説明

衝突被害軽減制動制御装置

【課題】衝突発生時の被害の軽減化を図りつつ自動制動による操作性の低下の抑制を図る上で有利な衝突被害軽減制動制御装置を提供する。
【解決手段】制動制御手段44は、衝突判断手段40によって衝突が不可避であると判断された場合に、ブレーキアクチュエータ34を介してブレーキ装置32を作動させ、自車両2の自動制動を実行するものである。また、制動制御手段44は、車線逸脱判断手段36により自車両2が逸脱傾向にあると判断され、かつ、衝突可能性判断手段38により衝突可能性有りと判断されるという自動制動早期化条件が成立した場合に、衝突判断手段40の判断結果を待つことなく自動制動を実行するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自車両が前方に衝突した場合の被害を軽減する衝突被害軽減制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両と、該自車両の前方に位置する先行車両などの障害物との間の相対距離および相対速度などを検出し、自車両と障害物との衝突の有無を予測し、衝突が不可避と判断されたときに自車両の制動を自動的に実行する衝突被害軽減制動制御装置が提案されている(特許文献1参照)。衝突が不可避であるか否かの判断基準は、国土交通省発行の技術指針に規定された衝突判断ラインに基づいてなされている。衝突判断ラインは衝突判断マップで説明される。衝突判断マップは、横軸に相対速度をとり、縦軸に相対距離をとったものであり、操舵操作によって衝突を回避できる操舵回避限界ラインと、制動操作によって衝突を回避できる制動回避限界ラインとが引かれている。衝突判断マップ上において、操舵回避限界ラインと制動回避限界ラインとのうち限界値(相対距離)がより小さい方のラインを結んだ線を衝突判断ラインとする。したがって、検出された相対距離および相対速度で特定される点が衝突判断マップ上において衝突判断ラインを下回ったときに、自車両と前方の障害物との衝突が不可避であると判断されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−216737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、衝突が発生した場合の被害をなるべく軽減するという観点からは、衝突が不可避と判断される以前に、言い換えると、衝突する可能性が有りと判断された時点で早期に自動制動をかけることが好ましいと考えられる。そのため、上記の技術指針においては、衝突判断ラインとは別に、通常の操舵操作あるいは通常の制動操作によって衝突が回避可能な限界値に基づいて定められた衝突可能性判断ラインが規定されており、衝突可能性判断ラインの値は、衝突判断ラインよりも限界値が大きく設定されている。そして、検出された相対距離および相対速度で特定される点が衝突判断マップ上において衝突可能性判断ラインを下回ったときに自動制動を実行しても良いとされている。しかしながら、自車両と先行車両との間の相対距離がある程度確保されており、あるいは、相対速度がある程度遅く、したがって、通常の操舵操作、あるいは、通常の制動操作によって衝突を回避できる場合に、上記のような自動制動が早期に実行されてしまうと、運転者の運転操作が邪魔されることになり、運転者にわずらわしさを与え、操作性の低下を招く不都合がある。したがって、従来の衝突被害軽減制動制御装置では、操作性の低下を回避することを優先して前記の衝突判断ラインを用いた判断に基づいて自動制動を実行するものが多い。そのため、衝突被害をなるべく軽減するという観点から見ると改善の余地がある。本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、衝突発生時の被害の軽減化を図りつつ自動制動による操作性の低下の抑制を図る上で有利な衝突被害軽減制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、自車両の前方の障害物との間の相対距離と、前記自車両と前記障害物との間の相対速度とを検出する障害物検出手段と、前記検出された相対距離、相対速度に基づいて前記自車両と障害物との衝突の可能性の有無を判断する衝突可能性判断手段と、前記検出された相対距離、相対速度に基づいて前記自車両と障害物との衝突が不可避であるか否かを判断する衝突判断手段と、前記衝突が不可避であると判断された場合に、自車両の自動制動を実行する制動制御手段とを備える衝突被害軽減制動制御装置であって、走行車線に対する自車両の位置関係を示す自車両位置情報に基づいて前記自車両が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判断する車線逸脱判断手段を設け、前記制動制御手段は、前記逸脱傾向にあると判断され、かつ、前記衝突可能性有りと判断されるという自動制動早期化条件が成立した場合に、前記衝突判断手段の判断結果を待つことなく前記自動制動を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、自車両が走行車線から逸脱する傾向にあると判断され、かつ、衝突可能性有りと判断されるという自動制動早期化条件が成立した場合に、衝突することが不可避であるか否かの判断を待つことなく自動制動を実行し、自動制動早期化条件が不成立ならば、自車両が衝突することが不可避であると判断された場合に自動制動を実行する。したがって、自車両が逸脱傾向に有り衝突の可能性が有る場合にはより早期に自動制動を実行することで衝突発生時の被害の軽減化を図る上で有利となり、自車両が逸脱傾向ではない場合には自動制動が早期に実行されないため操作性の低下を抑制する上で有利となる。
【0007】
請求項2記載の発明によれば、自動制動早期化条件は、運転者による衝突回避操作が非実行であるという条件をさらに含むので、運転者が操舵操作あるいは制動操作による衝突回避操作を実行すれば、早期の自動制動が実行されず操作性を確保する上でより有利となる。請求項3記載の発明によれば、衝突の可能性有りと判断された場合に、衝突可能性が有りの旨を運転者に報知するようにしたので、衝突回避のための操舵操作、制動操作を運転者に的確に行わせる上で有利となる。請求項4記載の発明によれば、相対距離、相対速度に加えて横位置の情報に基づいて衝突可能性判断手段による衝突の可能性の有無の判断、衝突判断手段による衝突が不可避か否かの判断を行うので、それら判断をより的確に行う上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態に係る衝突被害軽減制動制御装置10が設けられた車両の制御系の構成を示すブロック図である。
【図2】車線逸脱判断手段36の構成を示すブロック図である。
【図3】横ずれ量yfと、ヨー角Θfと、道路曲率ρfとの導出手順を説明する図である。
【図4】衝突判断マップの一例を示す説明図である。
【図5】衝突判断マップ上の衝突判断ラインおよび衝突可能性判断ラインを示す説明図である。
【図6】衝突被害軽減制動制御装置10の動作フローチャートである。
【図7】自車両2の走行車線において自車両2の前方に先行車両4(障害物)が走行しているケースを示す説明図である。
【図8】自車両2の走行車線に隣接する車線において自車両2の前方に先行車両4が走行しており、かつ、自車両2が、先行車両4が走行する車線に逸脱する傾向となっているケースを示す説明図である。
【図9】自車両2の走行車線において自車両2の前方に先行車両4が走行しており、かつ、自車両2が隣接する車線に逸脱する傾向となっているケースを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態の衝突被害軽減制動制御装置について図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施の形態の衝突被害軽減制動制御装置10は車両2(以下自車両2という)に搭載され、前方カメラ12と、レーダ14と、インジケータ16と、ブザー18と、車速センサ20と、ハンドル角センサ22と、ヨーレートセンサ24と、ブレーキペダルセンサ26と、ECU28とを含んで構成されている。ECU28と、前方カメラ12、レーダ14、インジケータ16、ブザー18、各センサ20、22、24、26とは、それぞれCAN(Controller Area Network)バスなどを含むなどの従来公知のバス30を介して情報、データの授受を行う。また、車両2には、自車両2の制動を行うブレーキ装置32と、該ブレーキ装置32を駆動するブレーキアクチュエータ34とが設けられ、ブレーキアクチュエータ34はECU28によって制御される。
【0010】
前方カメラ12は、自車両2に設けられ、自車両2の前方の道路状態を撮像することにより画像情報を生成するものである。したがって、画像情報には、道路の走行車線(走行レーン)を区分する左右の境界線としての白線が含まれる。
【0011】
レーダ14は、ミリ波帯の電波、あるいは、レーザ光を照射波として自車両2の前方にスキャンして照射し、先行車両などの障害物で反射された反射波を受信し、照射波と反射波との電波強度の差、周波数の変化に基づいて、以下の3つのパラメータを障害物情報として検出し、これら3つのパラメータをECU28に供給するものである。本実施の形態において、レーダ14は、特許請求の範囲の障害物検出手段に相当する。図7、図8に例示すように、3つのパラメータは、1)自車両2の前方の先行車両4(障害物)との間の相対距離Drと、2)自車両2と先行車両4との間の相対速度Vrと、3)自車両2の幅方向の中心を通り前後方向に延在する中心線CLに対する先行車両4の相対位置である横位置Srである。
【0012】
インジケータ16は、車室内の例えばインストルメントパネルなどの適宜箇所に設けられ、警告表示を行うものである。警告表示としては、自車両2が走行車線を逸脱する傾向となったことを示す警告表示、衝突可能性有りと判断されたことを示す警告表示、自動制動動作を実行することを示す警告表示が例示される。このような警告表示として、例えば、ランプを点灯あるいは点滅させたり、あるいは、アイコンや文字、記号などを表示させるなど、従来公知のさまざまな表示が可能である。ブザー18は、車室内の例えばインストルメントパネルなどの適宜箇所に設けられ、警告音を鳴動させるものである。警告音としては、自車両2が走行車線を逸脱する傾向となったことを示す警告音、衝突可能性有りと判断されたことを示す警告音、自動制動動作を実行することを示す警告音が例示される。
【0013】
車速センサ20は、自車両2の走行速度Vを検出し、検出した走行速度VをECU28に供給するものである。ハンドル角センサ22は、図示しないステアリングの回転角度であるハンドル角(操舵角)を検出するものである。ヨーレートセンサ24は、自車両2のヨーレートを検出するものである。ブレーキペダルセンサ26は、ブレーキペダルの操作量を検出し、検出した操作量をECU28に供給するものである。
【0014】
ECU28は、CPU、制御プログラム等を格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成されており、前記制御プログラムを実行することにより動作する。ECU28は、前記CPUが動作することにより、車線逸脱判断手段36と、衝突可能性判断手段38と、衝突判断手段40と、報知制御手段42と、制動制御手段44とを実現する。
【0015】
車線逸脱判断手段36は、走行車線に対する自車両2の位置関係を示す自車両位置情報に基づいて自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判断するものである。なお、本明細書において、「自車両2が走行車線を逸脱する傾向にある」とは、自車両2が走行車線から2本の白線のうち一方の白線に近接していくような状態と、自車両2が白線を超えた状態(走行車線を逸脱した状態)とを含むものとする。本実施の形態では、車線逸脱判断手段36は、例えば、図2に示すように、白線認識部36Aと、横ずれ量推定部36Bと、ヨー角推定部36Cと、道路曲率推定部36Dと、判断部36Eとを含む。
【0016】
白線認識部36Aは、前方カメラ12により撮影された画像情報を処理して道路上の白線を認識するものである。この白線認識部36Aでは、撮影された画像情報に対して横方向に輝度変化を探索するなど公知の方法(例えば特開平11−147481号公報に開示されている)で画像内の白線を認識する。すなわち、白線認識部36Aでは、白線は他の道路面よりも輝度が高い点に着目して、画像の横方向に輝度変化の大きい個所が所定距離(白線の幅に相当する距離)以内に2点並んでいたらこの間に白線があるものと想定して、このような横方向への白線候補点の探索を画像の各上下位置において多数行なうことにより、自車両2前方の道路上の白線を遠方まで認識することができる。そして、例えば、画像を幾何学的に平面視状態に置き換えることにより、図3に示すように、自車両2前方の道路上の白線Lwを平面視で認識することができる。このようにして、自車両2前方の走行車線を規定する左右の白線Lwを認識できると、例えば左右の白線Lwの中点を結んだ直線又は曲線として自車両2前方の走行車線の中心線Lcを推定することができる。
【0017】
横ずれ量推定部36Bは、白線認識部36Aによって認識された白線Lwに基づいて、所定距離だけ前方における自車両2の走行車線内での横ずれ量yfを推定するものである。すなわち、横ずれ量推定部36Bでは、自車両2が現在の向きのまま所定距離前方まで直進した場合に自車両2の幅方向中心の走行車線の中心線Lcからの左右への横ずれ量(横ずれ距離)yfを、上記のように推定した走行車線(中心線Lc又は白線Lw)と自車両2との関係から推定する。この所定距離前方での自車両2の横ずれ量yfは、例えば、画像内の所定の高さ(自車両2の所定距離前方に相当する)における画像の左右中心と画像内の走行車線の中心線Lcとの位置関係から求めることもできる。ここで、横ずれ量yfは、走行車線に対する自車両2の位置関係を示す自車両位置情報である。
【0018】
ヨー角推定部36Cは、白線認識部36Aによって認識された白線Lwに基づいて、所定距離だけ前方における自車両2の走行車線方向に対するヨー角Θfを推定するものである。すなわち、ヨー角推定部36Cでは、自車両2が現在の向きのまま所定距離前方まで直進した場合における走行車線の方向と自車両2の方向との角度(ヨー角)Θfを、上記のように推定した走行車線(中心線Lc又は白線Lw)と自車両2との関係から推定する。このヨー角Θfは、例えば、上述のように認識した平面視状態での道路上の道路中心線Lc(或いは白線Lw)の方向と自車両2の方向とから算出できる。ここで、ヨー角Θfは、走行車線に対する自車両2の位置関係を示す自車両位置情報である。
【0019】
道路曲率推定部36Dは、白線認識部36A42によって認識された白線Lwに基づいて、所定距離だけ前方における走行車線の道路曲率ρfを推定するものである。すなわち、道路曲率推定部36D48では、所定距離前方における走行車線の道路曲率ρfを、上記のように推定した走行車線(中心線Lc又は白線Lw)の形状から推定する。
【0020】
判断部36Eは、横ずれ量推定部36Bで推定された横ずれ量yfと、ヨー角推定部36Cで推定されたヨー角Θfと、道路曲率推定部36Dで推定された道路曲率ρfと、車速センサ20で検出された自車両2の走行速度Vと、ハンドル角センサ22で検出された自車両2のハンドル角αと、ヨーレートセンサ24で検出された自車両2のヨーレイトrとから、自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定する。上述したように、判断部36Eは、走行車線に対する自車両2の位置関係を示す自車両位置情報としての横ずれ量yfおよびヨー角Θfに加えて、道路曲率ρfと、走行速度Vと、ハンドル角αと、ヨーレイトrとを加味して自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定する。なお、判断部36Eは、自車両位置情報としての横ずれ量yfおよびヨー角Θfのみに基づいて自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判定してもよいが、上述のようにすると、自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かの判定をより的確に得る上で有利となる。なお、車線逸脱判断手段36は、走行車線に対する自車両2の位置関係を示す自車両位置情報に基づいて自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判断するものであればよいのであり、車線逸脱判断手段36はこのような構成に限定されるものではなく、車線逸脱判断手段36として従来公知のさまざまな構成、方式のものが使用可能である。なお、運転者の意図した走行車線からの逸脱であるレーンチェンジ等を区別する必要がある。この場合には方向指示器の作動の有無やハンドル角αやヨーレイトrに閾値を設けて区別することができ、さらに地図情報や車車間通信、路車間通信等の従来公知のさまざまな構成、方式のものも使用可能である。
【0021】
衝突可能性判断手段38は、レーダ14(障害物検出手段)によって検出された相対距離Dr、相対速度Vr、横位置Srに基づいて自車両2と先行車両4との衝突の可能性の有無を判断するものである。衝突判断手段40は、検出された相対距離Dr、相対速度Vr、横位置Srに基づいて自車両2と先行車両4との衝突が不可避であるか否かを判断するものである。
【0022】
ここで、衝突の可能性の有無の判断、衝突が不可避であるか否かの判断方法ついて説明する。図4は、国土交通省発行の技術指針を元に記載した衝突判断マップの一例を示す説明図、図5は、衝突判断マップ上の衝突判断ラインおよび衝突可能性判断ラインを示す説明図である。図4、図5において、横軸は相対速度Vrであり、縦軸は相対距離Drである。図4において、実線の直線で示される操舵回避限界ラインは、操舵操作によって自車両2と前方の先行車両4との衝突を回避できる物理的な限界である相対速度Vr、相対距離Drを結んだ線である。実線の放物線で示される制動回避限界ラインは、制動操作によって自車両2と前方の先行車両4との衝突を回避できる物理的な限界である相対速度Vr、相対距離Drを結んだ線である。なお、操舵回避限界ラインは、衝突予測時間TTC(Time To Collision)に相対速度Vrを乗じた距離で規定されるものである。衝突予測時間TTCはある時点における自車両2と前方の障害物との相対距離Drを相対速度Vrで除したものである。前記の技術指針では乗車定員10人未満の乗用車、小型自動車のうち乗用自動車及び貨物自動者、軽自動車のうち乗用自動車及び貨物自動車においては衝突予測時間TTCを0.6秒として操舵回避限界ラインを規定しても良いと記載されている。操舵回避限界ラインおよび操舵回避限界ラインのうち相対距離Drがより小さい方を結んだ線が、図5に実線で示す衝突判断ラインLAである。したがって、衝突判断手段40は、図5において、相対速度Vrおよび相対距離Drで規定される点が衝突判断ラインLAを下回るか否かによって衝突が不可避であるか否かを判断する。
【0023】
また、図4において、一点鎖線の直線で示される線は、前記の操舵回避限界ラインに警報に対する反応時間(0.8秒)分の距離を加算したラインであり、言い換えると、通常の操舵操作によって自車両2と前方の先行車両4との衝突を回避できる限界である相対速度Vr、相対距離Drを結んだ線である。図4において、一点鎖線の放物線で示される線は、前記の制動回避限界ラインに警報に対する反応時間(0.8秒)分の距離を加算したラインであり、言い換えると、通常の制動操作によって自車両2と前方の先行車両4との衝突を回避できる限界である相対速度Vr、相対距離Drを結んだ線である。これら一点鎖線の直線および放物線のうちのうち相対距離Drがより小さい方を結んだ線が、図5に一点鎖線で示す衝突可能性判断ラインLBである。したがって、衝突可能性判断手段38は、図5において、相対速度Vrおよび相対距離Drで規定される点が衝突可能性判断ラインLBを下回るか否かによって衝突の可能性があるか否かを判断する。
【0024】
また、操舵操作による衝突回避ができるか否かは、自車両2と先行車両4との相対的な横方向における重なりの割合の大小によっても影響される。すなわち、自車両2の車幅と障害物の幅とが重なる領域を衝突回避幅としたとき、この衝突回避幅が大きくなるほど、操舵回避限界ラインを相対距離Drが高い値となる方向にシフトさせる必要があり、したがって、衝突判断ラインLAおよび衝突可能性判断ラインLBも衝突回避幅に応じて変える必要がある。衝突回避幅はレーダ14(障害物検出手段)によって検出された横位置Srに基づいて算出することができ、したがって、横位置Srに応じて衝突判断ラインLAおよび衝突可能性判断ラインLBを算出するか、横位置Srごとに衝突判断ラインLAおよび衝突可能性判断ラインLBのマップを作成しておけばよい。このようにすると、衝突可能性判断手段38による衝突の可能性の有無の判断と、衝突判断手段40による衝突が不可避か否かの判断とを、相対距離Dr、相対速度Vrに加えて横位置Srの情報に基づいて行うことができるため、それら判断をより的確に行う上で有利となる。
【0025】
制動制御手段44は、衝突判断手段40によって衝突が不可避であると判断された場合に、ブレーキアクチュエータ34を介してブレーキ装置32を作動させ、自車両2の自動制動を実行するものである。このような自動制動を衝突軽減ブレーキという。また、制動制御手段44は、車線逸脱判断手段36により自車両2が逸脱傾向にあると判断され、かつ、衝突可能性判断手段38により衝突可能性有りと判断されるという自動制動早期化条件が成立した場合に、衝突判断手段40の判断結果を待つことなく自動制動を実行するものである。また、本実施の形態では、自動制動早期化条件は、運転者による衝突回避操作が非実行であるという条件をさらに含んでいる。運転者による衝突回避操作とは、運転者による操舵操作、ブレーキ操作である。制動制御手段44は、操舵操作の有無を、ハンドル角センサ22によって検出されるハンドル角、あるいは、ハンドル角の角速度に基づいて判断する。制動制御手段44は、ブレーキ操作の有無を、ブレーキペダルセンサ26によって検出される操作量に基づいて判断する。
【0026】
本実施の形態では、報知制御手段42は、車線逸脱判断手段36により自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあると判断された場合に、インジケータ16およびブザー18を制御することにより、自車両2が逸脱傾向にある旨を警報表示あるいは警報音によって運転者に報知するものである。したがって、本実施の形態では、前方カメラ12と、インジケータ16と、ブザー18と、車速センサ20と、ハンドル角センサ22と、ヨーレートセンサ24と、車線逸脱判断手段36とによって、自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあった場合に運転者に車線逸脱警報を与える車線逸脱警報装置が構成されている。このような車線逸脱警報装置として、既設の車線逸脱防止支援システムの構成を共用することができる。また、報知制御手段42は、衝突可能性判断手段38により衝突の可能性有りと判断された場合に、インジケータ16およびブザー18を制御することにより、衝突可能性が有りの旨を警報表示あるいは警報音によって運転者に報知するものである。また、報知制御手段42は、制動制御手段44による自動制動が実行される場合に(言い換えると衝突判断手段40により衝突が不可避であると判断された場合に)、インジケータ16およびブザー18を制御することにより、自動制動が実行される旨を警報表示あるいは警報音によって運転者に報知するものである。
【0027】
次に、図6のフローチャート、図7、図8、図9の説明図を参照して衝突被害軽減制動制御装置10の動作について以下に示す2つのケースを想定して説明する。
1)図7に示すように、自車両2の走行車線において自車両2の前方に先行車両4(障害物)が走行しているケース。
2)図8に示すように、自車両2の走行車線に隣接する車線において自車両2の前方に先行車両4が走行しており、かつ、自車両2が先行車両4の走行する車線に逸脱する傾向となっているケース。
3)図9に示すように、自車両2の走行車線において自車両2の前方に先行車両4が走行しており、かつ、自車両2が隣接する車線に逸脱する傾向となっているケース。
なお、図7、図8、図9において、符号Lw0、Lw1、Lw2は片側2車線の道路における車線境界線を示す白線を示している。
【0028】
図6の処理は定期的に繰り返して起動される。まず、レーダ14(障害物検出手段)は、障害物に関する障害物情報としての3つのパラメータである相対距離Drと、相対速度Vrと、横位置Srとを検出し、ECU28に供給する(ステップS10)。ECU28は、レーダ14から供給された障害物情報に基づいて自車両2の前方に障害物があるか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12が否定ならば処理を終了する。ステップS12が肯定ならば、ECU28は、先行車両4と自車両2との相対速度Vr、相対距離Drが図5の衝突可能性判断ラインLBを下回るか否かに基づいて衝突可能性があるか否かを判断する(ステップS14:衝突可能性判断手段38)。ステップS14が否定であれば処理を終了する。ステップS14が肯定であれば、衝突の可能性があるため、ECU28は、インジケータ16、ブザー18による報知動作を実行させる(ステップS16:報知制御手段42)。次いで、ECU28は、車線逸脱判断手段36により自車両2が逸脱傾向にあると判断され、かつ、衝突可能性判断手段38により衝突可能性有りと判断され、かつ、運転者による衝突回避操作が非実行であるという自動制動早期化条件が成立するか否かを判断する(ステップS18:制動制御手段44)。ステップS18において、図7に示すケースであった場合には、自車両2が逸脱傾向にあると判断されないため、自動制動早期化条件が不成立となる。つまり運転者が衝突回避の操作を行う可能性があるため自動制動早期化を行わないようにしている。その後、ECU28は、先行車両4と自車両2との相対速度Vr、相対距離Drが図5の衝突判断ラインLAを下回るか否かに基づいて衝突が不可避であるか否かを判断する(ステップS20:衝突判断手段40)。
ステップS20が否定であれば、処理を終了し、ステップS20が肯定であれば、ECU28は、ブレーキアクチュエータ34を介してブレーキ装置32を作動させることにより自動制動を実行する(ステップS22:制動制御手段44)。
また、ステップS18において、図8に示すケースであった場合には、自車両2が逸脱傾向にあると判断されるため、自動制動早期化条件が成立する。つまり逸脱方向に先行車両4が存在し、かつ逸脱傾向にあるということは運転者が覚醒していない可能性が高いと考えられ、衝突判断ラインLAまで待ったとしても運転者が衝突回避の操作を行う可能性が小さいため、ECU28は、衝突が不可避であるか否かを判断することなく、直ちに自動制動を実行する(ステップS22:制動制御手段44)。図9に示すケースであった場合には、自車両2が逸脱傾向にあると判断されても、先行車両4が逸脱方向となる隣のレーンを走行していない、つまり逸脱方向に先行車両4が存在しないのであれば、逸脱度合いに応じて衝突可能性判断ラインLBを変更することにより自動制動早期化条件が不成立となるようにしても良い。この場合、自車両2の逸脱により先行車両4との衝突が回避される可能性があるため、不用意な自動制動早期化が行われないように抑制できる。
【0029】
本実施の形態によれば、自車両2が走行車線から逸脱する傾向にあると判断され、かつ、衝突可能性有りと判断されるという自動制動早期化条件が成立した場合に、衝突することが不可避であるか否かの判断を待つことなく自動制動を実行し、自動制動早期化条件が不成立ならば、自車両2が衝突することが不可避であると判断された場合に自動制動を実行するようにした。したがって、自車両が逸脱傾向に有り衝突の可能性が高い場合にはより早期に自動制動を実行することで衝突発生時の被害の軽減化を図る上で有利となり、自車両が逸脱傾向ではない場合には自動制動の実行による操作性の低下を抑制する上で有利となる。すなわち、自車両2が逸脱傾向にありかつ衝突の可能性が有りと判断される場合は、運転者が適切な操舵操作を行っておらず、衝突の危険性がより高く、自動制動を早期に実行する必要がある。したがって、この場合には、衝突が不可避であるという判断を待つことなく早期に自動制動をかけることにより、先行車両4との衝突発生時の被害の軽減化を図る上で有利となる。一方、自車両2が逸脱傾向ではないと判断される場合には、運転者が覚醒状態であり適切な操舵操作あるいは制動操作を実施できる可能性が高い。そのため、衝突の可能性が有りと判断されてから実際に自動制動が実行されるまでの期間が、運転者が衝突回避を行うために操舵操作あるいは制動操作を実行するための時間として確保される。したがって、自動制動が早期には実行されないため、運転者の運転操作が自動制動によって邪魔されることがなく、運転者にわずらわしさを与えることが回避され、操作性を確保する上で有利となる。
【0030】
また、本実施の形態では、自動制動早期化条件は、運転者による衝突回避操作が非実行であるという条件をさらに含むので、運転者が操舵操作あるいは制動操作による衝突回避操作を実行すれば、早期の自動制動が実行されず操作性を確保する上でより有利となる。なお、運転者が操舵操作あるいは制動操作したとしても操作量が不足し衝突回避が不十分である場合には自動制動早期化による自動制動を実行しても良い。また、本実施の形態では、衝突の可能性有りと判断された場合に、衝突可能性が有りの旨をインジケータ16の警報表示、ブザー18の警報音で運転者に報知するようにしたので、運転者に衝突回避のための操舵操作、制動操作を的確に行わせる上で有利となる。なお、本実施の形態では、自車両2の前方の障害物が先行車両4である場合について説明したが、障害物は静止した物体であってもよく、先行車両4に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
2……自車両、4……先行車両(障害物)、10……衝突被害軽減制動制御装置、14……レーダ(障害物検出手段)、36……車線逸脱判断手段、38……衝突可能性判断手段、40……衝突判断手段、42……報知制御手段、44……制動制御手段、Dr……相対距離、Vr……相対速度、Sr……横位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方の障害物との間の相対距離と、前記自車両と前記障害物との間の相対速度とを検出する障害物検出手段と、
前記検出された相対距離、相対速度に基づいて前記自車両と障害物との衝突の可能性の有無を判断する衝突可能性判断手段と、
前記検出された相対距離、相対速度に基づいて前記自車両と障害物との衝突が不可避であるか否かを判断する衝突判断手段と、
前記衝突が不可避であると判断された場合に、自車両の自動制動を実行する制動制御手段とを備える衝突被害軽減制動制御装置であって、
走行車線に対する自車両の位置関係を示す自車両位置情報に基づいて前記自車両が走行車線から逸脱する傾向にあるか否かを判断する車線逸脱判断手段を設け、
前記制動制御手段は、前記逸脱傾向にあると判断され、かつ、前記衝突可能性有りと判断されるという自動制動早期化条件が成立した場合に、前記衝突判断手段の判断結果を待つことなく前記自動制動を実行する、
ことを特徴とする衝突被害軽減制動制御装置。
【請求項2】
前記自動制動早期化条件は、運転者による衝突回避操作が非実行であるという条件をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1記載の衝突被害軽減制動制御装置。
【請求項3】
前記衝突可能性判断手段により衝突の可能性有りと判断された場合に、衝突可能性が有りの旨を運転者に報知する報知制御手段をさらに設けた、
ことを特徴とする請求項1または2記載の衝突被害軽減制動制御装置。
【請求項4】
前記障害物検出手段は、前記相対距離と前記相対速度に加えて前記自車両の幅方向の中心を通り前後方向に延在する中心線に対する前記障害物の相対位置である横位置をさらに検出するものであり、
前記衝突可能性判断手段による衝突の可能性の有無の判断、および、前記衝突判断手段による衝突が不可避であるか否かの判断は、前記相対距離、相対速度、横位置に基づいてなされる、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の衝突被害軽減制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−81778(P2012−81778A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227107(P2010−227107)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】