説明

表面検査方法および表面検査装置

【課題】 被検査物の面積が広い場合にも能率的な表面検査が可能であり、また、特別な信号処理を施さなくとも長い表面欠陥を一つの欠陥と判断することができる新規の表面検査手段を提供する。
【解決手段】 被検査物Xの表面に光源10から光を照射し、当該表面から反射する散乱光の強さにより被検査物の表面欠陥を検出する。被検査物Xの表面と光源10との間に相対移動を与えて当該表面に光を走査させること、および、照射する光11を、上記走査方向と直角の方向に長い線状のものとし、照射する光11の全域からの散乱光の強さにより被検査物Xの表面欠陥を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、被検査物の表面に光を照射し、当該表面からの散乱光によって被検査物の表面欠陥を検出する表面検査方法および表面検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面欠陥の検出は、近年では画像処理によって行われることが多いが、高速性と検出感度の点から、光電子増倍管が使用されることも少なくない。
【0003】
光電子増倍管等の光電変換素子を用いて行う表面検査技術は、たとえば下記の特許文献に記載されている。図7は、当該特許文献に記載された表面検査装置である。円盤状の被検査物X’の表面に、光源10’から光を照射してその散乱光を受光光学系20’で受光し、受光した光を光電変換素子23’により受光信号として出力する。被検査物X’は、モーター61’によって回転させ、モーター62’によって直線的に変位させることにより、その表面上に照射光を螺旋状に走査させる。
なお、光電変換素子を用いて行う表面検査では、従来、レンズで点状に集光して被検査物の表面に光が照射されている。上記特許文献の例においても、使用される光源はレーザであり、被検査物の表面に点状に集光される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4203078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面検査において点状の光を被検査物に照射する場合、つぎのような課題がある。すなわち、
a) 検査しようとする被検査物の表面積が大きい場合には、時間がかかるため適していない。たとえば、液晶フィルム等の表面形成に使用するローラは、高い表面性状を要求されるために表面検査の対象となるが、直径と長さがともに数メートルという大きなものがあり、この表面を点状の光を用いて検査するにはかなりの時間が必要になる。また、同様のフィルムや樹脂板を製作するための成形用スチールベルトには、幅が数メートルで長さが100メートルを超えるものもあり、点状の光による走査は現実的には困難である。
【0006】
b) 連続した長い表面欠陥を一つの欠陥であると判断することが容易でなく、それには特別の信号処理が必要で制御系も複雑になる。欠陥が長いものである場合、点状の光が複数回にわたってその欠陥上を走査するため、複数個の欠陥があるとの認識がされるのが通常で、連続した一つの欠陥であると判断するには、何らかの特殊な信号処理が必要だからである。特許文献1の例においても、欠陥上を光が走査するとき発生する散乱光に関し、受光信号が一定のしきい値を超えたときのスタート点のデータと、そのしきい値を下回ったときのエンド点のデータ、および両者間のうちピークのデータにより異物に関するデータを形成し、さらに、1データのスタート点およびエンド点の位置情報が送り方向で重なっているかどうかを判断し、重なっている場合にのみ、送り方向で異物散乱信号の連続性がある(連続した1個のものである)と判断するようにしている。
【0007】
請求項に係る発明は、上記のような課題を解決するもので、被検査物の面積が広い場合にも能率的な表面検査が可能であり、また、特別な信号処理を施さなくとも長い表面欠陥を一つの欠陥と判断することができる新規の表面検査手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の表面検査方法は、被検査物の表面に光源(たとえば半導体レーザ)から光を照射し、当該表面から反射する散乱光の強さにより被検査物の表面欠陥を検出するもので、
・ 被検査物の表面と光源との間に相対移動を与えて当該表面に光を走査させること、
・ および、照射する光を、上記走査方向(相対移動の方向)と直角の方向に長い線状のもの(たとえば長さが、その光の幅または通常検出される長めの欠陥の長さの10倍程度以上のもの)とし、照射する光の全域または全域に近い(たとえば8割以上の)線状の範囲からの散乱光の強さにより被検査物の表面欠陥を検出すること、を特徴とする。
たとえば、図1(a)・(b)のような検査装置を用い、ドラム状の被検査物の表面に図1(c)のような線状の光を照射して上記のように螺旋状に走査することとし、その散乱光の強さから表面欠陥を検出する。そのようにすると、被検査物の全表面への走査を短時間で行えるほか、図1(c)に示す欠陥Yのように軸方向(図示左右の方向。走査方向と直角の方向)に長い欠陥についても、その上を照射光11が複数回走査することがないので、1個の連続した欠陥として検出される。
つまりこの表面検査方法によれば、特別な信号処理をしなくとも、長い表面欠陥を一つの欠陥と判断することができ、検査の簡素化・迅速化およびコストダウンが可能になる。なお、欠陥の一部が線状の走査光から外れる場合には、何らの信号処理もしないなら、長い一つの欠陥が複数の欠陥と誤判断されることがあるが、線状の光が十分に長いものである場合にはその頻度は少なく、検査の信頼性が低下することはない。
【0009】
上記方法についてはさらに、被検査物の表面に光を走査させる間に、上記散乱光の強さ(合計の強さ)がしきい値を超えたとき、被検査物の表面上のその位置(しきい値を超えた時点で光が照射されている位置)に上記欠陥が存在すると判断して当該位置の座標を記憶(コンピュータ等に記憶)または表示(表示装置もしくは紙面等に表示)するとよい。
そのようにすると、記憶または表示した座標によって欠陥の存在する位置を特定できるので、それぞれの欠陥を詳細に観察したり修復したりするうえで好都合である。上述のとおり特別の信号処理をしなくとも長い欠陥を一つの欠陥と判断できるため、特許文献1の例とは異なり、しきい値を超えたことのみによってその位置に欠陥が存在すると判断することができる。
【0010】
散乱光の強さがしきい値を超えたのち、上記のしきい値よりも低位水準に定めた戻りしきい値を下回ったとき、連続した一つの欠陥がその間の位置に(つまり、散乱光の強さがしきい値を超えた時点の照射位置から、戻りしきい値を下回ったときの照射位置までの間に)存在すると判断することとするのも好ましい。
このようにすると、走査方向に沿って散乱光の強さに複数のピーク(図4参照)があるような不定形の連続欠陥を、複数個の欠陥であると誤って認識することが避けられる。走査方向と直角の方向に長い線状の光を用いると、前記のように走査方向と直角の方向に長い欠陥を1個の欠陥として検出できるが、それに加えて上のように水準の異なる二つのしきい値を用いた判断をすると、走査方向に長い不定形の欠陥をも1個の欠陥として正しく検出することが可能になる。
【0011】
上記のしきい値として水準の異なる複数のものを定めておき、散乱光の強さがいずれの水準のしきい値を超えたかによって欠陥のランク付けをし、当該ランクを併せて記憶または表示するのも好ましい。
散乱光の強さは欠陥の大きさと関係があることから、上記のように複数のしきい値によって散乱光に対応した欠陥のランク付けをも行うと、欠陥の分布に加えて各欠陥の大きさをも表示等することができる。たとえば、欠陥の大きさ毎に色分けをして欠陥の分布を示すことも可能になる。
【0012】
被検査物がドラム状(円柱状・円筒状)または無端ベルト状であり、ドラム状の被検査物をその軸心を中心に回転させ、または無端ベルト状の被検査物を回転軸上で循環させるとともに、それらの軸心または回転軸の長さ方向に光源をスライドさせることにより、上記した光の走査を行うのもよい。そうすると、被検査物の表面全域に対してネジのような螺旋状に光を走査させることになる。
前記発明の検査方法は、被検査物が円盤状である場合にはその軸心を中心に回転させながら半径方向に光源をスライドさせ、また被検査物が四辺形等の平面状である場合には被検査物と光電とを直角な2方向に相対移動させること等によって光を走査することができる。しかし、被検査物がドラム状または無端ベルト状である場合には、上記のように光の走査を行うとよい。そのようにすると、光源の移動経路がシンプルであるために、ドラム状または無端ベルト状の被検査物が大型のものである場合にも、それに合わせて光電を移動させることが容易である。
【0013】
被検査物の表面に光を走査させるに際し、走査の基準(たとえばスタート点)となる原点を定め、被検査物とその原点の位置とを対応させて記憶(コンピュータ等により被検査物ごとの原点位置を記憶させる)または表示(被検査物そのものに原点位置を刻印等で表示)するとさらに好ましい。
表面欠陥の検査は、被検査物である製品の出荷前(製造直後)のみに行うのが一般的だが、長期間使用される同じ製品の表面状態を定期的に調べるために行うこともあり得る。その場合、以前に発見した欠陥が、製品の使用にともなってどのように変化したかを調べるには、各欠陥の位置を特定し、前の検査と後の検査とで各欠陥の対応づけをする必要がある。上のように走査の基準となる原点を定め、被検査物とその原点の位置とを対応させて記憶または表示すると、その原点からの座標によって各欠陥の位置を特定でき、毎回の検査において欠陥の対応づけをすることができる。それができると、使用現場から被検査物を取り外したうえ検査装置に取り付けて表面検査をしたり、あるいは、検査装置を使用現場まで持ち運んで使用位置にある被検査物を表面検査したりすることにより、当該製品の定期的なチェックをすることが可能になる。
【0014】
欠陥が存在すると判断した被検査物表面上の位置の近傍に、視認可能なマーキングをするのもよい。
そうすると、欠陥があるとされた箇所をその後に速やかに特定でき、詳しく観察することが容易になる。なお、上記のマーキングの時期は、欠陥ありと判断したときではなく、その欠陥の観察をして修復が必要と判断したときとするのもよい。
【0015】
発明の表面検査装置は、被検査物の表面欠陥を検出する表面検査装置であって、
・ 被検査物を支持し回転させる被検査物の支持駆動手段と、被検査物表面に光を照射する光源と、被検査物表面から反射する散乱光を受ける受入手段と、それら光源および受入手段を被検査物の回転方向と直角の方向に移動させる移動手段と、被検査物表面における光の照射位置を把握する位置検知手段と、受入手段が受けた散乱光の強さから欠陥の有無を判断する演算手段と、欠陥があると判断した表面上の位置を記憶する記憶手段とを有し、
・ 上記光源が照射する光が、上記移動手段の移動方向に長い線状のものであり、前述の各表面検査方法を実施できるよう構成されていることを特徴とする。
このような装置によれば、上記の各手段が適切に機能するとともに上記線状の光を使用することによって、発明による前記の表面検査方法を円滑に実施することができる。
【0016】
上記受入手段が、照射光の波長およびその周辺波長のみを透過させる狭帯域光学フィルターを含む光電子増倍管と、当該フィルターを含まない画像観察用カメラ(たとえばCCDカメラまたはUSBカメラ)とを含み、両者(すなわち光電子増倍管と画像観察用カメラ)が、共用する対物レンズにて受け入れる上記散乱光を部分反射ミラー(光の一部を反射して一部を透過させるミラー。たとえばハーフミラー)で分けた二つの光軸上のそれぞれに配置されているなら、とくに好ましい。
光電子倍増管は散乱光の強さに応じて電気信号を発するもので、その出力を上記の演算手段に入力して欠陥の有無を判断させる。一方、画像観察用カメラは、検出された欠陥の画像を検査員等が観察するためのものである。上記の場合、光電子増倍管と画像観察用カメラとで対物レンズを共用にし、部分反射ミラーによって双方に光を送るため、対物レンズの必要数を減らしてコストを抑制できるうえ、光電子増倍管で欠陥を検出したその位置で欠陥画像を観察できる特徴がある。並置すべき対物レンズの数が減ると、検査対象となる表面に対し垂直の位置に、立体角度が大きく、したがって多くの散乱光を集められる対物レンズを設けることができ、検出感度を高くすることができる。なお、光電子倍増管の側には狭帯域光学フィルターを設けるので、光電子倍増管が、前記の光源以外から入射するノイズとしての光の影響を除外して散乱光の強さを感知することができる。
【0017】
上記の光源とは別に、画像観察用の照明が、上記光源による照射位置と同じ被検査物上の位置を照らすよう、上記移動手段で移動するように設けられていて、上記移動手段および支持駆動手段が、上記演算手段により欠陥があると判断された表面上の位置の画像観察ができるように、上記の照明および受入手段を移動させ自動停止させ得るものであれば、さらに好ましい。
このような装置であれば、表面検査によって欠陥があるとされた箇所をその後に上記のカメラによって観察することが容易になる。欠陥があるとした表面上の位置(たとえば上記記憶手段が記憶した各位置)を観察できる位置まで上記の照明および受入手段が移動するうえ、観察用の照明が、当該欠陥のある被検査物上の箇所を照らすからである。光電子増倍管と画像観察用カメラとで対物レンズを共用にしているうえ、上記照明のための移動手段も前記の光源および受入手段を移動させる移動手段を兼ねているので、装置の構成がシンプルで低コストであるという利点もある。
尚、照明光の波長は狭帯域光学フィルターの透過波長と異なった波長を選ぶことによって、光電子増倍管による欠陥検出感度に影響を及ぼすことなく、カメラによる観察用の照明の明るさを自由に変えることができる。
【0018】
上記の光源として、被検査物表面の同一箇所に対し異なる方向から光を照射する複数のものを有し、それら光源のうち点灯させるものを選択可能であるなら、さらによい。
欠陥の長さ方向が光源からの照射光の向きと一致していると、散乱光を受け入れがたいためにその欠陥が発見されにくい。したがって、上のように異なる方向から光を照射する複数の光源を用意しておいてそれらを選択的に使用すると、特定の向きのもの(たとえば使用上の影響が低い向きに延びた欠陥)を除外して欠陥の検出を行うことが可能になる。
【0019】
上記の照明として、被検査物表面の同一箇所に対し異なる方向から光を照射する複数のものを有し、それら照明のうち点灯させるものを選択可能であるのも好ましい。
欠陥をカメラで観察する場合、欠陥の形態や長さの方向等によっては、観察用の照明の向きを変更した方が観察しやすいことがある。上のように、異なる方向から光を照射する複数の照明を用意してそれらを選択的に使用すると、そうした観察のしやすさに関してメリットがある。
【0020】
被検査物表面における、上記光源からの光の照射位置に向けて、塵埃除去用のガスを吹き付けるガス噴射ノズルが設けられているととくに好ましい。
こうしたノズルからの噴射ガスによって被検査物表面の塵埃を除去すると、塵埃からの散乱光に起因して欠陥が存在すると誤判断することが避けられる。ガスは光の照射範囲にのみ吹き付ければ足り、また装置をクリーンルームに設置する必要もないので、コスト的にも有利である。
【発明の効果】
【0021】
発明の表面検査方法によれば、特別な信号処理をしなくとも、長い表面欠陥を一つの欠陥と判断することができ、検査の簡素化・迅速化およびコストダウンが可能になる。
水準の異なる二つのしきい値を用いて表面欠陥の有無を判断すると、いずれの方向に長い、散乱光の光量が不規則に変化する不定形の欠陥であっても、1個の欠陥として正しく検出することが可能になる。
走査の基準となる原点を定めて被検査物とその原点の位置とを対応させて記憶等するなら、被検査物である製品を定期的にチェックして各欠陥の変化等を把握することが可能になる。
【0022】
発明の表面検査装置によれば、発明による上記の表面検査方法を円滑に実施することができる。
狭帯域光学フィルターや部分反射ミラーをうまく使用して光電子増倍管と画像観察用カメラとを配置すると、対物レンズのコストばかりでなく、複数の対物レンズを用いる場合と比べて、被検査物Xに対物レンズ21をより近づけることができ、高倍率で明るい対物レンズが使用できるためにより微細な欠陥まで検出する事ができる。
画像観察用の照明が移動等するよう適切に設けられていると、欠陥があるとされた箇所をその後にカメラによって観察することが容易になる。欠陥検出のための光源やこの照明を、照射角度を異ならせてそれぞれ複数配置すると、欠陥検出について可能性が広がり、あるいは欠陥の観察が容易になる。
塵埃除去用のガス噴射ノズルが設けられると、塵埃の影響を除いて正確な欠陥検出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】表面検査装置1の全体構成を示す概念図であって、図1(a)は、検査装置1のうち検査モジュール20等の概要を示す側方視断面図、同(b)は模式的に示した制御部分を含めて検査装置1の全体を示す正面図である。また同(c)は、同(a)におけるc−c矢視図であって、被検査物X上の欠陥Yと照射光11との関係を示す正面図である。
【図2】図1の検査装置1について、光源10や検査モジュール20の詳細を示す側方視断面図である。
【図3】検査モジュール20が出力する電圧信号PSと、それにより欠陥の有無を判断するための手法とを示す線図である。C1は欠陥ありと判断する基準電圧の設定電圧、C2は戻り閾値である。
【図4】電圧信号PSに2つのピークP1・P2があるときの判断手法を示す線図である。
【図5】検査装置1における表面検査の手順を示すフロー図である。
【図6】検査装置1が検出した欠陥について、各欠陥の位置を同装置1が座標上に示したマップである。
【図7】特許文献1に記載された表面検査装置の概要を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明による表面検査装置1を図1および図2に示し、それによる表面検査の内容を図3〜図6に示す。
表面検査装置1は、樹脂板や樹脂フィルムの製造に使用する円筒状ローラを被検査物Xとし、図1(b)のように、被検査物Xを水平に支持して回転駆動するとともに、その表面にレーザ光を照射し、散乱光から表面欠陥(引っ掻き傷、スクラッチ、ピット、ピンホール等)の有無を調べるものである。
この検査装置1は、つぎのような部分から構成している。すなわち、
【0025】
被検査物Xを支持し回転させる支持駆動手段(図示省略): この支持駆動手段は、円筒状の被検査物Xを両端部で水平に支持するとともに、一方の端部から動力伝達をして被検査物Xを回転駆動するものである。なお、円柱状の回転軸(図示省略)に、無担ベルト状の被検査物を巻き掛けるようにすれば、当該ベルト状の被検査物について表面欠陥を検査できるようにもなる。
【0026】
被検査物Xの表面に光を照射する光源: 当該光源として、線状に集光した半導体レーザ10(レーザ波長650nm)を使用している。レーザ10の照射傾きは被検査物Xの垂直線と55度の角度で設置し、被検査物Xでの鏡面反射光が対物レンズ21に入らない角度を持たせている。また、被検査物Xの表面に達する照射光11が、図1(c)のように横長(つまり被検査物Xの軸方向に長い)になるようにしている。図示の例では、被検査物Xの表面での照射光11の寸法は、幅20μm×長さ2mmである。照射光11のこの長さは、通常検出されるものでは最長級の欠陥(長さが数十μm)の100倍前後と長いため、図1(c)のように1個の欠陥Yは照射光11が1回のみ照射されることがほとんどとなり、したがって欠陥の連続性の判断が容易である。なお、図示のレーザ10とは照射角度が90°前後異なるようにして別のレーザ(図示省略)を設け、同じ横長の照射光が上記照射光11と同じ箇所に照射されるようにするのもよい。その場合、各集光レーザ10を選択的に使用できるようにするのが好ましい。
【0027】
被検査物Xの表面から反射する散乱光を受ける受入手段: この受け入れ手段として、図1(a)に示す検査モジュール20を構成している。検査モジュール20は、被検査物Xの表面からの散乱光(横長の照射光11の中に含まれる欠陥からの散乱光)を受け入れるもので、対物レンズ21とミラー22、光電子増倍管23、電流電圧変換増幅回路24を含む。図2に示すように、ミラー22として部分反射ミラー(ハーフミラー)を使用し、それによって分けた一方(透過光)の光軸上にCCDカメラ(またはUSBカメラ)26を設けるのもよい。その場合、ハーフミラー22で分けたもう一方(反射光)の光軸上に設ける光電子増倍管23の手前には、レーザ10からのレーザ光以外の光を排除する狭帯域光学フィルター25(本件では透過波長帯域645nm〜655nm)を設けるのがよい。
【0028】
上記の集光レーザ10と検査モジュール20とを被検査物Xの軸方向に移動させる移動手段: 図1(b)のように、集光レーザ10とともに検査モジュール20を載せた検査モジュール移動台30を、その移動手段としている。移動台30のモータ等(図示省略)は後述の制御装置50・60に接続しており、上述の支持駆動手段によって被検査物Xを回転させるとき、回転速度に対応した速度でレーザ10とモジュール20とを軸方向に移動させる。そのため、被検査物Xの表面全域に照射光11を螺旋状に走査することができる。また、制御装置50・60は、支持駆動手段のモータ等にも接続し、下記の比較・演算・記憶装置40が欠陥の存在位置として記憶した被検査物X上の箇所に、検査モジュール20の対物レンズ21の位置を正確に合わせることが可能である。
【0029】
被検査物表面における光の照射位置を把握し、受入手段が受けた散乱光の強さから欠陥の有無を判断し、欠陥があると判断したときその位置を記憶する手段: かかる手段として、図1(b)に示す比較・演算・記憶装置40を設けている。検査の開始時に、被検査物Xの端部付近にある特定点(目印となる突起や窪み、切欠等)を原点として定め、欠陥の位置を記憶する際には、その原点からの座標(軸方向および回転方向の各座標)によって欠陥位置を特定する。
【0030】
被検査物Xの表面のうち欠陥が存在する箇所の近傍に視認可能なマーキングをするための手段: 図1(b)のとおり、検査モジュール20の移動フレームにマーキング装置70を取り付けている。上記の比較・演算・記憶装置40からの信号を受けて、この装置70が、欠陥があるとされた箇所の1〜2mm横にインク等によるマーキングをし、その後の観察を容易にする。
【0031】
被検査物Xの表面上の照射光11の位置に向けてのガス噴射ノズル: 図2に示すようにノズル80を設け、これにより空気または窒素ガスを噴射するようにしている。それらガスのジェットにより、被検査物Xの表面に付着している塵埃を吹き飛ばして検査精度を高めるわけである。
【0032】
検出された欠陥を前記カメラ26で観察するとき使用する照明手段: 図2のように、位置や照射方向が異なる複数の照明光27を検査モジュール20に付設し、それらの全部またはいずれかを選択的に使用できるようにした。欠陥の形状や向きに応じた適切な観察を可能にするためである。
【0033】
図1・図2の表面検査装置1では、回転させる円筒状被検査物Xの表面にレーザ10が線状の光を照射し、レーザ10と被検査物Xとの相対移動によってその光を当該表面上に螺旋状に走査させ、反射する散乱光を検査モジュール20が受け入れて、光電子増倍管23および電流電圧変換増幅回路24を通したうえ、散乱光の強さに応じた電圧信号を比較・演算・記憶装置40に送信する。比較・演算・記憶装置40では、送信される電圧信号をつぎのように処理することによって、被検査物X上の欠陥の有無を判断する。
【0034】
電流電圧変換増幅回路24からは、図3に示すような電圧信号PSが送信される。比較・演算・記憶装置40は、その電圧信号PSを、あらかじめ設定されたしきい値C1・C2と比較する。しきい値C2は、しきい値C1よりもやや低水準のもので、戻りしきい値とも称する。そして電圧信号PSがしきい値C1を超えたとき、その超えた瞬間t1に照射光11が照射した被検査物X上の位置に欠陥があると判断し、比較・演算・記憶装置40は、欠陥の存在をその位置(前記の座標)とともに記憶する。
【0035】
電圧信号PSが戻りしきい値C2を下回ったとき、その瞬間t2に照射光11が照射した被検査物X上の位置まで連続する、1個の欠陥があるとみなす。
【0036】
しきい値C1とともに、それよりやや低水準の戻りしきい値C2を採用して、いわゆるヒステリシスをもたせたのは、電圧信号PSが、図4のような複数のピークP1・P2等を有する連続した不定形な欠陥によるものであるとき、それを1個の欠陥であると正しく判断するためである。図4の場合、もし単一のしきい値C1のみで判断していると、2つの欠陥があるものと誤認してしまう。
【0037】
しきい値C1および戻りしきい値C2は、それぞれ複数の値(水準)に設定することもできる。散乱光の強さがどのしきい値を超えたか等によって欠陥の大きさのランク付けを行って表示すると、検査結果を利用しやすくなる。
【0038】
以上に構成および機能を紹介した表面検査装置1について、表面検査の手順を示すと図5のようになる。
【0039】
また、上記の表面検査装置1が検出した、被検査物Xの表面欠陥につき、座標を用いて各欠陥の位置をマッピングすると、図6のようになる。各点が1個の欠陥を示している。
【符号の説明】
【0040】
1 表面検査装置
10 レーザ(光源)
11 照射光
20 検査モジュール(受入手段)
21 対物レンズ
22 ミラー
23 光電子増倍管
24 電流電圧変換増幅回路
25 狭帯域光学フィルター
26 カメラ
27 照明光
30 検査モジュール移動台(移動手段)
40 比較・演算・記憶装置
70 マーキング装置
80 ガス噴射ノズル
C1・C2 しきい値
PS 電圧信号
X 被検査物
Y 欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物の表面に光源から光を照射し、当該表面から反射する散乱光の強さにより被検査物の表面欠陥を検出する表面検査方法であって、
被検査物の表面と光源との間に相対移動をさせて当該表面に光を走査させること、
および、照射する光を、上記走査方向と直角の方向に長い線状のものとし、照射する光の全域または全域に近い線状の範囲からの散乱光の強さにより被検査物の表面欠陥を検出することを特徴とする表面検査方法。
【請求項2】
被検査物の表面に光を走査させる間に、上記散乱光の強さがしきい値を超えたとき、被検査物の表面上のその位置に上記欠陥が存在すると判断して当該位置の座標を記憶または表示することを特徴とする請求項1に記載の表面検査方法。
【請求項3】
散乱光の強さがしきい値を超えたのち、上記のしきい値よりも低位水準に定めた戻りしきい値を下回ったとき、連続した一つの欠陥がその間の位置に存在すると判断することを特徴とする請求項2に記載の表面検査方法。
【請求項4】
上記のしきい値として水準の異なる複数のものを定めておき、散乱光の強さがいずれの水準のしきい値を超えたかによって欠陥のランク付けをし、当該ランクを併せて記憶または表示することを特徴とする請求項2または3に記載の表面検査方法。
【請求項5】
被検査物がドラム状または無端ベルト状であり、ドラム状の被検査物をその軸心を中心に回転させ、または無端ベルト状の被検査物を回転軸上で循環させるとともに、それらの軸心または回転軸の長さ方向に光源をスライドさせることにより、上記した光の走査を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面検査方法。
【請求項6】
被検査物の表面に光を走査させるに際し、走査の基準となる原点を定め、被検査物とその原点の位置とを対応させて記憶または表示することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表面検査方法。
【請求項7】
欠陥が存在すると判断した被検査物表面上の位置の近傍に、視認可能なマーキングをすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表面検査方法。
【請求項8】
被検査物の表面欠陥を検出する表面検査装置であって、
被検査物を支持し回転させる被検査物の支持駆動手段と、被検査物表面に光を照射する光源と、被検査物表面から反射する散乱光を受ける受入手段と、それら光源および受入手段を被検査物の回転方向と直角の方向に移動させる移動手段と、被検査物表面における光の照射位置を把握する位置検知手段と、受入手段が受けた散乱光の強さから欠陥の有無を判断する演算手段と、欠陥があると判断した表面上の位置を記憶する記憶手段とを有し、
上記光源が照射する光が、上記移動手段の移動方向に長い線状のものであり、請求項1〜7のいずれかに記載の表面検査方法を実施できることを特徴とする表面検査装置。
【請求項9】
上記受入手段が、照射光の波長およびその周辺波長のみを透過させる狭帯域光学フィルターを含む光電子増倍管と、当該フィルターを含まない画像観察用カメラとを含み、
両者が、共用する対物レンズにて受け入れる上記散乱光を部分反射ミラーで分けた二つの光軸上のそれぞれに配置されていることを特徴とする請求項8に記載の表面検査装置。
【請求項10】
上記の光源とは別に、画像観察用の照明が、上記光源による照射位置と同じ被検査物上の位置を照らすよう、上記移動手段で移動するように設けられていて、
上記移動手段および支持駆動手段は、上記演算手段により欠陥があると判断された表面上の位置の画像観察ができるように、上記の照明および受入手段を移動させ自動停止させ得ることを特徴とする請求項9に記載の表面検査装置。
【請求項11】
上記の光源として、被検査物表面の同一箇所に対し異なる方向から光を照射する複数のものを有し、それら光源のうち点灯させるものを選択可能であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の表面検査装置。
【請求項12】
上記の照明として、被検査物表面の同一箇所に対し異なる方向から光を照射する複数のものを有し、それら照明のうち点灯させるものを選択可能であることを特徴とする請求項10に記載の表面検査装置。
【請求項13】
被検査物表面における、上記光源からの光の照射位置に向けて、塵埃除去用のガスを吹き付けるガス噴射ノズルが設けられていることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−106815(P2011−106815A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258767(P2009−258767)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(599156944)アークハリマ株式会社 (8)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】