説明

被塗物の塗装装置および被塗物の塗装方法

【課題】 被塗物の投入荷重が低減され、且つ塗装品質に悪影響を及ぼすことがない塗装を実現できる被塗物の塗装装置および塗装方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の塗装方法は、塗料ビーズが処理槽10内を上方から下方に流れる塗料ビーズの下降流が連続して形成されるように塗料ビーズの循環流を形成する工程と、エアシリンダ70を駆動させて被塗物Wを処理槽10の上面側から処理槽10内に進入させて処理槽10内の塗料ビーズの下降流中に投入する工程とを含む。処理槽10内で流動する塗料ビーズ中に被塗物Wを投入させているので、投入荷重が軽減される。また、処理槽10内で発生している塗料ビーズの下降流中に被塗物を下降させて投入しているので、被塗物Wの投入方向と塗料ビーズの移動方向が一致する。このため投入荷重がより一層軽減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物の塗装装置および被塗物の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被塗物を塗装する方法として、電着塗装、静電塗装、スプレー塗装、流動浸漬塗装等、様々な塗装方法が知られている。
【0003】
特許文献1は、塗料充填槽内に充填され表面に粉体塗料が付着した媒体(塗料媒体)により形成される塗料媒体層中に被塗物を埋没させるとともに塗料媒体層を攪拌し、その埋没状態を所定時間維持することにより、被塗物を塗装する流動浸漬塗装方法を開示する。槽内の塗料媒体は攪拌により被塗物に衝突する。衝突が繰り返し行われることで、塗料媒体に付着した粉体塗料が被塗物に塗布(転写)される。
【0004】
特許文献2は、粉体塗料が付着した塗料媒体の循環流を作り出し、作り出した循環流に被塗物を回転させながら接触させることにより塗料媒体に付着した粉体塗料を被塗物に塗布する塗装方法を開示する。
【0005】
特許文献3も特許文献2と同様に、粉体塗料が付着した塗料媒体の循環流を作り出し、作り出した循環流に被塗物を回転させながら接触させることにより塗料媒体に付着した粉体塗料を被塗物に塗布する塗装方法を開示する。また、特許文献3によれば、塗料媒体のカラー画像がCCDカメラで撮像され、撮像されたカラー画像に基づいて塗料媒体の循環流量が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3482225号(図8、図9、図10)
【特許文献2】特開2007−136331号公報(図12、図13、図14)
【特許文献3】特開2007−139561号公報(図6)
【発明の概要】
【0007】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に示される塗料充填槽に充填される塗料媒体は例えばセラミックス製であり、その比重は約2.5〜6程度と大きい。比重の大きな塗料媒体により構成される塗料媒体層中に被塗物を埋没させるために必要な荷重(投入荷重)は大きい。また、塗料媒体層中に埋没した被塗物を引き上げる際に必要な荷重(引き上げ荷重)も大きい。投入荷重や引き上げ荷重が大きい場合、装置構成が大掛かりになるとともに装置コストも増大する。また、被塗物の投入時や引き上げ時に被塗物や被塗物を取り付けるための治具が変形するおそれがある。
【0008】
この場合において、塗料媒体が充填された塗料充填槽を振動させながら被塗物を塗料媒体層中に埋没させることにより、投入荷重を低減することができる。しかし、それでも依然として被塗物の全体を塗料媒体層中に埋没させるために必要な投入荷重は大きい。また、塗料充填槽の全体を振動させるための大きな駆動エネルギーが必要である。よって、製造コストの増大を招く。
【0009】
先に被塗物を塗料充填槽内に投入し、その後に粉体塗料が付着した塗料媒体を塗料充填槽内に充填すれば、被塗物の投入荷重を軽減することができる。しかし、この場合は、被塗物を塗装するごとに塗料充填槽内へ塗料媒体を充填する作業が発生するので作業工数が増大し、生産性が悪化する。
【0010】
また、特許文献2および3に記載の塗装方法によれば、ベルトコンベアあるいは重力落下により粉体塗料が付着した塗料媒体の循環流を作り出しているが、循環流内の塗装媒体の攪拌が十分でない。例えば無端ベルト等により塗装媒体を循環させる場合においては、無端ベルト上に静的に塗料媒体が載置された状態で塗料媒体が運搬されるので、塗料媒体は攪拌されない。したがって、攪拌が十分になされていない塗料媒体の循環流に被塗物が接触させられることにより、塗装膜厚の不均一化を招き、ひいては塗装品質に悪影響を及ぼす。
【0011】
本発明は、生産性を悪化させることなく被塗物の投入荷重が低減され、且つ塗装品質に悪影響を及ぼすことがない塗装を実現できる被塗物の塗装装置および塗装方法を提供することを目的とする。
【0012】
(課題を解決するための手段)
本発明は、上下方向に延びた筒状空間が内部に形成されるとともに上面および下面が開口した処理槽と、水平方向に延びた筒状空間が内部に形成され、前記処理槽の下方に配置されるとともに、前記処理槽の下面の開口部分に面する位置に開口が形成された第1シリンダと、前記第1シリンダ内に同軸配置される第1スクリューと、前記第1スクリューに接続され前記第1スクリューを回転させる第1駆動モータと、を有する第1移送部と、上下方向に延びた筒状空間が内部に形成されるとともに前記第1シリンダの端部に連結された第2シリンダと、前記第2シリンダ内に同軸配置される第2スクリューと、前記第2スクリューに接続され前記第2スクリューを回転させる第2駆動モータと、を有する第2移送部と、一端側が前記第2シリンダのうち前記第1シリンダの端部が連結される部分よりも上方に位置する部分に開口するとともに他端側が前記処理槽側に開口した移送通路と、前記処理槽の上面の開口部分から被塗物が下降して前記処理槽内に進入するように、前記被塗物を上下方向に駆動させるアクチュエータと、を備える被塗物の塗装装置を提供する。この場合、前記処理槽を水平方向に加振する加振手段をさらに備えるのが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記した本発明の塗装装置を用いて被塗物を塗装する塗装方法であって、表面に粉体塗料が付着した塗料媒体を前記処理槽内に供給するとともに前記第1駆動モータおよび前記第2駆動モータを駆動させて前記第1スクリューおよび前記第2スクリューを回転させることにより、前記塗料媒体が前記処理槽内を上方から下方に流れる下降流が連続的に形成されるように、前記塗料媒体の循環流を形成する工程と、前記アクチュエータを駆動し、前記処理槽の上面の開口部分から被塗物を下降させて前記処理槽内に進入させることにより、被塗物を前記下降流中に投入する工程と、被塗物を前記下降流中に投入している状態を予め定められた時間だけ維持することにより、被塗物に前記塗料媒体を接触させて、被塗物に粉体塗料を付着させる工程と、を含む、被塗物の塗装方法を提供する。この場合、前記処理槽を水平方向に加振させる工程をさらに含むのがよい。さらに、被塗物に粉体塗料を付着させる工程後に行われる工程であり、前記アクチュエータを駆動させて被塗物を前記下降流中から引き上げる工程をさらに含むのがよい。
【0014】
本発明によれば、処理槽内に供給された塗料媒体が重力によって処理槽の上方から下方に流れ、処理槽の下面の開口部分から第1シリンダの開口を経て第1シリンダ内に投入される。第1シリンダ内に投入された塗料媒体は第1スクリューの回転により攪拌されるとともに移動されて第1シリンダの端部から第2シリンダに移送される。第2シリンダに移送された塗料媒体は第2スクリューの回転により攪拌されるとともに上方に移動され、第2シリンダからさらに移送通路に移送される。そして移送通路の他端開口から排出される。移送通路の他端開口から排出された塗料媒体は処理槽に再度供給される。そして、処理槽内を上方から下方に流れる。このようにして、処理槽内を上方から下方に向けて流れる塗料媒体の下降流が連続して形成されるように塗料媒体の循環流が作り出される。
【0015】
また、アクチュエータが駆動することにより被塗物が処理槽の上面の開口部分から下降されて処理槽内に進入する。そして、処理槽内にて塗料媒体の下降流中に被塗物が投入される。塗料媒体の下降流中に被塗物を投入することにより塗料媒体が被塗物に接触する。繰り返し塗料媒体が被塗物に接触することにより被塗物に粉体塗料が付着する。これにより被塗物が塗装される。
【0016】
処理槽内で塗料媒体が下降流を形成するように流動しているので、この下降流内の充填密度は、処理槽内に塗料媒体が堆積している場合における充填密度よりも小さい。このように充填密度が小さい塗料媒体の下降流中に被塗物を投入するため、投入の際に必要な投入荷重が軽減される。また、被塗物の投入方向と塗料媒体の流動方向が一致するため、より一層投入荷重が軽減される。また、加振手段によって処理槽を水平方向に振動させて処理槽内での塗料媒体の流動を促せば、投入荷重をさらに軽減することができる。
【0017】
また、第1スクリューおよび第2スクリューの回転により塗料媒体が第1シリンダおよび第2シリンダ内で十分攪拌される。よって、均一に攪拌された塗料媒体が処理槽内で被塗物に接触することにより、被塗物の表面に均一に粉体塗料を付着させることができる。よって、塗装品質が向上する。
【0018】
本発明において、移送通路の「他端側が処理槽側に開口した」とは、移送通路の他端側が処理槽に連結されて処理槽に直接開口する態様(例えば処理槽の上部側の側面に開口する態様)や、移送通路が処理槽とは離間していてその他端側が処理槽(例えば処理槽の上面)に向けて開口する態様を含む表現である。すなわち移送通路の他端側の処理槽に対する開口状態は、移送通路の他端側の開口から排出された塗料媒体が処理槽に供給され、供給された塗料媒体が処理槽内で下降流を形成し得る態様であればどのような態様でもよい。また、第1シリンダの開口部分は処理槽の下面の開口部分に連通管等で直接連通されていてもよいし、処理槽の下面の開口部分に対面して配置されていてもよい。この場合、第1シリンダの開口部分の周りにホッパーが取り付けられているとよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る塗装装置の概略構成を表す正面図である。
【図2】処理槽、第1移送部および第2移送部の内部構造を表す断面図である。
【図3】循環流形成工程を示す図である。
【図4】投入工程および塗装工程を示す図である。
【図5】引き上げ工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る塗装装置の概略構成を表す正面図である。図1に示す塗装装置1は、処理槽10と、第1移送部20と、第2移送部30と、移送通路40と加振装置50と、架台60と、エアシリンダ70とを備える。
【0021】
処理槽10は略円筒形状をなしている。この処理槽10の下方に第1移送部20が配設される。第1移送部20の図において右方に第2移送部30が配設される。
【0022】
図2は、処理槽10、第1移送部20および第2移送部30の内部構造を表す断面図である。図2に示すように、処理槽10は略円筒状に構成され、上下方向に延びる円筒状空間がその内部に形成される。処理槽10の上面および下面は開口されている。処理槽10の上方部は拡径されている。
【0023】
第1移送部20は、第1シリンダ21と、第1スクリュー22と、第1駆動モータ23を備える。第1シリンダ21は円筒形状をなし、処理槽10の下方に配置される。第1シリンダ21の内部には図において水平方向に延びた円筒状空間が形成される。第1スクリュー22は第1シリンダ21の内部に同軸配置される。第1スクリュー22は軸部221および複数の羽部222を備える。軸部221は第1シリンダ21の長手方向に亘って配設される。軸部221の長手方向に沿って複数の羽部222が等間隔に設けられる。
【0024】
第1シリンダ21の側周壁の図2において上方を向いた部分に開口21aが形成されている。開口21aは、処理槽10の下面の開口部分に対面する位置に形成される。また、開口21aの周囲にホッパー21bが取り付けられている。ホッパー21bは図に示すように上方に向かうほど拡径するようにロート状に形成される。ホッパー21bの上面開口部と処理槽10の下面開口部は対面しており、図1によく示すように両開口部を外側から覆うように蛇腹状のゴム管80が処理槽10とホッパー21bとの間に設けられている。ゴム管80の上端側が処理槽10の下端部分に取り付けられ、下端側がホッパー211bの上端側に取り付けられている。このゴム管80は、ホッパー21bに対する処理槽10の図において水平方向に生じる振動を吸収する。
【0025】
第1シリンダ21の図2において左端部に第1駆動モータ23が配設される。第1駆動モータ23の出力軸が軸部221の左端に同軸接続している。第1駆動モータ23が駆動することにより第1スクリュー22が第1シリンダ21内で回転する。第1スクリュー22が回転することにより、後述するように第1シリンダ21内に供給された塗料ビーズが第1シリンダ21内を移動する。この場合において、第1スクリュー22の回転によって塗料ビーズが第1シリンダ21内を図において右方に移動するように、第1駆動モータ23の駆動方向(回転方向)が定められている。
【0026】
図2に示すように、第2移送部30は、第2シリンダ31と、第2スクリュー32と、第2駆動モータ33を備える。第2シリンダ31は円筒形状をなし、処理槽10と平行に配置される。第2シリンダ31の内部には図において上下方向に延びた円筒状空間が形成される。第2スクリュー32は第2シリンダ31の内部に同軸配置される。第2スクリュー32は軸部321および複数の羽部322を備える。軸部321は第2シリンダ31の長手方向に亘って配設される。軸部321の長手方向に沿って複数の羽部322が等間隔に設けられる。
【0027】
図2に示すように、第2シリンダ31は、その下方部分にて第1シリンダ21の右端部に接続される。したがって、第2シリンダ31の内部空間は、その下方部分にて第1シリンダ21の内部空間に連通する。
【0028】
第2シリンダ31の図示上端部に第2駆動モータ33が配設される。第2駆動モータ33の出力軸が軸部321の図示上端に同軸接続している。第2駆動モータ33が駆動することにより第2スクリュー32が第2シリンダ31内で回転する。第2スクリュー32が回転することにより、後述するように第1シリンダ31内から移送された塗料ビーズが第2シリンダ31内を移動する。この場合において、第2スクリュー32の回転によって塗料ビーズが第2シリンダ31内を図において上方に移動するように、第2駆動モータ33の駆動方向(回転方向)が定められている。
【0029】
移送通路40は筒状部材であり、その一端にて第2シリンダ31に連通し他端にて外部開口している。移送通路40は、第2シリンダ31のうち第1シリンダ21の端部が連結されている下方部分よりも上方に位置する部分、すなわち第1シリンダ21の端部が連結される部分よりも高い部分に連結される。また、移送通路40は、第2シリンダ31に連通している一端部側の高さが他端開口部41の高さよりも高くなるように傾斜している。したがって、後述する塗料ビーズが第2シリンダ31から移送通路40に移送されてきたときには、その塗料ビーズは重力により移送通路40をその一端側から他端側に滑り落ちて、他端開口部41から排出される。図2に示すように他端開口部41は処理槽10に向かって外部開口している。すなわち移送通路40の他端側は処理槽10側に開口している。本実施形態においては移送通路40の他端側の高さ位置は処理槽10の上面開口部よりも高く、したがって、移送通路40の他端側は処理槽10の上面開口部に開口している。
【0030】
図1に示すように、加振装置50は、モータ載置台51と、加振用モータ52と、円板53と、ロッド54と、取付プレート55と、振動吸収ゴム56と、LMガイド57とを備える。モータ載置台51上に載置された加振用モータ52の出力軸に円板53が同軸連結される。円板53の偏芯部位にピン53aが取り付けられ、ピン53aにロッド54の一端が回転可能に固定される。ロッド54の他端が取付プレート55に回転可能に固定される。取付プレート55は処理槽10の側周に固定される。取付プレート55の下面の少なくとも一部分がLMガイド57に嵌めこまれる。LMガイド57により取付プレート55の水平方向(図1において左右方向)への移動が許容される。LMガイド57は、ベースプレートBP上に固定された架台60上に固定される。また、処理槽10の側周に振動吸収ゴム56が取り付けられる。なお、架台60には、処理槽10が通過し且つ処理槽10の水平方向への振動を許容することができる程度の貫通孔が形成されている。
【0031】
エアシリンダ70は、シリンダボディ71とシリンダロッド72を備え、シリンダロッド72が伸長したときにシリンダロッド72が処理槽10内に上面から進入するように、処理槽10の上面に対面配置している。シリンダロッド72の先端に被塗物Wを固定することができるように、シリンダロッド72の先端形状が工夫されている。
【0032】
このような構成の塗装装置1を用いて被塗物を塗装する方法について、以下、工程ごとに説明する。
【0033】
(準備工程)
まず、エアシリンダ70のシリンダロッド72に被塗物Wを取り付ける。本実施形態において被塗物Wは例えば車両のシートレール等の長尺物である。そして、被塗物Wが処理槽10の上方にてその長手方向が上下方向に沿うようにシリンダロッド72に固定される。なお、シリンダロッド72に固定される被塗物Wの表面に、事前に粘着剤を付着させておくのがよい。
【0034】
(循環流形成工程)
第1駆動モータ23および第2駆動モータ33を駆動させることにより、第1スクリュー22および第2スクリュー32を回転させる。また、処理槽10の上面開口部から大量の塗料ビーズを第1シリンダ21内に供給する。塗料ビーズは、被塗物Wに塗装すべき粉体塗料が付着したビーズである。この塗料ビーズが本発明の塗料媒体(メディア)に相当する。本実施形態では、ビーズは球状であり、その直径は約0.5mmである。ビーズの材質はセラミックスである。
【0035】
処理槽10内に供給された塗料ビーズは処理槽10内を上方から下方に向けて流れ、処理槽10の下面開口部からホッパー21bを経由して第1シリンダ21内に供給される。第1シリンダ21内に供給された塗料ビーズは第1スクリュー22の回転により攪拌される。また、第1スクリュー22の回転によって第1シリンダ21内の塗料ビーズが第1シリンダ21内を図2において右方に移動する。そして、第1シリンダ21の図示右端から第2シリンダ31の下部に移送される。
【0036】
第2シリンダ31に移送された塗料ビーズは第2スクリュー32の回転により攪拌される。また、第2スクリュー32の回転によって第2シリンダ31内の塗料ビーズが第2シリンダ31内を図2において上方に移動する。第2シリンダ31の上方まで移動した塗料ビーズは、第2シリンダ31の上部に開口した移送通路40内に移送される。
【0037】
第2シリンダ31から移送通路40内に移送された塗料ビーズは重力によって移送通路40内を滑り落ちて、他端開口部41から外部に排出される。上述のように他端開口部41は処理槽10の上面開口部を向いているので、他端開口部41から排出された塗料ビーズは処理槽10内にその上面開口部から供給される。
【0038】
処理槽10内に供給された塗料ビーズは重量によって処理槽10内を上方から下方に向けて流れる。そして、処理槽10の下面から排出される。排出された塗料ビーズはホッパー21bに回収され、ホッパー21bから再び第1シリンダ21内に供給される。このようにして、第1シリンダ21−第2シリンダ31−移送通路40−処理槽10を順に流れる塗料ビーズの循環流が形成される。この循環流の様子を図3に示す。
【0039】
図3に示すように、処理槽10中を上方から下方に流れる塗料ビーズの下降流が連続的に形成されるように、循環流が形成される。また、移送通路40から処理槽10内に投入された塗料ビーズが自由落下してそのまま処理槽10の下面から排出されるのではなく、一時的に処理槽10に充填され、充填された塗料ビーズが処理槽10の下面から順に排出されるとともに、排出された量に等しい量の塗料ビーズが移送通路40から補われるように、塗料ビーズの循環速度が調節される。つまり、処理槽10内に常に一定量の塗料ビーズが充填されていて、且つ処理槽10内を塗料ビーズが連続的に下方に流れていくように、塗料ビーズの循環速度が調節される。本実施形態では、処理槽10内における塗料ビーズの下降流の速度が150mm/sec.(この速度は、塗料ビーズの送り量(排出量)換算で60kg/min.に相当する)程度であるように、第1スクリュー22および第2スクリュー32の回転速度(第1駆動モータ23および第2駆動モータ33の回転速度)が調整される。
【0040】
(加振工程)
また、加振用モータ52を駆動させる。加振用モータ52の駆動により円板53が回転し、円板53の偏芯位置に取り付けられたロッド54が揺動する。ロッド54の揺動に伴い取付プレート55および取付プレート55に固定された処理槽10が図1において左右方向(水平方向)に振動する。なお、処理槽10の下方部とホッパー21bがゴム管80で連結されていて、ゴム管80により処理槽10の振動が吸収されるので、処理槽10が水平方向に振動しても、塗料ビーズは処理槽10の下面開口部から外部にこぼれることなくホッパー21bに回収される。処理槽10を振動させることにより、処理槽10内に一時的に充填された塗料ビーズが加振される。これにより処理槽10内の塗料ビーズの流動が促進され、処理槽10内での淀みのない塗料ビーズの下降流が連続的に形成される。
【0041】
(投入工程)
次いで、エアシリンダ70を駆動させてシリンダロッド72を伸長させる。これによりシリンダロッド72に固定された被塗物Wが下降して処理槽10の上面側から処理槽10内に進入する。上記したように処理槽10内では、処理槽10内に一時的に充填された塗料ビーズの下降流が形成されている。この塗料ビーズの下降流中に被塗物Wが投入される。被塗物Wが処理槽10内の下降流中に投入された状態を図4に示す。
【0042】
(塗装工程)
処理槽10内で塗料ビーズの下降流中に被塗物Wを投入した状態(図4に示した状態)を所定の時間(例えば5秒間)だけ維持する。このとき処理槽10内を流れている塗料ビーズが被塗物Wに接触することにより、塗料ビーズに付着している粉体塗料が被塗物Wに付着する。本実施形態では第1スクリュー22および第2スクリュー32の回転によって第1シリンダ21および第2シリンダ31内を移動している塗料ビーズが攪拌されているので、被塗物Wに接触する塗料ビーズの表面に付着している粉体塗料の量が均等化される。このため被塗物Wの表面に均一に粉体塗料が付着される。
【0043】
(引き上げ工程)
図4に示した状態を所定の時間だけ維持した後、エアシリンダ70を駆動させてシリンダロッド72を収縮させる。これによって被塗物Wが処理槽10を流れる塗料ビーズの下降流中から上方に引き上げられる。引き上げられた被塗物Wの表面には粉体塗料が均一に付着している。被塗物Wを引き上げた状態を図5に示す。
【0044】
その後、エアシリンダ70のシリンダロッド72に固定された被塗物Wを取り外し、表面に付着した粉体塗料を焼き付ける。これにより被塗物Wへの塗装が完了する。
【0045】
以上のように、本実施形態の塗装装置1は、上下方向に延びた筒状空間が内部に形成されるとともに上面および下面が開口した処理槽10と、水平方向に延びた筒状空間が内部に形成され、処理槽10の下方に配置されるとともに処理槽10の下面の開口部分に面する位置に開口21aが形成された第1シリンダ21と、第1シリンダ21内に同軸配置される第1スクリュー22と、第1スクリュー22に接続され第1スクリュー22を回転させる第1駆動モータ23とを有する第1移送部20と、上下方向に延びた筒状空間が内部に形成されるとともに第1シリンダ21の端部に連結された第2シリンダ31と、第2シリンダ31内に同軸配置される第2スクリュー32と、第2スクリュー32に接続され第2スクリュー32を回転させる第2駆動モータ33とを有する第2移送部30と、一端側が第2シリンダ31のうち第1シリンダ21の端部が連結される部分よりも上方に位置する部分に開口するとともに他端開口41が処理槽10の上面に向かって開口した移送通路40と、処理槽10の上面の開口部分から被塗物Wが下降して処理槽10内に進入するように被塗物Wを上下方向に駆動させるエアシリンダ70と、を備える。
【0046】
また、塗装装置1を用いて被塗物Wを塗装する本実施形態の塗装方法は、表面に粉体塗料が付着した塗料ビーズを処理槽10内に供給するとともに第1駆動モータ23および第2駆動モータ33を駆動させて第1スクリュー22および第2スクリュー32を回転させ、処理槽10内に常に一定量の塗料ビーズを一時的に充填するとともに充填した塗料ビーズを処理槽10の下面の開口部分から順に排出させることにより、処理槽10内を上方から下方に流れる塗料ビーズの下降流が連続的に形成されるように、塗料ビーズの循環流を形成する循環流形成工程と、エアシリンダ70を駆動して処理槽10の上面の開口部分から被塗物Wを下降させて処理槽10内に進入させることにより、被塗物Wを塗料ビーズの下降流中に投入する投入工程と、被塗物Wを塗料ビーズの下降流中に投入している状態を予め定められた時間だけ維持することにより、被塗物Wに塗料ビーズを接触させて被塗物Wに粉体塗料を付着させる塗装工程と、上記塗装工程後に、エアシリンダ70を駆動させて被塗物Wを塗料ビーズの下降流中から引き上げる工程(引き上げ工程)とを含む。
【0047】
本実施形態によれば、処理槽10内を流動する塗料ビーズ中に被塗物Wを投入させるので、投入荷重が軽減される。また、処理槽10内に形成される塗料ビーズの下降流中に被塗物を下降させて投入しているので、被塗物Wの投入方向と塗料ビーズの流動方向が一致する。このため投入荷重がより一層軽減される。
【0048】
また、加振装置50によって処理槽10を水平方向に振動することにより、処理槽10内に一時的に充填されている塗料ビーズの流動が促される。このため処理槽10内で塗料ビーズの下降流が淀みなく且つ連続的に形成される。淀みない塗料ビーズの下降流中に被塗物を投入するときに必要な投入荷重は、部分的に流動が滞った塗料ビーズの下降流中に被塗物を投入するときに必要な投入荷重よりも小さい。したがって、加振装置50により処理槽10を水平方向に振動させて淀みない下降流を形成することにより、塗料ビーズの下降流中に被塗物Wを投入する際における投入荷重がさらに軽減される。
【0049】
また、加振装置50により塗装装置1の全体を振動させるのではなく、処理槽10のみを振動させているので、小さな加振用モータ52を用いて処理槽10を振動させることができる。このため塗装装置1をコンパクトに構成できる。
【0050】
また、長尺状の被塗物Wをその長手方向に沿って下降させて塗料ビーズの下降流中に投入しているので、投入時の投入面積を小さくすることができる。このためより一層投入荷重を低減することができる。
【0051】
本実施形態で示した方法により長尺状の被塗物を塗装した場合において、塗料ビーズの下降流中に被塗物を投入する際に必要な投入荷重は5〜6kgfであった。これに対し、処理槽内に塗料ビーズを充填し、処理槽を振動させた状態で充填された塗料ビーズ層中に長尺状の被塗物を埋没させることにより被塗物を塗装した場合において、塗料ビーズ層中に被塗物を投入する際に必要な投入荷重は20kgf以上であった。このことからも、本実施形態で示した方法によって投入荷重が大きく低減することがわかる。
【0052】
また、被塗物Wを塗料ビーズの下降流中から引き上げる際に必要な引き上げ荷重も従来の塗装方法(処理槽に充填された塗料ビーズ層に被塗物を埋没させて塗装する方法)を行う際に必要な引き上げ荷重よりも小さくすることができた。
【0053】
また、塗料ビーズは第1スクリュー22および第2スクリュー32の回転により第1シリンダ21内および第2シリンダ31内で十分に攪拌される。このため処理槽10内を流れる塗料ビーズも十分攪拌されている。十分攪拌された塗料ビーズを被塗物Wに処理槽10内で接触させているので、被塗物Wに均一に粉体塗料を付着させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…塗装装置、10…処理槽、20…第1移送部、21…第1シリンダ、21a…ホッパー、22…第1スクリュー、23…第1駆動モータ、30…第2移送部、31…第2シリンダ、32…第2スクリュー、33…第2駆動モータ、40…移送通路、41…他端開口部、50…加振装置、60…架台、70…エアシリンダ(アクチュエータ)、71…シリンダボディ、72…シリンダロッド、W…被塗物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びた筒状空間が内部に形成されるとともに上面および下面が開口した処理槽と、
水平方向に延びた筒状空間が内部に形成され、前記処理槽の下方に配置されるとともに、前記処理槽の下面の開口部分に面する位置に開口が形成された第1シリンダと、前記第1シリンダ内に同軸配置される第1スクリューと、前記第1スクリューに接続され前記第1スクリューを回転させる第1駆動モータと、を有する第1移送部と、
上下方向に延びた筒状空間が内部に形成されるとともに前記第1シリンダの端部に連結された第2シリンダと、前記第2シリンダ内に同軸配置される第2スクリューと、前記第2スクリューに接続され前記第2スクリューを回転させる第2駆動モータと、を有する第2移送部と、
一端側が前記第2シリンダのうち前記第1シリンダの端部が連結される部分よりも上方に位置する部分に開口するとともに他端側が前記処理槽側に開口した移送通路と、
前記処理槽の上面の開口部分から被塗物が下降して前記処理槽内に進入するように、前記被塗物を上下方向に駆動させるアクチュエータと、
を備える被塗物の塗装装置。
【請求項2】
前記処理槽を水平方向に加振する加振手段をさらに備える、請求項1記載の塗装装置。
【請求項3】
請求項1に記載の塗装装置を用いて被塗物を塗装する塗装方法であって、
表面に粉体塗料が付着した塗料媒体を前記処理槽内に供給するとともに前記第1駆動モータおよび前記第2駆動モータを駆動させて前記第1スクリューおよび前記第2スクリューを回転させることにより、前記塗料媒体が前記処理槽内を上方から下方に流れる下降流が連続的に形成されるように、前記塗料媒体の循環流を形成する工程と、
前記アクチュエータを駆動し、前記処理槽の上面の開口部分から被塗物を下降させて前記処理槽内に進入させることにより、被塗物を前記下降流中に投入する工程と、
被塗物を前記下降流中に投入している状態を予め定められた時間だけ維持することにより、被塗物に前記塗料媒体を接触させて、被塗物に粉体塗料を付着させる工程と、
を含む、被塗物の塗装方法。
【請求項4】
前記処理槽を水平方向に加振させる工程をさらに含む、請求項3記載の被塗物の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−250222(P2012−250222A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127121(P2011−127121)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】