説明

被転写物品に対する接着性がよいハードコート樹脂組成物

【課題】耐磨耗性および耐薬品性に優れ、成形品曲面部においてクラックを発生させず、しかも被転写物品に対する接着性がよいハードコート層を形成することができる、ハードコート樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル当量100〜300g/eq及び重量平均分子量5000〜50000を有するポリマーと(メタ)アクリロイル基6個以下及び重量平均分子量1000〜10000を有するオリゴマーとを、70/30〜95/5の重量比で含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物品の表面を保護するのに用いられる表面保護転写シートのハードコート樹脂組成物に関し、特に被転写物品に対する接着性がよいハードコート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
転写シートを用いてプラスチック部品や外装品のような物品の表面を保護又は装飾する方法は従来から知られている。例えば、特許文献1には支持体である基体シートの面上に転写層が形成された転写シート、及びその転写シートを射出成形金型内に挿入し、インモールド射出成形し、その後、基体シートを剥離して、装飾された射出成形体を得ること(射出成形同時転写)が記載されている。
【0003】
転写シートは、支持体である基体シート上に転写層が設けられた構成であり、この転写層が基体シートから被装飾物品の表面に転写される。被装飾物品の表面に転写された転写層は樹脂又は図柄が層状に積層された積層体であり、物品表面に保護被覆又は装飾被覆を形成する。
【0004】
装飾物品に対する保護機能が重視される用途では、転写層の最外側にはハードコート層が設けられる。ハードコート層とは高い硬度を示す被覆層をいう。ハードコート層は硬度を維持するのに必要な厚み又は樹脂量を有し、架橋樹脂を含む。ハードコート層を形成するのに用いる樹脂組成物はハードコート樹脂組成物と呼ばれる。
【0005】
特許文献2には、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する、活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物が記載されている。このハードコート樹脂組成物は、耐磨耗性に優れたハードコート層を形成することができる。
【0006】
転写シートの用途として、物品に対する装飾機能は不要で保護機能のみが要求される場合がある。その場合は、転写シートの製造時に図柄層の形成は省略され、基体シートの面上にハードコート層のみを形成すれば足りる。ハードコート層を有し、図柄層を有しない転写シートを、本明細書では、「表面保護転写シート」という。
【0007】
しかしながら、特許文献2のハードコート樹脂組成物は接着性に乏しく、このハードコート樹脂組成物から形成されるハードコート層を、射出成形同時転写法によって直接物品に転写することは困難である。そのため、装飾物品に対する保護機能のみが要求される場合であっても、上記ハードコート層の表面にアンカー層及び接着層を形成して、被転写物品との接着性を高める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−264321
【特許文献2】特開平10−67047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、耐磨耗性に優れ、しかも被転写物品に対する接着性がよいハードコート層を形成することができる、ハードコート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq及び重量平均分子量5000〜50000を有するポリマーと(メタ)アクリロイル基6個以下及び重量平均分子量1000〜10000を有するオリゴマーとを、70/30〜95/5の重量比で含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物を提供する。
【0011】
ある一形態においては、前記オリゴマーが、ポリカーボネートポリオール又はポリエステルポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるポリイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとを、反応させて得られる多官能ウレタンアクリレートオリゴマーである。
【0012】
ある一形態においては、前記活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物は成分として多官能イソシアネートを更に含有し、前記ポリマーは500以下の水酸基価を更に有する。
【0013】
ある一形態においては、前記活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物は成分として多官能アクリレートのモノマー又はオリゴマーを更に含有する。
【0014】
また、本発明は、基体シートの面上にハードコート層を有する表面保護転写シートであって、
該ハードコート層は、上記いずれかの活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物から形成されたものである、表面保護転写シートを提供する。
【0015】
また、本発明は、成形用金型内に、基体シートが金型の内面に接するような向きに上記表面保護転写シートを送り込む工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が表面保護転写シートの接着層側(基体シートの反対側)の面に接するように、溶融樹脂を金型内に充満させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を保護する方法を提供する。
【0016】
尚、本明細書では、「図柄層」という文言の意味には、柄を形成しない着色層も含めることとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のハードコート樹脂組成物は被転写物品に対する接着性がよい。そのため、表面保護転写シートの製造時にアンカー層及び接着層の形成を省略することができ、表面保護転写シートの製造工程が簡略化され、製造コストが減少する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である表面保護転写シートの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ハードコート樹脂組成物
本発明のハードコート樹脂組成物は(メタ)アクリロイル基を有するポリマーを含有する。(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは重量平均分子量が5000〜50000、好ましくは8000〜40000である。ポリマーの重量平均分子量が5000未満であると照射硬化前のハードコート層に粘着性が残存するため、基体シートにハードコート層を形成した段階で一旦巻き取ることが困難になる。また、ポリマーの重量平均分子量が50000を超える場合にはハードコート樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎ、塗布作業性が低下する。
【0020】
(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは、(メタ)アクリル当量が100〜300g/eq、好ましくは150〜300g/eqである。(メタ)アクリル当量が100g/eq未満のものは得ることが難しく、300g/eqを超える場合は照射硬化後のハードコート層の耐磨耗性が不十分になる。
【0021】
照射硬化前のハードコート層の粘着性を低く保つために、ハードコート樹脂組成物の成分として多官能イソシアネートを使用してもよい。その場合、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは水酸基を有することが好ましく、例えば、ポリマーの水酸基価は500以下、好ましくは100〜300である。ポリマーの水酸基価が500を超えるとポリマーが凝集し塗工時のブツ、ムラの原因となる。
【0022】
(メタ)アクリロイル基を有するポリマーの製造方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を採用できる。例えば、[1]水酸基を含有する重合体の側鎖の一部に(メタ)アクリロイル基を導入する方法、[2]カルボキシル基を含有する共重合体に水酸基を含有するα,β−不飽和単量体を縮合反応させる方法、[3]カルボキシル基を含有する共重合体にエポキシ基を含有するα,β−不飽和単量体を付加反応させる方法、[4]エポキシ基含有重合体にα,β−不飽和カルボン酸を反応させる方法などがある。
【0023】
方法[4]を例にとり、本発明で用いるポリマーの製造方法をより具体的に説明する。例えば、グリシジル基を有するポリマーにアクリル酸などのα,β−不飽和カルボン酸を反応させる方法により本発明で用いるポリマーを容易に得ることができる。グリシジル基を有するポリマーとして好ましいのは、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体、およびグリシジル(メタ)アクリレートとカルボキシル基を含有しないα,β−不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。このカルボキシル基を含有しないα,β−不飽和単量体としては、各種の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどが例示できる。カルボキシル基を含有するα,β−不飽和単量体を用いると、グリシジル(メタ)アクリレートとの共重合反応時に架橋が生じ、高粘度化やゲル化するため、好ましくない。
【0024】
また、本発明のハードコート樹脂組成物は(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーを含有する。そうすることで、加熱下で転写を行う場合に、得られるハードコート層の接着性、特に、被転写物品に対する接着性が向上する。ハードコート層の被転写物品に対する接着性が向上する理由は、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーを含有することでハードコート層の融点が低下し、加熱下で融解し易くなるためと考えられる。
【0025】
(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーは重量平均分子量が1000〜10000、好ましくは2000〜8000より好ましくは3000〜7000である。オリゴマーの重量平均分子量が1000未満であるとハードコート樹脂組成物の接着性が低下し、さらには耐ブロッキング性の機能も低下する。10000を超えるとポリマーに対する相溶性が低下し、ポリマーとオリゴマーが分離するのでハードコート樹脂組成物の接着性が極めて小さくなる。
【0026】
(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーは6個以下、好ましくは2〜4個の(メタ)アクリロイル基を有する。分子内の(メタ)アクリロイル基の数が2個未満であると反応点が少なく活性エネルギー線を照射しても充分な硬度が得られない。分子内の(メタ)アクリロイル基の数が6個を超えるとポリマーに対する相溶性が低下し、ハードコート樹脂組成物に活性エネルギー線を照射してもポリマーとオリゴマーが反応し難くなるので、ハードコート層の耐磨耗性が不十分になる。
【0027】
好ましい(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーは多官能ウレタンアクリレートオリゴマーである。多官能ウレタンアクリレートオリゴマーの中でも、2官能ウレタンアクリレートオリゴマーが好ましい。2官能以上のウレタンアクリレートオリゴマーだと溶液中で凝集する場合があるからである。
【0028】
多官能ウレタンアクリレートオリゴマーは、例えば、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるポリイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとを、反応させて得られる。
【0029】
多官能ウレタンアクリレートオリゴマーの調製に用いられるポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。中でもポリカーボネートポリオールは、分子中のカーボネート部分の硬度に優れ、磨耗性の向上に効果があるために、好ましい。
【0030】
ポリカーボネートポリオールとしてはポリカーボネートジオールが好ましい。ポリカーボネートジオールは、ジオールと炭酸エステルとを重縮合反応させて製造される。
【0031】
その際、炭酸エステルとしては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が用いられる。ジオールとしては、1,4−ブタンジオール、1,6−へキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコール等が用いられる。これらは2種類以上を併用してもよい。
【0032】
また、ポリエステルポリオールとしてはポリエステルジオールが好ましい。ポリエステルジオールは、ジオールとジカルボン酸もしくはジカルボン酸クロライドとを重縮合反応させるか、ジオールまたはジカルボン酸をエステル化して、エステル交換反応させて製造される。
【0033】
その際、ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等が用いられる。ジオールとしてはエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール等が用いられる。これらは2種類以上を併用してもよい。
【0034】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合体等が用いられる。
【0035】
ジイソシアネートとしては、直鎖式あるいは環式の脂肪族ジイソシアネートが用いられる。代表的なものとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0036】
水酸基を有するアクリレートモノマーの例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレートが挙げられる。
【0037】
本発明のハードコート樹脂組成物に含有される(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーの割合は、重量比で70/30〜95/5、好ましくは75/25〜95/5、より好ましくは85/15〜95/5である。ポリマーとオリゴマーの重量比が70/30未満であると照射硬化前のハードコート層に粘着性が残存するため、耐ブロッキングの問題が発生する。また、ハードコート樹脂組成物の光硬化性が低下し、95/5を超えるとハードコート樹脂組成物の接着性が低下する。
【0038】
本発明のハードコート樹脂組成物に多官能イソシアネートを含有させる場合は、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと多官能イソシアネートの使用割合は、ポリマー中の水酸基数とイソシアネート基数との割合が1/1〜1/0.01、好ましくは1/0.8〜1/0.05となるように決定される。
【0039】
上記多官能イソシアネートとしては、格別の限定はなく、公知各種を使用できる。たとえば、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニールメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、上記の3量体、多価アルコールと上記ジイソシアネートを反応させたプレポリマーなどを用いることができる。してもよい。そうすることで、照射硬化前のハードコート層の耐ブロッキング性がより向上する。
【0040】
本発明のハードコート樹脂組成物には、多官能アクリレートのモノマー又はオリゴマーを含有させてもよい。そうすることで、射出成形体に対して別の物性を付与することができる。
【0041】
本発明のハードコート樹脂組成物に多官能アクリレートのモノマー又はオリゴマーを含有させる場合は、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと多官能アクリレートのモノマー又はオリゴマーの使用割合は、20重量%以下となるように決定される。多官能アクリレートのモノマー又はオリゴマーの使用割合が20重量%を超えると照射硬化前の耐ブロッキング性が担保されないため、塗工不良の原因となる。
【0042】
多官能アクリレートのモノマー又はオリゴマーの具体例は、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロラクトン変性ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどが、挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種類以上混合して使用しても良い。
【0043】
また、本発明のハードコート樹脂組成物には、不溶性及び硬質の粒子を含有させてもよい。そうすることで、ハードコート層の表面が粗面化されて、耐ブロッキング性がより向上する。
【0044】
本発明のハードコート樹脂組成物に不溶性及び硬質の粒子を含有させる場合、粒子は、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーに対して15重量%以下、好ましくは5重量%〜10重量%になる量で使用される。不溶性及び硬質の粒子の使用量が15重量%を超えると不溶性及び硬質の粒子が沈降する。
【0045】
かかる粒子の具体例としては、シリカゾル又は金属酸化物粒子が挙げられる。金属酸化物粒子は、例えば、アルミニウム、チタニウム、珪素、ジルコニウム、マグネシウム等の金属の酸化物が挙げられる。具体的には、例えばα−アルミナ等のアルミナ等である。この様な、金属酸化物粒子は、例えば、平均粒径2〜3μmで、粒径分布の最小値が0.01μm、最大値が6μmの範囲に入るものが、良好な耐摩耗性が得られる点で好ましい。
【0046】
また、金属酸化物粒子の形状は、球形又は球形に近い形状、例えば回転楕円体等が塗工適性が良く(筋などが発生しない)、また表面保護転写シートが成形される場合に、成形時に保護層に亀裂や破断も生じ難く、好ましい。なお、形状としては、その他、鱗片状、多角形状等の形状のものも使用し得る。
【0047】
本発明のハードコート樹脂組成物は、光硬化型である場合は、ラジカル開始能を有する光重合開始剤を含有する。光重合開始剤は、一般に、本発明のハードコート樹脂組成物100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部の範囲で用いられる。
【0048】
光重合開始剤としては、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(−4−モルフォリノフェニル)ブタノン、2−メチル−1[4−メチルチオフェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン等が用いられる。
【0049】
本発明のハードコート樹脂組成物が電子線硬化型である場合、光重合開始剤を含有させる必要はない。
【0050】
本発明のハードコート樹脂組成物には、グラビアインキに通常用いられる助剤を含有させてよい。かかる助剤には、着色剤、レベリング剤、消泡剤、艶消剤、ワックス、剥離調整剤、帯電防止剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、光増感剤等が挙げられる。
【0051】
表面保護転写シート
図1は本発明の一実施形態である表面保護転写シートの構造を模式的に示す断面図である。基体シート1の片面に接してハードコート層2が設けられている。基体シート1は、ハードコート層2との境界となる面上に、離型層(非表示)を有してよい。
【0052】
基体シート
基体シート1は、図柄層や着色層をシート上に支持する用途に従来から使用されるシート材料又はフィルム材料から構成される。フィルム材料は合成樹脂からなるシート材料をいう。合成樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などが使用できる。
【0053】
基体シートは、射出成形同時転写を行った後に転写層から剥離される。
【0054】
ハードコート層
ハードコート層2は、例えば、適当な溶媒を含むハードコート樹脂組成物を用いて形成される。例えば、この組成物を基体シートの面上に被覆し、乾燥させて、層状に成形する。層状に成形されたハードコート層は、必要に応じて、架橋させるために更に加熱等してもよい。ハードコート樹脂組成物はグラビア印刷が可能なインキ組成物であることが好ましい。
【0055】
基体シート1の面上にハードコート層2を形成するには、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法など通常の印刷法を用いるとよい。効率的に形成するためには、これらの中でもグラビア印刷法を用いることが好ましい。
【0056】
ハードコート層の厚みは0.3μm〜50μmとする。0.3μm未満であれば、充分な表面硬度が得られず、物品表面の保護機能が維持できない。一方、50μmを越えると、ハードコート層の充分な透明度が得られず着色層からの装飾機能を損なうこととなる。より好ましいハードコート層の厚みは2〜10μmである。
【0057】
ハードコート層は形成した後に架橋させることが好ましい。基体シートの表面からの剥離性が良好になるからである。架橋の程度は完全に架橋させてもよいし、また、基体シートの表面からの良好な剥離性が得られる最低限度の部分的な架橋に留めてもよい。架橋を部分的に留める場合は、ハードコート層は転写後に完全に架橋させることが好ましい。
【0058】
例えば、ハードコート樹脂組成物の成分として多官能イソシアネートを使用する場合は、基体シートの表面上にハードコート樹脂組成物を塗布し、乾燥させて層状に成形した後、これを加熱して熱架橋反応性生物にすることが好ましい。この熱架橋反応生成物はタックフリーの状態にあるため、ハードコート層上に他の層を刷り重ねたり表面保護転写シートを巻き取ったりすることが容易になる。この加熱しただけの段階では、ハードコート樹脂組成物に含まれる(メタ)アクリロイル基は架橋されていないので、樹脂は完全に架橋硬化していない。状態換言すれば半ば架橋硬化の状態となる。
【0059】
物品の保護方法
本発明の表面保護転写シートを使用して熱ロール転写又はインモールド成形などにより、物品を保護することができる。例えば、熱ロール転写においては、表面保護転写シートの内側(接着層側)の面を被装飾物の表面に重ね、ロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用いて、表面保護転写シートの基体シート側から熱及び圧力をかける。こうすることにより、表面保護転写シートが被装飾物の表面に接着し、物品の表面が保護される。
【0060】
また、インモールド射出成形においては、まず、成形用金型内に、表面保護転写シートを送り込む。その際、表面保護転写シートの向きは、外側(即ち、基体シート側)が金型キャビティ面を向くように合わせる。
【0061】
次いで、金型を閉じ、溶融樹脂が表面保護転写シートの内側(即ち、ハードコート層側)の面に接するように、即ち、表面保護転写シートが溶融樹脂と金型キャビティ面に挟まれるように、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填させる。その結果、溶融樹脂は成形され、同時に表面保護転写シートは射出成形体の表面に接着される。樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出すと、ハードコート層が射出成形体の表面に接着されて、射出成形体の表面が保護される。
【0062】
最後に、基体シートを剥離し、ハードコート層に活性エネルギー線を照射することにより、ハードコート層を完全に架橋硬化させる。活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、γ線などを挙げることができる。照射条件は、ハードコート樹脂組成物の種類に応じて定められる。
【0063】
被転写物品の材質は、従来から転写シートによって装飾されてきたもの、又は接着層の成分を工夫して転写層をその表面に接着させることができるものであれば特に限定されない。各種合成樹脂、金属、ガラス、木、紙でなる部材、これらの塗装物及び装飾物は、被装飾物として用いられる。
【0064】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特に断りなき限り重量基準である。
【実施例】
【0065】
実施例1〜9、比較例1〜8
幅650mm、厚み38×10−3mm(38μm)の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人社製、商品名:テイジンRテトロンRフィルム G2)を基体シートとして用いた。この基体シートの一方の面に、グラビア印刷法を用いて、メラミン樹脂11%を含有するインキ(DIC社製、商品名:J-820-60)を印刷して、離型層を形成した。離型層の乾燥厚さは2.5μmとした。
【0066】
次いで、表1及び表2に示す(メタ)アクリロイル基を有するポリマー樹脂と(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーを表1及び表2に示す量でそれぞれ配合し、ハードコート層を形成した。形成したハードコート層は、引き続きラインの中で200度に加熱し、次いで波長600〜700nmの紫外線を照射することにより樹脂を架橋し、得られた中間積層体をロールに巻き取った。
【0067】
得られた表面保護転写シートのタック性について、次のようにして評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0068】
タック性評価
得られた表面保護転写シートのタック性を測定した。タック性の測定方法は、表面保護転写シートのハードコート層が形成された面に2秒ごとに指先を押し付けることにより行った。タック性の評価は、上記方法で指先にべたつきが感じられなくなるまでに要した時間に基づいて、下記のように行った。
【0069】
評価基準

【0070】
得られた表面保護転写シートを用いて、透明アクリル板に転写を行ったところ、透明アクリル板の表面にハードコート層が形成された加飾成形品を得た。得られた加飾成形品の表面について、次のようにして評価した。結果を表1に示す。
【0071】
ハードコート層の耐摩耗性評価
加飾成形品の表面に形成されたハードコート層が備える耐摩耗性について測定した。耐摩耗性の測定方法はJIS K5600−5−4に準拠して実施した。なお、ハードコート層の耐摩耗性の評価はJIS K5600−5−4に記載されている引っかき硬度(鉛筆硬度)を基づいて下記のように行った。
【0072】
評価基準

【0073】
ハードコート層とアクリル板の密着性評価
加飾成形品におけるハードコート層と透明アクリル板の密着性について測定した。密着性の測定方法は、JIS K5600−5−6に記載されているクロスカット法に準拠して行った。なお、ハードコート層と透明アクリル板の密着性評価は、下記のように行った。
【0074】
評価基準

【0075】
耐ブロッキング性
転写シートにおけるハードコート層の耐ブロッキングについて測定した。密着性の測定方法は、JIS K5701−1の6.2.2に記載されている耐ブロッキング性に準拠して行った。なおハードコート層の耐ブロッキング性評価は、測定結果に基づき下記のように行った。
【0076】
評価基準

【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【符号の説明】
【0079】
1…基体シート、
2…ハードコート層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル当量100〜300g/eq及び重量平均分子量5000〜50000を有するポリマーと(メタ)アクリロイル基6個以下及び重量平均分子量1000〜10000を有するオリゴマーとを、70/30〜95/5の重量比で含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物。
【請求項2】
前記オリゴマーが、ポリカーボネートポリオール又はポリエステルポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるポリイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとを、反応させて得られる多官能ウレタンアクリレートオリゴマーである、請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物。
【請求項3】
成分として多官能イソシアネートを更に含有し、前記ポリマーは500以下の水酸基価を更に有する請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物。
【請求項4】
成分として多官能アクリレートのモノマー又はオリゴマーを更に含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物。
【請求項5】
基体シートの面上にハードコート層を有する表面保護転写シートであって、
該ハードコート層は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物から形成されたものである、表面保護転写シート。
【請求項6】
成形用金型内に、基体シートが金型の内面に接するような向きに請求項5に記載の表面保護転写シートを送り込む工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が表面保護転写シートのハードコート層側(基体シートの反対側)の面に接するように、溶融樹脂を金型内に充満させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を保護する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−72076(P2013−72076A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214542(P2011−214542)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】