説明

表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末およびその製造方法

【課題】 粉末の茶系色化を抑制したままで導電性をさらに向上させ、かつ溶媒への分散性も高く、これを用いた塗膜のヘーズを低減させることができる透明導電性酸化アンチモン錫粉末とその製造方法を提供する。
【解決手段】 アルコール成分を含有する透明導電性酸化アンチモン錫粉末であって、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー分析において、アルコール成分が、透明導電性酸化アンチモン錫粉末の総質量基準で、0.1〜5質量%であることを特徴とする、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明であって優れた導電性を有する表面改質酸化アンチモン錫粉末およびその製造方法に関する。本発明の表面改質白色導電性粉末は、帯電防止、帯電制御、静電防止、防塵等の機能が必要な分野に用いられ、更に詳しくは、帯電防止フィルム、帯電防止繊維等の分野、ICパッケージやテープ等の半導体分野、導電性インキ、帯電防止塗料、静電塗装材料等のインキや塗料の分野、ならびに樹脂等に練り込まれて、帯電制御添加剤、静電記録用紙、帯電防止ロール等に応用される。
【背景技術】
【0002】
樹脂製のフィルムや繊維、ICパッケージやテープなどは、一般的に絶縁体であるため、静電気を帯びやすく、その表面にゴミ、埃などが付着しやすい、という問題がある。また、ICパッケージやテープ等の半導体分野に用いられる場合には、静電気による誤動作等が発生してしまう、という問題もある。
【0003】
これらの問題を解決するために、上記絶縁体材料の表面に、透明導電性粉末を含有する塗膜を形成する等の対策がなされている。
【0004】
このような塗膜に用いられる透明導電性粉末として、従来、アンチモンドープ酸化錫等の酸化錫が使用されており、これらの酸化錫の分散性を改良するために、酸化錫の表面を有機金属カップリング剤で被覆する(特許文献1)、また、この被覆処理の透明性と塗膜の機械的物性を目的として、酸化錫の粒子表面に所定の有機金属化合物を存在させる(特許文献2)ことが開示されている。
【0005】
また、アンチモンを含有しない酸化錫粉末に導電性を付与させるために、有機化合物による処理も開示されている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、上記の酸化錫を有機金属カップリング剤で被覆する、または酸化錫の粒子表面に有機金属カップリング剤を存在させる方法では、酸化錫の導電性が低下することがあった。また、有機化合物、例えば、アルコール処理された酸化錫粉末は、粉末の色調が茶系色を帯び、粒子径が大きくなるため、溶媒への分散性、この粉末を用いて塗布した膜のヘーズ等に改良の余地がある。粉末へのアルコール処理は、白色導電性粉末に対しては、現在のところ有効であるが、透明導電性粉末に対して有効な処理方法は、未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−148207号公報
【特許文献2】特開2004−146079号公報
【特許文献3】特開2007−39282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、発明者等は鋭意検討した結果、従来は導電性を付与するために使用されていた酸化錫粉末へのアルコール処理を、すでに導電性を有する酸化アンチモン錫粉末に、特定の条件で適用することにより、粉末の茶系色化を抑制したままで導電性をさらに向上させ、かつ溶媒への分散性も高く、これを用いた塗膜のヘーズを低減させることができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決した表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末とその製造方法に関する。
(1)アルコール成分を含有する透明導電性酸化アンチモン錫粉末であって、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー分析において、アルコール成分が、透明導電性酸化アンチモン錫粉末の総質量基準で、0.1〜5質量%であることを特徴とする、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
(2)熱重量分析において、10℃/分で昇温したときの250〜350℃における重量減少が、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の総質量基準で、0.3〜0.8質量%である、上記(1)記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
(3)アルコール成分が、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖アルコール、またはこれらの誘導体である、上記(1)または(2)記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
(4)アンチモンを0.1〜20質量%含有し、表面にアルコール成分が吸着されている、上記(1)〜(3)のいずれか記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
(5)Lab表色系におけるb値が−5.0〜−2.0の色調である、上記(1)〜(4)のいずれか記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
(6)粉末体積抵抗が100Ω・cm以下である、上記(1)〜(5)のいずれか記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を溶媒に分散させた分散液であって、該表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を1〜50質量%含む、分散液。
(8)上記(1)〜(6)のいずれか記載の表面改質透明導電性アンチモン粉末と、樹脂とを含有する塗料。
(9)酸化アンチモン錫粉末を、アルコール成分の蒸気が存在する不活性雰囲気下、100〜300℃、1.5〜3時間の表面改質処理を行うことを特徴とする、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の製造方法。
(10)アルコール成分が、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖アルコール、またはこれらの誘導体である、上記(9)記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明(1)によれば、粉末の茶系色化が抑制され、高導電性で、高分散性であり、これを用いた塗膜のヘーズを低減させる表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末が得られる。
【0011】
また、本発明(5)によれば、粉末の茶系色化がさらに抑制され、これを用いた塗膜のヘーズをさらに低減させる表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末が得られる。
【0012】
本発明(7)または(8)によれば、高導電性で、ヘーズの低い塗膜が容易に得られるので、帯電防止フィルム、帯電防止繊維等の分野、ICパッケージやテープ等の半導体分野、導電性インキ、帯電防止塗料、静電塗装材料等の塗料やインキの分野等に容易に応用することができる。
【0013】
本発明(9)によれば、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量基準の%である。
【0015】
〔表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末〕
本発明の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末は、アルコール成分を含有する透明導電性酸化アンチモン錫粉末であって、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー分析において、アルコール成分が、透明導電性酸化アンチモン錫粉末の総質量基準で、0.1〜5質量%であることを特徴とする。
【0016】
透明導電性酸化アンチモン錫粉末は、アンチモンを0.1〜20質量%含有するものであると、導電性が高く、好ましい。また、アンチモンが0.1質量%未満では、粉末の色調が茶系色化し、20質量%を超えると、粉末の色調の黒みが大きくなってしまう。
【0017】
また、透明導電性酸化アンチモン錫粉末の平均一次粒径は、1〜100nmであると好ましく、粉末の色彩、および溶媒への分散性、ならびにこれを用いる塗膜の透明性、ヘーズの観点から好ましい。この平均一次粒径は、20〜60nmであると、より好ましい。ここで、平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で測定する。透明導電性アンチモン酸化錫粉末の平均二次粒径は0.05〜30μmであると、導電性の観点から好ましく、0.05〜3μmがより好ましい。ここで、二次粒子径は、電子顕微鏡(SEM)観察により行う。
【0018】
透明導電性酸化アンチモン錫粉末の形状は、粒状、扁平粉であると、分散性の観点から好ましい。
【0019】
アルコール成分としては、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖アルコール、またはこれらの誘導体であると、アンチモン酸化錫粉末を均一に表面改質する観点から好ましい。環境面から、エタノールがより好ましい。ここで、アルコール成分としてエタノールを用いた場合であっても、エタノールは不活性雰囲気での表面改質処理中にエタノールの誘導体を生成し得る。エタノールの誘導体としては、例えば、アルデヒド類、ケトン類等が挙げられ、より具体的な例としては、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等が挙げられる。ここで、クロロホルムには、Clが含まれるが、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の原料として塩化物が使用されたときには、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末に、塩化物の副生成物が残留し、この副生成物がエタノールやアルデヒド等と反応してクロロホルムを生じると考えられる。また、エタノールは、メタノールやベンゼン、エーテル等が少量含まれる変性アルコールを用いてもよい。
【0020】
本発明の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー分析において、アルコール成分が、透明導電性酸化アンチモン錫粉末の総質量基準で、0.1〜5質量%であり、この範囲であると溶媒に対する分散性が向上する。0.1質量%未満では、分散剤が必要となり、5%を超えると、この粉末を使用する塗膜を作製するときに、凝集物等の不都合を生じる。ヘッドスペースガスクロマトグラフィー分析において、アルコール成分は、エタノール、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等として検出される。
【0021】
本発明の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末は、熱重量分析において、大気雰囲気中、10℃/分で昇温したときの250〜350℃における重量減少が、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の総質量基準で、0.3〜0.8質量%であると、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末に含有されるアルコール成分が適量となり、溶媒に対する分散性がより向上するので、好ましい。なお、250〜350℃で減少するアルコール成分は、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末に単に吸着されているものではなく、透明導電性酸化アンチモン錫粉末と何らかの反応をしていると考えられる。
【0022】
本発明の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末は、Lab表色系におけるb値が−5.0〜−2.0の色調であると、粉末の色調、およびこの粉末を用いて塗布した塗膜の透明性、ヘーズの観点から好ましい。ここで、粉末の色調は、透明がもっとも好ましく、淡青色等の青系色も好ましい。これに対して、茶系色系は、この粉末を用いて塗布した塗膜の透明性、ヘーズの観点から好ましいとはいえない。
【0023】
本発明の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末は、粉末体積抵抗が100Ω・cm以下であると、好ましい。例えば、帯電防止用途に用いるとき、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を使用する塗膜が、帯電防止効果を発揮する表面抵抗10Ω/□を得るために必要な、塗膜への混入量を抑制することができ、コストを抑制できるからである。ここで、粉末体積抵抗は、試料粉末を圧力容器に入れて100MPaで圧縮し、この圧粉をデジタルマルチメーターによって測定する。
〔製造方法〕
本発明の表面改質透明導電性アンチモン粉末の製造方法は、アンチモン錫粉末を、アルコール成分の蒸気が存在する不活性雰囲気下、100〜300℃、1.5〜3時間で表面改質処理を行うことを特徴とする。
【0024】
透明導電性酸化アンチモン錫粉末は、市販のものを使用することができ、また、当業者に公知の方法で、製造することもできる。
【0025】
透明導電性アンチモン酸化錫粉末の製造は、例えば、錫化合物と、アンチモン化合物を含有する液を耐圧容器中で加熱する水熱反応により行われるが、この錫化合物及びアンチモン化合物としては、一般には、錫化合物及びアンチモン化合物の溶液、具体的には錫及びアンチモンの塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の水溶液又はアルコール溶液に、アルカリ溶液を添加して反応させて得られる錫とアンチモンの水酸化物の共沈物を用いるのが好適である。上記共沈物を水に添加し、必要に応じてアンモニア等を添加してpH6〜7程度に調整し、更に必要に応じて界面活性剤を添加してオートクレーブ処理するのが好ましい。
【0026】
表面改質処理は、アルコール成分の蒸気が存在する不活性雰囲気下、100〜300℃、1.5〜3時間で行う。アルコール成分については、上記のとおりである。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス等が挙げられる。
【0027】
表面改質処理の温度は、100℃以上300℃以下が好ましく、150℃以上250℃以下が特に好ましい。100℃以上、300℃以下であると粉末の色調・分散性・導電性が良好である。また、表面改質処理時間は、1.5時間以上3時間以下が好ましく、2時間以上2.5時間以下がより好ましい。1.5時間以上3時間以下であると、導電性・分散性の経時安定性が良好である。
【0028】
〔表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の応用〕
本発明の表面改質透明導電性アンチモン粉末は、溶媒に分散させて分散液として使用することができる。ここで、溶媒は、各種溶媒を用いることができ、特に限定はないが、水、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール系、メチルエチルケトン等のケトン系、ヘキサン、トルエン等の非極性溶媒が好ましい。
【0029】
上記分散液は、表面改質透明導電性アンチモン粉末を1〜50質量%含むことが好ましい。1質量%未満では、粉末を添加する効果が少なく、50質量%以上になるとゲル化することがあり、助剤等が必要となる。
【0030】
上記分散液に、樹脂を添加し、塗料として利用することができる。分散液を塗料化に供すると、塗料化時の分散エネルギー等の軽減を図る上で、好ましい。ここで、樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、塩ビ−酢ビ樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル−スチレン共重合体、繊維素樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、石油樹脂、セラック、ロジン誘導体、ゴム誘導体等の天然系樹脂等が挙げられる。
【0031】
表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の樹脂への配合量は、樹脂100質量部に対して20〜400質量部、好ましくは100〜300質量部である。
【0032】
また、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末と樹脂を混合し、塗料とすることもできる。この場合には、溶媒を添加してもよい。用いられる樹脂、溶媒、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の樹脂の配合量については上記のとおりであり、溶媒は塗料の粘性を調節するために、適宜添加すればよい。
【0033】
塗料を導電性用途に使用する場合には、塗料をプラスチック成形体、紙や高分子フィルムなどの絶縁性基体に塗布することにより、基体上に表面平滑性や密着性に優れた導電性塗膜を形成させる。この導電性塗膜を、帯電防止フィルム、帯電防止繊維等の分野、ICパッケージやテープ等の半導体分野、導電性インキ、帯電防止塗料、静電塗装材料等の塗料やインキの分野等に利用できる。
【0034】
また、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を樹脂に練り込んで、帯電制御添加剤、静電記録用紙、帯電防止ロール等に利用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例において、粉末のアルコール成分は、島津製作所社製ヘッドスペースガスクロマトグラム(型番:GC−17A)を用いて測定した。粉末の熱重量分析は、セイコーインスツル社製示差熱熱重量同時測定装置(EXSTAR TG/DTA6200)を用いて、大気中、昇温速度:10℃/分で、20〜500℃の範囲を測定した。粉末の体積抵抗率は横河電機製測定装置(DM−7561)を用い、試料5gを、断面積(S)の金型に入れ、100kg/cmで加圧し、加圧時の抵抗値(R)と試料の厚み(H)を測定し、R(Ω)×S(cm)/H(cm)の式に基づいて求めた。粉体のb値、塗膜のヘーズは、スガ試験機社製装置(SM−7−IS−2B)を用いて測定した。
【0036】
〔実施例1〕
酸化アンチモン錫粉末(アンチモン8%ドープ品、平均一次粒径:0.02μm)をエタノールに浸漬した後、窒素雰囲気下で加熱し、250℃で2時間保持することによって表面改質処理を行った。冷却後の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のアルコール成分は、4.5%、250〜350℃における熱重量減少は、0.5%、体積抵抗率は、4.2Ω・cmであった。この表面改質透明導電粉のb値は、−2.6であった。表1に、これらの結果を示す。ここで、アルコール成分は、エタノール、クロロホルム、メタノール等として検出された。
【0037】
さらに、この表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を20%含有するIPA分散液(固形分:20%)を作製した。また、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のIPA分散液の固形分とDIC社製アクリル樹脂(型番:アクリディックA−168)との質量比が7対3になるよう混合し、塗料を作製した。この塗料を、PETフィルム(ルミナー100−T60)上に、市販の自動アプリケータを用いて膜厚2μmになるよう塗布した。1時間風乾した後、作製した塗膜のヘーズを測定したところ、0.1であった。表1に、この結果を示す。また、目視にて透明性を確認したところ、凝集物は確認されず、高い透明性を有するものであった。
【0038】
〔実施例2〕
酸化アンチモン錫粉末(アンチモン4%ドープ品、平均一次粒径:0.03μm)を用い、温度を200℃とした他は、実施例1と同様にして表面改質処理を行ったところ、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のアルコール成分は、1.5%、250〜350℃における熱重量減少は、0.4%、体積抵抗率は、2.9Ω・cmであった。この表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のb値は、−2.8であった。表1に、これらの結果を示す。
【0039】
さらに、この表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を20%含有するIPA分散体(固形分:20%)を作製した。また、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のIPA分散体の固形分とDIC社アクリル樹脂(型番:アクリディックA−168)との質量比が7対3になるよう混合し、この分散体をPETフィルム(ルミナー100−T60)上に、市販の自動アプリケータを用いて膜厚2μmになるよう塗布した。1時間風乾した後、作製した塗膜のヘーズを測定したところ、0.1であった。表1に、この結果を示す。また、目視にて透明性を確認したところ、凝集物は確認されず、高い透明性を有するものであった。
【0040】
〔実施例3〕
酸化アンチモン錫粉末(アンチモン4%ドープ品、平均一次粒径:0.03μm)を用い、温度を150℃とした他は、実施例1と同様にして表面改質処理を行ったところ、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のアルコール成分は、0.8%、250〜350℃における熱重量減少は、0.4%、体積抵抗率は、2.7Ω・cmであった。この表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のb値は、−3.3であった。表1に、これらの結果を示す。
【0041】
さらに、この表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を20%含有する水分散体(固形分:20%)を作製した。また、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の水分散体の固形分とDIC社アクリル樹脂(型番:アクリディックA−168)との質量比が7対3になるよう混合し、この分散体をPETフィルム(ルミナー100−T60)上に、市販の自動アプリケータを用いて膜厚2μmになるよう塗布した。1時間風乾した後、作製した塗膜のヘーズを測定したところ、0.3であった。表1に、この結果を示す。また、目視にて透明性を確認したところ、凝集物は確認されず高い透明性を有するものであった。
【0042】
〔比較例1〕
アンチモンドープ酸化スズ微粉末(アンチモン8%ドープ品、平均一次粒径:0.02μm)を用い、表面改質処理は行わなかった。未表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のアルコール成分は、0%、250〜350℃における熱重量減少は、0.1%、体積抵抗率は、2.5Ω・cmであった。この未表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のb値は、−7.8であった。表1に、これらの結果を示す。
【0043】
さらに、この未表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を固形分20%含有するIPA分散体(固形分:20%)を作製した。また、未表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のIPA分散体の固形分とDIC社アクリル樹脂(型番:アクリディックA−168)との質量比が7対3になるよう混合し、この分散体をPETフィルム(ルミナー100−T60)上に、市販の自動アプリケータを用いて膜厚2μmになるよう塗布した。1時間風乾した後、作製した塗膜のヘーズを測定したところ、0.9であった。表1に、この結果を示す。また、目視にて透明性を確認したところ、凝集物が確認された。
【0044】
〔比較例2〕
表面改質処理の温度を80℃とした他は、実施例1と同様にして表面改質処理を行ったところ、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のアルコール成分は、0.05%、250〜350℃における熱重量減少は、0.1%、体積抵抗率は、2.5Ω・cmであった。この表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のb値は、−7.5であった。表1に、これらの結果を示す。
【0045】
さらに、この表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を20%含有するIPA分散体(固形分:20%)を作製した。また、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末のIPA分散体の固形分とDIC社アクリル樹脂(型番:アクリディックA−168)との質量比が7対3になるよう混合し、この分散体をPETフィルム(ルミナー100−T60)上に、市販の自動アプリケータを用いて膜厚2μmになるよう塗布した。1時間風乾した後、作製した塗膜のヘーズを測定したところ、0.9であった。表1に、この結果を示す。また、目視にて透明性を確認したところ、凝集物が確認された。
【0046】
【表1】

【0047】
表1からわかるように、実施例1〜3は、アルコール成分が、0.8〜4.5質量%で、熱重量減少が0.4〜0.5質量%であり、粉末体積抵抗、b値、ヘーズの全てにおいて、非常に良好であった。これに対して、表面改質処理をしなかった比較例1は、b値が−7.8と着色し、ヘーズも0.9と高かった。表面改質処理の温度が80℃であった比較例2では、アルコール成分が0.05%、熱重量減少が0.05質量%といずれも低く、b値が−7.5と着色し、ヘーズも0.9と高かった。また、比較例1、2では、ともに塗膜中に凝集物が発生した。
【0048】
上記の実施例からわかるように、本発明は、粉末の茶系色化を抑制したままで導電性が高く、溶媒への分散性が高く、これを用いた塗膜のヘーズを低減させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール成分を含有する透明導電性酸化アンチモン錫粉末であって、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー分析において、アルコール成分が、透明導電性酸化アンチモン錫粉末の総質量基準で、0.1〜5質量%であることを特徴とする、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
【請求項2】
熱重量分析において、10℃/分で昇温したときの250〜350℃における重量減少が、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の総質量基準で、0.3〜0.8質量%である、請求項1記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
【請求項3】
アルコール成分が、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖アルコール、またはこれらの誘導体である、請求項1または2記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
【請求項4】
アンチモンを0.1〜20質量%含有し、表面にアルコール成分が吸着されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
【請求項5】
Lab表色系におけるb値が−5.0〜−2.0の色調である、請求項1〜4のいずれか1項記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
【請求項6】
粉末体積抵抗が100Ω・cm以下である、請求項1〜5のいずれか1項記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を溶媒に分散させた分散液であって、該表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末を1〜50質量%含む、分散液。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の表面改質透明導電性アンチモン粉末と、樹脂とを含有する塗料。
【請求項9】
酸化アンチモン錫粉末を、アルコール成分の蒸気が存在する不活性雰囲気下、100〜300℃、1.5〜3時間の表面改質処理を行うことを特徴とする、表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の製造方法。
【請求項10】
アルコール成分が、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖アルコール、またはこれらの誘導体である、請求項9記載の表面改質透明導電性酸化アンチモン錫粉末の製造方法。

【公開番号】特開2010−235352(P2010−235352A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83387(P2009−83387)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】