説明

被検体情報処理装置

【課題】装置規模の増大を抑制しつつ、光音響画像データと超音波画像データをリアルタイム生成可能な被検体情報処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の被検体情報処理装置は、音響波と超音波を受信する複数の受信素子と、受信素子にそれぞれ対応する複数のメモリを含み、音響波に基づく信号から光音響画像データを、超音波に基づく信号から超音波画像データを生成する演算手段と、音響波に基づく信号をメモリに格納し、光音響画像データの生成を開始した後、超音波に基づく信号をメモリの空き領域に格納し、光音響画像データの生成の残りと、超音波画像データの生成を時分割で実行する制御手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響トモグラフィ診断と超音波診断を行う被検体情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体などの被検体に光を照射すると、生体の光吸収に伴う生体組織の温度上昇・熱膨張により音響波(典型的には超音波)が発生することが知られている。この現象を活用し、非侵襲で生体内を可視化しようとする光音響トモグラフィ(PAT: PhotoAcoustic Tomography)と呼ばれる技術が近年脚光を浴び、光音響トモグラフィ診断装置の臨床現
場への適用が試みられている。また、リアルタイム取得した光音響画像を、一般の超音波エコーを用いた超音波画像と組み合わせることで、臨床現場における診断精度を大きく向上できると期待されている。
【0003】
光音響トモグラフィ診断装置では、ターゲットとする被検体に光を照射し、それに伴って発生する音響波を、複数の受信素子を配列した1次元、または2次元の受信素子アレイにより受信する。1次元、または2次元の受信素子アレイとしては、通常超音波診断装置で用いられるプローブに類するものが使用されることが多い。
【0004】
また、光音響トモグラフィにおける画像再構成においては様々なアルゴリズムの適用が試みられているが、一般に超音波診断装置の画像データ生成に用いられる整相加算と呼ばれる手法の適用も可能である。
そこで、光音響トモグラフィ診断装置と超音波診断装置の受信信号処理部や画像データ生成部を共有し、コンパクトなシステムで光音響画像と一般の超音波画像双方を形成する試みがなされている(特許文献1、2参照)。
【0005】
なお、本明細書において、このように光音響トモグラフィ診断および超音波診断に用いる構成の一部を共有する被検体情報処理装置のことを、「光音響ならびに超音波装置」と記載する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−021380号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0187099号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、多数の受信チャンネルを具備した光音響ならびに超音波装置では、2Dプローブのような多素子のプローブを使用した場合に、整相加算回路規模が大きくなりすぎるという課題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載されているように光音響画像データと超音波画像データの双方をリアルタイム生成する概念は提案されているが、両画像のリアルタイム性向上にはまだ工夫の余地があった。よって、臨床現場における超音波診断の精度向上のためにも、光音響画像データと超音波画像データ双方のリアルタイム性を可能な限り向上させる手法を確立し、臨床現場へ提供する必要があった。
【0009】
特に、多素子でチャネル数が多いプローブを用いて測定する場合、処理すべき信号の量も増大する。その増大した信号をリアルタイムで処理するためには、従来の技術であれば
、メモリ等の搭載量を増やす必要があった。しかしメモリの搭載量を増やすことはコストアップを招くため、できるだけメモリ搭載量の増加を抑制することが求められていた。
【0010】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、装置規模の増大を抑制しつつ、光音響画像データと超音波画像データをリアルタイム生成可能な被検体情報処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、光を吸収した測定対象から放出される音響波、および、測定対象に送信された超音波が測定対象の内部で反射した超音波を受信する複数の受信素子と、前記複数の受信素子のそれぞれに対応しており、対応する受信素子が受信した音響波または超音波に基づく信号を格納する複数のメモリを含み、前記音響波に基づく信号を整相加算して光音響画像データを生成し、前記超音波に基づく信号を整相加算して超音波画像データを生成する演算手段と、前記音響波に基づく信号を前記メモリに格納し、前記光音響画像データの整相加算を開始した後、前記超音波に基づく信号を前記メモリの空き領域に格納し、前記光音響画像データの残りの整相加算と、前記超音波画像データの整相加算を時分割で実行する制御手段と、を有することを特徴とする被検体情報処理装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、装置規模の増大を抑制しつつ、光音響画像データと超音波画像データをリアルタイム生成可能な被検体情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】第1の実施形態に係る、光音響ならびに超音波装置の構成を示す図。
【図1B】第1の実施形態に係る、受信ビーム成形装置の構成を示す図。
【図1C】被検体内のターゲット領域と受信素子アレイの位置関係を示す図。
【図2】第2の実施形態に係る、受信ビーム成形装置の構成を示す図。
【図3】第3の実施形態に係る、受信ビーム成形装置の構成を示す図。
【図4】本発明に係る、光音響ならびに超音波装置の動作シーケンスを示す図。
【図5】従来例に係る、光音響ならびに超音波装置の動作シーケンスを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明による光音響ならびに超音波装置(被検体情報処理装置)の実施形態を詳細に説明する。ここで説明する装置は、例えば人体等の被検体の一部を測定対象として、処理を行うことができる。
【0015】
(第1の実施形態)
図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る光音響ならびに超音波装置1の構成を示す図である。
この光音響ならびに超音波装置1は、探触子2、AD変換器3、受信ビーム成形装置4、信号処理部5、画像処理部6、画像表示部7、遅延メモリ制御回路8、重み付け係数供給回路9、制御用CPU10、光照射部12、超音波送信部11から構成される。
【0016】
光照射部12は、制御用CPU10等の制御に従ってある一定のタイミングで被検体に光を照射する。光照射部12によって被検体に光が照射されると、光を吸収した被検体の内部から音響波が放出される。この音響波は、光音響波とも呼ばれる。また、超音波送信部11は、制御用CPU10等の制御に従って被検体に超音波を送信する。被検体の内部から放出された光音響波や、被検体に送信された超音波の反射波である超音波は、探触子2によって受信される。
【0017】
受信された光音響波ならびに超音波は、探触子2によってアナログ電気信号に変換される。アナログ電気信号は、AD変換器3によってデジタル化されてデジタル信号になる。こうして処理されたデジタル信号のうち、光音響波に由来する信号を光音響信号、反射した超音波に由来する信号を超音波信号とも呼ぶ。デジタル化された受信信号(光音響信号または超音波信号)は、受信ビーム成形装置4によって整相加算処理され、信号処理部5にてフィルタ処理・対数圧縮・包絡線検波等の処理を受ける。信号処理部では、扱う信号の性質に応じ適切な処理を施す。さらに信号処理部の出力データは、画像処理部6に入力され、画像生成に必要な複数の処理をされる。画像表示部7は、画像処理部6から出力された画像データに従い光音響ならびに超音波画像を生成し表示する。
【0018】
以下、「光音響画像データ」と「超音波画像データ」を含む画像データとは、画像表示部にてユーザに表示される「光音響画像」「超音波画像」を生成するためのデータのことを指すものとする。画像データは、主として受信ビーム成形装置によって整相加算処理された結果のデータを指すが、信号処理や画像処理を施された後の、画像になる前のデータの状態も含むものとして用いる。
【0019】
制御用CPU10は、各ブロックをコントロールするのに必要なデータ、コントロール信号を供給する。制御用CPU10は、各種の演算に必要な能力を持つ。遅延メモリ制御回路8-1〜8-Tは、デジタル信号の遅延データを処理し、受信ビーム成形装置4中の遅延調整メモリの受信データ書き込み、または読み出し制御をおこなう。尚、Tは受信ビーム成形装置4中に存在する遅延調整メモリの数量を示す。重み付け係数供給回路9-1〜
9-Xは、アポダイゼーション用の重み付けデータを処理し、受信ビーム成形装置4中の
乗算器へ重み付け係数を供給する。尚、Xは、受信ビーム成形装置4中に存在する、アポダイゼーション用の乗算器の数量を示す。
本発明の演算手段は、上記の遅延メモリ制御回路、重み付け係数供給回路、受信ビーム成形装置に相当する。また、本発明の制御手段は、上記の制御用CPUに相当する。
【0020】
図1Bは、本発明の第1の実施形態に係る受信ビーム成形装置4とその周辺回路を示す図である。ここでは、32chの受信ビーム成形装置4において、整相加算する構成を例とする。
【0021】
この受信ビーム成形装置4は、遅延調整メモリ14−1〜14−32、アポダイゼーション用の乗算器15−1〜15−32、そして加算回路80を有する。それぞれの遅延調整メモリ14は、超音波信号保存用の領域Xと、光音響信号保存用の領域Yを有する。超音波信号保存用の領域Xは、全ch(この例の場合は32ch)の最大遅延時間分の超音波
データを保存できる容量を持つことが好ましい。最大遅延時間は一般的にプローブの形状、ch数、素子ピッチ等によって定まる。例えばリニアプローブの場合、素子アレイの中心から端部までを超音波が到達するのに必要な時間が最大遅延時間とされる。
【0022】
光音響信号保存用の領域Yは、被検体の測定対象全体、すなわち被検体内部の観察領域
全ての光音響信号を保存できる容量を持つことが好ましい。例えば、被検体の5cm程度までを観察したい場合、超音波が5cmの距離を伝搬する時間32μs分の光音響データを保存する必要がある。遅延調整メモリ14において必要とされる具体的な容量はAD変換器3のサンプリング周波数によって異なる。
【0023】
AD変換器3によってデジタル化された受信信号はまず遅延調整メモリ14に取り込まれる。遅延メモリ制御回路8は、被検体のうち音圧を求める処理対象となるターゲット領域(ターゲットピクセルまたはターゲットボクセル)由来の受信信号(デジタル信号)が保存されている遅延調整メモリアドレスを遅延調整メモリ14に供給する。遅延メモリ制
御回路8は、この処理を、被検体の測定対象内のターゲット領域の座標に基づいて実行する。測定対象内のターゲット領域に由来する受信信号は、遅延メモリ制御回路8が出力した遅延調整メモリアドレスに従って遅延調整メモリ14より読み出され、受信ビーム成形装置4中の乗算器15に出力される。
【0024】
読み出し位置制御ブロック19、遅延テーブル20は遅延メモリ制御回路8の構成要素である。遅延テーブル20は、制御用CPU10から供給された遅延情報を保存する。読み出し位置制御ブロック19は、遅延テーブル20に保存された遅延情報に基き、遅延調整メモリアドレスを算出し、各遅延調整メモリ14に供給する。
【0025】
遅延調整メモリ14におけるデータ書き込み、読み出し制御について詳細に説明する。
図1Cは、ターゲットとする測定対象内のターゲット領域31と、受信素子アレイ30、アレイ中の受信素子32との位置関係の一例を示している。ターゲット領域31と、受信素子32間の距離Dは、ある一定の座標系の下、ターゲット領域31の座標(X1,Y1,Z1)と受信素子32の座標(X2,Y2,Z2)を決定すると、三平方の定理により即座に求
まる。
【0026】
また、ターゲット領域ル31と、アレイ中の受信素子32間の距離Dを音速で除算する
ことにより、ターゲット領域31からアレイ中の受信素子32までの、音響波到達時間が算出される。
ターゲットとする測定対象内から光音響波または超音波を受信している間、遅延調整メモリ14は各メモリアドレスに光音響波または超音波由来のデジタル信号を順次時系列で、しかもある一定の規則に従って、格納する。
【0027】
こうして、ターゲット領域31からアレイ中の受信素子32までの音響波到達時間と、遅延調整メモリ14におけるデジタル信号を格納する規則との関係が明らかとなる。よって、この関係から、あるターゲット領域に由来するデジタル信号が格納された遅延調整メモリアドレスの特定を実行することができる。本発明では、遅延メモリ制御回路8が、遅延調整メモリアドレスを遅延調整メモリ14に供給する。そして、遅延調整メモリ14は、遅延メモリ制御回路8より与えられた遅延調整メモリアドレスに従い、ターゲット領域31に由来するデジタル信号を乗算器15に出力する。
【0028】
重み付け係数供給回路9は、測定対象内のターゲット領域の座標に基づき、ターゲット領域に最適な窓関数重み係数を乗算器15に供給する。遅延調整メモリ14から出力された受信デジタル信号は、アポダイゼーションのため、チャンネル毎に重み付け係数供給回路9が算出した窓関数重み係数を乗算され、加算回路80へ出力される。続いて、加算回路80で32ch分の信号が加算され、整相加算された出力信号(出力A)が得られる。
【0029】
ここで、受信ビーム成形装置4における光音響信号と超音波信号の処理手順について説明する。
まず、人体への光照射によって放出された光音響波に由来する光音響信号は、遅延調整メモリ14中の領域Yに格納される。そして、遅延メモリ制御回路8が供給する遅延調整メモリアドレスをもとに光音響信号の整相加算が実行される。そして、一旦光音響信号を取り込み終了すると同時に、超音波の送受信を開始する。そして、光音響信号の整相加算と、被検体で反射した超音波に由来する超音波信号の整相加算を時分割で行う。この時分割処理では、例えば、遅延調整メモリ14への受信信号書き込みが50MHzで行われている
場合、遅延調整メモリ14からの受信信号読み出しを200MHzで行い、光音響信号の整相加算と超音波信号の整相加算を3:1の割合で行う。
【0030】
この時、光音響画像データ生成はマルチビーム成形モードで、超音波画像データ生成は
シングルビーム成形モードで、時分割で交互に行われる、といった具合になる。このような時分割処理の制御は、制御用CPUが光照射や超音波送信、探触子による音響波受信、遅延調整メモリからのデータ読み出し、加算回路における加算処理などのタイミングや処理に費やす時間を調整することにより実現される。
【0031】
ここで、シングルビーム成形モードとマルチビーム成形モードについて述べる。超音波診断装置による測定結果を用いて整相加算を行う際、探触子の各素子での遅延時間を調整することにより、被検体内の任意の点を焦点とすることが可能である。この焦点を徐々にずらすことにより、被検体内に走査線を形成することができる。この走査線が一本の場合をシングルビーム成形モードと呼ぶ。また、超音波診断の精度を向上させるために被検体内に複数本の走査線を形成する手法を、マルチビーム成形モードと呼ぶ。マルチビーム成形モードにおいては走査線ごとに遅延時間の異なる整相加算を行うので、シングルビーム成形モードに比べて処理能力を高くする(時分割処理の割り当てを増やす)必要がある。
【0032】
そして、光音響信号の整相加算が更に進行し、1フレーム分の光音響画像データ生成が完了に近づくにつれ、超音波信号の整相加算への時分割処理の割り当てを増やし、超音波画像データ生成をシングルビーム成形モードからマルチビーム成形モードに切り替える。モード切り替えは、例えばマルチビームの走査線数を少しずつ増やすように徐々に行っても良いし、後述するようにフェーズの境目で実行しても良い。このように、本発明の第1の実施形態では、光音響画像データの生成度合いに応じ、超音波画像データ生成速度を変化させることで、光音響画像データと超音波画像データ双方のデータ生成速度を最適化する。
【0033】
この方法によれば、1フレーム分の光音響画像データ生成を完了した後に超音波画像データ生成を開始する方法よりも、より長い観察期間の超音波画像を形成可能なため、超音波画像のリアルタイム性が向上する。光音響画像データ読み出し割合と超音波画像データ読み出し割合は時系列で変化し得るが、その割合はプローブの種類や診断状況で最適となるよう調節するものとする。
【0034】
図5は、従来の実施形態に係る光音響ならびに超音波装置の動作シーケンスを示す図である。
測定サイクル開始とともに光音響波取得のため生体への光照射が行われる。その次の光音響波取得フェーズAでは、光を吸収した測定対象内から放出された光音響波を探触子に
て受信し、測定対象内のターゲット領域について整相加算処理を行い、光音響画像データを生成する。そして、光音響波取得フェーズA終了後に超音波取得フェーズBが開始し、超音波の送信動作と受信動作がN回繰り返し行われ、超音波画像データが生成される。
【0035】
一方、図4は、本発明の第1の実施形態に係る光音響ならびに超音波装置の動作シーケンスを示す図である。
測定サイクル開始とともに光音響波取得のため生体への光照射が行われる。その次の光音響波取得フェーズAでは、光を吸収した測定対象内で発生した光音響波を探触子にて受
信し、測定対象内のターゲット領域について整相加算処理を行い、光音響画像データを生成する。光音響波取得フェーズAより後に開始される超音波取得フェーズB’では、超音波の送信動作と受信動作がM回繰り返し行われ、超音波画像データが生成される。
【0036】
超音波取得フェーズB’は、光音響波取得フェーズAと重なるB1フェーズと、光音響波取得フェーズAと重ならないB2フェーズに分けられる。B1フェーズでは光音響信号の整相加
算も時分割処理されるため、多数の超音波受信ビーム成形は困難である。よって、少数の超音波受信ビーム成形を行う。しかし、B2フェーズでは超音波信号の整相加算のみを行えるため、多数の超音波受信ビーム成形へと動作を切り替え、超音波画像のフレームレート
を向上させる。
【0037】
このような測定サイクルを順次行うことにより、光音響画像と超音波画像のリアルタイム生成を行う。図4に示された本発明の第1の実施形態における超音波画像データ生成時間B’は、図5に示された従来の実施形態における超音波画像データ生成時間Bよりも長い。つまり、本発明の第1の実施形態における超音波送受信回数Mは、従来の実施形態にお
ける超音波送受信回数Nよりも多くなり、超音波の取得可能時間、つまり超音波信号によ
る観察時間が長くできる。よって、超音波画像のリアルタイム性が著しく損なわれることはない。
【0038】
超音波画像の取得ビーム本数の変更は、必ずしもB1フェーズとB2フェーズの境目で行う必要はなく、光音響画像と超音波画像の状態が最適化されるよう、時系列で柔軟に変更して良い。また、測定サイクル中固定しておいても良い。
【0039】
本発明の第1の実施形態における超音波取得開始タイミング、つまり図4に示される超音波取得フェーズB’開始タイミングの決定法について説明する。本発明の第1の実施形
態においては、遅延調整メモリ14は、超音波信号保存用の領域Xと、光音響信号保存用
の領域Yを持つ。よって、一旦光音響波取得が終了した時点で、超音波取得フェーズB’を開始し、空き領域である超音波信号保存用の領域Xへ超音波信号を保存しはじめて良い。
【0040】
このように本発明の第1の実施形態によれば、光音響信号の整相加算処理と超音波信号の整相加算処理を時分割で行えるため、超音波画像のリアルタイム性を著しく損なうことなく、光音響画像データと超音波画像データ双方のリアルタイム生成を実現できる。
【0041】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態に係る受信ビーム成形装置4とその周辺回路を示す図である。ここでは、32chの受信ビーム成形装置4において、8chを1グループとして整相加算する構成を例とする。
【0042】
この受信ビーム成形装置4は、第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4を有する。加えて、4個の超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4の出力データを整相加算する第二超音波受信ビーム成形装置ユニット61を持つ。遅延調整メモリ14は、人体内の観察領域全ての光音響データを保存できる容量を持つ必要がある。例えば、人体の5cm程度までを観察したい場合、超音波が5cmの距離を伝搬する時間、32μs分の光音響データを保存する必要がある。遅延調整メモリ14において必要と
される具体的な容量はAD変換器3のサンプリング周波数によって異なる。
【0043】
AD変換器3によってデジタル化された受信信号はまず遅延調整メモリ14に取り込まれる。遅延メモリ制御回路8は、測定対象内のターゲット領域の座標に基づき、ターゲット領域に由来するデジタル信号が保存されている遅延調整メモリアドレスを遅延調整メモリ14に供給する。測定対象内のターゲット領域に由来するデジタル信号は、遅延メモリ制御回路8が出力した遅延調整メモリアドレスに従って遅延調整メモリ14より読み出され、受信ビーム成形装置4中の乗算器15に出力される。
【0044】
読み出し位置制御ブロック19、遅延テーブル20は遅延メモリ制御回路8の構成要素である。遅延テーブル20は、制御用CPU10から供給された遅延情報を保存する。読み出し位置制御ブロック19は、遅延テーブル20に保存された遅延情報に基づき、遅延調整メモリアドレスを算出し、各遅延調整メモリ14に供給する。
【0045】
遅延調整メモリ14におけるデータ書き込み、読み出し制御について説明する。
遅延調整メモリ14に対する遅延調整メモリアドレスの供給法、重み係数の乗算器15への供給法は、第1の実施形態と同様である。
【0046】
遅延調整メモリ14から出力された受信デジタル信号は、アポダイゼーションのため、チャンネル毎に重み付け係数供給回路9が算出した窓関数重み係数を付され、加算回路16へ出力される。こうして、第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60のそれぞれによる、8ch分の整相加算が行われる。続いて、第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60の加算結果は、第二超音波受信ビーム成形装置ユニット61へと入力される。第二超音波受信ビーム成形装置ユニット61では、遅延調整メモリ17によって第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60の整相加算結果をさらに整相加算する。
【0047】
遅延調整メモリ17による整相加算は、遅延メモリ制御回路8が供給する遅延調整メモリアドレスをもとに行われる。遅延調整メモリ17に供給される遅延調整メモリアドレスは、各第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4の整相加算終了タイミングから算出される。こうして最終的に32ch分の整相加算が完了する。
【0048】
ここで、受信ビーム成形装置4における光音響信号と超音波信号の処理手順について説明する。
まず人体への光照射によって発生した光音響波に由来する光音響信号は遅延調整メモリ14に格納される。そして、遅延メモリ制御回路8が供給する遅延調整メモリアドレスをもとに光音響信号の整相加算が行われる。この時、第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜4の出力は、第二超音波受信ビーム成形装置ユニット61中の遅延調整メモリ17を経由して加算回路18へ入力されてもよい。あるいは、遅延調整メモリ17を経由せず直接加算回路18へ入力されてもよい(図示せず)。
【0049】
光音響信号の整相加算が進行し、処理が済んだターゲットボクセルまたはピクセルが増えていくと、遅延メモリ14に格納されたデータの中に、もはや光音響信号の整相加算には使用しないものが出てくる。そのようなデータは遅延メモリ14から消去して、空き領域を作ることができる。遅延メモリ14に超音波信号を取得するのに必要な所定の容量の空き領域ができた時点で超音波の送受信を開始し、被検体で反射した超音波に由来する超音波信号の整相加算を開始する。
【0050】
この時、光音響信号の整相加算と、超音波信号の整相加算は時分割で行われる。この時分割処理では例えば、50MHzで受信データを取り込んでいる遅延調整メモリ14から200MHzでデータ読み出しを行う場合、光音響信号の整相加算用のデータ読み出し量と、超音波
信号の整相加算用のデータ読み出し量を3:1の割合で行う。この時、マルチビーム成形モードで行う光音響画像データ生成と、シングルビーム成形モードで行う超音波画像データ生成を、時分割で交互に行うことになる。
【0051】
そして、光音響信号の整相加算用のデータ読み出しが更に進み、1フレーム分の光音響画像データ生成が完了に近づくにつれ、超音波信号の整相加算用のデータ読み出し割合を増やす。例えば、超音波画像データ生成をシングルビーム成形モードからマルチビーム成形モードに切り替えるという具合である。
【0052】
このように、本発明の第2の実施形態では、光音響画像データの生成度合いに応じ、超音波画像データ生成速度を変化させることで、光音響画像データと超音波画像データ双方のデータ生成速度を最適化する。この方法によれば、1フレーム分の光音響画像データ生成を完了した後に超音波画像データ生成を開始する方法よりも、より長い観察期間の超音波画像を形成可能なため、超音波画像の診断能が向上する。光音響画像データ読み出し割合と超音波画像データ読み出し割合は時系列で変化し得るが、その割合はプローブの種類
や診断状況で最適となるよう調節するものとする。
【0053】
本発明の第2の実施形態に係る光音響ならびに超音波装置の動作シーケンスは、図4に示される本発明の第1の実施形態の動作シーケンスと同様とする。
【0054】
本発明の第2の実施形態における超音波取得開始タイミング、つまり図4に示される超音波取得フェーズB開始タイミングの決定法について説明する。
【0055】
超音波取得開始タイミングは、診断に用いるプローブの素子ピッチや形状に依存する最大遅延時間というパラメータで決定される。遅延調整メモリを多段に配置しない本発明の第1の実施形態では、整相加算を矛盾なく行うために、各chの遅延メモリが全chの最大遅延時間分の超音波受信データを格納可能な容量を持つ必要がある。
【0056】
一方、受信ビーム成形装置が図2の構成を取る場合、整相加算を矛盾なく行うためには、遅延調整メモリ14中に、(第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60に含まれるch数−1)chの最大遅延時間分の超音波受信データを格納可能な容量が必要となる。加えて、遅延調整メモリ17が、以下のch数の最大遅延時間分の超音波受信データを格納可能な容量がある必要がある。
{(第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60の数−1)×(第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60に含まれるch数)}ch
【0057】
言い換えると、遅延調整メモリ17が、以下のch数の最大遅延時間分の超音波受信データを格納可能な容量を持つ必要がある。
{(前段の超音波受信ビーム成形装置ユニット数―1)×(前段の超音波受信ビーム成形装置ユニットの持つch数)}ch
この時、遅延メモリ14中に全ch(図1Bの場合は32ch)の最大遅延時間分の超音波受信データを格納可能な容量が無くとも、矛盾なく整相加算処理が実現可能である。
【0058】
もし、遅延調整メモリ14からサンプリング周波数の複数倍の周波数でデータを読み出し、マルチビーム成形処理を行いたい場合は、遅延メモリ調整17に必要な容量は、以下のようになる。
[{(第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60の数−1)×(第一超音波受信ビー
ム成形装置ユニット60に含まれるch数)}chの最大遅延時間分の超音波受信データを格納可能な容量]×(データ読み出し周波数/サンプリング周波数)
【0059】
図2を例に受信ビーム成形装置4の具体的動作を説明する。
ある目標点から各受信素子までの距離は異なるため、目標点から反射される超音波が各受信素子すなわち各超音波受信チャンネルに到達する時間には差違が生じる。そのため、超音波受信ビーム成形装置では、各受信素子から受信した信号を遅延時間調整し、目標点から反射してきた超音波に由来する超音波信号の検出を行う。図2に示す超音波受信ビーム成形装置中の各チャンネルに対しても、目標点から反射された超音波に由来する超音波信号を得るため、遅延時間調整を行う。この時、第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜4は、目的方向のビームを得るため、各チャンネルに割り当てられた遅延量情報に従い、遅延調整メモリ14−1〜14−32に蓄えられたデジタル信号を乗算器15−1〜32に出力する。
【0060】
出力されたデジタル信号は、アポダイゼーションのための重み付け係数を付され、加算手段16−1〜16−4へ出力される。このような処理によって、それぞれの第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4内では、ある目標点から反射してきた8チャンネル分の超音波信号が整相加算される。
【0061】
しかし、各チャンネルに配置されている遅延調整メモリ14には、(8−1)=7チャンネルの遅延時間分しか、超音波信号を保持できない。よって、各々の第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4内で整相加算が終了し次第、第二超音波受信ビーム成形装置ユニット61へデータを出力する。しかし、そのタイミングには第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4間でずれが生ずる。そのため、各々の第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4の整相加算終了タイミングの時間差を後段にて吸収する、つまり再度遅延時間調整を行う必要がある。
【0062】
そこで、後段の第二超音波受信ビーム成形装置ユニット61中に、4個の第二遅延調整メモリ17−1〜17−4が配置される。各々の第二遅延調整メモリ17−1〜17−4は、第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4間の遅延時間調整を行う構成となっており、少なくとも(4−1)×8=24ch分の遅延時間を調整可能な容量を有している。第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜60−4からある遅延時間差をもって順次出力される整相加算結果は、第二遅延調整メモリ17−1〜17−4に入力され、整相加算処理を施される。
【0063】
このように、第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60−1〜4以下、複数段の超音波受信ビーム成形装置ユニットにて遅延時間調整を行う構成により、矛盾なく整相加算処理が可能である。従来の整相加算回路では、全chの遅延調整メモリが各々最大遅延時間分のデータを保存できる容量を持つ必要があった。
【0064】
一方、本発明の第2の実施形態では受信初段の遅延調整メモリ14−1〜14−32には(32−1)=31chではなく、(8−1)=7chの最大遅延時間分の超音波受信データを格納できる容量があれば整相加算処理が可能である。また、後段の超音波受信ビーム成形装置ユニット中の遅延調整メモリでは、以下のch分の最大遅延時間分の超音波受信データを格納できれば良い。
{前段の超音波受信ビーム成形装置ユニット数―1}×(前段の超音波受信ビーム成形装置ユニットの持つch数)}ch
こうした構成を取ることで、整相加算回路の規模を増大させることなく、光音響信号と超音波信号を時分割で整相加算処理できる。
【0065】
図2の例では、超音波受信ビーム成形装置においてリニアプローブを用い、最大遅延量が520ステップ、データが14ビット、そして1ビーム取得の場合にチャンネル間の遅延時間差がすべて等しいと仮定する。また、50MHzのサンプリング周波数に対し、200MHzでデータ読み出しを行い、最大4本のマルチビーム取得を行うと仮定する。
【0066】
この時、遅延時間調整を行う場合に必要なメモリ容量を算出してみる。加算初段では、以下の容量の遅延調整メモリ14が必要となる。
520×7/31×14bit×32個=52.6Kb
次の加算段では以下の容量の遅延調整メモリ17が必要となる。
520×24/31×14bit×4個×4=90.2Kb
したがって、整相加算に必要なメモリ容量は、合計142.8Kbとなる。
【0067】
また、遅延調整メモリ14では、光音響画像データ生成のために、目的の観察深さ領域から得られた光音響波に由来する光音響信号を全て保存しておく必要がある。光音響波を5cmの深度まで観察したい場合、50MHzでサンプリングを行うとすると、以下のステップ
分の音響信号を保存する必要がある。
5(cm)/1540(m)/20(ns)=1600
この時必要な遅延調整メモリ14の32ch分の容量は、以下のようになる。
1600×14bit×32個=716.8Kb
【0068】
まず光音響信号を取り込んで整相加算し、遅延調整メモリ14に超音波信号の整相加算に必要な所定の容量の空き領域ができてから超音波信号を取り込むため、遅延調整メモリ14に超音波信号用の領域を設ける必要はない。また、90.2Kbの遅延調整メモリ17を追加するだけなので、回路規模にはさほど影響がない。
【0069】
この例のように、超音波受信ビーム成形用において遅延調整メモリを多段に配置しても回路規模にさほど影響はない。よって、本発明の第2の実施形態では、受信ビーム成形装置4の回路規模を増大させることなく、光音響信号の整相加算と超音波信号の整相加算を時分割で行うことが可能である。
【0070】
以上述べた第2の実施形態では、本発明におけるグループ内の受信素子数であるM個は、8個である。また、本発明におけるグループ数であるN個は、4個である。MおよびNが1より大きい整数であることは言うまでもない。本発明におけるM個の信号を整相加算する第1整相加算手段とは、8個の信号を整相加算する第一超音波受信ビーム成形装置ユニット60に相当する。N個の信号を整相加算する第2整相加算手段とは、4個の信号を整相加算する第二超音波受信ビーム成形装置ユニット61に相当する。
【0071】
第一超音波受信ビーム成形装置ユニットにおいて、トータル何chを整相加算するのかは任意である。また、1グループに含まれるch数の所定数をいくつにして整相加算するのか、また何段の超音波受信ビーム成形装置ユニットをカスケードして受信ビーム成形装置4を構成するのかも任意である。これらは、装置の仕様によって決定することとなり、諸条件によって遅延メモリを配置する段数、各々の遅延メモリの容量は決定される。
【0072】
また、これまでの説明では、光音響データ取得に必要な遅延調整メモリ14容量が、超音波信号を取得にするために1ch当たりに必要な遅延調整メモリ14容量より多い場合を例に取り上げた。もし、超音波信号を取得にするために1ch当たりに必要な遅延調整メモリ14容量が、光音響データ取得に必要な遅延調整メモリ14容量より多い場合は、遅延調整メモリ14に要求される容量は異なる。この場合は、超音波信号を取得にするために1ch当たりに必要な容量以上の遅延調整メモリ14を各chに用意する。そして、まず光音響信号を取得して光音響画像データ生成を行い、遅延調整メモリ14に超音波画像データ生成できる容量が空いてから超音波データ取得フェーズを開始しても良い。
【0073】
または、本発明の第1の実施形態のように光音響画像データ用のメモリ領域を別に設け、光音響信号はその領域に保存しても良い。一旦光音響信号取得が終了した時点で超音波取得フェーズB’を開始し、超音波信号保存用のメモリ領域へ超音波信号を保存し、光音
響画像データ生成と超音波画像データ生成を時分割で行っても良い(図示せず)。
【0074】
尚、受信ビーム成形装置4は必ずしも1つのみを配置すべきものではない。システム規模の観点から許容されるならば、受信ビーム成形装置4を複数並列に配置し、整相加算処理能力をさらに高める構成にしてもよい。
【0075】
本発明の第2の実施形態によれば、光音響トモグラフィ診断装置と超音波診断装置の回路を共通化しながらも、光音響画像と超音波画像双方のデータをリアルタイム生成できる。
加えて、本発明の第2の実施形態によれば、光音響信号の整相加算処理と超音波信号の整相加算処理を時分割で行えるため、超音波画像のリアルタイム性を著しく低下させることなく、光音響画像データと超音波画像データ双方のリアルタイム生成を実現できる。
【0076】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態に係る、超音波信号取得時の受信ビーム成形装置4とその周辺回路を示す図である。
この受信ビーム成形装置4は、遅延調整メモリ22、乗算器23、加算回路24、25、27、28、遅延調整メモリ26から構成される。
【0077】
AD変換器3によってデジタル化された受信信号は遅延調整メモリ22に取り込まれる。遅延メモリ制御回路8は、測定対象の内部のターゲット領域の座標に基づき、ターゲット領域に由来するデジタル信号が保存されている遅延調整メモリアドレスを遅延調整メモリ22に供給する。測定対象内のターゲット領域に由来するデジタル信号は、遅延メモリ制御回路8が出力した遅延調整メモリアドレスに従って遅延調整メモリ22より読み出され、受信ビーム成形装置4中の乗算器23に出力される。
【0078】
読み出し位置制御ブロック19は、遅延テーブル20に保存された遅延情報に基づき、遅延調整メモリアドレスを算出し、各遅延調整メモリ22に供給する。
【0079】
本実施形態では、後述するように、超音波受信時には、加算回路27の出力を整相加算データとして、信号処理部5へ転送する。一方で、光音響波受信時には加算回路28-1
〜28-3の出力を整相加算データとして信号処理部5へ転送する。
【0080】
ここで、光音響信号取得時における、加算回路28-1〜28-3のグループ分けの方法について説明する。超音波診断装置の分野において、整相加算による受信ビーム形成時にサイドローブを生じないためには、受信素子ピッチが超音波の波長の1/2以下であれば
よいことが一般的に知られている。光音響トモグラフィ診断装置の場合、人体への光照射によって発生し受信素子へ到達する光音響波の周波数は1MHz程度である。
【0081】
一方超音波診断装置においては、超音波の周波数は十数MHzとなり得る。例えば、本発
明において、6MHzを中心周波数帯域とする探触子を用いたとする。この場合、光音響波
の中心周波数は1MHzであるのに対し、超音波の中心周波数は6MHzであり、波長には6倍の違いが生ずる。つまり、光音響波に対しては、超音波用の6MHz探触子の素子ピッチは
必要以上に細かくなってしまう。
【0082】
そこで、本発明の第3の実施形態においては、光音響波取得時には隣接する複数の受信素子をまとめて1素子と見なし、実効的に素子ピッチを広げる。図3を例にとると、隣接する3つの受信素子を1グループとし、その1グループをまとめて1素子と見なす。この場合、隣接する3つの受信素子に接続されているAD変換器3-1〜3-3は、1素子に3つ並列に接続されたときと同等と見なされる。そして、遅延調整メモリ22-1〜22-3には各々同一の受信データが格納されると見なす。
【0083】
AD変換器3-4〜3-6、AD変換器3-7〜3-9、AD変換器3-10〜3-12、AD変換器3-13〜3-15、AD変換器3-16〜3-18についても同様である。また、遅延調整メモリ22-4〜22-6、遅延調整メモリ22-7〜22-9、遅延調整メモリ22-10〜
22-12、遅延調整メモリ22-13〜22-15、遅延調整メモリ22-16〜22-1
8についても同様である。
【0084】
この構成では、実質的に一つの素子に対し、AD変換器3、遅延調整メモリ22、乗算器23から成る回路が3つ並列に接続されていると見ることができる。そこで、加算回路24-1を乗算器23-1、23-4、23-7に接続し、加算回路24-2を乗算器23-2、23-5、23-8に接続し、さらに加算回路24-3を乗算器23-3、23-6、23-9に接続する。同様に、加算回路24-4を乗算器23-10、23-13、23-16に接続
し、加算回路24-5を乗算器23-11、23-14、23-17に接続し、さらに加算回路24-6を乗算器23-12、23-15、23-18に接続する。この場合、加算回路24の個数は、一つの素子と見なされたグループの個数と同じになる。
【0085】
続けて、加算回路24−1、24−4を加算回路28−1に接続し、加算回路24−2、24−5を加算回路28−2に接続し、加算回路24−3、24−6を加算回路28−3に接続する。こうして、加算回路28-1〜28-3の出力を取得できるようにすると、光音響波受信時には整相加算回路を3つ並列に配置したのと同等となる。つまり、本発明の第3の実施形態における図3の例では、光音響波受信時には、超音波受信時に比して3倍の整相加算処理能力を得られることとなる。
【0086】
なお、1グループとしてまとめる素子数は必ずしも3つである必要はない。サイドローブを生じる懸念がない限り、いくつの素子をまとめても良い。
【0087】
また、実質的に1素子と見なされる受信素子に接続されている複数のAD変換器3の出力を加算し、遅延調整メモリ11に入力するようにしても良い(図示せず)。例えば、AD変換器3-1〜3-3の出力を加算し、加算結果を遅延調整メモリ22-1〜22-3に入力する。同様に、AD変換器3-4〜3-6の出力を加算し、加算結果を遅延調整メモリ22-4
〜22-6に入力する。こういった構成により、3つのAD変換器3に入力された受信信号
が重畳され、光音響信号のSN比が向上する。
【0088】
一方、超音波信号の画像データ生成の場合には、第一超音波受信ビーム成形装置ユニット70−1〜70−2、第二超音波受信ビーム成形装置ユニット71を用いて、第1の実施形態と同様の動作を行う。
すなわち、超音波信号を処理する時には、加算回路24−1〜3と、加算回路24−4〜6の出力が、それぞれ加算回路25−1、25−2で加算される。そして、加算回路25−1〜2の出力が、加算回路27でさらに加算される。そして、加算回路27の出力が整相加算データとして、信号処理部5へ転送される。
【0089】
受信ビーム成形装置4は必ずしも1つのみを配置すべきものではない。システム規模の観点から許容されるならば、受信ビーム成形装置4を複数並列に配置し、整相加算処理能力をさらに高める構成にしてもよい。
【0090】
本発明の第3の実施形態に係る、光音響ならびに超音波装置の動作シーケンスと超音波取得フェーズ開始タイミングの決定法は、第2の実施形態と同様とする。
また、本発明の第3の実施形態に係る、光音響ならびに超音波装置の遅延調整メモリ14の必要容量の決定法は、第2の実施形態と同様とする。
【0091】
以上述べた第3の実施形態では、本発明におけるグループ内の受信素子数であるM個は、9個である。また、本発明におけるグループ数であるN個は、2個である。MおよびNが1より大きい整数であることは言うまでもない。本発明におけるサブグループ内の受信素子数であるP個は、3個である。本発明におけるサブグループ数であるQ個は、6個(各グループ内に3個ずつ)である。P、Qが1より大きい整数であることは言うまでもない。
第3の実施形態では、本発明におけるM個の信号を整相加算する第1整相加算手段とは、9個の信号を整相加算する第一超音波受信ビーム成形装置ユニット70に相当する。N個の信号を整相加算する第2整相加算手段とは、2個の信号を整相加算する第二超音波受信ビーム成形装置ユニット71に相当する。それぞれの第1整相加算手段内に含まれるP個の第1加算器とは、それぞれの第一超音波受信ビーム成形装置ユニット70内にある3個の加算回路24に相当し、第2加算器とは、加算回路25に相当する。本発明における
第3加算器とは、加算回路28に相当する。
【0092】
本発明の第3の実施形態によれば、光音響トモグラフィ診断装置と超音波診断装置の回路を共通化しながらも、光音響画像と超音波画像双方のデータをリアルタイム生成できる。
加えて、本発明の第3の実施形態によれば、光音響波取得時には、整相加算回路を複数並列に設置した場合と同様の効果を得ることができ、光音響信号の整相加算処理を高速で行える。よって、超音波画像のフレームレートを著しく低下させることなく、光音響画像データと超音波画像データ双方のリアルタイム生成を実現できる。また、光音響信号のSN比を向上できる。
【0093】
本発明の第1〜3の実施形態において、光音響波取得後に超音波の取得開始が可能なタイミングは、検査に用いるプローブの形状、素子ピッチに依存する最大遅延時間によって決定される。よって、超音波取得開始時間を最適化するため、プローブに最大遅延時間パラメータ情報を記憶させておき、その情報を基に使用プローブ毎に最適なタイミングで超音波取得を開始するようにしても良い。または、装置で使用可能なプローブの最大遅延時間情報を装置側に記録しておき、使用プローブ毎に最適なタイミングで超音波取得を開始するようにしても良い。最大遅延時間は、装置外部からアップデートできるようにし、プローブの種類や仕様の変更に対応できるようにすることが望ましい。
【0094】
また、本発明の第1〜3の実施形態における画像表示には複数の方法がある。例えば、生成された光音響画像と超音波画像は、重畳表示しても、別個に片方のみ表示しても良い。また、2つの画像をモニタ上に別個に並べて表示できるようにしても良い。
【0095】
光音響画像データと超音波画像データを合成処理して重畳表示する際に微妙な画像情報が失われてしまう恐れがある場合、光音響画像と超音波画像をモニタ上の同一領域上で交互表示させ、両画像の対応を観察しても良い。この場合、検査者が診断に最適と感じる両画像の交互表示割合は、検査対象や生成された画像のコントラストによって異なる。そこで、検査時に、交互表示割合を連続して変化させ、各々の検査者が最適と感じる交互表示割合を選択可能なテストモードを設けても良い。また、画像の交互表示割合は画像データとともに装置に記録し、再現可能にしておくことが望ましい。
【0096】
本発明の第1〜3の実施形態においては光音響画像データ生成と超音波画像データ生成を時分割で進め、超音波信号による撮像時間を長くできるため、超音波画像データのリアルタイム性が通常の超音波診断装置に比べ大きく損なわれることはない。一方、光音響画像のフレームレートは光照射間隔で律速されるものであるため、光照射間隔内に光音響画像データの生成が終了する限り、光音響画像のフレームレートが低下することはない。
よって、本発明の第1〜3の実施形態においては、光音響画像と超音波画像のリアルタイム性を十分に確保した、診断能の高い医用画像を生成可能である。
【0097】
なお、測定サイクル内においては、光照射フェーズと光音響波取得フェーズが必ずしも超音波取得フェーズに先行する必要はない。光照射フェーズと光音響波取得フェーズに先行して超音波取得フェーズが行われても何ら問題はない。
【0098】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0099】
2:探触子,3:AD変換器,4:受信ビーム成形装置,11:超音波送信部,12:光照射部,14:遅延調整メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を吸収した測定対象から放出される音響波、および、測定対象に送信された超音波が測定対象の内部で反射した超音波を受信する複数の受信素子と、
前記複数の受信素子のそれぞれに対応しており、対応する受信素子が受信した音響波または超音波に基づく信号を格納する複数のメモリを含み、前記音響波に基づく信号を整相加算して光音響画像データを生成し、前記超音波に基づく信号を整相加算して超音波画像データを生成する演算手段と、
前記音響波に基づく信号を前記メモリに格納し、前記光音響画像データの整相加算を開始した後、前記超音波に基づく信号を前記メモリの空き領域に格納し、前記光音響画像データの残りの整相加算と、前記超音波画像データの整相加算を時分割で実行する制御手段と、
を有することを特徴とする被検体情報処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記光音響画像データの残りの整相加算が終了するまでは、前記超音波画像データの整相加算をシングルビーム成形モードで行い、前記光音響画像データの残りの整相加算が終了した後は、前記超音波画像データの整相加算をマルチビーム成形モードで実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報処理装置。
【請求項3】
前記複数のメモリは、少なくとも測定対象全体の光音響画像データを生成するために必要な量の信号を格納するだけの容量を持ち、
前記制御手段は、前記光音響画像データの整相加算が進行して前記複数のメモリに所定の容量の空き領域ができた時点で、前記超音波に基づく信号を当該空き領域に格納してから、前記超音波画像データの整相加算を開始する制御を行う
ことを特徴とする請求項1または2に記載の被検体情報処理装置。
【請求項4】
前記複数の受信素子は、M個の受信素子ごとにN個のグループに分けられており(M、Nは1より大きい整数)、
前記演算手段は、
グループごとに設けられ、同じグループに含まれるM個の受信素子から得られたM個の信号を整相加算するN個の第1整相加算手段と、
前記N個の第1整相加算手段から出力されるN個の信号を整相加算する第2整相加算手段と、を含む
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の被検体情報処理装置。
【請求項5】
各グループのM個の受信素子は、隣接するP個の受信素子ごとにQ個のサブグループに分けられており(P、Qは1より大きい整数であり、P×Q=Mを満たす)、
前記N個の第1整相加算手段はそれぞれ、
各サブグループのP個の受信素子から得られたP個の信号がそれぞれ入力され、Q個のサブグループにおける対応する受信素子からそれぞれ得られたQ個の信号を加算する、P個の第1加算器と、
前記P個の第1加算器から出力されるP個の信号を加算し前記第2整相加算手段へ出力する第2加算器と、を含み、
前記演算手段は、
各第1整相加算手段のP個の第1加算器にそれぞれ接続され、N個の第1整相加算手段における対応する第1加算器からそれぞれ出力されたN個の信号を加算する、P個の第3加算器を含み、
超音波画像データの整相加算の場合は、前記第2整相加算手段から出力される信号を超音波画像データとして出力し、
光音響画像データの整相加算の場合は、前記第3加算器から出力される信号を光音響画像データとして出力する。
ことを特徴とする請求項4に記載の被検体情報処理装置。
【請求項6】
前記超音波画像データに基づく超音波画像と、前記光音響画像データに基づく光音響画像を、合成して重畳表示するか、所定の割合で交互に表示するか、または並べて表示する画像表示部をさらに有する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の被検体情報処理装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−81004(P2012−81004A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228681(P2010−228681)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】