説明

被処理水中のアンモニア成分およびリン成分の同時回収方法、並びに同時回収システム

【課題】アンモニア成分とリン成分を含有する被処理水からのアンモニア成分とリン成分をMAPとして同時回収する。
【解決手段】(1)被処理水をゼオライト系陽イオン吸着材と接触させてアンモニア成分を吸着する工程、(2)被処理水をハイドロタルサイト系陰イオン吸着材と接触させてリン成分を吸着する工程、(3)ゼオライト系陽イオン吸着材およびハイドロタルサイト系陰イオン吸着材から、共通の脱着液を用いて吸着成分を脱着させることにより、脱着・再生液の陽・陰イオンを無駄なく使用できると共に、アンモニア成分とリン成分が共存する溶液を回収する工程、(4)回収した溶液に、アルカリとマグネシウムイオンを添加し、アンモニア成分とリン成分とをMAPとして沈殿分離し、アンモニア成分とリン成分を同時に回収する工程、(5)工程(4)でMAPを回収した後の溶液を工程(3)の脱着液の少なくとも一部として再使用する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水や工業排水などの人為的排水、河川水やダム湖水、更には畜産排水などからのアンモニア成分とリン成分とを同時に回収する方法に関する。より詳しくは、アンモニウムイオンとリン酸イオンの選択的イオン交換吸着とこれらの成分の同時脱着後のリン酸マグネシウムアンモニウム(MgNH4PO4・xH2O、以下「MAP」ということがある。)としての回収方法および回収システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、下水道の普及が進んだことにより河川や湖沼などの公共水域の水質汚濁は改善しつつある。しかし、一部の閉鎖性水域では栄養塩が蓄積し、富栄養化が進行した結果、藻類の異常増殖の発生に伴う水質障害が発生しているため、排水処理において窒素、リンの除去は極めて重要である。
【0003】
従来の栄養塩除去技術に選択的イオン交換法やMAP法がある。前者は、イオン交換吸着材を被処理水に接触させ、リン酸イオンを吸着させたのち、吸着材から吸着物質を脱着させ処理するという技術である。生物学的処理法と比較して、吸着速度が速い、汚泥が発生しないことなどの利点があり、これまでに様々な吸着材の適用が試みられている。またリンの回収に関しては、吸着処理後に吸着材からリン酸イオンを脱着させて、最終的に後述のMAP法などでリン酸イオンを液中から回収する方法が考案されている。
後者のMAP法とは、高pH条件下でリン酸イオン溶液にアンモニアおよびマグネシウムを加えてMAPとして結晶化させて、リン酸イオンだけでなくアンモニウムイオンも同時に回収する技術である。そのため肥料としての効果が高く、回収物をそのまま肥料に使用できるという利点がある。
【0004】
このようなMAP法によるリンやアンモニアの回収方法として、例えば、特許文献1には、ハイドロタルサイトを含む複合金属水酸化物からなるリン吸着材を使用し、排水中のリン成分を吸着後、アルカリ金属塩炭酸塩又はアルカリ土類金属炭酸塩を含む脱着剤でリン成分を脱着して、その脱着液にアンモニア又はアンモニウム塩の水溶液を混合し、リン成分をリン酸マグネシウム及び/又はリン酸マグネシウムアンモニウムとして分離する方法が記載されている。
しかし、この方法は、排水中のアンモニア成分の分離と有効利用について記載するものではない。
【0005】
一方、アンモニウムイオン含有排水からアンモニア成分を除去する方法も公知である。例えば、特許文献2には、アンモニウムイオン含有水をゼオライトと接触させてアンモニウムイオンをゼオライトに捕捉した後、当該ゼオライトを亜硝酸またはその塩の存在下で再生するアンモニウムイオン含有水の処理方法が記載されている。
しかし、この方法は、排水中のリン成分の同時除去について記載するものではない。
【0006】
上記方法を改良するものとして、排水中に含有されるリンおよびアンモニアの同時除去およびそれらの成分のMAPとしての回収についても既に報告がなされている。たとえば、特許文献3には、粒状ゼオライトと粒状活性アルミナの混合充填層に原水を通水してリン、アンモニアを吸着除去した後、充填層にアルカリ水溶液を供給し、吸着したリン、アンモニアを脱離して充填層を再生し、生じた再生廃液にマグネシウムイオンを添加して燐酸マグネシウムアンモニウムとしてリンを回収することが記載されている。
しかし、この方法では粒状ゼオライトと粒状活性アルミナの混合充填層を使用するため、再生時にNa+の不足によってゼオライトの再生が不十分になる恐れがあり、また脱着液の再使用について示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−305343号公報
【特許文献2】特開平9−122638号公報
【特許文献3】特開平9−75921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる現状下、本発明者等は、アンモニア成分およびリン成分を含有する被処理水を陽イオン吸着材および陰イオン吸着材と接触させてアンモニアとリン成分とをそれぞれ吸着させ、脱着液を用いて吸着したアンモニア成分およびリン成分を脱着することによりこれらの成分を回収する方法において、陽イオン吸着材と陰イオン吸着材に特定の吸着材を使用し、また、脱着液として共通の脱着液を使用してアンモニア成分とリン成分をリン酸マグネシウムアンモニウムとして同時に回収しできること、また、リン酸マグネシウムアンモニウムを回収した後の溶液を、脱着液として再使用することができることを見出し本発明に到った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、陽イオン吸着材としてゼオライト系陽イオン吸着材(以下「Ze」ということがある。)を使用し、陰イオン吸着材としてハイドロタルサイト系陰イオン吸着材(以下「HT」ということがある。)を使用し、脱着液を共用することができるようにすると共に、脱着液中のアンモニア成分とリン成分にマグネシウムイオンを添加し、MAPとしてアンモニア成分とリン成分を分離除去する方法に係るものである。
また、本発明は、これらの方法を具現化する回収システムに係るものでる。
【0010】
即ち本発明は、次の[1]から[5]の発明を包含する。
[1] 次の工程(1)〜(5)を含むアンモニア成分およびリン成分を含有する被処理水中のアンモニア成分及びリン成分の同時回収方法。
(1)被処理水をゼオライト系陽イオン吸着材と接触させてアンモニア成分を吸着する工程
(2)ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材と接触させてリン成分を吸着する工程
(3)前記ゼオライト系陽イオン吸着材および前記ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材から、共通の脱着液を用いて吸着成分を脱着させアンモニア成分とリン成分が共存する溶液を回収する工程
(4)前記回収した溶液に、アルカリとマグネシウムを添加し、アンモニア成分とリン成分とをリン酸マグネシウムアンモニウムとして沈殿分離し、アンモニア成分とリン成分を同時に回収する工程
(5)前記工程(4)で、リン酸マグネシウムアンモニウムを回収した後の溶液を、前記工程(3)の脱着液の少なくとも一部として再使用する工程
[2] 前記[1]の工程(3)において、前記ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材からのリン成分の脱着を、前記ゼオライト系陽イオン吸着材からのアンモニア成分の脱着より先に行うアンモニア成分及びリン成分の同時回収方法。
[3] 脱着液が、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩を単独、あるいは複数溶解させた水溶液である前記[1]または[2]に記載のアンモニア成分及びリン成分の同時回収方法。
[4] 被処理水をゼオライト系陽イオン吸着材と接触させてアンモニア成分を吸着する陽イオン吸着槽と、
被処理水をハイドロタルサイト系陰イオン吸着材と接触させてリン成分を吸着する陰イオン吸着槽と、
前記陽イオン吸着層および前記陰イオン吸着層から共通の脱着液を用いて吸着成分を脱着させ、アンモニア成分とリン成分が共存する溶液を回収するアンモニア及びリン回収槽と、
前記回収した溶液に、アルカリとマグネシウムイオンを添加し、アンモニア成分とリン成分とをリン酸マグネシウムアンモニウムとして沈殿分離し、アンモニア成分とリン成分を同時に回収するリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽とを有し、
前記分離手段によりリン酸マグネシウムアンモニウムを回収した後の溶液を、前記脱着手段の脱着液の少なくとも一部として再使用することを特徴とするアンモニア成分およびリン成分の同時回収システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、被処理水中のアンモニア成分及びリン成分の同時回収が可能であり、従来の方法よりも脱着工程が効率的で、かつ脱着液の再使用も行うことからコストの低減が可能である。また、MAP生成時において、マグネシウム成分は供給しなければならないが、アンモニア供給に関しては陽イオン吸着材から脱着したアンモニア成分を用いることで、新たにアンモニアを投入する必要が無いか、少なくとも投入追加するアンモニアを削減することができる
そのため、アンモニアやリン酸イオンに富む下排水への技術の適用のみならず、汚濁が問題となっている河川水やダム湖水などの自然水の直接浄化への適用や畜産排水への適用が可能である。特にダム湖では富栄養化に起因する藻類の増殖が課題となっていることから、これら富栄養化に関与するリンへの対策として本発明は有望である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のアンモニア成分およびリン成分の同時回収システムの概略フロー図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるアンモニア成分およびリン成分の同時回収システムのブロック図である。
【図3】HTおよびZeの吸着等温線とラングミュアプロット図である。
【図4】HTおよびZeの脱着率と脱着成分/脱着液組成の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、図1を参照して具体的に説明する。
ここで、本発明において、アンモニア成分とは、アンモニアとアンモニウムイオンとを含み、リン成分とは、リン酸、ホスホン酸などのイオン形態のリン(リン酸態リン)全般を指す。なお、これらのリン酸態イオンを単に「リン酸イオン」という場合がある。
【0014】
先ず、本発明は、図1に示す次の工程(1)〜(5)を含むアンモニア成分およびリン成分を含有する被処理水中のアンモニア成分及びリン成分の同時回収方法に係るものである。
(1)被処理水をゼオライト系陽イオン吸着材と接触させてアンモニア成分を吸着する工程
(2)被処理水をハイドロタルサイト系陰イオン吸着材と接触させてリン成分を吸着する工程
(3)前記ゼオライト系陽イオン吸着材および前記ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材から、共通の脱着液を用いて吸着成分(「吸着質」ともいう。)を脱着させアンモニア成分とリン成分が共存する溶液を回収する工程
(4)前記回収した溶液に、アルカリとマグネシウムイオンを添加し、アンモニア成分およびリン成分とをリン酸マグネシウムアンモニウム(MgNH4PO4・xH2O)として沈殿分離し、アンモニア成分とリン成分を同時に回収する工程
(5)前記工程(4)で、リン酸マグネシウムアンモニウムを回収した後の溶液を、前記工程(3)の脱着液の少なくとも一部として再使用する工程
【0015】
本発明において、アンモニア成分およびリン成分を含有する被処理水とは、アンモニア成分およびリン成分を同時に含有するものであり、人間社会から排出される生活排水や産業排水、及びアンモニアやリンに富む河川水や湖沼水等が挙げられる。
【0016】
工程(1)は、被処理水中をゼオライト系陽イオン吸着材に接触させてアンモニア成分を吸着する工程である。
本発明の工程(1)で使用するゼオライト系陽イオン吸着材とは、ゼオライトを主成分とする陽イオン吸着材であり、次の化学組成式1)で表される天然、人工、合成のいずれかのゼオライト、またはゼオライトと同等の機能を有するゼオライト様化合物を主成分とする吸着材が使用できる。
2/nO・Al23・xSiO2・yH2O 1)
(式中、nは陽イオンMの原子価、xは2以上の数字、yは0以上の数字を表す。)
なお、ゼオライト様化合物としては、クリノブチライト、モルデナイトや合成ゼオライト等が例示される。 なお、ゼオライトは粉末状で得られる為、一般には粒状化もしくは担体に担持して用いられる。 本発明のゼオライト系陽イオン吸着材としては、例えば、中部電力株式会社製の商品名シーキュラスや日本建設技術株式会社のゼオライト化ミラクルソル(Ze−FWG)が好適に使用できる。
【0017】
工程(2)は、被処理水中をハイドロタルサイト系陰イオン吸着材に接触させてリン成分を吸着する工程である。
本発明の工程(2)で使用するハイドロタルサイト系陰イオン吸着材とは、ハイドロタルサイトを主成分とする陰イオン吸着材であり、次の化学組成式 2)で表される天然ハイドロタルサイト、または合成したハイドロタルサイト様化合物を主成分とする吸着材が使用できる。
[M2+1-X3+x(OH)2][An-x/n・mH2O] 2)
(式中、M2+とM3+は2価及び3価の金属イオン、An-x/nは層間陰イオンを表す。)
なお、ハイドロタルサイト様化合物としては、マナサイト(manasseite)、パイロライト(pyroaurite)やグリーンラスト(green rust)等があげられる。
なお、ハイドロタルサイトは微細粉末であるため、一般にはセラミックス担体にバインダーによりハイドロタルサイトを付着担持して用いられる。本発明のハイドロタルサイト系陰イオン吸着材としては、株式会社トーケミ製のアクリトンが好適に使用できる。
【0018】
本発明において、工程(1)と工程(2)はどちらを先に行っても良い。なお、図1では、ゼオライト系陽イオン吸着材を最初沈殿池と曝気槽の間に設置しているが、浮遊物質によるゼオライト系陽イオン吸着材の閉塞を避けるには最終沈澱池の後に設置することも可能である。その場合、ゼオライト系陽イオン吸着材とハイドロタルサイト系陰イオン吸着材が連続して設置されることになる。
【0019】
次に、本発明では、工程(3)において、前記ゼオライト系陽イオン吸着材および前記ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材から、脱着液を用いて吸着質を脱着させアンモニア成分とリン成分が共存する溶液を回収する。
脱着液としては、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩を単独、あるいは複数溶解させた水溶液を使用することができる。中でも塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム等の塩化物塩の水溶液が好適に使用され、これらの中でも塩化ナトリウム又は塩化カリウムの水溶液がより好適に使用される。また、経済的な面からは、いわゆる海水を使用することも可能である。
【0020】
これらの、脱着剤の水溶液中の濃度は、0.1mol/kg〜20mol/kg程度であり、リン脱着液1のpHは10〜14程度、好ましくは12以上である。
脱着液によるリン吸着材の再生(リン酸イオンの脱着)に必要な時間は、1〜24時間程度である。また、アンモニア吸着材の再生(アンモニウムイオンの脱着)に必要な時間は、1〜4時間程度である。
【0021】
本発明においては、アンモニウムイオンとリン酸イオン両吸着材の脱着工程で1つの脱着液を共用し、脱着液の効率的利用や使用量の低減といった脱着工程の効率化を行うことができることが特徴の一つである。
【0022】
脱着液循環の順序としては、ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材からのリン成分脱着工程での高pH値を利用し、引き続きゼオライト系陽イオン吸着材からのアンモニア成分を脱着することが好ましい。即ち、ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材への吸着成分を先ず脱着させた後、ゼオライト系陽イオン吸着材への吸着成分を脱着するように、脱着液を用いることが好ましい。こうすることにより、ゼオライト系陽イオン吸着材からのアンモニア成分の脱着に、ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材からのリン成分脱着工程で加えた余剰のNa+を利用することができる。また、逆にするとゼオライト系陽イオン吸着材からへ脱着したアンモニア成分が高pH下に遊離性アンモニアとして存在することから、次のハイドロタルサイト系陰イオン吸着材からリン成分を脱着する工程前に系内から飛散してしまうおそれがある。
【0023】
次に、本発明では、工程(4)において、前記回収した溶液に、アルカリとマグネシウムイオンを添加し、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)として沈殿分離し、アンモニアとリンを同時に回収する。
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、中でも水酸化ナトリウムが好適に使用される。
【0024】
また、マグネシウムイオンとしては、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム等の水溶液を使用することができる。マグネシウムイオンは、回収溶液中のリン酸イオンより過剰に加えることが好ましく、5倍モル以上添加することがより好ましい。マグネシウムイオンの供給源としては、海水を使用することが、経済的な観点から推奨される。
なお、脱着液中のアンモニア成分とリン成分の化学量論が一致せず、リン成分が過剰な場合には、アンモニア成分を添加することが好ましい。逆に、アンモニア成分が過剰な場合は、ストリッピング等により過剰のアンモニアを系外に除去することが好ましい。
【0025】
最後に、本発明では、工程(5)において、前記工程(4)で、リン酸マグネシウムアンモニウムを回収した後の溶液を、前記工程(3)の脱着液の少なくとも一部として再使用する。
再使用に当っては、塩化ナトリウムを必要に応じ添加し、pHを12以上に調整した後、工程(3)の脱着液としてリサイクルする。このことにより、脱着液を廃棄することなく有効に活用することができる。
【0026】
次に、図2を参照して、本発明の上記(1)から(5)の工程を織り込んだ被処理水中のアンモニア成分およびリン成分の同時回収システムの実施形態について説明する。図2は本発明のアンモニア成分およびリン成分の同時回収システムのブロック図である。
【0027】
通常、アンモニア成分およびリン成分を含有する、下排水、河川水やダム湖水などの被処理水としての有機性排水10は、先ず沈殿池(最初沈殿池1)に蓄えられる。この最初沈殿池1では、自然沈降で除去可能な浮遊物質が除去される。次に、被処理水は、ゼオライト系陽イオン吸着材と接触させてアンモニア成分を吸着するゼオライト系陽イオン吸着槽としてのZe吸着槽4で処理されアンモニア成分が除去される(工程(1))。その後、被処理水は、曝気槽2で、曝気処理され有機物が除かれた後、沈殿池(最終沈殿池3)に導入される。なお、この沈殿池は排水の種類や容量により更に中間的な沈殿池を設けることができる。次に、被処理水は、ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材と接触させてリン成分を吸着するハイドロタルサイト系陰イオン吸着槽としてのHT吸着槽5で処理されリン成分が除去された後(工程(2))、その処理水11は活性汚泥処理等の一般的な処理に付される。
【0028】
一方、被処理水から吸着除去されたアンモニア成分、リン成分を回収するため、Ze吸着槽4のゼオライト系陽イオン吸着材およびHT吸着槽5のハイドロタルサイト系陰イオン吸着材から、共通の脱着液を用いて吸着成分を脱着させアンモニア成分とリン成分が共存する溶液をアンモニア及びリン回収槽6へ回収する(工程(3))。この場合、脱着を効率的に行うためには先ずハイドロタルサイト系陰イオン吸着材からのリン成分の脱着を行い、その後、ゼオライト系陽イオン吸着材からのアンモニア成分の脱着を行うことが好ましい。
【0029】
次に、上記アンモニア及びリン回収槽6の脱着回収溶液からアンモニア成分とリン成分を同時に回収するため、回収溶液にアルカリを添加してpH調整を行い、MAP生成槽7においてさらnマグネシウムイオンを添加し、リン酸マグネシウムアンモニウムとして沈殿分離し、アンモニア成分とリン成分を同時に回収する(工程(4))。
【0030】
ところで、MAP法はアンモニウムイオンとリン酸イオンのモル比が等しくなる必要があるが、下水へのMAP法を直接適用した場合はアンモニウムイオンが過多に成り易い。本発明の回収システムでは、アンモニウムイオン過多の対策として、ZeとHTの使用比率で制御することが可能である。また、別の方法としては、ストリッピング法によりアンモニアを除去することも可能である。なお、アンモニアのストリッピング除去は、回収槽6への空気の導入により容易に行うことができる。本発明の回収システムは、被処理水MAP生成工程を別系統で行うため、緩衝物質が少なく、スケールの生成が抑制される。また、システムはアルカリ側で操作するため、ストリッピング操作も容易に行うことができる。
【0031】
なお、上記アンモニア成分とリン成分を回収後の溶液は、NaCl等の塩化物塩が追加添加され、pHを調整後、工程(3)の共通脱着液として再使用される(工程(5))。
【0032】
上述のように、本発明のリン回収方法の特徴は、陽イオン、陰イオン交換両吸着材の併用とNaCl等による1液・共役的脱着・再生にある。従来は、リン回収時にアンモニアを別途投入していたが、本技術では排水中から回収したアンモニアを利用するため、リンとアンモニアの同時回収が可能である。また、陽イオン、陰イオン吸着材をそれぞれ単独で使用する場合よりも、脱着液の使用量を低減でき、かつ、不溶となるイオンの廃棄・処理を回避できる。その結果、1液中にアンモニウムイオン、リン酸イオン両成分を高濃度で維持することができ、リンの回収効率の向上が可能となる。また、従来は脱着したアンモニアは別途処理が必要であったが、本発明ではリンと同時に回収することができるという利点がある。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0034】
次に示す吸着材を使用し、吸着試験および脱着試験を行った。
1.使用した吸着材
(1)ゼオライト系陽イオン吸着材(「Ze(1)」と称す。)
製品名:シーキュラスNaタイプ粒状品(中部電力株式会社製)
化学組成式:Na2O・Al23・2SiO2・4.5H2
粒径:0.8〜2.0mm
(2)ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材(「HT(1)」と称す。)
製品名:アクリトン(株式会社トーケミ製) 化学組成式:
Mg0.683Al0.317(OH)1.995(CO30.028Cl0.226・0.54H2
粒径:2.0〜5.0mm
【0035】
2.吸着試験
上記粒状HT(1)およびZe(1)を使用して、各吸着材の吸着量を求めた。吸着等温線の作成は、初期濃度が異なるNa2HPO4水溶液(1〜80mgP/L)とNH4Cl水溶液(1〜30mg/L)をそれぞれHT(1)、Ze(1)に添加し、20℃恒温下で平衡に達するまで撹拌して行った。pHはHCl、NaOHで7.0に調整した。撹拌後、平衡濃度を測定し初期濃度との差から吸着量を算出した。
【0036】
3.脱着試験
脱着実験は、吸着実験で求めた飽和吸着量まで吸着質を吸着させたHT(1)とZe(1)をそれぞれ同じ組成の脱着液に浸し、脱着量を測定した。HT(1)の脱着液は0.25、0.75mol−NaOH/kgのアルカリ水溶液200mLを使用し、それぞれに、吸着性分1molに対してCl-が1、10、100、1000molになるようにNaClで調製した。
Ze(1)の脱着液は、HT(1)脱着液と組成が同一のものを用いたが、NH4+の脱着に必要なNa+はNaOHでも添加されているので、Na添加量は([NaCl]+[NaOH])/[NH4+]として計算した。
【0037】
4.試験結果
(1)吸着試験結果
図3(a)にHT(1)の吸着等温線を、図3(b)にZe(1)の吸着等温線を示した。また、併せてその逆数プロットであるLangmuir plotsをそれぞれ図3(a)、図3(b)に示した。Ze(1)はプロットに1つの直線関係が成立している。しかし、HT(1)は1/Ce=8.42(初期濃度=10mg/L)を境に低濃度と高濃度側の2つの領域で直線関係が成立している。下記のLangmuir式を適用すると切片から飽和吸着量が求まるが、本リン回収法は低リン濃度排水の処理を想定しているので、HT(1)は低濃度側の切片から求めた値を飽和吸着量とした。

(式中、qe は平衡吸着量(m mol/g)、qs は飽和吸着量(m mol/g)、Ceは平衡濃度(m mol/l)を表し、aは、定数を表す。)
【0038】
(2)脱着試験
図4(a)にリンを飽和吸着させたHT(1)をアルカリ飽和NaCl水溶液で吸着質のリン成分を脱着させる試験結果を示した。図から分かるように、HT(1)を0.75mol−NaOH/Lと吸着態リンに対して1、000倍量である5.0mol/Lで与えた脱着液200mlに浸すことで、脱着液中に1.00mmolの吸着態リンのうち脱着率97.7%で0.977mmolのリンを脱着させることができた。
一方、Ze(1)の脱着実験は、HT(1)のリン脱着に用いた脱着液を使用しNH4+飽和吸着させたZe(1)を浸して行った。その結果を図4(b)に示したが、飽和吸着量の1.35mmol−NH4+を脱着率96%で1.26mmol回収することができた。
回収した脱着液にはMAP生成のために十分な濃度のリン酸イオンとアンモニウムイオンを集積することができ、使用済み脱着液のpHは13.2であった。
【0039】
5.MAPの生成
回収した脱着液のpHは10に調整し、MgイオンをMgCl2 水溶液の形態でリン酸イオンに対し5倍モル量添加することにより、脱着液中のリン成分およびアンモニア成分をリン酸マグネシウムアンモニウムとして沈殿分離した。この結果、脱着液中のリン成分の96%をMAPとして不溶化回収した。
【0040】
6.回収液の再使用
脱着液からMAPを不溶化回収した残液は、Na+、Cl-を飽和濃度に近い状態を維持しているものの、MAP生成のためpHを13から10に調整したため、脱着液として再使用するにはアルカリが不足している。そのため、不足分のアルカリ(NaOH)を添加しpHを13以上に上昇させて、脱着液として再使用できることを確認した。
【0041】
7.吸着材の再使用
リン又はアンモニアの脱着後の吸着材の再使用を検討するため、脱着後のHT(1)を3.68mol/LのMgCl2水溶液に24時間浸し、リンを再吸着させて吸着量を測定した。その結果、初期吸着量に対して90%の再吸着量を示した。これはHT(1)をMgCl2に接触させることでHT(1)の構造が再構築されたことによるものである。
なお、Ze(1)の再吸着量は、初期吸着量の98%であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、アンモニアやリン酸イオンに富む下排水への技術の適用のみならず、汚濁が問題となっている河川水やダム湖水などの自然水の直接浄化への適用や畜産排水への適用が可能である。特にダム湖では富栄養化に起因する藻類の増殖が課題となっていることから、リンへの対策として本発明は有望である。
【符号の説明】
【0043】
1 最初沈殿池
2 曝気槽
3 最終沈殿池
4 Ze吸着槽
5 HT吸着槽
6 アンモニア及びリン回収槽
7 MAP生成槽
10 有機性排水
11 処理水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)〜(5)を含むことを特徴とするアンモニア成分およびリン成分を含有する被処理水中のアンモニア成分及びリン成分の同時回収方法。
(1)被処理水をゼオライト系陽イオン吸着材と接触させてアンモニア成分を吸着する工程
(2)被処理水をハイドロタルサイト系陰イオン吸着材と接触させてリン成分を吸着する工程
(3)前記ゼオライト系陽イオン吸着材および前記ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材から、共通の脱着液を用いて吸着成分を脱着させアンモニア成分とリン成分が共存する溶液を回収する工程
(4)前記回収した溶液に、アルカリとマグネシウムイオンを添加し、アンモニア成分とリン成分とをリン酸マグネシウムアンモニウムとして沈殿分離し、アンモニア成分とリン成分を同時に回収する工程
(5)前記工程(4)で、リン酸マグネシウムアンモニウムを回収した後の溶液を、前記工程(3)の脱着液の少なくとも一部として再使用する工程
【請求項2】
請求項1の工程(3)において、前記ハイドロタルサイト系陰イオン吸着材からのリン成分の脱着を、前記ゼオライト系陽イオン吸着材からのアンモニア成分の脱着より先に行うことを特徴とするアンモニア成分及びリン成分の同時回収方法。
【請求項3】
脱着液が、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩を単独、あるいは複数溶解させた水溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載のアンモニア及びリンの同時回収方法。
【請求項4】
被処理水をゼオライト系陽イオン吸着材と接触させてアンモニア成分を吸着する陽イオン吸着槽と、
被処理水をハイドロタルサイト系陰イオン吸着材と接触させてリン成分を吸着する陰イオン吸着槽と、
前記陽イオン吸着層および前記陰イオン吸着層から共通の脱着液を用いて吸着成分を脱着させ、アンモニア成分とリン成分が共存する溶液を回収するアンモニア及びリン回収槽と、
前記回収した溶液に、アルカリとマグネシウムイオンを添加し、アンモニア成分とリン成分とをリン酸マグネシウムアンモニウムとして沈殿分離し、アンモニア成分とリン成分を同時に回収するリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽とを有し、
前記分離手段によりリン酸マグネシウムアンモニウムを回収した後の溶液を、前記脱着手段の脱着液の少なくとも一部として再使用することを特徴とするアンモニア成分およびリン成分の同時回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−92822(P2011−92822A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246878(P2009−246878)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】