説明

表面改質高屈折率ナノ粒子を含む自己組織化反射防止コーティング

ここでは、高屈折率表面改質ナノ粒子を含む、自己組織化反射防止(「AR」)コーティング組成物が記載されている。保護フィルム、光学ディスプレイ及び窓など、このような(例えば、乾燥した及び硬化した)ARコーティングを含む様々な物品も記載されている。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
様々な反射防止(「AR」)ポリマーフィルムが説明されている。ARフィルムは、正確な光学的厚みの、交互した高屈折率(「RI」)ポリマー層及び低屈折率ポリマー層で構築されている場合が多い。可視光では、この厚みは、反射される光の波長の約4分の1である。人間の目は約550nmの光に最も敏感である。したがって、この光学範囲で反射光の量を最小限(例えば3%以下)に抑える形で、低及び高屈折率のコーティング厚を策定するのが望ましい。
【0002】
1つの組立体において、高屈折率(例えば、ハードコート)が、(所望によりプライミングされた)PETなどの光透過性基材に適用される。低屈折率層は、同時に又は連続して高屈折率層に適用される。
【0003】
しかしながら、別の方法として、ARコーティングは、異なる屈折率の層へ分離する又は自己組織化するコーティング組成物から調製することができる。例えば、米国特許第6,605,229号(スタイナー(Steiner)ら)、同第6,737,145号(ワタナベ(Watanabe)ら)、同第7,125,926号(サトウ(Satoh)ら)及び米国特許出願公開第2006/0074172号(ヤン(Yang)ら)を参照のこと。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態において、(例えば、非フッ素化有機)溶媒と、1.5未満の屈折率及び低表面張力を有する低屈折率有機組成物と、少なくとも1.6の屈折率を有する、少なくとも15質量%の無機ナノ粒子と、を含み、無機ナノ粒子は、有機組成物の表面張力よりも大きい表面張力を有する表面処理剤で表面改質されている、自己組織化ARコーティング組成物が記載されている。
【0005】
他の実施形態において、本明細書に記載の自己組織化ARコーティング組成物を提供する工程と、この組成物を基材又は剥離ライナーの上にコーティングする工程と、コーティング組成物が低屈折率層と勾配層と高屈折率層に分離するように、このコーティングを乾燥させる工程と、乾燥させたコーティング組成物を硬化させる工程と、を含む、ARフィルムの製造方法が記載されている。乾燥させたコーティング組成物は、好ましくは続いて紫外線への曝露により硬化される。
【0006】
架橋されたフッ素化有機材料を含む低屈折率層と、架橋された有機材料中に分散した、少なくとも1.6の屈折率を有する表面改質無機ナノ粒子を含む、高屈折率層と、を含む、ARフィルムも記載されている。いくつかの実施形態において、ARフィルムは、低屈折率層と高屈折率層との間の勾配層よりはむしろ境界面の存在によって、他の自己組織化ARフィルムと区別することができる。いくつかの実施形態において、ARフィルムは、0.5原子質量%〜約5原子質量%の範囲の濃度でフッ素原子を含む高屈折率層、及び/又は少なくとも1.6の屈折率を有する表面改質無機ナノ粒子のランダムに分散した粒塊を含む低屈折率層によって、2層のARフィルムと区別することができる。
【0007】
これらの実施形態のそれぞれにおいて、自己組織化ARコーティング組成物、方法又はARフィルムは、本明細書に記載の様々な属性のうちの任意の1つ又は任意の組合せを有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】具体化された光学ディスプレイ物品の斜視図。
【図2】低屈折率層、勾配層及び高屈折率層を有する具体化されたARフィルムを示す、線2−2に沿った図1の物品の断面図。
【図3】具体化されたARフィルム物品。
【図4】X線光電子分光法によって測定された具体化された反射防止フィルムの深さ方向における炭素、フッ素及びジルコニウムの原子質量%の存在を示すグラフ。
【図5】具体化されたARフィルムの透過型電子顕微鏡で見た断面図。
【図6】具体化されたARフィルムの透過型電子顕微鏡で見た断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここでは、自己組織化反射防止(「AR」)コーティング組成物が記載されている。このような(例えば、乾燥させ硬化された)ARコーティングを含む、光学ディスプレイ及び窓など様々な物品も記載されている。
【0010】
ここで、ハウジング14内で連結された光学ディスプレイ12を有する物品(本明細書では、コンピューターモニター10)の斜視図である、図1を参照されたい。光学ディスプレイ12は、それを介してユーザーがテキスト、グラフィック又は他の表示情報を見ることができる実質的に透明な光透過性材料を含む。
【0011】
光沢のある光透過性基材12及びマットな光透過性基材12の両方が、ディスプレイパネル、窓及び他の物品に使用されている。この(例えばディスプレイ)基材12は、ガラスなどの多種多様な非ポリマー材料、又はポリエチレンテレフタレート(PET)、(例えば、ビスフェノールA)ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリ(メチルメタアクリレート)などの様々な熱可塑性及び架橋されたポリマー材料、並びに2軸配向ポリプロピレンなどのポリオレフィンのいずれかを含むか、又はいずれかからなってもよく、これらは様々な光学デバイスに一般に使用されている。
【0012】
図2を参照すると、光学ディスプレイ12は、低屈折率層20の下に少なくとも1層の高屈折率層22を有するARフィルム18を含む。低屈折率層20は典型的に、図2に示されているように、環境に露出された表面層である。
【0013】
高屈折率層は、少なくとも約1.50、典型的には少なくとも約1.55、1.60、又はそれ以上の屈折率を有する。高屈折率層の最大屈折率は、架橋された有機材料に分散された高屈折率無機粒子を含む高屈折率コーティングでは、1.75ほどであってもよい。低屈折率層は、高屈折率層を下回る屈折率を有する。高屈折率層と低屈折率層との屈折率差は、典型的には少なくとも0.10、0.15、0.2、又はそれ以上である。低屈折率層は典型的には、約1.5未満、約1.47未満、約1.45未満又は約1.42未満の屈折率を有する。低屈折率層の最小屈折率は一般的に、少なくとも約1.35である。
【0014】
図3を参照すると、具体化されたARフィルム保護物品は、フィルム基材16を含んでもよい。高屈折率層22は、フィルム基材16と低屈折率層20との間に配置されている。AR保護フィルムは、他の層を含んでもよい。様々な永続的及び取り外し可能な接着剤組成物30が、フィルム基材16の反対側の面上に提供されてもよい。感圧接着剤を使用する実施形態に関して、ARフィルム物品は典型的には取り外し可能な剥離ライナー40を含む。ARフィルム物品がディスプレイ表面に付着できるように、ディスプレイ表面への適用中に、剥離ライナーは取り外される。接着剤は、物品への保護フィルムの適用を助けるためにミクロ構造化されてもよい。
【0015】
保護フィルムが、例えば光学ディスプレイ及び窓などの光透過性物品と共に使用することが意図されている実施形態に関して、基材16及び接着剤30は、これらの材料も物品の光学経路内にあるため、光透過性である。かかる実施形態において、この接着剤の屈折率は、基材12に又はフィルム16と基材12との中間に適合する(0.02若しくは0.01内)屈折率であることが好ましい。光透過性材料は典型的には、少なくとも80%、少なくとも85%及び好ましくは少なくとも90%の透過率を有する。
【0016】
保護フィルムが、例えば車両又は建造物上の商業的なグラフィックなどの光透過性でない物品と共に使用することが意図されている実施形態に関して、基材及び接着剤は不透明である場合がある。
【0017】
好適な接着剤組成物としては、(例えば水素添加)ブロックコポリマー、例えばテキサス州ウェストホロウ(Westhollow)のクレイトンポリマーズ(Kraton Polymers)から市販されている商品名「クレイトン(Kraton)G−1657」、並びにその他の(例えば類似の)熱可塑性ゴムなどが挙げられる。その他の代表的な接着剤としては、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系及びエポキシ系接着剤が挙げられる。光学ディスプレイの表示品質を低下させるように経時的に又は天候曝露時に接着剤が黄色化しないように、好ましい接着剤は十分な光学的品質及び光安定性を有するものである。トランスファーコーティング、ナイフコーティング、スピンコーティング、ダイコーティングなどの様々な既知のコーティング技術を使用して接着剤を適用することができる。代表的な接着剤は、米国特許出願公開第2003/0012936号に記載されている。このような接着剤のいくつかは、ミネソタ州セントポール(St. Paul)の3M社(3M Company)から商品名8141、8142及び8161で市販されている。
【0018】
ARフィルム基材16は、柔軟性、寸法安定性及び耐衝撃性などの所望の光学的及び機械的特性に部分的に基づいて選択される。基材16は、光学ディスプレイ12として熱可塑性の及び架橋されたポリマー材料のいずれかを含んでもよく、又はいずれかからなってもよい。基材16はまた、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、ポリスチレン、スチレンーアクリロニトリルコポリマー、エポキシ等を含んでもよく、又はこれらからなってもよい。
【0019】
フィルム基材16として使用するのに好適な様々な光透過性光学フィルムが既知であり、多層光学フィルム、ミクロ構造フィルム、例えば再帰反射シート及び輝度増強フィルム、(例えば反射又は吸収)偏光フィルム、拡散性フィルム、並びに(例えば2軸)抑制フィルム及び補償フィルム、例えば2004年1月29日出願の米国特許出願公開第2004/0184150号に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
フィルム基材16は、有機成分と無機成分との両方を有するハイブリッド材料を含んでもよい。
【0021】
フィルム基材16の厚さも、通常、意図される用途に左右される。大部分の用途に関しては、約0.5mm未満の基材の厚さが好ましく、より好ましくは約0.02〜約0.2mmである。自己支持性ポリマーフィルムが好ましい。押出及び押出フィルムの任意の1軸又は2軸配向によるなどの従来のフィルム製造技術を使用して、ポリマー材料をフィルムへと形成することができる。基材と隣接する層との間の接着を改善するために、例えば化学処理、コロナ処理、例えば空気若しくは窒素コロナ、プラズマ、火炎又は化学放射線によって基材を処理することができる。所望であれば、層間接着を増大させるため、任意の連結層又はプライマーを基材及び/又はハードコート層に適用することができる。
【0022】
任意のハードコート層は、基材12又は16と高屈折率層22との間に提供することができる。存在する場合、ハードコート層の厚さは典型的には少なくとも0.5マイクロメートル、好ましくは少なくとも1マイクロメートル、及びより好ましくは少なくとも2マイクロメートルである。ハードコート層の厚さは一般的に25マイクロメートル以下である。好ましくは、厚さは3マイクロメートル〜5マイクロメートルの範囲である。
【0023】
任意のハードコート層は典型的には、結合剤マトリックス中に分散した(例えば表面改質された)ナノメートルサイズの無機酸化物粒子を含有する。典型的には、ハードコートは、基材上に硬化性液体セラマー組成物をコーティングし、その場でこの組成物を硬化させて硬化したフィルムを形成することにより形成される。好適なコーティング方法は、(例えばフッ素性化学物質の)自己組織化反射防止コーティングの適用に関して後で記述されるものを含む。ハードコートに関する更なる詳細は、米国特許第6,132,861号(カン(Kang)ら、‘861号特許)、同第6,238,798号(カンら、‘798号特許)、同第6,245,833号(カンら、‘833号特許)及び同第6,299,799号(クレイグ(Craig)ら、‘799号特許)に見い出すことができる。
【0024】
ARフィルムは、好ましくは、ラムダ(Lambda)900分光分析装置(パーキンエルマーライフアンドサイエンス社(Perkin Elmer Life And Analytical Sciences, Inc.)、マサチューセッツ州ウォルサム(Waltham))で、450〜650nmの反射モードで測定したとき、450nm〜650nmで3%未満又は2%未満の平均反射率を有する。
【0025】
ARフィルムの反射防止特性を表す別の方法は、最小反射及び最小波長に関連する。最小反射は、450nm〜650nm間の波長で3%未満であり、好ましくは2%未満である。この可視スペクトル波長範囲にわたって、良好な反射防止特性を提供するために、最小反射がこの範囲の中央近くの波長で、即ち550nm±20nm付近で発生することが好ましい。
【0026】
光沢性ARフィルムの場合において、ARフィルムのヘイズは、好ましくは5%未満、4%未満、3%未満又は2%未満、より好ましくは1.0%未満、0.8%未満又は0.6%未満である。しかしながら、より高いヘイズを有するARフィルムは、マットな及び不透明な基材への用途に好適である。
【0027】
自己組織化ARコーティング組成物は、最初は実質的に均質で安定した分散体である。コーティング組成物は、(例えば有機)溶媒中に分散させた表面改質ナノ粒子及び重合可能な有機組成物を含む。重合可能な有機組成物は、もう1つのエチレン性不飽和モノマー(類)、オリゴマー(類)、ポリマー(類)又はこれらの混合物を含み、これらは好ましくは紫外線への曝露によって架橋する。有機組成物(即ち、表面改質高屈折率ナノ粒子がない場合)は、低屈折率を有する。好ましくは、有機材料の低屈折率は、1つ以上のフッ素化エチレン性不飽和モノマー、オリゴマー、ポリマー又はこれらの混合物が組み込まれることによって得られる。
【0028】
自己組織化ARコーティング組成物は、高屈折率、即ち少なくとも1.6の屈折率を有する表面改質ナノ粒子を含む。ARコーティング組成物は、所望により低屈折率ナノ粒子などの他の無機粒子を含んでもよい。
【0029】
様々な高屈折率粒子が既知であるが、例えば、ジルコニア(「ZrO」)、チタニア(「TiO」)、酸化アンチモン、アルミナ、酸化スズの、単体又は混合物若しくは混合金属酸化物としての組合せが挙げられる。高屈折率層で用いられるジルコニアは、ナルコケミカル社(Nalco Chemical Co.)から「ナルコ(Nalco)OOSSOO8」という商品名で、及びスイスのウッツビル(Uzwil)のビューラー社(Buhler AG)から「ビューラー(Buhler)ジルコニアZ−WOゾル」という商品名で入手可能である。ジルコニアナノ粒子はまた、2004年12月30日出願の米国特許出願公開第2006/0148950号及び米国特許第6,376,590号に記載されているように調製することも可能である。
【0030】
自己組織化ARコーティング組成物中の高屈折率ナノ粒子の濃度は、典型的には少なくとも約10固形分質量%、15固形分質量%又は20固形分質量%である。無機粒子の濃度は、典型的には約60固形分質量%以下であり、更に好ましくは約40固形分質量%〜約50固形分質量%である。
【0031】
高屈折率ナノ粒子は、ナノ粒子が組織化された低屈折率表面層から分離するように、ナノ粒子の表面張力を、低屈折率で重合可能な有機材料より十分上に上昇させる表面処理剤で表面改質されている。理論に束縛されるものではないが、表面改質ナノ粒子と重合可能な有機組成物との間の表面張力における差は、自己組織化ARコーティング組成物を低反射率層と高反射率層に分離させると推定される。
【0032】
図4を参照すると、グラフは、X線光電子分光法によって測定されたときの、炭素、フッ素及びジルコニウムの原子質量%の存在を具体化された反射防止フィルムの深さ方向で示しており、低屈折率層(即ち、エッチング時間0〜約500秒)は、ARフィルムの最上(例えば表面)層で形成される。低屈折率層は典型的には、物品又は保護フィルムの使用中に環境に曝露される表面層である。高屈折率層(即ち、エッチング時間約1500〜約2500秒)は、勾配層の下に形成される。
【0033】
低屈折率層及び高屈折率層の厚さは独立して変化させることができる。これらの層のそれぞれの最小厚さは、典型的には少なくとも約20nmである。各層の厚さは単独で、約30nmまで、40nmまで、50nmまで、60nmまで、70nmまで、80nmまで、90nmまで又は100nmまでの範囲であってよい。
【0034】
示された実施形態において、低屈折率表面層中の高屈折率の金属(例えば、ジルコニウム)の濃度は、1原子質量%未満である。しかしながら、2〜3原子%までが低屈折率層内に存在することができる一方で、好適な反射防止特性をまだ供給する。低屈折率層は、架橋有機材料、ひいては比較的高濃度の炭素を含む。この特定の実施形態において、炭素原子の濃度は約65質量%である。他の実施形態において、例えば、低屈折率層が表面改質低屈折率ナノ粒子を更に含む場合など、炭素原子の濃度は更に低く、例えば少なくとも25質量%、30質量%、35質量%、40質量%、45質量%、50質量%、55質量%又は60質量%であってよい。低屈折率層は、比較的高濃度のフッ素又は他の低表面エネルギー原子も含む。この特定の実施形態において、高屈折率層中の低表面エネルギー原子(例えば、フッ素)の量は、少なくとも15原子質量%又は20原子質量%である。フッ素の存在は、低屈折率に及び低屈折率層の比較的低い表面張力特性に寄与する。低屈折率層は典型的に、少なくとも15ダイン/cmかつ約35ダイン/cm以下の表面張力を有する。いくつかの実施形態において、低屈折率層の表面張力は、30ダイン/cm未満、25ダイン/cm未満又は20ダイン/cm未満である。
【0035】
炭素原子、フッ素原子及びジルコニウム原子の濃度は、低屈折率層の(例えば平面平均)厚さにわたって実質的に一定であり、即ち2%を超えて、1.5%を超えて又は1%を超えて変化しない。低屈折率層の成分の濃度は実質的に一定であるため、低屈折率層の屈折率もまた、このような厚さにわたって実質的に一定であり、即ち0.05以下、0.02以下又は0.01以下で変化するにすぎない。
【0036】
炭素原子、フッ素原子、ジルコニウム原子の濃度はまた、高屈折率層の(例えば平面平均)厚さにわたって実質的に一定である。しかしながら、成分の濃度は、低屈折率層の成分の変化と比較して、より大きい範囲(1原子質量%、2%原子質量%、3%原子質量%、4%原子質量%又は5原子質量%)まで変化することができる。高屈折率層は、相当な量の高屈折率ナノ粒子を含む。例えば、高屈折率層は典型的にジルコニウム、チタン又はこれらの混合物などの高屈折率金属の少なくとも10原子質量%、15原子質量%、20原子質量%又は25原子質量%を含む。低濃度のフッ素原子と組み合わされた十分な濃度の高屈折率ナノ粒子の存在は、組織化された高屈折率層の屈折率を上昇させる。
【0037】
2つの別個のコーティング組成物、即ち低屈折率コーティング組成物及び高屈折率コーティング組成物から形成されたARフィルムとは対照的に、本明細書で記載される自己組織化ARフィルムはまた、典型的には高屈折率層中に少なくとも少量のフッ素又は他の低表面エネルギー成分を含む。フッ素原子の濃度は、残留量(例えば、少なくとも0.5、0.6、0.7、0.8、0.9又は1原子質量%)を超える。フッ素又は他の低表面エネルギー成分の濃度は、典型的には5原子質量%未満、4原子質量%未満、3原子質量%未満又は2原子質量%未満である。
【0038】
図5〜6は、具体化されたARフィルムの、透過型電子顕微鏡法の断面図を示す。図5において、低屈折率層は、約97nmの厚さを有するのに対し、その下にある高屈折率層は、約51nm〜約90nmの範囲の厚さを有する。図6において、低屈折率層は、約88nmの厚さを有するのに対し、その下にある高屈折率層は、約45nm〜約83nmの範囲の厚さを有する。
【0039】
透過型電子顕微鏡は、図4に記載されたX線光電子分光法で分析された200μmの領域と比較して、約1マイクロメートルの断面を分析する。X線光電子分光法は、勾配層が低屈折率層と高屈折率層との間に存在するということを結論付ける根拠として使用されてきたが、図5及び6は、本明細書で記載されたARフィルムが、高屈折率層と低屈折率層との間に明確な境界面を有することによって特徴付けられるということ示す。この境界面の厚さは典型的には5nm〜10nm以下である。低屈折率層と高屈折率層との間の境界面は、実質的に平面でありかつ上面層に平行である。高屈折率層とPET基材との間の境界面は不規則である。この不規則性は、PET基板上のプライマー層の不均一性によって引き起こされると推定される。他の実施形態において、基材と高屈折率層との間の境界面は、実質的に平面でありかつ上面層に平行である。
【0040】
図5〜6に示されているように、本明細書に記載されているARフィルムは、更に又は代替的に、低屈折率層に存在する、高屈折率表面改質無機ナノ粒子のランダムに分散した粒塊の存在によって、2層のARフィルムから区別することもできる。図5に示されているように、いくつかの場合では、粒塊は高屈折率層から突出する。他の場合では、粒塊は低屈折率有機マトリックス材料によって囲まれている。この粒塊の上の低屈折率有機組成物が1/4波の光学的な厚さを有するとき、粒塊の存在は、実質的に全体の反射特性に影響を与えない。しかしながら、高屈折率の粒塊が表面で存在する場合には、粒塊によって占有されている特定の表面領域は、反射防止性ではない。したがって、ARフィルムの平均反射率が目標範囲内であるためには、高屈折率の粒塊を含むARフィルムの総表面領域が、10%未満(例えば9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満又は1%未満)であることが好ましい。
【0041】
図4に示された約500秒〜1500秒の範囲のエッチング時間で増加するジルコニウムの領域は、粒塊の存在による、低屈折率層中の高屈折率ナノ粒子の平均量であると考えられる。
【0042】
溶媒濃度を増加させること及び/又は乾燥速度を遅らせること及び/又は乾燥温度を上昇させることは、(例えばフッ素化)低屈折率有機組成物を、より「きれいに」高屈折率表面改質ナノ粒子から分離させることになり、その結果、高屈折率層中のフッ素原子の濃度を下げ、低屈折率層中の高屈折率表面粒塊の濃度を下げることになる。
【0043】
高屈折率及び所望により低屈折率の無機ナノ粒子は、実質的に単分散の粒径分布、又は実質的に単分散の分布を2つ以上ブレンドすることによって得られる多形態の分布を有するのが好ましい。あるいは、粒子を所望のサイズ範囲に粉砕することによって得られた粒度の範囲を有する無機粒子を導入することができる。無機酸化物粒子は典型的に、非凝集体(実質的に分離体)であり、凝集によって、無機酸化物粒子の光学散乱(ヘイズ)若しくは沈殿又はゲル化が生じる可能性がある。無機酸化物粒子は典型的にサイズがコロイド状であり、5ナノメートル〜100ナノメートルの平均粒子直径を有する。十分な透明度を有するように、高屈折率粒子の粒径は約50nm未満であるのが好ましい。無機酸化物粒子の平均粒度を透過型電子顕微鏡を用いて測定して、所与の直径の無機酸化物粒子の数を決定することができる。
【0044】
自己組織化ARコーティング組成物は所望により、(例えば、表面改質した)低屈折率(例えば、1.50未満)ナノ粒子を含んでもよい。このような低屈折率ナノ粒子は、好ましくは、そのような低屈折率ナノ粒子相が低屈折率(例えば、表面)層と分離するか又は組織化するために、低屈折率の重合可能な有機組成物の表面張力におよそ等しい表面張力を有する。
【0045】
様々な低屈折率無機酸化物ナノ粒子、例えば窒化物、硫化物及びハロゲン化物(例えばフッ化物)が知られている。好ましい低屈折率粒子としては、コロイダルシリカ、フッ化マグネシウム及びフッ化リチウムが挙げられる。低屈折率組成物で使用されるシリカは、イリノイ州ネーパービル(Naperville)のナルコケミカル社(Nalco Chemical Co.)から製品1040、1042、1050、1060、2327及び2329など、商品名「ナルココロイダルシリカ(Nalco Collodial Silicas)」で市販されている。好適なヒュームドシリカには、例えば、デグサ(DeGussa)社(ドイツ、ハーナウ(Hanau))から、製品名「アエロジル(Aerosil)シリーズOX−50」並びに製品番号−130、−150及び−200で市販されている製品が挙げられる。ヒュームドシリカはまた、イリノイ州タスコラ(Tuscola)のキャボットコーポレーション(Cabot Corp)から商品名「CAB−O−SPERSE 2095」、「CAB−O−SPERSE A105」及び「CAB−O−SIL M5」で市販されている。
【0046】
表面改質剤は、式A−Bによって表わすことができ、式中、Aはナノ粒子(例えば、ジルコニア、チタニア)表面に付着できる基であり、Bは相溶化する基である。A基は、吸着、イオン結合の形成、共有結合の形成又はこれらの組合せによって、ナノ粒子の表面に付着できる。A基の好適な例には、例えば、アルコール、アミン、カルボン又はその塩、スルホン酸又はその塩、リン酸又はその塩、ホスホン酸及びその塩、並びにシラン及びチタン酸塩等が挙げられる。相溶化基は、反応性又は非反応性であることができ、かつ極性又は非極性であることができる。
【0047】
高屈折率ナノ粒子は、重合可能な有機組成物(即ち、溶媒を除く、自己組織化ARコーティング組成物の残部)よりも大きい表面張力(例えば、少なくとも約5ダイン/cm)を有する1つ以上の表面処理剤で表面処理されている。高屈折率ナノ粒子用の好ましい表面処理剤は、典型的には非フッ素化され、少なくとも25、30、35又は40ダイン/cmの表面張力を有する。対照的に、低屈折率ナノ粒子は、好ましくは、通常30ダイン/cm未満又は25ダイン/cm未満の屈折率を有する1つ以上の(例えばフッ素化)有機金属化合物で表面処理されている。しかしながら、ナノ粒子の総表面張力が前述のようであるという条件で、高(例えば、フッ素化)表面張力処理と低(例えば、フッ素化)表面張力処理との組合せが利用できるということが理解される。
【0048】
様々なポリマー、オリゴマー、及びオルガノシラン化合物の表面張力は、ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)」(第4版、J.ブランドラップ(Brandrup)、E.H.インメルグート(Immergut)及びE.A.グルルケ(Grulke)編、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、著作権1999年)に記載のように、文献に報告されている。様々な好適な表面処理剤の表面張力又はおおよその表面張力を以下のように報告する。
【0049】
【表1】

【0050】
オルガノシラン化合物のケイ素原子が異なる金属原子で置換される場合、表面張力は、対応するオルガノシランで報告された値とおよそ同等である。
【0051】
一態様において、有機金属化合物は、好ましくは、アクリレート又はメタクリレートなどのエチレン性不飽和末端基、又は自己組織化ARコーティング組成物の重合可能な有機成分と共重合可能なビニル基を含む。
【0052】
好適な共重合可能な有機金属化合物は、一般式:
CH=C(CHM(OR)又は
CH=C(CHC=OOAM(OR)
を有することができ、
式中、mは0又は1であり、
Rは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基であり、
Aは二価の有機連結基であり、
MはSi、Ti、Al、Zn、Sn及びFeなどの金属であり、
nは1〜3である。
【0053】
具体的な例には、3−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリエトキシシラン、3−(メタクリロイルオキシ)プロピルメチルジメトキシシラン、
3−(アクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、
3−(メタクリロイルオキシ)プロピルジメチルエトキシシラン、3−(メタクリロイルオキシ)プロピルジメチルエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリス−イソブトキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン及びこれらの混合物が挙げられる。
【0054】
ヘイズを減少させるために、好ましくは、共重合可能な表面処理剤と、極性基含有表面処理剤(polar-group containing surface treatment)と、の組合せが用いられる。例えば、ポリエーテルシラン又はエポキシシラン化合物を、(メタ)アクリルシランと組み合わせて用いることができる。
【0055】
ナノ粒子の表面改質は、様々な既知の方法、例えば上述の米国特許出願公開第2006−0148950号(2004年12月30日出願)及び米国特許第6,376,590号に記載されている方法で実現させることができる。
【0056】
表面改質は、モノマーとの混合に続いて又は混合後のいずれかで行うことができる。樹脂へ組み込む前に、オルガノシラン表面処理化合物をナノ粒子と組み合わせることが一般的に好ましい。表面改質剤の必要量は、粒径、粒子タイプ、改質剤の分子量及び改質剤タイプといった、いくつかの要因に左右される。一般的には、概して単層の改質剤を粒子の表面に結合させることが好ましい。必要とされる結合手順又は反応条件もまた、使用する表面改質剤によって左右される。オルガノシランの場合、酸性又は塩基性の条件の下、高温で約1〜24時間表面処理することが好ましい。
【0057】
自己組織化ARコーティング組成物は、好ましくは、比較的高分子量を有するフルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体などのエチレン性不飽和フッ素化ポリマーを含む。例えば、室温(22℃)、エチルアセテート中14.5%(固形分)溶液におけるフルオロ(メタ)アクリレートポリマーの溶液粘度は、典型的には少なくとも2cpsかつ8cps未満である。
【0058】
好ましいフルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体は、国際出願番号PCT/US2007/068197号(2007年5月4日出願)に更に記載されている。
【0059】
A)フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体は典型的には、i)フッ素含有率が少なくとも約25質量%である、少なくとも1つのフッ素化マルチ−(メタ)アクリレートモノマーと、ii)任意に、0〜25質量%未満の範囲のフッ素含有率を有する、1つ以上のマルチ−(メタ)アクリレート物質と、の反応生成物を含む。したがって、ii)のマルチ−(メタ)アクリレート材料のフッ素含有率はi)未満である。マルチ−(メタ)アクリレート材料の総量は、一般的に重合可能な有機組成物の固形分の質量%を基準とした場合、少なくとも25質量%である。
【0060】
フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体溶液は、フリーラジカル重合可能な未反応の出発物質とオリゴマー種と超分岐構造を有するポリマー種との混合物を含んでいると推定される。超分岐ポリマーは、構造繰返し単位が2つを超える連結性を有する任意のポリマーであると定義され、この定義は超架橋ポリマーに拡大されてもよい(大員環は存在するが、はしご型ポリマー及びスピロポリマーには拡大されない)。
【0061】
自己組織化AR組成物の低屈折率有機部分を調製するためには、2段階のプロセスが一般的に使用される。第1の(例えば溶液)重合反応は、希釈有機溶媒条件を利用して超分岐フルオロアクリレートポリマー(例えばナノゲル)を形成する。次に、超分岐フルオロアクリレートは、実質的に100%固形状態での第2の(例えば光)重合反応における反応物質として利用されて、架橋された(メタ)アクリレートホストの(ナノゲル)ポリマーの相互貫入網であると推定されるフッ素化架橋系を形成する。
【0062】
上記の超分岐ポリマーは、可溶性又は分散性を維持した状態で高分子量を有していると推定される。初めに調製されたポリマー中間体は(例えばエチルアセテートと)十分溶媒和し、溶媒交換が比較的容易であり、したがってその高分子マトリックス中に他のフリーラジカル重合可能なモノマー分子を受け入れる。コーティング、濃縮又は乾燥され、最終的に硬化されると、中間体ポリマーは堅くなりかつモノマーに又はモノマーの周囲に固着し、最終フィルムを強化及び硬くする。
【0063】
超分岐ポリマーは、一部の文献にミクロゲル又はナノゲルと記載されている物質といくらかの類似点を有している。ポリマーナノゲル物質は、重合反応中に存在する溶媒の割合を増大させ、したがって鎖延長とは反対に内部環化の確率を増大させることにより形成される。マクロゲル化(macrogellation)が発生するときの条件下において、典型的なポリマーは溶液から沈殿するか、又はより一般的には溶液がゲル状及び非流体になるかのいずれかである。本明細書に記載の可溶性ナノゲルの形成において、ミクロゲル化及びマクロゲル化のレジームは、はっきりと規定された溶液中のポリマーの臨界体積分率によって区別される。この臨界体積はフローリー−ストックマイヤー(Flory-Stockmayer)のゲル化理論のゲル転移といくぶん似ている。臨界体積分率より低い濃度で、少なくとも10〜10g/モルの(即ちポリスチレン換算)分子量を有する可溶性超分岐ポリマーを得ることができる。臨界状態の反応濃度は、分子の架橋密度及び構造パラメータに依存する。
【0064】
多官能性(メタ)アクリレートは重合されることが可能であるが、依然として可溶性のナノゲルを生じさせることが分かっている。更に、本明細書に記載のように、多官能性アクリレートの量を増加させることで、改善されたコーティング及び機械的特性を提供することができる。
【0065】
A)フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体は、i)少なくとも約25質量%のフッ素含有率を有する、少なくとも1つのフッ素化マルチ−(メタ)アクリレートモノマーの反応生成物を含む。高度にフッ素化されたマルチ−(メタ)アクリレートモノマーは、低屈折率を有することによって特徴付けられる。少なくとも約25質量%のフッ素含有率を有する様々なフッ素化マルチ−(メタ)アクリレートモノマーが既知である。いくつかの実施形態において、低屈折率のマルチ−(メタ)アクリレートモノマーのフッ素含有率は、少なくとも30質量%、少なくとも35質量%、少なくとも40質量%、少なくとも45質量%、又は少なくとも50質量%である。
【0066】
フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体(FPA)を調製するために、単一の低屈折率フッ素化マルチ−(メタ)アクリレートモノマーを単独重合させることができる。あるいは、2つ以上の低屈折率のフッ素化マルチ−(メタ)アクリレートモノマーを互いに共重合させることが可能である。更に他には、1つ以上の低屈折率のフッ素化マルチ−(メタ)アクリレートモノマーを、他の非フッ素化及び/又はフッ素化モノ−(メタ)アクリレート物質及びマルチ−(メタ)アクリレート物質と共重合させることができる。フッ素化モノ−(メタ)アクリレート物質は高いフッ素含有率(即ち少なくとも25質量%)を有していてもよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体の調製中に使用されるマルチ−(メタ)アクリレート物質の総量、例えばフッ素化マルチ−(メタ)アクリレートモノマーと非フッ素化マルチ−(メタ)アクリレートモノマーとの合計は、反応混合物の有機部分の全固形分を基準として、少なくとも30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%及び更には100%である。低屈折率のフッ素化マルチ−(メタ)アクリレート(即ち、フッ素含有率が少なくとも約25質量%)の総量は、反応混合物の有機部分の全固形分を基準として(即ち任意の無機ナノ粒子を除く)、少なくとも30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%及び更には100%であってよい。
【0068】
自己組織化ARコーティング組成物は、好ましくは、A)少なくとも1種のフルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体(「FPA」)と、B)3つ以上の(メタ)アクリレート基を有する少なくとも1つの(例えば、非フッ素化)(メタ)アクリレート架橋材料と、C)表面改質高屈折率ナノ粒子との反応生成物を含む。混合物は、(例えば紫外線)照射に曝露されることによって硬化されるのが好ましい。硬化されたポリマー組成物は、A)とB)との共重合反応生成物、A)とC)との共重合反応生成物、及び/又はA)とB)とC)との共重合反応生成物を含み得る。フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体は、低屈折率コーティング組成物内の他の成分に共有結合し得る。非フッ素化架橋剤は、フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体を物理的にもつれさせて重合して、それによって相互貫入網を形成させてよい。
【0069】
自己組織化AR組成物は、非フッ素化架橋剤(類)の少なくとも5質量%又は10質量%かつ50質量%未満又は40質量%未満を含む。いくつかの実施形態において、非フッ素化架橋剤(類)の量は、約15質量%〜約30質量%の範囲である。
【0070】
適切なモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(ペンシルベニア州エクストン(Exton)のサートマー社(Sartomer Company)から商品名「SR351」で市販されている)、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ペンシルベニア州エクストンのサートマー社から商品名「SR454」で市販されている)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート(サートマー社から商品名「SR444」で市販されている)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(サートマー社から商品名「SR399」で市販されている)、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリアクリレート(サートマー社から商品名「SR494」で市販されている)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート(サートマー社から商品名「SR368」で市販されている)が挙げられる。UCBケミカル(UCB Chemicals)から、商品名「エベクリル(Ebecry)8301」及び「エベクリル(Ebecry)220」で市販されているものなどの脂肪族及び芳香族ウレタンヘキサアクリレートを使用することもできる。一部の態様では、ヒダントイン部分含有マルチ−(メタ)アクリレート化合物、例えば米国特許第4,262,072号(ウェンドリン(Wendling)ら)に記載されているものが用いられている。
【0071】
フリーラジカル重合可能な、様々なフッ素化された一官能性及び多官能性モノマー、オリゴマー及びポリマーを、本明細書に記載のフルオロ(メタ)アクリレートポリマー(例えば中間体)を調製するのに用いてもよい。このような物質は一般的に、(ペル)フルオロポリエーテル部分、(ペル)フルオロアルキル部分及び(ペル)フルオロアルキレン部分と組み合わせた、フリーラジカル重合可能な部分を含む。これらの部類のそれぞれには、i)として用いることのできる(例えば少なくとも25質量%の)高フッ素含有率の多官能性種がある。フッ素含有率が25質量%未満の各部類内の他の種は、ii)として及び/又は補助的な構成成分として用いることができる。いくつかの実施形態において、補助的なフッ素化(メタ)アクリレートモノマーは、反応混合物内に存在している低屈折率の又はその他のフッ素化物質を相溶性化するのを助けることができる。
【0072】
低屈折率層及びフルオロ(メタ)アクリレートポリマーは、国際出願番号PCT/US2007/068197号(2007年5月4日出願)に記載されているものなど様々な(ペル)フルオロポリエーテル(メタ)アクリレート化合物から調製することができる。
【0073】
1つの好ましい高フッ素含有材料は、供給元により屈折率が1.341であると報告された商品名「CN4000」でサートマー(Sartomer)社から市販されている(例えば、ペルフルオロポリエーテル)アクリレートオリゴマーである。低屈折率を考慮すると、この材料は、少なくとも約50質量%のフッ素含有率を有すると考えられる。NMR分析に基づいて、CN4000の分子量(Mn)は約1300g/モルである。
【0074】
その他の市販の低屈折率ペルフルオロポリエーテル化合物には、商品名「フロアーN(FluorN)1939A」でメリーランド州ベルツビル(Beltsville)のシトニクス社(Cytonix Corporation)から入手可能なペルフルオロポリエーテルカプロラクトンジアクリレート化合物、及び同様に商品名「フロアーN(FluorN)1970A」でシトニクス社から入手可能なペルフルオロポリエーテルグリコールジアクリレートが挙げられる。
【0075】
その他の高フッ素ペルフルオロポリエーテル(メタ)アクリレートは、米国特許第3,810,874号の実施例15に記載の方法で、市販のペルフルオロポリエーテル化合物(例えば、商品名「フォンブリンゼットドール(Fomblin Zdol)2000」としてソルベイ・ソレクシス社(Solvay Solexis)から入手可能)を塩化アクリロイルと反応させることにより調製することができる。
【0076】
いくつかの実施形態において、ペルフルオロポリエーテル基は、「HFPO−」末端基、即ち、末端基F(CF(CF)CFO)CF(CF)−(メチルエステルのF(CF(CF)CFO)CF(CF)C(O)OCH)を含み、式中、「a」は平均して2〜15である。いくつかの実施形態において、aは平均して3〜10、又はaは平均して5〜8である。このような化合物は一般に、aの値の範囲のオリゴマーの分散体又は混合物として存在するため、aの平均値は非整数であり得る。一実施形態において、aは平均して約6.2である。
【0077】
いくつかの実施形態において、ペルフルオロポリエーテル(メタ)アクリレート化合物は、ペルフルオロポリエーテルウレタン化合物と特徴付けられ得る。このような材料は一般に、少なくとも1つの重合可能な(例えば末端)(メタ)アクリレート部分、及び少なくとも二価の連結基によってウレタン又は尿素連鎖に結合される(ペル)フルオロポリエーテル基を含む少なくとも1つの(任意に反復)単位を含んでいる。ウレタン及び尿素連鎖は典型的には−NHC(O)Xであり、式中、XはO、S又はNRであり、RはH又は1〜4個の炭素を有するアルキル基である。ペルフルオロポリエーテル部分は、上述のとおり、HFPO部分であり得る。様々な好適な化合物が、米国特許出願公開第2006/0216524号及び係属中の米国特許出願第11/277162号(2006年3月22日出願)に記載されている。1つの代表的な高フッ素ペルフルオロポリエーテルウレタン(メタ)アクリレートは、HFPO−C(O)NHCOC(O)NHCOC(O)C(CH)=CHである。
【0078】
FPA又は自己組織化AR組成物の調製に使用するための様々なペルフルオロアルキルマルチ−(メタ)アクリレートが既知である。様々な市販の低屈折率種を以下のように表1に記載する。
【0079】
【表2】

【0080】
その他の低屈折率ペルフルオロアルキルマルチ−(メタ)アクリレート化合物を合成することが可能である。例えば、CSON(COC(O)CH=CH(Mn=567.9MW、フッ素含有率30.11%)及びCSON(COC(O)C(CH)=CH(Mn=595.99、フッ素含有率28.69%)は、最初にフッ素性化学物質ジオールFBSEE(CSON(COH))を米国特許第3,734,962号(1973)の5段目の31行目及び図9に記載のとおりに調製し、続いてアクリレート誘導体をサブ(Savu)らに付与された国際公開第01/30873号の実施例2Bに記載の方法で調製して合成することが可能である。
【0081】
フルオロアクリレート(メタ)アクリレートポリマー中間体又は自己組織化AR組成物の調製は、所望により、例えば、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6−ウンデカフルオロヘキシル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート;3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ノナデカフルオロデシル(メタ)アクリレート;3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート;2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート;3−トリフルオロメチル−4,4,4−トリフルオロブチル(メタ)アクリレート;1−メチル−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート;1−メチル−2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−デカフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロシクロヘプチル(メタ)アクリレート;2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−テトラデカフルオロシクロオクチル(メタ)アクリレート;2−トリフルオロメチルシクロブチル(メタ)アクリレート;3−トリフルオロメチルシクロブチル(メタ)アクリレート;2−トリフルオロメチルシクロペンチル(メタ)アクリレート;3−トリフルオロメチルシクロペンチル(メタ)アクリレート;2−トリフルオロメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート;3−トリフルオロメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート;4−トリフルオロメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート;2−トリフルオロメチルシクロヘプチル(メタ)アクリレート;3−トリフルオロメチルシクロヘプチル(メタ)アクリレート;及び4−トリフルオロメチルシクロヘプチル(メタ)アクリレートを含む、様々なフッ素化モノアクリレート物質を含むことができる。
【0082】
フルオロアクリレート(メタ)アクリレートポリマー中間体又は自己組織化AR組成物の調製は、所望により、様々なペルフルオロポリエーテルモノ−(メタ)アクリレート化合物を含むことができる。このような低屈折率材料のある1つの代表的なものは、HFPO−C(O)NHCHCHOC(O)CH=CHであり、計算によるとそのフッ素含有率は62.5質量%である。同様の方法で調製することができる別の低屈折率ペルフルオロポリエーテルモノ−(メタ)アクリレート化合物は、HFPO−C(O)NHCHCHOCHCHOCHCHOC(O)CH=CH(計算によるとフッ素含有率は59.1質量%)、HFPO−C(O)NH(CHOC(O)CH=CH(計算によるとフッ素含有率は60.2質量%)及びHFPOC(O)NHCHCHOCHCHOCHCHOCHCHOC(O)CH=CH(計算によるとフッ素含有率は57.3質量%)である。このような化合物は、2006年3月22日出願の米国特許出願第11/277,162号(例えば、調合物31a〜31d参照)に記載されている。
【0083】
フルオロアクリレート(メタ)アクリレートポリマー中間体又は自己組織化AR組成物の調製は、所望により、様々な非フッ素化二官能性(メタ)アクリレートモノマーを含むことができる。様々な二官能性(メタ)アクリレートモノマーが当該技術分野で知られており、例えば、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノアクリレートモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、アルコキシル化脂肪族ジアクリレート、アルコキシル化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレート、アルコキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、カプロラクトン修飾ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、カプロラクトン修飾ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、(Mn=200g/モル、400g/モル、600g/モル)、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート及びトリプロピレングリコールアクリレートが挙げられる。
【0084】
例えばウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート及びこれらの組合せなど、低濃度のオリゴマージ(メタ)アクリレート化合物は、所望により、フルオロアクリレート(メタ)アクリレートポリマー中間体又は自己組織化AR組成物の調製に使用することができる。
【0085】
フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体及び自己組織化ARコーティング組成物の調製には、典型的には少なくとも1種のフリーラジカル反応開始剤が利用される。有用なフリーラジカル熱開始剤には、例えば、アゾ、ペルオキシド、ペルスルフェート及びレドックス開始剤並びにこれらの混合物が挙げられる。有用なフリーラジカル光開始剤としては、例えば、アクリレートポリマー類の紫外線硬化に有用であることが公知であるものが挙げられる。いくつかの態様において、フルオロ(メタ)アクリレートポリマー(例えば中間体)は、熱開始剤を用いて重合された溶液であるのに対して、自己組織化AR組成物は、好ましくは光重合される。
【0086】
他の添加剤が添加されてもよい。この添加剤としては、樹脂性流動助剤、光安定剤、高沸点溶媒及び当業者に周知の他の相溶化剤などがあるが、それらに限定されない。
【0087】
フルオロ(メタ)アクリレートポリマー(例えば中間体)は、相溶性(例えば非フッ素化)有機溶媒中に形成、溶解又は分散し得る。フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体は、典型的には少なくとも5固形分質量%の濃度で存在する。いくつかの実施形態において、フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体は、少なくとも約10質量%の濃度で存在する。15質量%を超える濃度で、組成物はゲル化することがある。フルオロ(メタ)アクリレートポリマーの分子量を最大にするために、フルオロ(メタ)アクリレートポリマーの濃度は、ゲル転移を引き起こす濃度にほぼ等しいが、より低いことが典型的には好ましい。
【0088】
自己組織化ARコーティング組成物は、フルオロ(メタ)アクリレートポリマー溶液を(メタ)アクリレート架橋剤、表面改質ナノ粒子及び光開始剤と組み合わせて、所望により、この混合物を追加の溶媒で約1〜10パーセントの固形分へと希釈することによって、調製することができる。
【0089】
フルオロ(メタ)アクリレートポリマー(例えば中間体)及び自己組織化AR組成物の調製に、単一の有機溶媒を又は溶媒のブレンドを用いることができる。用いるフリーラジカル重合可能物質によるが、適切な溶媒としては、アルコール(イソプロピルアルコール(IPA)又はエタノールなど)、ケトン(メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)など)、シクロヘキサノン又はアセトン、芳香族炭化水素(トルエンなど)、イソホロン、ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、エステル(ラクテート、アセテート、例えば3Mから「3Mスコッチカルシンナー(3M Scotchcal Thinner)CGS10(「CGS10」)」という商品名で市販されているようなプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3Mから「3Mスコッチカルシンナー(3M Scotchcal Thinner)CGS50(「CGS50」)」という商品名で市販されているような2−ブトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(DEアセテート)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート(EBアセテート)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DPMA)、イソ−アルキルエステル(例えばイソヘキシルアセテート、イソヘプチルアセテート、イソオクチルアセテート、イソノニルアセテート、イソデシルアセテート、イソドデシルアセテート、イソトリデシルアセテート又はその他のイソ−アルキルエステル)、これらの組合せなどが挙げられる。
【0090】
フルオロ(メタ)アクリレートポリマー中間体並びに自己組織化ARコーティング組成物は、好ましくはフッ素化溶媒なしで相溶性のコーティングを形成する。様々なフッ素化溶媒を用いることができるが、一態様において、該組成物はフッ素化溶媒を含まない。相溶性コーティング組成物は、濁っておらず、むしろ透明である。相溶性コーティングには実質的に可視欠陥がない。非相溶性コーティングを用いたときに観察され得る可視欠陥としては、曇り、あばたきず、フィッシュアイ、まだら、塊若しくはかなりの波打ち、又は光学及びコーティング分野の当業者に公知の他の可視徴候があるが、それらに限定されない。
【0091】
ARコーティングされた物品又はAR保護フィルムを形成する方法は、(例えば、光透過性)基材層を提供する工程及び(所望によりプライミングされた)基材層上に組成物を提供する工程を含む。本方法は典型的には、コーティングされた基材を十分な紫外線で照射して架橋させる工程を含む。あるいは、転写可能な反射防止フィルムは、組成物を剥離ライナーにコーティングし、少なくとも部分的に硬化し、その後、熱転写又は光線照射塗布技法を用いて剥離層から基材へと転写することによって、形成される。
【0092】
組成物は、光学ディスプレイ若しくは窓などの物品に直接、又は従来のフィルム適用技法を用いてフィルム基材に直接、単層又は多層として適用することができる。通常、フィルム基材は連続ウェブのロール形状であるのが好都合だが、個々のシートにコーティングを塗布してよい。
【0093】
浸漬コーティング、順方向及び逆方向ロールコーティング、ワイヤー捲回ロッドコーティング、並びにダイコーティングなど、様々な技術を用いて、薄いフィルムを適用することができる。ダイコーティング機としては、ナイフコーティング機、スロットコーティング機、スライドコーティング機、流体ベアリングコーティング機、スライドカーテンコーティング機、ドロップダイカーテンコーティング機、及び押出コーティング機が挙げられる。エドワード・コーエン(Edward Cohen)及びエドガー・グトフ(Edgar Gutoff)の「現代のコーティング及び乾燥技術(Modern Coating and Drying Technology)」(VCHパブリッシャーズ(VCH Publishers)、ニューヨーク、1992年、ISBN 3−527−28246−7)、並びにグトフ(Gutoff)及びコーエン(Cohen)の「コーティング及び乾燥の欠陥:操作上の問題のトラブルシューティング(Coating and Drying Defects: Troubleshooting Operating Problems)」(ワイリーインターサイエンス(Wiley Interscience)、ニューヨーク、ISBN 0−471−59810−0)などの文献に、多くのタイプのダイコーティング機が記載されている。
【0094】
コーティング組成物は、乾燥させて溶媒を除去し、続いて、例えば、所望の波長で、好ましくは不活性雰囲気(酸素50ppm未満)内で(例えばHバルブ又はその他のランプを用いて)紫外線に、又は電子ビームに曝露することによって硬化させる。光硬化は、組織化したARコーティング組成物を架橋させる。このような架橋が、実質的に絡まったフルオロ(メタ)アクリレートポリマー相及び(メタ)アクリレート相をもたらし、それによって相互貫入ポリマー網、即ちIPNを形成すると推定される。
【0095】
ARコーティング組成物のフッ素化成分(単一又は複数)は、低表面エネルギーを提供する。低屈折率層の表面エネルギーは、様々な方法、例えば接触角度及びインク忌避性によって特徴付けることができる。硬化済み低屈折率層の水との静的接触角度は典型的には少なくとも80°である。より好ましくは、接触角度は少なくとも90°であり、最も好ましくは少なくとも100°である。あるいは、又はそれに加えて、ヘキサデカンとの前進接触角度は少なくとも50°であり、より好ましくは少なくとも60°である。低い表面エネルギーは、防汚特性及び染み忌避特性に適しており、並びに露出面を洗浄しやすくする。
【0096】
自己組織化ARコーティングは、光沢性表面又はマットな表面に適用することができる。例えば、マットな表面を提供するために、表面を粗面化又は非平滑化することが可能である。これは、当該技術分野において既知の様々な方法で、例えば、ビードブラス又は他の方法で粗面化した適切なツールで低屈折率面をエンボス加工する方法で、並びに、米国特許第5,175,030号(ルー(Lu)ら)及び同第5,183,597号(ルー(Lu))に記載されているように、適切な粗いマスターに対して組成物を硬化させることによって実現することができる。
【0097】
マットなコーティングも、適切な寸法の粒子充填物、例えばシリカ砂又はガラスビードを組成物に加えることによって作製することができる。このようなマットな粒子は、典型的には表面改質低屈折率粒子よりも実質的に大きい。例えば、その平均粒度は、典型的に約1〜10マイクロメートルである。このようなマットな粒子の濃度は、少なくとも2質量%〜約10質量%以上の範囲にしてよい。2質量%未満(例えば1.8質量%、1.6質量%、1.4質量%、1.2質量%、1.0質量%、0.8質量%、0.6質量%)の濃度では、その濃度は通常、所望の光沢低下(即ちヘイズ)をもたらすには不十分である。
【0098】
更に別の態様において、マットなARフィルムは、マットなフィルム基材上に自己組織化ARコーティング組成物を提供することによって調製することができる。代表的なマットなフィルムは、ジョージア州シーダータウン(Cedartown)の米国キモトテック(U.S.A. Kimoto Tech)から商品名「N4D2A」で市販されている。
【0099】
マットなARフィルムは、典型的には代表的な光沢フィルムよりも低い透過率及び高いヘイズ値を有する。例えば、ASTM D1003に従って測定したとき、ヘイズは一般的に少なくとも5%、6%、7%、8%、9%又は10%である。その一方で、光沢面は一般的に5%未満、4%未満又は3%未満のヘイズを有する。
【0100】
本明細書に記載の自己組織化ARコーティング及びフィルムは、光学ディスプレイ(「ディスプレイ類」)への適用に好適である。ディスプレイには様々な照明式及び非照明式ディスプレイパネルが含まれる。このようなディスプレイには、マルチキャラクタ及び特にマルチラインマルチキャラクタディスプレイ、例えば液晶ディスプレイ(「LCD」)、プラズマディスプレイ、前面及び裏面投射型ディスプレイ、陰極線管(「CRT」)、標識並びに発光管(「LET」)、信号ランプ及びスイッチなどの単一キャラクタ又は2進ディスプレイなどがある。
【0101】
自己組織化ARコーティング及びフィルムは、様々な携帯式及び非携帯式の情報表示物品と共に採用することができる。これらの物品には、PDA、LCD−TV(エッジ照明とダイレクト照明の両方)、携帯電話(PDA/携帯電話の組合せなど)、タッチスクリーン、リストウォッチ、カーナビゲーションシステム、広域測位システム、測深機、計算機、電子ブック、CD及びDVDプレイヤー、プロジェクションテレビスクリーン、コンピューターモニター、ノートブックコンピュータディスプレイ、計器ゲージ、計測器パネルカバーなどがあるがそれらに限定されない。これらのデバイスは、平面表示面又は曲面表示面を設けることができる。
【0102】
自己組織化ARコーティング及びフィルムは、例えばカメラレンズ、眼鏡レンズ、双眼鏡レンズ、鏡、再帰反射シート材、自動車窓、建築物窓、電車窓、ボート窓、航空機窓、車両ヘッドライト及びテールライト、ディスプレイケース、眼鏡、オーバーヘッドプロジェクター、ステレオキャビネットドア、ステレオカバー、ウォッチカバー、並びに光学及び光磁気録音ディスク等のような様々な他の物品上で同様に使用することも可能である。
【0103】
自己組織化ARコーティングはまた、様々な広告、販売促進及び企業識別の用途に用いられる(例えば再帰反射の)看板及び商業グラフィックディスプレイフィルムなどの、様々な他の物品に適用されてもよい。
【0104】
端点によって表される数値の範囲は、その範囲内に含まれる全ての数値を含む(例えば1〜10の範囲には、1、1.5、3.33、及び10が含まれる)。
【0105】
「フリーラジカル重合可能な」という語句は、適したフリーラジカル源への曝露時に架橋反応に関与する官能基を備えているモノマー、オリゴマー、及びポリマーを指す。フリーラジカル重合可能な基としては、例えば、(メタ)アクリル基、−SH、アリル又はビニルが挙げられる。フリーラジカル重合可能な基は、−COCF=CHの場合などには例えばフッ素によってハロゲン化してよい。
【0106】
好ましいフリーラジカル重合可能な基は「(メタ)アクリル」であり、(メタ)アクリルアミド、並びに、例えばフッ素及びイオウで任意に置換された(メタ)アクリレートが挙げられる。好ましい(メタ)アクリル基はアクリレートである。マルチ−(メタ)アクリレート材料が、少なくとも2つの重合可能な(メタ)アクリレート基を有するのに対し、モノ(メタ)アクリレート材料は単一の(メタ)アクリレート基を有する。(メタ)アクリレート基はペンダント基であってもよいが、典型的には末端基として存在する。
【0107】
本明細書で使用するとき、「質量%」は、溶媒を除いた固形分成分の合計を指す。特に別段の指定がない場合、物質の濃度は、典型的には有機組成物(即ち無機ナノ粒子の添加前)の固形分質量%に関して表される。
【0108】
好ましい実施形態の観点で本発明を説明してきたが、特に上記の教示を考慮して当業者によって変更が行なわれ得るため、当然ながら、本発明は好ましい実施形態に限定されないことが理解されるであろう。
【0109】
フリーラジカル重合可能な多官能性フッ素化成分
C6DIACRYは、分子量が370.2g/モル、フッ素含有率が少なくとも40質量%である2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(広くは8F−HDDAと呼ばれている)の商品名であり、テキサス州ラウンドロック(Round Rock)のエクスフロアーリサーチ社(Exfluor Research Corporation)から得たものである。
【0110】
CN 4000は、供給元により屈折率が1.341であると報告された、ペルフルオロポリエーテルアクリレートオリゴマーの商品名であり、ペンシルベニア州エクストン(Exton)のサートマー社(Sartomer)から入手された。
【0111】
OFPMAは、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート(オークウッドプロダクツ(Oakwood Products)、サウスカロライナ州ウェストコロンブス(West Columbus))である。
【0112】
表面処理剤
3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランは、マサチューセッツ州ワードヒル(Ward Hill)のアルファエイサー社(Alfa Aesar)から入手可能であり(ストック番号30505)、受け取ったままの状態で用いた。
【0113】
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランは、ゲレスト(Gelest)社(ペンシルベニア州モーリスビル(Morrisville))から入手可能(製品番号SIA0200.0)であり、受け取ったままの状態のままで用いた。
【0114】
シルクエスト(Silquest)A−1230は、GEシリコーンズ(GE Silicones)(ウェストバージニア州(VW)フレンドリー)によって供給される独自のポリアルキレンオキシアルキルシランエステルの商品名である。
【0115】
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは、アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Company)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee))から入手可能である。
【0116】
非フッ素化架橋剤
SR399は、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(分子量525g/モル)の商品名であり、サートマー社(Sartomer Company)(ペンシルベニア州エクストン(Exton))から入手された非フッ素化多官能性(メタ)アクリレートモノマーある。
【0117】
SR355は、サルトマー社(Sartomer Company)から入手されたジ−トリメトキシプロパントリアクリレートである。
【0118】
SR368は、サートマー社(Sartomer Company)から入手されたトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートの商品名である。
【0119】
SR247は、サートマー社(Sartomer Company)から入手されたネオペンチルグリコールジアクリレートの商品名である。
【0120】
SR444Cは、ペンタエリスリトールトリアクリレートの商品名であり、サートマー社(Sartomer Company)から入手された多官能性(メタ)アクリレートモノマーである。
【0121】
エベクリル(Ebecryl)220は、芳香族ウレタンヘキサアクリレートの商品名であり、UCBケミカルズ(UCB Chemicals)から入手可能な多官能性(メタ)アクリレートモノマーである。
【0122】
エベクリル(Ebecryl)8301は、脂肪族ウレタンヘキサアクリレートの商品名であり、UCBケミカルズ(UCB Chemicals)から入手可能な多官能性(メタ)アクリレートモノマーである。
【0123】
CN 997は、脂肪族ウレタンヘキサアクリレートの商品名であり、サートマー社(Sartomer Company)から入手可能な多官能性(メタ)アクリレートモノマーである。
【0124】
その他の成分
バゾ(Vazo)52は、2,2’,−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、フリーラジカル熱開始剤の商品名であり、デラウェア州ウィルミントン(Wilmington)のデュポン(DuPont)から入手した。
【0125】
イルガキュア127は、紫外線光開始剤の商品名であり、ニューヨーク州タリタウン(Tarrytown)のチバスペシャルティプロダクツ社(Ciba Specialty Products)から入手し、受け取ったままの状態で用いた。
【0126】
プロスタブ(Prostab)5198は、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(広くは4−ヒドロキシ−TEMPOと呼ばれている)の商品名であり、ニューヨーク州タリタウン(Tarrytown)のチバスペシャルティプロダクツ社(Ciba Specialty Products)から入手した。
【0127】
高屈折率のジルコニアナノ粒子
米国特許出願第11/078468号(2005年3月11日出願)の優先権を主張している米国特許出願公開第2006/0204745号(2005年3月14日申請)に記載されている手順に従って、ZrOゾル(水中固形分40.8%)を準備した。
【0128】
得られたZrOゾルは、米国特許出願第11/079832号及び同第11/078468号に記載されているような、光相関分光法(PCS)、X線回折及び熱重量分析(Thermal Gravimetirc Analysis)を用いて評価した。実施例で用いたZrOゾルには、以下の範囲の特性が備わっていた。
【0129】
【表3】

【0130】
【表4】

【0131】
メタクリレートシラン表面改質ジルコニアナノ粒子−(「メタクリル」)
10nmのジルコニアナノ粒子(水中固形分40.8%)の水性分散体9.3kgを38リットルの反応装置に加えた。追加の水5.9kg及び1−メトキシ−2−プロパノール15.1kgを攪拌しながら反応装置に加え、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン1.1kgをゆっくりと攪拌しながら反応装置に加えた。プロスタブ(Prostab)5198の5%水溶液9.5gを、攪拌しながら反応装置に加えた。この混合物を80℃で18時間攪拌した。
【0132】
反応混合物を真空下(3.2〜5.3kPa(24〜40トール))で加熱し、1−メトキシ−2−プロパノール/水共沸混合物を留去して、実質的に全ての水を除去すると同時に、追加の1−メトキシ−2−プロパノール32kgをゆっくりと加えた。30%の水酸化アンモニウム180gを反応混合物に加えた。次に、1−メトキシ−2−プロパノールを留去することによって、この反応物を固形分59.2%に濃縮した。この表面改質反応によって、1−メトキシ−2−プロパノール中に表面改質ジルコニア(ZrO2−SM)が質量比で59.2%含まれている混合物を得た。最終混合物を1マイクロメートルのフィルターで濾過した。
【0133】
90/10のPEG/アクリレートシラン表面改質ジルコニア−(「90/10 PEG/アクリル」)
添加漏斗、温度コントローラー、パドル攪拌機、油槽及び蒸留ヘッドを備えた1000mLの三つ口フラスコに47.7固形分質量%のZrO分散体200gを充填した。この分散体に1−メトキシ−2−プロパノール243.4g及び5質量%のプロスタブ(Prostab)5198(水溶液)0.21gを、混ぜながら加えた。次に、ゲレスト(Gelest)SIA0200.0(95%の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)2.4gと46.4のシルクエスト(Silquest)A1230とのプレミックスを、攪拌しながら加えた。透明な溶液中に、粗く不均質な白い固体の混合物が形成された。プレミックスのビーカーを、2つのアリコート(それぞれ1−メトキシ−2−プロパノール50g)ですすいだ。すすいだ1−メトキシ−2−プロパノールをバッチに加えた。バッチはまだ不均質であることから、バッチに100gの脱イオン水を加えた。水の添加と共に、バッチは青い外観を有し、均質になった。バッチを80℃に加熱し、約16時間保持した。得られた混合物は、青い外観を有する半透明の分散体だった。バッチを室温まで冷却した。
【0134】
1000mLの一口フラスコに、上記の分散体340g及び1−メトキシ−2−プロパノール300gを加えた。この混合物を、ロータリーエバポレータ(rotovap)上で減圧(25Hg真空)で蒸留して、水を取り除き、系を濃縮した。最終的な分散体は粘度が低く、56.5固形分質量%の半透明の分散体であった。
【0135】
50/50のPEG/アクリレートシラン表面改質ジルコニア−(「50/50 PEG/アクリル」)
添加漏斗、温度コントローラー、パドル攪拌機、油槽及び蒸留ヘッドを備えた2000mLの三つ口フラスコに47.7固形分質量%のZrO分散体500gを充填した。次いで、0.54gの5質量%プロスタブ(Prostab)5198(水溶液)と、100gの脱イオン水とのプレミックスをビーカー内で調製した。プロスタブ(Prostab)/水のプレミックスを混合しながらバッチに加えた。プレミックスのビーカーを、2つのアリコート(それぞれ脱イオン水50g)ですすいだ。すすいだ脱イオン水をバッチに加えた。次いで、558.6gの1−メトキシ−2−プロパノール水を混合しながらバッチに加えた。得られた混合物は、半透明な分散体であった。次に、30.1gのゲレスト(Gelest)SIA0200.0(95%の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)と64.4のシルクエスト(Silquest)A1230とのプレミックスを加えた。プレミックスのビーカーを、3つのアリコート(それぞれ1−メトキシ−2−プロパノール100g)ですすいだ。すすいだ1−メトキシ−2−プロパノールをバッチに加えた。バッチを80℃に加熱し、約16時間保持した。得られた混合物は、青い外観を有する半透明の分散体であった。バッチを室温まで冷却した。真空蒸留と1000gの1−メトキシ−2−プロパノールの添加を交互に行うことによって、バッチから水を除去した。真空蒸留によって、バッチを更に濃縮した。最終的な分散体は粘度が低く、57.8固形分質量%の半透明の分散体であった。
【0136】
5/95のPEG/アクリレートシラン改質ジルコニア−(「5/95 PEG/アクリル」)
添加漏斗、温度コントローラー、パドル攪拌機、油槽及び蒸留ヘッドを備えた2000mLの三つ口フラスコに47.7固形分質量%のZrO分散体500gを充填した。この分散体に、200gの脱イオン水及び5質量%プロスタブ(Prostab)5198(水溶液)0.54gを攪拌しながら加えた。次に、558.6gの1−メトキシ−2−プロパノールを混合しながら加えた。57.26gのゲレスト(Gelest)SIA0200.0(95%の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)と6.44gのシルクエスト(Silquest)A1230とのプレミックスを、攪拌しながら加えた。この段階でバッチは、半透明な青緑色の分散体であった。プレミックスのビーカーを3つのアリコート(それぞれ1−メトキシ−2−プロパノール100g)ですすいだ。すすいだ1−メトキシ−2−プロパノールをバッチに加えた。バッチを80℃に加熱し、約16時間保持した。得られた混合物は、均質で不透明な白色の分散体であった。バッチを室温まで冷却した。真空蒸留と1000gの1−メトキシ−2−プロパノールの添加を交互に行うことによって、バッチから水を除去した。真空蒸留によって、バッチを更に濃縮した。最終的な分散体は粘度が低く、59.3固形分質量%の半透明の分散体であった。
【0137】
表面改質チタニア(「Ti」)
9.1gのチタンイソプロポキシド(アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Company)、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee))、6.8gのゲレスト(Gelest)SIA0200.0(95%の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)及び2.3gの3−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Company)、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee))を73gの1−メトキシ−2−プロパノール(アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Company)、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee))内で溶解させた。0.35gの濃縮されたHCl(アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Company)、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee))、2.2gの脱イオン水及び6.25gの1−メトキシ−2−プロパノール(アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Company)、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee))をゆっくりと加えながら、この混合物を急速に攪拌した。この添加が完了した後、混合物を急速に攪拌し、1時間で70℃までに加熱した。
【0138】
フルオロアクリレートポリマー中間体1
超分岐コポリマーを以下のとおり生成した。6.5gのC6DIACRY、4.2gのCN4000、0.42gのSR399、87.8gのエチルアセテート及びエチルアセテート中に事前に溶解させた1.11gのバゾ(VAZO)52を、反応槽の中に充填した。この反応槽の内容物を窒素下で脱気させてから、密閉ボトル内で1〜1.5時間、80℃に加熱した。分子量が過度になったり、反応内容物をゲル化させたりしないように注意しなければならない。反応混合物内の反応種の濃度、反応温度及び反応時間は全て、前述の結果を得られるように選定したが、異なる反応種を用いる場合には、これらの条件の1つ以上を調整する必要があるであろう。
【0139】
フルオロアクリレートポリマー中間体2〜13を1と同様の方法で作製した。
【0140】
表1に記載の全成分を次のとおりにバイアル瓶の中で混ぜ合わせ、窒素で1分間パージし、次いで密封したバイアル瓶を80℃で1時間加熱して試料を作製した。
【0141】
【表5】

【0142】
AR配合物のコーティング
これらを巻き線コーティングロッド(メイヤーロッド(Mayer rod))を使用して実施した。巻き線型ロッドを使用するとき、溶液は50/50のMEK/シクロヘキサノンを用いて総固形分が6%になるまで希釈した。コーティングの分野で既知の標準的な方法を用いた。溶液を#5メイヤー(Mayer)を用いて、127マイクロメートル(5ミル)のPETフィルム(デュポン(Dupont)から入手されたメリネックス(Melinex)618)のプライミングされた表面上にコーティングした。コーティングは、90℃で2分間風乾した。コーティングは次いで、前述のライトハンマー(Light Hammer)6を用いて、100%出力、4.6メートル/分(15fpm)、窒素下で光硬化した。
【0143】
【表6】

【0144】
表1からのフルオロアクリレートポリマー(FPA)の番号
ARフィルム評価のための試験方法
ラムダ(Lambda)900分光分析装置(パーキンエルマーライフアンドアナリティカルサイエンス社(Perkin Elmer Life And Analytical Sciences, Inc.)、マサチューセッツ州ウォルサム(Waltham))を用いて、450〜650nmの反射モードで反射を測定した。この計器は約1cmの領域の反射を測定する。反射曲線をプロットし、反射が最小だった波長を記録した。
【0145】
ラムダ(Lambda)900を450nmで使用し、透過モードで後方の反射器は外した状態で、ヘイズを測定した。
【0146】
FPA溶液の粘度を、ブルックフィールド(Brookfield)モデルDV−111レオメーター(ブルックフィールドエンジニアリングラボ(Brookfield Engineering Lab)、マサチューセッツ州ストートン(Stoughton))を用いて測定した。#18スピンドルを20rpmで使用した。溶液はエチルアセテート中、14.5%固形物であった。
【0147】
X線光電子分光法
表2の7番の自己組織化組成物から調製されたARフィルムの表面を、X線光電子分光法(XPS又はESCA)を用いて調べた。ESCAは、試料表面上の最も外側の30〜100Åの解析を提供する、非破壊技法である。ESCAを用いた光電子スペクトルは、固形面上に存在する元素濃度及び化学物質(酸化状態及び/又は官能基)濃度に関する情報を提供する。それは、水素及びヘリウムを除き、周期表中の全ての元素に対して感度がよく、ほとんどの種について0.1〜1原子%の濃度範囲の検出限界を有している。
【0148】
試料の表面を、C60+イオンからなるイオンビームを用いて、10KeVのビームエネルギーでスパッタエッチングした。このタイプのイオンがポリマー表面に衝突するとき、エッチングプロセスは、新しく露出された試料への化学的損傷が少ない(又は全く化学的損傷がない)良好に制御された方法で、かかる表面から物質を取り除く。一定時間連続してエッチングすることにより、また次いでESCAスペクトルを記録することにより、高解像度で深さ(z軸)の「深さプロファイル」を生成することができる。ESCAは定量的な表面分析法であるため、深さプロファイルの縦座標は原子%での濃度である。
【0149】
分析条件及び詳細は以下のとおりであった。
【0150】
【表7】

【0151】
結果を図4のグラフに示す。
【0152】
透過型電子顕微鏡
表2の14番の自己組織化組成物から調製されたARフィルムの断面を、ダイアトーム(Diatome)の45度の室温ダイアモンドナイフ及びライカウルトラカットTウルトラミクロトーム(Leica Ultracut T ultramicrotome)を用いて準備した。試料をクランプマウントに載せ、約150nmの厚さの切片を0.15mm/秒の切断速度で乾式切削で、約100nmの厚さの切片を0.6mm/秒の切断速度で湿式切削(水上に浮揚)で、それぞれ切断した。切片は、標準のTEMグリッド(カーボン/フォルムバー基板を有する200メッシュの銅グリッド)上に載せた。顕微鏡検査を日立(Hitachi)H9000NAR透過型電子顕微鏡にて300KVの加速電圧で実施した。デジタル画像をガタン(Gatan)ウルトラスキャン(Ultrascan)895 CCDカメラを用いて顕微鏡で撮影した。2つの異なる断面図が図5〜6に示されている。
【0153】
【表8】

【0154】
実施例1〜6は、アクリルシラン表面処理剤とポリエーテル表面処理剤との組合せが、改善された反射特性をもたらし、様々な非フッ素化(メタ)アクリレート架橋剤におけるヘイズを減少させることを実証する。実施例10は、ゾルゲル法に由来するナノ粒子の使用並びにエポキシシラン表面処理剤の実用性を実証する。実施例7〜10は、低ヘイズと相まって良好な反射防止特性を示している。実施例11〜18は、フルオロアクリレートポリマーの溶液粘度が約8cps以上であるとき又はフルオロアクリレートポリマーの溶液粘度が2cps以下であるとき、乏しい反射防止特性、及び高いヘイズがもたらされ得るということを実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と、
1.5未満の屈折率及び低表面張力を有する低屈折率有機組成物と、
少なくとも1.6の屈折率を有する、少なくとも15質量%の無機ナノ粒子と、
を含み、
前記無機ナノ粒子は、前記有機組成物の前記表面張力よりも大きい表面張力を有する表面処理剤で表面改質されている、自己組織化反射防止コーティング組成物。
【請求項2】
前記表面処理剤は少なくとも5ダイン/cmであり、前記低屈折率有機組成物よりも大きい表面張力を有する、請求項1に記載のARコーティング組成物。
【請求項3】
前記表面処理剤は有機金属化合物又はこれらの混合物を含み、前記化合物又は混合物は、表面張力が少なくとも25ダイン/cmである、請求項1に記載のARコーティング組成物。
【請求項4】
前記有機金属化合物又はこれらの混合物はフッ素化されていない、請求項3に記載のARコーティング組成物。
【請求項5】
前記表面処理剤は、(メタ)アクリルシランとポリエーテルシラン又はエポキシシランとの混合物を含む、請求項4に記載のARコーティング組成物。
【請求項6】
前記低屈折率有機組成物は、エチレン性不飽和フッ素化モノマー、オリゴマー、ポリマー又はこれらの混合物を含む、請求項1に記載のARコーティング組成物。
【請求項7】
前記低屈折率有機組成物はエチレン性不飽和フッ素化ポリマーを含む、請求項6に記載のARコーティング組成物。
【請求項8】
前記フッ素化ポリマーはフルオロ(メタ)アクリレートポリマーである、請求項7に記載のARコーティング組成物。
【請求項9】
前記フルオロ(メタ)アクリレートポリマーは、22℃、エチルアセテート中14.5質量%(固形分)溶液において約2cps〜約8cpsの範囲の溶液粘度を有する、請求項8に記載のARコーティング組成物。
【請求項10】
前記フルオロ(メタ)アクリレートポリマーは、前記乾燥させたコーティング組成物の少なくとも約10質量%固形分の濃度で存在する、請求項8に記載のARコーティング組成物。
【請求項11】
前記フルオロ(メタ)アクリレートポリマーは、
i)少なくとも約25質量%のフッ素含有率を有する、少なくとも1種のフリーラジカル重合可能な多官能性物質と、
ii)任意に、0質量%〜25質量%未満の範囲のフッ素含有率を有する、少なくとも1種のフリーラジカル重合可能な多官能性物質と、
の反応生成物を含み、
前記多官能性物質の総量が、固形分質量%を基準として少なくとも25質量%である、請求項8に記載のARコーティング組成物。
【請求項12】
前記低屈折率有機組成物は、少なくとも3つの(メタ)アクリレート基を有する少なくとも10質量%の非フッ素化架橋剤を更に含む、請求項1に記載のARコーティング組成物。
【請求項13】
前記溶媒は非フッ素化有機溶媒である、請求項1に記載のARコーティング組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の前記コーティング組成物を提供する工程と、
前記組成物を基材又は剥離ライナーの上にコーティングする工程と、
前記コーティング組成物が低屈折率層と高屈折率層に分離するように、前記コーティングを乾燥させる工程と、
前記乾燥させたコーティング組成物を硬化させる工程と、
を含む、ARフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記乾燥させたコーティング組成物は紫外線への曝露により硬化される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記乾燥させ、硬化させたコーティングは、前記低屈折率層と高屈折率層との間の境界面を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記乾燥させ、硬化させた低屈折率層は、20℃における表面張力が約35ダイン/cm以下である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記乾燥させ、硬化させた低屈折率層は、少なくとも20nmの厚さに関して、実質的に一定の屈折率である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記高屈折率層は、少なくとも20nmの厚さに関して、実質的に一定の屈折率である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
架橋されたフッ素化有機材料を含む低屈折率層と、
架橋された有機材料中に分散した、少なくとも1.6の屈折率を有する表面改質無機ナノ粒子を含む、高屈折率層と、
を含み、
前記高屈折率層は、フッ素原子を約0.5原子質量%〜約5原子質量%の範囲の濃度で含む、反射防止フィルム。
【請求項21】
架橋されたフッ素化有機材料を含む低屈折率層と、
架橋された有機材料中に分散した、少なくとも1.6の屈折率を有する表面改質無機ナノ粒子を含む、高屈折率層と、
を含み、
前記低屈折率層は、少なくとも1.6の屈折率を有する前記表面改質無機ナノ粒子のランダムに分散した粒塊を含む、反射防止フィルム。
【請求項22】
前記高屈折率層は、約0.5原子質量%〜約5原子質量%の範囲の濃度でフッ素原子を含む、請求項21に記載のARフィルム。
【請求項23】
前記ARフィルムは、前記低屈折率層と高屈折率層との間に境界面を含む、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項24】
前記表面改質ナノ粒子は、有機金属化合物又はこれらの混合物で表面処理されており、前記化合物又は混合物は、表面張力が少なくとも25ダイン/cmである、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項25】
前記有機金属化合物又はこれらの混合物はフッ素化されていない、請求項24に記載のARフィルム。
【請求項26】
前記表面改質ナノ粒子は、(メタ)アクリルシランとポリエーテルシラン又はエポキシシランとを含む混合物で表面処理されている、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項27】
前記低屈折率層は、少なくとも20nmの厚さに関して、実質的に一定の屈折率である、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項28】
前記低屈折率層は少なくとも15%のフッ素原子濃度を有する、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項29】
前記高屈折率層は、少なくとも20nmの厚さに関して、実質的に一定の屈折率である、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項30】
前記高屈折率層は、少なくとも1.6の屈折率を有する少なくとも20質量%の前記表面改質無機ナノ粒子を含む、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項31】
前記低屈折率層は、架橋フッ素化モノマー、オリゴマー、ポリマー又はこれらの混合物を含む、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項32】
前記低屈折率層は架橋フッ素化ポリマーを含む、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項33】
前記フッ素化ポリマーはフルオロ(メタ)アクリレートポリマーである、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項34】
前記高屈折率金属は、ジルコニア、チタニア、及びこれらの混合物又は混合金属酸化物を含む、請求項20〜22のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項35】
前記低屈折率層は1.45未満の屈折率を有する、請求項20〜34のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項36】
前記高屈折率層は少なくとも1.55の屈折率を有する、請求項20〜35のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項37】
前記高屈折率層の下に光透過性基材を更に含む、請求項20〜36のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項38】
前記高屈折率層の下に不透明な基材を更に含む、請求項20〜37のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項39】
前記フィルムは450nm〜650nmの波長に関して2.0以下の最小反射を示す、請求項20〜38のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項40】
前記フィルムは450nm〜650nmの波長に関して1.0以下の最小反射を示す、請求項39に記載のARフィルム。
【請求項41】
前記フィルムは2%未満のヘイズを示す、請求項20〜40のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項42】
前記フィルムは1%未満のヘイズを示す、請求項41に記載のARフィルム。
【請求項43】
前記ARフィルムは、少なくとも2回交互した高屈折率層及び低屈折率層を含む多層ARフィルムである、請求項20〜42のいずれか一項に記載のARフィルム。
【請求項44】
光透過性の又は不透明な物品の光学経路上に提供された、請求項20〜43のいずれか一項のARフィルムを含む物品。
【請求項45】
前記物品は、光学ディスプレイ、窓、レンズ、標識又は商業グラフィックから選択される、請求項44に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−538147(P2010−538147A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524107(P2010−524107)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/074988
【国際公開番号】WO2009/035874
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】