被覆された移植可能な医療器具
【課題】多孔質層を介して生物学的に活性な物質を制御された速度で放出する移植可能な医療器具を提供する。
【解決手段】脈管系内へ挿入するのに適した構造体12と、構造体の一方の面上に配置された被覆層16と、被覆層の少なくとも一部分上に配置された生物学的活性物質の層とを有する、被覆された移植可能な医療器具10であり、被覆層16は被覆層からの生物学的活性物質の制御された放出を行うことができる。更に、多孔質層20を生物学的活性物質層18上に配置することができ、多孔質層はポリマーを含有し、そして、この層からの生物学的活性物質の制御された放出を行うことができる。多孔質層20は、好ましくは蒸着又はプラズマ蒸着により塗布されたポリマーを含有し、生物学的活性物質の制御された放出を行う。ポリマーはポリアミド、パリレン又はパリレン誘導体であり、溶剤、加熱、触媒などを使用せず、単に、単量体蒸気の縮合により蒸着される。
【解決手段】脈管系内へ挿入するのに適した構造体12と、構造体の一方の面上に配置された被覆層16と、被覆層の少なくとも一部分上に配置された生物学的活性物質の層とを有する、被覆された移植可能な医療器具10であり、被覆層16は被覆層からの生物学的活性物質の制御された放出を行うことができる。更に、多孔質層20を生物学的活性物質層18上に配置することができ、多孔質層はポリマーを含有し、そして、この層からの生物学的活性物質の制御された放出を行うことができる。多孔質層20は、好ましくは蒸着又はプラズマ蒸着により塗布されたポリマーを含有し、生物学的活性物質の制御された放出を行う。ポリマーはポリアミド、パリレン又はパリレン誘導体であり、溶剤、加熱、触媒などを使用せず、単に、単量体蒸気の縮合により蒸着される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、ヒト及び獣医用の医療器具に関する。更に詳細には、本発明は、薬物又は生物学的に活性な薬剤を組込んだ医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
食道、気管、結腸、胆管、尿管、脈管系又はヒトあるいは獣類患者の体内のその他の位置に、移植可能な医療器具を部分的に又は全て移植することにより様々な医学的状態を治療することは一般的になりつつある。例えば、脈管系の多くの治療では、ステント、カテーテル、バルーン、ワイヤガイド、カニューレなどのような器具の導入を必要とする。しかし、このような器具が脈管系内に導入され、この脈管系を介して操作される場合、血管壁が攪乱され、そして、傷付けられる。この負傷部位にはしばしば、凝血形成又は血栓症が生じ、その結果、血管の狭窄又は閉塞が起こる。更に、このような医療器具が長期間にわたって患者の体内に残置されると、血栓症はしばしば医療器具自体にも生じ、結果的に狭窄又は閉塞を起こす。その結果、患者は様々な合併症(例えば、心臓発作、肺気腫及び卒中など)の危険に曝される。従って、このような医療器具の使用は、その使用を改善するつもりであった問題の危険性を内包する。
【0003】
血管が狭窄を被る別の形態は病気によるものである。おそらく、血管の狭窄を起こす最も普遍的な病気はアテローム硬化症である。アテローム硬化症は、左胃動脈、大動脈、腸骨大腿骨動脈及び頸動脈に一般的に悪影響を及ぼす疾患である。脂質、線維芽細胞及びフィブリンのアテローム性プラーク(斑)が増殖し、そして、動脈の閉塞を起こす。閉塞が進行するにつれて、狭窄の臨界レベルは、閉塞箇所を通過する血流が閉塞部位の下流遠位側の組織の代謝必要量を満たすには不十分となる点にまで達する。その結果、虚血となる。
【0004】
アテローム硬化症の処置のために、多数の医療器具類及び治療方法が知られている。ある種のアテローム硬化症病変の特に有用な治療法の一例は、経皮経管腔血管形成術(PTA)である。PTA手術中に、先端にバルーンが取付けられたカテーテルを患者の動脈内に挿入する。この場合、バルーンは収縮されている。カテーテルの先端を、膨張させるべき、アテローム硬化症プラークの箇所にまで前進させる。バルーンを動脈の狭窄区域内に配置するか又は該区域と交差して配置させ、その後、膨張させる。バルーンの膨張により、アテローム硬化症プラークが“砕かれ”、血管が拡大され、これにより、少なくとも部分的に、狭窄が緩和される。
【0005】
PTAは現在広く使用されているが、これには2つの大きな問題が存在する。第1に、血管は、拡張処置後の最初の数時間内又は数時間直後に、急性の閉塞を被る。このような閉塞は“突発性閉鎖”と呼ばれる。突発性閉鎖は、PTAが使用される症例の約5%程度に起こり、血流が即座に回復されない場合、心筋梗塞を起こし、死に至る。突発性閉鎖の主たる機構は、弾性反動、動脈の解体及び/又は血栓症であると思われる。血管形成術を行う時に、動脈壁へ適当な薬剤(例えば、抗トロンビン剤)を直接投与すると、血栓性急性閉鎖の発病率を低下させることができると思われているが、このような直接投与の試みの結果は混乱し、判然としない。
【0006】
PTAにおいて遭遇される第2の主要な問題は、最初に成功した血管形成の後に、動脈が再び狭くなることである。この再び狭まくなることは、“再狭窄”と呼ばれており、一般的に、血管形成後の最初の六ヶ月以内に起こる。再狭窄は、動脈壁からの細胞成分の増殖及び移行による他、“リモデリング(remodeling)”と呼ばれる動脈壁内における幾何学的変化により発生するものと思われる。
【0007】
同様に、動脈壁へ適当な薬剤を直接投与すると、再狭窄を引き起こす細胞及び/又はリモデリング事象が阻害されるものと思われている。しかし、血栓による急性閉鎖を抑制する試みと同様に、この方法により再狭窄を抑制する試みの結果も混乱し、判然としない。
【0008】
非アデローム硬化症による血管狭窄もPTAにより治療できる。例えば、タカヤス動脈炎又は神経線維腫症は、動脈壁の線維症性肥厚による狭窄を引き起こす。しかし、これらの病変の再狭窄は、疾患の線維症的特性により、血管形成術後に高い割合で発生する。これらを治療又は未然に防ぐ医学療法も同様に、実効性が無い。
【0009】
脈管内ステントのような器具は、PTAに対する有用な付属物である。特に、血管形成術後の急性又は将来的に起こり得る閉鎖の場合に有用な付属物である。突発的閉鎖及び再狭窄を機械的に防止するために、動脈の拡大区域内にステントを配置する。生憎、攻撃的で正確な抗血小板物質及び抗凝血療法(例えば、全身的投与)にステント移植を併用しても、血栓症性血管閉鎖又はその他の血栓症性合併症の発病率は高いままであり、再狭窄の防止は期待されるほど成功しない。更に、全身的抗血小板物質療法及び全身的抗凝血療法の望ましからざる副作用は、大抵の場合、経脈管進入部位における出血合併症の高い発病率である。
【0010】
その他の状態及び疾患は、食道、気管、結腸、胆管、尿管及び体内のその他の箇所に挿入される、ステント、カテーテル、カニューレ及びその他の器具類により、又は整形外科用器具類、インプラント又は代替物により治療できる。
【0011】
このような状態及び疾患を治療又は予防するために、例えば、通路、管腔又は血管のような体内部分の突発性閉鎖及び/又は再狭窄を予防するために、医学的処置の最中又はその後に体内の所定箇所に適当な薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質を直接的に、高い信頼性で投与するための器具類及び方法の開発が望まれている。具体的な事例として、PTAにより又はアテレクトミー(atherectomy)、レーザ切除などのような別の間挿技法により治療される血管の部位に抗トロンビン剤又はその他の薬物を投与できる器具類及び方法を開発することが望まれている。
【0012】
また、このような器具類は、短期間(すなわち、治療後、最初の数時間及び数日間)並びに長期間(すなわち、治療後、数週間及び数ヶ月間)の双方にわたって、これらの薬剤を投与することが望ましい。また、薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質の投与速度を正確に制御すること、及び、これら薬剤への全身暴露を制限することが望ましい。カテーテルに沿った及びカテーテル先端における、双方の狭窄を防止することにより、静脈内カテーテル(これ自体が申し分のない治療に必要な薬剤量を軽減する利点がある)により化学療法剤を特定の器官又は部位へ投与することを含む治療法において特に有用である。その他の様々な治療法も同様に改善することができる。言うまでもなく、このような器具類への組込み中に、又はこのような器具類内の薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質の分解を避けることも望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記の問題は本発明の脈管ステント又はその他の移植可能な器具類により解決され、かつ、技術的進歩が得られる。本発明の脈管ステント又はその他の移植可能な器具類は、該ステント又は器具類が配置される、脈管又はその他のシステムあるいは体内のその他の箇所に薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質を制御された速度で放出する。本発明者らは、このような器具類に施用される薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質の分解は、器具構造物の一表面に被覆層を配設することにより避けることができることを発見した。薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質は、少なくとも被覆層の一部分の上に配置される。この被覆層は、この被覆層上に配置された生物学的に活性な物質を制御された速度で放出する。更に、本発明の医療器具は、生物学的に活性な物質上に配置された多孔質層も更に有する。この多孔質層はポリマーから構成されており、このポリマーは、多孔質層を介して生物学的に活性な物質を制御された速度で放出する。
【0014】
或る実施態様では、被覆層は例えば、パリレン(parylene)誘導体の非孔質材料からなる。この被覆層の膜厚は、好ましくは50〜500,000オングストロームの範囲内であり、一層好ましくは100,000〜500,000オングストロームの範囲内である。具体的には、約200,000オングストロームである。別の実施態様では、非孔質材料は吸着剤又は吸収剤であり、吸着剤又は吸収剤の被覆層の膜厚は約230,000オングストロームである。本発明の別の実施態様では、生物学的に活性な物質の層は、抗血小板物質GPIIb/IIIa抗体のようなキメラモノクローナル抗体を含有する。
【0015】
本発明の更に別の実施態様では、接着促進層が器具構造物の一表面上に配置されており、被覆層はこの接着促進層の少なくとも一部分上に配置される。好ましくは、接着促進層は、膜厚が0.5〜5,000オングストロームの範囲内のシランを包含する。また、本発明者らは、このような器具に塗布された薬剤、薬物又は生物学的活性物質の分解は、これらの薬剤、薬物又は生物学的活性物質を分解又は損傷しがちな、溶剤、触媒、熱又はその他の化学物質あるいは技法を使用することなく塗布された生体適合性ポリマーの多孔質層により、薬剤、薬物又は生物学的活性物質を被覆することにより避けられることも発見した。これらの生体適合性ポリマーは好ましくは、蒸着又はプラズマ蒸着により塗布し、そして、蒸着層から単なる縮合により重合させ、硬化させるか、若しくは、光分解的に重合させる。生体適合性ポリマーはこの目的に有用であると思われる。しかし、言うまでもなく、その他の被覆方法も使用できる。
【0016】
この器具が脈管系で使用するためのものである場合、少なくとも一層中の生物学的活性物質は、ヘパリンか別の抗結晶板物質又は抗トロンビン剤あるいは、デキサメタゾン、デキサメタゾンアセテート、デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩又は別のデキサメタゾン誘導体若しくは抗炎症性ステロイドであることが好ましい。更に、その他の広範な種類の生物学的活性物質を使用できる。例えば、次のようなカテゴリーの薬剤を使用できるが、これらだけに限定されることはない:血栓崩壊剤、血管拡張剤、抗高血圧症剤、抗微生物剤、抗生剤、抗有糸分裂剤、抗増殖剤、抗分泌剤、非ステロイド性抗炎症剤、免疫抑制剤、成長因子、成長因子拮抗剤、抗腫瘍剤及び/又は化学療法剤、抗ポリメラーゼ、抗ウイルス剤、光力学療法剤、抗体目標療法剤、プロドラッグ、性ホルモン剤、遊離基掃去剤、酸化防止剤、生物製剤、放射線療法剤、放射線不透過剤及び放射性同位元素標識剤。主な制約は、この生物学的活性物質が、塗布技法、例えば、少なくとも1個の多孔質層の蒸着又はプラズマ蒸着中に使用される真空圧に耐えることができなければならないことである。換言すれば、生物学的活性物質は、蒸着温度(一般的に、室温又は室温付近の温度)において比較的低い蒸気圧を有しなければならない。
【0017】
少なくとも1個の多孔質層は、無触媒蒸着により塗布された、ポリアミド、パリレン又はパリレン誘導体から構成されていることが好ましい。また、約5,000〜250,000オングストロームの膜厚であることが好都合であり、この膜厚であれば、生物学的活性物質を制御された速度で放出することができる。“パリレン”とは、p−キシレンを基礎とし、かつ、気相重合法により生成される、既知のポリマー群の総括名称及びこのポリマーの非置換体の名称の両方を意味するが、この明細書では、後者の意味で使用する。更に具体的には、パリレン又はパリレン誘導体は、先ず、p−キシレン又は適当な誘導体を適当な温度(例えば、約950℃)で加熱し、環状二量体のジ−p−キシレン(又はこの誘導体)を生成することにより製造される。得られた固形物を純粋な形で単離することができる。
【0018】
次いで、この固形物を適当な温度(例えば、約680℃)で分解又は熱分解し、p−キシレンのモノマー蒸気を生成する。このモノマー蒸気を適当な温度(例えば、50℃以下)にまで冷却し、そして、所望の物体(例えば、生物学的活性物質の少なくとも1個の層)上に凝縮させる。得られたポリマーは、−(−CH2C6H4CH2−)n−の繰り返し単位を有する。ここで、nは約5,000であり、分子量は500,000の範囲内である。
【0019】
前記のように、蒸着法により塗布可能なパリレン及びパリレン誘導体被膜は様々な生物医学的用途を有することが知られており、様々な業者から市販されている。例えば、Special Coating Systems(100 Deposition Drive,Clear Lake,WI 54005),Para Tech Coating,Inc.(35 Argonaut,Aliso Viejo,CA 92656)及びAdvanced Surface Technology,Inc.(9 Linnel Circle,Billerica,MA 01821−3902)などから市販されている。
【0020】
少なくとも1個の多孔質層は別法として、プラズマ蒸着によっても塗布できる。プラズマは真空中で維持され、そして、電気的エネルギー(一般的に、高周波域の電気的エネルギー)により励起されるイオン化ガスである。ガスが真空中で維持されるので、プラズマ蒸着処理は室温又は室温付近の温度で行われる。プラズマは、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレンオキシド)のようなポリマーの他、シリコン、メタン、テトラフルオロエチレン(例えば、テフロンという登録商標で示されるポリマー類)、テトラメチルジシロキサンなどのポリマー類を蒸着するのに使用できる。
【0021】
前記の説明は本発明の好ましい実施態様のうちの幾つかを示すが、その他のポリマー系も使用できる。例えば、光重合系モノマーから誘導されるポリマー類も使用できる。また、例えば、浸漬、噴霧などのようなその他の塗布技術も使用できる。
【0022】
本発明の医療器具は、その構造体の頂部に、異なる生物学的活性物質の層を2層以上有することもできる。しかし、本発明の目的のためには、同じ生物学的活性物質は、同じ層内の器具の異なる表面上には一般的に配置されない。換言すれば、器具構造物の各表面は、生物学的活性物質が最内層又は最外層である場合を除いて、異なる生物学的活性物質を帯びる。例えば、ヘパリンは最内層又は最外層若しくは両方の層を形成することができる。これらの追加層は相互に最上部に直接配置させることもできるし、あるいは、各層の間に追加の多孔質層を配設することにより分離することもできる。更に、生物学的活性物質層は異なる生物学的活性物質の混合物から構成することもできる。また、多孔質層は、パリレン又はパリレン誘導体から構成されていることが好ましい。好都合なことに、2個以上の生物学的活性物質は異なる溶解度を有することができる。従って、低溶解度の生物学的活性物質(例えば、デキサメタゾン)を含有する層は、高溶解度の生物学的活性物質(例えば、ヘパリン)を含有する層の上に配置させることが好ましい。予期せずに、この構成が、デキサメタゾンのような幾つかの比較的難溶性物質の試験管内における放出速度を高め、同時に、ヘパリンのような幾つかの比較的易溶性物質の放出速度を低下させることが発見された。
【0023】
器具内に含まれる構造体は様々な方法で形成することができるが、この構造体は、ステンレススチール、ニッケル、銀、白金、金、チタン、タンタル、イリジウム、タングステン、ニチノール(Nitinol)、インコネル(Inconel)などのような生体適合性金属から構成される脈管ステントとして形成されることが好ましい。膜厚が約50,000〜500,000オングストロームのパリレン又はパリレン誘導体若しくはその他の生体適合性ポリマーの、概ね非孔質の追加被覆層を、脈管ステントの頂部と、少なくとも1個の生物学的活性物質層の真下に直接配置させることもできる。追加の被覆層は、少なくとも1個の多孔質層よりも比較的低孔質のものでありさえすればよいが、概ね非孔質である、すなわち、通常の使用環境において、ステントを血液に対して概ね不浸透性にするのに十分なほどの非孔質であることが好ましい。
【0024】
本発明の器具及び方法は、食道、気管、胆管、尿管及び脈管系のようなヒト又は獣類の患者の体内の多種多様な場所で使用するのに有用であるばかりか、硬膜下及び整形外科用器具類、インプラント類又は代替物類としても有用である。本発明の器具及び方法は、脈管内処置の最中又は後に、適当な生物学的活性物質を確実に投与するのに特に有用である。また、本発明の器具及び方法は、血管の突発的閉鎖及び/又は再狭窄を防止するのに特に有用であることが発見された。更に詳細には、本発明の器具及び方法は、例えば、PTA法により開放された血管領域に、抗トロンビン剤、抗血小板物質、抗炎症性ステロイド又はその他の薬物を投与することができる。同様に、本発明の器具及び方法は、例えば、血管の管腔へ或る生物学的活性物質を投与し、そして、血管壁に別の生物学的活性物質を投与することができる。多孔質ポリマー層を使用することにより、生物学的活性物質の放出速度を、短期間及び長期間の双方について、入念に制御することができる。
【0025】
本発明のこれらの実施態様及びその他の実施態様は、本明細書の記載を読み、理解すれば、当業者により正しく認識されるであろう。
【0026】
本発明の別の実施態様では、生物学的活性物質を非孔質層に結合させ、非常に長い期間にわたって都合良く溶出させる。この非孔質層は構造体の基材に結合される。非孔質層は前記に列挙され、また下記に列挙される任意の物質から形成することができ、また、同様に、生物学的活性物質も前記に列挙され、また下記に列挙される任意の物質を使用することができる。都合良いことに、また、好ましい実施態様では、市販のReoPro(登録商標)のようなグリコプロテインIIb/IIIa阻害剤を、冠動脈ステントのような医療器具の外面に配設されるパリレンの非孔質層に結合させる。好都合なことに、ReoPro(登録商標)は非常に長い期間にわたって、ステントの表面から溶出される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の第1の好ましい実施態様の断面図である。
【図2】図2は、本発明の別の好ましい実施態様の断面図である。
【図3】図3は、本発明の更に別の好ましい実施態様の断面図である。
【図4】図4は、本発明の更に他の好ましい実施態様の断面図である。
【図5】図5は、本発明の付加的な好ましい実施態様の断面図である。
【図6A】図6Aは、本発明の付加的な好ましい実施態様の断面図である。
【図6B】図6Bは、本発明の付加的な好ましい実施態様の断面図である。
【図7】図7は、本発明の付加的な好ましい実施態様の断面図である。
【図8】図8は、図7の部分拡大平面図である。
【図9】図9は、図8の9−9線に沿った拡大断面図である。
【図10A】図10Aは、図8の10−10線に沿った拡大断面図である。
【図10B】図10Bは、図8の10−10線に沿った拡大断面図である。
【図10C】図10Cは、図8の10−10線に沿った拡大断面図である。
【図10D】図10Dは、図8の10−10線に沿った拡大断面図である。
【図11】図11は、生物学的活性物質が結合されたポリマー被覆層を使用する図1の医療器具の別の実施態様の断面図である。
【図12】図12は、ポリマー被覆層が接着促進層を用いて器具の基材の外面に接着された、図11の医療器具の更に別の実施態様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1を参照する。図1は、本発明による移植可能な医療器具10を示す。この医療器具10は先ず、ヒト又は獣類の患者の体内に挿入するのに適した構造体12からなる。“適した”とは、構造体12がこのような挿入のための形状及び大きさを有することを意味する。明確化のため、構造体12の一部分だけが図1に示されている。
【0029】
一例として、構造体12は、患者の脈管系に挿入するのに特に適した、脈管ステントとして形成される。しかし、このステント構造体は、食道、気管、結腸、胆管、尿道及び尿管及び特に硬膜下のようなその他の系及び部位で使用することもできる。実際、構造体12は、別法として、常用の脈管又はその他の医療器具として形成することもでき、様々な常用のステント又は、螺旋状に捲回されたストランド、目打ちシリンダなどのようなその他の付属物を含むことができる。更に、本発明により提起された問題点は、患者体内に実際に配置された器具のこれらの部分に関して起こるので、挿入される構造体12は器具全体である必要はなく、患者体内に挿入されることが企図される脈管又はその他の器具の一部分だけであることもできる。従って、構造体12は、カテーテル、ワイヤガイド、カニューレ、ステント、脈管又はその他の移植片、冠動脈ペースメーカー導線又は導線チップ、冠動脈細動除去器導線又は導線チップ、心臓弁又は整形外科器具、装具、インプラント又は代替物のうちのすくなくとも1個若しくはこれらの一部分として形成することができる。また、構造体12はこれらのいずれかのものの幾つかの部分の組合わせとして形成することもできる。
【0030】
しかし、構造体12は、Cook Incorporated,Bloomington,Indianaから市販されているGianturco−Roubin FLEX−STENT(登録商標)又はGR II(登録商標)冠動脈ステントのような脈管ステントとして形成することも最も好ましい。
【0031】
このようなステントは、一般的に、長さが約10〜約60mmであり、患者の脈管系へ挿入されたときに、約2〜約6mmの直径にまで拡張されるように設計されている。特に、Gianturco−Roubinステントは一般的に、長さが約12〜約25mmであり、挿入されたときに約2〜約4mmの直径に拡張されるように設計されている。
【0032】
言うまでもなく、これらのステント寸法は、冠動脈ステントで使用される典型的なステントに適用できる。大動脈、食道、気管、結腸、胆管又は尿管のような、患者の他の体内部位で使用しようとするステント又はカテーテル部分のような構造体は、このような用途に一層適した異なる寸法を有する。例えば、大動脈、食道、気管及び結腸用ステントは、約25mm以下の直径と、約100mm以上の長さを有することもできる。
【0033】
構造体12は、構造体12の企図された用途に好適な基材14から構成されている。基材14は生体適合性であることが好ましい。しかし、細胞障害性の、又はその他の有毒な基材も、これらが患者から適切に隔離されれば、使用することができる。このような生体適合性材料は、例えば、治療すべき特定の組織内又は組織付近のカテーテルにより放射性物質を配置させる放射線療法において有用である。しかし、大抵の場合、構造体12の基材14は生体適合性でなければならない。
【0034】
様々な常用の材料を基材14として使用することができる。幾つかの材料は、構造体12の典型例である冠動脈ステント以外の構造体類について一層有用である。基材14は、基材上に塗布されるべきポリマー層の可撓性又は弾性に応じて、弾性又は非弾性の何れであることもできる。基材は生分解性又は非生分解性の何れであることもでき、様々な生分解性ポリマーが公知である。更に、幾つかの生物製剤は、典型的な冠動脈ステントにおいて特に有用でないとしても、幾つかの有用な構造体12の基材14として機能するのに十分な強度を有する。
【0035】
従って、基材14は、ステンレススチール、タンタル、チタン、ニチノール、金、白金、インコネル、イリジウム、銀、タングステン又は別の生体適合性金属若しくはこれらの何れかの合金類;カーボン又はカーボン繊維;酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルソエステル、ポリ酸無水物、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、又は別の生体適合性高分子物質あるいはこれらの混合物若しくはこれらのコポリマー;ポリ乳酸、ポリグリコール酸又はこれらのコポリマー、ポリ酸無水物、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート吉草酸エステル又は別の生体適合性ポリマーあるいはこれらの混合物若しくはこれらのコポリマー;蛋白質、細胞外間質成分、コラーゲン、フィブリン又は別の生物製剤;又はこれらの何れかの適当な混合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。構造体12が脈管ステントとして形成される場合、基材14としてはステンレススチールが特に有用である。
【0036】
言うまでもなく、構造体12がポリプロピレン、ポリエチレン又はその他の前記ポリマーのようなX線透過性物質から構成されている場合、常用のX線不透過性被覆をこの構造体12に塗布することが好ましい。X線不透過性被覆は、患者の脈管系への挿入中又は挿入後にX線又は透視装置により構造体12の位置を識別する手段を提供する。
【0037】
図1を更に参照する。本発明の脈管器具10は次に、構造体12の一方の表面上に配置された生物学的活性物質の少なくとも一つの層18を有する。本発明の目的のために、少なくとも一つの生物学的活性物質を構造体12の一方の表面に配置し、そして他方の表面は生物学的活性物質を有しないか又は1つ以上の異なる生物学的活性物質を有する。このようにして、1つ以上の生物学的活性物質又は薬物を、例えば、脈管ステントにより、ステントの管腔面から血流中に投与することができ、また、異なる処置をステントの管表面に施すことができる。選択された物質が蒸着又はプラズマ蒸着中に引かれる真空に暴露されても残存することができる限り、非常に広範な薬物、医薬品及び物質を層18における生物学的活性物質として使用できる。本発明を実施するのに特に有用なものは、ステント挿入手術又はその他の処置により事前に開放された血管の急性閉鎖及び再狭窄を防止又は改善する物質である。構造体12が脈管ステントである場合、特に有用な生物学的活性物質は、(血栓を溶解、分解又は消散させる)血栓崩壊剤及び(血栓の生成を阻害又は防止する)抗トロンボゲン形成剤である。特に好ましい血栓崩壊剤は、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ及び組織プラスミノーゲン活性化剤である。特に好ましい抗トロンボゲン形成剤は、ヘパリン、ヒルビン及び抗血小板物質である。
【0038】
ウロキナーゼは一般的に、ヒトの腎臓細胞培養物から得られるプラスミノーゲン活性化酵素である。ウロキナーゼはプラスミノーゲンの線維素溶解性プラスミン(これはフィブリントロンビへ分解される)への変換を触媒する。
【0039】
ヘパリンは、一般的に、ブタの腸管粘膜又はウシの肺から得られるムコ多糖の抗凝血剤である。ヘパリンは、血液の内因性抗トロンビンIIIの作用を大幅に高めることにより、トロンビン阻害剤として機能する。凝結カスケード中の強力な酵素であるトロンビンは、フィブリンの生成を触媒する際の要である。従って、トロンビンを阻害することにより、ヘパリンはフィブリントロンビンの生成を阻害する。別法として、ヘパリンは構造体12の外層へ共有結合される。従って、ヘパリンは構造体12の最外層を生成し、酵素により容易には分解されず、トロンビン阻害剤としての活性を保持する。
【0040】
言うまでもなく、その他の機能を有する生物学的活性物質も、本発明の器具10により首尾良く投与することができる。例えば、メトトレキセートのような抗増殖剤は平滑筋の過剰増殖を阻害し、従って、血管の拡張部位の再狭窄を阻害する。抗増殖剤はこの目的のために、約4〜6ヶ月の期間にわたって供給されることが望ましい。更に、抗増殖剤の局所的投与も、高い脈管成長を特徴とする様々な悪性状態を治療するのに有用である。このような場合、本発明の器具10を腫瘍の動脈供給内に配置させ、比較的高投与量の抗増殖剤を腫瘍に直接投与する手段を提供することができる。
【0041】
カルシウムチャンネルブロッカー又は硝酸塩のような血管拡張薬は、血管痙攣を抑制する。血管痙攣は血管形成手術後に普遍的に起こる。血管痙攣は血管の損傷に対する応答として発生する。また、血管痙攣を起こす傾向は血管の治癒に応じて低下する。従って、血管拡張薬は、約2〜3週間の期間にわたって供給することが望ましい。言うまでもなく、血管形成術による外傷性障害は、血管痙攣を起こし得る血管損傷だけではない。また、器具10は、冠動脈以外の脈管、例えば、大動脈、頸動脈、腎動脈、腸骨動脈、又は動脈内の血管痙攣を予防するための周辺動脈などにも挿入することができる。
【0042】
構造体12が冠動脈ステント以外のものに形成される場合、その他の様々な生物学的活性物質はそれらの用途に特に好適である。例えば、抗癌化学療法剤は器具10により、局所的な腫瘍に投与することができる。更に詳細には、器具10は腫瘍に血液を供給する動脈内あるいは任意の部位に配置し、全身暴露と毒性を低下させつつ、比較的高い投与量で長期間にわたり、薬剤を腫瘍に対して投与することができる。この薬剤は、腫瘍の大きさを低下させる治療用の術前デバルカー(debulker)であるか又は疾患の症状を緩和する緩和剤であることもできる。本発明の生物学的活性物質は器具10の全域で投与されるのであり、常用の化学療法で使用されるカテーテルを経由よるような、器具10内に画成される管腔を経由する外面を通過することにより投与されるのではない。言うまでもなく、本発明の生物学的活性物質は器具10から、該器具で画成される管腔内に放出されたり、器具と接触する組織に放出されたりすることもあり、また、管腔は、ここを通して放出されるべき幾つかのその他の薬剤を帯びることもできる。例えば、タモキシフェンシトレート、Taxol(登録商標)又はその誘導体、Proscar(登録商標)、Hytrin(登録商標)又はEulexin(登録商標)などを、例えば、乳房組織又は前立腺内に局在する腫瘍に投与するため、器具の組織暴露面に塗布することができる。
【0043】
ドーパミン又はドーパミン拮抗薬(例えば、ブロモクリプチンメシレート又はペルゴライドメシレート)は、パーキンソン氏病などのような神経系疾患の治療に有用である。器具10は、この目的のため、視床内に治療を集中するように、視床黒質又は任意の部位の脈管供給内に配置させることができる。
【0044】
その他の広範な種類の生物学的活性物質を本発明の器具10により投与することができる。従って、層18内に含まれる生物学的活性物質は、ヘパリン、共有結合ヘパリン、又は別のトロンビン阻害薬、ヒルジン、ヒルログ、アルガトロバン、D−フェニルアラニル−L−ポリ−L−アルギニルクロロメチルケトン、又は別の抗トロンボン形成薬、又はこれらの混合物;ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤、又は別の血栓崩壊薬、又はこれらの混合物;フィブリン溶解薬;血管痙攣阻害薬、カルシウムチャンネルブロッカー、硝酸塩、酸化窒素、酸化窒素プロモータ又は別の血管拡張薬;Hytrin(登録商標)又はその他の抗高血圧薬;抗微生物薬又は抗生物質;アスピリン、チクロピジン、グリコプロテインIIb/IIIa阻害薬又は表面グリコプロテイン受容体の別の阻害薬あるいは別の抗血小板薬;コルヒチン又は別の抗有糸分裂薬又は別の微細管阻害薬、ジメチルスルホキシド(DMSO)、レチノイド又は別の抗分泌薬;サイトカラシン又は別のアクチン阻害薬;又はリモデリング阻害薬;デオキシリボ核酸、アンチセンスヌクレオチド又は分子遺伝介入用の別の薬剤;メトトレキセイト又は別の拮抗的阻害薬あるいは抗増殖薬;タモキシフェンシトレート、Taxol(登録商標)又はこの誘導体あるいはその他の抗癌化学療法薬;デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩、デキサメタゾン酢酸塩又は別のデキサメタゾン誘導体あるいは別の抗炎症ステロイド若しくは非ステロイド性抗炎症薬;サイクロスポリン又は別の免疫抑制薬;トラピダル(PDGF拮抗薬)、アンギオペプチン(成長ホルモン拮抗薬)、アンギオゲニン、成長因子又は抗成長因子抗体又は別の成長因子拮抗薬;ドーパミン、ブロモクリプチンメシレート、ペルゴライドメシレート又は別のドーパミンアゴニスト;60Co(半減期5.3年)、192Ir(半減期73.8日)、32P(半減期14.3日)、111In(半減期68時間)、90Y(半減期64時間)、99mTc(半減期6時間)又は別の放射線療法薬;沃素含有化合物、臭素含有化合物、金、タンタル、白金、タングステン又はX線不透過剤として機能する別の重金属;ペプチド、タンパク、酵素、細胞外間質成分、細胞成分又は別の生物学的薬剤;カプトプリル、エナラプリル又は別のアンギオデンシン変換酵素(ACE)阻害薬;アスコルビン酸、α−トコフェロール、超過酸化物不均化酵素、デフェロキサミン、21−アミノステロイド(ラサロイド)又は別の遊離基掃去薬、鉄キレート化薬又は酸化防止薬;14C、3H、131I、32P又は36Sの放射性同位元素で標識された又は別の放射性同位元素標識された形の前記の何れかの薬剤;エストロゲン又は別の性ホルモン;AZT又はその他の抗ポリメラーゼ;アシクロビル、ファムシクロビル、リマンタジン塩酸塩、ガンシクロビルナトリウム、ノルビル、クリキシバン又はその他の抗ウイルス薬;5−アミノレブリン酸、メタ−テトラヒドロキシフェニルクロリン、ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン、テトラメチルヘマトポルフィリン、ローダミン123又は別の光力学治療薬;Pseudomonas aeruginosa外生毒素に対抗し、A431エピデロモイド癌細胞と反応性のIgG2カッパー(κ)抗体、サポリンに共有結合したノルアドレナリン酵素ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼに対抗するモノクローナル抗体又はその他の抗体を目標とする治療薬;遺伝子治療薬;エナラプリル及びその他のプロドラッグ;Proscar(登録商標)、Hytrin(登録商標)又はその他の良性前立腺肥大(BHP)治療薬又はこれらの何れかの混合物;及び様々な形状の小腸粘膜下組織(SIS)、のうちの少なくとも一つを含有する。
【0045】
特に好ましい実施態様では、生物学的活性物質層は、構造体の総表面積の1cm2当たり、生物学的活性物質を好ましくは約0.01mg〜約10mg、一層好ましくは約0.1mg〜約4mg含有する。“総表面積”とは、構造体の大部分又は全体範囲から計算された表面積を意味する。従って、構造体の特定の形状又は個々の部分の実際の表面積である必要はない。換言すれば、膜厚0.001インチ当たり、約100μg〜約300μgの範囲内の薬剤を器具表面に含有することができる。
【0046】
しかし、構造体12が脈管ステントとして形成されている場合、層18の生物学的活性物質として特に好ましい物質は、ヘパリン、抗炎症ステロイド(例えば、デキサメタゾン及びその誘導体など)及びヘパリンとこのようなステロイドの混合物である。
【0047】
図1を更に参照する。本発明の器具10は、生物学的活性物質の層18上及び生物学的活性物質を含まない表面上に配置された少なくとも一つの多孔質層20も有する。多孔質層20の目的は、器具10が患者の脈管系内に配置されたときに、生物学的活性物質を制御された速度で放出させるためである。多孔質層20の膜厚はこのような所望の放出速度をもたらすように選択される。
【0048】
更に詳細には、多孔質層20は、生物学的活性物質層18上に、好ましくは蒸着法により蒸着されたポリマーから構成されている。この目的のために、プラズマ蒸着法の有用である。好ましくは、層20は、溶剤、触媒又は同様な重合促進剤を全く含有しない蒸気から重合された層である。また、多孔質層20内のポリマーは、硬化剤の作用又は、加熱のような作用、可視光線又は紫外線、放射線、超音波などの適用無しに、蒸気相からの縮合により自動的に重合するポリマーであることが好ましい。多孔質層20内のポリマーは、ポリイミド、パリレン又はパリレン誘導体であることが最も好ましい。
【0049】
最初に蒸着されたパリレン又はパリレン誘導体は、比較的大きな孔を有する繊維状メッシュに似た網状組織を形成するものと思われる。更に蒸着されるにつれて、多孔質層20は厚くなるばかりか、パリレン又はパリレン誘導体は先に形成された孔内に蒸着され、現存する孔を小さくする。従って、パリレン又はパリレン誘導体の蒸着を入念に、かつ正確に制御することにより、生物学的活性物質のすくなくとも一つの層18からの物質の放出速度を精密に制御することができる。このため、生物学的活性物質は、多孔質層20内又はこれ全体に分散されるよりもむしろ、少なくとも一つの多孔質層20の下部に存在する。しかし、多孔質層20は、器具10の配置(例えば、カテーテルにより、患者の脈管系又は適当な部位への挿入)中に、生物学的活性物質層18も保護する。
【0050】
図1に示されるように、本発明の器具10は、構造体12と生物学的活性物質の少なくとも一つの層との間に配置された少なくとも一つの追加被覆層16も更に有することができる。追加被覆層16は単なる医薬用プライマーであることもできるが、追加被覆層16は、少なくとも一つの多孔質層20と同じポリマーから構成されていることが好ましい。しかし、追加被覆層16は、少なくとも一つの多孔質層20よりも低孔性であることが好ましく、概ね非孔質であることが一層好ましい。“概ね非孔質”とは、追加被覆層16が、構造体12の基材14と、使用中に器具10が暴露される血液との間の重大な相互作用を防止するのに十分なほど不透過性であることを意味する。概ね非孔質である追加被覆層16の使用により、前記のように、有毒又は有害な基材14の使用を可能にする。
【0051】
しかし、構造体12の基材14が生体適合性であったとしても、概ね非孔質の被覆層16を使用することにより、基材14を血液から隔離することが好ましい。
【0052】
本発明で使用できるその他のポリマー系は、好ましくは、少なくとも2個の架橋性C−C(炭素−炭素)二重結合を有し、大気圧で100℃以上の沸点と、約100〜1500の範囲内の分子量を有し、高分子量付加重合体を容易に生成することができる非気体状付加重合性エチレン系不飽和化合物である、液体モノマーであるような光重合性モノマーから誘導されるポリマー類などである。
【0053】
更に好ましくは、このモノマーは、分子1個当たり2個以上のアクリレート又はメタクリレート基を含有する付加光重合性ポリエチレン系不飽和アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル若しくはこれらの混合物である。このような多官能性アクリレートへの具体例は、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロプロパントリアクリレート、トリメチロプロパントリメタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート及びジエチレングリコールジメタクリレートなどである。
【0054】
特に有用なモノマーの具体例は、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート及び2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどである。N−メチロールメタアクリルアミドブチルエーテルのような少量の(メタ)アクリル酸のアミドも好適であり、N−ビニルピロリドンのようなN−ビニル化合物、オレイン酸ビニルのような脂肪族モノカルボン酸のビニルエステル、ブタンジオール−1,4−ジビニルエーテルのようなジオールのビニルエーテル、アリルエーテル及びアリルエステルなどの好適である。ブタンジール−1,4−ジグリシジルエーテル又はビスフェノールAジグリシジルエーテルのようなジ−又はポリエポキシドと(メタ)アクリル酸との反応生成物のようなその他のモノマーも使用できる。光重合性液体分散媒体の特性は、モノマー又はモノマー混合物を適当に選択することにより、特定の目的に適するように改変することができる。
【0055】
その他の有用なポリマー系は、生体適合性であり、ステントが移植される時の脈管壁に対する刺激を最小にするポリマーである。このポリマーは、所望の放出速度又は所望のポリマー安定度に応じて、生体安定性又は生体吸収性ポリマーの何れかであることができるが、本発明の実施態様では、生体吸収性ポリマーが好ましい。なぜなら、生体吸収性ポリマーは、生体安定性ポリマーと異なり、移植後長期間にわたって存在しないので、悪影響を及ぼす慢性的な局部的反応を起こさないからである。使用可能な生体吸収性ポリマーは、ポリ(L−乳酸)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド・グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート・吉草酸エステル)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(グリコール酸・トリメチレンカーボネート)、ポリリン酸エステル、ポリリン酸エステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、コポリ(エーテル・エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン及び生体分子(例えば、フィブリン、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸)などである。また、ポリウレタン、シリコン及びポリエステルのような、比較的低い慢性組織反応を有する生体安定性ポリマーも使用できる。溶解させることができ、かつ、ステント上で硬化又は重合させることができれば、その他のポリマーも使用できる。このようなポリマーは例えば、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−アルファオレフィンコポリマー;アクリル酸ポリマー及びコポリマー、ビニルハロゲン化物ポリマー及びコポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル);ポリビニルエーテル(例えば、ポリビニルメチルエーテル);ポリビニリデンハロゲン化物(例えば、ポリフッ化ビニリデン及びポリ塩化ビニリデン);ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン;芳香族ポリビニル(例えば、ポリスチレン)、ポリビニルエステル(例えば、ポリビニルアセテート);ビニルモノマー相互間及びオレフィンとのコポリマー(例えば、エチレン・メチルメタクリレートコポリマー、アクリロニトリル・スチレンコポリマー、ABS樹脂及びエチレン・ビニルアセテートコポリマー);ポリアミド(例えば、ナイロン66及びポリカプロラクタム);アルキド樹脂、ポリカーボネート;ポリオキシメチレン;ポリイミド;ポリエーテル;エポキシ樹脂、ポリウレタン;レイヨン;レイヨントリアセテート;セルロース、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート;セロファン;セルロースニトレート;セルロースプロピオネート;セルロースエーテル;及びカルボキシメチルセルロースなどである。
【0056】
プラズマ蒸着法及び気相蒸着法はステント表面に様々な被覆を付着させるための好ましい方法であるが、その他の方法も使用できる。例えば、ポリマー溶液をステントに塗布し、溶剤を蒸発させ、これにより、ステント表面にポリマーと治療用物質の被膜を形成させることができる。一般的に、この溶液をステントに噴霧するか又は溶液中にステントを浸漬することにより、溶液をステントに塗布することができる。浸漬塗布又は噴霧塗布の何れかを選択するかは、基本的に溶液の粘度及び表面張力に左右されるが、市販のエアブラシのような微細噴霧装置による噴霧塗布は、最高の均一性を有する被覆を形成し、かつ、ステントに塗布されるべき塗料の塗布量を厳密に制御することができることが発見された。
【0057】
噴霧又は浸漬の何れかの方法により塗布された被覆においても、優れた被膜均一性と、ステントに塗布される治療用物質の量の厳密な制御性を得るために、一般的に、複数の塗布工程を行うことが望ましい。
【0058】
生物学的活性物質の層18がヘパリンのような比較的易溶性の物質を含有する場合、及び少なくとも一つの多孔質層20がパリレン又はパリレン誘導体から構成されている場合、少なくとも一つの多孔質層20の膜厚は、約5,000〜250,000オングストロームの範囲内であることが好ましく、約5,000〜100,000オングストロームの範囲内が一層好ましく、約50,000オングストロームが最も好ましい。少なくとも一つの追加被覆層16がパリレン又はパリレン誘導体から構成されている場合、少なくとも一つの追加被覆層16の膜厚は、約50,000〜500,000オングストロームの範囲内であることが好ましく、約100,000〜500,000オングストロームの範囲内が一層好ましく、約200,000オングストロームが最も好ましい。
【0059】
生物学的活性物質の少なくとも一つの層18が、ヘパリンのような比較的易溶性の物質を含有する場合、少なくとも一つの層18は、構造体12の総表面積の1cm2当たり、生物学的活性物質を総量で約0.1〜4mg含有することが好ましい。この配合量により、脈管ステントを介する典型的な血流下で、1日当たり、望ましくは0.1〜0.5mg/cm2、好ましくは、約0.25mg/cm2のヘパリン放出速度(試験管内測定値)がもたらされる。デキサメタゾンの溶解度は、ヘパリンを添加することにより又は添加せずに、所望の通りに調節することができる。例えば、ヘパリンを、デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩のような比較的易溶性の1種類以上の誘導体を混合することにより調節することができる。
【0060】
図11は、被覆層16が、構造体12の基材14の外面に直接塗布されている、本発明の別の実施態様の器具10を示す。この構成では、被覆層16は前記のような非孔質被覆層であることが好ましい。被覆層16がパリレン誘導体からなる場合、非孔質被覆層16の膜厚は、約50,000〜500,000オングストロームの範囲内であることが好ましく、約100,000〜500,000オングストロームの範囲内が一層好ましく、約200,000オングストロームが最も好ましい。本発明のこの実施態様では、非孔質被覆層16は吸着剤であることもできる。吸着剤とは、Dorland´s Illustrated Medical Dictionaey 26th Edition by W.B.Saunders Co.,Philadelphia,PAに示されているように、その表面にその他の物質又は粒子を引きつける薬剤として定義される。その後、生物学的活性物質18を被覆層16の表面に結合させる。追加被覆層20を生物学的活性物質層18の上面に塗布することができる。別法として、塗料層及び同一又は異なる生物学的活性物質を交互に、生物学的活性物質層18の表面に塗布することもできる。しかし、本発明のこの特別な実施態様では、構造体12の外面は生物学的活性物質層18である。
【0061】
図11に示されるような本発明の別の実施態様では、被覆層16は、生物学的活性物質が結合された、吸着層及び/又は吸収層と見做すことができる。具体例として、器具10はステンレススチールGR II(登録商標)ステントである。この場合、構造体12のステンレススチール基材14はポリマー、特に、パリレンが塗布される。このパリレンの吸着ポリマー層16の膜厚は、約230,000オングストロームである。抗血小板GP IIb/IIIa抗体(AZI)の生物学的活性物質層18は、吸着ポリマー層16上に受動的に添加される。ポリマー被覆ステンレススチールステントを、37℃のAZ1抗体の緩衝水溶液(1mg/ml,pH=7.2)に約24時間浸漬させた。AZ1はモノクローナル抗ウサギ血小板グリコプロテイン(GP)IIb/IIIa抗体である。放射性同位元素で標識されたAZ1を使用すすることにより、ステントの表面積1mm2当たり、約0.02μg(3x20mmのGR II(登録商標)ステントの場合、総量で約2μg)の抗体が添加されたことが確認された。また、試験管内流動システム(10ml/min,1%BSAのPBS溶液)において、約10日間の灌流後でも、ステントに添加された抗体の約半量が残存したことも確認された。
【0062】
ステントに薬物が添加される機構は、ポリマー層の表面への吸着及び/又はポリマーへの吸収によるものと思われる。
【0063】
セルロース被覆ステンレススチールステントへの、同様なAZ1の添加及び放出に関する先行研究では、ウサギによる深部動脈損傷モデルにおいて、血小板凝集の阻害と、血栓形成速度の低下が認められた。(Aggarwal et al.,Antithrombotic Potential of Polymer−Coated Stent Eluting Platelet Glycoprote in IIb/IIIa Receptor Antibody,American Heart Association Circulation Vol.94,No.12,December 15,1996,pp3311−3317参照。)
【0064】
別の実施例では、生物学的活性物質層18として、c7E3 Fabをポリマー被覆層16に結合させた。生物学的活性物質c7E3 Fabは、血小板の凝集を防止するために、血小板上のGP IIb/IIIaインテグリンに作用するキメラモノクローナル抗体である。この抗体又は受容体ブロッカーは、冠動脈血管形成術中の血栓症を防止するために、ヒトの静脈内で使用することができる。この受容体ブロッカーは、Eli Lilly,Indianapolis,INから市販されているReoPro(登録商標)としても知られている。抗血小板GP IIb/IIIa抗体(c7E3 Fab)の生物学的活性物質層18は吸着ポリマー層16に受動的に添加される。ポリマー被覆ステンレススチールステントを、37℃のc7E3 Fab抗体の緩衝水溶液(1mg/ml,pH=7.2)に約24時間浸漬させた。c7E3 Fabはヒトの血小板血栓の阻害薬である。放射性同位元素で標識されたc7E3 Fabを使用することにより、ステントの表面積1mm2当たり、約0.010μg(3x20mmのGR II(登録商標)ステントの場合、総量で約10μg)の抗体が添加されたことが確認された。また、試験管内流動システム(10ml/min,1%BSAのPBS溶液)において、約10日間の灌流後でも、ステントに添加された抗体の約半量が残存したことも確認された。
【0065】
図12は、図11の器具10の別の実施態様の断面図である。この実施態様では、先ず、パリレン接着促進層30を、構造体12のステンレススチール基材14に塗布する。例えば、接着促進層30は、膜厚が例えば、0.5〜5,000オングストローム、好ましくは2〜50オングストロームの範囲内のシランの薄膜である。このシラン接着促進層は、ガンマ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランを含有するA−174シランであることが好ましい。これは、Specialty Coating Systems Inc.,Indianapolis,INから市販されている。基材14の外面を形成する場合、先ず、この外面をイソプロピルアルコールで清浄化する。次いで、ステントをシラン内に浸漬し、基材の外面にシランの極く薄い膜を塗布する。基材14の外面の別の形成方法はプラズマエッチング及びグリットブラスト仕上などである。形成方法は、先ず基材の外面をイソプロピルアルコールで清浄化し、基材の外面をプラズマエッチングし、そして、プラズマエッチングされた表面にシランを塗布することからなる。グリットブラスト仕上の場合、基材の外面をグリットブラスト仕上し、次いで、基材の外面をイソプロピルアルコールで清浄化し、この清浄化されたグリットブラスト仕上面にシランを塗布する。
【0066】
図2に示されるように、本発明の器具10は生物学的活性物質の単一層18の包含だけに限定されない。例えば、器具10は、構造体12の上に配置された生物学的活性物質の第2の層22を有することができる。第1層と第2層が中間多孔質層24無しに器具10の同じ面に配置されるということさえなければ、第2層22の生物学的活性物質は、必ずしも必要ではないが、第1の生物学的活性物質層18の生物学的活性物質と異なることができる。層18及び層22で異なる生物学的活性物質を使用することにより、器具10は複数の治療機能を果たすことができる。
【0067】
本発明の器具10は、生物学的活性物質の層18と層22との間に配置されたポリマーの追加多孔質層24を更に有することができる。繰り返すが、生物学的活性物質18は構造体12の一方の面上に存在する。他方の面は生物学的活性物質を有しないこともできるし、あるいは、1種類以上の異なる生物学的活性物質を有することもできる。追加多孔質層24は、層18及び層22における生物学的活性物質を異なる放出速度で放出させることができる。同時に又は別法として、器具10は、互いに異なり、かつ、異なる溶解度を有する複数の生物学的活性物質を2つの層18及び層22で使用することもできる。このような場合、高溶解度の生物学的活性物質を含有する層18上に低溶解度の生物学的活性物質を含有する層22を配置することが好都合であり、しかも好ましい。別法として、生物学的活性物質18は、図8〜10に示されるように、ステント表面内に発生する孔、窪み、溝など内に含有させることもできる。これについては、下記において更に詳細に説明する。
【0068】
例えば、器具10の構造体12が脈管ステントとして形成されている場合、少なくとも一つの層18は比較的高溶解度のヘパリンを含有し、そして、第2の層22は比較的低溶解度のデキサメタゾンを含有することが好都合である。
【0069】
予期せずに、ヘパリンはデキサメタゾンの放出を促進し、ヘパリンを使用しない場合のデキサメタゾン放出速度よりも何倍も高いデキサメタゾン放出速度をもたらす。ヘパリンの放出速度も低下されるが、デキサメタゾン放出速度の増大に比べたら、低下の程度はさほど劇的ではない。更に詳細には、デキサメタゾンそれ自体が、前記のような寸法を有する多孔質層20の下部に配設される場合、その放出速度は無視可能である。多孔質層20の膜厚が1/10以下にまで低下されたときだけ、適正な放出速度が得られる。これに対して、デキサメタゾンの層22が、ヘパリンの層18の上で、かつ、多孔質パリレン層20の下部に配設される場合、デキサメタゾンは約1〜10μg/cm2/日の所望の速度で放出させることができる。更に、全く予期せずに、デキサメタゾンのこの高放出速度は、全部のヘパリンが層18から放出された後でさえも、維持されるものと思われる。
【0070】
生物学的活性物質層18及び/又は22は、多孔質層20及び/又は24の塗布と無関係に、器具10に塗布される。器具10を患者の脈管系に挿入する前に、層18及び/又は22からの生物学的活性物質が多孔質層20及び/又は24への混合は予期しないものであり、単なる偶然である。この現象により、生物学的活性物質をポリマー層に単に分散させる場合よりも、生物学的活性物質の放出速度を一層正確に制御することができる。
【0071】
器具10は、2層以上の生物学的活性物質層18及び22が存在する場合、追加の多孔質層24を有する必要はない。図3に示されるように、層18及び層22は、多孔質層により分離されていなくてもよいが、互いの間に直接挿入することもできる。この実施態様でも、比較的低溶解度の生物学的活性物質を含有する層22を、比較的高溶解度の生物学的活性物質を含有する層18の上に配置させることが好ましい。
【0072】
追加多孔質層24の存在又は不存在に拘わらず、層18及び22は、構造体12の総表面積の1cm2当たり、ヘパリン及びデキサメタゾンをそれぞれ約0.05〜2.0mg含有することが好ましい。従って、構造体12上の層18及び22内に配置される生物学的活性物質の総量は、約0.1〜10mg/cm2の範囲内であることが好ましい。
【0073】
デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩のような幾つかのデキサメタゾン誘導体は、デキサメタゾン自体よりも概ね高い溶解性を有する。本発明の器具10における生物学的活性物質として高溶解性デキサメタゾン誘導体が使用される場合、少なくとも一つの多孔質層20(及び追加多孔質層20)の膜厚はこれに従って調整しなければならない。
【0074】
前記のような器具10の特定構造は、様々な方法で特定の用途に適合させることができる。例えば、器具10は、同一又は異なる生物学的活性物質の層を更に有することもできる。これらの生物学的活性物質の追加層は、便宜的に又は所望により、追加多孔質層により分離させることもできるし、又は、分離させなくてもよい。別法として、追加多孔質層は、幾つかの追加生物学的活性物質層だけを分離することもできる。更に、一つの生物学的活性物質を、器具10の構造体12の或る部分に配置させ、そして、別の生物学的活性物質を器具10の構造体12の別の部分に配置させることができる。
【0075】
別法として、器具10は追加被覆層16を全く有しなくてもよい。このような構造は図4に示される。図4において、生物学的活性物質18は構造体12の基材14の上面に直接配置されている。このような場合、基材14の表面処理又は表面活性化を行い、特に、少なくとも一つの多孔質層20の付着前に、基材14上への生物学的活性物質の付着又は接着を促進させることが特に好ましい。表面処理及び表面活性化は、生物学的活性物質の放出速度を選択的に変更させることもできる。このような処理は、基材14上への追加被覆層16(存在すれば)の付着又は接着を促進させるためにも使用できる。追加被覆層16自体又は、第2又は追加多孔質層24自体は、生物学的活性物質層18の付着又は接着を促進させるために、又は生物学的活性物質の放出速度を更に制御するために、同様に処理することができる。
【0076】
表面処理の有用な方法は、清浄化;エッチング、孔あけ、切削又は研磨などのような物理的変性;及び、溶剤処理、下塗の塗布、表面活性剤の塗布、プラズマ処理、イオン衝撃及び共有結合などのような化学的変性などのような様々な方法のうちの何れかを包含することができる。
【0077】
追加被覆層16の上面に生物学的活性物質層18を付着させる前に、例えば、パリレンからなる追加被覆層16をプラズマ処理することが特に有用であることが発見された。プラズマ処理は、生物学的活性物質の接着力を高め、付着させることができる生物学的活性物質の量を増大させ、また、生物学的活性物質を一層均一な層状に堆積させることができる。実際、ヘパリンのような吸湿性薬剤を、疎水性で難湿潤性の未変性パリレン表面へ付着させることは非常に困難である。しかし、プラズマ処理により、パリレン表面を湿潤性にし、ヘパリンをパリレン表面へ容易に付着させることを可能にする。
【0078】
多孔質層20及び24の何れも、前記の何れかの方法により表面処理し、生物学的活性物質の放出速度を変化させ、及び/又は、そうでなければ、層の表面の生体適合性を改善させることができる。例えば、ポリエチレンオキシド、ホスファチジルクロリン又は共有結合した生物学的活性物質(例えば、共有結合したヘパリン)の上塗を層20及び/又は24へ塗布することにより、これらの層の表面を一層血液適合性にする。同様に、層20及び/又は24に対するプラズマ処理又はヒドロゲル塗料の塗布により、表面エネルギーを変化させることができ、好ましくは、20〜30dyne/cmの範囲内の表面エネルギーをもたらし、これにより、これらの表面を一層生体適合性にすることができる。
【0079】
図5を参照する。図5は、(a)多孔質層20及び24の何れか一方の層と(b)他方の多孔質層20及び24、追加被覆層16及び基材14の何れか又は全てとの間に、機械的結合又はコネクタ26が配設されている器具10の実施態様を示す。コネクタ26は層16、20及び/又は24を互いに、及び/又は基材14へしっかりと固定する。コネクタ26は、特に、生物学的活性物質層18及び/又は20が患者体内へ全部放出された後に、器具10への構造的保全性を付与する。
【0080】
単純化のために、図5では、コネクタ26は、単一の多孔質層20を基材14へ固定させる、基材14の複数の突起として図示されている。コネクタ26は、生物学的活性物質層18を介して多孔質層20から基材14へ交互に延ばすことができる。何れの場合も、生物学的活性物質の単一層18はコネクタ26により幾つかの区域に分割され、多孔質層20と基材14との間に配置される。コネクタは、異なる生物学的活性物質を器具表面の異なる領域へ分割する機能も発揮することができる。
【0081】
コネクタ26は様々な方法で配設できる。例えば、コネクタ26は、構造体12を最初に形成又は成型する際に、基材14に対して単一片として形成することができる。別法として、コネクタ26は、現存の構造体12に追加される、橋、支柱、ピン又は間柱などのような別個の要素として形成することもできる。また、コネクタ26は、基材14上の、層成ランド、肩、プラトー、ポッド又は皿状窪地などとして形成することもできる。別法として、複数のコネクタ26の望ましい位置間の基材14の一部分を、エッチング、機械研磨などの方法により除去し、これらの間に生物学的活性物質層18を配設することもできる。コネクタ26は、先に塗布された生物学的活性物質層18の一部分をぬぐい落とすか又はエッチング除去することにより、基材14に向かって下方向に延びるように形成し、多孔質層20を、基材14の裸部分に直接蒸着又はプラズマ蒸着することにより配設させることもできる。多孔質層20への直接接続のために、基材14の一部を露出させるその他の方法は当業者に周知である。
【0082】
図6A、図6B及び図7に示されるような、別の好ましい実施態様では、図6Aにおいて構造体12を構成する基材14の一方の表面上に生物学的活性物質18が配置されている。図7は、コイル状にされる前の平坦又は平面状態のステント10を示す。図7には、ステント10の最外面に塗布された多孔質層20が図示されている。図6A及び図6Bは、図7の6−6線に沿った断面図である。図6Aにおいて、基材14の一方の表面上に配置された生物学的活性物質18は、種々の異なる治療薬及び/又は診断薬である。例えば、器具10は、タモキシフェンシトレート又はTaxol(登録商標)のような化学療法剤を腫瘍付近に投与するか、又は腫瘍に直接投与するために、患者の体内に配置されるステントなどである。多孔質層20は、生物学的活性物質18上に配置され、平滑面を形成すると共に、生物学的活性物質18の正確に制御された放出を可能にする。更に図6Aに示されるように、器具10の反対側の面には例えば、ヘパリン18’が多孔質層20へ共有結合されている。特に、抗血栓作用及び血液適合性をもたらすために、この面は例えば、血管の管腔に面していることが好ましい。前記のように、第3の、異なる生物学的活性物質(図示されていない)を、第1の生物学的活性物質18と反対側の基材14上及び共有結合ヘパリン又はその他の生物学的活性物質(例えば、その他の共有結合生物学的活性物質)と同じ基材14側に配置し、多孔質層20により分離することもできる。
【0083】
図6Aに示された実施態様の変形例を図6Bに示す。図6Bにおいて、2種類の生物学的活性物質18及び18’が構造体12の基材14の同じ面上に配置されている。多孔質層20が、生物学的活性物質18及び18’の他、基材14の生物学的活性物質不存在面上に配設されている。この実施態様は、器具10の特定面が暴露されている生体組織に2種類の薬剤(例えば、化学療法剤及び抗ウイルス剤)を投与することが望ましいような事例を示す。更に、生物学的活性物質が存在しない器具の反対面は、1種類以上の生物学的活性物質又は治療薬(例えば、抗血栓薬)を配置するのに使用できる。
【0084】
前記のように、複数の生物学的活性物質及び多孔質層を器具10に塗布することができる。この場合、制限要素は、器具の全体厚さ、複数層の接着力などである。
【0085】
本発明の更に別の実施態様では、本発明の器具は、生物学的活性物質を含有するための開口部を器具内に具備する。この実施態様は、図8、図9、図10A、図10B、図10C及び図10Dに図示されている。図8は図7のステントのアームを示す。このアームは、孔28を有し、生物学的活性物質はこの孔内に含有される。図9は、図8の9−9線に沿ったステントの断面を示す。生物学的活性物質18は孔28内に含有される。この場合、基材14は被覆層16を有し、更に、多孔質層20は、生物学的活性物質をこの層を介して拡散させるための最外層を形成する。別の実施態様では、生物学的活性物質18を含有させることができる穴28’を基材14中に切削、エッチング又は型押成形することもできる。この実施態様は、図10A、図10B、図10C及び図10Dに図示されている。これらの図は、図8の10−10線に沿った断面図である。穴28’は、医療器具の基材14の表面に設けられたスロット又は溝の形状をとることもできる。穴28’をこのような形状にすると、放出されるべき生物学的活性物質18の全量の他、その放出速度を一層正確に制御できるという効果が得られる。例えば、図10Dに示されるようなV字形の穴28’は少量の生物学的活性物質しか含有できず、しかも、図10Bに示されるような一層均一な直線的放出速度を有する矩形状の穴28’に比べて、幾何学的速度で生物学的活性物質を放出する。
【0086】
前記の孔、穴、スロット、溝などは様々な手段により器具10の構造体中に形成させることができる。例えば、このような手段は、レーザ、電子ビームマシニングなどを使用することからなる穿孔または切削あるいは、ホトレジスト加工処理法を使用する及び所望の開口部をエッチングするなどの方法である。
【0087】
器具10の表面に塗布することができる前記の全ての生物学的活性物質は、本発明のこれらの実施態様における開口部内に包含させて使用することができる。同様に、例えば、ヘパリンを図9に示される器具の一方の面に共有結合させることができるという、本発明の他の実施態様に関して前記に説明したように、生物学的活性物質層及び多孔質層を器具の外面に塗布し、層成させることもできる。
【0088】
本発明による器具10の製造方法は前記の説明により理解できるであろう。その最も簡単な形では、本発明の方法は、構造体12上に生物学的活性物質の少なくとも一つの層を付着させ、続いて、構造体12の一方の面上の少なくとも一つの生物学的活性物質層18の上に、好ましくは蒸着又はプラズマ蒸着により、少なくとも一つの多孔質層20を付着させることからなる。少なくとも一つの多孔質層20は生体適合性ポリマーからなり、生物学的活性物質を制御された速度で放出するのに適した厚さを有する。好ましくは、少なくとも一つの追加被覆層16を最初に、直接蒸着することにより、構造体12の基材14上に配置させる。このような蒸着は、ジ−p−キシレン又はその誘導体を生成又は入手し、このジ−p−キシレン又はその誘導体を昇華又は熱分解し、単量体のp−キシレン又は単量体誘導体を生成し、そして、この単量体を基材14上で同時に縮合及び重合させることにより行われる。蒸着工程は真空中で行われる。基材14は、蒸着工程中は、室温又は室温付近の温度に維持される。蒸着は、ポリマーのための溶剤又は触媒の不存在下で、また、重合を促進させるための如何なる作用も使用すること無く行われる。この蒸着工程を実施するのに好適な誘導体の一例は、ジクロロ−p−キシレンである。被覆層16を形成するために、パリレン又はパリレン誘導体は前記のような膜厚で塗布されることが好ましい。この被覆層16は、概ね非孔質であるが、いずれの場合も、塗布される少なくとも一つの多孔質層20よりも低孔質である。被覆層16の組成により必要とされる場合、層16は、例えば、前記のようなプラズマ処理などの適当な方法で表面処理する。
【0089】
次いで、所望の生物学的活性物質の少なくとも一つの層18を構造体12の一方の面に、特に、追加被覆層上に塗布する。この塗布工程は様々な常用の方法を用いて実施することができる。例えば、浸漬塗り、ロール塗り、ハケ塗り又は噴霧塗りにより生物学的活性物質の液体混合物を追加被覆層16上に塗布するか、又は、生物学的活性物質の液体混合物又は乾燥混合物を静電付着させるか若しくはその他の適当な方法により塗布することができる。異なる生物学的活性物質を器具の異なる区域又は面に塗布することもできる。
【0090】
生物学的活性物質と揮発性液体との混合物を構造体に塗布し、次いで、適当な方法(例えば、蒸発させるなどの方法)により揮発性液体を除去することが特に好都合である。ヘパリン及び/又はデキサメタゾン又はその誘導体が生物学的活性物質として使用される場合、揮発性液体は好ましくはエチルアルコールである。生物学的活性物質は前記のような量で塗布されることが好ましい。
【0091】
構造体12上に生物学的活性物質層18を付着させるその他の方法も同等に有用である。しかし、塗布方法に拘わらず、重要なことは、多孔質層20が生物学的活性物質層上に付着されるまで、生物学的活性物質が適所に物理的に保持されていさえすればよいということである。これにより、生物学的活性物質を他の器具上に保持するためにしばしば使用される、担体、界面活性剤、化学結合材又はその他の適当な方法などの使用を避けることができる。このような方法で使用される添加剤は有毒なことがあり、また、添加剤あるいは方法は、生物学的活性物質を改変したり、劣化させることがあり、結果的に、その効力を低下させ、更にひどい場合には、それ自体が有毒なこともある。それにも拘わらず、所望により、本発明の生物学的活性物質層18を付着するために、これらのその他の方法を使用することもできる。
【0092】
言うまでもなく、生物学的活性物質は構造体12の一方の面上に、平滑層として又は粒子層として付着させることもできる。更に、複数の異なる生物学的活性物質を、器具の異なる面が異なる生物学的活性物質を含有するように、付着させることもできる。後者の場合、粒径は、例えば、最上部の多孔質被覆20の平滑性、器具10のプロファイル、生物学的活性物質が付着される表面積、生物学的活性物質の放出速度、生物学的活性物質層18内における隆起又は不規則性形成、生物学的活性物質層18の接着力の均一性及び強度などの器具10の性能又は特性に影響を及ぼすことがある。例えば、微粉砕された生物学的活性物質、すなわち、一般的に、直径が10μm未満の微小な粒径にまで加工処理された生物学的活性物質を使用することが有用である。しかし、生物学的活性物質は、微小カプセル化粒子、リポソーム分散液、微小な担体粒子への吸着体又は吸収体などとして付着させることもできる。
【0093】
本発明による更に別の実施態様では、生物学的活性物質は、特定の幾何学パターンで構造体12の一方の面上に配置させることもできる。例えば、ステントの先端又はアームには生物学的活性物質を塗布せず、生物学的活性物質を平行な線に沿って塗布する、特に、2種類以上の生物学的活性物質を同じ表面に塗布することもできる。何れにしろ、生物学的活性物質層18が適所に付着されたら、その後、少なくとも一つの多孔質層20を、少なくとも一つの追加被覆層16の塗布方法と同じ方法で、少なくとも一つの生物学的活性物質層18上に塗布する。しかし、パリレン又はパリレン誘導体のようなポリマーを、少なくとも一つの多孔質層20を形成するために、前記のような薄い膜厚で塗布する。
【0094】
第2の生物学的活性物質層22又は追加多孔質層24のようなその他の層を適当な順序で、かつ、前記の方法と同じ方法で塗布する。この方法の各工程は、前記のような生物学的活性物質、構造体及び基材を用いて実施することが好ましい。
【0095】
言うまでもなく、ポリイミドを、パリレン及びそのパリレン誘導体について前記した方法と同じ方法で蒸着することにより、多孔質層及び追加被覆層20、24及び/又は16の何れか又は全てとして付着させることもできる。ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレンオキシド)のようなポリマー、シリコン、又はメタン、テトラフルオロエチレン又はテトラメチルジシロキサンのポリマーをその他の物体上にプラズマ蒸着する技術は周知であり、これらの技術は本発明を実施するのに有用である。
【0096】
生物学的活性物質の放出速度を制御する別の方法は、1種類以上の生物学的活性物質からなる器具10の表面上に、多孔質層20を付着させる前に、単分散高分子粒子(即ち、ポロゲン(porogen)と呼ばれる)を付着させることからなる。多孔質層20を付着させ、そして、硬化させた後、ポロゲンを適当な溶剤で溶解除去し、外側の被覆層内に空洞又は孔を残置させ、下部の生物学的活性物質の通過を促進させる。
【0097】
ヒト又は獣類の患者を医学的に治療する際に、本発明の器具10を使用する方法も同様に容易に理解できる。本発明の方法は、従来の方法よりも優れている。本発明の方法は、移植可能な脈管器具10を患者の体内へ挿入することからなる。この器具10は、患者の脈管系へ挿入するのに適した構造体12からなる。この構造体12は基材14から構成されている。本発明による方法は、生物学的活性物質の少なくとも一つの層18を構造体の一方の面上に付着させ、続いて、少なくとも一つの多孔質層20を少なくとも一つの生物学的活性物質層18上に付着させることからなる予備工程を有する。この多孔質層20は、ポリマーからなり、器具10が患者の脈管系内に配置されたときに、生物学的活性物質を制御された速度で放出するのに適した膜厚を有する。
【0098】
本発明の方法は更に、前記の器具10の製造方法に従って、前記のような器具10の様々な実施態様について、2種類の付着工程の実施を伴う。更に詳細には、少なくとも一つの多孔質層20の付着工程は、モノマー(単量体)蒸気、好ましくは、溶剤又は触媒を含有しないパリレン又はパリレン誘導体の蒸気から少なくとも一つの層20を重合する工程を含むことができる。この方法はまた、構造体12と少なくとも一つの生物学的活性物質層18との間に少なくとも一つの追加被覆層16を付着する工程を含むこともできる。
【0099】
本発明による治療方法は、患者の脈管系内へ器具10を挿入することにより完了される。少なくとも一つの多孔質層20及び任意の追加多孔質層24は、患者の体内へ制御された速度で、生物学的活性物質を自動的に放出する。
【0100】
医学的治療方法の残りの細部は、本発明の器具10の製造方法について記載した細部とお案じである。従って、簡略化のために、これらの細部についてはここで繰り返し説明する必要は無い。
【0101】
前記の説明を考慮すれば、本発明が、器具内に含まれる1種類以上の生物学的活性物質の放出について正確な制御を為し得る移植可能な医療器具を提供することは明かである。更に、ポリイミド、パリレン、パリレン誘導体又はその他のポリマー層16,20及び/又は24は、その他のポリマー層について必要な厚さに比べて、非常に薄くすることができる。従って、構造体12上の全体的被覆の本体又は大部分は生物学的活性物質からなることができる。これにより、従来の器具により投与されていた量を凌駕する、比較的大量の生物学的活性物質を患者に投与することが可能になる。これら大量の生物学的活性物質を、医療手術の実行中又は実行後に、患者の体内の様々な部位に投与することができるが、PTAにより開放された血管部位へ、抗血栓薬又はその他の薬物を投与することにより、血管の突発性閉鎖及び/又は再狭窄を防止するのに特に有用である。本発明により、短期間及び長期間の双方について、生物学的活性物質の放出速度を入念に制御することができる。最も重要なことは、その他のポリマー被覆技術により起こるかも知れない、生物学的活性物質の分解が避けられることである。
【0102】
本発明の記載された様々な要素が、記載されたように行うために必要な強度と柔軟性を有する限り、これらの要素の構成及び蘇生のその他の詳細は、本発明の効果を達成するための必須要件とはならないものと思われる。これら要素の及び構成のその他の細部の選択は、本明細書の記載を考慮すれば、当業者の能力の範囲内であると思われる。
【0103】
本発明は好ましい実施態様として以下のものを含む。
1. (A) 少なくとも一つの面を有し、基材(14)から構成される、患者の体内へ挿入するのに適した構造体(12)、
(B) 前記構造体(12)の一つの面上に配置された少なくとも一つの被覆層(16)、および
(C) 前記少なくとも一つの被覆層(16)の少なくとも一部分上に配置された生物学的活性物質層(18)を有する医療器具(10)であって、
前記生物学的活性物質層(18)は、前記医療器具(10)の最外層を形成し、
前記被覆層(16)は、前記生物学的活性物質層(18)からの生物学的活性物質の患者の体内への放出を制御することを特徴とする、移植可能な医療器具。
2. 前記被覆層(16)は、非孔質物質又はパリレン誘導体を含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
3. 前記被覆層(16)の膜厚は、50,000〜500,000オングストロームの範囲内であることを特徴とする前記第2項に記載の医療器具。
4. 前記非孔質物質は、230,000オングストロームの膜厚を有する、吸着性物質及び吸収性物質のうちの少なくとも一方であることを特徴とする前記第2項に記載の医療器具。
5. 前記生物学的活性物質層(18)は、抗血小板GP IIb/IIIa抗体を含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
6. 前記生物学的活性物質層(18)は、キメラモノクローナル抗体を含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
7. 前記生物学的活性物質層(18)は、ヘバリン、共有結合ヘバリン又はトロンビン阻害薬、ヒルジン、ヒルログ、アルガトロバン、D−フェニルアラニル−L−ポリ−L−アルギニルクロロメチルケトン、又は抗トロンボン形成薬、又はこれらの混合物;ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤、又は血栓崩壊薬、又はこれらの混合物;フィブリン溶解薬;血管痙攣阻害薬、カルシウムチャンネルブロッカー、硝酸塩、酸化窒素、酸化窒素プロモータ又は血管拡張薬;Hytrin(登録商標)又は抗高血圧薬;抗微生物薬又は抗生物質;アスピリン、チクロピジン、グリコプロテインIIb/IIIa阻害薬又は表面グリコプロテイン受容体の阻害薬あるいは抗血小板薬;コルヒチン又は抗有糸分裂薬又は微細管阻害薬、ジメチルスルホキシド(DMSO)、レチノイド又は抗分泌薬;サイトカラシン又はアクチン阻害薬;又はリモデリング阻害薬;デオキシリボ核酸、アンチセンスヌクレオチド又は分子遺伝介入用の薬剤;メトトレキセイト又は拮抗的阻害薬あるいは抗増殖薬;タモキシフェンシトレート、Taxol(登録商標)又はこの誘導体あるいは抗癌化学療法薬;デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩、デキサメタゾン酢酸塩又はデキサメタゾン誘導体あるいは抗炎症ステロイド若しくは非ステロイド性抗炎症薬;サイクロスポリン又は免疫抑制薬;トラピダル(PDGF拮抗薬)、アンギオペブチン(成長ホルモン拮抗薬)、アンギオゲニン、成長因子又は抗成長因子抗体又は成長因子拮抗薬;ドーパミン、ブロモクリプチンメシレート、ベルゴライドメシレート又はドーパミンアゴニスト;60Co(半減期5.3年)、192Ir(半減期73.8日)、32P(半減期14.3日)、111In(半減期68時間)、90Y(半減期64時間)、99mTc(半減期6時間)又は放射線療法薬;沃素含有化合物、臭素含有化合物、金、タンタル、白金、タングステン又はX線不透過剤として機能する重金属;ペプチド、タンパク、酵素、細胞外間質成分、細胞成分又は生物学的薬剤;カプトプリル、エナラプリル又はアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬;アスコルビン酸、α−トコフェロール、超過酸化物不均化酵素、デフェロキサミン、21−アミノステロイド(ラサロイド)又は遊離基掃去薬、鉄キレート化薬又は酸化防止薬;14C、3H、131I、32P又は36Sの放射性同位元素で標識された又は放射性同位元素標識された形の前記の何れかの薬剤;エストロゲン又は性ホルモン;AZT又は抗ポリメラーゼ;アシクロビル、ファムシクロビル、リマンタジン塩酸塩、ガンシクロビルナトリウム、又は抗ウイルス薬;5−アミノレブリン酸、メタ−テトラヒドロキシフェニルクロリン、ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン、テトラメチルヘマトポルフィリン、ローダミン123又は光力学治療薬;Pseudomonasaeruginosa外生毒素に対抗し、A431エビデロモイド癌細胞と反応性のIgG2カッパー(κ)抗体、サボリンに共有結合したノルアドレナリン酵素ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼに対抗するモノクローナル抗体又は抗体を目標とする治療薬;遺伝子治療薬;エナラプリル及びプロドラッグ;又はこれらの何れかの混合物のうちの少なくとも一つを含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
8. (D) 構造体(12)の一方の面上に配置された少なくとも一つの接着促進層(30)を更に有し、
前記被覆層(16)は、前記接着促進層(30)の少なくとも一部分上に配置されていることを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
9. 被覆層と生物学的活性物質層とを交互に、前記生物学的活性物質層(18)の外側層に形成し、最外層が生物学的活性物質層となることを特徴とする前記第1−8項のいずれかに記載の医療器具。
10. 前記生物学的活性物質層(18)は、抗増殖剤を含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
11. 接着促進層(30)を更に有し、
前記接着促進層(30)は、前記構造体(12)に塗布されることを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
12. 前記接着促進層(30)は、シランを含有することを特徴とする前記第11項に記載の医療器具。
13. 前記接着促進層(30)に塗布散れる少なくとも1つの被覆層(16)を有し、
前記被覆層(16)は、パリレン又はパリレン派生物を含有し、
前記生物学的活性物質層(18)は、抗血小板 GP IIb/IIIa抗体を含有することを特徴とする前記第12項に記載の医療器具。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、ヒト及び獣医用の医療器具に関する。更に詳細には、本発明は、薬物又は生物学的に活性な薬剤を組込んだ医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
食道、気管、結腸、胆管、尿管、脈管系又はヒトあるいは獣類患者の体内のその他の位置に、移植可能な医療器具を部分的に又は全て移植することにより様々な医学的状態を治療することは一般的になりつつある。例えば、脈管系の多くの治療では、ステント、カテーテル、バルーン、ワイヤガイド、カニューレなどのような器具の導入を必要とする。しかし、このような器具が脈管系内に導入され、この脈管系を介して操作される場合、血管壁が攪乱され、そして、傷付けられる。この負傷部位にはしばしば、凝血形成又は血栓症が生じ、その結果、血管の狭窄又は閉塞が起こる。更に、このような医療器具が長期間にわたって患者の体内に残置されると、血栓症はしばしば医療器具自体にも生じ、結果的に狭窄又は閉塞を起こす。その結果、患者は様々な合併症(例えば、心臓発作、肺気腫及び卒中など)の危険に曝される。従って、このような医療器具の使用は、その使用を改善するつもりであった問題の危険性を内包する。
【0003】
血管が狭窄を被る別の形態は病気によるものである。おそらく、血管の狭窄を起こす最も普遍的な病気はアテローム硬化症である。アテローム硬化症は、左胃動脈、大動脈、腸骨大腿骨動脈及び頸動脈に一般的に悪影響を及ぼす疾患である。脂質、線維芽細胞及びフィブリンのアテローム性プラーク(斑)が増殖し、そして、動脈の閉塞を起こす。閉塞が進行するにつれて、狭窄の臨界レベルは、閉塞箇所を通過する血流が閉塞部位の下流遠位側の組織の代謝必要量を満たすには不十分となる点にまで達する。その結果、虚血となる。
【0004】
アテローム硬化症の処置のために、多数の医療器具類及び治療方法が知られている。ある種のアテローム硬化症病変の特に有用な治療法の一例は、経皮経管腔血管形成術(PTA)である。PTA手術中に、先端にバルーンが取付けられたカテーテルを患者の動脈内に挿入する。この場合、バルーンは収縮されている。カテーテルの先端を、膨張させるべき、アテローム硬化症プラークの箇所にまで前進させる。バルーンを動脈の狭窄区域内に配置するか又は該区域と交差して配置させ、その後、膨張させる。バルーンの膨張により、アテローム硬化症プラークが“砕かれ”、血管が拡大され、これにより、少なくとも部分的に、狭窄が緩和される。
【0005】
PTAは現在広く使用されているが、これには2つの大きな問題が存在する。第1に、血管は、拡張処置後の最初の数時間内又は数時間直後に、急性の閉塞を被る。このような閉塞は“突発性閉鎖”と呼ばれる。突発性閉鎖は、PTAが使用される症例の約5%程度に起こり、血流が即座に回復されない場合、心筋梗塞を起こし、死に至る。突発性閉鎖の主たる機構は、弾性反動、動脈の解体及び/又は血栓症であると思われる。血管形成術を行う時に、動脈壁へ適当な薬剤(例えば、抗トロンビン剤)を直接投与すると、血栓性急性閉鎖の発病率を低下させることができると思われているが、このような直接投与の試みの結果は混乱し、判然としない。
【0006】
PTAにおいて遭遇される第2の主要な問題は、最初に成功した血管形成の後に、動脈が再び狭くなることである。この再び狭まくなることは、“再狭窄”と呼ばれており、一般的に、血管形成後の最初の六ヶ月以内に起こる。再狭窄は、動脈壁からの細胞成分の増殖及び移行による他、“リモデリング(remodeling)”と呼ばれる動脈壁内における幾何学的変化により発生するものと思われる。
【0007】
同様に、動脈壁へ適当な薬剤を直接投与すると、再狭窄を引き起こす細胞及び/又はリモデリング事象が阻害されるものと思われている。しかし、血栓による急性閉鎖を抑制する試みと同様に、この方法により再狭窄を抑制する試みの結果も混乱し、判然としない。
【0008】
非アデローム硬化症による血管狭窄もPTAにより治療できる。例えば、タカヤス動脈炎又は神経線維腫症は、動脈壁の線維症性肥厚による狭窄を引き起こす。しかし、これらの病変の再狭窄は、疾患の線維症的特性により、血管形成術後に高い割合で発生する。これらを治療又は未然に防ぐ医学療法も同様に、実効性が無い。
【0009】
脈管内ステントのような器具は、PTAに対する有用な付属物である。特に、血管形成術後の急性又は将来的に起こり得る閉鎖の場合に有用な付属物である。突発的閉鎖及び再狭窄を機械的に防止するために、動脈の拡大区域内にステントを配置する。生憎、攻撃的で正確な抗血小板物質及び抗凝血療法(例えば、全身的投与)にステント移植を併用しても、血栓症性血管閉鎖又はその他の血栓症性合併症の発病率は高いままであり、再狭窄の防止は期待されるほど成功しない。更に、全身的抗血小板物質療法及び全身的抗凝血療法の望ましからざる副作用は、大抵の場合、経脈管進入部位における出血合併症の高い発病率である。
【0010】
その他の状態及び疾患は、食道、気管、結腸、胆管、尿管及び体内のその他の箇所に挿入される、ステント、カテーテル、カニューレ及びその他の器具類により、又は整形外科用器具類、インプラント又は代替物により治療できる。
【0011】
このような状態及び疾患を治療又は予防するために、例えば、通路、管腔又は血管のような体内部分の突発性閉鎖及び/又は再狭窄を予防するために、医学的処置の最中又はその後に体内の所定箇所に適当な薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質を直接的に、高い信頼性で投与するための器具類及び方法の開発が望まれている。具体的な事例として、PTAにより又はアテレクトミー(atherectomy)、レーザ切除などのような別の間挿技法により治療される血管の部位に抗トロンビン剤又はその他の薬物を投与できる器具類及び方法を開発することが望まれている。
【0012】
また、このような器具類は、短期間(すなわち、治療後、最初の数時間及び数日間)並びに長期間(すなわち、治療後、数週間及び数ヶ月間)の双方にわたって、これらの薬剤を投与することが望ましい。また、薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質の投与速度を正確に制御すること、及び、これら薬剤への全身暴露を制限することが望ましい。カテーテルに沿った及びカテーテル先端における、双方の狭窄を防止することにより、静脈内カテーテル(これ自体が申し分のない治療に必要な薬剤量を軽減する利点がある)により化学療法剤を特定の器官又は部位へ投与することを含む治療法において特に有用である。その他の様々な治療法も同様に改善することができる。言うまでもなく、このような器具類への組込み中に、又はこのような器具類内の薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質の分解を避けることも望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記の問題は本発明の脈管ステント又はその他の移植可能な器具類により解決され、かつ、技術的進歩が得られる。本発明の脈管ステント又はその他の移植可能な器具類は、該ステント又は器具類が配置される、脈管又はその他のシステムあるいは体内のその他の箇所に薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質を制御された速度で放出する。本発明者らは、このような器具類に施用される薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質の分解は、器具構造物の一表面に被覆層を配設することにより避けることができることを発見した。薬剤、薬物又は生物学的に活性な物質は、少なくとも被覆層の一部分の上に配置される。この被覆層は、この被覆層上に配置された生物学的に活性な物質を制御された速度で放出する。更に、本発明の医療器具は、生物学的に活性な物質上に配置された多孔質層も更に有する。この多孔質層はポリマーから構成されており、このポリマーは、多孔質層を介して生物学的に活性な物質を制御された速度で放出する。
【0014】
或る実施態様では、被覆層は例えば、パリレン(parylene)誘導体の非孔質材料からなる。この被覆層の膜厚は、好ましくは50〜500,000オングストロームの範囲内であり、一層好ましくは100,000〜500,000オングストロームの範囲内である。具体的には、約200,000オングストロームである。別の実施態様では、非孔質材料は吸着剤又は吸収剤であり、吸着剤又は吸収剤の被覆層の膜厚は約230,000オングストロームである。本発明の別の実施態様では、生物学的に活性な物質の層は、抗血小板物質GPIIb/IIIa抗体のようなキメラモノクローナル抗体を含有する。
【0015】
本発明の更に別の実施態様では、接着促進層が器具構造物の一表面上に配置されており、被覆層はこの接着促進層の少なくとも一部分上に配置される。好ましくは、接着促進層は、膜厚が0.5〜5,000オングストロームの範囲内のシランを包含する。また、本発明者らは、このような器具に塗布された薬剤、薬物又は生物学的活性物質の分解は、これらの薬剤、薬物又は生物学的活性物質を分解又は損傷しがちな、溶剤、触媒、熱又はその他の化学物質あるいは技法を使用することなく塗布された生体適合性ポリマーの多孔質層により、薬剤、薬物又は生物学的活性物質を被覆することにより避けられることも発見した。これらの生体適合性ポリマーは好ましくは、蒸着又はプラズマ蒸着により塗布し、そして、蒸着層から単なる縮合により重合させ、硬化させるか、若しくは、光分解的に重合させる。生体適合性ポリマーはこの目的に有用であると思われる。しかし、言うまでもなく、その他の被覆方法も使用できる。
【0016】
この器具が脈管系で使用するためのものである場合、少なくとも一層中の生物学的活性物質は、ヘパリンか別の抗結晶板物質又は抗トロンビン剤あるいは、デキサメタゾン、デキサメタゾンアセテート、デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩又は別のデキサメタゾン誘導体若しくは抗炎症性ステロイドであることが好ましい。更に、その他の広範な種類の生物学的活性物質を使用できる。例えば、次のようなカテゴリーの薬剤を使用できるが、これらだけに限定されることはない:血栓崩壊剤、血管拡張剤、抗高血圧症剤、抗微生物剤、抗生剤、抗有糸分裂剤、抗増殖剤、抗分泌剤、非ステロイド性抗炎症剤、免疫抑制剤、成長因子、成長因子拮抗剤、抗腫瘍剤及び/又は化学療法剤、抗ポリメラーゼ、抗ウイルス剤、光力学療法剤、抗体目標療法剤、プロドラッグ、性ホルモン剤、遊離基掃去剤、酸化防止剤、生物製剤、放射線療法剤、放射線不透過剤及び放射性同位元素標識剤。主な制約は、この生物学的活性物質が、塗布技法、例えば、少なくとも1個の多孔質層の蒸着又はプラズマ蒸着中に使用される真空圧に耐えることができなければならないことである。換言すれば、生物学的活性物質は、蒸着温度(一般的に、室温又は室温付近の温度)において比較的低い蒸気圧を有しなければならない。
【0017】
少なくとも1個の多孔質層は、無触媒蒸着により塗布された、ポリアミド、パリレン又はパリレン誘導体から構成されていることが好ましい。また、約5,000〜250,000オングストロームの膜厚であることが好都合であり、この膜厚であれば、生物学的活性物質を制御された速度で放出することができる。“パリレン”とは、p−キシレンを基礎とし、かつ、気相重合法により生成される、既知のポリマー群の総括名称及びこのポリマーの非置換体の名称の両方を意味するが、この明細書では、後者の意味で使用する。更に具体的には、パリレン又はパリレン誘導体は、先ず、p−キシレン又は適当な誘導体を適当な温度(例えば、約950℃)で加熱し、環状二量体のジ−p−キシレン(又はこの誘導体)を生成することにより製造される。得られた固形物を純粋な形で単離することができる。
【0018】
次いで、この固形物を適当な温度(例えば、約680℃)で分解又は熱分解し、p−キシレンのモノマー蒸気を生成する。このモノマー蒸気を適当な温度(例えば、50℃以下)にまで冷却し、そして、所望の物体(例えば、生物学的活性物質の少なくとも1個の層)上に凝縮させる。得られたポリマーは、−(−CH2C6H4CH2−)n−の繰り返し単位を有する。ここで、nは約5,000であり、分子量は500,000の範囲内である。
【0019】
前記のように、蒸着法により塗布可能なパリレン及びパリレン誘導体被膜は様々な生物医学的用途を有することが知られており、様々な業者から市販されている。例えば、Special Coating Systems(100 Deposition Drive,Clear Lake,WI 54005),Para Tech Coating,Inc.(35 Argonaut,Aliso Viejo,CA 92656)及びAdvanced Surface Technology,Inc.(9 Linnel Circle,Billerica,MA 01821−3902)などから市販されている。
【0020】
少なくとも1個の多孔質層は別法として、プラズマ蒸着によっても塗布できる。プラズマは真空中で維持され、そして、電気的エネルギー(一般的に、高周波域の電気的エネルギー)により励起されるイオン化ガスである。ガスが真空中で維持されるので、プラズマ蒸着処理は室温又は室温付近の温度で行われる。プラズマは、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレンオキシド)のようなポリマーの他、シリコン、メタン、テトラフルオロエチレン(例えば、テフロンという登録商標で示されるポリマー類)、テトラメチルジシロキサンなどのポリマー類を蒸着するのに使用できる。
【0021】
前記の説明は本発明の好ましい実施態様のうちの幾つかを示すが、その他のポリマー系も使用できる。例えば、光重合系モノマーから誘導されるポリマー類も使用できる。また、例えば、浸漬、噴霧などのようなその他の塗布技術も使用できる。
【0022】
本発明の医療器具は、その構造体の頂部に、異なる生物学的活性物質の層を2層以上有することもできる。しかし、本発明の目的のためには、同じ生物学的活性物質は、同じ層内の器具の異なる表面上には一般的に配置されない。換言すれば、器具構造物の各表面は、生物学的活性物質が最内層又は最外層である場合を除いて、異なる生物学的活性物質を帯びる。例えば、ヘパリンは最内層又は最外層若しくは両方の層を形成することができる。これらの追加層は相互に最上部に直接配置させることもできるし、あるいは、各層の間に追加の多孔質層を配設することにより分離することもできる。更に、生物学的活性物質層は異なる生物学的活性物質の混合物から構成することもできる。また、多孔質層は、パリレン又はパリレン誘導体から構成されていることが好ましい。好都合なことに、2個以上の生物学的活性物質は異なる溶解度を有することができる。従って、低溶解度の生物学的活性物質(例えば、デキサメタゾン)を含有する層は、高溶解度の生物学的活性物質(例えば、ヘパリン)を含有する層の上に配置させることが好ましい。予期せずに、この構成が、デキサメタゾンのような幾つかの比較的難溶性物質の試験管内における放出速度を高め、同時に、ヘパリンのような幾つかの比較的易溶性物質の放出速度を低下させることが発見された。
【0023】
器具内に含まれる構造体は様々な方法で形成することができるが、この構造体は、ステンレススチール、ニッケル、銀、白金、金、チタン、タンタル、イリジウム、タングステン、ニチノール(Nitinol)、インコネル(Inconel)などのような生体適合性金属から構成される脈管ステントとして形成されることが好ましい。膜厚が約50,000〜500,000オングストロームのパリレン又はパリレン誘導体若しくはその他の生体適合性ポリマーの、概ね非孔質の追加被覆層を、脈管ステントの頂部と、少なくとも1個の生物学的活性物質層の真下に直接配置させることもできる。追加の被覆層は、少なくとも1個の多孔質層よりも比較的低孔質のものでありさえすればよいが、概ね非孔質である、すなわち、通常の使用環境において、ステントを血液に対して概ね不浸透性にするのに十分なほどの非孔質であることが好ましい。
【0024】
本発明の器具及び方法は、食道、気管、胆管、尿管及び脈管系のようなヒト又は獣類の患者の体内の多種多様な場所で使用するのに有用であるばかりか、硬膜下及び整形外科用器具類、インプラント類又は代替物類としても有用である。本発明の器具及び方法は、脈管内処置の最中又は後に、適当な生物学的活性物質を確実に投与するのに特に有用である。また、本発明の器具及び方法は、血管の突発的閉鎖及び/又は再狭窄を防止するのに特に有用であることが発見された。更に詳細には、本発明の器具及び方法は、例えば、PTA法により開放された血管領域に、抗トロンビン剤、抗血小板物質、抗炎症性ステロイド又はその他の薬物を投与することができる。同様に、本発明の器具及び方法は、例えば、血管の管腔へ或る生物学的活性物質を投与し、そして、血管壁に別の生物学的活性物質を投与することができる。多孔質ポリマー層を使用することにより、生物学的活性物質の放出速度を、短期間及び長期間の双方について、入念に制御することができる。
【0025】
本発明のこれらの実施態様及びその他の実施態様は、本明細書の記載を読み、理解すれば、当業者により正しく認識されるであろう。
【0026】
本発明の別の実施態様では、生物学的活性物質を非孔質層に結合させ、非常に長い期間にわたって都合良く溶出させる。この非孔質層は構造体の基材に結合される。非孔質層は前記に列挙され、また下記に列挙される任意の物質から形成することができ、また、同様に、生物学的活性物質も前記に列挙され、また下記に列挙される任意の物質を使用することができる。都合良いことに、また、好ましい実施態様では、市販のReoPro(登録商標)のようなグリコプロテインIIb/IIIa阻害剤を、冠動脈ステントのような医療器具の外面に配設されるパリレンの非孔質層に結合させる。好都合なことに、ReoPro(登録商標)は非常に長い期間にわたって、ステントの表面から溶出される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の第1の好ましい実施態様の断面図である。
【図2】図2は、本発明の別の好ましい実施態様の断面図である。
【図3】図3は、本発明の更に別の好ましい実施態様の断面図である。
【図4】図4は、本発明の更に他の好ましい実施態様の断面図である。
【図5】図5は、本発明の付加的な好ましい実施態様の断面図である。
【図6A】図6Aは、本発明の付加的な好ましい実施態様の断面図である。
【図6B】図6Bは、本発明の付加的な好ましい実施態様の断面図である。
【図7】図7は、本発明の付加的な好ましい実施態様の断面図である。
【図8】図8は、図7の部分拡大平面図である。
【図9】図9は、図8の9−9線に沿った拡大断面図である。
【図10A】図10Aは、図8の10−10線に沿った拡大断面図である。
【図10B】図10Bは、図8の10−10線に沿った拡大断面図である。
【図10C】図10Cは、図8の10−10線に沿った拡大断面図である。
【図10D】図10Dは、図8の10−10線に沿った拡大断面図である。
【図11】図11は、生物学的活性物質が結合されたポリマー被覆層を使用する図1の医療器具の別の実施態様の断面図である。
【図12】図12は、ポリマー被覆層が接着促進層を用いて器具の基材の外面に接着された、図11の医療器具の更に別の実施態様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1を参照する。図1は、本発明による移植可能な医療器具10を示す。この医療器具10は先ず、ヒト又は獣類の患者の体内に挿入するのに適した構造体12からなる。“適した”とは、構造体12がこのような挿入のための形状及び大きさを有することを意味する。明確化のため、構造体12の一部分だけが図1に示されている。
【0029】
一例として、構造体12は、患者の脈管系に挿入するのに特に適した、脈管ステントとして形成される。しかし、このステント構造体は、食道、気管、結腸、胆管、尿道及び尿管及び特に硬膜下のようなその他の系及び部位で使用することもできる。実際、構造体12は、別法として、常用の脈管又はその他の医療器具として形成することもでき、様々な常用のステント又は、螺旋状に捲回されたストランド、目打ちシリンダなどのようなその他の付属物を含むことができる。更に、本発明により提起された問題点は、患者体内に実際に配置された器具のこれらの部分に関して起こるので、挿入される構造体12は器具全体である必要はなく、患者体内に挿入されることが企図される脈管又はその他の器具の一部分だけであることもできる。従って、構造体12は、カテーテル、ワイヤガイド、カニューレ、ステント、脈管又はその他の移植片、冠動脈ペースメーカー導線又は導線チップ、冠動脈細動除去器導線又は導線チップ、心臓弁又は整形外科器具、装具、インプラント又は代替物のうちのすくなくとも1個若しくはこれらの一部分として形成することができる。また、構造体12はこれらのいずれかのものの幾つかの部分の組合わせとして形成することもできる。
【0030】
しかし、構造体12は、Cook Incorporated,Bloomington,Indianaから市販されているGianturco−Roubin FLEX−STENT(登録商標)又はGR II(登録商標)冠動脈ステントのような脈管ステントとして形成することも最も好ましい。
【0031】
このようなステントは、一般的に、長さが約10〜約60mmであり、患者の脈管系へ挿入されたときに、約2〜約6mmの直径にまで拡張されるように設計されている。特に、Gianturco−Roubinステントは一般的に、長さが約12〜約25mmであり、挿入されたときに約2〜約4mmの直径に拡張されるように設計されている。
【0032】
言うまでもなく、これらのステント寸法は、冠動脈ステントで使用される典型的なステントに適用できる。大動脈、食道、気管、結腸、胆管又は尿管のような、患者の他の体内部位で使用しようとするステント又はカテーテル部分のような構造体は、このような用途に一層適した異なる寸法を有する。例えば、大動脈、食道、気管及び結腸用ステントは、約25mm以下の直径と、約100mm以上の長さを有することもできる。
【0033】
構造体12は、構造体12の企図された用途に好適な基材14から構成されている。基材14は生体適合性であることが好ましい。しかし、細胞障害性の、又はその他の有毒な基材も、これらが患者から適切に隔離されれば、使用することができる。このような生体適合性材料は、例えば、治療すべき特定の組織内又は組織付近のカテーテルにより放射性物質を配置させる放射線療法において有用である。しかし、大抵の場合、構造体12の基材14は生体適合性でなければならない。
【0034】
様々な常用の材料を基材14として使用することができる。幾つかの材料は、構造体12の典型例である冠動脈ステント以外の構造体類について一層有用である。基材14は、基材上に塗布されるべきポリマー層の可撓性又は弾性に応じて、弾性又は非弾性の何れであることもできる。基材は生分解性又は非生分解性の何れであることもでき、様々な生分解性ポリマーが公知である。更に、幾つかの生物製剤は、典型的な冠動脈ステントにおいて特に有用でないとしても、幾つかの有用な構造体12の基材14として機能するのに十分な強度を有する。
【0035】
従って、基材14は、ステンレススチール、タンタル、チタン、ニチノール、金、白金、インコネル、イリジウム、銀、タングステン又は別の生体適合性金属若しくはこれらの何れかの合金類;カーボン又はカーボン繊維;酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルソエステル、ポリ酸無水物、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、又は別の生体適合性高分子物質あるいはこれらの混合物若しくはこれらのコポリマー;ポリ乳酸、ポリグリコール酸又はこれらのコポリマー、ポリ酸無水物、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート吉草酸エステル又は別の生体適合性ポリマーあるいはこれらの混合物若しくはこれらのコポリマー;蛋白質、細胞外間質成分、コラーゲン、フィブリン又は別の生物製剤;又はこれらの何れかの適当な混合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。構造体12が脈管ステントとして形成される場合、基材14としてはステンレススチールが特に有用である。
【0036】
言うまでもなく、構造体12がポリプロピレン、ポリエチレン又はその他の前記ポリマーのようなX線透過性物質から構成されている場合、常用のX線不透過性被覆をこの構造体12に塗布することが好ましい。X線不透過性被覆は、患者の脈管系への挿入中又は挿入後にX線又は透視装置により構造体12の位置を識別する手段を提供する。
【0037】
図1を更に参照する。本発明の脈管器具10は次に、構造体12の一方の表面上に配置された生物学的活性物質の少なくとも一つの層18を有する。本発明の目的のために、少なくとも一つの生物学的活性物質を構造体12の一方の表面に配置し、そして他方の表面は生物学的活性物質を有しないか又は1つ以上の異なる生物学的活性物質を有する。このようにして、1つ以上の生物学的活性物質又は薬物を、例えば、脈管ステントにより、ステントの管腔面から血流中に投与することができ、また、異なる処置をステントの管表面に施すことができる。選択された物質が蒸着又はプラズマ蒸着中に引かれる真空に暴露されても残存することができる限り、非常に広範な薬物、医薬品及び物質を層18における生物学的活性物質として使用できる。本発明を実施するのに特に有用なものは、ステント挿入手術又はその他の処置により事前に開放された血管の急性閉鎖及び再狭窄を防止又は改善する物質である。構造体12が脈管ステントである場合、特に有用な生物学的活性物質は、(血栓を溶解、分解又は消散させる)血栓崩壊剤及び(血栓の生成を阻害又は防止する)抗トロンボゲン形成剤である。特に好ましい血栓崩壊剤は、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ及び組織プラスミノーゲン活性化剤である。特に好ましい抗トロンボゲン形成剤は、ヘパリン、ヒルビン及び抗血小板物質である。
【0038】
ウロキナーゼは一般的に、ヒトの腎臓細胞培養物から得られるプラスミノーゲン活性化酵素である。ウロキナーゼはプラスミノーゲンの線維素溶解性プラスミン(これはフィブリントロンビへ分解される)への変換を触媒する。
【0039】
ヘパリンは、一般的に、ブタの腸管粘膜又はウシの肺から得られるムコ多糖の抗凝血剤である。ヘパリンは、血液の内因性抗トロンビンIIIの作用を大幅に高めることにより、トロンビン阻害剤として機能する。凝結カスケード中の強力な酵素であるトロンビンは、フィブリンの生成を触媒する際の要である。従って、トロンビンを阻害することにより、ヘパリンはフィブリントロンビンの生成を阻害する。別法として、ヘパリンは構造体12の外層へ共有結合される。従って、ヘパリンは構造体12の最外層を生成し、酵素により容易には分解されず、トロンビン阻害剤としての活性を保持する。
【0040】
言うまでもなく、その他の機能を有する生物学的活性物質も、本発明の器具10により首尾良く投与することができる。例えば、メトトレキセートのような抗増殖剤は平滑筋の過剰増殖を阻害し、従って、血管の拡張部位の再狭窄を阻害する。抗増殖剤はこの目的のために、約4〜6ヶ月の期間にわたって供給されることが望ましい。更に、抗増殖剤の局所的投与も、高い脈管成長を特徴とする様々な悪性状態を治療するのに有用である。このような場合、本発明の器具10を腫瘍の動脈供給内に配置させ、比較的高投与量の抗増殖剤を腫瘍に直接投与する手段を提供することができる。
【0041】
カルシウムチャンネルブロッカー又は硝酸塩のような血管拡張薬は、血管痙攣を抑制する。血管痙攣は血管形成手術後に普遍的に起こる。血管痙攣は血管の損傷に対する応答として発生する。また、血管痙攣を起こす傾向は血管の治癒に応じて低下する。従って、血管拡張薬は、約2〜3週間の期間にわたって供給することが望ましい。言うまでもなく、血管形成術による外傷性障害は、血管痙攣を起こし得る血管損傷だけではない。また、器具10は、冠動脈以外の脈管、例えば、大動脈、頸動脈、腎動脈、腸骨動脈、又は動脈内の血管痙攣を予防するための周辺動脈などにも挿入することができる。
【0042】
構造体12が冠動脈ステント以外のものに形成される場合、その他の様々な生物学的活性物質はそれらの用途に特に好適である。例えば、抗癌化学療法剤は器具10により、局所的な腫瘍に投与することができる。更に詳細には、器具10は腫瘍に血液を供給する動脈内あるいは任意の部位に配置し、全身暴露と毒性を低下させつつ、比較的高い投与量で長期間にわたり、薬剤を腫瘍に対して投与することができる。この薬剤は、腫瘍の大きさを低下させる治療用の術前デバルカー(debulker)であるか又は疾患の症状を緩和する緩和剤であることもできる。本発明の生物学的活性物質は器具10の全域で投与されるのであり、常用の化学療法で使用されるカテーテルを経由よるような、器具10内に画成される管腔を経由する外面を通過することにより投与されるのではない。言うまでもなく、本発明の生物学的活性物質は器具10から、該器具で画成される管腔内に放出されたり、器具と接触する組織に放出されたりすることもあり、また、管腔は、ここを通して放出されるべき幾つかのその他の薬剤を帯びることもできる。例えば、タモキシフェンシトレート、Taxol(登録商標)又はその誘導体、Proscar(登録商標)、Hytrin(登録商標)又はEulexin(登録商標)などを、例えば、乳房組織又は前立腺内に局在する腫瘍に投与するため、器具の組織暴露面に塗布することができる。
【0043】
ドーパミン又はドーパミン拮抗薬(例えば、ブロモクリプチンメシレート又はペルゴライドメシレート)は、パーキンソン氏病などのような神経系疾患の治療に有用である。器具10は、この目的のため、視床内に治療を集中するように、視床黒質又は任意の部位の脈管供給内に配置させることができる。
【0044】
その他の広範な種類の生物学的活性物質を本発明の器具10により投与することができる。従って、層18内に含まれる生物学的活性物質は、ヘパリン、共有結合ヘパリン、又は別のトロンビン阻害薬、ヒルジン、ヒルログ、アルガトロバン、D−フェニルアラニル−L−ポリ−L−アルギニルクロロメチルケトン、又は別の抗トロンボン形成薬、又はこれらの混合物;ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤、又は別の血栓崩壊薬、又はこれらの混合物;フィブリン溶解薬;血管痙攣阻害薬、カルシウムチャンネルブロッカー、硝酸塩、酸化窒素、酸化窒素プロモータ又は別の血管拡張薬;Hytrin(登録商標)又はその他の抗高血圧薬;抗微生物薬又は抗生物質;アスピリン、チクロピジン、グリコプロテインIIb/IIIa阻害薬又は表面グリコプロテイン受容体の別の阻害薬あるいは別の抗血小板薬;コルヒチン又は別の抗有糸分裂薬又は別の微細管阻害薬、ジメチルスルホキシド(DMSO)、レチノイド又は別の抗分泌薬;サイトカラシン又は別のアクチン阻害薬;又はリモデリング阻害薬;デオキシリボ核酸、アンチセンスヌクレオチド又は分子遺伝介入用の別の薬剤;メトトレキセイト又は別の拮抗的阻害薬あるいは抗増殖薬;タモキシフェンシトレート、Taxol(登録商標)又はこの誘導体あるいはその他の抗癌化学療法薬;デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩、デキサメタゾン酢酸塩又は別のデキサメタゾン誘導体あるいは別の抗炎症ステロイド若しくは非ステロイド性抗炎症薬;サイクロスポリン又は別の免疫抑制薬;トラピダル(PDGF拮抗薬)、アンギオペプチン(成長ホルモン拮抗薬)、アンギオゲニン、成長因子又は抗成長因子抗体又は別の成長因子拮抗薬;ドーパミン、ブロモクリプチンメシレート、ペルゴライドメシレート又は別のドーパミンアゴニスト;60Co(半減期5.3年)、192Ir(半減期73.8日)、32P(半減期14.3日)、111In(半減期68時間)、90Y(半減期64時間)、99mTc(半減期6時間)又は別の放射線療法薬;沃素含有化合物、臭素含有化合物、金、タンタル、白金、タングステン又はX線不透過剤として機能する別の重金属;ペプチド、タンパク、酵素、細胞外間質成分、細胞成分又は別の生物学的薬剤;カプトプリル、エナラプリル又は別のアンギオデンシン変換酵素(ACE)阻害薬;アスコルビン酸、α−トコフェロール、超過酸化物不均化酵素、デフェロキサミン、21−アミノステロイド(ラサロイド)又は別の遊離基掃去薬、鉄キレート化薬又は酸化防止薬;14C、3H、131I、32P又は36Sの放射性同位元素で標識された又は別の放射性同位元素標識された形の前記の何れかの薬剤;エストロゲン又は別の性ホルモン;AZT又はその他の抗ポリメラーゼ;アシクロビル、ファムシクロビル、リマンタジン塩酸塩、ガンシクロビルナトリウム、ノルビル、クリキシバン又はその他の抗ウイルス薬;5−アミノレブリン酸、メタ−テトラヒドロキシフェニルクロリン、ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン、テトラメチルヘマトポルフィリン、ローダミン123又は別の光力学治療薬;Pseudomonas aeruginosa外生毒素に対抗し、A431エピデロモイド癌細胞と反応性のIgG2カッパー(κ)抗体、サポリンに共有結合したノルアドレナリン酵素ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼに対抗するモノクローナル抗体又はその他の抗体を目標とする治療薬;遺伝子治療薬;エナラプリル及びその他のプロドラッグ;Proscar(登録商標)、Hytrin(登録商標)又はその他の良性前立腺肥大(BHP)治療薬又はこれらの何れかの混合物;及び様々な形状の小腸粘膜下組織(SIS)、のうちの少なくとも一つを含有する。
【0045】
特に好ましい実施態様では、生物学的活性物質層は、構造体の総表面積の1cm2当たり、生物学的活性物質を好ましくは約0.01mg〜約10mg、一層好ましくは約0.1mg〜約4mg含有する。“総表面積”とは、構造体の大部分又は全体範囲から計算された表面積を意味する。従って、構造体の特定の形状又は個々の部分の実際の表面積である必要はない。換言すれば、膜厚0.001インチ当たり、約100μg〜約300μgの範囲内の薬剤を器具表面に含有することができる。
【0046】
しかし、構造体12が脈管ステントとして形成されている場合、層18の生物学的活性物質として特に好ましい物質は、ヘパリン、抗炎症ステロイド(例えば、デキサメタゾン及びその誘導体など)及びヘパリンとこのようなステロイドの混合物である。
【0047】
図1を更に参照する。本発明の器具10は、生物学的活性物質の層18上及び生物学的活性物質を含まない表面上に配置された少なくとも一つの多孔質層20も有する。多孔質層20の目的は、器具10が患者の脈管系内に配置されたときに、生物学的活性物質を制御された速度で放出させるためである。多孔質層20の膜厚はこのような所望の放出速度をもたらすように選択される。
【0048】
更に詳細には、多孔質層20は、生物学的活性物質層18上に、好ましくは蒸着法により蒸着されたポリマーから構成されている。この目的のために、プラズマ蒸着法の有用である。好ましくは、層20は、溶剤、触媒又は同様な重合促進剤を全く含有しない蒸気から重合された層である。また、多孔質層20内のポリマーは、硬化剤の作用又は、加熱のような作用、可視光線又は紫外線、放射線、超音波などの適用無しに、蒸気相からの縮合により自動的に重合するポリマーであることが好ましい。多孔質層20内のポリマーは、ポリイミド、パリレン又はパリレン誘導体であることが最も好ましい。
【0049】
最初に蒸着されたパリレン又はパリレン誘導体は、比較的大きな孔を有する繊維状メッシュに似た網状組織を形成するものと思われる。更に蒸着されるにつれて、多孔質層20は厚くなるばかりか、パリレン又はパリレン誘導体は先に形成された孔内に蒸着され、現存する孔を小さくする。従って、パリレン又はパリレン誘導体の蒸着を入念に、かつ正確に制御することにより、生物学的活性物質のすくなくとも一つの層18からの物質の放出速度を精密に制御することができる。このため、生物学的活性物質は、多孔質層20内又はこれ全体に分散されるよりもむしろ、少なくとも一つの多孔質層20の下部に存在する。しかし、多孔質層20は、器具10の配置(例えば、カテーテルにより、患者の脈管系又は適当な部位への挿入)中に、生物学的活性物質層18も保護する。
【0050】
図1に示されるように、本発明の器具10は、構造体12と生物学的活性物質の少なくとも一つの層との間に配置された少なくとも一つの追加被覆層16も更に有することができる。追加被覆層16は単なる医薬用プライマーであることもできるが、追加被覆層16は、少なくとも一つの多孔質層20と同じポリマーから構成されていることが好ましい。しかし、追加被覆層16は、少なくとも一つの多孔質層20よりも低孔性であることが好ましく、概ね非孔質であることが一層好ましい。“概ね非孔質”とは、追加被覆層16が、構造体12の基材14と、使用中に器具10が暴露される血液との間の重大な相互作用を防止するのに十分なほど不透過性であることを意味する。概ね非孔質である追加被覆層16の使用により、前記のように、有毒又は有害な基材14の使用を可能にする。
【0051】
しかし、構造体12の基材14が生体適合性であったとしても、概ね非孔質の被覆層16を使用することにより、基材14を血液から隔離することが好ましい。
【0052】
本発明で使用できるその他のポリマー系は、好ましくは、少なくとも2個の架橋性C−C(炭素−炭素)二重結合を有し、大気圧で100℃以上の沸点と、約100〜1500の範囲内の分子量を有し、高分子量付加重合体を容易に生成することができる非気体状付加重合性エチレン系不飽和化合物である、液体モノマーであるような光重合性モノマーから誘導されるポリマー類などである。
【0053】
更に好ましくは、このモノマーは、分子1個当たり2個以上のアクリレート又はメタクリレート基を含有する付加光重合性ポリエチレン系不飽和アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル若しくはこれらの混合物である。このような多官能性アクリレートへの具体例は、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロプロパントリアクリレート、トリメチロプロパントリメタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート及びジエチレングリコールジメタクリレートなどである。
【0054】
特に有用なモノマーの具体例は、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート及び2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどである。N−メチロールメタアクリルアミドブチルエーテルのような少量の(メタ)アクリル酸のアミドも好適であり、N−ビニルピロリドンのようなN−ビニル化合物、オレイン酸ビニルのような脂肪族モノカルボン酸のビニルエステル、ブタンジオール−1,4−ジビニルエーテルのようなジオールのビニルエーテル、アリルエーテル及びアリルエステルなどの好適である。ブタンジール−1,4−ジグリシジルエーテル又はビスフェノールAジグリシジルエーテルのようなジ−又はポリエポキシドと(メタ)アクリル酸との反応生成物のようなその他のモノマーも使用できる。光重合性液体分散媒体の特性は、モノマー又はモノマー混合物を適当に選択することにより、特定の目的に適するように改変することができる。
【0055】
その他の有用なポリマー系は、生体適合性であり、ステントが移植される時の脈管壁に対する刺激を最小にするポリマーである。このポリマーは、所望の放出速度又は所望のポリマー安定度に応じて、生体安定性又は生体吸収性ポリマーの何れかであることができるが、本発明の実施態様では、生体吸収性ポリマーが好ましい。なぜなら、生体吸収性ポリマーは、生体安定性ポリマーと異なり、移植後長期間にわたって存在しないので、悪影響を及ぼす慢性的な局部的反応を起こさないからである。使用可能な生体吸収性ポリマーは、ポリ(L−乳酸)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド・グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート・吉草酸エステル)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(グリコール酸・トリメチレンカーボネート)、ポリリン酸エステル、ポリリン酸エステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、コポリ(エーテル・エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン及び生体分子(例えば、フィブリン、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸)などである。また、ポリウレタン、シリコン及びポリエステルのような、比較的低い慢性組織反応を有する生体安定性ポリマーも使用できる。溶解させることができ、かつ、ステント上で硬化又は重合させることができれば、その他のポリマーも使用できる。このようなポリマーは例えば、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−アルファオレフィンコポリマー;アクリル酸ポリマー及びコポリマー、ビニルハロゲン化物ポリマー及びコポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル);ポリビニルエーテル(例えば、ポリビニルメチルエーテル);ポリビニリデンハロゲン化物(例えば、ポリフッ化ビニリデン及びポリ塩化ビニリデン);ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン;芳香族ポリビニル(例えば、ポリスチレン)、ポリビニルエステル(例えば、ポリビニルアセテート);ビニルモノマー相互間及びオレフィンとのコポリマー(例えば、エチレン・メチルメタクリレートコポリマー、アクリロニトリル・スチレンコポリマー、ABS樹脂及びエチレン・ビニルアセテートコポリマー);ポリアミド(例えば、ナイロン66及びポリカプロラクタム);アルキド樹脂、ポリカーボネート;ポリオキシメチレン;ポリイミド;ポリエーテル;エポキシ樹脂、ポリウレタン;レイヨン;レイヨントリアセテート;セルロース、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート;セロファン;セルロースニトレート;セルロースプロピオネート;セルロースエーテル;及びカルボキシメチルセルロースなどである。
【0056】
プラズマ蒸着法及び気相蒸着法はステント表面に様々な被覆を付着させるための好ましい方法であるが、その他の方法も使用できる。例えば、ポリマー溶液をステントに塗布し、溶剤を蒸発させ、これにより、ステント表面にポリマーと治療用物質の被膜を形成させることができる。一般的に、この溶液をステントに噴霧するか又は溶液中にステントを浸漬することにより、溶液をステントに塗布することができる。浸漬塗布又は噴霧塗布の何れかを選択するかは、基本的に溶液の粘度及び表面張力に左右されるが、市販のエアブラシのような微細噴霧装置による噴霧塗布は、最高の均一性を有する被覆を形成し、かつ、ステントに塗布されるべき塗料の塗布量を厳密に制御することができることが発見された。
【0057】
噴霧又は浸漬の何れかの方法により塗布された被覆においても、優れた被膜均一性と、ステントに塗布される治療用物質の量の厳密な制御性を得るために、一般的に、複数の塗布工程を行うことが望ましい。
【0058】
生物学的活性物質の層18がヘパリンのような比較的易溶性の物質を含有する場合、及び少なくとも一つの多孔質層20がパリレン又はパリレン誘導体から構成されている場合、少なくとも一つの多孔質層20の膜厚は、約5,000〜250,000オングストロームの範囲内であることが好ましく、約5,000〜100,000オングストロームの範囲内が一層好ましく、約50,000オングストロームが最も好ましい。少なくとも一つの追加被覆層16がパリレン又はパリレン誘導体から構成されている場合、少なくとも一つの追加被覆層16の膜厚は、約50,000〜500,000オングストロームの範囲内であることが好ましく、約100,000〜500,000オングストロームの範囲内が一層好ましく、約200,000オングストロームが最も好ましい。
【0059】
生物学的活性物質の少なくとも一つの層18が、ヘパリンのような比較的易溶性の物質を含有する場合、少なくとも一つの層18は、構造体12の総表面積の1cm2当たり、生物学的活性物質を総量で約0.1〜4mg含有することが好ましい。この配合量により、脈管ステントを介する典型的な血流下で、1日当たり、望ましくは0.1〜0.5mg/cm2、好ましくは、約0.25mg/cm2のヘパリン放出速度(試験管内測定値)がもたらされる。デキサメタゾンの溶解度は、ヘパリンを添加することにより又は添加せずに、所望の通りに調節することができる。例えば、ヘパリンを、デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩のような比較的易溶性の1種類以上の誘導体を混合することにより調節することができる。
【0060】
図11は、被覆層16が、構造体12の基材14の外面に直接塗布されている、本発明の別の実施態様の器具10を示す。この構成では、被覆層16は前記のような非孔質被覆層であることが好ましい。被覆層16がパリレン誘導体からなる場合、非孔質被覆層16の膜厚は、約50,000〜500,000オングストロームの範囲内であることが好ましく、約100,000〜500,000オングストロームの範囲内が一層好ましく、約200,000オングストロームが最も好ましい。本発明のこの実施態様では、非孔質被覆層16は吸着剤であることもできる。吸着剤とは、Dorland´s Illustrated Medical Dictionaey 26th Edition by W.B.Saunders Co.,Philadelphia,PAに示されているように、その表面にその他の物質又は粒子を引きつける薬剤として定義される。その後、生物学的活性物質18を被覆層16の表面に結合させる。追加被覆層20を生物学的活性物質層18の上面に塗布することができる。別法として、塗料層及び同一又は異なる生物学的活性物質を交互に、生物学的活性物質層18の表面に塗布することもできる。しかし、本発明のこの特別な実施態様では、構造体12の外面は生物学的活性物質層18である。
【0061】
図11に示されるような本発明の別の実施態様では、被覆層16は、生物学的活性物質が結合された、吸着層及び/又は吸収層と見做すことができる。具体例として、器具10はステンレススチールGR II(登録商標)ステントである。この場合、構造体12のステンレススチール基材14はポリマー、特に、パリレンが塗布される。このパリレンの吸着ポリマー層16の膜厚は、約230,000オングストロームである。抗血小板GP IIb/IIIa抗体(AZI)の生物学的活性物質層18は、吸着ポリマー層16上に受動的に添加される。ポリマー被覆ステンレススチールステントを、37℃のAZ1抗体の緩衝水溶液(1mg/ml,pH=7.2)に約24時間浸漬させた。AZ1はモノクローナル抗ウサギ血小板グリコプロテイン(GP)IIb/IIIa抗体である。放射性同位元素で標識されたAZ1を使用すすることにより、ステントの表面積1mm2当たり、約0.02μg(3x20mmのGR II(登録商標)ステントの場合、総量で約2μg)の抗体が添加されたことが確認された。また、試験管内流動システム(10ml/min,1%BSAのPBS溶液)において、約10日間の灌流後でも、ステントに添加された抗体の約半量が残存したことも確認された。
【0062】
ステントに薬物が添加される機構は、ポリマー層の表面への吸着及び/又はポリマーへの吸収によるものと思われる。
【0063】
セルロース被覆ステンレススチールステントへの、同様なAZ1の添加及び放出に関する先行研究では、ウサギによる深部動脈損傷モデルにおいて、血小板凝集の阻害と、血栓形成速度の低下が認められた。(Aggarwal et al.,Antithrombotic Potential of Polymer−Coated Stent Eluting Platelet Glycoprote in IIb/IIIa Receptor Antibody,American Heart Association Circulation Vol.94,No.12,December 15,1996,pp3311−3317参照。)
【0064】
別の実施例では、生物学的活性物質層18として、c7E3 Fabをポリマー被覆層16に結合させた。生物学的活性物質c7E3 Fabは、血小板の凝集を防止するために、血小板上のGP IIb/IIIaインテグリンに作用するキメラモノクローナル抗体である。この抗体又は受容体ブロッカーは、冠動脈血管形成術中の血栓症を防止するために、ヒトの静脈内で使用することができる。この受容体ブロッカーは、Eli Lilly,Indianapolis,INから市販されているReoPro(登録商標)としても知られている。抗血小板GP IIb/IIIa抗体(c7E3 Fab)の生物学的活性物質層18は吸着ポリマー層16に受動的に添加される。ポリマー被覆ステンレススチールステントを、37℃のc7E3 Fab抗体の緩衝水溶液(1mg/ml,pH=7.2)に約24時間浸漬させた。c7E3 Fabはヒトの血小板血栓の阻害薬である。放射性同位元素で標識されたc7E3 Fabを使用することにより、ステントの表面積1mm2当たり、約0.010μg(3x20mmのGR II(登録商標)ステントの場合、総量で約10μg)の抗体が添加されたことが確認された。また、試験管内流動システム(10ml/min,1%BSAのPBS溶液)において、約10日間の灌流後でも、ステントに添加された抗体の約半量が残存したことも確認された。
【0065】
図12は、図11の器具10の別の実施態様の断面図である。この実施態様では、先ず、パリレン接着促進層30を、構造体12のステンレススチール基材14に塗布する。例えば、接着促進層30は、膜厚が例えば、0.5〜5,000オングストローム、好ましくは2〜50オングストロームの範囲内のシランの薄膜である。このシラン接着促進層は、ガンマ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランを含有するA−174シランであることが好ましい。これは、Specialty Coating Systems Inc.,Indianapolis,INから市販されている。基材14の外面を形成する場合、先ず、この外面をイソプロピルアルコールで清浄化する。次いで、ステントをシラン内に浸漬し、基材の外面にシランの極く薄い膜を塗布する。基材14の外面の別の形成方法はプラズマエッチング及びグリットブラスト仕上などである。形成方法は、先ず基材の外面をイソプロピルアルコールで清浄化し、基材の外面をプラズマエッチングし、そして、プラズマエッチングされた表面にシランを塗布することからなる。グリットブラスト仕上の場合、基材の外面をグリットブラスト仕上し、次いで、基材の外面をイソプロピルアルコールで清浄化し、この清浄化されたグリットブラスト仕上面にシランを塗布する。
【0066】
図2に示されるように、本発明の器具10は生物学的活性物質の単一層18の包含だけに限定されない。例えば、器具10は、構造体12の上に配置された生物学的活性物質の第2の層22を有することができる。第1層と第2層が中間多孔質層24無しに器具10の同じ面に配置されるということさえなければ、第2層22の生物学的活性物質は、必ずしも必要ではないが、第1の生物学的活性物質層18の生物学的活性物質と異なることができる。層18及び層22で異なる生物学的活性物質を使用することにより、器具10は複数の治療機能を果たすことができる。
【0067】
本発明の器具10は、生物学的活性物質の層18と層22との間に配置されたポリマーの追加多孔質層24を更に有することができる。繰り返すが、生物学的活性物質18は構造体12の一方の面上に存在する。他方の面は生物学的活性物質を有しないこともできるし、あるいは、1種類以上の異なる生物学的活性物質を有することもできる。追加多孔質層24は、層18及び層22における生物学的活性物質を異なる放出速度で放出させることができる。同時に又は別法として、器具10は、互いに異なり、かつ、異なる溶解度を有する複数の生物学的活性物質を2つの層18及び層22で使用することもできる。このような場合、高溶解度の生物学的活性物質を含有する層18上に低溶解度の生物学的活性物質を含有する層22を配置することが好都合であり、しかも好ましい。別法として、生物学的活性物質18は、図8〜10に示されるように、ステント表面内に発生する孔、窪み、溝など内に含有させることもできる。これについては、下記において更に詳細に説明する。
【0068】
例えば、器具10の構造体12が脈管ステントとして形成されている場合、少なくとも一つの層18は比較的高溶解度のヘパリンを含有し、そして、第2の層22は比較的低溶解度のデキサメタゾンを含有することが好都合である。
【0069】
予期せずに、ヘパリンはデキサメタゾンの放出を促進し、ヘパリンを使用しない場合のデキサメタゾン放出速度よりも何倍も高いデキサメタゾン放出速度をもたらす。ヘパリンの放出速度も低下されるが、デキサメタゾン放出速度の増大に比べたら、低下の程度はさほど劇的ではない。更に詳細には、デキサメタゾンそれ自体が、前記のような寸法を有する多孔質層20の下部に配設される場合、その放出速度は無視可能である。多孔質層20の膜厚が1/10以下にまで低下されたときだけ、適正な放出速度が得られる。これに対して、デキサメタゾンの層22が、ヘパリンの層18の上で、かつ、多孔質パリレン層20の下部に配設される場合、デキサメタゾンは約1〜10μg/cm2/日の所望の速度で放出させることができる。更に、全く予期せずに、デキサメタゾンのこの高放出速度は、全部のヘパリンが層18から放出された後でさえも、維持されるものと思われる。
【0070】
生物学的活性物質層18及び/又は22は、多孔質層20及び/又は24の塗布と無関係に、器具10に塗布される。器具10を患者の脈管系に挿入する前に、層18及び/又は22からの生物学的活性物質が多孔質層20及び/又は24への混合は予期しないものであり、単なる偶然である。この現象により、生物学的活性物質をポリマー層に単に分散させる場合よりも、生物学的活性物質の放出速度を一層正確に制御することができる。
【0071】
器具10は、2層以上の生物学的活性物質層18及び22が存在する場合、追加の多孔質層24を有する必要はない。図3に示されるように、層18及び層22は、多孔質層により分離されていなくてもよいが、互いの間に直接挿入することもできる。この実施態様でも、比較的低溶解度の生物学的活性物質を含有する層22を、比較的高溶解度の生物学的活性物質を含有する層18の上に配置させることが好ましい。
【0072】
追加多孔質層24の存在又は不存在に拘わらず、層18及び22は、構造体12の総表面積の1cm2当たり、ヘパリン及びデキサメタゾンをそれぞれ約0.05〜2.0mg含有することが好ましい。従って、構造体12上の層18及び22内に配置される生物学的活性物質の総量は、約0.1〜10mg/cm2の範囲内であることが好ましい。
【0073】
デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩のような幾つかのデキサメタゾン誘導体は、デキサメタゾン自体よりも概ね高い溶解性を有する。本発明の器具10における生物学的活性物質として高溶解性デキサメタゾン誘導体が使用される場合、少なくとも一つの多孔質層20(及び追加多孔質層20)の膜厚はこれに従って調整しなければならない。
【0074】
前記のような器具10の特定構造は、様々な方法で特定の用途に適合させることができる。例えば、器具10は、同一又は異なる生物学的活性物質の層を更に有することもできる。これらの生物学的活性物質の追加層は、便宜的に又は所望により、追加多孔質層により分離させることもできるし、又は、分離させなくてもよい。別法として、追加多孔質層は、幾つかの追加生物学的活性物質層だけを分離することもできる。更に、一つの生物学的活性物質を、器具10の構造体12の或る部分に配置させ、そして、別の生物学的活性物質を器具10の構造体12の別の部分に配置させることができる。
【0075】
別法として、器具10は追加被覆層16を全く有しなくてもよい。このような構造は図4に示される。図4において、生物学的活性物質18は構造体12の基材14の上面に直接配置されている。このような場合、基材14の表面処理又は表面活性化を行い、特に、少なくとも一つの多孔質層20の付着前に、基材14上への生物学的活性物質の付着又は接着を促進させることが特に好ましい。表面処理及び表面活性化は、生物学的活性物質の放出速度を選択的に変更させることもできる。このような処理は、基材14上への追加被覆層16(存在すれば)の付着又は接着を促進させるためにも使用できる。追加被覆層16自体又は、第2又は追加多孔質層24自体は、生物学的活性物質層18の付着又は接着を促進させるために、又は生物学的活性物質の放出速度を更に制御するために、同様に処理することができる。
【0076】
表面処理の有用な方法は、清浄化;エッチング、孔あけ、切削又は研磨などのような物理的変性;及び、溶剤処理、下塗の塗布、表面活性剤の塗布、プラズマ処理、イオン衝撃及び共有結合などのような化学的変性などのような様々な方法のうちの何れかを包含することができる。
【0077】
追加被覆層16の上面に生物学的活性物質層18を付着させる前に、例えば、パリレンからなる追加被覆層16をプラズマ処理することが特に有用であることが発見された。プラズマ処理は、生物学的活性物質の接着力を高め、付着させることができる生物学的活性物質の量を増大させ、また、生物学的活性物質を一層均一な層状に堆積させることができる。実際、ヘパリンのような吸湿性薬剤を、疎水性で難湿潤性の未変性パリレン表面へ付着させることは非常に困難である。しかし、プラズマ処理により、パリレン表面を湿潤性にし、ヘパリンをパリレン表面へ容易に付着させることを可能にする。
【0078】
多孔質層20及び24の何れも、前記の何れかの方法により表面処理し、生物学的活性物質の放出速度を変化させ、及び/又は、そうでなければ、層の表面の生体適合性を改善させることができる。例えば、ポリエチレンオキシド、ホスファチジルクロリン又は共有結合した生物学的活性物質(例えば、共有結合したヘパリン)の上塗を層20及び/又は24へ塗布することにより、これらの層の表面を一層血液適合性にする。同様に、層20及び/又は24に対するプラズマ処理又はヒドロゲル塗料の塗布により、表面エネルギーを変化させることができ、好ましくは、20〜30dyne/cmの範囲内の表面エネルギーをもたらし、これにより、これらの表面を一層生体適合性にすることができる。
【0079】
図5を参照する。図5は、(a)多孔質層20及び24の何れか一方の層と(b)他方の多孔質層20及び24、追加被覆層16及び基材14の何れか又は全てとの間に、機械的結合又はコネクタ26が配設されている器具10の実施態様を示す。コネクタ26は層16、20及び/又は24を互いに、及び/又は基材14へしっかりと固定する。コネクタ26は、特に、生物学的活性物質層18及び/又は20が患者体内へ全部放出された後に、器具10への構造的保全性を付与する。
【0080】
単純化のために、図5では、コネクタ26は、単一の多孔質層20を基材14へ固定させる、基材14の複数の突起として図示されている。コネクタ26は、生物学的活性物質層18を介して多孔質層20から基材14へ交互に延ばすことができる。何れの場合も、生物学的活性物質の単一層18はコネクタ26により幾つかの区域に分割され、多孔質層20と基材14との間に配置される。コネクタは、異なる生物学的活性物質を器具表面の異なる領域へ分割する機能も発揮することができる。
【0081】
コネクタ26は様々な方法で配設できる。例えば、コネクタ26は、構造体12を最初に形成又は成型する際に、基材14に対して単一片として形成することができる。別法として、コネクタ26は、現存の構造体12に追加される、橋、支柱、ピン又は間柱などのような別個の要素として形成することもできる。また、コネクタ26は、基材14上の、層成ランド、肩、プラトー、ポッド又は皿状窪地などとして形成することもできる。別法として、複数のコネクタ26の望ましい位置間の基材14の一部分を、エッチング、機械研磨などの方法により除去し、これらの間に生物学的活性物質層18を配設することもできる。コネクタ26は、先に塗布された生物学的活性物質層18の一部分をぬぐい落とすか又はエッチング除去することにより、基材14に向かって下方向に延びるように形成し、多孔質層20を、基材14の裸部分に直接蒸着又はプラズマ蒸着することにより配設させることもできる。多孔質層20への直接接続のために、基材14の一部を露出させるその他の方法は当業者に周知である。
【0082】
図6A、図6B及び図7に示されるような、別の好ましい実施態様では、図6Aにおいて構造体12を構成する基材14の一方の表面上に生物学的活性物質18が配置されている。図7は、コイル状にされる前の平坦又は平面状態のステント10を示す。図7には、ステント10の最外面に塗布された多孔質層20が図示されている。図6A及び図6Bは、図7の6−6線に沿った断面図である。図6Aにおいて、基材14の一方の表面上に配置された生物学的活性物質18は、種々の異なる治療薬及び/又は診断薬である。例えば、器具10は、タモキシフェンシトレート又はTaxol(登録商標)のような化学療法剤を腫瘍付近に投与するか、又は腫瘍に直接投与するために、患者の体内に配置されるステントなどである。多孔質層20は、生物学的活性物質18上に配置され、平滑面を形成すると共に、生物学的活性物質18の正確に制御された放出を可能にする。更に図6Aに示されるように、器具10の反対側の面には例えば、ヘパリン18’が多孔質層20へ共有結合されている。特に、抗血栓作用及び血液適合性をもたらすために、この面は例えば、血管の管腔に面していることが好ましい。前記のように、第3の、異なる生物学的活性物質(図示されていない)を、第1の生物学的活性物質18と反対側の基材14上及び共有結合ヘパリン又はその他の生物学的活性物質(例えば、その他の共有結合生物学的活性物質)と同じ基材14側に配置し、多孔質層20により分離することもできる。
【0083】
図6Aに示された実施態様の変形例を図6Bに示す。図6Bにおいて、2種類の生物学的活性物質18及び18’が構造体12の基材14の同じ面上に配置されている。多孔質層20が、生物学的活性物質18及び18’の他、基材14の生物学的活性物質不存在面上に配設されている。この実施態様は、器具10の特定面が暴露されている生体組織に2種類の薬剤(例えば、化学療法剤及び抗ウイルス剤)を投与することが望ましいような事例を示す。更に、生物学的活性物質が存在しない器具の反対面は、1種類以上の生物学的活性物質又は治療薬(例えば、抗血栓薬)を配置するのに使用できる。
【0084】
前記のように、複数の生物学的活性物質及び多孔質層を器具10に塗布することができる。この場合、制限要素は、器具の全体厚さ、複数層の接着力などである。
【0085】
本発明の更に別の実施態様では、本発明の器具は、生物学的活性物質を含有するための開口部を器具内に具備する。この実施態様は、図8、図9、図10A、図10B、図10C及び図10Dに図示されている。図8は図7のステントのアームを示す。このアームは、孔28を有し、生物学的活性物質はこの孔内に含有される。図9は、図8の9−9線に沿ったステントの断面を示す。生物学的活性物質18は孔28内に含有される。この場合、基材14は被覆層16を有し、更に、多孔質層20は、生物学的活性物質をこの層を介して拡散させるための最外層を形成する。別の実施態様では、生物学的活性物質18を含有させることができる穴28’を基材14中に切削、エッチング又は型押成形することもできる。この実施態様は、図10A、図10B、図10C及び図10Dに図示されている。これらの図は、図8の10−10線に沿った断面図である。穴28’は、医療器具の基材14の表面に設けられたスロット又は溝の形状をとることもできる。穴28’をこのような形状にすると、放出されるべき生物学的活性物質18の全量の他、その放出速度を一層正確に制御できるという効果が得られる。例えば、図10Dに示されるようなV字形の穴28’は少量の生物学的活性物質しか含有できず、しかも、図10Bに示されるような一層均一な直線的放出速度を有する矩形状の穴28’に比べて、幾何学的速度で生物学的活性物質を放出する。
【0086】
前記の孔、穴、スロット、溝などは様々な手段により器具10の構造体中に形成させることができる。例えば、このような手段は、レーザ、電子ビームマシニングなどを使用することからなる穿孔または切削あるいは、ホトレジスト加工処理法を使用する及び所望の開口部をエッチングするなどの方法である。
【0087】
器具10の表面に塗布することができる前記の全ての生物学的活性物質は、本発明のこれらの実施態様における開口部内に包含させて使用することができる。同様に、例えば、ヘパリンを図9に示される器具の一方の面に共有結合させることができるという、本発明の他の実施態様に関して前記に説明したように、生物学的活性物質層及び多孔質層を器具の外面に塗布し、層成させることもできる。
【0088】
本発明による器具10の製造方法は前記の説明により理解できるであろう。その最も簡単な形では、本発明の方法は、構造体12上に生物学的活性物質の少なくとも一つの層を付着させ、続いて、構造体12の一方の面上の少なくとも一つの生物学的活性物質層18の上に、好ましくは蒸着又はプラズマ蒸着により、少なくとも一つの多孔質層20を付着させることからなる。少なくとも一つの多孔質層20は生体適合性ポリマーからなり、生物学的活性物質を制御された速度で放出するのに適した厚さを有する。好ましくは、少なくとも一つの追加被覆層16を最初に、直接蒸着することにより、構造体12の基材14上に配置させる。このような蒸着は、ジ−p−キシレン又はその誘導体を生成又は入手し、このジ−p−キシレン又はその誘導体を昇華又は熱分解し、単量体のp−キシレン又は単量体誘導体を生成し、そして、この単量体を基材14上で同時に縮合及び重合させることにより行われる。蒸着工程は真空中で行われる。基材14は、蒸着工程中は、室温又は室温付近の温度に維持される。蒸着は、ポリマーのための溶剤又は触媒の不存在下で、また、重合を促進させるための如何なる作用も使用すること無く行われる。この蒸着工程を実施するのに好適な誘導体の一例は、ジクロロ−p−キシレンである。被覆層16を形成するために、パリレン又はパリレン誘導体は前記のような膜厚で塗布されることが好ましい。この被覆層16は、概ね非孔質であるが、いずれの場合も、塗布される少なくとも一つの多孔質層20よりも低孔質である。被覆層16の組成により必要とされる場合、層16は、例えば、前記のようなプラズマ処理などの適当な方法で表面処理する。
【0089】
次いで、所望の生物学的活性物質の少なくとも一つの層18を構造体12の一方の面に、特に、追加被覆層上に塗布する。この塗布工程は様々な常用の方法を用いて実施することができる。例えば、浸漬塗り、ロール塗り、ハケ塗り又は噴霧塗りにより生物学的活性物質の液体混合物を追加被覆層16上に塗布するか、又は、生物学的活性物質の液体混合物又は乾燥混合物を静電付着させるか若しくはその他の適当な方法により塗布することができる。異なる生物学的活性物質を器具の異なる区域又は面に塗布することもできる。
【0090】
生物学的活性物質と揮発性液体との混合物を構造体に塗布し、次いで、適当な方法(例えば、蒸発させるなどの方法)により揮発性液体を除去することが特に好都合である。ヘパリン及び/又はデキサメタゾン又はその誘導体が生物学的活性物質として使用される場合、揮発性液体は好ましくはエチルアルコールである。生物学的活性物質は前記のような量で塗布されることが好ましい。
【0091】
構造体12上に生物学的活性物質層18を付着させるその他の方法も同等に有用である。しかし、塗布方法に拘わらず、重要なことは、多孔質層20が生物学的活性物質層上に付着されるまで、生物学的活性物質が適所に物理的に保持されていさえすればよいということである。これにより、生物学的活性物質を他の器具上に保持するためにしばしば使用される、担体、界面活性剤、化学結合材又はその他の適当な方法などの使用を避けることができる。このような方法で使用される添加剤は有毒なことがあり、また、添加剤あるいは方法は、生物学的活性物質を改変したり、劣化させることがあり、結果的に、その効力を低下させ、更にひどい場合には、それ自体が有毒なこともある。それにも拘わらず、所望により、本発明の生物学的活性物質層18を付着するために、これらのその他の方法を使用することもできる。
【0092】
言うまでもなく、生物学的活性物質は構造体12の一方の面上に、平滑層として又は粒子層として付着させることもできる。更に、複数の異なる生物学的活性物質を、器具の異なる面が異なる生物学的活性物質を含有するように、付着させることもできる。後者の場合、粒径は、例えば、最上部の多孔質被覆20の平滑性、器具10のプロファイル、生物学的活性物質が付着される表面積、生物学的活性物質の放出速度、生物学的活性物質層18内における隆起又は不規則性形成、生物学的活性物質層18の接着力の均一性及び強度などの器具10の性能又は特性に影響を及ぼすことがある。例えば、微粉砕された生物学的活性物質、すなわち、一般的に、直径が10μm未満の微小な粒径にまで加工処理された生物学的活性物質を使用することが有用である。しかし、生物学的活性物質は、微小カプセル化粒子、リポソーム分散液、微小な担体粒子への吸着体又は吸収体などとして付着させることもできる。
【0093】
本発明による更に別の実施態様では、生物学的活性物質は、特定の幾何学パターンで構造体12の一方の面上に配置させることもできる。例えば、ステントの先端又はアームには生物学的活性物質を塗布せず、生物学的活性物質を平行な線に沿って塗布する、特に、2種類以上の生物学的活性物質を同じ表面に塗布することもできる。何れにしろ、生物学的活性物質層18が適所に付着されたら、その後、少なくとも一つの多孔質層20を、少なくとも一つの追加被覆層16の塗布方法と同じ方法で、少なくとも一つの生物学的活性物質層18上に塗布する。しかし、パリレン又はパリレン誘導体のようなポリマーを、少なくとも一つの多孔質層20を形成するために、前記のような薄い膜厚で塗布する。
【0094】
第2の生物学的活性物質層22又は追加多孔質層24のようなその他の層を適当な順序で、かつ、前記の方法と同じ方法で塗布する。この方法の各工程は、前記のような生物学的活性物質、構造体及び基材を用いて実施することが好ましい。
【0095】
言うまでもなく、ポリイミドを、パリレン及びそのパリレン誘導体について前記した方法と同じ方法で蒸着することにより、多孔質層及び追加被覆層20、24及び/又は16の何れか又は全てとして付着させることもできる。ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレンオキシド)のようなポリマー、シリコン、又はメタン、テトラフルオロエチレン又はテトラメチルジシロキサンのポリマーをその他の物体上にプラズマ蒸着する技術は周知であり、これらの技術は本発明を実施するのに有用である。
【0096】
生物学的活性物質の放出速度を制御する別の方法は、1種類以上の生物学的活性物質からなる器具10の表面上に、多孔質層20を付着させる前に、単分散高分子粒子(即ち、ポロゲン(porogen)と呼ばれる)を付着させることからなる。多孔質層20を付着させ、そして、硬化させた後、ポロゲンを適当な溶剤で溶解除去し、外側の被覆層内に空洞又は孔を残置させ、下部の生物学的活性物質の通過を促進させる。
【0097】
ヒト又は獣類の患者を医学的に治療する際に、本発明の器具10を使用する方法も同様に容易に理解できる。本発明の方法は、従来の方法よりも優れている。本発明の方法は、移植可能な脈管器具10を患者の体内へ挿入することからなる。この器具10は、患者の脈管系へ挿入するのに適した構造体12からなる。この構造体12は基材14から構成されている。本発明による方法は、生物学的活性物質の少なくとも一つの層18を構造体の一方の面上に付着させ、続いて、少なくとも一つの多孔質層20を少なくとも一つの生物学的活性物質層18上に付着させることからなる予備工程を有する。この多孔質層20は、ポリマーからなり、器具10が患者の脈管系内に配置されたときに、生物学的活性物質を制御された速度で放出するのに適した膜厚を有する。
【0098】
本発明の方法は更に、前記の器具10の製造方法に従って、前記のような器具10の様々な実施態様について、2種類の付着工程の実施を伴う。更に詳細には、少なくとも一つの多孔質層20の付着工程は、モノマー(単量体)蒸気、好ましくは、溶剤又は触媒を含有しないパリレン又はパリレン誘導体の蒸気から少なくとも一つの層20を重合する工程を含むことができる。この方法はまた、構造体12と少なくとも一つの生物学的活性物質層18との間に少なくとも一つの追加被覆層16を付着する工程を含むこともできる。
【0099】
本発明による治療方法は、患者の脈管系内へ器具10を挿入することにより完了される。少なくとも一つの多孔質層20及び任意の追加多孔質層24は、患者の体内へ制御された速度で、生物学的活性物質を自動的に放出する。
【0100】
医学的治療方法の残りの細部は、本発明の器具10の製造方法について記載した細部とお案じである。従って、簡略化のために、これらの細部についてはここで繰り返し説明する必要は無い。
【0101】
前記の説明を考慮すれば、本発明が、器具内に含まれる1種類以上の生物学的活性物質の放出について正確な制御を為し得る移植可能な医療器具を提供することは明かである。更に、ポリイミド、パリレン、パリレン誘導体又はその他のポリマー層16,20及び/又は24は、その他のポリマー層について必要な厚さに比べて、非常に薄くすることができる。従って、構造体12上の全体的被覆の本体又は大部分は生物学的活性物質からなることができる。これにより、従来の器具により投与されていた量を凌駕する、比較的大量の生物学的活性物質を患者に投与することが可能になる。これら大量の生物学的活性物質を、医療手術の実行中又は実行後に、患者の体内の様々な部位に投与することができるが、PTAにより開放された血管部位へ、抗血栓薬又はその他の薬物を投与することにより、血管の突発性閉鎖及び/又は再狭窄を防止するのに特に有用である。本発明により、短期間及び長期間の双方について、生物学的活性物質の放出速度を入念に制御することができる。最も重要なことは、その他のポリマー被覆技術により起こるかも知れない、生物学的活性物質の分解が避けられることである。
【0102】
本発明の記載された様々な要素が、記載されたように行うために必要な強度と柔軟性を有する限り、これらの要素の構成及び蘇生のその他の詳細は、本発明の効果を達成するための必須要件とはならないものと思われる。これら要素の及び構成のその他の細部の選択は、本明細書の記載を考慮すれば、当業者の能力の範囲内であると思われる。
【0103】
本発明は好ましい実施態様として以下のものを含む。
1. (A) 少なくとも一つの面を有し、基材(14)から構成される、患者の体内へ挿入するのに適した構造体(12)、
(B) 前記構造体(12)の一つの面上に配置された少なくとも一つの被覆層(16)、および
(C) 前記少なくとも一つの被覆層(16)の少なくとも一部分上に配置された生物学的活性物質層(18)を有する医療器具(10)であって、
前記生物学的活性物質層(18)は、前記医療器具(10)の最外層を形成し、
前記被覆層(16)は、前記生物学的活性物質層(18)からの生物学的活性物質の患者の体内への放出を制御することを特徴とする、移植可能な医療器具。
2. 前記被覆層(16)は、非孔質物質又はパリレン誘導体を含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
3. 前記被覆層(16)の膜厚は、50,000〜500,000オングストロームの範囲内であることを特徴とする前記第2項に記載の医療器具。
4. 前記非孔質物質は、230,000オングストロームの膜厚を有する、吸着性物質及び吸収性物質のうちの少なくとも一方であることを特徴とする前記第2項に記載の医療器具。
5. 前記生物学的活性物質層(18)は、抗血小板GP IIb/IIIa抗体を含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
6. 前記生物学的活性物質層(18)は、キメラモノクローナル抗体を含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
7. 前記生物学的活性物質層(18)は、ヘバリン、共有結合ヘバリン又はトロンビン阻害薬、ヒルジン、ヒルログ、アルガトロバン、D−フェニルアラニル−L−ポリ−L−アルギニルクロロメチルケトン、又は抗トロンボン形成薬、又はこれらの混合物;ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤、又は血栓崩壊薬、又はこれらの混合物;フィブリン溶解薬;血管痙攣阻害薬、カルシウムチャンネルブロッカー、硝酸塩、酸化窒素、酸化窒素プロモータ又は血管拡張薬;Hytrin(登録商標)又は抗高血圧薬;抗微生物薬又は抗生物質;アスピリン、チクロピジン、グリコプロテインIIb/IIIa阻害薬又は表面グリコプロテイン受容体の阻害薬あるいは抗血小板薬;コルヒチン又は抗有糸分裂薬又は微細管阻害薬、ジメチルスルホキシド(DMSO)、レチノイド又は抗分泌薬;サイトカラシン又はアクチン阻害薬;又はリモデリング阻害薬;デオキシリボ核酸、アンチセンスヌクレオチド又は分子遺伝介入用の薬剤;メトトレキセイト又は拮抗的阻害薬あるいは抗増殖薬;タモキシフェンシトレート、Taxol(登録商標)又はこの誘導体あるいは抗癌化学療法薬;デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム塩、デキサメタゾン酢酸塩又はデキサメタゾン誘導体あるいは抗炎症ステロイド若しくは非ステロイド性抗炎症薬;サイクロスポリン又は免疫抑制薬;トラピダル(PDGF拮抗薬)、アンギオペブチン(成長ホルモン拮抗薬)、アンギオゲニン、成長因子又は抗成長因子抗体又は成長因子拮抗薬;ドーパミン、ブロモクリプチンメシレート、ベルゴライドメシレート又はドーパミンアゴニスト;60Co(半減期5.3年)、192Ir(半減期73.8日)、32P(半減期14.3日)、111In(半減期68時間)、90Y(半減期64時間)、99mTc(半減期6時間)又は放射線療法薬;沃素含有化合物、臭素含有化合物、金、タンタル、白金、タングステン又はX線不透過剤として機能する重金属;ペプチド、タンパク、酵素、細胞外間質成分、細胞成分又は生物学的薬剤;カプトプリル、エナラプリル又はアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬;アスコルビン酸、α−トコフェロール、超過酸化物不均化酵素、デフェロキサミン、21−アミノステロイド(ラサロイド)又は遊離基掃去薬、鉄キレート化薬又は酸化防止薬;14C、3H、131I、32P又は36Sの放射性同位元素で標識された又は放射性同位元素標識された形の前記の何れかの薬剤;エストロゲン又は性ホルモン;AZT又は抗ポリメラーゼ;アシクロビル、ファムシクロビル、リマンタジン塩酸塩、ガンシクロビルナトリウム、又は抗ウイルス薬;5−アミノレブリン酸、メタ−テトラヒドロキシフェニルクロリン、ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン、テトラメチルヘマトポルフィリン、ローダミン123又は光力学治療薬;Pseudomonasaeruginosa外生毒素に対抗し、A431エビデロモイド癌細胞と反応性のIgG2カッパー(κ)抗体、サボリンに共有結合したノルアドレナリン酵素ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼに対抗するモノクローナル抗体又は抗体を目標とする治療薬;遺伝子治療薬;エナラプリル及びプロドラッグ;又はこれらの何れかの混合物のうちの少なくとも一つを含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
8. (D) 構造体(12)の一方の面上に配置された少なくとも一つの接着促進層(30)を更に有し、
前記被覆層(16)は、前記接着促進層(30)の少なくとも一部分上に配置されていることを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
9. 被覆層と生物学的活性物質層とを交互に、前記生物学的活性物質層(18)の外側層に形成し、最外層が生物学的活性物質層となることを特徴とする前記第1−8項のいずれかに記載の医療器具。
10. 前記生物学的活性物質層(18)は、抗増殖剤を含有することを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
11. 接着促進層(30)を更に有し、
前記接着促進層(30)は、前記構造体(12)に塗布されることを特徴とする前記第1項に記載の医療器具。
12. 前記接着促進層(30)は、シランを含有することを特徴とする前記第11項に記載の医療器具。
13. 前記接着促進層(30)に塗布散れる少なくとも1つの被覆層(16)を有し、
前記被覆層(16)は、パリレン又はパリレン派生物を含有し、
前記生物学的活性物質層(18)は、抗血小板 GP IIb/IIIa抗体を含有することを特徴とする前記第12項に記載の医療器具。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 少なくとも一つの面を有し、基材(14)から構成される、患者の体内へ挿入するのに適した構造体(12)、
(B) 前記構造体(12)の一つの面上に配置された少なくとも一つの被覆層(16)、および
(C) 前記少なくとも一つの被覆層(16)の少なくとも一部分上に配置された生物学的活性物質層(18)を有する医療器具(10)であって、
前記生物学的活性物質層(18)は、前記医療器具(10)の最外層を形成し、
前記被覆層(16)は、前記生物学的活性物質層(18)からの生物学的活性物質の患者の体内への放出を制御することを特徴とする、移植可能な医療器具。
【請求項1】
(A) 少なくとも一つの面を有し、基材(14)から構成される、患者の体内へ挿入するのに適した構造体(12)、
(B) 前記構造体(12)の一つの面上に配置された少なくとも一つの被覆層(16)、および
(C) 前記少なくとも一つの被覆層(16)の少なくとも一部分上に配置された生物学的活性物質層(18)を有する医療器具(10)であって、
前記生物学的活性物質層(18)は、前記医療器具(10)の最外層を形成し、
前記被覆層(16)は、前記生物学的活性物質層(18)からの生物学的活性物質の患者の体内への放出を制御することを特徴とする、移植可能な医療器具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−29668(P2010−29668A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184839(P2009−184839)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願平10−536933の分割
【原出願日】平成10年2月20日(1998.2.20)
【出願人】(502274071)クック インコーポレイテッド (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願平10−536933の分割
【原出願日】平成10年2月20日(1998.2.20)
【出願人】(502274071)クック インコーポレイテッド (50)
【Fターム(参考)】
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