表示体及びラベル付き物品
【課題】より高い偽造防止効果を達成可能とする。
【解決手段】本発明の表示体10は、複数の凹部又は凸部を各々が含んだ複数の界面部IF1,IF2を備え、前記複数の界面部IF1,IF2の各々において、前記複数の凹部又は凸部は可視光の最短波長の1/2より長く且つ前記最短波長未満の中心間距離で規則的に配列し、前記複数の界面部の一部IF1と他の一部IF2とは前記複数の凹部又は凸部の配列方向が互いに異なっていることを特徴とする。
【解決手段】本発明の表示体10は、複数の凹部又は凸部を各々が含んだ複数の界面部IF1,IF2を備え、前記複数の界面部IF1,IF2の各々において、前記複数の凹部又は凸部は可視光の最短波長の1/2より長く且つ前記最短波長未満の中心間距離で規則的に配列し、前記複数の界面部の一部IF1と他の一部IF2とは前記複数の凹部又は凸部の配列方向が互いに異なっていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば偽造防止効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表示する解説による分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
この表示体では、レリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び2には、回折格子を形成するために、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光することが記載されている。また、非特許文献1には、二光束干渉を利用して回折格子を形成することが記載されている。これから分かるように、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難であり、それゆえ、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造も困難であった。
【0005】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、レリーフ型回折格子を含んだ表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【非特許文献3】辻内順平著、「ホログラフィー」、丸善株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、より高い偽造防止効果を達成可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面によると、複数の凹部又は凸部を各々が含んだ複数の界面部を備え、前記複数の界面部の各々において、前記複数の凹部又は凸部は可視光の最短波長の1/2より長く且つ前記最短波長未満の中心間距離で規則的に配列し、前記複数の界面部の一部と他の一部とは前記複数の凹部又は凸部の配列方向が互いに異なっていることを特徴とする表示体が提供される。
【0008】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る表示体と、これを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、より高い偽造防止効果を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。
【0012】
この表示体10は、光透過層11と反射層13との積層体を含んでいる。図2に示す例では、光透過層11側を前面側とし且つ反射層13側を背面側としている。光透過層11と反射層13との界面は、第1界面部IF1と第2界面部IF2と第3界面部IF3とを含んでいる。後述するように、界面部IF1及びIF2には、凹構造及び/又は凸構造が設けられている。以下、この表示体10のうち、界面部IF1乃至IF3に対応した部分を、それぞれ、表示部DA1乃至DA3と呼ぶ。
【0013】
光透過層11の材料としては、例えば、ポリカーボネート及びポリエステルなどの光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の主面に凹構造及び/又は凸構造が設けられた光透過層11を容易に形成することができる。
【0014】
図2には、一例として、光透過性基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成された光透過層11を描いている。光透過性基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである。光透過性樹脂層112は、光透過性基材111上に形成された層である。図2に示す光透過層11は、例えば、光透過性基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜に原版を押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
【0015】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過性11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち光透過層11と接触しているものの屈折率は、光透過層11の屈折率とは異なっている必要がある。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0016】
光透過層11及び反射層13の一方は、省略することができる。但し、表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、それらの一方のみを含んでいる場合と比較して、先の界面の損傷を生じ難く、表示体10に視認性がより優れた像を表示させることができる。
【0017】
この表示体10は、接着剤層及び保護層などの他の層を更に含むことができる。
接着剤層は、例えば、反射層13を被覆するように設ける。表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、通常、反射層13の表面の形状は、光透過層11と反射層13との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けると、反射層13の表面が露出するのを防止できるため、先の界面の凹構造及び/又は凸構造の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0018】
光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、接着層は、光透過層11上に形成する。この場合、光透過層11と反射層13との界面ではなく、反射層13と外界との界面が界面部IF1乃至IF3を含む。
【0019】
保護層は、光透過層11及び反射層13の積層体に対して前面側に設ける。例えば、光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、必要に応じて接着剤層などを介して反射層13に保護層を貼りつけることにより、反射層13の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凹構造及び/又は凸構造の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0020】
次に、界面部IF1乃至IF3について説明する。
図3は、図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。図4は、図3に示す構造の平面図である。図5は、図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。図6は、図5に示す構造の平面図である。なお、図3及び図5には、それぞれ、透明層11側から見た界面部IF1及びIF2を描いている。
【0021】
界面部IF1及びIF2の各々には、複数の凸部PRが設けられている。これら凸部PRは、小さい中心間距離で規則的に配置されている。図3及び図4に示す例では、凸部PRは、互いに略直交するx方向とy方向とに格子状に配列している。図5及び図6に示す例では、凸部PRは、互いに略直交するx’方向とy’方向とに格子状に配列している。即ち、界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRは正方格子状に配列している。
【0022】
x方向とx’方向とは交差しており、例えば約45°の角度を為している。即ち、界面部IF1と界面部IF2とでは、凸部PRの配列方向が異なっている。
【0023】
界面部IF1及びIF2の各々において、各凸部PRは、典型的にはテーパ形状を有している。それら凸部PRの一部は、テーパ形状を有していなくてもよい。
【0024】
テーパ形状は、例えば、紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状である。凸部PRの側面は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。テーパ形状は、界面部IF1及びIF2の反射率を小さくするのに役立つ。加えて、テーパ形状は、原版からの光透過層11の取り外しを容易にし、生産性の向上に寄与する。
【0025】
界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRの中心間距離は、可視光の最短波長と比較してより短い。例えば、凸部PRの中心間距離は、約400nm未満である。また、界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRの中心間距離は、可視光の最短波長の1/2よりも長い。例えば、凸部PRの中心間距離は、約200nmよりも長い。そして、界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRの平均高さは、例えば、300乃至450nmの範囲内にある。
【0026】
界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRは回折格子を形成している。界面部IF1と界面部IF2とは、凸部PRの配列方向、即ち回折格子の方位が異なっている。例えば、界面部IF1における凸部PRの配列方向と界面部IF2における凸部PRの配列方向とは約45°の角度を為している。なお、凸部PRが形成している回折格子は、溝(即ち、格子線)を破線で示すように配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する。
界面部IF3は、例えば平坦面である。界面部IF3は、省略することができる。
【0027】
次に、界面部IF1及びIF2が有している視覚効果について説明する。
回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0028】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ)
この等式において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、透過光又は正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0029】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり且つ90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
【0030】
法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。従って、この場合、格子定数dが波長λと比較してより大きければ、上記等式を満足する波長λ及び入射角αが存在する。即ち、この場合、観察者は、上記等式を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
【0031】
これに対し、格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、上記等式を満足する入射角αは存在しない。従って、この場合、観察者は、回折光を観察することができない。
【0032】
この説明から明らかなように、界面部IF1及びIF2は、通常の回折格子とは異なり、法線方向に回折光を射出しない。それゆえ、法線方向から観察した場合、表示部DA1及びDA2は、回折による分光色を表示しない。
【0033】
界面部IF1及びIF2に設けられた回折格子と通常の回折格子とは、更に以下の点で相違する。
【0034】
図7は、回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図8は、他の回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図7及び図8において、IFは回折格子が形成された界面を示し、NLは界面IFの法線を示し、ILは照明光を示し、RLは正反射光又は0次回折光を示し、DLは1次回折光を示している。
【0035】
上記等式から明らかなように、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長と比較してより大きい場合、例えば約400nmよりも大きい場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子は、図7に示すように正の角度範囲内の射出角βで1次回折光DLを射出する。
【0036】
これに対し、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長の1/2より大きく且つこの最短波長未満である場合、例えば約200nmより大きく且つ約400nm未満である場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子は、図8に示すように負の角度範囲内の射出角βで1次回折光DLを射出する。例えば、角度αが80°であり、格子定数dが300nmである場合を考えると、回折格子は、波長λが540nmの1次回折光を約−25°の射出角βで射出する。
【0037】
一般に、物品を観察する場合、特には光反射能及び光散乱能が小さい光吸収性の物品を観察する場合、正反射光を知覚できるように物品と光源とを観察者の目に対して相対的に位置合わせする。そのため、図7を参照しながら説明した構成を界面部IF1及びIF2に採用すると、そのこと自体を観察者が知らないとしても、観察者は比較的高い確率で回折光を知覚する。これに対し、図8を参照しながら説明した構成を界面部IF1及びIF2に採用すると、そのことを知らない観察者は、多くの場合、回折光を知覚できない。それゆえ、この表示体10は、表示部DA1及びDA2が干渉光を表示し得ることを悟られ難い。
【0038】
また、図3及び図5に示す構造では、凸部PRはテーパ形状を有している。このような構造を採用した場合、凸部PRの中心間距離が可視光の最短波長と比較してより短ければ、界面IF1及びIF2の近傍の領域は、表示体10の厚さ方向に連続的に変化した屈折率を有していると見なすことができる。そのため、どの角度から観察しても、界面部IF1及びIF2の正反射光の反射率は小さい。そして、上記の通り、界面部IF1及びIF2は、法線方向に回折光を射出しない。
【0039】
従って、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、表示部DA1及びDA2は暗く見える。典型的には、表示部DA1及びDA2は暗灰色又は黒色に見える。なお、ここで、「暗灰色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。また、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、表示部DA1及びDA2は、例えば暗灰色又は黒色印刷層の如く見える。
【0040】
次に、表示体10が表示する像について説明する。
図9は、図1及び図2に示す表示体を法線方向から観察している様子を概略的に示す図である。図10は、図1及び図2に示す表示体を斜め方向から観察している様子の一例を概略的に示す図である。図11は、図1及び図2に示す表示体を斜め方向から観察している様子の他の例を概略的に示す図である。なお、図9乃至図11において、LSは光源を示し、OSは観察者を示している。
【0041】
図9に示すように、略法線方向から照明光ILを表示体10に照射し、表示体10を略法線方向から観察した場合、界面部IF1及びIF2は低反射性及び低散乱性であるので、表示部DA1及びDA2は、暗灰色又は黒色等の明度及び彩度の低い色を表示する。他方、界面部IF3は界面部IF1及びIF2と比較してより大きな反射率を有しているので、表示部DA3は、表示部DA1及びDA2と比較してより明るく見える。
【0042】
図10に示すように、x方向に垂直であり且つy方向に対して斜めの方向から照明光ILを表示体10に照射し、表示体10を負の角度範囲内の方向から観察した場合、図8を参照しながら行った説明から明らかなように、界面部IF1は観察者OSへ向けて1次回折光DLを射出する。それゆえ、表示部DA1は、回折による分光色を表示する。また、界面部IF2における凸部PRの配列方向と界面部IF1における凸部PRの配列方向とは約45°の角度を為している。図10に示す観察条件のもとでは、界面部IF2に設けた回折格子の実効的な格子定数は、界面部IF1に設けた回折格子の実効的な格子定数の約1.4倍である。従って、表示部DA2は、回折による分光色を表示しないか又は表示部DA1とはスペクトルが異なる回折による分光色を表示する。ここでは、界面部IF2における凸部PRの配列方向と界面部IF1における凸部PRの配列方向とが為す角度を約45°としているので、表示部DA2は、回折による分光色を表示しないか、又は、回折による分光色を表示するとしても、その明度は極めて低い。
【0043】
図11に示すように、略法線方向から照明光ILを表示体10に照射し、表示体10をx方向に垂直であり且つy方向に対して斜めの方向から観察した場合、界面部IF1に設けた回折格子の実効的な格子定数は可視光の最短波長と比較してより小さいので、界面部IF1は、観察者に向けて回折光を射出しない。従って、表示部DA1は、干渉光を表示せずに暗く見える。また、界面部IF2に設けた回折格子の実効的な格子定数が可視光の最短波長と比較してより大きければ、界面部IF2は、観察者に向けて1次回折光を射出し得る。従って、表示部DA2は、干渉光を表示する可能性がある。
【0044】
なお、図10に示す状態から表示体10の方位のみを変化させると、表示部DA1及びDA2の表示色が変化する。例えば、表示体10をその法線の周りで45°回転させると、表示部DA2は回折による分光色を表示し、表示部DA1は回折による分光色を表示しないか又は表示部DA2とはスペクトルが異なる回折による分光色を表示する。ここでは、界面部IF2における凸部PRの配列方向と界面部IF1における凸部PRの配列方向とが為す角度を約45°としているので、表示部DA1は、回折による分光色を表示しないか、又は、回折による分光色を表示するとしても、その明度は極めて低い。
【0045】
また、図11に示す状態から表示体10の方位のみを変化させると、表示部DA1及びDA2の表示色が変化する。例えば、表示体10をその法線の周りで45°回転させると、表示部DA2は干渉光を表示せずに暗く見え、表示部DA1は干渉光を表示する可能性がある。
【0046】
上記の通り、表示体10が表示する像は、観察条件に応じて多様に変化する。このような変化を生じる像を、他の技術を用いて再現することは不可能であるか又は極めて困難である。特に、通常の反射型回折格子では例えば回折による分光色と銀色又は金色の金属光沢との間でしか表示色が変化しないことから分かるように、他の技術を用いて、表示色を回折による分光色と暗灰色又は黒色との間で変化させることは不可能であるか又は極めて困難である。そして、この多様性は、写真、図形、絵、文字及び記号などの様々な像を高い意匠性で表示させるのに役立つ。
【0047】
また、この表示体10の界面部IF1及びIF2には、極めて微細であり且つ複雑な形状を有している凸部PRが設けられている。完成した表示体10から、そのような微細構造を正確に解析することは困難である。そして、例え、完成した表示体10から先の微細構造を解析できたとしても、この微細構造を含んだ表示体の偽造又は模造は難しい。通常の回折格子の場合、レーザ光などを利用した光学的複製方法によって干渉縞として構造をコピーされることがあるが、界面部IF1及びIF2の微細構造は複製不可能である。
【0048】
そして、上記の通り、表示部DA1及びDA2が表示する回折による分光色は、特殊な条件で観察しない限り見ることはできない。すなわち、偽造又は模造を試みる者は、界面部IF1及びIF2に先の微細構造が存在していること自体を認識することが難しい。
【0049】
従って、この表示体10を偽造防止用のラベルとして使用すると、高い偽造防止効果を実現することができる。
【0050】
なお、光透過層11を形成するための原版は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0051】
まず、電子ビーム描画又はレーザビーム描画により、レジスト層を凸部PR又は凹部RCに対応したパターンで露光し、その後、レジスト層の現像及び洗浄を順次行う。電子ビーム又はレーザビームのパワーを適宜設定することにより、テーパ形状の凸部又は凹部が設けられたレジスト層を得ることができる。次いで、例えば電鋳により、光透過層11を形成するための原版として、金属製のスタンパを得る。
【0052】
或いは、シリコン基板又はガラス基板などの硬質基板上に、レジスト層を形成する。次に、このレジスト層のパターン露光、現像及び洗浄を順次行い、レジストパターンを得る。次いで、先の硬質基板を、レジストパターンをマスクとして用いたエッチングに供する。このエッチングとして等方性エッチングを行うと、エッチング条件を適宜設定することにより、テーパ形状の凸部又は凹部が設けられた硬質基板を得ることができる。この硬質基板をスタンパとして用いてもよいし、この硬質基板から金属製のスタンパを作製し、これを用いてもよい。
【0053】
この表示体10には、様々な変形が可能である。
図12は、図1及び図2に示す表示体の第1及び/又は第2界面部に採用可能な構造の他の例を示す斜視図である。図13は、図12に示す構造の平面図である。なお、図12には、透明層11側から見た界面部IF1又はIF2を描いている。
【0054】
図12及び図13に示す界面部IF1/IF2では、凸部PRは、互いに斜めに交差するx”方向とy”方向とに配列している。x”方向とy”方向とが為す角度は、例えば、約60°である。即ち、凸部PRは、三角格子状に配列している。このような構造を界面部IF1又はIF2に採用すると、上述した像の変化をより複雑にすることができる。
【0055】
図14(a)及び(b)は、それぞれ、図1及び図2に示す表示体の第1及び第2界面部に採用可能な構造の更に他の例を示す斜視図である。
【0056】
図14(a)に示す界面部IF1は、図14(b)に示す界面部IF2と比較して、凸部PRの中心間距離がより長い。それゆえ、例えば、界面部IF1がx方向に垂直な方向に射出角βで射出する回折光と、界面部IF2がx’方向に垂直な方向に同一の射出角βで射出する回折光とは、異なる波長を有することとなる。従って、より複雑な像の変化を生じさせることができ、より優れた偽造防止効果を得ることができるのに加え、意匠性を向上させることができる。
【0057】
上述した表示体10では、凸部PRの代わりに、凹部を設けてもよい。
図15は、図1及び図2に示す表示体の第1及び/又は第2界面部に採用可能な構造の更に他の例を示す斜視図である。なお、図15には、透明層11側から見た界面部IF1又はIF2を描いている。
【0058】
図15に示す界面部IF1/IF2には、複数の凹部RCが設けられている。これら凹部RCは、凸部PRに関して説明したのと同様に配列している。各凹部RCは、典型的にはテーパ形状を有している。なお、テーパ形状は、例えば、紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状である。凹部RCの側壁は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。このような構造を界面部IF1及び/又はIF2に採用した場合であっても、上述したのと同様の効果を得ることができる。
【0059】
界面部IF1及びIF2の少なくとも一方において、凸部PR又は凹部RCの一部又は全部は、テーパ形状を有していなくてもよい。但し、テーパ形状を有していない凸部PR又は凹部RCの割合が増加すると、界面部IF1又はIF2の反射率が大きくなる。従って、表示部DA1又はDA2が表示する回折による分光色の視認性が低下する。
【0060】
また、界面部IF1及びIF2の少なくとも一方において、凸部PR又は凹部RCは、畝又は溝であってもよい。即ち、凸部PR又は凹部RCは、格子定数が可視光の最短波長未満であること以外は通常の回折格子と同様の回折格子を形成していてもよい。但し、反射率の観点では、凸部PR又は凹部RCは、図3乃至図6及び図12乃至図15を参照しながら説明した構造とすることが有利である。
【0061】
界面部IF3には、様々な構成を採用することができる。例えば、界面部IF3に凹部及び/又は凸部を不規則に配置して、光散乱機能を与えてもよい。或いは、界面部IF3に複数の溝を設けて、回折格子及び/又はホログラムを形成してもよい。
【0062】
図16は、図1及び図2に示す表示体の一変形例を概略的に示す断面図である。
この表示体10では、界面部IF3に複数の溝が設けられている。これら溝は、例えば回折格子を形成している。この回折格子の格子定数は、可視光の最短波長以上である。図16に示す表示体10は、この構造を採用したこと以外は、図1及び図2を参照しながら説明した表示体10と同様である。
【0063】
界面部IF3に形成する回折格子の格子定数は、例えば、0.5乃至2μmの範囲内とする。また、この回折格子を構成する溝の深さは、例えば、0.1乃至1μmの範囲内とする。
【0064】
図16に示す構造を採用すると、例えば、略法線方向から観察した場合や斜め方向から観察した場合に、表示部DA3に回折による分光色を表示させることができる。即ち、表示部DA3に虹色の像を表示させることができる。従って、より複雑な像の変化を生じさせることができ、また、表示部DA1及びDA2が回折による分光色を表示し得ることを悟られ難くすることができる。即ち、より優れた偽造防止効果を得ること、及び、意匠性を向上させることが可能となる。
【0065】
上述した表示体10は、界面部IF1及びIF2に加え、図1及び図2を参照しながら説明した界面部IF3と、図6を参照しながら説明した界面部IF3との双方を更に含んでいてもよい。また、上述した表示体10は、凸部が設けられた界面部として界面部IF1及びIF2のみを含んでいるが、凸部PRが設けられた他の界面部を更に含んでいてもよい。
【0066】
表示部DA1及びDA2で潜像を形成してもよい。
図17は、他の変形例に係る表示体を法線方向から観察している様子を概略的に示す図である。図18は、図17に示す表示体を斜め方向から観察している様子の一例を概略的に示す図である。
【0067】
図17及び図18に示す表示体10では、図2を参照しながら説明した界面部IF1及びIF2が互いに隣接している。従って、それらの反射率及び散乱機能をほぼ等しくして、略法線方向から観察した場合にそれらの互いからの判別を不可能又は困難とすることにより、表示部DA1及びDA2で潜像を構成することができる。図17及び図18に示す例では、表示部DA1及びDA2は矩形状の領域を構成しており、この矩形状の領域のうち、表示部DA1は図18において白抜きで描いた部分に相当し、表示部DA2はそれと隣接した部分に相当している。
【0068】
表示部DA1及びDA2で潜像を構成すると、それらが表示する像は、観察条件に応じて大きく変化する。従って、この構成を採用すると、像の変化の確認が容易になる。
【0069】
光透過層11は、光学的に等方性であってもよく、複屈折性を有していてもよい。後者の場合、偏光子を介して表示体10を観察すると、表示体10が表示する像は、偏光子の透過軸と光透過層11の光学軸とが為す角度に応じた明るさの変化を生じる。即ち、より複雑な像の変化を生じさせることができる。
【0070】
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用又は識別用ラベルとして使用することができる。表示体10は偽造又は模造が困難であるため、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。また、このラベルは上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0071】
図19は、偽造防止用又は識別用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図20は、図19に示すラベル付き物品のXX−XX線に沿った断面図である。
【0072】
図19及び図20には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材20を含んでいる。基材20は、例えば、プラスチックからなる。基材20の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込み及び/又はICに記録された情報の読出しが可能である。基材20上には、印刷層40が形成されている。基材20の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材20に固定する。
【0073】
この印刷物100は、表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物100は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0074】
なお、図19及び図20には、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0075】
また、図19及び図20に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0076】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0077】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図。
【図4】図3に示す構造の平面図。
【図5】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図。
【図6】図5に示す構造の平面図。
【図7】回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図8】他の回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図9】図1及び図2に示す表示体を法線方向から観察している様子を概略的に示す図。
【図10】図1及び図2に示す表示体を斜め方向から観察している様子の一例を概略的に示す図。
【図11】図1及び図2に示す表示体を斜め方向から観察している様子の他の例を概略的に示す図。
【図12】図1及び図2に示す表示体の第1及び/又は第2界面部に採用可能な構造の他の例を示す斜視図。
【図13】図12に示す構造の平面図。
【図14】(a)及び(b)は、それぞれ、図1及び図2に示す表示体の第1及び第2界面部に採用可能な構造の更に他の例を示す斜視図。
【図15】図1及び図2に示す表示体の第1及び/又は第2界面部に採用可能な構造の更に他の例を示す斜視図。
【図16】図1及び図2に示す表示体の一変形例を概略的に示す断面図。
【図17】他の変形例に係る表示体を法線方向から観察している様子を概略的に示す図。
【図18】図17に示す表示体を斜め方向から観察している様子の一例を概略的に示す図。
【図19】偽造防止用又は識別用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【図20】図19に示すラベル付き物品のXX−XX線に沿った断面図。
【符号の説明】
【0079】
10…表示体、11…光透過層、13…反射層、20…基材、30…ICチップ、40…印刷層、100…印刷物、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、DA1…表示部、DA2…表示部、DA3…表示部、DL…1次回折光、IF…界面部、IF1…界面部、IF2…界面部、IF3…界面部、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、OS…観察者、PR…凸部、RC…凹部、RL…正反射光。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば偽造防止効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表示する解説による分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
この表示体では、レリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び2には、回折格子を形成するために、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光することが記載されている。また、非特許文献1には、二光束干渉を利用して回折格子を形成することが記載されている。これから分かるように、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難であり、それゆえ、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造も困難であった。
【0005】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、レリーフ型回折格子を含んだ表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【非特許文献3】辻内順平著、「ホログラフィー」、丸善株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、より高い偽造防止効果を達成可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面によると、複数の凹部又は凸部を各々が含んだ複数の界面部を備え、前記複数の界面部の各々において、前記複数の凹部又は凸部は可視光の最短波長の1/2より長く且つ前記最短波長未満の中心間距離で規則的に配列し、前記複数の界面部の一部と他の一部とは前記複数の凹部又は凸部の配列方向が互いに異なっていることを特徴とする表示体が提供される。
【0008】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る表示体と、これを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、より高い偽造防止効果を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。
【0012】
この表示体10は、光透過層11と反射層13との積層体を含んでいる。図2に示す例では、光透過層11側を前面側とし且つ反射層13側を背面側としている。光透過層11と反射層13との界面は、第1界面部IF1と第2界面部IF2と第3界面部IF3とを含んでいる。後述するように、界面部IF1及びIF2には、凹構造及び/又は凸構造が設けられている。以下、この表示体10のうち、界面部IF1乃至IF3に対応した部分を、それぞれ、表示部DA1乃至DA3と呼ぶ。
【0013】
光透過層11の材料としては、例えば、ポリカーボネート及びポリエステルなどの光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の主面に凹構造及び/又は凸構造が設けられた光透過層11を容易に形成することができる。
【0014】
図2には、一例として、光透過性基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成された光透過層11を描いている。光透過性基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである。光透過性樹脂層112は、光透過性基材111上に形成された層である。図2に示す光透過層11は、例えば、光透過性基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜に原版を押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
【0015】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過性11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち光透過層11と接触しているものの屈折率は、光透過層11の屈折率とは異なっている必要がある。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0016】
光透過層11及び反射層13の一方は、省略することができる。但し、表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、それらの一方のみを含んでいる場合と比較して、先の界面の損傷を生じ難く、表示体10に視認性がより優れた像を表示させることができる。
【0017】
この表示体10は、接着剤層及び保護層などの他の層を更に含むことができる。
接着剤層は、例えば、反射層13を被覆するように設ける。表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、通常、反射層13の表面の形状は、光透過層11と反射層13との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けると、反射層13の表面が露出するのを防止できるため、先の界面の凹構造及び/又は凸構造の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0018】
光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、接着層は、光透過層11上に形成する。この場合、光透過層11と反射層13との界面ではなく、反射層13と外界との界面が界面部IF1乃至IF3を含む。
【0019】
保護層は、光透過層11及び反射層13の積層体に対して前面側に設ける。例えば、光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、必要に応じて接着剤層などを介して反射層13に保護層を貼りつけることにより、反射層13の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凹構造及び/又は凸構造の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0020】
次に、界面部IF1乃至IF3について説明する。
図3は、図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。図4は、図3に示す構造の平面図である。図5は、図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。図6は、図5に示す構造の平面図である。なお、図3及び図5には、それぞれ、透明層11側から見た界面部IF1及びIF2を描いている。
【0021】
界面部IF1及びIF2の各々には、複数の凸部PRが設けられている。これら凸部PRは、小さい中心間距離で規則的に配置されている。図3及び図4に示す例では、凸部PRは、互いに略直交するx方向とy方向とに格子状に配列している。図5及び図6に示す例では、凸部PRは、互いに略直交するx’方向とy’方向とに格子状に配列している。即ち、界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRは正方格子状に配列している。
【0022】
x方向とx’方向とは交差しており、例えば約45°の角度を為している。即ち、界面部IF1と界面部IF2とでは、凸部PRの配列方向が異なっている。
【0023】
界面部IF1及びIF2の各々において、各凸部PRは、典型的にはテーパ形状を有している。それら凸部PRの一部は、テーパ形状を有していなくてもよい。
【0024】
テーパ形状は、例えば、紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状である。凸部PRの側面は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。テーパ形状は、界面部IF1及びIF2の反射率を小さくするのに役立つ。加えて、テーパ形状は、原版からの光透過層11の取り外しを容易にし、生産性の向上に寄与する。
【0025】
界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRの中心間距離は、可視光の最短波長と比較してより短い。例えば、凸部PRの中心間距離は、約400nm未満である。また、界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRの中心間距離は、可視光の最短波長の1/2よりも長い。例えば、凸部PRの中心間距離は、約200nmよりも長い。そして、界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRの平均高さは、例えば、300乃至450nmの範囲内にある。
【0026】
界面部IF1及びIF2の各々において、凸部PRは回折格子を形成している。界面部IF1と界面部IF2とは、凸部PRの配列方向、即ち回折格子の方位が異なっている。例えば、界面部IF1における凸部PRの配列方向と界面部IF2における凸部PRの配列方向とは約45°の角度を為している。なお、凸部PRが形成している回折格子は、溝(即ち、格子線)を破線で示すように配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する。
界面部IF3は、例えば平坦面である。界面部IF3は、省略することができる。
【0027】
次に、界面部IF1及びIF2が有している視覚効果について説明する。
回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0028】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ)
この等式において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、透過光又は正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0029】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり且つ90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
【0030】
法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。従って、この場合、格子定数dが波長λと比較してより大きければ、上記等式を満足する波長λ及び入射角αが存在する。即ち、この場合、観察者は、上記等式を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
【0031】
これに対し、格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、上記等式を満足する入射角αは存在しない。従って、この場合、観察者は、回折光を観察することができない。
【0032】
この説明から明らかなように、界面部IF1及びIF2は、通常の回折格子とは異なり、法線方向に回折光を射出しない。それゆえ、法線方向から観察した場合、表示部DA1及びDA2は、回折による分光色を表示しない。
【0033】
界面部IF1及びIF2に設けられた回折格子と通常の回折格子とは、更に以下の点で相違する。
【0034】
図7は、回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図8は、他の回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図7及び図8において、IFは回折格子が形成された界面を示し、NLは界面IFの法線を示し、ILは照明光を示し、RLは正反射光又は0次回折光を示し、DLは1次回折光を示している。
【0035】
上記等式から明らかなように、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長と比較してより大きい場合、例えば約400nmよりも大きい場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子は、図7に示すように正の角度範囲内の射出角βで1次回折光DLを射出する。
【0036】
これに対し、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長の1/2より大きく且つこの最短波長未満である場合、例えば約200nmより大きく且つ約400nm未満である場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子は、図8に示すように負の角度範囲内の射出角βで1次回折光DLを射出する。例えば、角度αが80°であり、格子定数dが300nmである場合を考えると、回折格子は、波長λが540nmの1次回折光を約−25°の射出角βで射出する。
【0037】
一般に、物品を観察する場合、特には光反射能及び光散乱能が小さい光吸収性の物品を観察する場合、正反射光を知覚できるように物品と光源とを観察者の目に対して相対的に位置合わせする。そのため、図7を参照しながら説明した構成を界面部IF1及びIF2に採用すると、そのこと自体を観察者が知らないとしても、観察者は比較的高い確率で回折光を知覚する。これに対し、図8を参照しながら説明した構成を界面部IF1及びIF2に採用すると、そのことを知らない観察者は、多くの場合、回折光を知覚できない。それゆえ、この表示体10は、表示部DA1及びDA2が干渉光を表示し得ることを悟られ難い。
【0038】
また、図3及び図5に示す構造では、凸部PRはテーパ形状を有している。このような構造を採用した場合、凸部PRの中心間距離が可視光の最短波長と比較してより短ければ、界面IF1及びIF2の近傍の領域は、表示体10の厚さ方向に連続的に変化した屈折率を有していると見なすことができる。そのため、どの角度から観察しても、界面部IF1及びIF2の正反射光の反射率は小さい。そして、上記の通り、界面部IF1及びIF2は、法線方向に回折光を射出しない。
【0039】
従って、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、表示部DA1及びDA2は暗く見える。典型的には、表示部DA1及びDA2は暗灰色又は黒色に見える。なお、ここで、「暗灰色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。また、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、表示部DA1及びDA2は、例えば暗灰色又は黒色印刷層の如く見える。
【0040】
次に、表示体10が表示する像について説明する。
図9は、図1及び図2に示す表示体を法線方向から観察している様子を概略的に示す図である。図10は、図1及び図2に示す表示体を斜め方向から観察している様子の一例を概略的に示す図である。図11は、図1及び図2に示す表示体を斜め方向から観察している様子の他の例を概略的に示す図である。なお、図9乃至図11において、LSは光源を示し、OSは観察者を示している。
【0041】
図9に示すように、略法線方向から照明光ILを表示体10に照射し、表示体10を略法線方向から観察した場合、界面部IF1及びIF2は低反射性及び低散乱性であるので、表示部DA1及びDA2は、暗灰色又は黒色等の明度及び彩度の低い色を表示する。他方、界面部IF3は界面部IF1及びIF2と比較してより大きな反射率を有しているので、表示部DA3は、表示部DA1及びDA2と比較してより明るく見える。
【0042】
図10に示すように、x方向に垂直であり且つy方向に対して斜めの方向から照明光ILを表示体10に照射し、表示体10を負の角度範囲内の方向から観察した場合、図8を参照しながら行った説明から明らかなように、界面部IF1は観察者OSへ向けて1次回折光DLを射出する。それゆえ、表示部DA1は、回折による分光色を表示する。また、界面部IF2における凸部PRの配列方向と界面部IF1における凸部PRの配列方向とは約45°の角度を為している。図10に示す観察条件のもとでは、界面部IF2に設けた回折格子の実効的な格子定数は、界面部IF1に設けた回折格子の実効的な格子定数の約1.4倍である。従って、表示部DA2は、回折による分光色を表示しないか又は表示部DA1とはスペクトルが異なる回折による分光色を表示する。ここでは、界面部IF2における凸部PRの配列方向と界面部IF1における凸部PRの配列方向とが為す角度を約45°としているので、表示部DA2は、回折による分光色を表示しないか、又は、回折による分光色を表示するとしても、その明度は極めて低い。
【0043】
図11に示すように、略法線方向から照明光ILを表示体10に照射し、表示体10をx方向に垂直であり且つy方向に対して斜めの方向から観察した場合、界面部IF1に設けた回折格子の実効的な格子定数は可視光の最短波長と比較してより小さいので、界面部IF1は、観察者に向けて回折光を射出しない。従って、表示部DA1は、干渉光を表示せずに暗く見える。また、界面部IF2に設けた回折格子の実効的な格子定数が可視光の最短波長と比較してより大きければ、界面部IF2は、観察者に向けて1次回折光を射出し得る。従って、表示部DA2は、干渉光を表示する可能性がある。
【0044】
なお、図10に示す状態から表示体10の方位のみを変化させると、表示部DA1及びDA2の表示色が変化する。例えば、表示体10をその法線の周りで45°回転させると、表示部DA2は回折による分光色を表示し、表示部DA1は回折による分光色を表示しないか又は表示部DA2とはスペクトルが異なる回折による分光色を表示する。ここでは、界面部IF2における凸部PRの配列方向と界面部IF1における凸部PRの配列方向とが為す角度を約45°としているので、表示部DA1は、回折による分光色を表示しないか、又は、回折による分光色を表示するとしても、その明度は極めて低い。
【0045】
また、図11に示す状態から表示体10の方位のみを変化させると、表示部DA1及びDA2の表示色が変化する。例えば、表示体10をその法線の周りで45°回転させると、表示部DA2は干渉光を表示せずに暗く見え、表示部DA1は干渉光を表示する可能性がある。
【0046】
上記の通り、表示体10が表示する像は、観察条件に応じて多様に変化する。このような変化を生じる像を、他の技術を用いて再現することは不可能であるか又は極めて困難である。特に、通常の反射型回折格子では例えば回折による分光色と銀色又は金色の金属光沢との間でしか表示色が変化しないことから分かるように、他の技術を用いて、表示色を回折による分光色と暗灰色又は黒色との間で変化させることは不可能であるか又は極めて困難である。そして、この多様性は、写真、図形、絵、文字及び記号などの様々な像を高い意匠性で表示させるのに役立つ。
【0047】
また、この表示体10の界面部IF1及びIF2には、極めて微細であり且つ複雑な形状を有している凸部PRが設けられている。完成した表示体10から、そのような微細構造を正確に解析することは困難である。そして、例え、完成した表示体10から先の微細構造を解析できたとしても、この微細構造を含んだ表示体の偽造又は模造は難しい。通常の回折格子の場合、レーザ光などを利用した光学的複製方法によって干渉縞として構造をコピーされることがあるが、界面部IF1及びIF2の微細構造は複製不可能である。
【0048】
そして、上記の通り、表示部DA1及びDA2が表示する回折による分光色は、特殊な条件で観察しない限り見ることはできない。すなわち、偽造又は模造を試みる者は、界面部IF1及びIF2に先の微細構造が存在していること自体を認識することが難しい。
【0049】
従って、この表示体10を偽造防止用のラベルとして使用すると、高い偽造防止効果を実現することができる。
【0050】
なお、光透過層11を形成するための原版は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0051】
まず、電子ビーム描画又はレーザビーム描画により、レジスト層を凸部PR又は凹部RCに対応したパターンで露光し、その後、レジスト層の現像及び洗浄を順次行う。電子ビーム又はレーザビームのパワーを適宜設定することにより、テーパ形状の凸部又は凹部が設けられたレジスト層を得ることができる。次いで、例えば電鋳により、光透過層11を形成するための原版として、金属製のスタンパを得る。
【0052】
或いは、シリコン基板又はガラス基板などの硬質基板上に、レジスト層を形成する。次に、このレジスト層のパターン露光、現像及び洗浄を順次行い、レジストパターンを得る。次いで、先の硬質基板を、レジストパターンをマスクとして用いたエッチングに供する。このエッチングとして等方性エッチングを行うと、エッチング条件を適宜設定することにより、テーパ形状の凸部又は凹部が設けられた硬質基板を得ることができる。この硬質基板をスタンパとして用いてもよいし、この硬質基板から金属製のスタンパを作製し、これを用いてもよい。
【0053】
この表示体10には、様々な変形が可能である。
図12は、図1及び図2に示す表示体の第1及び/又は第2界面部に採用可能な構造の他の例を示す斜視図である。図13は、図12に示す構造の平面図である。なお、図12には、透明層11側から見た界面部IF1又はIF2を描いている。
【0054】
図12及び図13に示す界面部IF1/IF2では、凸部PRは、互いに斜めに交差するx”方向とy”方向とに配列している。x”方向とy”方向とが為す角度は、例えば、約60°である。即ち、凸部PRは、三角格子状に配列している。このような構造を界面部IF1又はIF2に採用すると、上述した像の変化をより複雑にすることができる。
【0055】
図14(a)及び(b)は、それぞれ、図1及び図2に示す表示体の第1及び第2界面部に採用可能な構造の更に他の例を示す斜視図である。
【0056】
図14(a)に示す界面部IF1は、図14(b)に示す界面部IF2と比較して、凸部PRの中心間距離がより長い。それゆえ、例えば、界面部IF1がx方向に垂直な方向に射出角βで射出する回折光と、界面部IF2がx’方向に垂直な方向に同一の射出角βで射出する回折光とは、異なる波長を有することとなる。従って、より複雑な像の変化を生じさせることができ、より優れた偽造防止効果を得ることができるのに加え、意匠性を向上させることができる。
【0057】
上述した表示体10では、凸部PRの代わりに、凹部を設けてもよい。
図15は、図1及び図2に示す表示体の第1及び/又は第2界面部に採用可能な構造の更に他の例を示す斜視図である。なお、図15には、透明層11側から見た界面部IF1又はIF2を描いている。
【0058】
図15に示す界面部IF1/IF2には、複数の凹部RCが設けられている。これら凹部RCは、凸部PRに関して説明したのと同様に配列している。各凹部RCは、典型的にはテーパ形状を有している。なお、テーパ形状は、例えば、紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状である。凹部RCの側壁は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。このような構造を界面部IF1及び/又はIF2に採用した場合であっても、上述したのと同様の効果を得ることができる。
【0059】
界面部IF1及びIF2の少なくとも一方において、凸部PR又は凹部RCの一部又は全部は、テーパ形状を有していなくてもよい。但し、テーパ形状を有していない凸部PR又は凹部RCの割合が増加すると、界面部IF1又はIF2の反射率が大きくなる。従って、表示部DA1又はDA2が表示する回折による分光色の視認性が低下する。
【0060】
また、界面部IF1及びIF2の少なくとも一方において、凸部PR又は凹部RCは、畝又は溝であってもよい。即ち、凸部PR又は凹部RCは、格子定数が可視光の最短波長未満であること以外は通常の回折格子と同様の回折格子を形成していてもよい。但し、反射率の観点では、凸部PR又は凹部RCは、図3乃至図6及び図12乃至図15を参照しながら説明した構造とすることが有利である。
【0061】
界面部IF3には、様々な構成を採用することができる。例えば、界面部IF3に凹部及び/又は凸部を不規則に配置して、光散乱機能を与えてもよい。或いは、界面部IF3に複数の溝を設けて、回折格子及び/又はホログラムを形成してもよい。
【0062】
図16は、図1及び図2に示す表示体の一変形例を概略的に示す断面図である。
この表示体10では、界面部IF3に複数の溝が設けられている。これら溝は、例えば回折格子を形成している。この回折格子の格子定数は、可視光の最短波長以上である。図16に示す表示体10は、この構造を採用したこと以外は、図1及び図2を参照しながら説明した表示体10と同様である。
【0063】
界面部IF3に形成する回折格子の格子定数は、例えば、0.5乃至2μmの範囲内とする。また、この回折格子を構成する溝の深さは、例えば、0.1乃至1μmの範囲内とする。
【0064】
図16に示す構造を採用すると、例えば、略法線方向から観察した場合や斜め方向から観察した場合に、表示部DA3に回折による分光色を表示させることができる。即ち、表示部DA3に虹色の像を表示させることができる。従って、より複雑な像の変化を生じさせることができ、また、表示部DA1及びDA2が回折による分光色を表示し得ることを悟られ難くすることができる。即ち、より優れた偽造防止効果を得ること、及び、意匠性を向上させることが可能となる。
【0065】
上述した表示体10は、界面部IF1及びIF2に加え、図1及び図2を参照しながら説明した界面部IF3と、図6を参照しながら説明した界面部IF3との双方を更に含んでいてもよい。また、上述した表示体10は、凸部が設けられた界面部として界面部IF1及びIF2のみを含んでいるが、凸部PRが設けられた他の界面部を更に含んでいてもよい。
【0066】
表示部DA1及びDA2で潜像を形成してもよい。
図17は、他の変形例に係る表示体を法線方向から観察している様子を概略的に示す図である。図18は、図17に示す表示体を斜め方向から観察している様子の一例を概略的に示す図である。
【0067】
図17及び図18に示す表示体10では、図2を参照しながら説明した界面部IF1及びIF2が互いに隣接している。従って、それらの反射率及び散乱機能をほぼ等しくして、略法線方向から観察した場合にそれらの互いからの判別を不可能又は困難とすることにより、表示部DA1及びDA2で潜像を構成することができる。図17及び図18に示す例では、表示部DA1及びDA2は矩形状の領域を構成しており、この矩形状の領域のうち、表示部DA1は図18において白抜きで描いた部分に相当し、表示部DA2はそれと隣接した部分に相当している。
【0068】
表示部DA1及びDA2で潜像を構成すると、それらが表示する像は、観察条件に応じて大きく変化する。従って、この構成を採用すると、像の変化の確認が容易になる。
【0069】
光透過層11は、光学的に等方性であってもよく、複屈折性を有していてもよい。後者の場合、偏光子を介して表示体10を観察すると、表示体10が表示する像は、偏光子の透過軸と光透過層11の光学軸とが為す角度に応じた明るさの変化を生じる。即ち、より複雑な像の変化を生じさせることができる。
【0070】
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用又は識別用ラベルとして使用することができる。表示体10は偽造又は模造が困難であるため、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。また、このラベルは上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0071】
図19は、偽造防止用又は識別用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図20は、図19に示すラベル付き物品のXX−XX線に沿った断面図である。
【0072】
図19及び図20には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材20を含んでいる。基材20は、例えば、プラスチックからなる。基材20の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込み及び/又はICに記録された情報の読出しが可能である。基材20上には、印刷層40が形成されている。基材20の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材20に固定する。
【0073】
この印刷物100は、表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物100は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0074】
なお、図19及び図20には、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0075】
また、図19及び図20に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0076】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0077】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図。
【図4】図3に示す構造の平面図。
【図5】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図。
【図6】図5に示す構造の平面図。
【図7】回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図8】他の回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図9】図1及び図2に示す表示体を法線方向から観察している様子を概略的に示す図。
【図10】図1及び図2に示す表示体を斜め方向から観察している様子の一例を概略的に示す図。
【図11】図1及び図2に示す表示体を斜め方向から観察している様子の他の例を概略的に示す図。
【図12】図1及び図2に示す表示体の第1及び/又は第2界面部に採用可能な構造の他の例を示す斜視図。
【図13】図12に示す構造の平面図。
【図14】(a)及び(b)は、それぞれ、図1及び図2に示す表示体の第1及び第2界面部に採用可能な構造の更に他の例を示す斜視図。
【図15】図1及び図2に示す表示体の第1及び/又は第2界面部に採用可能な構造の更に他の例を示す斜視図。
【図16】図1及び図2に示す表示体の一変形例を概略的に示す断面図。
【図17】他の変形例に係る表示体を法線方向から観察している様子を概略的に示す図。
【図18】図17に示す表示体を斜め方向から観察している様子の一例を概略的に示す図。
【図19】偽造防止用又は識別用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【図20】図19に示すラベル付き物品のXX−XX線に沿った断面図。
【符号の説明】
【0079】
10…表示体、11…光透過層、13…反射層、20…基材、30…ICチップ、40…印刷層、100…印刷物、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、DA1…表示部、DA2…表示部、DA3…表示部、DL…1次回折光、IF…界面部、IF1…界面部、IF2…界面部、IF3…界面部、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、OS…観察者、PR…凸部、RC…凹部、RL…正反射光。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凹部又は凸部を各々が含んだ第1及び第2界面部を備え、前記第1及び第2界面部の各々において、前記複数の凹部又は凸部は可視光の最短波長の1/2より長く且つ前記最短波長未満の中心間距離で規則的に配列し、前記第1及び第2界面部は前記複数の凹部又は凸部の配列方向が互いに異なっていることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記表示体のうち、前記第1界面部に対応した第1表示部と、前記第2界面部に対応した第2表示部とは、正面から観察した場合に同一の色感覚を観察者に与えることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1及び第2界面部は互いから離間しており、前記第1及び第2表示部は正面から観察した場合に互いからの判別が可能な像を表示することを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第1及び第2表示部は、互いに隣接しており、正面から観察した場合に互いからの判別が不可能又は困難な潜像を表示することを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項5】
前記第1及び第2界面部の各々において前記複数の凹部又は凸部は正方格子状に配列し、前記第1界面部と前記第2界面部とで前記配列方向が45°異なっていることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の表示体。
【請求項6】
前記第1及び第2界面部は前記複数の凹部又は凸部の中心間距離が互いに異なっていることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の表示体。
【請求項7】
前記第1及び第2界面部と面内方向に隣り合った第3界面部を更に備え、前記第3界面部は平坦面であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項8】
前記第1及び第2界面部と面内方向に隣り合った第3界面部を更に備え、前記第3界面部には複数の溝を配列してなり且つ前記最短波長以上の格子定数を有している回折格子が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項9】
前記第1及び第2界面部と面内方向に隣り合った第3及び第4界面部を更に備え、前記第3界面部は平坦面であり、前記第4界面部には複数の溝を配列してなり且つ前記最短波長以上の格子定数を有している回折格子が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項10】
一方の主面が前記複数の界面部を含んだ光透過層を具備し、前記光透過層は複屈折性を有していることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の表示体。
【請求項11】
前記複数の界面部の前記一部と前記他の一部との各々において、前記複数の凹部又は凸部の少なくとも一部はテーパ形状を有していることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の表示体。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか1項に記載の表示体と、これを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品。
【請求項1】
複数の凹部又は凸部を各々が含んだ第1及び第2界面部を備え、前記第1及び第2界面部の各々において、前記複数の凹部又は凸部は可視光の最短波長の1/2より長く且つ前記最短波長未満の中心間距離で規則的に配列し、前記第1及び第2界面部は前記複数の凹部又は凸部の配列方向が互いに異なっていることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記表示体のうち、前記第1界面部に対応した第1表示部と、前記第2界面部に対応した第2表示部とは、正面から観察した場合に同一の色感覚を観察者に与えることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1及び第2界面部は互いから離間しており、前記第1及び第2表示部は正面から観察した場合に互いからの判別が可能な像を表示することを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第1及び第2表示部は、互いに隣接しており、正面から観察した場合に互いからの判別が不可能又は困難な潜像を表示することを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項5】
前記第1及び第2界面部の各々において前記複数の凹部又は凸部は正方格子状に配列し、前記第1界面部と前記第2界面部とで前記配列方向が45°異なっていることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の表示体。
【請求項6】
前記第1及び第2界面部は前記複数の凹部又は凸部の中心間距離が互いに異なっていることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の表示体。
【請求項7】
前記第1及び第2界面部と面内方向に隣り合った第3界面部を更に備え、前記第3界面部は平坦面であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項8】
前記第1及び第2界面部と面内方向に隣り合った第3界面部を更に備え、前記第3界面部には複数の溝を配列してなり且つ前記最短波長以上の格子定数を有している回折格子が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項9】
前記第1及び第2界面部と面内方向に隣り合った第3及び第4界面部を更に備え、前記第3界面部は平坦面であり、前記第4界面部には複数の溝を配列してなり且つ前記最短波長以上の格子定数を有している回折格子が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項10】
一方の主面が前記複数の界面部を含んだ光透過層を具備し、前記光透過層は複屈折性を有していることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の表示体。
【請求項11】
前記複数の界面部の前記一部と前記他の一部との各々において、前記複数の凹部又は凸部の少なくとも一部はテーパ形状を有していることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の表示体。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか1項に記載の表示体と、これを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−37112(P2009−37112A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202829(P2007−202829)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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