説明

表示基板用搬送ケース

【課題】人手を煩わすことなく、被搬送物である表示基板を確実に固定できるようにした表示基板用搬送ケースを得る。
【解決手段】表示基板PLの端部を保持する凹溝3内に、内部に容積可変の空気室を有するゴム弾性体からなり、加圧空気により膨出して表示基板PLの端部を押圧し、脱圧により収縮して非押圧状態となるパネル押さえ部材11を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示基板用搬送ケースに関し、さらに詳しく言えば、被搬送物である表示基板をがたつかせることなく搬送し得る表示基板用搬送ケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、表示基板には、出発原材料としてのガラス基板から点灯表示可能な状態に組み立てられた表示パネル基板まで広く含まれる。さらに、表示パネル基板には、液晶表示パネル,有機ELパネル,プラズマディスプレイパネルなどが含まれる。
【0003】
いずれにしても、実際の製造工程では、工程間の搬送効率を高めるため、より多くの表示基板を所定の間隔をもって互いに離間した状態で収納し得る搬送ケースが用いられている。その一例を図5により説明する。図5は搬送ケースを示す平面図である。
【0004】
搬送する表示基板が液晶パネルPLであるとして、搬送ケース1は、液晶パネルPLを出し入れする基板挿脱用開口部2aを有する箱形のケース本体2を備え、ケース本体2の対向する一対の内面の各々には、液晶パネルPLの端部を保持する複数の凹溝3が液晶パネルPLの挿脱方向(図5において紙面と直交する方向)に沿って設けられている。
【0005】
凹溝3はケース本体2の内壁面に直に形成されることもあるが、多くの場合、この例のように凹溝3が形成された櫛歯状の支持板4,4をケース本体2の対向する内面に配置するようにしている。なお、搬送する液晶パネルPLのサイズに応じて、支持板4,4の間隔を調整できようにしたものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
搬送ケース1に対して液晶パネルPLを挿脱する際の作業性を考慮して、凹溝3の幅は液晶パネルPLの厚さよりも大きく形成されるため、液晶パネルPLは固定されない状態、いわゆる「遊び」がある状態で搬送されることになる。
【0007】
したがって、搬送中の振動や衝撃などにより、液晶パネルPLの端部が凹溝3にぶつかりパネル端面が欠けてしまうことがある。通常の液晶パネルPLでは厚さ0.7mm程度のガラス基板が用いられているが、近年の薄型化の要請から例えば0.4〜0.5mm厚のガラス基板が用いられるようになると、搬送中でのパネル端面の欠けがより多く発生する。
【0008】
また、別の問題として、搬送中の振動や衝撃などに起因して、液晶パネルPLの端部が凹溝3に繰り返し接触することにより凹溝3側が削られ、その切削粉が液晶パネルPLに付着することがある。一旦付着したこの種の切削粉は、洗浄などをしない限りきれいに落とすことができない。
【0009】
これらの問題を解決するには、液晶パネルPLを固定すればよい。その方法のひとつとして、液晶パネルPLの端部にパッキン材(詰め物)を噛ませて凹溝3内に嵌合させる方法が知られているが、1枚ずつパッキン材を噛ませるには大変な手間がかかるうえ、パッキン材の使用によりコスト増となるため、好ましい解決方法ではない。
【0010】
【特許文献1】特開2003−152068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の課題は、人手を煩わすことなく、被搬送物である表示基板を確実に固定できるようにした表示基板用搬送ケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、基板挿脱用の開口部を有する箱形のケース本体を備え、上記ケース本体の対向する一対の内面の各々に表示基板の端部を保持する凹溝が上記表示基板の挿脱方向に沿って設けられている表示基板用搬送ケースにおいて、上記凹溝に含まれている対向する一対の側壁面の少なくともひとつの面に、内部に容積可変の空気室を有するゴム弾性体からなり、加圧空気により膨出して上記表示パネルの端部を押圧し、脱圧により収縮して非押圧状態となるパネル押さえ部材が配置されていることを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1の表示基板用搬送ケースにおいて、上記パネル押さえ部材が、上記対向する一対の側壁面の各々に配置されていることを特徴としている。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2の表示基板用搬送ケースにおいて、上記ゴム弾性体に、耐熱性および耐薬品性を有する高分子ゴム材が用いられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、表示基板の端部を保持する凹溝内に、内部に容積可変の空気室を有するゴム弾性体からなり、加圧空気により膨出して表示基板の端部を押圧し、脱圧により収縮して非押圧状態となるパネル押さえ部材を配置したことにより、パネル押さえ部材に加圧空気を供給するだけで表示基板を確実に固定でき、また、パネル押さえ部材の空気室内を例えば大気に開放して脱圧することにより、その固定を容易に解除することができる。
【0016】
パネル押さえ部材を凹溝内の対向する一対の側壁面の各々に配置するようにした請求項2に記載の発明によれば、表示基板の端部がその両面側から挟み付けられるため、表示基板の端部を凹溝内の中央部分に固定することができる。
【0017】
パネル押さえ部材を構成するゴム弾性体に耐熱性および耐薬品性を有する高分子ゴム材を用いるようにした請求項3に記載の発明によれば、表示基板を搬送ケース内に収納したままで、例えばIPA(イソピルアルコール)を含む薬品洗浄やスチーム洗浄などに供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、図1ないし図4により、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の表示基板用搬送ケース(単に「搬送ケース」ということがある。)の一例を示す平面図,図2は本発明の要部を拡大して示す斜視図,図3は本発明の作用説明用の要部拡大断面図,図4は他の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【0019】
なお、この実施形態の説明において、先の図5で説明した従来例と変更を要しない構成要素には同じ参照符号を用いる。また、被搬送物である表示基板を液晶パネルPLとしている。
【0020】
図1に示すように、この搬送ケース10においても、液晶パネルPLを出し入れする表示基板挿脱用開口部2aを有する箱形のケース本体2を備えている。図1は平面図であるため、基板挿脱用開口部2aはケース本体2の上面に設けられ、これにより、液晶パネルPLをほぼ垂直に立てた状態で収納され、基板挿脱用開口部2aと対向する底面には底板もしくはグリル板(多孔板)などが設けられる。
【0021】
なお、この搬送ケース10は横にして使用することもできる。その場合、図1が正面図もしくは側面図となり、液晶パネルPLが横(水平)にして収納されることになる。
【0022】
ケース本体2の対向する一対の内面の各々には、液晶パネルPLの端部を保持する複数の凹溝3が液晶パネルPLの挿脱方向(図1において紙面と直交する方向)に沿って設けられている。この例では、凹溝3が各片側にそれぞれ5個ずつ互いに対向するように5対として配置されているが、一対のみであってもよい。
【0023】
凹溝3はケース本体2の内壁面に直接的に形成されてもよいが、搬送する液晶パネルPLのサイズに応じて凹溝3,3間の間隔を調整可能とするため、それぞれ凹溝3が形成された櫛歯状の支持板4,4をケース本体2の対向する内面に可動的に配置することが好ましい。
【0024】
搬送ケース10に対して液晶パネルPLを挿脱する際の作業性を考慮して、凹溝3の幅は液晶パネルPLの厚さよりも大きく形成されるため、液晶パネルPLは固定されない状態、いわゆる「遊び」がある状態で搬送されることになる。
【0025】
搬送時における上記の「遊び」をなくすため、本発明では、各凹溝3内に液晶パネルPLの端部の動きを拘束するパネル押さえ部材11が配置される。
【0026】
図2を参照して、この例では、パネル押さえ部材11にゴム弾性体からなる両端が閉塞されたチューブ110が用いられている。このチューブ110は、凹溝3を形成する溝底面3aおよび対向する一対の側壁面3b,3bの少なくともひとつの面に配置されればよいが、好ましくは各側壁面3b,3bに沿って配置されるとよい。
【0027】
凹溝3に対するチューブ110の固定手段には接着剤が好ましく採用されるが、凹溝3とチューブ110との間に例えば蟻溝嵌合などの機械的固定手段が適用されてもよい。
【0028】
チューブ110は、図示しない切替弁を含む接続配管12を介して加圧空気源Pに接続される。この場合、上記切替弁には加圧ステージと脱圧ステージとを有する電磁切替弁が用いられる。
【0029】
また、各側壁面3b,3bに沿ってチューブ110,110を取り付けたとしても、凹溝3に対して液晶パネルPLの端部を容易に挿脱可能とするため、チューブ110は自然状態もしくは初期状態(無加圧状態)で扁平であることが好ましい。
【0030】
すなわち、液晶パネルPLを搬送ケース10内に収納する場合には、上記電磁切替弁を脱圧ステージ側として各チューブ110内の空気室を大気に開放して、図3(a)に示すように、各チューブ110を扁平にしておく。この状態では、各チューブ110と液晶パネルPLの端部との間に所定のクリアランスが存在するため、液晶パネルPLの端部を凹溝3内に挿入することができる。
【0031】
これに対して、搬送時には上記電磁切替弁を加圧ステージ側として加圧空気源Pより各チューブ110内に加圧空気を供給して、図3(b)に示すように、各チューブ110を膨らまして液晶パネルPLの端部を両面から押さえる。
【0032】
これにより、液晶パネルPLが確実に固定されるため、搬送中の振動や衝撃などによる液晶パネルPLの端部欠け(マイクロクラックなどの発生)や、液晶パネルPLの端部と凹溝3との擦れによる切削粉などの発生を防止することができる。なお、液晶パネルPLを搬送ケース10から取り出す際には、再度上記電磁切替弁を脱圧ステージ側として、図3(a)の状態にすればよい。
【0033】
別の例として、図4に示すように、パネル押さえ部材11に長さ方向(軸線方向)に沿って1条のスリット121を有する断面C字状で両端が閉塞された扁平なチューブ120を用いることもできる。
【0034】
この場合には、スリット121近傍の裾部分を所定の接着剤13を介して各側壁面3b,3bに気密的に固定するとともに、一例として支持板4内に加圧空気源Pと接続される幹配管4aを形成し、この幹配管4aを二股に分岐させて、その各分岐管4b,4bを各側壁面3b,3bに導いてチューブ120内の空気室と連通させる。このようにしても、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0035】
なお、液晶パネルPLを搬送ケース10内に収納したままで、例えばIPA(イソピルアルコール)を含む薬品洗浄やスチーム洗浄などを行う場合のことを考慮して、パネル押さえ部材11を構成するゴム弾性体に耐熱性および耐薬品性を有する高分子ゴム材を用いることが好ましい。
【0036】
上記各実施形態では、パネル押さえ部材11に扁平チューブ110,120を用いているが、円形チューブを用いてもよい。その場合、円形チューブの外径が大きく、凹溝3に対する液晶パネルPLの端部の挿脱に邪魔になるようであれば、円形チューブを加圧空気源と負圧源とに選択的に接続可能とし、挿脱時には負圧源に接続して円形チューブを強制的に縮径すればよい。
【0037】
また、凹溝3の各側壁面3b,3bの一方にのみパネル押さえ部材11のチューブを取り付け、その他方には受けとしてのクッション材を配置してもよい。また、凹溝3の溝底側にパネル押さえ部材11のチューブを取り付けてもよい。
【0038】
さらには、ひとつの面に付きパネル押さえ部材11を数箇所に点在させてもよく、その場合には、チューブに代えて椀型(ドーム型)の膨張・収縮可能なゴムパッドを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の表示基板用搬送ケースの一例を示す平面図。
【図2】本発明の要部を拡大して示す斜視図。
【図3】本発明の作用説明用の要部拡大断面図。
【図4】本発明の他の実施形態を示す要部拡大断面図。
【図5】従来の表示基板用搬送ケースを示す平面図。
【符号の説明】
【0040】
10 表示基板用搬送ケース
2 ケース本体
2a 基板挿脱用開口部
3 凹溝
3a 溝底
3b 側壁面
4 支持板
11 パネル押さえ部材
110,120 チューブ
P 加圧空気源
PL 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板挿脱用の開口部を有する箱形のケース本体を備え、上記ケース本体の対向する一対の内面の各々に表示基板の端部を保持する凹溝が上記表示基板の挿脱方向に沿って設けられている表示基板用搬送ケースにおいて、
上記凹溝に含まれている対向する一対の側壁面の少なくともひとつの面に、内部に容積可変の空気室を有するゴム弾性体からなり、加圧空気により膨出して上記表示パネルの端部を押圧し、脱圧により収縮して非押圧状態となるパネル押さえ部材が配置されていることを特徴とする表示基板用搬送ケース。
【請求項2】
上記パネル押さえ部材が、上記対向する一対の側壁面の各々に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の表示基板用搬送ケース。
【請求項3】
上記ゴム弾性体に、耐熱性および耐薬品性を有する高分子ゴム材が用いられていることを特徴とする請求項1または2に記載の表示基板用搬送ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−137673(P2008−137673A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323786(P2006−323786)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】