説明

被処理物を加熱または冷却する装置、被処理物収容手段およびリフローはんだ付け方法

【課題】均一に被処理物を加熱または冷却することが可能な装置を提供する。
【解決手段】本装置は被処理物を加熱または冷却する装置である。被処理物を収容する収容空間を画成する処理容器と、該収容空間の気体の温度を調温する調温手段と、を少なくとも備え、前記処理容器は、断熱性を有する外層と、熱伝導率が100W/m・K以上であり該外層よりも内側に配設され前記収容空間の温度分布を均熱化する均熱層と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を加熱または冷却する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板への電子部品の表面実装では、はじめに、スクリーン印刷法によりプリント配線板にはんだペースト(クリームはんだ)が塗布される。その後、印刷されたはんだペーストに表面実装部品を載置した状態で加熱することではんだを溶融させてはんだ付けを行い、部品が実装されたプリント回路板を得る。このようなはんだの溶融処理をリフロー処理と呼ぶ。
【0003】
プリント基板のようなリフロー処理に供される被処理物は、上記のように様々な部材から構成され、それぞれの部材は材料に応じた熱伝導率ならびに材料および寸法に応じた熱容量をもつ。したがって、各部品で温度差が生じやすく、被処理物の温度は均一になりにくい。温度差が大きいと、熱変形、さらにはクラックが発生したり、はんだ付けに必要な濡れ性を確保できなかったり、という問題が生じる。つまり、良好なはんだ付けを行うには、被処理物を所定の温度に均熱化する必要がある。
【0004】
特許文献1には、プリント基板に生じる温度差を小さくすることを目的として、強制対流式加熱手段を備えたリフロー炉が開示されている。このリフロー炉では、プリント基板は、下方からは赤外線ヒータの輻射熱により、上方からは熱風の対流により、加熱される。輻射熱により熱容量の小さい部分の過度の温度上昇を抑制し、輻射熱と対流との相乗効果により熱容量の大きい部分の温度上昇を促進する。
【0005】
また、特許文献2には、熱風吹き出しヒータを備えたリフロー炉が開示されている。プリント基板を均一に加熱するために、熱風吹き出しヒータの熱風を吹き出す板状ノズルと、熱風を吸込む吸い込み口と、をそれぞれジグザグ状にして多数設置している。ジグザグ状の板状ノズルが、プリント基板の進行方向に対して横切る方向に複数条形成されているため、リフロー炉内を走行するプリント基板には常に熱風が当たる。そのため、プリント基板は、均一に加熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2―40489号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/02364号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、リフロー炉では、被処理物の温度を均一にする必要がある。このような要求は、リフロー炉に限られるものではなく、品質のばらつきを抑制するという観点から、通常の熱処理炉、恒温槽などにも求められる。
【0008】
本発明は、被処理物を均一に加熱または冷却することが可能な装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、リフロー炉、熱処理炉、恒温槽といった被処理物を加熱または冷却する装置において、これらに共通する基本的な構成である処理容器を新規な構成とすることで、この類の装置による被処理物の均一な加熱または冷却を実現させる必要があることに着目し、以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の被処理物を加熱または冷却する装置は、被処理物を収容する収容空間を画成する処理容器と、該収容空間の気体の温度を調温する調温手段と、を少なくとも備え、
前記処理容器は、断熱性を有する外層と、熱伝導率が100W/m・K以上であり該外層よりも内側に配設され前記収容空間の温度分布を均熱化する均熱層と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の被処理物を加熱または冷却する装置(以下「装置」と略記)によれば、収容空間の位置により温度差が生じても、均熱層を通じて速やかに均熱化される。その結果、被処理物を均一に加熱または冷却することができる。
【0012】
たとえば、調温手段により収容空間の気体が部分的に加熱されると、気体の循環だけでは収容空間の均熱化までに時間がかかる。均熱層があることで、調温手段により収容空間の気体が部分的に加熱されても、その熱は均熱層の全体に速やかに伝達され、均熱層自体が均熱化される。その結果、収容空間の温度分布は、均熱化した均熱層を通じて均一となる。また、処理容器は、外層が断熱性を有するため、均熱層に伝わった熱は、収容空間の外部へ逃げ難い。そのため、均熱層に伝わった熱は効率よく収容空間に伝達され、収容空間の温度分布は均一となる。なお、これらの効果は冷却の場合も同様であり、熱の伝達方向が逆になるだけである。
【0013】
さらに、均熱層が、厚さが3mm以下の板状材料または箔状材料からなれば、均熱層は熱伝導性に優れるだけでなく、熱容量も小さいため、より均熱効果に優れる。
【0014】
なお、従来の熱処理炉などは、断熱材で炉を構成して断熱することで炉内の温度を保ちつつ均熱化するものであった。一方、本発明の装置は、熱伝導率の高い均熱層を用いて炉壁の表面部の温度を均一にすることで、均熱化するという従来とは全く異なる発想によるものである。
【0015】
また、本発明の被処理物収容手段は、被処理物を収容する収容空間を区画する処理容器と、該収容空間の気体の温度を調温する調温手段と、を少なくとも備え、被処理物を加熱または冷却する装置に用いられ、
熱伝導率が100W/m・K以上の高熱伝導性を有し、前記被処理物を覆うことを特徴とする。
【0016】
本発明の被処理物収容手段(以下「収容手段」と略記)によれば、被処理物を均一に加熱または冷却することができる。本発明の収容手段は高熱伝導性を有するため、収容空間の気体と接触すると、熱は速やかに収容手段の全体に伝達される。仮に収容空間の位置によって温度差があっても、収容手段はそれ自体が均熱化される。収容手段は被処理物を覆うため、収容手段に伝わった熱は速やかに被処理材に伝達される。その結果、被処理物を均一に加熱できる。なお、これらの効果は冷却の場合も同様であり、熱の伝達方向が逆になるだけである。
【0017】
さらに、収容手段が板状材料あるいは箔状材料からなれば、熱伝導性に優れるだけでなく、熱容量も小さいため、より均熱効果に優れる。また、箔状材料は容易に変形するため、被処理物の表面に沿わせやすい。さらには、収容手段と被処理物との少なくとも一部を接触させることができ、それらの間に形成される空隙を小さくできる。その結果、収容手段の熱は、被処理物に速やかに伝達され、被処理物は迅速かつ均一に加熱または冷却される。
【0018】
また、本発明の収容手段を、箔状材料を複数枚用いた多重構造とすることで、変形の容易性を維持したまま、均熱効果に優れた熱容量と適度な保温性とを付与できる。
【0019】
なお、本発明の収容手段は、いかなる装置にも適用可能であるが、上記本発明の装置にて用いることで、被処理物の均熱効果がさらに向上し、迅速かつ均一な加熱が可能となる。
【0020】
また、本発明は、リフローはんだ付け方法として捉えることもできる。すなわち本発明のリフローはんだ付け方法は、はんだ材料が付着されて電子部品が搭載されたプリント配線板を加熱してはんだ付けを行なうリフローはんだ付け方法であって、
前記プリント配線板を本発明の装置の収容空間に収容する収容工程と、
前記調温手段により前記収容空間の気体の温度を上昇させて前記プリント配線板と前記電子部品との間のはんだ材料を溶融させる加熱工程と、
前記調温手段により前記収容空間の気体の温度を降下させて溶融した前記はんだ材料を凝固させる冷却工程と、
を有することを特徴とする。
【0021】
あるいは、はんだ材料が付着されて電子部品が搭載されたプリント配線板を、収容空間を区画する処理容器と該収容空間の気体の温度を調温する調温手段とを少なくとも備えるリフロー炉を用いて加熱してはんだ付けを行なうリフローはんだ付け方法であって、
本発明の収容手段に前記プリント配線板を収容してから該プリント配線板を前記リフロー炉の前記収容空間に収容する収容工程と、
前記調温手段により前記収容空間の気体の温度を上昇させて前記プリント配線板と前記電子部品との間のはんだ材料を溶融させる加熱工程と、
前記調温手段により前記収容空間の気体の温度を降下させて溶融した前記はんだ材料を凝固させる冷却工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の被処理物を加熱または冷却する装置、被処理物収容手段、リフローはんだ付け方法によれば、収容空間の位置により温度差が生じても、均熱層を通じて速やかに均熱化される。その結果、被処理物を均一に加熱または冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の被処理物を加熱または冷却する装置ならびに本発明の被処理物収容手段の概略を示す説明図である。
【図2】本発明の被処理物を加熱または冷却する装置ならびに本発明の被処理物収容手段を具体的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の被処理物を加熱または冷却する装置、被処理物収容手段およびリフローはんだ付け方法を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値を任意に組み合わせることでも、数値範囲を構成し得る。
【0025】
<被処理物を加熱または冷却する装置>
本発明の装置は、主として、被処理物を収容する収容空間を画成する処理容器と、収容空間の気体の温度を調温する調温手段と、を備える。必要に応じて、被処理物を収容空間の所定の位置に保持する保持手段、被処理物を覆う被処理物収容手段、などを備えてもよい。以下に、それぞれ説明する。
【0026】
なお、「被処理物を加熱または冷却する装置」とは、ひとつの装置で被処理物の加熱および冷却を同時に行うことは想定されていないが、ひとつの装置で被処理物の加熱または冷却のいずれも行うことができる装置である。すなわち、被処理材を加熱後、同じ装置で冷却を行うことができる加熱冷却装置をも含む概念である。
【0027】
処理容器は、被処理物を収容する収容空間を画成する。処理容器の寸法および形状は、被処理物を収容できれば特に限定はないが、均熱性をより高く確保するためには、閉じた空間を画成するのが好ましい。閉じた空間を画成できる容器であれば、迅速かつ均一な加熱または冷却が可能となる。また、アルゴンガス、窒素ガス、水素ガスなどを収容空間に供給して所定の雰囲気で処理することが可能となる。このように、収容空間に気体を供給するのであれば、処理容器は、収容空間の気圧を調節する気圧調節手段を備えるとよい。気圧調節手段としては、過剰な気体を収容空間から逃がす排気口、収容空間を強制的に減圧して所定の気圧に調節する真空ポンプ、収容空間を適度な気圧に保つダンパ機構、などが挙げられる。気圧調節手段は、熱処理により気体が発生するような材料を被処理物として処理する場合にも有効である。
【0028】
処理容器は、断熱性を有する外層と、外層よりも内側に配設された均熱層と、を有する。断熱性を具体的に定義するのであれば、たとえば、熱伝導率が50W/m・K以下さらには1W/m・K以下、0.1W/m・K以下である。本明細書において熱伝導率は、対象物の材質および構造に応じてJIS、ASTMまたはISOで規定される方法により測定される値を採用する。なお、いずれの方法で測定しても、熱伝導率はほぼ同じである。断熱性を有する外層としては、樹脂材料、セラミックス多孔質体、間隙にガス層または真空層をもつ二重構造など、一般的に断熱材として用いられる材料からなる断熱容器、断熱構造をもつ断熱容器、が挙げられる。また、金属材料であっても熱伝導率が50W/m・K以下であるステンレス鋼(熱伝導率:10〜17W/m・K)、鉛(35W/m・K)、ビスマス(8.2W/m・K)、マンガン(8W/m・K)などは、断熱容器を構成する材料として使用可能である。なお、熱伝導に優れた金属材料であっても発泡金属などの気孔を有する多孔質体であれば、全体として低熱伝導率を示すため、断熱材として使用可能な場合もある。ただし、処理容器の外層は、断熱性さえあればよいため、必ずしも容器の形状を呈する必要はなく、後述の実施例に記載されるように、均熱層を保持するのみでほとんどが空気層からなる断熱性の枠部材であってもよい。
【0029】
断熱容器は、厚さ方向に積層された2層以上からなる多層構造をもってもよい。多層構造である場合には、それぞれの層が上記の熱伝導率の範囲内にあるのが好ましい。たとえば、断熱容器は、熱伝導率が1W/m・K以下さらに好ましくは0.1W/m・K以下の最外層と、熱伝導率が1W/m・Kを超え50W/m・K以下さらに好ましくは10〜17W/m・Kの内層と、からなってもよい。すなわち、最外層が断熱材からなり内層がステンレス鋼からなる炉壁を備える市販の加熱装置または冷却装置であっても、均熱層を適用することで、本発明の装置がもつ効果を発揮する。また、最外層と内層との間には、それらの中間の熱伝導率をもつ1以上の中間層を設けてもよい。
【0030】
処理容器の外層は、均熱層に剛性がない場合には、断熱性だけでなく収容空間を画成するのに十分な剛性が必要である。そのため、ある程度の厚みがある方が好ましい。構造や材料にもよるが、10〜200mmの厚さであるのが好ましく、20〜100mmが実用的である。厚さが10mm以上であれば加熱時の保温性が十分となり、200mm以上にしても保温性がそれ以上向上しないためである。
【0031】
本発明の装置の特徴的な構成は、処理容器が、熱伝導率が100W/m・K以上である均熱層を有することである。均熱層の熱伝導率が大きい方が迅速に均熱化されやすいため、好ましくは150W/m・K以上さらに好ましくは200W/m・K以上である。熱伝導率が100W/m・K以上、150W/m・K以上さらには200W/m・Kである材料として好ましいのは、金属材料である。金属材料は、高強度、高剛性および優れた加工性を兼備しているため、好適である。具体的には、アルミニウム(熱伝導率:237W/m・K)、アルミニウム合金(100〜234W/m・K)、銅(398W/m・K)、銅合金(100〜391W/m・K)、銀(420W/m・K)、金(320W/m・K)、マグネシウム(157W/m・K)、などが挙げられる。特にアルミニウムおよびアルミニウム合金は、熱伝導率が高いとともに熱容量が小さく、耐酸化性に優れ軽量であるため、本発明の装置に最適である。アルミニウム合金は、全体を100質量%としたときにアルミニウムを90質量%以上、98質量%以上さらには99質量%以上含むとよい。なお、アルミニウムの含有量が98質量%以上のアルミニウム合金は、工業用純アルミニウム(200〜234W/m・K)として知られている。また、非晶質炭素(107〜129W/m・K)を用いてもよい。
【0032】
均熱層は、熱容量の観点から、厚さが3mm以下さらには1.5mm以下の板状材料または箔状材料からなるとよい。均熱層に剛性が必要であれば、厚さが0.5mm以上の板状材料を用いるとよい。板状材料の表面は、収容空間の内側へ突出する複数の突部を有してもよい。収容空間の気体と接触する表面積が増大することで、均熱効果が向上するためである。箔状材料であっても、断熱容器の内面に貼付すれば、断熱容器の内面を均熱層で容易に覆うことができる。たとえば、接着剤などで、箔状材料を断熱容器の内面に固定するとよい。また、箔状材料に凹凸を成形して表面積を増大させるとともに、断熱容器の内面との接触面積を低減させてもよい。さらに薄い均熱層として、断熱容器の内面に堆積した蒸着膜も使用可能である。したがって、均熱層の厚さの下限は、0.01μm以上さらには5μm以上が好ましい。
【0033】
断熱容器と均熱層とは、それらの間の少なくとも一部に空隙層を有するとよい。断熱容器と均熱層との間に意図的に空隙を設けることで、均熱層の均熱効果が向上する。なお、断熱容器と均熱層との間に接着剤が介在しても、多くの接着剤は樹脂系であるため、空隙層と同等の断熱効果が発揮され、均熱層の均熱効果が向上する。
【0034】
調温手段は、収容空間の気体の温度を調温する手段である。本発明の装置では、ヒータや熱風などで被処理物を直接加熱(または直接冷却)するのではなく、調温手段により収容空間の気体を加熱および/または冷却することで、収容空間に収容された被処理物を間接的に加熱および/または冷却する。
【0035】
たとえば、調温手段は、所定の温度の気体を収容空間に供給する調温気体供給手段であるとよい。気体は、空気の他、窒素ガス、希ガス、酸素ガス、水素ガス等、処理雰囲気に応じて適宜選択すればよい。これらの気体は、処理容器の外部で予め所定の温度に加熱または冷却してから、収容空間に導入されるとよい。
【0036】
あるいは、調温手段は、処理容器の内部に設置され、収容空間の気体を加熱または冷却するヒータおよび/またはクーラであるとよい。なお、通常、収容空間には、空気が大気圧で存在する。つまり、ヒータおよび/またはクーラにより冷熱される気体は、通常、空気である。しかし、処理条件によっては、収容空間の空気の少なくとも一部を窒素ガス等で置き換えたり、収容空間を所定の圧力まで減圧したりしてもよい。そのため、ヒータおよび/またはクーラが冷熱する収容空間に存在する気体の種類や圧力は、処理条件に応じて決定される。
【0037】
ただし、調温気体供給手段、ヒータおよびクーラは、被処理物に対して直接作用するものではない。加熱または冷却された気体が被処理物に直接接触しないように、気体の供給口、ヒータ、クーラ等の位置を被処理物から十分に隔離するのが望ましい。また、気体の温度および流量、ヒータおよびクーラの出力は、行う処理に応じた温度プロファイルに合わせて適宜制御すればよい。
【0038】
本発明の装置は、さらに、収容空間の気体を攪拌する気体攪拌手段を備えるとよい。気体が攪拌されることで、均熱層による均熱効果がさらに促進される。
【0039】
また、被処理物を収容空間に保持する断熱性の保持具を備えてもよい。保持具は、被処理物の表面と処理容器の内面(つまり均熱層)との間に空間をもって、被処理物を保持するためのものである。保持具は、被処理物を収容空間の中央部に保持するとよい。このとき、保持具は、被処理物と部分的に接触する状態で、被処理物を保持するのが好ましい。保持具と接触した部分は収容空間の気体と接触せず、収容空間と被処理物との間で熱が移動し難いためである。したがって、被処理物と保持具との接触面積も極力小さくするとよい。保持具としては、たとえば、処理容器の底部に複数の棒状体または板状体を配置し、その上に被処理物を載置するとよい。また、一般的な断熱材からなる保持具を使用することで、いったん所定の温度に加熱または冷却された被処理物から熱が移動しにくくするとよい。
【0040】
ここで、本発明の装置の概略を図1に示す。図1において、断熱容器は、収容空間を画成する箱状である。断熱容器の側壁には、外部から気体を導入するガス供給口が形成されている。ガス供給口は、所定の温度に調節された気体を収容空間に供給することで収容空間の気体を調温する調温手段Aに連結される。あるいは、収容空間には、収容空間の気体を加熱または冷却するための調温手段Bが設置される。調温手段Aおよび調温手段Bは、それぞれ単独で用いても併用してもよい。
【0041】
収容空間には、断熱容器の内面を覆うようにして、均熱層が配設される。均熱層が配設された断熱容器内には、たとえば後述の収容手段に覆われた被処理物が、保持具に載置されて収容される。
【0042】
<装置の用途>
本発明の装置は、主として処理容器および調温手段を備える幅広い装置として使用可能である。たとえば、焼き入れ、焼鈍、焼き戻し、時効処理などの金属部材の熱処理、粉末成形体の焼結、樹脂材料の硬化、などに用いられる熱処理炉、被処理物を加熱または冷却後に一定の温度で長時間保つ恒温槽、が挙げられる。また、リフロー炉として用いることで、様々な部品から構成されるプリント基板であっても、はんだペーストを均一に溶解して凝固させ、品質が安定したプリント回路板を製造できる。この場合、被処理物は、プリント配線板に実装部品が載置されたプリント基板である。さらに、ロウ付け炉として使用してもよい。ロウ付けは、リフロー処理よりも高温で行われるため、均熱層などには耐熱性の高い材料を用いるとよい。
【0043】
また、加熱と冷却とを繰り返し行う耐久試験などに使用される冷熱試験槽として用いることができる。本発明の装置は、短時間で目的の温度で均熱化することが可能であるため、加熱から冷却および冷却から加熱への繰り返しを迅速に行うことができ、評価の信頼性が向上する。
【0044】
<被処理物収容手段>
本発明の収容手段は、断熱性を有し被処理物を収容する収容空間を区画する処理容器と、収容空間の気体の温度を調温する調温手段と、を少なくとも備え、被処理物を加熱または冷却する一般的な装置の他、上記の本発明の装置に用いることができる。本発明の装置とともに用いることで、さらに短時間での迅速な加熱または冷却が可能となり、被処理物の均熱性はさらに向上する。
【0045】
本発明の収容手段は、熱伝導率が100W/m・K以上の高熱伝導性を有し、被処理物を覆う。収容手段の熱伝導率が大きい方が被処理物が迅速に均熱化されやすいため、好ましくは150W/m・K以上さらに好ましくは200W/m・K以上である。収容手段には、均熱層として好ましい前述の材料を用いることができる。したがって、収容手段として好ましい材料は、均熱層の説明において既に列挙した材料と同じである。
【0046】
収容手段は、被処理物と少なくとも一部が接触した状態であるとよい。収容手段と被処理物とが直接接触することで、収容空間の気体から収容手段へ移動した熱が収容手段から被処理物へと迅速に伝達しやすい。なお、防湿や電気回路のショート防止など被処理物の機能を維持することを目的として、絶縁膜などの保護膜を介して収容手段と被処理物との少なくとも一部を間接的に接触させてもよい。収容手段と被処理物との接着が懸念される場合には、両者の間に接着防止層または接着防止剤を部分的に配してもよい。また、収容手段は、板状材料からなる箱状体または箔状材料からなる外包体であるとよい。
【0047】
箱状体は、ある程度の剛性をもつ板状材料からなるため、繰り返し使用可能であるという利点がある。板状材料としては、厚さが0.05〜1mmさらには0.1〜0.3mmであるとよい。また、箱状体の外面に複数の突部を形成して、収容空間の気体との接触面積を増大させてもよい。
【0048】
外包体は、柔軟な箔状材料で被処理物を包み込むため、複雑形状の被処理物であっても表面に沿わせたり接触させたりしやすい。収容空間の気体との接触面積も大きくなるという利点もある。箔状材料としては、厚さが5μm〜0.05mmさらには6μm〜0.02mmであるとよい。しかし、保温性の面から、外包体は、複数枚の箔状材料からなる多重構造をもつのが好ましい。多層構造とすることで、柔軟性を維持したまま外包体の熱容量を調整できるため、適度な蓄熱性を付与できる。また、多層構造では箔と箔との間に気層が形成されるため、いったん被処理物に伝わった熱が外包体に良好に蓄熱(冷却の場合は保冷)される。また、多層構造とすることで、一枚の箔状材料で包むよりも強度が向上する。
【0049】
また、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔をもつ板状材料を使用してもよい。あるいは、箔状材料のかわりに、線状の金属や炭素繊維を編んで形成した網状材料を使用してもよい。貫通孔および編み目は収容空間の気体が流通しやすいため、たとえば、還元性のガスあるいは酸化性のガスを被処理物に作用させたい場合には効果的である。
【0050】
<リフローはんだ付け方法>
本発明の装置および/または本発明収容手段を用いて、プリント基板のリフローはんだ付けを行うことができる。つまり、はんだ材料が付着されて電子部品が搭載されたプリント配線板を被処理物とし、はんだ材料を均一に溶解させて凝固させて、良好な表面実装を行なうことができる。本発明のリフローはんだ付け方法は、主として、収容工程、加熱工程および冷却工程を有する。以下に、各工程を説明する。
【0051】
収容工程は、はんだ材料が付着されて電子部品が搭載されたプリント配線板を本発明の装置の収容空間に収容する工程である。なお、このとき、はんだ材料が付着されて電子部品が搭載されたプリント配線板を、本発明の収容手段に収容してから収容空間に収容してもよい。収容空間に収めることで、プリント配線板からの電子部品の落下が抑制される。また、加熱により発生するガス、飛散するはんだ粒子などによる装置内の汚染を防止できる。プリント基板の作製においては、電子部品が搭載された状態のプリント配線板の形状が複雑であることから、収容手段として外包体を用いるとよい。ただし、リフローはんだ付け方法に本発明の収容手段を用いる場合には、本発明の装置のかわりに一般的なリフロー炉を用いてもよい。
【0052】
加熱工程は、調温手段により収容空間の気体の温度を上昇させて、プリント配線板と電子部品との間のはんだ材料を溶融させる工程である。また、冷却工程は、調温手段により収容空間の気体の温度を降下させて溶融したはんだ材料を凝固させる工程である。昇温速度などの調整は、使用するはんだ材料に応じて、調温手段により行えばよい。
【0053】
以上、本発明の被処理物を加熱または冷却する装置、本発明の被処理物収容手段ならびに本発明のリフローはんだ付け方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0055】
<リフロー炉>
図2は、本発明の装置の具体例であるリフロー炉の概略を示す説明図である。断熱性の処理容器1で画成された収容空間Sにおいて、被処理物であるプリント基板Pを加熱してはんだペーストP2を溶融させてから、冷却してはんだペーストP2を凝固させ、プリント回路板P’を得る。プリント基板Pは、プリント配線板P1にはんだペーストP2を塗布し実装部品P3がはんだペーストP2に仮止めされたものである。
【0056】
処理容器1は、断熱材(0.02W/m・K)からなる枠材11と、400mm×300mm×200mmの収容空間Sを画成する略直方体の箱型体である均熱体12と、からなる。枠材11は、均熱体12を直方体に保持する役目を果たすとともに、外層として、処理容器1に断熱性を付与する。
【0057】
均熱体12は、厚さ1mmの6枚の純アルミニウム板からなる。それぞれの板は、枠材11に固定されることで、その形状を維持している。また、側壁となるアルミニウム板の底部にガス供給口1aを有する。ガス供給口1aの上方には、収容空間Sの空気を強制的に攪拌するファン1bが設置されている。また、処理容器1は、過剰なガスを排出するガス排出手段(図示せず)を備える。
【0058】
収容空間Sには、処理容器1の底面に対して垂直に突き出した複数本の棒状体であって、被処理物を複数の点で支えることが可能な耐熱樹脂製の保持具1cが設置されている。
【0059】
プリント基板Pをリフロー処理する場合には、はじめに、プリント基板Pを市販の2枚のアルミ箔で挟み込み、アルミ箔の周囲を2枚重ねた状態で折り曲げて袋状にした。これをさらに2枚のアルミ箔で挟み込み、同様に、アルミ箔の周囲を重ねた状態で折り曲げて袋状にした。その後、アルミ箔をプリント基板Pに押し付けて、アルミ箔とプリント基板Pの表面とが十分に接触するようにした。
【0060】
<リフローはんだ付け方法>
上述のように二重のアルミ箔からなる収容部材3に包み込まれたプリント基板Pを、収容空間Sに収容し、樹脂製の保持具1cに載置した(収容工程)。次に、ガス供給口1aから、所定の温度に加熱した空気を所定の流量で収容空間Sに導入した(加熱工程)。
【0061】
このとき、ガス供給口1aから収容空間Sに供給された空気は、はじめに、ガス供給口1aの周辺において均熱体12と接触し、均熱体12に熱を伝える。その熱は、直ちに均熱体12全体に行き渡り、均熱体12自体が均熱化される。その結果、収容空間Sの温度分布は、均熱化した均熱体12を通じて均一となる。また、ファン1bにより強制攪拌された収容空間Sの空気は、収容空間Sを循環するとともに、収容部材3へと流れる。均熱化した空気は、収容部材3と接触することで収容部材3伝わり、収容部材3をさらに均熱化し、プリント基板Pを均一に加熱する。
【0062】
次に、ガス供給口1aから、所定の温度に冷却した空気を所定の流量で収容空間Sに導入した(冷却工程)。
【0063】
このとき、ガス供給口1aから収容空間Sに供給された空気は、はじめに、ガス供給口1aの周辺において均熱体12と接触し、均熱体12から熱を奪う。熱が奪われても、均熱体12は全体的に直ちに均熱化される。その結果、収容空間Sの温度分布は、均熱化した均熱体12を通じて均一となる。また、ファン1bにより強制攪拌された収容空間Sの空気は、収容空間Sを循環するとともに、収容部材3へと流れる。均熱化した空気は、収容部材3と接触することで収容部材3伝わり、収容部材3をさらに均熱化し、プリント基板Pを均一に冷却する。
【0064】
こうして、はんだペーストを均一に溶解させて凝固させ、位置による品質のばらつきが低減されたプリント回路板P’を得た。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を収容する収容空間を画成する処理容器と、該収容空間の気体の温度を調温する調温手段と、を少なくとも備え、
前記処理容器は、断熱性を有する外層と、熱伝導率が100W/m・K以上であり該外層よりも内側に配設され前記収容空間の温度分布を均熱化する均熱層と、を有することを特徴とする被処理物を加熱または冷却する装置。
【請求項2】
前記均熱層は、厚さが3mm以下の板状材料または箔状材料からなる請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記外層は断熱材からなる断熱容器であり、該断熱容器と前記均熱層との間の少なくとも一部に空隙層を有する請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記外層は断熱材からなる断熱容器であり、該断熱容器は、熱伝導率が1W/m・K以下の最外層と、熱伝導率が1W/m・Kを超え50W/m・K以下の内層と、からなる請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記調温手段は、所定の温度の気体を前記収容空間に供給する調温気体供給手段である請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記収容空間の気体を攪拌する気体攪拌手段を備える請求項1〜5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記被処理物を前記収容空間に保持する断熱性の保持具を備える請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
被処理物を収容する収容空間を区画する処理容器と、該収容空間の気体の温度を調温する調温手段と、を少なくとも備え、被処理物を加熱または冷却する装置に用いられ、
熱伝導率が100W/m・K以上の高熱伝導性を有し、前記被処理物を覆うことを特徴とする被処理物収容手段。
【請求項9】
板状材料からなる箱状体または箔状材料からなる外包体である請求項8記載の被処理物収容手段。
【請求項10】
前記外包体は、複数枚の前記箔状材料からなる多重構造をもつ請求項9記載の被処理物収容手段。
【請求項11】
前記被処理物と少なくとも一部が接触した状態で該被処理物を覆う請求項8〜10のいずれかに記載の被処理物収容手段。
【請求項12】
前記装置は、請求項1〜7のいずれかに記載の装置である請求項8〜11のいずれかに記載の被処理物収容手段。
【請求項13】
はんだ材料が付着されて電子部品が搭載されたプリント配線板を加熱してはんだ付けを行なうリフローはんだ付け方法であって、
前記プリント配線板を請求項1〜7のいずれかに記載の装置の収容空間に収容する収容工程と、
前記調温手段により前記収容空間の気体の温度を上昇させて前記プリント配線板と前記電子部品との間のはんだ材料を溶融させる加熱工程と、
前記調温手段により前記収容空間の気体の温度を降下させて溶融した前記はんだ材料を凝固させる冷却工程と、
を有することを特徴とするリフローはんだ付け方法。
【請求項14】
前記収容工程は、前記プリント配線板を請求項8〜11のいずれかに記載の被処理物収容手段に収容してから前記収容空間に収容する工程である請求項13記載のリフローはんだ付け方法。
【請求項15】
はんだ材料が付着されて電子部品が搭載されたプリント配線板を、収容空間を区画する処理容器と該収容空間の気体の温度を調温する調温手段とを少なくとも備えるリフロー炉を用いて加熱してはんだ付けを行なうリフローはんだ付け方法であって、
請求項8〜11のいずれかに記載の被処理物収容手段に前記プリント配線板を収容してから該プリント配線板を前記リフロー炉の前記収容空間に収容する収容工程と、
前記調温手段により前記収容空間の気体の温度を上昇させて前記プリント配線板と前記電子部品との間のはんだ材料を溶融させる加熱工程と、
前記調温手段により前記収容空間の気体の温度を降下させて溶融した前記はんだ材料を凝固させる冷却工程と、
を有することを特徴とするリフローはんだ付け方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−58761(P2011−58761A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211239(P2009−211239)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】