説明

衝突時生存空間確保用の補強部材取り付け構造

【課題】ドアに補強部材を入れた場合と同等以上の効果を発揮可能な衝突時生存空間確保用の補強部材取り付け構造を提案する。
【解決手段】本発明による衝突時生存空間確保用の補強部材取り付け構造は、キャブを構成するフロアパネル4の下面に沿わせて、該フロアパネル4の少なくとも前端近傍から座席設置部位までの間に、棒状体1,2,3を略車体前後方向で延設し、その棒状体2,3の後部を、フロアパネル4の下面に略車体前後方向へ延設されているメンバ4a,4bに結合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突時に生存空間を確保する目的で設けられる車体の補強部材に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばキャブオーバ型車両において、前面衝突時の生存空間を確保するために、ドア内の前後方向にインパクトビームとよばれる補強部材を入れて荷重を受け止める構造が、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平10−138757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この従来技術のようにドアに補強部材を内装する構造の場合、ドアが重くなり開閉に力が要る、内部部品のレイアウトが制限される、ドアが厚くなり居住性に影響する等、車体を設計するうえでの制約が生じる結果を招いている。
本発明は、上記のような背景に着目して、ドアに補強部材を入れた場合と同等以上の効果を発揮可能な補強部材の取り付け構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明による衝突時生存空間確保用の補強部材取り付け構造は、キャブを構成するフロアパネルの下面に沿わせて、該フロアパネルの少なくとも前端近傍から座席設置部位までの間に、少なくとも1本の棒状体を略車体前後方向で延設し、その棒状体の後部を、フロアパネルの下面で略車体前後方向へ延設されているメンバに結合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、補強部材として棒状体をフロアパネル下部に延設するようにしたので、可動部であり電装品等の部品が多いドアに設ける場合にあった制約の問題点を解決することができる。また、少なくともフロアパネルの前端近傍から座席までの乗員の足元相当部分を棒状体で補強するので、キャブオーバー型車両の特色である乗員の足元の変形を強固に守る構造を得られる。
【0006】
特に、棒状体の後部をメンバに結合することにより、前面衝突時、メンバ及びフロアパネルが足元空間に大きく突出する変形(車体前後方向のZ字状曲折)を、当該棒状体の挙動によって抑制することができるので、乗員の足元の空間をより広く確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る補強部材の取り付け構造において、棒状体は、キャブを構成するフロアパネルの少なくとも前端近傍から座席までを面的に補強するように、フロアパネルの下面に略車体前後方向に沿って取り付けるのがよい。補強部材である棒状体はフロアパネルの前端近傍から後端近傍までの全長にわたって設けることもできるが、特に好ましくは、座席より後方のキャブ後部を衝突時の衝撃を吸収する変形部(クラッシャブルゾーン)とすると良く、このような変形部は、棒状体が座席下で終端する(すなわちフロアパネルだけになる)ことにより形成することができる。このように、座席より後方のキャブ後部に補強部材を設置せずにクラッシャブルゾーンとすることで、当該ゾーンで衝撃を吸収しながら補強部材で荷重を受け止めることができるので、より生存空間を確保できる確率を高められる。
【0008】
フロアパネル下面形状に沿わせた棒状体は、少なくとも2本を面の輪郭を画すように設置して補強部材とし、乗員の足元を広く面的に補強するとよい。好ましくは、補強部材は、オフセット衝突を特に考慮して、運転席側(ここで言う運転席とは衝突の可能性がより高い側の席という意味)に設置するようにし、さらには、助手席側(ここで言う助手席とは衝突の可能性がより低い側の席という意味)にも補強部材を設置しても良い。
【0009】
図1及び図2に、本発明をキャブオーバー型車両に適用した場合の具体例を示し説明する。図1は本発明の補強部材取り付け構造を側面から見たキャブの断面図、図2はフロアパネル下面から見た図である。
この例では、補強部材として、運転席側に2本の棒状体である補強パイプ1,2、そして助手席側に1本の棒状体である補強パイプ3の計3本が、概略車体前後方向(X)へ、フロアパネル4の前端近傍から座席Sの下まで、フロアパネル4の下面に沿わせて延設されている。各補強パイプ1,2,3は、フロアパネル4の形状に沿って這うように形成され、それぞれ固定部としてブラケットを利用してボルトで固定されている。特に、運転席側の2本の補強パイプ1,2は、互いに所定の面の輪郭を画すようにした補強部材として固定されている。もちろん、助手席側も同様に2本の補強パイプからなる補強部材を適用するようにしても良い。
【0010】
このように、乗員の足元に相当するフロアパネル4の前端近傍から座席Sの下まで、前後方向に補強パイプ1,2からなる補強部材を這わせることにより、当該乗員足元部分のフロアパネル4が面的に補強され、衝突時には所定の広さをもった面として動作することになり、足元のスペースが確保される。特に、運転席側の補強パイプ1,2の2本は、互いに所定の面の輪郭を画すようにして固定されているので、面補強の効果を高めてある。
【0011】
各補強パイプ1,2,3はいずれも、フロントキャブマウント5のあるフロアパネル4の前端近傍から座席(運転席、助手席)Sの下まで延設されて終端しており、該終端からフロアパネル4の後端となるリアキャブマウント6までの間には補強部材が存在しておらず、クラッシャブルゾーンZとして残してある。このクラッシャブルゾーンZが設定されていることにより、衝突時には、補強パイプ1,2,3が荷重を受け止める一方、クラッシャブルゾーンZがつぶれて衝撃を吸収することにより、より確実な生存空間の確保が可能となっている。
【0012】
キャブオーバー型トラックの場合、衝突時に足元の変形が大きくなるが、フロアパネル下に補強パイプ1,2を入れて面補強を施し且つクラッシャブルゾーンZを設けることで、より確実に足元の空間を守ることができる。
補強パイプ1,2,3の前後端部分及び中間部分をフロアパネル4の下面へ固定する固定部のうち、補強パイプ2,3の後端部の固定部2a,3aは、フロアパネル4の下面に概略車体前後方向へ延設された補強用のメンバ(メインメンバ)4a,4bに、結合してある。これにより、メンバ4a,4bに近い補強パイプ2,3の後部がメンバ4a,4bと結合されている。
【0013】
このように、補強材としていれた棒状体である補強パイプ2,3の後部をメンバ4a,4bに結合することにより、前面衝突時、メンバ4a,4b及びフロアパネル4の足元空間への突出変形(車体前後方向のZ字状曲折)を、当該補強パイプ2,3の挙動によって抑制することができるので、乗員の足元の空間をより広く確保することが可能となる。
すなわち、図1を参照して説明すると、まず、キャブオーバー型車両のフロアパネル4は、乗員の膝から下に対するスペースをとるために、座席Sの部位から乗員の足元の部位へかけて落ち込む形状に形成されており、略鉛直の段差部分がフロアパネル4及びこれに沿うメンバ4a,4bの中間部位に形成されている。この段差部分があるため、前面衝突時、フロアパネル4及びメンバ4a,4bにおける段差部下側の屈曲部分Aが車体後方(矢示方向)へ変形するよう力が加わり、当該フロアパネル4及びメンバ4a,4bは、段差部分上下の屈曲部分A,Bを支点にZ字状に曲折して、乗員足元空間が狭まる状態に変形する。一方、補強パイプ1,2,3は、フロアパネル4及びメンバ4a,4bよりも剛性が高いので、当該前面衝突時、後部Cが上方(矢示方向)へ回動する挙動を示し変形する。そこで、メンバ4a,4bに隣接した補強パイプ2,3の後部をメンバ4a,4bに結合しておくと、前面衝突時、補強パイプ2,3の後部挙動に付随してメンバ4a,4bの結合部分が上方へ屈曲させられるので、当該変形に伴って屈曲部分Bが後方へ引っ張られる結果、Z字状の曲折の程度を緩和させることができる。これにより、補強パイプ2,3の後部をメンバ4a,4bに結合しない場合に比べて、乗員の足元の空間をより広く確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るキャブオーバー型車両におけるキャブ断面図。
【図2】図1の例をフロアパネル下から見て示す図。
【符号の説明】
【0015】
1,2,3 補強パイプ(補強部材)
2a,3a 固定部
4 フロアパネル
4a,4b メンバ
5 フロントキャブマウント
6 リアキャブマウント
S 座席
Z クラッシャブルゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブを構成するフロアパネルの下面に沿わせて、該フロアパネルの少なくとも前端近傍から座席設置部位までの間に、少なくとも1本の棒状体を略車体前後方向で延設し、
その棒状体の後部を、前記フロアパネルの下面で略車体前後方向へ延設されているメンバに結合したことを特徴とする衝突時生存空間確保用の補強部材取り付け構造。
【請求項2】
前記棒状体は、前後端部分及び中間部分に前記フロアパネル下面への固定部が設けられ、
そのうち後端部分の固定部を前記メンバに結合してあることを特徴とする請求項1記載の衝突時生存空間確保用の補強部材取り付け構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−45414(P2007−45414A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304427(P2006−304427)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【分割の表示】特願2004−290746(P2004−290746)の分割
【原出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(504334865)日産ライトトラック株式会社 (60)
【Fターム(参考)】