説明

表示体及び印刷物

【課題】より高い偽造防止効果を実現する。
【解決手段】本発明の表示体10は、複数の溝からなるレリーフ型回折格子が設けられた第1界面部12aと、前記複数の溝の最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されると共に各々が順テーパ形状を有する複数の凹部又は凸部が設けられた第2界面部12bとを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券及び株券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのため、従来から、そのような物品には、その偽造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では、認証物品及び有価証券以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品に、認証物品及び有価証券に関して上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0004】
特許文献1には、複数の画素を配列してなる表示体が記載されている。この表示体において、各画素は、複数の溝を配置してなるレリーフ型回折格子を含んでいる。
【0005】
この表示体は、回折光を利用して画像を表示するため、印刷技術や電子写真技術を利用した偽造等は不可能である。したがって、この表示体を真偽判定用のラベルとして物品に取り付ければ、このラベルが表示する画像を見てその物品が真正品であることを確認することができる。それゆえ、このラベルを取り付けた物品は、このラベルを取り付けていない物品と比較して偽造され難い。
【0006】
しかしながら、先のレリーフ型回折格子は、レーザなどの装置があれば、比較的容易に形成することができる。また、先の表示体は、照明光の入射角、観察角度、又は表示体の方位を変化させることにより表示画像の変化を生じるが、その変化は多様性に富んでいる訳ではない。それゆえ、技術の発展に伴い、この表示体の偽造防止効果は低下しつつある。なお、ここでは、偽造又は模造が困難であること、偽造品や模造品との区別が容易であることを偽造防止効果と呼ぶ。
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、より高い偽造防止効果を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、複数の溝からなるレリーフ型回折格子が設けられた第1界面部と、前記複数の溝の最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されると共に各々が順テーパ形状を有する複数の凹部又は凸部が設けられた第2界面部とを備えたことを特徴とする表示体が提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、印刷層を含んだ基材と、前記基材に支持された第1側面に係る表示体とを具備したことを特徴とする印刷物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、より高い偽造防止効果を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。
【0013】
この表示体10は、光透過層11と反射層13との積層体を含んでいる。図2に示す例では、光透過層11側を前面側とし且つ反射層13側を背面側としている。光透過層11と反射層13との界面は、第1界面部12aと第2界面部12bと第3界面部12cとを含んでいる。後述するように、第1界面部12a及び第2界面部12bには、凹構造及び/又は凸構造が設けられている。
【0014】
光透過層11の材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の主面に凹構造及び/又は凸構造が設けられた光透過層11を容易に形成することができる。
【0015】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過性11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体,すなわち、誘電体多層膜,を使用してもよい。但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち光透過層11と接触しているものの屈折率は、光透過層11の屈折率とは異なっている必要がある。
【0016】
光透過層11及び反射層13の一方は、省略することができる。但し、表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、それらの一方のみを含んでいる場合と比較して、先の界面の損傷を生じ難く、表示体10に視認性がより優れた像を表示させることができる。
【0017】
この表示体10は、反射層13を被覆した接着層15をさらに含んでいる。表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、先の界面が露出しないようにできるため、この界面の凹構造及び/又は凸構造の複製は困難である。光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、接着層15は、光透過層11上に形成する。この場合、光透過層11と反射層13との界面ではなく、反射層13と外界との界面が第1界面部12aと第2界面部12bと第3界面部12cとを含む。また、接着層15は、省略することができる。
【0018】
図3は、図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。図4は、図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【0019】
第1界面部12aには、複数の溝14aを配置してなるレリーフ型回折格子が設けられている。溝14aの中心間距離は、例えば、0.5μm乃至2μmの範囲内にある。また、溝14aの深さは、例えば0.1μm乃至1μmの範囲内にあり、典型的には0.1μm乃至0.3μmの範囲内にある。
【0020】
なお、用語「回折格子」は、自然光などの照明光を照射することにより回折波を生じる構造を意味し、複数の溝14aを平行且つ等間隔に配置する通常の回折格子に加え、ホログラムに記録された干渉縞も包含することとする。また、溝14a又は溝14aに挟まれた部分を「格子線」と呼ぶこととする。
【0021】
第2界面部12bには、複数の凹部又は凸部14bが設けられている。これら凹部又は凸部14bは、溝14aの最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。各凹部又は凸部14bは、順テーパ形状を有している。凹部又は凸部14bの深さ又は高さは、通常は溝14aの深さよりも大きく、典型的には0.3μm乃至0.5μmの範囲内にある。
第3界面部12cは、平坦面である。第3界面部12cは、省略することができる。
【0022】
この表示体10は、複数の凹部又は凸部14bが設けられた第2界面部12bを含んでいる。上記の通り、凹部又は凸部14bは、回折格子を形成している溝14aの最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。すなわち、この表示体10は、回折格子を形成している溝14aと比較して、より微細な構造を含んでいる。
【0023】
完成した表示体10から、そのような微細構造を正確に解析することは困難である。そして、例え、完成した表示体10から先の微細構造を解析できたとしても、この微細構造を含んだ表示体の偽造又は模造は難しい。回折格子の場合、レーザ光などを利用した光学的複製方法によって干渉縞として構造をコピーされることがあるが、第2界面部12bの微細構造は複製不可能である。
【0024】
また、この表示体10は、極めて特殊な視覚効果を有している。すなわち、第1界面部12aは、波長分散を伴う回折光を生じ、すなわち、視点位置により七色にカラーシフトして見え、回折格子が形成された通常の界面として認識される。また、反射層13として金属層を使用した場合には、第3界面部12cと同様、第1界面部12aでも回折光が観察されない条件では金属光沢を観察することができる。これに対し、第2界面部12bは、典型的には、あたかも回折格子の一部と重なり合うように形成された黒色印刷層の如く見える。それゆえ、偽造又は模造を試みる者は、第2界面部12bに先の微細構造が存在していること自体を認識することが難しい。
【0025】
したがって、この表示体10を偽造防止用のラベルとして使用すると、高い偽造防止効果を実現することができる。
【0026】
この表示体10の視覚効果について、さらに詳細に説明する。
まず、第1界面部12aに起因した視覚効果について説明する。
【0027】
回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0028】
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ) …(1)
この等式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光,すなわち、透過光又は正反射光,の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は、照明光の入射角と等しく、入射角とはZ軸に対して対称な関係である(反射型回折格子の場合)。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
【0029】
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、回折格子は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、回折格子の格子線に垂直な面内で観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0030】
また、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、格子定数dに応じて変化する。
一例として、回折格子は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとする。このときの0次回折光の射出角をαとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
【0031】
d=λ/sinα …(2)
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと照明光の入射角|α|と格子定数dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。例えば、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分を含んだ白色光を照明光として使用し、照明光の入射角|α|を45°とする。そして、空間周波数(格子定数の逆数)が1000本/mm乃至1800本/mmの範囲内で分布している回折格子を使用するとする。この場合、回折格子をその法線方向から観察すると、空間周波数が約1600本/mmの部分は青く見え、空間周波数が約1100本/mmの部分は赤く見える。
【0032】
なお、回折格子は、空間周波数が小さいほうが形成し易い。そのため、通常の表示体では、回折格子の大多数は、空間周波数が500本/mm乃至1600本/mmの回折格子である。
【0033】
このように、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、回折格子の格子定数d(又は空間周波数)で制御することができる。そして、先の観察条件から観察角度を変化させると、観察者が知覚する色は変化する。
【0034】
上記の説明では、光が格子線に垂直な面内で進行することを仮定している。この状態から回折格子をその法線の周りで回転させると、一定の観察方向に対して、この回転角度に応じて格子定数dの実効値が変化する。その結果、観察者が知覚する色が変化する。逆に言えば、格子線の方位のみが異なる複数の回折格子を配置した場合、それら回折格子に異なる色を表示させることができる。また、回転角度が十分に大きくなると、一定の観察方向からは回折光が認識できなくなり、回折格子が無い場合と同様に見える。
【0035】
また、回折格子を構成している溝14aの深さを大きくすると、回折効率が変化する(照明光の波長などにも依存)。そして、後で説明する画素に対する回折格子の面積比を大きくすると、回折光の強度はより大きくなる。
【0036】
したがって、第1界面部12aが複数の画素を配列してなる場合、それら画素の一部と他の一部とで、溝14aの空間周波数及び/又は方位を異ならしめると、それら画素に異なる色を表示させることができ、また、観察可能な条件を設定することができる。そして、第1界面部12aを構成している画素の一部と他の一部とで、溝14aの深さ及び/又は画素に対する回折格子の面積比の少なくとも1つを異ならしめると、それら画素の輝度を異ならしめることができる。それゆえ、これらを利用することにより、第1界面部12aに、フルカラー像及び立体像などの像を表示させることができる。
【0037】
なお、ここで言う「像」は、色及び/又は輝度の空間的分布として観察できるものを意味する。「像」は、写真、図形、絵、文字、記号などを包含している。
【0038】
次に、第2界面部12bに起因した視覚効果について説明する。
図5は、第1界面部が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図6は、第2界面部が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図5及び図6において、31a及び31bは照明光を示し、32a及び32bは正反射光又は0次回折光を示し、33a及び33bは1次回折光を示している。
【0039】
上記の通り、第2界面部12bに設けられた複数の凹部又は凸部14bは、溝14aの最小中心間距離,すなわち回折格子の格子定数,と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されている。そのため、凹部又は凸部14bが規則的に配列し、第2界面部12bが回折光33bを射出したとしても、観察者は、この回折光33bと、これと同じ波長を有する第1界面部12aからの回折光33aとを同時に知覚することはない。そして、回折格子の格子定数と凹部又は凸部14bの中心間距離との差が十分に大きければ、波長の如何に拘らず、観察者は、第1界面部12aからの回折光33aと第2界面部12bからの回折光33bとを同時に知覚することはない。すなわち、この場合、観察者は、第1界面部12aからの回折光33aを視認可能な観察角度範囲で、第2界面部12bからの回折光33bを視認することはない。
【0040】
また、各凹部又は凸部14bは、順テーパ形状を有している。そのため、どの角度から観察しても、第2界面部12bの正反射光の反射率は小さい。
【0041】
したがって、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、第2界面部12bは、第1界面部12aと比較してより暗く見える。そして、この場合、典型的には、第2界面部12bは黒色に見える。なお、ここで、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、第2界面部12bは、あたかも回折格子の一部と重なり合うように形成された黒色印刷層の如く見える。
【0042】
また、第2界面部12bからの1次回折光33bの射出角が−90°より大きければ、表示体10の法線方向と観察方向とが為す角度を適宜設定することにより、観察者は、第2界面部12bからの1次回折光33bを知覚することができる。それゆえ、この場合、第2界面部12bが黒色印刷層とは異なることを、目視により確認することができる。
【0043】
この構成を採用する場合、凹部又は凸部14bの中心間距離は、例えば、200nm乃至350nmの範囲内としてもよい。こうすると、上記等式(2)から明らかなように、第2界面部12bは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出せず、一方、青色に対応した波長を有する回折光を射出する。他方、第1界面部12aは、赤色に対応した波長を有する回折光を射出する。そのため、この場合、第1界面部12aが赤色に対応した波長を有する回折光を射出する場合と比較して、表示体10が真正品であることの確認がより容易になる。
【0044】
なお、第2界面部12bが複数の画素を配列してなる場合、それら画素の一部と他の一部とで、凹部又は凸部14bの形状、深さ又は高さ、平均中心間距離、及び配置パターンの少なくとも1つを異ならしめると、後で詳述するように、それら画素の反射率等を異ならしめることができる。それゆえ、これを利用することにより、第2界面部12bで階調表示を行うことができる。
【0045】
また、この表示体10において、第1界面部12aと第2界面部12bとは同一面内にある。それゆえ、例えば、溝14aと凹部又は凸部14bとに対応した凸構造及び/又は凹構造を1枚の原版に形成し、この凸構造及び/又は凹構造を光透過層11に転写することにより、溝14aと凹部又は凸部14bとを同時に形成することができる。したがって、原版に凸構造及び/又は凹構造を高精度に形成しておけば、第1界面部12aと第2界面部12bとの位置ずれの問題を生じ得ない。また、微細な凹凸構造と高精度の特徴は、高精細な像表示を可能とし、他の方法によって作られたものとの区別が容易である。真正品が極めて高精度に安定して製造できるという事実は、偽造品や模造品との区別を一層容易にする。
【0046】
表示体10に表示させる像は、二次元的に配列した複数の画素で構成することが有利である。これについて、以下に説明する。
【0047】
図7は、マトリクス状に配列した複数の画素で表示面を構成した表示体の一例を概略的に示す平面図である。
【0048】
この表示体10では、マトリクス状に配列した35個の画素PX11乃至PX17、PX21乃至PX27、PX31乃至PX37、PX41乃至PX47、及びPX51乃至PX57で表示面を構成している。画素PX11乃至PX17、PX21、PX27、PX31、PX37、PX41、PX47、及びPX51乃至PX57は、第1界面部12aを構成している。画素PX22乃至PX24、PX26、PX32、PX34、PX36、及びPX42乃至46は、第2界面部12bを構成している。画素PX25、PX33、及びPX35は、第3界面部12cを構成している。
【0049】
画素PX11及びPX12は同一の構造を有しており、画素PX13乃至PX15は同一の構造を有しており、画素PX16、PX17、PX53、PX56及びPX57は同一の構造を有しており、画素PX21、PX37、PX51、PX52及びPX55は同一の構造を有しており、画素PX27及びPX41は同一の構造を有しており、画素PX31、PX47及びPX54は同一の構造を有している。そして、画素PX11及びPX12からなる画素群と、画素PX13乃至PX15からなる画素群と、画素PX16、PX17、PX53、PX56及びPX57からなる画素群と、画素PX21、PX37、PX51、PX52及びPX55からなる画素群と、画素PX27及びPX41からなる画素群と、画素PX31、PX47及びPX54からなる画素群とは、回折格子の構造が異なっている。一例として、図7では、それら画素群間で、回折格子の方位のみを異ならしめている。
【0050】
また、画素PX22乃至PX24、PX26、PX32、PX34、PX36、及びPX42乃至46は、同一の構造を有している。そして、画素PX25、PX33、及びPX35は、同一の構造を有している。
【0051】
すなわち、図7に示す表示体10では、8種の画素で像を形成している。これら8種の画素の各々の視覚効果が分かっていれば、それらの並べ替えによって得られる像の予想は容易である。それゆえ、デジタル画像データから、各画素に採用すべき構造を容易に決定することができる。したがって、表示体10に表示させる像を二次元的に配列した複数の画素で構成すると、表示体10の設計が容易になる。
【0052】
なお、図7に示す表示体10では8種の画素で像を形成しているが、像を形成する画素の種類は2以上であればよい。但し、画素の種類を多くすると、より複雑な像を表示することができる。
【0053】
また、図7に示す表示体10では35個の画素で像を構成しているが、像を構成する画素の数は2以上であればよい。但し、画素の数を多くすると、より高精細な像を表示することができる。
【0054】
図7に示す表示体10では、第1界面部12aを回折格子の方位のみが異なる6種の画素で構成しているが、第1界面部12aは、回折格子の構造が異なる複数種の画素で構成してもよい。すなわち、第1界面部12aは、溝14aの空間周波数、方位、及び深さ、並びに、画素に対する回折格子の面積比の少なくとも1つが互いに異なる複数種の画素で構成してもよい。或いは、第1界面部12aは、1種の画素で構成してもよい。
【0055】
また、図7に示す表示体10では、第2界面部12bを1種の画素で構成しているが、第2界面部12bは、凹部又は凸部14bの形状、深さ又は高さ、平均中心間距離、及び配置パターンの少なくとも1つが互いに異なる複数種の画素で構成してもよい。
【0056】
図8乃至図11は、第2界面部に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図である。
【0057】
図8では、凹部又は凸部14bの配列は、正方格子を形成している。この構造は、電子線描画装置やステッパなどの微細加工装置を用いた製造が比較的容易であり、凹部又は凸部14bの中心間距離などの高精度な制御も比較的容易である。
【0058】
また、図8の構造では、凹部又は凸部14bは、規則的に配列している。したがって、凹部又は凸部14bの中心間距離を比較的長く設定した場合には、第2界面部12bから回折光を射出させることができる。この場合、第2界面部12bが黒色印刷層とは異なることを、目視により確認することができる。また、凹部又は凸部14bの中心間距離を比較的短く設定した場合,例えば200nm以下に設定した場合,には、第2界面部12bからの回折光の射出を防止できる。この場合、観察される色に関しては、第2界面部12bが黒色印刷層とは異なることが分かり難くなる。
【0059】
図8では、凹部又は凸部14bの中心間距離をX方向とY方向とで等しくしているが、凹部又は凸部14bの中心間距離はX方向とY方向とで異ならしめてもよい。すなわち、凹部又は凸部14bの配列は、矩形格子を形成していてもよい。
【0060】
凹部又は凸部14bの中心間距離をX方向及びY方向の双方で比較的長く設定すると、Y方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合とX方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合との双方において第2界面部12bから回折光を射出させることができ、且つ、前者と後者とで回折光の波長を異ならしめることができる。凹部又は凸部14bの中心間距離をX方向及びY方向の双方で比較的短く設定すると、照明方向に拘らず、第2界面部12bからの回折光の射出を防止できる。凹部又は凸部14bの中心間距離を、X方向及びY方向の一方で比較的長く設定し、他方で比較的短く設定すると、Y方向及びX方向の一方に垂直な方向から表示体10を照明した場合には第2界面部12bから回折光を射出させ、Y方向及びX方向の他方に垂直な方向から表示体10を照明した場合には第2界面部12bからの回折光の射出を防止できる。
【0061】
図9では、凹部又は凸部14bの配列は、三角格子を形成している。この構造を採用した場合、図8の構造を採用した場合と同様、凹部又は凸部14bの中心間距離を比較的長く設定すれば、第2界面部12bから回折光を射出させることができ、凹部又は凸部14bの中心間距離を比較的短く設定すれば、第2界面部12bからの回折光の射出を防止できる。
【0062】
また、図9の構造を採用した場合、凹部又は凸部14bの中心間距離を適宜設定すれば、例えば、A方向から表示体10を照明したときには第2界面部12bからの回折光の射出を防止し、B方向及びC方向から表示体10を照明したときには第2界面部12bから回折光を射出させることができる。すなわち、より複雑な視覚効果が得られる。
【0063】
図10では、凹部又は凸部14bは、不規則に配置されている。凹部又は凸部14bを不規則に配置した場合、第2界面部からの回折光の射出がさらに生じ難くなる。なお、この構造は、例えば、光の干渉を利用してスペックルの強度分布を記録することにより形成することができる。
【0064】
図11では、凹部又は凸部14bは、不規則に配置されているのに加え、大きさが不均一である。この構造を採用した場合、図10の構造を採用した場合と比較して、第2界面部からの回折光の射出がさらに生じ難くなる。
【0065】
図8乃至図11に例示したように、凹部又は凸部14bの配置パターンには、様々な変形が可能である。そして、各配置パターンは、それに固有の視覚効果等を有している。それゆえ、凹部又は凸部14bの配置パターンが異なる複数の画素で第2界面部12bを構成すると、より複雑な視覚効果を得ることができる。
【0066】
図12乃至図14は、図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図である。
【0067】
図12乃至図14に示す構造は、図4に示す構造の変形例である。図12乃至図14に示す凹部又は凸部14bは何れも、順テーパ形状を有している。
【0068】
図4に示す構造では、凹部又は凸部14bは、円錐形状を有している。凹部又は凸部14bを円錐形状とする場合、凹部又は凸部14bは先端が尖っていてもよく、切頭円錐形状を有していてもよい。但し、凹部又は凸部14bを先端が尖った円錐形状とした場合、凹部又は凸部14bは第2界面部12bに平行な面を有していないので、切頭円錐形状とした場合と比較して、第2界面部12bの正反射光の反射率をより小さくすることができる。
【0069】
図12に示す構造では、凹部又は凸部14bは、四角錐形状を有している。凹部又は凸部14bは、三角錐形状などの四角錐形状以外の角錐形状を有していてもよい。この場合、特定条件で発生する回折光の強度を高くすることができ、観察をより容易にする。また、凹部又は凸部14bを角錐形状とする場合、凹部又は凸部14bは先端が尖っていてもよく、切頭角錐形状を有していてもよい。但し、凹部又は凸部14bを先端が尖った角錐形状とした場合、凹部又は凸部14bは第2界面部12bに平行な面を有していないので、切頭角錐形状とした場合と比較して、第2界面部12bの正反射光の反射率をより小さくすることができる。
【0070】
図13に示す構造では、凹部又は凸部14bは、紡錘形状を有している。図13に示す構造を採用した場合、図4又は図12に示す構造を採用した場合ほど、第2界面部12bの反射率を小さくすることはできない。但し、図13に示す構造を採用した場合、図4又は図12に示す構造を採用した場合と比較して、原版への凸構造及び/又は凹構造の形成や原版から光透過層11への凸構造及び/又は凹構造の転写がより容易である。
【0071】
図14に示す構造では、凹部又は凸部14bは、底面積が異なる複数の四角柱をその底面積が大きなものから順に積み重ねた構造を有している。なお、四角柱の代わりに、円柱や三角柱などの四角柱以外の柱状体を積み重ねてもよい。
【0072】
図14に示す構造を採用した場合、図4、図12又は図13に示す構造を採用した場合ほど、第2界面部12bの正反射光の反射率を小さくすることはできない。但し、図14に示す構造を採用した場合、図13に示す構造を採用した場合と同様、図4又は図12に示す構造を採用した場合と比較して原版への凸構造及び/又は凹構造の形成や原版から光透過層11への凸構造及び/又は凹構造の転写がより容易である。
【0073】
このように、凹部又は凸部14bの形状は、第2界面部12bの反射率に影響を及ぼす。それゆえ、凹部又は凸部14bの形状が異なる複数の画素で第2界面部12bを構成すると、第2界面部12bで階調表示を行うことができる。
【0074】
第2界面部12bは、凹部又は凸部14bの中心間距離を小さくすると、より暗く見えるようになる。特に、凹部又は凸部14bの中心間距離を400nm以下とすると、上記等式(2)から明らかなように、400nm乃至700nmの範囲内の全ての波長について、照明光の入射角に拘らず、第2界面部12bが法線方向へ回折光を射出するのを防ぐことができる。それゆえ、凹部又は凸部14bの中心間距離が異なる複数の画素で第2界面部12bを構成すると、第2界面部12bで階調表示を行うことができる。
【0075】
第2界面部12bは、凹部又は凸部14bの深さ又は高さを大きくすると、より暗く見えるようになる。例えば、凹部又は凸部14bの深さ又は高さを、それらの中心間距離の1/2以上とすると、第2界面部12bは、極めて暗く見えるようになる。それゆえ、凹部又は凸部14bの深さ又は高さが異なる複数の画素で第2界面部12bを構成すると、第2界面部12bで階調表示を行うことができる。
【0076】
第2界面部12bは、凹部又は凸部14bの第2界面部12bに平行な一方向についての寸法とこの方向についての凹部又は凸部14bの中心間距離との1:1に近づけると、より暗く見えるようになる。そして、凹部又は凸部14bの第2界面部12bに平行な一方向についての寸法とこの方向についての間隔とを等しくした場合、第2界面部12bは最も暗く見える。それゆえ、先の比が異なる複数の画素で第2界面部12bを構成すると、第2界面部12bで階調表示を行うことができる。
【0077】
以上、第1界面部12aと第2界面部12bを同一面に配置した例を説明したが、それらを異なる面に配置してもよい。例えば、第1及び第2光透過層を積層し、それらの間に第1反射層を介在させると共に、第2光透過層の表面を第2反射層で被覆する。第1反射層として金属層を使用する場合、第1反射層は、第1光透過層側から第2反射層が見えるようにパターニングしておく。そして、第1光透過層と第1反射層との界面の少なくとも一部を第1界面部12a及び第2界面部12bの一方とし、第2光透過層と第2反射層との界面の少なくとも一部を第1界面部12a及び第2界面部12bの他方とする。このような構造を採用した場合も、上述したのと同様の視覚効果を得ることができる。
【0078】
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用又は識別用ラベルとして使用することができる。表示体10は偽造又は模造が困難であるため、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。また、このラベルは上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0079】
図15は、偽造防止用又は識別用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図15には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。
【0080】
この印刷物100は、磁気カードであって、基材51を含んでいる。基材51は、例えば、プラスチックからなる。基材51上には、印刷層52と帯状の磁気記録層53とが形成されている。さらに、基材51には、表示体10が偽造防止用又は識別用ラベルとして貼りつけられている。なお、この表示体10は、表示している像が異なること以外は、図1及び図2等を参照しながら説明したのと同様の構造を有している。
【0081】
この印刷物100は、表示体10を含んでいる。それゆえ、上記の通り、この印刷物100の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物100は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、印刷層52をさらに含んでいるため、印刷層52の見え方と表示体見え方とを対比することが容易である。それゆえ、印刷物100が印刷層52を含んでいない場合と比較して、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することがより容易である。
【0082】
なお、図15には、表示体10を含んだ印刷物として磁気カードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、無線カード、IC(integrated circuit)カード、ID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0083】
また、図15に示す印刷物100では、表示体10を基材51に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。
【0084】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図。
【図4】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図。
【図5】第1界面部が回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図6】第2界面部が回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図7】マトリクス状に配列した複数の画素で表示面を構成した表示体の一例を概略的に示す平面図。
【図8】第2界面部に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図9】第2界面部に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図10】第2界面部に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図11】第2界面部に採用可能な凹部又は凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図12】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図。
【図13】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図。
【図14】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の他の例を拡大して示す斜視図。
【図15】偽造防止用又は識別用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【符号の説明】
【0086】
10…表示体、11…光透過層、13…反射層、12a…第1界面部、12b…第2界面部、12c…第3界面部、14a…溝、14b…凹部又は凸部、15…接着層、31a…照明光、31b…照明光、32a…正反射光又は0次回折光、32b…正反射光又は0次回折光、33a…1次回折光、33b…1次回折光、51…基材、52…印刷層、53…磁気記録層、100…印刷物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溝からなるレリーフ型回折格子が設けられた第1界面部と、前記複数の溝の最小中心間距離と比較してより小さい中心間距離で二次元的に配置されると共に各々が順テーパ形状を有する複数の凹部又は凸部が設けられた第2界面部とを備えたことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記第1界面部は複数の第1画素を配列してなり、前記第2界面部は複数の第2画素を配列してなることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記複数の第1画素は、前記複数の溝の空間周波数、方位、及び深さ、並びに、前記第1画素に対する前記回折格子の面積比の少なくとも1つが互いに異なる画素を含み、前記複数の第2画素は、前記複数の凹部又は凸部の形状、深さ又は高さ、平均中心間距離、及び配置パターンの少なくとも1つが互いに異なる画素を含んでいることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記複数の凹部又は凸部は不規則に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体。
【請求項5】
前記複数の凹部又は凸部は形状が互いに等しく、前記複数の凹部又は凸部の配列は正方格子又は矩形格子を形成していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体。
【請求項6】
前記複数の凹部又は凸部は形状が互いに等しく、前記複数の凹部又は凸部の配列は三角格子を形成していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体。
【請求項7】
前記複数の凹部又は凸部の各々は、角錐、円錐、又は紡錘形状を有していることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項8】
前記複数の凹部又は凸部の中心間距離は400nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の表示体。
【請求項9】
前記複数の凹部又は凸部の中心間距離は200nm乃至350nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の表示体。
【請求項10】
前記複数の凹部又は凸部の深さ又は高さは、前記複数の凹部又は凸部の中心間距離の1/2以上であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の表示体。
【請求項11】
前記複数の凹部又は凸部は、前記第2界面部に平行な一方向についての寸法とこの方向についての中心間距離とが等しいことを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の表示体。
【請求項12】
一方の主面が前記第1及び第2界面部を含んだ光透過層と、前記光透過層の前記主面を被覆した反射層とを具備したことを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の表示体。
【請求項13】
印刷層を含んだ基材と、前記基材に支持された請求項1乃至12の何れか1項に記載の表示体とを具備したことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−107470(P2008−107470A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288842(P2006−288842)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】