説明

被覆すべき表面を水で前処理した後に液状膜を適用する方法

【解決手段】 本発明の課題は、除去可能な表面保護物の製造方法において、
a)表面を水又は1種類以上の界面活性物質の水性溶液で処理し;
b)処理した表面に(液状で硬化性の)被覆組成物を、水が処理された表面から完全に乾燥してしまう前に塗布し;
c)最高200μmの層厚の硬化した被覆物を生じさせるために、該被覆組成物を硬化させる
ことを特徴とする、上記方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の硬化可能な被覆組成物(いわゆる液状膜とも称する)の適用によって除去可能な表面保護物を製造する方法において、保護すべき表面を水又は界面活性物質の水溶液で処理し、その後に被覆組成物を適用する上記方法に関する。さらに、本発明は、かかる方法において水又は界面活性物質の水溶液を用いることに関する。さらに、この種類の除去可能な表面保護物質にも関する。
【0002】
一般に自動車は製造後に、引っ掻き傷の様な損傷に対して上塗り塗料を保護する表面保護物質を有している。この表面保護物質は購入者に自動車を引き渡す前にはずされる。例えば溶剤で除去しなければならないことで、それが欠点であるワックス被覆物が知られている。さらに、フィルムを貼り付けることも提案されており、この場合には過度に長い時間的負担を伴う。さらに、貼り付けるときに、本来避けるべきである表面の損傷をもたらし得る。このことからドイツ特許出願公開第196 52 728 A1号明細書では、硬化してフィルムになる液体が開示されており、このフィルムは購入者に渡す前に除去される。
【0003】
ドイツ特許第198 54 760 A1号明細書には、塗装された自動車車体の上に除去可能な表面保護物質を造るかゝる方法が開示されている。この場合には、塗装された車体表面に液体が噴霧される。この液体は剥離可能なフィルムに固体化し、それ故にこの様な液状被覆組成物は液状膜とも称されている。ドイツ特許第198 54 760 A1号明細書によれば、被覆するべきでない表面領域に間違って噴霧してしまうのを(オーバースプレー)避けそして縁に綺麗に沿った塗装を達成するために異なる幅の2つの細い扇(ファン)型ノズルを用いて液状膜を塗布する。ドイツ特許第198 54 760 A1号明細書に記載された方法の欠点は以下の通りである:
− 塗布された被覆組成物が不均一な層厚である。この層厚は塗布される道筋の縁部の所が該道筋の中央よりも厚い。
− 扇型ノズルで塗布される道筋の幅が、ノズルから組成物を搬出する圧力に依存して変動する。個々の道筋から緊密なフィルムの大きな面積を保証するためには、扇型ノズルから排出される道筋を互いにオーバーラップして塗布しなければならない。これによって道筋がオーバーラップした領域の塗布されたフィルムの層厚が追加的に増える。
− フィルムの不均一な層厚が不均一な乾燥挙動をもたらす。全ての場所で完全に乾燥したフィルムを得るためには、乾燥条件を生じる最も厚い層厚に合わせる必要がある。これはより高い乾燥温度及び/又はより長い乾燥時間を必要とする。
【0004】
ドイツ特許出願公開第10 2004 018 597 A1号明細書には、道筋方向に沿って液条膜を適用するために、並んでいる円形噴射ノズルの相前後して配置された多数の列(マルチ噴射ノズル)を有する塗布用ヘッドが開示されている。マルチ噴射ノズルの使用は以下の色々な長所をもたらす:
− 多数の液状膜形成噴射ノズルが相並んで同時に噴射する。この噴射ノズルは噴射直後に互いに噴射域境界を不明確にして、液状膜道筋を形成する。該道筋の中央にある噴射ノズルから形成される層厚も該道筋の縁部にある噴射ノズルから形成される層厚も互いに同じであり、すなわち、こうして塗布される道筋の層厚は扇型ノズルを用いた場合よりも道筋幅に亙って均一である。
− マルチ噴射ノズルを用いた場合には塗布された道筋の幅は扇型ノズルを使用した場合よりも材料の圧力に非常に僅かしか影響されない。それ故に緊密なフィルムの大きな面積を被覆するために、個々の道筋をオーバーラップして塗布する必要がない。それ故に扇型ノズルを用いる場合よりも層厚分布が均一である。
【0005】
勿論、マルチ噴射ノズルを用いる場合には以下の欠点を伴う:
− 均一で緊密な道筋を形成するためには個々の相並んで配置された噴射ノズルが互いの噴射域内に噴射液を入り込ませなければならない。それ故に個々のノズル噴射跡(Raupen)は比較的に厚い層厚を有していなければならない。相応して材料経費が扇型ノズルを用いる場合よりも多い。
− 個々の材料噴射跡の十分に厚い層厚を生じるために、比較的に高い材料圧がここでも必要とされる。このことが、マルチ噴射ノズルから比較的に早い速度で材料が放出されそして被覆すべき表面に打ち当たった後に撥ね飛ばさせる。周囲に飛び散る材料小滴が、被覆すべき領域の外の自動車表面を汚す。この汚れは液状膜の乾燥/硬化の後に手で除かなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、マルチ噴射ノズルを用いることに関連する長所を利用することができ方法を提供することである。同時に、マルチ噴射ノズルをこのように使用することに関連する欠点、特にこれに関連する多大な材料費用及びオーバースプレーを回避するべきである。究極的には、僅かな材料費及びこれに対応する薄く除去可能な表面保護体をもたらす方法が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、被覆すべき表面を水又は1種類以上の界面活性物質の水性溶液で処理し;その後で、被覆組成物を塗布することによって、上述の課題が解決されそして従来技術の別の問題点も解決されることが判った。表面、例えば塗装された自動車車体を水又は界面活性剤の水溶液で処理しそしてこの前処理した表面に液状膜を塗布することによって、乾燥した表面に液状膜を適用する場合よりも、既に薄い層厚でも緊密で広がった道筋及び適切な膜が得られる。従って単位面積当たりの材料経費が低減されそしてそれにも係わらず緊密なフィルムが得られる。さらに、材料圧も、被覆物質の撥ね飛びが防止できる程に下げることができる。
【0008】
予備湿潤を行わない本発明に従わない適用方法に比較しての、予備湿潤を伴う本発明の適用方法の本質的な長所は、本発明の方法で達成される、単位面積当たり15〜20%の材料の節約である。
【0009】
確かに、被覆前の予備処理としての、被覆すべき表面の水又は水性洗浄剤での洗浄は公知である。この場合には、表面に被覆物を付着させるのを妨害する汚染物質が除去される。しかし水又は水性洗浄剤は、被覆物質を塗布始める以前に表面から完全に除去されている。
【0010】
従って本発明は、除去可能な表面保護物質を製造する方法において、
a)表面を水又は1種類以上の界面活性物質の水性溶液で処理し;
b)処理した表面に(液状で硬化性の)被覆組成物を、水が処理された表面から完全に乾燥してしまう前に塗布し;そして
c)最高200μmの層厚の硬化した被覆物を生じさせるために、該被覆組成物を硬化させる
ことを特徴とする、上記方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】はb)段階に従う被覆組成物の塗布を図示している。
【図2】は2つの硬化した被覆物を図示しており、右側は本発明に従って製造された被覆物を図示しておりそして左側はa)段階の無い方法に従って得られた被覆物を図示している。そして
【図3】は本発明に従って製造された被覆物の除去を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
有利な一つの実施態様においては、a)段階で表面を水で処理する。該水は場合によっては、水で飽和された空気から表面に凝結させてもよい。凝結による前処理は、生じる水の層圧が均一でそして薄いことから有利である。さらにこの場合、水を噴霧する塗装技術は省くことができる。別の有利な一つの実施態様においては、水又は界面活性物質の水溶液での処理を表面への噴霧によって行ってもよい。
【0013】
一つの別の有利な実施態様においては、段階a)の表面の温度が1℃〜50℃、好ましくは5〜40℃、特に好ましくは10℃〜30℃、中でも15℃〜25℃である。
【0014】
本発明のあらゆる実施態様においては、表面が上塗り塗料で塗装された、自動車の表面であるのが有利である。自動車表面の被覆構造は、例えばカソード浸漬塗料、フィラー、下塗り塗料及び上塗り塗料としての追加的なラッカーよりなる典型的なPKW−車体塗装であるのが有利である。しかしながら下塗り塗料及び透明なクリヤラッカの代わりに着色剤含有の上塗り塗料を使用することも可能である。究極的な上塗り塗料として使用される透明な又は着色剤含有の塗料は、例えば一成分又は二成分のポリウレタン系又はメラミン樹脂/ポリオール系をベースとする塗料がある。上塗り塗料として使用される塗料を調製するために使用されるポリオールはポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール又はポリカルボナートポリオールである。
【0015】
被覆剤組成物の塗布は、段階a)の後25分より短い時間に、段階a)の後好ましくは0.1秒から25分まで、特に好ましくは0.1秒から15分まで、例えば0.1秒から10分まで、又は1秒から1分まで、例えば1秒から45秒まで又は1秒〜30秒まで実施する。
【0016】
被覆組成物は例えばポリマー分散物、特にポリウレタン分散物、中でもポリエステルウレタンの分散物をベースとする水希釈性被覆物質であるのが有利である。
【0017】
被覆組成物は、例えば材料の注ぎかけによって、析出によって、水力的噴霧(空気なし)によって、空気の助けでの水力的噴霧(空気混合)によって、又は空力的噴霧によって塗布する。この目的のためには種々のノズル構造、例えば扇型ノズル、スリット型ノズル及び円形噴霧ノズルを使用することができる。
【0018】
被覆組成物を塗布するときに、各5〜500個のノズル、特に10〜320個のノズル、中でも20〜160個のノズル、例えば40〜80個のノズルの1〜6列の多重噴射ノズルを使用するのが有利である。
【0019】
本発明の方法の場合、予備湿潤を行わない方法に比較して、高い粘度の被覆剤組成物を使用することができる。5〜40、好ましくは10〜35、特に15〜30Pasの粘度範囲が有利である。
【0020】
硬化した被覆物の層厚は40〜170μm、好ましくは50〜160μm、特に好ましくは60〜130μm、中でも70〜120μm、例えば80〜110μ又は90〜100μmである。
【0021】
c)段階での硬化は例えば10℃〜90℃、好ましくは15℃〜80℃、特に好ましくは15℃〜60℃、中でも20℃〜50℃の温度で行うことができる。
【0022】
さらに、本発明は、本発明の方法に従って製造される除去可能な表面保護物にも関する。この表面保護物質は、従って、この表面保護物質は、(硬化した状態で)最高200μmの比較的に薄い層圧であることに特徴があり、これはより多大な費用及びより長い硬化/乾燥時間を伴うとう欠点になる不必要に多量の被覆組成物を使用する必要なしに、(硬化した)表面保護物質を剥がすための十分な機械的強度を保証する。
【0023】
さらに、本発明は、除去可能な表面保護物を製造する方法において、水又は1種類以上の界面活性物質の水性溶液で処理しない方法に比較して必要量の被覆組成物を減少させるために水又は界面活性物質の水性溶液を用いる方法において、水又は界面活性物質の溶液を表面に塗布し、次に処理した表面に被覆組成物を、処理された表面から水が完全に乾燥されてしまう前に塗布することを特徴とする、上記方法にも関する。
【0024】
最後に本発明は、除去可能な表面保護物を製造する方法において、表面の特定の領域の被覆組成物での不所望の被覆(オーバースプレー)を避けるために、水又は界面活性物質の水性溶液を用いる方法において、水又は界面活性物質の溶液を表面に塗布し、次に処理した表面に被覆組成物を、処理された表面から水が完全に乾燥されてしまう前に塗布することを特徴とする、上記方法にも関する。
【0025】
本発明の長所は図1及び図2から明らかである。
図1はb)段階に従う被覆組成物の塗布を図示している。
図2は2つの硬化した被覆物を図示しており、右側は本発明に従って製造された被覆
物を図示しておりそして左側はa)段階の無い方法に従って得られた被覆物を図示している。そして
図3は本発明に従って製造された被覆物の除去を図示している。
【0026】
図1においては、被覆組成物が適当な配量供給装置(ポンプ)によって供給されそして沢山の孔で構成されるノズルを通して搬送されることを実証している。これは、ノズルの出口の後に生じる個々のノズル跡は、表面に衝突したときに一緒になって緊密な膜をもたらす。この場合、個々のノズル跡及び道筋を一緒に流して膜とすることを可能とする一定の過剰圧力が必要とされる。
【0027】
図2は、本発明の方法及びその方法で製造された被覆物の長所を実証している。本発明の目的は、中でも単位面積当たりの被覆組成物の塗布量を減らすことにある。この場合、被覆組成物の塗布されたノズル跡及び道筋が緊密なフィルムを形成していない(左側)。最初の予備湿潤が個々の道筋がまじり込み膜化している(右側)。保護すべき表面が本発明に従って予備湿潤され、このことが後続での液状膜の塗布のときに均一な混じり合いをもたらし、しかも低い塗布圧でそして少ない被覆組成物量でこれをもたらす。
【0028】
図3は、本発明に従って製造された被覆物を本発明の一つの実施態様に従って剥がすことを実証している。この場合、自動車のボンネットから引き剥がす段階を図示している。ポリウレタン分散物をベースとする水希釈可能な一成分被覆組成物を例えば自動車車体のような表面を保存するために塗布した。この組成物は乾燥を(室温で)行った後に機械的及び化学的に耐久性のある保護層(乾燥した液体膜)を形成する。このものは、保護すべき表面と比較的に弱い接着力でしか結合していないので、手で除去する(剥がす)ことができる。乾燥した組成物は一般に、自動車を購入者に引き渡す直前に表面から単に剥がすことによって除かれる。これで直ぐ下の上塗りラッカーが露出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除去可能な表面保護物の製造方法において、
a)表面を水又は1種類以上の界面活性物質の水性溶液で処理し;
b)処理した表面に(液状で硬化性の)被覆組成物を、水が処理された表面から完全に乾燥してしまう前に塗布し;
c)最高200μmの層厚の硬化した被覆物を生じさせるために、該被覆組成物を硬化させる
ことを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
a)段階で表面を水で処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水を凝結させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水又は界面活性物質の水溶液を表面に噴霧する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
段階a)の表面温度が50℃まで、例えば1℃〜50℃、好ましくは5〜40℃、特に好ましくは10℃〜30℃、中でも15℃〜25℃である、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
表面が上塗り塗料で塗装された、自動車の表面である、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
段階b)を段階a)の後25分より短い時間で実施し、好ましくは段階a)の後0.1秒から25分まで、特に好ましくは0.1秒から15分まで、例えば0.1秒から10分まで、又は1秒から1分まで、例えば1秒から45秒まで又は1秒から30秒まで実施する、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
上塗り塗料が一成分又は二成分のポリウレタン系又はメラミン樹脂/ポリオール系をベースとする上塗り塗料から選択され、特に有利なポリオールがポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール又はポリカルボナートポリオールである、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
被覆組成物を例えばポリマー分散物、特にポリウレタン分散物、中でもポリエステルウレタンの分散物をベースとする水希釈性被覆物質から選択する、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
被覆組成物を、各5〜500個のノズル、特に10〜320個のノズル、中でも20〜160個のノズル、例えば40〜80個のノズルの1〜6列の多重噴射ノズルから塗布する、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
硬化した被覆物の層厚が40〜170μm、好ましくは50〜160μm、特に好ましくは60〜130μm、中でも70〜120μm、例えば80〜110μ又は90〜100μmである、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
c)段階での硬化を高温で実施する、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法に従って製造された除去可能な表面保護物。
【請求項14】
除去可能な表面保護物を製造する方法において、水又は界面活性物質の水性溶液で処理しない方法に比較して必要量の被覆組成物を減少させるために水又は界面活性物質の水性溶液を用いる方法において、水又は界面活性物質の溶液を表面に塗布し、次に処理した表面に被覆組成物を、処理された表面から水が完全に乾燥されてしまう前に塗布することを特徴とする、上記方法。
【請求項15】
除去可能な表面保護物を製造する方法において、表面の特定の領域の被覆組成物での不所望の被覆(オーバースプレー)を避けるために、水又は界面活性物質の水性溶液を用いる方法において、水又は界面活性物質の溶液を表面に塗布し、次に処理した表面に被覆組成物を、処理された表面から水が完全に乾燥されてしまう前に塗布することを特徴とする、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−513000(P2010−513000A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541787(P2009−541787)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008505
【国際公開番号】WO2008/083733
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509174509)マンキーヴィクツ・ゲブリューダー・ウント・コンパニー(ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディトゲゼルシャフト) (1)
【Fターム(参考)】