説明

衝突物判別装置、保護装置

【課題】 車両において衝突対象物の判別精度を高めるのに有効な衝突物判別装置を構築する。
【解決手段】 車両に装着される衝突物判別装置100は、車両の車幅にわたって長手状に延在し、衝突対象物の衝突を受ける受衝部材120と、受衝部材120の車両衝突時の移動速度及び加速度を検出する検出センサ130と、検出センサ130による検出情報に基づいて最大移動速度及び最大加速度を導出し、これら最大移動速度と最大加速度との相関に基づいて衝突対象物を判別する制御ユニット160とによって構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に衝突した衝突対象物を判別する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に衝突した衝突対象物が歩行者か否かを判定しようとする技術が種々提案されている。例えば、下記特許文献1には、車両の車速と、車両に作用する前後方向加速度とに基づいて衝突対象物を判別しようとする衝突物判別装置が開示されているが、この種の衝突物判別装置においては、車両衝突の際の車両乗員や歩行者の保護徹底を図るべく、衝突対象物の判別精度を高める技術を構築する要請が高い。
【特許文献1】特開平10−194158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、車両において衝突対象物の判別精度を高めるのに有効な衝突物判別装置を構築することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明が構成される。なお、本発明は、自動車をはじめ、電車、船舶等の各種の車両において、車両衝突時において衝突対象物の判別を行う技術に適用可能である。
【0005】
(本発明の第1発明)
前記課題を解決する本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの、車両が衝突した衝突対象物を判別する衝突物判別装置である。請求項1に記載のこの衝突物判別装置は、車両に装着される装置であり、少なくとも受衝部、検出手段、第1の導出手段、第2の導出手段、衝突物判別手段を備える。
【0006】
本発明の受衝部は、車両の前部または後部において車幅にわたって長手状に延在し、衝突対象物の衝突を受ける機能を有する。この受衝部の具体例としては、車両の外周部に位置する低剛性のフロントバンパカバーやリアバンパカバー、また、各バンパカバーとバンパフレームとの間に介在する高剛性の受衝部材等が挙げられる。この受衝部は、車両衝突の際、その衝撃によって車両内方側へと変形しつつ移動する。従って、受衝部のこの移動速度は、当該受衝部の変形速度に合致する。
【0007】
本発明の検出手段は、受衝部の車両衝突時の移動速度及び加速度の少なくとも一方を検出する機能を有する手段である。すなわち、この検出手段には、移動速度または加速度を検出する構成や、移動速度及び加速度の両方を検出する構成が包含される。典型的には、受衝部に取り付けられた速度検出センサや加速度検出センサを用いてこの検出手段が構成される。これにより、車両衝突時に車両内方側へと変形し移動する受衝部の移動速度及び加速度の少なくとも一方が検出されることとなる。なお、ここでいう「加速度」には、加速度自体のみならず、移動速度をもとに得られる単位時間当たりの速度変化率が包含される。
【0008】
本発明の第1の導出手段は、検出手段による検出情報に基づいて、受衝部の最大移動速度を導出する機能を有する手段である。典型的には、検出手段としての速度検出センサからの信号をもとに演算処理を行う演算装置を用いてこの第1の導出手段が構成される。これにより、車両衝突時における受衝部の最大移動速度が導出されることとなる。この「最大移動速度」は、検出手段としての速度検出センサにより検出された移動速度を用いて導出されてもよいし、或いは検出手段としての加速度検出センサにより検出された加速度の積分によって得られる移動速度を用いて導出されてもよい。
【0009】
本発明の第2の導出手段は、検出手段による検出情報に基づいて、受衝部の最大加速度を導出する機能を有する手段である。典型的には、検出手段としての加速度検出センサからの信号をもとに演算処理を行う演算装置を用いてこの第2の導出手段が構成される。これにより、車両衝突時における受衝部の最大加速度が導出されることとなる。なお、ここでいう「最大加速度」には、加速度の最大値のみならず、移動速度をもとに得られる単位時間当たりの速度変化率の最大値が包含される。この最大加速度は、検出手段としての速度検出センサにより検出された移動速度の微分によって得られる単位時間当たりの速度変化率を用いて導出されてもよいし、或いは検出手段としての加速度検出センサにより検出された加速度を用いて導出されてもよい。
【0010】
本発明の衝突物判別手段は、第1の導出手段が導出した最大移動速度と、第2の導出手段が導出した最大加速度との相関に基づいて衝突対象物を判別する機能を有する手段である。これにより、衝突対象物が例えば人(歩行者)であるのか物(ガードレール、電柱、車両など)であるのかという判別を行うことが可能となる。ここでいう「衝突対象物を判別する」との具体的な態様としては、受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関に基づいて、衝突対象物が人(歩行者)であるか否かを判定する態様を採用することができる。この場合、衝突対象物を人でないと判定したとき、当該衝突対象物を人以外であるとみなす構成であり、衝突対象物が人か否かの判定によって、実質的に衝突対象物の判別が行われることとなる。
【0011】
一般的に、車両が衝突対象物に衝突したとき、通常走行時では発生しないような加速度が生じる。例えば、車両が人に衝突した場合、人の質量はガードレール等の固定物や重量物と比べて相当に小さいから、受衝部の移動速度や加速度は、固定物や重量物よりも小さくなる。その場合、衝突対象物が人か物かで、受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関に顕著な違いがあらわれる。そこで、本発明では、車両の各部位のうち特に車両衝突時の衝撃を直接的かつ車幅にわたる広範囲で受衝する受衝部に関し、当該受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関に基づいて衝突対象物を判別するように構成したのである。好ましくは、所定の衝突対象物を用いた車両衝突テストや、人を想定した衝突シミュレーションを行い、当該車両衝突テストや衝突シミュレーションにおける受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関に関するデータを収集しておき、このデータを実際の車両衝突時において検出される受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関と比較することによって、衝突対象物を判別する構成を用いる。このような構成によれば、車両衝突時の受衝部の動作に基づいて衝突対象物を判別するため、受衝部の各部位における衝突対象物の衝突位置に関わらず、当該衝突対象物の判別精度を高めることが可能とされる。
【0012】
(本発明の第2発明)
また、前記課題を解決する本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの、車両が衝突した衝突対象物を判別する衝突物判別装置である。請求項2に記載のこの衝突物判別装置では、請求項1に記載の衝突物判別手段は、第1の導出手段が導出した最大移動速度と、第2の導出手段が導出した最大加速度との相関が基準領域内にあることを条件に衝突対象物を人と判別するように構成される。この基準領域の設定に関しては、衝突対象物としての人を模した人形を用いた車両衝突テストや、人を想定した衝突シミュレーションを行い、当該車両衝突テストや衝突シミュレーションにおいて得られる受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関に関するデータを用いる構成や、車両衝突テスト以外からの情報から得られる受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関に関するデータを用いる構成を採用することができる。そして、当該データを実際の車両衝突時において検出される受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関と比較することによって、衝突対象物を人と判別することができる。このような構成によれば、衝突対象物が人であることの判別精度を高めることが可能となり、当該判別結果を人(歩行者)の保護制御に反映させることができる。
【0013】
(本発明の第3発明)
また、前記課題を解決する本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの衝突物判別装置である。請求項3に記載のこの衝突物判別装置では、請求項2に記載の基準領域は、衝突対象物としての人を模した人形(いわゆる「ダミー人形」と称呼される人形)を用いて予め実施した車両衝突テストや、人を想定して予め実施した衝突シミュレーションにおいて、車両衝突発生時において得られる人形や人の最大移動速度と最大加速度との相関に基づいて設定される。そして、実際の車両衝突時において検出される受衝部の最大移動速度と最大加速度との相関が、予め実施した車両衝突テストや衝突シミュレーションにおいて得られた基準領域内にある場合に、衝突対象物を人と判別することができる。このような構成によれば、衝突対象物が人であるという判別の信頼性を高めることが可能となる。
【0014】
(本発明の第4発明)
また、前記課題を解決する本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの衝突物判別装置である。請求項4に記載のこの衝突物判別装置では、請求項3に記載の基準領域は、人形の最大移動速度と最大加速度との相関に加え、更に車両衝突発生時から当該人形に作用する加速度が最大となるときの車両衝突発生時からの経過時間に基づいて設定される。このような構成によれば、突対象物が人であることの判別精度を高め、信頼性を向上させることが可能となる。
【0015】
(本発明の第5発明)
また、前記課題を解決する本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの衝突物判別装置である。請求項5に記載のこの衝突物判別装置では、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の受衝部は、車幅にわたって長手状に延在する高剛性の受衝部材を用いて構成されている。このような構成によれば、車両衝突時に高剛性の受衝部材の受ける衝撃が、当該受衝部材全体に及ぶこととなるため、車幅方向に延在する受衝部において、衝突対象物の衝突位置に関わらず当該衝突対象物の判別精度をより高めることが可能とされる。
【0016】
(本発明の第6発明)
また、前記課題を解決する本発明の第6発明は、請求項6に記載されたとおりの衝突物判別装置である。請求項6に記載のこの衝突物判別装置では、請求項5に記載の受衝部は、受衝部材よりも車両外方側に緩衝部材を備える。本構成は、受衝部が車両の前部に設置される場合に受衝部材よりも車両前方側に緩衝部材を設ける態様や、受衝部が車両の後部に設置される場合に受衝部材よりも車両後方側に緩衝部材を設ける態様を包含する。この緩衝部材により、車両の受ける衝撃が分散された状態で受衝部材に均一に作用することとなる。従って、車両衝突が受衝部材の動作に確実に反映されることとなり、衝突対象物の判別精度を更に高めることが可能とされる。
【0017】
(本発明の第7発明)
また、前記課題を解決する本発明の第7発明は、請求項7に記載されたとおりの保護装置である。請求項7に記載のこの保護装置は、車両衝突時に作動して車両乗員または歩行者を保護し安全を図るための装置である。本発明においてこの保護装置は、前記の請求項1〜6(本発明の第1〜第6発明)のいずれかに記載の衝突物判別装置における衝突対象物の判別結果に基づいて作動するように構成されている。例えば、衝突対象物が人(歩行者)であると判別した場合に、保護装置は車両乗員や歩行者を保護するべく作動する。この「保護装置」には、車両乗員の保護を図るべく、運転席のハンドル、助手席のダッシュボード、ドアトリム、シート、ピラー等に内蔵された各種のエアバッグや、シートベルトに予め所定の張力を付与するプリテンショナ、また、歩行者の保護を図るべく、車両ボンネットを上方へ跳ね上げる装置や、保護パッド部材やエアバッグを歩行者に作用させる装置などが包含される。
このような構成によれば、車両衝突時における衝突対象物の判別精度が高い状態で保護装置が作動することとなり、車両乗員や歩行者の保護徹底が図られる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、特に車両の前部または後部において車幅にわたって長手状に延在する受衝部の、車両衝突時の最大移動速度と最大加速度との相関に基づいて衝突対象物を判別する構成によって、衝突対象物の判別精度を高めるのに有効な技術を実現することが可能とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、図1及び図2を参照しながら、本発明における「衝突物判別装置」の一実施の形態である衝突物判別装置100の構成について説明する。なお、本実施の形態は、自動車の車両101に装着される衝突物判別装置100について説明するものである。
【0020】
本発明における一実施の形態の衝突物判別装置100の概略構成が図1に示され、図1中の車両101のA−A線における断面構造が図2に示される。
【0021】
図1に示す車両101には、フロントバンパ110、リアバンパ112、受衝部材120、検出センサ130、第1緩衝部材140、第2緩衝部材150、制御ユニット160、乗員保護装置170、歩行者保護装置180等が設けられている。なお、本実施の形態では、受衝部材120、検出センサ130、制御ユニット160を主体にして衝突物判別装置100が構成されている。
【0022】
図2に示すように、フロントバンパ110は、バンパフレーム110a、このバンパフレーム110aの車両前方を覆う樹脂製のバンパカバー110bを備える。このバンパフレーム110aとバンパカバー110bとによって区画される領域に、受衝部材120、検出センサ130、第1緩衝部材140、第2緩衝部材150が設けられている。
【0023】
受衝部材120は、フロントバンパ110に沿って長手状に延在する高剛性の部材である。この受衝部材120が、本発明における「受衝部」また「受衝部材」を構成する。第1緩衝部材140は、受衝部材120の車両後方側に配置されて、車両衝突時において受衝部材120に作用する衝撃を緩和する低剛性の部材である。検出センサ130は、受衝部材120と第1緩衝部材140との間において受衝部材120の車両後方側に設置され、車両衝突時における受衝部材120の移動速度や加速度といった動作に関する情報を検出する機能を有するセンサである。この検出センサ130は、移動速度及び加速度を検出する検出手段であり、本発明における「検出手段」を構成する。第2緩衝部材150は、バンパカバー110bとバンパフレーム110aとの間において受衝部材120よりも車両前方側まで延出して配置されて、車両衝突時においてフロントバンパ110に作用する衝撃を緩和する低剛性の部材である。この第2緩衝部材150が、本発明における「緩衝部材」を構成する。
【0024】
図1に戻って、制御ユニット160は、既知の構成のCPU(演算装置)162、ROM164、RAM166等を備え、検出センサ130による検出情報に基づいて、各種の演算処理、記憶処理を行うとともに、乗員保護装置170及び歩行者保護装置180へ制御信号を出力する機能を有する。また、詳細については後述するが、この制御ユニット160は、検出センサ130による検出情報に基づいて受衝部材120の最大移動速度や最大加速度を導出するとともに、衝突対象物を判別する機能を有する手段であり、本発明における「第1の導出手段」、「第2の導出手段」、「衝突物判別手段」を構成する。
【0025】
乗員保護装置170は、車両衝突時において車両乗員を保護する機能を有する装置であり、運転席のハンドル、助手席のダッシュボード、ドアトリム、シート、ピラー等に内蔵された各種のエアバッグや、シートベルトに予め所定の張力を付与するプリテンショナなどを用いて構成される。制御ユニット160は、車両衝突時にエアバッグ装置によって乗員保護を図るべく、乗員保護装置170を作動させる制御を行う。歩行者保護装置180は、車両衝突時において歩行者を保護する機能を有する装置であり、歩行者保護領域へ向けて移動する歩行者保護部材等を用いて構成される。一例として、車両が歩行者に衝突したとき、歩行者保護部材としての車両ボンネットを上方へ跳ね上げる構成や、歩行者保護部材としての保護パッド部材を歩行者に作用させる構成を採用することによって、歩行者が受ける衝撃を緩和することが可能である。
【0026】
ここで、車両衝突時における車両101の動作を図3及び図4を参照しながら説明する。図3には、歩行者の1本の足がフロントバンパ110に衝突したときの車両の状態が示され、歩行者の2本の足がフロントバンパ110に衝突したときの車両の状態が示される。
【0027】
いま、フロントバンパ110の左右中央位置に歩行者の足が衝突した場合を想定する。この場合、図3及び図4に示すように、歩行者の足の衝突によってフロントバンパ110のバンパカバー110bが変形するとともに、第2緩衝部材150が衝撃を緩和しつつ変形する。このときの衝撃は、第2緩衝部材150によって分散された後、受衝部材120全体にほぼ均一に作用することとなり、当該受衝部材120は、図3の場合と図4の場合と同様の挙動で図中矢印方向へ平行移動する。また、本構成により、バンパカバー110bの各部位のうち衝突対象物が衝突する部位に関わらず受衝部材120の挙動が同様となる。このように、本実施の形態では、バンパカバー110bとバンパフレーム110aとの間に低剛性の第2緩衝部材150を介在させることによって、受衝部材120の挙動を安定化させることが可能となる。
【0028】
次に、車両衝突時における「車両衝突時制御」を図5〜図11を参照しながら説明する。なお、本実施の形態の「車両衝突時制御」は、上記構成の制御ユニット160が行う。
【0029】
〔車両衝突時制御〕
図5には「車両衝突時制御」のフローチャートが示される。本実施の形態の「車両衝突時制御」は、図5に示すこのフローチャートの各ステップを順次実施することによって遂行される。
まず、図5中のステップS10として示す「データ収集処理A」、または図5中のステップS30として示す「データ収集処理B」では、予め行う車両衝突テストにおいてデータを収集する処理を行う。これら2種類のデータ収集処理は、その両方を車両衝突テストにおいてあわせて実施してもよいし、あるいはいずれか一方の処理のみを実施してもよい。次に、図5中のステップS50として示す「衝突対象物判別処理」では、ステップS10やステップS30で収集したデータを実際の車両衝突時のデータに反映させたうえで、衝突対象物を判別する処理を行う。そして、図5中のステップS70として示す「乗員/歩行者保護処理」では、ステップS50における判別結果に基づいて、乗員や歩行者を保護するための処理を行う。
【0030】
〔データ収集処理A〕
図5中のステップS10として示す「データ収集処理A」は、具体的には図6に示すフローチャートの各ステップ(ステップS12〜S20)を順次実施することによって遂行される。
まず、図6中のステップS12によって車両衝突テストを実施する。この車両衝突テストでは、衝突対象物として人を模したダミー人形、及び図1に示す構成の車両101を模した車両を用い、当該車両をダミー人形に衝突させるテストを行う。このダミー人形が、本発明における「人を模した人形」に対応している。次に、図6中のステップS14によって、車両衝突時における受衝部材120の移動速度V及び加速度Gの経時変化データを計測する。なお、この加速度Gにかえて移動速度Vの単位時間あたりの移動速度変化率を用いるようにしてもよい。そして、図6中のステップS16によって、車両衝突テスト時におけるダミー人形の最大移動速度Vを取得し、この最大移動速度Vに基づいて基準値VMMを設定するともに、車両衝突テスト時におけるダミー人形の最大加速度Gを取得し、この最大加速度Gに基づいて基準値GMMを設定する。また、図6中のステップS18によって、車速に対応した最大移動速度幅(VMML〜VMMH)及び最大加速度幅(GMML〜GMMH)を設定する。なお、これら最大移動速度幅(VMML〜VMMH)及び最大加速度幅(GMML〜GMMH)は、受衝部材120の構成や物性、また固体差などにより具体的に設定される。そして、図6中のステップS20では、上記ステップS16〜ステップS18において設定した各種の収集データに基づいて、最大移動速度Vと最大加速度Gとの相関を示す相関マップAを取得し、記憶する。
【0031】
ここで、上記ステップS20において取得、記憶される相関マップAの一例が図10に示される。図10に示すように、本実施の形態では、相関マップAにおいて、最大移動速度幅(VMML〜VMMH)及び最大加速度幅(GMML〜GMMH)によって区画される領域(図10中の斜線領域)を、衝突対象物が人(歩行者)であると判別する領域として規定する。この相関マップAは、車両衝突時におけるダミー人形の最大移動速度と最大加速度とのの相関を示すものであり、この相関マップA中の斜線領域が、本発明における「基準領域」に相当する。
【0032】
〔データ収集処理B〕
図5中のステップS30として示す「データ収集処理B」は、具体的には図7に示すフローチャートの各ステップ(ステップS32〜S46)を順次実施することによって遂行される。
まず、図6中のステップS12と同様にして、図7中のステップS32によって車両衝突テストを実施し、図7中のステップS34によって車両衝突時における受衝部材120の移動速度V及び加速度Gの経時変化データを計測する。また、図7中のステップS36及びステップS38では、図6中のステップS16及びステップS18と同様の処理を行う。すなわち、図7中のステップS36によって、車両衝突テスト時におけるダミー人形の最大移動速度Vを取得し、この最大移動速度Vに基づいて基準値VMMを設定するともに、車両衝突テスト時におけるダミー人形の最大加速度Gを取得し、この最大加速度Gに基づいて基準値GMMを設定する。また、図7中のステップS38によって、車速に対応した最大移動速度幅(VMML〜VMMH)及び最大加速度幅(GMML〜GMMH)を設定する。次に、図7中のステップS40によって、受衝部材120の移動速度Vが最大となる経過時間を基準時間Tとして設定し、引き続き図7中のステップS42によって、時間Tの規準値TGMを設定する。このときの時間Tは、基準時間T以下の経過時間であって、受衝部材120の加速度Gが最大となる時間として規定される。また、図7中のステップS44では、ステップS42において設定した時間TGMの時間幅(TGL〜TGH)を設定する。このとき、時間幅の一方を規定する時間TGLは、最大移動速度がVMMHとなり、且つ最大加速度がGMMHとなるときの時間に対応しており、時間幅の他方を規定する時間TGHは、最大移動速度がVMMLとなり、且つ最大加速度がGMMLとなるときの時間に対応している。そして、図7中のステップS46では、上記ステップS36〜ステップS44において設定した各種の収集データに基づいて、最大移動速度Vと最大加速度Gと、及び時間Tとの相関を示す相関マップB−1を取得し、記憶する。
【0033】
ここで、上記ステップS46において取得、記憶される相関マップB−1の一例が図11に示される。図11に示すように、本実施の形態では、相関マップB−1において、時間幅(TGL〜TGH)によって区画される領域(図11中の斜線領域)を、衝突対象物が人(歩行者)であると判別する領域として規定する。この相関マップB−1は、車両衝突時におけるダミー人形の最大移動速度と最大加速度、更には車両衝突時からの経過時間の相関を示すものであり、この相関マップB−1中の斜線領域が、本発明における「基準領域」に相当する。
【0034】
なお、本発明では、上記ステップS46において記憶する図11中の相関マップB−1にかえて、図12に示す相関マップB−2や、図13に示す相関マップB−3を用いることもできる。
まず、図12中の相関マップB−2では、最大加速度幅(GMML〜GMMH)によって区画される領域と、時間幅(TGL〜TGH)によって区画される領域の両方を満足する領域(図12中の斜線領域)を、衝突対象物が人(歩行者)であると判別する領域として規定する。また、図13中の相関マップB−3では、最大移動速度幅(VMML〜VMMH)よって区画される領域、最大加速度幅(GMML〜GMMH)によって区画される領域、時間幅(TGL〜TGH)によって区画される領域の全てを満足する領域(図13中の斜線領域)を、衝突対象物が人(歩行者)であると判別する領域として規定する。これら相関マップB−2及び相関マップB−3は、いずれも車両衝突時におけるダミー人形の最大移動速度と最大加速度、更には車両衝突時からの経過時間の相関を示すものであり、これら相関マップB−2及び相関マップB−3中の斜線領域が、本発明における「基準領域」に相当する。なお、相関マップB−1、B−2、B−3に関しては、B−1よりもB−2の方が、更にB−2よりもB−3の方が斜線領域が狭くなっており、特に相関マップB−3を用いることによって、衝突対象物が人であるという判別の信頼性が最も高まることとなる。
【0035】
〔衝突対象物判別処理〕
図5中のステップS50として示す「衝突対象物判別処理」は、具体的には図8に示すフローチャートの各ステップ(ステップS52〜S62)を順次実施することによって遂行される。
まず、衝突事故発生時に図8中のステップS52によってタイマによる計測を開始する。この衝突事故発生時の時間T(経過時間)が0(ゼロ)に設定される。なお、この衝突事故発生は、自車両に作用する3軸(X軸、Y軸、Z軸)方向の加速度を検出する加速度センサを用いる行うことができる。次に、図8中のステップS54によって、車両衝突時における受衝部材120の実際の移動速度V及び加速度Gを検出する。これら移動速度V及び加速度Gの検出に際しては、検出センサ130として既知の構成の速度センサ及び加速度センサを用いる。次に、図8中のステップS56では、ステップS54において検出した移動速度V及び加速度Gに基づいて、受衝部材120の最大移動速度V及び最大加速度Gを取得する。そして、図8中のステップS58、ステップS60及びステップS62では、図6中のステップS20において予め記憶されている相関マップA、あるいは図7中のステップS46において予め記憶されている相関マップB−1(または、相関マップB−2や相関マップB−3)に基づいて、衝突対象物を判別する。すなわち、ステップS58では、ステップS56において取得した最大移動速度V及び最大加速度Gが、図10に示す相関マップAまたは図11に示す相関マップB−1(または、図12中の相関マップB−2や図13中の相関マップB−3)の基準領域(図中の斜線で示す領域)内にあるか否かを判定する。これら最大移動速度V及び最大加速度Gが基準領域内にあると判定した場合(ステップS58のYES)に、衝突対象物が歩行者であると判別し(ステップS60)、そうでないと判定した場合(ステップS58のNO)に、衝突対象物が物であると判別する(ステップS62)。このように、本実施の形態の「衝突対象物判別処理」では、衝突対象物が人か否かの判定によって、実質的に衝突対象物の判別が行われることとなる。
【0036】
〔乗員/歩行者保護処理〕
図5中のステップS70として示す「乗員/歩行者保護処理」は、具体的には図9に示すフローチャートの各ステップを順次実施することによって遂行される。
まず、図9中のステップS72では、図8中のステップS60,S62において判別した判別結果に基づき、衝突対象物が歩行者である場合にステップS74にすすみ、そうでない(衝突対象物が物である)場合にステップS76にすすむ。ステップS74では、乗員保護装置170及び歩行者保護装置180を作動させるべく、当該乗員保護装置170及び歩行者保護装置180に対し作動制御信号を出力し、また、ステップS76では、乗員保護装置170を作動させるべく、当該乗員保護装置170に対し作動制御信号を出力する。このとき、乗員保護装置170を構成するエアバッグが、乗員保護領域に展開膨張するとともに、歩行者保護装置180を構成する歩行者保護部材が、歩行者保護領域へ向けて移動する。かくして、車両事故の際の車両乗員や歩行者の保護徹底が図られる。
【0037】
このように、本実施の形態の乗員保護装置170や歩行者保護装置180は、車両衝突時に衝突対象物の判別結果に基づいて車両乗員や歩行者の保護を図るべく作動する保護装置であり、本発明における「保護装置」に対応している。また、これら乗員保護装置170や歩行者保護装置180を衝突物判別装置100と組み合わせて、本発明の「保護装置」を構成することもできる。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、車両衝突時の受衝部材120の動作に基づいて衝突対象物を人(歩行者)と判別するため、受衝部材120の各部位における人の衝突位置に関わらず、当該人の判別精度を高めることが可能となる。そして、この判別結果を人(歩行者)の保護徹底を図る歩行者保護装置180の制御に反映させることができる。
特に、本実施の形態では、実際の車両衝突時において検出される受衝部の最大移動速度V、最大加速度G、更には車両衝突発生時から当該人形に作用する加速度が最大となるときの車両衝突発生時からの経過時間Tによる相関が、予め実施した車両衝突テストにおいて得られた基準領域内にある場合に、衝突対象物を人と判別するため、衝突対象物が人であるという判別の信頼性を高めることが可能となる。特に、「データ収集処理B」によって得られる相関マップB−1(または相関マップB−2や相関マップB−3)を用いることによって、「データ収集処理A」によって得られる相関マップAを用いる場合よりも更なる信頼性向上を図ることが可能となる。また、相関マップB−1、B−2、B−3の中でも特に相関マップB−3を用いることによって、最も信頼性向上を図ることが可能となる。
【0039】
また、本実施の形態によれば、衝突対象物の判別を、基準経過時間T以下の時間によって迅速に行うことが可能となる。特に、ダミー人形を用いて予め実施する車両衝突において基準経過時間Tを設定するため、衝突対象物を人と判別する場合の信頼性が高まる。そして、この判別結果を人(歩行者)の保護徹底を図る歩行者保護装置180の制御に反映させることができる。また、衝突対象物の判別を迅速に行う構成によれば、乗員保護装置170の動作を比較的ゆっくりとしたものとすることが可能であり、例えば、乗員保護装置170を構成するエアバッグ用インフレータとして低出力ものを用いることが可能となる。また、車両衝突の激しさに応じてエアバッグ内圧やプリテンショナの巻き取り量を制御することも可能となる。
【0040】
また、本実施の形態によれば、車両衝突時に高剛性の受衝部材120の受ける衝撃が、当該受衝部材120全体に及ぶこととなるため、車幅方向に延在する受衝部において、衝突対象物の衝突位置に関わらず当該衝突対象物の判別精度をより高めることが可能とされる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、受衝部材120よりも車両前方側まで第2緩衝部材150を延出させて配置することによって、車両の受ける衝撃が分散された状態で受衝部材120に均一に作用することとなるため、車両衝突が受衝部材120の動作に確実に反映されることとなり、衝突対象物の判別精度を更に高めることが可能とされる。
【0042】
(他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0043】
上記実施の形態では、受衝部材120の車両後方側に検出センサ130を設け、車両衝突時における当該受衝部材120の動作を検出する構成について記載したが、本発明では、受衝部材120と同様の車幅にわたって長手状に延在するバンパカバー110bに検出センサ130を設け、車両衝突時における当該バンパカバー110bの動作を検出するように構成してもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、図2参照のフロントバンパ110の構成を用いる場合について記載したが、本発明では、図14に示すように、バンパカバーとフレーム102との間に低剛性の第2緩衝部材150を介在させない構成のフロントバンパ210を採用することもできる。
【0045】
また、上記実施の形態では、衝突対象物が人であるか否かの判定によって、当該衝突対象物を実質的に判別する場合について記載したが、本発明では、衝突対象物が人であるか、あるいは特定の物であるかを直接的に判別するように構成することもできる。
【0046】
また、上記実施の形態では、車両の前方衝突に関し衝突対象物を判別する場合について記載したが、車両の後方衝突に関し衝突対象物を判別する技術に本発明を適用することもできる。
【0047】
また、上記実施の形態では、ダミー人形による車両衝突テストの実施によってデータ収集を行なう場合について記載したが、本発明では、人を想定した衝突シミュレーションなどの実施によってデータ収集を行なうようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、受衝部材120の移動速度の検出情報に基づいて最大移動速度を導出し、受衝部材120の加速度の検出情報に基づいて最大加速度を導出する場合について記載したが、本発明では、最大移動速度及び最大加速度の導出に際しては、移動速度及び加速度の少なくとも一方を検出する構成であれば足り、速度センサと加速度センサのいずれか一方を用いて移動速度または加速度が検出されるように構成してもよい。具体的には、検出センサが移動速度のみを検出する構成において、検出した移動速度から最大移動速度を導出する一方、検出した移動速度の微分によって得られる単位時間当たりの速度変化率から最大加速度を導出することができる。また、検出センサが加速度のみを検出する構成において、検出した加速度の積分によって移動速度を導出する一方、検出した加速度から最大加速度を導出することができる。
【0049】
また、上記実施の形態では、自動車に装着される衝突物判別装置の構成について記載したが、自動車以外の車両、例えば電車、船舶等の各種の車両において、本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明における一実施の形態の衝突物判別装置100の概略構成を示す図である。
【図2】図1中の車両101のA−A線における断面構造を示す図である。
【図3】歩行者の1本の足がフロントバンパ110に衝突したときの車両の状態を示す図である。
【図4】歩行者の2本の足がフロントバンパ110に衝突したときの車両の状態を示す図である。
【図5】「車両衝突時制御」のフローチャートである。
【図6】図5中の「データ収集処理A」のフローチャートである。
【図7】図5中の「データ収集処理B」のフローチャートである。
【図8】図5中の「衝突対象物判別処理」のフローチャートである。
【図9】図5中の「乗員/歩行者保護処理」のフローチャートである。
【図10】「データ収集処理A」において得られる相関マップAを示す図である。
【図11】「データ収集処理B」において得られる相関マップB−1を示す図である。
【図12】「データ収集処理B」において得られる相関マップB−2を示す図である。
【図13】「データ収集処理B」において得られる相関マップB−3を示す図である。
【図14】別の実施の形態のフロントバンパ210の断面構造を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
100…衝突物判別装置
101…車両
110…フロントバンパ
110a…バンパフレーム
110b…バンパカバー
112…リアバンパ
120…受衝部材
130…検出センサ
140…第1緩衝部材
150…第2緩衝部材
160…制御ユニット
170…乗員保護装置
180…歩行者保護装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が衝突した衝突対象物を判別する衝突物判別装置であって、
車両の前部または後部において車幅にわたって長手状に延在し、衝突対象物の衝突を受ける受衝部と、
前記受衝部の車両衝突時の移動速度及び加速度の少なくとも一方を検出する検出手段と、
前記検出手段による検出情報に基づいて最大移動速度を導出する第1の導出手段と、
前記加速度検出手段による検出情報に基づいて最大加速度を導出する第2の導出手段と、
前記第1の導出手段が導出した最大移動速度と、前記第2の導出手段が導出した最大加速度との相関に基づいて前記衝突対象物を判別する衝突物判別手段と、
を備えることを特徴とする衝突物判別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝突物判別装置であって、
衝突物判別手段は、前記第1の導出手段が導出した最大移動速度と、前記第2の導出手段が導出した最大加速度との相関が基準領域内にあることを条件に前記衝突対象物を人と判別することを特徴とする衝突物判別装置。
【請求項3】
請求項2に記載の衝突物判別装置であって、
前記基準範囲は、人を模した人形を用いて予め実施した車両衝突テストにおいて、前記人形の車両衝突発生時において得られる当該人形の最大移動速度と最大加速度との相関に基づいて設定されることを特徴とする衝突物判別装置。
【請求項4】
請求項3に記載の衝突物判別装置であって、
前記基準領域は、前記人形の最大移動速度と最大加速度との相関に加え、更に車両衝突発生時から当該人形に作用する加速度が最大となるときの車両衝突発生時からの経過時間に基づいて設定されることを特徴とする衝突物判別装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の衝突物判別装置であって、
前記受衝部は、車幅にわたって長手状に延在する高剛性の受衝部材を用いて構成されていることを特徴とする衝突物判別装置。
【請求項6】
請求項5に記載の衝突物判別装置であって、
前記受衝部は、前記受衝部材よりも車両外方側に緩衝部材を備えることを特徴とする衝突物判別装置。
【請求項7】
車両衝突時に作動して車両乗員または歩行者を保護する保護装置であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の衝突物判別装置における衝突対象物の判別結果に基づいて作動するように構成されていることを特徴とする保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−88757(P2006−88757A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273436(P2004−273436)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000108591)タカタ株式会社 (111)
【Fターム(参考)】