説明

被覆用フィルム、粘着フィルムおよび積層フィルム

【課題】樹脂製のフィルム基材を被覆するために使用され、フィルム基材に対し、優れた広角視認性、外観の高品質感および耐光性を付与できる被覆用フィルムおよび粘着フィルム、ならびに該粘着フィルムを備えた積層フィルムを提供する。
【解決手段】(a)ABS系樹脂と、(b)ゴム変性ポリスチレンと、(c)ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、(d)光安定剤と、を含有し、前記(b)を、前記(a)100質量部に対して10〜60質量部含有し、前記(c)を、前記(a)100質量部に対して5〜30質量部含有し、前記(d)を、前記(a)〜(c)の合計100質量部に対して0.05〜3質量部含有する樹脂組成物からなる被覆用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製のフィルム基材を被覆するために使用される被覆用フィルム、該被覆用フィルムを備えた粘着フィルムおよび積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、パーソナルコンピュータ、電子機器、家電機器、リチウムイオン二次電池、小型電子部品などにおいては、樹脂製の筐体に、シール、デカールなどの呼び名で呼ばれている、樹脂製のフィルム基材を用いたラベルが貼付されていることがある。このようなラベルの表面には、機器の取り扱い方法、注意事項、危険情報など、重要な情報が印刷されている場合が多い。それらの情報の読み取り易さを長期に亘って維持する必要があることから、印刷が施されたラベルの表面を透明な被覆用フィルム(オーバーレイ用フィルム)で被覆することが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
近年、環境への意識の高まりから、ラベルのフィルム基材を、筐体を構成する樹脂と同じ樹脂または同じ樹脂を主成分とするフィルムで構成し、筐体から剥がさずにリサイクル可能としたラベルを用いることが提案されている(特許文献2〜4参照)。
上記筐体やフィルム基材を構成する樹脂としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、汎用ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリカーボネート(PC)、PC/ABSアロイ、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、ポリプロピレン(PP)、アクリル樹脂、ポリアミド(PA)、ポリ乳酸、これらのアロイなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−105063号公報
【特許文献2】特開平8−067857号公報
【特許文献3】特開平8−340182号公報
【特許文献4】特表2003−521719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラベルには、室内光や屋外光による反射などの影響を受けずに広い視野角において印刷文字の読み取りが可能であること(広角視認性)が望まれている。また、高級機器に貼付されるラベルにおいては、高品質感を与える外観であることも求められている。このような目的のために、従来、ラベルや被覆用フィルムの表面をマット加工し、粗面化することで光沢感を抑えることが行われている。しかしこのような方法では、必ずしも充分な効果は得られていない。
また、従来のラベルには、室内光や屋外光に曝された際に、フィルム基材やその表面の印刷に変色(黄変、褪色等)が生じる問題がある。ラベルの表面を従来の被覆用フィルムで被覆しても変色は充分には抑制されず、被覆用フィルム自体が変色したり、該被覆用フィルム表面に形成された粘着剤層が変色し、かえって変色が激しくなることもある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、樹脂製のフィルム基材を被覆するために使用され、フィルム基材に対し、優れた広角視認性、外観の高品質感および耐光性を付与できる被覆用フィルムおよび粘着フィルム、ならびに該粘着フィルムを備えた積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は以下の態様を有する。
[1]樹脂製のフィルム基材を被覆するために使用される被覆用フィルムであって、
(a)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂と、(b)ゴム変性ポリスチレンと、(c)ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、(d)光安定剤と、を含有し、
前記(b)を、前記(a)100質量部に対して10〜60質量部含有し、
前記(c)を、前記(a)100質量部に対して5〜30質量部含有し、
前記(d)を、前記(a)〜(c)の合計100質量部に対して0.05〜3質量部含有する樹脂組成物からなることを特徴とする被覆用フィルム。
[2]前記(d)が、紫外線吸収剤および連鎖禁止剤から選ばれる少なくとも1種を含む[1]に記載の被覆用フィルム。
[3]前記(d)が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒンダードアミン誘導体とを含む[2]に記載の被覆用フィルム。

[4]前記樹脂組成物をインフレーション法によりフィルムとすることにより得られたものである[1]〜[3]のいずれか一項に記載の被覆用フィルム。
[5][1]〜[4]のいずれか一項に記載の被覆用フィルムと、該被覆用フィルムの少なくとも片面に形成された粘着剤層とを有することを特徴とする粘着フィルム。
[6][5]に記載の粘着フィルムと、該粘着フィルムの粘着剤層に貼り合わされた樹脂製のフィルム基材とを有することを特徴とする積層フィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、樹脂製のフィルム基材を被覆するために使用され、フィルム基材に対し、優れた広角視認性、外観の高品質感および耐光性を付与できる被覆用フィルムおよび粘着フィルム、ならびに該粘着フィルムを備えた積層フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の積層フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<被覆用フィルム>
本発明の被覆用フィルムは、樹脂製のフィルム基材(たとえば後述する積層フィルムにおけるフィルム基材)を被覆するために使用されるものであって、以下の(a)〜(d)を所定の比率で含有する樹脂組成物からなる。
(a)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂(以下、成分(a)という。)。
(b)ゴム変性ポリスチレン(以下、成分(b)という。)。
(c)ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体(以下、成分(c)という。)。
(d)光安定剤(以下、成分(d)という。)。
【0009】
[成分(a)]
成分(a)は、被覆用フィルムに耐衝撃性、強度、リサイクル性等の性能を付与することを主たる目的として配合される成分である。
成分(a)としては特に限定されず、公知のものを使用できる。具体的には、シアン化ビニル単量体と、ゴム質重合体と、ビニル芳香族炭化水素とが共重合した共重合体が挙げられる。
前記シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等を挙げることができ、これらを1種または2種以上使用することができる。
前記ゴム質重合体としては、たとえば、共役ジエン系ゴムが挙げられる。共役ジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、ブチルアクリレート−ブタジエン共重合体、ブチレン−イソブレン共重合体等の共役ジエン系ゴム等が挙げられ、これらを1種または2種以上の組合せで使用することができる。なかでもポリブタジエンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
ビニル芳香族炭化水素は、芳香族炭化水素にビニル基が結合した化合物である。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、ナフタレン等が挙げられる。該芳香族炭化水素には、ビニル基以外の置換基が結合していてもよい。該置換基としては、たとえばアルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。該アルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
ビニル芳香族炭化水素として、具体的には、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、o−,m−またはp−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、等を挙げることができ、これらを1種または2種以上使用することができる。これらの中でもスチレンを用いることが好ましい。
【0010】
成分(a)は、さらに、前記シアン化ビニル単量体、ゴム質重合体およびビニル芳香族炭化水素と共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。該単量体としては、たとえばアクリル酸、メタアクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のα、β−不飽和カルボン酸エステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸無水物類;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のα、β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物類;等を挙げることができ、これらの単量体を1種または2種以上で使用できる。
【0011】
成分(a)は、JIS K7210の測定法における温度220℃、荷重10kgfでのメルトボリュームフローレイトMVRが1〜20cm/10minであることが好ましく、3〜15cm/10minであることがより好ましい。この様な範囲内であれは、フィルムの製膜性が安定する。
成分(a)の製造方法については、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合、乳化重合等通常の公知の方法を用いることができる。また、別々に共重合した樹脂をブレンドすることも可能である。
【0012】
[成分(b)]
成分(b)は、フィルムにくもりを付与することを目的として配合される成分である。フィルムに適度なくもりを付与することで、当該フィルムが、くもりと光透過性のバランスが調節された、被覆フィルムとして好ましい透明性を有するものとなる。また、該曇りによって、本発明の被覆フィルムや該被覆フィルムで被覆されたラベルが、高品質感や広角視認性を有するものとなる。成分(b)は、上記のほか、フィルム表面に表面粗さを付与する、フィルムの製膜性を向上させる、等の効果も奏する。
「ゴム変性ポリスチレン」とは、共役ジエン系ゴムの存在下でビニル芳香族炭化水素を重合させることにより得られるものをいう。成分(b)は、ビニル芳香族炭化水素の重合体からなる海相中に共役ジエン系ゴムがサラミ状粒子となって島状に分散した形態となっている。
ビニル芳香族炭化水素としては、前記成分(a)の説明で挙げたものと同様のものが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。これらの中でもスチレンを用いることが好ましい。
共役ジエン系ゴムとしては、たとえばポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、ブチルアクリレートーブタジエン共重合体、ブチレン−イソブレン共重合体等が挙げられ、これらを1種または2種以上の組合せで使用することができる。なかでもポリブタジエンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
ポリブタジエンとしては、シス構造の含有率が高い高シスポリブタジエン、シス構造の含有率が低い低シスポリブタジエンのいずれも使用することができる。
スチレン−ブタジエン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれの共重合体も使用することができる。
【0013】
成分(b)中の共役ジエン系ゴムの含有量は、成分(b)の総質量に対し、1〜15質量%であることが好ましく、3〜12質量%であることがより好ましい。共役ジエン系ゴムの含有量が該範囲の下限値未満であると、くもりが得難く、被覆用フィルムの透明性が好ましいものになり難い。一方、該範囲の上限を超えると、くもりが高くなり、フィルム表面が粗くなる等、その表面外観が悪化し易い。特に、共役ジエン系ゴム由来のゲル状物が、表面外観に不具合を発生させることがある。
成分(b)中、共役ジエン系ゴムのサラミ状粒子の平均粒子径は、0.15〜2.5μmであることが好ましく、0.3〜2.0μmであることがより好ましい。平均粒子径が0.15μm未満の場合、フィルムにくもりを与え難く、フィルムの光透過性が向上し過ぎるために、ラベルに高品質感等の好ましい外観を付与し難い傾向にある。また、フィルムの製膜性が充分に得られない傾向にある。一方、平均粒子径が2.5μmを超える場合、フィルム表面が粗くなり易く、外観が悪化し易い傾向にある。
【0014】
樹脂組成物中、成分(b)の配合量は、成分(a)100質量部に対して10〜60質量部であり、15〜45質量部が好ましい。
成分(b)の配合量が上記範囲内である場合、くもりと光透過性のバランスが調整された好ましい透明性を有するフィルムを得ることができ、更に、該フィルムの表面が、高品質感を付与する、光反射によるラベルの視認性低下を抑える等の効果を発揮できる程度の粗さを有している。
一方、成分(b)の配合量が10質量部未満の場合、フィルムの製膜性が低下し、特にインフレーション成形において、所謂バブルが不安定な状態になり易く、安定したフィルム成形をしにくい。また、該配合量が60質量部を超えた場合、フィルムのくもりが高くなり、光透過性を得難くなるため、くもりと光透過性のバランスが調節された好ましい透明性を得難い。更に、共役ジエン系ゴム由来のゲル状物がフィルム中に突起物として存在する可能性が高まり、接着剤を塗工する際に塗工ムラが発生する可能性がある。
【0015】
[成分(c)]
成分(c)は、ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体(以下、未水添ブロック共重合体という。)を水素添加して得られるものである。
成分(c)は、成分(a)と成分(b)の相溶化剤として作用する成分である。成分(c)を所定量配合することで、フィルムのくもりを適度に低下させることができ、フィルムに対し、くもりと光透過性のバランスが調節された好ましい透明性を付与できる。
【0016】
未水添ブロック共重合体において、重合体ブロック(A)が「ビニル芳香族炭化水素を主体とする」とは、ビニル芳香族炭化水素に由来する繰り返し単位を、重合体ブロック(A)の総質量に対して、少なくとも60質量%含有することであり、好ましくは80質量%以上含有し、より好ましくは100質量%含有する。
ビニル芳香族炭化水素としては、前記成分(a)の説明で挙げたものと同様のものが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。これらの中でもスチレンを用いることが好ましい。
重合体ブロック(A)は、ビニル芳香族炭化水素以外の単量体に由来する繰り返し単位を有していてもよい。該単量体としては、ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なものであればよく、たとえば共役ジエン化合物が挙げられる。
共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピペリレン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエン等が例示できる。これらは1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ブタジエンおよび/またはイソプレンを用いることが好ましい。
重合体ブロック(A)が、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である場合、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の含有量は、重合体ブロック(A)の総質量に対して、40質量%以下であり、20質量%以下が好ましい。
重合体ブロック(A)が、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である場合、該共重合体中における共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の分布は、ランダム、テーパー、一部ブロックまたはこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0017】
未水添ブロック共重合体において、重合体ブロック(B)が共役ジエン化合物を主体とする」とは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を、重合体ブロック(B)の総質量に対して、少なくとも60質量%含有することであり、好ましくは80質量%以上含有し、より好ましくは100質量%含有する。
共役ジエン化合物としては、前記重合体ブロック(A)の説明で挙げた共役ジエン化合物と同様のものが挙げられる。これらは1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ブタジエンおよび/またはイソプレンを用いることが好ましい。
重合体ブロック(B)は、共役ジエン化合物以外の単量体に由来する繰り返し単位を有していてもよい。該単量体としては、共役ジエン化合物と共重合可能なものであればよく、たとえばビニル芳香族炭化水素が挙げられる。
ビニル芳香族炭化水素としては、前記重合体ブロック(A)の説明で挙げたビニル芳香族炭化水素と同様のものが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。これらの中でもスチレンを用いることが好ましい。
重合体ブロック(B)が、共役ジエン化合物とビニル芳香族炭化水素との共重合体である場合、ビニル芳香族炭化水素に由来する繰り返し単位の含有量は、重合体ブロック(B)の総質量に対して、40質量%以下であり、20質量%以下が好ましい。
重合体ブロック(B)が、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である場合、該共重合体中におけるビニル芳香族炭化水素に由来する繰り返し単位の分布は、ランダム、テーパー、一部ブロックまたはこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0018】
未水添ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状またはこれらの組み合わせなどいずれでもよいが、直鎖状であることが好ましい。その中でも、重合体ブロック(A)を2個以上含有する構造が好ましい。
重合体ブロック(A)を2個以上含有する構造としては、例えば、重合体ブロック(A)(以下、構造を述べる際に「A」とする)と重合体ブロック(B)(以下、構造を述べる際に「B」とする)とが、A−B−Aと並んでいる構造、A−B−A−Bと並んでいる構造、B−A−B−A−Bと並んでいる構造等が挙げられる。これらの中でもA−B−Aが好ましい。
【0019】
成分(c)は、前記未水添ブロック共重合体を水素添加して得られる。水素添加は、従来公知の方法により実施できる。
このときの水素添加率(未水添ブロック共重合体中の共役ジエン化合物に基づく二重結合のうち、水素添加により単結合とする二重結合の割合)は、35〜100%が好ましく、40〜70%がより好ましい。水素添加率が35〜100%、特に40〜70%であると、くもりと光透過性のバランスを調節した好ましい透明性を本発明のフィルムに与え易い。更にフィルム製膜性も良好な傾向にある。
一方、水素添加率が35%未満では、フィルム製膜時の加工温度で熱劣化し易くなり、発生した分解物がフィルムに混入する不具合を生じることがある。
【0020】
成分(c)は、重合体ブロック(B)中のビニル結合量が、20〜90質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましく、40〜75質量%であることが更に好ましい。
前記ビニル結合量とは、重合体ブロック(B)中に存在する、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位のうち、1,2−結合または3,4−結合の結合形態で存在する繰り返し単位の割合(質量%)を示す。前記未水添ブロック共重合体において、重合体ブロック(B)中には、前記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位が1,2−結合、3,4−結合または1,4−結合の結合形態で存在し得る。水素添加前、1,2−結合、3,4−結合の結合形態ではそれぞれ側鎖に二重結合が含まれ、1,4−結合の結合形態では主鎖に二重結合が含まれている。水素添加後、該二重結合の一部または全部は単結合となっているが、水素添加前に1,2−結合または3,4−結合の結合形態であったものは「1,2−結合または3,4−結合の結合形態で存在する繰り返し単位」に含まれる。
該ビニル結合量が20質量%未満の場合、成分(a)と成分(b)との相溶性が低下し、フィルム製膜性が低下し易い傾向にある。一方、ビニル結合量が90質量%を超える場合、成分(a)と成分(b)との親和性が過剰になり、成分(c)がこれらの樹脂に取り込まれてしまい、フィルムのくもりが不充分な状態となり、該フィルムに、くもりと光透過性のバランスが調節された好ましい透明性を与え難い。
【0021】
成分(c)の好ましい具体例としては、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(以下「SEBS」という。)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(以下、「SEPS」という。)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(以下、「SBBS」という。)等を挙げることができ、これらは1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、SEBSは完全水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体に相当し、SEPSは完全水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体に相当し、SBBSは部分水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体に相当する。
これらの中でも、フィルムの製膜性に優れ、かつ所望の透明性及び外観を付与できるという点で、SBBSが好ましい。
これらの共重合体は、公知の方法により製造したものを用いてもよく、市販のものを用いてもよい。たとえばSBBSの市販品として、旭化成ケミカルズ社製、タフテックPシリーズ等が挙げられる。
【0022】
樹脂組成物中、成分(c)の配合量は、成分(a)100質量部に対して5〜30質量部であり、8〜27質量部が好ましく、10〜25質量部がより好ましい。
該配合量が5質量部未満の場合、成分(a)と成分(b)との相溶性が不良で、フィルムの製膜性、特にインフレーション法でのバブル安定性を得難い傾向にある。更に、フィルムのくもりを低下させ難い傾向にあり、フィルムに、くもりと光透過性とのバランスがとれた好ましい透明性を与え難い。一方、30質量部を超えると、成分(a)と成分(b)との相溶性が高くなりすぎるため、くもりが不充分な状態となり、本発明の効果が充分に得られないおそれがある。
【0023】
[成分(d)]
成分(d)は、本発明の被覆用フィルムや該被覆フィルムを用いた粘着フィルムおよび積層フィルムが光により変色(黄変)することを防ぐために配合される。被覆用フィルムに成分(d)を配合することで、被覆用フィルムや、該被覆用フィルムの少なくとも片面(ラベル側)に形成された粘着剤層の光による変色を防ぐことができ、さらに、粘着剤層を介して貼り合わされたフィルム基材や該フィルム基材上の印刷の変色または褪色を防ぐことができる。
成分(d)としては、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤、連鎖禁止剤、ヒドロキシペルオキシド分解剤、金属不活性化剤等が挙げられ、これらを1種または2種以上の組合せで使用することができる。これらの中でも、紫外線吸収剤および連鎖禁止剤から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0024】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤などが挙げられ、これらの中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、等が挙げられ、これらを1種または2種以上の組合せで使用することができる。
【0025】
連鎖禁止剤としては、ヒンダードアミン誘導体(ピペリジン誘導体)、フェノール誘導体、芳香族アミン誘導体等が挙げられ、これらの中でも、ヒンダードアミン誘導体が好ましい。
ヒンダードアミン誘導体としては、フェニル−4−ピペリジニルカーボネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラ−メチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、等が挙げられ、これらを1種または2種以上の組合せで使用することができる。
【0026】
本発明においては、特に、成分(d)が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒンダードアミン誘導体とを含むことが好ましい。これらの成分を組み合わせて配合すると、黄変、褪色を防止する効果がさらに向上する。
【0027】
樹脂組成物中、成分(d)の配合量は、前記成分(a)〜(c)の合計100質量部に対して0.05〜3質量部であり、0.2〜2質量部がより好ましい。成分(d)の配合量が上記範囲以内であれば、被覆用フィルム、粘着剤層、フィルム基材および印刷の変色や褪色を防ぐことができ、フィルムの製膜性も充分である。成分(d)の配合量が上限を超える場合、製膜性が悪化し、フィルム外観が損なわれて、本発明の効果が充分に得られないおそれがある。特にインフレーション法でのバブルが不安定となり製膜が困難になる。
【0028】
本発明の被覆用フィルムを構成する樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分(a)〜(d)以外の他の成分を配合してもよい。該他の成分としては、たとえば熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0029】
本発明の被覆用フィルムは上記した樹脂組成物を公知のフィルム成形法によりフィルムとすることにより得られる。フィルム成形法としては、押出成形法が好ましく、Tダイ法またはインフレーション法がより好ましい。中でもインフレーション法が好ましい。Tダイ法で成形した場合、樹脂流れ方向への配向が生じフィルムが裂け易くなってしまう不具合が発生するおそれがあるが、インフレーション法の場合、ブロー比を調節することで、樹脂流れ方向への配向を防止することができ、フィルムの裂けが発生しにくくなる。
インフレーション法によるフィルムの成形は、公知の方法、たとえば押出機の先端に環状スリットを有する円形ダイを用い、溶融させた樹脂組成物を管状に押し出し、その中に一定量の空気を吹き込んで所定のサイズに膨張させながら引き取り、膨張させた管状体(バブル)を冷却する方法により実施できる。
インフレーション法によりフィルムを成形する際のブロー比は、1.1〜5.0が好ましく、2.0〜3.5がより好ましい。ブロー比を1.1以上とすることで、流れ方向の配向を抑えることができる。一方、ブロー比を5.0以下とすることで、バブルが安定する。
また、フィルムの表面にさらなる表面粗さを付与するため、必要に応じて、フィルム製膜時に、フィルム表面にマット加工を施してもよい。
【0030】
本発明の被覆用フィルムの厚さは、5〜100μmが好ましく、10〜80μmがより好ましく、15〜50μmが更に好ましい。厚さが5μm未満の場合、フィルムにくもりを付与し難く、ラベルに広角視認性や高品質感の好ましい外観を付与し難い。更に、フィルムにシワが入り易くなるため、ラベル等に用いた際に外観不良の発生頻度が高まるという不具合がある。一方、100μmを越えるとフィルムの光透過性が低下し、ラベル等に貼付した際に、その視認性が低くなる傾向にある。
【0031】
本発明の被覆用フィルムは、以下に示す透明性(全光線透過率およびヘイズ)を有することが好ましい。
(透明性)
JIS K7361−1に基づいて測定される、被覆用フィルム1枚での全光線透過率が90%以上であり、且つ、JIS K7136に基づいて測定される、被覆用フィルム1枚でのヘイズ(くもり)が70〜90%である透明性。
全光線透過率が90%未満の場合、透明性が不充分で、ラベルの表示内容が見難くなる。また、ヘイズが70%未満の場合、ラベルの印刷が鮮明に見えることはあるものの、やや曇った状態でしか読み取れず、ラベルとしての高品質感が不足してしまう。一方、ヘイズが90%を超える場合、ラベルの印刷が不鮮明で読み取りにくくなるという不具合が生じる。
前記透明性は、樹脂組成物中に配合する成分(b)、成分(c)等の配合量を調節することにより調節できる。たとえば成分(b)の配合量を増やすと、全光線透過率は低くなり、ヘイズが高くなる傾向にあり、成分(c)の配合量を増やすと、ヘイズが低下する傾向が見られる。
【0032】
なお、本発明の被覆用フィルムは、後述するように、少なくとも片面に粘着剤層を設けて粘着フィルムとすることができる。このとき、粘着剤層を設けることにより、被覆用フィルム表面の粗さに起因するヘイズが低減される効果が生じる。この関係を把握する方法として、被覆用フィルム表面に流動パラフィンを塗布して透明性(全光線透過率およびヘイズ)を測定する方法が有用である。
本発明の被覆用フィルムは、該被覆用フィルム片面に流動パラフィンを塗布した際は、全光線透過率が90%以上であり、且つヘイズが65〜80%であることが好ましい。
全光線透過率が90%未満の場合、透明性が不充分で、ラベルの表示内容が見難くなるおそれがある。ヘイズが50%未満ではフィルムの透明性が良好すぎて、やや曇った状態でしか読み取れず、ラベルとしての高品質感が不足してしまうおそれがある。一方、ヘイズが85%を超える場合、ラベルの印刷が不鮮明で読み取りにくくなるという不具合が生じる。
流動パラフィンを塗布した際の透明性は、前記と同様、樹脂組成物中に配合する成分(b)、成分(c)等の配合量を調節することにより調節できる。
【0033】
本発明の被覆用フィルムは、以下に示す表面粗さを有することが好ましい。
(表面粗さ)
JIS B0601に基づいて測定されるRa(算出平均粗さ)が0.30〜0.80μmであり、且つ、Ry(最大高さ)が2.5〜4.0μmである表面粗さ。
RaとRyが各々上記範囲内であると、ラベルの視認性および品位に優れる。
該表面粗さは、成分(a)、成分(b)および成分(c)を所定の比率で混合する際、特に成分(b)の効果により得ることができる。たとえば所定の配合量の範囲内において、成分(b)の配合量が多いほど、表面粗さが大きくなる傾向がある。
また、フィルム製膜時に、フィルム表面にマット加工を施すことで、該フィルムの表面をさらに粗くすることができる。
【0034】
本発明の被覆用フィルムは、以下に示す光沢度を有することが好ましい。
(光沢度)
JIS K7105に基づく光沢度測定において、入射角/受光角が20°/20°、45°/45°、60°/60°、75°/75°、の各条件での光沢度が、それぞれ1.2〜1.7、8.0〜9.5、9.0〜10.0、20.0〜25.0である光沢度。
各条件での光沢度の範囲の下限値未満では、光沢度不足で、ラベルに高品質感等の外観を付与し難い傾向にある。一方、各条件での光沢度の範囲の上限値を超えると、光の反射が生じてラベルに表示された文字が読み取り難くなり、広角視認性を付与できなくなってしまう。
該光沢度は、成分(a)、(b)、(c)の配合量により調節できる。
【0035】
<粘着フィルム>
本発明の粘着フィルムは、上記被覆用フィルムと、該被覆用フィルムの少なくとも片面に形成された粘着剤層とを有するものである。
粘着剤層は、被覆用フィルムの片面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよく、片面に形成されていることが好ましい。
粘着剤層を構成する粘着剤の粘着成分としては、特に限定されず、透明性、被覆用フィルムや当該粘着フィルムが貼付される樹脂製のフィルム基材への接着性等を考慮して、公知の粘着剤のなかから適宜選択すればよい。具体的には、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン、合成ゴム、天然ゴムなどが挙げられる。これらの中でも、透明性、接着性が良好であることから、アクリル樹脂、シリコーンが好ましい。
粘着剤層の厚さは5〜30μmであることが好ましい。粘着剤層の厚さが5μm以上であれば、充分な粘着性を確保でき、30μm以下であれば、容易に粘着剤層を形成できる。
【0036】
粘着フィルムは、前記被覆用フィルムの少なくとも片面に粘着剤層を形成することにより製造できる。
粘着剤層の形成方法としては、被覆用フィルムの片面または表面に直接粘着剤を塗工する方法(直接塗工法)、剥離紙の剥離面に粘着剤を塗工して粘着剤層を形成した後に、その粘着剤層と被覆用フィルムとを貼り合せる方法(転写法)が挙げられる。これらのなかでも、被覆用フィルムへの直接塗工によるフィルムの膨潤やシワの発生を抑制できることから、転写法が好ましい。
粘着剤の塗工方法としては、グラビアコーター、コンマコーター、ダイコーターなどで塗工する方法が挙げられる。
【0037】
<積層フィルム>
本発明の積層フィルムは、前記粘着フィルムと、該粘着フィルムの粘着剤層に貼り合わされた樹脂製のフィルム基材とを有する。
以下、本発明の積層フィルムの実施形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態の積層フィルム10の概略断面図である。
積層フィルム10は、粘着剤層11aが片面に形成された被覆用フィルム11bからなる粘着フィルム11と、樹脂製のフィルム基材12とを有する。
【0038】
フィルム基材12は、粘着フィルム11の粘着剤層11aに貼り合わされている。
フィルム基材12は樹脂製フィルムである。フィルム基材12を構成する樹脂としては、特に限定されず、従来、OA機器、パーソナルコンピュータ、電子機器、家電機器、リチウムイオン二次電池、小型電子部品などを構成する樹脂製の筐体に貼付されるラベル(シール、デカールなどの呼び名で呼ばれているラベル)に用いられているラベルのフィルム基材に用いられているものが利用できる。具体的には、例えば、ABS等のABS系樹脂、GPPS、HIPS、PC、PC/ABSアロイ、変性PPE、PP、アクリル樹脂、PA、PLAおよびこれらのアロイなどが挙げられる。ABS系樹脂としては、前記被覆用フィルムの説明で挙げた成分(a)と同様のものが挙げられる。
フィルム基材12としては、リサイクル性に優れること、本発明の有効性の高さ等から、ABS系樹脂、またはABS系樹脂を主成分とするフィルムが好ましい。ここで「ABS系樹脂を主成分とする」とは、フィルム基材中のABS系樹脂の配合量が、当該フィルム基材に配合される成分全体の50質量%以上であることを意味する。
【0039】
フィルム基材12の表面には、必要に応じて、印刷が施されていてもよい。印刷としては、任意色のベタ印刷、文字情報等の印刷等が挙げられる。
印刷は、フィルム基材12の、粘着剤層11a側の表面に施されてもよく、その反対側の表面に施されてもよく、両面に施されてもよい。
【0040】
本発明の積層フィルムは上記実施形態に限定されるものではない。
たとえば、フィルム基材12の表面に、蒸着等により、アルミなどの金属層が形成されてもよい。
また、フィルム基材12の、粘着剤層11aと反対側の面には、通常、さらに、粘着剤層11aとは別の粘着剤層が設けられる。これにより、OA機器、パーソナルコンピュータ、電子機器、家電機器、リチウムイオン二次電池、小型電子部品などを構成する樹脂製の筐体に貼付されるラベルとして利用できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1〜6、比較例1〜6]
(1.被覆用フィルムの材料)
以下の各例で用いた、被覆用フィルムの材料は以下のとおりである。
成分a1:日本エイアンドエル社製「サンタックET−70」。
成分b1:PSジャパン社製「H8672」。
成分c1:旭化成ケミカルズ社製「タフテックP−2000」。
成分d1:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤:2−(2’−ヒドロキシ−5’メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、住友化学社製「スミソーブ200」。
成分d2:ヒンダードアミン誘導体:ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、アデカ社製「アデカスタブLA−77」。
【0042】
(2.被覆用フィルムの製造)
表1に示す配合割合(質量部)で上記各成分を混合して樹脂組成物を得た。該樹脂組成物を単軸押出機に供給し、シリンダー温度210℃で溶融混練し、インフレーション用円形ダイ(直径300mm)から溶融樹脂を吐出し、ブロー比2.5となるように膨張させながら引き取り、厚さ30μmの被覆用フィルムを製膜した。
表1中、成分b1、c1の配合割合(質量部)はそれぞれ、成分a1の配合量を100質量部とした値であり、成分d1、d2の配合割合(質量部)はそれぞれ、成分a1、b1、c1の配合量の合計を100質量部とした値である。
また、製膜時のバブルの状態から、下記の基準で製膜性を評価した。その結果を表1〜2に示す。
安定:バブルの状態が安定。
不安定:製膜できるものの、バブルの状態は不安定。
製膜不可能:バブルの状態が不安定で製膜できない。
【0043】
(3.被覆用フィルムの評価)
得られた被覆用フィルム(実施例1〜6、比較例1〜6)について、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[透明性]:ヘイズメーター(ガードナー社製「ヘイズガードプラス」)を用いて、JIS K7361−1に従い各フィルム1枚の全光線透過率を測定し、また、JIS K7136に従い各被覆用フィルム1枚のヘイズを測定した。
更に、各被覆用フィルムの片面に流動パラフィンを塗布したときの全光線透過率とヘイズを同様に測定した。流動パラフィンは、フィルム測定部分にバーコーターで塗り厚約20μmになるように塗工した。
[表面粗さ]:表面粗さ計(ミツトヨ社製「サーフテストSJ−400」)を用いて、JIS B0601に従い各フィルム表面のRa(算術表面粗さ)およびRy(最大高さ)を測定した。
[光沢度]:光沢計(スガ試験機社製「デジタル変角光沢計」)を用いて、JIS K7105に基づき、各被覆用フィルム表面の光沢度を、入射角/受光角が20°/20°、45°/45°、60°/60°、75°/75°の各条件で測定した。
【0044】
(4.粘着フィルムの製造)
シリコーン塗工剥離紙の剥離面に、アクリル系粘着剤(日栄化工社製「L−100」)を、バーコーターを用いて厚さ25μmで塗工して、剥離紙付きの粘着剤層を形成した。
その剥離紙付きの粘着剤層の露出面に、各被覆用フィルムをそれぞれ重ね合わせて貼り付けた後、剥離紙を粘着剤層から剥離して、粘着フィルムを得た。
【0045】
(6.積層フィルムの製造および評価(1))
フィルム基材としてABS樹脂製白色フィルム(信越ポリマー社製、PSZ−975、80μm厚)を用い、このフィルム基材の片面に黒色インクでスクリーン印刷を施し、前記粘着フィルムの粘着剤層と印刷面を貼り合わせて、積層フィルムを得た。
各積層フィルムのフィルム基材を、室内光の環境下で、粘着フィルムを通して目視で観察し、下記評価基準により積層フィルムの視認性および品位を評価した。評価結果を表1に示す。
[視認性]
○:広い範囲の角度で見て反射がない。印刷が見易い。
△:広い範囲の角度で見て部分的に反射があり、印刷が見難いことがある。
×:広い範囲の角度で見て全ての角度で反射がある。印刷が見難い。
[品位]
○:マット感があり、深みのあるもの。
△:マット感があり、深みがややあるもの。
×:マット感がなく、深みのないもの。
【0046】
(7.積層フィルムの製造および評価(2))
フィルム基材(ABS樹脂製白色フィルム)に印刷を施さないこと以外、前記の積層フィルムの作製と同様にして積層フィルムを得た。
各積層フィルムについて、紫外線ロングライフフェードメーター(スガ試験機社製)を用いて、ブッラックパネル温度63℃±3℃で、紫外線を粘着フィルム面に120時間照射した。
紫外線照射前後の各積層フィルムの色調を各々測定し、色差(紫外線照射前後の色調の差)ΔEを求めた。
色調の測定は、ミノルタ社製スペクトロフォトメーターCM−3700dを用い、JIS Z8722の幾何条件Cに準じて以下の条件で測定した。測定・・・反射、正反射処理・・・SC1、測定径・・・25.4mm、UV・・・100%full、光源・・・D65、視野・・・2°。
【0047】
別途、対照として、積層フィルムの代わりにフィルム基材のみ(印刷および粘着フィルムが無いもの)を用いた以外は前記と同様にして紫外線照射前後の色調を測定したところ、その色差ΔEは2.2であった。
各積層フィルムのΔEから、下記の基準にて変色性を評価した。評価結果を表1に示す。
[変色性]
○:ΔE<2.2(変色はほとんど見られない)。
△:2.2≦ΔE≦5.0(若干変色しているが実用レベル)。
×:ΔE>5.0(変色が激しく実用に適さないレベル)。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
上記結果に示すとおり、実施例1〜6の被覆用フィルムは全光線透過率が高く、被覆用フィルムとして適した透明性を有していた。また、ヘイズ、光沢度および表面粗さが適度な値であり、各被覆用フィルムを用いた積層フィルムの視認性および品位が良好であった。また、それらの積層フィルムは、変色性の評価結果も良好であった。変色性は、成分d1とd2とを組み合わせて配合した実施例1〜3、6が特に優れていた。
一方、成分c1の配合量が成分a1の100質量部に対して1質量部の比較例1は、被覆用フィルムの全光線透過率が低く、積層フィルムも視認性および品位が劣っていた。また、成分c1の配合量が成分a1の100質量部に対して42質量部の比較例2は、積層フィルムも視認性および品位が劣っていた。
成分b1の配合量が成分a1の100質量部に対して8質量部の比較例3は、積層フィルムの視認性および品位が劣っていた。また、成分b1の配合量が成分a1の100質量部に対して70質量部の比較例4は、被覆用フィルムの全光線透過率が低く、積層フィルムも視認性および品位が劣っていた。
成分d1およびd2の合計の配合量が、成分a1〜c1の合計100質量部に対して0.02質量部の比較例5は、激しい変色が見られた。また、成分d1およびd2の合計の配合量が、成分a1〜c1の合計100質量部に対して3.5質量部の比較例6は、インフレーション成形により製膜できなかった。
【符号の説明】
【0051】
10…積層フィルム、11…粘着フィルム、11a…粘着剤層、11b…被覆用フィルム、12…フィルム基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のフィルム基材を被覆するために使用される被覆用フィルムであって、
(a)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂と、(b)ゴム変性ポリスチレンと、(c)ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、(d)光安定剤と、を含有し、
前記(b)を、前記(a)100質量部に対して10〜60質量部含有し、
前記(c)を、前記(a)100質量部に対して5〜30質量部含有し、
前記(d)を、前記(a)〜(c)の合計100質量部に対して0.05〜3質量部含有する樹脂組成物からなることを特徴とする被覆用フィルム。
【請求項2】
前記(d)が、紫外線吸収剤および連鎖禁止剤から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の被覆用フィルム。
【請求項3】
前記(d)が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒンダードアミン誘導体とを含む請求項2に記載の被覆用フィルム。
【請求項4】
前記樹脂組成物をインフレーション法によりフィルムとすることにより得られたものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の被覆用フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の被覆用フィルムと、該被覆用フィルムの少なくとも片面に形成された粘着剤層とを有することを特徴とする粘着フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の粘着フィルムと、該粘着フィルムの粘着剤層に貼り合わされた樹脂製のフィルム基材とを有することを特徴とする積層フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−127021(P2011−127021A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287767(P2009−287767)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】