説明

表示装置の製造方法、および表示装置

【課題】通常発光時における最大輝度よりも高輝度で有機EL素子を発光させることが可能な表示装置の製造方法等を提供する。
【解決手段】有機EL素子13と駆動トランジスタ118からなる直列回路、容量素子123、グラウンド線gndおよび電源線120を備え、グラウンド線gndが直列回路における駆動トランジスタ118のソース電極側の端部に電気的に、電源線120がドレイン電極側の端部にそれぞれ電気的に接続された表示装置の製造方法において、グラウンド線gndの電位を、ゲート電極とソース電極間の電圧が通常発光時よりも高くなるような電位にすることにより、容量素子123を通常発光時よりも高い電圧で充電する充電工程と、充電工程において充電された容量素子123の充電電圧に基づき、有機EL素子13を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる高輝度発光工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置の製造方法、および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体蛍光性物質の電界発光現象を利用した発光素子である有機EL素子の研究・開発が進んでいる。TFT基板上に有機EL素子を行列状に複数配列した表示領域を有する有機EL表示装置は、自発光を行う有機EL素子を利用するため視認性が高く、さらに完全固体素子であるため耐衝撃性に優れる等の特徴を有する。有機EL素子は電流駆動型の発光素子であり、陽極および陰極の電極対の間に、キャリアの再結合による電界発光現象を行う有機発光層等を積層して構成される。また、上記TFT基板には、表示領域を駆動するための駆動素子として、薄膜トランジスタ(TFT)が形成されている。
【0003】
有機EL表示装置の製造工程には、陽極と陰極との間に電流を流すエージング処理(特許文献1)や、当該表示装置内における滅点数を検査する滅点検査等のように、有機EL素子を高輝度で発光させる高輝度発光工程が含まれる。これらの発光工程は、エージング処理に要する時間や、滅点数のカウントに要する時間の短縮を目的として、通常発光時における最大輝度で行われることが多い。
【0004】
有機EL素子は、当該素子の製造後の使用当初に急峻な輝度低下があり、その後、安定的に輝度が低下する安定状態が続くという特性を有するものがある。このため、エージング処理において電極対間に流す電流量を増やす、すなわち有機EL素子を高輝度で強制的に発光させることにより、安定状態により早く移行させることができる結果、エージング処理に要する時間が短縮される。一方、滅点数のカウントは一般的に高精細CCDカメラで読み取ることにより行われる。しかし、CCDカメラは高精細であるほど感度が低下するため、単位時間あたりに検査可能な有機EL素子の数は減少する。そこで、有機EL素子の高輝度発光によって感度の低さを補うことで、滅点検査に要する時間の短縮が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−297560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エージング処理および滅点検査に要する時間のさらなる短縮化の要請から、高輝度発光工程における発光素子のさらなる発光輝度向上が求められている。
本発明は、高輝度発光工程において、通常発光時における最大輝度よりも高輝度で発光素子を発光させることが可能な表示装置の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様である表示装置の製造方法は、発光素子と、前記発光素子に直列に接続され、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する駆動トランジスタと、前記ゲート電極と前記ソース電極間に接続された容量素子と、前記発光素子と前記駆動トランジスタからなる直列回路の両端にそれぞれ接続され、前記直列回路に電力を供給するための第1および第2電源線と、を備え、前記第1電源線が前記直列回路の前記ソース電極側の端部に電気的に接続され、前記第2電源線が前記直列回路の前記ドレイン電極側の端部に電気的に接続された表示装置の製造方法であって、前記第1電源線の電位を、前記ゲート電極と前記ソース電極間の電圧が通常発光時よりも高くなるような電位にすることにより、前記容量素子を通常発光時よりも高い電圧で充電する充電工程と、前記充電工程において充電された前記容量素子の充電電圧に基づき、前記発光素子を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる高輝度発光工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様である表示装置の製造方法では、まず充電工程において、第1電源線の電位を、通常発光時と異なり、かつゲート電極とソース電極間の電圧が通常発光時よりも高くなるような電位にすることにより、容量素子を通常発光時における電圧の最大値よりも高い電圧で充電する。これにより、容量素子の端子間電圧を、通常発光時における最高輝度で発光させる場合に容量素子に充電される充電電圧よりも高い充電電圧とすることができる。この結果、充電工程に続く高輝度発光工程では、充電工程において充電された容量素子の充電電圧に基づき、発光素子を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させることが可能となる。
【0009】
したがって、本発明の一態様によれば、高輝度発光工程において、通常発光時における最大輝度よりも高輝度で発光素子を発光させることが可能な表示装置の製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の態様1に係る有機EL表示装置1の構成を示す図である。
【図2】実施の態様1に係る有機EL表示パネル10の構成を示す平面図である。
【図3】実施の態様1に係る有機EL表示パネル10の構成を示す部分断面図である。
【図4】画素回路116の回路構成の一例を示す図である。
【図5】実施の態様1に係る有機EL表示装置1の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】有機EL素子の積算駆動時間に対する輝度の変化を示すグラフである。
【図7】(a)通常発光時における画素回路116の動作を説明するための図と、(b)エージング工程における画素回路116の動作を説明するための図である。
【図8】駆動トランジスタ118(n型)のドレイン−ソース間電圧Vdsと、駆動トランジスタ118のドレインからソースに流れる電流Iの関係を示す図である。
【図9】実施の態様2に係る画素回路125の回路構成を示す図である。
【図10】(a)通常発光時における画素回路125の動作を説明するための図と、(b)エージング工程における画素回路125の動作を説明するための図である。
【図11】駆動トランジスタ126(p型)のソース−ドレイン間電圧Vsdと、駆動トランジスタ126のドレインからソースに流れる電流Iの関係を示す図である。
【図12】実施の態様3に係る画素回路129の回路構成を示す図である。
【図13】(a)通常発光時における画素回路129の動作を説明するための図と、(b)エージング工程における画素回路129の動作を説明するための図である。
【図14】実施の態様3に係る画素回路130の回路構成を示す図である。
【図15】(a)通常発光時における画素回路130の動作を説明するための図と、(b)エージング工程における画素回路130の動作を説明するための図である。
【図16】表示領域の一部点灯によるエージング処理の概略を説明するための図である。
【図17】表示領域11における発光領域の形状に係る変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪本発明の一態様の概要≫
本発明の一態様に係る表示装置の製造方法は、発光素子と、前記発光素子に直列に接続され、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する駆動トランジスタと、前記ゲート電極と前記ソース電極間に接続された容量素子と、前記発光素子と前記駆動トランジスタからなる直列回路の両端にそれぞれ接続され、前記直列回路に電力を供給するための第1および第2電源線と、を備え、前記第1電源線が前記直列回路の前記ソース電極側の端部に電気的に接続され、前記第2電源線が前記直列回路の前記ドレイン電極側の端部に電気的に接続された表示装置の製造方法であって、前記第1電源線の電位を、前記ゲート電極と前記ソース電極間の電圧が通常発光時よりも高くなるような電位にすることにより、前記容量素子を通常発光時よりも高い電圧で充電する充電工程と、前記充電工程において充電された前記容量素子の充電電圧に基づき、前記発光素子を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる高輝度発光工程と、を含む。
【0012】
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、前記駆動トランジスタはn型であり、前記第1電源線の電位は前記第2電源線の電位よりも低く、少なくとも前記充電工程においては、前記第1電源線の電位を通常発光時よりも低くする。
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、少なくとも前記高輝度発光工程においては、前記第2電源線の電位を通常発光時における前記第2電源線の電位よりも低くする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、少なくとも前記高輝度発光工程においては、前記第2電源線の電位を通常発光時における前記第2電源線の電位以上とする。
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、前記駆動トランジスタはp型であり、前記第1電源線の電位は前記第2電源線の電位よりも高く、少なくとも前記充電工程においては、前記第1電源線の電位を通常発光時よりも高くする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、少なくとも前記高輝度発光工程においては、前記第2電源線の電位を通常発光時における前記第2電源線の電位よりも高くする。
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、少なくとも前記高輝度発光工程においては、前記第2電源線の電位を通常発光時における前記第2電源線の電位以下とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、前記高輝度発光工程により、前記発光素子のエージング処理を行う。
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、前記充電工程および前記高輝度発光工程において、前記駆動トランジスタの前記ゲート電極には、通常発光時において使用される範囲の電圧が印加される。
【0016】
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、前記表示装置は、前記充電工程において、さらに、信号線と、前記信号線に映像信号を与える信号線駆動回路と前記信号線と前記容量素子との間の導通および非導通を切り替えるスイッチングトランジスタと、前記スイッチングトランジスタのゲート電極に接続された走査線と、前記スイッチングトランジスタに対する制御信号を前記走査線に与える走査線駆動回路と、を備え、前記充電工程は、前記信号線駆動回路と前記走査線駆動回路を用いて行われる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、前記発光素子は有機EL素子である。
また、本発明の一態様に係る表示装置の製造方法の特定の局面では、前記表示装置は、前記発光素子が行列状に複数配列されてなる。
本発明の一態様に係る表示装置は、発光素子と、前記発光素子に直列に接続され、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する駆動トランジスタと、前記ゲート電極と前記ソース電極間に接続された容量素子と、前記発光素子と前記駆動トランジスタからなる直列回路に電力を供給する第1および第2電源線と、信号線と、前記信号線に映像信号を与える信号線駆動回路と、前記信号線と前記容量素子との間の導通および非導通を切り替えるスイッチングトランジスタと、前記スイッチングトランジスタのゲート電極に接続された走査線と、前記スイッチングトランジスタに対する制御信号を前記走査線に与える走査線駆動回路と、を備え、前記第1電源線が前記ソース電極に電気的に接続され、前記第2電源線が前記ドレイン電極に電気的に接続された表示装置であって、前記発光素子を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる高輝度発光時において、前記第1電源線は、前記信号線駆動回路のグラウンドおよび前記走査線駆動回路のグラウンドと絶縁されているとともに、通常発光時と異なる電位を前記第1電源線に与える電源回路に接続されている。
【0018】
また、本発明の一態様に係る表示装置の特定の局面では、前記発光素子が行列状に複数配列されてなるとともに、各発光素子は、前記第1および第2電源線から電力供給を受ける電極対を含み、前記電極対を構成する電極のうち、前記高輝度発光時において前記第1電源線と接続されている側の電極は各発光素子間で共通に設けられている。
≪実施の態様1≫
[有機EL表示装置]
図1は、実施の態様1に係る有機EL表示装置1の構成を示す図であり、図2は、実施の態様1に係る有機EL表示パネル10の構成を示す平面図(XY平面図)である。
【0019】
図1に示す有機EL表示装置1は、有機EL表示パネル10、これに接続された駆動制御部20を備えており、ディスプレイ、テレビ、携帯電話等に用いられる。
図2に示す有機EL表示パネル10は、有機材料の電界発光現象を利用した表示パネルであり、表示領域11、表示領域11を取り囲む周辺領域12からなる。表示領域11は複数の有機EL素子13が、XY方向に(行列状に)複数配列されてなる。図2においては、赤色(R),緑色(G),青色(B)の各色に対応する有機EL素子をそれぞれサブピクセル13R,13G,13Bとして示しており、13R,13G,13Bの3つのサブピクセルの組み合わせ14が、1画素に相当する。以下、13R,13G,13Bの3つのサブピクセルの組み合わせを、単に、画素14と記載する。
【0020】
図1に戻り、駆動制御部20は、高電位側電源回路21、低電位側電源回路22、走査線駆動回路23、信号線駆動回路24、制御回路25とから構成され、各有機EL素子13が備えるTFTを制御する。制御回路25は、外部から入力される外部信号を基に、各画素14のTFTを駆動制御するための制御信号を生成する。
[有機EL表示パネル]
図3は、実施の態様1に係る有機EL表示パネル10の構成を示す部分断面図(ZX断面図)である。図3に示す部分断面図は図2におけるA−A’断面図に相当し、図2に示す平面図は図3におけるB−B’線矢視断面図に相当する。
【0021】
有機EL表示パネル10は、同図上側を表示面とする、いわゆるトップエミッション型である。有機EL表示パネル10は、有機EL素子が形成されたEL基板15と、カラーフィルターが形成されたCF基板16とが、シール材115により接合されてなる。
EL基板15は、その主な構成として、TFT基板101、引き出し電極102、パッシベーション層103、層間絶縁膜104、陽極105、バンク106、有機発光層107、電子輸送層108、陰極109、封止膜110を備える。陽極105と陰極109からなる電極対、および当該電極対に挟まれた積層体が有機EL素子13に相当する。
【0022】
一方、CF基板16は、その主な構成として、ガラス基板111、カラーフィルター112R,112G,112B、ブラックマトリクス113,114を備える。
<TFT基板101>
TFT基板101は、有機EL表示パネル10の背面基板であり、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料の何れかを用いて形成することができる。
【0023】
TFT基板101の表面には、有機EL表示パネル10をアクティブマトリクス方式で駆動するためのTFTが形成されたTFT層が存在する。TFTは陽極105と接続される。TFTは、チャネル材料にアモルファスシリコンや低温ポリシリコンを用いたものでも、インジウムガリウム亜鉛酸化物等の酸化物半導体を用いたものでも、ペンタセン等の有機半導体を用いたものでもよい。
【0024】
<引き出し電極102>
引き出し電極102は、TFT基板101表面に形成されたTFTに対して、外部より電力を供給するための配線である。
<パッシベーション層103>
パッシベーション層103は、TFTおよび引き出し電極102を被覆して保護する目的で設けられているものであり、例えば、SiO(酸化シリコン)、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の薄膜で構成される。
【0025】
<層間絶縁膜104>
層間絶縁膜104は、引き出し電極102およびパッシベーション層103が配設されたことにより生じるTFT基板101における表面段差を、平坦に調整する目的で設けられる。層間絶縁膜104は、例えば、ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂等の絶縁材料で構成される。
【0026】
<陽極105>
層間絶縁膜104の上には、画素14毎に陽極105が形成されている。陽極105は、例えば、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等で形成することができる。陽極105は、サブピクセル13に対応するようにXY方向に行列状に形成されている。
【0027】
<バンク106>
バンク106は、有機発光層107の形成領域を区画する目的で設けられているものである。バンク106の材料としては、絶縁性の有機材料、例えばアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が選択される。
<有機発光層107>
バンク106で区画された領域には、陽極105と陰極109からなる電極対の間に介挿されるように有機発光層107が形成されている。有機発光層107は、キャリア(正孔と電子)の再結合による発光を行う部位である。Rに対応する区画には、Rに対応する有機発光材料を含む有機発光層107Rが、Gに対応する区画には、Gに対応する有機発光材料を含む有機発光層107G、Bに対応する区画には、Bに対応する有機発光材料を含む有機発光層107Bが形成される。
【0028】
有機発光層107として用いることが可能な材料としては、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレンや、例えば、特許公開公報(特開平5−163488号公報)に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質等が挙げられる。
【0029】
<電子輸送層108>
電子輸送層108は、陰極109から注入された電子を有機発光層107へ輸送する機能を有する。電子輸送層108に用いる材料としては、例えば、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウム等が挙げられる。
<陰極109>
電子輸送層108の上には陰極109が形成されている。図3に示すように、陰極109は電子輸送層108の上面全体に亘って形成されていることにより、複数の画素間で共通に設けられている。有機EL表示パネル10はトップエミッション型であるため、陰極109には、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等の透明電極材料が用いられている。
【0030】
<封止膜110>
陰極109の上には、有機発光層107が水分や空気等に触れて劣化することを抑制する目的で封止膜110が設けられる。有機EL表示パネル10はトップエミッション型であるため、封止膜110の材料としては、例えば、SiN、SiON等の透光性材料を用いる必要がある。
【0031】
<ガラス基板111>
ガラス基板111は、有機EL表示パネル10における表示面基板である。有機EL表示パネル10はトップエミッション型であるため、ガラス基板111に用いる材料は、良好な透明性を有している必要がある。
<カラーフィルター112R,112G,112B>
カラーフィルター112R,112G,112Bは、それぞれ、EL基板15側に形成されている有機発光層107R,107G,107Bの位置に合わせて配設されている。カラーフィルター112R,112G,112Bは、R,G,Bに対応する波長の可視光を透過する透明層であって、公知の樹脂材料(例えば市販製品として、JSR株式会社製カラーレジスト)等で構成されている。
【0032】
<ブラックマトリクス113,114>
ブラックマトリクス113,114は、有機EL表示パネル10の表示面への外光の照り返しや外光の入射を防止し、表示コントラストを向上させる目的で設けられる黒色層である。ブラックマトリクス113,114は、例えば、光吸収性および遮光性に優れる黒色顔料を含む紫外線硬化樹脂材料等で構成される。
【0033】
<シール材115>
周辺領域12には、EL基板15とCF基板16とを接合するためのシール材115が配設されている。シール材115は、緻密な樹脂材料で構成されており、このような材料としては、例えばシリコーン樹脂等を挙げることができる。
<その他>
陽極105と有機発光層107との間に、さらに、正孔注入層を設けられることもある。正孔注入層は、陽極105から有機発光層107への正孔の注入を促進させる目的で設けられるものである。正孔注入層としては、例えば、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)等の酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)等の導電性ポリマー材料を用いることができる。
【0034】
また、陽極105と正孔注入層との間に、各層間の接合性を良好にする目的でITO層またはIZO層が設けられることもある。
さらに、電子輸送層108と陰極109との間に、陰極109から有機発光層107への電子注入性を向上させる目的で電子注入層が設けられることもある。電子注入層としては、例えば、電子注入性を有する有機材料にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を混合させたものを用いることができる。電子注入性を有する有機材料としては、例えば、特開平5−163488号公報に記載のニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体、ジフェキノン誘導体、ペリレンテトラカルボキシル誘導体、アントラキノジメタン誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリノン誘導体、キノリン錯体誘導体等を用いることができる。
【0035】
[画素回路]
図4は、1つの有機EL素子13(サブピクセル13)を構成する回路116(以下、単に画素回路116と記載する。)の回路構成を示す図である。ここでは、2個のトランジスタと1個の容量からなる、いわゆる2Tr1Cの画素回路を示している。また、画素回路116は、有機EL素子13の陰極(カソード)109が共通電極となっている、いわゆるコモンカソード型の画素回路である。
【0036】
図4に示すように、画素回路116は、有機EL素子13、駆動トランジスタ118、スイッチングトランジスタ119、電源線120、走査線121、信号線122、容量素子123、グラウンド線gndを備える。図4中の105,107,109で示した部分は、それぞれ、図2において説明した陽極105,有機発光層107,陰極109に対応し、上述したように陽極105,有機発光層107,陰極109からなる積層体が有機EL素子13である。
【0037】
駆動トランジスタ118およびスイッチングトランジスタ119は、n型の薄膜トランジスタ素子である。すなわち、図4に示す画素回路116は、n型コモンカソードの画素回路である。また、TFT基板101に形成されていると述べたTFTは、具体的には駆動トランジスタ118とスイッチングトランジスタ119とを指している。図4において、117の一点鎖線で囲った領域は、TFT基板101に含まれるTFT層に形成されている回路を示している。
【0038】
駆動トランジスタ118は、有機EL素子13と直列に接続されており、有機EL素子13と駆動トランジスタ118とで直列回路を構成している。以下、有機EL素子13と駆動トランジスタ118からなる直列回路を、単に直列回路と記載する。図4において「G」、「S」および「D」で示すように、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する。スイッチングトランジスタ119は、信号線122と容量素子123との間の導通および非導通を切り替えるものである。
【0039】
直列回路における駆動トランジスタ118のドレイン電極側の端部には電源線120が接続されている。電源線120は直列回路に電力を供給する。電源線120は各行に1本ずつ設けられており、複数の画素14は行単位で共通の電源線120に接続されている。例えば、水平画素数が1920、垂直画素数が1080のパネルであれば、電源線は1080本設けられており、1920画素が1本の電源線に共通に接続されている。一方、陰極109は、複数の画素14で共通に設けられており、複数の画素14は全画素共通に陰極109に接続されている。例えば、FHD(Full High Definition)のパネルであれば、約200万画素が1枚の陰極109に共通に接続されている。
【0040】
また、電源線120は、駆動制御部20の内部に含まれる高電位側電源回路21(図1)に接続され、電源線120は高電位側電源回路21から電源電圧の供給を受ける。
スイッチングトランジスタ119のゲート電極には、走査線121が接続される。走査線121には走査線駆動回路23が接続されており、走査線駆動回路23は、スイッチングトランジスタ119に対する制御信号を走査線に与える。
【0041】
信号線122には信号線駆動回路24が接続されており、信号線駆動回路24は信号線122に対し映像信号を与える。映像信号は、スイッチングトランジスタ119を介して駆動トランジスタ118のゲート電極に入力される。以下、走査線駆動回路23と信号線駆動回路24を総じて、単に駆動回路と記載する。
駆動トランジスタ118のゲート電極とソース電極の間(以下、単に駆動トランジスタ118のゲート−ソース間と記載する。)には、容量素子123が接続されている。容量素子123には、駆動トランジスタ118のゲート電極に最大諧調の映像信号が入力された場合(通常発光時における最大輝度で有機EL素子13を発光させる場合)における、駆動トランジスタ118のゲート−ソース間に蓄積される静電容量よりも大きい定格容量を有するものが用いられている。
【0042】
グラウンド線gndは、直列回路における駆動トランジスタ118のソース電極側の端部、すなわち有機EL素子13の陰極109と電気的に接続されている。つまり、グラウンド線gndと電源線120は、上記直列回路の両端にそれぞれ接続されており、各々は当該直列回路に電力を供給するための第1電源線、第2電源線に相当する。また、グラウンド線gndは駆動制御部20の内部に含まれる低電位側電源回路22(図1)に接続されており、グラウンド線gndの電位は電源線120の電位よりも低い。さらに、陰極109および陽極105は、グラウンド線gndおよび電源線120から電力供給を受ける電極対に相当する。
【0043】
ここで、電源線120は、有機EL表示パネル10内に引き回されている高電位側の電源線を指しており、有機EL表示パネル10の外から高電位側電源回路までの高電位側の電源線は含まない。また、グラウンド線gndは、当該グラウンド線gndと陰極109との接続部分から有機EL表示パネル10の内部に存在する低電位側電源線を指しており、有機EL表示パネル10の外から低電位側電源回路までの低電位側電源線は含まない。
【0044】
画素回路116はより正確には、サブピクセル13Rに対応する画素回路116Rと、サブピクセル13Gに対応する画素回路116Gと、サブピクセル13Bに対応する画素回路116Bとがある。画素回路116Rには有機発光層107Rが、画素回路116Gには有機発光層107Gが、画素回路116Bには有機発光層107Bがそれぞれ形成されている。すなわち、画素回路116R,116G,116Bは、有機発光層107を除いて同じ回路構成である。
【0045】
[有機EL表示装置の製造方法]
図5は、実施の態様1に係る有機EL表示装置1の製造方法を示すフローチャートである。以下、有機EL表示装置1の製造方法について、図1,3も併せて参照しながら説明する。
まず、一方の面にTFT層を形成したTFT基板101(図3)を準備し(ステップS101)、各TFTを配線で接続するように引き出し電極102(図3)を形成する(ステップS102)。ステップS102を終えたTFT基板101をチャンバー内に載置し、パッシベーション層103(図3)を蒸着法等の薄膜法により形成する(ステップS103)。
【0046】
次に、パッシベーション層103上に、ディスペンス法等により層間絶縁膜104(図3)を形成する(ステップS104)。そして、ステップS104を終えたTFT基板101を再度チャンバー内に導入し、スパッタリング法により陽極105(図3)を成膜する(ステップS105)。
次に、形成した陽極105の上に、バンク106(図3)をフォトリソグラフィー法により形成する(ステップS106)。そして、バンク106で区画された領域に、インクジェット装置を用いたウェットプロセスにより、有機発光層107(図3)を形成する(ステップS107)。具体的には、有機発光層107を構成する有機発光材料が溶媒に分散されてなるインクを、バンク106で区画された領域に塗布する。塗布後、これを乾燥させることで有機発光層107が形成される。
【0047】
次に、ステップS107を終えたTFT基板101をチャンバー内に導入し、有機発光層107およびバンク106を覆うように、真空蒸着法に基づき電子輸送層108を形成する(ステップS108)。次に、電子輸送層108の表面上に、真空蒸着法により陰極109を形成する(ステップS109)。そして、陰極109の表面に、SiO等の材料を真空蒸着法で成膜し、封止膜110を形成する(ステップS110)。以上、ステップS101〜ステップS110に示した工程が、EL基板15を形成する工程に相当する。
【0048】
続くステップS111では、CF基板16を形成する。具体的には、ガラス基板111の一方の面にブラックマトリクス113,114(図3)の材料となるブラックマトリクスペーストを塗布する。その後、ブラックマトリクス113,114の配設が予定された領域に開口部が施されたパターンマスクを重ね、その上から紫外線照射を行うことにより、ブラックマトリクス113,114を形成する。
【0049】
次に、ブラックマトリクス113,114を形成したガラス基板111に、カラーフィルター112R,112G,112Bの材料となるカラーフィルターペーストを塗布する。カラーフィルターペーストに含まれる溶媒を一定除去した後、カラーフィルター112R,112G,112Bの配設が予定された領域に開口部が施されたパターンマスクを載置し、紫外線を照射する。その後はキュアを行い、パターンマスクおよび未硬化のカラーフィルターペーストを除去して現像する。これにより、カラーフィルター112R,112G,112Bが形成され、CF基板16が完成する(ステップS111)。
【0050】
続いて、EL基板15の周辺領域12にシール材115のペーストを塗布する(ステップS112)。シール材115を塗布したEL基板15とCF基板16とを接合する(ステップS113)。以上、ステップS101〜ステップS113を経ることで、有機EL表示パネル10が完成する。
次に、駆動制御部20(図1)を有機EL表示パネル10に接続する(ステップS114)。そして、最後に有機EL表示パネル10に対しエージング工程を行う(ステップS115)。
【0051】
図6は、有機EL素子の積算駆動時間に対する輝度の変化を示すグラフである。図6において、横軸は積算駆動時間、縦軸は有機EL素子の相対輝度である。上述したように、有機EL素子は使用当初に急峻な輝度低下があり、その後、安定的に輝度が低下する安定状態に移行するという性質を有する。このため、ステップS115においてエージング処理を施すことで、有機EL素子を安定状態に移行させる。これにより、有機EL素子の経時的劣化抑制ならびに表示領域における発光特性の安定化が図られる。
【0052】
有機EL表示パネル10に対してエージング工程を終えると、有機EL表示装置1が完成する。
[エージング工程の概略]
本実施の態様におけるエージング工程には、容量素子123(図4)を充電する充電工程と有機EL素子13を通常発光時よりも高輝度で発光させる高輝度発光工程が含まれる。
【0053】
<充電工程>
図7(a)は通常発光時の動作を説明するための図であり、図7(b)はエージング工程における動作を説明するための図である。なお、図7(a),(b)に示す画素回路116は、図4で説明したものと同一である。
通常発光時におけるグラウンド線gndの電位をGNDと定義した場合、本実施の態様の充電工程時においては、グラウンド線gndの電位をGNDよりも低い電位−Vとする。すなわち、充電工程時におけるグラウンド線gndの電位−Vは、通常発光時に用いるグラウンド線gndの電位GNDとは異なり、かつ駆動トランジスタ118のゲート−ソース間の電圧が通常発光時よりも高くなるような電位である。
【0054】
充電工程時におけるグラウンド線gndの電位を、通常発光時における電位GNDよりも低い電位−Vとすることにより、容量素子123を通常発光時における電圧の最大値よりも高い電圧で充電することが可能となる。したがって、容量素子123の端子間電圧を、通常発光時における駆動トランジスタ118のゲート−ソース間電圧の最大値よりも高い電圧とすることが可能である。
【0055】
グラウンド線gndの電位を−Vとする方法について、本実施の態様では、グラウンド線gndの電位が−Vとなるような電圧を、低電位側電源回路22がグラウンド線gndに対し印加することとしている。低電位側電源回路22は、通常発光時においてはグラウンド線gndに対しGNDの電位を与える一方で、エージング工程時(図5のステップS115)においては−Vの電位を与えるというように、出力する電圧を切り替える構成を有する。エージング工程時において、グラウンド線gndは通常発光時と異なる電位を与える電源回路に接続されていることになる。
【0056】
一方で、エージング工程においては、駆動トランジスタ118のゲート電極には通常発光時において使用される範囲の電圧が印加される。そのため、スイッチングトランジスタ119を介して駆動トランジスタ118のゲート電極と接続されている走査線駆動回路23および信号線駆動回路24は、通常発光時に引き続きエージング工程時においてもそのまま用いることとしている。このようにすることで、通常発光時に使用する駆動回路とは別の駆動回路を準備した上で、駆動トランジスタ118のゲート電極にエージング工程特有の電圧を印加するといったことを行う必要がないため、簡便である。
【0057】
ここで、エージング工程中はグラウンド線gndの電位を−Vとしており、また駆動回路は通常発光時およびエージング工程時を通じて同じ回路が使用されている。そのため、グラウンド線gndの電位(直列回路への電力供給路としてのグラウンドの電位)と駆動回路のグラウンドの電位は異なることになる。すなわち、グラウンド線gndと駆動回路のグラウンドは、エージング工程においては絶縁されていることになる。
【0058】
<高輝度発光工程>
高輝度発光工程においては、充電工程において充電された容量素子123の充電電圧に基づき、有機EL素子13を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる。このようにすることで、従来と比較して、有機EL素子をより短時間で安定状態に移行させることができるため、エージング処理に要する時間のさらなる短縮化を図ることが可能である。
【0059】
さらに、本実施の態様でのエージング工程においては、図7(b)に示すように、電源線120の電位を、通常発光時における電位Vdd(図7(a))とは異なる電位Vdd’とする場合がある。以下、この詳細について説明する。
トランジスタの動作領域には線形領域と飽和領域とがある。本実施の態様における高輝度発光工程においては、有機EL表示装置1が備える有機EL表示パネル10の大きさや、有機EL表示パネル10に形成されたTFT層の材料に応じて、駆動トランジスタ118を線形領域で動作させる場合と、飽和領域で動作させる場合と選択することとしている。線形領域で動作させるか、または飽和領域で動作させるかの切り替えは、エージング工程時における電源線120の電位によって行うことが可能である。
【0060】
電源線120の電位をVdd’とする方法は、グラウンド線gndの電位を−Vとする方法と似ている。電源線120の電位がVdd’となるような電圧を、高電位側電源回路21が電源線120に対し印加することで実現できる。高電位側電源回路21は、通常発光時においては電源線120に対しVddの電位を与える一方で、エージング工程時においてはVdd’の電位を与えるというように、低電位側電源回路22と同様に出力する電圧を切り替える構成を有する。
【0061】
ここで、エージング工程中において電源線120の電位をVdd’とする場合、電源線120の電位(直列回路への電力供給路としての高電位側の電源線の電位)と駆動回路の高電位側の電源線の電位は異なることになる。なぜなら、エージング工程中は電源線120の電位がVdd’であり、また駆動回路は通常発光時およびエージング工程時を通じて同じ回路が使用されているからである。したがって、電源線120の電位をVdd’とする場合、電源線120と駆動回路の高電位側の電源線は、エージング工程においては絶縁されていることになる。
【0062】
次に、具体的に電源線120の電位をどのようにすれば線形領域動作、飽和領域動作を切り替えられるかについて説明する。
(線形領域の場合)
まず通常発光時における動作について説明する。
一般的に、通常発光時においては駆動トランジスタ118を飽和領域で動作させる。この理由について図8を参照しながら説明する。
【0063】
図8は、駆動トランジスタ118(n型)のドレイン−ソース間電圧Vdsと、駆動トランジスタ118のドレインからソースに流れる電流Iの関係を示す図である。電流Iは、ここでは画素電流(有機発光層107に流れる電流)と考えることができる。また、図8では、(Vgs−Vth)が3[V]と5[V]の場合を図示しており、一点鎖線から左側の領域が線形領域、一点鎖線から右側の領域が飽和領域である。なお、電圧Vdsは横軸に示す矢印方向にいくほど大きくなる。
【0064】
有機EL表示装置のような、電流駆動型の発光素子を備える表示装置においては、陽極または陰極が共通電極となっている場合(本実施の態様においては陰極109が共通電極となっている)、表示領域の周縁部から中央部に向かうにつれて共通電極において電圧降下が生じる。この電圧降下は、ドレイン−ソース間電圧Vdsの変動として現れることになる。そのため、一方、(Vgs−Vth)が5[V]の場合に、ドレイン−ソース間電圧Vdsが例えばx[V]だけ低下したとすると、線形領域の場合(αの矢印)の方が飽和領域の場合(βの矢印)よりも、電圧降下による電流Iの降下量が小さくなる。したがって、飽和領域で動作させる場合の方が電圧降下による画素電流の変動が小さく、表示品質の劣化が起きにくい。なお、大型の有機EL表示パネルを備える表示装置であるほど、パネルの周縁と中央部との距離が長くなることで電圧降下量が増えるため、ドレイン−ソース間電圧Vdsの変動は大きくなる。
【0065】
次に、図7(a)において、通常発光時での駆動トランジスタ118のドレイン電極とソース電極間の電圧(以下、単に駆動トランジスタ118のドレイン−ソース間の電圧と記載する。)をVds、駆動トランジスタ118のゲート−ソース電極間の電圧をVgs、有機EL素子13の陽極105と陰極109間の電圧をVoledと定義して説明を続ける。
【0066】
通常発光時においては、次の関係式が成り立つ。
dd−GND=Voled+Vds・・・(n1)
(n1)式を整理すると、以下のようになる。
ds=Vdd−GND−Voled・・・(n2)
また、駆動トランジスタ118のゲート−ソース電極間の電圧Vgsは、駆動トランジスタ118のゲート電極に入力される最大諧調の映像信号の電圧Vdata_maxを用いて、以下のように表される。
【0067】
gs=Vdata_max−(Voled+GND)・・・(n3)
上述したように、通常発光時においては駆動トランジスタ118を飽和領域で動作させるため、
ds≧Vgs−Vth・・・(n4)
の定義式が成り立つ。ここで、Vthは駆動トランジスタ118の閾値電圧である。そして、(n4)式に(n2)式および(n3)式を代入すると、
dd≧Vdata_max−Vth・・・(n5)
となる。
【0068】
次に、図7(b)を参照しながら、エージング工程時における関係式を立てる。エージング工程時での駆動トランジスタ118のドレイン電極とソース電極間の電圧をVds’、駆動トランジスタ118のゲート電極とソース電極間の電圧をVgs’、有機EL素子13の陽極105と陰極109間の電圧をVoled’と定義する。
エージング工程時においては、次の関係式が成り立つ。
【0069】
dd’−(−V)=Voled’+Vds’・・・(n6)
(n6)式を整理すると、以下のようになる。
ds’=Vdd’+V−Voled’・・・(n7)
また、駆動トランジスタ118のゲート−ソース電極間の電圧Vgsは、上記Vdata_maxを用いて、以下のように表される。
【0070】
gs’=Vdata_max−(Voled’−V)・・・(n8)
ここでの高輝度発光工程は、駆動トランジスタ118を線形領域で動作させる場合であるので、
ds’<Vgs’−Vth・・・(n9)
の定義式が成り立つ。(n9)式に(n7)式および(n8)式を代入すると、
dd’<Vdata_max−Vth・・・(n10)
となる。したがって、(n5)式および(n10)式より、
dd’<Vdd
となる。したがって、高輝度発光工程において駆動トランジスタ118を線形領域で動作させる場合には、高輝度発光工程における電源線120の電位を、通常発光時における電源線120の電位よりも低くすればよいことがわかる。つまり、電源線120の電位を通常発光時での電位Vddよりも低い電位Vdd’にする。
【0071】
線形領域で動作させた場合の特徴について、図8を用いて説明する。図8におけるAの矢印で示すように、線形領域で動作させる場合は、駆動トランジスタ118の閾値電圧Vthが変動したとしても、飽和領域で動作させる場合(Bの矢印)と比較して電流Iの変化量は小さいことがわかる。一方、(Vgs−Vth)が5[V]の場合に、ドレイン−ソース間電圧Vdsが例えばx[V]変化したとすると、飽和領域の場合(βの矢印)よりも線形領域の場合(αの矢印)の方が、それによる電流Iの変化量が大きくなる。
【0072】
ここで、閾値電圧Vthの変動は、TFT層形成時における製造誤差により生じる。また、上述したように、大型の有機EL表示パネルであるほどドレイン−ソース間電圧Vdsの変動は大きくなる。したがって、線形領域での高輝度発光工程は、(i)小型の有機EL表示パネルを製造する場合、(ii)製造誤差の大きい低温ポリシリコンで構成されたTFT層を有する有機EL表示パネルを製造する場合、および(iii)低温ポリシリコンで構成されたTFT層を有する小型の有機EL表示パネルを製造する場合に有効である。
【0073】
(飽和領域の場合)
飽和領域で動作させる場合においても、線形領域で説明した(n1)〜(n8)式が成り立つ。ここでの高輝度発光工程は、駆動トランジスタ118を飽和領域で動作させる場合であるので、
ds’≧Vgs’−Vth・・・(n11)
の定義式が成り立つ。
【0074】
(n11)式に(n7)式および(n8)式を代入すると、
dd’≧Vdata_max−Vth・・・(n12)
となる。
したがって、(n5)式および(n12)式より、
dd’≧Vdd
となる。したがって、高輝度発光工程において駆動トランジスタ118を飽和領域で動作させる場合には、高輝度発光工程における電源線120の電位を、通常発光時における電源線120の電位以上とすればよいことがわかる。つまり、電源線120の電位を通常発光時での電位Vddと同じにするか、または電位Vddよりも高い電位Vdd’にする。
【0075】
飽和領域で動作させた場合の特徴は、線形領域で動作させた場合における特徴と逆の関係にある。すなわち、図8に示すように、(Vgs−Vth)が5[V]の場合にドレイン−ソース間電圧Vdsが例えばx[V]変化したとしても、飽和領域の場合(βの矢印)の方が線形領域の場合(αの矢印)よりも、電流Iの変化量は小さくなる。一方、Bの矢印で示すように、飽和領域で動作させる場合は、駆動トランジスタ118の閾値電圧Vthが変動すると、線形領域で動作させる場合(Aの矢印)と比較して電流Iの変化量が大きくなる。
【0076】
したがって、飽和領域での高輝度発光工程は、(i)大型の有機EL表示パネルを製造する場合、(ii)製造誤差の小さいアモルファスシリコンでまたはインジウムガリウム亜鉛酸化物等の酸化物半導体で構成されたTFT層を有する有機EL表示パネルを製造する場合、および(iii)上記の半導体材料で構成されたTFT層を有する大型の有機EL表示パネルを製造する場合に有効である。
【0077】
<まとめ>
以上説明したように、本実施の態様によれば、高輝度発光工程において通常発光時における最高輝度よりも高輝度で有機EL素子を発光させることができる。この高輝度発光工程で有機EL素子のエージング処理を行うことで、従来よりも短期間でエージング処理を終了させることが可能である。また、通常発光時に用いるグラウンド線の電位よりも低い電位のグラウンド線を、充電工程および高輝度発光工程において用いるという簡便な方法であり、複雑な構成の専用装置を必要としない。したがって、充電工程および高輝度発光工程を低コストで行うことができる。
【0078】
≪実施の態様2≫
実施の態様1においては、いわゆるn型コモンカソード型の画素回路を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。本実施の態様においては、駆動トランジスタおよびスイッチングトランジスタをp型とするコモンカソード型の画素回路の場合について説明する。
【0079】
[画素回路]
図9は実施の態様2に係る画素回路125の回路構成を示す図である。
図9に示すように、画素回路125は、有機EL素子13、駆動トランジスタ126、スイッチングトランジスタ127、電源線120、走査線121、信号線122、容量素子128、低電位側電源線vssを備える。以下、画素回路116(図4)と相違する点にいて中心に説明する。
【0080】
実施の態様1とは異なり、本実施の態様に係る駆動トランジスタ126、スイッチングトランジスタ127はp型の薄膜トランジスタ素子である。駆動トランジスタ126は、画素回路116(図4)と同様に有機EL素子13と直列に接続されており、「G」、「S」および「D」で示すように、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する。
駆動トランジスタ126のソース電極側の端部には、有機EL素子13と駆動トランジスタ126からなる直列回路に電力を供給する第1電源線としての電源線120が接続されている。本実施の態様においても、電源線120は高電位側電源回路21(図1)に接続される。
【0081】
また、駆動トランジスタ126のソース−ゲート間には、容量素子128が接続されている。容量素子128には、画素回路116における容量素子123と同等の定格容量を有するものが用いられている。
低電位側電源線vssは、駆動トランジスタ126のドレイン電極側の端部、すなわち有機EL素子13の陰極109と電気的に接続される第2電源線である。低電位側電源線vssは低電位側電源回路22(図1)に接続されており、低電位側電源線vssの電位は電源線120の電位よりも低い。また、低電位側電源線vssは、当該低電位側電源線vssと陰極109との接続部分から有機EL表示パネル10の内部に存在する配線を指しており、有機EL表示パネル10の外から低電位側電源回路までの配線は含まない。
【0082】
[エージング工程]
<充電工程>
図10(a)は通常発光時における画素回路125の動作を説明するための図であり、図10(b)はエージング工程における画素回路125の動作を説明するための図である。
【0083】
通常発光時における電源線120の電位をVddと定義した場合、本実施の態様の充電工程時においては、電源線120の電位をVddよりも高い電位Vdd+Vとする。すなわち、充電工程時における電源線120の電位Vddは、通常発光時に用いる電源線120の電位Vddとは異なる。
充電工程時における電源線120の電位を、通常発光時における電位Vddよりも高い電位Vdd+Vとすることにより、容量素子128を通常発光時における電圧の最大値よりも高い電圧で充電することが可能となる。この充電工程により、容量素子128の端子間電圧が、通常発光時における駆動トランジスタ126のソース−ゲート間電圧の最大値よりも高い電圧となる。なお、エージング工程においても、駆動トランジスタ126のゲート電極には通常発光時において使用される範囲の電圧が印加される。この点は実施の態様1と変わりがない。
【0084】
電源線120の電位をVdd+Vとする方法は、実施の態様1と同様である。すなわち、電源線120の電位がVdd+Vとなるような電圧を、高電位側電源回路21が電源線120に対し印加することとしている
また、エージング工程中は電源線120の電位をVdd+Vとしており、また駆動回路は通常発光時およびエージング工程時を通じて同じ回路が使用されている。そのため、電源線120の電位(直列回路への電力供給路としての高電位側の電源線の電位)と駆動回路の高電位側の電源線の電位は異なることになる。すなわち、電源線120としてグラウンド線を用いた上で、通常発光時における電源線120の電位をグラウンド電位とする場合には、電源線120と駆動回路のグラウンドは、エージング工程においては絶縁されていることになる。
【0085】
<高輝度発光工程>
高輝度発光工程においては、実施に態様1の場合と同様に、充電工程において充電された容量素子128の充電電圧に基づき、有機EL素子13を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる。また、駆動トランジスタ126を線形領域で動作させるか、または飽和領域で動作させるかにより、図10(b)に示すように、低電位側電源線vssの電位を通常発光時における電位Vss(図10(a))とは異なる電位Vss’とする場合がある。低電位側電源回路22が、低電位側電源線vssに対してVss’の電位の電圧を出力することで、低電位側電源線vssの電位を電位Vss’となる。
【0086】
低電位側電源線vssの電位をVss’とする場合、低電位側電源線vssの電位(直列回路への電力供給路としての低電位側の電源線の電位)と駆動回路の低電位側の電源線の電位は異なることになる。したがって、この場合、低電位側電源線vssと駆動回路の低電位側の電源線は、エージング工程においては絶縁されていることになる。
(線形領域の場合)
図10(a)において、通常発光時での駆動トランジスタ126のソース電極とドレイン電極間の電圧(以下、単に駆動トランジスタ126のソース−ドレイン間の電圧と記載する。)をVsd、駆動トランジスタ126のソース−ゲート電極間の電圧をVsg、有機EL素子13の陽極105と陰極109間の電圧をVoledと定義して説明を続ける。
【0087】
通常発光時においては、次の関係式が成り立つ。
dd−Vss=Voled+Vsd・・・(p1)
(p1)式を整理すると、以下のようになる。
sd=Vdd−Vss−Voled・・・(p2)
また、駆動トランジスタ126のソース−ゲート電極間の電圧Vsgは、駆動トランジスタ126のゲート電極に入力される最小諧調の映像信号の電圧Vdata_minを用いて、以下のように表される。なお、駆動トランジスタ126はp型であるので、当該トランジスタのゲート電極に入力される映像信号が小さいほど、駆動トランジスタ126のソース−ゲート間電圧およびドレインからソースに流れる電流Iは大きくなる。
【0088】
sg=Vdd−Vdata_min・・・(p3)
上述したように、通常発光時においては駆動トランジスタ126を飽和領域で動作させるため、
sd≧Vsg+Vth・・・(p4)
の定義式が成り立つ。そして、(p4)式に(p2)式および(p3)式を代入すると、
ss≧Vdata_min−Vth−Voled・・・(p5)
となる。
【0089】
次に、図10(b)を参照しながら、エージング工程時における関係式を立てる。エージング工程時での駆動トランジスタ126のソース−ドレイン間の電圧をVsd’、駆動トランジスタ126のソース−ゲート間電圧をVsg’、有機EL素子13の陽極105と陰極109間の電圧をVoled’と定義する。
エージング工程時においては、次の関係式が成り立つ。
【0090】
dd+V−Vss’=Voled’+Vsd’・・・(p6)
(p6)式を整理すると、以下のようになる。
sd’=Vdd+V−Vss’−Voled’・・・(p7)
また、駆動トランジスタ126のソース−ゲート電極間の電圧Vsgは、上記Vdata_minを用いて、以下のように表される。
【0091】
sg’=Vdd+V−Vdata_min・・・(p8)
ここでの高輝度発光工程は、駆動トランジスタ126を線形領域で動作させる場合であるので、
sd’<Vsg’+Vth・・・(p9)
の定義式が成り立つ。(p9)式に(p7)式および(p8)式を代入すると、
ss’>Vdata_min−Vth−Voled’・・・(p10)
となる。したがって、(p5)式および(p10)式より、
ss’>Vss
となる。したがって、高輝度発光工程において駆動トランジスタ126を線形領域で動作させる場合には、高輝度発光工程における低電位側電源線vssの電位を、通常発光時における低電位側電源線vssの電位よりも高くすればよいことがわかる。つまり、低電位側電源線vssの電位を通常発光時での電位Vssよりも高い電位Vss’にする。
【0092】
線形領域で動作させた場合の特徴については、実施の態様1で説明したものと同様に説明できる。
図11は、駆動トランジスタ126(p型)のソース−ドレイン間電圧Vsdと、駆動トランジスタ126のドレインからソースに流れる電流Iの関係を示す図である。図11では、(Vsg−Vth)が−3[V]と−5[V]の場合を図示しており、一点鎖線から右側の領域が線形領域、一点鎖線から左側の領域が飽和領域である。なお、電圧Vdsは横軸に示す矢印方向にいくほど大きくなり、図11の2本のグラフが横軸と交差する点が0[V]となっている。
【0093】
図11におけるA’の矢印で示すように、線形領域で動作させる場合は、駆動トランジスタ126の閾値電圧Vthが変動したとしても、飽和領域で動作させる場合(B’の矢印)と比較して電流Iの変化量は小さいことがわかる。一方、(Vsg−Vth)が−5[V]の場合に、ソース−ドレイン間電圧Vsdが例えばx[V]変化したとすると、飽和領域の場合(β’の矢印)よりも線形領域の場合(α’の矢印)の方が、それによる電流Iの変化量が大きくなる。
【0094】
(飽和領域の場合)
飽和領域で動作させる場合においても、線形領域で説明した(p1)〜(p8)式が成り立つ。ここでの高輝度発光工程は、駆動トランジスタ126を飽和領域で動作させる場合であるので、
sd’≧Vsg’+Vth・・・(p11)
の定義式が成り立つ。(p11)式に(p7)式および(p8)式を代入すると、
ss’≦Vdata_min−Vth−Voled’・・・(p12)
となる。したがって、(p5)式および(p12)式より、
ss’≦Vss
となる。したがって、高輝度発光工程において駆動トランジスタ126を飽和領域で動作させる場合には、高輝度発光工程における低電位側電源線vssの電位を、通常発光時における低電位側電源線vssの電位以下とすればよいことがわかる。つまり、低電位側電源線vssの電位を通常発光時での電位Vssと同じにするか、または電位Vssよりも低い電位Vss’にする。
【0095】
飽和領域で動作させた場合の特徴は、線形領域で動作させた場合における特徴と逆の関係にある。図11を用いて説明すると、(Vsg−Vth)が−5[V]の場合にソース−ドレイン間電圧Vsdが例えばx[V]変化したとしても、飽和領域の場合(β’の矢印)の方が線形領域の場合(α’の矢印)よりも、電流Iの変化量は小さくなる。一方、B’の矢印で示すように、飽和領域で動作させる場合は、駆動トランジスタ126の閾値電圧Vthが変動すると、線形領域で動作させる場合(A’の矢印)と比較して電流Iの変化量が大きくなる。
【0096】
≪実施の態様3≫
実施の態様1,2においては、いわゆるコモンカソード型の画素回路を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。本実施の態様においては、有機EL素子の陽極(アノード)が共通電極となっている、いわゆるコモンアノード型の画素回路129,130の場合について説明する。
【0097】
[n型コモンアノード]
図12は実施の態様3に係る画素回路129の回路構成を示す図である。
画素回路129は、画素回路116(図4)と同様に、有機EL素子13、駆動トランジスタ118、スイッチングトランジスタ119、電源線120、走査線121、信号線122、容量素子123、グラウンド線gndを備える。しかしながら、有機EL素子13周辺の接続関係が画素回路116とは少し異なる。
【0098】
駆動トランジスタ118およびスイッチングトランジスタ119は、画素回路116と同じくn型の薄膜トランジスタ素子である。駆動トランジスタ118は、有機EL素子13と直列に接続されており、有機EL素子13と駆動トランジスタ118とで直列回路を構成している。直列回路における駆動トランジスタ118のドレイン電極側の端部、すなわち有機EL素子13の陽極105には第2電源線としての電源線120が接続されている。電源線120は高電位側電源回路21(図1)に接続される。また、駆動トランジスタ118のゲート−ソース間には、容量素子123が接続されている。
【0099】
グラウンド線gndは、直列回路における駆動トランジスタ118のソース電極側の端部と電気的に接続される第1電源線である。また、実施の態様1と同様に、グラウンド線gndは低電位側電源回路22(図1)に接続されており、グラウンド線gndの電位は電源線120の電位よりも低い。
図13(a)は通常発光時における画素回路129の動作を説明するための図であり、図13(b)はエージング工程における画素回路129の動作を説明するための図である。
【0100】
エージング工程における画素回路129の動作は、実施の態様1と略同様である。充電工程時におけるグラウンド線gndの電位を、通常発光時におけるグラウンド線gndの電位GNDよりも低い電位−Vとする。これにより、容量素子123が通常発光時における電圧の最大値よりも高い電圧で充電される。
充電工程に続く高輝度発光工程においては、充電工程において充電された容量素子123の充電電圧に基づき、有機EL素子13を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる。
【0101】
さらに、駆動トランジスタ118を線形領域で動作させるか飽和領域で動作させるかによっては、エージング工程における電源線120の電位を、通常発光時における電位Vddとは異なる電位Vdd’とする。アノードコモン型の画素回路においても、実施の態様1で説明した(n1)〜(n12)式をそのまま適用することが可能である。したがって、線形領域で動作させる場合には、高輝度発光工程における電源線120の電位を通常発光時での電位Vddよりも低い電位Vdd’にする。一方、飽和領域で動作させる場合には、高輝度発光工程における電源線120の電位を通常発光時での電位Vddと同じにするか、または電位Vddよりも高い電位Vdd’にする。
【0102】
[p型コモンアノード]
図14は実施の態様3に係る画素回路130の回路構成を示す図である。
画素回路130は、画素回路125(図9)と同様に、有機EL素子13、駆動トランジスタ126、スイッチングトランジスタ127、電源線120、走査線121、信号線122、容量素子128、低電位側電源線vssを備える。しかしながら、有機EL素子13周辺の接続関係が画素回路125とは少し異なる。
【0103】
駆動トランジスタ126およびスイッチングトランジスタ127は、画素回路125と同じくp型の薄膜トランジスタ素子である。有機EL素子13と駆動トランジスタ126とで構成される直列回路における駆動トランジスタ126のソース電極側の端部、すなわち有機EL素子13の陽極105には、第1電源線としての電源線120が接続されている。電源線120は高電位側電源回路21(図1)に接続される。また、駆動トランジスタ118のソース−ゲート間には、容量素子128が接続されている。
【0104】
低電位側電源線vssは、直列回路における駆動トランジスタ118のドレイン電極側の端部と電気的に接続される第2電源線である。また、実施の態様2と同様に、低電位側電源線vssは低電位側電源回路22(図1)に接続されており、低電位側電源線vssの電位は電源線120の電位よりも低い。
図15(a)は通常発光時における画素回路130の動作を説明するための図であり、図15(b)はエージング工程における画素回路130の動作を説明するための図である。
【0105】
エージング工程における画素回路130の動作は、実施の態様2と略同様である。充電工程時における電源線120の電位を、通常発光時における電位Vddよりも高い電位Vdd+Vとする。これにより、容量素子128が通常発光時における電圧の最大値よりも高い電圧で充電される。
充電工程に続く高輝度発光工程においては、充電工程において充電された容量素子128の充電電圧に基づき、有機EL素子13を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる。
【0106】
さらに、駆動トランジスタ126を線形領域で動作させるか飽和領域で動作させるかによっては、エージング工程における低電位側電源線vssの電位を、通常発光時における電位Vssとは異なる電位Vss’とする。アノードコモン型の画素回路においても、実施の態様2で説明した(p1)〜(p12)式をそのまま適用することが可能である。したがって、線形領域で動作させる場合には、高輝度発光工程における低電位側電源線vssの電位を、通常発光時での電位Vssよりも高い電位Vss’にする。一方、飽和領域で動作させる場合には、高輝度発光工程における低電位側電源線vssの電位を、通常発光時での電位Vssと同じにするか、または電位Vssよりも低い電位Vss’にする。
【0107】
[変形例・その他]
以上、実施の態様1〜3について説明したが、本発明は上記の実施の態様に限られない。例えば、以下のような変形例等が考えられる。
(1)上記の実施の態様では、充電工程および高輝度発光工程により、有機EL素子に対してエージング処理を行うこととしたが、本発明はこれに限定されない。背景技術の項で説明した滅点検査に本発明を適用することで、滅点検査に要する時間の短縮化を図ることが可能である。エージング工程および滅点検査以外でも、有機EL素子を高輝度で発光させることにより処理速度向上が期待される点灯検査等に広く適用することができる。
【0108】
(2)実施の態様1のエージング工程においては、低電位側電源回路がグラウンド線gndに与える電位を−Vに切り替えることで、グラウンド線gndの電位が−Vとなるようにしたが、本発明はこれに限定されない。
例えば、グラウンド線gndに−Vの電位を与えるエージング工程用電源回路を低電位側電源回路とは別に準備し、エージング工程用電源回路をエージング工程中のみ有機EL表示パネル10に接続することで、グラウンド線gndに−Vの電位を与えることとしてもよい。この場合、エージング工程が終了したら、エージング工程用電源回路と通常発光時に用いる低電位側電源回路とをつなぎ変えることになる。また、エージング工程用電源回路を用いる場合、有機EL素子における電極対のうちグラウンド線(第1電源線)と接続されている側の電極、すなわち陰極は各有機EL素子間で共通に設けられていることが望ましい。このようにすることで、エージング工程用電源回路から有機EL素子の個数分のプローブを設けた上で、エージング工程用電源回路と各有機EL素子とを接続するといった手間が不要となる。したがって、エージング工程の簡略化を図ることが可能である。ここでは実施の態様1の場合を例に挙げて説明したが、実施の態様2〜4についても、電極対のうち第1電源線と接続されている側の電極を共通電極とすることで、上記の効果を得ることができる。
【0109】
(3)上記の実施の態様においては、有機EL表示装置の製造方法を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、単一の有機EL素子を有する有機EL照明等の発光装置であって、調光タイプ等の駆動トランジスタを有するタイプの発光装置に対しても本発明を適用することが可能である。
(4)n型カソードコモン(図4,7)およびn型アノードコモン(図12,13)の画素回路についての実施態様においては、充電工程および高輝度発光工程の両工程でグラウンド線の電位を通常発光時よりも下げることとしたが、本発明はこれに限定されない。最低限、充電工程においてグラウンド線の電位を通常発光時よりも下げていれば足りる。また、電源線の電位を通常発光時と異なる電位にすることについても、最低限、高輝度発光工程においてなされていれば足りる。
【0110】
一方、p型カソードコモン(図9,10)およびn型アノードコモン(図14,15)の画素回路についての実施態様においても、充電工程および高輝度発光工程の両工程で高電位側の電源線の電位を通常発光時よりも上げることとしたが、本発明はこれに限定されない。最低限、充電工程において高電位側の電源線の電位を通常発光時よりも上げていれば足りる。また、低電位側の電源線の電位を通常発光時と異なる電位にすることについても、最低限、高輝度発光工程においてなされていれば足りる。
【0111】
(5)上記の実施の態様においては、有機EL素子を発光素子として備える有機EL表示装置を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、製造工程中においてエージング工程や滅点検査等が行われる発光素子を有する表示装置全般に適用することができる。
(6)エージング処理時においては、有機EL表示パネルの表示領域を構成する有機EL素子の全てを点灯させることとしてもよいし(全面点灯)、表示領域を構成する有機EL素子の一部を順に発光させていくこととしてもよい(一部点灯)。
【0112】
図16は、表示領域の一部点灯によるエージング処理の概略を説明するための図である。図16(a)は従来の充電工程を経た場合のイメージ図であり、(b)本発明の充電工程を経た場合のイメージ図である。各図において、最も外側の枠は有機EL表示パネル10全体を示しており、その内側の枠は表示領域11(図2,3)の外枠を示している。
図16(a)における表示領域11のうち、黒く塗りつぶされている非発光領域18は発光させていない領域、換言すると最小階調(0階調)の映像信号が入力されている領域を示している。ハッチングが入っている発光領域17は最大諧調の映像信号が入力されている領域であり、通常発光時における最高輝度の領域である。このように、従来例の充電工程を経た場合には、黒色表示の非発光領域18の中を高輝度の発光領域17が移動することになる。
【0113】
一方、図16(b)におけるハッチングが入っていない発光領域31は、本発明の充電工程を経たことにより、通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光している領域である。ハッチングが入っている非発光領域32は最小階調(0階調)の映像信号が入力されている領域である。しかしながら、上記の実施の態様で説明したように第1電源線を通常発光時における電位と異なる電位としているため、非発光領域32では入力されている映像信号が最小階調であるが、黒色表示とはならずに灰色表示となる。非発光領域32は、従来例における発光領域17よりは低輝度ではあるものの、非発光領域18よりは高輝度である。したがって、主にエージング処理を行っている発光領域31が従来よりも高輝度であることに加え、従来ではエージング処理が行われていなかった領域においてもエージング処理が行われるので、エージング処理に要する時間を大幅に短縮することが可能である。
【0114】
なお、一部点灯によるエージング処理の効果としては、全面点灯の場合と比較して、表示領域11内におけるエージング処理進行度の均一化を図ることができる点が挙げられる。上述したように、有機EL表示装置では表示領域の周縁部から中央部に向かうにつれて共通電極において電圧降下が生じるが、一部点灯とすることで発光領域17,31内における電圧降下量が低減される。この結果、発光領域17,31内における輝度差を小さくすることができ、エージング処理進行度の均一化が図られる。
【0115】
(7)一部点灯によるエージング処理を行う例として、図16では発光領域の形状を表示領域11の上端から下端に向かって延びる帯状としたが、本発明はこれに限定されない。
図17は、表示領域11における発光領域の形状に係る変形例を示す図である。図17(a)に示す発光領域31Aのように、表示領域11の左端から右端の向かって延びる帯状としてもよい。なお、図16,図17(a)においては発光領域が1個であったが、複数個とすることもできる。
【0116】
また、図17(b)に示す発光領域31Bのように、ブロック形状としてもよいし、図17(c)に示す発光領域31Cのように、斜め方向に延びる帯状としてもよい。さらに、図17(d)に示す発光領域31Dのように、ウサギの図柄としてもよい。図17(d)にはウサギの図柄を示しているが、これは単なる一例である。ウサギのほか、例えば、イヌ、ネコ、カタツムリ、ヒマワリ等の図柄とすることもできる。発光領域の形状を図柄とすることで、エージング処理を行っている作業員の居眠り防止の一助となる。
【0117】
(8)上記の実施の態様においては、トップエミッション型の有機EL表示パネルを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。TFT基板101(図3)側を表示面とするいわゆるボトムエミッション型であってもよい。
(9)有機EL表示装置について、有機EL表示パネルに対する駆動制御部の配置や接続関係、および駆動制御部に含まれる回路については、図1に示すものに限られない。
【0118】
(10)上記の実施の態様においては、有機EL表示パネルをR,G,Bを発光色とするカラー表示のパネルであるとしたが、本発明はこれに限定されない。有機EL表示パネルを、R、G、B、白色およびその他単色の有機EL素子が複数配列されてなる表示パネルとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の表示装置の製造方法等は、例えば、家庭用もしくは公共施設、あるいは業務用の各種ディスプレイ、テレビジョン装置、携帯型電子機器用ディスプレイ等に用いられる有機EL表示装置等の製造方法等に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0120】
1 有機EL表示装置
10 有機表示パネル
11 表示領域
12 周辺領域
13、13R、13G、13B サブピクセル(有機EL素子)
14 画素
15 EL基板
16 CF基板
17 発光領域
18 非発光領域
20 駆動制御部
21 高電位側電源回路
22 低電位側電源回路
23 走査線駆動回路
24 信号線駆動回路
25 制御回路
30 エージング装置
31、31A、31B、31C、31D 発光領域
32 非発光領域
101 TFT基板
102 引き出し電極
103 パッシベーション層
104 層間絶縁膜
105 陽極
106 バンク
107、107R、107G、107B 有機発光層
108 電子輸送層
109 陰極
110 封止膜
111 ガラス基板
112R、112G、112B カラーフィルター
113、114 ブラックマトリクス
115 シール材
116、125、129、130 画素回路
117 TFT層
118、126 駆動トランジスタ
119、127 スイッチングトランジスタ
120 電源線
121 走査線
122 信号線
123、128 容量素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
前記発光素子に直列に接続され、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する駆動トランジスタと、
前記ゲート電極と前記ソース電極間に接続された容量素子と、
前記発光素子と前記駆動トランジスタからなる直列回路の両端にそれぞれ接続され、前記直列回路に電力を供給するための第1および第2電源線と、を備え、
前記第1電源線が前記直列回路の前記ソース電極側の端部に電気的に接続され、前記第2電源線が前記直列回路の前記ドレイン電極側の端部に電気的に接続された表示装置の製造方法であって、
前記第1電源線の電位を、前記ゲート電極と前記ソース電極間の電圧が通常発光時よりも高くなるような電位にすることにより、前記容量素子を通常発光時よりも高い電圧で充電する充電工程と、
前記充電工程において充電された前記容量素子の充電電圧に基づき、前記発光素子を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる高輝度発光工程と、を含む、
表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記駆動トランジスタはn型であり、
前記第1電源線の電位は前記第2電源線の電位よりも低く、
少なくとも前記充電工程においては、前記第1電源線の電位を通常発光時よりも低くする、
請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項3】
少なくとも前記高輝度発光工程においては、前記第2電源線の電位を通常発光時における前記第2電源線の電位よりも低くする、
請求項2に記載の表示装置の製造方法。
【請求項4】
少なくとも前記高輝度発光工程においては、前記第2電源線の電位を通常発光時における前記第2電源線の電位以上とする、
請求項2に記載の表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記駆動トランジスタはp型であり、
前記第1電源線の電位は前記第2電源線の電位よりも高く、
少なくとも前記充電工程においては、前記第1電源線の電位を通常発光時よりも高くする、
請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項6】
少なくとも前記高輝度発光工程においては、前記第2電源線の電位を通常発光時における前記第2電源線の電位よりも高くする、
請求項5に記載の表示装置の製造方法。
【請求項7】
少なくとも前記高輝度発光工程においては、前記第2電源線の電位を通常発光時における前記第2電源線の電位以下とする、
請求項5に記載の表示装置の製造方法。
【請求項8】
前記高輝度発光工程により、前記発光素子のエージング処理を行う、
請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項9】
前記充電工程および前記高輝度発光工程において、前記駆動トランジスタの前記ゲート電極には、通常発光時において使用される範囲の電圧が印加される、
請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項10】
前記表示装置は、前記充電工程において、さらに、
信号線と、
前記信号線に映像信号を与える信号線駆動回路と
前記信号線と前記容量素子との間の導通および非導通を切り替えるスイッチングトランジスタと、
前記スイッチングトランジスタのゲート電極に接続された走査線と、
前記スイッチングトランジスタに対する制御信号を前記走査線に与える走査線駆動回路と、を備え、
前記充電工程は、前記信号線駆動回路と前記走査線駆動回路を用いて行われる、
請求項9に記載の表示装置の製造方法。
【請求項11】
前記発光素子は有機EL素子である、
請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項12】
前記表示装置は、前記発光素子が行列状に複数配列されてなる、
請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項13】
発光素子と、
前記発光素子に直列に接続され、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する駆動トランジスタと、
前記ゲート電極と前記ソース電極間に接続された容量素子と、
前記発光素子と前記駆動トランジスタからなる直列回路に電力を供給する第1および第2電源線と、
信号線と、
前記信号線に映像信号を与える信号線駆動回路と、
前記信号線と前記容量素子との間の導通および非導通を切り替えるスイッチングトランジスタと、
前記スイッチングトランジスタのゲート電極に接続された走査線と、
前記スイッチングトランジスタに対する制御信号を前記走査線に与える走査線駆動回路と、を備え、
前記第1電源線が前記ソース電極に電気的に接続され、前記第2電源線が前記ドレイン電極に電気的に接続された表示装置であって、
前記発光素子を通常発光時における最高輝度よりも高輝度で発光させる高輝度発光時において、
前記第1電源線は、前記信号線駆動回路のグラウンドおよび前記走査線駆動回路のグラウンドと絶縁されているとともに、通常発光時と異なる電位を前記第1電源線に与える電源回路に接続されている、
表示装置。
【請求項14】
前記発光素子が行列状に複数配列されてなるとともに、各発光素子は、前記第1および第2電源線から電力供給を受ける電極対を含み、
前記電極対を構成する電極のうち、前記高輝度発光時において前記第1電源線と接続されている側の電極は各発光素子間で共通に設けられている、
請求項13に記載の表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2013−109868(P2013−109868A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252156(P2011−252156)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】