説明

表皮の成形方法及びパウダースラッシュ成形装置

【課題】比較的小さいピンホールを有する表皮を成形する。
【解決手段】パウダースラッシュ成形装置1は、樹脂粉末11が装填されたパウダーボックス10と、予熱された成形型20と、パウダーボックス10に電荷を帯電させる電圧発生装置5と、成形型20を接地する接地装置6とを有している。パウダーボックス10内の樹脂粉末11に負の電荷を帯電させ、成形型20を接地した状態で、パウダーボックス10と成形型20とが組み立てられた組立体を回転させる。すると、主に粒径の小さい樹脂粉末11が成形型20上に付着して溶融する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内装部品等に用いられる表皮の成形方法及びパウダースラッシュ成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品であるインストルメントパネルには、その芯材の表面に表皮が一体化されていることが多い。ここで、表皮の成形方法には種々の方法があるが、その中にパウダースラッシュ工法がある(例えば、特許文献1参照)。この工法では、粉末の樹脂を加熱された成形型に投入し、成形型に付着した樹脂粉末を溶かす。そして、余分な樹脂粉末を回収して、溶けた樹脂を所定の厚さにする。その後、溶けた樹脂を水や空気により冷却し、表皮状に固化した樹脂が取り出される。この工法の特徴は、粉末の樹脂が成形型に付着すれば溶融して表皮になるので形状自由度が高いことと、成形型の熱で樹脂を十分に溶かすので成形型の表面に刻まれた皮紋模様などを高い割合で転写することができることである(紋転写率は成形条件により変化するが約90〜95%程度である)。
【特許文献1】特許第2622075号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のパウダースラッシュ工法では、粉末樹脂を入れたパウダーボックスに予熱された成形型が組み立てられた状態で回転することにより、粉末樹脂が成形型に投入され、粉末樹脂が成形型に付着して溶融するが、粉末同士や粉末と成形型との間の隙間に空気が残り、表皮の表面にピンホール(凹状の穴)が発生してしまう。この原因は、樹脂粉末は小径のものから大径のものまで含んでおり、成形型に付着する際に、重量の大きな大粒の粉末が先に落下して成形型に付着するので、粉末同士や粉末と成形型との間の隙間が大きくなるためである。つまり、大粒の粉末が成形型に付着する場合(図4(b))には、小粒の粉末が成形型に付着する場合(図4(a))よりも、上記隙間(斜線部分)が大きくなる。
【0004】
そこで、本発明の主な目的は、比較的小さいピンホールを有する表皮を成形することができる表皮の成形方法及びパウダースラッシュ成形装置を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0005】
本発明の表皮の成形方法は、成形型を予熱する予熱工程と、成形型を樹脂粉末が装填されたパウダーボックスの開口部を覆うように組み立てる組立工程と、前記パウダーボックス内の樹脂粉末に正又は負の電荷を帯電させる第1電荷供給工程と、前記成形型に前記樹脂粉末とは異なる極性の電荷を帯電させるか又は前記成形型を接地する第2電荷供給工程と、前記組立体を回転させることで前記樹脂粉末を前記成形型上に付着させて溶融させるキュア工程と、前記パウダーボックスと前記成形型とが組み立てられた組立体を回転させることで前記成形型上で溶融した前記樹脂粉末以外の樹脂粉末をパウダーボックス内に回収する回収工程と、前記成形型上で溶融した前記樹脂粉末で形成された表皮を前記成形型から取り外す脱型工程とを備えている。
【0006】
本発明のパウダースラッシュ成形装置は、樹脂粉末が装填されたパウダーボックスと、前記パウダーボックスの開口部を覆うように組み立て可能であり且つ予熱される成形型と、前記パウダーボックス内の樹脂粉末に正又は負の電荷を帯電させる第1電荷供給手段と、前記成形型に前記樹脂粉末とは異なる極性の電荷を帯電させるか又は前記成形型を接地する第2電荷供給手段とを備えており、前記パウダーボックスと前記成形型とが組み立てられた組立体を回転させることで、前記樹脂粉末を前記成形型上に付着させて溶融させた後で、前記成形型上で溶融した前記樹脂粉末以外の樹脂粉末がパウダーボックス内に回収されることを特徴としている。
【0007】
この構成によると、パウダーボックス内の樹脂粉末が正又は負の電荷を有しており、成形型が樹脂粉末とは異なる極性の電荷を有するか又は接地されているので、粒径の小さい(重量の小さい)樹脂粉末から成形型に吸い寄せられるようになる。従って、成形型上で溶融する樹脂粉末のほとんどは粒径の小さい樹脂粉末になるので、粉末同士や粉末と成形型との間の隙間が比較的小さくなるので、比較的小さいピンホールを有する表皮を成形することができる。
【0008】
本発明の表皮の成形方法では、前記組立工程では、前記パウダーボックスと前記成形型との間に絶縁体が配置された状態で、前記成形型と前記パウダーボックスとが組み立てられてもよい。
【0009】
本発明のパウダースラッシュ成形装置では、前記組立体の前記パウダーボックスと前記成形型との間に配置された絶縁体をさらに備えていてもよい。
【0010】
この構成によると、パウダーボックスと成形型とが組み立てられる際に、ショートするのを防止することができる。
【0011】
本発明の表皮の成形方法では、前記回収工程の前において、前記パウダーボックス内の樹脂粉末に正又は負の電荷を帯電させるのを停止すると共に、前記パウダーボックスを接地する接地工程をさらに備えていてもよい。
【0012】
この構成によると、樹脂粉末をパウダーボックス内に回収する前に、樹脂粉末が電荷を有しない状態にし、パウダーボックスを接地することにより、余分な粉末を回収する際に、その粉末が成形型に吸い寄せられることで成形される表皮の厚さが厚くなったり、電荷の帯電状態で表皮の厚さがばらつくのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るパウダースラッシュ成形装置の概略構成を示す図である。
【0014】
図1のパウダースラッシュ成形装置1は、樹脂粉末11が装填されたパウダーボックス10と、成形型20と、パウダーボックス10に電荷を帯電させる電圧発生装置5と、成形型20を接地する(電荷の帯電しない状態にする)接地装置6とを有している。また、パウダーボックス10と成形型20との間には、これらを絶縁させるために、シリコンなどの不導電性エラストラマーで形成された絶縁体30が配置されている。図1では、自動車内装部品であるドアトリム形状の表皮を成形するために用いられる成形型20が、予熱された後で、パウダーボックス10の開口部10aを覆うように組み立てられた状態が図示されている。なお、パウダースラッシュ成形装置1は、図示しないが、成形型20を予熱する予熱手段と、パウダーボックス10と成形型20とが組み立てられた組立体を回転させる回転手段とを有している。
【0015】
樹脂粉末11として、懸濁重合で得られた球状のものや、ペレットを冷凍粉砕した角張ったものなどがある。また、樹脂粉末11の平均粒径は、100〜500μmであるが、10μm程度の小径の粒から700μm程度の大径の粒までを含んでいる。
【0016】
本実施の形態では、電圧発生装置5がステンレスなどのパウダーボックス10に負の電圧をかけることで、パウダーボックス10内の樹脂粉末11には負の電荷が帯電する。一方、成形型20は、ニッケル電鋳で形成されたパウダースラッシュ成形型であり、接地電位に保持される(アース接続される)。
【0017】
次に、パウダースラッシュ成形装置1における表皮の成形方法の手順について、図2を参照して説明する。図2は、表皮の成形方法を説明する図である。図2では、電圧発生装置5及び接地装置6等の図示は省略されている。
【0018】
まず、成形型20の予熱が行われる。そして、予熱された成形型20が、図2(a)に示すように、パウダーボックス10の開口部10aを覆うように組み立てられる。このとき、成形型20とパウダーボックス10との間には絶縁体30が配置される。その後、パウダーボックス10内の樹脂粉末11に負の電荷を帯電させ、成形型20を接地する。そして、図2(b)に示すように、パウダーボックス10と成形型20とが組み立てられた組立体を回転させる。このとき、樹脂粉末11は全て同じ電荷(静電気)を有しているから、粒径の小さい樹脂粉末11が、粒径の大きい樹脂粉末11よりも、成形型20に吸い寄せられ易い。従って、主に粒径の小さい樹脂粉末11が成形型20上に付着して溶融することになる(図4(a)参照)。
【0019】
そして、成形型20上に付着した樹脂粉末11が溶融することで所定厚さの表皮40が形成されると、パウダーボックス10を接地することで、パウダーボックス10内の樹脂粉末11を電荷の帯電しない状態にする。その後、図2(c)に示すように、再度、組立体を回転させることで成形型20上で溶融した樹脂粉末以外の余分な樹脂粉末11をパウダーボックス10内に回収する。最後に、成形型20を水で冷却した後で、表皮40を成形型20から取り外す。
【0020】
次に、本発明の実施例として、自動車内装部品であるドアトリム形状の表皮の成形方法について説明する。
【0021】
本実施例では、樹脂粉末として、懸濁重合した熱可塑性ポリウレタン(平均粒径170μm)を用いた。また、電圧発生装置5で、パウダーボックス10に−45kVの負の電圧を供給すると共に、成形型20は接地した。
【0022】
まず、成形型20を約250℃に予熱した後で、予熱された成形型20をパウダーボックス10に組み立て、3秒/回の回転速度で1.5往復回転させた。回転が終わると同時に、電圧発生装置5の電源をOFFにし、すぐにパウダーボックス10をアース接続した。その後、パウダーボックス10と成形型20とを分離し、成形型20を水で約60℃まで冷却し、表皮を脱型した。
【0023】
上記で成形された表皮の外観を観察すると、ピンホールは従来の方法で成形された表皮と比べ、明らかに減少しており、良好な表皮を得ることができた。
【0024】
以上説明したように、本実施の形態の表皮の成形方法では、パウダーボックス10内の樹脂粉末11が負の電荷を有しており、成形型20が接地されているので、粒径の小さい樹脂粉末から成形型20に吸い寄せられるようになる。従って、成形型20上で溶融する樹脂粉末のほとんどは粒径の小さい樹脂粉末11になるので、粉末同士や粉末と成形型との間の隙間が比較的小さくなるので、比較的小さいピンホールを有する表皮を成形することができる。
【0025】
また、余分な樹脂粉末11がパウダーボックス10内に回収される前に、パウダーボックス10を接地することにより、余分な樹脂粉末11を回収する際に、その樹脂粉末11が成形型20に吸い寄せられることで成形される表皮40の厚さが厚くなったり、電荷の帯電状態で表皮40の厚さがばらつくのを防止することができる。
【0026】
また、パウダーボックス10と成形型20との間には、これらを絶縁させるための絶縁体30が配置されるので、パウダーボックス10と成形型20とが組み立てられる際に、ショートするのを防止することができる。
【0027】
以上、本発明の好適な一実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。例えば、上述の実施の形態では、負の電荷を有する樹脂粉末がアース接続された成形型内に投入されるが、正の電荷を有する樹脂粉末がアース接続された成形型に投入されてもよい。また、パウダースラッシュ成形装置が、図3に示すように、パウダーボックス10に電荷を帯電させる電圧発生装置5と、成形型20に電荷を帯電させる電圧発生装置6aとを有しており、正又は負の電荷を有する樹脂粉末が樹脂粉末とは異なる極性の電荷を有する成形型20に投入されてもよい。この場合には、樹脂粉末及び成形型には互いに異なる極性の電荷が帯電しているので、上述の実施の形態の場合よりも、樹脂粉末を成形型により効率的に付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るパウダースラッシュ成形装置の概略構成を示す図である。
【図2】表皮の成形方法を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る他のパウダースラッシュ成形装置の概略構成を示す図である。
【図4】粉末同士や粉末と成形型との間に形成される隙間を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 パウダースラッシュ成形装置
5 電圧発生装置
6 接地装置
6a 電圧発生装置
10 パウダーボックス
11 樹脂粉末
20 成形型
30 絶縁体
40 表皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型を予熱する予熱工程と、
成形型を樹脂粉末が装填されたパウダーボックスの開口部を覆うように組み立てる組立工程と、
前記パウダーボックス内の樹脂粉末に正又は負の電荷を帯電させる第1電荷供給工程と、
前記成形型に前記樹脂粉末とは異なる極性の電荷を帯電させるか又は前記成形型を接地する第2電荷供給工程と、
前記パウダーボックスと前記成形型とが組み立てられた組立体を回転させることで前記樹脂粉末を前記成形型上に付着させて溶融させるキュア工程と、
前記組立体を回転させることで前記成形型上で溶融した前記樹脂粉末以外の樹脂粉末をパウダーボックス内に回収する回収工程と、
前記成形型上で溶融した前記樹脂粉末で形成された表皮を前記成形型から取り外す脱型工程とを備えていることを特徴とする表皮の成形方法。
【請求項2】
前記組立工程では、前記パウダーボックスと前記成形型との間に絶縁体が配置された状態で、前記成形型と前記パウダーボックスとが組み立てられることを特徴とする請求項1に記載の表皮の成形方法。
【請求項3】
前記回収工程の前において、前記パウダーボックス内の樹脂粉末に正又は負の電荷を帯電させるのを停止すると共に、前記パウダーボックスを接地する接地工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の表皮の成形方法。
【請求項4】
樹脂粉末が装填されたパウダーボックスと、
前記パウダーボックスの開口部を覆うように組み立て可能であり且つ予熱される成形型と、
前記パウダーボックス内の樹脂粉末に正又は負の電荷を帯電させる第1電荷供給手段と、
前記成形型に前記樹脂粉末とは異なる極性の電荷を帯電させるか又は前記成形型を接地する第2電荷供給手段とを備えており、
前記パウダーボックスと前記成形型とが組み立てられた組立体を回転させることで、前記樹脂粉末を前記成形型上に付着させて溶融させた後で、前記成形型上で溶融した前記樹脂粉末以外の樹脂粉末がパウダーボックス内に回収されることを特徴とするパウダースラッシュ成形装置。
【請求項5】
前記組立体の前記パウダーボックスと前記成形型との間に配置された絶縁体をさらに備えていることを特徴とする請求項4に記載のパウダースラッシュ成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−313661(P2007−313661A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142744(P2006−142744)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(304053957)三ツ星化成品株式会社 (46)
【Fターム(参考)】