衝突危険度判定装置
【課題】衝突危険度を精度よく判定する。
【解決手段】衝突危険度判定装置100では、環境検出部5bにより移動物の位置分布及び移動状態分布を検出し、マップ生成部5cにより存在可能度マップを生成する。移動物生成部5d、位置更新部5e及び分布変更部5fにより、存在可能度マップ上にて移動物の将来位置分布を予測する。進路候補演算部5aにより、自車両10の進路候補を複数演算する。危険度候補演算部5hにより、存在可能度マップ上で複数の進路候補それぞれの衝突危険度候補を演算する。そして、危険度判定部5iにより、演算された複数の衝突危険度候補に基づき複数の進路候補のうち一の進路候補を選択し、選択した当該一の進路候補の衝突危険度候補を衝突危険度として判定する。ここで、危険度候補演算部5hは、移動コストと運動コストと衝突確率とに基づき衝突危険度候補を演算する。
【解決手段】衝突危険度判定装置100では、環境検出部5bにより移動物の位置分布及び移動状態分布を検出し、マップ生成部5cにより存在可能度マップを生成する。移動物生成部5d、位置更新部5e及び分布変更部5fにより、存在可能度マップ上にて移動物の将来位置分布を予測する。進路候補演算部5aにより、自車両10の進路候補を複数演算する。危険度候補演算部5hにより、存在可能度マップ上で複数の進路候補それぞれの衝突危険度候補を演算する。そして、危険度判定部5iにより、演算された複数の衝突危険度候補に基づき複数の進路候補のうち一の進路候補を選択し、選択した当該一の進路候補の衝突危険度候補を衝突危険度として判定する。ここで、危険度候補演算部5hは、移動コストと運動コストと衝突確率とに基づき衝突危険度候補を演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突危険度判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衝突危険度判定装置として、移動物に対する自車両の衝突危険度を判定するものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。このような危険度判定装置においては、時間の経過とともに移動物が取り得る位置の変化が時空間上での軌跡として生成され、移動物の進路(位置)の確率的な予測が行われる。そして、予測した移動物の将来位置と自車両の進路候補とから、移動物に対する自車両の衝突確率が衝突危険度として判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−233646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、近年の衝突危険度判定装置においては、車両の衝突安全性に対する要求は益々高まっている中、衝突危険度の判定精度を高めることが望まれている。この点、上述したような危険度判定装置では、例えば移動物の位置予測に改善の余地がある。また、例えば演算される自車両の進路候補がセンサ等の誤差によってばらつく場合、これに伴って、判定される衝突危険度にばらつきが生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、衝突危険度を精度よく判定することが可能な衝突危険度判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る衝突危険度判定装置は、移動物に対する自車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定装置であって、移動物の位置分布及び移動状態分布を検出する移動物検出部と、自車両の周囲領域を示すマップ上に移動物の存在し易さ又は存在し難さを表わす存在可能度を付与した存在可能度マップを生成するマップ生成部と、移動物の位置分布、移動状態分布、及び存在可能度に基づいて、存在可能度マップ上にて移動物の将来位置分布を予測する将来位置分布予測部と、自車両の運動状態に基づいて、自車両の将来の進路候補を複数演算する進路候補演算部と、移動物の将来位置分布が予測された存在可能度マップ上で、複数の進路候補それぞれについて衝突危険度候補を演算する危険度候補演算部と、演算された複数の衝突危険度候補に基づいて、複数の進路候補のうち一の進路候補を選択し、選択した当該一の進路候補の衝突危険度候補を衝突危険度として判定する危険度判定部と、を備え、危険度候補演算部は、進路候補が通過する路に応じて求められる移動コストと、進路候補に沿って自車両が移動する際の自車両の運動変化に応じて求められる運動コストと、将来位置分布及び進路候補に応じて求められる衝突確率と、に基づいて、衝突危険度候補を演算すること、を特徴とする。
【0007】
この本発明の衝突危険度判定装置では、存在可能度マップ上で移動物の将来位置分布を予測することにより、移動物の位置予測精度を高めることができる。また、複数の進路候補それぞれについて移動コストと運動コストと衝突確率とから衝突危険度候補を演算し、衝突危険度候補に基づき進路候補を選択し、この選択した進路候補の衝突危険度候補を衝突危険度として判定している。このように、一の進路候補の衝突確率のみから衝突危険度が判定されるのではなく、複数の進路候補の衝突危険度候補が演算され当該衝突危険度候補から衝突危険度が判定されるため、進路候補ひいては衝突確率がばらついたとしても、当該ばらつきの悪影響が衝突危険度の判定に及ぶのを抑制することができる。従って、衝突危険度を精度よく判定することが可能となる。
【0008】
また、危険度判定部で判定された衝突危険度に基づいて、自車両の走行を支援する走行支援部をさらに備えたこと、が好ましい。この場合、衝突危険度の精度よい判定に応じて、自車両の走行を精度よく支援することが可能となる。
【0009】
また、危険度判定部は、複数の進路候補のうち衝突危険度候補が最も低い進路候補を選択すること、が好ましい。この場合、衝突危険度が低い進路を選択するというドライバ傾向を好適に反映することができる。
【0010】
また、進路候補演算部で演算された複数の進路候補ごとに移動コスト及び運動コストに基づく評価関数を求め、当該評価関数に基づいて複数の進路候補の一部を選択する進路候補選択部をさらに備え、危険度候補演算部は、進路候補選択部で選択された複数の進路候補の一部について衝突危険度候補を演算すること、が好ましい。この場合、危険度候補演算部による演算の対象となる進路候補を予め絞り込むことができ、衝突危険度候補における演算時間を短縮することが可能となる。
【0011】
また、将来位置分布予測部は、存在可能度マップ上において、位置分布を記録すると共に、移動状態分布に基づいて当該位置分布を移動させ、且つ存在可能度に基づいて当該位置分布を変更することにより、将来位置分布を設定すること、が好ましい。
【0012】
また、存在可能度マップは、グリッドマップであり、その複数のグリッドそれぞれには、自車両が通過する際に要される単位移動コストがそれぞれ設定されており、移動コストは、存在可能度マップ上にて進路候補が通過する複数のグリッドの単位移動コストの総和であること、が好ましい。
【0013】
また、運動コストは、自車両におけるヨーレート変化の絶対値の時間積分値、ステアリング変化の絶対値の時間積分値、又は加速度の絶対値の時間積分値であること、が好ましい。
【0014】
また、移動物の将来位置分布は、複数の移動物粒子で表わされ、存在可能度マップは、グリッドマップであり、衝突確率は、存在可能度マップ上において、進路候補が通過するグリッドの総数をMtotalとし、移動物粒子が存在するグリッドの数をmcolとし、移動物粒子の総数をNtotalとし、進路候補が通過するグリッド内における移動物粒子の数をncolとしたとき、ncol/Ntotal・mcol/Mtotalで表されること、が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、衝突危険度を精度よく判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る衝突危険度判定装置を示すブロック図である。
【図2】(a)は進路候補演算部の演算結果の例を説明するための図、(b)は進路候補演算部の演算結果の他の例を説明するための図である。
【図3】図1の衝突危険度判定装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】走行環境の例を示す図である。
【図5】図4の走行環境に対応する存在可能度マップの例を示す図である。
【図6】存在可能度の設定に用いられるテーブルの例を示す図である。
【図7】(a)移動物粒子を配置した存在可能度マップの例を示す図、(b)移動物粒子の位置を変更した存在可能度マップの例を示す図、(c)移動物粒子の位置を変更した存在可能度マップの他の例を示す図である。
【図8】移動物の移動状態分布の設定に用いられるテーブルの例を示す図である。
【図9】衝突危険度候補の演算を説明するための図である。
【図10】存在可能度マップのグリッド及び移動物粒子を説明する図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る衝突危険度判定装置を示すブロック図である。
【図12】図11の衝突危険度判定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る衝突危険度判定装置を示すブロック図である。本実施形態の衝突危険度判定装置100は、自動車等の自車両10に搭載され、歩行者等の移動物50に対する自車両10の衝突危険度を判定するものである。この衝突危険度判定装置100は、運動センサ1、レーザレーダ2、カメラ3、GPS4及びECU(ElectronicControl Unit)5を備えている。
【0019】
運動センサ1は、例えば自車両10の速度を計測する車速センサ、ヨーレートを計測するジャイロセンサ、又は加速度を計測する加速度センサを含んで構成されている。この運動センサ1は、自車両10の運動状態(走行状態)を検出する。運動センサ1は、ECU5に接続されており、検出した自車両10の運動状態データをECU5へ出力する。
【0020】
レーザレーダ2は、自車両10の周囲(ここでは、前方)に対してレーザを1次元(水平方向)に走査しながら照射し、レーザの反射によりレーザが照射された物体の2次元位置を検出する。レーザレーダ2は、ECU5に接続されており、検出した物体の位置データをECU5へ出力する。
【0021】
カメラ3は、小型のCCDカメラ又はCMOSカメラで構成されており、自車両10の周囲(ここでは、前方)を撮影する。このカメラ3は、例えば自車両10のフロントウインドウ上部等に取り付けられている。カメラ3は、ECU5に接続されており、撮影した前方の道路状況等の画像データをECU5へ出力する。GPS4は、自車両10の位置を検出する。GPS4は、ECU5に接続されており、検出した自車両10の位置データをECU5へ出力する。
【0022】
ECU5は、例えばCPU、ROM、及びRAM等から構成されている。ECU5は、その機能的構成として、進路候補演算部5a、環境検出部5b、マップ生成部5c、移動物生成部5d、位置更新部5e、及び分布変更部5fを有している。進路候補演算部5aは、運動センサ1で検出された自車両10運動状態に基づいて、複数の進路候補、すなわち、自車両10が将来取る蓋然性が高い複数の進路を演算する。
【0023】
図2は、進路候補演算部の演算結果の例を説明するための図である。例えば、進路候補演算部5aは、自車両10の車速、ヨーレート及び加速度から自車両10がカーブを走行すると判断された場合には、図2(a)に示すような複数の進路候補Sを演算する。また、例えば、自車両10がレーンチェンジすると判断された場合には、図2(b)に示すような複数の進路候補Sを演算する。
【0024】
環境検出部5bは、地図データベース(地図DB)5gに記憶された電子地図を参照しつつレーザレーダ2、カメラ3及びGPS4からの出力に基づいて、自車両10周辺の走行環境(例えば、移動物50の位置、移動物50の状態、及びその他の走行環境の状況)を検出する。マップ生成部5cは、環境検出部5bで検出された走行環境に基づいて、自車両10の周囲領域のマップ上に移動物50の存在し易さを表わす存在可能度を付与した存在可能度マップ11(図5参照)を生成する。
【0025】
移動物生成部5dは、移動物50を表わすデータとしての移動物粒子を複数生成し、これら移動物粒子を移動物50の位置分布として存在可能度マップ11上に配置(記録)する。これと共に移動物生成部5dは、移動物50の移動状態分布に応じた移動状態を、各移動物粒子に付与する。位置更新部5eは、移動物50の移動状態に基づいて、各移動物粒子を移動させる。分布変更部5fは、存在可能度マップ11の存在可能度に基づいて、各移動物粒子を消滅及び複製して配置を変更する。
【0026】
また、ECU5は、その機能的構成として、危険度候補演算部5h、危険度判定部5i及び走行支援部5jを有している。危険度候補演算部5hは、存在可能度マップ11上で複数の進路候補Sそれぞれについて、衝突危険度の候補となる衝突危険度候補を演算する。危険度判定部5iは、危険度候補演算部5hで演算された複数の衝突危険度候補に基づいて、複数の進路候補Sのうち一の進路候補Sを選択し、選択した当該一の進路候補Sの衝突危険度候補を衝突危険度として判定する。
【0027】
走行支援部5jは、危険度判定部5iで選択された進路候補S及び判定された衝突危険度に基づいて、自車両10の走行を支援する。ここでの走行支援部5jは、ブレーキ装置12を制御することによるブレーキ制御、ステアリング装置13を制御することによるステアリング制御、及びモニタやスピーカ等のHMI(Human Machine Interface)14を制御することによる注意喚起を実施する。
【0028】
次に、上述した衝突危険度判定装置100の動作について、図3に示すフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0029】
本実施形態の衝突危険度判定装置100では、まず、運動センサ1、レーザレーダ2、カメラ3及びGPS4による出力値を取得する(S1)。続いて、運動センサ1で検出された自車両10の運動状態に基づいて、進路候補演算部5aにより自車両10における複数の進路候補Sを演算する(S2)。
【0030】
一方、レーザレーダ2で検出された物体の2次元位置、カメラ3で撮影された前方画像、及びGPS4で検出された自車両10位置に基づいて、環境検出部5bにより自車両10の周囲の走行環境を検出する(S3)。具体的には、まず、自車両10前方の一定領域内を自車両10から見た座標系として表す局所地図情報を生成する。この局所地図情報は、一定の大きさの格子によって分割したグリッドマップとされている。各グリッド(ブロック)には、その位置に静止物が存在する確率が記録され、初期状態では、存在確率として例えば0.5(中間値)が記録されている。
【0031】
続いて、レーザレーダ2で検出された物体の位置に基づいて、局所地図情報上における当該物体位置に対応するグリッドの存在確率を増加させる。これと共に、自車両10からその物体位置までの直線上に存在する各グリッドの存在確率を減少させる。なお、他の物体で隠されている等の原因によって物体位置の情報が得られていないグリッド(死角領域のグリッド)には、存在確率として、初期値である0.5が記録される。
【0032】
これにより、多くの移動物50が存在する走行環境においても、路側物等の静止物を安定して検出可能とされる。また、レーザレーダ2により観測できない不可視領域についても、存在確率が初期値(0.5)のままのグリッドとして検出可能である。また、レーザレーダ2の計測点がほとんど得られない遠方領域は、初期値から変化しないため、死角領域とみなすことができる。
【0033】
また、GPS4で検出された自車両10位置に基づいて、地図データベース5gの電子地図から、自車両10周辺の走行区分(車線、歩道、横断歩道等)及び走路区分の領域や、標識表示(信号、一時停止等)、建造物に関する情報を検出する。また、地図データベース5gの電子地図から、自車両10の周辺地域種別(スクールゾーン、商庖街、住宅街等)や、道路属性(車線数、車線幅、中央分離帯の有無)を検出する。
【0034】
また、カメラ3で撮影された前方画像から、学習型のパターン認識技術(例えば、VM)を用い、前方に存在する移動物50の位置や大きさ、移動物50の種類(例えば、歩行者、二輪車、自動車等)、動作状態(向き、歩様等)、及び移動状態(速度等)を検出する。これと共に、前方画像から、前方の道路における各種の走路区分の種別(車線、歩道、横断歩道、信号、一時停止線等)及び領域を検出する。
【0035】
続いて、局所地図情報から、静止物(ガードレール、植込み、建物、駐停車車両等)が存在する領域を検出する。また、カメラ3で撮影された前方画像から、各静止物の高さを検出する。なお、時系列で連続する複数の局所地図情報の時間差分をとることにより、移動している可動物と静止している可動物とを識別し、移動物50が存在する領域を特定し、特定された移動物50が存在する領域と検出された移動物50の種類とを対応付けてもよい。
【0036】
続いて、上記S3にて検出した走路区分の領域、静止物の領域及び道路属性等に基づいて、移動物50の種別ごとに存在可能度マップを生成する(S4)。例えば、図4に示すような走行環境(車道が片側1車線であり、歩道21と車道22が縁石23によって区切られ、車道22には横断歩道24が設けられている場合)において、歩道21を歩行中の歩行者としての移動物Mが存在する状況では、図5に示すように、移動物Mに対する存在可能度マップ11を生成する。
【0037】
この存在可能度マップ11では、各種走路区分の領域、及び静止物の領域に対して、存在可能度が与えられている。ここでの存在可能度は、対象領域に対する移動物Mの存在し易さを0.0から1.0で表すものである。走路区分の存在可能度は、例えば、走路区分及び道路属性の組み合わせに応じて定めることができ、例えば図6に例示されるようなテーブルとして予め記憶されている。
【0038】
また、静止物の領域の存在可能度は、静止物の高さhに応じて算出するものとし、例えば、以下の(1)式に従って算出される。
静止物の領域における存在可能度=1.0−min(h,1.0) …(1)
但し、min(a,b)は、a又はbのうち小さいものを返す関数である。
【0039】
また、この存在可能度マップ11においては、各グリッドごとに単位移動コストが設定されている。単位移動コストは、自車両10が通過する際に要される指標値であって、そのグリッドに対応する領域に応じて定めることができ、テーブルとして予め記憶されている。例えば、単位移動コストは、自車両10が移動しにくいグリッドである程高く、移動しやすいグリッドである程低く設定されている。
【0040】
次に、移動物50の位置分布、移動状態分布、及び存在可能度に基づいて、移動物生成部5d、位置更新部5e及び分布変更部5fにより、存在可能度マップ11上にて移動物50の将来位置分布を配置して予測する(S5)。具体的には、まず、移動物生成部5dにより、存在可能度マップ11において、特定された移動物50が存在する領域を、粒子生成候補領域とすると共に、死角領域を粒子生成候補領域とする。そして、例えば図7(a)に示すように、ECU5の処理能力に基づき予め設定された粒子総数となるように、乱数発生器を用いて各粒子生成候補領域に複数の移動物粒子31を生成し配置(記録)する。
【0041】
また、移動物生成部5dにより、検出した移動物50の動作状態及び移動状態に基づいて移動物50の移動状態分布を設定し、当該移動状態分布に基づいて各移動物粒子31に移動状態を決定する。移動状態として用いる物理量としては、移動の向き、速度、加速度の少なくとも1つを設定する。
【0042】
ここでは、移動物50の速度が大きい程、直進性が強く、移動の不確実性は低いと考えられるため、移動物Mの平均速度に応じた分散・共分散テーブル(図8参照)を利用して、移動物50の移動状態の分布を設定する。このとき、移動物50が歩行者であってその動作状態が、ふらふら・キョロキョロしている場合、速度分散が大きくなるように移動状態の分布を設定してもよい。
【0043】
なお、移動物粒子31には、自動車、二輪車、歩行者等の移動物50の種類の検出結果のラベルや、設定された移動状態の分布に基づいて決定された移動状態の情報を併せて割り当てることができる。また、移動物粒子31には、移動物50を識別するための識別情報も併せて割り当てることができる。例えば、1つの移動物50について生成された粒子生成候補領域に対しては、同じ識別情報を有する移動物粒子31を生成できる。
【0044】
続いて、位置更新部5eにより、各移動物粒子31の位置を、移動物粒子31に与えられた移動状態に基づいて移動させる。これにより、各移動物粒子31の配置を更新する。続いて、分布変更部5fにより、移動地点の領域に与えられた存在可能度に応じて、移動物粒子31を消滅又は複製して移動物粒子31の再選択を行い、移動物50の位置分布を変更する(存在し易さに応じて、移動物50の移動に制約を与える)。このとき、移動前後の領域に与えられた存在可能度の差または比を用いて、移動物50の位置分布を変更してもよい。以上により、存在可能度マップ11上において移動物50の将来位置分布が配置されることとなる。
【0045】
ここで、各移動物粒子31の位置の移動及び変更について、その詳細を例示する。
【0046】
まず、各移動物粒子31に割り当てられた移動状態に基づいて、各移動物粒子31が遷移する。そして、遷移先の存在可能度が低い程、高い確率で当該移動物粒子31を消滅させる。また、消滅させた分だけ、移動物粒子31を複製し、消滅していない他の移動物粒子31の位置に重複するように配置し、又は、消滅していない他の移動物粒子31の位置の周辺位置(乱数を乗じた位置)に配置する。これにより、存在可能度が高い領域を中心に、移動物粒子31が新たに生成される。また、全粒子数が一定になるように、上記の消滅及び複製が行われる。
【0047】
例えば、安定した歩き方をしている歩行者であって、速度分散が小さい場合には、遷移先の存在可能度が低い領域を中心に移動物粒子31は消滅し、遷移先の存在可能度が高い領域を中心に移動物粒子31が新たに生成される。これにより、図7(b)に示すように、移動物粒子31の配置が変更され、横断歩道24を渡らないことが表わされる。
【0048】
一方、ふらふら・キョロキョロしている歩行者であって、速度分散が大きい場合には、遷移先の存在可能度が低い領域を中心に移動物粒子31は消滅し、遷移先の存在可能度が高い領域を中心に移動物粒子31が新たに生成される。これにより、図7(c)に示すように、移動物粒子31の配置が変更され、横断歩道24を渡ることが表わされる。
【0049】
次に、危険度候補演算部5hにより、将来位置分布が予測された存在可能度マップ11上で、上記S2で得られた複数の進路候補Sそれぞれについて移動コスト及び運動コストを演算する(S6)。移動コストは、自車両10の進路候補Sが通過する路に応じて求められる指標値であり、進路が移動しにくい領域上にあるほど値が大きい(移動しやすい領域上にあるほど値が小さい)ものである。
【0050】
ここでは、進路候補Sごとに、図9に示すように、存在可能度マップ11上で進路候補Sが通過する複数のグリッドG、すなわち、進路候補Sが重なる複数のグリッドGを選択する。そして、これら複数のグリッドGそれぞれの単位移動コストを総和することにより、移動コストを演算する。
【0051】
他方、運動コストは、進路候補Sに沿って自車両10が移動する際の自車両10の運動変化に応じて求められる指標値であり、進路が大きく変わるほど値が大きい(進路がそのままであるほど値が小さい)ものである。ここでは、例えば自車両10におけるヨーレート変化の絶対値の時間積分値、ステアリング変化の絶対値の時間積分値、又は前後方向や左右方向の加速度の絶対値の時間積分値を運動コストとして演算する。
【0052】
次に、危険度候補演算部5hにより、将来位置分布が予測された存在可能度マップ11上で、上記S2で得られた複数の進路候補Sそれぞれについて、移動物粒子31との重なり(重複頻度)から衝突確率を演算する(S7)。衝突確率は、将来位置分布及び進路候補Sに応じて求められる。
【0053】
ここでは、存在可能度マップ11上において、進路候補Sが通過するグリッドGの総数をMtotalとし、移動物粒子31が存在するグリッドGの数をmcolとし、移動物粒子31の総数をNtotalとし、進路候補Sが通過するグリッドG内における移動物粒子31の数をncolとしたとき、衝突確率を下式(2)に従い演算する。
衝突確率=ncol/Ntotal・mcol/Mtotal …(2)
【0054】
なお、進路候補Sが通過するグリッドG内における移動物粒子31の数ncolは、移動物50側を基準にして、自車両10との衝突を想定するものである。よって、上式(2)右辺の「ncol/Ntotal」は、移動物50側からとらえた衝突可能性を意味する。一方、移動物粒子31が存在するグリッドGの数mcolは、自車両10側を基準にして、移動物50との衝突を想定するものである。よって、上式(2)右辺の「mcol/Mtotal」は、自車両10側からとらえた衝突可能性を意味する。
【0055】
ちなみに、1グリッドG内に複数の移動物粒子31が存在する場合もある。例えば図10に示す例では、グリッドG内における移動物粒子31の数ncolは“3”となり、移動物粒子31が存在するグリッドGの数mcolは“1”となる。
【0056】
次に、危険度候補演算部5hにより、複数の進路候補Sのそれぞれについて、移動コスト、運動コスト及び衝突確率に基づいて、衝突危険度候補を下式(3)に従い演算する(S8)。衝突危険度は、自車両10と移動物50とが衝突する危険性を表す指標値である。また、下式(3)におけるK1〜K3は、自車両10の運転者の違和感を与えないよう補正する重み係数であって、例えば経験上又は人間工学上の点から求められる。
衝突危険度候補=K1×移動コスト+K2×運動コスト+
K3×衝突確率 …(3)
【0057】
次に、複数の進路候補Sのうち衝突危険度候補が最も低い進路候補Sを選択する(S9)。続いて、選択した当該進路候補Sの衝突危険度候補を、衝突危険度として判定する(S10)。そして、走行支援部5jにより、選択された進路候補Sと判定された衝突危険度に基づいて、ブレーキ装置12、ステアリング装置13及びHMI14を制御して自車両10の走行支援を実施する(S11)。例えば、選択された進路候補Sで走行支援すると共に、判定された衝突危険度が闘値を超えている場合に、ブレーキ制御、ステアリング制御又は注意喚起を実施し、自車両10の衝突を回避させる。
【0058】
以上、本実施形態では、環境要因から決まる「移動物50の存在可能度」と、移動物50の状態から決まる「移動物50の移動の不確実性(移動状態分布)」とを設定した存在可能度マップ11上で移動物50を移動させることにより、様々な交通環境・移動物50の状態の組合せを考慮した将来位置予測を行うことができる。よって、移動物50の位置予測精度を高めることが可能となる。
【0059】
加えて、複数の進路候補Sそれぞれについて、移動コストや運動コストといった経路計画指標だけでなく衝突確率をも考慮した衝突危険度候補を演算し、衝突危険度候補に基づき進路候補Sを選択し、そして、この選択した進路候補Sにおける衝突危険度候補を衝突危険度として判定している。このように、一の進路候補Sの衝突確率のみから衝突危険度を判定するのではなく、複数の進路候補Sの衝突危険度候補を演算し当該衝突危険度候補から衝突危険度を判定するため、センサのノイズ等の悪影響によって進路候補Sひいては衝突確率がばらついたとしても、ばらつきの悪影響が衝突危険度の判定に及ぶのを抑制することができる。
【0060】
従って、本実施形態によれば、衝突危険度を精度よく判定することが可能となる。さらに、上述したように、複数の進路候補Sのうち衝突危険度候補が最も低い進路候補Sを選択している(上記S9参照)ことから、衝突危険度の低い進路を選択するというドライバ傾向を好適に反映することができ、ドライバニーズに合致する走行支援が可能となる。
【0061】
また、本実施形態では、上述したように、判定された衝突危険度に基づいて自車両10の走行が支援される。よって、衝突危険度の精度よい判定に応じて、自車両10の走行を精度よく支援することができ、その結果、走行支援のばらつきをも抑制することが可能となる。
【0062】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明では、上記第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0063】
図11は、第2実施形態に係る衝突危険度判定装置を示すブロック図である。図11に示すように、本実施形態の衝突危険度判定装置200が上記衝突危険度判定装置100と異なる点は、ECU5が進路候補選択部5kをさらに備えた点である。
【0064】
進路候補選択部5kは、進路候補演算部5aで演算された複数の進路候補Sごとに移動コスト及び運動コストに基づく評価関数を求め、当該評価関数に基づいて複数の進路候補Sの一部を選択する。また、本実施形態の危険度候補演算部5hは、進路候補選択部5kで選択された進路候補Sの一部について衝突危険度候補を演算する。
【0065】
このような本実施形態では、図12のフローチャートに示すように、複数の進路候補Sの移動コスト及び運動コストを演算した後(上記S6の後)、進路候補選択部5kにより、複数の進路候補SからN個の進路候補Sを選択する(S21)。具体的には、複数の進路候補Sそれぞれについて、演算された移動コスト及び運動コストに基づいて、評価関数を下式(4)に従い演算する。そして、複数の進路候補Sのうち、評価関数が小さい順にN個の進路候補Sを選択する。なお、Nは2以上の整数であり、選択前の進路候補Sの数をP個とすると、P>Nである。
評価関数=K1×移動コスト+K2×運動コスト …(4)
【0066】
続いて、危険度候補演算部5hにより、将来位置分布が予測された存在可能度マップ11上で、上記S21で選択されたN個の進路候補Sそれぞれについて衝突確率を演算する(S22)。続いて、危険度候補演算部5hにより、N個の進路候補Sのそれぞれについて、移動コスト、運動コスト及び衝突確率に基づいて衝突危険度候補を演算する(S23)。そしてその後、上記9の処理へ移行される。
【0067】
以上、本実施形態においても、衝突危険度を精度よく判定するという上記効果が奏される。さらに、本実施形態では、上述したように、評価関数に基づいて複数の進路候補SからN個の進路候補を予め選択し、この選択されたN個の進路候補Sについて衝突危険度候補を演算している。これにより、危険度候補の演算の対象となる進路候補Sを移動コスト及び運動コストで予め絞り込むことができ、衝突危険度候補の演算時間を短縮することが可能となる。その結果、衝突危険度候補(特に衝突確率)の演算には比較的時間がかかることから、装置全体での演算時間をも短縮することができる。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0069】
例えば、上記実施形態では、衝突危険度判定装置を自車両10に搭載したが、路側(例えば、主要交差点等)に設置してもよい。また、存在可能度は、移動物の存在しやすさを表すものとされているが、移動物の存在しにくさを表わすものであってもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、レーザレーダ2やカメラ3を用いているが、これに代えて若しくは加えて、ステレオカメラや、ミリ波等の電磁波を前方に走査して物体の位置を検出するもの等を用いてもよい。また、上記実施形態では、ブレーキ装置12とステアリング装置13とHMI14とが設けられているが、これらの少なくとも1つが設けられていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、運動センサ1の検出結果を用いて自車両10の運動を推定したが、これに限定されるものではなく、例えばレーザレーダ2の検出結果の時間差分によって、自車両10の運動を推定しでもよい。また、例えば、GPS4による自車両10位置の検出結果を用いて自車両10の運動を推定してもよい。また、運動センサ1、レーザレーダ2及びGPS4の検出結果を組み合わせて、自車両10の運動を推定してもよい。
【0072】
また、検出した移動物50の動作状態又は移動状態に基づいて移動状態分布を求める他に、移動物50の移動状態分布を直接検出してもよいし、移動物50の種類ごとに予め定められた移動状態分布を用いてもよい。さらにまた、移動物50の観測結果(向きや歩様等の動作状態)を用いて移動状態の分散や向きを設定すると共に、移動物50の種類ごとに予め定められた平均速度を用いることにより、移動状態分布を求めてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、移動物粒子31の総数を一定値としているが、可変にしてもよい。移動物粒子31の総数が一定の場合、走行環境の状況の複雑さに依存しない計算効率を確保できる一方、可変にした場合、処理するECU5の能力に応じて衝突危険度判定の精度を調整できる。
【0074】
上記において、レーザレーダ2とカメラ3とGPS4と環境検出部5bと地図データベース5gとが、移動物検出部を構成する。移動物生成部5dと位置更新部5eと分布変更部5fとが、将来位置分布予測部を構成する。運動センサ1及び進路候補演算部5aが、進路候補演算部を構成する。
【符号の説明】
【0075】
1…運動センサ(進路候補演算部)、2…レーザレーダ(移動物検出部)、3…カメラ(移動物検出部)、4…GPS(移動物検出部)、5a…進路候補演算部、5b…環境検出部(移動物検出部)、5c…マップ生成部、5d…移動物生成部(将来位置分布予測部)、5e…位置更新部(将来位置分布予測部)、5f…分布変更部(将来位置分布予測部)、5g…地図データベース(移動物検出部)、5h…危険度候補演算部、5i…危険度判定部、5j…走行支援部、5k…進路候補選択部、10…自車両、11…存在可能度マップ、31…移動物粒子、50…移動物、100,200…衝突危険度判定装置、G…グリッド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突危険度判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衝突危険度判定装置として、移動物に対する自車両の衝突危険度を判定するものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。このような危険度判定装置においては、時間の経過とともに移動物が取り得る位置の変化が時空間上での軌跡として生成され、移動物の進路(位置)の確率的な予測が行われる。そして、予測した移動物の将来位置と自車両の進路候補とから、移動物に対する自車両の衝突確率が衝突危険度として判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−233646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、近年の衝突危険度判定装置においては、車両の衝突安全性に対する要求は益々高まっている中、衝突危険度の判定精度を高めることが望まれている。この点、上述したような危険度判定装置では、例えば移動物の位置予測に改善の余地がある。また、例えば演算される自車両の進路候補がセンサ等の誤差によってばらつく場合、これに伴って、判定される衝突危険度にばらつきが生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、衝突危険度を精度よく判定することが可能な衝突危険度判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る衝突危険度判定装置は、移動物に対する自車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定装置であって、移動物の位置分布及び移動状態分布を検出する移動物検出部と、自車両の周囲領域を示すマップ上に移動物の存在し易さ又は存在し難さを表わす存在可能度を付与した存在可能度マップを生成するマップ生成部と、移動物の位置分布、移動状態分布、及び存在可能度に基づいて、存在可能度マップ上にて移動物の将来位置分布を予測する将来位置分布予測部と、自車両の運動状態に基づいて、自車両の将来の進路候補を複数演算する進路候補演算部と、移動物の将来位置分布が予測された存在可能度マップ上で、複数の進路候補それぞれについて衝突危険度候補を演算する危険度候補演算部と、演算された複数の衝突危険度候補に基づいて、複数の進路候補のうち一の進路候補を選択し、選択した当該一の進路候補の衝突危険度候補を衝突危険度として判定する危険度判定部と、を備え、危険度候補演算部は、進路候補が通過する路に応じて求められる移動コストと、進路候補に沿って自車両が移動する際の自車両の運動変化に応じて求められる運動コストと、将来位置分布及び進路候補に応じて求められる衝突確率と、に基づいて、衝突危険度候補を演算すること、を特徴とする。
【0007】
この本発明の衝突危険度判定装置では、存在可能度マップ上で移動物の将来位置分布を予測することにより、移動物の位置予測精度を高めることができる。また、複数の進路候補それぞれについて移動コストと運動コストと衝突確率とから衝突危険度候補を演算し、衝突危険度候補に基づき進路候補を選択し、この選択した進路候補の衝突危険度候補を衝突危険度として判定している。このように、一の進路候補の衝突確率のみから衝突危険度が判定されるのではなく、複数の進路候補の衝突危険度候補が演算され当該衝突危険度候補から衝突危険度が判定されるため、進路候補ひいては衝突確率がばらついたとしても、当該ばらつきの悪影響が衝突危険度の判定に及ぶのを抑制することができる。従って、衝突危険度を精度よく判定することが可能となる。
【0008】
また、危険度判定部で判定された衝突危険度に基づいて、自車両の走行を支援する走行支援部をさらに備えたこと、が好ましい。この場合、衝突危険度の精度よい判定に応じて、自車両の走行を精度よく支援することが可能となる。
【0009】
また、危険度判定部は、複数の進路候補のうち衝突危険度候補が最も低い進路候補を選択すること、が好ましい。この場合、衝突危険度が低い進路を選択するというドライバ傾向を好適に反映することができる。
【0010】
また、進路候補演算部で演算された複数の進路候補ごとに移動コスト及び運動コストに基づく評価関数を求め、当該評価関数に基づいて複数の進路候補の一部を選択する進路候補選択部をさらに備え、危険度候補演算部は、進路候補選択部で選択された複数の進路候補の一部について衝突危険度候補を演算すること、が好ましい。この場合、危険度候補演算部による演算の対象となる進路候補を予め絞り込むことができ、衝突危険度候補における演算時間を短縮することが可能となる。
【0011】
また、将来位置分布予測部は、存在可能度マップ上において、位置分布を記録すると共に、移動状態分布に基づいて当該位置分布を移動させ、且つ存在可能度に基づいて当該位置分布を変更することにより、将来位置分布を設定すること、が好ましい。
【0012】
また、存在可能度マップは、グリッドマップであり、その複数のグリッドそれぞれには、自車両が通過する際に要される単位移動コストがそれぞれ設定されており、移動コストは、存在可能度マップ上にて進路候補が通過する複数のグリッドの単位移動コストの総和であること、が好ましい。
【0013】
また、運動コストは、自車両におけるヨーレート変化の絶対値の時間積分値、ステアリング変化の絶対値の時間積分値、又は加速度の絶対値の時間積分値であること、が好ましい。
【0014】
また、移動物の将来位置分布は、複数の移動物粒子で表わされ、存在可能度マップは、グリッドマップであり、衝突確率は、存在可能度マップ上において、進路候補が通過するグリッドの総数をMtotalとし、移動物粒子が存在するグリッドの数をmcolとし、移動物粒子の総数をNtotalとし、進路候補が通過するグリッド内における移動物粒子の数をncolとしたとき、ncol/Ntotal・mcol/Mtotalで表されること、が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、衝突危険度を精度よく判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る衝突危険度判定装置を示すブロック図である。
【図2】(a)は進路候補演算部の演算結果の例を説明するための図、(b)は進路候補演算部の演算結果の他の例を説明するための図である。
【図3】図1の衝突危険度判定装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】走行環境の例を示す図である。
【図5】図4の走行環境に対応する存在可能度マップの例を示す図である。
【図6】存在可能度の設定に用いられるテーブルの例を示す図である。
【図7】(a)移動物粒子を配置した存在可能度マップの例を示す図、(b)移動物粒子の位置を変更した存在可能度マップの例を示す図、(c)移動物粒子の位置を変更した存在可能度マップの他の例を示す図である。
【図8】移動物の移動状態分布の設定に用いられるテーブルの例を示す図である。
【図9】衝突危険度候補の演算を説明するための図である。
【図10】存在可能度マップのグリッド及び移動物粒子を説明する図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る衝突危険度判定装置を示すブロック図である。
【図12】図11の衝突危険度判定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る衝突危険度判定装置を示すブロック図である。本実施形態の衝突危険度判定装置100は、自動車等の自車両10に搭載され、歩行者等の移動物50に対する自車両10の衝突危険度を判定するものである。この衝突危険度判定装置100は、運動センサ1、レーザレーダ2、カメラ3、GPS4及びECU(ElectronicControl Unit)5を備えている。
【0019】
運動センサ1は、例えば自車両10の速度を計測する車速センサ、ヨーレートを計測するジャイロセンサ、又は加速度を計測する加速度センサを含んで構成されている。この運動センサ1は、自車両10の運動状態(走行状態)を検出する。運動センサ1は、ECU5に接続されており、検出した自車両10の運動状態データをECU5へ出力する。
【0020】
レーザレーダ2は、自車両10の周囲(ここでは、前方)に対してレーザを1次元(水平方向)に走査しながら照射し、レーザの反射によりレーザが照射された物体の2次元位置を検出する。レーザレーダ2は、ECU5に接続されており、検出した物体の位置データをECU5へ出力する。
【0021】
カメラ3は、小型のCCDカメラ又はCMOSカメラで構成されており、自車両10の周囲(ここでは、前方)を撮影する。このカメラ3は、例えば自車両10のフロントウインドウ上部等に取り付けられている。カメラ3は、ECU5に接続されており、撮影した前方の道路状況等の画像データをECU5へ出力する。GPS4は、自車両10の位置を検出する。GPS4は、ECU5に接続されており、検出した自車両10の位置データをECU5へ出力する。
【0022】
ECU5は、例えばCPU、ROM、及びRAM等から構成されている。ECU5は、その機能的構成として、進路候補演算部5a、環境検出部5b、マップ生成部5c、移動物生成部5d、位置更新部5e、及び分布変更部5fを有している。進路候補演算部5aは、運動センサ1で検出された自車両10運動状態に基づいて、複数の進路候補、すなわち、自車両10が将来取る蓋然性が高い複数の進路を演算する。
【0023】
図2は、進路候補演算部の演算結果の例を説明するための図である。例えば、進路候補演算部5aは、自車両10の車速、ヨーレート及び加速度から自車両10がカーブを走行すると判断された場合には、図2(a)に示すような複数の進路候補Sを演算する。また、例えば、自車両10がレーンチェンジすると判断された場合には、図2(b)に示すような複数の進路候補Sを演算する。
【0024】
環境検出部5bは、地図データベース(地図DB)5gに記憶された電子地図を参照しつつレーザレーダ2、カメラ3及びGPS4からの出力に基づいて、自車両10周辺の走行環境(例えば、移動物50の位置、移動物50の状態、及びその他の走行環境の状況)を検出する。マップ生成部5cは、環境検出部5bで検出された走行環境に基づいて、自車両10の周囲領域のマップ上に移動物50の存在し易さを表わす存在可能度を付与した存在可能度マップ11(図5参照)を生成する。
【0025】
移動物生成部5dは、移動物50を表わすデータとしての移動物粒子を複数生成し、これら移動物粒子を移動物50の位置分布として存在可能度マップ11上に配置(記録)する。これと共に移動物生成部5dは、移動物50の移動状態分布に応じた移動状態を、各移動物粒子に付与する。位置更新部5eは、移動物50の移動状態に基づいて、各移動物粒子を移動させる。分布変更部5fは、存在可能度マップ11の存在可能度に基づいて、各移動物粒子を消滅及び複製して配置を変更する。
【0026】
また、ECU5は、その機能的構成として、危険度候補演算部5h、危険度判定部5i及び走行支援部5jを有している。危険度候補演算部5hは、存在可能度マップ11上で複数の進路候補Sそれぞれについて、衝突危険度の候補となる衝突危険度候補を演算する。危険度判定部5iは、危険度候補演算部5hで演算された複数の衝突危険度候補に基づいて、複数の進路候補Sのうち一の進路候補Sを選択し、選択した当該一の進路候補Sの衝突危険度候補を衝突危険度として判定する。
【0027】
走行支援部5jは、危険度判定部5iで選択された進路候補S及び判定された衝突危険度に基づいて、自車両10の走行を支援する。ここでの走行支援部5jは、ブレーキ装置12を制御することによるブレーキ制御、ステアリング装置13を制御することによるステアリング制御、及びモニタやスピーカ等のHMI(Human Machine Interface)14を制御することによる注意喚起を実施する。
【0028】
次に、上述した衝突危険度判定装置100の動作について、図3に示すフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0029】
本実施形態の衝突危険度判定装置100では、まず、運動センサ1、レーザレーダ2、カメラ3及びGPS4による出力値を取得する(S1)。続いて、運動センサ1で検出された自車両10の運動状態に基づいて、進路候補演算部5aにより自車両10における複数の進路候補Sを演算する(S2)。
【0030】
一方、レーザレーダ2で検出された物体の2次元位置、カメラ3で撮影された前方画像、及びGPS4で検出された自車両10位置に基づいて、環境検出部5bにより自車両10の周囲の走行環境を検出する(S3)。具体的には、まず、自車両10前方の一定領域内を自車両10から見た座標系として表す局所地図情報を生成する。この局所地図情報は、一定の大きさの格子によって分割したグリッドマップとされている。各グリッド(ブロック)には、その位置に静止物が存在する確率が記録され、初期状態では、存在確率として例えば0.5(中間値)が記録されている。
【0031】
続いて、レーザレーダ2で検出された物体の位置に基づいて、局所地図情報上における当該物体位置に対応するグリッドの存在確率を増加させる。これと共に、自車両10からその物体位置までの直線上に存在する各グリッドの存在確率を減少させる。なお、他の物体で隠されている等の原因によって物体位置の情報が得られていないグリッド(死角領域のグリッド)には、存在確率として、初期値である0.5が記録される。
【0032】
これにより、多くの移動物50が存在する走行環境においても、路側物等の静止物を安定して検出可能とされる。また、レーザレーダ2により観測できない不可視領域についても、存在確率が初期値(0.5)のままのグリッドとして検出可能である。また、レーザレーダ2の計測点がほとんど得られない遠方領域は、初期値から変化しないため、死角領域とみなすことができる。
【0033】
また、GPS4で検出された自車両10位置に基づいて、地図データベース5gの電子地図から、自車両10周辺の走行区分(車線、歩道、横断歩道等)及び走路区分の領域や、標識表示(信号、一時停止等)、建造物に関する情報を検出する。また、地図データベース5gの電子地図から、自車両10の周辺地域種別(スクールゾーン、商庖街、住宅街等)や、道路属性(車線数、車線幅、中央分離帯の有無)を検出する。
【0034】
また、カメラ3で撮影された前方画像から、学習型のパターン認識技術(例えば、VM)を用い、前方に存在する移動物50の位置や大きさ、移動物50の種類(例えば、歩行者、二輪車、自動車等)、動作状態(向き、歩様等)、及び移動状態(速度等)を検出する。これと共に、前方画像から、前方の道路における各種の走路区分の種別(車線、歩道、横断歩道、信号、一時停止線等)及び領域を検出する。
【0035】
続いて、局所地図情報から、静止物(ガードレール、植込み、建物、駐停車車両等)が存在する領域を検出する。また、カメラ3で撮影された前方画像から、各静止物の高さを検出する。なお、時系列で連続する複数の局所地図情報の時間差分をとることにより、移動している可動物と静止している可動物とを識別し、移動物50が存在する領域を特定し、特定された移動物50が存在する領域と検出された移動物50の種類とを対応付けてもよい。
【0036】
続いて、上記S3にて検出した走路区分の領域、静止物の領域及び道路属性等に基づいて、移動物50の種別ごとに存在可能度マップを生成する(S4)。例えば、図4に示すような走行環境(車道が片側1車線であり、歩道21と車道22が縁石23によって区切られ、車道22には横断歩道24が設けられている場合)において、歩道21を歩行中の歩行者としての移動物Mが存在する状況では、図5に示すように、移動物Mに対する存在可能度マップ11を生成する。
【0037】
この存在可能度マップ11では、各種走路区分の領域、及び静止物の領域に対して、存在可能度が与えられている。ここでの存在可能度は、対象領域に対する移動物Mの存在し易さを0.0から1.0で表すものである。走路区分の存在可能度は、例えば、走路区分及び道路属性の組み合わせに応じて定めることができ、例えば図6に例示されるようなテーブルとして予め記憶されている。
【0038】
また、静止物の領域の存在可能度は、静止物の高さhに応じて算出するものとし、例えば、以下の(1)式に従って算出される。
静止物の領域における存在可能度=1.0−min(h,1.0) …(1)
但し、min(a,b)は、a又はbのうち小さいものを返す関数である。
【0039】
また、この存在可能度マップ11においては、各グリッドごとに単位移動コストが設定されている。単位移動コストは、自車両10が通過する際に要される指標値であって、そのグリッドに対応する領域に応じて定めることができ、テーブルとして予め記憶されている。例えば、単位移動コストは、自車両10が移動しにくいグリッドである程高く、移動しやすいグリッドである程低く設定されている。
【0040】
次に、移動物50の位置分布、移動状態分布、及び存在可能度に基づいて、移動物生成部5d、位置更新部5e及び分布変更部5fにより、存在可能度マップ11上にて移動物50の将来位置分布を配置して予測する(S5)。具体的には、まず、移動物生成部5dにより、存在可能度マップ11において、特定された移動物50が存在する領域を、粒子生成候補領域とすると共に、死角領域を粒子生成候補領域とする。そして、例えば図7(a)に示すように、ECU5の処理能力に基づき予め設定された粒子総数となるように、乱数発生器を用いて各粒子生成候補領域に複数の移動物粒子31を生成し配置(記録)する。
【0041】
また、移動物生成部5dにより、検出した移動物50の動作状態及び移動状態に基づいて移動物50の移動状態分布を設定し、当該移動状態分布に基づいて各移動物粒子31に移動状態を決定する。移動状態として用いる物理量としては、移動の向き、速度、加速度の少なくとも1つを設定する。
【0042】
ここでは、移動物50の速度が大きい程、直進性が強く、移動の不確実性は低いと考えられるため、移動物Mの平均速度に応じた分散・共分散テーブル(図8参照)を利用して、移動物50の移動状態の分布を設定する。このとき、移動物50が歩行者であってその動作状態が、ふらふら・キョロキョロしている場合、速度分散が大きくなるように移動状態の分布を設定してもよい。
【0043】
なお、移動物粒子31には、自動車、二輪車、歩行者等の移動物50の種類の検出結果のラベルや、設定された移動状態の分布に基づいて決定された移動状態の情報を併せて割り当てることができる。また、移動物粒子31には、移動物50を識別するための識別情報も併せて割り当てることができる。例えば、1つの移動物50について生成された粒子生成候補領域に対しては、同じ識別情報を有する移動物粒子31を生成できる。
【0044】
続いて、位置更新部5eにより、各移動物粒子31の位置を、移動物粒子31に与えられた移動状態に基づいて移動させる。これにより、各移動物粒子31の配置を更新する。続いて、分布変更部5fにより、移動地点の領域に与えられた存在可能度に応じて、移動物粒子31を消滅又は複製して移動物粒子31の再選択を行い、移動物50の位置分布を変更する(存在し易さに応じて、移動物50の移動に制約を与える)。このとき、移動前後の領域に与えられた存在可能度の差または比を用いて、移動物50の位置分布を変更してもよい。以上により、存在可能度マップ11上において移動物50の将来位置分布が配置されることとなる。
【0045】
ここで、各移動物粒子31の位置の移動及び変更について、その詳細を例示する。
【0046】
まず、各移動物粒子31に割り当てられた移動状態に基づいて、各移動物粒子31が遷移する。そして、遷移先の存在可能度が低い程、高い確率で当該移動物粒子31を消滅させる。また、消滅させた分だけ、移動物粒子31を複製し、消滅していない他の移動物粒子31の位置に重複するように配置し、又は、消滅していない他の移動物粒子31の位置の周辺位置(乱数を乗じた位置)に配置する。これにより、存在可能度が高い領域を中心に、移動物粒子31が新たに生成される。また、全粒子数が一定になるように、上記の消滅及び複製が行われる。
【0047】
例えば、安定した歩き方をしている歩行者であって、速度分散が小さい場合には、遷移先の存在可能度が低い領域を中心に移動物粒子31は消滅し、遷移先の存在可能度が高い領域を中心に移動物粒子31が新たに生成される。これにより、図7(b)に示すように、移動物粒子31の配置が変更され、横断歩道24を渡らないことが表わされる。
【0048】
一方、ふらふら・キョロキョロしている歩行者であって、速度分散が大きい場合には、遷移先の存在可能度が低い領域を中心に移動物粒子31は消滅し、遷移先の存在可能度が高い領域を中心に移動物粒子31が新たに生成される。これにより、図7(c)に示すように、移動物粒子31の配置が変更され、横断歩道24を渡ることが表わされる。
【0049】
次に、危険度候補演算部5hにより、将来位置分布が予測された存在可能度マップ11上で、上記S2で得られた複数の進路候補Sそれぞれについて移動コスト及び運動コストを演算する(S6)。移動コストは、自車両10の進路候補Sが通過する路に応じて求められる指標値であり、進路が移動しにくい領域上にあるほど値が大きい(移動しやすい領域上にあるほど値が小さい)ものである。
【0050】
ここでは、進路候補Sごとに、図9に示すように、存在可能度マップ11上で進路候補Sが通過する複数のグリッドG、すなわち、進路候補Sが重なる複数のグリッドGを選択する。そして、これら複数のグリッドGそれぞれの単位移動コストを総和することにより、移動コストを演算する。
【0051】
他方、運動コストは、進路候補Sに沿って自車両10が移動する際の自車両10の運動変化に応じて求められる指標値であり、進路が大きく変わるほど値が大きい(進路がそのままであるほど値が小さい)ものである。ここでは、例えば自車両10におけるヨーレート変化の絶対値の時間積分値、ステアリング変化の絶対値の時間積分値、又は前後方向や左右方向の加速度の絶対値の時間積分値を運動コストとして演算する。
【0052】
次に、危険度候補演算部5hにより、将来位置分布が予測された存在可能度マップ11上で、上記S2で得られた複数の進路候補Sそれぞれについて、移動物粒子31との重なり(重複頻度)から衝突確率を演算する(S7)。衝突確率は、将来位置分布及び進路候補Sに応じて求められる。
【0053】
ここでは、存在可能度マップ11上において、進路候補Sが通過するグリッドGの総数をMtotalとし、移動物粒子31が存在するグリッドGの数をmcolとし、移動物粒子31の総数をNtotalとし、進路候補Sが通過するグリッドG内における移動物粒子31の数をncolとしたとき、衝突確率を下式(2)に従い演算する。
衝突確率=ncol/Ntotal・mcol/Mtotal …(2)
【0054】
なお、進路候補Sが通過するグリッドG内における移動物粒子31の数ncolは、移動物50側を基準にして、自車両10との衝突を想定するものである。よって、上式(2)右辺の「ncol/Ntotal」は、移動物50側からとらえた衝突可能性を意味する。一方、移動物粒子31が存在するグリッドGの数mcolは、自車両10側を基準にして、移動物50との衝突を想定するものである。よって、上式(2)右辺の「mcol/Mtotal」は、自車両10側からとらえた衝突可能性を意味する。
【0055】
ちなみに、1グリッドG内に複数の移動物粒子31が存在する場合もある。例えば図10に示す例では、グリッドG内における移動物粒子31の数ncolは“3”となり、移動物粒子31が存在するグリッドGの数mcolは“1”となる。
【0056】
次に、危険度候補演算部5hにより、複数の進路候補Sのそれぞれについて、移動コスト、運動コスト及び衝突確率に基づいて、衝突危険度候補を下式(3)に従い演算する(S8)。衝突危険度は、自車両10と移動物50とが衝突する危険性を表す指標値である。また、下式(3)におけるK1〜K3は、自車両10の運転者の違和感を与えないよう補正する重み係数であって、例えば経験上又は人間工学上の点から求められる。
衝突危険度候補=K1×移動コスト+K2×運動コスト+
K3×衝突確率 …(3)
【0057】
次に、複数の進路候補Sのうち衝突危険度候補が最も低い進路候補Sを選択する(S9)。続いて、選択した当該進路候補Sの衝突危険度候補を、衝突危険度として判定する(S10)。そして、走行支援部5jにより、選択された進路候補Sと判定された衝突危険度に基づいて、ブレーキ装置12、ステアリング装置13及びHMI14を制御して自車両10の走行支援を実施する(S11)。例えば、選択された進路候補Sで走行支援すると共に、判定された衝突危険度が闘値を超えている場合に、ブレーキ制御、ステアリング制御又は注意喚起を実施し、自車両10の衝突を回避させる。
【0058】
以上、本実施形態では、環境要因から決まる「移動物50の存在可能度」と、移動物50の状態から決まる「移動物50の移動の不確実性(移動状態分布)」とを設定した存在可能度マップ11上で移動物50を移動させることにより、様々な交通環境・移動物50の状態の組合せを考慮した将来位置予測を行うことができる。よって、移動物50の位置予測精度を高めることが可能となる。
【0059】
加えて、複数の進路候補Sそれぞれについて、移動コストや運動コストといった経路計画指標だけでなく衝突確率をも考慮した衝突危険度候補を演算し、衝突危険度候補に基づき進路候補Sを選択し、そして、この選択した進路候補Sにおける衝突危険度候補を衝突危険度として判定している。このように、一の進路候補Sの衝突確率のみから衝突危険度を判定するのではなく、複数の進路候補Sの衝突危険度候補を演算し当該衝突危険度候補から衝突危険度を判定するため、センサのノイズ等の悪影響によって進路候補Sひいては衝突確率がばらついたとしても、ばらつきの悪影響が衝突危険度の判定に及ぶのを抑制することができる。
【0060】
従って、本実施形態によれば、衝突危険度を精度よく判定することが可能となる。さらに、上述したように、複数の進路候補Sのうち衝突危険度候補が最も低い進路候補Sを選択している(上記S9参照)ことから、衝突危険度の低い進路を選択するというドライバ傾向を好適に反映することができ、ドライバニーズに合致する走行支援が可能となる。
【0061】
また、本実施形態では、上述したように、判定された衝突危険度に基づいて自車両10の走行が支援される。よって、衝突危険度の精度よい判定に応じて、自車両10の走行を精度よく支援することができ、その結果、走行支援のばらつきをも抑制することが可能となる。
【0062】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明では、上記第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0063】
図11は、第2実施形態に係る衝突危険度判定装置を示すブロック図である。図11に示すように、本実施形態の衝突危険度判定装置200が上記衝突危険度判定装置100と異なる点は、ECU5が進路候補選択部5kをさらに備えた点である。
【0064】
進路候補選択部5kは、進路候補演算部5aで演算された複数の進路候補Sごとに移動コスト及び運動コストに基づく評価関数を求め、当該評価関数に基づいて複数の進路候補Sの一部を選択する。また、本実施形態の危険度候補演算部5hは、進路候補選択部5kで選択された進路候補Sの一部について衝突危険度候補を演算する。
【0065】
このような本実施形態では、図12のフローチャートに示すように、複数の進路候補Sの移動コスト及び運動コストを演算した後(上記S6の後)、進路候補選択部5kにより、複数の進路候補SからN個の進路候補Sを選択する(S21)。具体的には、複数の進路候補Sそれぞれについて、演算された移動コスト及び運動コストに基づいて、評価関数を下式(4)に従い演算する。そして、複数の進路候補Sのうち、評価関数が小さい順にN個の進路候補Sを選択する。なお、Nは2以上の整数であり、選択前の進路候補Sの数をP個とすると、P>Nである。
評価関数=K1×移動コスト+K2×運動コスト …(4)
【0066】
続いて、危険度候補演算部5hにより、将来位置分布が予測された存在可能度マップ11上で、上記S21で選択されたN個の進路候補Sそれぞれについて衝突確率を演算する(S22)。続いて、危険度候補演算部5hにより、N個の進路候補Sのそれぞれについて、移動コスト、運動コスト及び衝突確率に基づいて衝突危険度候補を演算する(S23)。そしてその後、上記9の処理へ移行される。
【0067】
以上、本実施形態においても、衝突危険度を精度よく判定するという上記効果が奏される。さらに、本実施形態では、上述したように、評価関数に基づいて複数の進路候補SからN個の進路候補を予め選択し、この選択されたN個の進路候補Sについて衝突危険度候補を演算している。これにより、危険度候補の演算の対象となる進路候補Sを移動コスト及び運動コストで予め絞り込むことができ、衝突危険度候補の演算時間を短縮することが可能となる。その結果、衝突危険度候補(特に衝突確率)の演算には比較的時間がかかることから、装置全体での演算時間をも短縮することができる。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0069】
例えば、上記実施形態では、衝突危険度判定装置を自車両10に搭載したが、路側(例えば、主要交差点等)に設置してもよい。また、存在可能度は、移動物の存在しやすさを表すものとされているが、移動物の存在しにくさを表わすものであってもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、レーザレーダ2やカメラ3を用いているが、これに代えて若しくは加えて、ステレオカメラや、ミリ波等の電磁波を前方に走査して物体の位置を検出するもの等を用いてもよい。また、上記実施形態では、ブレーキ装置12とステアリング装置13とHMI14とが設けられているが、これらの少なくとも1つが設けられていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、運動センサ1の検出結果を用いて自車両10の運動を推定したが、これに限定されるものではなく、例えばレーザレーダ2の検出結果の時間差分によって、自車両10の運動を推定しでもよい。また、例えば、GPS4による自車両10位置の検出結果を用いて自車両10の運動を推定してもよい。また、運動センサ1、レーザレーダ2及びGPS4の検出結果を組み合わせて、自車両10の運動を推定してもよい。
【0072】
また、検出した移動物50の動作状態又は移動状態に基づいて移動状態分布を求める他に、移動物50の移動状態分布を直接検出してもよいし、移動物50の種類ごとに予め定められた移動状態分布を用いてもよい。さらにまた、移動物50の観測結果(向きや歩様等の動作状態)を用いて移動状態の分散や向きを設定すると共に、移動物50の種類ごとに予め定められた平均速度を用いることにより、移動状態分布を求めてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、移動物粒子31の総数を一定値としているが、可変にしてもよい。移動物粒子31の総数が一定の場合、走行環境の状況の複雑さに依存しない計算効率を確保できる一方、可変にした場合、処理するECU5の能力に応じて衝突危険度判定の精度を調整できる。
【0074】
上記において、レーザレーダ2とカメラ3とGPS4と環境検出部5bと地図データベース5gとが、移動物検出部を構成する。移動物生成部5dと位置更新部5eと分布変更部5fとが、将来位置分布予測部を構成する。運動センサ1及び進路候補演算部5aが、進路候補演算部を構成する。
【符号の説明】
【0075】
1…運動センサ(進路候補演算部)、2…レーザレーダ(移動物検出部)、3…カメラ(移動物検出部)、4…GPS(移動物検出部)、5a…進路候補演算部、5b…環境検出部(移動物検出部)、5c…マップ生成部、5d…移動物生成部(将来位置分布予測部)、5e…位置更新部(将来位置分布予測部)、5f…分布変更部(将来位置分布予測部)、5g…地図データベース(移動物検出部)、5h…危険度候補演算部、5i…危険度判定部、5j…走行支援部、5k…進路候補選択部、10…自車両、11…存在可能度マップ、31…移動物粒子、50…移動物、100,200…衝突危険度判定装置、G…グリッド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動物に対する自車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定装置であって、
前記移動物の位置分布及び移動状態分布を検出する移動物検出部と、
前記自車両の周囲領域を示すマップ上に前記移動物の存在し易さ又は存在し難さを表わす存在可能度を付与した存在可能度マップを生成するマップ生成部と、
前記移動物の前記位置分布、前記移動状態分布、及び前記存在可能度に基づいて、前記存在可能度マップ上にて前記移動物の将来位置分布を予測する将来位置分布予測部と、
前記自車両の運動状態に基づいて、前記自車両の将来の進路候補を複数演算する進路候補演算部と、
前記移動物の前記将来位置分布が予測された前記存在可能度マップ上で、複数の前記進路候補それぞれについて衝突危険度候補を演算する危険度候補演算部と、
演算された複数の前記衝突危険度候補に基づいて、複数の前記進路候補のうち一の進路候補を選択し、選択した当該一の進路候補の前記衝突危険度候補を前記衝突危険度として判定する危険度判定部と、を備え、
前記危険度候補演算部は、
前記進路候補が通過する路に応じて求められる移動コストと、前記進路候補に沿って前記自車両が移動する際の前記自車両の運動変化に応じて求められる運動コストと、前記将来位置分布及び前記進路候補に応じて求められる衝突確率と、に基づいて、前記衝突危険度候補を演算すること、を特徴とする衝突危険度判定装置。
【請求項2】
前記危険度判定部で判定された前記衝突危険度に基づいて、前記自車両の走行を支援する走行支援部をさらに備えたこと、を特徴とする請求項1記載の衝突危険度判定装置。
【請求項3】
前記危険度判定部は、複数の前記進路候補のうち前記衝突危険度候補が最も低い進路候補を選択すること、を特徴とする請求項1又は2記載の衝突危険度判定装置。
【請求項4】
前記進路候補演算部で演算された複数の前記進路候補ごとに前記移動コスト及び前記運動コストに基づく評価関数を求め、当該評価関数に基づいて前記複数の前記進路候補の一部を選択する進路候補選択部をさらに備え、
前記危険度候補演算部は、前記進路候補選択部で選択された複数の前記進路候補の一部について前記衝突危険度候補を演算すること、を特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項5】
前記将来位置分布予測部は、前記存在可能度マップ上において、前記位置分布を記録すると共に、前記移動状態分布に基づいて当該位置分布を移動させ、且つ前記存在可能度に基づいて当該位置分布を変更することにより、前記将来位置分布を設定すること、を特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項6】
前記存在可能度マップは、グリッドマップであり、その複数のグリッドそれぞれには、前記自車両が通過する際に要される単位移動コストがそれぞれ設定されており、
前記移動コストは、前記存在可能度マップ上にて前記進路候補が通過する複数のグリッドの単位移動コストの総和であること、を特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項7】
前記運動コストは、前記自車両におけるヨーレート変化の絶対値の時間積分値、ステアリング変化の絶対値の時間積分値、又は加速度の絶対値の時間積分値であること、を特徴とする請求項1〜6の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項8】
前記移動物の将来位置分布は、複数の移動物粒子で表わされ、
前記存在可能度マップは、グリッドマップであり、
前記衝突確率は、前記存在可能度マップ上において、前記進路候補が通過するグリッドの総数をMtotalとし、前記移動物粒子が存在するグリッドの数をmcolとし、前記移動物粒子の総数をNtotalとし、前記進路候補が通過するグリッド内における前記移動物粒子の数をncolとしたとき、
ncol/Ntotal・mcol/Mtotal
で表されること、を特徴とする請求項1〜7の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項1】
移動物に対する自車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定装置であって、
前記移動物の位置分布及び移動状態分布を検出する移動物検出部と、
前記自車両の周囲領域を示すマップ上に前記移動物の存在し易さ又は存在し難さを表わす存在可能度を付与した存在可能度マップを生成するマップ生成部と、
前記移動物の前記位置分布、前記移動状態分布、及び前記存在可能度に基づいて、前記存在可能度マップ上にて前記移動物の将来位置分布を予測する将来位置分布予測部と、
前記自車両の運動状態に基づいて、前記自車両の将来の進路候補を複数演算する進路候補演算部と、
前記移動物の前記将来位置分布が予測された前記存在可能度マップ上で、複数の前記進路候補それぞれについて衝突危険度候補を演算する危険度候補演算部と、
演算された複数の前記衝突危険度候補に基づいて、複数の前記進路候補のうち一の進路候補を選択し、選択した当該一の進路候補の前記衝突危険度候補を前記衝突危険度として判定する危険度判定部と、を備え、
前記危険度候補演算部は、
前記進路候補が通過する路に応じて求められる移動コストと、前記進路候補に沿って前記自車両が移動する際の前記自車両の運動変化に応じて求められる運動コストと、前記将来位置分布及び前記進路候補に応じて求められる衝突確率と、に基づいて、前記衝突危険度候補を演算すること、を特徴とする衝突危険度判定装置。
【請求項2】
前記危険度判定部で判定された前記衝突危険度に基づいて、前記自車両の走行を支援する走行支援部をさらに備えたこと、を特徴とする請求項1記載の衝突危険度判定装置。
【請求項3】
前記危険度判定部は、複数の前記進路候補のうち前記衝突危険度候補が最も低い進路候補を選択すること、を特徴とする請求項1又は2記載の衝突危険度判定装置。
【請求項4】
前記進路候補演算部で演算された複数の前記進路候補ごとに前記移動コスト及び前記運動コストに基づく評価関数を求め、当該評価関数に基づいて前記複数の前記進路候補の一部を選択する進路候補選択部をさらに備え、
前記危険度候補演算部は、前記進路候補選択部で選択された複数の前記進路候補の一部について前記衝突危険度候補を演算すること、を特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項5】
前記将来位置分布予測部は、前記存在可能度マップ上において、前記位置分布を記録すると共に、前記移動状態分布に基づいて当該位置分布を移動させ、且つ前記存在可能度に基づいて当該位置分布を変更することにより、前記将来位置分布を設定すること、を特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項6】
前記存在可能度マップは、グリッドマップであり、その複数のグリッドそれぞれには、前記自車両が通過する際に要される単位移動コストがそれぞれ設定されており、
前記移動コストは、前記存在可能度マップ上にて前記進路候補が通過する複数のグリッドの単位移動コストの総和であること、を特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項7】
前記運動コストは、前記自車両におけるヨーレート変化の絶対値の時間積分値、ステアリング変化の絶対値の時間積分値、又は加速度の絶対値の時間積分値であること、を特徴とする請求項1〜6の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【請求項8】
前記移動物の将来位置分布は、複数の移動物粒子で表わされ、
前記存在可能度マップは、グリッドマップであり、
前記衝突確率は、前記存在可能度マップ上において、前記進路候補が通過するグリッドの総数をMtotalとし、前記移動物粒子が存在するグリッドの数をmcolとし、前記移動物粒子の総数をNtotalとし、前記進路候補が通過するグリッド内における前記移動物粒子の数をncolとしたとき、
ncol/Ntotal・mcol/Mtotal
で表されること、を特徴とする請求項1〜7の何れか一項記載の衝突危険度判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−4021(P2013−4021A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137569(P2011−137569)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]