説明

表面処理カーボンブラックとその製造方法およびそれを分散させた水分散体並びにその水分散体を含有する化粧料、インキ、塗料

【課題】工業化のための汎用性が高く、工程が単純であり、かつ安全性の高い自己分散型の表面処理カーボンブラックおよびその表面処理カーボンブラックを分散させた水分散体を得る。
【解決手段】カーボンブラック表面に次亜塩素酸塩で湿式酸化処理した後、下記一般式(1)にて示されるポリエーテル鎖を持つアルコキシシランよりなる親水性有機表面処理剤により表面処理する。
CH−(CHCH−O)−CHCHCH−Si−(OC2m+1
・・・・(1)
(式中、nは7〜14の整数であり、mは1または2の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理されたカーボンブラックとその製造方法、およびそのカーボンブラックを分散させた水分散体並びにその水分散体を含有する化粧料、インキ、塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、カーボンブラックは、黒色着色剤、耐候性付与剤、補強材あるいは導電性材料として、インキや塗料分野を始め様々な分野において幅広く利用されている。ところで、通常のカーボンブラック表面には、他の無機酸化物のようにヒドロキシル基やその他の官能基がほとんど存在せず、所謂表面処理に用いられる反応サイトは極めて少ない。このため、特に水分散性を高める目的で、表面の酸化改質によりヒドロキシル基やカルボキシル基のような親水性を導入する方法が一般的に行われている。
【0003】
近年、インクジェット用の記録インキとして水性インキが多く用いられるようになってきたため、この分野における研究が活発に行われている。例えば特許文献1においては、水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキにおいて、カーボンブラックが1.5nmol/g以上の表面活性水素含有量を有する水性顔料インキが提案されている。また、この文献では、水性顔料インキの製造方法として、酸性カーボンブラックを得る工程と、この酸性カーボンブラックを水中で次亜ハロゲン酸塩で更に酸化する工程とを含む方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、自己分散型カーボンブラック、水溶性有機溶媒を含む水性顔料インキであって、自己分散型カーボンブラックが、カーボンブラックを酸化処理する工程1と、アゾカップリング法によりフェニレン基を挟んで親水性基を表面に結合させる工程2により作成される水性顔料インキが提案されている。これら特許文献1,2に示された例は、酸化処理あるいは酸化処理後にカーボンブラック表面に親水基を導入する方法に関するものである。
【0005】
一方、酸化処理を施さずに、直接親水基を導入した例としては、特許文献3に開示されているように、α−ナフトール−モノ〜トリ−スルホン酸塩の存在下でカーボンブラックを水性分散媒中で分散処理する方法がある。
【0006】
このように、従来、カーボンブラックの水分散性を向上させるには、カーボンブラック自体を改質して自己分散型カーボンとして使用する手法が多く行われている。しかし、いずれの手法においても、その工程は非常に複雑であるため、工業化するには汎用性に乏しいという問題点があるほか、使用される表面処理剤の安全性に関する知見が少ないため、化粧品用途としては適さないといった問題点がある。
【0007】
【特許文献1】特開平8−3498号公報
【特許文献2】特開2005−132985号公報
【特許文献3】特開2000−248197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、工業化のための汎用性が高く、工程が単純であり、かつ安全性の高い自己分散型の表面処理カーボンブラックとその製造方法を提供し、併せてその表面処理カーボンブラックを分散させた水分散体とその水分散体を含有する化粧料、インキ、塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、カーボンブラックを酸化処理して表面に官能基を導入する工程と、更に高い親水性を付与するために、ポリエーテル鎖を有する変性シランを表面処理する工程とを組み合わせることで、水分散安定性の高い自己分散型の表面処理カーボンブラックが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
要するに、本発明による表面処理カーボンブラックは、カーボンブラック表面に次亜塩素酸塩で湿式酸化処理した後、親水性有機表面処理剤により表面処理してなることを特徴とするものである(第1発明)。
【0011】
本発明において、前記親水性有機表面処理剤が、下記一般式(1)にて示されるポリエーテル鎖を持つアルコキシシランであるのが好ましい(第2発明)。
CH−(CHCH−O)−CHCHCH−Si−(OC2m+1
・・・・(1)
(式中、nは7〜14の整数であり、mは1または2の整数である。)
【0012】
また、本発明による表面処理カーボンブラックの製造方法は、カーボンブラック表面に次亜塩素酸塩で湿式酸化処理を施すことにより、表面に官能基を導入する第1工程と、親水性有機表面処理剤により表面処理を施す第2工程とよりなることを特徴とするものである(第3発明)。
【0013】
さらに、本発明による水分散体は、前記第1発明または第2発明の表面処理カーボンブラックを80重量%以下で水中に分散させてなることを特徴とするものである(第4発明)。
【0014】
また、本発明による化粧料は、前記第4発明の水分散体を含有することを特徴とするものである(第5発明)。
【0015】
また、本発明によるインキは、前記第4発明の水分散体を含有することを特徴とするものである(第6発明)。
【0016】
また、本発明による塗料は、前記第4発明の水分散体を含有することを特徴とするものである(第7発明)。
【0017】
本発明において、カーボンブラック表面に酸化処理を施すには、気相処理や湿式処理が考えられるが、気相処理の場合に用いられるオゾンの有害性の問題があり、またプラズマ処理では機械的に大掛かりになるという問題があり、いずれも汎用性の点では不利であると考えられる。また、酸化力も弱く均一性にも欠けることから、湿式酸化が最も適している。ここで、湿式酸化に用いられる酸化剤としては、濃硫酸、硝酸、各種過酸化物、次亜塩素酸塩などを用いることができるが、安全性の観点から食品添加物に用いられている次亜塩素酸ナトリウムが最も適している。しかし、高濃度および加熱下で行う次亜塩素酸ナトリウムを用いた酸化処理は、塩素ガスの危険性が伴うために、室温で、かつカーボンブラックに対しての有効塩素濃度を50%以下とするのか好ましく、より好ましくは有効塩素濃度を20%以下の低濃度とするのが良い。
【0018】
また、酸化処理後の親水性表面処理としては、上記一般式(1)にて示されるシランを用いるのが好ましい。この場合、カーボンブラックへの表面処理量は、カーボンブラックの粒子径、吸油量、比表面積等の粉体特性にもよるが、一般的には0.5〜40重量%とするのが好ましく、より好ましくは1〜20重量%である。また、処理剤を表面に被覆する際には、カーボンブラックを撹拌しながら処理剤を滴下あるいは噴霧し、その後、十分に撹拌する方法でも良いが、より均一な表面処理を行うには、まず、処理剤をカーボンブラック重量の0.5〜10倍量の適当な溶媒に溶解し、次いで、カーボンブラックと処理剤を溶解させた溶媒とを加えて、一定時間十分に撹拌混合した後、加熱減圧によって溶媒を除去する方法を採るのが好ましい。
【0019】
このようにして得られた表面処理カーボンブラックによれば、酸化処理で導入される酸性基(カルボキシル基とヒドロキシル基の総和)が、0.3mmol/g以下でも十分な親水性を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の表面処理カーボンブラックによれば、カーボンブラック表面への酸化処理が湿式酸化処理であることから汎用性が高く、工程が単純である。また、その湿式酸化の酸化剤として次亜塩素酸塩が用いられているので、安全性の点でも優れている。また、得られた表面処理カーボンブラックは、各種分散安定剤なしでも微粒化することが可能で高い分散安定性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明による表面処理カーボンブラックとその製造方法およびそれを分散させた水分散体並びにその水分散体を含有する化粧料、インキ、塗料の具体的な実施の形態について説明する。
【0022】
本実施形態において、表面処理カーボンブラックは、カーボンブラック表面に次亜塩素酸塩で湿式酸化処理を施すことにより、表面に官能基を導入する第1工程と、親水性有機表面処理剤により表面処理を施す第2工程とより作成される。ここで、前記親水性有機表面処理剤としては、下記一般式(1)にて示されるポリエーテル鎖を持つアルコキシシランが用いられる。
CH−(CHCH−O)−CHCHCH−Si−(OC2m+1
・・・・(1)
(式中、nは7〜14の整数であり、mは1または2の整数である。)
【0023】
本実施形態において、使用されるカーボンブラックとしては、特に種類や粉体特性に制約されることはなく、市販のオイルファーネス、ガスファーネス、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等を用いることができる。
【0024】
また、上記一般式(1)で示されるポリエーテル鎖を持つアルコキシシランとしては、信越化学工業(株)製KBM−641、またはデグサ(株)製DYNASIRAN−4140等が挙げられる。
【0025】
また、カーボンブラックを酸化処理する第1工程の方法としては、例えば次のような方法が挙げられる。すなわち、カーボンブラック重量に対して有効塩素濃度50%以下の次亜塩素酸ナトリウムを約1〜5%濃度になるように水または水と水可溶溶媒で希釈し、所定量のカーボンブラックとともに撹拌混合する。次いで、ろ過水洗を数回実施し、残留塩分を除去した後に、100℃以上で24時間程度乾燥させる。
【0026】
次に、第2工程において、乾燥品を前記一般式(1)のポリエーテル変性シランで表面処理する。この表面処理の方法としては、例えば次のような方法が挙げられる。すなわち、所定量のポリエーテル変性シランをカーボンブラックの重量の0.5〜10倍量の不活性な有機溶媒、例えばn−ヘキサン、イソプロピルアルコール、低分子量ナフサ、塩化メチレン、ハイドロフルオロエーテル等に溶解させておき、この溶液に原料としての酸化処理カーボンブラックを加え、さらに一定時間撹拌混合する。その後、加熱減圧し溶剤を除去した後に80〜150℃で加熱熟成させると、目的とする親水性表面処理カーボンブラックを得ることができる。
【0027】
次に、上記表面処理カーボンブラックを用いた水分散体を作成する際には、ホモミキサー、ディスパー、ニーダー、コロイドミル、ロール、エクストルーダー、メディアミル等の各種分散機を使用することができるが、表面処理カーボンブラックに高いせん断力を加えることのできるホモミキサー、ディスパー、コロイドミル、メディアミル等の湿式分散機を用いるのが好ましい。さらに、メディアに微細なビーズを用い、高速回転で撹拌できる湿式ビーズミルを使用するのが最も好ましい。このような装置を用いて、滞留時間を長くすることで、表面処理されたカーボンブラックは、各種分散安定剤なしても微粒化することが可能で高い分散安定性を示す。
【0028】
本実施形態の水分散体は、インキ、塗料または化粧料等に含有させて使用するのが好適である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明による表面処理カーボンブラックを用いた水分散体の具体的な実施例について、より詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
以下に示す第1工程〜第3工程によって水分散体を得た。
(第1工程)
ファーネスブラック(LCW社製ユニピュアブラックLC902 FDA登録グレード)100部に対して次亜塩素酸ナトリウム(米山薬品社製アンチホルミン、有効塩素濃度約10%)を200部(カーボンに対する有効塩素濃度20%)秤量し、その4倍量(800部)の精製水に希釈(次亜塩素酸ナトリウム0.2%水溶液)してビーカーに投入する。その後、pHを確認しながら室温にて3時間撹拌し、反応を終了させた後にろ過水洗を行う。水洗はカーボンブラックに対して10倍量の温水を用いて2回以上水洗ろ過を繰り返す。その後、130℃で24時間乾燥させて酸化処理カーボンブラックを得た。
【0031】
(第2工程)
得られた表面処理カーボンブラック85重量%とポリエーテル変性シラン15重量%(デグサ(株)DYNASILAN−414)をその15倍量(225重量%)のイソプロパノールで希釈して、酸化処理カーボンブラックおよび希釈処理剤を高速撹拌機に投入する。そのまま室温にて30分撹拌し、次いで60℃にて加熱減圧して約2時間保ち、希釈溶媒を完全に除去する。その後、80℃にて6時間加熱熟成させて親水性処理カーボンブラックを得た。
【0032】
(第3工程)
得られた親水性処理カーボンブラック20重量%と精製水80重量%と湿式ビーズミルにて混合分散させる。撹拌は、φ0.8mmのジルコニアビーズを充満率80%で充満し、周速14m/sec、ポンプ流速400ml/minで30分撹拌分散し、親水性表面処理カーボンブラック/水80重量%分散体を得た。
【0033】
[実施例2]
(第1工程)
アセチレンブラック(デンカ社製)100部に対して次亜塩素酸ナトリウム(米山薬品社製アンチホルミン、有効塩素濃度約10%)を300部(カーボンに対する有効塩素濃度30%)秤量し、その約2.3倍量(700部)の精製水に希釈(次亜塩素酸ナトリウム0.3%水溶液)してビーカーに投入する。その後、pHを確認しながら室温にて3時間撹拌し、反応を終了させた後にろ過水洗を行う。水洗はカーボンブラックに対して10倍量の温水を用いて2回以上水洗ろ過を繰り返す。その後、130℃で24時間乾燥させて酸化処理カーボンブラックを得た。
【0034】
(第2工程)(第3工程)
前記実施例1と同様の操作により水分散体を得た。
【0035】
[比較例1]
前記実施例1において、第1工程を行わずに、第2工程および第3工程のみの操作にて水分散体を作成した。
【0036】
[比較例2]
前記実施例1において、第2工程を行わずに、第1工程および第3工程のみの操作にて水分散体を作成した。
【0037】
[比較例3]
前記実施例2において、第1工程を行わずに、第2工程および第3工程のみの操作にて水分散体を作成した。
【0038】
[比較例4]
前記実施例2において、第2工程を行わずに、第1工程および第3工程のみの操作にて水分散体を作成した。
【0039】
上述のようにして作成した水分散体中の1)CB粒度を粒度分布測定装置にて測定し、また2)25℃の粘度をB型粘度計にて測定した。さらに、経時安定性を評価するために、50℃の乾燥機中で1週間放置して粒度および粘度の変化を確認した。その結果が表1に示されている。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果より、カーボンブラックの親水性のためには、酸化処理のみ、または親水性表面処理のみでは、目的を達成することができず、酸化処理および親水性表面処理の組み合わせにより、より高い分散安定性が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック表面に次亜塩素酸塩で湿式酸化処理した後、親水性有機表面処理剤により表面処理してなることを特徴とする表面処理カーボンブラック。
【請求項2】
前記親水性有機表面処理剤が、下記一般式(1)にて示されるポリエーテル鎖を持つアルコキシシランである請求項1に記載の表面処理カーボンブラック。
CH−(CHCH−O)−CHCHCH−Si−(OC2m+1
・・・・(1)
(式中、nは7〜14の整数であり、mは1または2の整数である。)
【請求項3】
カーボンブラック表面に次亜塩素酸塩で湿式酸化処理を施すことにより、表面に官能基を導入する第1工程と、親水性有機表面処理剤により表面処理を施す第2工程とよりなることを特徴とする表面処理カーボンブラックの製造方法。
【請求項4】
前記請求項1または2に記載の表面処理カーボンブラックを80重量%以下で水中に分散させてなることを特徴とする水分散体。
【請求項5】
前記請求項4に記載の水分散体を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項6】
前記請求項4に記載の水分散体を含有することを特徴とするインキ。
【請求項7】
前記請求項4に記載の水分散体を含有することを特徴とする塗料。

【公開番号】特開2008−195837(P2008−195837A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32887(P2007−32887)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】