説明

表面外観が向上した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂の混合物にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤を添加することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂およびポリ乳酸よりなる樹脂組成物に見られる不均一な真珠光沢やフローマークが解消した表面外観をもち、加えて耐衝撃性が向上した成形品を得る樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)55〜95重量%および(B)ポリ乳酸樹脂(B成分)5〜45重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)実質的にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤(C成分)を0.1〜30重量部含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。より詳しくは、芳香族ポリカーボネート樹脂に環境負荷の少ないポリ乳酸樹脂および相容化剤を特定割合含有する樹脂組成物であって、環境負荷が少なく、かつ、芳香族ポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイに見られる不均一な真珠光沢がなく表面外観に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、優れた耐熱性、機械特性、耐衝撃性、および寸法安定性等を有しており、OA機器分野、自動車分野、電気・電子部品分野等の用途に広く用いられている。また、芳香族ポリカーボネート樹脂に剛性および強度などの向上を目的として無機充填材を配合することも広く行われている。一方で芳香族ポリカーボネートは、原料のほとんどを石油資源に依存するという側面も有している。近年、石油資源の枯渇の懸念や、地球温暖化を引き起こす空気中の二酸化炭素の増加問題から、原料を石油に依存せず、また燃焼させても二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラルが成り立つバイオマス資源が大きく注目を集めるようになり、ポリマーの分野においても、バイオマス資源から生産されるバイオマスプラスチックが盛んに開発されている。バイオマスプラスチックの代表例がポリ乳酸であり、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、食器、包装材料、雑貨などに用途展開が広がりつつあるが、更に、工業材料としての可能性も検討されるようになってきた。芳香族ポリカーボネート樹脂にコーンスターチ等の天然ポリマーを配合することは公知であり(特許文献1参照)、またポリ乳酸と芳香族ポリカーボネート樹脂との樹脂組成物、並びに該樹脂組成物が良好なパール光沢を有し、さらに流動性、耐熱性、および剛性などに優れることも公知である(特許文献2参照)。またポリ乳酸と脂肪族ポリカーボネートを混合した樹脂組成物、並びに該樹脂組成物が透明性、および透明性を有し、またその脆さが改善されていることも公知である(特許文献3参照)。さらにポリ乳酸に他の脂肪族ポリエステルおよび特定の無機充填材を配合することにより、その混合ムラが解消された樹脂組成物が得られることも公知である(特許文献4参照)。
しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂は相容性が悪く、それにより成形品表面に生じる、不均一な真珠光沢の解消手段がこれまで見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平7−506863号公報
【特許文献2】特開平7−109413号公報
【特許文献3】特開平11−140292号公報
【特許文献4】特開2002−105298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第1の目的は、改善された表面外観を有し、加えて環境負荷の低減された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。本発明の第2の目的は、強度及び剛性に優れた樹脂組成物を得ることにある。
【0005】
本発明者らはかかる目的を達成すべく鋭意研究の結果、芳香族ポリカーボネート、ポリ乳酸樹脂および相容化剤を特定割合含有する組成物が、驚くべきことに均一で良好な表面外観を有し、上述の第1の目的が達成された樹脂組成物が得られることを見出した。さらに該組成物に対し、優れた強度及び剛性を得ることに成功した。本発明者らはかかる知見に基にさらに検討を進め、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成した。即ち、本発明者らは、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)55〜95重量%および(B)ポリ乳酸樹脂(B成分)5〜45重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、(C)実質的にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤(C成分)を0.1〜30重量部含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸および相容化剤の特定割合からなる樹脂組成物であって、改善された表面外観、強度、剛性を有し、加えて環境負荷を低減するものである。かかる特性によって、樹脂組成物は優れた表面外観を有し、かつその成形が強度、剛性に優れることから、幅広い用途に適用可能な環境負荷を低減した樹脂材料が提供できる。かかる用途としては、例えばパソコン、ノートパソコン、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、およびスロットマシーンなど)、ディスプレー装置(LCD、有機EL、電子ペーパー、プラズマディスプレー、およびプロジェクタなど)、送電部品(誘電コイル式送電装置のハウジングに代表される)、プリンター、コピー機、スキャナーおよびファックス(これらの複合機を含む)、VTRカメラ、光学フィルム式カメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ用レンズユニット、防犯装置、および携帯電話などの精密機器が例示される。特に本発明の樹脂組成物は、パソコン、ノートパソコン、ゲーム機、ディスプレー装置、プリンター、コピー機、スキャナーおよびファックスの如きOA機器、情報処理装置の筐体、カバー、および枠に好適に利用される。その他更に本発明の樹脂組成物は、マッサージ機や高酸素治療器などの医療機器、画像録画機(いわゆるDVDレコーダーなど)、オーディオ機器、電子楽器などの家庭電器製品、および精密なセンサーを搭載する家庭用ロボットなどの部品にも好適なものである。また本発明の樹脂組成物は、各種の車両部品、電池、発電装置、回路基板、集積回路のモールド、光学ディスク基板、ディスクカートリッジ、光カード、ICメモリーカード、コネクター、ケーブルカプラー、電子部品の搬送用容器(ICマガジンケース、シリコンウエハー容器、ガラス基板収納容器、およびキャリアテープなど)、帯電防止用または帯電除去部品(電子写真感光装置の帯電ロールなど)、並びに各種機構部品(ギア、ターンテーブル、ローター、およびネジなど。マイクロマシン用機構部品を含む)に利用可能である。したがって本発明の樹脂組成物は、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例において使用したノートパソコンのハウジングを模した成形品の表面側正面概要図である。(縦140mm×横215mm×縁の高さ10mm、厚み1.2mm)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(A成分:芳香族ポリカーボネート樹脂)
本発明でA成分として使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0010】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも靭性や変形特性に優れる点からビスフェノールAが特に好ましく、汎用されている。
【0011】
本発明では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の二価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ−トをA成分として使用することが可能である。例えば、二価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis−TMC”と略称することがある)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ−ト(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の二価フェノールは、該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。
【0012】
殊に、高剛性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、樹脂組成物を構成するA成分が次の(1)〜(3)の共重合ポリカーボネートであるのが特に好適である。
(1)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBCF成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPA成分が10〜95モル%(より好適には50〜90モル%、さらに好適には60〜85モル%)であり、かつBCF成分が5〜90モル%(より好適には10〜50モル%、さらに好適には15〜40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBis−TMC成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0013】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。
【0014】
なお、上述した各種のポリカーボネートの中でも、共重合組成等を調整して、吸水率及びTg(ガラス転移温度)を下記の範囲内にしたものは、ポリマー自体の耐加水分解性が良好で、かつ成形後の低反り性においても格段に優れているため、形態安定性が要求される分野では特に好適である。
(i)吸水率が0.05〜0.15%、好ましくは0.06〜0.13%であり、かつTgが120〜180℃であるポリカーボネート、あるいは
(ii)Tgが160〜250℃、好ましくは170〜230℃であり、かつ吸水率が0.10〜0.30%、好ましくは0.13〜0.30%、より好ましくは0.14〜0.27%であるポリカーボネート。
【0015】
ここで、ポリカーボネートの吸水率は、直径45mm、厚み3.0mmの円板状試験片を用い、ISO62−1980に準拠して23℃の水中に24時間浸漬した後の水分率を測定した値である。また、Tg(ガラス転移温度)は、JISK7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0016】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0017】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明のポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0018】
分岐ポリカーボネート樹脂は、本発明の樹脂組成物の溶融張力を増加させ、かかる特性に基づいて押出成形、発泡成形およびブロー成形における成形加工性を改善できる。結果として寸法精度により優れた、これらの成形法による成形品が得られる。
【0019】
かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、および4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。その他多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、並びにトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が例示される。中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンおよび1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0020】
分岐ポリカーボネート樹脂における多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、二価フェノールから誘導される構成単位とかかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.03〜1モル%、より好ましくは0.07〜0.7モル%、特に好ましくは0.1〜0.4モル%である。
【0021】
また、かかる分岐構造単位は、多官能性芳香族化合物から誘導されるだけでなく、溶融エステル交換反応時の副反応の如き、多官能性芳香族化合物を用いることなく誘導されるものであってもよい。尚、かかる分岐構造の割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0022】
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、およびイコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環式ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0023】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などのの反応形式は、各種の文献および特許公報などで良く知られている方法である。
【0024】
本発明の樹脂組成物を製造するにあたり、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、特に限定されないが、好ましくは1×10〜5×10であり、より好ましくは1.4×10〜3×10であり、さらに好ましくは1.4×10〜2.4×10である。粘度平均分子量が1×10未満のポリカーボネート樹脂では、実用上十分な靭性や割れ耐性が得られない場合がある。一方、粘度平均分子量が5×10を超えるポリカーボネート樹脂から得られる樹脂組成物は、概して高い成形加工温度を必要とするか、または特殊な成形方法を必要とすることから汎用性に劣る。高い成形加工温度は、樹脂組成物の変形特性やレオロジー特性の低下を招きやすい。
【0025】
なお、上記ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が上記範囲外のものを混合して得られたものであってもよい。殊に、上記値(5×10)を超える粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、本発明の樹脂組成物の溶融張力を増加させ、かかる特性に基づいて押出成形、発泡成形およびブロー成形における成形加工性を改善できる。かかる改善効果は、上記分岐ポリカーボネートよりもさらに良好である。
【0026】
より好適な態様としては、A成分が粘度平均分子量7×10〜2×10のポリカーボネート樹脂(A−3−1成分)、および粘度平均分子量1×10〜3×10のポリカーボネート樹脂(A−3−2成分)からなり、その粘度平均分子量が1.6×10〜3.5×10であるポリカーボネート樹脂(A−3成分)(以下、“高分子量成分含有ポリカーボネート樹脂”と称することがある)も使用できる。
【0027】
かかる高分子量成分含有ポリカーボネート樹脂(A−3成分)において、A−3−1成分の分子量は7×10〜3×10が好ましく、より好ましくは8×10〜2×10、さらに好ましくは1×10〜2×10、特に好ましくは1×10〜1.6×10である。またA−3−2成分の分子量は1×10〜2.5×10が好ましく、より好ましくは1.1×10〜2.4×10、さらに好ましくは1.2×10〜2.4×10、特に好ましくは1.2×10〜2.3×10である。
【0028】
高分子量成分含有ポリカーボネート樹脂(A−3成分)は上記A−3−1成分とA−3−2成分を種々の割合で混合し、所定の分子量範囲を満足するよう調整して得ることができる。好ましくは、A−3成分100重量%中、A−3−1成分が2〜40重量%およびA−3−2成分が60〜98重量%であり、より好ましくはA−3−1成分が5〜20重量%およびA−3−2成分が80〜95重量%である。通常ポリカーボネート樹脂の分子量分布は2〜3の範囲である。したがって、本発明のA−3−1成分およびA−3−2成分においてもかかる分子量分布の範囲を満足することが好ましい。尚、かかる分子量分布は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により算出される数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)で表されるものであり、該MnおよびMwは標準ポリスチレン換算によるものである。
【0029】
また、A−3成分の調製方法としては、(1)A−3−1成分とA−3−2成分とを、それぞれ独立に重合しこれらを混合する方法、(2)特開平5−306336号公報に示される方法に代表される、GPC法による分子量分布チャートにおいて複数のポリマーピークを示す芳香族ポリカーボネート樹脂を同一系内において製造する方法を用い、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂を本発明のA−1成分の条件を満足するよう製造する方法、および(3)かかる製造方法((2)の製造法)により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂と、別途製造されたA−3−1成分および/またはA−3−2成分とを混合する方法などを挙げることができる。
【0030】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0031】
尚、本発明の樹脂組成物における粘度平均分子量の算出は次の要領で行なわれる。すなわち、該組成物を、その20〜30倍重量の塩化メチレンと混合し、組成物中の可溶分を溶解させる。かかる可溶分をセライト濾過により採取する。その後得られた溶液中の溶媒を除去する。溶媒除去後の固体を十分に乾燥し、塩化メチレンに溶解する成分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上記と同様にして20℃における比粘度を求め、該比粘度から上記と同様にして粘度平均分子量Mを算出する。
【0032】
(B成分:ポリ乳酸樹脂)
通常、ポリ乳酸は、光学純度が高いほど融点や結晶性が高い。ポリ乳酸の融点や結晶性は、分子量や重合時に使用する触媒の影響を受けるが、通常、光学純度が98%以上のポリ乳酸では融点が約170℃程度であり結晶性も比較的高い。また、光学純度が低くなるに従って融点や結晶性が低下し、例えば光学純度が88%のポリ乳酸では融点は約145℃程度であり、光学純度が75%のポリ乳酸では融点は約120℃程度である。光学純度が70%よりもさらに低いポリ乳酸では明確な融点は示さず非結晶性となる。
【0033】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5万以上、より好ましくは8万〜40万、さらに好ましくは10万〜30万である。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を5万以上とすることで、ポリ乳酸系樹脂をフィルムなどの成形品とした場合に強度物性が優れたフィルムとすることができる。
【0034】
本発明のポリ乳酸は通常ラクタイドと呼ばれる乳酸の環状二量体から開環重合により合成され、その製造方法に関してはUSP1,995,970、USP2,362,511、USP2,683,136に開示されている。開環重合によらず直接脱水重縮合により乳酸系樹脂を製造する場合には、乳酸類と必要に応じて他のヒドロキシカルボン酸を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより、本発明に適した重合度の乳酸系樹脂が得られる。
【0035】
また、ポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。本発明において用いられるポリ乳酸系樹脂の共重合成分としては、生分解性を有する成分を選択することが好ましい。
【0036】
本発明においては乳酸類のみの重合体であるポリ乳酸が好適に用いられ、とりわけL−乳酸を主原料とするポリL−乳酸樹脂が好ましい。B成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量%中、5〜45重量%であり、10〜40重量%が好ましく、20〜30重量%がより好ましい。かかる配合量が5重量%より小さい場合には、流動性、剛性の向上は見られず、さらに成形品表面外観の悪化、強度低下となる。また45重量%を超えると、成形品表面外観の悪化、強度低下および耐熱性低下が著しくなるため好ましくない。
【0037】
(C成分:相容化剤)
本発明の樹脂組成物はC成分として相容化剤を含有する。本発明における相容化剤とは、芳香族ポリカーボネート樹脂およびポリ乳酸樹脂との相容化を促進させるものでありA成分およびB成分を微分散化させる作用を有するものであり、その結果、優れた表面外観及び耐衝撃性を得ることができる。
【0038】
相容化剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対し、0.1〜30重量部であり、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。0.1重量部未満では相容化剤としての効果が小さく、30重量部を越すと表面外観、耐熱性、機械特性の低下が起こるため好ましくない。
【0039】
かかる相容化剤は実質的にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤である。この相容化剤としては、下記式(1)〜(4)で表されるアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤であることが好ましい。なお、「実質的にアクリル成分からなる」とはアクリル成分が全体の95重量%以上であることを示し、相容化剤としての効果を損なわない限り5%未満であれば他の成分を含んでいても良い。
【0040】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(式中Xは水素原子またはメチル基である。)
【0041】
本発明のC成分を構成する(1)〜(4)であらわされるアクリル成分(以下、単に(1)〜(4)と記載する。)の構成比は、(1)〜(4)の合計100mol%中、(1)が40〜60mol%、(2)が30〜50mol%、(3)が1〜15mol%、(4)が1〜15mol%であることが好ましく、(1)が45〜55mol%、(2)が35〜45mol%、(3)が1〜10mol%、(4)が1〜10mol%であることがさらに好ましく、(1)が50〜55mol%、(2)が35〜40mol%、(3)が1〜7mol%、(4)が1〜7mol%であることが特に好ましい。かかる範囲内で構成された実質的にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤は、優れた相容性を発揮する。かかる構成比は、溶媒として重クロロホルムを用い、定量モード(逆ゲートデカップルモード)で測定した13C−NMRスペクトルから算出できる。
【0042】
本発明のC成分の構成単位に含まれるXは水素原子とメチル基で構成され、その好ましい比率は、Xが水素原子である場合をアクリレート、Xがメチル基である場合をメタクリレートとし、そのモル比率で表すと、アクリレート(Xが水素):メタクリレート(Xがメチル基)=30〜60:70〜40であることが好ましく、アクリレート:メタクリレート=35〜55:65〜45であることがさらに好ましく、アクリレート:メタクリレート=40〜55:60〜45であることが特に好ましい。かかる比率からなる実質的にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤は、優れた相容性を発揮する。かかるアクリレートとメタクリレートの比率は、溶媒として重クロロホルムを用い、定量モード(逆ゲートデカップルモード)で測定した13C−NMRスペクトルから算出できる。
【0043】
本発明のC成分の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1,000〜300,000が好ましく、5,000〜250,000であることがより好ましく、7,000〜200,000であることがさらに好ましい。ここでいう重量平均分子量は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0044】
従来、相容化剤として、ポリエチレン系を主鎖としビニル系重合体を側鎖としたグラフト共重合体(例えばポリエチレン/グリシジルメタクリレート、ポリエチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−g−ポリメチルメタクリレート)、ポリ(エチレン/エチルアクリレート/無水マレイン酸)−g−ポリメチルメタクリレート、ポリ(エチレン/エチルアクリレート/無水マレイン酸)−g−ポリ(アクリロニトリル/スチレン)、ポリ(メチルメタクリレート/無水マレイン酸))、ポリ(エチレン/メタクリル酸)およびポリ(エチレン/メタクリル酸)の分子間を金属イオンで架橋したアイオノマー樹脂、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)などのスチレン−ブタジエンブロック共重合体、水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)などのスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水添物)、あるいは重量平均分子量が100万を超えるアクリル酸アルキル共重合体などが用いられていた。しかしこれらの相容化剤は、芳香族ポリカーボネートとポリ乳酸樹脂を相容させる効果は薄く、芳香族ポリカーボネート樹脂およびポリ乳酸樹脂からなる樹脂組成物に特有の表面の不均一な真珠光沢やフローマークを解消と機械特性の向上の双方を達成することは困難であった。これに対し、実質的にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤を用いることによって、良好な表面外観を持ち、かつ耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得ることができる。なお、ジェッティングを防止するために、C成分を添加する効果を妨げない範囲で、上述の従来使用されていた相容化剤を少量添加しても差し支えなく、その含有量は樹脂成分100重量部に対して0.5〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0045】
(D成分:離型剤)
本発明の樹脂組成物は、D成分として離型剤を含有してもよい。本発明の樹脂組成物には高い寸法精度が要求されることが多い。したがって樹脂組成物は離型性に優れることが好ましい。かかる離型剤としては公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1−アルケン重合体など酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、および蜜蝋などを挙げることができる。
D成分の含有量は樹脂成分100重量部に対し、0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部である。
【0046】
(E成分:酸化防止剤)
本発明の樹脂組成物は、E成分として酸化防止剤を含有することができる。酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤が好ましく使用される。酸化防止剤を配合する事により、成形加工時の色相や流動性が安定するだけでなく、耐加水分解性の向上にも効果がある。
【0047】
ヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。上記化合物の中でも、本発明においてはテトラキス[メチレン−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、および3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが好ましく利用される。特にオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
ホスファイト系化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。さらに他のホスファイト系化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、および2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。好適なホスファイト系化合物は、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイトである。これらはいずれも入手容易である。上記ホスファイト系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
ホスホナイト系化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト系化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト系化合物との併用可能であり好ましい。ホスホナイト系化合物としてはテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイトが好ましく、該ホスホナイトを主成分とする酸化防止剤は、Sandostab P−EPQ(商標、Clariant社製)およびIrgafos P−EPQ(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販されておりいずれも利用できる。上記ホスホナイト系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
チオエーテル系化合物の具体例として、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)等が挙げられる。上記チオエーテル系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
E成分の含有量は樹脂成分100重量部に対し、0.01〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜1重量部、さらに好ましくは0.05〜0.5重量部である。
また、前記ヒンダードフェノール系化合物とホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、チオエーテル系化合物のいずれか1種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。ヒンダードフェノール系化合物とホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、チオエーテル系化合物のいずれか1種類以上を組み合わせて使用することで、より成形加工時の色相、流動性の安定化、耐加水分解性の向上に効果がある。
【0052】
本発明の樹脂組成物には、更に本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド等)、難燃剤(例えば、臭素化エポキシ、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリアクリレート、トリフェニルホスフェート、ホスフェートオリゴマー、ホスホン酸アミド、シリコーン系難燃剤等)、難燃助剤(例えば、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン等)、滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン等)、核剤(例えば、ステアリン酸ナトリウム、エチレン−アクリル酸ナトリウム等)、衝撃改良剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等を配合することができる。更に本発明は、使用目的に応じて、繊維状無機強化材以外のガラスフレーク、ワラストナイト、カオリンクレー、マイカ、およびタルクといった一般に知られている各種フィラーを併用することができる。
【0053】
(樹脂組成物の製造)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造には、任意の方法が採用される。例えばA成分からE成分を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合(いわゆるドライブレンド)した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより得られた予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、溶融混練後の組成物をペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。
【0054】
他に、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。かかる液注装置、または液添装置は加温装置が設置されているものが好ましく使用される。
【0055】
押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化することができる。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0056】
(成形品の作成)
上記の如く得られた本発明の樹脂組成物は通常上記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。更にペレットを経由することなく、二軸押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接シート、フィルム、異型押出成形品、ダイレクトブロー成形品、および射出成形品にすることも可能である。
【0057】
かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。より好ましいのは低射出速度でも成形が可能な射出圧縮成形および射出プレス成形である。
【0058】
また本発明の樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物は回転成形やブロー成形などにより成形品にしてもよい。
【0059】
更に本発明の樹脂組成物からなる成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の樹脂に用いられる方法が適用できる。表面処理としては、具体的には、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理が例示される。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、評価としては以下の項目について実施した。原料は以下の原料を用いた。
【0061】
[実施例1〜5、比較例1〜6]
1.組成物ペレットの製造
下記の方法により、組成物ペレットの製造を行った。
表1および表2に記載の各成分を、表1および表2に示す割合にてドライブレンドした後、径40m/m、L/D=32のベント付き単軸押出機(いすず化工機(株)製:いすずEXT40)を用い、シリンダー温度250℃にて溶融混練後、押出し、ストランドカットすることで、各組成物のペレットを得た。
【0062】
2.成形品の作成
得られたペレットを80℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形により、シリンダー温度250℃、金型温度40℃にて、評価項目の試験片を作成した。
【0063】
3.評価方法
実施例中における各値は下記の方法で求めた。
(1)シャルピー衝撃強度
ISO179に準じてノッチ付きシャルピー衝撃強度の測定を行った。なお、試験片は長さ80mm×幅10mm×厚み4mmのものを用いた。シャルピー衝撃強度は20KJ/m以上であることが必要である。
(2)曲げ弾性率
ISO178に準拠して曲げ弾性率を測定した。なお、試験片は長さ80mm×幅10mm×厚み4mmのものを用いた。曲げ弾性率は1800MPaであることが必要である。
(3)外観
乾燥後のペレットをシリンダー内径50mmφの射出成形機(住友重機機械工業(株)製:ULTRA220−NIVA)を使用し、図1に示すノートパソコンの筐体成形品をシリンダー温度250℃および金型温度40℃で、射出速度30〜75mm/secで成形した。得られた成形品を用いて外観を評価した。真珠光沢やフローマークがなく均一な外観のものを○、真珠光沢かフローマークのどちらかがあるものは△、両方見られるものは×とした。
(4)耐熱性
ISO75−1、75−2に準拠して荷重たわみ温度を測定した。なお、試験片は長さ80mm×幅10mm×厚み4mmのものを用いた。荷重たわみ温度は70℃以上であることが必要である。
各実施例および比較例の各評価結果を表1および表2に示した。
【0064】
なお、実施例及び比較例で使用した原材料は、下記の通りである。
(A成分:芳香族ポリカーボネート樹脂)
A:粘度平均分子量25,110の直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製パンライトL−1250WQ(商品名))
(B成分:ポリ乳酸樹脂)
B:ネイチャーワークス社製、グレード名“4032D”(D体含有量=1.4%、MVR=2cm/10min、水分量=360ppm、Tm=166℃、重量平均分子量=220,000)
(C成分:相容化剤)
C−1:エポキシ基含有アクリル共重合体(構成比:(1)52mol%、(2)37mol%、(3)6.8mol%、(4)4.2mol%、モル比率(アクリレート/メタクリレート):46.8/53.2、日本油脂(株)製“モディパー”AT−14630)
C−2:エチレン/グリシジルメタクリレート−g−ポリ(ブチルアクリレート/メチルメタクリレート)(構成比:ポリエチレン成分83.5mol%、(1)2.9mol%、(3)9.4mol%、(4)4.2mol%、モル比率(アクリレート/メタクリレート)=41.8/58.2、日本油脂(株)製“モディパー”A−4300)
C−3:水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体((株)クラレ製“セプトン”8006)
(D成分:離型剤)
D:低分子量ポリエチレン(三井化学(株)製“Hiwax”405MP)
(E成分:酸化防止剤)
E−1:n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・ジャパン(株)製“イルガノックス”1076)
E−2:ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業(株)製“アデカスタブ”PEP−24G)
(その他の成分)
F−1:アクリル酸アルキル共重合物(重量平均分子量310万、三菱レイヨン(株)製“メタブレン”P−530A)
結果を表1および表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1および表2の結果から明らかな通り、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂との混合物に実質的にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤を添加した樹脂組成物において、良好な表面外観を持ち、かつ耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 ノートパソコンのハウジングを模した成形品本体
2 ゲート(2点ピンゲート)
3 おおよそのウエルドライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)55〜95重量%および(B)ポリ乳酸樹脂(B成分)5〜45重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)実質的にアクリル成分のみからなり、かつエポキシ基を含む相容化剤(C成分)を0.1〜30重量部含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
C成分が下記式(1)〜(4)で表されるアクリル成分のみからなる相容化剤である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(式中Xは水素原子またはメチル基である。)
【請求項3】
樹脂成分100重量部に対し、(D)離型剤(D成分)を0.01〜10重量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂成分100重量部に対し、(E)酸化防止剤(E成分)を0.01〜5重量部含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
B成分がポリL−乳酸樹脂である請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−202009(P2011−202009A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70186(P2010−70186)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】