説明

表面処理金属材及び金属表面処理剤

【課題】クロメート処理材に代替可能な表面処理材としてウレタン樹脂系皮膜の特性を最大限に発揮する皮膜構成を見出すことで、加工性、耐食性及び耐溶剤性の諸課題を解決し、かつ各種特性に優れた表面処理金属材及び金属表面処理剤を提供する。
【解決手段】金属材表面の少なくとも一部に、ポリウレタン樹脂、酸化ケイ素を少なくとも含有する皮膜を有する表面処理金属材であって、前記ポリウレタン樹脂が、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合及びシラノール残基のうちの一種以上と、ウレア結合とを含有し、皮膜固形分に対するケイ素を含有する化合物総量が1.6質量%以上25質量%以下であり、かつ前記ウレア結合とウレタン結合の総量が樹脂成分総量に対し窒素原子量換算で0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする表面処理金属材、及びその皮膜を得るための金属表面処理剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷性の高い6価クロムを含まず、かつ極めて高い耐食性能を有し、良好な上塗り塗料密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性、加工性、耐傷付き性を有する表面処理金属材及び金属表面処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭電化製品、自動車、建築材料等の各分野において、防錆性あるいは上層との塗料密着性の付与を目的として、鋼板や表面処理鋼板にクロメート処理を施すのが一般的である。しかし、通常、クロメート処理皮膜は環境負荷性の高い6価クロムを含有することから、近年、この6価クロムのフリー化に対する要望が高まっており、一部では既に全廃に向けて動き出している業界もある。
【0003】
これらの流れに対し、クロムを含まない表面処理方法が各種考案されている。例えば、無機化合物を主体とした皮膜に関して、例えば、特許文献1に正リン酸、アルミ系ゾル、金属系ヒドロゾルを含む処理液で処理する方法が、特許文献2に水ガラスやケイ酸ソーダとピラゾールで処理する方法が、特許文献3にシリケートコーティングを行う方法が開示されている。しかし、無機系の皮膜は、加工成形時に疵が発生し易く、且つ上塗り塗料との密着性が劣り、用途が限定されるという問題がある。また、例えば、塩化ナトリウムに対する耐食性についても、未だクロメート処理に対し十分満足する性能は得られていない。
【0004】
そこで、従来より有機皮膜を主体としたクロメート皮膜に代替可能な皮膜が幾つか検討されている。有機化合物を主体とする皮膜は、皮膜による腐食環境の遮断効果に加え、成形性に優れる特徴を有し、クロムフリー皮膜として有望である。中でも、皮膜としての強靭な性質を有し、また密着性も良好なウレタン樹脂を主体とした皮膜は、クロメートフリー皮膜として有望である。
【0005】
これまで、ウレタン樹脂皮膜をベースにした技術がいくつか開示されている。例えば、特許文献4では、加工後の皮膜密着性に優れる例として、ウレタン樹脂及び二酸化ケイ素の複合物質又は混合物質を主成分とする皮膜層を設ける技術が開示されている。また、特許文献5では、電着性及び溶接性に優れた皮膜の例として、ウレタン樹脂にコロイダルシリカ又はシランカップリング剤、及び特定の金属リン酸塩を含有する樹脂皮膜を設ける技術、特許文献6では、金属リン酸塩に水性ウレタン樹脂及びオキシカルボン酸化合物を混合した処理液の技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、さまざまな用途へ使用が広がるにつれ要求特性も厳格化しつつあり、特許文献4〜6に記載された技術の場合、記載してあるウレタン樹脂の内容では、樹脂の構造の適性に対する検討が十分になされておらず、特に耐アルカリ性、加工性や加工後耐食性等、厳格化した性能を確保することは困難となる懸念があり、かつ皮膜形成能が十分に得られず耐溶剤性が低下する懸念がある。
【0007】
また、防錆性付与を目的とした例として、特許文献7では、親水性成分を導入したウレタン樹脂にシランカップリング剤を添加した皮膜の技術、特許文献8では、水性ポリウレタン樹脂と水性ポリオレフィン樹脂の混合物に水性シリカ、シランカップリング剤、チオカルボニル基含有化合物、リン酸イオンを混合した防錆コーティング剤の技術、等が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献7及び8に記載された技術も、特許文献4と同様に、樹脂の構造の適性に関する検討が十分ではないため、厳格化した性能を確保することが困難となる懸念がある。また、特許文献7及び8の技術ではシランカップリング剤を混合しているため溶液の反応性が不安定で、製造条件によっては性能がばらつく懸念があった。また、いずれも安定して十分な架橋反応は望めないため、汚れを溶剤で拭き取る場合に必要な耐溶剤性が劣る懸念がある、といった問題点を有していた。
【0009】
また、特許文献9に、ポリウレタン樹脂中にシラノール基を含有する技術が開示されている。しかしながら、その技術は溶液の安定性は良好であり、潤滑皮膜として高面圧加工による連続成形に耐える高い弾性率を有する皮膜を形成することは可能であるが、耐食性、耐溶剤性やその他特性に配慮した皮膜設計、樹脂構造設計がなされていないため、防錆皮膜として性能を発揮しない懸念がある。
【0010】
【特許文献1】特公昭53−47774号公報
【特許文献2】特公昭58−31390号公報
【特許文献3】特開平4−293789号公報
【特許文献4】特公平6−7950号公報
【特許文献5】特公平6−71579号公報
【特許文献6】特開2001−181855号公報
【特許文献7】特開2001−59184号公報
【特許文献8】特開2001−164182号公報
【特許文献9】特開2001−234119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、クロメート処理材に代替可能な表面処理材としてウレタン樹脂系皮膜に着目し、その特性を最大限に発揮する皮膜構成を見出すことで、環境負荷の高い6価クロムを含まず、上記耐食性、上塗り塗料密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性、加工性、耐傷付き性等の諸課題を解決し、実環境での使用に十分耐え得る表面処理金属材及び金属表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ポリウレタン樹脂の構成や添加剤が金属材の上記耐食性、上塗り塗料密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性、加工性、耐傷付き性に及ぼす影響を詳細に検討した結果、シラノール基起因の結合を含有し、かつウレア結合及びウレタン結合の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であるポリウレタン樹脂と、酸化ケイ素とを混合して表面処理剤を構成することで、焼付け乾燥時に安定して良好な架橋反応が得られ強靭な皮膜を形成することができ、それを金属材上に塗装してウレタン系樹脂皮膜を形成することで、耐食性、上塗り塗料との密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性、プレス加工時の加工性や耐傷付き性に優れた性能を発揮する表面処理金属材が得られることを見出した。
【0013】
通常、水性のポリウレタン樹脂の場合、水中にエマルジョンとして分散し、塗布後の焼付け乾燥時に被塗物上に配列し融着することで皮膜を形成する熱可塑性皮膜が一般的であるが、熱可塑性皮膜単独では、高度な耐水性、耐アルカリ性、耐溶剤性、防錆性を担保することが困難である。そのため、硬化剤を併用することで、それらの性能を向上させる改善手法が汎用的に用いられている。しかしながら、硬化剤の併用は、硬化に必要な焼付け温度の確保や処理剤安定性の確保という観点で、工業化における課題を有している。これらの課題を解決するために、鋭意検討した結果、表面処理剤の安定性を担保しつつ、比較的低温焼付けで上記性能を始めとする諸性能を満足する金属表面処理剤及び表面処理金属材を設計することに成功した。即ち、ポリウレタン樹脂中に親水基であるシラノール基を含有させることで、水中におけるエマルジョンの水分散性(安定性)を向上させることが可能である。加えて、ポリウレタン樹脂中に含有するシラノール基同士が焼付け乾燥過程で結合し(シロキサン結合を形成し)、エマルジョン内及びエマルジョン間に架橋構造を付与することが可能である。それにより、樹脂の架橋密度を高めるのみならず、皮膜の造膜性をも向上させることが可能であり、皮膜の防錆性(酸素、水等の腐食因子の遮断効果)、耐アルカリ性及び耐溶剤性等の諸性能を向上させることができる。また、シラノール基と下地金属材との結合による下地金属材との密着性向上効果も得られる。これらのシラノール基の架橋反応は、一般的な硬化剤の反応よりも比較的低温焼付けで得ることが可能なため、高温焼付けが困難な場合には特に好適である。
【0014】
さらに、ポリウレタン樹脂中のウレア結合、ウレタン結合の含有量を適切な量に設計することで、皮膜の金属材や上塗り塗料に対する密着性と、硬度、伸びのバランスの良好な皮膜が得ることが可能で、耐傷付き性と加工性の両立を図ることができる。さらに、酸化ケイ素を添加することで、ポリウレタン樹脂中のシラノール基と酸化ケイ素上のシラノール基でシロキサン結合を形成し、架橋反応をさらに効率よく行うことが可能で、耐食性や密着性を高めることができる。加えて、酸化ケイ素を添加することで、皮膜自身の強靭性を高めることも可能であり、皮膜の耐傷付き性を向上させることができる。
【0015】
これらの効果は、樹脂骨格構造中に環状化合物もしくは芳香族化合物を導入することで更に高めることができる。環状化合物もしくは芳香環を有する化合物は、構造として安定であるため、ポリマーとしての樹脂の強度を高めると共に、皮膜の耐溶剤性を向上させる作用を有する。また同時に、電子分布に配向性が生じるため、金属材や上塗り塗料と水素結合を生じ易く、密着性を良好にする作用もある。これら環状化合物もしくは芳香族化合物を適量樹脂構造中に組み入れることによって、優れた耐傷付き性、耐溶剤性、上塗り塗料密着性を確保することができる。
【0016】
また、上記ポリウレタン樹脂を構成するポリオール中に、分岐構造モノマーを適切な量導入することで、皮膜形成時の架橋反応性をより高め、架橋密度を高くすることで耐食性、耐溶剤性、耐アルカリ性を向上させることができる。
【0017】
また、ポリウレタン樹脂を水中に分散させるために、骨格構造中にカルボキシル基又はスルホン酸基を適当量含有させ、水分散時にある特定の中和剤を用いて自己乳化させることで、皮膜形成時の造膜性を向上させることができる。即ち、皮膜の防錆性(酸素、水等の腐食因子の遮断効果)、耐アルカリ性及び耐溶剤性等の諸性能を向上させることができる。特に、中和剤としては、アルカノールアミンを用いることで、皮膜の造膜性を向上させることができる。更に、揮発し易い沸点150℃以下の中和剤を用いることで、焼付け乾燥後の皮膜中への残存量を低減させることが可能で、それにより、皮膜の造膜性が向上し、さらに性能を向上させることができる。それに加えて、カルボキシル基又はスルホン酸基の含有量、中和剤の種類や量を最適化することで、表面処理剤の安定性も向上させることができる。
【0018】
さらに、皮膜中にポリオレフィン樹脂を適当量添加することにより、耐食性や加工性を向上させることができる。これは、ポリオレフィン樹脂は比較的腐食因子のバリア性、柔軟性に優れるためで、上記ポリウレタン樹脂と複合させることで、より性能バランスに優れた皮膜を得ることができる。
【0019】
さらに、皮膜中にリン酸化合物を添加することにより、耐食性を向上させることができる。これは、リン酸化合物が下地の鉄や亜鉛めっき等の金属表面と反応して沈殿皮膜を形成する効果と、樹脂皮膜の架橋密度を向上させる効果により、耐食性向上に寄与しているものと考えられる。特定量のアンモニア、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウムのリン酸塩の内の1種以上からなるリン酸化合物と、上記ポリウレタン樹脂又は上記ポリウレタン樹脂とポリオレフィン樹脂の混合樹脂と、酸化ケイ素が所定量含有されている皮膜である場合に、最も性能バランスが優れ、かつ表面処理剤としての安定性も良好である。
【0020】
また、これら表面処理剤にある特定の架橋剤を導入し、シラノール基の架橋反応の他に架橋反応を生じさせることで、より低い焼付け温度で皮膜形成を行うことができると共に、反応速度を速めることができる。その架橋剤が、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物及び有機チタネート化合物の内の1種以上からなる架橋剤の場合に、最も効果が顕著である。特に2種以上を併せて使用すると、それぞれの架橋剤の有する特徴が複合し、より好ましい性質が得られる。例えば、架橋剤も高分子体の場合があり、その場合、樹脂と樹脂を架橋する作用以外にも、架橋剤高分子体そのものの有する特性が付与される。具体的には、架橋剤骨格の高分子体及び結合している有機高分子体によって、金属材や上塗り塗料との密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性が向上する場合がある。
【0021】
さらに、潤滑性付与剤を適宜添加することにより、表面の摩擦特性を目的に応じて変化させることで、低い摩擦係数の製品が得られ、加工性に優れた表面処理金属材を得ることができる。潤滑性付与剤としては、例えば、水分散性のポリエチレン樹脂、四フッ化エチレン樹脂、ステアリン酸化合物、天然パラフィンワックス等が挙げられる。中でも、ポリエチレン樹脂を使用した場合に、潤滑性低減効果が顕著に現れるため好ましい。
【0022】
上記の表面処理金属材は、金属表面処理剤を金属材上に塗布し、焼付け乾燥することにより得られる。特に、Zn系めっき鋼板に所定の膜厚を塗布して形成した表面処理金属材の場合に、顕著に効果が表れる。さらに、表面処理金属材に形成した皮膜中のシラノール基起因の結合量、酸化ケイ素の含有量、ポリオレフィン樹脂含有量及びリン酸化合物の含有量がある組成の範囲内にある場合に最も効果が大きくなる。
【0023】
また、上記の金属材に塗布した皮膜の25℃における弾性率が0.2GPa以上20GPa以下である場合に、連続成形による金型温度上昇にも耐える皮膜が得られ、良好な加工性を確保できると共に、潤滑皮膜としても適用が可能である。
【0024】
すなわち、本発明の主旨とするところは、以下の通りである。
(1) 金属材表面の少なくとも一部に、ポリウレタン樹脂、酸化ケイ素を少なくとも含有する皮膜を有する表面処理金属材であって、前記ポリウレタン樹脂が、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合、シラノール残基の内の一種以上、及びウレア結合を含有し、前記シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合及びシラノール残基の総量と前記酸化ケイ素の合計量が、前記皮膜の固形分に対し下記数式で表される範囲にあり、
1.6質量% ≦ ((Wa+Wb+Wc+Wd)/W)×100 ≦ 25質量%
W:皮膜固形分の全質量、
Wa:シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成するケイ素の質量
Wb:シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合(−Si−O−R−;RはSi以外の元素)を形成するケイ素の質量
Wc:シラノール残基(−Si−OH)を形成するケイ素の質量
Wd:酸化ケイ素を形成するケイ素の質量
かつ、前記ウレア結合とウレタン結合の総量が樹脂成分総量に対し下記数式で表される範囲にあることを特徴とする、表面処理金属材。
0.1質量% ≦ ((Ta+Tb)/T)×100 ≦ 10質量%
T:皮膜固形分中の樹脂成分の質量、
Ta:ウレア結合(−NH−CO−NH−)を形成する窒素の質量
Tb:ウレタン結合(−NH−CO−O−)を形成する窒素の質量
(2) 前記ポリウレタン樹脂骨格中に、さらに環状化合物及び芳香族化合物の内の少なくとも1種を含有することを特徴とする、(1)に記載の表面処理金属材。
(3) 前記ポリウレタン樹脂骨格中に含まれる前記環状化合物が、シクロヘキサノール基、シクロペンタノール基、イソホロン基及びジシクロヘキシル基の内の一種以上であり、前記ポリウレタン樹脂骨格中に含まれる前記芳香族化合物が、ビスフェノール基、クレゾール基及びジフェニル基の内の一種以上であることを特徴とする、(2)に記載の表面処理金属材。
(4) 前記ポリウレタン樹脂を含有する皮膜に、さらにポリオレフィン樹脂を5質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の表面処理金属材。
(5) 前記ポリウレタン樹脂を含有する皮膜に、さらにリン酸化合物をリン換算で0.1質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の表面処理金属材。
(6) 前記ポリウレタン樹脂を含有する皮膜に、さらにカルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物及びチタン化合物からなる群より選ばれる一種以上を含有することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の表面処理金属材。
(7) 前記ポリウレタン樹脂を含有する皮膜の25℃における弾性率が、0.5GPa以上20GPa以下であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の表面処理金属材。
(8) 前記表面処理金属材に、さらに潤滑性付与剤を皮膜固形分の1質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の表面処理金属材。
(9) ポリウレタン樹脂と、酸化ケイ素とを含有する金属表面処理剤であって、前記ポリウレタン樹脂が、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合、シラノール残基の内の一種以上、及びウレア結合を含有し、前記シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合及びシラノール残基の総量と前記酸化ケイ素の合計量が、前記金属表面処理剤の固形分に対し下記数式で表される範囲にあり、
1.6質量% ≦ ((Wa+Wb+Wc+Wd)/W)×100 ≦ 25質量%
W:皮膜固形分の全質量、
Wa:シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成するケイ素の質量
Wb:シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合(−Si−O−R−;RはSi以外の元素)を形成するケイ素の質量
Wc:シラノール残基(−Si−OH)を形成するケイ素の質量
Wd:酸化ケイ素を形成するケイ素の質量
かつ、前記ウレア結合とウレタン結合の総量が樹脂成分総量に対し下記数式で表される範囲にあることを特徴とする、金属表面処理剤。
0.1質量% ≦ ((Ta+Tb)/T)×100 ≦ 10質量%
T:皮膜固形分中の樹脂成分の質量、
Ta:ウレア結合(−NH−CO−NH−)を形成する窒素の質量
Tb:ウレタン結合(−NH−CO−O−)を形成する窒素の質量
(10) 前記ポリウレタン樹脂骨格中に、環状化合物及び芳香族化合物の内の少なくとも1種を含有することを特徴とする、(9)に記載の金属表面処理剤。
(11) 前記ポリウレタン樹脂骨格中に含まれる前記環状化合物が、シクロヘキサノール基、シクロペンタノール基、イソホロン基及びジシクロヘキサン基の内の一種以上を含有する化合物であり、前記ポリウレタン樹脂骨格中に含まれる前記芳香族化合物が、ビスフェノール基、クレゾール基及びジフェニル基の内の一種以上を含有する化合物であることを特徴とする、(10)に記載の金属表面処理剤。
(12) 前記ポリウレタン樹脂が水分散性又は水溶解性であり、カルボキシル基又はスルホン酸基を含有することを特徴とする、(8)〜(11)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
(13) 前記ポリウレタン樹脂の酸当量が1000〜3000であることを特徴とする、(12)に記載の金属表面処理剤。
(14) 前記ポリウレタン樹脂の水分散時の中和剤は、アルカノールアミンであることを特徴とする、(12)に記載の金属表面処理剤。
(15) 前記ポリウレタン樹脂の水分散時の中和剤の沸点が150℃以下であることを特徴とする、(12)に記載の金属表面処理剤。
(16) さらに、ポリオレフィン樹脂を、不揮発固形分の総量に対し5質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする、(9)〜(15)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
(17) リン酸化合物を、皮膜固形分の総量に対しリン換算で0.1質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする、(9)〜(16)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
(18) 前記リン酸化合物は、アンモニア、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸塩であることを特徴とする、(17)に記載の金属表面処理剤。
(19) 前記ポリウレタン樹脂の架橋剤として、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物及び有機チタネート化合物からなる群から選ばれる一種以上を含有することを特徴とする、(9)〜(18)のいずれかに記載の表面処理金属剤。
(20) さらに、潤滑性付与剤を、不揮発固形分の総量に対し1質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする、(9)〜(19)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、環境負荷の高い6価クロムをフリー化し、かつ性能的にも従来クロメート代替可能な性能を兼備した表面処理金属材、及びその皮膜を得るための金属表面処理剤を提供することができる。したがって、本発明は、今後の環境対応の処理剤、材料として非常に有望であり、各産業分野への寄与も大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明の表面処理金属材は、金属材表面の少なくとも一部に、金属表面処理剤を塗布し、焼付け乾燥することにより得られる。金属表面処理剤に使用するポリウレタン樹脂は、シラノール基を含有するポリウレタン樹脂であり、かつポリウレタン樹脂のウレア基量、ウレタン基量の樹脂成分総量に占める組成比が窒素原子換算で0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする。即ち、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合及びシラノール残基の総量と酸化ケイ素の合計量が、皮膜の固形分に対し下記数式で表される範囲にあることを特徴とする。
1.6質量% ≦ ((Wa+Wb+Wc+Wd)/W)×100 ≦ 25質量%
W:皮膜固形分の全質量、
Wa:シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成するケイ素の質量
Wb:シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合(−Si−O−R−;RはSi以外の元素)を形成するケイ素の質量
Wc:シラノール残基(−Si−OH)を形成するケイ素の質量
Wd:酸化ケイ素を形成するケイ素の質量
【0028】
樹脂の中にシラノール基を含有するポリウレタン樹脂は、分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物とポリウレタンプレポリマーとを反応させ、その後、水に分散もしくは溶解し、加水分解することにより形成することができる。ポリウレタンプレポリマーは、1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有する化合物と、1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物とを反応させることにより得ることができる。あるいは、分子内に少なくとも1個以上の活性水素基をする加水分解性ケイ素基含有化合物と、1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有する化合物と、1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物とを同時に反応させても良い。本発明では、このポリウレタン樹脂に鎖延長剤を所定量反応させることで高分子量化を図り、その際、ウレタン樹脂のウレア基量とウレタン基量の合計量の樹脂成分総量に占める組成比が窒素原子換算で0.1質量%以上10質量%以下に制御することによって、高い耐食性と上塗り塗料密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性、加工性、耐傷付き性を両立する皮膜を得ることができる。
【0029】
上記分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物とは、水分により加水分解を受ける加水分解性基がケイ素原子に結合している基を言う。このような加水分解性基の具体例としては、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基等が挙げられる。これらの内、加水分解性が比較的小さく取扱いが容易であることから、アルコキシ基が好ましい。上記加水分解性基は、通常、1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合しているが、塗布後の加水分解性シリル基の反応性、耐アルカリ性、耐溶剤性と言った点から、2〜3個結合しているものが好ましい。
【0030】
上記分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物としては、例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシシラン等が挙げられるが、皮膜形成により効果的に寄与すると言う点で、ポリウレタン樹脂を構成する分子の間にシラノール基を導入するのが望ましく、2個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物が好ましい。
【0031】
シラノール基の含有量は、ポリウレタン樹脂に優れた架橋反応性と性能を与えるため、ポリウレタン樹脂の全固形分に対し、ケイ素換算で0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。0.1質量%未満だと適切に架橋反応に寄与しないため効果が低く、5質量%超では効果が飽和すると共に表面処理剤の安定性が低下することがある。さらに好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。
【0032】
上記1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有する化合物としては、例えば、活性水素基を有する化合物として、アミノ基、水酸基、メルカプト基を有する化合物が挙げられるが、イソシアネート基との反応速度、及び塗布後の機械的物性を考慮すると、水酸基を有する化合物が、反応速度が速く好ましい。また、上記活性水素基を有する化合物の官能基の数は、塗膜の機械的物性を良好に保つと言う点から2〜6が好ましく、2〜4が特に好ましい。また、上記活性水素基を有する化合物の分子量は、最終的な塗膜性能に与えるウレタン結合の含有量、及び製造上の作業性の点から200〜10000が好ましく、300〜5000が特に好ましい。
【0033】
上記活性水素基を有する化合物としては、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0034】
また、上記1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート等の脂肪族イソシアネートや、例えば、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネートや、例えば、m−キシレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、例えば、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1、4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネートや、例えば、トリフェニルメタン−4,4’−4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、2,4,6−トリイソシアネートトルエン等のトリイソシアネートや、例えば、4,4’−ジフェニルジメチルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート等のテトライソシアネートを含むポリイソシアネート単量体や、上記ポリイソシアネート単量体から誘導されたダイマー、トリマー、ビュウレット、アロファネート、カルボジイミドと、上記ポリイソシアネート単量体とから得られるポリイソシアネート誘導体や、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等、分子量200未満の低分子量ポリオールの上記ポリイソシアネート単量体への付加体や、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール等の上記ポリイソシアネート単量体への付加体等が挙げられる。
【0035】
上記鎖延長剤としては、例えば、公知のポリアミン化合物等が使用される。このようなポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンシクロヘキサンジアミン等のジアミン類、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン類、ヒドロキシエチルヒドラジン、ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、3−アミノプロパンジオール等のアミノ基と水酸基を持つ化合物、ヒドラジン類、酸ヒドラジド類等が挙げられる。これらのポリアミン化合物は、単独で、又は2種類以上の混合物で使用される。
【0036】
これら鎖延長剤を、分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物と共に、ポリウレタンプレポリマーに所定量混合することで、ウレタン樹脂のウレア基量とウレタン基量の合計量の樹脂成分総量に占める組成比を、窒素原子換算で0.1質量%以上10質量%以下に制御することができる。また、鎖延長剤は、ポリウレタンプレポリマーの総量に対し、窒素原子換算で、0.1質量%以上10質量%以下の比率で混合させるのが望ましい。0.1質量%未満の混合量では、目的とするウレア量が得られず、耐溶剤性、下地金属材や上塗り塗料との密着性、耐食性、耐傷付き性が低下することがあり、10質量%超の混合量では、皮膜が硬くなり過ぎて加工性が低下する。
【0037】
また、上記ポリウレタン樹脂中に、環状化合物、即ち、脂肪族環もしくは芳香族環を有する化合物を含有することで、皮膜の強度や耐溶剤性を高めることができる。このような環状化合物は、ウレタン樹脂の主鎖に置換基として結合している場合、側鎖として結合している場合の両方がある。また、脂肪族環を有する化合物としては、例えば、シクロヘキサノール基含有化合物、シクロペンタノール基含有化合物、イソホロン基含有化合物、ジシクロヘキシル基含有化合物等が挙げられる。芳香族環を有する化合物としては、ビスフェノール基含有化合物、クレゾール基含有化合物、ジフェニル基含有化合物等が挙げられる。このような脂肪族環もしくは芳香族環を有する化合物の含有量は、ポリウレタン樹脂の全固形分に対する化合物総量の質量%が、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満では効果が乏しく、30質量%超では皮膜の造膜性が低下し、加工性及び皮膜自身の密着性が低下することがある。
【0038】
また、上記ポリウレタン樹脂を構成するポリオール分子中に、分岐構造を有するモノマーを含有することで、皮膜形成時の架橋反応性をより高め、架橋密度を高くして耐食性、耐溶剤性、耐アルカリ性を向上させることができる。分岐構造を有するモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ヒマシ油等が挙げられる。配合する量としては、ポリウレタン樹脂の全固形分に対する上記モノマーの質量%が、0.1質量%以上30質量%以下が好ましい。0.1質量%未満では効果が乏しく、30質量%超では皮膜の硬度が高くなり過ぎ、加工性及び皮膜自身の密着性が低下することがある。
【0039】
また、ポリウレタン樹脂を水中に分散させるために、ポリウレタンプレポリマー中に親水性基を導入する。親水性基を導入するには、例えば、分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有し、かつ、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホネート基、エポキシ基、ポリオキシエチレン基等の親水性基を含有する化合物を、少なくとも1種以上、上記ポリウレタンプレポリマー製造時に共重合させればよい。親水性基としては、カルボキシル基又はスルホン酸基を選定することで、特に優れた水分散性、処理剤中におけるエマルジョンの安定性を示す。さらに、カルボキシル基又はスルホン酸基の含有量は、酸当量で1000〜3000であることが好ましい。1000未満ではエマルジョンの安定性が十分ではなく、処理剤の安定性が低下することがあり、3000超では耐アルカリ性や耐溶剤性が低下することがある。上記親水性基含有化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6−ジオキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸等のカルボキシル基含有化合物もしくはこれらの誘導体、又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリオール、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等無水基を有する化合物と活性水素基を有する化合物とを反応させてなるカルボキシル基含有化合物もしくはこれらの誘導体、例えば、2−オキシエタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホコハク酸、5−スルホイソフタル酸、スルファニル酸等のスルホン酸含有化合物及びこれらの誘導体、又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリオール、エチレンオキサイドの繰り返し単位を少なくとも3質量%以上含有し、ポリマー中に少なくとも1個以上の活性水素基を含有する分子量300〜10000のポリエチレン−ポリアルキレン共重合体等のノニオン基含有化合物、又はこれらを共重合して得られるポリエーテルエステルポリオール等が挙げられる。共重合の際にはこれら親水性基含有化合物を単独で、又は2種以上組み合わせて使用する。
【0040】
上記ポリウレタン樹脂において、水中に良好に溶解又は分散させるために、中和剤が使用される。中和において使用できる中和剤としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリメチルアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物等の塩基性物質が挙げられるが、造膜性、表面処理剤の安定性の観点から、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミンを使用することが好ましい。更に、中和剤は沸点が150℃以下であることが好ましい。沸点150℃超では、焼付け乾燥後に中和剤が皮膜に多く残存し、皮膜の造膜性を低下させ、耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性を低下させることがある。これらの中和剤は、単独で、又は2種以上の混合物で使用してもよい。中和剤の添加方法としては、上記ポリウレタンプレポリマーに直接添加してもよいし、水中に溶解、又は分散させる時に水中に添加しても良い。中和剤の添加量は、カルボキシル基等の親水性基に対して0.1〜2.0当量、より好ましくは0.3〜1.3当量である。
【0041】
また、上記カルボキシル基等の親水性基を含有するポリウレタンプレポリマーの水溶解又は分散性を更に良くするため、界面活性剤を使用してもよい。このような界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体のようなノニオン系界面活性剤、又は、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン系界面活性剤が用いられる。しかし、耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性等の性能から、界面活性剤を含まないソープフリー型が好ましい。
【0042】
前記ポリウレタン樹脂にカルボキシル基又はスルホン酸基を含有し、酸当量が1000〜3000であり、水分散時の中和剤として沸点150℃以下のアルカノールアミンを選定することで、界面活性剤を使用することなく自己乳化での水分散が可能となり、焼付け乾燥後の皮膜の造膜性が最も向上する。即ち、特に耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性等の諸性能を最も向上させることが可能である。
【0043】
また、上記ポリウレタンプレポリマーを合成する際には、有機溶剤を使用することも可能である。有機溶剤を使用する場合、比較的水への溶解度の高いものが好ましく、このような有機溶剤の具体例としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0044】
また、本発明のポリウレタン樹脂が有するシラノール基のシロキサン結合形成促進のために、硬化触媒を添加しても良い。本発明に係るポリウレタン樹脂においては、強塩基性第3級アミンが、このポリウレタン樹脂を塗膜化した際に、耐水性、耐溶剤性を悪化させることなく特異的にシロキサン結合の形成触媒として働くことにより、効率よく架橋構造を導入することが可能となる。この強塩基性第3級アミンは、pKaが11以上であることを特徴とし、特に、1、8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)又は1、6−ジアザビシクロ[3.4.0]ノネン−5が好適に用いられる。この硬化触媒である強塩基性第3級アミンは、ポリウレタンプレポリマー合成時、ポリウレタンプレポリマー合成後、あるいはポリウレタンプレポリマーを水に分散、又は溶解した後、添加してもよい。
【0045】
また、本発明に係るポリウレタンエマルションには、塗膜形成性を改善することを目的として、必要に応じて造膜助剤を添加してもよい。このような造膜助剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等のアルコール類、セロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル等のエーテル類、ブチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル類等が挙げられる。これら造膜助剤も、必要に応じて単独又は2種以上の混合物で用いられる。
【0046】
また、本発明における皮膜においては、ポリウレタン樹脂の他に、他の樹脂を混合することも可能である。その場合、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合、シラノール残基を含むシラノール基に起因した結合の総量と酸化ケイ素との合計量が皮膜固形分に対するケイ素量換算で1.6質量%以上25質量%以下であり、かつ、ウレア結合とウレタン結合の総量が樹脂成分の総量に対し窒素原子量換算で0.1質量%以上10質量%以下の条件を満たす量であれば、適当量配合することができる。即ち、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合及びシラノール残基の総量と酸化ケイ素の合計量が、皮膜の固形分に対し下記数式で表される範囲にあり、
1.6質量% ≦ ((Wa+Wb+Wc+Wd)/W)×100 ≦ 25質量%
W:皮膜固形分の全質量、
Wa:シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成するケイ素の質量
Wb:シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合(−Si−O−R−;RはSi以外の元素)を形成するケイ素の質量
Wc:シラノール残基(−Si−OH)を形成するケイ素の質量
Wd:酸化ケイ素を形成するケイ素の質量
かつ、ウレア結合とウレタン結合の総量が樹脂成分総量に対し下記数式で表される範囲にある場合には、適当量配合することができる。
0.1質量% ≦ ((Ta+Tb)/T)×100 ≦ 10質量%
T:皮膜固形分中の樹脂成分の質量、
Ta:ウレア結合(−NH−CO−NH−)を形成する窒素の質量
Tb:ウレタン結合(−NH−CO−O−)を形成する窒素の質量
【0047】
ここで、上記「樹脂成分の総量」とは、皮膜中にポリウレタン樹脂のみを含む場合はポリウレタン樹脂の総量、ポリウレタン樹脂以外の他の樹脂を含む場合はポリウレタン樹脂及び他の樹脂の合計量を意味する。また、上記他の樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂等が例示される。複合させる樹脂としてはポリオレフィン樹脂が好ましい。このように、皮膜中にポリウレタン樹脂とポリオレフィン樹脂を含む場合には、皮膜として強靭な性質を有し、かつ密着性にも優れるポリウレタン樹脂に、腐食因子のバリア性及び柔軟性に優れるポリオレフィン樹脂を含めることにより、皮膜の強度や密着性に加えて、皮膜の耐食性や加工性をさらに向上させることができるという複合効果を有する。ポリオレフィン樹脂の含有量は5質量%以上40質量であることが好ましい。5質量%未満では上記複合効果が乏しく、40質量%以上ではポリウレタン樹脂の特性が十分に発揮できなくなることがある。
【0048】
次に、酸化ケイ素について説明する。酸化ケイ素は、例えば、二酸化ケイ素等が挙げられる。酸化ケイ素は、水中に安定に分散し沈降が生じない化合物であれば良く、中でも、コロイダルシリカを使用した場合に、耐溶剤性、耐食性向上効果が顕著に現れるため好ましい。例えば、「スノーテックスO」「スノーテックスOS」「スノーテックスOXS」「スノーテックスN」「スノーテックスNS」「スノーテックスNXS」(いずれも日産
化学工業社製)等の市販のコロイダルシリカ粒子、「スノーテックスUP」「スノーテックスPS」(日産化学工業社製)のような繊維状コロイダルシリカ等を、表面処理剤のpHに応じて用いることができる。
【0049】
酸化ケイ素の含有量は、皮膜の固形分に対し、ケイ素換算で1.5質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。1.5質量%未満では効果が乏しく、20質量%超では効果が飽和して不経済であると共に、加工性、耐食性が低下することがある。表面処理金属材の場合には、皮膜の全固形分に対し、酸化ケイ素とシラノール基起因の結合との合計量で、1.6質量%以上25質量%以下が好ましい皮膜中のケイ素含有量となる。
【0050】
次に、リン酸化合物について説明する。リン酸化合物は、例えば、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム等が挙げられる。その中で、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムのリン酸アンモニウム系化合物、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムのリン酸ナトリウム系化合物、リン酸二水素カルシウム等のリン酸カルシウム系化合物、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム等のリン酸マグネシウム系化合物の内、少なくとも1種の化合物を使用した場合に、耐溶剤性、耐食性向上効果が顕著に現れるため好ましい。これらは、水溶性又は酸もしくはアルカリに可溶であれば、表面処理剤のpHに応じて使用することが可能であり、純粋な化合物又は水和物等いずれも使用可能である。
【0051】
リン酸化合物の含有量は、皮膜の固形分に対し、リン換算で0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。0.1質量%未満では効果が乏しく、10質量%超では皮膜への水和性が増大し、耐食性が低下することがある。
【0052】
また、架橋反応をさらに低い焼付け温度で効率よく行うと共に、架橋剤自身の有する特性を皮膜に付加するための手段として、架橋剤及び添加剤を工夫する方法が挙げられる。架橋剤は、水溶性あるいは水分散性であればいずれも使用可能であるが、その中でもカルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、有機チタネート化合物から選ばれる1種以上が用いられることが好ましい。
【0053】
カルボジイミド基含有化合物としては、芳香族カルボジイミド化合物、脂肪族カルボジイミド化合物等が挙げられ、主にカルボキシル基、水酸基等の活性水素基と架橋構造を形成する。例えば、カルボジライトV−02、同V−02−L2、同E−01、同E−02、同E−03A、同E−04(以上日清紡社製)が例示される。
【0054】
オキサゾリン基含有化合物としては、例えば、エポクロスK−2010E、同K−2020E、同K−2030E、同WS−500、同WS−700(以上、日本触媒社製)が例示される。オキサゾリン基含有化合物は、主にカルボキシル基と反応して架橋構造を形成する。
【0055】
有機チタネート化合物としては、例えば、オルガチックスTC−300(ジヒドロキスビス(アンモニウムラクテート)チタニウム;松本製薬工業社製)、TC−400(ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート;松本製薬工業社製)等が例示される。チタン化合物は、主にカルボキシル基、水酸基等の活性水素基と架橋構造を形成する。
【0056】
これらの架橋剤の好ましい添加量は、樹脂の酸当量の値にもよるが、皮膜の硬化性と伸び、硬さ等物性上のバランスから、主樹脂(本発明の場合は、ポリウレタン樹脂)に対する架橋剤全量の固形分比で5質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0057】
さらに、潤滑性付与剤を適宜添加することにより、良好な性能を保ちつつ、低い摩擦係数の製品が得られ、加工性、耐傷付き性に優れた表面処理金属材が得られる。潤滑性付与剤は、代表的なものとしては、水分散性のポリエチレン樹脂、四フッ化エチレン樹脂、ステアリン酸化合物、天然パラフィンワックス等が挙げられる。中でも、ポリエチレン樹脂、四フッ化エチレン樹脂を使用した場合に、潤滑性低減効果が顕著に現れるため好ましい。また、上記潤滑性付与剤は、皮膜中に含有する形で付与するか、あるいは皮膜表面に存在する形で付与する。皮膜表面に存在する場合は、皮膜形成後に潤滑性付与剤を塗布する場合の他、元々皮膜中に含まれていた潤滑性付与剤が浮き上がって表面に存在するようになる場合がある。
【0058】
潤滑性付与剤は、処理皮膜の固形分換算で1質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。1質量%未満では効果が乏しく、40質量%超では摩擦係数低下効果が飽和すると共に、皮膜形成能が低下し、耐食性が低下する。
【0059】
本発明に用いる金属材としては、特に限定されないが、例えば、Alキルド鋼板、Ti、Nb等を添加した極低炭素鋼板、及びこれらにP、Si、Mn等の強化元素を添加した高強度鋼板、及びそれらに各種めっきを施した材料、ステンレス鋼に代表されるCr含有鋼等種々のものが適用できる。また、その他の金属Al及びAl系合金材料、金属Ti及びTi系合金材料、Mg系合金材料等、Fe系以外の金属材料に適用することが可能である。これらの中には、防錆コーティングとしての必要性が少ないものもあるが、傷つき防止や意匠性コーティングとして適用することも可能である。それらの中で、Zn系めっき鋼板に適用する場合が特に好ましい。
【0060】
鋼材の被覆層として、特に限定されないが、特に、Znめっき又はZn−Ni、Zn−Fe、Zn−Mg、Zn−Al、Zn−Cr、Zn−Ti、Zn−Mn、Zn−Al−Mg、Zn−Al−Si、Zn−Al−Mg−Si等のZn系合金めっきを施したものが最も優れた特性を示し、クロメート皮膜に代替可能である。また、Al又はAlとSi、Zn、Mgの少なくとも1種からなる合金、例えばAl−Si系合金、Al−Zn系合金、Al−Si−Mg合金等のAl系めっき、もしくはSnとZnの合金めっき等にも適用可能である。
【0061】
金属材は、板状以外にも鋼管等の管状のもの、鋼矢板やH型鋼のような矢板状のもの、棒鋼や線材等の線状のもの等、さまざまな形状の金属材に適用することが可能である。
【0062】
本発明の皮膜の厚みは、通常の用途では0.1μm以上5μm以下が好ましい。0.1μm未満では耐食性に対する寄与が少ない。5μm以上では効果が飽和し不経済である。
【0063】
形成した皮膜には、例えば、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合、シラノール残基の1種以上と、酸化ケイ素が、合計でケイ素量換算で1.6質量%以上25質量%以下含有されているが、以上説明したような皮膜を構成する各種成分は、質量分析、蛍光X線分析、核磁気共鳴分光分析、赤外分光分析、X線光電子分光分析、X線マイクロアナライザー等、既知の方法を使用し、あるいは組み合わせることにより、定量分析が可能である。ここで、本発明において、上記「他の官能基」とは、例えば、水酸基、アミノ基、イソシアネート基、イミド基、オキサゾリン基、エポキシ基、アルコキシル基等の、シラノール基と反応して脱水縮合結合や架橋結合を形成する官能基の総称を意味している。
【0064】
金属材が板状のものであった場合、プレス成形加工を受けることが多く、そのため皮膜弾性率は高い値を有していることが望ましい。本発明では、金属材上に形成したウレタン樹脂系皮膜の弾性率が25℃において0.5GPa以上20GPa以下であることが好ましい。この場合の弾性率は、微小硬度計による樹脂皮膜の押し込み深さより求めた動的貯蔵弾性率(E’)を表す。この動的貯蔵弾性率が0.5GPa未満の場合、皮膜の硬度が不足し、しごき加工等の強い加工により皮膜が剥離もしくは傷付きが生じる懸念がある。20GPa超の場合、皮膜が硬くなり過ぎて伸び率が低下し、加工性や加工後の耐食性に劣ることが懸念される。
【0065】
金属材への表面処理剤の塗布は、スプレー塗布、ロールコート、バーコート、浸漬、静電塗布等の公知の方法で可能である。焼付け乾燥は、熱風乾燥炉、誘導加熱炉、近赤外線炉、直火炉等を用いる公知の方法による焼付け乾燥、又は、これらを組み合わせた方法で行えばよい。また、使用する樹脂の種類によっては、紫外線や電子線等のエネルギー線により硬化させることができる。加熱温度としては、到達板温度で100℃〜250℃が好ましい。100℃未満では、十分に架橋させるためには長時間の乾燥が必要となり、実際的ではない。また、250℃超では、有機樹脂の熱分解が生じ、耐食性に悪影響を及ぼす。工業的には、130〜200℃がより好ましい。また、加熱乾燥後の冷却は、水冷、空冷等の公知の方法又はその組み合わせで可能である。
【0066】
本発明においては、ウレタン樹脂系皮膜を形成する前に、金属材にリン酸塩処理皮膜等の化成処理皮膜を加えることにより、あるいは同様の皮膜の2段処理により、さらには、それ以上の複層化処理により、必要に応じて、さらに耐食性向上や機能付与を図ることが可能である。また、めっき後の処理として、化成処理以前に、溶融めっき後の外観均一処理であるゼロスパングル処理、めっき層の改質処理である焼鈍処理、表面状態や材質の調整のための調質圧延等があり得るが、本発明においては、特にこれらを限定せず、適用することも可能である。
【実施例】
【0067】
以下、本発明に係る製造例及び実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例にのみ限定されるものではない。
【0068】
<製造例1:ポリウレタン樹脂A>
攪拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管、温度計を備えた4つ口フラスコに、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン145.37g、ジメチロールプロピオン酸20.08g、ネオペンチルグリコール15.62g、分子量1000のポリカーボネートジオール74.93g、溶剤としてアセトニトリル64.00gを加え、窒素雰囲気下、75℃に昇温、3時間攪拌した。この場合、ウレア基とウレタン基の含有量は合わせて窒素原子換算で3.3質量%になる。所定のアミン当量に達したことを確認し、この反応液を40℃まで降温させた後、トリエチルアミン(沸点89℃)15.16gを加え、さらに硬化触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)0.25gを添加し、ポリウレタンプレポリマーのアセトニトリル溶液を得た。このポリウレタンプレポリマー327.82gを、KBM−602(信越化学工業(株)製)23.55g、ヒドラジン一水和物11.43gを水700.00gに溶解させた水溶液中にホモディスパーを用いて分散させることにより鎖延長反応、エマルション化し、さらに50℃、150mmHgの減圧下でポリウレタンプレポリマー合成時に使用したアセトニトリルを留去することにより、溶剤を実質的に含まない、固形分濃度30質量%、粘度30mPa・s(25℃)、酸当量2000のポリウレタン樹脂エマルションAを得た。また、この樹脂の単独皮膜の25℃における弾性率は、3.5GPaであった。なお、製造例1〜5においては、(株)フィッシャー・インストルメンツ社製の超微小硬さ試験機「フィッシャースコープH−100」を用いて測定温度25℃で弾性率を測定した。
【0069】
<製造例2:ポリウレタン樹脂B>
攪拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管、温度計を備えた4つ口フラスコに、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン143.57g、ジメチロールプロピオン酸21.56g、ネオペンチルグリコール3.35g、ビスフェノールAのPOモル付加物55.34g、分子量1000のポリカーボネートジオール32.18g、溶剤としてアセトニトリル64.00gを加え、窒素雰囲気下、75℃に昇温、3時間攪拌した。この場合、ウレア基とウレタン基濃度は合わせて窒素原子換算で4.5質量%になる。所定のアミン当量に達したことを確認し、この反応液を40℃まで降温させた後、トリエチルアミン(沸点89℃)16.25gを加え、さらに硬化触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)0.25gを添加し、ポリウレタンプレポリマーのアセトニトリル溶液を得た。このポリウレタンプレポリマー331.77gを、KBM−602(信越化学工業(株)製)21.33g、ヒドラジン一水和物10.34gを水700.00gに溶解させた水溶液中にホモディスパーを用いて分散させることにより鎖延長反応、エマルション化し、さらに50℃、150mmHgの減圧下でポリウレタンプレポリマー合成時に使用したアセトニトリルを留去することにより、溶剤を実質的に含まない、固形分濃度30質量%、粘度30mPa・s(25℃)、酸当量1900のポリウレタン樹脂エマルションBを得た。また、この樹脂の単独皮膜の25℃における弾性率は、4.8GPaであった。
【0070】
<製造例3:ポリウレタン樹脂C>
攪拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管、温度計を備えた4つ口フラスコに、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン139.35g、ジメチロールプロピオン酸21.39g、ネオペンチルグリコール8.32g、トリメチロールプロパン7.14g、分子量1000のポリカーボネートジオール79.81g、溶剤としてアセトニトリル64.00gを加え、窒素雰囲気下、75℃に昇温、3時間攪拌した。この場合、ウレア基とウレタン基濃度は合わせて窒素原子換算で2.3質量%になる。所定のアミン当量に達したことを確認し、この反応液を40℃まで降温させた後、トリエチルアミン(沸点89℃)16.12gを加え、さらに硬化触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)0.25gを添加し、ポリウレタンプレポリマーのアセトニトリル溶液を得た。このポリウレタンプレポリマー314.58gを、KBM−602(信越化学工業(株)製)20.77g、ヒドラジン一水和物10.08gを水700.00gに溶解させた水溶液中にホモディスパーを用いて分散させることにより鎖延長反応、エマルション化し、さらに50℃、150mmHgの減圧下でポリウレタンプレポリマー合成時に使用したアセトニトリルを留去することにより、溶剤を実質的に含まない、固形分濃度30質量%、粘度30mPa・s(25℃)、酸当量1900のポリウレタン樹脂エマルションCを得た。また、この樹脂の単独皮膜25℃における弾性率は、3.3GPaであった。
【0071】
<製造例4:ポリウレタン樹脂D>
攪拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管、温度計を備えた4つ口フラスコに、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン145.37g、ジメチロールプロピオン酸20.08g、ネオペンチルグリコール15.62g、分子量1000のポリカーボネートジオール74.93g、溶剤としてアセトニトリル64.00gを加え、窒素雰囲気下、75℃に昇温、3時間攪拌した。この場合、ウレア基とウレタン基濃度は合わせて窒素原子換算で6.8質量%になる。所定のアミン当量に達したことを確認し、この反応液を40℃まで降温させた後、ジメチルエタノールアミン(沸点135℃)13.37gを加え、さらに硬化触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)0.25gを添加し、ポリウレタンプレポリマーのアセトニトリル溶液を得た。このポリウレタンプレポリマー327.98gを、KBM−602(信越化学工業(株)製)23.69g、ヒドラジン一水和物11.49gを水700.00gに溶解させた水溶液中にホモディスパーを用いて分散させることにより鎖延長反応、エマルション化し、さらに50℃、150mmHgの減圧下でポリウレタンプレポリマー合成時に使用したアセトニトリルを留去することにより、溶剤を実質的に含まない、固形分濃度30質量%、粘度30mPa・s(25℃)、酸当量2000のポリウレタン樹脂エマルションDを得た。また、この樹脂の単独皮膜の25℃における弾性率は、5.5GPaであった。
【0072】
<製造例5:ポリウレタン樹脂E>
攪拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管、温度計を備えた4つ口フラスコに、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)155.87g、ジメチロールプロピオン酸27.36g、ネオペンチルグリコール1.93g、1,6−ヘキサンジオール4.39g、アジピン酸、ネオペンチルグリコール、及び1,6−ヘキサンジオールからなる分子量1000のポリエステルポリオール111.38g、溶剤としてN−メチルピロリドン130gを添加し、窒素雰囲気下、80℃において4時間攪拌した。この場合、ウレア基とウレタン基濃度は合わせて窒素原子換算で15質量%になる。所定のアミン当量に達したことを確認し、この反応液を40℃まで降温させた後、トリエチルアミン(沸点89℃)20.00gを加えて中和反応を行わせ、ポリウレタンプレポリマーのN−メチルピロリドン溶液を得た。このポリウレタンプレポリマー436.41gを、ヒドラジン一水和物7.77gを水543.81g中に溶解させた水溶液中にホモディスパーを用いて分散させることにより鎖延長反応、エマルション化し、固形分濃度33質量%、粘度100mPa・s(25℃)、酸当量1500のポリウレタン樹脂エマルションEを得た。また、この樹脂の単独皮膜の25℃における弾性率は、20.3GPaであった。
【0073】
製造例1のポリウレタン樹脂Aと全く同じ原料、製造方法で、酸当量を800に調整したものをポリウレタン樹脂Aa、酸当量を3500に調整したものをポリウレタン樹脂Ab、中和剤をトリエチルアミン(沸点89℃)から2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(沸点165℃)に変更したものをポリウレタン樹脂Ac、アンモニアに変更したものをポリウレタン樹脂Adとして製造した。次いで、上記の各種ウレタン樹脂を使用し、表1に示す各種添加剤を混合し、金属表面処理剤を得た。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の中に示した処理剤中のポリオレフィン樹脂、コロイダルシリカ及び架橋剤の内容は以下である。
ポリオレフィン樹脂:HYTEC S−3121(東邦化学工業社製)
コロイダルシリカF:スノーテックスN(日産化学工業社製)
コロイダルシリカG:スノーテックスNS(日産化学工業社製)
架橋剤H:カルボジイミド化合物;カルボジライトE−03A(日清紡社製)
架橋剤J:オキサゾリン化合物;エポクロスWS−700(日本触媒社製)
架橋剤K:有機チタネート化合物;オルガチックスTC−400(松本製薬工業社製)
固形潤滑剤:ポリエチレン系、ケミパールW500(三井化学社製)
【0076】
金属板として、以下の金属材料を使用した。
L:電気亜鉛めっき鋼板;板厚1.0mm、めっき付着量20g/m
M:電気亜鉛−Ni合金めっき鋼板;板厚0.8mm、めっき付着量20g/m
N:溶融亜鉛めっき鋼板;板厚0.9mm、めっき付着量50g/m
P:溶融亜鉛−鉄合金めっき鋼板;板厚0.8mm、めっき付着量45g/m
Q:溶融亜鉛−11%Al−3%Mg−0.2%Si;板厚0.8mm、めっき付着量60g/m
R:溶融亜鉛−55%Al;板厚0.8mm、めっき付着量75g/m
S:ステンレス鋼板;板厚0.5mm、フェライト系ステンレス鋼板、
鋼成分:C;0.008質量%、Si;0.07質量%、Mn;0.15質量%、P;0.011質量%、S;0.009質量%、Al;0.067質量%、Cr;17.3質量%、Mo;1.51質量%、N;0.0051質量%、Ti;0.22質量%、残部Fe及び不可避的不純物
【0077】
金属板は、使用直前にアルカリ脱脂を行った後水洗、乾燥し使用した。その上に、表1に示す表面処理剤をバーコータにより塗布し、熱風乾燥炉で焼付け乾燥後、水洗、乾燥し供試材とした。焼付け乾燥時の炉温は300℃、到達温度は到達板温度で150℃とした。このようにして得られた供試材の詳細を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
作製した供試材に対して、以下の評価を行った。
(1) 皮膜密着性
供試材の皮膜面に1mmの碁盤目をカッターナイフで入れ、さらに、塗膜面が凸となるようにエリクセン試験機で7mm押し出した後、テープ剥離試験を行った。碁盤目の入れ方、エリクセンの押し出し方法、テープ剥離の方法については、JIS−K5400.8.2及びJIS−K5400.8.5記載の方法に準じて実施した。テープ剥離後の評価は、JIS−K5400.8.5記載の評価の例図によって、10点満点評価で行った。
(2) 上塗り塗料密着性
供試材の表面にメラミンアルキッド塗料(スーパーラック100、日本ペイント社製)をバーコータで乾燥膜厚20μmとなるように塗布し、120℃で25分間焼き付けて塗板を作製した。一昼夜放置後沸騰水中に30分間浸漬し、取り出して1日放置してから、1mm間隔の碁盤目カット疵を100個入れ、その部分にセロハンテープ(ニチバン社製)を貼り、剥離した後の皮膜状態を観察し下記基準で評価した。碁盤目の入れ方、テープ剥離の方法については、JIS−K5400.8.2及びJIS−K5400.8.5記載の方法に準じて実施した。
5 : 剥離個数0
4 : 剥離個数5以下
3 : 剥離個数10以下
2 : 剥離個数50以下
1 : 剥離個数51以上
(3) 耐溶剤性
供試材の皮膜面について、エチルメチルケトンによるラビング試験を実施した。15mmφのシリコンゴム製円柱先端部にガーゼを固定し、エチルメチルケトンを5mL含ませた後、荷重4.9Nの条件で10回摺動した。その試験片のエッジと裏面をテープシールし、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を行った。48時間後の白錆発生状況を観察し下記基準で評価した。
5 : 白錆発生無し
4 : 白錆発生1%未満
3 : 白錆発生1%以上5%未満
2 : 白錆発生5%以上20%未満
1 : 白錆発生20%以上
(4) 耐アルカリ性
供試材を55℃のアルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53、日本ペイント社製)2質量%水溶液(pH12.5)に攪拌しながら2分間浸漬した後、試験板のエッジと裏面をテープシールし、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を行った。72時間後の白錆発生状況を観察し下記基準で評価した。
5 : 白錆発生無し
4 : 白錆発生1%未満
3 : 白錆発生1%以上5%未満
2 : 白錆発生5%以上20%未満
1 : 白錆発生20%以上
(5) 耐食性
(i) 平板:
端面及び裏面をシールした平板試験片について、JIS−Z2371に規定されている塩水噴霧試験(SST)を実施し、240時間後の白錆の発生率で評価した。耐食性評価基準を以下に示す。
5 : 白錆発生無し
4 : 白錆発生1%未満
3 : 白錆発生1%以上5%未満
2 : 白錆発生5%以上20%未満
1 : 白錆発生20%以上
(ii) 加工材:
端面及び裏面をシールした平板試験片について、中央部に7mmエリクセン加工を施した後、JIS−Z2371に規定されている塩水噴霧試験(SST)を実施し、120時間後のエリクセン部の白錆発生率で評価した。耐食性評価基準を以下に示す。
5 : 白錆発生無し
4 : 白錆発生1%未満
3 : 白錆発生1%以上5%未満
2 : 白錆発生5%以上20%未満
1 : 白錆発生20%以上
(6) 加工性及び耐傷付き性
加工油としてZ3(出光興産製)及びG−6231F(日本工作油社製)を塗油後に角筒深絞り加工を実施し、試験後の外観を観察し評価した。ブランク径100mm、角筒ポンチ幅50mm、肩R5mm、しわ押さえ圧9.8kNの条件で絞り加工を行った。
5 : 変化無し
4 : 僅かに皮膜変色
3 : 皮膜が変色もしくは僅かに加工傷発生
2 : 加工傷発生もしくは僅かにカス発生
1 : 加工傷発生大もしくは皮膜剥離大
【0080】
【表3】

【0081】
本発明の比較例であるNo.41、No.42は、ポリウレタン樹脂のウレア基、ウレタン基量が多過ぎるため、加工性や加工部耐食性に劣ることがわかった。また、No.42、No.43にはシラノール基も含まれていないため、耐溶剤性や耐食性に比較的劣ることがわかった。No.44は、リン酸化合物が含有されているが、酸化ケイ素が含まれていないため耐食性に劣ることがわかった。No.35は、リン酸化合物、酸化ケイ素のいずれも含まれていないため、耐溶剤性及び耐食性に劣ることがわかった。No.46は、シリカの量が多すぎるため、皮膜密着性、加工性及び加工部耐食性に劣ることがわかった。また、No.37は常温7日で処理剤がゲル化した。それ以外は常温14日経過後も外観上の異常は認められなかった。
【0082】
No.1〜40の本発明の実施例の皮膜構成を用いることにより、良好な皮膜密着性、上塗り塗料密着性、耐アルカリ性、耐溶剤性、耐食性、加工性、耐傷付き性を得ることができることがわかった。
【0083】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、環境負荷性の高い6価クロムを含まず、かつ極めて高い耐食性能を有し、良好な上塗り塗料密着性、耐アルカリ性、耐溶剤性、加工性を有する表面処理金属材及び金属表面処理剤に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材表面の少なくとも一部に、ポリウレタン樹脂、酸化ケイ素を少なくとも含有する皮膜を有する表面処理金属材であって、
前記ポリウレタン樹脂が、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合、シラノール残基の内の一種以上、及びウレア結合を含有し、
前記シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合及びシラノール残基の総量と前記酸化ケイ素の合計量が、前記皮膜の固形分に対し下記数式で表される範囲にあり、
1.6質量% ≦ ((Wa+Wb+Wc+Wd)/W)×100 ≦ 25質量%
W:皮膜固形分の全質量、
Wa:シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成するケイ素の質量
Wb:シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合(−Si−O−R−;RはSi以外の元素)を形成するケイ素の質量
Wc:シラノール残基(−Si−OH)を形成するケイ素の質量
Wd:酸化ケイ素を形成するケイ素の質量
かつ、
前記ウレア結合とウレタン結合の総量が樹脂成分総量に対し下記数式で表される範囲にあることを特徴とする、表面処理金属材。
0.1質量% ≦ ((Ta+Tb)/T)×100 ≦ 10質量%
T:皮膜固形分中の樹脂成分の質量、
Ta:ウレア結合(−NH−CO−NH−)を形成する窒素の質量
Tb:ウレタン結合(−NH−CO−O−)を形成する窒素の質量
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂骨格中に、さらに環状化合物及び芳香族化合物の内の少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属材。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂骨格中に含まれる前記環状化合物が、シクロヘキサノール基、シクロペンタノール基、イソホロン基及びジシクロヘキシル基の内の一種以上であり、
前記ポリウレタン樹脂骨格中に含まれる前記芳香族化合物が、ビスフェノール基、クレゾール基及びジフェニル基の内の一種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の表面処理金属材。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂を含有する皮膜に、さらにポリオレフィン樹脂を5質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理金属材。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂を含有する皮膜に、さらにリン酸化合物をリン換算で0.1質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理金属材。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂を含有する皮膜に、さらにカルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物及びチタン化合物からなる群より選ばれる一種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理金属材。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂を含有する皮膜の25℃における弾性率が、0.5GPa以上20GPa以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の表面処理金属材。
【請求項8】
前記表面処理金属材に、さらに潤滑性付与剤を皮膜固形分の1質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の表面処理金属材。
【請求項9】
ポリウレタン樹脂と、酸化ケイ素とを含有する金属表面処理剤であって、
前記ポリウレタン樹脂が、シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合、シラノール残基の内の一種以上、及びウレア結合を含有し、
前記シロキサン結合、シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合及びシラノール残基の総量と前記酸化ケイ素の合計量が、前記金属表面処理剤の固形分に対し下記数式で表される範囲にあり、
1.6質量% ≦ ((Wa+Wb+Wc+Wd)/W)×100 ≦ 25質量%
W:皮膜固形分の全質量、
Wa:シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成するケイ素の質量
Wb:シラノール基と他の官能基との脱水縮合結合(−Si−O−R−;RはSi以外の元素)を形成するケイ素の質量
Wc:シラノール残基(−Si−OH)を形成するケイ素の質量
Wd:酸化ケイ素を形成するケイ素の質量
かつ、
前記ウレア結合とウレタン結合の総量が樹脂成分総量に対し下記数式で表される範囲にあることを特徴とする、金属表面処理剤。
0.1質量% ≦ ((Ta+Tb)/T)×100 ≦ 10質量%
T:皮膜固形分中の樹脂成分の質量、
Ta:ウレア結合(−NH−CO−NH−)を形成する窒素の質量
Tb:ウレタン結合(−NH−CO−O−)を形成する窒素の質量
【請求項10】
前記ポリウレタン樹脂骨格中に、環状化合物及び芳香族化合物の内の少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項9に記載の金属表面処理剤。
【請求項11】
前記ポリウレタン樹脂骨格中に含まれる前記環状化合物が、シクロヘキサノール基、シクロペンタノール基、イソホロン基及びジシクロヘキサン基の内の一種以上を含有する化合物であり、前記ポリウレタン樹脂骨格中に含まれる前記芳香族化合物が、ビスフェノール基、クレゾール基及びジフェニル基の内の一種以上を含有する化合物であることを特徴とする、請求項10に記載の金属表面処理剤。
【請求項12】
前記ポリウレタン樹脂が水分散性又は水溶解性であり、カルボキシル基又はスルホン酸基を含有することを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項13】
前記ポリウレタン樹脂の酸当量が1000〜3000であることを特徴とする、請求項12に記載の金属表面処理剤。
【請求項14】
前記ポリウレタン樹脂の水分散時の中和剤は、アルカノールアミンであることを特徴とする、請求項12に記載の金属表面処理剤。
【請求項15】
前記ポリウレタン樹脂の水分散時の中和剤の沸点が150℃以下であることを特徴とする、請求項12に記載の金属表面処理剤。
【請求項16】
さらに、ポリオレフィン樹脂を、不揮発固形分の総量に対し5質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする、請求項9〜15のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項17】
リン酸化合物を、皮膜固形分の総量に対しリン換算で0.1質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする、請求項9〜16のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項18】
前記リン酸化合物は、アンモニア、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸塩であることを特徴とする、請求項17に記載の金属表面処理剤。
【請求項19】
前記ポリウレタン樹脂の架橋剤として、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物及び有機チタネート化合物からなる群から選ばれる一種以上を含有することを特徴とする、請求項9〜18のいずれかに記載の表面処理金属剤。
【請求項20】
さらに、潤滑性付与剤を、不揮発固形分の総量に対し1質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする、請求項9〜19のいずれかに記載の金属表面処理剤。

【公開番号】特開2008−25023(P2008−25023A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135983(P2007−135983)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(501140544)三井化学ポリウレタン株式会社 (115)
【Fターム(参考)】