説明

被写体画像の抽出システム

【課題】明度や色合いが変動しても画素単位の分解能で被写体を精度良く背景から分離できる被写体画像の抽出システムを提供する。
【解決手段】被写体画像抽出部3は、背景画像と対象画像の各画素における、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)、Radial Reach Correlation(RRC)値、および/または各画素のRadial Reachの被ペア点における、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)が予め定められた閾値を超えるRadial Reachの割合等を基に、被写体領域を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被写体画像の抽出システムに関し、特に背景画像との差分を用いて被写体画像を抽出する被写体画像(または、前景画像)の抽出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献および非特許文献では、明度を用いて照合評価量を定義し、明度変化に鈍感でありながらも被写体をロバストに抽出する手法を提案している。
【0003】
この手法では、背景画像において、注目点から放射状の8方向に探索腕(リーチ)を延ばし、正、負の明度差のある点(リーチ点)を検出する。次に、検出対象画像において、同じ位置の注目点に関して、リーチ点における明度の正負関係「Radial Reach Correlation」を判定し、予め設定されている「Radial Reach Correlationの閾値」に基づく多数決判定により、類似/非類似画素の判定を行う。
【0004】
より具体的に説明すると、次のようになる。図7に示されているように、画像1内の任意の位置p(x、y)から放射状に延びる延長腕(リーチ)の方向を表す方向ベクトルd(k=0,1,・・・、7)を定義する。そして、これらの方向へのリーチrが次のように求められる。
=min{r||f(p+rd)−f(p)|≧Tp}
【0005】
ここに、fは背景画像、Tpは明度差の閾値である。
【0006】
また、リーチ群によって選択される明度値間の差に基づいて、背景画像fの各画素f(p)毎に、下式のように明度差分の極性符号である増分符号の系列を定義する。
【0007】
【数1】

【0008】
次に、対象画像gの各画素についても、同様に、下式のように、増分符号列を求める。
【0009】
【数2】

【0010】
次いで、背景画像fと対象画像g間の任意の画素の類似度を評価するために、両増分符号列間の一致数(相関)Bを、下式から求める。
【0011】
【数3】

【0012】
このB(p)は、Radial Reach Correlation(RRC)値と呼ばれ、画素p周辺の明度分布の類似度(相関値)を表す。該B(p)は、0〜8の値をとり、この値が大きい程、対象画像と背景画像の画素pの明度が互いに類似していることを示す。
【特許文献1】特開2003−141546号公報
【非特許文献1】電子通信学会論文誌、D-11 Vol.J86-D-II、No.5、P616-624、2003年5月「Radial Reach Filter(RRF)によるロバストな物体検出」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記した従来技術のような、背景のみを撮影した画像を用いて被写体を背景から分離する処理においては、一般に、明度や色合いの変動の影響により、被写体の領域が正しく分離されないことが多いという課題がある。
【0014】
本発明の目的は、前記した課題を解消し、明度や色合いが変動しても、画素単位の分解能で精度良くかつロバストに、被写体を背景から分離できる被写体画像の抽出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記した目的を達成するために、本発明は、背景画像と対象画像とを比べて該対象画像から被写体画像を抽出する被写体画像の抽出システムにおいて、色ベクトル情報を考慮に入れて、対象画像から被写体画像を抽出するようにした点に特徴がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、色ベクトル情報をも考慮に入れて対象画像から被写体の分離・抽出を行うようにしたので、明度変化に鈍感でありながらも、また、背景と被写体の明度が近くても、被写体をロバストに抽出することができるようになる。
【0017】
すなわち、請求項1の発明によれば、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)のRRC値に基づいて被写体画像の抽出を行うので、被写体を背景から精度良くかつロバストに分離できるようになる。
【0018】
請求項2の発明によれば、背景画像と対象画像の各画素における、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)、およびRRC値に基づいて被写体画像の抽出を行うので、より高い精度でかつロバストに、被写体を背景から分離できるようになる。
【0019】
請求項3の発明によれば、背景画像と対象画像の各画素のRadial Reachの被ペア点における、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)が、予め定められた閾値を超えているRadial Reachの割合に基づいて被写体画像の抽出を行うので、被写体を背景から精度良くかつロバストに分離できるようになる。
【0020】
また、請求項4の発明によれば、背景画像と対象画像の各画素における、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)、および背景画像と対象画像の各画素のRadial Reachの被ペア点における、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)が、予め定められた閾値を超えているRadial Reachの割合に基づいて被写体画像の抽出を行うので、より高い精度でかつロバストに、被写体を背景から分離できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の被写体画像抽出システムの概略の構成を示すブロック図である。
【0022】
図1において、背景画像と対象画像は、明度・色ベクトル検出部1、被写体画像抽出部3および被ペア点探索部4に入力する。該被ペア点探索部4は、前記リーチrを基に、被ペア点を求める。
【0023】
前記明度・色ベクトル検出部1は、背景画像と対象画像の各々について、画素の明度と色ベクトルを求める。色ベクトルは、図2に示されているように,例えばRGBを3つの成分とするベクトルで定義される。閾値決定部2では、対象画像内の背景領域と、背景画像中の前記背景領域に対応する領域とを比較し、明度の差と色ベクトルのなす角それぞれの統計量(例えば、標準偏差)に基づいて、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)それぞれを有意とみなすための閾値Th1,Th2を求める。該閾値Th1,Th2として、例えば前記標準偏差の2倍とすることができる。前記明度の差の閾値Th1、色ベクトルのなす角の閾値Th2は、被写体画像抽出部3に提供される。なお、該閾値Th1,Th2は、常時求めても良いし、数フレームおきに求めてもよい。または、記憶媒体に記憶させておき、該記憶媒体から読み出すようにしてもよい。
【0024】
また、RRC値算出部5は、前記被ペア点の明度差分によるRRC値と、色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)によるRRC値を、前記数1〜数3の手法で求めて、被写体画像抽出部3に提供する。なお、色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)についてのRRC値は、明度の差のRRC値と同様に求めることができる。また、該被写体画像抽出部3に、RRC閾値Th3と、後述する閾値Th4が提供される。該RRC閾値Th3としては、前記数3の式で求められるRadial Reach Correlation(RRC)の最大値は8であるので、例えば4,5、又は6などの値とすることができる。
【0025】
次に、前記被写体画像抽出部3の処理の第1実施例を、図3のフローチャートを参照して説明する。被写体画像抽出部3は、まず、ステップS1で、背景画像および対象画像の各画素の明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)についてのRRC値を求める。ステップS2では、該求められた各画素のRRC値と前記RRC閾値Th3とを比較し、RRC値≧Th3であればステップS3に進んで背景領域の画素とし、前記明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)の少なくとも一方のRRC値が、RRC値<Th3であれば、ステップS4に進んで被写体領域の画素とする。これは、RRC値が大きければ背景画像と対象画像との一致度が大きく、逆に小さければ該一致度が小さいからである。この処理により、対象画像は、背景領域と被写体領域と区分けされ、対象画像から被写体領域をロバストに抽出することができるようになる。
【0026】
この実施例では、色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)についてのRRC値を被写体領域の判定に加えているので、該被写体領域の検出精度は向上する。
【0027】
次に、本発明の第2実施例を、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0028】
被写体画像抽出部3は、ステップS11で、対象画像と背景画像の対応する各画素についての明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)を求める。ステップS12では、該明度の差≧Th1または色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)≧Th2が成立するか否かの判断がなされる。この判断が肯定の場合にはステップS13に進んで、被写体領域の画素であるとされる。これは、該明度の差または色ベクトルのなす角が大きければ、対象画像の画素は背景とは異なると考えられるからである。
【0029】
ステップS12の判断が否定の時には、ステップS14に進んで、背景画像および対象画像の各画素についてのRRC値を求める。ステップS15では、各画素のRRC値と前記RRC閾値Th3とを比較し、RRC値≧Th3であればステップS16に進んで背景領域の画素とし、RRC値<Th3であれば、ステップS13に進んで被写体領域の画素とする。なお、前記ステップS12において、明度の差≧Th1および色ベクトルのなす角≧Th2が成立する時にステップS13に進み、不成立の時にステップS14に進むようにしてもよい。
【0030】
この実施例では、前記第1実施例に、明度の差および/または色ベクトルのなす角の判断を加えているので、被写体領域検出の精度をより向上することができる。
【0031】
次に、本発明の第3実施例を、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
被写体画像抽出部3は、ステップS21で、背景画像および対象画像の各画素の「Radial Reach」の被ペア点(図7の点q0,q1,q2,・・・,q7)における明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)を求める。ステップS22では、前記被ペア点の明度の差≧Th1となるRadial Reachの割合Aを算出する。次いで、ステップS23では、前記色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)≧Th2となるRadial Reachの割合Bを算出する。ステップS24では、前記明度の差≧Th1かつ色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)≧Th2のRadial Reachの割合Cを算出する。次に、ステップS25では、前記割合A,B,Cのいずれかが予め定められた閾値Th4以上かどうかが判断される。そして、この判断が肯定の時には、画素p(x、y)(図7参照)は被写体領域、否定の時には背景領域とする。なお、ステップS25において、前記割合A,B,Cのうちのいずれか2つまたは3つ全部が前記閾値Th4以上の場合に、被写体領域の画素、該閾値Th4より小さい場合に背景領域としてもよい。
【0033】
この実施例によれば、背景領域からの被写体領域の検出を精度良くかつロバストに行えるようになる。
【0034】
次に、本発明の第4実施例を、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0035】
被写体画像抽出部3は、ステップS31、S32、S33の処理を行う。これらの処理は、図4のステップS11,S12,S13と同じであるので説明を省略する。ステップS32が否定の時には、ステップS35〜S40の処理を行う。これらの処理は、図5のステップS21〜S25、S27と同じであるので説明を省略する。
【0036】
前記第1〜4実施例で、対象画像の各画素を被写体領域と背景領域に区分けした後、領域境界検出フィルタ(ラプラシアンフィルタや、Canyフィルタなど)を施し、シードフィル(seedfill)を適用する。この処理をすると、輪郭で囲まれた被写体を例えば黒色で塗りつぶすことができ、被写体の検出精度を高めることができる。
【0037】
本発明は、前記の説明から明らかなように、色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)をも被写体領域の判定に用いたので、精度よくかつロバストに被写体領域を判定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態の概略の構成を示すブロック図である。
【図2】色ベクトルの定義の説明図である。
【図3】本発明の第1実施例の動作を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施例の動作を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の第3実施例の動作を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の第4実施例の動作を説明するフローチャートである。
【図7】従来のRadial Reachの説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1・・・明度・色ベクトル検出部、2・・・閾値決定部、3・・・被写体画像抽出部、4・・・RRC閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背景画像と対象画像とを比べて該対象画像から被写体画像を抽出する被写体画像の抽出システムにおいて、
前記背景画像と対象画像について、Radial Reachの被ペア点を求める手段と、
該Radial Reachの被ペア点を基に、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)についてのRadial Reach Correlation(RRC)値を求める手段と、
前記背景画像と対象画像とを基に該対象画像から被写体画像を抽出する被写体画像抽出手段とを具備し、
前記被写体画像抽出手段は、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)についてのRRC値の少なくとも一方が、予め定められた閾値Th3を超える画素を背景領域、超えない画素を被写体領域とすることを特徴とする被写体画像の抽出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の被写体画像の抽出システムにおいて、
前記背景画像と対象画像について、各画素の明度の差についての閾値Th1と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)についての閾値Th2を設定する手段をさらに具備し、
前記被写体画像抽出手段は、前記背景画像と対象画像の各画素において、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)とを求め、該明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)の少なくとも一方が前記対応する閾値Th1、Th2を超えていれば、該対象画像の画素を被写体領域とみなし、超えていなければ、前記請求項1の処理をすることを特徴とする被写体画像の抽出システム。
【請求項3】
背景画像と対象画像とを比べて該対象画像から被写体画像を抽出する被写体画像の抽出システムにおいて、
前記背景画像と対象画像について、Radial Reachの被ペア点を求める手段と、
前記背景画像と対象画像とを基に該対象画像から被写体画像を抽出する被写体画像抽出手段とを具備し、
前記被写体画像抽出手段は、前記背景画像と対象画像の各画素のRadial Reachの被ペア点における、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)を求め、該明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)のいずれか一方若しくは両方が予め定められた閾値を超えているRadial Reachの割合を求め、該割合が予め定められた他の閾値を超えている場合には、前記対象画像の画素を被写体領域、超えていない場合には、背景領域とすることを特徴とする被写体画像の抽出システム。
【請求項4】
請求項3に記載の被写体画像の抽出システムにおいて、
前記背景画像と対象画像について、各画素の明度の差についての閾値Th1と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)についての閾値Th2を設定する手段をさらに具備し、
前記被写体画像抽出手段は、前記背景画像と対象画像の各画素において、明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)とを求め、該明度の差と色ベクトルのなす角(または、色ベクトルの差分ベクトルの大きさ)の少なくとも一方が前記対応する閾値Th1、Th2を超えていれば、該対象画像の画素を被写体領域とみなし、超えていなければ、前記請求項3の処理をすることを特徴とする被写体画像の抽出システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−250476(P2008−250476A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88736(P2007−88736)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】