説明

表面処理材及び表面処理材で処理された繊維、糸、織物、編物、不織布、フィルム、シート、又はレザー

【課題】吸放湿性、風合い、耐久性等を付与できる表面処理材、および、その表面処理材により処理された繊維、糸、織物、編物、不織布、フィルム、シート、又はレザーを提供する。
【解決手段】本発明の表面処理材は、平均分子量100〜20000の水溶性有機物と、反応性改質剤とを含むものである。本発明の繊維、糸、織物、編物、不織布、フィルム、シート、又はレザーは、前記表面処理材のいずれかにより処理されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質または水溶性有機物を含有する表面処理材、この表面処理材により処理された繊維、糸、織物、編物、不織布、フィルム、シート、又はレザーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばポリエステル製合成繊維やこの合成繊維よりなる繊維製品に吸湿性を付与するための技術が種々提案されている。
例えば、アクリル、ウレタン系等のエマルジョン、及びコラーゲン等の天然有機物の微粉末を含む処理液で合成繊維を処理する方法(I)がある。
この処理方法(I)によれば、バインダーとなるエマルジョンを介して合成繊維と天然有機物微粉末とが物理的に固着しているだけであるため、洗濯により微粉末が脱落したりして耐久性に問題がある。また、耐久性を向上させようとしてエマルジョンの割合を増加させると、合成繊維の風合いが堅くなるため、実用に不適となる。
また、ポリエチレングリコール系化合物等の吸湿性を高める改質剤(モノマー)を含む処理液で合成繊維を処理する方法(II)がある。
【0003】
この処理方法(II)によれば、改質剤が合成繊維の内部及び表面に親水性の層を形成しているため、耐久性には優れているが、吸湿性の改善効果は僅かである。
また、タンパク質水溶液と前記改質剤を含む処理液で合成繊維を処理する方法(III)も提案されている。このようなタンパク質水溶液は、例えば絹繊維を塩化カルシウム水溶液に溶解し、セロハンチューブ等で透析して得られたものである。
この処理方法(III)によれば、タンパク質が合成繊維に固着していることにより、吸湿性の向上効果は一応得られるものの、充分な吸湿性効果が得られる程度にタンパク質量を増加させると風合いが堅くなる。一方、風合いを維持しようとすると、タンパク質の添加量が制限されるため、充分な吸湿性効果が得られなくなる。
また、繊維及び繊維製品等に対しては、前記吸湿性、風合いに加えて、吸水性、制電性、耐久性等の向上も要望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、吸放湿性、風合い、耐久性等を付与できる表面処理材、および、その表面処理材により処理された繊維、糸、織物、編物、不織布、フィルム、シート、又はレザーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記タンパク質としては、任意に選ぶことができる。例えば、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ等の卵の卵白、ホエー(乳漿)、カゼイン、血清タンパク、コラーゲン、ゼラチン、フィブロイン、セリシン等を使用できる。
前記架橋剤としては、ジイソシアネート化合物、ジアルデヒド化合物、ジケトン化合物等を使用できる。前記ジイソシアネート化合物には、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジイソシアン酸ジフェニルメタン(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ナフタリンジイソシアネート(NDI)等が含まれる。
前記架橋剤を溶解させる有機溶媒としては、クロロホルム、ヘキサン、トルエン等を使用できる。
【0006】
前記酸としては、酢酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、フマル酸等を使用できる。
前記溶剤系樹脂とは、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、シクロヘキサン、酢酸ブチル等の1種以上からなる溶媒にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が溶解されたものである。
前記処理により得られた機能性タンパク質は、有機溶媒に可溶で、かつ水に不溶のものである。
【0007】
本発明の表面処理材は、機能性タンパク質を溶解し、その後溶剤系樹脂と混合することによって調製できる。
即ち、前記機能性タンパク質の溶解は、タンパク質粉末を有機溶剤(DMF等)に常温で分散させ、撹拌しながら60〜80℃に昇温して液が透明になるまで完全に溶解した後、常温まで冷却することにより行う。
前記溶剤系樹脂との混合は、撹拌している溶剤系樹脂中に前記機能性タンパク質溶液を徐々に加えることにより行う。
この機能性タンパク質の含有量は、例えば0.1〜50wt%とし、好ましくは1〜30wt%とする。0.1wt%より少ない場合には充分な効果が得られなくなり、50wt%より多くすると剥がれやすくなったり、透明性が悪くなる。
本発明の表面処理材においては、前記機能性タンパク質が溶剤系樹脂と分子レベルで混じり合っているため、樹脂の有する物性を低下させないで、タッチ感、吸放湿性、耐久性、透明性等を向上させることができる。
【0008】
本発明の第2の表面処理材は、タンパク質を架橋剤で処理することにより得られた機能性タンパク質と、水系樹脂とを含むことを特徴とする。
この第2の表面処理材の機能性タンパク質は、より具体的には、下記の工程により得られたものである。
(1)タンパク質含有水溶液と、有機溶媒に溶解させた架橋剤とを反応させ、架橋剤を含むタンパク質の水相を分取する。
(2)前記架橋剤を含むタンパク質溶液のpHをタンパク質の等電点以上とした後、改質タンパク質を分離し、乾燥して粉末化する。
【0009】
前記タンパク質としては、任意に選ぶことができる。例えば、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ等の卵の卵白、ホエー(乳漿)、カゼイン、血清タンパク、コラーゲン、ゼラチン、フィブロイン、セリシン等を使用できる。
前記架橋剤としては、ジイソシアネート化合物、ジアルデヒド化合物、ジケトン化合物等を使用できる。前記ジイソシアネート化合物には、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジイソシアン酸ジフェニルメタン(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ナフタリンジイソシアネート(NDI)等が含まれる。
前記架橋剤を溶解させる有機溶媒としては、クロロホルム、ヘキサン、トルエン等を使用できる。
【0010】
前記水系樹脂とは、溶媒が水の樹脂を指し、エマルジョンと水溶性樹脂が含まれる。エマルジョンには、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系等のエマルジョンがある。水溶性樹脂には、ポリビニルアルコール、セルロース系高分子、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド等がある。
前記処理により得られた機能性タンパク質は、水溶性であるが、熱固着後は水に不溶性となる。
【0011】
本発明の表面処理材は、機能性タンパク質を溶解し、その後水系樹脂と混合することによって調製できる。
即ち、前記機能性タンパク質の溶解は、タンパク質粉末を水に常温で分散させ、撹拌しながら60〜80℃に昇温して液が透明になるまで完全に溶解した後、常温まで冷却することにより行う。
前記水系樹脂との混合は、水系樹脂中に前記機能性タンパク質溶液を適当な割合で加えることにより行う。
前記機能性タンパク質の含有量は、例えば0.1〜50wt%とし、好ましくは1〜30wt%とする。0.1wt%より少ない場合には充分な効果が得られなくなり、50wt%より多い場合には剥がれ易くなったり、透明性が悪くなる。
【0012】
本発明の第3の表面処理材は、平均分子量100〜20000の水溶性有機物、及び反応性改質剤を含むことを特徴とする。
前記水溶性有機物としては、水溶性天然有機物自体の他、これをベースとして分解、改質等の処理を行った誘導体も含まれる。
前記水溶性有機物の平均分子量が100朱満の場合には、耐久性に劣り、逆に20000を超える場合であって充分な機能が得られる程度に含有量を増やすと風合いが硬くなる。
平均分子量の調節は、一般的な酸、アルカリ等を使用した加水分解、等の手段によって行うことができる。
【0013】
この表面処理材を使用した繊維処理の際、前記水溶性有機物と反応性改質剤は、加熱により重合し、繊維の表面及び内部に耐久性の良い親水性の層を形成するものと考えられる。
前記水溶性有機物は、タンパク質又はタンパク質の誘導体とすることができる。
前記タンパク質の誘導体は、タンパク質をベースとして分解、改質等の処理を行って得られる。
前記タンパク質の具体例は、フィブロイン、コラーゲン、ウールであり、これらを組み合わせて使用してもよい。
前記タンパク質としては、入手の容易さ、価格等から前記フィブロイン等が好ましいが、これらの具体例に限定されるものではなく、その他、卵白、ホエー(乳漿)等も使用できる。
【0014】
前記反応性改質剤としては、例えば(1)分子中に重合可能なビニル基を有する親水性化合物、(2)水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基を含む単量体、(3)エポキシ基を有する親水性化合物、(4)アジリジン基を有する化合物、等を挙げることができる。
前記(1)の具体例は、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAポリエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAポリエチレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールSポリエチレングリコールジメタクリレート、等である。
前記(2)の具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルスルホン酸、ヒドロキシプロピルメタクリレート、等である。
前記(3)の具体例は、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、等である。
前記(4)の具体例は、下記化学式1を有する化合物、等である。
【0015】
【化1】

【0016】
この第3の表面処理材においては、前記水溶性有機物及び反応性改質剤に加えて、キトサンを含有させてもよい。
このキトサンに関しては、平均分子量が100〜20000である必要はない。
キトサンも含有させることにより、吸湿性の向上効果が得られる。
【0017】
本発明の第4の表面処理材は、タンパク質を架橋剤で処理することにより得られた機能性タンパク質と、反応性改質剤とを含むことを特徴とする。
この第4の表面処理材に係る機能性タンパク質は、第2の表面処理材に係る機能性タンパク質と同じものである。
また、この第4の表面処理材に係る反応性改質剤は、第3の表面処理材に係る反応性改質剤と同じものである。
【0018】
本発明に係る繊維は、前記第1〜第4の表面処理材のいずれかにより処理されたものである。
前記繊維には、例えばナイロン、ポリエステル、ポリウレタン等の一般に知られている合成繊維が含まれる。
本発明に係る製品は、前記第1〜第4の表面処理材のいずれかにより処理されたものである。
前記製品には、前記合成繊維の糸、織物、編物、不織布等が含まれる。また、綿、羊毛、麻等の天然繊維が複合されたものでもよい。具体的製品は、ブラウス、ドレスシャツ、パンツ、スカート、裏地、椅子等の家具の表皮材、等である。
【0019】
前記表面処理材の処理方法としては、任意の処理方法でよいが、例えば浸漬法、パディング法等を使用できる。
前記浸漬法としては、室温静置法、加熱かく拌法等がある。
前記パディング法としては、パッドドライ法、パッドスチーム法等があるが、パッドスチーム法の使用が好ましい。
繊維製品の場合、表面処理材が熱固着した後、タンパク質が水に不溶性となるため、繰り返し洗濯してもタンパク質の脱落がなくなる。従って、このような繊維製品は、耐久性に優れているため、長期間使用しても良好なタッチ感、吸水性、透湿性、透明性等を維持できる。
【0020】
繊維製品以外の製品としては、フィルム、シート、レザー等を挙げることができる。
前記レザーには、塩ビレザー、合成皮革、人工皮革、スプリットレザー、樹脂コーティング布帛等が含まれる。
フィルム、シート又はレザーに対する表面処理法としては、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ナイフコーティング法等を使用することができる。
表面処理材により形成された製品の表面仕上げ層は、良好な表面滑性、良タッチ感等を付与でき、また透明性に優れているため、下地のプリントの柄や透明フィルム、レザーの透明性を損なうことがない。
また、表面処理材よりなるフィルムを作製しておき、このフィルムを或る製品の表面に貼り付けて表面仕上げ層を形成してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[第1実施形態]
本実施形態に係る表面処理材は、前記第1の表面処理材に対応するものであり、次のようにして調製できる。
先ず、機能性タンパク質を次のようにして調製する。
タンパク質含有水溶液と、有機溶媒に溶解させた架橋剤とを反応させ、架橋剤を含む水相のタンパク質溶液を分取する。
この後、前記架橋剤を含むタンパク質溶液に酸を加えてこのタンパク質の等電点以下にpHを下げる。この後、沈澱物を分離し、乾燥して機能性タンパク質の粉末を得る。
次に、得られた前記タンパク質粉末を有機溶剤に常温で分散させ、撹拌しながら60〜80℃に昇温して液が透明になるまで完全に溶解した後、常温まで冷却する。
次に、この機能性タンパク質溶液を撹拌している溶剤系樹脂中に徐々に加えることにより混合して本実施形態に係る表面処理材を得る。
この表面処理材を使用してレザー等に表面処理を施し表面仕上げ層を形成する。
または、この表面処理材を使用してフィルムを作製し、このフィルムを製品に貼って表面仕上げ層を形成してもよい。
【0022】
〔実施例1〕
ホエータンパク質粉末を水で希釈してタンパク質濃度を3.5%とし、水酸化ナトリウムでpH12に調整した。このタンパク質溶液に2,4-トルエンジイソシアネート(TDI)をクロロホルムに溶解したものを加えて45℃で2時間反応させた。反応後、反応液を室温に2時間放置して水層とクロロホルム層に分離した。次に、濾過によりクロロホルム層を除去して水層を分取した。得られた水層のpHを3.5に調整し、架橋されたタンパク質を沈澱させて、濾過により採取した後、凍結乾燥して機能性タンパク質粉末を得た。
次に、得られた機能性タンパク質粉末150gを常温でジメチルホルムアミド(DMF)中に撹拌しながら入れて分散させた。
【0023】
次に、この分散液を80℃の湯浴中で15分間撹拌しながら機能性タンパク質粉末を完全に溶解させた後、常温まで自然冷却させて機能性タンパク質溶液を得た。
この溶液中の機能性タンパク質の含量は、15wt%である。
次に、溶剤系樹脂として、DMFに溶解されたウレタン系樹脂〔クリスボン S-750(商品名)、大日本インキ化学工業株式会社製〕を使用し、この機能性タンパク質溶液を、撹拌している溶剤系樹脂溶液中に徐々に注いで混合することにより本実施形態の表面処理材の溶液を得た。この表面処理材の全固形分中の機能性タンパク質の含量は、10wt%である。
次に、この表面処理材の溶液を離型紙上にバーコーターで塗布した後、80℃で乾燥させることにより厚さ20μmのフィルムを作製した。
【0024】
〔比較例1〕
機能性タンパク質を配合しないで、溶剤系樹脂に樹脂固形分が20%となるようにDMFのみを加えて樹脂溶液を調製し、この樹脂溶液を使用して、実施例1と同様にして厚さ20μmのフィルムを作製した。
〔比較例2〕
実施例1において、機能性タンパク質の代わりに、牛皮シェービング屑を機械的に粉砕した不溶性コラーゲンパウダー(平均粒径5μm)を使用し、全固形分中のコラーゲンパウダーの含量が10wt%の溶液を得た。
次に、この溶液を使用し、実施例1と同様にして、厚さ20μmのフィルムを作製した。
【0025】
〔実施例2〕
実施例1において、ウレタン系樹脂として、ラックスキンU-65〔商品名、セイコー化成株式会社製〕を使用し、その他の条件は同様にして本実施形態の表面処理材の溶液を得た。
次に、この表面処理材の溶液を表面処理材として使用し、手帳表装材用の塩化ビニルレザーにグラビアコーティング機でコーティングして表面仕上げ層を形成した。この溶液の塗布量は、20g/m2である。
【0026】
〔比較例3〕
実施例2において、機能性タンパク質を含有しない溶液を調製した。
次に、この溶液を使用し、実施例2と同様にして、塩化ビニルレザーにコーティングして表面仕上げ層を形成した。
〔比較例4〕
実施例2において、機能性タンパク質の代わりに、牛皮シェービング屑を機械的に粉砕した不溶性コラーゲンパウダー(平均粒径5μm)を使用し、全固形分中のコラーゲンパウダー含量が10wt%の溶液を得た。
次に、この溶液を使用し、実施例2と同様にして、塩化ビニルレザーにコーティングして表面仕上げ層を形成した。
【0027】
〔実施例3〕
実施例1において、ウレタン系樹脂として、ラックスキンU-15〔商品名、セイコー化成株式会社製〕を使用し、その他の条件は同様にして本実施形態の表面処理材の溶液を得た。
次に、この表面処理材の溶液を使用し、かばん用のエナメル調塩化ビニルレザーにグラビアコーティング機でコーティングして表面仕上げ層を形成した。この溶液の塗布量は、20g/m2である。
【0028】
〔比較例5〕
実施例3において、機能性タンパク質を含有しない溶液を調製した。
次に、この溶液を使用し、実施例3と同様にして、エナメル調塩化ビニルレザーにコーティングして表面仕上げ層を形成した。
〔比較例6〕
実施例3において、機能性タンパク質の代わりにコラーゲンパウダーを使用し、全固形分中のコラーゲンパウダーの含量が10wt%の溶液を得た。
次に、この溶液を使用し、実施例3と同様にして、エナメル調塩化ビニルレザーにコーティングして表面仕上げ層を形成した。
〔比較例7〕
評価用にエナメル調塩化ビニルレザーを本比較例とした。
【0029】
〔特性の評価〕
前記各実施例1〜3と比較例1〜7に対して、透湿度、引張り強度、伸度のうちの少なくとも1つについて測定し、表面タッチ感、光沢度のうちの少なくとも1つについて評価した。また、実用テストA又はBも行ってその結果を評価した。それらの結果を表1〜3に示す。
前記透湿度は、JIS L 1099-A法に準拠して測定した。
前記引張り強度と伸度は、JIS K-7311に準拠して測定した。
前記表面タッチ感は、試料の表面を手で触ったときの手触りを20人に下記の基準で評価してもらい、その20人の評価の平均をとった。
前記光沢度は、JIS K-7105の60度鏡面反射法に準拠して測定した。
5点…タッチ感が非常によい
4点…タッチ感がよい
3点…普通
2点…タッチ感が悪い
1点…タッチ感が非常に悪い
【0030】
前記実用テストAは、得られたレザーで手帳を作製し、折曲げ部の変化を確認することにより行った。
前記実用テストBは、得られたレザーにミシン掛けを行い、ランダムに選んだ10人に下記の基準で評価してもらい、その10人の評価の平均をとった。
5点…滑り性が良く、ミシンを非常にかけやすい
4点…適度な滑り性があり、ミシンをかけやすい
3点…普通
2点…タック性があり、ミシンをかけにくい
1点…タック性が強く、ミシンを非常にかけにくい。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より、実施例1のフィルムは、機能性タンパク質が含まれているため、引張り強度と伸度が良好であることがわかる。また、透湿性とタッチ感についても良好である。
一方、比較例1のフィルムは、機能性タンパク質含量が配合されていないため、引張り強度と伸度は良好であっても、透湿性とタッチ感については、実施例1のフィルムと比べて劣っている。
また、比較例2のフィルムは、機能性タンパク質の代わりにコラーゲンパウダーが含まれているため、透湿性とタッチ感は良好であっても、引張り強度と伸度については、実施例1のフィルムと比べて劣っている。
【0033】
【表2】

【0034】
表2より、実施例2の塩化ビニルレザーは、表面仕上げ層に機能性タンパク質が含まれているため、タッチ感が良好であることがわかる。また、実用テストも異常がなく、耐久性が高い。
一方、比較例3の塩化ビニルレザーは、表面仕上げ層に機能性タンパク質が含まれていないため、実用テストは異常なくても、タッチ感が悪い。
また、比較例4の塩化ビニルレザーは、表面仕上げ層が機能性タンパク質の代わりに、不溶性コラーゲンパウダーを含むものであるため、タッチ感は良好であっても、折曲げ部が白化して問題がある。
【0035】
【表3】

【0036】
表3より、実施例3のエナメル調塩化ビニルレザーは、表面仕上げ層に機能性タンパク質が含まれているため、タッチ感と光沢が良好であることがわかる。また、滑り性が良く、ミシンをかけやすい。
一方、比較例5のエナメル調塩化ビニルレザーは、表面仕上げ層に機能性タンパク質が含まれていないため、タッチ感も実用テストの結果も不良である。
また、比較例6のエナメル調塩化ビニルレザーは、表面仕上げ層が機能性タンパク質の代わりに、コラーゲンパウダーを含むものであるため、タッチ感も実用テストの結果も良好であるが、光沢が劣っている。
比較例7は、表面仕上げ層の形成されていないエナメル調塩化ビニルレザーであるため、光沢は良好であるが、タッチ感も実用テストの結果も非常に悪い。
【0037】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る表面処理材は、前記第2の表面処理材に対応するものであり、次のようにして調製できる。
先ず、機能性タンパク質を次のようにして調製する。
タンパク質含有水溶液と、有機溶媒に溶解させた架橋剤とを反応させ、架橋剤を含む水相のタンパク質溶液を分取する。なお、タンパク質は、加水分解等の前処理により、水に対する溶解性を向上させておいてから使用するのが好ましい。
【0038】
この後、前記架橋剤を含むタンパク質溶液のpHをタンパク質の等電点以上とする。この後、改質タンパク質を分離し、乾燥して機能性タンパク質の粉末を得る。
次に、得られた前記タンパク質粉末を水に常温で分散させ、撹拌しながら例えば60〜80℃に昇温して液が透明になるまで完全に溶解した後、常温まで冷却する。
次に、この機能性タンパク質溶液を水系樹脂中に適当な割合で加えて混合することにより本実施形態に係る表面処理材を得る。
この表面処理材を使用して、フィルム、シート、レザー、編物、織物又は不織布に表面処理を施して表面処理層を形成する。
【0039】
〔実施例4〕
ホエータンパク質粉末を水で希釈してタンパク質濃度を3.5%とし、水酸化ナトリウムでpH12に調整した。このタンパク質溶液に2,4-トルエンジイソシアネート(TDI)をクロロホルムに溶解したものを加えて45℃で2時間反応させた。反応後、反応液を室温に2時間放置して水層とクロロホルム層に分離した。次に、濾過によりクロロホルム層を除去して水層を分取した。得られた水層のpHを7に調整した後、乾燥させて機能性タンパク質粉末を得た。
【0040】
次に、得られた機能性タンパク質粉末50gを水950gに分散させ、この分散液を80℃の湯浴中で20分間撹拌しながら完全に溶解させて5wt%溶液を得た。この溶液を自然冷却させた後、この溶液82gを100gのアクリル系エマルジョン〔ヨドゾール2D540(商品名)、カネボウ エヌ・エス・シー株式会社〕と混合し、プロペラ式撹拌機で均一に混合して表面処理材の溶液を得た。
次に、この表面処理材溶液を透明のポリ塩化ビニルシートに塗布量が10g/m2となるようにグラビアコーティング機で塗布した後、120℃で乾燥させて表面仕上げ層の形成されたシートを得た。
【0041】
〔比較例8〕
実施例に係る機能性タンパク質に代わりに、牛皮シェービング屑を機械的に粉砕した不溶性コラーゲンパウダー(平均粒径5μm)を使用した。そして、このコラーゲンパウダーをアクリル系エマルジョン〔ヨドゾール2D540(商品名)〕中に全固形分(コラーゲンパウダー及び樹脂固形分)中のコラーゲンパウダー含量が10wt%となるように配合して混合し、表面処理材の溶液を得た。
次に、実施例4と同様にして、この表面処理材の溶液をポリ塩化ビニルシートに塗布した後、乾燥させて表面仕上げ層の形成されたシートを得た。
【0042】
〔比較例9〕
実施例4に係る機能性タンパク質に代わりに、水溶性ゼラチン(平均分子量3000)を使用した。そして、この水溶性ゼラチンをアクリル系エマルジョンに配合して混合し、表面処理材の溶液を得た。
次に、実施例4と同様にして、この表面処理材の溶液をポリ塩化ビニルシートに塗布した後、乾燥させて表面仕上げ層の形成されたシートを得た。
【0043】
〔比較例10〕
タンパク質を含まないアクリル系エマルジョン〔ヨドゾール2D540(商品名)〕を実施例4と同様にしてポリ塩化ビニルシートに塗布した後、乾燥させて表面仕上げ層の形成されたシートを得た。
〔実施例5〕
実施例4で得られた表面仕上げ層の形成されたシートを、エナメル調ポリ塩化ビニルレザーに接着剤を使用してラミネートすることにより、表面仕上げ層を有するエナメル調ポリ塩化ビニルレザーを得た。
〔比較例11〕
評価用にエナメル調塩化ビニルレザーを本比較例とした。
【0044】
〔特性の評価〕
実施例4と比較例8〜10に対して、表面タッチ感、防汚性(耐水性)及び透明度を評価した。実施例5と比較例11に対しては、光沢度を測定し、また実用テストの結果を測定した。それらの結果を表4に示す。
前記表面タッチ感は、評価用試料の表面を手で触ったときの手触りを20人に下記の基準で評価してもらい、その20人の評価の平均をとった。
5点…タッチ感が非常によい
4点…タッチ感がよい
3点…普通
2点…タッチ感が悪い
1点…タッチ感が非常に悪い
【0045】
前記防汚性(耐水性)は、評価用試料に水、醤油、台所用洗剤(濃度1g/1000ml)を1滴落とし、24時間後に乾いた布で拭き取って表面状態を観察することにより評価した。
前記透明度は、肉眼で判断することにより評価した。
前記光沢度は、JIS K 7105の60度鏡面反射法に準拠して評価した。
前記実用テストは、得られたレザーにミシン掛けを行い、ランダムに選んだ10人に下記の基準で評価してもらい、その10人の評価の平均をとった。
5点…滑り性が良く、ミシンを非常にかけやすい
4点…適度な滑り性があり、ミシンをかけやすい
3点…普通
2点…タック性があり、ミシンをかけにくい
1点…タック性が強く、ミシンを非常にかけにくい。
【0046】
【表4】

【0047】
表4より、実施例4に係るポリ塩化ビニルシートは、表面仕上げ層に機能性タンパク質が含まれているため、表面タッチ感、防汚性及び透明度のいずれにも優れていることわかる。従って、このポリ塩化ビニルシートは、例えばテーブルクロスとして好適である。
一方、比較例8に係るポリ塩化ビニルシートは、表面仕上げ層に含まれているタンパク質が不溶性コラーゲンパウダーであるため、表面タッチ感と防汚性については問題ないが、透明度についてはすりガラス様の曇りが発生して見栄えが悪い。
【0048】
比較例9に係るポリ塩化ビニルシートは、表面仕上げ層に含まれているタンパク質が水溶性ゼラチンであるため、表面タッチ感と透明度については問題ないが、防汚性については問題があった。また、水に当たると水溶性ゼラチンが溶け出し、実用上問題があった。
比較例10に係るポリ塩化ビニルシートは、表面仕上げ層にタンパク質が含まれていないため、防汚性と透明度については問題ないが、表面タッチ感については不良であった。
実施例5に係るエナメル調ポリ塩化ビニルレザーは、表面仕上げ層に機能性タンパク質が含まれているため、表面タッチ感と光沢度が良好であることわかる。
また、非常にミシンをかけ易く、実用テストも良好である。
一方、比較例11に係るエナメル調ポリ塩化ビニルシートレザーは、表面仕上げ層にタンパク質が含まれていないため、光沢度は良好であっても、表面タッチ感が劣っている。また、ミシンを非常にかけにくく、実用テストについては不良である。
【0049】
〔実施例6〕
実施例4で得られた機能性タンパク質5wt%溶液を4重量部、ウレタン系エマルジョン〔UN-11(商品名)、共栄社化学株式会社製〕を2重量部、水94重量部をドラム染色機に投入した。
次に、この染色機中に、浴比が1:20となるように染色上がりのパンティストッキングを入れ、40℃で15分間浸漬処理を行った後、ピックアップ率30%となるように遠心脱水した。この後、このパンティストッキングをスチーム乾燥して熱セットすることにより、繊維表面にタンパク質が固着したパンティストッキングを得た。
【0050】
〔比較例12〕
実施例6で使用したパンティストッキングと同じ糸構成の市販のパンティストッキングを本比較例とした。
〔比較例13〕
実施例6に係る染色上がりのパンティストッキングを本比較例とした。
〔比較例14〕
実施例6において、ウレタン系エマルジョン〔UN-11(商品名)〕を2重量部、水98重量部をドラム染色機に投入した。
その他は、実施例6と同様にしてパンティストッキングを加工した。
〔比較例15〕
実施例6に係る機能性タンパク質に代わりに、水溶性フィブロイン(平均分子量4800)を使用し、実施例6と同様にして繊維表面にフィブロインが固着したパンティストッキングを得た。
【0051】
〔特性の評価〕
実施例6と比較例12〜15のパンティストッキングに対して、吸水性と表面タッチ感を評価し、摩擦帯電圧を測定した。それらの結果を表5に示す。また、実施例6と比較例14、15のパンティストッキングに対しては、タンパク質の付着状態を確認した。それらの結果を図2〜4に示す。
前記吸水性は、JIS L 1096-A法に準拠して測定した。
前記表面タッチ感は、前記実施例1に係る表面タッチ感の評価方法と同じである。
前記摩擦帯電圧は、JIS L 1094-B法に準拠して測定した。
前記タンパク質の付着状態は、パンティストッキングを1リットル水中で40℃、24時間強く撹拌して強制的に付着物を抽出した後、その水を蒸発させて残留分をFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を使用して測定した。
【0052】
実施例6については洗濯を10回、比較例15については洗濯を5回行った後、タンパク質の付着状態を測定した。前記洗濯は、家庭用1層式全自動洗濯機を使用し、家庭用洗濯洗剤〔モノゲンユニ(商品名)、P&G社製〕を2g/リットル入れ、洗濯5分、濯ぎ2回、脱水4分間を行うことを洗濯1回とした。この洗濯の際、パンティストッキングは、洗濯ネットに入れておいた。
なお、実施例4で得られた機能性タンパク質5wt%溶液を乾燥固化させたものについて、このFTIR測定を行った結果を図1に示す。図1によれば、アミド結合に起因するタンパク質のピークが1550cm-1、1650cm-1付近に見られる。
【0053】
【表5】

【0054】
表5より、実施例6に係るパンティストッキングは、繊維表面に機能性タンパク質が固着しているため、表面タッチ感が良好であることがわかる。また、吸水性も良好であり、汗を素早く吸収してムレ感を速やかに解消できる。更に、帯電防止性も優れている。そして、このような効果は、ポリエステル等の布基材に機能性タンパク質を有する表面仕上げ層が形成されている場合にも同様に得られる。
また、図2のFTIRの測定結果より、1550cm-1、1650cm-1付近にタンパク質のピークが見られ、洗濯を10回行った後でも機能性タンパク質が繊維表面から流出しないで保持されていることがわかる。
【0055】
比較例12及び13に係るパンティストッキングは、繊維表面にタンパク質が固着していない市販のものであるため、表面タッチ感は普通であるが、吸水性が不良であって、汗を素早く吸収できず、ムレ感が残る。また、帯電防止性に劣っている。
比較例14に係るパンティストッキングも、繊維表面にタンパク質が固着していないため、吸水性と帯電防止性に劣っている。
比較例15に係るパンティストッキングは、タンパク質が水溶性フィブロインであるため、表5より、表面タッチ感、吸水性、帯電防止性は優れているが、図4より、タンパク質特有のピークが見られず、洗濯を5回行った後においては水溶性フィブロインが繊維表面から流出していることがわかる。
【0056】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る表面処理材は、前記第3の表面処理材に対応するものであり、溶媒と下記の成分を有するものである。
水溶性有機物 ……1〜15wt%
反応性改質剤 ……0.1〜10wt%
その他 ……0〜10wt%
【0057】
前記溶媒としては、水、アルコール類、ジメチルホルムアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド、或いはこれらの混合溶媒を使用できる。
その他の成分としては、必要に応じて、重合開始剤、反応性改質剤のキャリア、等を添加してもよい。
前記重合開始剤には、過酸化物、アゾ化合物、金属塩等が含まれる。
前記キャリアは、反応性改質剤が繊維の表面層より内部に深く浸透するようにするためのものである。このキャリアの具体例は、クロロベンゼン類、メチルナフタレン類、ジフェニル類、芳香族エステル類、脂肪族ハロゲン化炭化水素類、等である。
【0058】
〔実施例7〕
前記第3実施形態において、表面処理材中の各成分の具体例と濃度を下記の通りとした。
絹フィブロイン加水分解物……5wt%
化学式2の化合物 ……5wt%
水 ……89wt%
Zn(BF4)2……1wt%
【化2】

【0059】
実施例7の絹フィブロイン加水分解物は、次のようにして得られたものである。
即ち、通常の方法でセリシンを除去した絹フィブロイン糸を2N-HCl溶液に70℃、1時間で溶解した後、苛性ソーダで中和してフィブロイン加水分解物溶液を得た。このフィブロイン溶液を噴霧乾燥してフィブロイン粉末を調製した。このフィブロイン粉末は、平均分子量が約4800であり、水溶性を示した。
次に、この表面処理材を使用して、ポリエステル100%のタフタ織物(目付120g/m3)に含浸させた後、マングルで含浸率70%に絞った。この後、水蒸気熱処理を 105℃で10分間行い、引き続き、湯洗(40℃、10分間)、乾燥及び熱セットを行った。
【0060】
〔実施例8〕
第3実施形態において、表面処理材中の各成分の具体例と濃度を下記の通りとした。
絹フィブロイン加水分解物……2wt%
コラーゲン ……3wt%
化学式1の化合物 ……2wt%
化学式3の化合物 ……4wt%
水 ……88.5wt%
(NH4)2S2O8……0.5wt%
【0061】
【化3】

【0062】
前記コラーゲンとして 粉末状で平均分子量約1500のコラーゲンであるニュートリラン(商品名、ヘンケル白水社製)を使用した。
この表面処理材を使用したタフタ織物への処理は実施例7と同様である。
〔実施例9〕
前記実施形態において、表面処理材中の各成分の具体例と濃度を下記の通りとした。
絹フィブロイン加水分解物……4wt%
化学式3の化合物 ……2wt%
化学式4の化合物 ……4wt%
水 ……39.5wt%
(NH4)2S2O8……0.5wt%
キトサン1%水溶液 ……50wt%
【0063】
【化4】

【0064】
前記キトサンとして、平均分子量約30万のCTA−1乳酸(商品名、片岡チッカリン株式会社製)を使用した。
この表面処理材を使用したタフタ織物への処理は実施例7と同様である。
〔比較例16〕
実施例7に係る表面処理材中の絹フィブロイン加水分解物の配合量を0とし、水を94wt%とした。その他の成分及び濃度は、実施例7と同様である。
この表面処理材を使用したタフタ織物への処理は実施例7と同様である。
【0065】
〔比較例17〕
実施例8に係る表面処理材中の絹フィブロイン加水分解物とコラーゲンの配合量を0とし、水を93.5wt%とした。その他の成分及び濃度は、実施例8と同様である。
この表面処理材を使用したタフタ織物への処理は実施例8と同様である。
〔比較例18〕
実施例9に係る表面処理材中の絹フィブロイン加水分解物とキトサンの配合量を0とし、水を93.5wt%とした。その他の成分及び濃度は、実施例9と同様である。
この表面処理材を使用したタフタ織物への処理は実施例9と同様である。
【0066】
〔比較例19〕
実施例7に係る表面処理材中の絹フィブロイン加水分解物の代わりに高分子量絹フィブロインを使用した。その他の成分及び濃度は、実施例7と同様である。
本比較例の高分子量絹フィブロインは、次のようにして得られたものである。
即ち、通常の方法でセリシンを除去した絹フィブロイン糸を塩化カルシウム50wt%水溶液に加熱溶解し、得られた溶液をセルロースチューブで透析脱塩した。
得られたフィブロイン水溶液のフィブロインの濃度は4.2wt%であった。また、この水溶液中のフィブロインの分子量は約10万であった。なお、この水溶液は安定性が良くない(数日でゲル化する)ため、この水溶液を調製した日に使用した。
この表面処理材を使用したタフタ織物への処理は実施例7と同様である。
〔比較例20〕
表面処理材による処理を行わない未加工のポリエステル布を本比較例とした。
【0067】
〔特性の評価〕
前記実施例7〜9及び比較例16〜20により得られた加工タフタ織物に対して、初期と洗濯後の吸湿量を測定し、また摩擦帯電圧を測定した。更に、風合いを評価した。それらの結果を表6と7に示す。
前記吸湿量の測定は、加工タフタ織物のサンプルを23℃、30%RH雰囲気中に12時間放置して調湿した後、このサンプルを30℃、80%RH雰囲気の下に置き、その重量変化を測定することにより行った。
前記洗濯は、JIS L-0217 103法に準拠した。
前記摩擦帯電圧は、JIS L-1094 B法に準拠して測定した。
【0068】
前記風合いは、ランダムに選んだ20人にサンプルを触ってもらい、ドレスシャツの生地であることを想定して次の基準で評価してもらった。
5点…柔らかく風合いが非常によい。
4点…柔らかく風合いがよい。
3点…普通。
2点…堅くて風合いが悪い。
1点…堅くて風合いが非常に悪い。
表の風合いの欄で、◎は平均4〜5点、○は平均3〜4点未満、△は平均2〜3点未満、×は平均1〜2点未満、をそれぞれ表す。
【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
表6より、実施例7〜9に係る加工タフタ織物は、平均分子量100〜20000の水溶性有機物、及び反応性改質剤を含む表面処理材で処理されたものであるため、洗濯前の初期においても洗濯後においても吸湿量が大きく、吸湿性が良好であることがわかる。従って、この加工タフタ織物は、アパレル等として着用した場合、むれ感を低減できる。特に、実施例9は、キトサンも含んでいるため、吸湿性の向上効果が著しい。
また、実施例の加工タフタ織物の風合いは、柔らかく、非常に良好である。
更に、実施例の加工タフタ織物は、摩擦帯電圧が低く、静電気による不快を感じにくい素材であることがわかる。
そして、水溶性有機物として絹フィブロインとコラーゲン、反応性改質剤として化学式1と3の化合物を含む表面処理材で処理された実施例8の加工タフタ織物は、実施例7と比べて、吸湿性と摩擦帯電性に関して特性がより向上している。
【0072】
一方、表7より、比較例16に係る加工タフタ織物は、水溶性有機物を含有していない実施例7の表面処理材で処理されたものであるため、初期と洗濯後の吸湿量が小さく、吸湿性が不良であることがわかる。また、摩擦帯電圧が高く、静電気による不快を感じやすい素材である。
比較例17に係る加工タフタ織物は、水溶性有機物を含有していない実施例8の表面処理材で処理されたものであるため、吸湿量が小さく、また摩擦帯電圧が高くなっている。
比較例18に係る加工タフタ織物は、水溶性有機物を含有していない実施例9の表面処理材で処理されたものであるため、吸湿量が小さく、また摩擦帯電圧が高くなっている。
比較例19に係る加工タフタ織物は、絹フィブロイン加水分解物の代わりに高分子量絹フィブロインを含む実施例7の表面処理材で処理されたものであるため、風合いが劣っている。
比較例20に係るポリエステル布は、未加工のものであるため、吸湿量が非常に小さく、また摩擦帯電圧が非常に高くなっている。
【0073】
[第4実施形態]
本実施形態の表面処理材は、前記第4の表面処理材に対応するものであり、第2の表面処理材に係る機能性タンパク質と、第3の表面処理材に係る反応性改質剤とを含むものである。
[実施例10]
ホエータンパク質粉末と加水分解シルクフィブロイン(重量比8:2)を水で希釈してタンパク質濃度を3.5%とし、水酸化ナトリウムでpH12に調整した。
このタンパク質溶液に2,4-トルエンジイソシアネート(TDI)をクロロホルムに溶解したものを加えて45℃で2時間反応させた。反応後、反応液を室温に2時間放置して水層とクロロホルム層に分離した。次に、濾過によりクロロホルム層を除去して水層を分取した。得られた水層のpHを7に調整した後、乾燥させて機能性タンパク質粉末を得た。
表面処理材中の各成分の具体例と濃度を下記の通りとした。
上記機能性タンパク質粉末……5wt%
化学式5の化合物 ……4wt%
化学式6の化合物 ……3wt%
水 ……88wt%
【0074】
【化5】

【0075】
【化6】

【0076】
この実施例の表面処理材を使用して下記(1)〜(6)の通り、ポリエステル繊維(100d/双糸48フィラメント)を処理し、またこの処理繊維を使用して靴下を作製した。
(1)上記処理繊維をチーズ巻きにして染色した後、乾燥した。(2)染色したチーズ巻き繊維をオーバマイヤ染色機に入れた後、浴比で1:20となるように前記処理材を投入し、20℃、20分の条件で処理した。(3)処理済み繊維を遠心脱水機でピックアップ率 100%となるように脱水した。(4)脱水した繊維を圧力容器に入れ、水蒸気で満たして 100℃、20分間の条件で加熱処理した。(5)この加熱処理した繊維を水洗した後、乾燥した。(6)丸編み機を使用してこの処理済み繊維で靴下を作製した。
【0077】
〔比較例21〕
実施例10に係る繊維に染色のみを行い、この繊維で実施例10と同様にして靴下を作製した。
〔特性の評価〕
上記実施例10と比較例21で得た靴下について、洗濯した後の吸湿量、吸水速度及び摩擦帯電圧を測定した。それらの結果を表8に示す。
前記洗濯は、JIS L-0217 103法により50回行った。
前記吸湿量は、サンプルを23℃、30RH%雰囲気中に12時間放置して調湿した後、30℃、80RH%雰囲気中に移し、調湿前後の重量変化により測定した。
前記吸水速度は、靴下に3cmの高さから約40mgの水滴を落とし、完全に吸収されるまでの時間を測定した。
前記摩擦帯電圧は、JIS L-1094に準じて測定した。
【0078】
【表8】

【0079】
表8より、実施例10の靴下は、前記第4の表面処理材によって処理された繊維で作製されたものであるため、吸湿量、吸水速度及び摩擦帯電圧のいずれも良好であることがわかる。
一方、比較例21の靴下は、前記第4の表面処理材によって処理されていない繊維で作製されたものであるため、吸湿量、吸水速度及び摩擦帯電圧のいずれも問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、吸放湿性等を高めることができる表面処理材に関し、例えば糸、編物、織物、不織布等の表面処理材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例4で得られた機能性タンパク質のFTIRによる測定結果である。
【図2】実施例6のパンティストッキングを10回洗濯したものに対するFTIRによる測定結果である。
【図3】比較例14のパンティストッキングに対するFTIRによる測定結果である。
【図4】比較例15のパンティストッキングを5回洗濯したものに対するFTIRによる測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量100〜20000の水溶性有機物と、反応性改質剤とを含むことを特徴とする表面処理材。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理材において、 前記水溶性有機物及び反応性改質剤に加えて、キトサンを含むことを特徴とする表面処理材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面処理材において、 前記水溶性有機物は、タンパク質、タンパク質の誘導体及び多糖類の少なくとも1種であることを特徴とする表面処理材。
【請求項4】
請求項3に記載の表面処理材において、 前記タンパク質は、フィブロイン、コラーゲン及びウールより選ばれた少なくとも1種類であることを特徴とする表面処理材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理材により処理された繊維。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理材により処理された糸、織物、編物、不織布、フィルム、シート、又はレザー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−22469(P2006−22469A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223372(P2005−223372)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【分割の表示】特願平9−537916の分割
【原出願日】平成9年4月18日(1997.4.18)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】