説明

表面プラズモン計測装置及び表面プラズモン計測方法

【課題】計測の精度及び感度が向上する表面プラズモン計測装置及び表面プラズモン計測方法を提供する。
【解決手段】光源、構造体及び偏光方向調整機構が設けられる。構造体は、誘電体媒体及び導電体膜を備える。誘電体媒体は入射面、反射面及び出射面を備える。導電体膜は反射面に密着する。誘電体媒体における励起光の主偏光方向の回転の程度を示す第1の指標及び主偏光方向成分の強度の低下の程度を示す第2の指標の両方又は片方が構造体に付帯される。励起光は入射面へ入射し、入射面へ入射した励起光は反射面に全反射され、反射面に全反射された励起光は出射面から出射する。第1の指標にしたがって励起光の偏光方向が調整され、第2の指標にしたがって励起光の光量が調整される。調整後の主偏光方向は、主偏光方向の回転が打ち消される偏光方向である。調整後の光量は主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン計測装置及び表面プラズモン計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体媒体の中を進む励起光が金属膜と誘電体媒体との界面に全反射された場合は、界面からエバネッセント波がもれだし、金属膜の中のプラズモンとエバネッセント波とが干渉する。界面への励起光の入射角が共鳴角に設定されプラズモンとエバネッセント波とが共鳴する場合にエバネッセント波の電場は著しく増強される。表面プラズモン共鳴法(SPR)又は表面プラズモン励起蛍光法(SPFS)による計測においては、この増強された電場が用いられる。
【0003】
表面プラズモン共鳴法(SPR)による計測においては、金属膜の表面に被計測物質が捕捉される。また、反射光の光量、散乱光の光量及び共鳴角並びにこれらの変化の全部又は一部が測定され、被計測物質の有無、被計測物質の捕捉量等が特定される。
【0004】
表面プラズモン励起蛍光分光法(SPFS)による計測においては、金属膜の表面に被計測物質が捕捉され、捕捉された被計測物質に蛍光標識された蛍光標識物質が結合させられる。増強された電場は蛍光標識に作用し、蛍光標識からは表面プラズモン励起蛍光が放射される。さらに、表面プラズモン励起蛍光の光量が測定され、被計測物質の有無、被計測物質の捕捉量等が特定される。
【0005】
界面からもれだすエバネッセント波は、界面へ入射する光のp波成分である。したがって、表面プラズモン共鳴法又は表面プラズモン励起蛍光分光法による計測の精度及び感度を向上するためには、界面へ入射するp波成分の強度を安定させる必要がある。
【0006】
一方、金属膜及び誘電体媒体を備える分析チップは、計測の作業の効率、安全性等を考慮すると、望ましくは、計測ごとに使い捨てにされる。このため、誘電体媒体は、望ましくは、安価な樹脂からなる。しかし、樹脂の成形体においては密度の分布が均一ではないため、樹脂からなる誘電体媒体は複屈折を生じ、その複屈折の程度は個々の誘電体媒体ごとに異なる。また、複屈折は、誘電体媒体の中を進む励起光の偏光方向の回転をもたらす。したがって、誘電体媒体が樹脂からなる場合は、反射面へ入射する励起光のp波成分が減少し、p波成分の減少の程度が分析チップごとに異なるという問題を生じる。
【0007】
特許文献1は、表面プラズモン計測において励起光のp波成分の強度を最大にする技術に関する。特許文献1は、反射光のs波成分の強度が極小になるように励起光の偏光方向を調整することを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−236709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1においては、誘電体媒体の入射面から反射面までの区間だけでなく反射面から出射面までの区間における偏光方向の回転の影響を受ける反射光の強度が測定される。このため、エバネッセント波のしみだしに直接的に関係する誘電体媒体の入射面から反射面までの区間における偏光方向の回転が適切に補正されず、反射面へ入射するp波成分の強度が安定せず、計測の精度及び感度が不十分であった。
【0010】
本発明は、この問題を解決するためになされる。本発明の目的は、計測の精度及び感度が向上する表面プラズモン計測装置及び表面プラズモン計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1から第6までの局面は、表面プラズモン励起蛍光分光法又は表面プラズモン共鳴法により計測を行う表面プラズモン計測装置に向けられる。
【0012】
(1)本発明の第1の局面においては、光源、構造体、偏光方向調整機構、読み取り機構及び第1の制御部が設けられる。構造体は、誘電体媒体及び導電体膜を備える。誘電体媒体は入射面、反射面及び出射面を備える。導電体膜の第1の主面は反射面に密着し、導電体膜の第2の主面は反射面に密着しない。入射面から反射面までの区間における励起光の主偏光方向の回転の程度を示す第1の指標が構造体に付加される。
【0013】
光源は励起光を放射する。励起光は入射面へ入射し、入射面へ入射した励起光は反射面に全反射され、反射面に全反射された励起光は出射面から出射する。偏光方向調整機構は、構造体に照射される励起光の偏光方向を調整する。
【0014】
読み取り機構は第1の指標を読み取る。第1の制御部は、読み取り機構から第1の指標を取得し、第1の指標にしたがって励起光の偏光方向を偏光方向調整機構に設定させる。設定後の偏光方向は、主偏光方向の回転が打ち消される偏光方向である。
【0015】
(2)本発明の第2の局面は、本発明の第1の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第2の局面においては、第1の指標は、反射面に対するp偏光が入射面へ入射する場合の主偏光方向の回転角を示す。また、設定後の偏光方向は、当該回転角を反転させた角だけp偏光の偏光方向を回転させた偏光方向である。
【0016】
(3)本発明の第3の局面は、本発明の第1又は第2の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第3の局面においては、光量調整機構及び第2の制御部がさらに設けられる。光量調整機構は、構造体に照射される励起光の光量を調整する。前記区間における励起光の主偏光方向成分の強度の低下の程度を示す第2の指標が構造体に付帯される。読み取り機構は、第2の指標を読み取る。第2の制御部は、読み取り機構から第2の指標を取得し、第2の指標にしたがって光量調整機構に励起光の光量を設定させる。設定後の光量は、主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量である。
【0017】
(4)本発明の第4の局面は、本発明の第3の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第4の局面においては、第2の指標は、反射面に対するp偏光が入射面へ入射する場合の反射面へ入射する主偏光成分の強度の基準強度に対する比を示す。また、設定後の励起光の光量は、当該比の逆数を基準光量に乗じた光量である。
【0018】
(5)本発明の第5の局面においては、光源、構造体、光量調整機構、読み取り機構及び制御部が設けられる。構造体は、誘電体媒体及び導電体膜を備える。誘電体媒体は入射面、反射面及び出射面を備える。導電体膜の第1の主面は反射面に密着し、導電体膜の第2の主面は反射面に密着しない。入射面から反射面までの区間における励起光の主偏光方向成分の強度の低下の程度を示す指標が構造体に付加される。
【0019】
光源は励起光を放射する。励起光は入射面へ入射し、入射面へ入射した励起光は反射面に全反射され、反射面に全反射された励起光は出射面から出射する。光量調整機構は、構造体に照射される励起光の光量を調整する。
【0020】
読み取り機構は指標を読み取る。制御部は、読み取り機構から指標を取得し、指標にしたがって励起光の光量を光量調整機構に設定させる。設定後の光量は、主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量である。
【0021】
(6)本発明の第6の局面は、本発明の第5の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第5の局面においては、指標は、反射面に対するp偏光が入射面へ入射する場合の反射面へ入射する主偏光成分の強度の基準強度に対する比を示す。また、設定後の励起光の光量は、当該比の逆数を基準光量に乗じた光量である。
【0022】
本発明の第7から第9までの局面は表面プラズモン励起蛍光分光法又は表面プラズモン共鳴法により計測を行う表面プラズモン計測方法に向けられる。
【0023】
(7)本発明の第7の局面においては、第1の誘電体媒体及び第2の誘電体媒体が準備される。第1の誘電体媒体は、第1の入射面、反射面及び第1の出射面を備え、励起光に対して透明である。第2の誘電体媒体は、第2の入射面及び第2の出射面を備え、励起光に対して透明で複屈折を生じない。
【0024】
反射面と第2の入射面とは張りあわされ、第1の誘電体媒体及び第2の誘電体媒体の複合体が作製される。複合体には評価光が照射される。評価光は、第1の入射面へ入射し反射面及び第2の入射面を通過し第2の出射面から出射する。
【0025】
第1の入射面から第2の出射面までの区間における評価光の主偏光方向の回転の程度が測定される。
【0026】
主偏光方向の回転の程度が測定された後に、複合体が第1の誘電体媒体と第2の誘電体媒体とに分離され、第1の誘電体媒体及び導電体膜を備える構造体が作製される。導電体膜の第1の主面は反射面に密着し、導電体膜の第2の主面は反射面に密着しない。構造体には、主偏光方向の回転の程度を示す第1の指標が付帯させられる。
【0027】
構造体に付帯された第1の指標が読み取られ、第1の指標にしたがって励起光の偏光方向が設定される。設定後の励起光の偏光方向は、主偏光方向の回転が打ち消される偏光方向である。
【0028】
構造体に励起光が照射され、表面プラズモン共鳴法又は表面プラズモン励起蛍光分光法による計測が行われる。励起光は、第1の入射面へ入射し、反射面に全反射され、第1の出射面から出射する。
【0029】
(8)本発明の第8の局面は、本発明の第7の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第8の局面においては、前記区間における評価光の主偏光方向成分の強度の低下の程度が測定される。強度の低下の程度を示す第2の指標が構造体に付帯させられる。
【0030】
構造体に付帯された第2の指標が読み取られ、第2の指標にしたがって励起光の光量が設定される。設定後の励起光の光量は、主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量である。
【0031】
(9)本発明の第9の局面においては、第1の誘電体媒体及び第2の誘電体媒体が準備される。第1の誘電体媒体は、第1の入射面、反射面及び第1の出射面を備え、励起光に対して透明である。第2の誘電体媒体は、第2の入射面及び第2の出射面を備え、励起光に対して透明で複屈折を生じない。
【0032】
反射面と第2の入射面とは張りあわされ、第1の誘電体媒体及び第2の誘電体媒体の複合体が作製される。複合体には評価光が照射される。評価光は、第1の入射面へ入射し反射面及び第2の入射面を通過し第2の出射面から出射する。
【0033】
第1の入射面から第2の出射面までの区間における評価光の主偏光方向成分の強度の低下の程度が測定される。
【0034】
主偏光方向成分の強度の低下の程度が測定された後に、複合体が第1の誘電体媒体と第2の誘電体媒体とに分離され、第1の誘電体媒体及び導電体膜を備える構造体が作製される。導電体膜の第1の主面は反射面に密着し、導電体膜の第2の主面は反射面に密着しない。構造体には、主偏光方向成分の強度の低下の程度を示す指標が付帯させられる。
【0035】
構造体に付帯された指標が読み取られ、指標にしたがって励起光の光量が設定される。設定後の励起光の光量は、主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量である。
【0036】
構造体に励起光が照射され、表面プラズモン共鳴法又は表面プラズモン励起蛍光分光法による計測が行われる。励起光は、第1の入射面へ入射し、反射面に全反射され、第1の出射面から出射する。
【発明の効果】
【0037】
本発明の第1及び第7の局面によれば、反射面へ入射する励起光の偏光方向が誘電体媒体による主偏光方向の回転に影響されにくくなり、計測の精度及び感度が向上する。
【0038】
本発明の第2の局面によれば、反射面へ入射する励起光の主偏光方向がp偏光の偏光方向に一致し、計測の精度及び感度が向上する。
【0039】
本発明の第3、第5、第8及び第9の局面によれば、反射面へ入射する励起光の主偏光方向成分の強度が誘電体媒体による偏光方向の回転に影響されにくくなり、計測の精度及び感度が向上する。
【0040】
本発明の第4の局面によれば、反射面へ入射する励起光の主偏光方向がp偏光の偏光方向に一致し、主偏光方向成分の強度が安定し、計測の精度及び感度が向上する。
【0041】
これらの及びこれら以外の本発明の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面とともに考慮されたときに下記の本発明の詳細な説明によってより明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】表面プラズモン励起蛍光計測装置の実施形態を示す模式図である。
【図2】制御演算部のブロック図である。
【図3】励起光の偏光方向を示す図である。
【図4】励起光の偏光方向を示す図である。
【図5】励起光の偏光方向を示す図である。
【図6】励起光の偏光方向を示す図である。
【図7】励起光の偏光方向を示す図である。
【図8】励起光の偏光方向を示す図である。
【図9】励起光の偏光方向を示す図である。
【図10】分析チップの断面図である。
【図11】分析チップの分解斜視図である。
【図12】レーザーダイオードユニットの模式図である。
【図13】第1の整波器の模式図である。
【図14】偏光方向調整機構の模式図である。
【図15】入射角調整機構の模式図である。
【図16】測定光光学系の模式図である。
【図17】反応領域、測定領域及び照射領域の関係を示す平面図である。
【図18】抗原の検出の手順の概略のフローチャートである。
【図19】抗原の検出の手順の概略のフローチャートである。
【図20】反射光量センサが付加された状態を示す模式図である。
【図21】第1の指標及び第2の指標の実測の手順を示すフローチャートである。
【図22】第1の指標及び第2の指標を実測する測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(計測の概略)
この望ましい実施形態は、表面プラズモン励起蛍光分光法により抗原を検出する表面プラズモン励起蛍光計測に関する。
【0044】
この望ましい実施形態においては、プリズムと導電体膜との界面に励起光が入射し表面プラズモン励起蛍光が発生する。プリズムにおける励起光の主偏光方向の回転の程度を示す第1の指標及びプリズムにおける励起光の主偏光方向成分の強度の低下の程度を示す第2の指標が分析チップに付帯される。励起光の主偏光方向は、プリズムによる主偏光方向の回転が打ち消される偏光方向に第1の指標にしたがって設定される。励起光の光量は、プリズムによる主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量に第2の指標にしたがって設定される。
【0045】
(表面プラズモン励起蛍光計測装置の概略)
図1の模式図は、表面プラズモン励起蛍光計測装置の実施形態を示す。
【0046】
表面プラズモン励起蛍光計測装置1000においては、レーザーダイオードユニット1002から放射された励起光9000が励起光光学系1004により分析チップ1006へ導かれる。分析チップ1006へ励起光9000が入射している間は、分析チップ1006から測定光9002及び反射光9004が出射する。測定光9002は、測定光光学系1008により光電子増倍管1010へ導かれる。反射光9004は、光吸収体1012に吸収される。
【0047】
分析チップ1006には、送液機構1014により試料液9006及び蛍光標識液9008が順次に注入される。分析チップ1006は、測定が行われるときには、測定室1016に配置され、分析チップ保持機構1018に保持される。分析チップ1006は、試料液9006又は蛍光標識液9008が注入されるときには、前処理室1020に配置される。分析チップ1006は、分析チップ搬送機構1022により、前処理室1020から測定室1016へロードされ、測定室1016から前処理室1020へアンロードされる。分析チップ1006は、表面プラズモン励起蛍光計測装置1000に対して着脱され、検体9020ごとに交換される。ただし、分析チップ1006が再利用されてもよい。
【0048】
プリズム1024へ導かれた励起光9000はプリズム1024の入射面1026へ入射し、入射面1026へ入射した励起光9000はプリズム1024の反射面1028に全反射され、反射面1028に全反射された反射光9004はプリズム1024の出射面1030から出射する。
【0049】
反射面1028への励起光9000の入射角θが入射角調整機構1032により走査され、測定光9002の光量が光電子増倍管1010に測定され、共鳴角θrが特定される。入射角θが測定角θmに設定された後に、測定光9002の光量が光電子増倍管1010に測定される。測定結果は、ディスプレイ1041に表示される。
【0050】
分析チップ1006には、バーコードラベル1034が貼られる。バーコードラベル1034に形成されたバーコード1224には、プリズム1024における励起光9000の主偏光方向の回転の程度を示す第1の指標及びプリズム1024における励起光9000の主偏光方向成分の強度の低下の程度を示す第2の指標が記述される。第1の指標及び第2の指標は、バーコードリーダー1036により読み取られる。「主偏光方向」は、強度が最大になる偏光方向を意味する。「主偏光方向成分」は、主偏光方向に変更する成分を意味する。
【0051】
分析チップ1006に照射される励起光9000の偏光方向は、偏光方向調整機構1038により調整され、プリズム1024における励起光9000の主偏光方向の回転が打ち消される偏光方向に第1の指標にしたがって設定される。
【0052】
分析チップ1006に照射される励起光9000の光量は、レーザーダイオードユニット1002において調整され、プリズム1024における励起光9000の主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量に第2の指標にしたがって設定される。
【0053】
表面プラズモン励起蛍光計測装置1000の構成物は制御演算部1040により制御され、制御演算部1040においては演算が行われる。
【0054】
(制御演算部)
図2のブロック図は、制御演算部を示す。
【0055】
偏光方向制御部1100は、バーコードリーダー1036から第1の指標を取得し、偏光方向調整機構1038に励起光9000の偏光方向を第1の指標にしたがって設定させる。設定後の励起光9000の偏光方向は、プリズム1024による主偏光方向の回転が打ち消される偏光方向である。これにより、反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向がプリズム1024による主偏光方向の回転に影響されにくくなり、反射面1028へ入射するp波成分の強度が安定し、計測の感度及び精度が向上する。
【0056】
プリズム1024による励起光9000の主偏光方向の回転の打ち消しは、反射面1028へ入射する励起光9000の偏光方向を入射面1026へ入射する励起光9000の偏光方向に近づけることを意味し、望ましくは、反射面1028へ入射する励起光9000の偏光方向を入射面1026へ入射する励起光9000の偏光方向に一致させることを意味する。
【0057】
光量制御部1102は、バーコードリーダー1036から第2の指標を取得し、レーザーダイオードユニット1002に励起光9000の光量を第2の指標にしたがって設定させる。設定後の励起光9000の光量は、プリズム1024による主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量である。これにより、反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向成分の強度がプリズム1024による偏光方向の回転に影響されにくくなり、反射面1028へ入射するp波成分の強度が安定し、計測の感度及び精度が向上する。
【0058】
プリズム1024による励起光9000の主偏光方向成分の強度の低下の打消しは、反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向成分の強度を基準強度に近づけることを意味し、望ましくは、反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向成分の強度を基準強度に一致させることを意味する。
【0059】
偏光方向制御部1100による偏光方向の補正及び光量制御部1102による光量の補正の両方が行われることが望ましいが、偏光方向の補正及び光量の補正の片方のみが行われてもよい。
【0060】
(補正の例)
図3から図9までのグラフは、励起光9000の偏光状態を示す。図3から図9までのグラフのp軸及びs軸の方向は、それぞれ、p偏光及びs偏光の偏光方向である。p偏光及びs偏光は、それぞれ、プリズム1024による偏光方向の回転がないと仮定した場合に反射面1028に対するp波成分及びs波成分となる直線偏光である。
【0061】
補正の第1の例は、図3に示すようにp軸の方向に偏光した直線偏光が入射面1026へ入射すると図4に示すようにp軸の方向から回転角βだけ回転した方向に偏光した直線偏光が反射面1028へ入射する場合に実行される。この場合は、偏光方向制御部1100により励起光9000の偏光方向が補正される。その結果、図5に示すようにp軸の方向から回転角βを反転させた角−βだけ回転した方向に偏光した直線偏光の励起光9000が入射面1026へ入射し、図6に示すようにp軸の方向に偏光した直線偏光の励起光9000が反射面1028へ入射する。これにより、反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向がp偏光の偏光方向に一致し、p波成分の強度が安定し、計測の精度及び感度が向上する。
【0062】
補正の第1の例が実行される場合は、入射面1026から反射面1028までの区間R1における励起光9000の主偏光方向の回転角βが第1の指標となる。偏光方向制御部1100は主偏光方向の回転角βにしたがって励起光9000の偏光方向を偏光方向調整機構1038に設定させる。
【0063】
補正の第2の例は、図3に示すようにp軸の方向に偏光し光量Dが基準光量Drefに一致する直線偏光が入射面1026へ入射すると図7に示すようにp軸の方向から回転角βだけ回転した方向に主に偏光し主偏光方向成分の強度Iが基準強度Irefより弱い楕円偏光が反射面1028へ入射する場合に実行される。この場合は、偏光方向制御部1100により励起光9000の偏光方向が補正され、レーザーダイオードユニット1002において励起光9000の光量Dが補正される。その結果、図8に示すようにp軸の方向から回転角βを反転させた角−βだけ回転した方向に偏光する直線偏光の励起光9000が入射面1026へ入射し、図9に示すようにp軸の方向に主に偏光した楕円偏光の励起光9000が反射面1028へ入射する。また、入射面1026へ入射する励起光9000の光量Dは基準光量Drefの補正係数倍に補正され、反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向成分の強度Iは基準強度Irefに補正される。これにより、反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向がp偏光の偏光方向に一致し、主偏光方向成分の強度Iが安定し、p波成分の強度が安定し、計測の精度及び感度が向上する。
【0064】
補正の第2の例が実行される場合は、区間R1における励起光9000の主偏光方向の回転角βが第1の指標となる。また、反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向成分の強度Iの基準強度Irefに対する比I/Irefが第2の指標になる。偏光方向制御部1100は主偏光方向の回転角βにしたがって励起光9000の偏光方向を偏光方向調整機構1038に設定させる。光量制御部1102は比I/Irefにしたがって励起光9000の光量をレーザーダイオードユニット1002に設定させる。基準光量Drefに乗じられる補正係数は、比I/Irefの逆数Iref/Iである。基準光量Drefは、プリズム1024による励起光9000の偏光方向の回転がない場合、すなわち、入射面1026へ入射した直線偏光が直線偏光のまま反射面1028へ入射し主偏光方向も変化しない場合に反射面1028へ入射する励起光9000の主偏光方向成分の強度が基準強度Irefになる光量である。
【0065】
偏光方向制御部1100及び光量制御部1102は、ソフトウエアを実行する組み込みコンピュータである。1個の組み込みコンピュータが偏光方向制御部1100及び光量制御部1102の機能を担ってもよいし、2個以上の組み込みコンピュータが分担して偏光方向制御部1100及び光量制御部1102の機能を担ってもよい。ソフトウエアを伴わないハードウエアが偏光方向制御部1100及び光量制御部1102の全部又は一部の機能を担ってもよい。ハードウエアは、オペアンプ、コンパレータ等の電子回路であってもよいし、リンク機構等の機械的機構であってもよい。
【0066】
(分析チップ)
図10の模式図は、分析チップの断面を示す。図11の模式図は、分析チップの構成物を重ねあわせ方向に分解した状態を示す斜視図である。
【0067】
図10及び図11に示すように、分析チップ1006においては、プリズム1024、導電体膜1202、流路形成シール1204、抗原捕捉体1206、流路形成蓋体1208、封止シール1210及びバーコードラベル1034が重ねあわされる。
【0068】
流路形成シール1204及び封止シール1210は両面粘着テープからなる。プリズム1024、導電体膜1202及び抗原捕捉体1206の複合体1212の接合面1214と流路形成蓋体1208の接合面1216とは流路形成シール1204により貼りあわされる。流路形成蓋体1208の封止面1218には封止シール1210が貼られる。
【0069】
導電体膜1202の第1の主面1220は反射面1028に密着し、導電体膜1202の第2の主面1222は反射面1028に密着しない。第2の主面1222には、抗原捕捉体1206が定着させられる。
【0070】
反射面1028に励起光9000が全反射されたときに反射面1028からしみだすエバネッセント波と導電体膜1202の中のプラズモンとが共鳴する場合は、導電体膜1202によりエバネッセント波の電場が増強される。分析チップ1006は、望ましくは、各片の長さが数mm又は数cmである構造物であるが、「チップ」の範疇に含まれない小型の構造物又は大型の構造物に置き換えられてもよい。
【0071】
(バーコードラベル)
バーコードラベル1034にはバーコード1224が形成される。バーコード1224には、第1の指標及び第2の指標が記述される。これにより、分析チップ1006には、第1の指標及び第2の指標が付帯される。バーコード1224は、励起光9000の入射、測定光9002の出射、反射光9004の出射、試料9006及び蛍光標識液9008の注入等を妨げず、バーコードリーダー1036から読み取り可能な位置に設けられる。
【0072】
バーコード1224に代えてホログラム、文字、記号、二次元バーコード等がラベルに形成され、これらに第1の指標及び第2の指標が記述されてもよい。これらが分析チップ1008に直接に形成されてもよい。分析チップ1006に切り欠きが形成され、切り欠きにより第1の指標及び第2の指標が記述されてもよい。
【0073】
第1の指標及び第2の指標は、実測されてもよいし、理論的に推定されてもよいが、望ましくは、後記の測定方法により実測される。
【0074】
第1の指標は、区間R1における励起光9000の主偏光方向の回転の程度を直接的に表現する回転角β等であってもよいし、区間R1における励起光9000の主偏光方向の回転の程度を導く基礎となる情報であってもよい。例えば、区間R1における励起光9000の主偏光方向の回転の程度が実測される場合は、測定装置のセンサ、エンコーダ等から出力される原データであってもよい。同じように、第2の指標は、区間R1における励起光9000の主偏光方向成分の強度の低下を直接的に表現する比I/Iref等であってもよいし、区間R1における励起光9000の主偏光方向成分の強度の低下の程度を導き出す基礎となる情報であってもよい。例えば、区間R1における励起光9000の主偏光方向成分の強度の程度が実測される場合は、測定装置のセンサ、エンコーダ等から出力される原データであってもよい。
【0075】
(プリズム)
プリズム1024は台形柱体である。台形柱体の一方の傾斜側面が入射面1026にされ、台形柱体の大きい方の平行側面が反射面1028にされ、台形柱体の他方の傾斜側面が出射面1030にされる。プリズム1024は、望ましくは、等脚台形柱体である。これにより、入射面1026と出射面1030とが対称になり、反射光9004のS波成分がプリズム1024の内部に滞留しにくくなる。プリズム1024が台形柱体以外でもよい。入射面1026、反射面1028及び出射面1030が備えられる限り、プリズム1024がプリズムの範疇に含まれない形状を有する形状物に置き換えられてもよい。
【0076】
プリズム1024は、励起光9000に対して透明な材質からなる誘電体媒体である。プリズム1024は、ガラス、樹脂等からなる。プリズム1024は、望ましくは、屈折率が1.4〜1.6であって複屈折が小さい樹脂からなる。プリズム1024は、例えば、シクロオレフィンポリマーからなる。
【0077】
プリズム1024は、どのように作製されてもよいが、例えば、射出成形により作製される。射出成形においては、溶融した熱可塑性樹脂材料が金型の内部へ導入された後に金型が冷却され、成形体が形成される。
【0078】
(導電体膜)
導電体膜1202は、表面プラズモン共鳴を発生させる導電体からなる。導電体膜1202は、望ましくは、金からなる。ただし、導電体膜1202が、銀、銅、アルミニウム等の金属又はこれらの金属を含む合金からなってもよい。
【0079】
導電体膜1202は、薄膜である。導電体膜1202の膜厚は、望ましくは100nm以下であり、さらに望ましくは40〜50nmである。ただし、導電体膜1202の膜厚がこの範囲外となってもよい。
【0080】
導電体膜1202は、スパッタリング、蒸着、メッキ等により形成される。ただし、導電体膜1202が他の方法により形成されてもよい。
【0081】
(抗原捕捉体)
抗原捕捉体1206は、非流動体からなる。したがって、試料液9006又は蛍光標識液9008が抗原捕捉体1206に接触しても、抗原捕捉体1206は移動しない。
【0082】
抗原捕捉体1206は、検出対象の抗原と結合する抗体を含む。抗体は、均一に分布する。検出対象の抗原を含む試料液9006が抗原捕捉体1206に接触した場合は、試料液9006に含まれる検出対象の抗原が抗原捕捉体1206に含まれる抗体と結合し、試料液9006に含まれる検出対象の抗原が抗原捕捉体1206に捕捉される。
【0083】
抗原捕捉体1206は、例えば、ラバー製のアプリケーターによりパターニングされる。抗原捕捉体1206の直径は、典型的には2mmであり、抗原捕捉体1206の層厚は、典型的には100nm以下である。
【0084】
(流路形成テープ及び流路形成蓋)
流路形成テープ1204には、流路1226が形成される。流路1226は、流路形成テープ1204の一方の主面と他方の主面とを貫通する孔である。流路1226は、注入口側流路1228、反応室1230及び液だめ側流路1232を備える。
【0085】
流路形成蓋体1208にも、注入口側流路1234及び液だめ側流路1236が形成される。注入口側流路1234及び液だめ側流路1236は、接合面1216と封止面1218とを貫通する孔である。注入口側流路1234の封止面1218の側の開口は注入口1238になる。液だめ側流路1236の封止面1218寄りは幅広の液だめ1240になる。流路形成蓋体1208の注入口側流路1234及び液だめ側流路1236は、それぞれ、流路形成テープ1204の注入口側流路1228及び液だめ側流路1232に接続される。
【0086】
反応室1230の平面位置と抗原捕捉体1206の平面位置とは一致させられ、抗原捕捉体1206は反応室1230に露出する。
【0087】
流路形成テープ1204及び流路形成蓋体1208は全体として流路が形成された流路構造物となる。流路形成テープ1204及び流路形成蓋体1208が一体物であってもよい。
【0088】
分析チップ1006へ試料液9006又は蛍光標識液9008が注入された場合は、それぞれ、試料液9006又は蛍光標識液9008で反応室1230が満たされ、試料液9006又は蛍光標識液9008が抗原捕捉体1206に接触する。
【0089】
流路形成テープ1204及び流路形成蓋体1208は、試料液9006又は蛍光標識液9008の飛散を防止し、抗原捕捉体1206に接触する試料液9006又は蛍光標識液9008の量を一定にすることに寄与する。しかし、流路形成テープ1204及び流路形成蓋体1208が省略され、抗原捕捉体1206の上に試料液9006又は蛍光標識液9008が直接的に滴下されてもよい。
【0090】
(レーザーダイオードユニット)
図12の模式図は、レーザーダイオードユニットを示す。
【0091】
図12に示すように、レーザーダイオードユニット1002においては、レーザーダイオード1300から放射されたビーム9010がビームスプリッタ1302により主ビーム9012と副ビーム9014とに分割される。主ビーム9012は、コリメータ1304によりコリメート化され、レーザーダイオードユニット1002から励起光9000として放射される。
【0092】
励起光9000がコリメート化されても励起光9000のビームの断面形状は扁平形である。後記の照射領域1800の平面形状を円形に近づけるために、励起光9000の光路を含み反射面1028に垂直な面に楕円形の短軸が含まれるような姿勢でレーザーダイオード1300がレーザーダイオード保持機構1306により保持される。
【0093】
レーザーダイオード1300から放射されるレーザー光の光量は電力供給制御回路1312により制御される。レーザーダイオード1300から放射されるレーザー光の光量が調整されることによって、分析チップ1006に照射される励起光9000の光量も調整される。励起光9000の光路に挿抜機構により減光フィルタが挿抜されることによって、分析チップ1006に照射される励起光9000の光量が調整されてもよい。
【0094】
レーザーダイオード1300から放射されるレーザー光の波長及び光量が温度に依存する場合は、望ましくは、温度調整回路1308において、副ビーム9014の光量がフォトダイオード1310により測定され、副ビーム9014の光量の測定結果が一定に維持されるようにレーザーダイオード1300へ供給される電力が電力供給制御回路1312により回帰制御される。これにより、レーザーダイオード1300の温度が一定に維持され、励起光9000の波長及び光量が一定に維持される。フォトダイオード1310がフォトトランジスタ、フォトレジスタ等の他の光量センサに置き換えられてもよい。励起光9000の波長は共鳴角θr及びエバネッセント波のしみだし量に影響するので、温度調整回路1308は抗原の検出の精度及び感度の向上に寄与する。
【0095】
レーザーダイオード1300の温度が定常温度になるまでに長時間を要する場合は、表面プラズモン励起蛍光計測装置1000の運転が開始されたときからレーザーダイオード1300へ電力が常時供給される。
【0096】
レーザーダイオード1300から放射される励起光9000の偏光方向は、概ね、特定の方向に偏在する。
【0097】
レーザーダイオード1300が発光ダイオード、水銀灯、レーザーダイオード以外のレーザー等の他の光源に置き換えられてもよい。光源から放射される光がビームでない場合は、レンズ、鏡、スリット等により光がビームに変換される。光源から放射される光が単色光でない場合は、回折格子等により光が単色光に変換される。光源から放射される光が直線偏光でない場合は、偏光子等により光が直線偏光に変換される。
【0098】
(励起光光学系)
図1に示すように、励起光9000は、励起光光学系1004によりレーザーダイオードユニット1002から分析チップ1006へ導かれる間に、第1の整波器1042、偏光方向調整機構1038、整形光学系1044及び入射角調整機構1032を順次に通過する。励起光9000が第1の整波器1042を通過するときに励起光9000が整波される。励起光9000が偏光方向調整機構1038を通過するときに励起光9000の偏光方向が調整される。励起光9000が整形光学系1044を通過するときに励起光9000のビームの断面形状がスリット、ズーム光学系等により整形される。励起光9000が入射角調整機構1032を通過するときに反射面1028への励起光9000の入射角θが調整される。
【0099】
(第1の整波器)
図13の模式図は、第1の整波器を示す。
【0100】
図13に示すように、励起光9000は、第1の整波器1042を通過するときに、第1のバンドパスフィルタ1400、直線偏光フィルタ1402及び減光フィルタ1404を順次に通過する。第1の整波器1042がこれら以外の光学フィルタを備えてもよい。第1の整波器1042が光学フィルタ以外の光学素子を備えてもよい。
【0101】
励起光9000が第1のバンドパスフィルタ1400を透過するときに、励起光9000の波長の分布が狭められる。これにより、レーザーダイオードユニット1002から放射された励起光9000の波長の分布が広くても、波長の分布が狭い励起光9000が得られる。レーザーダイオードユニット1002から放射された励起光9000の波長の分布が十分に狭い場合は、第1のバンドパスフィルタ1400が省略されてもよい。
【0102】
励起光9000が直線偏光フィルタ1402を透過するときに、励起光9000の偏光方向の分布が狭められる。これにより、レーザーダイオードユニット1002から放射された励起光9000の偏光方向の分布が広くても、偏光方向の分布が狭い励起光9000が得られる。レーザーダイオードユニット1002から放射された励起光9000の偏光方向の分布が十分に狭い場合は、直線偏光フィルタ1402が省略されてもよい。
【0103】
励起光9000が減光フィルタ1404を透過するときに、励起光9000の光量が減少させられる。レーザーダイオードユニット1002から放射された励起光9000の光量が適切である場合は、減光フィルタ1404が省略されてもよい。
【0104】
(偏光方向調整機構)
図14の模式図は、偏光方向調整機構を示す。
【0105】
図14に示すように、偏光方向調整機構1038においては、半波長板1500に垂直な回転軸の周りに半波長板1500が半波長板回転機構1502により回転させられる。半波長板回転機構1502は、ロータリーステッピングモータ等により半波長板1500を自転させる。半波長板1500を透過する励起光9000の偏光方向は、半波長板1500の回転角により調整される。励起光9000の偏光方向は、反射面1028からのエバネッセント波のしみだしが最大になる偏光方向と反射面1028からのエバネッセント波のしみだしがなくなる偏光方向との間に調整されうる。
【0106】
偏光方向調整機構1038が、光軸の周りにレーザーダイオードユニット1002又はレーザーダイオード1300を回転させる機構に置き換えられてもよい。
【0107】
(入射角調整機構)
図15の模式図は、入射角調整機構を示す。
【0108】
図15に示すように、励起光9000は入射角調整機構1032を通過するときに反射鏡1600に反射され、反射により励起光9000の進む方向は第1の方向9016から分析チップ1006へ向かう第2の方向9018へ屈曲させられる。
【0109】
入射角調整機構1032により入射角θが調整される場合は、反射鏡角度調整機構1602により反射鏡角度が調整されながら反射鏡位置調整機構1604により反射鏡位置が調整される。これにより、入射角θのみが調整され、反射面1028における励起光9000の照射位置Xが維持される。
【0110】
入射角調整機構1032により照射位置Xが調整される場合は、反射鏡角度が固定され、反射鏡位置調整機構1604により反射鏡位置が調整される。これにより、照射位置Xのみが調整され、入射角θが維持される。
【0111】
励起光9000が入射面1026へ導かれない遮断状態に入射角調整機構1032がされる場合は、反射鏡角度調整機構1602により反射鏡角度が調整され、反射鏡1600の光吸収面に励起光9000が当てられる。光吸収面には、無反射光吸収物質が貼り付けられる。励起光9000が入射面1026へ導かれる非遮断状態に入射角調整機構1032がされる場合は、反射鏡角度調整機構1602により反射鏡角度が調整され、反射鏡1600の光反射面に励起光9000が当てられる。光反射面には、多層膜が形成される。これにより、励起光9000の位相角、反射角度等によらず位相ずれ、減光等が起こりにくくなる。反射鏡角度調整機構1602以外の機構により遮断状態と非遮断状態とが切り替えられてもよい。例えば、励起光9000の光路に光吸収体が挿抜されてもよい。
【0112】
反射鏡角度調整機構1602は、ロータリーステッピングモータ等により光反射面に平行な回転軸の周りに反射鏡1600を自転させ、反射鏡角度を調整する。
【0113】
反射鏡位置調整機構1604は、リニアステージ等の上においてリニアステッピングモータ等により第1の方向9016に沿って反射鏡角度調整機構1602とともに反射鏡1600を移動させ、反射鏡位置を調整する。
【0114】
入射角調整機構1032には、簡単な機構により入射角θ及び照射位置Xを調整できるという利点がある。ただし、レーザーダイオードユニット1002の位置及び角度を調整する入射角調整機構により入射角θ及び照射位置Xが調整されてもよい。又は、分析チップ1006の位置及び角度を調整する入射角調整機構により入射角θ及び照射位置Xが調整されてもよい。
【0115】
(測定光光学系)
図16の模式図は、測定光光学系を示す。
【0116】
図16に示すように、導電体膜1204又は抗原捕捉体1206から第2の主面1222が向く側へ出射する測定光9002は、測定光光学系1008により光電子増倍管1010へ導かれる。測定光光学系1008においては、測定光9002は、集光レンズ1700により集光され平行光に変換され、第2の整波器1702を通過し、結像レンズ1704により光電子増倍管1010に結像される。
【0117】
集光レンズ1700及び結像レンズ1704は共役光学系を構成する。これにより、迷光の影響が抑制される。
【0118】
第2の整波器1702においては、第2のバンドバスフィルタ1706が挿抜機構1708により測定光9002の光路に挿抜される。
【0119】
表面プラズモン励起蛍光の光量が測定される場合は、測定光9002の光路に第2のバンドバスフィルタ1706が挿入され、第2のバンドバスフィルタ1706により測定光9002から励起光9000と同じ波長の光が選択的に減衰させられる。これにより、主に表面プラズモン励起蛍光が光電子増倍管1010へ導かれ、計測の精度及び感度が向上する。散乱光の光量が測定される場合は、測定光9002の光路から第2のバンドパスフィルタ1706が抜去される。
【0120】
測定光9002の光路に挿抜機構により減光フィルタが挿抜されてもよい。表面プラズモン励起蛍光の光量が測定される場合は、測定光9002の光路から減光フィルタが抜去される。散乱光の光量が測定される場合は、測定光9002の光路に減光フィルタが挿入される。これにより、光電子増倍管1010へ導かれる表面プラズモン励起蛍光及び散乱光の光量の差が小さくなり、光量の測定が容易になる。表面プラズモン励起蛍光の光量が相対的に高感度の光電子増倍管1010により測定され、散乱光の光量が相対的に低感度のフォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトレジスタ等により測定されてもよい。
【0121】
(光電子増倍管)
測定光9002の光量は光電子増倍管1010により測定される。光電子増倍管1010には感度及び信号対雑音比が良好であるという利点がある。ただし、光電子増倍管1010が冷却電荷結合素子(CCD)カメラ等の他の光量センサに置き換えられてもよい。
【0122】
(送液機構)
図1に示すように、送液機構1014により分析チップ1006へ試料液9006が注入されるときは、分析チップ1006及び試薬チップ1046が前処理室1020に配置される。また、送液ポンプ1048により試薬チップ1046の希釈容器1050から試料液9006が吸引され、送液ポンプ1048が送液ポンプ搬送機構1052により搬送され、送液ポンプ1048により注入口1238へ試料液9006が吐出される。試料液9006が吐出されるときには、送液ポンプ1048の吐出口が封止シール1210を破って注入口1238に挿入される。
【0123】
送液機構1014により分析チップ1006へ蛍光標識液9008が注入されるときも、分析チップ1006及び試薬チップ1046が前処理室1020に配置される。また、送液ポンプ1048により試薬チップ1046の蛍光標識液容器1054から蛍光標識液9008が吸引され、送液ポンプ1048が送液ポンプ搬送機構1052により搬送され、送液ポンプ1048により注入口1238へ蛍光標識液9008が吐出される。
【0124】
検体9020が希釈されるときには、試薬チップ1046が前処理室1020に配置される。送液機構1014により、検体容器1056から希釈容器1050へ検体9020が送液され、希釈液容器1058から希釈容器1050へ希釈液9022が送液され、試料液9006が調製される。
【0125】
送液ポンプ1048は、必要に応じて、洗浄液容器1060に収容された洗浄液9024で洗浄される。
【0126】
検体9020が希釈されずに検体9020がそのまま試料液9006になる場合もある。また、希釈に加えて又は希釈に代えて、血球分離、試薬の混合等の他の前処理が行われてもよい。
【0127】
検体9020は、典型的には、血液等の人間からの採取物であるが、人間以外の生物からの採取物であってもよく、非生物からの採取物であってもよい。
【0128】
蛍光標識液9008は、蛍光標識され検出対象の抗原と結合する蛍光標識抗体を含む。
【0129】
分析チップ1006へ注入される注入物は典型的には液体であるが気体又は流動性を有する固体であってもよい。
【0130】
送液ポンプ1048を送液元から送液先へ搬送する送液機構1014に代えて、チューブにより試料液9006及び蛍光標識液9008を送液する送液機構が設けられてもよい。
【0131】
(反応領域、測定領域及び照射領域の関係)
図17の模式図は、反射面における照射領域、測定領域及び反応領域の望ましい関係を示す平面図である。照射領域1800は、励起光9000が照射される領域である。測定領域1802は、出射する測定光9002の光量が光電子増倍管1010により測定される領域である。反応領域1804は、抗原捕捉体1206が設けられ、抗原捕捉体1206に含まれる抗体と抗原とが結合する領域である。照射領域1800及び測定領域1802の平面形状は、望ましくは、円形である。
【0132】
照射領域1800と測定領域1802とは少なくとも重なる。望ましくは照射領域1800が測定領域1802に内包され、さらに望ましくは照射領域1800が測定領域1802の中央に配置される。これにより、プリズム1024のばらつきにより照射位置Xがずれても照射領域1800が測定領域1802から逸脱しにくくなり、測定光9002の光量が維持される。
【0133】
照射領域1800と反応領域1804とは少なくとも重なり、望ましくは照射領域1800が反応領域1804に内包され、さらに望ましくは照射領域1800が反応領域1804の中央に配置される。
【0134】
測定領域1802と反応領域1804とは少なくとも重なり、望ましくは測定領域1802が反応領域1804に内包され、さらに望ましくは測定領域1802が反応領域1804の中央に配置される。
【0135】
(抗原の検出の手順の概略)
図18及び図19のフローチャートは、抗原の検出の手順の概略を示す。
【0136】
図18に示すように、測定が準備され(ステップS101)、抗体と抗原とが反応させられ(ステップS102)、分析チップ1006がロードされる(ステップS103)。
【0137】
分析チップがロードされた後(ステップS103の後)に、偏光方向制御部1100が、バーコードリーダー1036に第1の指標を読み取らせ(ステップS104)、バーコードリーダー1036から第1の指標を取得し(ステップS105)、第1の指標にしたがって偏光方向調整機構1038に励起光9000の偏光方向を設定させる(ステップS106)。
【0138】
また、光量制御部1102が、バーコードリーダー1036に第2の指標を読み取らせ(ステップS107)、バーコードリーダー1036から第2の指標を取得し、(ステップS108)、第2の指標にしたがって電力供給制御回路1312に励起光9000の光量を設定させる(ステップS109)。
【0139】
第1の指標及び第2の指標は、分析チップ1006がロードされる前に又は分析チップ1006がロードされるのと並行して読み取られてもよい。第1の指標の読み取り及び第2の指標の読み取りの順序が入れ替わってもよく、第1の指標及び第2の指標が同時に読み取られてもよい。第1の指標の取得及び第2の指標の取得の順序が入れ替わってもよく、第1の指標及び第2の指標が同時に取得されてもよい。励起光9000の偏光方向の設定及び励起光9000の光量の設定の順序が入れ替わってもよく、励起光9000の偏光方向及び励起光9000の光量が並行して設定されてもよい。
【0140】
ロードされた分析チップ1006のプリズム1024には励起光9000が照射される。
【0141】
図19に示すように、分析チップ1006に励起光9000が照射されている状態において入射角θが測定角θmに設定され(ステップS110)、望ましくは行われる処理が行われ(ステップS111及びS112)、分析チップ1006がアンロードされ(ステップS113)、抗原と蛍光標識抗体とが反応させられる(ステップS114)。
【0142】
入射角θが測定角θmに設定された後(ステップS110の後)であって分析チップ1006がアンロードされる前(ステップS113の前)に、望ましくは、照射位置Xが最適化され(ステップS111)、自家蛍光の光量が測定される(ステップS112)。照射位置Xの最適化(ステップS111)及び自家蛍光の光量の測定(ステップS112)の両方又は片方が省略されてもよい。
【0143】
抗原と蛍光標識抗体とが反応させられた後(ステップS114の後)に、分析チップ1006が再ロードされ(ステップS115)、表面プラズモン励起蛍光の光量が測定され(ステップS116)、測定結果が検体番号等とともに記憶及び表示され(ステップS117)、表面プラズモン励起蛍光計測装置1000が初期化される(ステップ118)。表面プラズモン励起蛍光計測装置1000が初期化されときには、反射鏡1600等の可動物が初期位置に復帰させられる。表面プラズモン励起蛍光の光量は、必要に応じて、抗原の絶対量、濃度等に換算される。
【0144】
(測定の準備)
測定の準備(ステップS101)においては、分析チップ1006が準備され、前処理室1020に分析チップ1006が配置される。
【0145】
それとは別に、試薬チップ1046が準備され、前処理室1020に試薬チップ1046が配置され、送液機構1014により試薬チップ1046が前処理される。これにより、試料液9006が調製され、試料液9006の準備が完了する。また、蛍光標識液9008の準備が完了する。
【0146】
分析チップ1006の準備及び配置は、試薬チップ1046の準備、配置及び前処理の後に行われてもよく、試薬チップ1046の準備、配置及び前処理と並行して行われてもよい。
【0147】
(抗体と抗原との反応)
抗体と抗原との反応(ステップS102)においては、送液機構1014が試料液9006を分析チップ1006へ注入する。
【0148】
試料液9006が分析チップ1006へ注入された場合は、試料液9006が抗原捕捉体1206に接触し、試料液9006に含まれる抗原が抗原捕捉体1206に含まれる抗体に結合し、試料液9006に含まれる抗原が抗原捕捉体1206に捕捉される。
【0149】
(入射角θの測定角θmへの設定)
入射角θの測定角θmへの設定(ステップS110)においては、挿抜機構1708が第2のバンドバスフィルタ1706を測定光9002の光路から抜去させる。これにより、散乱光が遮蔽されなくなり、散乱光の光量が光電子増倍管1010により測定可能になる。
【0150】
続いて、第2のバンドバスフィルタ1706が抜去された状態において、全反射条件が満たされる角度範囲内において入射角調整機構1032が入射角θを走査し、光電子増倍管1010が光量Iを測定する。これにより、入射角θの走査中に散乱光の光量が測定され、入射角θと散乱光の光量Isとの関係Is(θ)が得られる。
【0151】
関係Is(θ)が得られた後に、光量Isが極大になる入射角θである共鳴角θrが関係Is(θ)から特定され、共鳴角θrから測定が行われる入射角θである測定角θmが決定される。散乱光の光量が極大になる共鳴角θrと電場の増強度が極大になる入射角θmaxとのずれは小さく、決定された共鳴角θrがそのまま測定角θmにされても電場が十分に増強される。ただし、共鳴角θrが補正されて測定角θmにされてもよい。散乱光の光量が極大になる共鳴角θrが求められる場合は、反射光の光量が極小になる共鳴角θrが求められる場合と異なり、表面プラズモン励起蛍光の光量を測定する光量センサが共鳴角θrの測定に援用され、表面プラズモン励起蛍光計測装置1000の構造が簡略化される。
【0152】
測定角θmが決定された後に、入射角調整機構1032が入射角θを測定角θmに設定する。
【0153】
(入射角θの走査範囲)
プリズム1024の材質及び形状、注入物の屈折率等により、共鳴角θrは概ね決まる。しかし、抗原捕捉体1206に捕捉された分子の種類及び量、プリズム1024のばらつき等によって共鳴角θrはわずかに変化する。このため、入射角θの走査においては、予想される共鳴角θrを含む概ね10°以下の範囲が重点的に走査される。
【0154】
(照射位置の最適化)
照射位置の最適化(ステップS111)においては、入射角調整機構1032が照射位置Xを直線に沿って走査しながら光電子増倍管1010が光量Iを測定する。これにより、照射位置Xの走査中に散乱光の光量Isが測定され、照射位置Xと散乱光の光量Isとの関係Is(X)が得られる。
【0155】
関係Is(X)が得られた後に、光量Isが極大値から同値ΔIsだけ減少する照射位置X1及びX2が関係Is(X)から特定され、照射位置X1及びX2の中間が測定が行われる照射位置Xである測定位置Xmに決定される。
【0156】
望ましくは、関係Is(X)は、測定角θが測定角θmに設定された後に測定される。これにより、表面プラズモン励起蛍光の光量が測定されるときと同じ入射角θで照射位置Xが最適化され、照射位置Xが適切に最適化される。
【0157】
測定位置Xmが決定された後に、反射鏡位置調整機構1063が照射位置Xを測定位置Xmに設定する。
【0158】
共鳴角θrの近傍の入射角θにおいては、反射光9004の光量は少なく、反射光9004はプリズム1024から放射される自家蛍光をほとんど発生させない。このため、測定領域1802における励起光9000の光路長が自家蛍光の光量に大きく影響し、照射位置Xが変化すると自家蛍光の光量も変化する。自家蛍光の光量は励起光9000の光量に比べると微弱であるが、表面プラズモン励起蛍光の光量と比べると無視できない。ただし、自家蛍光の光量は微弱であるため、表面プラズモン励起蛍光の光量の測定に影響を与えるのは、反射面1028の近くから放射された自家蛍光に限られる。
【0159】
照射位置の最適化(ステップS111)により照射領域1800が測定領域1802の中央に配置された場合は、測定領域1802における励起光9000の光路長が一定になり、自家蛍光の光量の影響が一定になり、計測の精度及び感度が向上する。
【0160】
(自家蛍光の光量の測定)
自家蛍光の光量の測定(ステップS112)においては、光電子増倍管1010が光量Iを測定する。これにより、自家蛍光の光量Iafが測定される。測定結果は、後記の補正が完了するまで制御演算部1040に記憶される。
【0161】
(抗原と蛍光標識抗体との反応)
抗原と蛍光標識抗体との反応(ステップS114)においては、送液機構1014が蛍光標識液9008を分析チップ1006へ注入する。蛍光標識液9008が分析チップ1006へ注入された場合は、蛍光標識液9008が抗原捕捉体1206に接触し、蛍光標識液9008に含まれる蛍光標識抗体が抗原に結合する。
【0162】
(表面プラズモン励起蛍光の光量の測定)
表面プラズモン励起蛍光の光量の測定(ステップS116)においては、挿抜機構1708が第2のバンドパスフィルタ1706を測定光9002の光路へ挿入する。これにより、光電子増倍管1010に届く散乱光が減り、計測の精度及び感度が向上する。
【0163】
第2のバンドパスフィルタ1706が挿入された後に、入射角調整機構1032が励起光9000を一時的に遮断する。
【0164】
励起光9000が遮断されている間に光電子増倍管1010が光量Iを測定する。これにより、暗ノイズ量Inが測定される。
【0165】
暗ノイズ量Inが測定された後に、入射角調整機構1032が入射角θを測定角θmに再設定する。
【0166】
入射角θが測定角θmに再設定された後に、光電子増倍管1010が光量Iを測定する。これにより、測定角θmにおける表面プラズモン励起蛍光の光量Ifが測定される。微小角だけ入射角θがずらされながら表面プラズモン励起蛍光の光量が測定されてもよい。
【0167】
表面プラズモン励起蛍光の光量Ifが測定された後に表面プラズモン励起蛍光の光量Ifから自家蛍光の光量Iaf及び暗ノイズ量Inを減ずる補正が行われる。これにより、計測の精度及び感度が向上する。
【0168】
上記の手順のうち表面プラズモン励起蛍光計測装置1000により実行される手順が手作業により実行されてもよいし、手作業で実行されている手順が表面プラズモン励起蛍光計測装置1000により実行されてもよい。
【0169】
(反射光による共鳴角θrの測定)
散乱光の光量が極大になる共鳴角θrに代えて、反射光9004の光量が極小になる共鳴角θrが用いられてもよい。後者の共鳴角θrが用いられる場合は、図20に示すように、反射光9004の光量を測定する反射光量センサ1902が表面プラズモン励起蛍光計測装置1000に付加される。また、入射角調整機構1032が入射角θを走査しながら反射光量センサ1902が光量Iを測定する。これにより、入射角θの走査中に反射光9004の光量Irが測定され、入射角θと反射光9004の光量Irとの関係Ir(θ)が得られる。また、光量Irが極小になる入射角θである共鳴角θrが関係Ir(θ)から特定され、共鳴角θrから測定が行われる入射角θである測定角θmが決定される。散乱光の光量が極大になる共鳴角θrと電場の増強度が極大になる入射角θとにはずれがあるので、共鳴角θrに微小角を増減する補正が行われ、測定角θmが決定される。
【0170】
(第1の指標及び第2の指標の実測)
図21のフローチャートは、第1の指標及び第2の指標の実測の手順を示す。図22の模式図は、第1の指標及び第2の指標を実測する測定装置を示す。
【0171】
図21及び図22に示すように、プリズム1024が準備され(ステップS131)、基準プリズム1956が準備される(ステップS132)。基準プリズム1956は、励起光9000に対して透明で複屈折を生じない材質からなる誘電体媒体である。基準プリズム1956は、例えば、ガラスからなる。望ましくは、プリズム1024の屈折率と基準プリズム1956の屈折率とは同じである。これにより、プリズム1024と基準プリズム1956との界面における光の屈折及び反射が抑制され、第1の指標及び第2の指標の実測が容易になる。ただし、プリズム1024の屈折率と基準プリズム1956の屈折率とが異なっても、第1の指標及び第2の指標の実測は可能である。
【0172】
プリズム1024及び基準プリズム1956が準備された後(ステップS131及びS132の後)に、プリズム1024の反射面1028と基準プリズム1956の入射面1962とが張りあわされる(ステップS133)。これにより、プリズム1024と基準プリズム1956との複合体1964が作製される。貼りあわせにおいては、望ましくは、プリズム1024の反射面1028と基準プリズム1956の入射面1962との間にマッチングオイル1954が介在させられる。これにより、プリズム1024の反射面1028と基準プリズム1956の入射面1962との間の空隙が減り、プリズム1024の反射面1028と基準プリズム1956の入射面1962との間における評価光9030の散乱が抑制され、第1の指標及び第2の指標の実測が容易になる。ただし、プリズム1024の反射面1028と基準プリズム1956の入射面1962との密着性が良好である場合は、マッチングオイル1964が省略されてもよい。
【0173】
複合体1964が作製された後に、複合体1964が測定装置1948に取りつけられ、複合体1964に評価光9030が照射される(ステップS134)。評価光9030は、プリズム1024の入射面1026へ入射し、プリズム1024の反射面1028及び基準プリズム1956の入射面1962を通過し、基準プリズム1956の出射面1966から出射する。評価光9030は、レーザーダイオード1950から放射され、偏光回転子1952を通過し、プリズム1024の入射面1026へ入射する。望ましくは、評価光9030の波長、光量及び入射角は、それぞれ、励起光9000の波長、基準光量Dref及び予想される共鳴角θrと一致する。これにより、表面プラズモン励起蛍光の光量が測定される場合と同じ条件で主偏光方向の回転の程度及び主偏光方向成分の強度の低下の程度が実測され、偏光方向及び光量が適切に補正される。評価光9030は直線偏光であり、評価光9030の偏光方向は固定された偏光回転子1952によりプリズム1024の反射面1028に対するp偏光と同じ偏光方向に調整される。レーザーダイオード1950は、例えば、He−Neレーザーであり、断面の直径が1mmのビームを放射する。
【0174】
複合体1964に評価光9030が照射されている間に、プリズム1024の入射面1026から基準プリズム1956の出射面1966までの区間R2における評価光9030の主偏光方向の回転の程度が測定され(ステップS135)、区間R2における評価光9030の主偏光方向成分の強度の低下の程度が測定される(ステップS136)。
【0175】
基準プリズム1956は複屈折を生じないので、区間R2における評価光9030の主偏光方向の回転の程度及び評価光9030の主偏光方向成分の強度の低下の程度は、プリズム1024の入射面1026からプリズム1024の反射面1028までの区間R1における評価光9030の主偏光方向の回転の程度及び評価光9030の主偏光方向成分の強度の低下の程度と同一視される。
【0176】
測定装置1948においては、基準プリズム1956の出射面1966から出射した評価光9030は、偏光回転子1958を通過し、パワーメータ1960へ至る。偏光回転子1958は、15°を単位として回転させられ、評価光9030の光量はパワーメータ1960により測定される。これにより、評価光9030の主偏光方向の回転の程度として主偏光方向の回転角が測定され、評価光9030の主偏光方向成分の強度の低下の程度として主偏光方向成分の強度の基準強度に対する比が測定される。ただし、他の測定方法により評価光9030の主偏光方向の回転の程度及び評価光9030の主偏光方向成分の強度の低下の程度が測定されてもよい。
【0177】
評価光9030の主偏光方向の回転の程度及び評価光9030の主偏光方向成分の強度の低下の程度が測定された後(ステップS135及びS136の後)に、複合体1964がプリズム1024と基準プリズム1956とに分離される(ステップS137)。
【0178】
分離されたプリズム1024は分析チップ1006を構成する部材として利用される。すなわち、分離されたプリズム1024、導電体膜1202、流路形成シール1204、抗原捕捉体1206、流路形成蓋体1208及び封止シール1210を備える分析チップ1006が作製される(ステップS138)。
【0179】
分析チップ1006には、評価光9030の主偏光方向の回転角を示す第1の指標及び励起光9030の主偏光方向成分の強度の基準強度に対する比を示す第2の指標が記述されたバーコード1224が形成されたバーコードラベル1034が貼り付けられる(ステップS139)。これにより、分析チップ1006に第1の指標及び第2の指標が付帯される。
【0180】
(表面プラズモン共鳴法への適用)
増強されたエバネッセント波の電場により励起される蛍光を測定する表面プラズモン励起蛍光法(SPFS)による計測に代えて、増強されたエバネッセント波の電場による散乱光を測定する表面プラズモン共鳴法(SPR)による計測が行われてもよい。表面プラズモン共鳴法による計測が行われる場合は、蛍光標識液9008の注入が省略され、反射光の光量、散乱光の光量及び共鳴角θr並びにこれらの変化の全部又は一部が測定される。
【0181】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において例示であり、この発明は上記の説明に限定されない。例示されない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定されうる。
【符号の説明】
【0182】
1000 表面プラズモン励起蛍光計測装置
1002 レーザーダイオードユニット
1006 分析チップ
1010 光電子増倍管
1024 プリズム
1026 入射面
1028 反射面
1038 偏光方向調整機構
1958 基準プリズム
1962 入射面
1966 出射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン励起蛍光分光法又は表面プラズモン共鳴法により計測を行う表面プラズモン計測装置であって、
励起光を放射する光源と、
励起光が入射する入射面、前記入射面へ入射した励起光を全反射する反射面及び前記反射面に反射された励起光が出射する出射面を備え励起光に対して透明な誘電体媒体並びに前記反射面に密着する第1の主面及び前記反射面に密着しない第2の主面を備える導電体膜を備え、前記入射面から前記反射面までの区間における励起光の主偏光方向の回転の程度を示す第1の指標が付帯された構造体と、
前記構造体に照射される励起光の偏光方向を調整する偏光方向調整機構と、
前記第1の指標を読み取る読み取り機構と、
前記読み取り機構から前記第1の指標を取得し、前記第1の指標にしたがって前記偏光方向調整機構に励起光の偏光方向を前記主偏光方向の回転が打ち消される偏光方向に設定させる第1の制御部と、
を備える表面プラズモン計測装置。
【請求項2】
請求項1の表面プラズモン計測装置において、
前記第1の指標は、前記反射面に対するp偏光が前記入射面へ入射する場合の主偏光方向の回転角を示し、
前記第1の制御部は、前記回転角を反転させた角だけp偏光の偏光方向を回転させた偏光方向に励起光の偏光方向を設定させる
表面プラズモン計測装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の表面プラズモン計測装置において、
前記区間における励起光の主偏光方向成分の強度の低下の程度を示す第2の指標が前記構造体に付帯され、
前記読み取り機構は前記第2の指標を読み取り、
前記表面プラズモン計測装置は、
前記構造体に照射される励起光の光量を調整する光量調整機構と、
前記読み取り機構から前記第2の指標を取得し、前記第2の指標にしたがって前記光量調整機構に励起光の光量を前記主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量に設定させる第2の制御部と、
をさらに備える表面プラズモン計測装置。
【請求項4】
請求項3の表面プラズモン計測装置において、
前記第2の指標は、前記反射面に対するp偏光が前記入射面へ入射する場合の前記反射面へ入射する主偏光成分の強度の基準強度に対する比を示し、
前記第2の制御部は、前記比の逆数を基準光量に乗じた光量に励起光の光量を設定させる
表面プラズモン計測装置。
【請求項5】
表面プラズモン励起蛍光分光法又は表面プラズモン共鳴法により計測を行う表面プラズモン計測装置であって、
励起光を放射する光源と、
励起光が入射する入射面、前記入射面へ入射した励起光を全反射する反射面及び前記反射面に反射された励起光が出射する出射面を備え励起光に対して透明な誘電体媒体並びに前記反射面に密着する第1の主面及び前記反射面に密着しない第2の主面を備える導電体膜を備え、前記入射面から前記反射面までの区間における励起光の主偏光方向成分の強度の低下の程度を示す指標が付帯された構造体と、
前記構造体に照射される励起光の光量を調整する光量調整機構と、
前記指標を読み取る読み取り機構と、
前記読み取り機構から前記指標を取得し、前記指標にしたがって前記光量調整機構に励起光の光量を主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量に設定させる制御部と、
を備える表面プラズモン計測装置。
【請求項6】
請求項5の表面プラズモン計測装置において、
前記指標は、前記反射面に対するp偏光が前記入射面へ入射する場合の前記反射面へ入射する主偏光成分の強度の基準強度に対する比を示し、
前記制御部は、前記比の逆数を基準光量に乗じた光量に励起光の光量を設定させる
表面プラズモン計測装置。
【請求項7】
表面プラズモン励起蛍光分光法又は表面プラズモン共鳴法により計測を行う表面プラズモン計測方法であって、
(a) 第1の入射面、反射面及び第1の出射面を備え励起光に対して透明な第1の誘電体媒体を準備する工程と、
(b) 第2の入射面及び第2の出射面を備え励起光に対して透明で複屈折を生じない第2の誘電体媒体を準備する工程と、
(c) 前記反射面と前記第2の入射面とを張りあわせ、前記第1の誘電体媒体及び前記第2の誘電体媒体の複合体を作製する工程と、
(d) 前記第1の入射面へ入射し前記反射面及び前記第2の入射面を通過し前記第2の出射面から出射する評価光を前記複合体に照射する工程と、
(e) 前記第1の入射面から前記第2の出射面までの区間における評価光の主偏光方向の回転の程度を測定する工程と、
(f) 前記工程(e)の後に前記複合体を前記第1の誘電体媒体と前記第2の誘電体媒体とに分離する工程と、
(g) 前記工程(f)の後に前記第1の誘電体媒体並びに前記反射面に密着する第1の主面及び前記反射面に密着しない第2の主面を備える導電体膜を備える構造体を作製する工程と、
(h) 前記回転の程度を示す第1の指標を前記構造体に付帯させる工程と、
(i) 前記構造体に付帯された前記第1の指標を読み取る工程と、
(j) 前記工程(i)において読み取られた前記第1の指標にしたがって励起光の偏光方向を主偏光方向の回転が打ち消される偏光方向に設定する工程と、
(k) 前記第1の入射面へ入射し前記反射面に全反射され前記第1の出射面から出射する励起光を前記構造体に照射し、表面プラズモン共鳴法又は表面プラズモン励起蛍光分光法による計測を行う工程と、
を備える表面プラズモン計測方法。
【請求項8】
請求項7の表面プラズモン計測方法であって、
(l) 前記区間における評価光の主偏光方向成分の強度の低下の程度を測定する工程と、
(m) 前記低下の程度を示す第2の指標を前記構造体に付帯させる工程と、
(n) 前記構造体に付帯された前記第2の指標を読み取る工程と、
(o) 前記工程(n)において読み取られた前記第2の指標にしたがって励起光の光量を主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量に設定する工程と、
をさらに備える表面プラズモン計測方法。
【請求項9】
表面プラズモン励起蛍光分光法又は表面プラズモン共鳴法により計測を行う表面プラズモン計測方法であって、
(a) 第1の入射面、反射面及び第1の出射面を備え励起光に対して透明な第1の誘電体媒体を準備する工程と、
(b) 第2の入射面及び第2の出射面を備え励起光に対して透明で複屈折を生じない第2の誘電体媒体を準備する工程と、
(c) 前記反射面と前記第2の入射面とを張りあわせ、前記第1の誘電体媒体及び前記第2の誘電体媒体の複合体を作製する工程と、
(d) 前記第1の入射面へ入射し前記反射面及び前記第2の入射面を通過し前記第2の出射面から出射する評価光を前記複合体に照射する工程と、
(e) 前記第1の入射面から前記第2の出射面までの区間における評価光の主偏光方向成分の強度の低下の程度を測定する工程と、
(f) 前記工程(e)の後に前記複合体を前記第1の誘電体媒体と前記第2の誘電体媒体とに分離する工程と、
(g) 前記工程(f)の後に前記第1の誘電体媒体並びに前記反射面に密着する第1の主面及び前記反射面に密着しない第2の主面を備える導電体膜を備える構造体を作製する工程と、
(h) 前記低下の程度を示す第2の指標を前記構造体に付帯させる工程と、
(i) 前記構造体に付帯された前記第2の指標を読み取る工程と、
(j) 前記工程(i)において読み取られた前記第2の指標にしたがって励起光の光量を主偏光方向成分の強度の低下が打ち消される光量に設定する工程と、
(k) 前記第1の入射面へ入射し前記反射面に全反射され前記第1の出射面から出射する励起光を前記構造体に照射し、表面プラズモン共鳴法又は表面プラズモン励起蛍光分光法による計測を行う工程と、
を備える表面プラズモン計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−168099(P2012−168099A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30817(P2011−30817)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】