説明

表面波励起プラズマ処理装置

【課題】強度が大きく均一なプラズマを大容積のプラズマ生成室内に生成させてプラズマ処理室内に供給することができる表面波励起プラズマ処理装置を提供すること。
【解決手段】本発明の表面波励起プラズマ処理装置10Aのプラズマ生成室11は、誘電体枠13が、方形状の上部平面13aと、上部平面13aの両端部に垂下するように形成された第1及び第2の側面13b、13cと、第1及び第2の側面13b、13cのそれぞれの下端側に前記上部平面13aと平行に形成された下部平面13dを備え、下部平面13dには中央部に前記プラズマ処理室へ通じる開口17が形成されており、誘電体枠13の上部平面13a上には第1及び第2の側面13b及び13cと平行に第1の導波管15aが配置されていると共に、第1及び第2の側面13b及び13cにもそれぞれ第2及び第3の導波管15b、15cが配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面波によって励起されたプラズマを利用して基板の表面処理、薄膜形成、エッチング等を行ったりするための表面波励起プラズマ処理装置に関する。更に詳しくは、本発明は、強度が大きく均一なプラズマを大容積のプラズマ生成室内に生成させてプラズマ処理室内に供給することができる表面波励起プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ生成装置によって生成させたプラズマは、半導体工業、化学工業、その他の分野で広く利用されており、特に半導体基板の表面処理、基板上へのエッチング加工には欠かせないものとなっている。また、プラズマを用いる表面処理、薄膜形成、エッチング加工においては、処理時間の短縮、大面積基板の一括処理が要求されている。半導体製造工程、液晶表示パネル製造工程、太陽電池製造工程等においては、マイクロ波を利用して処理装置内にプラズマを生成させ、基板上にCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって各種の薄膜を形成させている。例えば、シリコン基板を用いた太陽電池の製造工程においては、シリコン基板上に反射防止膜として窒化ケイ素層を形成する。また、液晶表示パネルの製造工程においては、TFT(Thin Film Transistor)や走査線ないし信号線の表面にCVD法によって窒化ケイ素層や酸化ケイ素層を形成している。これらの窒化ケイ素層や酸化ケイ素層は表面保護膜、すなわちパッシベーション膜としての機能も有している。
【0003】
特に太陽電池に関しては、省エネルギーの観点から多くの分野での使用が期待されているが、現状では高コストであるために用途が限られている。太陽電池の低コスト化には、各種薄膜の成膜速度の高速性、大面積化及び均一性が要求されている。従来、窒化ケイ素層や酸化ケイ素層の成膜装置としては、平行平板型のRFプラズマ処理装置が多く用いられてきた。しかしながら、この平行平板型のプラズマ処理装置は成膜速度の高速性や成膜面積の大面積化に限界がある。
【0004】
また、プラズマ密度が大きく、大容積のプラズマを均一に生成させることができるプラズマ処理装置として、マイクロ波を利用したプラズマ処理装置が知られている。近年に至り、例えば下記特許文献1に示されているように、マイクロ波の表面波を利用したプラズマ処理装置、すなわち表面波励起プラズマ処理装置の開発が進められている。この表面波励起プラズマ処理装置は、マイクロ波を石英板等の誘電体からなる板を通してプラズマ処理室中に放電させると、プラズマに接する誘電体の表面に表面波が生成されるが、この表面波は波として誘電体表面を伝播するために誘電体表面に広く広がるという現象を利用したものである。
【0005】
この表面波励起プラズマ処理装置では、導波管の長手方向には一様な強度のプラズマが生成され、しかも、表面波はプラズマを効率よく生成させるため、生成するプラズマ密度は例えば平行板型のRF(Radio Frequency)プラズマ処理装置やECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)型に比べて大きいという特徴を有している。そのため、この表面波励起プラズマ処理装置を用いると、大面積の各種薄膜のCVD法による成膜が可能となる他、大面積の基板処理も可能であるという利点を備えている。
【0006】
しかしながら、下記特許文献1に開示されている表面波励起プラズマ処理装置では、導波管の軸方向と直角方向に生成するプラズマの均一性が悪くなるという課題がある。これは、導波管の軸方向と直角方向の誘電体板端では、表面波がプラズマ生成室を構成する金属壁によって反射され、更に一部の表面波が金属壁に吸収されるからである。このような下記特許文献1に開示されているプラズマ生成装置の課題を解決するために、下記特許文献2には、複数の導波管を軸方向に平行に配置すると共に2つの導波管毎の誘電体板の端部にこれらの導波管と平行に延びる反射板を形成した表面波励起プラズマ処理装置の発明が開示されている。
【特許文献1】特開2000−348898号公報
【特許文献2】特開2005−033100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献2に開示されている表面波励起プラズマ処理装置の発明では、2つの導波管毎の誘電体板の端部に形成した反射板によって表面波を反射させることにより表面波の定在波を形成させている。そのため、特許文献2に開示されている表面波励起プラズマ処理装置では、一応特許文献1に開示されている表面波励起プラズマ処理装置よりも軸方向と直角方向においても生成するプラズマの均一性は良好となると認められる。しかしながら、上記特許文献2に開示されているプラズマ処理装置においても、反射板が存在している部分のプラズマ密度は急激に低下するため、導波管の軸方向と直角方向のプラズマの均一性は必ずしも十分ではなかった。
【0008】
しかも、生成するプラズマの強度を上げるためには、導波管内に供給されるマイクロ波の電力を高めてプラズマ密度を上げることによって達成できるが、表面波の波長はプラズマ密度に依存して変化するため、エネルギー損失が多くなってしまう。すなわち、プラズマ密度が大きくなれば表面波の波長は長くなるため、マイクロ波電力を増加させてプラズマ密度を増加させようとすると、表面波の波長は導波管の最適なスロットアンテナのスロット間隔からずれてしまう。
【0009】
例えば、図6に示したように、プラズマ密度が増加すると、表面波の波長は、最終的には飽和するが、プラズマ密度が低いときの表面波の波長から4cm以上も長くなる。なお、図6は、角形導波管の軸と直交する方向の誘電体枠の幅が10cmである上記特許文献1に開示されているような構成の表面波励起プラズマ処理装置におけるプラズマ密度と表面波波長の変化の関係の一例を示すグラフである。
【0010】
そのため、導波管内に供給されるマイクロ波の電力を上げても、プラズマの強度が大きくなり難くなると共に、プラズマ密度が時間的に不安定になるという現象が生じる。しかしながら、上記特許文献1及び2に開示された発明では、このような導波管内に供給されるマイクロ波の電力を高めることによって生じる表面波の波長の変化を考慮していないため、プラズマ密度の大きなプラズマを大きな体積の処理室中に一様に生成させることができないという課題が存在している。
【0011】
本発明は、上述のような従来の表面波励起プラズマ処理装置の課題を解決するためになされたものであって、強度が大きく均一なプラズマを大容積の処理室内に生成させることができ、大面積基板を高速で一様にプラズマ処理を行うことができる表面波励起プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の表面波励起プラズマ処理装置は、マイクロ波発生部と、プラズマ生成室と、前記プラズマ生成室の下部に配置されたプラズマ処理室とを備え、前記プラズマ生成室は、プラズマ生成室内にマイクロ波を放射するための誘電体枠と、前記誘電体枠上に配置されたスロットアンテナを有する互いに平行に配置された複数の導波管と、を備えている表面波励起プラズマ処理装置において、前記誘電体枠は、方形状の上部平面と、前記上部平面の両端部に垂下するように形成された第1及び第2の側面と、前記第1及び第2の側面のそれぞれの下端側に前記上部平面と平行に形成された下部平面を備え、前記下部平面には中央部に前記プラズマ処理室へ通じる開口が形成されており、前記誘電体枠の上部平面上には前記第1及び第2の側面と平行に第1の導波管が配置されていると共に、前記第1及び第2の側面にもそれぞれ第2及び第3の導波管が配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の表面波励起プラズマ処理装置では、プラズマ生成室を形成する誘電体枠は、方形状の上部平面と、前記上部平面の両端部に垂下するように形成された第1及び第2の側面と、前記第1及び第2の側面のそれぞれの下端側に前記上部平面と平行に形成された下部平面を備え、前記下部平面には中央部に前記プラズマ処理室へ通じる開口が形成されている。そのため、プラズマ処理室内では、第1〜第3の導波管の軸方向と直角方向には金属製部材が露出していないので、表面波が従来例のように金属製部材によって吸収ないし反射されることが少なくなる。
【0014】
加えて、第1の導波管により生成された表面波の強度は、第1の導波管の軸方向と直角方向では第1の導波管から誘電体枠の第1及び第2の側面側に向かうに従って低下する。しかしながら、誘電体枠の第1及び第2の側面部分には第2及び第3の導波管が配置されているため、第1の導波管の軸方向と直角方向の第1及び第2の側面側には第2及び第3の導波管によって生成された表面波も供給されている。そのため、本発明の表面波励起プラズマ処理装置によれば、プラズマ生成室を形成する誘電体枠の表面全体に亘って安定的に強度の強い表面波が形成され、高密度のプラズマを安定的に生成できるようになるので、大面積基板を高速で一様にプラズマ処理を行うことができるようになる。なお、係る発明における第1〜第3の導波管は、マイクロ波エネルギーをプラズマ生成室内に効率的に投入できるようにするためには、角形導波管であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の表面波励起プラズマ処理装置においては、前記第1の導波管に供給されるマイクロ波電力を前記第2及び第3の導波管に供給されるマイクロ波電力よりも大きくし、前記第1の導波管のスロットアンテナのスロット間隔λaを前記第2及び第3の導波管のスロットアンテナのスロット間隔λb及びλcよりも大きくすることが好ましい。
【0016】
係る態様の表面波励起プラズマ処理装置では、第1の導波管に大電力のマイクロ波を供給して効率よく表面波を生成させ、この第1導波管の軸から直角方向に離れた表面波が弱くなった部分では、第2及び第3の導波管によって表面波を補うことができる。そのため、係る態様の表面波励起プラズマ処理装置によれば、プラズマ生成室を形成する誘電体枠の表面全体に亘ってより安定的に強度の強い表面波が形成され、高密度のプラズマを安定的に生成できるようになる。
【0017】
しかも、導波管に大電力のマイクロ波を供給すると生成する表面波の波長は長波長側にずれるが、本発明の表面波励起プラズマ処理装置によれば、大電力のマイクロ波が供給される第1の導波管によって生じる表面波の波長と第1の導波管のスロットアンテナのスロット間隔λaとの差異を小さくできるため、プラズマの生成効率が向上する。なお、第2及び第3の導波管は、互いに同一寸法のものであって、スロットアンテナのスロット間隔λb及びλcも同一のものであってもよい。
【0018】
また、本発明の表面波励起プラズマ処理装置においては、前記第1の導波管のスロット間隔λaと、前記第2及び第3のスロット間隔λb及びλcをそれぞれの前記第1〜第3の導波管に対応する面に形成される表面波の波長と同一にすることが好ましい。
【0019】
上述のように、導波管に大電力のマイクロ波を供給すると生成する表面波の波長は長波長側にずれる。しかしながら、本発明の表面波励起プラズマ処理装置によれば、第1の導波管のスロットアンテナのスロット間隔λaを大電力のマイクロ波が供給された場合の表面波の波長に合わせて最適化できる。更に、第2及び第3の導波管のスロットアンテナのスロット間隔λb及びλcをより小電力のマイクロ波が供給された場合の表面波の波長に最適化できる。そのため、本発明の表面波励起プラズマ処理装置によれば、よりプラズマの生成効率が向上する。
【0020】
また、本発明の表面波励起プラズマ処理装置においては、前記第1〜第3の導波管の断面寸法は、前記第1〜第3の導波管のスロット間隔λa、λb及びλcがそれぞれ前記第1〜第3の導波管内のマイクロ波の管内波長と同一となるようにしたことを特徴とする。
【0021】
係る態様の表面波励起プラズマ処理装置の発明によれば、第1〜第3の導波管と各スロットアンテナとの間のインピーダンス整合が取れるため、効率よく第1〜第3の導波管内のマイクロ波をスロットアンテナのスロットを介してプラズマ生成室内に導入することができようになる。そのため、本発明の表面波励起プラズマ処理装置によれば、プラズマの生成効率がより向上する。従って、マイクロ波発生器の必要台数が少なくできることによって表面波励起プラズマ処理装置の軽量化だけでなく、製造コストが低減できる効果もある。
【0022】
また、本発明の表面波励起プラズマ処理装置においては、前記誘電体枠の上部平面上の第1導波管の両側及び前記の誘電体枠の第2及び第3導波管側の下部平面の表面にはそれぞれ前記第1〜第3導波管に平行に磁石が設けられていることが好ましい。
【0023】
このように導波管の両側に沿って磁石を配置すると、この磁石によって形成された磁場によって表面波の一部がプラズマ中に浸入し、磁場の強度が87.5mT(875ガウス)の時に電子サイクロトロン共鳴を起こす。そのため、係る態様の表面波励起プラズマ処理装置によれば、プラズマは誘電体枠から離れた場所においても表面波の電磁エネルギーを吸収することができるので、効率よくプラズマを生成させることができるようになる。しかも、第1〜第3の導波管に供給するマイクロ波の電力を下げても必要なプラズマ密度が得られるため、誘電体枠に生成する熱応力が小さくなり、表面波励起プラズマ処理装置の安全性が向上する。また、磁石が形成する磁場強度が87.5mT以下の場合には、磁場によるプラズマの閉じ込め効果によって、導入するプラズマ生成用ガスの導入する位置を最適化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施形態及び図面を用いて詳細に説明するが、以下に述べる実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0025】
図1は本発明の第1の実施形態に係る表面波励起プラズマ処理装置の斜視図である。図2は図1の表面波励起プラズマ処理装置の動作原理を説明するための概念図である。図3Aは第1の導波管のスロットアンテナの構成を示す図であり、図3Bは第2及び第3の導波管のスロットアンテナの構成を示す図である。図4は図3AのIV−IV線に沿った断面図である。図5は本発明の第2の実施形態に係る表面波励起プラズマ処理装置の斜視図である。
【0026】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る表面波励起プラズマ処理装置10Aを図1〜図3を用いて説明する。この表面波励起プラズマ処理装置10Aは、プラズマ生成室11及びプラズマ処理室12(図2参照)を備えている。プラズマ生成室11は、プラズマ生成室11内にマイクロ波を放射するための誘電体枠13と、誘電体枠13上に配置されたスロットアンテナとして作用するスロット14a〜14c(図2及び図3参照)を有する互いに平行に配置された第1〜第3の導波管15a〜15cと、金属枠16と、を備えている。誘電体枠13の材料としては、石英、アルミナ、ジルコニア等の耐熱性が良好な誘電体材料が使用される。この誘電体枠13は、方形状の上部平面13aと、上部平面13aの両端部に垂下するように形成された第1及び第2の側面13b、13cと、第1及び第2の側面13b、13cのそれぞれの下端側に上部平面13aと平行に形成された下部平面13dを備え、下部平面13dには中央部にプラズマ処理室12へ通じる開口17が形成されている。
【0027】
そして、誘電体枠13の方形状の上部平面13aには、その幅方向の中央部に、長さ方向に沿って第1の導波管15aが、そのスロット14aが上部平面13a側となるように接合されている。また、誘電体枠13の第1及び第2の側面13b、13cには、それぞれその幅方向の中央部に、長さ方向に沿って第2及び第3の導波管15b及び15cが、それらのスロット14b及び14cが第1及び第2の側面13b、13c側となるように接合されている。これらの第1〜第3の導波管15a〜15cは、互いに軸方向に平行になるように配置されている。
【0028】
また、第1〜第3の導波管15a〜15cは、図1において、手前側が図示しない終端装置で閉鎖され、背面側から別途マグネトロン発振管等からなるマイクロ波発生器から供給されたマイクロ波が供給されるようになっている。これらの第1〜第3の導波管15a〜15cは、例えばアルミニウム合金で作成され、断面が方形状の筒状体、すなわち角形導波管となっているとともに、誘電体枠13と接する面側にはマイクロ波をプラズマ生成室11内に供給するためのスロットアンテナとして作用するスロット14a〜14cが形成されている。なお、このスロットアンテナとして作用するスロット14a〜14cの詳細な構成については後述する。
【0029】
また、金属枠16は、誘電体枠13の周囲を覆っていると共に、誘電体枠13の開口17に沿って下側に伸びる接続部18を備え、この接続部18によってプラズマ生成室はプラズマ処理室12の上部壁19に固定されている。なお、図1においてはプラズマ処理室12の上部壁19以外の構成については省略してある。この金属枠16及び接続部はステンレススチール等の耐熱性及び耐食性が良好な金属によって形成されている。なお、図示省略したが、金属枠16はプラズマ生成室11及び接続部18の図1における前面側及び背面側をも覆っている。また、プラズマ処理室12は、真空容器になっており、真空排気装置(図示せず)が設けられていると共に内部に処理基板23の載置手段(図示せず)が設けられている。
【0030】
第1〜第3の導波管15a〜15bには、それぞれマグネトロン発振管等からなるマイクロ波発生器から個別に2.45GHzのマイクロ波が供給される。マイクロ波電力は1導波管当たり1kW〜4kWであるが、その最大電力は誘電体枠13に生成する熱応力によって制限される。誘電体枠13に接するスロット14a〜14bはマイクロ波の放射アンテナとして働くため、マイクロ波は誘電体枠13を通して誘電体枠13内に放射される。
【0031】
スロット14a〜14cから誘電体枠13内に放射されるマイクロ波は、誘電体枠13の表面に表面波20a〜20cを生成させる。プラズマ処理室12内には、プラズマ処理に適した各種ガスがガス導入管21から導入される。この表面波20a〜20cの電磁エネルギーは、導入されたガスによって吸収され、プラズマ22が生成する。生成したプラズマ22は、開口17及び接続部18を介してプラズマ処理室12内に配置された処理基板23に照射され、処理基板23の表面にプラズマによる表面処理が施される。
【0032】
表面処理工程として、例えば基板23上にアモルファスシリコン薄膜を成膜する場合、プラズマ生成用ガスとしてはシランガス及び水素ガスが用いられ、プラズマ処理中のガス圧力は2〜50Paに維持される。プラズマ生成用ガスの圧力は図示しない真空ポンプ及び圧力調整バルブ等を備える真空排気装置によって前述の予め実験的に定めた所定の圧力に調整される。また、処理基板23に窒化シリコン膜を製膜する場合は、プラズマ生成用ガスとしてはシランガス及びアンモニアガスが用いられ、プラズマ処理中のガス圧力は2〜50paに維持される。このとき、処理基板23の温度を350℃〜450℃に加熱することによって緻密な窒化シリコン膜が得られる。
【0033】
この第1の実施形態の表面波励起プラズマ処理装置10Aにおけるプラズマ生成室11は、処理基板23側の開口17以外は誘電体枠13によって被覆されている。そのため、プラズマ生成室11内では、表面波20a〜20cは、金属枠16によって反射されたり、吸収されたりすることがない。従って、表面波20a〜20cは、誘電体枠13の表面において、導波管15a〜15cの軸方向だけでなく、直角方向においても強度が減少することなく一様に広がるので、生成するプラズマ22は、導波管15a〜15cの軸方向だけでなく直角方向においても強度が均一となり、しかも大容積のプラズマ22が得られるようになる。
【0034】
従って、かかる第1の実施形態の表面波励起プラズマ処理装置10Aによれば、プラズマ22の密度が高く、しかも開口17部分で均一となる。そのため、処理基板23にプラズマCVD法等によって成膜する場合には、処理基板23のサイズが大きくなっても、処理基板23の表面に高速で、膜厚及び膜特性が均一な薄膜を製膜することができるようになる。加えて、基板23に対してエッチング処理を行う場合には、エッチング量が処理基板23の表面内で均一となるという効果も奏する。
【0035】
ここで、第1の実施形態の表面波励起プラズマ処理装置10Aにおける、第1〜第3の導波管15a〜15cのスロット14a〜14cの具体的構成について図3を用いて説明する。ただし、第2及び第3の導波管15b、15cの構成は同一としてあるので、第2及び第3の導波管15b、15cのスロット14b、14cの具体的構成については、第2の導波管15bのスロット14bに代表させて説明する。
【0036】
一般に、導波管に形成するスロットの間隔は、導波管内のマイクロ波の1/2波長の整数倍に設定すると、マイクロ波が効率よくスロットから放射されることが知られている。ここでマイクロ波の管内波長は、マイクロ波の伝播モードをTE波又はTM波に設定すれば、導波管の断面寸法によって決まる値となる。
【0037】
プラズマ密度を高くするための条件は、スロット14a〜14cから放射されるマイクロ波が効率よく表面波20a〜20cを生成させることである。これは、スロット14a、14bの間隔を表面波20a〜20cの波長に合わせることによって実現される。しかしながら、図6に示したように、表面波の波長はプラズマ密度に依存して変化する。すなわち、プラズマ密度が大きくなれば表面波の波長は長くなる。従って、導波管15a〜15cに供給するマイクロ波電力を増加させてプラズマ密度を増加させようとすると、表面波20a〜20cの波長はスロットアンテナ14a及び14bの間隔からずれてしまう。そのため、プラズマの強度が大きくなり難くなると共に、プラズマ密度が時間的に不安定になる。
【0038】
この問題を解決するため、図3A及び図3Bに示したように、特に大きなマイクロ波電力が供給される第1の導波管15aのスロット14aの間隔を第2の導波管15bのスロット14bの間隔よりも広くなるようにしている。すなわち、第2の導波管15bよりも大きなマイクロ波電力が供給される第1の導波管15aは図6に領域aとして示した高プラズマ密度領域の条件に適合するようにし、第2の導波管15bは図6に領域bとして示した低〜中プラズマ密度領域の条件に適合するようにしている。この場合でも、特に大きなマイクロ波電力が供給される第1の導波管15aのスロット14aの間隔は、効率よくマイクロ波をスロットアンテナを経てプラズマ生成室内に導入できるようにするため、マイクロ波の管内波長と同じになるようにインピーダンス整合を取るようにした方がよい。そのためには、第1の導波管15aの断面寸法が第2及び第3の導波管15b及び15cとは異なる導波管を選定すればよい。なお、第2及び第3の導波管15b及び15cにおいても、供給されるマイクロ波の電力に応じてスロット14aの間隔をマイクロ波の管内波長と同じになるようにすると、より効率的にプラズマ22を生成させることができるようになる。
【0039】
なお、導波管15a〜15c内は大気圧雰囲気下にあるが、プラズマ生成室11内は真空雰囲気下にある。従って、誘電体枠13aのみによってプラズマ生成室11内を密閉状態に維持することは困難であるため、導波管15a〜15cとプラズマ生成室11との間には真空封止のための構成が設けられている。この真空封止のための構成の一例を図4により説明する。なお、図4は第1の導波管15aのスロット14a部分の拡大断面図であるが、他の導波管のスロット部の構成も同様である。導波管15aのスロット14a部分に位置する金属枠16には導波管15aの幅よりも狭い開口16aが形成されており、この開口16aは誘電体枠13a側が導波管15a側よりも狭幅とされて段部16bとなっている。また、この段部16bには、開口16aを囲むように溝16cが形成され、この溝16c内にOリング41が配置されている。
【0040】
そして、この開口16a内にはフランジ部42aを有する真空保持板42が段部16b上に位置するように載置されている。この真空保持板42のフランジ部42の下面は、取り付けネジ43によってOリング41と接触する。そうすると、プラズマ生成室11を気密状態に維持することができる。なお、真空保持板42としては誘電体枠13aと同じ材料からなるものを使用することが好ましい。
【0041】
このように、第1の実施形態の表面波励起プラズマ処理装置10Aによれば、プラズマ密度の増大に合わせて励起する導波管及びスロットを分担する構成になっているので、プラズマの強度を安定して増大化することができる。そのため、第1の実施形態の表面波励起プラズマ処理装置10Aを用いて基板処理を行うと、プラズマ密度を安定して増大できるため、短時間で大面積の処理基板23に対して薄膜形成又はエッチング処理等のプラズマ処理を行うことができるようになる。
【0042】
[第2の実施形態]
第2の実施形態の表面波励起プラズマ処理装置10Bの構成を図5を用いて説明する。なお、図5においては図1〜図4に記載の表面波励起プラズマ処理装置10Aと同一の構成部分には同一の参照符号を付与してその詳細な説明は省略する。
【0043】
第2の実施形態の表面波励起プラズマ処理装置10Bが、第1の実施形態の表面波励起プラズマ処理装置10Aと構成が相違する点は、誘電体枠13の上部平面13a上の第1の導波管15aの両側及び誘電体枠13の第2及び第3の導波管15b、15c側の下部平面13dの表面に、それぞれ前記第1〜第3の導波管15a〜15cに平行に磁石25a〜25dを設けた点である。これらの磁石25a〜25dは永久磁石でよい。これらの磁石25a〜25dはプラズマ22中に磁場を形成する。そうすると、第1〜第3の導波管15a〜15cからのマイクロ波放射によって誘電体枠13に生成した表面波の一部は磁場に沿ってプラズマ22中に浸入するが、この表面波は磁場の強度が87.5mTの時に電子サイクロトロン共鳴する。この電子サイクロトロン共鳴によって、誘電体枠13の表面から離れた領域においてもプラズマ22は表面波の電磁エネルギーを吸収することができるようになる。
【0044】
このような磁場の効果によって、導波管15a〜15cに供給するマイクロ波の入力電力を下げても必要なプラズマ密度が得られるため、誘電体枠13に生成する熱応力が小さくなり、プラズマ処理装置の安全性が向上する。また、磁石25a〜25dが形成する磁場強度が87.5mT以下の場合には、磁場によるプラズマの閉じ込め効果によって、導入するシランガス、アンモニアガス、水素ガス等の反応性ガスの導入する位置を最適化できるメリットがある。すなわち、分解が容易なシランガスを閉じ込められたプラズマ領域から離れた位置に導入し、水素ガスは閉じ込められたプラズマ領域に導入することによって、プラズマ中でイオン化したガス種の濃度を制御することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る表面波励起プラズマ処理装置の斜視図である。
【図2】図1の表面波励起プラズマ処理装置の動作原理を説明するための概念図である。
【図3】図3Aは第1の導波管のスロットアンテナの構成を示す図であり、図3Bは第2及び第3の導波管のスロットアンテナの構成を示す図である。
【図4】図3AのIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る表面波励起プラズマ処理装置の斜視図である。
【図6】表面波励起プラズマ処理装置におけるプラズマ密度と表面波波長の変化の関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
10A、10B:表面波励起プラズマ処理装置 11:プラズマ生成室 12:プラズマ処理室 13、13a〜13d:誘電体枠 14a〜14c:スロット 15a〜15c:導波管 16:金属枠 16a:開口 16b:段部 16c:溝 17:開口 18:接続部 19:上部壁 20a〜20c:表面波 21:ガス導入管 22:プラズマ 23:処理基板 25a〜25d:磁石 41:オーリング 42:真空保持板 42a:フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波発生部と、プラズマ生成室と、前記プラズマ生成室の下部に配置されたプラズマ処理室とを備え、前記プラズマ生成室は、プラズマ生成室内にマイクロ波を放射するための誘電体枠と、前記誘電体枠上に配置されたスロットアンテナを有する互いに平行に配置された複数の導波管と、を備えている表面波励起プラズマ処理装置において、
前記誘電体枠は、方形状の上部平面と、前記上部平面の両端部に垂下するように形成された第1及び第2の側面と、前記第1及び第2の側面のそれぞれの下端側に前記上部平面と平行に形成された下部平面を備え、前記下部平面には中央部に前記プラズマ処理室へ通じる開口が形成されており、
前記誘電体枠の上部平面上には前記第1及び第2の側面と平行に第1の導波管が配置されていると共に、前記第1及び第2の側面にもそれぞれ第2及び第3の導波管が配置されていることを特徴とする表面波励起プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記第1の導波管に供給されるマイクロ波電力を前記第2及び第3の導波管に供給されるマイクロ波電力よりも大きくし、前記第1の導波管のスロットアンテナのスロット間隔λaを前記第2及び第3の導波管のスロットアンテナのスロット間隔λb及びλcよりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の表面波励起プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記第1の導波管のスロット間隔λaと、前記第2及び第3のスロット間隔λb及びλcをそれぞれの前記第1〜第3の導波管に対応する面に形成される表面波の波長と同一にしたことを特徴とする請求項2に記載の表面波励起プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第1〜第3の導波管の断面寸法は、前記第1〜第3の導波管のスロット間隔λa、λb及びλcがそれぞれ前記第1〜第3の導波管内のマイクロ波の管内波長と同一となるようにしたことを特徴とする請求項2又は3に記載の表面波励起プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記誘電体枠の上部平面上の第1導波管の両側及び前記誘電体枠の第2及び第3導波管側の下部平面の表面にはそれぞれ前記第1〜第3導波管に平行に磁石が設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の表面波励起プラズマ処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−146837(P2009−146837A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325473(P2007−325473)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(391060395)エス・イー・エス株式会社 (46)
【Fターム(参考)】