説明

表面性状測定機

【課題】測定アームに最適な測定力を発生させる表面性状測定機を提供する。
【解決手段】表面性状測定機は、ブラケットに回転軸を支点として円弧運動可能に支持される測定アーム、測定アームの先端に設けられたスタイラス、及び、測定アームを円弧運動方向へ付勢するボイスコイルを備え、スタイラスに測定力を付与する測定アーム姿勢切替機構60を備えるスタイラス変位検出手段20と、制御部100と、を具備し、制御部100は、ヒステリシス誤差を取得するヒステリシス誤差取得手段124と、目標測定力を取得する目標測定力取得手段121と、目標測定力及びヒステリシス誤差に基づいて、測定力指令値を算出する指令値算出手段125と、測定力指令値に基づいてボイスコイルに電流を入力する駆動制御手段122と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状測定機に関する。詳しくは、被測定物の表面に接触させるスタイラスを有する測定アームを備えた表面性状測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物の表面にスタイラスを接触させて、被測定物の表面性状を測定する表面性状測定機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の表面追従型測定器(表面性状測定機)は、先端にスタイラスが取り付けられた測定アームを有し、この測定アームは軸を支点として揺動可能に設けられている。また、測定アームは、回転力発生部により回転されることで駆動され、所定方向に測定力が加えることが可能となる。この時、特許文献1の装置では、回転力発生部の回転方向を制御することで、測定方向を上向き又は下向きに変化させることが可能となる。
【0003】
さらに、この表面性状測定機は、スタイラスの種類、測定方向、検出器の傾きに対し、測定アームに最適な測定力を与えるための測定力指令値を記憶するメモリを備える。そして、メモリに記憶された測定力指令値から条件に合った指令値を読み出して、測定アームに測定力を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−111334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1では、下方向への測定力及び上方向への測定力を最適な値にするための測定力指令値が記憶部に記憶されているが、任意の測定力を発生させたい場合や、新たなスタイラスを追加する場合、測定力指令値を設定し直す必要がある。
しかしながら、測定アームに下向きの測定力を与える場合と、上向きの測定力を与える場合とにおいて、同じ測定力指令値を設定すると、実際に発生する測定力に差(ヒステリシス誤差)が生じる。例えば、10mNの測定力を発生させるために下向きの測定力を調整した場合であっても、ヒステリシス誤差が1mNある場合、上向きの測定力が9mNとなってしまう。したがって、任意の測定力を発生させたい場合や、新たなスタイラスを追加する場合では、測定方向に応じて測定力を算出する必要があり、作業が煩雑になるという課題があった。
【0006】
本発明は、容易に測定アームに最適な測定力を発生させることが可能な表面性状測定機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表面性状測定機は、本体に支持軸を支点として円弧運動可能に支持される測定アーム、前記測定アームの先端に設けられ、被測定物に接触可能なスタイラス、及び前記測定アームを円弧運動方向へ付勢し前記スタイラスに測定力を付与する測定力付与手段を備えた検出手段と、前記測定力に対応する指令値を算出して前記測定力付与手段の駆動を制御する制御部と、を具備した表面性状測定機であって、前記測定力付与手段は、前記測定アームを前記支持軸を支点として円弧運動方向へ付勢するボイスコイルを含んで構成され、前記制御部は、前記測定アームを円弧運動させた際のヒステリシス誤差を取得するヒステリシス誤差取得手段と、前記測定アームで発生させる目標測定力を取得する目標測定力取得手段と、前記目標測定力及び前記ヒステリシス誤差に基づいて、前記目標測定力に対して前記ボイスコイルに入力する測定力指令値を算出する指令値算出手段と、前記測定力指令値に基づいて、前記ボイスコイルに電流を入力する駆動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明では、指令値算出手段は、目標測定力取得手段により取得された目標測定力、及びヒステリシス誤差取得手段により取得されたヒステリシス誤差に基づいて、測定力指令値を算出する。このような構成では、例えば目標測定力のみから測定力指令値を求める場合等に比べて、ヒステリシス誤差の影響を低減させるように、目標測定力を補正した測定力指令値を算出することができる。したがって、このような測定力指令値に基づいて、測定アームを駆動させることで、容易に測定アームに最適な目的測定力を発生させることができ、ヒステリシス誤差の影響を抑えた高精度な測定を実施することができる。
【0009】
本発明の表面性状測定機では、前記検出手段は、前記測定アームの移動量を検出する変位検出部を備え、前記制御部は、前記測定アームの移動速度に対する前記測定力の関係である速度-測定力データを記憶する記憶手段と、所定の仮指令値を前記ボイスコイルに入力して前記測定アームを前記円弧運動方向における第一方向に移動させた際の第一移動速度、及び前記仮指令値を前記ボイスコイルに入力して前記測定アームを前記第一方向とは反対方向となる第二方向に移動させた際の第二移動速度を、前記変位検出部により検出される前記移動量から算出する速度算出手段と、を備え、前記ヒステリシス誤差取得手段は、前記第一移動速度、前記第二移動速度、及び前記速度-測定力データに基づいて、ヒステリシス誤差を算出することが好ましい。
【0010】
この発明では、速度算出手段は、仮指令値に基づいて測定アームを第一方向に移動させた際の第一移動速度と、前記仮指令値に基づいて測定アームを第二方向に移動させた際の第二移動速度とを算出する。そして、ヒステリシス誤差取得手段は、これらの第一移動速度、第二移動速度と、記憶手段に記憶される速度‐測定力データに基づいて、ヒステリシス誤差を算出する。
ヒステリシス誤差は、測定アームを第一方向に移動させた際に発生する測定力と、測定アームを第二方向に移動させた際に発生する測定力との差であり、測定力と移動速度とは比例関係となる。このため、第一移動速度と第二移動速度との差分(ヒステリシス量)に対する測定力がヒステリシス誤差となる。したがって、ヒステリシス誤差取得手段は、第一移動速度、第二移動速度、及び記憶手段に記憶された速度‐測定力データに基づいて、簡単な演算処理によりヒステリシス誤差を算出することができる。
【0011】
本発明の表面性状測定機では、前記制御部は、前記ヒステリシス誤差を記憶する記憶手段を備え、前記ヒステリシス誤差取得手段は、前記記憶手段から前記ヒステリシス誤差を取得する構成としてもよい。
ヒステリシス誤差は、測定アームに発生する測定力に関わらず一定の値となる。したがって、記憶手段に予めヒステリシス誤差を記憶しておき、測定力指令値を算出する際に、ヒステリシス誤差取得手段により記憶手段に記憶されたヒステリシス誤差を読み出すことで、より迅速に測定力指令値の算出処理を行うことができる。
【0012】
本発明の表面性状測定機では、前記記憶手段は、所定の基準指令値と、前記基準指令値に対応する電流を前記ボイスコイルに入力した際に前記測定アームの円弧運動により発生する測定力との差であるゲイン誤差を記憶し、前記指令値算出手段は、前記目標測定力、前記ヒステリシス誤差、及び前記ゲイン誤差に基づいて前記測定力指令値を算出することが好ましい。
本発明では、目標指令値算出手段は、ヒステリシス誤差に加え、ゲイン誤差を低減させる測定指令値を算出することができる。これにより、目標測定力取得手段により取得した目標測定力に対して、より最適な測定力指令値を算出することができ、測定時における誤差の影響をより低減することができる。
【0013】
本発明の表面性状測定機では、前記目標測定力をA、前記基準指令値をS、前記ゲイン誤差をG、前記ヒステリシス誤差をH、前記測定力指令値をXとした際、前記指令値算出手段は、次式により前記測定力指令値を算出することが好ましい。
【0014】
[数1]
X=A−(A×G/S)±(H/2) …(1)
【0015】
本発明では、上記(1)式に基づいて、測定アームに目標測定力を発生させるための指令値を算出する。これにより、目標測定力に対してヒステリシス誤差が中央振り分けにでき、かつ、目標測定力に対応したゲイン誤差補正を行うことができる。これにより、誤差の影響を受けない適切な指令値を迅速に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る表面性状測定機を示す斜視図。
【図2】本実施形態のX軸駆動機構およびスタイラス変位検出手段を示す図。
【図3】本実施形態の測定アームおよび変位検出器の関係を示す平面図。
【図4】本実施形態の測定アームおよび測定アーム姿勢切替機構を示す図。
【図5】本実施形態のシステム構成を示すブロック図。
【図6】本実施形態の表面性状測定機における測定力指令値の算出処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る一実施形態について、図面に基づいて説明する。
[表面性状測定機の構成]
図1は、本実施形態に係る表面性状測定機の構成を示す斜視図である。
図1に示すように、表面性状測定機は、ベース1と、このベース1上に載置され上面に被測定物を載置するステージ10と、被測定物の表面に接触されるスタイラス26A,26Bを有するスタイラス変位検出手段20と、このスタイラス変位検出手段20とステージ10とを相対移動させる相対移動機構40とを備える。
【0018】
相対移動機構40は、ベース1とステージ10との間に設けられステージ10を水平方向の一方向(Y軸方向)へ移動させるY軸駆動機構41と、ベース1の上面に立設されたコラム42と、このコラム42に上下方向(Z軸方向)へ移動可能に設けられたZスライダ43と、このZスライダ43を上下方向へ昇降させるZ軸駆動機構44と、Zスライダ43に設けられスタイラス変位検出手段20をステージ10の移動方向(Y軸方向)およびZスライダ43の移動方向(Z軸方向)に対して直交する方向(X軸方向)へ移動させるX軸駆動機構45とを備える。従って、相対移動機構40は、ステージ10をY軸方向へ移動させるY軸駆動機構41と、スタイラス変位検出手段20をZ軸方向へ移動させるZ軸駆動機構44と、スタイラス変位検出手段20をX軸方向へ移動させるX軸駆動機構45とを含む三次元移動機構によって構成されている。
【0019】
Y軸駆動機構41およびZ軸駆動機構44は、図示省略されているが、例えば、ボールねじ軸と、このボールねじ軸に螺合されたナット部材とを有する送りねじ機構によって構成されている。
図2は、X軸駆動機構45及びスタイラス変位検出手段の構成を示す図である。
X軸駆動機構45は、図2に示すように、Zスライダ43に固定された駆動機構本体46と、この駆動機構本体46にX軸方向と平行に設けられたガイドレール47と、このガイドレール47に沿ってX軸方向へ移動可能に設けられたXスライダ48と、このXスライダ48のX軸方向位置を検出するX軸位置検出器49と、Xスライダ48をガイドレール47に沿って移動させる送り機構50とを備える。
送り機構50は、駆動機構本体46にガイドレール47と平行に設けられXスライダ4
8に螺合された送りねじ軸51と、駆動源としてのモータ52と、このモータ52の回転を送りねじ軸51に伝達する回転伝達機構53とから構成されている。回転伝達機構53は、例えば、歯車列や、ベルトおよびプーリなどの機構によって構成されている。
【0020】
スタイラス変位検出手段20は、図2に示すように、Xスライダ48にボルト21を介して着脱可能に吊り下げ支持された本体としてのブラケット22と、このブラケット22に支持軸としての回転軸23を支点として上下方向へ揺動可能(円弧運動可能)に支持された測定アーム24と、この測定アーム24の先端に設けられた一対のスタイラス26A,26Bと、測定アーム24の円弧運動量(本実施形態では、Z軸方向の変位量)を検出する変位検出器27と、測定アーム24に位置調整可能に設けられたバランスウエイト29と、測定アーム24が円弧運動方向の第一方向(例えば、下方向)に付勢される姿勢および第二方向(例えば、上方向)に付勢される姿勢に切り替える測定アーム姿勢切替機構60と、ブラケット22、測定アーム24、変位検出器27、バランスウエイト29、測定アーム姿勢切替機構60を覆うケーシング28とを含んで構成されている。
【0021】
測定アーム24は、ブラケット22に回転軸23を支点として上下方向へ円弧運動可能に支持された第1測定アーム24Aと、この第1測定アーム24Aの先端に着脱機構25を介して交換可能に取り付けられた第2測定アーム24Bとから構成されている。着脱機構25は、第1測定アーム24Aと第2測定アーム24Bとが一直線上に配置されるようにこれらを接続する。
スタイラス26A,26Bは、第2測定アーム24Bに対して円弧運動方向に突出して設けられている。つまり、第2測定アーム24Bに対して上向きのスタイラス26Aと下向きのスタイラス26Bとが上下方向に直角に突出して設けられている。
【0022】
図3は、測定アーム24および変位検出器27の関係を示す平面図である。
変位検出器27は、図3に示すように、測定アーム24の円弧運動範囲に沿って設けられ、測定アーム24の円弧運動量に対応した数のパルス信号を出力する位置検出器によって構成されている。具体的には、測定アーム24に設けられ測定アーム24の円弧運動方向に湾曲したスケール27Aと、このスケール27Aに対向して本体としてのブラケット22に取り付けられた検出ヘッド27Bとを備える。スケール27Aの検出面は、測定アーム24の軸線上でかつ測定アーム24の円弧運動面上に配置されている。これにより、スケール27Aの検出面、測定アーム24、スタイラス26A,26B(スタイラス26Bは、図1、図2参照)の先端が同一軸上に配置されることになる。
バランスウエイト29は、回転軸23を支点として第1測定アーム24A側の重量と、第2測定アーム24B側の重量とがバランスするように、測定アーム24の軸方向へ位置調整可能に設けられている。
【0023】
図4は、測定アーム24および測定アーム姿勢切替機構60を示す図である。
測定アーム姿勢切替機構60は、図4に示すように、第1測定アーム24Aの途中に設けられた円筒状の磁石61と、この磁石61内を通ってブラケット22に固定され、測定アーム24を回転軸23を支点として円弧運動方向の第一方向および第二方向へ付勢するボイスコイル62によって構成され、測定力制御回路70(図5参照)からの指令で制御される。測定力制御回路70からの指令により、ボイスコイル62に電流が流されると、ボイスコイル62から発生する電磁力と磁石61の磁力により、測定アーム24の磁石61がボイスコイル62に引きつけられ、測定アーム24の先端が上方向または下方向へ付勢される姿勢に切り替えられる。
ここに、測定アーム姿勢切替機構60は、測定アーム24を回転軸23を支点として円弧運動方向へ付勢するボイスコイル62を含み、測定アーム24を円弧運動方向へ付勢しスタイラス26A,26Bに測定力を付与する本発明の測定力付与手段を兼ねている。
【0024】
図5は、表面性状測定機のシステム構成を示すブロック図である。
図5に示すように、表面性状測定機は、スタイラス変位検出手段20と、相対移動機構40と、制御部100と、入力手段101と、出力手段102と、測定力制御回路70と、備える。
制御部100は、例えばCPUやメモリ等により構成される。この制御部100には、相対移動機構40のY軸駆動機構41、Z軸駆動機構44、X軸駆動機構45、スタイラス変位検出手段20に含まれる変位検出器27、測定アーム姿勢切替機構60(測定アーム姿勢切替機構60に関しては測定力制御回路70を介して)、入力手段101、出力手段102などが接続されている。
【0025】
制御部100は、図5に示すように、記憶手段110を備える。記憶手段110には、表面性状測定機を制御する各種プログラムや各種データが記憶される。
また、記憶手段110には、測定アーム24の移動速度に対する測定力の関係を示す速度‐測定力データが記憶されている。この速度‐測定力データには、例えば、測定アーム24を円弧運動方向における一方向に所定の基準移動速度で移動させた際に発生する基準測定力が記憶される。なお、測定アーム24の移動速度と、発生する測定力とは比例関係となるため、速度‐測定力データとして1つのデータが記憶されていればよい。したがって、速度‐測定力データとして、例えば測定アーム24の基準移動速度が5.2mm/sである場合に、基準測定力が52mNであるといった実測データが1つ記憶されていればよい。また、この速度‐測定力データとしては、表面形状測定機の製造時の検査工程等において、予め記憶手段110に記憶されるものであってもよく、測定者が電子天秤等を用いて実測値を測定し、入力手段101から入力されるデータであってもよい。
【0026】
また、記憶手段110には、基準指令値と、当該基準指令値に対応する電流をボイスコイル62に入力した際に生じるゲイン誤差との関係を示す指令値‐ゲイン誤差データが記憶される。なお、ゲイン誤差は、測定力に対して比例関係となるため、指令値‐ゲイン誤差データとして1つのデータが記憶されていればよい。例えば、基準指令値が50mNであり、基準指令値に基づいてボイスコイル62に電流を印加した際の測定力の実測値が52mNである場合、ゲイン誤差は2mNとなる。この場合では、指令値‐ゲイン誤差データとして、基準指令値50mNに対してゲイン誤差が2mNである旨のデータが1つ記憶されていればよい。
また、この指令値‐ゲイン誤差データとしては、表面形状測定機の製造時の検査工程等において、例えば上記速度‐測定力データと共に測定され、予め記憶手段110に記憶されるものであってもよく、測定者により入力手段101から入力されるデータであってもよい。また、測定者により入力手段101から入力される速度‐測定力データに基づいて、制御部100が算出する構成としてもよい。
【0027】
そして、制御部100は、図5に示すように、目標測定力取得手段121、駆動制御手段122、速度算出手段123、ヒステリシス誤差取得手段124、指令値算出手段125、及び測定手段126を備える。
目標測定力取得手段121は、測定者により入力手段101から入力される目標測定力を取得する。この目標測定力は、測定アーム24を円弧運動させた際に実際に発生させたい測定力となる。
【0028】
駆動制御手段122は、後述する指令値算出手段125により算出された測定力指令値等の指令値を、測定力制御回路70を介して、測定アーム姿勢切替機構60に出力する。
測定力制御回路70は、図示は省略するが、入力された測定力指令値に対応する指令速度信号(デジタル信号)を出力する指令信号発生手段、指令速度信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ、アナログ信号に変換された指令速度信号を電流に変換し、ボイスコイル62に入力する定電流回路等を備える。なお、変位検出器27からのパルス信号(周波数)を基に測定アーム24の動作速度に対応した動作速度信号(電圧)を出力する周波数電圧コンバータを備え、減算器により指令速度信号と動作速度信号との差電圧を出力し、定電流回路は、この差電圧を電流に変換して測定アーム姿勢切替機構60のボイスコイル62に入力与える構成などとしてもよい。
【0029】
速度算出手段123は、変位検出器27から出力されるパルス信号を監視し、測定アーム24の円弧駆動量に基づいて移動速度を算出する。
ヒステリシス誤差取得手段124は、速度算出手段123により算出される、測定アーム24を第一方向に移動させた際の第一移動速度、及び測定アーム24を第二方向に移動させた際の第二移動速度の差分値をヒステリシス量として算出する。また、ヒステリシス誤差取得手段124は、速度‐測定力データに基づいて、ヒステリシス量に対応した力(ヒステリシス誤差)を算出する。
指令値算出手段125は、目標測定力、ヒステリシス誤差、及びゲイン誤差に基づいて、目標測定力を発生させるための測定力指令値を算出する。
なお、制御部100による測定力指令値の算出方法については、後述の測定力指令値の算出処理の説明において詳述する。
【0030】
測定手段126は、変位検出器27によって検出される測定アーム24の円弧運動量に基づいて、被測定対象の表面性状を測定する。
【0031】
[測定力指令値の算出処理]
次に、上記のような表面性状測定機における測定力指令値の算出処理について、図面に基づいて説明する。
図6は、本実施形態の表面性状測定機における測定力指令値の算出処理を示すフローチャートである。
本実施形態の表面性状測定機では、測定力指令値を設定するために、まず、ヒステリシス誤差を算出する。このために、まず、駆動制御手段122は、測定アーム24(スタイラス26A,26B)を円弧運動方向に沿う最上位の端部まで移動させる(S1)。
【0032】
この後、駆動制御手段122は、測定アーム24を第一方向(下方向)に移動させる仮の指令値を生成し、測定力制御回路70を介してボイスコイル62に入力する(S2)。これにより、測定アーム24は、円弧運動方向に沿う最上位の端部から、最下位の端部まで移動する。
この際、速度算出手段123は、スタイラス変位検出手段20の変位検出器27から出力されるパルス信号を監視し、測定アーム24の円弧運動量(変位量)から、測定アーム24の第一方向への移動速度(第一移動速度)を算出する(S3)。
【0033】
この後、第二方向に対する第二移動速度も同様に求める。すなわち、駆動制御手段122は、測定アーム24(スタイラス26A,26B)を円弧運動方向に沿う最下位の端部まで移動させる(S4)。
そして、駆動制御手段122は、測定アーム24を第二方向(上方向)に移動させる仮指令値を生成し、測定力制御回路70を介してボイスコイル62に入力する(S5)。この仮指令値としては、S2と同一の値を用いる。これにより、測定アーム24は、円弧運動方向に沿う最下位の端部から、最上位の端部まで移動する。
この際、速度算出手段123は、スタイラス変位検出手段20の変位検出器27から出力されるパルス信号を監視し、測定アーム24の円弧運動量(変位量)から、測定アーム24の第二方向への移動速度(第二移動速度)を算出する(S6)。
【0034】
次に、ヒステリシス誤差取得手段124は、第一移動速度及び第二移動速度の差分値であるヒステリシス量を算出する(S7)。
例えば、S2及びS4において、仮指令値として測定力50mNの発生を指令し、S3で算出された第一移動速度が5.2mm/sであり、S6で算出された第二移動速度が6.4mm/sである場合では、ヒステリシス量は1.2mm/sとなる。
また、ヒステリシス誤差取得手段124は、記憶手段110から速度‐測定力データを読み出し、ヒステリシス量に対応する測定力であるヒステリシス誤差を算出する(S8)。
例えば、速度‐測定力データとして、速度5.2mm/sに対する測定力が52mNである旨が記憶されている場合、ヒステリシス量1.2mm/sに対するヒステリシス誤差は1.2mNとなる。
【0035】
この後、目標測定力取得手段121は、例えば、測定者による入力手段101からの入力指示に従い、目標測定力を取得する(S9)。
そして、指令値算出手段125は、S9により算出される目標測定力、S8により算出されるヒステリシス誤差、記憶手段110に記憶される指令値‐ゲイン誤差データに基づいて、目標設定力を発生させるための測定力指令値を算出する(S10)。
ここで、指令値算出手段125は、目標測定力をA、ヒステリシス誤差をH、指令値‐ゲイン誤差データの基準指令値をS、ゲイン誤差をGとした際に、上述した(1)式「X=A−(A×G/S)±(H/2)」に基づいて、測定力指令値Xを算出する。
【0036】
例えばヒステリシス誤差が1.2mN、目標測定力が30mN、基準指令値Sが50mN、ゲイン誤差Gが2mNである場合、
第一方向に対する測定力指令値X1は、X1=30mN−(30mN×2mN/50mN)−(1.2mN/2)=28.2mNとなる。第二方向に対する測定力指令値X2は、X2=30mN−(30mN×2mN/50mN)+(1.2mN/2)=29.4mNとなる。
【0037】
[実施形態の作用効果]
上述したように、本実施形態の表面性状測定機では、ヒステリシス誤差取得手段124によりヒステリシス誤差を算出し、指令値算出手段125は、目標測定力取得手段121により取得された目標測定力と、算出されたヒステリシス誤差とに基づいて、測定力指令値を算出する。このため、目標測定力のみから測定力指令値を求める場合等に比べて、ヒステリシス誤差の影響を低減させた測定力指令値を算出することができ、誤差の影響を抑えた高精度な測定を実施することができる。
【0038】
速度算出手段123は、所定の仮指令値に基づいて測定アーム24を第一方向に移動させた際の第一移動速度と、前記仮指令値に基づいて測定アーム24を第二方向に移動させた際の第二移動速度を算出する。そして、ヒステリシス誤差取得手段124は、記憶手段110に記憶される速度‐測定力データに基づいて、第一移動速度及び第二移動速度の差分値(ヒステリシス量)に対応するヒステリシス誤差を算出する。
このような構成とすることで、所定の指令値に対して発生するヒステリシス量を実測値である第一移動速度及び第二移動速度から算出することができ、正確なヒステリシス誤差を算出することができる。また、測定アーム24に移動速度と測定力とは比例関係となるため、記憶手段110に速度‐測定力データを記憶しておくことで、ヒステリシス誤差の算出時に改めて移動速度に対する実際の測定力を測定する必要がなく、簡単な演算処理によりヒステリシス誤差を算出することができる。例えば、速度‐測定力データにおいて、速度Vに対して測定力Bが記憶されている場合、ヒステリシス量vに対するヒステリシス誤差Hは、H=B×v/Vにより算出することができる。
以上により、ヒステリシス誤差取得手段124は、容易に、かつ正確なヒステリシス誤差を取得することができ、このようなヒステリシス誤差に基づいて測定力指令値を算出することで、高精度な測定を実現することができる。
【0039】
記憶手段110には、基準指令値に対するゲイン誤差を記録した指令値‐ゲイン誤差データが記憶されている。そして、指令値算出手段125は、この指令値‐ゲイン誤差データに基づいて測定力指令値を算出する。
これにより、指令値算出手段125は、ヒステリシス誤差及びゲイン誤差の双方を低減させることができ、目標測定力を発生させるためのより最適な測定力指令値を算出することができる。
この際、指令値算出手段125は、上述した(1)式に基づいて、測定力指令値を算出する。これにより、目標測定力に対応したゲイン誤差を考慮した測定力指令値を算出できる。また、ヒステリシス誤差を中央振り分けとして、測定アーム24を第一方向に移動させる際の測定力指令値、第二方向に移動させる際の測定力指令値を算出するため、測定アームを第一方向に移動させた際に発生する測定力と、第二方向に移動させた際に発生する測定力を同一にすることができる。
したがって、このような(1)式に基づいて算出される測定力指令値を用いることで、ゲイン誤差やヒステリシス誤差の影響を低減させた高精度な測定を実施することができる。
【0040】
<他の実施形態>
本発明は、前述の実施形態に限定されるものでなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
【0041】
例えば、上記実施形態において、ヒステリシス誤差取得手段124は、速度算出手段123により算出される第一移動速度、第二移動速度、及び記憶手段110に記憶された速度‐測定力データに基づいて、ヒステリシス誤差を算出した。
しかしながら、上述したようにヒステリシス誤差は、測定力に関わらず、一定の値となる。従って、例えば工場出荷時等における検査工程において、予めヒステリシス誤差を測定し、測定されたヒステリシス誤差を記憶手段110に記憶させる構成などとし、ヒステリシス誤差取得手段124は、記憶手段110に記憶されたヒステリシス誤差を読み込む構成としてもよい。
このような構成では、例えばヒステリシス誤差を測定実施の度に算出する必要がなく、より容易に、かつ迅速に測定力指令値の算出、及び測定処理を実施することができる。
【0042】
記憶手段110に速度‐測定力データが記憶される例を示したが、例えば測定力指令値の算出時に、実測値に基づいて、速度と測定力の関係を取得する構成としてもよい。
この場合、例えば、駆動制御手段122は、測定アーム24を最上位に移動させた後、基準指令値をボイスコイル62に入力して、第一方向(下方向)に移動させ、スタイラス26A(26B)を例えば電子天秤等の測定力を測定可能な測定力計測器に接触させる。これにより、基準指令値に対する実際の測定力を測定することが可能となる。
そして、速度算出手段123は、変位検出器27からのパルス信号に基づいて、測定アーム24の速度を検出する。これにより、測定アーム24の速度、及び当該速度に対する測定力を取得することができる。
また、基準指令値と、測定力計測器により実際に計測された測定力との差分値を取得することで、基準指令値に対するゲイン誤差を取得することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えば、被測定物の表面に接触させるスタイラスを有する測定アームを備えた表面性状測定機に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
20…スタイラス変位検出手段(検出手段)、22…ブラケット(本体)、23…回転軸(支持軸)、24…測定アーム、26A,26B…スタイラス、27…変位検出器(変位検出部)、60…測定アーム姿勢切替機構(測定力付与手段)、62…ボイスコイル、70…測定力制御回路、100…制御部、110…記憶手段、121…目標測定力取得手段、122…駆動制御手段、123…速度算出手段、124…ヒステリシス誤差取得手段、125…指令値算出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体に支持軸を支点として円弧運動可能に支持される測定アーム、前記測定アームの先端に設けられ、被測定物に接触可能なスタイラス、及び前記測定アームを円弧運動方向へ付勢し前記スタイラスに測定力を付与する測定力付与手段を備える検出手段と、
前記測定力に対応する指令値を算出して前記測定力付与手段の駆動を制御する制御部と、
を具備した表面性状測定機であって、
前記測定力付与手段は、前記測定アームを前記支持軸を支点として円弧運動方向へ付勢するボイスコイルを含んで構成され、
前記制御部は、
前記測定アームを円弧運動させた際のヒステリシス誤差を取得するヒステリシス誤差取得手段と、
前記測定アームで発生させる目標測定力を取得する目標測定力取得手段と、
前記目標測定力及び前記ヒステリシス誤差に基づいて、前記目標測定力に対して前記ボイスコイルに入力する測定力指令値を算出する指令値算出手段と、
前記測定力指令値に基づいて、前記ボイスコイルに電流を入力する駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする表面性状測定機。
【請求項2】
請求項1に記載の表面性状測定機において、
前記検出手段は、前記測定アームの移動量を検出する変位検出部を備え、
前記制御部は、
前記測定アームの移動速度に対する前記測定力の関係である速度-測定力データを記憶する記憶手段と、
所定の仮指令値を前記ボイスコイルに入力して前記測定アームを前記円弧運動方向における第一方向に移動させた際の第一移動速度、及び前記仮指令値を前記ボイスコイルに入力して前記測定アームを前記第一方向とは反対方向となる第二方向に移動させた際の第二移動速度を、前記変位検出部により検出される前記移動量から算出する速度算出手段と、を備え、
前記ヒステリシス誤差取得手段は、前記第一移動速度、前記第二移動速度、及び前記速度-測定力データに基づいて、ヒステリシス誤差を算出する
ことを特徴とする表面性状測定機。
【請求項3】
請求項1に記載の表面性状測定機において、
前記制御部は、前記ヒステリシス誤差を記憶する記憶手段を備え、
前記ヒステリシス誤差取得手段は、前記記憶手段から前記ヒステリシス誤差を取得する
ことを特徴とする表面性状測定機。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の表面性状測定機において、
前記記憶手段は、所定の基準指令値と、前記基準指令値に対応する電流を前記ボイスコイルに入力した際に前記測定アームの円弧運動により発生する測定力との差であるゲイン誤差を記憶し、
前記指令値算出手段は、前記目標測定力、前記ヒステリシス誤差、及び前記ゲイン誤差に基づいて前記測定力指令値を算出する
ことを特徴とする表面性状測定機。
【請求項5】
請求項4に記載の表面性状測定機において、
前記目標測定力をA、前記基準指令値をS、前記ゲイン誤差をG、前記ヒステリシス誤差をH、前記測定力指令値をXとした際、
前記指令値算出手段は、次式により前記測定力指令値を算出する
[数1]
X=A−(A×G/S)±(H/2)
ことを特徴とする表面性状測定機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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