説明

表面保護用フィルムおよびその製造方法

【課題】
加工後の被着体保護性や透明性に優れ、かつ添加剤の移行性が少なく、さらに粘着剤の塗布性や被着体への貼合わせ加工性及び剥離性に優れる表面保護用フィルムを提供する。
【解決手段】
結晶核剤、アンチブロッキング剤、および滑剤を実質的に含有せず、ホモホモポリプロピレン樹脂を85重量%以上含有するポリプロピレン樹脂からなる表面保護用フィルムであって、前記フィルムのTD方向およびMD方向の引張弾性率がともに750MPa以上であり、前記フィルムのTD方向およびMD方向の破断伸度がともに450%以上であり、前記フィルムのTD方向およびMD方向の125℃での熱収縮率が0〜1.0%であり、前記フィルムのヘーズ値が13.5%以下であり、かつ前記フィルムの0.1mm以上のフィッシュアイの個数が20個/m以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護用フィルムおよびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、被着体保護性に優れ、かつ添加剤の移行性が少なく、さらに粘着剤の塗布性や被着体への貼合わせ加工性及び剥離性に優れる表面保護用フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや液晶テレビ等の液晶パネルや偏光板の加工時における傷付きやゴミの付着、汚染などを防止するために、合成樹脂製の再剥離性がある表面保護用フィルムを液晶パネルや偏光板に貼って保護することが行なわれている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特にポリプロピレン系無延伸フィルムは、ゲル等の欠点が少なく、かつ耐熱性があるので、表面保護フィルム分野においても広く使用されてきている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
上記の表面保護フィルムは、一般に、基材フィルムの表面に粘着層を積層し、該粘着層の粘着力を利用して、保護する対象物品の表面に固定して使用される。
【0005】
近年、用途の拡大に伴い品質やコスト低減に対する要求が強くなってきており、粘着剤の塗布性に優れた基材フィルムが求められている。特に、粘着加工の加工速度を上げる等の目的で、加工温度の高温化が進んでおり、高温で加工しても加工温度による熱変形が小さく加工時の寸法安定性が良好であることや、加工時の熱しわの発生を抑制した高温での寸法安定性(以下、単に耐熱寸法安定性とも称する)が求められている。
【0006】
フィルムの耐熱寸法安定性を向上させる方法としては、結晶核剤を添加したポリプロピレン系樹脂フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかし、この方法を採用すると、経済性を考慮した生産設備レベルの大型装置では、樹脂の押出し時における滞留時間が比較的長くなってしまうため、フィルム中に結晶核剤の凝集や分解によるフィッシュアイと称される微小異物が発生する問題がある。また、表面保護用フィルムとして用いた場合には、被着物への追従性が劣ったり、剥離性が劣るという問題がある。
【0008】
フィルムの耐熱寸法安定性を向上させる別の方法としては、特定特性のポリプロピレン系樹脂に対して芳香族有機リン酸エステル金属塩を配合した組成物を40〜50℃の温度の冷却ロール温度で押出し成形することが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
しかし、上記の方法で得られるフィルムは、芳香族有機リン酸エステル金属塩に起因するフィッシュアイが発生する懸念があり、また、冷却時に結晶サイズが大きな球晶が多く生成し、透明性が悪化するため、用途が限定されてしまう。また、この場合も、フィルムの靱性が低下し、表面保護用フィルムとして用いた場合には、被着物への追従性が劣ったり、剥離性が劣るという問題がある。
【0010】
上述のように各種添加剤を使用する代わりに、溶融樹脂のキャスト時に結晶サイズが大きくならないように急冷し、その後加熱処理によって結晶化度を向上させ、高い透明性を維持したまま機械的強度を向上する方法も提案されている(例えば、特許文献5、6参照)。
【0011】
しかしながら、上記の方法によるポリプロピレン樹脂フィルムでも寸法変化や引張弾性率が大きく、粘着剤の塗布性や被着体への貼合わせ加工性及び剥離性が十分でない上に、耐ブロッキング性や外観に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−281328号公報
【特許文献2】特開平10−309781号公報
【特許文献3】特開2002−146130号公報
【特許文献4】特開平10−298367号公報
【特許文献5】特開2003−170485号公報
【特許文献6】特開2009−12225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み創案されたものであり、その目的は、加工後の被着体保護性に優れ、かつ添加剤の移行性が少なく、さらに粘着剤の塗布性や被着体への貼合わせ加工性及び剥離性に優れる表面保護用フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記の目的を達成するために添加剤を実質的に含有しないポリプロピレン樹脂の好適な組成とフィルムの好適な物性について鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(4)の構成を有するものである。
(1)結晶核剤、アンチブロッキング剤、および滑剤を実質的に含有せず、ホモポリプロピレン樹脂を85重量%以上含有するポリプロピレン樹脂からなる表面保護用フィルムであって、前記フィルムのTD方向およびMD方向の引張弾性率がともに750MPa以上であり、前記フィルムのTD方向およびMD方向の破断伸度がともに450%以上であり、前記フィルムのTD方向およびMD方向の120℃での熱収縮率が0〜1.0%であり、前記フィルムのヘーズ値が13.5%以下であり、かつ前記フィルムの0.1mm以上のフィッシュアイの個数が20個/m以下であることを特徴とする表面保護用フィルム。
(2)前記フィルムの少なくとも片面に表面処理が施されていることを特徴とする(1)に記載の表面保護用フィルム。
(3)前記フィルムの少なくとも片面に粘着剤層が設けられていることを特徴とする(1)に記載の表面保護用フィルム。
(4)溶融押出されたポリプロピレン樹脂フィルムを冷却ロールに接触させて冷却固化した後、予熱してから加熱ロールで70〜125℃に加熱されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の表面保護用フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面保護用フィルムは、縦および幅方向のフィルムの収縮が抑制されるので、例えば、フィルムをロールに巻いた際や粘着剤塗布後に120℃近辺の高温で乾燥等の処理を行っても熱しわやフィルムたるみの発生を抑制することができる。また、本発明のフィルムは、アンチブロッキング剤を実質的に含有しないので、アンチブロッキング剤の脱落を防止できる。また、滑剤やアンチブロッキング剤を実質的に含有しないにもかかわらず、表面粗さが適切であり、かつ剛性に優れているので、フィルムの取り扱い性に優れている。さらにまた、透明性も確保されているので、被保護体の視認性に優れる。さらにまた、被着体への追随性が良好であり、二次加工や被着体への貼合わせ加工性及び剥離性に優れている。したがって、特に汚染や欠点の抑制要求の強い各種精密製品や部品および該製品や部品の加工や組み立て工程における保護フィルムとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の表面保護用フィルムの製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の表面保護用フィルムについて説明する。本発明の表面保護用フィルムは、結晶核剤、アンチブロッキング剤および滑剤を実質的に含有せず、ホモポリプロピレン樹脂を90重量%以上含有するポリプロピレン樹脂からなるものである。
【0019】
本発明の表面保護用フィルムは、結晶核剤を積極的に添加されず、実質的に含有しないことを特徴とする。ここで「実質的に含有しない」とは含有量が50ppm以下、好ましくは10ppm以下であることを言う。結晶核剤が50ppmを超えて存在すると樹脂の溶融押出条件にもよるが、フィルム中のフィッシュアイが増加し、問題となるケースが発生する。また、樹脂中の異物を除去する目的で押出機に備え付けたフィルターが目詰まりすることにより昇圧するなどの生産性を低下させるなどの問題も発生するため好ましくない。
【0020】
また、本発明の表面保護用フィルムは、無機及び/又は有機の微粒子等のアンチブロッキング剤を積極的に添加されず、実質的に含有しないことを特徴とする。ここで「実質的に含有しない」とは含有量が50ppm以下、好ましくは10ppm以下であることを言う。特に好ましくは、アンチブロッキング剤の量は、灰分や元素分析等の通常の定量方法で検出限界以下である。これにより、フィルムの製造および二次加工工程におけるフィルムの磨耗によるアンチブロッキング剤の脱落が抑制されるので、該脱落物による汚染や障害発生等が抑制される。
【0021】
さらに、本発明の表面保護用フィルムは、ポリエチレンワックス、ステアリン酸カルシウム、エルカ酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド等の滑剤を積極的に添加されず、実質的に含有しないことを特徴とする。ここで「実質的に含有しない」とは含有量が50ppm以下、好ましくは10ppm以下であることを言う。特に好ましくは、滑剤の量は、元素分析や抽出法等の通常の定量方法で検出限界以下である。これにより、滑剤のフィルム表面へのマイグレーションおよび引き続き起こる被包装物や被保護体への移行による被包装物や被保護体の汚染が阻止され、被包装物や被保護体の清澄度が保持される。
【0022】
本発明の表面保護用フィルムに用いるポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレン樹脂を85重量%以上、好ましくは90重量%以上含有することが必要である。好適なホモポリプロピレン樹脂としては、柔軟性と耐熱性を併せ持つ融点が150〜170℃のものが挙げられる。
【0023】
ポリプロピレン樹脂には、上記のホモポリプロピレン樹脂以外に、15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で、例えばコスト、押出製膜性の改善、耐衝撃性の向上等の目的により、必要に応じて他の樹脂、例えばポリプロピレン単独重合体、ランダム重合ポリプロピレン樹脂やエチレン−プロピレン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体又はその水素添加物、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー共重合体等のエラストマー成分などを配合することが可能である。但し、ホモポリプロピレン樹脂との相溶性に乏しい樹脂を使用すると、折り曲げ加工時に樹脂間の界面で剥離して白化や亀裂、破断等の原因となること、他の樹脂の添加量が増加すれば当然に、ホモポリプロピレン樹脂の有する優れた特性が減殺される結果となることに注意することが必要である。
【0024】
ホモポリプロピレン樹脂は、従来の押出成形条件の冷却速度でも、十分に冷却を行なえば、結晶となり得る部分であっても、安定相である単斜晶系にまで完全に結晶化が進行することができずに、準安定相である擬六方晶系に留まる。さらに、準安定相である擬六方晶系部を固相転移させることで、結晶サイズの大きな球晶を含む単斜晶ではなく、結晶サイズの小さな結晶からなる単斜晶とすることが重要である。
【0025】
結晶化度を高める手段として、単に結晶核剤を添加する方法や、溶融された樹脂をシート状に押出し冷却固化させる際に比較的高温で徐々に冷却する方法を採用すると、球晶が大きくなり、結晶化度の上昇に従いフィルムの柔軟性や伸び性が失われる、白化する等の現象が起こる。
【0026】
擬六方晶系での分子鎖は、ノジュールと呼ばれる結束構造をとっている。この隣接するノジュール同士は応力により容易にずれ易い構造となっており、応力に対して液晶(スメクチック液晶)に近い挙動を示す性質を有していることにより、容易に外形の変化に追従して結晶が塑性変形し、破断や白化を発生することなく透明性を維持することができる他、衝撃的な応力が加えられた際にも、上記した結晶の塑性変形によって衝撃のエネルギーを吸収することができ、耐衝撃性も良好である。しかしその反面、加熱や経時により寸法変化しやすいという問題がある。
【0027】
これに対し、単斜晶系の結晶は、ポリプロピレン樹脂の分子鎖が最も緊密に充填されており、隣接するラメラ同士のすべりも発生しにくい結晶構造となっていることから、表面を硬質物で擦られても、硬質物との接触応力によく耐えて結晶が塑性変形しにくい。しかしその反面、折り曲げ加工時には外形の変化に追従して結晶が塑性変形することが困難であるので、外形の変化に追従するためには結晶同士の界面や結晶部と非晶部との界面において微細な剥離を発生して相互にずれることによって変形することがある。特に、結晶サイズの大きな球晶が多く存在している場合には、衝撃的な応力が加えられた際に、結晶の塑性変形によって衝撃のエネルギーを十分に吸収することができずに、結晶同士の界面や結晶部との界面での微細剥離により、白化や亀裂、破断等を発生し易いという問題がある。
【0028】
本発明において使用されるホモポリプロピレン樹脂は、メルトフローレート(MFR)が3〜15g/10min(230℃)の範囲であり、分子量分布(MWD=Mw/Mn)が2〜4の範囲であることが好ましい。メルトフローレートが大きすぎると、成形工程での溶融粘度が低いために形状維持が不安定となる他、成形工程での結晶化過程や再加熱工程での相転移過程において、樹脂分子の拡散速度が大きいために、球晶の平均粒径や相転移比率等が不安定となり易い。メルフローレートが小さすぎると、フィルムの押出しが困難となる場合がある。また、分子量分布が小さいと成形性が悪くなり易い。
【0029】
本発明では、ホモポリプロピレン樹脂に添加剤を含有させることなく、まず比較的低温の条件で冷却固化して、ホモポリプロピレンの結晶化可能部が実質的に擬六方晶系部のみからなる成形体を作製し、これを70℃〜125℃の一定温度で一定時間加熱処理することによって、成形体の内部における擬六方晶系の構造のかなりの部分を、単斜晶系に相転移させることによって、生成する結晶の平均粒径と量及び擬六方晶系部と単斜晶系部との比率の双方を、それぞれ独立して精密に制御し、物性のコントロールを可能にする。つまり、冷却固化時に球晶を極力生成させずに、擬六方晶系部を生成させ、その大部分を単斜晶系に相転移させることにより、結晶サイズの小さな結晶をある程度の量生成させることが重要である。結晶サイズとしては、可視光を散乱させない200nm以下が好ましい。
【0030】
本発明の表面保護用フィルムは、結晶化の際にフィルムの分子配向を制御することにより、フィルムのTD方向およびMD方向の120℃での熱収縮率を0〜1.0%としていることを特徴とする。熱収縮率が0%未満では、フィルムに粘着剤を塗布する際に、フィルムが伸びてしまい、うまく塗布できない。また、1.0%より大きくなると、フィルムの厚みにむらが生じ、塗布がうまくできない。好ましくは、熱収縮率は0〜0.8%である。
【0031】
本発明の表面保護用フィルムは、後述する測定方法によるフィルムの結晶化度が30〜65%であることが好ましい。結晶化度が30%未満では、耐熱寸法安定性が劣り、後工程での加工を実施する際にフィルムのたるみや伸びが発生し平面性不良となるため好ましくない。一方、結晶化度が65%を越える場合は、フィルムの透明性が著しく劣化するため好ましくない。また、結晶化度が65%を超える場合は、一般的には結晶核剤を多量に含み、かつ、熱処理温度をより高温にする必要があり実用的でない。フィルムの結晶化度の下限は40%以上がより好ましく、50%以上が耐熱寸法安定性の観点から最も好ましい。一方、フィルムの結晶化度の上限は60%以下が透明性の観点から好ましい。
【0032】
本発明の表面保護用フィルムは、フィルム中の最大直径が0.1mm以上のフィシュアイが20個/m以下、さらに19個/m以下であることを特徴とする。また、最大直径が0.1mm以下のフィシュアイが100個/m以下、さらに2〜80個/m以下、さらに2〜60個/m以下であることが好ましい。これにより、外観不良や、例えば、保護フィルムの基材フィルムとして用いた場合に、粘着不良によるメッキ液の保護部分への浸透による障害発生等を抑制することができる。
【0033】
本発明の表面保護用フィルムのヘーズ値は、13.5%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下である。ヘーズ値を低くすることにより被保護体の視認性が向上し、表面保護用フィルムを貼り付けたままで、例えば、被保護体の検査等を行うことが可能となる。逆に、ヘーズ値が高い場合は、透明性が悪化する。ヘーズ値の下限は低い方が好ましいが、滑り性を得るためには3%以上でも良い。
【0034】
本発明の表面保護用フィルムは、TD方向及びMD方向の引張弾性率がともに750MPa以上であることを特徴とする。750MPa未満では、フィルムをロールにしたときにしわやたるみが生じやすく、取り扱い性が低下するので好ましくない。上限は他の特性とのバランスより1300MPa程度が好ましく、1300MPaを越えると、腰が強すぎて取り扱い性に劣る。好ましくは、引張弾性率の下限は900MPa、上限は1200MPaである。
【0035】
本発明の表面保護用フィルムは、TD方向およびMD方向の破断伸度がともに450%以上であることを特徴とする。480%以上がより好ましく、500%以上がさらに好ましい。450%未満では、靭性が十分でなく、フィルムをロールに巻くときや巻きだすときに破断したり、粘着加工時に被着体への追従性が十分ではなく、取り扱い性が低下するので好ましくない。上限は他の特性とのバランスより800%程度が好ましい。
【0036】
本発明の表面保護用フィルムは、23℃におけるインパクト強度が50Pa以上であることが好ましい。60Pa以上がより好ましい。インパクト強度が大きいと保護フィルム等として用いた場合の耐衝撃性に対する信頼性が増すので、前述した特性を付与した上で本特性を満たすことが好ましい。上限は他の特性とのバランスより100Pa程度が好ましい。
【0037】
本発明の表面保護用フィルムは、その両面の表面粗さ(SRa)が0.20〜0.50μmの範囲であることが好ましい。0.25〜0.45μmがより好ましく、0.30〜0.45μmがさらに好ましい。表面粗さを上記範囲にすることにより、フィルム同士の滑り性が向上し、フィルムの寸法安定性の効果と合わせてロールにしたときにしわが生じにくくなる。本発明の表面保護用フィルムの耐ブロッキング性は、後述する評価方法で好ましくは1〜10mN、より好ましくは1〜7mNである。
【0038】
本発明の表面保護用フィルムは、フィルムの厚み変動率が±(1〜10)%の範囲であることが好ましい。厚み変動率を1%未満にする場合は、品質面での問題は発生しないが、厚み調整に要する時間が膨大となるため経済性が著しく低下し現実的でない。一方、厚み変動率が10%を越える場合は、厚み斑に比例して耐熱寸法安定性や透明性が変動してしまい、フィルムの平面性(波打ちやカール)が悪化するため好ましくない。厚み変動率は±(1.5〜8)%がより好ましく、±(2〜5)%の範囲が最も好ましい。
【0039】
次に、本発明の表面保護用フィルムの製造方法について説明する。本発明の表面保護用フィルムは、例えば図1に示すように、ダイス1から溶融押出されたポリプロピレン樹脂フィルムを冷却ロール2に接触させて冷却固化した後、予熱ロール3を経て加熱ロール4で70〜120℃に加熱され、再び冷却ロール5,6に接触させて冷却することによって製造される。
【0040】
ホモポリプロピレン樹脂を含むポリプロピレン樹脂を溶融押出するための製膜条件としては、ダイス温度200℃〜270℃、冷却ロール温度50℃以下、冷却時間0.5秒以上が好ましい。このとき、溶融押出し後の引取り工程でのドラフト比を0.4〜3.0の範囲に調整することが好ましい。ドラフト比は以下の製膜条件により算出する。
ドラフト比=(フィルム引取速度/ダイス出口溶融樹脂速度)÷エアーギャップ
エアーギャップとはダイス出口から引取(冷却)ロールに溶融樹脂が接するまでの距離(cm)を意味する。
製膜速度は、製造装置にもよるが、80〜120m/分であることが好ましい。製膜速度が小さいと加熱処理を行った後であってもフィルムが伸びる傾向にある。
【0041】
上記の製膜条件において、冷却ロール温度が50℃を超えると、擬似六方系部が生成しにくいため好ましくない。また、冷却時間が0.5秒未満では、冷却効果が不十分なため、擬似六方系部が生成しにくいため好ましくない。一方、冷却時間の上限は、フィルムの結晶化度の観点からは特に制限されるものではないが、経済性・生産性の観点から5秒以下が好ましい。
【0042】
溶融された樹脂をシート状に押出し、急速に冷却固化した後のフィルムは、所定の温度に加熱した加熱ロールにフィルムを接触させて加熱される。加熱ロールは1本でも良いが、2本の加熱ロールの間にフィルム通し、各々の加熱ロールで片方の面を順次加熱することもできる。
【0043】
加熱温度の下限は、ホモポリプロピレン樹脂の擬六方晶が単斜晶へ固相転移する温度である70℃以上が好ましく、更に好ましくは80℃以上である。70℃未満では固相転移は発生せず、加熱寸法安定性に問題が生じる。一方、ホモポリプロピレン樹脂の融点が150℃から170℃であり、好適には155〜162℃のものを使用すること、そしてホモポリプロピレン樹脂の擬六方晶から単斜晶へ固相転移する温度が70℃以上であることを考慮すると、引っ張り弾性率と破断伸度の点から、加熱温度の上限は125℃以下が好ましい。
【0044】
フィルムのロールでの加熱に際しては、フィルムの熱収縮などによる密着不良が発生する場合がある。その際はニップロールやサクションロールを使用することが好ましい。但し、加熱したフィルムは柔らかくなっており、加熱ロールだけでなくニップロールやサクションロール表面形状のフィルムへの転写が懸念されるため、ロール材質や表面粗さの選定、管理は重要である。
【0045】
加熱ロールの表面粗さ(SRa)としては、0.4μm以上、1.8μm以下であることが好ましい。更に好ましくは、0.5μm以上、1.5μm以下が良い。0.4μm未満では、フィルムの密着性が高くなりすぎて粘着し、剥離の際、スティックスリップによる外観不良が発生する場合がある。1.8μmを越えると、密着した際、表面形状を転写し外観不良となる場合がある。このような表面粗さを満足する加熱ロールとしては、フッ素樹脂などをコートしたロールや梨地状の凹凸を表面に形成したロールが挙げられる。
【0046】
加熱時間は1秒以上が好ましい。加熱時間の調整は、加熱ロールとの接触時間を調節することで行われ、フィルムの走行速度、加熱ロールの径とフィルムのロールへの抱き角度で制御できる。さらに、加熱時間を稼ぐためには3本以上の加熱ロールを用いることも可能である。加熱時間の上限は、一連のフィルムの製造設備上問題がなければ特に制限されないが、相転移が完了すると考えられる1〜数秒間を超えて処理を行っても効果に違いはないため、生産性、装置の経済的制約の面から20秒以下が好ましく、さらには10秒以下、特には5秒以下が好ましい。加熱ロールを無駄に長く多く抱かせるとキズや加熱ロール等の表面の転写が発生することがある。
【0047】
加熱ロールの直前に予熱装置を設置し、加熱ロールでの熱処理前にフィルム温度を100℃未満かつTt(熱処理温度)−25℃以上、Tt−15℃以下に予熱することが好ましい。予熱温度は、より好ましくは100℃未満で、かつ、Tt(熱処理温度)−20℃以上、Tt−15℃以下である。上記の温度範囲では、加熱処理時にいわゆるヒートショックが発生しにくく、フィルムの浮き起因の流れ方向のスジが発生しにくい。
【0048】
予熱方法は、特に限定されないが、加熱ロールに接触させる方式、走行中のフィルムをヒーター等にて非接触で加熱する方式などが挙げられる。また、予熱は段階的に行うことでヒートショックを低減することができる。
【0049】
加熱処理は、冷却フィルムを一旦ロール状に巻き取った後に再度巻き出して行うこともできるが、製膜後巻き取ることなく一連のフィルムの製造工程の中で加熱処理されることが好ましい。
【0050】
加熱処理されたフィルムを冷却する際には、2本以上のロールを使用し、徐々に冷却することが好ましく、ロール温度は35℃以下とすること巻き取る際のしわやたるみのトラブルを低減する上で好ましい。
【0051】
本発明の表面保護用フィルムの厚みは特に限定されないが、一般に10〜500μmである。貼合わせ性の点からは、厚みは20〜100μmの範囲が好ましい。
【0052】
本発明の表面保護用フィルムは、工業的に通常採用されている方法によって少なくとも片面にコロナ放電処理または火炎処理等の表面処理を施すことができる。
【0053】
また、本発明の表面保護用フィルムは、少なくとも片面に粘着剤層を設けることができる。これにより上述した本発明のフィルムの特徴を有効に活かすことができ、保護フィルムとして広い分野における適用性が向上する。粘着剤層の種類、厚みおよび粘着力等は、特に限定されず、市場要求により適宜選択すればよい。また、粘着剤層の積層方法も限定されない。例えば、塗布法および押し出しラミネート法のいずれで行ってもよい。
【0054】
本発明の表面保護用フィルムは、例えば、液晶パネルや偏光板等の関連材料等の電子、精密製品、部品および関連部材の加工や組み立て時における傷付きやゴミの付着、汚染などを防止する用途や、フレキシブル・プリント基板の接続端子部等を部分的にメッキする方法として、非メッキ部に粘着フィルムを貼り付けてマスクし、その後メッキする方法やシャドウマスク製造時のエッチング工程における非エッチング面上に設けられるレジスト膜あるいはエッチング抵抗膜を保護する方法等のメッキやエッチング処理における保護フィルムとして好適に用いることができる。
【0055】
また、本発明の表面保護用フィルムは、耐熱寸法安定性に優れており、上記粘着加工において、例えば、乾燥工程の乾燥温度を高めても熱しわやフィルムたるみの発生が抑制されるので、粘着加工の生産性を上げることができる。また、熱しわやフィルムたるみ起因の不良品の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することが可能である。尚、本明細書中で採用した特性値の評価方法は以下の通りである。
【0057】
(1)メルトフローレート[MFR]
JIS−K−7210に準拠し、条件−14の方法(荷重2.16kg、温度230℃で測定した。
【0058】
(2)ヘーズ値
JIS−K−6714に準拠し、東洋精機製作所製の「ヘーズテスターJ」を用いて測定した。
【0059】
(3)耐ブロッキング性
ATM−D1893−67に準拠し、90Nの荷重をフィルムのA4サイズの面積にかけ、60℃雰囲気下で2時間放置後に荷重を取り除いてから、φ5のアルミ棒による剥離抵抗を移動速度100mm/分の条件で測定した。
【0060】
(4)引張弾性率・破断伸度
JIS−K−7127に準拠し、サンプル形状は1号形試験片に準拠したもの(サンプル長さ200mm、サンプル幅15mm、チャック間距離100mm)を用い、クロスヘッド速度500mm/分の条件にてMD方向(フィルム長手方向)について23℃にて測定した。
【0061】
(5)フィッシュアイ
成型されたフィルムを流れ方向に33.3cm×流れ方向に対して横方向に30cm切り取り、フィルムの下から蛍光灯を照射した板の上に置き、透過光で目視により観察し、最大直径0.1mm以上のフィッシュアイを計測する。次に、カウントしたフィッシュアイを液体窒素中に浸して、硬くした状態で、剃刀で半分に切りそのフィッシュアイの断面を顕微鏡で50〜300倍で観察することにより、核となる物質が無ければ、例えば、セルロースなどを代表とする異物が無ければ、それは未溶融の塊り、原料の一部がゲル化したための塊り、成形中の材料の部分的劣化による塊り等のゲル起因のフィッシュアイと判定する。核がある場合は、異物起因のフィッシュアイと判定しカウントから除外する。
【0062】
(6)フィルムのTD方向およびMD方向の120℃での熱収縮率
JIS−K−7133に準拠し、120℃×30分で熱処理したものの収縮率を測定した。
【0063】
(7)ロールのしわ・たるみ
巻き取られたフィルムを1300mm幅でロール状にスリッター((株)東伸製 SXR−140型)でフィルム長100mを巻き取り、その製品ロール表面のしわ・たるみの発生状況を目視観察した。評価は巻き取り直後に実施した。
○:しわ・たるみの発生がない。
×:しわ・たるみの発生が明らかに観察された。
【0064】
(8)汚染性
サンプルフィルム表面にテープを貼付後、40℃×92%RHで1週間保管し、その後剥離した。テープの粘着面を目視で観察し、汚れの有無を確認した。
○:汚れが目視で観察されない。
×:汚れが目視で観察される。
【0065】
(9)粘着剤塗布性
巻き取られたフィルムを流れ方向に5cm×流れ方向に対して横方向に25cmに切り出し、マイヤーバーによるハンドコートによってアクリル系粘着剤(粘度30×10−3Pa・s)を塗付した後、金枠にて両端部を保持した状態で水平にフィルム片を120℃の乾熱オーブン内で5分間加熱処理した。加熱処理後直ちにオーブンより取り出して室温下にて30分間放冷却後、フィルム自体の重さによる垂れ下り(伸び)状態、幅方向の収縮を目視観察した。
○:垂れ下りがないか、または殆どなく、幅方向の収縮もない
×:垂れ下り、幅方向の収縮が観察される。
【0066】
(10)粘着フィルムの貼合わせ性・剥離性
上記で得られた粘着フィルムをJIS−Z−0237(2000)粘着テープ・粘着シート試験方法に準拠して下記の方法にて測定した。
被着体として、アクリル板(三菱レイヨン(株)製:アクリライト3mm厚)50mm×150mmを準備し、試験片として、フィルム製造時の巻き取り方向に25mm、それとは直交する方向に180mmの試験片を切り出し、質量2000gのゴムロール(ローラ表面のスプリング硬さ80Hs、厚さ6mmのゴム層で被覆された、幅45mm、直径(ゴム層を含む)95mmのもの)を用いて、被着体と試験片を5mm/秒の速さで、1往復させて圧着した。
・貼り合わせ性
アクリル板との貼合わせ時の作業性を評価
○:フィルムに充分な腰があり、容易に貼り合わせが可能。貼り合わせ時にしわや浮きが発生しない。
×:フィルムの腰が弱く、貼り合わせ時にしわ・浮きが発生しやすい。
・剥離性
○:容易に剥離可能
×:剥離時にフィルムが伸びて剥離が困難。剥離に時間がかかるフィルム白化
【0067】
(11)透明性
上記(10)で得られた貼合わせ体を目視で観察した。
○:アクリル板が十分に見える。
×:アクリル板が見えない。
【0068】
(実施例1)
ホモポリプロピレン樹脂(住友化学(株)社製、WF836FDG3、メルトフローレート(MFR)=7)100重量%をTダイ製膜機にて溶融押出しを行い、ダイスリップギャップ:0.5mm、融樹脂の引取り時のドラフト比0.64、冷却ロール温度30℃で冷却時間2.4秒、製膜速度100m/分の製膜条件にて厚み40μmの未延伸フィルムを得た。なお、上記押し出し機の供給ゾーン、混練ゾーンおよび計量ゾーンのそれぞれの樹脂温度を240、250および250℃とした。その後、上記未延伸フィルムを、予熱ロールに接触させて予熱し、その直後に加熱ロールに接触させて熱処理を実施し、さらに冷却ロールで冷却した。実施例1のフィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
予熱ロールでの加熱温度を100℃にし、加熱ロールでの加熱温度を120℃にした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。実施例2のフィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
ホモポリプロピレン樹脂100重量%をホモポリプロピレン樹脂90重量%とブロックポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)社製、F763、メルトフローレート(MFR)=3)10重量%の組成に変更し、混練条件を変更した以外は、実施例2と同様の方法でフィルムを得た。実施例3のフィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
予熱ロールでの予熱を行わず、加熱ロールでの加熱温度を30℃にした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。比較例1のフィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
冷却ロールでの冷却温度を70℃にし、加熱ロールでの加熱温度を30℃にした以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。比較例2のフィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から明らかなように、実施例1〜3のフィルムは、全ての評価項目において良好な結果が得られているのに対し、比較例1及び2のフィルムは、ロールのしわ、たるみ、粘着剤塗布性、透明性又は貼合わせ性・剥離性の多くの点で問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の表面保護用フィルムは、加工後の被着体保護性に優れ、かつ添加剤の移行性が少なく、さらに粘着剤の塗布性や被着体への貼合わせ加工性及び剥離性に優れるので、様々な分野での保護フィルムとして極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶核剤、アンチブロッキング剤、および滑剤を実質的に含有せず、ホモポリプロピレン樹脂を85重量%以上含有するポリプロピレン樹脂からなる表面保護用フィルムであって、前記フィルムのTD方向およびMD方向の引張弾性率がともに750MPa以上であり、前記フィルムのTD方向およびMD方向の破断伸度がともに450%以上であり、前記フィルムのTD方向およびMD方向の120℃での熱収縮率が0〜1.0%であり、前記フィルムのヘーズ値が13.5%以下であり、かつ前記フィルムの0.1mm以上のフィッシュアイの個数が20個/m以下であることを特徴とする表面保護用フィルム。
【請求項2】
前記フィルムの少なくとも片面に表面処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載の表面保護用フィルム。
【請求項3】
前記フィルムの少なくとも片面に粘着剤層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の表面保護用フィルム。
【請求項4】
溶融押出されたポリプロピレン樹脂フィルムを冷却ロールに接触させて冷却固化した後、予熱してから加熱ロールで70〜125℃に加熱されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面保護用フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−40734(P2012−40734A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182768(P2010−182768)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】