説明

表面検査装置

【課題】被検査物を検査するための構成を利用して動作状態を自ら判別することが可能な表面検査装置を提供する。
【解決手段】軸状に延びる検査ヘッド16の外周から被検査物100に向かって検査光を照射するとともに、被検査物100からの反射光を検査ヘッド16を介して受光し、該反射光の光量に対応した信号を出力する検出ユニット5と、検査ヘッド16を軸線方向に移動させる直線駆動機構30と、検査ヘッド16を軸線の回りに回転させる回転駆動機構30とを備えた表面検査装置1において、検査ヘッド16が通過可能な貫通孔37aを有するサンプルピース37を検査ヘッド16の軸線方向の移動経路上に配置する。検査ヘッド16を軸線の回りに回転させつつ軸線方向に移動させてサンプルピース37の内周面を検査光で走査したときの検出ユニット5の出力信号に基づいて動作状態を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査ヘッドから被検査物に検査光を照射してその被検査物の表面を検査する表面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状の被検査物の内周面を検査する装置として、軸状の検査ヘッドをその軸線の回り回転させつつ軸線方向に送り出して被検査物の内部に検査ヘッドを挿入し、その検査ヘッドの外周から検査光としてのレーザ光を被検査物に照射してその被検査物の内周面をその軸線方向一端から他端まで逐次走査し、その走査に対応した被検査物からの反射光を検査ヘッドを介して受光し、その受光した反射光の光量に基づいて被検査物の内周面の状態、例えば欠陥等の有無を判別する表面検査装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−281582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の表面検査装置において、検査の効率を向上させるためには検査ヘッドの軸線方向における移動速度、あるいは回転速度を高める必要がある。しかしながら、検査ヘッドの動作を高速化した場合、検査ヘッドの案内部品、あるいは軸受部品の摩耗等の影響で検査ヘッドに送り異常、回転ムラ、振れ等の動作不良が発生して検査精度が劣化するおそれがある。また、検査光の光量が低下し、あるいは、反射光の受光部の感度が変化した場合にも検査精度が劣化する。従って、検査結果の信頼性を高めるには、装置の各部の動作状態を適宜に確認して異常の有無、あるいは劣化が始まっているか否か等を判断する必要がある。しかしながら、従来の表面検査装置にはその動作状態を自己診断する機能が設けられていない。このため、表面検査装置のユーザが自らの視覚、聴覚等によって動作状態を判別する必要があり、ユーザの判断ミス、あるいは騒音等の環境要因から異常が見過ごされる懸念がある。
【0004】
そこで、本発明は、被検査物を検査するための構成を利用して動作状態を自ら判別することが可能な表面検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の表面検査装置は、軸状に延びる検査ヘッド(16)の外周から被検査物(100)に向かって検査光を照射するとともに、該検査光の照射に対する前記被検査物からの反射光を前記検査ヘッドを介して受光し、該反射光の光量に対応した信号を出力する検出手段(5)と、前記検査ヘッドを軸線方向に移動させる直線駆動手段(30)と、前記検査ヘッドをその軸線の回りに回転させる回転駆動手段(40)と、を備えた表面検査装置(1)において、前記検査ヘッドの前記軸線方向に関する移動経路上に配置され、該検査ヘッドが通過可能な貫通孔(37a)を有するサンプルピース(37)と、前記検査ヘッドを前記軸線の回りに回転させつつ前記軸線方向に移動させて前記サンプルピースの前記貫通孔の内周面を前記検査光で走査したときの前記検出手段の出力信号に基づいて、表面検査装置の動作状態を判別する状態判別手段(60)とをさらに備えることにより、上述した課題を解決する。
【0006】
本発明の表面検査装置によれば、検査ヘッドの外周から検査光を照射しつつ回転駆動手段にて検査ヘッドを回転させ、さらには直線駆動手段にて検査ヘッドを軸線方向に送り出してサンプルピースの貫通孔を通過させることにより、サンプルピースの貫通孔の内周面を検査光によって走査し、その内周面からの反射光の光量に対応した信号を検出手段から出力させることができる。これらの動作は被検査物を検査する際のそれと同様である。つまり、被検査物に代えてサンプルピースの内周面を走査することにより表面検査装置の動作状態の判別に必要な情報を取得することができる。そして、サンプルピースの走査に対応して検出手段から出力される信号は、サンプルピースの内周面の状態のみならず、表面検査装置の動作状態の影響によっても変化する。サンプルピースの内周面の状態は既知であるから、検出手段の出力信号から内周面の状態を判別してその判別結果を既知の内周面の状態と比較することにより、表面検査装置の動作状態を判別することができる。あるいは、サンプルピースの既知の状態に対応して検出手段から出力されるべき信号の特性を予め把握しておき、その特性を実際の出力信号と比較することにより、表面検査装置の動作状態を判別することもできる。
【0007】
本発明の表面検査装置の一形態において、前記状態判別手段は、前記検出手段の出力信号に基づいて前記サンプルピースの前記貫通孔の内周面の画像を生成し、得られた画像に基づいて前記動作状態を判別してもよい。この形態によれば、サンプルピースの内周面の画像を既知の内周面の状態と比較することにより、表面検査装置の動作状態を判別することができる。
【0008】
本発明の表面検査装置の一形態において、前記サンプルピースの前記内周面には疑似欠陥(37b〜37e)が設けられ、前記状態判別手段は前記内周面の画像に含まれる前記疑似欠陥の画像に基づいて前記動作状態を判別してもよい。表面検査装置の動作状態に変化が生じると、その影響で疑似欠陥の画像の形状あるいは大きさも変化する。従って、疑似欠陥の画像の変化を手掛かりとして表面検査装置の動作状態を判別することができる。
【0009】
本発明の表面検査装置の一形態において、前記サンプルピースの前記内周面には、前記反射光に変化を生じさせる複数の走査位置識別部(37f、37g)が前記軸線方向に距離をおいて設けられ、前記状態判別手段は、前記検出手段の出力信号に基づいて前記走査位置識別部間を走査するに要した時間を検出し、検出された時間に基づいて前記検査ヘッドの前記軸線方向に関する動作状態を判別してもよい。検査ヘッドの軸線方向に関する動作状態が変化すると、その影響で走査位置識別部間を走査するに要する時間も変化する。このような関係を利用すれば、走査位置識別部間を走査するに要した時間を手掛かりとして検査ヘッドの軸線方向に関する動作状態を判別することができる。
【0010】
上記の形態において、さらに前記回転駆動手段には前記検査ヘッドの回転量に対応した信号を出力する回転検出手段(43)が設けられ、前記状態判別手段は、前記回転検出手段の出力信号に基づいて、前記走査位置識別部間の走査に要した時間内における前記検査ヘッドの回転数を検出し、検出された回転数に基づいて前記検査ヘッドの回転方向に関する動作状態を判別してもよい。検査ヘッドの回転方向に関する動作状態が変化すると、その影響で、走査位置識別部間を走査するに要する時間内における検査ヘッドの回転数も変化する。このような関係を利用すれば検査ヘッドの回転方向に関する動作状態を判別することができる。
【0011】
本発明の表面検査装置の一形態において、前記状態判別手段は、前記内周面の走査中の前記検出手段の出力信号に基づいて、前記検出手段における前記検査光の発光又は前記反射光の受光に関する動作状態を判別してもよい。検査光の発光強度、反射光の受光感度等に変化が生じると、その影響で検出手段の出力信にも変化が生じる。このような関係を利用すれば、検出手段における検査光の発光又は反射光の受光に関する動作状態を判別することができる。
【0012】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明の表面検査装置によれば、被検査物を検査する場合と同様に装置を動作させてサンプルピースの貫通孔の内周面を検査光で走査し、その走査に対応した検出手段の出力信号を取得してこれを解析することにより、表面検査装置の動作状態を装置自ら判別することができる。従って、ユーザの視覚、聴覚等に依存することなく表面検査装置の動作状態を客観的に判別し、表面検査装置の異常、あるいは動作の劣化を確実に検出することが可能となる。これにより、装置の動作状態の変化に対して必要な対策を早期に施して検査精度の劣化を未然に防止し、検査結果に対する信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の一形態に係る表面検査装置の概略構成を示している。表面検査装置1は被検査物100に設けられた円筒形の内周面100aの検査に適した装置であり、検査を実行するための検査機構2と、その検査機構2の動作制御、検査機構2による測定結果の処理等を実行するための制御部3とを備えている。さらに、検査機構2は、被検査物100に対して検査光を投光し、かつ被検査物100からの反射光を受光するための検出手段としての検出ユニット5と、その検出ユニット5に所定の動作を与えるための駆動ユニット6とを備えている。
【0015】
検出ユニット5は、検査光の光源としてのレーザダイオード(以下、LDと呼ぶ。)11と、被検査物100からの反射光を受光し、その反射光の単位時間当りの光量(反射光強度)に応じた電流又は電圧の信号を出力するフォトディテクタ(以下、PDと呼ぶ。)12と、LD11から射出される検査光を被検査物100に向かって導く投光ファイバ13と、被検査物100からの反射光をPD12に導くための受光ファイバ14と、それらのファイバ13、14を束ねた状態で保持する保持筒15と、その保持筒15の外側に同軸的に設けられる中空軸状の検査ヘッド16とを備えている。保持筒15の先端には、投光ファイバ13を介して導かれた検査光を検査ヘッド16の軸線AXの方向(以下、軸線方向と呼ぶ。)に沿ってビーム状に射出させ、かつ検査ヘッド16の軸線方向に沿って検査光とは逆向きに進む反射光を受光ファイバ14に集光するレンズ17が設けられている。検査ヘッド16の先端部(図1において右端部)には、光路変更手段としてのミラー18が固定され、検査ヘッド16の外周にはそのミラー18と対向するようにして透光窓16aが設けられている。ミラー18は、レンズ17から射出された検査光の光路を透光窓16aに向けて変更し、かつ、透光窓16aから検査ヘッド16内に入射した反射光の光路をレンズ17に向かって進む方向に変更する。
【0016】
駆動ユニット6は、直線駆動機構30と、回転駆動機構40と、焦点調節機構50とを備えている。直線駆動機構30は検査ヘッド16をその軸線方向に移動させる直線駆動手段として設けられている。そのような機能を実現するため、直線駆動機構30は、ベース31と、そのベース31に固定された一対のレール32と、レール32に沿って検査ヘッド16の軸線方向に移動可能なスライダ33と、そのスライダ33の側方に検査ヘッド16の軸線AXと平行に配置された送りねじ34と、その送りねじ34を回転駆動する電動モータ35とを備えている。スライダ33は検出ユニット5の全体を支持する手段として機能する。すなわち、LD11及びPD12はスライダ33に固定され、検査ヘッド16は回転駆動機構40を介してスライダ33に取り付けられ、保持筒15は焦点調節機構50を介してスライダ33に取り付けられている。さらに、スライダ33にはナット36が固定され、そのナット36には送りねじ34がねじ込まれている。従って、電動モータ35にて送りねじ34を回転駆動することにより、スライダ33がレール32に沿って検査ヘッド16の軸線方向に移動し、それに伴ってスライダ33に支持された検出ユニット5の全体が検査ヘッド16の軸線方向に移動する。直線駆動機構30を用いた検出ユニット5の駆動により、被検査物100の内周面100aに対する検査光の照射位置(走査位置)を検査ヘッド16の軸線方向に関して変化させることができる。
【0017】
ベース31の前端(図1において右端)には壁部31aが設けられ、その壁部31aには検査ヘッド16と同軸の通し孔31bが設けられている。その通し孔31bにはサンプルピース37が取り付けられている。サンプルピース37は表面検査装置1の動作状態を判別するために設けられるものであり、その中心線上には検査ヘッド16と同軸の貫通孔37aが設けられている。貫通孔37aは検査ヘッド16が通過可能な内径を有しており、検査ヘッド16はその貫通孔37aを通過して被検査物100の内部へと繰り出される。
【0018】
図2はサンプルピース37の斜視図、図3はサンプルピース37の中心線に沿った断面図である。これらの図に示すように、サンプルピース37は円筒体の外周を部分的に切り欠いた形状を有している。貫通孔37aの内周面には中心線CL(検査ヘッド16の軸線AXに相当する。)に沿って複数の疑似欠陥37b、37c、37d、37eが形成されている。また、貫通孔37aの一方の端部の口元には面取部37fが形成されている。貫通孔37aの内周面は研磨加工等を利用して一定の反射率を有する滑らかな面に加工され、疑似欠陥37b〜37eの反射率は貫通孔37aの内周面よりも顕著に低く設定されている。疑似欠陥37b〜37eの大きさ及び形状は適宜でよい。この形態では、一例として、疑似欠陥37b〜37eがいずれも円形であり、かつそれらの大きさ(直径)は面取部37fから中心線CLの方向に離れるほど大きくなるように設定されている。サンプルピース37は、その面取部37fが検出ユニット5の側を向くようにしてベース31に取り付けられる。従って、被検査物100に向かって検査ヘッド16を前進させる場合、その検査ヘッド16は図3の矢印F方向に沿って貫通孔37aを通過する。
【0019】
回転駆動機構40は検査ヘッド16を軸線AXの回りに回転させる回転駆動手段として設けられている。そのような機能を実現するため、回転駆動機構40は、検査ヘッド16を軸線AXの回りに回転自在に支持する軸受(不図示)と、回転駆動源としての電動モータ41と、その電動モータ41の回転を検査ヘッド16に伝達する伝達機構42とを備えている。伝達機構42には、ベルト伝達装置、歯車列等の公知の回転伝達機構を利用してよい。電動モータ41の回転を伝達機構42を介して検査ヘッド16に伝達することにより、検査ヘッド16がその内部に固定されたミラー18を伴って軸線AXの回りに回転する。回転駆動機構40を用いた検査ヘッド16の回転により、被検査物100の内周面100aに対する検査光の照射位置を被検査物100の周方向に関して変化させることができる。そして、検査ヘッド16の軸線方向への移動と軸線AXの回りの回転とを組み合わせることにより、被検査物100の内周面100aをその全面に亘って検査光で走査することが可能となる。なお、検査ヘッド16の回転時において、保持筒15は回転しない。さらに、回転駆動機構40には、検査ヘッド16が所定の単位角度回転する毎にパルス信号を出力するロータリエンコーダ43が設けられている。ロータリエンコーダ43から出力されるパルス信号の個数は検査ヘッド16の回転量(回転角度)に相関し、そのパルス信号の周期は検査ヘッド16の回転速度に相関する。
【0020】
焦点調節機構50は、検査光が被検査物100の内周面100aにて焦点を結ぶように保持筒15を軸線AXの方向に駆動する焦点調整手段として設けられている。その機能を実現するため、焦点調節機構50は、保持筒15の基端部に固定された支持板51と、直線駆動機構30のスライダ33と支持板51との間に配置されて支持板51を検査ヘッド16の軸線方向に案内するレール52と、検査ヘッド16の軸線AXと平行に配置されて支持板51にねじ込まれた送りねじ53と、その送りねじ53を回転駆動する電動モータ54とを備えている。電動モータ54にて送りねじ53を回転駆動することにより、支持板51がレール52に沿って移動して保持筒15が検査ヘッド16の軸線方向に移動する。これにより、検査光が被検査物100の内周面100a上で焦点を結ぶようにレンズ17からミラー18を経て内周面100aに至る光路の長さを調節することができる。
【0021】
次に制御部3について説明する。制御部3は、表面検査装置1による検査工程の管理、検出ユニット5の測定結果の処理等を実行するコンピュータユニットとしての演算処理部60と、その演算処理部60の指示に従って検出ユニット5の各部の動作を制御する動作制御部61と、PD12の出力信号に対して所定の処理を実行する信号処理部62と、演算処理部60に対してユーザが指示を入力するための入力部63と、演算処理部60が処理した検査結果等をユーザに提示するための出力部64と、演算処理部60にて実行すべきコンピュータプログラム、及び、測定されたデータ等を記憶する記憶部65とを備えている。演算処理部60、入力部63、出力部64及び記憶部65はパーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータ機器を利用してこれらを構成することができる。この場合、入力部63にはキーボード、マウス等の入力機器が設けられ、出力部64にはモニタ装置が設けられる。プリンタ等の出力機器が出力部64に追加されてもよい。記憶部65には、ハードディスク記憶装置、あるいは記憶保持が可能な半導体記憶素子等の記憶装置が用いられる。動作制御部61及び信号処理部62はハードウエア制御回路によって実現されてもよいし、コンピュータユニットによって実現されてもよい。
【0022】
被検査物100の内周面100aの表面を検査する場合、演算処理部60、動作制御部61及び信号処理部62のそれぞれは次の通り動作する。なお、この場合、被検査物100は検査ヘッド16と同軸上に配置される。検査の開始にあたって、演算処理部60は入力部63からの指示に従って動作制御部61に被検査物100の内周面100aを検査するために必要な動作の開始を指示する。その指示を受けた動作制御部61は、LD11を所定の強度で発光させるとともに、検査ヘッド16が軸線方向に移動し、かつ軸線AXの回りに一定速度で回転するようにモータ35及び41の動作を制御する。さらに、動作制御部61は、検査光が被検査面としての内周面100a上で焦点を結ぶようにモータ54の動作を制御する。このような動作制御により、内周面100aがその一端から他端まで検査光によって走査される。なお、検査ヘッド16の軸線方向の駆動に関しては、一定速度の送り動作としてもよいし、検査ヘッド16が一回転する毎に所定ピッチずつ移動する間欠的な送り動作としてもよい。
【0023】
上述した内周面100aの走査に連係して信号処理部62にはPD12の出力信号が順次導かれる。信号処理部62は、PD12の出力信号を演算処理部60にて処理するために必要なアナログ信号処理を実施し、さらに、その処理後のアナログ信号を所定のビット数でA/D変換し、得られたデジタル信号を反射光信号として演算処理部60に出力する。演算処理部60にて実行する信号処理としては、PD12が検出した反射光の明暗差を拡大するようにその出力信号を非線形に増幅する処理、出力信号からノイズ成分を除去する処理といった各種の処理を適宜に用いてよい。高速フーリエ変換処理、逆フーリエ変換処理等を適宜に組み合わせることも可能である。また、信号処理部62によるA/D変換は、ロータリエンコーダ43から出力されるパルス列をサンプリングクロック信号として利用して行われる。これにより、検査ヘッド16が所定角度回転する間のPD12の受光量に相関した階調のデジタル信号が生成されて信号処理部62から出力される。
【0024】
信号処理部62から反射光信号を受け取った演算処理部60は、その取り込んだ信号を記憶部65に記憶する。さらに、演算処理部60は、記憶部65が記憶する反射光信号を利用して被検査物100の内周面100aを平面的に展開した2次元画像を生成する。その2次元画像は、例えば被検査物100の周方向をx軸方向、検査ヘッド16の軸線方向をy軸方向とする直交2軸座標系で定義される平面上に内周面100aを展開した画像に相当する。なお、演算処理部60における2次元画像の生成時には、反射光信号から得られる原画像に対して、エッジ処理、二値化処理等を施すことにより、検出すべき欠陥等を強調した2次元画像を生成してもよい。そして、演算処理部60は、得られた画像を所定のアルゴリズムで処理することにより、内周面100aに許容限度を超える欠陥等が存在するか否か等を判定し、その判定結果を出力部64に出力する。
【0025】
以上の検査工程においては、表面検査装置1の各部の動作、例えば、LD11の発光動作、PD12の受光動作(受光感度)、検査ヘッド16の送り動作あるいは回転動作等に異常が発生すると、演算処理部60にて内周面100aの正しい画像を生成することができず、検査精度が劣化することがある。そこで、演算処理部60は、図4に示した自己診断ルーチンを適宜に実行することにより、装置の動作状態を判別する。すなわち、演算処理部60は、図4の自己診断ルーチンを実行することにより、表面検査装置1の動作状態を判別する状態判別手段として機能する。
【0026】
図4の自己診断ルーチンにおいて、演算処理部60は、まずステップS1でLD11の発光を動作制御部61に指示し、続くステップS2で検査ヘッド16の前進及び回転を動作制御部61に指示する。これらの指示を受けて動作制御部61はLD11を所定の強度で発光させ、かつモータ35、41を起動して検査ヘッド16を所定の速度で軸線方向に送り出すとともに軸線AXの回りに所定速度で回転させる。この後、演算処理部60はステップS3へ進んで信号処理部62から逐次出力される反射光信号を取得し、記憶部65へと記憶する。なお、サンプルピース37の内径が被検査物100の内径と相違する場合には、検査光がサンプルピース37の内周面で焦点を結ぶように焦点調節機構50を動作させる。
【0027】
次のステップS4において、演算処理部60は、信号処理部62から出力される反射光信号に基づいて、検出ユニット5がサンプルピース37の面取部37fを検出したか否かを判別する。すなわち、検査ヘッド16から照射される検査光が面取部37fに入射したときにPD12が検出する反射光の光量に変化が生じるため、この変化が信号処理部62からの反射光信号に現れたか否かを判別する。面取部37fが検出されない場合、演算処理部60はステップS11へ進み、自己診断ルーチンの開始後、所定時間が経過したか否か判別する。そして、所定時間が経過していなければ演算処理部60はステップS4へ戻り、その一方、所定時間が経過しても面取部37fが検出されない場合には何らかの異常が発生しているものとしてステップS12で所定の診断中止処理を実行する。
【0028】
一方、ステップS4で面取部37fへの検査光の入射に対応する変化が検出された場合、演算処理部60はサンプルピース37の検査光による走査が開始されたと判断してステップS5に進み、サンプルピース37の走査に要する時間(走査所要時間)、言い換えれば、検査ヘッド16の検査光照射位置がサンプルピース37を通過する時間及びその間の検査ヘッド16の回転数の計測を開始する。回転数の計測は例えば信号処理部62から出力される反射光信号のサンプル数を計数することにより実施することができる。ロータリエンコーダ43の出力信号を演算処理部60に取り込んで回転数を計測してもよい。
【0029】
続くステップS6で、演算処理部60は、検査光によるサンプルピース37の走査が終了したか否か、言い換えれば検査ヘッド16における検査光の照射位置がサンプルピース37を通過したか否かを判別する。すなわち、検査ヘッド16の検査光照射位置がサンプルピース37を通り抜けるときにも、サンプルピース37のエッジ37g(図3参照)の影響でPD12が検出する反射光の光量が変化するため、その変化が信号処理部62からの反射光信号に現れたか否かを判別する。そして、走査終了と判断されるまで走査所要時間及び回転数の計測を続ける。これにより、サンプルピース37の走査に要する時間及びその間の検査ヘッド16の回転数が計測される。
【0030】
ステップS6にてサンプルピース37の走査が終了したと判断された場合、演算処理部60はステップS7に進み、走査所要時間及び回転数の計測値をそれらの基準値と比較して検査ヘッド16の送り用のモータ35及び回転用のモータ41の異常の有無を判別する。検査ヘッド16の軸線方向に関するサンプルピース37の幅、検査ヘッド16の送り速度の指令値、及び回転速度の指令値はいずれも既知であるから、サンプルピース37の走査に要する時間の基準値はサンプルピース37の幅を送り速度の指令値で除算すれば求めることができ、その得られた走査所要時間の基準値と回転速度の指令値とから回転数の基準値も求めることができる。ステップS7では、サンプルピース37の幅、速度指令値から求めた基準値に対して、走査所要時間及び回転数の計測値が許容範囲内か否かを判別する。そして、送り速度が許容範囲外であれば送り用のモータ35に異常があると判断し、送り速度が許容範囲内で回転数が許容範囲外であれば回転用のモータ41に異常があると判断する。
【0031】
次のステップS8において、演算処理部60は、記憶部65に記憶したサンプルピース走査中の反射光信号に基づいて、サンプルピース37の貫通孔37aの内周面の2次元画像(以下、サンプルピース画像と呼ぶ。)を生成する。この2次元画像は被検査物100の内周面100aの2次元画像を生成する場合と同様にして生成することができる。そして、次のステップS9において、演算処理部60は得られたサンプルピース画像に基づいて表面検査装置1の動作状態を判別する。例えば、演算処理部60は、サンプルピース画像から疑似欠陥37b〜37eの画像を抽出し、得られた疑似欠陥の画像から疑似欠陥37b〜37eの形状及び大きさを判別する。そして、判別された形状及び大きさが、予め記憶部65に与えられている疑似欠陥37b〜37eの実際の形状及び大きさに対して所定の許容範囲内にあれば表面検査装置1が正常に動作していると判断し、許容範囲外であれば表面検査装置1に異常が生じていると判断する。検査ヘッド16の送り動作又は回転動作にムラが生じ、あるいは検査ヘッド16の回転に振れが生じている場合には、それらの程度に応じて疑似欠陥37b〜37eの画像に歪みが生じて形状あるいは大きさが変化する。従って、疑似欠陥37b〜37eの画像の形状及び大きさから動作状態を判別することができる。
【0032】
また、ステップS9では、上記の動作状態の判別に追加して、演算処理部60は、サンプルピース画像の疑似欠陥以外の部分の画像の階調に基づいて、LD11の発光強度、又はPD12の受光感度に異常が生じているか否かを判別してもよい。サンプルピース37の内周面の反射率、LD11に指示した発光強度が予め判っているので、これらの値を利用すればサンプルピース画像の疑似欠陥部分以外の階調の基準値が求められるので、その基準値と実際のサンプルピース画像の階調とを比較すれば、LD11の発光、又はPD12の受光が正常に行われているか否かを判別することができる。
【0033】
続くステップS10において、演算処理部60は表面検査装置1の動作状態の判別結果を出力部64へ出力するとともに、記憶部65に記憶する。例えば、ステップS7におけるモータ35、41の異常判別結果、ステップS9における疑似欠陥37b〜37eの形状及び大きさの判別結果、LD11の発光強度又はPD12の受光感度の判別結果を出力し、記憶する。ステップS12で診断中止処理が実行された場合には、診断が不可能であった事実を判別結果として出力し、かつ記憶する。そして、ステップS10の処理後、演算処理部60は今回の自己診断ルーチンを終了する。
【0034】
以上の自己診断ルーチンは被検査物100の検査開始前、検査中等の適宜のタイミングで実行することができる。例えば、多数の被検査物100を表面検査装置1で連続的に検査する場合には、一連の検査を開始する前に自己診断ルーチンを実行してもよいし、被検査物100の交換時に検査ヘッド16がサンプルピース37を通過するように装置を動作させて自己診断ルーチンを実行してもよい。被検査物100を検査する毎に毎回自己診断ルーチンを実行してもよいし、表面検査装置1が所定時間稼働する毎、あるいは所定数の被検査物100を検査する毎といった適宜の周期で自己診断ルーチンを実行してもよい。
【0035】
以上に説明したように、本形態の表面検査装置1によれば、検出ユニット5を被検査物100の検査時と同様に動作させつつ、被検査物100に代えてサンプルピース37を検査し、かつ演算処理部60にて自己診断ルーチンを実行することにより、表面検査装置1の動作状態が判別される。従って、ユーザの視覚、聴覚等に依存することなく表面検査装置1の動作状態を客観的に判別することが可能となる。このため、表面検査装置1の動作の異常、あるいは劣化を確実に発見し、それらの異常又は劣化に対して必要な対策を早期に施して検査精度の劣化を未然に防止し、検査結果に対する信頼性を高めることができる。
【0036】
本形態の表面検査装置1において、動作状態の自己診断機能を実現するためには、被検査物100の検査に必要な検出ユニット5等の構成に加えて、ベース31にサンプルピース37を設けるとともに、演算処理部60にて自己診断ルーチンを実行するためのプログラム及びデータを設けるだけでよい。検査時にこれらの部材、プログラム等を除去する必要はない。従って、動作状態の自己診断機能を追加するための負担が小さく、かつ、動作状態の判別に要する工数、手間も少ない。このため、検査の空き時間等を利用して動作状態を効率よく判別することができ、動作状態の判別に起因する検査効率の低下を抑えることができる。記憶部65に毎回の診断結果、すなわちサンプルピース37の走査所要時間、その走査所要時間内における検査ヘッド16の回転数、サンプル画像の疑似欠陥以外の部分の階調、疑似欠陥画像の形状、大きさ等を記憶し、それらの履歴から表面検査装置1の径時変化を把握して異常発生前に必要な対策を施すこともできる。それにより、表面検査装置1を最良の状態に維持し、検査結果の信頼性をさらに高めることができる。
【0037】
本発明は上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、サンプルピースの形状及び大きさは適宜に変更してよく、その疑似欠陥に関しても適宜の変更が可能である。上記の形態では、サンプルピース37の面取部37f及びその反対側のエッジ37gを走査位置識別部として利用しているが、貫通孔37の両端よりも内側に反射率が異なる溝等を設けて走査位置識別部として機能させ、それらの走査位置識別部を検出するに要する時間を走査所要時間として計測してもよい。複数の疑似欠陥が検査ヘッドの軸線方向に距離をおいて設けられている場合には、それらの疑似欠陥を走査位置識別部として利用して走査所要時間を計測してもよい。
【0038】
表面検査装置1の動作状態の判別においては、モータの異常、LDの発光動作の異常、PDの受光感度の異常、送り動作又は回転動作の異常等に限定されず、サンプルピースの検査結果とサンプルピースの設計仕様との比較において装置の動作状態を判別できる限り、適宜に追加、変更、削除が可能である。例えば、疑似欠陥を省略した場合でも、サンプルピースの走査所要時間、その走査所要時間内における検査ヘッドの回転数に基づいて送り動作又は回転動作の異常の有無を判別し、かつサンプルピース画像の階調からLDの発光動作又はPDの受光感度に関する異常の有無を判別することが可能である。サンプルピースの取付位置は、検査光による走査が可能な位置であれば適宜に変更してよい。
【0039】
本発明の表面検査装置において、検査光の照射及び反射光の受光のための検出手段の構成は上記の形態に限るものではなく、検査ヘッドの外周から検査光を被検査物に照射し、反射光を検査ヘッドを介して受光できるものであれば適宜に変更可能である。直線駆動手段、及び回転駆動手段の構成も図示の形態に限らず適宜に変更してよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一形態に係る表面検査装置の概略構成を示す図。
【図2】サンプルピースの斜視図。
【図3】サンプルピースの中心線に沿った断面図。
【図4】演算処理部が実行する自己診断ルーチンを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0041】
1 表面検査装置
2 検査機構
3 制御部
5 検出ユニット(検出手段)
6 駆動ユニット
16 検査ヘッド
30 直線駆動機構(直線駆動手段)
37 サンプルピース
37a 貫通孔
37b、37c、37d、37e 疑似欠陥
37f 面取部(走査位置識別部)
37g エッジ(走査位置識別部)
40 回転駆動機構(回転駆動手段)
50 焦点調節機構
60 演算処理部
61 動作制御部
62 信号処理部
100 被検査物
100a 被検査物の内周面
AX 検査ヘッドの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状に延びる検査ヘッドの外周から被検査物に向かって検査光を照射するとともに、該検査光の照射に対する前記被検査物からの反射光を前記検査ヘッドを介して受光し、該反射光の光量に対応した信号を出力する検出手段と、前記検査ヘッドを軸線方向に移動させる直線駆動手段と、前記検査ヘッドをその軸線の回りに回転させる回転駆動手段と、を備えた表面検査装置において、
前記検査ヘッドの前記軸線方向に関する移動経路上に配置され、該検査ヘッドが通過可能な貫通孔を有するサンプルピースと、
前記検査ヘッドを前記軸線の回りに回転させつつ前記軸線方向に移動させて前記サンプルピースの前記貫通孔の内周面を前記検査光で走査したときの前記検出手段の出力信号に基づいて、表面検査装置の動作状態を判別する状態判別手段と、
をさらに備えたことを特徴とする表面検査装置。
【請求項2】
前記状態判別手段は、前記検出手段の出力信号に基づいて前記サンプルピースの前記貫通孔の内周面の画像を生成し、得られた画像に基づいて前記動作状態を判別することを特徴とする請求項1に記載の表面検査装置。
【請求項3】
前記サンプルピースの前記内周面には疑似欠陥が設けられ、前記状態判別手段は前記内周面の画像に含まれる前記疑似欠陥の画像に基づいて前記動作状態を判別することを特徴とする請求項2に記載の表面検査装置。
【請求項4】
前記サンプルピースの前記内周面には、前記反射光に変化を生じさせる複数の走査位置識別部が前記軸線方向に距離をおいて設けられ、前記状態判別手段は、前記検出手段の出力信号に基づいて前記走査位置識別部間を走査するに要した時間を検出し、検出された時間に基づいて前記検査ヘッドの前記軸線方向に関する動作状態を判別することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面検査装置。
【請求項5】
前記回転駆動手段には前記検査ヘッドの回転量に対応した信号を出力する回転検出手段が設けられ、前記状態判別手段は、前記回転検出手段の出力信号に基づいて、前記走査位置識別部間の走査に要した時間内における前記検査ヘッドの回転数を検出し、検出された回転数に基づいて前記検査ヘッドの回転方向に関する動作状態を判別することを特徴とする請求項4に記載の表面検査装置。
【請求項6】
前記状態判別手段は、前記内周面の走査中の前記検出手段の出力信号に基づいて、前記検出手段における前記検査光の発光又は前記反射光の受光に関する動作状態を判別することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の表面検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−315823(P2007−315823A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143418(P2006−143418)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(390014661)キリンテクノシステム株式会社 (126)
【出願人】(505216449)株式会社 KTSオプティクス (17)
【Fターム(参考)】