説明

表面構造

【課題】剥離の進展が抑制された状態のDLC膜より構成される硬質層がより簡便に形成できるようにする。
【解決手段】基材101の粗面とされた表面102と、表面102に形成されたダイアモンドライクカーボンからなる硬質層103とを備える。また、表面102の算術表面粗さが0.2から0.4の範囲とされ、硬質層103は、層厚1〜3μmの範囲とされている。粗面は、例えば、サンドブラストなどのブラスト処理による加工や、バフ研磨などの粗研磨により形成することができる。硬質層103は、基材101の表面102の上に、よく知られたPVD法によりDLC膜を形成すればよい。例えば、DLC膜は、黒鉛をターゲットとしたイオンプレーティング法やスパッタリング法により形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩擦性が向上する表面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調節弁やガスガバナなどは、接触摩擦部を有する摺動面をもつ装置である。このような装置の摺動部においては、耐摩擦性を高めるために接触摩擦部を硬質材料より構成し、また、熱処理などによる硬質処理をしている。接触摩擦部に硬質層を形成することで耐摩擦性を高める技術もある。また、接触摩擦部における摺動性を高めるために、潤滑剤が用いられている。
【0003】
ただし、潤滑剤は、減圧排気されている環境では使用し難いなど、使用可能な範囲が限られ、また、経時変化を伴うため、常に整備保守が必要になるなどの問題がある。これに対し、潤滑剤を用いることなく優れた摺動性が得られる硬質層の材料として、ダイアモンドライクカーボン(DLC)がある(特許文献1,2,3,4参照)。
【0004】
しかしながら、DLCの膜は、割れが発生すると、発生した割れの部分を起点として広い面積で一度に膜剥がれを起こすという問題がある。この問題に対し、特許文献1,2,3,4では、DLC膜をセグメントに分割して形成している。セグメントに分割することで、まず、DLC膜の剥離の進展が抑えられるようになり、一つのセグメントで膜が剥離しても隣のセグメントはその影響を受けないようになる。これにより剥離の進展を抑え、膜の寿命を長くすることができる。また、セグメントに分割することで、母体の変形に伴うDLC膜に与えられる大きなひずみが回避できるようになり、剥離の進展が抑制できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2006/095907号公報
【特許文献2】特開2010−007117号公報
【特許文献3】特開2003−147525号公報
【特許文献4】特開2007−083726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、DLC膜をセグメントに分割して形成することが、容易ではないという問題がある。例えば、特許文献3,4では、タングステン線の金網を用いて格子状にマスキングすることで、セグメントにDLC膜を形成している。また、特許文献2では、セグメント形態に対応したパターン形状の凸状パターンを形成し、この上からDLC膜を堆積し、この後、凸状パターンを除去するという、所謂リフトオフ法によりセグメントにDLC膜を形成している。このように、いずれにおいても、マスクを用いており、位置精度の問題や、製造工程の増加をまねくという問題などがある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、剥離の進展が抑制された状態のDLC膜より構成される硬質層がより簡便に形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る表面構造は、粗面とされた基材の表面と、表面に形成されたダイアモンドライクカーボンからなる硬質層とを備え、表面の算術表面粗さが0.1から0.4の範囲とされ、硬質層は、層厚1〜3μmの範囲とされている。なお、硬質層は、表面を被覆するダイアモンドライクカーボン膜から構成されていればよい。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、粗面とされた基材の表面にダイアモンドライクカーボンからなる硬質層を形成するようにしたので、剥離の進展が抑制された状態のDLC膜より構成される硬質層がより簡便に形成できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における表面構造の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、DLC膜からなる硬質層に対して行った摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図3】図3は、摩擦摩耗試験を行った後のDLC膜からなる硬質層の表面の金属顕微鏡写真である。
【図4】図4は、摩擦摩耗試験を行った後のDLC膜からなる硬質層の表面の金属顕微鏡写真である。
【図5】図5は、摩擦摩耗試験を行った後のDLC膜からなる硬質層の表面の金属顕微鏡写真である。
【図6】図6は、DLC膜からなる硬質層の電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、DLC膜からなる硬質層の電子顕微鏡写真である。
【図8】図8は、DLC膜からなる硬質層の電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、DLC膜からなる硬質層の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における表面構造の構成を示す断面図である。この表面構造は、基材101の粗面とされた表面102と、表面102に形成されたダイアモンドライクカーボン(DLC)からなる硬質層103とを備える。また、表面102の算術表面粗さが0.1から0.4の範囲とされ、硬質層103は、層厚1〜3μmの範囲とされているものである。このような粗面は、例えば、サンドブラストなどのブラスト処理による加工や、バフ研磨などの粗研磨により形成することができる。
【0012】
硬質層103は、基材101の表面102の上に、よく知られたPVD法によりDLCを堆積することで形成すればよい。例えば、DLCは、黒鉛をターゲットとしたイオンプレーティング法やスパッタリング法により堆積できる。また、硬質層103は、表面102を被覆するように形成されていればよい。硬質層103は、粗面とされている表面102に形成されるため、複数の亀裂104を備えた状態となる。言い換えると、硬質層103は、セグメントに分割された複数のDLC膜から構成されたものとなる。このように、本実施の形態によれば、単にDLC膜を形成すれば、セグメントに分割された状態となるので、剥離しにくい状態の硬質層がより簡便に形成できるようになる。
【0013】
このように、上述した実施の形態によれば、金網などのいわゆるステンシルマスクやレジストなどによるマスクパターンなどを用いる必要がないので、剥離の進展が抑制された状態のDLC膜より構成される硬質層が、より容易に形成できるようになる。
【0014】
以下、実際に作製した試料の評価について説明する。
【0015】
[試料]
試料としては、SUS316を円板状に加工した基板を用いた。また、試料1は、表面粗さをRa0.2とし、試料2は、表面粗さをRa0.002とし、試料3は、表面粗さをRa0.8とした。試料1が、上述した実施の形態の基板101に相当する。なお、試料1は、よく知られたバフ研磨により表面粗さをRa0.2とした。また、試料2は、よく知られた鏡面研磨により、Ra0.002とした。試料2の表面は、所謂鏡面加工した状態である。また、試料3は、SUS316の円板の表面を、旋盤により加工してRa0.8とした。また、形成した硬質層は、層厚1μmとした。
【0016】
[評価方法1]
直径9.6mmのアルミナ球を用いた荷重増加方式のボールオンディスク型の摩擦摩耗試験により評価を行う。負荷荷重は最大15kgとする。また、摺動速度は0.15m/秒とし、形成した硬質層が破壊するときの臨界荷重を摩擦係数の変化から判断する。
【0017】
[評価方法2]
各試料において、摩擦摩耗試験の後における硬質層表面の状態を、金属顕微鏡により観察する。
【0018】
[結果]
まず、試料1は、図2の(a)に示すように、上記摩擦摩耗試験の最大負荷荷重の範囲では、摩擦係数に大きな変化はなく、硬質層の破壊は確認されない。これに対し、試料2は、図2の(b)に示すように、負荷荷重5kgの前で摩擦係数が測定限界を超えて大きくなり、この時点で硬質層の破壊が確認される。また、試料3は、図2の(c)に示すように、負荷荷重2kgで摩擦係数が測定限界を超えて大きくなり、この時点で硬質層の破壊が確認される。また、試料3は、負荷荷重2kgになるまでの間に、徐々に摩擦係数が増加している。
【0019】
次に、金属顕微鏡による観察結果について示す。試料1は、図3の写真に示すように、摩擦摩耗試験箇所に筋状の切削痕が確認されるが、硬質層が残存している。これに対し、試料2は、図4の写真に示すように、摩擦摩耗試験箇所の硬質層が剥離していることがわかる。同様に、試料3は、図5の写真に示すように、摩擦摩耗試験箇所の硬質層が剥離していることがわかる。
【0020】
次に、基材の表面を鏡面加工してDLC膜(硬質層)を形成した場合と、本実施の形態による粗面とした表面にDLC膜を形成した場合とについて、電子顕微鏡により観察した比較結果について説明する。
【0021】
まず、鏡面加工した表面にDLC膜を形成すると、図6の写真(2000倍)に示すように、平坦な膜が形成されていることがわかる。これに対し、本実施の形態による粗面とした表面にDLC膜を形成すると、図7の写真(2000倍)に示すように、下地の凹凸に添ってDLC膜が形成され、また、複数の亀裂が形成されていることがわかる。
【0022】
また、鏡面加工した表面に形成したDLC膜に対して前述した摩擦摩耗試験を行った箇所は、図8の写真(1000倍)に示すように、広範囲にわたって膜剥がれが起きていることがわかる。これに対し、本実施の形態による粗面とした表面に形成したDLC膜に対して前述した摩擦摩耗試験を行った箇所は、図9の写真(1500倍)に示すように、摩擦部が部分的に白く観察されて基材の表面が露出しているが、部分的であり、他の箇所は、DLC膜が残存していることがわかる。また、基材が露出している箇所は、粗面とした凸部に相当していることがわかる。
【0023】
以上の実験の結果から明らかなように、Ra0.2とした表面構造によれば、耐摩耗性の高い状態が得られている。また、同様の結果(耐摩耗性の高い状態)が、Ra0.1〜0.4において得られている。これは、本実施の形態によれば、硬質層がセグメントに分割したことに等しい状態になっているためと考えられる。
【0024】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、DLC膜は、PVD法に限らず、CVD法により形成してもよい。アセチレンなどの炭化水素ガスを原料ガスとしたプラズマアシストCVD法によりDLC膜が形成できる。また、基材は、SUSなどのステンレス鋼に限らず、アルミニウム、マグネシウムなどの金属系の材料から構成されていても同様である。
【符号の説明】
【0025】
101…基材、102…表面、103…硬質層、104…亀裂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗面とされた基材の表面と、
前記表面に形成されたダイアモンドライクカーボンからなる硬質層とを備え、
前記表面の算術表面粗さが0.1から0.4の範囲とされ、
前記硬質層は、層厚1〜3μmの範囲とされていることを特徴とする表面構造。
【請求項2】
請求項1記載の表面構造において、
前記硬質層は、前記表面を被覆するダイアモンドライクカーボン膜から構成されていることを特徴とする表面構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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