説明

表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】鋼板母材にSi、Mn、Alを含んでいても、表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【解決手段】質量%で、C:0.001〜0.3%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Al:0.001〜2.0%、P:0.0001〜0.3%、S:0.0001〜0.1%、N:0.0001〜0.007%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板の表面に、質量%でFe:3.0〜20.0%、Al:0.001〜0.5%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該めっき層が、Si、Mn又はAlの1種又は2種以上を含む層状酸化物を含有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の外板や構造部材等に適する、表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっきは、鋼板の防食を目的として施され、自動車の外板や構造部材等、広範囲に使用されている。その製造方法としては、連続式溶融亜鉛めっきライン(以下、CGLと称する)において、脱脂洗浄後、H2及びN2を含む還元雰囲気にて、ラジアントチューブによる間接加熱により焼鈍し、めっき浴温度近傍まで冷却した後に、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、めっき浴を出た後に再加熱して合金化すると言う全還元炉方式がある。
【0003】
めっき前の焼鈍については、無酸化炉を有したCGLにおいて、脱脂洗浄後、無酸化炉中で非酸化性雰囲気にて加熱し、その後、H2及びN2を含む還元雰囲気にて焼鈍すると言う無酸化炉方式も行われる場合がある。
【0004】
近年、自動車業界においては、車体の軽量化及び衝突安全性の向上を目的として、使用される鋼材の高強度化が求められている。しかし、一般に、鋼材の強度が上昇すると延性が低下するため、鋼中にSi、Mn、Al等の元素を多量に添加し、延性を落とさずに強度を上昇させた鋼材が採用されている。
【0005】
車体の防錆能力向上のために、これらの高強度鋼板に対しても合金化溶融亜鉛めっきすることが求められるが、高強度鋼板では、溶融亜鉛めっき浴に浸漬時、不めっきが発生すると言う問題がある。不めっきは、合金化しても残存するため、表面外観に劣る。また、不めっきが発生しなくても、めっき密着性が低下すると言う問題がある。
【0006】
不めっきやめっき密着性の低下の原因としては、高強度化するために添加している鋼中のSi、Mn、Al等の易酸化性の元素が、Feに対する還元雰囲気においても容易に酸化するため、CGLの焼鈍工程において選択酸化し、鋼板表面に外部酸化膜を形成することにあると考えられてきた。
【0007】
外部酸化膜とは、鋼中の易酸化性元素が鋼板表面まで外方拡散して酸化し、形成した酸化膜のことを指す。外部酸化現象は、易酸化性元素の外方拡散速度が、焼鈍雰囲気中の酸素が鋼中へ内方拡散する速度よりも早い場合に起こる。
【0008】
鋼板がめっき浴から出る際に、鋼板表面に易酸化性元素の外部酸化膜が存在していると、溶融亜鉛との濡れ性が悪いために、不めっきが発生する。不めっきが発生しない場合でも、めっき後に鋼板とめっき層の界面に残存する外部酸化膜が多ければ、プレス成型等の加工時に、外部酸化膜を起点としてめっき層が剥離するために、めっき密着性が低下する。
【0009】
これらの問題を解決する手段として、CGLの焼鈍工程において、易酸化性元素の選択酸化を抑制し、鋼板表面への外部酸化膜の形成を防止する手段が採用されてきた。
【0010】
例えば、特許文献1には、焼鈍前に特定の電気めっきを付与することで、易酸化性元素が外方拡散して鋼板表面まで到達する時間を稼ぎ、鋼板表面への外部酸化膜の形成を防止する方法が開示されている。
【0011】
特許文献2には、熱延鋼板を黒皮スケールの付いた状態のまま加熱して、地鉄に内部酸化層を形成させ、連続式溶融めっきラインの焼鈍工程において、易酸化性元素の外方拡散を抑制し、外部酸化膜の形成を防止する方法が開示されている。
【0012】
特許文献3には、CGLの焼鈍工程において、雰囲気中に水蒸気を導入することによって酸素の内方拡散速度を増加させ、易酸化性元素を鋼板内部で酸化させることによって、外部酸化を抑制し、鋼板表面への外部酸化膜の形成を防止する方法が開示されている。
【0013】
特許文献4には、めっき層中に、Si酸化物、Mn酸化物、SiとMnの複合酸化物のいずれか一種以上の酸化物粒子を含有させることにより、FeとZnの反応を促進させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
【0014】
【特許文献1】特開平3-28359号公報
【特許文献2】特開2002-47547号公報
【特許文献3】特開2005-60742号公報
【特許文献4】特開2004-315960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、前記特許文献1に開示される技術では、CGLの焼鈍炉前段に新たにめっき設備を設けるか、もしくは、予め電気めっきラインにおいてめっき処理を行わなければならず、大幅なコストアップとなる。特許文献2では、熱延後に再び加熱する工程を経ねばならず、製造コストが増加する。特許文献3では、雰囲気中の水蒸気濃度を規定値内に制御しなければならず、製造可能範囲が狭くなる。特許文献4では、めっき層中の酸化物粒子にはめっき密着性を悪化させる効果はないものの、酸化物粒子がない場合に比べて加工時のめっき密着性を改善する効果はなかった。
【0016】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記問題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、めっき層中に、Si、Mn又はAlの1種又は2種以上の元素を含む層状酸化物を含有させることによって、不めっきが抑制されることを見出した。また、めっき密着性に関しては、めっき層中に上記の層状酸化物を含有しない場合と比較して、著しく向上することを見出し、表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提供を可能とした。
【0018】
不めっきが抑制されたり、めっき密着性が向上する理由の詳細については不明であるが、めっき層を上記の構造とすることで、不めっきが抑制され、めっき密着性に優れることを見出したのである。
【0019】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) 質量%で、
C:0.001〜0.3%、
Si:0.001〜3.0%、
Mn:0.1〜3.0%、
Al:0.001〜2.0%、
P:0.0001〜0.3%、
S:0.0001〜0.1%、
N:0.0001〜0.007%を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板の表面に、質量%で、
Fe:3.0〜20.0%、
Al:0.001〜0.5%を含有し、
残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該めっき層が、Si、Mn又はAlの1種又は2種以上を含む層状酸化物を含有することを特徴とする表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(2) めっき層が、さらに、質量%で、
Si:0.001〜0.5%、
Mn:0.001〜0.5%の1種又は2種を含有している上記(1)に記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(3) めっき層中に存在する層状酸化物と、めっき層と鋼板の界面との距離dが、式(A)の条件を満たす上記(1)又は(2)に記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
0.01μm≦d≦5μm ・・・ (A)
(4) めっき層中に存在する層状酸化物の厚さTが、式(B)の条件を満たす上記(1)〜(3)のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
1nm≦T≦100nm ・・・ (B)
(5) めっき層中に存在する層状酸化物の厚さTと長さLの比L/Tが、式(C)の条件を満たす上記(1)〜(4)のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
1.5≦L/T≦30000 ・・・ (C)
(6) 鋼板母材が、さらに質量%で、Nb、Ti、V、Zr、Hf、Taの1種又は2種以上を合計で0.001〜0.5%含有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(7) 鋼板母材が、さらに質量%で、Cr、Ni、Cuの1種又は2種以上を、合計で0.001〜5.0%含有する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(8) 鋼板母材が、さらに質量%で、
B:0.0001〜0.005%を含有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0020】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき層がSi、Mn又はAlの1種又は2種以上を含む層状酸化物を含有することにより、不めっきが抑制され、めっき密着性に優れるので、自動車の外板や構造部材等の用途に極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明(1)において、鋼板母材中の各元素を限定している理由について、以下に述べる。
【0022】
鋼板母材中のC含有量を0.001〜0.3質量%の範囲に規定しているのは、強度を確保するために必要な下限を0.001質量%とし、溶接性を保持可能な上限として0.3質量%としたからである。
【0023】
鋼板母材中のSi含有量を0.001〜3.0質量%の範囲に限定しているのは、0.001質量%未満とするのは、コスト的に不利となるからであり、上限を3.0質量%としたのは、これを超える添加は溶接性に悪影響を及ぼすためである。
【0024】
鋼板母材中のMn含有量を0.1〜3.0質量%の範囲に限定しているのは、0.1質量%未満とするのは、コスト的に不利となるからであり、上限を3.0質量%としたのは、これを上回る添加は伸びに悪影響を及ぼすためである。
【0025】
鋼板母材中のAl含有量を0.001〜2.0質量%の範囲に限定しているのは、0.001質量%未満とするのはコスト的に不利となるからであり、2.0質量%を超えると溶接性を悪化させるためである。
【0026】
鋼板母材中のP含有量を0.0001〜0.3質量%の範囲に限定しているのは、0.0001質量%未満とするのはコスト的に不利となるからであり、0.3質量%を超えると溶接性を悪化させるためである。
【0027】
鋼板母材中のS含有量を0.0001〜0.1質量%の範囲に限定しているのは、0.0001質量%未満とするのはコスト的に不利となるからであり、0.1質量%を超えると溶接性を悪化させるためである。
【0028】
鋼板母在中のN含有量を0.0001〜0.007質量%の範囲に限定しているのは、0.0001質量%未満とするのはコスト的に不利となるからであり、0.007質量%を超えると加工性が低下するからである。
【0029】
次に、本発明(1)において、めっき層の構造について限定した理由を説明する。
【0030】
めっき層中のFe含有量を3.0〜20.0質量%の範囲に限定しているのは、3.0質量%以下ではスポット溶接性が劣るからであり、20.0質量%を超えると、めっき層自体の密着性を損ない、加工の際めっき層が破壊・脱落し、金型に付着することで、成形時の疵の原因となるからである。
【0031】
めっき層中のAl含有量を0.001〜0.5質量%の範囲に限定しているのは、0.001質量%未満では、ドロス発生が顕著で良好な外観が得られないこと、0.5質量%を超えてAlを添加すると、合金化反応を著しく抑制してしまい、合金化溶融亜鉛めっき層を形成することが困難となるためである。
【0032】
めっき層中のFe及びAlの含有量を測定するには、めっき層を酸で溶解し、溶解液を化学分析する方法を用いればよい。例えば、30mm×40mmに切断した合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、インヒビタを添加した5%HCl水溶液で、鋼板母材の溶出を抑制しながらめっき層のみを溶解し、溶解液をICP発光分析して得られた信号強度と、濃度既知溶液から作成した検量線からFe及びAlの含有量を定量する方法を用いればよい。また、各試料間の測定ばらつきを考慮して、同じ合金化溶融亜鉛めっき鋼板から切出した、少なくとも3つの試料を測定した平均値を採用すればよい。
【0033】
めっき付着量については、特に制約は設けないが、耐食性の観点から片面付着量で5g/m2以上であることが望ましい。また、めっき密着性を確保すると言う観点からは、片面付着量で100g/m2を超えないことが望ましい。本発明の溶融亜鉛めっき鋼板上に、塗装性、溶接性を改善する目的で、上層めっきを施すことや、各種の処理、例えば、クロメート処理、りん酸塩処理、潤滑性向上処理、溶接性向上処理等を施しても、本発明を逸脱するものではない。
【0034】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき層中にSi、Mn、Alの内の1種以上の元素を含む層状酸化物を含有することで、不めっきが抑制され、めっき密着性に優れる。本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面構造の模式図の一例を、図1に示す。層状酸化物とは、図1中の2に示すような、厚さよりも長さの方が大きい酸化物のことを指し、これはCGLの焼鈍工程で鋼板表面に形成した易酸化性元素の外部酸化膜が、めっき層中に取り込まれたものである。層状酸化物の分布形態は、特に限定されるものではなく、細かく分散していても、めっき層の厚さ方向に重なっていても本発明の要件を満たす。めっき層が図1のような構造であることにより、不めっきを抑制することができるのは、鋼板がめっき浴から出る際に、鋼板表面と溶融亜鉛との物理的濡れ性が向上するからであると推定される。
【0035】
めっき層が前記のような層状酸化物を含有しない場合と比較して、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板がめっき密着性に著しく優れるのは、めっき層と鋼板の界面に層状酸化物が残存しないことによって、めっき層が剥離する起点がなくなり、めっき密着性の悪化因子が消滅する効果に加え、加工時にめっき層と鋼板の界面から発生する亀裂の進展を、層状酸化物が停止する効果が存在するからであると推定される。
【0036】
めっき層が層状酸化物を含有していることを確認するには、めっき鋼板の断面より組織観察を行い、層状物を組成分析し、層状物がSi、Mn又はAlの1種又は2種以上を含む酸化物であることを確認すればよい。例えば、集束イオンビーム加工装置(FIB)により、めっき層を含むように鋼板断面を薄片に加工した後、電解放出型透過型電子顕微鏡(FE-TEM)による観察と、エネルギー分散型X線検出器(EDX)による組成分析を行う方法が挙げられる。FIBにより観察用試料を作製した後、FE-TEMにより5万倍で層状酸化物を観察した例を、図2に示す。図2中には、4、5で示すような層状酸化物が存在する。また、図2中の4で示す層状酸化物をEDXで分析して得たスペクトルを、図3に示す。図3より、図2中に4で示す層状酸化物は、Si、Mnを含む層状酸化物であることが分かる。ここで検出されたMoは、観察用試料を載せているMo製のメッシュに由来する。
【0037】
Si、Mn、Alの1種以上を含む層状酸化物をめっき層に含有させるには、CGLの焼鈍工程において、鋼板表面に易酸化性元素の外部酸化膜を形成させた後、めっき浴に浸漬し、めっき浴中で外部酸化膜を剥離して、めっき層に含有させる必要がある。
【0038】
鋼板表面に易酸化性元素の外部酸化膜を形成するには、鋼中の易酸化性元素が外部酸化するように、CGLの焼鈍工程における雰囲気を適切な範囲に制御することが必要である。即ち、焼鈍雰囲気中のH2濃度と露点を管理することが特に重要であり、通常使用されるH2濃度が20体積%以下のN2雰囲気では、露点を-20℃以下とすることによって、易酸化性元素の外部酸化膜を形成することができる。また、外部酸化膜が形成することが重要であるので、易酸化性元素が一部内部酸化しても構わない。
【0039】
焼鈍工程で鋼板表面に形成した外部酸化膜を、めっき浴中で剥離し、めっき層中に含有させる方法について、以下に説明する。本発明者らが鋭意検討した結果、めっき浴中に鋼板が進入した直後に、鋼板に高周波振動を加えることによって、めっき浴中で外部酸化膜が剥離し、めっき層中に含有させることが可能であることを見出した。めっき浴中で鋼板に高周波振動を加えるには、めっき浴の外側に発振器を設置し、めっき浴中に振動子を設置すればよい。本発明者らによれば、鋼板から10cm以内の距離に振動子を設置し、15kHz〜30kHzの周波数の振動を加えることによって、外部酸化膜の剥離が可能であることが分かった。また、振動子は、それ自体の温度が高温になり過ぎると作動しないため、振動子を常に冷却して、温度が200℃以下になるように制御した。
【0040】
めっき浴中で鋼板に高周波振動を加えることによって、外部酸化膜の剥離が可能となるのは、鋼板周辺に微小なキャビテーションが発生し、この気泡が潰れる際の衝撃によって、外部酸化膜に外力が加えられるためではないかと推定される。
【0041】
また、層状酸化物をめっき層中に含有させるためには、めっき浴への鋼板の進入速度を管理することも重要であることが分かった。即ち、進入速度が大き過ぎれば、めっき浴中で剥離した外部酸化膜がめっき層中に留まることなく、めっき浴中に流出してしまい、めっき層中に層状酸化物を含有させることができない。即ち、めっき密着性の著しい向上が望めないため、進入速度を150m/min以下とすることが重要であることを見出した。また、進入速度が小さ過ぎれば、高周波振動による外部酸化膜の剥離が促進されて、外部酸化膜がめっき浴中に流出してしまう。このため、進入速度を50m/min以上とすることが重要であることを見出した。
【0042】
本発明(2)で、めっき層中のSi含有量を0.001〜0.5質量%の範囲に限定しているのは、0.001質量%以上で、不めっきの抑制及びめっき密着性の向上の効果が顕著に現れるようになるためであり、0.5質量%を超えると、前記効果が飽和すると共に、溶接性が悪化する可能性が高まるからである。より好ましくは0.001〜0.3質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.001〜0.25質量%の範囲である。
【0043】
めっき層中のMn含有量を0.001〜0.5質量%の範囲に限定しているのは、0.001質量%以上で、不めっきの抑制及びめっき密着性の向上の効果が顕著に現れるようになるためであり、0.5質量%を超えると、前記効果が飽和すると共に、溶接性が悪化する可能性が高まるからである。より好ましくは0.001〜0.3質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.001〜0.25質量%の範囲である。
【0044】
めっき層がSiやMnを含有するのは、めっき層中に存在する層状酸化物が含むSiやMnに由来する。層状酸化物中の成分として存在する、めっき層中のSiやMnの含有量を測定するには、例えば、30mm×40mmのサイズに切断した合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、めっき層のみをインヒビタ入りの5%HCl水溶液で溶解した後、酸不溶性であるため溶け残る層状酸化物をろ過し、抽出残渣に炭酸ナトリウムを加えて加熱溶解し、溶融体に10%HCl水溶液を加えて、ICP発光分析で定量する方法を用いればよい。また、各試料間の測定ばらつきを考慮して、同じ合金化溶融亜鉛めっき鋼板から切出した、少なくとも3つの試料を測定した平均値を採用すればよい。
【0045】
本発明(3)で、めっき層中に存在する層状酸化物と、めっき層と鋼板の界面との距離dを0.01μm≦d≦5μmの範囲に限定しているのは、0.01μm未満ではめっき密着性が劣る可能性があるためであり、5μmを超えると層状酸化物がめっき層中に存在している効果が弱くなってしまうからである。この効果は、dが小さいほど大きいので、好ましくは0.01μm≦d≦3μmの範囲であり、より好ましくは0.01μm≦d≦2μmの範囲とすることである。
【0046】
本発明(4)で、めっき層中に存在する層状酸化物の厚さTを1nm≦T≦100nmの範囲に限定しているのは、1nm未満であれば、加工時にめっき層と鋼板の界面から発生した亀裂の進展を停止する効果が現れ難く、著しいめっき密着性の向上が認められ難いからであり、100nmを超えると、めっき層中に含有することによって生じる歪が大きく、歪を緩和させるために亀裂が生じて、めっき密着性を悪化させてしまう虞があるからである。めっき密着性の観点から、好ましくは1nm≦T≦50nmの範囲であり、より好ましくは1nm≦T≦20nmの範囲とすることである。
【0047】
本発明(5)で、めっき層中に存在する層状酸化物の厚さTと長さLの比L/Tを、1.5≦L/T≦30000の範囲に限定しているのは、1.5以上で酸化物が層状であることによるめっき密着性を向上させる効果が発現し易くなり、30000を超えると溶接性が悪化する虞が高まるからである。めっき密着性の観点から、好ましくは1.5≦L/T≦1000の範囲であり、より好ましくは1.5≦L/T≦100の範囲である。
【0048】
層状酸化物と、めっき層と鋼板の界面との距離d、層状酸化物の厚さT、層状酸化物の厚さTと長さLの比L/Tを測定する方法としては、例えば、前述したような、FIBで観察用試料を作製した後、FE-TEMで観察し、得られた画像データから測定する方法を用いればよい。例えば、図2中4で示した層状酸化物について、d、T、L/Tを測定すると、dは層状酸化物の下端からめっき層と鋼板の界面までの距離を測定すればよく、0.54μmとなる。Tは層状酸化物の下端から上端までの厚さを測定すればよく、57nmとなる。L/Tは、Lを層状酸化物の左端から右端までの距離として測定して850nmとなり、L/Tの比を計算して、14.9となる。
本発明においては、一つの合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、5万倍で10視野観察し、それぞれの視野で観察された層状酸化物について、上記のようにd、T、L/Tの測定を行い、測定した値の内、それぞれの最大値と最小値を除いた後の平均値が前述した範囲に入っていれば、本発明の要件を満たしていることとする。例えば、観察した視野において、前述の範囲に入っていない層状酸化物が含まれていても、最大値と最小値を除いた後の平均値が本発明の範囲内であれば、本発明の要件を満たしていることとする。
【0049】
本発明(6)で、鋼板母材中のNb、Ti、V、Zr、Hf、Taの1種又は2種以上の合計の含有量を0.001〜0.5質量%の範囲に限定しているのは、0.001質量%以上の添加で、これらの元素が微細な炭化物、窒化物または炭窒化物を形成して鋼板の強度が上昇するからであり、0.5質量%を超えると加工性が低下するからである。
【0050】
本発明(7)で、鋼板母材中のCr、Ni、Cuの1種又は2種以上の合計の含有量を0.001〜5.0質量%の範囲に限定しているのは、0.001質量%以上の添加で強度が上昇するからであり、5.0質量%を超えると加工性が低下するからである。
【0051】
本発明(8)で、鋼板母材中のBの含有量を0.0001〜0.005質量%の範囲に限定しているのは、0.0001質量%以上の添加で粒界の強化や鋼板の高強度化の効果が現れるからであり、0.005質量%を超えると加工性が低下するからである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0053】
表1に示す組成からなるスラブを1150〜1200℃に加熱し、仕上げ温度900〜930℃で熱間圧延をして、厚さ4mmの熱間圧延鋼帯とし、580〜680℃で巻き取った。酸洗後、冷間圧延を施して、厚さ1.0mmの冷間圧延鋼帯とした後、ライン内焼鈍方式のCGLを用いて、合金化溶融亜鉛めっきを行った。焼鈍は、N2-5体積%H2、露点が-40℃の雰囲気中において、800℃で60秒間行い、冷却した後、460℃であるZn-0.13mass%Al-0.03mass%Feの組成のめっき浴に3秒間浸漬して引き上げた後、460〜580℃で5秒〜2分間合金化した。
【0054】
【表1】

【0055】
合金化溶融亜鉛めっき過程において、めっき層中にSi、Mn、Alの1種又は2種以上の元素を含む層状酸化物を含有させるため、めっき浴内での高周波振動の印加の有無、鋼板がめっき浴に侵入する速度を、表2に示すような条件に管理した。
【0056】
めっき層中のFe含有量、Al含有量は、前述のように、インヒビタを添加した5%HCl水溶液でめっき層のみを溶解し、溶解液をICP発光分析することにより測定した。
【0057】
めっき層中のSi含有量、Mn含有量は、前述のように、インヒビタを添加した5%HCl水溶液でめっき層のみを溶解した後、溶解液をろ過して残った抽出残渣に炭酸ナトリウムを加えて加熱溶解し、溶融体に10%HCl水溶液を加えて、ICP発光分析で定量した。
【0058】
めっき層中の、Si、Mn、Alの1種又は2種以上の元素を含む層状酸化物の有無は、FIBによりめっき層を含むように鋼板断面を薄片に加工した後、FE-TEMによって観察し、EDXによる組成分析を行うことにより確認した。
【0059】
めっき層中の層状酸化物と、めっき層と鋼板の界面との距離d、めっき層中の層状酸化物の厚さT、めっき層中の層状酸化物の厚さTと長さLの比L/Tは、FIBで観察用試料を作製した後、FE-TEMで観察し、得られた画像データから、前述したような方法を用いて測定した。
【0060】
表面外観の評価は、不めっきの発生状況を目視判断し、評点付けすることにより、行った。不めっきなしを◎、直径0.5mm以下の微小不めっきが発生したが、外観上の許容範囲であるものを○、直径2mm以下の不めっきが発生したものを△、直径2mmを超える不めっきが発生したものを×とし、◎、○を合格レベルとした。
【0061】
圧縮応力が加わる加工時の、めっき密着性を評価するため、60°V曲げ試験後、曲げ部内側にテープを貼り、テープを引き剥がした。テープと共に剥離しためっき層の剥離状況から、めっき密着性を評価した。◎はめっき剥離が殆どないもの(剥離幅3mm未満)、○は実用上差し支えない程度の軽微な剥離(剥離幅3mm以上7mm未満)、△は相当量の剥離が見られるもの(剥離幅7mm以上10mm未満)、×は剥離が激しいもの(剥離幅10mm以上)とし、◎、○を合格とした。
【0062】
さらに厳しい加工が加わった際のめっき密着性を評価するために、ビード引抜き試験を行い、試験後ビード通過面にテープを貼り、テープと共に剥離しためっき層の剥離量からめっき密着性を評価した。ビード引抜き試験は、ビード先端部の曲率半径を2mm、押し付け荷重を2.94kNとして行った。単位面積当たりのめっき層の剥離量が5g/m2未満のものを◎、5g/m2以上10g/m2未満のものを○、10g/m2以上15g/m2未満を△、15g/m2以上を×とし、◎、○を合格とした。
【0063】
評価結果を表2に示す。表2より、本発明例は全て、表面外観、めっき密着性の評価が合格レベルを満たしている。本発明の範囲を満たさない比較例は、いずれも表面外観、めっき密着性の評価が低い。
【0064】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面構造を示す模式図。
【図2】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面を、FIBで加工し、FE-TEMにより5万倍で観察した、図面代用写真。
【図3】図2中の4の層状物をEDXで分析して得たスペクトル。
【符号の説明】
【0066】
1 合金化溶融亜鉛めっき層
2 Si、Mn、Alのいずれか1種以上を含む層状酸化物
3 鋼板母材
4 めっき層中に存在する層状物
5 めっき層中に存在する層状物
6 合金化溶融亜鉛めっき層
7 鋼板母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.001〜0.3%、
Si:0.001〜3.0%、
Mn:0.1〜3.0%、
Al:0.001〜2.0%、
P:0.0001〜0.3%、
S:0.0001〜0.1%、
N:0.0001〜0.007%を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板の表面に、質量%で、
Fe:3.0〜20.0%、
Al:0.001〜0.5%を含有し、
残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該めっき層が、Si、Mn又はAlの1種又は2種以上を含む層状酸化物を含有することを特徴とする表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
めっき層が、さらに、質量%で、
Si:0.001〜0.5%、
Mn:0.001〜0.5%の1種又は2種を含有している請求項1に記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
めっき層中に存在する層状酸化物と、めっき層と鋼板の界面との距離dが、式(A)の条件を満たす請求項1又は2に記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
0.01μm≦d≦5μm ・・・ (A)
【請求項4】
めっき層中に存在する層状酸化物の厚さTが、式(B)の条件を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
1nm≦T≦100nm ・・・ (B)
【請求項5】
めっき層中に存在する層状酸化物の厚さTと長さLの比L/Tが、式(C)の条件を満たす請求項1〜4のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
1.5≦L/T≦30000 ・・・ (C)
【請求項6】
鋼板母材が、さらに質量%で、Nb、Ti、V、Zr、Hf、Taの1種又は2種以上を合計で0.001〜0.5%含有する請求項1〜5のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
鋼板母材が、さらに質量%で、Cr、Ni、Cuの1種又は2種以上を、合計で0.001〜5.0%含有する請求項1〜6のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項8】
鋼板母材が、さらに質量%で、
B:0.0001〜0.005%を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の表面外観及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−270176(P2007−270176A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94136(P2006−94136)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】