説明

被転写体及びその製造方法

【課題】新規な被転写体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】被転写体は、表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成された被転写体であり、前記複数の異なる方向の凹凸パターンの繰り返し単位の長さのうち、2つの最小繰り返し単位長さが0.01〜10 nmの範囲内にある。ここで、被転写体の材質は、ガラス、有機高分子化合物などの、ガラス転移点を有する物質であることが好ましい。
被転写体の製造方法は、被転写体用の部材の表面に、平坦表面体の表面を接し、加圧加熱する工程と、前記工程により得られた部材の表面に、鋳型の表面を接し、加圧加熱する工程を有する方法である。ここで、鋳型は、マイカまたはグラファイトであることが好ましい。また、平坦表面体の表面粗さは、0.01〜1.0 nmの範囲内にあることが好ましい。また、平坦表面体の材質は、サファイアまたはチタン酸ストロンチウムであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被転写体に関する。
また、本発明は、前記被転写体の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノインプリント法は、エンボス加工における加工寸法をナノスケールまで微細化したパターン形成技術であり、任意のナノスケールのパターンが表面に形成された鋳型(モールド)を、変形可能な被転写材料に対し押しつけることによって、被転写材料に対しナノスケールパターンを物理的に転写する方法である。これまで、熱可塑性樹脂やガラス等の材料をガラス転移点以上に加熱し、モールドを押し当ててプレスしてパターンを転写成形する熱ナノインプリント法や、基板上に塗布した液状の光硬化性樹脂を加圧変形させ紫外光を照射することにより、樹脂を硬化させ転写成形を行う光インプリント法等が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、市販のサファイア基板を大気中で加熱することで、自己組織的に形成される原子ステップパターンを持つサファイア基板を作製し、このサファイア基板をモールドとして、酸化物ガラスに対し熱ナノインプリントを行うことで、ガラス表面に原子ステップパターンを転写する方法が報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
また、原子ステップを持つサファイア基板上にレーザーアブレーション法によりNiO薄膜を堆積し、これを大気中で熱処理することで、自己組織的に形成されるナノ溝パターンを表面に形成した薄膜を作製し、これを、インプリントモールドとして利用し酸化物ガラスに対し熱ナノインプリントを行い、ガラス表面にモールドのナノ溝パターンが逆転写された直線状のナノワイヤーパターンを形成する方法が報告されている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ナノインプリント, 東レリサーチセンター(2008)
【非特許文献2】“Atomically Stepped Glass Surface Formed by Nanoimprint”、Jpn. J. Appl. Phys., vol.46(15), pp.L342-L344 (2007) 、Y. Akita, T. Watanabe, W. Hara, A. Matsuda, and M. Yoshimoto
【非特許文献3】“Surface modification of silicate glasses by nanoimprint using nanostriped NiO thin film molds”、Appl Surf. Sci., Vol. 253, No.10 , 4512-4514(2007)、S. Akiba, W. Hara, T. Watanabe, A. Matsuda, M. Kasahara, and M. Yoshimoto
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した非特許文献1の方法における面内および面直方向の長さ分解能は、通常ガラスの場合にはおよそ10nm以上であるが、特に面内での2次元パターンの最小サイズは原子レベルである、サブナノ(10Å以下)には到達していないのが現状である。
【0007】
また、上述した非特許文献2の方法においては、サファイアモールド表面のステップ形状は直線状の配列であり、配列周期も10nm以上である。サブナノスケールでの2次元的規則的パターンを形成するに到っていないという問題がある。
【0008】
また、上述した非特許文献3の方法においては、NiOモールド表面のナノ溝構造は10nmオーダーの直線状のパターンであるため、ガラス表面にサブナノスケールの2次元の規則的パターンを形成することはできないという問題がある。
【0009】
そのため、このような課題を解決する、新規な被転写体及びその製造方法の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な被転写体を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記被転写体の新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の被転写体は、表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成された被転写体であり、前記複数の異なる方向の凹凸パターンの繰り返し単位の長さのうち、2つの最小繰り返し単位長さが0.01〜10 nmの範囲内にあるものである。
【0012】
ここで、限定されるわけではないが、被転写体の材質は、ガラス、有機高分子化合物などの、ガラス転移点を有する物質であることが好ましい。
【0013】
本発明の被転写体の製造方法は、被転写体用の部材の表面に、平坦表面体の表面を接し、加圧加熱する工程と、前記工程により得られた部材の表面に、鋳型の表面を接し、加圧加熱する工程を有する方法である。
【0014】
ここで、限定されるわけではないが、被転写体は、表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成され、前記複数の異なる方向の凹凸パターンの繰り返し単位の長さのうち、2つの最小繰り返し単位長さが0.01〜10 nmの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、被転写体の材質は、ガラス、有機高分子化合物などの、ガラス転移点を有する物質であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、鋳型は、マイカまたはグラファイトであることが好ましい。また、限定されるわけではないが、平坦表面体の表面粗さは、0.01〜1.0 nmの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、平坦表面体の材質は、サファイアまたはチタン酸ストロンチウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0016】
本発明の被転写体は、表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成された被転写体であり、前記複数の異なる方向の凹凸パターンの繰り返し単位の長さのうち、2つの最小繰り返し単位長さが0.01〜10 nmの範囲内にあるので、新規な被転写体を提供することができる。
【0017】
本発明の被転写体の製造方法は、被転写体用の部材の表面に、平坦表面体の表面を接し、加圧加熱する工程と、前記工程により得られた部材の表面に、鋳型の表面を接し、加圧加熱する工程を有するので、新規な被転写体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】洗浄後における、ガラス基板の表面のAFM像である。
【図2】熱処理後における、サファイア基板の表面のAFM像である。
【図3】平坦化処理を行ったガラス基板の表面のAFM像である。
【図4】マイカの表面のAFM像(1x1μm2)である。
【図5】マイカの表面のAFM像(5x5nm2)である。
【図6】平坦化処理を行ったガラス基板に対してマイカの原子パターンを転写したときの、ガラス基板の表面のAFM像(1x1μm2)である。
【図7】平坦化処理を行ったガラス基板に対してマイカの原子パターンを転写したときの、ガラス基板の表面のAFM像(5x5nm2)である。
【図8】平坦化処理を行っていないガラス基板に対してマイカモールドを用いてインプリントを行ったときの、ガラス基板の表面のAFM像(1x1μm2)である。
【図9】ガラス基板、マイカモールド、およびマイカモールドを使用してナノインプリントを行ったガラス基板の表面のXPSスペクトルを示す図である。
【図10】マイカモールドを使用してナノインプリントを行ったガラス基板の深さ方向における、XPSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、被転写体及びその製造方法にかかる発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
被転写体は、表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成された被転写体であり、前記複数の異なる方向の凹凸パターンの繰り返し単位の長さのうち、2つの最小繰り返し単位長さが0.01〜10 nmの範囲内にあるものである。
【0021】
被転写体の製造方法は、被転写体用の部材の表面に、平坦表面体の表面を接し、加圧加熱する工程と、前記工程により得られた部材の表面に、鋳型の表面を接し、加圧加熱する工程を有する方法である。
【0022】
被転写体の表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成される場合、その複数の異なる方向の凹凸パターンの繰り返し単位の長さを、「繰り返し単位長さ」と定義する。また、その複数の異なる方向の凹凸パターンの「繰り返し単位長さ」のうちから、最も短いものが複数ある場合はそのうちからいずれか2つを選び、最も短いものが1つで次に短いものが1つの場合はその2つを選び、最も短いものが1つで次に短いものが複数ある場合は、最も短いものと次に短いもののうちからいずれか1つを選び、これらの2つの「繰り返し単位長さ」を「2つの最小繰り返し単位長さ」と定義する。
【0023】
被転写体の表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成される場合、2つの最小繰り返し単位長さは0.01〜10 nmの範囲内にあることが好ましい。また、2つの最小繰り返し単位長さは0.05〜5 nmの範囲内にあることがさらに好ましい。
【0024】
2つの最小繰り返し単位長さが0.01 nm以上であると、被転写体上に作製する薄膜等の構造を原子スケールでコントロールできるという利点がある。2つの最小繰り返し単位長さが0.05 nm以上であると、この効果がより顕著になる。
【0025】
2つの最小繰り返し単位長さが10 nm以下であると、高精度な超微細パターンの形成が可能であるという利点がある。2つの最小繰り返し単位長さが5 nm以下であると、この効果がより顕著になる。
【0026】
被転写体の材質としては、ガラス、有機高分子化合物、その他を挙げることができる。要するに、ガラス転移点を有する物質であればあらゆるものを採用することができる。
ガラスとしては、酸化物ガラス、ハロゲン化物ガラス、カルコゲナイドガラス、金属ガラスなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。
有機高分子化合物としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などを採用することができる。
その他としては、スピンオングラス、ディップコート用透明性導電膜などのゾル・ゲル系材料などを採用することができる。
【0027】
鋳型としては、マイカ、グラファイトなどを採用することができる。
【0028】
被転写体用の部材の表面を平坦化するために用いるものを「平坦表面体」と定義する。
平坦表面体としては、サファイア、チタン酸ストロンチウムなどの表面にステップ形状を有する酸化物などを採用することができる。
【0029】
平坦表面体の作製方法としては、ナノインプリント法、化学機械研磨法、自己組織化法などを採用することができる。
【0030】
平坦表面体の表面粗さは0.01〜1.0 nmの範囲内にあることが好ましい。平坦表面体の表面粗さが0.01 nm以上であると、ナノインプリント加工時にナノパターンの位置ずれが生じにくいという利点がある。平坦表面体の表面粗さが1.0 nm以下であると、平坦表面体の表面に原子スケールの形状を転写することができるという利点がある。
【0031】
転写における圧力は1〜20 MPaの範囲内にあることが好ましい。転写における圧力が1 MPa以上であると、被転写体に形状が転写されるという利点がある。転写における圧力が20 MPa以下であると、被転写体およびモールドが破損しないという利点がある。
【0032】
転写における温度は、被転写体のガラス転移点より高いことが好ましい。転写における温度と、被転写体のガラス転移点との差を、「転写温度と被転写体のガラス転移点との差」と定義する。
転写温度と被転写体のガラス転移点との差は20〜150℃の範囲内にあることが好ましい。転写温度と被転写体のガラス転移点との差が20℃以上であると、被転写体にパターンが転写されるという利点がある。転写温度と被転写体のガラス転移点との差が150℃以下であると、転写されたパターンの形状が冷却過程で変形しないという利点がある。
【0033】
転写における時間は1〜10分の範囲内にあることが好ましい。転写における時間が1分以上であると、被転写体にナノパターンが転写されるという利点がある。転写における時間が10分以下であると、転写に必要なプロセス時間が短くなるという利点がある。
【0034】
被転写体の用途としては、太陽電池パネル、ディスプレイ用パネル、フォトニック素子、バイオチップ、パターンドメディア、NEMSなどを挙げることができる。
【0035】
なお、本発明は上述の発明を実施するための形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0036】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0037】
<試料の調製>
実施例1(表面を平坦化したガラスを使用)
最初に、1cm角のガラス基板(松浪硝子社製、S1111)(ガラス転移点:521℃)の洗浄をアセトンおよびエタノールにて実施した。洗浄後のガラス基板の表面粗さ(RMS)は1.7nmであった。
【0038】
つぎに、サファイア基板(C面)(並木精密宝石社製、表面粗さ(RMS)0.12nm)をアセトンおよびエタノールで洗浄し、熱処理を行った。熱処理は、大気中にて1000℃で3時間行った。熱処理後のサファイア基板の表面には高さ0.2nm、周期約100nmの周期的なステップ形状が形成され、表面粗さ(RMS)は0.06nmであった。
【0039】
つぎに、ステップが形成されたサファイア基板をモールドとして使用し、ガラス基板に対し熱ナノインプリントを行い、ガラス基板の平坦化処理を行った。ナノインプリントは、ナノインプリント装置(SCIVAX社製、X-200)を使用した。ガラス基板上にサファイアモールドを置き、5Paの真空雰囲気にて600℃まで加熱後、1〜3MPaの荷重を5分間かけ、450℃まで冷却後に荷重を抜き、室温まで冷却し離型を行った。インプリント後のガラス基板の表面にはサファイア基板のステップ形状が転写され、表面粗さ(RMS)は0.07nmであった。
【0040】
つぎに、マイカ基板(SII社製、マイカ標準試料)をモールドとして平坦化処理を行ったガラスに対しナノインプリントを行った。ガラス基板上にマイカモールドを置き、5Paの真空雰囲気にて580℃まで加熱後、3MPaの荷重を5分間かけ、450℃まで冷却後に荷重を抜き、室温まで冷却し離型を行った。
【0041】
実施例2(表面を平坦化したガラスを使用)
最初に、ガラス基板の平坦化処理を行った。ガラスの平坦化処理は実施例1と同様である。つぎに、マイカ基板をモールドとして平坦化処理を行ったガラスに対しナノインプリントを行った。5Paの真空雰囲気にて450℃まで加熱後、3MPaの荷重をかけつつ580℃まで加熱したこと以外は実施例1と同様である。
【0042】
比較例1(表面を平坦化していないガラスを使用)
最初に、ガラスの洗浄を行った。ガラスの洗浄方法は実施例1と同様である。
マイカ基板をモールドとして平坦化処理を行っていないガラスに対しナノインプリントを行ったこと以外は、実施例2と同様である。
【0043】
<評価方法>
表面観察
インプリントガラス等の表面観察はAFM装置(SII社製、SPI-3700)にて測定を行った。AFM測定はコンタクトモードで行い、カンチレバーはSi3N4製(SII SN-AF01)を使用した。表面粗さの測定は、1μm領域を観察後、観察領域において二乗平均粗さ(RMS)を算出した。
【0044】
XPS測定
表面組成の分析はXPS(KRATOS社製、AXIS-ULTRA DLD)にて分析を行った。励起源にはAlKα線を使用し、0〜1100eVの範囲における結合エネルギーを測定した。測定サンプルは、ガラス基板、マイカモールド、およびマイカモールドを使用してインプリントしたガラス基板である。また、Arイオンでエッチングを行い、インプリントガラスの最表面、深さ3nm, 6nmの組成を分析した。
【0045】
<評価結果>
表面観察
【0046】
実施例1の結果について説明する。洗浄後のガラス基板の表面(1x1μm2)をAFMにて観察した。ガラス表面のAFM像は図1に示すとおりである。二乗平均粗さ(RMS)にて表面粗さを算出した結果は、1.7nmであった。
【0047】
熱処理後のサファイア基板の表面(1x1μm2)をAFMにて観察した。サファイア基板表面のAFM像は図2に示すとおりである。二乗平均粗さ(RMS)にて表面粗さを算出した結果は、0.06nmであった。
【0048】
平坦化処理後のガラス基板の表面(1x1μm2)をAFMにて観察した。平坦化処理を行ったガラス表面のAFM像は図3に示すとおりである。二乗平均粗さ(RMS)にて表面粗さを算出した結果は、0.07nmであった。
【0049】
マイカモールド表面(1x1μm2, 5x5nm2)をAFMにて観察した。測定は大気中にてコンタクトモードで行った。マイカ表面のAFM像(1x1μm2)は図4に示すとおりである。二乗平均粗さ(RMS)にて表面粗さを算出した結果は、0.02nmであった。マイカ表面のAFM像(5x5nm2)は図5に示すとおりである。このように、マイカ表面は非常に平坦であり、表面のSiO4四面体によって形成される六員環構造による原子像が見えている。
【0050】
平坦化処理を行ったガラス(図3)に対してマイカの原子パターンを転写したガラス表面の表面像(1x1μm2, 5x5nm2)をAFMにて観察した。測定は大気中にてコンタクトモードで行った。ガラス表面のAFM像(1x1μm2)は図6に示すとおりである。二乗平均粗さ(RMS)にて表面粗さを算出した結果は、0.02nmであった。これより、マイカモールドでインプリントを行ったガラスの表面はマイカ同様非常に平坦な表面を持つことが分かる。インプリントガラスのAFM像(5x5nm2)は図7に示すとおりである。このように、インプリントガラス表面にマイカの原子像が転写されていることが分かる。
【0051】
実施例2の結果について説明する。実施例1と同様に、マイカモールドでインプリントを行ったガラス表面は非常に平坦な表面を持ち(RMS=0.02nm)、表面にはマイカの原子像が転写された。
【0052】
比較例1の結果について説明する。平坦化処理を行っていないガラス(図1)に対してマイカモールドを用いてインプリントを行ったガラスの表面像(1x1μm2)をAFMにて観察した。測定は大気中にてコンタクトモードで行った。ガラス表面のAFM像(1x1μm2)は図8に示すとおりである。二乗平均粗さ(RMS)にて表面粗さを算出した結果は、0.2nmであった。このように、平坦化処理を行っていないガラスに対しマイカモールドでインプリントを行っても表面は完全に平坦化されず原子パターンを転写することは困難である。
【0053】
XPS測定
実施例1の結果について説明する。ガラス基板、マイカモールド、およびマイカモールドを使用してナノインプリントを行ったガラス基板の表面をXPSにて分析した。測定したXPSスペクトルは図9に示すとおりである。Al2s, K2p, K2sの結合エネルギーはそれぞれ、119, 293, 378evである。各サンプルの、Al2s, K2p, K2sのピークを比較すると、インプリントガラス基板は未処理のガラス基板とピーク強度に違いはなく、マイカモールドのみ強いピーク強度が得られている。
【0054】
また、マイカモールドを使用してナノインプリントを行ったガラスの深さ方向の分析をXPSにて行った。Arイオンでエッチングを行い、ガラスの最表面、深さ3nm, 6nmの組成を分析した。測定したXPSスペクトルは図10に示すとおりである。各サンプルの、Al2s, K2p, K2sのピークを見てみると、エッチング前後でピークに変化はない。この結果から、つぎのことがいえる。すなわち、マイカモールドを使用してナノインプリントを行ったガラス表面にマイカは付着していない。
【0055】
実施例2の結果について説明する。実施例1と同様に、インプリントガラスではマイカに関連したピークはみられず、マイカが表面に付着していないといえる。
【0056】
転写のメカニズム
図3の結果からわかるように、平坦表面を持つサファイア基板でインプリントしたガラスは平坦な表面を持つ。マイカ表面のSiO4四面体の六員環構造は、0.52nmの周期性を持ち、その表面粗さは0.02nmと超平坦である。軟化したガラス表面がマイカ同様に超平坦化することによってマイカ表面の六員環にガラス表面の原子が押し込まれる。これによって、インプリントしたガラス表面にマイカの原子パターンが転写される。比較例1では、図1の結果から分かるように、インプリント前のガラス表面は粗い表面形状をもつ。このガラスに対し、マイカモールドを使用してインプリントを行ってもガラス表面をマイカ表面のように超平坦化させることは難しい。すなわち、インプリントガラス表面の超平坦化が起こらなかったために、軟化したガラスがマイカ表面の原子パターンを反映しなかった。
以上のことから、本実施例によれば、表面を平坦化したガラスを利用することによって、ガラス表面にマイカ表面の原子パターンを転写することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成された被転写体であり、
前記複数の異なる方向の凹凸パターンの繰り返し単位の長さのうち、2つの最小繰り返し単位長さが0.01〜10 nmの範囲内にある
被転写体。
【請求項2】
被転写体の材質は、ガラス、有機高分子化合物などの、ガラス転移点を有する物質である
請求項1記載の被転写体。
【請求項3】
被転写体用の部材の表面に、平坦表面体の表面を接し、加圧加熱する工程と、
前記工程により得られた部材の表面に、鋳型の表面を接し、加圧加熱する工程を有する
被転写体の製造方法。
【請求項4】
被転写体は、表面に、複数の異なる方向に凹凸パターンが形成され、
前記複数の異なる方向の凹凸パターンの繰り返し単位の長さのうち、2つの最小繰り返し単位長さが0.01〜10 nmの範囲内にある
請求項3記載の被転写体の製造方法。
【請求項5】
被転写体の材質は、ガラス、有機高分子化合物などの、ガラス転移点を有する物質である
請求項3記載の被転写体の製造方法。
【請求項6】
鋳型は、マイカまたはグラファイトである
請求項3記載の被転写体の製造方法。
【請求項7】
平坦表面体の表面粗さは、0.01〜1.0 nmの範囲内にある
請求項3記載の被転写体の製造方法。
【請求項8】
平坦表面体の材質は、サファイアまたはチタン酸ストロンチウムである
請求項3記載の被転写体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−96472(P2012−96472A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246915(P2010−246915)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構新エネルギー技術研究開発/革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)/高度秩序構造を有する薄膜多接合太陽電池の研究開発(ナロー/ワイドギャップ、高性能透明導電膜、有機単結晶)産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】