説明

表面処理銅箔及びその表面処理銅箔の製造方法並びにその表面処理銅箔を用いた銅張積層板

【課題】シランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔と樹脂基材との熱間プレス加工し張り合わせたときの密着性を向上させる表面処理銅箔の提供を目的とする。
【解決手段】上記課題を達成するため、銅箔の樹脂基材層との接着面にシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔であって、当該シランカップリング剤処理層は、化学構造式の両端部に−Si(OCH)の官能基を備える2官能シランカップリング剤を用いて形成したことを特徴とするもの等を採用する。そして、この2官能シランカップリング剤としては、ビス−γ−トリメトキシシリルプロピルアミン、ビス−γ−トリメトキシシリルプロピルエチレンジアミン、ビス−γ−トリメトキシシリルエタンのいずれかを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤処理層を備えた表面処理銅箔、その表面処理銅箔の製造方法及びこの表面処理銅箔を用いた銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、表面処理銅箔は、広く電気、電子産業の分野で用いられるプリント配線板製造の基礎材料として用いられてきた。一般に、電解銅箔はガラス−エポキシ基材、フェノール基材、ポリイミド等の高分子絶縁基材と熱間プレス成形にて張り合わされ銅張積層板とし、プリント配線板製造に用いられる。
【0003】
そして、表面処理銅箔の接着面の表面処理として、一般的に亜鉛、真鍮、亜鉛−銅−ニッケルの3元合金メッキ層等とクロメート層とを任意に組み合わせた防錆処理層と、シランカップリング剤処理層とが併用されてきた。この表面処理層は、プリント配線板を製造した際の基材との密着性向上(引き剥がし強度として評価され「常態引き剥がし強さ」、「加熱後引き剥がし強さ」、「耐薬品性劣化率」、「耐湿性劣化率」、「耐熱特性(通称、UL特性)」、「プレッシャークッカー(PCT)試験」等の評価項目がある。)に優れることを目的に施されるものである。
【0004】
例えば、耐薬品性劣化率の評価は、銅箔回路を形成したプリント配線板を、所定の濃度の塩酸溶液中に一定時間浸漬し、張り合わされた銅箔と基材との界面にどのくらい塩酸溶液が進入し浸食するかを定量評価するため、塩酸浸漬前と塩酸浸漬後との銅箔回路のそれぞれの引き剥がし強さを測定し、その引き剥がし強さの劣化率を換算し評価値とするものであり、プリント配線板製造プロセスで種々の薬品に曝される状態を考えれば極めて重要な評価項目であることが分かる。しかも、このプリント配線板用銅箔の耐薬品性は、一般にプリント配線板に用いられる回路幅が微細となるほど、良好な品質が求められる。即ち、耐塩酸性劣化率が大きな値となるとプリント配線板の銅箔と基材との界面に溶液が進入しやすく、銅箔と基材との接合界面を浸食しやすいことになり、これは、プリント配線板の製造工程で様々の酸性溶液に曝される結果、銅箔回路が剥離する危険性が高くなることを意味するものである。このような特性の重要性は、防錆処理の種類によって引き剥がし強さの向上を目的とした特許文献1(特開平4−318997号公報)、特許文献2(特開平7−321458号公報)に開示の内容からも明らかである。
【0005】
一方、表面処理銅箔のシランカップリング剤処理層は、銅張積層板となった状態で、金属である銅箔の表面に形成した防錆層と有機材である各種基材との間にシランカップリング剤処理層が位置することになる。このシランカップリング剤処理層に関しては、例えば、特許文献3(特公昭60−15654号公報)、特許文献4(特公平2−19994号公報)に、銅箔表面に亜鉛又は亜鉛合金層を形成し、当該亜鉛又は亜鉛合金層の表面にクロメート層を形成した防錆処理層を形成し、そのクロメート層の上にシランカップリング層を形成した銅箔が開示されている。これら文献の全体を参酌して判断するに、特徴的なことは、クロメート層を形成した後に乾燥処理を行い、その後シランカップリング剤処理を行うというものである。
【0006】
【特許文献1】特開平4−318997号公報
【特許文献2】特開平7−321458号公報
【特許文献3】特公昭60−15654号公報
【特許文献4】特公平2−19994号公報
【特許文献5】特公平2−17950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本件発明者等が、特許文献3(特公昭60−15654号公報)及び特許文献4(特公平2−19994号公報)にに開示された方法で試験的に表面処理銅箔を作成しても、その表面処理銅箔は、常態引き剥がし強さ等の要求品質を安定して示すことはできなかった。
【0008】
また、特許文献5(特公平2−17950号公報)には、シランカップリング剤で処理した銅箔を用いて耐塩酸性の改良が可能なことが記載されている。ところが、耐湿性に関しては特に触れられていない。近年の、プリント配線板の形成回路の微細化、プリント配線板の多層化、半導体パッケージの分野で、耐湿性に劣る銅張積層板を用いた多層プリント配線板の層間剥離現象であるデラミネーション、半導体パッケージのプレッシャークッカー特性に問題が生じることが明らかにされ、大きな問題となっている。
【0009】
従来の防錆処理層上に吸着したシランカップリング剤の吸着は、図2(b)に示すように、当該防錆処理層上に単分子被膜に近いレベルでシランカップリング剤を被膜状態で吸着させ、加熱することでシランカップリング剤の末端基と防錆処理層から突出した−OHとの縮合反応を起こさせ、脱水することにより、シランカップリング剤処理層を形成することを目標としてきた。
【0010】
近年の電子、電気機器の軽薄短小化の流れの中では、その内部に納められるプリント配線板にも軽薄短小化の要求が行われ、形成する銅箔回路の幅もより微細化するものになっている。従って、微細回路配線を形成した場合でも、意図せぬ回路の剥離現象が起こる等の不良を減少させるため、より安定且つ良好な表面処理銅箔と樹脂基材との密着性が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本件発明者等は、表面処理銅箔と樹脂基材との密着性を考慮する上で、シランカップリング剤と防錆処理層との組み合わせ方、シランカップリング剤の吸着処理する際の防錆処理層の表面状態、及び乾燥条件等を考慮して、シランカップリング剤の効果を最大限に引き出すための条件の確立が必要と考えた。そして、鋭意研究の結果、防錆処理層表面へのシランカップリング剤の吸着及び乾燥条件をある一定の条件にすることで、常態引き剥がし強さ、加熱後引き剥がし強さを初めとする基材との密着性に優れた表面処理銅箔を得ることができることに想到したのである。
【0012】
本件発明に係る表面処理銅箔: 本件発明に係る表面処理銅箔は、銅箔の樹脂基材層との接着面にシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔ものであって、当該シランカップリング剤処理層は、化学構造式の両端部に−Si(OCH)の官能基を備える2官能シランカップリング剤を用いて形成したものである。
【0013】
そして、前記2官能シランカップリング剤は、以下の化5として示した基本構造を備えるものを選択的に用いることが好ましい。
【0014】
【化5】

【0015】
そして、前記2官能シランカップリング剤として用いるものを更に具体的に言えば、以下の3種類のいずれかを用いることが特に好ましい。第1の2官能シランカップリング剤は、n=3、m=1のビス−γ−トリメトキシシリルプロピルアミンであり、以下の化6として示した基本構造を備えるものを用いる事が好ましい。
【0016】
【化6】

【0017】
第2の2官能シランカップリング剤は、n=4、m=2のビス−γ−トリメトキシシリルプロピルエチレンジアミンであり、以下の化7として示した基本構造を備えるものを用いることが好ましい。
【0018】
【化7】

【0019】
第3の2官能シランカップリング剤は、n=1、m=0のビス−γ−トリメトキシシリルエタンであり、以下の化8として示した基本構造を備えるものを用いることが好ましい。
【0020】
【化8】

【0021】
本件発明に係る表面処理銅箔の製造方法: 本件発明に係る表面処理銅箔の製造方法は、上記2官能シランカップリング剤を用いて銅箔表面へシランカップリング剤処理層を形成する表面処理銅箔の製造方法であって、前記2官能シランカップリング剤を溶媒に分散させた2官能シランカップリング剤含有溶液を調製し、当該2官能シランカップリング剤含有溶液と銅箔表面とを接触させ、銅箔の接着面に2官能シランカップリング剤吸着層を形成し、その後、190℃〜270℃の加熱雰囲気中で10秒〜90分間乾燥させシランカップリング剤処理層を形成することを特徴としたシランカップリング剤処理層を備えることを特徴とするものである。
【0022】
そして、前記2官能シランカップリング剤含有溶液は、ビス−γ−トリメトキシシリルプロピルアミンを溶媒に分散させて用いる場合には、その溶液をpH3.0〜pH5.0の範囲に調製したものとして用いることが好ましい。
【0023】
また、前記2官能シランカップリング剤含有溶液は、ビス−γ−トリメトキシシリルプロピルエチレンジアミンを溶媒に分散させて用いる場合には、その溶液をpH4.5〜pH11.5の範囲に調製したものを用いることが好ましい。
【0024】
更に、前記2官能シランカップリング剤含有溶液は、ビス−γ−トリメトキシシリルエタンを溶媒に分散させて用いる場合には、その溶液をpH3.0〜pH6.0又はpH11.0以上のいずれかのpH領域に調製したものを用いることが好ましい。
【0025】
本件発明に係る表面処理銅箔の製造において、前記銅箔には、その接着面に粗化処理及び/又は防錆処理を施したものを用いることも好ましい。
【0026】
そして、前記防錆処理は、無機防錆又は有機防錆処理のいずれを用いても構わない。
【0027】
本件発明に係る銅張積層板: 上述の本件発明に係るシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔は、プリント配線板材料として好適である。従って、そのプリント配線板の基礎材料である銅張積層板の製造に好適である。
【発明の効果】
【0028】
本件発明に係る表面処理銅箔は、樹脂基材との接着面に、従来使用されていなかった上記2官能シランカップリング剤を用いて形成したシランカップリング剤処理層を備えている。その結果、表面処理銅箔と樹脂基材との密着性が改善され、従来に無い安定したラミネート状態が得られる。従って、この表面処理銅箔を用いることで、銅箔と樹脂基材との密着性に優れた銅張積層板を提供することが可能となる。
【0029】
そして、上記2官能シランカップリング剤を用いてシランカップリング剤処理層を形成しようとする場合、用いる2官能シランカップリング剤の種類に応じて適正な条件が存在する。この点で、本件発明に係る表面処理銅箔の製造方法は、2官能シランカップリング剤を用いて形成するシランカップリング剤処理層の特性を最大限に引き出すことの出来る製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本件発明に係る表面処理銅箔、表面処理銅箔の製造方法及び銅張積層板の実施の形態に関して順に説明する。
【0031】
本件発明に係る表面処理銅箔の形態: 本件発明に係る表面処理銅箔は、銅箔の樹脂基材層との接着面にシランカップリング剤処理層を形成したものである。そして、そのシランカップリング剤処理層は、化学構造式の両端部に−Si(OCH)の官能基を備える2官能シランカップリング剤を用いて形成したものである。このような2官能シランカップリング剤を用いることで、従来に無いほど安定した銅箔と樹脂基材層との密着性(接着性)を得ることができる。
【0032】
ここで言う銅箔とは、電解法、圧延法等種々の方法で得られた銅箔の全ての概念を含むものとして記載している。そして、この銅箔の厚さに関しても、特段の限定はない。銅箔の厚さに関係なく、従来使用されてきたシランカップリング剤と比較して、樹脂基材との密着性を向上させることが可能だからである。但し、この銅箔と言う概念の中には、キャリア箔付銅箔を含む概念でもあることを明確にしておく。一般的に当該キャリア箔付銅箔は、キャリア箔として用いる金属箔の表面に、銅箔層を電解で析出させて形成したものである。そして、キャリア箔付銅箔は、厚さ9μm以下の銅箔とした場合に、樹脂基材にキャリア箔付銅箔の状態で張り合わせ、その後キャリア箔を除去するようにして使用されるものである。
【0033】
更に、この銅箔とは、その樹脂基材との接着面に張り合わせ時の密着性を向上されるため、微細な銅粒を付着形成したり、銅箔表面をエッチング粗化する等の粗化処理を施した面であっても構わない。従って、当然に粗化処理の無い場合も何ら問題なきことを明らかにしておく。また、銅箔の最外層には、長期保存性を確保する意味から、イミダゾール系剤やトリアゾール系剤を用いた有機防錆処理、亜鉛、真鍮等の亜鉛合金、ニッケル系合金等の組成を用いた無機防錆処理を施すことも可能である。
【0034】
そして、前記シランカップリング剤処理層は、化学構造式の両端部に−Si(OCH)の官能基を備える2官能シランカップリング剤を用いて形成する。このとき形成するシランカップリング剤処理層の形成理論に関して、従来から使用されてきた化9に示すγ−アミノプロピルトリメトキシシラン(以下、「APS」と称する。)を用いて説明する。
【0035】
本件発明者等は、そのAPSを溶媒に分散させた状態のpHの違いによって、銅箔表面に形成したシランカップリング剤処理層の吸着構造に変化が起きるか否かに関しての調査を行った。その結果、当該pHの違いによって、形成されるシランカップリング剤処理層の吸着構造が異なり、樹脂基材層との密着性に大きな差異が生じることが判明してきた。ここで、一例を示すと、水を溶媒として0.5wt%濃度でAPSを溶解させると、溶液pHは10.4となり、これを用いて銅箔表面にシランカップリング剤処理層を形成した。なお、係る場合の銅箔の表面には、何ら防錆処理等は施していない。この表面処理銅箔を「テスト試料1」と称する。これに対し、塩酸を用いてpH調製を行い溶液pHを8.5とし、これを用いて銅箔表面にシランカップリング剤処理層を形成した場合を比較した。この表面処理銅箔を「テスト試料2」と称する。その結果、双方の常態引き剥がし強さで対比すると、溶液pHは10.4で形成したシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔の方が、樹脂基材層との良好な密着性を示すことが判明した。そこで、本件発明者等は、その違いを分析した。
【0036】
【化9】

【0037】
最初に、双方の表面処理銅箔のシランカップリング剤処理層に対し、マーカス型高周波グロー放電発光表面分析装置(以下、「rf−GDOES」と称する。)を用いて、深さ方向の各元素の深さプロファイルの測定を行った。その結果、テスト試料2の場合、図1(a)から分かるように、ケイ素(Si)ピークが最表層に検出され、その後僅かに遅れて、炭素(C)、窒素(N)のピークが近接して現れ、スパッタ時間で約0.01秒(シリコンのスパッタレートから換算すると0.35nm深い位置)遅れて、銅箔のバルクからの銅成分が検出されている。これに対し、テスト試料1の場合、図1(b)から分かるように、ケイ素(Si)のピークが最表層には無く、ケイ素(Si)のピークは窒素(N)ピークと基板からの銅(Cu)ピークによって分離されている。そして、テスト試料1のの最表層の近傍には、炭素(C)、窒素(N)ピークが現れている。それぞれのケイ素(Si)ピークから、そのシランカップリング剤処理層の厚みを計算すると、テスト試料2の場合0.3nm、テスト試料1の場合1.7nmである。ここで、図1(a)と図1(b)とにおいて、銅の検出ピークが定常化した位置を考えれば、双方の銅箔のバルクからの銅成分が確実に検出された位置であり、双方の深さが一致しているため、分析精度としては問題ないものと考えられる。
【0038】
従って、以上のことから考えられるのは、テスト試料1のシランカップリング剤処理層は、テスト試料2のシランカップリング剤処理層と比較して厚くなっていると考えられる。そして、そのシランカップリング剤の銅箔表面への吸着機構が全く異なると考えられることになる。そこで、本件発明者等は、以下に述べるような銅箔表面でのシランカップリング剤の吸着モデルを想定した。
【0039】
図2には、そのシランカップリング剤にAPSを用いた場合の銅箔表面での吸着モデルを掲載している。図2(a)は、上記テスト試料2の場合のシランカップリング剤吸着モデルである。この形態を見れば、上記rf−GDOESの分析結果のように、ケイ素(Si)、炭素(C)、窒素(N)ピークが最表層の近傍に集中して現れ、遅れて銅箔のバルクからの銅成分が検出されることが理解できる。また、このような吸着モデルの場合、シランカップリング剤は、ほぼ単分子皮膜に近い状態であると推測する点もrf−GDOESの分析結果と一致する。図2(b)は、上記テスト試料1の場合のシランカップリング剤吸着モデルを最も単純化して示したものである。即ち、シランカップリング剤が銅箔表面との結合のみ成らず、シランカップリング剤同士での縮合反応を起こし結合することで、銅箔表面に平面的及び立体的なネットワークをもって結合したシランカップリング剤処理層が得られていると考えられる。この吸着モデルも、上記rf−GDOESの分析結果が、ケイ素(Si)ピークが最表層には無く、銅箔のバルクからの銅成分が確実に検出される位置付近と近接し、シランカップリング剤処理層の最表層の近傍に炭素(C)と窒素(N)ピークが現れている事実からも裏付けられる。しかも、この吸着モデルは、厚いシランカップリング剤処理層を得ることが出来る。
【0040】
そこで、本件発明者等は、化学構造式の両端部に−Si(OCH)の官能基を備える2官能シランカップリング剤を用いることで、上記テスト試料1と同様の性質のシランカップリング剤処理層の形成が容易で、且つ、樹脂基材との密着性を安定して向上させる事が出来ることに想到したのである。即ち、2官能シランカップリング剤の化学構造式の両端部に−Si(OCH)の官能基を備えることで、平面的及び立体的に架橋したシロキサンネットワークを有するシランカップリング剤処理層の形成が可能となる。
【0041】
そして、前記2官能シランカップリング剤の中でも、以下の化10として示した一般構造式で表されるものを選択的に用いることが好ましい。この一般構造式を備える2官能シランカップリング剤が、プリント配線板の製造プロセスにおけるめっき液等の溶液性状に悪影響を及ぼす可能性も低く、プリント配線板に加工して以降の表面絶縁抵抗、多層化しヒートショックを受けた際の耐デラミネーション性能にも優れるからである。
【0042】
【化10】

【0043】
そして、前記2官能シランカップリング剤として用いるものを更に具体的に言えば、以下の3種類のいずれかを用いることが、後述する製造方法をもって、平面的及び立体的なネットワークをもって結合したシランカップリング剤処理層を形成することが容易であるという観点から特に好ましい。また、以下に述べる3つの2官能シランカップリング剤は、表面処理銅箔と樹脂基材との高い密着性を得ることができ、且つ、その密着性を引き剥がし強さとして測定したときの値は、バラツキが少なく安定したものとなる。そして、上述のように、プリント配線板の製造プロセスにおけるめっき液等の溶液性状に悪影響を及ぼすこともなく、プリント配線板に加工して以降の表面絶縁抵抗、前記耐デラミネーション性能にも優れる。
【0044】
第1の2官能シランカップリング剤は、n=3、m=1のビス−γ−トリメトキシシリルプロピルアミン(以下、「BTSPA」と称する。)であり、以下の化11として示した基本構造を備えるものを用いる事が好ましい。
【0045】
【化11】

【0046】
第2の2官能シランカップリング剤は、n=4、m=2のビス−γ−トリメトキシシリルプロピルエチレンジアミン(以下、「BTSP−EDA」と称する。)であり、以下の化12として示した基本構造を備えるものを用いることが好ましい。
【0047】
【化12】

【0048】
第3の2官能シランカップリング剤は、n=1、m=0のビス−γ−トリメトキシシリルエタン(以下、「BTSE」と称する。)であり、以下の化13として示した基本構造を備えるものを用いることが好ましい。
【0049】
【化13】

【0050】
本件発明に係る表面処理銅箔の製造形態: 本件発明に係る表面処理銅箔の製造方法は、上記2官能シランカップリング剤を用いて銅箔表面へシランカップリング剤処理層を形成する表面処理銅箔の製造方法であり、2官能シランカップリング剤を用いるが故の特徴を有する。
【0051】
この製造方法において、最初は、前記2官能シランカップリング剤を溶媒に分散させた2官能シランカップリング剤含有溶液を調製する。この調製に於いては、使用する2官能シランカップリング剤を含有させた溶液の種類に応じての調製が必要となる。以下、3種類の2官能シランカップリング剤毎に説明する。
【0052】
前記2官能シランカップリング剤含有溶液として、BTSPAを溶媒に分散させて用いる場合には、その溶液をpH3.0〜pH5.0の範囲に調製したものとして用いることが好ましい。図3に、BTSPA含有溶液の溶液pHと引き剥がし強さとの関係を示した。ここでは、溶媒に純水を用いて、BTSPA濃度が0.5wt%となるBTSPA含有溶液を調製し、この溶液中に18μm厚さの電解銅箔(粗化処理を施すことなく、防錆処理としてニッケル−亜鉛合金メッキ及びクロメート処理を施したもの)を浸漬し、加熱乾燥(200℃×60分、250℃×60分)することで、その粗面にシランカップリング剤処理層を形成し、FR−4プリプレグに180℃×60分の熱間プレス加工により張り合わせた銅張積層板を製造した。そして、10mm幅の直線回路をエッチングにより製造し、引き剥がし強さを測定した。このとき、BTSPA含有溶液の溶液pHを1〜9.5の間で変化させ、引き剥がし強さの変化を示している。この図3から分かるように、pHが1〜5のBTSPA含有溶液を用いることで高い密着性が得られていることが分かる。そして、よりバラツキが少なく、安定した良好な密着性を確保するためには、BTSPA含有溶液のpHを1〜4の範囲とすることが好ましい。
【0053】
また、前記2官能シランカップリング剤含有溶液として、BTSP−EDAを溶媒に分散させて用いる場合には、その溶液をpH4.5〜pH11.5の範囲に調製したものを用いることが好ましい。図4に、BTSP−EDA含有溶液の溶液pHと引き剥がし強さとの関係を示した。ここでは、溶媒に純水を用いて、BTSP−EDA濃度が0.5wt%のBTSP−EDA含有溶液を調製し、上記BTSPAを用いた場合と同様に、引き剥がし強さを測定した。このとき、BTSP−EDA含有溶液の溶液pHを4〜11.5の間で変化させ、引き剥がし強さの変化を示している。この図4から分かるように、乾燥条件として200℃×60分の条件を用いた場合には、pH4.5〜pH8.0の範囲で高い密着性が得られる。そして、乾燥条件として250℃×60分の条件を採用すると、pHが4.5〜11.5の全領域で高い密着性が得られることが分かる。このことから、乾燥条件の与える影響も非常に大きな事も分かる。従って、乾燥条件による変動を最小限に抑制し、バラツキが少なく、安定した良好な密着性を確保するためには、BTSP−EDA含有溶液のpHを4.5〜8.5の範囲とすることが好ましい。
【0054】
更に、前記2官能シランカップリング剤含有溶液として、BTSEを溶媒に分散させて用いる場合には、その溶液をpH3.0〜pH6.0又はpH11.0以上のいずれかのpH領域に調製したものを用いることが好ましい。図5に、BTSE含有溶液の溶液pHと引き剥がし強さとの関係を示した。ここでは、溶媒に純水を用いて、BTSE濃度が0.5wt%としたBTSE含有溶液を調製し、上記BTSPAを用いた場合と同様に、引き剥がし強さを測定した。このとき、BTSE含有溶液の溶液pHを1.0〜11.5の間で変化させ、引き剥がし強さの変化を示している。この図5から分かるように、乾燥条件として200℃×60分の条件を用いた場合には、pH3.0〜pH5.0の範囲で0.4kN/mを超える密着性が得られる。そして、乾燥条件として250℃×60分の条件を採用すると、pHが3.0〜6.0及び11以上の領域で0.4kN/mを超える密着性が得られることが分かる。このことから、乾燥条件の与える影響が存在することも分かる。従って、乾燥条件による変動を最小限に抑制し、バラツキが少なく、安定した良好な密着性を確保するためには、BTSE含有溶液のpHを3.0〜5.0の範囲とすることが好ましい。
【0055】
上記の2官能シランカップリング剤含有溶液の銅箔に対する吸着法に関しては、浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等、特に方法は限定されない。工程設計に合わせて、最も均一に銅箔と2官能シランカップリング剤を含んだ溶液とを接触させ吸着させることのできる方法を任意に採用すれば良いのである。
【0056】
そして、銅箔と2官能シランカップリング剤溶液とを接触させる場合、乾燥した銅箔を用いるよりも、水膜を表面に備えた濡れた銅箔を用いることが好ましい。前者の乾燥した銅箔に比べ、後者の濡れた状態の銅箔は、2官能シランカップリング剤を吸着させ乾燥させる時に余分な水が銅箔表面に残留していることになる。このため、濡れた状態の銅箔に2官能シランカップリング剤を吸着させ乾燥させるときの銅箔温度は、雰囲気温度から伝達される熱量の内、水分の蒸発に用いられる熱量が大きくなるため、270℃程度まで雰囲気温度を高くしても、シランカップリング剤の官能基の破壊若しくは分解に繋がる余分な熱量が生じなくなるものと考えられる。このようにすることで、シランカップリング剤の基材と結合する側の官能基の破壊又は分解を確実に防止し、表面処理銅箔としての品質安定性を向上させることが出来るようになるのである。
【0057】
これらの2官能シランカップリング剤は、溶媒としての水に0.1wt%〜15wt%濃度になるように溶解させて、室温レベルの温度で用いるものである。ここで、当該2官能シランカップリング剤濃度が0.1wt%を下回る場合は、2官能シランカップリング剤の吸着速度が遅く、一般的な商業ベースの採算に合わず、吸着も不均一なものとなる。また、15wt%を越える以上の濃度であっても、特に吸着速度が速くなることもなく、基材との密着性を特に向上させるものでもなく、不経済となる。なお、この2官能シランカップリング剤の濃度が高くなるほど、化14として模式的に示した如き2官能シランカップリング剤同士のネットワーク化が進みやすく、形成するシランカップリング剤処理層が厚くなる傾向にある。同時に、シランカップリング剤処理層が厚くなると、未反応のシランカップリング剤がシランカップリング剤処理層中に取り込まれる傾向が顕著になり、好ましくない。
【0058】
【化14】

【0059】
しかしながら、2官能シランカップリング剤含有溶液の2官能シランカップリング剤濃度との関係もあるが、銅箔表面と2官能シランカップリング剤含有溶液との接触時間も重要となる。即ち、2官能シランカップリング剤は、銅箔の表面(防錆処理層を含む)上に単分子皮膜状に吸着し、その表面のOH基と縮合結合することが最低限の条件であるが、当該接触時間が長くなる程、得られるシランカップリング剤処理層が厚くなる傾向にある。従って、当該浸漬時間は、1分〜30分の時間とする事が好ましい。上記濃度範囲であることを前提として、当該浸漬時間が1分未満の場合には、銅箔表面への2官能シランカップリング剤の吸着量が不足し、銅箔と樹脂基材との密着性を改善することが出来ない。また、当該浸漬時間が30分を超えるものとしても、銅箔表面への2官能シランカップリング剤の吸着量が飽和し、単に工業的生産性が損なわれることになる。
【0060】
そして、ここで言う乾燥は、単に水分を除去するだけでなく、吸着した2官能シランカップリング剤と銅箔表面(防錆処理層を備える場合を含む)にあるOH基との縮合反応を促進させ、縮合の結果生じる水分をも完全に蒸発させ、2官能シランカップリング剤同士の縮合反応を促進するものでなければならない。一方、この乾燥温度は、銅箔と樹脂基材を張り合わせる際に、樹脂基材を構成する樹脂と結合するシランカップリング剤の官能基を破壊若しくは分解する温度条件を採用する事はできない。シランカップリング剤の樹脂基材との接着に関与する官能基が破壊若しくは分解すると、銅箔と樹脂基材との密着性が損なわれ、シランカップリング剤の吸着による効果を最大限に引き出すことができなくなるからである。
【0061】
そこで、当該2官能シランカップリング剤含有溶液と銅箔表面とを接触させ、銅箔の接着面に2官能シランカップリング剤吸着層を形成し、その後、190℃〜270℃の加熱雰囲気中で10秒〜90分間の乾燥を行いシランカップリング剤処理層を形成することが好ましい。190℃〜270℃の加熱温度の低温側を採用する程、乾燥時間を長めに採用することが好ましい。
【0062】
ここで、加熱雰囲気温度が190℃未満の場合には、いかに長時間の加熱を行っても、当該2官能シランカップリング剤と銅箔表面にあるOH基との縮合反応を促進させ、2官能シランカップリング剤同士の縮合反応を促進する事は出来ないため、品質のバラツキのあるシランカップリング剤処理層が形成される。また、加熱雰囲気温度が270℃を超える場合には、シランカップリング剤の樹脂基材との接着に関与する官能基が破壊され、銅箔と樹脂基材との密着性が損なわれるのである。
【0063】
そして、乾燥温度に関しては、上述の図3〜図5の引き剥がし強さから、200℃での加熱よりも250℃での加熱を行ってシランカップリング剤処理層を形成した場合の方が、高い引き剥がし強さが得られていることが分かる。即ち、乾燥温度は出来る限り高めの温度を採用することが好ましい。良好な品質のシランカップリング剤処理層を、短時間の加熱で得ることが出来るからである。
【0064】
乾燥時間は、上記範囲の最高加熱温度を採用しても、10秒未満とすると、2官能シランカップリング剤と銅箔表面にあるOH基との縮合反応を促進させ、2官能シランカップリング剤同士の縮合反応を促進する事が出来ない。乾燥時間が90分を超える場合には、上述の最低加熱温度を採用しても、シランカップリング剤の樹脂基材との接着に関与する官能基が破壊され、銅箔と樹脂基材との密着性が損なわれるのである。
【0065】
銅箔は、金属材であり、シランカップリング剤が一般的に用いられるガラス材、プラスチック等の有機材等に比べ、熱伝導速度が速く、表層に吸着したシランカップリング剤も、乾燥時の雰囲気温度、熱源からの輻射熱による影響を極めて強く受けやすくなる。従って、衝風方式のように、極めて短時間で、銅箔に吹き付ける風温より、銅箔自体の温度が高くなる場合は、特別の注意を払って乾燥条件を定める事が好ましい。
【0066】
次に、本件発明に係る表面処理銅箔の製造で用いる銅箔に関して述べておく。ここで言う銅箔は、その接着面に粗化処理、防錆処理を任意に施したものを用いることができる。即ち、粗化処理を単独で施した銅箔、粗化処理を行うことなく防錆処理のみを施した銅箔
、粗化処理及び防錆処理の双方を施した銅箔の概念を含むものである。
【0067】
そして、これらに関して簡単に説明しておく。銅箔の表面に粗化処理及び防錆処理を施す場合には、粗化処理、防錆処理の順で行うのが一般的である。そして、この粗化処理等を行う前には、銅箔の表面を酸洗処理、脱脂処理する等して、表面に付着した油脂成分等の汚染成分を完全に除去し、同時に余分な表面酸化被膜除去を行う事が好ましい。均一な粗化処理、防錆処理を行うためである。
【0068】
粗化処理は、最も一般的には銅箔の表面に微細銅粒を析出付着させ、その後当該微細銅粒の脱落無きように被せメッキを行う方法が採用される。即ち、銅箔の表面への微細銅粒の付着形成には、銅箔自体をカソード分極して、ヤケ銅メッキの条件を採用して行う。このヤケ銅メッキ条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅5〜20g/l、硫酸50〜200g/l、その他必要に応じた添加剤(α−ナフトキノリン、デキストリン、ニカワ、チオ尿素等)、液温15〜40℃、電流密度10〜50A/dmの条件とする等である。
【0069】
そして、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキとしては、析出付着させた微細銅粒の脱落を防止するために、平滑メッキ条件で微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させるのである。従って、微細銅粒を析出させる場合に比べ濃い濃度の銅電解液が用いられる。この平滑メッキ条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅50〜80g/l、硫酸50〜150g/l、液温40〜50℃、電流密度10〜50A/dmの条件とする等である。
【0070】
また、前記被せメッキを省略する場合には、上記微細銅粒よりも更に微細な極微細銅粒を付着形成させる。この極微細銅粒の形成には、一般に砒素を含んだ銅電解液が用いられる。係る場合の電解条件の一例を挙げれば、硫酸銅系溶液であって、濃度が銅10g/l、硫酸100g/l、砒素1.5g/l、液温38℃、電流密度30A/dmとする等である。砒素の使用を忌避する場合には、砒素に代え、9−フェニルアクリジンを添加した銅電解液を用いることが好ましい。9−フェニルアクリジンは、銅電解の場において、砒素の果たす役割と同様の役割を果たし、析出する微細銅粒の整粒効果と、均一電着を可能とするものである。9−フェニルアクリジンを添加した極微細銅粒を形成するための銅電解液としては、濃度が銅5〜10g/l、硫酸100〜120g/l、9−フェニルアクリジン50〜300mg/l、液温30〜40℃を使用して、電流密度20〜40A/dm で電解することが操業安定性の観点から好ましい。
【0071】
防錆処理層の形成方法に関しては、無機防錆処理層及び有機防錆処理層の形成のいずれの場合でも、特段の限定は要さない。公知の手法及び公知の防錆成分を適用すればよい。但し、無機防錆処理層の場合、亜鉛、亜鉛合金、ニッケル合金等の防錆層の上に、更にクロメート層を設ける場合もある。このクロメート層の形成には、電解クロメート層を採用することが適しており、このときの電解条件は、特に限定を有するものではないが、クロム酸1〜7g/l、液温30〜40℃、pH10〜12、電流密度1〜8A/dm、電解時間5〜15秒の条件等を採用するのが好ましい。
【0072】
本件発明に係る銅張積層板: 上述の本件発明に係るシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔は、プリント配線板材料として好適である。特に、粗化処理を行っていない銅箔を樹脂基材に張り合わせようとする場合には、極めて良好な密着性を得ることが出来るのである。
【0073】
なお、ここで言う樹脂基材とは、ガラス−エポキシ基材、ガラス−ポリイミド基材、ポリイミド系樹脂フィルム基材、アラミド樹脂フィルム基材等のあらゆる樹脂基材を含む概念として記載している。
【実施例1】
【0074】
表面処理銅箔の製造: この実施例1では、18μm厚さの電解銅箔の光沢面に、防錆処理層として亜鉛−ニッケル合金層を形成し、その表面にクロメート層を形成した。このときのニッケル−亜鉛合金メッキ処理の条件は、硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が0.3g/l、ピロリン酸亜鉛を用いて亜鉛濃度が2.5g/l、ピロリン酸カリウム100g/l、液温40℃、電流密度1A/dm、電解時間20秒の条件で電解し、ニッケルを70wt%、亜鉛を30wt%含有する亜鉛−ニッケル合金メッキ層を形成した。そして、クロメート処理は、ニッケル−亜鉛合金メッキ層の上に、電解でクロメート層を形成した。このときの電解条件は、クロム酸1.0g/l、液温35℃、電流密度1A/dm、電解時間5秒とした。以上のようにして防錆処理層を形成した。
【0075】
そして、当該防錆処理層の上にBTSPAを用いてシランカップリング剤処理層を形成した。即ち、純水にBTSPA濃度が0.5wt%となるようにBTSPAを添加し分散させ、溶液pH3.0に調整し、室温としたBTSPA含有溶液を調製した。そして、このBTSPA含有溶液をシャワーリングにより、前記銅箔の防錆処理層の上に30秒間接触させた。
【0076】
続いて、200℃×60分、250℃×60分の2条件で加熱乾燥を行い、防錆処理層に吸着したBTSPAと銅箔表面(防錆処理層を備える場合を含む)にあるOH基との縮合反応と、2官能シランカップリング剤同士の縮合反応とを行い、同時に縮合の結果生じる水分をも完全に蒸発させ、シランカップリング剤処理層を形成し表面処理銅箔とした。
【0077】
銅張積層板の製造: 上述のようにして得られた表面処理銅箔を、120μm厚さのガラス−エポキシプリプレグ(FR−4基材)に、180℃×60分の一般的な真空プレス加工条件で張り合わせて、銅張積層板を得た。
【0078】
引き剥がし強さ測定用プリント配線板の製造: 前記銅張積層板の銅箔表面に、ドライフィルムを用いてエッチングレジスト層を形成し、エッチングパターンを露光、現像、レジスト剥離を行い、10mm幅の引き剥がし強さ測定用の直線回路を形成した。
【0079】
引き剥がし強さの測定: ここでの引き剥がし強さの測定は、JISに定める90°剥離試験法を用いて、各乾燥条件の試料毎に各10点の測定を行った。その結果、シランカップリング剤処理層を形成する際に200℃×60分の条件を採用した場合には0.57〜0.60kN/m、250℃×60分の条件を採用した場合には0.62〜0.70kN/mであった。
【実施例2】
【0080】
表面処理銅箔の製造等: この実施例2では、実施例1で用いたBTSPAに代えて、BTSP−EDAを用い、溶液pHを5に調整した。その他の条件等は実施例1と同様である。そして、更に実施例1と同様にして、銅張積層板の製造、引き剥がし強さ測定用プリント配線板の製造をおこなった。従って、重複した記載を避けるため、詳細な説明は省略する。
【0081】
引き剥がし強さの測定: ここでの引き剥がし強さの測定は、実施例1と同様に行った。その結果、シランカップリング剤処理層を形成する際に200℃×60分の条件を採用した場合には0.65〜0.68kN/m、250℃×60分の条件を採用した場合には0.69〜0.72kN/mであった。
【実施例3】
【0082】
表面処理銅箔の製造等: この実施例2では、実施例1で用いたBTSPAに代えて、BTSEを用い、溶液pHを3に調整した。その他の条件等は実施例1と同様である。そして、更に実施例1と同様にして、銅張積層板の製造、引き剥がし強さ測定用プリント配線板の製造をおこなった。従って、重複した記載を避けるため、詳細な説明は省略する。
【0083】
引き剥がし強さの測定: ここでの引き剥がし強さの測定は、実施例1と同様に行った。その結果、シランカップリング剤処理層を形成する際に200℃×60分の条件を採用した場合には0.61〜0.68kN/m、250℃×60分の条件を採用した場合には0.66〜0.71kN/mであった。
【比較例】
【0084】
[比較例1]
表面処理銅箔の製造等: この比較例では、実施例1で用いたBTSPAに代えて、APSを用い、溶液pHが10.4であった。その他の条件等は実施例1と同様である。そして、更に実施例1と同様にして、銅張積層板の製造、引き剥がし強さ測定用プリント配線板の製造をおこなった。従って、重複した記載を避けるため、詳細な説明は省略する。
【0085】
引き剥がし強さの測定: ここでの引き剥がし強さの測定は、実施例1と同様に行った。その結果、シランカップリング剤処理層を形成する際に200℃×60分の条件を採用した場合には0.50〜0.55kN/m、250℃×60分の条件を採用した場合には0.55〜0.60kN/mであった。
【0086】
[比較例2]
表面処理銅箔の製造等: この比較例では、実施例1で用いたBTSPAを省略した。従って、シランカップリング剤は全く用いなかった。その他の条件等は実施例1と同様である。そして、更に実施例1と同様にして、銅張積層板の製造、引き剥がし強さ測定用プリント配線板の製造をおこなった。従って、重複した記載を避けるため、詳細な説明は省略する。
【0087】
引き剥がし強さの測定: ここでの引き剥がし強さの測定は、実施例1と同様に行った。その結果、シランカップリング剤処理層を形成する際に200℃×60分の条件を採用した場合には0.18kN/m〜0.25kN/m、250℃×60分の条件を採用した場合には0.22kN/m〜0.28kN/mであった。
【0088】
<実施例と比較例との対比>
以上に述べてきた実施例1〜実施例3と比較例1とを対比する。上記比較例1は、APSを用いてAPSがネットワーク化したシランカップリング剤処理層を形成し、最も良好な密着性が得られる条件を採用している。にもかかわらず、明らかに各実施例の引き剥がし強さの方が、比較例の引き剥がし強さより大きな値を示している。
【0089】
そして、実施例1〜実施例3と比較例2とを対比すると、明らかにシランカップリング剤処理層の有無により、引き剥がし強さの差異が極めて顕著に表れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本件発明に係る表面処理銅箔は、樹脂基材との接着面に2官能シランカップリング剤を用いて形成したシランカップリング剤処理層を備えている。その結果、表面処理銅箔と樹脂基材との密着性が飛躍的に改善され、粗化処理を施さない銅箔であっても、樹脂基材に対する安定した密着性が得られる。従って、この表面処理銅箔を用いることで、銅箔と樹脂基材との密着性に優れた銅張積層板を提供することが可能となり、更には銅張積層板を用いて得られるプリント配線板の高品質化に寄与するのである。
【0091】
また、上記2官能シランカップリング剤を用いてシランカップリング剤処理層を形成しようとする場合にも、特殊な設備を必要とするものではなく、従来の設備を使用しての生産が可能である。従って、本件発明に係る表面処理銅箔の製造方法は、銅箔表面に2官能シランカップリング剤を用いて形成するシランカップリング剤処理層の特性を最大限に引き出すことの出来る製造方法であり、経済性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】rf−GDOESを用いて測定した表面処理銅箔のシランカップリング剤処理層を構成する各元素の深さプロファイルである。
【図2】シランカップリング剤としてAPSを用いた場合の銅箔表面での吸着モデルである。
【図3】BTSPA含有溶液の溶液pHと引き剥がし強さとの関係を示した図である。
【図4】BTSP−EDA含有溶液の溶液pHと引き剥がし強さとの関係を示した図である。
【図5】BTSE含有溶液の溶液pHと引き剥がし強さとの関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔の樹脂基材層との接着面にシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔であって、
当該シランカップリング剤処理層は、化学構造式の両端部に−Si(OCH)の官能基を備える2官能シランカップリング剤を用いて形成したことを特徴とする表面処理銅箔。
【請求項2】
前記2官能シランカップリング剤は、以下の化1として示した基本構造を備えるものである請求項1に記載の表面処理銅箔。
【化1】

【請求項3】
前記2官能シランカップリング剤には、n=3、m=1のビス−γ−トリメトキシシリルプロピルアミンであり、以下の化2として示した基本構造を備えるものを用いた請求項2に記載の表面処理銅箔。
【化2】

【請求項4】
前記2官能シランカップリング剤には、n=4、m=2のビス−γ−トリメトキシシリルプロピルエチレンジアミンであり、以下の化3として示した基本構造を備えるものを用いた請求項2に記載の表面処理銅箔。
【化3】

【請求項5】
前記2官能シランカップリング剤には、n=1、m=0のビス−γ−トリメトキシシリルエタンであり、以下の化4として示した基本構造を備えるものを用いた請求項2に記載の表面処理銅箔。
【化4】

【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の2官能シランカップリング剤を用いて銅箔表面へシランカップリング剤処理層を形成した表面処理銅箔の製造方法であって、
前記2官能シランカップリング剤を溶媒に分散させた2官能シランカップリング剤含有溶液を調製し、
当該2官能シランカップリング剤含有溶液と銅箔表面とを接触させ、銅箔の接着面に2官能シランカップリング剤吸着層を形成し、
その後、190℃〜270℃の加熱雰囲気中で10秒〜60分間の乾燥を行いシランカップリング剤処理層を形成することを特徴としたシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔の製造方法。
【請求項7】
前記2官能シランカップリング剤含有溶液は、ビス−γ−トリメトキシシリルプロピルアミンを溶媒に分散させてpH3.0〜pH5.0に調製したものである請求項6に記載のシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔の製造方法。
【請求項8】
前記2官能シランカップリング剤含有溶液は、ビス−γ−トリメトキシシリルプロピルエチレンジアミンを溶媒に分散させてpH4.5〜pH11.5に調製したものである請求項6に記載のシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔の製造方法。
【請求項9】
前記2官能シランカップリング剤含有溶液は、ビス−γ−トリメトキシシリルエタンを溶媒に分散させてpH3.0〜pH6.0又はpH11.0以上のいずれかのpH領域に調製したものである請求項6に記載のシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔の製造方法。
【請求項10】
前記銅箔には、その接着面に粗化処理及び/又は防錆処理を施したものを用いる請求項6〜請求項9のいずれかに記載のシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔の製造方法。
【請求項11】
前記防錆処理は、無機防錆又は有機防錆処理である請求項10に記載のシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔の製造方法。
【請求項12】
請求項6〜請求項9のいずれかに記載のシランカップリング剤処理層を備える表面処理銅箔を用いて得られる銅張積層板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−98732(P2007−98732A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290532(P2005−290532)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】