及び内側鋼管2としては通常の機械構造用の鋼管を用いることができるが、強化用の合金元素を添加した高強度鋼管を使用してもよい。本発明では外側鋼管1の内部に複数本の内側鋼管2を圧入する必要はないので、図1のようにゆとりを持たせて内側鋼管2を挿入することができる。なお内側鋼管2は複数本とし、この実施形態では4本である。また内側鋼管2の断面形状は円形であっても角形その他の異形であってもよいが、この実施形態では通常の丸鋼管である。
【0013】
次に図1の状態の内部に複数本の内側鋼管2が挿入された外側鋼管1を、ダイスを用いて引抜き加工する。このダイスには複数本の内側鋼管2の断面形状に対応した孔型が形成されており、引抜き加工によって外側鋼管1の管壁は内側に塑性変形し、図2に示す断面形状の複合管構造となる。このとき、外側鋼管1の管壁のうち、角部に位置する内側鋼管2の外周面に沿った部分の変形量は小さいが、内側鋼管2相互間の部分は内側に大きく絞り込まれる。
【0014】
その結果、外側鋼管1の管壁の大部分は内側鋼管2の外周面に圧着されるが、一部は非接触状態となる。そして本発明では、外側鋼管1の内周長のうち内側鋼管2との非接触長の和が、外側鋼管1の内周長の20%以下となるようにする。非接触長は外側鋼管1の絞込み量により決定され、その絞込み量はダイスの孔型により決定されるので、非接触長の和を外側鋼管1の内周長の20%以下となるようにすることは、引抜き加工を行えば容易である。本発明において非接触長の和を外側鋼管1の内周長の20%以下としたのは、非接触長の和がこれよりも大きくなると外側鋼管1のみが変形する可能性が生じ、衝突エネルギー吸収特性の向上効果が不十分となる可能性があるためである。なお非接触長の和の下限は内側鋼管2の形状や本数により変化するが、ゼロとすることは不可能であり、実際には少なくとも1%程度となる。
【0015】
この引抜き加工に伴い、外側鋼管1は加工硬化によって機械的強度が上がり、曲げや圧壊時における衝突エネルギー吸収特性が向上する。一方、内側鋼管2は延性を残したままであるが、外周を外側鋼管1により強力に固定されているので強い衝突エネルギーを受けない限りは相互の位置がずれたりすることはない。
【0016】
上記した第1の実施形態では、外側鋼管1の内部に4本の内側鋼管2を挿入したが、図3、図4に示す第2の実施形態ではその数を2本とした。この場合にも外側鋼管1の内周長に対する非接触長の和を20%以下となるようにする。この値はダイスの孔型によって決定することができることは上記と同様である。このほか、外側鋼管1の内部に挿入する内側鋼管2の本数を3本としたり、5本、6本とすることも可能である。しかしあまり本数を増加させると引抜き加工時の位置決めが行いにくくなるので、2〜6本が適切な本数である。
【0017】
また内側鋼管2は異形管であってもよく、図5、図6に示す第3の実施形態では内側鋼管2は角管である。この場合には内側鋼管2が丸管である場合よりも、外側鋼管1の内周長に対する非接触長の和の比率を更に下げることが可能となる。しかし角管は平面により構成されているため、衝撃を受ける方向によっては変形が生じ易くなる。このため、方向による衝突エネルギー吸収特性の差を考慮した配置が必要である。
【0018】
図7、図8は内側鋼管2を3本の角管とした第4の実施形態を示す。この場合にも上記した他の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0019】
図9、図10は第5の実施形態を示す。第1〜第4の実施形態では、内部鋼管2の外周面のプロフィールに合わせた孔型を有するダイスにて引抜き加工を施したが、この第5の実施形態では、円形の孔型を有するダイスを用いて外側鋼管1の径を円形のまま縮径させた。この場合には内部鋼管2が図10に示すように変形する。このようにして製造されたものも、他の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
以上に説明したように、本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は優れた衝突エネルギー吸収特性を示し、従来品よりも小さい断面積で大きい衝突エネルギー吸収効果を得ることができる。また外形状を様々に設定することができるため、十分な取り付けスペースしか確保できない場合にも対応可能である。このため、自動車の小型化・軽量化の動向に適した衝突エネルギー吸収用鋼管として、利用価値が高いものである。
【実施例】
【0021】
表1に示すほぼ同重量の3種類の鋼管にて衝撃曲げ試験を行った。各鋼管の断面は、図11に示すように、比較例1はφ40の鋼管、比較例2はφ40の外側鋼管とφ15.5の内側鋼管4本で構成された複合鋼管(外側鋼管の内周長の内非接触長の和は95%)、発明例1は比較例2の複合鋼管をダイスにて引抜き加工を施した複合引抜き鋼管(外側鋼管の内周長の内非接触長の和は7%)である。また各鋼管は、長さ1200mmである。
衝撃曲げ試験方法は、図12に示すように、スパン800mmで固定された支持台の上にサンプルを乗せ、衝突部のRが150mmである半円柱状の負荷子を55km/hで衝突させ、ロードセルで荷重を測定した。ロードセルにフィルターをかけ、振動の影響を取り除いた荷重の値と変位との関係を調べた。また、変位−荷重曲線から150mm変位までの吸収エネルギーを算出(変位−荷重曲線で囲まれた面積を計算)した。
【0022】
結果を表1及び図13に示す。図13より、比較例1の鋼管は断面2次モーメントが大きい為に衝突初期の荷重の上がり方は大きいが、断面が扁平し易い為、一度座屈をおこすと急激に荷重が低下する事が分かる。比較例2の複合鋼管は、内側鋼管が4本挿入されているため座屈は起こり難いが、外側鋼管と内側鋼管の間に大きな隙間がある為、衝突後外側鋼管と内側鋼管が接触するまではほぼ外側鋼管のみで荷重を受け持つ為、衝突初期の荷重の上がり方は小さい。一方発明例1の複合引抜き鋼管は、外側鋼管と内側鋼管の隙間が小さい為、衝突初期から全体で荷重を受け持つ為荷重の上がり方が大きく、また内側鋼管が4本挿入されているため座屈も起こり難い。また、本発明の複合引抜き鋼管は、引抜いた際に外側鋼管が加工硬化されている為、さらに衝突抵抗が増す。この為、衝突初期から150mm変位に至るまで安定して高い荷重を維持できる事が特徴である。以上の事から150mm吸収エネルギーは、表1に示すように比較例1が5200J、比較例2が5400Jであるのに対し、本発明の発明例1は6000Jと高い衝突エネルギー吸収能を示す。
【0023】
前記したように、本発明の複合引抜き鋼管は、重量同等の鋼管及び複合引抜き鋼管に対して高い吸収エネルギー能を示した。実施例のように使用すれば吸収エネルギーの点でメリットが出るが、必要に応じて板厚を薄くすれば、吸収エネルギーのメリットの変わりに軽量化のメリットを得る事もできる。また、図11を見ても分かるように本発明の複合引抜き鋼管は断面積が小さいので、小さな取り付けスペースにも取り付け可能である。
【0024】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図3】第2の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図4】第2の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図5】第3の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図6】第3の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図7】第4の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図8】第4の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図9】第5の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図10】第5の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図11】実施例の鋼管の断面を示す図である。
【図12】実施例の衝撃曲げ試験方法を示す図である。
【図13】実施例の衝撃曲げ試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 外側鋼管
2 内側鋼管
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバンパーやドアインパクトビームのような衝突エネルギー吸収特性が要求される部分に用いるに適した衝突エネルギー吸収用鋼管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のバンパーやドアインパクトビームのような部材は、自動車が衝突した際にそれ自体が変形することによって衝突エネルギーを吸収し、乗員の生存空間を確保する役割を果たしている。この目的のためには、圧壊時や曲げ変形時における衝突エネルギーの吸収量が大きいことが必要であることはいうまでもない。しかしこれらの部材は自動車内部の限られたスペースに収納する必要があることから、断面積ができるだけ小さく軽量であることも要求されており、最近における自動車の小型化・軽量化の傾向に伴い、この要求が一段と強まっている。
【0003】
このために従来から様々な構造の衝突エネルギー吸収部材が提案されているが、中でも特許文献1に示されるような、円形の外側管の内部に単数または複数の内側管を収納した複合管構造は、軽度の衝突時には外側管が変形し、強い衝撃時には内側管も変形して大きな衝突エネルギーを吸収できる点で優れている。
【特許文献1】特開2003−137129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが特許文献1に示された複合管構造の衝突エネルギー吸収部材は、外側管の内部に内側管を挿入して溶接するか、あるいは外側管の内部に内側管を圧入したものであり、外側管と内側管との間に多くの隙間がある。このために外側管の管壁の一部は内側管に拘束されることなく比較的容易に変形することとなり、その間は衝突エネルギーの吸収量が小さい。このため十分な衝突エネルギー吸収特性を示すとは言えない点があった。
【0005】
また特許文献1に示された複合管構造の衝突エネルギー吸収部材は、円形または角形の外側管の内部に単数または複数の内側管を収納した構造を基本とするため、断面形状が円形または四角形に限定されている。このため取り付けスペースが限定される場合があった。
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、十分な衝突エネルギー吸収特性を示し、しかも異形断面の取り付けスペースにも対応可能な新規な衝突エネルギー吸収用鋼管およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管が挿入された複合管構造を備え、外側鋼管が引抜き加工によって内側鋼管の外周面に圧着されており、かつ外側鋼管の内周長のうち内側鋼管との非接触長の和が、内周長の20%以下であることを特徴とするものである。なお請求項2に記載のように、内側鋼管を断面円形の鋼管または断面非円形の異形鋼管とすることができる。
【0008】
また本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管の製造方法は、断面円形の外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管を挿入し、複数本の内側鋼管の断面形状に対応した孔型、もしくは外側鋼管を縮径する孔型を有するダイスにて引抜き加工を施し、外側鋼管を内側鋼管の外周面に圧着させることを特徴とするものである。なお請求項4に記載のように、内側鋼管として、断面円形の鋼管または断面非円形の異形鋼管を用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、外側鋼管が引抜き加工によって内側鋼管の外周面に圧着されており、かつ外側鋼管の内周長のうち内側鋼管との非接触長の和が、内周長の20%以下である。このために外側鋼管のほとんどの部分は内側鋼管の外周面により拘束されており、二重管のような肉厚となっている。しかも内側鋼管は複数本であるから、単なる二重管とは異なり外側鋼管の内部に円形断面の複数の隔壁が形成された構造である。したがって衝突時には優れた衝突エネルギー吸収特性を示す。
【0010】
また本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、断面円形の外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管を挿入し、複数本の内側鋼管の断面形状に対応した孔型、もしくは外側鋼管を縮径する孔型を有するダイスにて引抜き加工を施し、外側鋼管を内側鋼管の外周面に圧着させたものであるから、内側鋼管の断面形状や配置を変えることによって外形状を様々に設定することができる。このため異形断面の取り付けスペースしか確保できない場合にも対応可能である。
【0011】
さらに本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は、外側鋼管は引抜き加工時の加工硬化によって機械的強度が上がり衝突エネルギー吸収特性が向上する一方、内側鋼管は引抜き加工時にさほど変形しないため延性を残している。従って外剛内柔の複合管構造となり、大きな衝突エネルギーを受けたときには適度の変形を生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に図面を参照しつつ本発明の好ましい実施形態を示す。
図1と図2は本発明の第1の実施形態を示す図である。先ず図1に示されるように、外側鋼管1の内部に複数本の内側鋼管2を挿入する。外側鋼管1及び内側鋼管2としては通常の機械構造用の鋼管を用いることができるが、強化用の合金元素を添加した高強度鋼管を使用してもよい。本発明では外側鋼管1の内部に複数本の内側鋼管2を圧入する必要はないので、図1のようにゆとりを持たせて内側鋼管2を挿入することができる。なお内側鋼管2は複数本とし、この実施形態では4本である。また内側鋼管2の断面形状は円形であっても角形その他の異形であってもよいが、この実施形態では通常の丸鋼管である。
【0013】
次に図1の状態の内部に複数本の内側鋼管2が挿入された外側鋼管1を、ダイスを用いて引抜き加工する。このダイスには複数本の内側鋼管2の断面形状に対応した孔型が形成されており、引抜き加工によって外側鋼管1の管壁は内側に塑性変形し、図2に示す断面形状の複合管構造となる。このとき、外側鋼管1の管壁のうち、角部に位置する内側鋼管2の外周面に沿った部分の変形量は小さいが、内側鋼管2相互間の部分は内側に大きく絞り込まれる。
【0014】
その結果、外側鋼管1の管壁の大部分は内側鋼管2の外周面に圧着されるが、一部は非接触状態となる。そして本発明では、外側鋼管1の内周長のうち内側鋼管2との非接触長の和が、外側鋼管1の内周長の20%以下となるようにする。非接触長は外側鋼管1の絞込み量により決定され、その絞込み量はダイスの孔型により決定されるので、非接触長の和を外側鋼管1の内周長の20%以下となるようにすることは、引抜き加工を行えば容易である。本発明において非接触長の和を外側鋼管1の内周長の20%以下としたのは、非接触長の和がこれよりも大きくなると外側鋼管1のみが変形する可能性が生じ、衝突エネルギー吸収特性の向上効果が不十分となる可能性があるためである。なお非接触長の和の下限は内側鋼管2の形状や本数により変化するが、ゼロとすることは不可能であり、実際には少なくとも1%程度となる。
【0015】
この引抜き加工に伴い、外側鋼管1は加工硬化によって機械的強度が上がり、曲げや圧壊時における衝突エネルギー吸収特性が向上する。一方、内側鋼管2は延性を残したままであるが、外周を外側鋼管1により強力に固定されているので強い衝突エネルギーを受けない限りは相互の位置がずれたりすることはない。
【0016】
上記した第1の実施形態では、外側鋼管1の内部に4本の内側鋼管2を挿入したが、図3、図4に示す第2の実施形態ではその数を2本とした。この場合にも外側鋼管1の内周長に対する非接触長の和を20%以下となるようにする。この値はダイスの孔型によって決定することができることは上記と同様である。このほか、外側鋼管1の内部に挿入する内側鋼管2の本数を3本としたり、5本、6本とすることも可能である。しかしあまり本数を増加させると引抜き加工時の位置決めが行いにくくなるので、2〜6本が適切な本数である。
【0017】
また内側鋼管2は異形管であってもよく、図5、図6に示す第3の実施形態では内側鋼管2は角管である。この場合には内側鋼管2が丸管である場合よりも、外側鋼管1の内周長に対する非接触長の和の比率を更に下げることが可能となる。しかし角管は平面により構成されているため、衝撃を受ける方向によっては変形が生じ易くなる。このため、方向による衝突エネルギー吸収特性の差を考慮した配置が必要である。
【0018】
図7、図8は内側鋼管2を3本の角管とした第4の実施形態を示す。この場合にも上記した他の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0019】
図9、図10は第5の実施形態を示す。第1〜第4の実施形態では、内部鋼管2の外周面のプロフィールに合わせた孔型を有するダイスにて引抜き加工を施したが、この第5の実施形態では、円形の孔型を有するダイスを用いて外側鋼管1の径を円形のまま縮径させた。この場合には内部鋼管2が図10に示すように変形する。このようにして製造されたものも、他の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
以上に説明したように、本発明の衝突エネルギー吸収用鋼管は優れた衝突エネルギー吸収特性を示し、従来品よりも小さい断面積で大きい衝突エネルギー吸収効果を得ることができる。また外形状を様々に設定することができるため、十分な取り付けスペースしか確保できない場合にも対応可能である。このため、自動車の小型化・軽量化の動向に適した衝突エネルギー吸収用鋼管として、利用価値が高いものである。
【実施例】
【0021】
表1に示すほぼ同重量の3種類の鋼管にて衝撃曲げ試験を行った。各鋼管の断面は、図11に示すように、比較例1はφ40の鋼管、比較例2はφ40の外側鋼管とφ15.5の内側鋼管4本で構成された複合鋼管(外側鋼管の内周長の内非接触長の和は95%)、発明例1は比較例2の複合鋼管をダイスにて引抜き加工を施した複合引抜き鋼管(外側鋼管の内周長の内非接触長の和は7%)である。また各鋼管は、長さ1200mmである。
衝撃曲げ試験方法は、図12に示すように、スパン800mmで固定された支持台の上にサンプルを乗せ、衝突部のRが150mmである半円柱状の負荷子を55km/hで衝突させ、ロードセルで荷重を測定した。ロードセルにフィルターをかけ、振動の影響を取り除いた荷重の値と変位との関係を調べた。また、変位−荷重曲線から150mm変位までの吸収エネルギーを算出(変位−荷重曲線で囲まれた面積を計算)した。
【0022】
結果を表1及び図13に示す。図13より、比較例1の鋼管は断面2次モーメントが大きい為に衝突初期の荷重の上がり方は大きいが、断面が扁平し易い為、一度座屈をおこすと急激に荷重が低下する事が分かる。比較例2の複合鋼管は、内側鋼管が4本挿入されているため座屈は起こり難いが、外側鋼管と内側鋼管の間に大きな隙間がある為、衝突後外側鋼管と内側鋼管が接触するまではほぼ外側鋼管のみで荷重を受け持つ為、衝突初期の荷重の上がり方は小さい。一方発明例1の複合引抜き鋼管は、外側鋼管と内側鋼管の隙間が小さい為、衝突初期から全体で荷重を受け持つ為荷重の上がり方が大きく、また内側鋼管が4本挿入されているため座屈も起こり難い。また、本発明の複合引抜き鋼管は、引抜いた際に外側鋼管が加工硬化されている為、さらに衝突抵抗が増す。この為、衝突初期から150mm変位に至るまで安定して高い荷重を維持できる事が特徴である。以上の事から150mm吸収エネルギーは、表1に示すように比較例1が5200J、比較例2が5400Jであるのに対し、本発明の発明例1は6000Jと高い衝突エネルギー吸収能を示す。
【0023】
前記したように、本発明の複合引抜き鋼管は、重量同等の鋼管及び複合引抜き鋼管に対して高い吸収エネルギー能を示した。実施例のように使用すれば吸収エネルギーの点でメリットが出るが、必要に応じて板厚を薄くすれば、吸収エネルギーのメリットの変わりに軽量化のメリットを得る事もできる。また、図11を見ても分かるように本発明の複合引抜き鋼管は断面積が小さいので、小さな取り付けスペースにも取り付け可能である。
【0024】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図3】第2の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図4】第2の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図5】第3の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図6】第3の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図7】第4の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図8】第4の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図9】第5の実施形態において、外側鋼管の内部に内側鋼管を挿入した状態を示す断面図である。
【図10】第5の実施形態において、引抜き加工後の状態を示す断面図である。
【図11】実施例の鋼管の断面を示す図である。
【図12】実施例の衝撃曲げ試験方法を示す図である。
【図13】実施例の衝撃曲げ試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 外側鋼管
2 内側鋼管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管が挿入された複合管構造を備え、外側鋼管が引抜き加工によって内側鋼管の外周面に圧着されており、かつ外側鋼管の内周長のうち内側鋼管との非接触長の和が、内周長の20%以下であることを特徴とする衝突エネルギー吸収用鋼管。
【請求項2】
内側鋼管が断面円形の鋼管または断面非円形の異形鋼管であることを特徴とする請求項1記載の衝突エネルギー吸収用鋼管。
【請求項3】
断面円形の外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管を挿入し、複数本の内側鋼管の断面形状に対応した孔型、もしくは外側鋼管を縮径する孔型を有するダイスにて引抜き加工を施し、外側鋼管を内側鋼管の外周面に圧着させることを特徴とする衝突エネルギー吸収用鋼管の製造方法。
【請求項4】
内側鋼管として、断面円形の鋼管または断面非円形の異形鋼管を用いることを特徴とする請求項3記載の衝突エネルギー吸収用鋼管の製造方法。
【請求項1】
外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管が挿入された複合管構造を備え、外側鋼管が引抜き加工によって内側鋼管の外周面に圧着されており、かつ外側鋼管の内周長のうち内側鋼管との非接触長の和が、内周長の20%以下であることを特徴とする衝突エネルギー吸収用鋼管。
【請求項2】
内側鋼管が断面円形の鋼管または断面非円形の異形鋼管であることを特徴とする請求項1記載の衝突エネルギー吸収用鋼管。
【請求項3】
断面円形の外側鋼管の内部に複数本の内側鋼管を挿入し、複数本の内側鋼管の断面形状に対応した孔型、もしくは外側鋼管を縮径する孔型を有するダイスにて引抜き加工を施し、外側鋼管を内側鋼管の外周面に圧着させることを特徴とする衝突エネルギー吸収用鋼管の製造方法。
【請求項4】
内側鋼管として、断面円形の鋼管または断面非円形の異形鋼管を用いることを特徴とする請求項3記載の衝突エネルギー吸収用鋼管の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−78062(P2010−78062A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247274(P2008−247274)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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