説明

衝突検知装置

【課題】車両の衝突時にはエアバッグなどの人員保護装置を確実に起動し、しかも電気的ノイズによる人員保護装置の誤作動を防止できる衝突検知装置を提供する。
【解決手段】加速度aA,aBの変化が車両の衝突によるものか否かを判定する第1衝突判定ルーチンR1および第2衝突判定ルーチンR2と、それら両方の判定結果が車両の衝突によるものと判定された場合にエアバッグモジュール14を起動させる最終判定ルーチンR3と、加速度が加速度閾値ath以上であるか否かを判定するトリガ判定ルーチンRS5と、加速度が加速度閾値以上であると判断された場合に車両の速度変化が予め記録された衝突事故時の速度変化と一致しているか否かを判定する速度プロファイル判定ルーチンRS7と、を有しており、同一の加速度入力に対する、加速度センサSBの出力レベルが加速度センサSAの出力レベルよりも高く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突を検知するための衝突検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の衝突を検知するための衝突検知装置が知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
近年、自動車には、衝突事故時の乗員の安全を確保するために、エアバッグシステムなどの乗員保護装置が装備されている。
【0004】
エアバッグシステムは、車両に所定以上の強さの衝撃が加わったときに、エアバッグを瞬時に膨張させ、この膨張したエアバッグをクッションにすることによって、乗員の頭部などへの衝撃を緩和し、乗員を事故の衝撃から保護するシステムである。
【0005】
図1において、符号1は従来例の衝突検知装置であり、この衝突検知装置1は、車両のインスツルメントパネル下部のエアバッグセンサユニット内に設けられており、センサユニットSU1,SU2と、コンパレーター2と、評価回路部3と、起動回路部4とを有している。
【0006】
また、符号5はエアバッグモジュールであり、このエアバッグモジュール5は、例えば、運転席のハンドル中央部などに設けられており、主にエアバッグと、エアバッグを膨張させるインフレーターユニットとによって構成されている。
【0007】
センサユニットSU1は加速度センサS1と増幅器A1とによって構成され、センサユニットSU2は加速度センサS2と増幅器A2とによって構成されており、加速度センサS1,S2は、それらの設置位置における車両の加速度を検知して、その加速度値に比例した電圧の信号を出力する。
【0008】
加速度センサS1は車両の前面衝突を検知するために車両の前側サイドメンバー上部に設けられており、加速度センサS2は衝突検知の信頼性を高めるために上述のエアバッグセンサユニット本体内部に設けられている。
【0009】
加速度センサS1,S2は、これらの加速度の検知方向が車両の前後方向で同一の向きとなるように設置されており、加速度センサS1,S2の出力端子は、増幅器A1,A2の入力端子に対して、それぞれ互いに逆極性に接続されているので、車両の前後方向に加速度が入力されたときに、センサユニットSU1,SU2の出力電位はGNDに対して正負反転した電位が発生するようになっている。
【0010】
コンパレーター2は正帰還用の入力端子2a,負帰還用の入力端子2b,出力端子2cを有しており、入力端子2a,2bには、それぞれ増幅器A1,A2の出力端子が接続され、出力端子2cには評価回路部3が接続されている。
【0011】
そして、コンパレーター2は、入力端子2aの電位V+と入力端子2bの電位V-との電位差(V+−V-=)V+-の信号を増幅して出力端子2cに出力する。
【0012】
評価回路部3は入力端子2aの電位V+と入力端子2bの電位V-との電位差V+-、すなわちセンサユニットSU1の出力電位V+とセンサユニットSU2の出力電位V-との電位差V+-が所定値以上か否かによって車両の衝突の有無を判定する。
【0013】
評価回路部3は、コンパレーター2の出力端子2cの信号が衝突によるものであると判定した場合に、起動回路部4に信号を出力し、起動回路部4は、この信号の入力に基づいて、エアバッグモジュール5を起動して、エアバッグを瞬時に膨張させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平3−20674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、自動車の車両内では、例えばイグニション系統の電気配線などから様々な電気的ノイズが常時発生している。
【0016】
従来例の衝突検知装置1では、このようなノイズ源からの電気的ノイズが、加速度センサS1,S2とコンパレーター2との間の信号経路に乗った場合に、この電気的ノイズによる信号によって誤作動して、エアバッグモジュール5を起動させるおそれがあった。
【0017】
エアバッグシステムは、本来、衝突事故時の乗員の安全を確保するために設けられているものであるが、車両の走行中に誤作動するおそれがあった。
【0018】
従来例の衝突検知装置1では、加速度センサS1,S2に同様の加速度が入力された場合には、例えば図2に示すように、センサユニットSU1の出力電位V+(図2(a))とセンサユニットSU2の出力電位V-(図2(b))とがGNDに対して正負反転した電位を生じる。
【0019】
この場合、電位V+と電位V-との電位差V+-は、電位V+の絶対値|V+|と電位V-の絶対値|V-|とを加算した値となる(図2(c)参照)。
衝突検知装置1は、この電位差V+-が、予め設定された電圧閾値Vth以上であるならば、車両が衝突したと判定する。
【0020】
ところで、車両内の電気的ノイズは電磁ノイズによるものが多く、加速度センサS1,S2とコンパレーター2との間の信号経路に乗るノイズ信号は、同様の信号パターンである場合が多い。
【0021】
そこで、加速度センサS1,S2とコンパレーター2との間の信号経路に同様の信号パターンの電気的ノイズが入力された場合には、センサユニットSU1の出力電位V+(図3(a))とセンサユニットSU2の出力電位V-(図3(b))とには、図3に示すように、GNDに対して正負同符号のほぼ同じ変化パターンのノイズ信号による電位変化が生じる。
【0022】
この場合の電位V+と電位V-との電位差V+-は、電位V+の絶対値|V+|と電位V-の絶対値|V-|との差をとった小さい値となり(図3(c)参照)、電気的ノイズによる電気信号は、概ね打ち消されるので、このようなノイズによる信号では、衝突検知装置1はエアバッグモジュール5を起動しないようになっている。
【0023】
しかしながら、例えば図4(a),図4(b)に示すように、加速度センサS1とコンパレーター2との間の信号経路に乗ったノイズ信号および加速度センサS2とコンパレーター2との間の信号経路に乗ったノイズ信号が異なる波形のノイズ信号である場合には、これらのノイズは打ち消されることなく、場合によっては、図4(c)に示すように、却って電位差V+-が大きな値となり、エアバッグモジュール5を誤作動させるおそれがあった。
【0024】
そこで、本発明では、車両の衝突時にはエアバッグなどの人員保護装置を確実に起動し、しかも電気的ノイズによる人員保護装置の誤作動を防止できる衝突検知装置を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、車両の衝突事故時にエアバッグシステムなどの人員保護装置を起動させるために、前記車両の異なる位置に設けられた複数の加速度センサによって検知される加速度の情報に基づいて車両の衝突を検知する衝突検知装置であって、前記各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の衝突によるものか否かを判定する衝突判定手段と、前記各加速度センサにより検知される加速度に関する判定結果の全てが前記衝突判定手段によって車両の衝突によるものと判定された場合に人員保護装置を起動させる最終判定手段と、前記各加速度センサにより検知される加速度が所定の加速度閾値以上であるか否かを判定する衝突加速度判定手段と、該衝突加速度判定手段によって加速度が所定の加速度閾値以上であると判断された場合に前記車両の速度変化が予め記録された衝突事故時の速度変化と一致しているか否かを判定する速度変化判定手段と、を有して、同一加速度入力に対する、前記複数の加速度センサの出力レベルのうち少なくとも1個の加速度センサの出力レベルが他の加速度センサの出力レベルよりも高く設定されている衝突検知装置を特徴としている。
【0026】
そして、請求項2に記載の発明は、前記他の加速度センサの出力レベルよりも高い出力レベルが設定された少なくとも1個の加速度センサの出力レベルが該加速度センサの出力の上限値または下限値となった場合に、該加速度センサ以外の他の加速度センサにより車両の衝突の有無を判定するオーバーフロー時対応手段を有している請求項1に記載の衝突検知装置を特徴としている。
【0027】
また、請求項3に記載の発明は、前記各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の前方衝突によるものか後方衝突によるものか否かを判定する後方衝突判定手段と、前記後方衝突判定手段により前記各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の後方衝突によるものと判定された場合に人員保護装置の起動のタイミングを前方衝突の場合に比べて遅らせる起動遅延手段と、を有し、前記各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の後方衝突によるものと判定され、かつ、前記人員保護装置が起動される場合に、該人員保護装置の起動のタイミングを前方衝突の場合に比べて遅らせる請求項1または請求項2に記載の衝突検知装置を特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
このように構成された本発明の請求項1のものでは、各加速度センサによって検知される加速度の変化が車両の衝突によるものか否かを判定する衝突判定手段と、各加速度センサにより検知される加速度に関する判定結果の全てが衝突判定手段によって車両の衝突によるものと判定された場合に人員保護装置を起動させる最終判定手段と、を有しているので、複数の加速度センサを車両の適当な位置に配置することにより正確な衝突の判定を行うことができ、人員保護装置の誤動作を防止できる。
【0029】
また、全ての加速度センサのそれぞれについて衝突の判定を独立に行うので、従来例のように複数の加速度センサの信号経路に乗ったノイズが干渉することがなく、ノイズ信号が干渉して増大することによる誤判定は生じない。
【0030】
そして、衝突判定手段が、各加速度センサによって検知される加速度が所定の加速度閾値以上であるか否かを判定する衝突加速度判定手段と、衝突加速度判定手段によって加速度が所定の加速度閾値以上であると判断された場合に、車両の速度変化が予め記録された衝突事故時の速度変化と一致しているか否かを判定する速度変化判定手段と、を有している。
【0031】
このため、検知された加速度が所定の加速度閾値以上になるか否かだけでなく、検知された加速度が所定の加速度閾値以上となった後の速度変化のプロファイルも車両の衝突の判定に利用され、一層正確な衝突判定が可能となるだけでなく、ノイズ信号による誤判定の頻度も低減させることができる。
【0032】
また、複数の加速度センサのうち、少なくとも1個の加速度センサの出力レベルを他の加速度センサの出力レベルよりも高く設定しているので、出力レベルを高く設定した加速度センサの信号系統では、他の加速度センサの信号系統よりもSN比が高く、この出力レベルを高く設定した加速度センサの信号系統は、他の加速度センサの信号系統に比べてノイズに対する耐性が高められている。
【0033】
したがって、出力レベルを高く設定した加速度センサを含む少なくとも2個以上の加速度センサの信号系統にノイズが乗った場合でも、この出力レベルを高く設定した加速度センサに関する衝突判定がノイズの影響を受けない場合には、本発明の衝突判定装置はノイズによる誤判定をしないので、ノイズに対する耐性を高めることができる。
【0034】
さらに、本発明の請求項2のものでは、他の加速度センサの出力レベルよりも高い出力レベルが設定された少なくとも1個の加速度センサの出力レベルが、この加速度センサの出力の上限値または下限値となった場合には、この加速度センサ以外の他の加速度センサにより衝突の有無が判定されるので、少なくとも1個の加速度センサにより検知された加速度に基づいて正確な衝突の判定が行われる。
【0035】
そして、本発明の請求項3のものでは、各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の後方衝突によるものと判定され、かつ、人員保護装置が起動される場合に、この人員保護装置の起動のタイミングを前方衝突の場合に比べて遅らせるので、車両の後方衝突であっても、人員保護装置がタイミングよく起動し、一層確実な人員の保護が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来例の衝突検知装置の概略構成図である。
【図2】従来例の衝突検知装置において、衝突による加速度が2個の加速度センサに生じた場合の各センサユニットの出力電位のグラフの一例を示しており、図の(a)は一方のセンサユニットの出力電位、図の(b)は他方のセンサユニットの出力電位、図の(c)は、これらの出力電位の電位差の時間に対する変化を示している。
【図3】従来例の衝突検知装置において、一方のセンサユニットとコンパレーターとの間の信号経路と、他方のセンサユニットとコンパレーターとの間の信号経路との間に、同様のパターンの電気的ノイズが乗った場合の各センサユニットの出力電位のグラフの一例を示しており、図の(a)は一方のセンサユニットの出力電位、図の(b)は他方のセンサユニットの出力電位、図の(c)は、これらの出力電位の電位差の時間に対する変化を示している。
【図4】従来例の衝突検知装置において、一方のセンサユニットとコンパレーターとの間の信号経路と、他方のセンサユニットとコンパレーターとの間の信号経路との間に、異なったパターンの電気的ノイズが乗った場合の各センサユニットの出力電位のグラフの一例を示しており、図の(a)は一方のセンサユニットの出力電位、図の(b)は他方のセンサユニットの出力電位、図の(c)は、これらの出力電位の電位差の時間に対する変化を示している。
【図5】実施例1,実施例2に係る衝突検知装置および2つの加速度センサの配置を示す概略図であり、(a)は車両前席の上面図、(b)は衝突検知装置の上面図である。
【図6】実施例1,実施例2の衝突検知装置の概略構成図である。
【図7】実施例1,実施例2に係る、一方の加速度センサに関する第1衝突判定処理を示すフローチャート図である。
【図8】実施例1,実施例2に係る、他方の加速度センサに関する第2衝突判定処理を示すフローチャート図である。
【図9】実施例1に係る、制御プログラムのメイン処理を示すフローチャート図である。
【図10】実施例1に係る、制御プログラムの構成図である。
【図11】制御プログラムのメイン処理を示すタイミングチャート図であり、一方の加速度センサと他方の加速度センサとに、同様の加速度変化が生じた場合の各加速度センサの出力電位のグラフの一例を示しており、図の(A1)は一方のセンサユニットの出力電位、(A2)はトリガ判定処理の結果の論理値、(A3)は第1判定結果フラグの論理値、図の(B1)は他方のセンサユニットの出力電位、(B2)はトリガ判定処理の結果の論理値、(B3)は第2判定結果フラグの論理値、図の(C)はエアバッグ展開処理出力値(論理値)の時間に対する変化を示している。
【図12】制御プログラムPのメイン処理を示すタイミングチャート図であり、一方の加速度センサと他方の加速度センサとに、同様の加速度変化が生じた場合の各加速度センサの出力電位のグラフの一例を示しており、図の(A1)は一方のセンサユニットの出力電位、(A2)はトリガ判定処理の結果の論理値、(A3)は第1判定結果フラグの論理値、図の(B1)は他方のセンサユニットの出力電位、(B2)はトリガ判定処理の結果の論理値、(B3)は第2判定結果フラグの論理値、図の(C)はエアバッグ展開処理出力値(論理値)の時間に対する変化を示している。
【図13】加速度センサの出力電圧と検知加速度との対比を示す図であり、一方の加速度センサと他方の加速度センサとに同様の加速度変化が生じた場合の波形の一例が示しており、図の(a)は一方の加速度センサについての図、図の(b)は他方の加速度センサについての図である。
【図14】加速度センサの出力電圧と検知加速度との対比を示す図であり、一方の加速度センサと他方の加速度センサとにノイズ信号が入力された際のノイズ信号の一例が示しており、図の(a)は一方の加速度センサについての図、図の(b)は他方の加速度センサについての図である。
【図15】加速度センサの出力電圧と検知加速度とを対比を示す図であり、一方の加速度センサと他方の加速度センサとに、同様のプロファイルの加速度が生じた場合の波形の一例が示されており、他方の加速度が加速度検知範囲以上となり、オーバーフロー状態となっていることを示している。図の(a)は一方の加速度センサについての図、図の(b)は他方の加速度センサについての図である。
【図16】実施例2に係る、制御プログラムのメイン処理を示すフローチャート図である。
【図17】実施例2に係る、制御プログラムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る実施の形態の実施例1に基づいて本発明を説明する。
【実施例1】
【0038】
〈構成〉
図5(a)において、符号11は本実施例の衝突検知装置であり、衝突検知装置11は、車両の運転席VS1と助手席VS2との間のセンターコンソールC内に設けられている。
【0039】
図6において、衝突検知装置11は、加速度センサSA,SBと、ADコンバータAD1,AD2と、演算制御部12と、起動回路部13とを有している。
【0040】
また、符号14はエアバッグモジュールであり、このエアバッグモジュール14は運転席のハンドル中央部などに設けられており、主にエアバッグと、エアバッグを膨張させるインフレーターとによって構成されている。
【0041】
図5(b)に示すように、本実施例の衝突検知装置11では、車両の衝突事故時にエアバッグモジュール14を起動させるために、衝突検知装置11の回路基板11aに実装された加速度センサSA,SBによって検知される加速度の情報に基づいて車両の衝突を検知する。
【0042】
本実施例に係る加速度センサSA,SBは増幅器を内蔵しており、それらの設置位置における車両の加速度を検知して、その加速度値に比例した電圧の信号を出力する。
【0043】
本実施例の衝突検知装置11では、加速度センサSA,SBが回路基板11a上に近接配置されており、各加速度センサSA,SBのセンシング方向が車両前後方向と一致するように配置され、各加速度センサSA,SBのセンシングの正の向きが、加速度センサSAでは車両前方に、加速度センサSBでは車両後方に向けられている。
なお、図5(b)中の矢印は、各加速度センサSA,SBのセンシング方向と、その向きを表している。
【0044】
ところで、加速度センサSA,SBとADコンバータAD1,AD2とをそれぞれ接続している信号経路Lは、回路基板11a上で近接しているので、衝突検知装置11の外部からの電磁ノイズが、この信号経路Lに乗ると、ほぼ同様のパターンのノイズ信号がADコンバータAD1,AD2の両方に入力される。
【0045】
本実施例の衝突検知装置11では、この信号経路Lに対して加速度センサSA,SBの各出力電極の極性を互いに逆極性に接続することにより、ほぼ同様のパターンのノイズ信号が信号経路Lに乗った際に、ノイズ信号による誤作動を防止するようになっている。
【0046】
図6に示すように、本実施例では、加速度センサSAとして、加速度検知範囲が−50〔G〕〜+50〔G〕の加速度センサを使用しており、この加速度センサSAは、-50〔G〕〜+50〔G〕の間の検知加速度aA〔G〕に比例する電圧VA〔V〕の信号を出力電圧0〔V〕〜5〔V〕の範囲で出力するようになっている。
【0047】
また、加速度センサSBとして、加速度検知範囲が−30〔G〕〜+30〔G〕の加速度センサを使用しており、この加速度センサSBは、−30〔G〕〜+30〔G〕の間の検知加速度aB〔G〕に比例する電圧VB〔V〕の信号を出力電圧0〔V〕〜5〔V〕の範囲で出力するようになっている。
したがって、加速度センサSA,SBは、加速度が0〔G〕のときに、どちらも、2.5〔V〕の電圧を出力する。
【0048】
なお、以下の説明では、加速度センサSAの加速度検知範囲の上限値50〔G〕をaAr,加速度センサSBの加速度検知範囲の上限値30〔G〕をaBr,出力電圧0〔V〕〜5〔V〕の中央値2.5〔V〕をVCとする。
【0049】
加速度センサSAは車両の前面衝突を検知するために車両の前側サイドメンバー上部に設けられており、加速度センサSBは衝突検知の信頼性を高めるために上述のエアバッグセンサユニット本体内部に設けられている。
【0050】
加速度センサSA,SBは、これらの加速度の検知方向が車両の前後方向で同一の向きとなるように設置されている。
【0051】
加速度センサSA,SBの各出力端子は、ADコンバータAD1,AD2にそれぞれ接続されており、ADコンバータAD1,AD2は、加速度センサSA,SBによって出力されるアナログ電圧信号を、その電圧値に対応したデジタル信号に変換する。
【0052】
演算制御部12は、マイクロコンピュータ12aと、ROM12bと、RAM12cとを有しており、マイクロコンピュータ12aには、ROM12b、RAM12c、ADコンバータAD1の出力、ADコンバータAD2の出力が接続されている。
【0053】
ROM12bには、後述する本実施例の衝突検知装置11に係る制御プログラムPが搭載されており、この制御プログラムPの処理は演算制御部12によって実行される。
また、ROM12bには、衝突事故時の速度プロファイルの情報なども記憶されている。
【0054】
制御プログラムPが実行される際に、RAM12cのメモリ領域は、マイクロコンピュータ12aの作業領域として使用される。
【0055】
演算制御部12は、ADコンバータAD1,AD2から出力される各デジタル信号の加速度データに基づいて制御プログラムPによって衝突の有無を判定し、車両が衝突したと判定した場合には、起動回路部13に制御信号を出力する。
【0056】
起動回路部13は、この制御信号に基づいて、エアバッグモジュール14を起動して、エアバッグを瞬時に膨張させる。
【0057】
〈制御プログラムPの制御の流れ〉
本実施例の衝突検知装置11に係る制御プログラムPは、図7〜図9のフローチャート図に示される処理を含んでおり、これらの処理は演算制御部12によって実行される。
【0058】
まず、図7のフローチャート図に示される第1衝突判定処理を説明する。
【0059】
ステップSA0では、第1衝突判定処理を開始する。
【0060】
本実施例に係る制御プログラムPは、第1判定結果フラグを有しており、加速度センサSAに関する衝撃判定の結果を、この第1判定結果フラグに論理値として記録する。
【0061】
ステップSA1では、第1判定結果フラグの論理値を0(偽)に初期化する (この処理を「第1判定結果フラグ初期化処理」とする。)。
ステップSA2では、マイクロコンピュータ12aにより、加速度センサSAの検知加速度に対応した電圧値を一定時間間隔で取得する(この処理を「第1加速度データ取得処理」とする。)。
ステップSA3では、加速度センサSAの検知加速度に対応した電圧値のデータに、ソフトウェアによるローパスフィルタやハイパスフィルタの演算処理を施し、不要な信号成分(ノイズ)を除去する処理を実行する(この処理を「フィルタリング処理」とする。)。
ステップSA4では、加速度センサSAの検知加速度に対応する電圧値VAが予め設定された電圧閾値VAth以上であるか否かを判定して、電圧値VAがVAth以上であるならばステップSA5に進み、電圧値VAがVAth未満であるならばステップSA8に進む(この処理を「トリガ判定処理」とする。)。
なお、電圧閾値VAthとは、加速度センサSAによる検知加速度aAが加速度閾値athになったときの加速度センサSAの出力電圧である。
【0062】
ステップSA5では、加速度センサSAの検知加速度に対応する電圧値データを時間に関して積分する演算処理を実行する。
加速度センサSAの検知加速度のデータを時間に関して積分することによって車両の速度変化のデータが得られる(この処理を「積分演算処理」とする。)。
ステップSA6では、積分演算処理された車両の速度変化のデータに基づいて、速度変化のプロファイルがROM上にデータとして記録された車両衝突時の速度変化のプロファイルと一致しているか否かを判定し、速度変化のプロファイルが車両衝突時の速度変化のプロファイルと一致しているならばステップSA7の処理に進み、一致していないならばステップSA8の処理に進む (この処理を「速度プロファイル判定処理」とする。)。
ステップSA7では、第1判定結果フラグの論理値を1(真)とする(この処理を「第1判定結果フラグ設定処理」とする。)。
ステップSA8では、第1衝突判定処理を終了する。
【0063】
なお、車両の衝突により検知される加速度の大きさは50〔G〕以上にはならないものとする。
【0064】
次に、図8のフローチャート図に示される第2衝突判定処理を説明する。
【0065】
ステップSB0では、第2衝突判定処理を開始する。
【0066】
本実施例に係る制御プログラムPは、第2判定結果フラグを有しており、加速度センサSBに関する衝撃判定の結果を、この第2判定結果フラグに論理値として記録する。
【0067】
ステップSB1では、第2判定結果フラグの論理値を0(偽)に初期化する(この処理を「第2判定結果フラグ初期化処理」とする。)。
ステップSB2では、マイクロコンピュータ12aにより、加速度センサSBの検知加速度に対応した電圧値を一定時間間隔で取得する(この処理を「第2加速度データ取得処理」とする。)。
ステップSB3では、加速度センサSBの検知加速度に対応した電圧値のデータに、ソフトウェアによるローパスフィルタやハイパスフィルタの演算処理を施し、不要な信号成分(ノイズ)を除去する処理を実行する(上述の「フィルタリング処理」)。
ステップSB4では、加速度センサSBの検知加速度に対応する電圧値VBが予め設定された電圧閾値VBth以上であるか否かを判定して、電圧値VBがVBth以上であるならばステップSB5に進み、電圧値VBがVBth未満であるならばステップSB9に進む(上述の「トリガ判定処理」)。
なお、電圧閾値VBthとは、加速度センサSBによる検知加速度aBが加速度閾値athになったときの加速度センサSBの出力電圧である。
【0068】
ステップSB5では、加速度センサSBの検知加速度aBに対応する電圧値VBが上限の5〔V〕または下限の0〔V〕となりかつ、その継続時間が予め設定された速度プロファイル判定時間tp以上であるときには、ステップSB8の処理に進み、それ以外のときには、ステップSB6の処理に進む(この処理を「オーバーフロー時対応処理」とする。)。
加速度センサSBにより検知される加速度aBが、加速度センサSBの加速度検知可能範囲の上下限の絶対値aBr(aBr=30〔G〕)以外の場合は、加速度センサSBがオーバーフローの状態となっているので、このオーバーフロー時対応処理により、加速度センサSAだけによって、衝突の有無が判定されるようになる。
【0069】
ステップSB6では、加速度センサSBの検知加速度に対応する電圧値データを時間に関して積分する演算処理を実行する。
加速度センサSBの検知加速度のデータを時間に関して積分することによって車両の速度変化のデータが得られる(上述の「積分演算処理」)。
ステップSB7では、積分演算処理された車両の速度変化のデータに基づいて、速度変化のプロファイルがROM上にデータとして記録された車両衝突時の速度変化のプロファイルと一致しているか否かを判定し、速度変化のプロファイルが車両衝突時の速度変化のプロファイルと一致しているならばステップSB8の処理に進み、一致していないならばステップSB9の処理に進む(上述の「速度プロファイル判定処理」)。
ステップSB8では、第2判定結果フラグの論理値を1(真)とする(この処理を「第2判定結果フラグ設定処理」とする。)。
ステップSB9では、第2衝突判定処理を終了する。
【0070】
なお、上述の電圧閾値VAth,VBthは、それぞれトリガ判定処理SA4,SB4において、加速度センサSA,SBにより検知される加速度aA,aBに対応する。
【0071】
次に、図9のフローチャート図に示される制御プログラムPのメイン処理を説明する。
【0072】
ステップS0では、制御プログラムPのメイン処理を開始する。
【0073】
ステップS1では、上述の第1衝突判定処理(図7に示される処理)を実行する。
【0074】
ステップS2では、上述の第2衝突判定処理(図8に示される処理)を実行する。
【0075】
ステップS3では、第1判定結果フラグの論理値と第2判定結果フラグの論理値との論理積(AND)が1(真)であるか否かを判定し、1(真)ならばステップS4の処理に進み、0(偽)ならばステップS6に進む(この処理を「最終判定処理」とする。)。
ステップS4では、演算制御部12へのエアバッグ展開に関する中止命令の有無を判定して、中止命令がない場合にはステップS5に進み、中止命令がある場合にはステップS6に進む(この処理を「割込リセット処理」とする。)。
ステップS5では、起動回路部13にエアバッグモジュール14を起動させるための制御信号を出力する。
【0076】
ステップS6では、制御プログラムPのメイン処理を終了する。
【0077】
〈制御プログラムPの構成〉
図10に示すように、ROM12bに搭載された制御プログラムPは、メインルーチンMとサブルーチンSとによって構成されている。
【0078】
メインルーチンMは、第1衝突判定処理を実行する第1衝突判定ルーチンR1、第2衝突判定処理を実行する第2衝突判定ルーチンR2、最終判定処理を実行する最終判定ルーチンR3、割込リセット処理を実行する割込リセットルーチンR4、エアバッグ展開処理を実行するエアバッグ展開ルーチンR5を有している。
【0079】
また、サブルーチンSは、第1判定結果フラグ初期化処理を実行する第1判定結果フラグ初期化ルーチンRS1、第2判定結果フラグ初期化処理を実行する第2判定結果フラグ初期化ルーチンRS2、第1加速度データ取得処理を実行する第1加速度データ取得ルーチンRS3、第2加速度データ取得処理を実行する第2加速度データ取得ルーチンRS4、フィルタリング処理を実行するフィルタリングルーチンRS5、トリガ判定処理を実行するトリガ判定ルーチンRS6、積分演算処理を実行する積分演算ルーチンRS7、速度プロファイル判定処理を実行する速度プロファイル判定ルーチンRS8、第1判断結果フラグ設定処理を実行する第1判断結果フラグ設定ルーチンRS9、第2判断結果フラグ設定処理を実行する第2判断結果フラグ設定ルーチンRS10、オーバーフロー時対応処理を実行するオーバーフロー時対応ルーチンRS11を有している。
【0080】
〈衝突検知装置11の動作〉
次に、図11〜図13のタイミングチャート図に基づいて、本実施例の衝突検知装置11の動作を説明する。
【0081】
車両の衝突時に、この衝突による加速度が加速度センサSA,SBにそれぞれ同時に与えられ、例えば図11に示すように、加速度センサSA,SBの各出力電圧VA,VBが、それぞれ時間的に図11のグラフ(A1),グラフ(B1)に示すように変化したとする。
【0082】
この場合、加速度センサSA,SBの各出力電圧VAとVBとのどちらも、それぞれ電圧閾値VAth,VBth以上になっているので、トリガ判定処理SA4,SB4の結果は、図11のグラフ(A2),グラフ(B2)に示すように、どちらも1(真)となる。
【0083】
そして、トリガ判定処理SA4,SB4の結果が、どちらも1(真)となると、加速度センサSA,SBの各出力電圧VAとVBとについて、速度プロファイル判定時間tpの間の速度変化に基づいて、それぞれ速度プロファイル判定処理SA6,SB7が実行される。
【0084】
そして、加速度センサSA,SBの各出力電圧VAとVBとのどちらについても速度プロファイル判定処理SA6,SB7の結果が1(真)となり、かつ割込リセット処理S4によるキャンセルがなければ、図11のグラフ(A3),グラフ(B3)に示すように、第1判定結果フラグと第2判定結果フラグとが共に1(真)となり、図11のグラフ(C)に示すように、エアバッグ展開処理により制御信号が出力され、エアバッグモジュール14が起動する。
【0085】
一方、車両の衝突によるものではないが、車両に比較的大きな衝撃による加速度が生じた場合に、例えば図12に示すように、加速度センサSA,SBの各出力電圧VA,VBが、それぞれ時間的に図12のグラフ(A1),グラフ(B1)に示すように変化したとする。
【0086】
この場合、加速度センサSAの出力電圧VAは電圧閾値VAth以上になっているので、トリガ判定処理SA4の結果は1(真)となり、その後の速度変化に基づいて速度プロファイル判定処理SA6により第1判定結果フラグは1(真)となるが、加速度センサSBの出力電圧VBは電圧閾値VBth未満となっているので、トリガ判定処理SB4の結果は0(偽)となり、第2判定結果フラグは0(偽)となる。
【0087】
したがって、第1判定結果フラグの論理値と第2判定結果フラグの論理値との論理積は0(偽)となり、図12のグラフ(C)に示すように、エアバッグ展開処理による制御信号は出力されず、エアバッグモジュール14は起動しない。
【0088】
このように、加速度センサSA,SBのうち、いずれか一方の加速度センサだけが衝突の判定条件を満たしていてもエアバッグモジュール14は起動しないが、加速度センサSA,SBの両方の加速度センサが衝突の判定条件を満たせば、エアバッグモジュール14が起動するので、車両の異なる位置に加速度センサSA,SBを適当に配置することによって、1つの加速度センサだけを使用する場合よりも衝突の判定が正確にできる。
【0089】
なお、上述の衝突の判定条件とは、加速度センサ(SA,SB)に入力される加速度の加速度値(aA,aB)が加速度閾値(ath)以上となりかつ、加速度値(aA,aB)が加速度閾値(ath)以上となった後の速度プロファイル判定時間(tp)の間の速度変化が予め記録された衝突時の速度プロファイルと一致することである。
【0090】
〈衝突検知装置11の電気的ノイズに対する耐性〉
本実施例の衝突検知装置11では、ADコンバータAD1,AD2よりも前段の回路、すなわち、加速度センサSAとADコンバータAD1との間の回路(信号系統)や加速度センサSBとADコンバータAD2との間の回路(信号系統)などのアナログ信号を処理する回路(信号系統)に、電磁ノイズなどの電気的ノイズが乗った場合に、この電気的ノイズの影響を受ける可能性がある。
【0091】
ところで、加速度センサSAと加速度センサSBとの出力電圧範囲の上限値が、どちらも5〔V〕で同じであるならば、加速度検知範囲が狭いほど、ある一定の加速度を入力した際の出力電圧は反比例して大きくなるので、加速度センサSAより加速度検知範囲が狭い加速度センサSBの出力電圧は、同じ加速度が入力された場合でも加速度センサSAの出力電圧より大きくなっている(図13,図14参照)。
【0092】
このため、出力電圧が大きい加速度センサSBは、加速度センサSAに比べてS/N比が大きくなるので、ノイズの影響を受け難くなっている。
【0093】
しかしながら、加速度センサSBは加速度検知範囲が狭いので、この加速度検知範囲外の加速度が入力された際にはオーバーフロー状態になり、検知加速度aBの加速度閾値ath以上のオーバーフロー分の加速度変化が検知できないために、この加速度変化に基づく速度変化の速度プロファイル判定処理が実行できず、加速度センサSBにより検知される加速度aBについては正確な衝突判定ができない。
【0094】
本実施例の衝突検知装置11では、加速度センサSAの加速度検知範囲を加速度センサSBの加速度検知範囲に比べて広く設定しているので、加速度センサSAの信号系統では、加速度センサSBに比べてS/N比が小さくなり、ノイズの影響を受けやすくなるが、加速度センサSAでは、加速度センサSBの検知加速度aBが加速度閾値ath以上の加速度が正確に検知できるので、この加速度センサSBのオーバーフロー分の加速度変化に基づく速度プロファイル判定処理SA6を実行することにより、正確な衝突判定を行うことができる。
【0095】
また、車両の衝突時に、この衝突による加速度が加速度センサSA,SBにそれぞれ同時に与えられ、例えば図13に示すように、加速度センサSA,SBに生じる加速度aA,aBが、それぞれ時間的に図13のグラフ(a),グラフ(b)に示すように変化したとする。
【0096】
この場合、加速度センサSA,SBに生じる加速度aA,aBのどちらも、それぞれ、加速度閾値ath以上となるので、トリガ判定処理SA4,SB4の結果はどちらも1(真)となり、加速度センサSA,SBの出力電圧VAとVBとについて、各トリガ判定処理SA4,SB4後の速度プロファイル判定時間tpの間の速度変化に基づいて、それぞれ速度プロファイル判定処理SA6,SB7が実行される。
【0097】
そして、加速度センサSA,SBの出力電圧VAとVBとのどちらについても速度プロファイル判定が1(真)となり、しかも割込リセット処理によりキャンセルされなければ、エアバッグ展開処理S5により制御信号が出力され、エアバッグモジュール14が起動する。
【0098】
ところで、本実施例では、加速度センサSAと加速度センサSBとでは、検知加速度の加速度閾値athが同じであっても、加速度閾値athに対応する加速度センサSAの出力電圧の電圧閾値VAthは、
Ath=VC±(ath/aAr)×VC=2.5±(20/50)×2.5
=2.5±1.5〔V〕=3.5〔V〕または1.5〔V〕
となり、加速度閾値athに対応する対応する加速度センサSBの出力電圧の電圧閾値VBthは、
Bth=VC±(ath/aBr)×VC=2.5±(20/30)×2.5
≒2.5±1.7〔V〕=4.2〔V〕または0.8〔V〕
と異なっている。
【0099】
また、電気的ノイズが加速度センサSA,SBとADコンバータAD1,AD2との間の回路(信号系統)に乗る際には、加速度センサSA,SBの出力電圧の中央値VCに対して加算されるので、ノイズ信号の電圧値をVNとすると、検知されるノイズ信号による電圧値はVC±VNとなるので、1.7〔V〕>1.5〔V〕より、加速度センサSBの信号系統は、加速度センサSAの信号系統に比べてノイズの影響を受け難くなっている。
【0100】
したがって、本実施例の衝突検知装置11では、加速度センサSAと加速度センサSBとで、同時に衝突の判定がなされないとエアバッグモジュール14を起動しないので、加速度センサSBとADコンバータAD2との間の信号系統に、絶対値で1.7〔V〕以上のノイズ信号が加わり、しかも、この信号の時間的変化が、衝突時の速度変化のプロファイルと一致しないと、電気的ノイズにより誤作動することはない。
【0101】
このように、本実施例の衝突検知装置11では、加速度センサSAによって検知する加速度検知範囲幅を広げつつ、加速度センサSBによってノイズの影響を低減させることができる。
【0102】
〈作用効果〉
このように構成された実施例1の衝突検知装置11では、各加速度センサSA,SBによって検知される加速度aA,aBの変化が車両の衝突によるものか否かを判定する第1衝突判定ルーチンR1と第2衝突判定ルーチンR2とがそれぞれ設けられ、これらの判定結果がどちらも車両の衝突(論理値1(真))と判定された場合に、最終判定ルーチンR3がエアバッグモジュール14を起動させるので、加速度センサSA,SBを車両の適当な位置に配置することにより正確な衝突の判定を行うことができ、エアバッグモジュール14の誤動作を防止できる。
【0103】
また、加速度センサSA,SBのそれぞれについて衝突の判定を独立に行うので、従来例のように複数の加速度センサS1,S2の信号経路に乗った複数のノイズが干渉することがなく、ノイズ信号が干渉して増大することによる誤判定は生じない。
【0104】
そして、第1衝突判定ルーチンR1と第2衝突判定ルーチンR2とは、各加速度センサSA,SBによって検知される加速度aA,aBが所定の加速度閾値ath以上であるか否かを判定するトリガ判定ルーチンRS6と、加速度aA,aBが所定の加速度閾値ath以上であるとトリガ判定ルーチンRS6によって判断された場合に、車両の速度変化が予め記録された衝突事故時の速度変化と一致しているか否かを判定する速度プロファイル判定ルーチンRS8と、を有している。
【0105】
このため、加速度センサSA,SBによって検知された加速度aA,aBが所定の加速度閾値ath以上になるか否かだけでなく、検知された加速度が所定の加速度閾値ath以上となった後の速度変化のプロファイルも車両の衝突の判定に利用され、一層正確な衝突判定が行えるだけでなく、ノイズ信号による誤判定の頻度も低減させることができる。
【0106】
また、加速度センサSA,SBのうち、加速度センサSBの出力レベルを加速度センサSAの出力レベルよりも高く設定しているので、出力レベルを高く設定した加速度センサSBの信号系統では、加速度センサSAの信号系統よりもSN比が高く、この出力レベルを高く設定した加速度センサSBの信号系統は、加速度センサSAの信号系統に比べてノイズに対する耐性が高められている。
【0107】
したがって、加速度センサSA,SBの信号系統にノイズが乗った場合でも、この出力レベルを高く設定した加速度センサSBに関する衝突判定がノイズの影響を受けない場合には、本実施例の衝突判定装置11はノイズによる誤判定をしないので、ノイズに対する耐性を高めることができる。
【0108】
さらに、出力電圧の範囲が0〔V〕〜5〔V〕で等しい加速度センサSA,SBにおいて、加速度センサSBの加速度検知範囲を加速度センサSAの加速度検知範囲−50〔G〕〜+50〔G〕よりも狭い−30〔G〕〜+30〔G〕に設定することにより、加速度センサSBでは、加速度センサSA,SBに同じ加速度が入力された場合でも、加速度センサSBの電圧VBは、加速度センサSAの電圧VAよりも高くなるので、加速度センサSBの出力側信号系統は、加速度センサSAの出力側信号系統に比べてノイズに対する耐性が高められる。
【0109】
また、図15に示すように、加速度センサSBにより検知される加速度aBが、加速度センサSBの検知可能範囲の上下限の絶対値aBr(aBr=30〔G〕)以上となる場合には、加速度センサSBがオーバーフロー状態となるが、オーバーフロー時対応処理SB5により、加速度センサSAの出力信号だけによって衝突の有無が判定されるので、加速度センサSAにより検知された加速度aAに基づいて、速度プロファイル判定処理SA6により、正確な衝突の判定が行われる。
【0110】
このように、本実施例の衝突検知装置11では、加速度センサSAによって検知する加速度検知範囲幅を広げつつ、加速度センサSBによってノイズの影響を低減させることができる。
【実施例2】
【0111】
以下、実施例2について、実施例1とは異なる部分を中心に説明し、実施例1と同一ないし均等な部分については説明を省略する。なお、図面の符号については、実施例1と同一ないし均等な部分には同一の符号を付すものとする。
【0112】
ところで、実施例1では、車両の衝突が前方衝突か後方衝突か否かについては、特に述べていないが、当然、前方衝突か後方衝突かによって、加速度センサSA,SBによって検知される加速度aA,aBの加速度変化のプロファイルは異なり、実施例1に係る第1衝突判定処理および第2衝突判定処理においても、後方衝突に関する加速度変化のプロファイルの情報が使用されている。
したがって、実施例1の構成であっても車両が後方衝突した際に所定の条件を満たしていれば、エアバッグモジュール14は起動するようになっている。
【0113】
しかしながら、後方衝突の場合には、衝突直後、車両の乗員に車両後方向きの加速度が生じ、乗員は、一度座席(運転席VS1,助手席VS2など)に押し付けられた後、その反動で車両前方に移動する。
このため、エアバッグモジュール14の起動のタイミングを、前方衝突の場合(すなわち、衝突直後、車両の乗員に車両前方向きの加速度が生じる場合)に比べて僅かに遅らせる必要がある。
【0114】
そこで、実施例2の衝突検知装置11では、以下に述べる構成により、加速度センサSA,SBによって検知される加速度aA,aBの変化が車両の後方衝突によるものと判定され、かつ、エアバッグモジュール14を起動させる場合には、このエアバッグモジュール14の起動のタイミングを前方衝突の場合に比べて僅か遅らせるようにする。
【0115】
〈構成〉
実施例1の衝突検知装置11と実施例2の衝突検知装置11とでは、制御プログラムPの構成が異なっており、その他の装置部分の構成は同一である。
【0116】
以下、実施例2の衝突検知装置11に係る制御プログラムPについて説明する。
【0117】
本実施例の衝突検知装置11に係る制御プログラムPの処理は、実施例1の衝突検知装置11に係る制御プログラムPの処理とメイン処理だけが異なっている。
このメイン処理を、図16に示すフローチャート図を参照しつつ説明する。
【0118】
本実施例では、実施例1の衝突検知装置11に係る制御プログラムPのメイン処理に加え、第1衝突判定処理の前に後方衝突判定処理(後述のステップSXの処理)がなされ、エアバッグ展開処理(S5)の前に起動遅延処理(後述のステップSYの処理)がなされる。
後方衝突判定は、加速度センサSA,SBにより検知される各加速度の変化が車両の前方衝突によるものか後方衝突によるものか否かを判定し、起動遅延処理は、後方衝突判定処理より加速度aA,aBの変化が車両の後方衝突によるものと判定された場合にエアバッグモジュール14の起動のタイミングを前方衝突に比べて遅らせる処理を行う。
【0119】
〈制御プログラムPの構成〉
図17に示すように、ROM12bに搭載された制御プログラムPは、メインルーチンMとサブルーチンSとによって構成されている。
【0120】
メインルーチンMは、実施例1に係るメインルーチンMに加え、後方衝突判定処理を実行する後方衝突判定ルーチンRX、起動遅延処理を実行する起動遅延ルーチンRYを有している。
なお、サブルーチンSの構成は、実施例1に係るサブルーチンSと同様であるので、図17では記載を省略している。
【0121】
〈制御プログラムPの制御の流れ〉
次に、図16のフローチャート図に示される本実施例に係る制御プログラムPのメイン処理を説明する。
【0122】
ステップS0では、制御プログラムPのメイン処理を開始する。
【0123】
ステップSXでは、実施例に係る後方衝突判定処理を開始する。
本実施例に係る制御プログラムPは、後方衝突判定フラグを有しており、後方衝突であるか否かの判定結果を、この後方衝突判定フラグに論理値として記録する。
後方衝突判定処理では、加速度センサSA,SBによって検知される車両の加速度aA,aBが、いずれも負値で、かつ急速(具体的には、速度プロファイル判定時間tの間)に、所定の加速度閾値ath´を超えた場合に、後方衝突判定フラグの論理値を1(真)に設定する。
なお、本実施例では、後方衝突判定フラグの初期化などの処理は、実施例1と同様であるので、説明を省略している。
【0124】
ステップS1では、上述の第1衝突判定処理(図7に示される処理)を実行する。
【0125】
ステップS2では、上述の第2衝突判定処理(図8に示される処理)を実行する。
【0126】
ステップS3では、上述の最終判定処理を実行する。
【0127】
ステップS4では、上述の割込リセット処理を実行する。
【0128】
ステップSYでは、実施例に係る起動遅延処理を開始する。
起動遅延処理では、後方衝突判定フラグの論理値を参照し、後方衝突判定フラグの論理値が1(真)ならば、エアバッグモジュール14の起動を遅延させる遅延時間tだけ経過した後にステップS5に進み、後方衝突判定フラグの論理値が0(偽)ならば、すぐにステップS5に進む。
【0129】
ステップS5では、起動回路部13にエアバッグモジュール14を起動させるための制御信号を出力する。
【0130】
ステップS6では、制御プログラムPのメイン処理を終了する。
【0131】
〈衝突検知装置11の動作〉
車両の衝突時に、この衝突による加速度が加速度センサSA,SBにそれぞれ同時に与えられ、加速度aA,aBの変化が車両の後方衝突によるものと判定され、かつ、エアバッグモジュール14が起動される場合に、エアバッグモジュール14の起動のタイミングを前方衝突に比べて遅らせる。
【0132】
〈作用効果〉
加速度センサSA,SBにより検知される加速度aA,aBの変化が車両の後方衝突によるものと判定され、かつ、エアバッグモジュール14が起動される場合に、エアバッグモジュール14の起動のタイミングを前方衝突に比べて遅らせるので、車両の後方衝突であっても、エアバッグモジュール14がタイミングよく起動し、一層確実な車両の乗員の保護が可能となる。
【0133】
以上、図面を参照して、本発明に係る実施の形態の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれるものである。
【0134】
本実施例では、衝突判定手段、衝突判定手段、最終判定手段、衝突加速度判定手段、速度変化判定手段の各手段がソフトウェアの処理によって実行されているが、これらを電子回路によって実行するものであってもよい。
【0135】
また、本実施例では、2個の加速度センサを使用したが、加速度センサの数は必ずしも2個でなくてもよい。
加速度センサを3個以上使用する場合であっても、それぞれについて衝突判定処理を行い、それらの結果についての論理積をとればよい。
【符号の説明】
【0136】
11 衝突検知装置
14 エアバッグモジュール(人員保護装置)
R1 第1衝突判定ルーチン(衝突判定手段)
R2 第2衝突判定ルーチン(衝突判定手段)
R3 最終判定ルーチン(最終判定手段)
RS5 トリガ判定ルーチン(衝突加速度判定手段)
RS7 速度プロファイル判定ルーチン(速度変化判定手段)
RS11 オーバーフロー時対応ルーチン(オーバーフロー時対応手段)
SA,SB 加速度センサ
A,aB 加速度
RX 後方衝突判定ルーチン(後方衝突判定手段)
RY 起動遅延ルーチン(起動遅延手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突事故時にエアバッグシステムなどの人員保護装置を起動させるために、前記車両の異なる位置に設けられた複数の加速度センサによって検知される加速度の情報に基づいて車両の衝突を検知する衝突検知装置であって、
前記各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の衝突によるものか否かを判定する衝突判定手段と、
前記各加速度センサにより検知される加速度に関する判定結果の全てが前記衝突判定手段によって車両の衝突によるものと判定された場合に人員保護装置を起動させる最終判定手段と、
前記各加速度センサにより検知される加速度が所定の加速度閾値以上であるか否かを判定する衝突加速度判定手段と、
該衝突加速度判定手段によって加速度が所定の加速度閾値以上であると判断された場合に前記車両の速度変化が予め記録された衝突事故時の速度変化と一致しているか否かを判定する速度変化判定手段と、
を有して、
同一加速度入力に対する、前記複数の加速度センサの出力レベルのうち少なくとも1個の加速度センサの出力レベルが他の加速度センサの出力レベルよりも高く設定されていることを特徴とする衝突検知装置。
【請求項2】
前記他の加速度センサの出力レベルよりも高い出力レベルが設定された少なくとも1個の加速度センサの出力レベルが該加速度センサの出力の上限値または下限値となった場合に、該加速度センサ以外の他の加速度センサにより車両の衝突の有無を判定するオーバーフロー時対応手段を有していることを特徴とする請求項1に記載の衝突検知装置。
【請求項3】
前記各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の前方衝突によるものか後方衝突によるものか否かを判定する後方衝突判定手段と、
前記後方衝突判定手段により前記各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の後方衝突によるものと判定された場合に人員保護装置の起動のタイミングを前方衝突の場合に比べて遅らせる起動遅延手段と、
を有し、
前記各加速度センサにより検知される加速度の変化が車両の後方衝突によるものと判定され、かつ、前記人員保護装置が起動される場合に、該人員保護装置の起動のタイミングを前方衝突の場合に比べて遅らせることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の衝突検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−220803(P2009−220803A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10722(P2009−10722)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】