説明

表示装置

【課題】 表示光を反射させて虚像を表示する表示装置において、製造工程を煩雑とすることなく奥行きのある表示を行うことが可能となる表示装置を提供する。
【解決手段】 観察者Dと対向して配設される反射部材13と、反射部材13に第一の表示光L1を投射する自発光型の表示パネル(有機ELパネル)11と、表示パネルに形11成される反射層と、表示パネル11に第二の表示光L2を投射する表示器12と、を備える。第一の表示光L1を、反射部材13によって観察者Dに向けて反射させて第一の虚像V1を形成し、第二の表示光L2を、前記反射層によって反射部材13に向けて反射させ、さらに反射部材13によって観察者Dに向けて反射させて第一の虚像V1よりも遠方に位置する第二の虚像V2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示光を反射部材によって反射して虚像を形成する表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、表示装置として、発光型表示器が発した表示光を反射させて虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置と称される表示装置が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。図6は、ヘッドアップディスプレイ装置の一例を示している。ヘッドアップディスプレイ装置1は、車両のダッシュボード等に配設され、発光型表示器2が発した表示光2aを反射部材3によって観察者4の視線に向けて反射させ、虚像5を表示させるものである。
【0003】
また、ヘッドアップディスプレイ装置としては、複数の虚像に対応する複数の光源を備え、この各光源のうち一部の光源について、虚像の視点位置に向かう方向に隔てられた距離を拡大するべく光学的拡大手段を介して虚像とし、観察者の視点からの距離が異なる複数の虚像を表示することで奥行きのある表示を行うものがある(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】実開昭63−9041号公報
【特許文献2】実開平3−109925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかるヘッドアップディスプレイ装置は、観察者の視点からの距離が異なる複数の虚像を形成するためにレンズや球面鏡等の専用の光学的拡大手段を備えなければならず、また、複数の光源から発せられる表示光の出射位置が異なるために、全ての虚像が同一方向で観察者に視認可能とするためには、観察者に表示光を反射する反射部材に対する各光源及び光学的拡大手段の位置関係を精密に調整する必要があり、ヘッドアップディスプレイ装置の製造工程が煩雑になるという問題点があった。
【0005】
本発明は、この問題に鑑みなされたものであり、表示光を反射させて虚像を表示する表示装置において、製造工程を煩雑とすることなく奥行きのある表示を行うことが可能となる表示装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の表示装置は、前記課題を解決するために、観察者と対向して配設される反射部材と、前記反射部材に第一の表示光を投射する自発光型の表示パネルと、前記表示パネルに形成される反射層と、前記表示パネルに第二の表示光を投射する表示器と、を備え、前記第一の表示光を、前記反射部材によって前記観察者に向けて反射させて第一の虚像を形成し、前記第二の表示光を、前記反射層によって前記反射部材に向けて反射させ、さらに前記反射部材によって前記観察者に向けて反射させて前記第一の虚像よりも遠方に位置する第二の虚像を形成してなることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、前記表示パネルは、透明電極と少なくとも発光層を有する有機層と非透光性の背面電極とを積層形成してなる有機EL素子を透光性の基板上に形成してなる有機ELパネルからなり、前記反射層は、前記背面電極からなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記反射部材は、凹面鏡からなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記表示器は、前記第二の表示光として、前記第一の表示光と色の異なる光を発してなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記表示パネルは、前記第二の表示光を非発光個所にて反射してなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記表示パネルは、前記表示器から前記第二の表示光が投射される際に、少なくとも前記第二の表示光の反射領域が非表示状態となることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記第一,第二の虚像が重ねて表示されてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記表示パネルは、前記第一の虚像として車両状態を表示してなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記表示器は、前記第二の虚像として、車両の警告情報を表示してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、表示光を反射部材によって反射して虚像を形成する表示装置に関するものであり、製造工程を煩雑とすることなく奥行きのある表示を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態について説明するが、本発明を車両用のヘッドアップディスプレイ装置に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0017】
ヘッドアップディスプレイ装置10は、図1に示すように、有機ELパネル(表示パネル)11と、有機ELパネル11と対向する表示器12と、観察者Dの視線と対向する位置に配設される反射部材13と、有機ELパネル11及び投射部材12を収納するケース体14と、から主に構成されている。なお、車両用のヘッドアップディスプレイ装置においては、運転者や助手席搭乗者等の車両に乗車した人物が観察者Dとなる。
【0018】
有機ELパネル11は、ケース体14内に反射部材13と所定の角度をもって対向するように配設されるものであり、図2に示すように、透光性の基板11a上に、透明電極11b,絶縁層11c,有機層11d及び背面電極11eを順次積層形成して有機EL素子を形成し、この有機EL素子を気密的に覆うように封止部材11fを紫外線硬化型の接着剤11gを介して基板11a上に配設してなる自発光型の表示パネルである。
【0019】
基板11aは、例えばガラス材料からなる長方形形状の支持基板である。
【0020】
透明電極11bは、ITO等の透光性の導電性材料を基板11a上に蒸着法やスパッタリング法等の手段によって層状に形成し、さらにフォトリソグラフィー法エッチング等の手段によって所定の形状に成形してなるものである。また、透明電極11bは、定電流源(図示しない)と電気的に接続され、有機層11dに正孔を注入する陽極となる。
【0021】
絶縁層11cは、例えば、ポリイミド系等の絶縁材料をスパッタリング法等の手段によって層状に形成し、さらにフォトリソグラフィー法エッチング等の手段によって所定の形状に成形してなるものである。絶縁層11cは、透明電極11bに対応した窓部を有し、発光領域の輪郭を鮮明に表示するため、透明電極11bの周縁部と若干重なるように前記窓部が形成されるとともに、透明電極11bと背面電極11eとの絶縁を確保する。
【0022】
有機層11dは、透明電極11b上に配設されるもので、少なくとも発光層を有するものであれば良く、本発明の実施形態においては正孔注入層,正孔輸送層,発光層及び電子輸送層を蒸着法等の手段によって順次積層形成してなるものである。なお、本実施形態においては有機層11dは青緑色発光をなすものとする。
【0023】
背面電極11eは、アルミニウム(Al)やマグネシウム銀(Mg:Ag)等の非透光性であり反射性を有する導電性材料を蒸着法等の手段によって有機層11d上に形成してなるもので、長方形形状をなす単一の金属電極(非透光性の電極)であり、有機層11dにおける発光部の共通電極となる。また、背面電極11eは、前記定電流源と電気的に接続され、有機層11dに電子を注入する陰極となる。また、背面電極11eは、表示器12から発せられる第二の表示光L2を反射部材13に向けて反射する反射層となるものである。
【0024】
封止部材11fは、例えばガラス材料からなる平板部材を切削あるいはエッチング等の手段によって凹形状に形成してなるものである。封止部材11fは、紫外線硬化型の接着剤11gを介して基板11a上に気密的に配設することで、封止部材11fと基板11aとで前記有機EL素子を収納する気密空間を構成している。
【0025】
以上のように構成される有機ELパネル11は、透明電極11bおよび背面電極11eに所定の定電流を印加することによって有機層11dから青緑色の第一の表示光L1を発し、基板11aから対向する反射部材13に向けて第一の表示光L1を出射する。
【0026】
表示器12は、ケース体14内に有機ELパネル11と対向するように配設される発光型の表示器であり、例えば、有機ELパネル11から発せられる第一の表示光L1とは異なる色(本実施形態においては赤色)の光を発するLEDやバルブ等からなる光源と、前記光源からの光を透過する液晶パネルとを備える液晶表示器からなる。表示器12から出射された赤色の第二の表示光L2は、図2に示すように、有機ELパネル11の背面電極11eによって反射部材13に向けて反射される。なお、表示器12は、発光色の異なる複数の光源を備え、第二の表示光L2の表示色を切り換える、あるいは複数の異なる色の第二の表示光L2を発するものであってもよい。
【0027】
反射部材13は、ポリカーボネート等の樹脂材料にアルミニウム等の金属材料を蒸着させて凹形状の反射面13aを形成した凹面鏡であり、ケース体14の上端部に反射面13aが観察者Dの視線方向及び有機ELパネル11と対向するように配設されるものである。反射部材13は、有機ELパネル11からの第一の表示光L1と有機ELパネル11の背面電極11eによって反射される表示器12からの第二の表示光L2とを受光して観察者Dの視線に向けて反射し、観察者Dに第一の表示光L1に基づく第一の虚像V1と第二の表示光L2に基づく第二の虚像V2とを拡大して視認させる。なお、本発明の反射部材は、車両のフロントガラスあるいはフロントガラスに配設されるコンバイナ等であってもよい。
【0028】
ケース体14は、樹脂材料からなり、有機ELパネル11及び表示器12が収容されるものである。また、ケース体14には第一,第二の表示光L1,L2が出射する開口部14aが設けられており、この開口部14aには例えばアクリル等の透光性樹脂材料からなる透光性カバー14bが配設されている。
【0029】
ヘッドアップディスプレイ装置10は、図3に示すように、有機ELパネル11から発せられる第一の表示光L1によって、第一の虚像V1として車両状態である車速(図3では「100Km/h」なる数字表示)を表示する。また、各種情報による警告信号に基づいて表示器12を発光駆動させ、表示器12から発せられる第二の表示光L2によって、第二の虚像V2として車両の警告情報を示す円状のマークを表示する。第二の虚像V2は、第二の表示光L2が表示器12から出射され、まず、有機ELパネル11の背面電極11eによって反射部材13に向けて反射され、次いで、反射部材13から観察者Dの視線に向けて反射されることにより、表示器12と有機ELパネル11との間の距離分だけ第一の虚像V1よりも遠方に位置することとなる。また、このとき、表示内容の異なる第一,第二の虚像V1,V2が重畳しないように、有機ELパネル11において、少なくとも第二の表示光L2を反射させる反射領域を有機層11dが発光しない非表示状態とする。あるいは、有機ELパネル11の非発光個所にて第二の表示光L2を反射させるものであってもよい。なお、車両の警告情報としては、例えば車速やエンジン回転数等の車両状態に関する警告や他車両との接近に関する警告等が考えられる。また、車両の警告情報は文字あるいは数字による表示であってもよい。
【0030】
かかるヘッドアップディスプレイ装置10は、観察者Dと対向して配設される反射部材13と、反射部材13に第一の表示光L1を投射する有機ELパネル11と、有機ELパネル11に形成される反射層となる背面電極11eと、有機ELパネル11に第二の表示光L2を投射する表示器12と、を備え、第一の表示光L1を、反射部材13によって観察者Dの視線に向けて反射させて第一の虚像V1を形成し、第二の表示光L2を、有機ELパネル11の背面電極11eによって反射部材13に向けて反射させ、さらに反射部材13によって観察者Dの視線に向けて反射させて第一の虚像V1よりも遠方に位置する第二の虚像V2を形成してなるものである。
【0031】
かかる構成により、第一の虚像V1よりも遠方に位置する第二の虚像V2を形成するための第二の表示光L2を有機ELパネル11に予め備えられる背面電極11eにて反射させることによって、第二の表示光L2の観察者Dの視点に至るまでの距離を延長する特別の延長部材(引用文献2においては光学的拡大手段)を用いる必要が無いためヘッドアップディスプレイ装置10の部品点数を削減することができ、また、観察者Dに向けて表示光を反射させる反射部材13に対して有機ELパネル11の位置関係を調整することによって有機ELパネル11から発せられる第一の表示光L1と表示器12から発せられる第二の表示光L2と両方の表示光の出射方向を調整することが可能であるため、従来のように特別の前記延長手段を用いる場合と比較して製造工程を複雑にすることがなく、奥行きのある虚像表示を得ることが可能となる。
【0032】
また、反射部材13として凹面鏡を用いることによって、第一,第二の虚像V1,V2を拡大して表示させることができる。
【0033】
また、車両内に配設されるヘッドアップディスプレイ装置10において、第一の虚像V1として車両状態を表示させ、第二の虚像V2として車両の警告情報を表示させることによって、通常の表示である車両状態を表示させる第一の虚像V1よりも遠方、すなわち、車両前方の風景の近傍に位置する第二の虚像V2として緊急性の高い車両の警告情報を虚像表示させることによって、観察者Dが緊急性の高い表示に瞬時に視点を合わせることができ、警告情報の視認性を向上させることが可能となる。また、表示器12が、第二の表示光L2として、第一の表示光L1と色の異なる光を発することによって、警告情報の視認性を向上させることができる。また、有機ELパネル11が、表示器12から第二の表示光L2が投射される際に、少なくとも第二の表示光L2の反射領域が非表示状態となることによって、表示内容の異なる第一,第二の虚像V1,V2が重畳して観察者Dに視認されることを抑制し、表示の視認性を向上させることができる。なお、有機ELパネル11の非発光個所にて第二の表示光L2を反射させる場合にも同様に第一,第二の虚像V1,V2の重畳を抑制することができる。
【0034】
なお、本発明の実施形態であるヘッドアップディスプレイ装置10においては、第一,第二の虚像V1,V2が重畳しないように表示されるものであったが、本発明の請求項7に記載のように、第一,第二の虚像V1,V2が互いの少なくとも一部が重ねて表示される表示形態とするものであってもよい。図4及び図5は、ヘッドアップディスプレイ装置10において、第一,第二の虚像V1,V2を重ねて表示させる表示例を示す図である。図4においては、車両の警告情報を示す第二の虚像V2が第一の虚像V1の背景として表示されている。また、図5においては、第一の虚像V1の影部を示す第二の虚像V2が第一の虚像V1と一部が重なるように表示され、奥行きのある表示を得ることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態であるヘッドアップディスプレイ装置を示す要部断面図。
【図2】同上に備えられる有機ELパネルを示す断面図。
【図3】同上の表示例を示す図。
【図4】同上の他の表示例を示す図。
【図5】同上の他の表示例を示す図。
【図6】従来のヘッドアップディスプレイ装置を示す図。
【符号の説明】
【0036】
10 ヘッドアップディスプレイ装置(表示装置)
11 有機ELパネル(表示パネル)
11a 基板
11b 透明電極
11c 絶縁層
11d 有機層
11e 背面電極
12 表示器
13 反射部材
14 ケース体
D 観察者
L1 第一の表示光
L2 第二の表示光
V1 第一の虚像
V2 第二の虚像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察者と対向して配設される反射部材と、
前記反射部材に第一の表示光を投射する自発光型の表示パネルと、
前記表示パネルに形成される反射層と、
前記表示パネルに第二の表示光を投射する表示器と、を備え、
前記第一の表示光を、前記反射部材によって前記観察者に向けて反射させて第一の虚像を形成し、前記第二の表示光を、前記反射層によって前記反射部材に向けて反射させ、さらに前記反射部材によって前記観察者に向けて反射させて前記第一の虚像よりも遠方に位置する第二の虚像を形成してなることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記表示パネルは、透明電極と少なくとも発光層を有する有機層と非透光性の背面電極とを積層形成してなる有機EL素子を透光性の基板上に形成してなる有機ELパネルからなり、前記反射層は、前記背面電極からなることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記反射部材は、凹面鏡からなることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項4】
前記表示器は、前記第二の表示光として、前記第一の表示光と色の異なる光を発してなることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項5】
前記表示パネルは、前記第二の表示光を非発光個所にて反射してなることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項6】
前記表示パネルは、前記表示器から前記第二の表示光が投射される際に、少なくとも前記第二の表示光の反射領域が非表示状態となることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項7】
前記第一,第二の虚像は、互いの少なくとも一部が重ねて表示されてなることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項8】
前記表示パネルは、前記第一の虚像として車両状態を表示してなることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項9】
前記表示器は、前記第二の虚像として、車両の警告情報を表示してなることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−171465(P2006−171465A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364961(P2004−364961)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】