説明

装飾シート

【課題】本発明は、長時間紫外線に暴露された後でも破断強度、色調の変化の少ない、耐候性に優れた装飾用粘着シートの提供を目的とする。
【解決手段】基材と、粘着剤層とを含む装飾シートであって、前記基材が、塩化ビニル樹脂と、下記一般式(1)で示される紫外線吸収剤と、金属石鹸(a1)および有機錫化合物(a2)からなる群より選択される1種以上の化合物からなる熱安定剤(A)とを含み、さらに塩化ビニル樹脂100重量部に対して、下記一般式(1)で示される紫外線吸収剤を0.5〜20重量部、熱安定剤(A)を1〜10重量部含むことを特徴とする装飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外看板、ウインドウディスプレイ、車両マーキングなどに用いられる装飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、外装板、建材、各種案内板、交通標識、屋外広告、看板、シャッター、ウインドウ、自動車、二輪車などに着色、装飾、表示を施すために、様々なプラスチックを基材とする装飾シートが使用されている。これら装飾シートは屋外で使用されることが多く、そのため屋外での長期経時でも変色・退色が小さく、且つ立体看板や自動車などの3次曲面を有する被着体に追従する適度な柔軟性を有することが要求される。
【0003】
また、これら装飾シートは一定期間被着体に貼付し使用した後、被着体に新たな表示を施すのが一般的であるため、古い装飾シートを被着体から剥離する必要がある。その際、長期間の屋外暴露により装飾シートの基材の強度が劣化していると、被着体から装飾シートを剥離する際にシートが破断してしまい、効率よく装飾シートの変更を行うことができない。従って、屋外で使用される装飾シートには、屋外で長期間使用された後も劣化せず十分なフィルム強度を有していることが求められる。
【0004】
一方、屋外で使用される装飾シートの基材には、シートの柔軟性、強度、コストの点から半硬質もしくは軟質の塩化ビニル樹脂が多く用いられている。通常、塩化ビニル樹脂を屋外で使用する場合には耐候性を向上させる目的で各種の紫外線吸収剤が配合されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤やベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有した装飾シートが開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、より耐候性向上効果の大きいトリアジン系紫外線吸収剤を含有した装飾シートが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−342435号公報
【特許文献2】特開2009−190355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のシートは、屋外で長期間使用された後の外観や強度が十分ではなく、屋外で長期間使用される装飾シートとしては耐候性の点で不十分であった。
【0008】
また、特許文献2のシートも耐候性の点で満足いくものではなかった。
【0009】
本発明は、長時間紫外線に暴露された後でも破断強度や色調の変化が少ない耐候性に優れた装飾シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、塩化ビニル樹脂を主成分とする基材に、特定構造の紫外線吸収剤と、熱安定剤として金属石鹸または有機錫化合物の少なくともいずれか一方を、それぞれ特定量配合することにより構成した装飾シートを発明した。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した本発明によれば、紫外線吸収剤と熱安定剤を組み合わせることにより、互いの安定化効果を損ねることなく塩化ビニル樹脂の熱劣化と光劣化を効果的に抑制し、長時間屋外に暴露した後も装飾シートの破断強度や色調の変化を最小限に抑制する驚くべき特性を見出した。これは紫外線吸収剤と熱安定剤をそれぞれ単独で使用した場合と比較して格段の効果である。これにより耐候性に優れた装飾シートを提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の基材に使用する塩化ビニル樹脂は、特に制限はなく、マーキングフィルム用途に従来使用されている塩化ビニル樹脂を使用することができる。また、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルモノマーの単独重合体のほかに、塩化ビニルモノマー以外のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0013】
塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのオレフィン系単量体、酢酸ビニル、クロル酢酸ビニル、プロピオン酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体、塩化ビニリデン、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル単量体が挙げられる。
【0014】
また、基材には塩化ビニル樹脂以外の樹脂を含んでも良い。当該樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、MBS樹脂等が好ましい。これらの中でも、塩化ビニル樹脂との相溶性が良好で、かつ湿熱耐久性などの耐候性がより向上するためアクリル樹脂がより好ましい。
【0015】
アクリル樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、それ以外のビニル系単量体との共重合体が好ましい。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸やメタクリル酸とのアルキルアルコールのエステルであり、前記アルキルの炭素数は1〜18が好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、エポキシステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
それ以外のビニル系単量体は、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、ビニリデンクロリド等のハロゲン化オレフィン類、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリルアミド、メタアクリルアミド等のアクリルアミド類、アクロニトリル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。アクリル樹脂の重量平均分子量は5,000以上500,000以下であることが好ましい。
【0019】
本発明において基材は、基材層の耐候性を向上させる目的で下記一般式(1)で示される紫外線吸収剤を含有することが重要である。
一般式(1)
【0020】
【化1】

【0021】
(但し、R1は、置換基を有してもよいビフェニル基であり、R2は、置換基を有してもよいフェニル基又はビフェニル基を示し、R3は−(CH2−CH2−O−)n−R4又は−CH2−CH(OH)−CH2−O−R4又は−CH(R5)−CO−O−R6を示し、nは0又は1であり、R4はC1〜C13のアルキル基又はC2〜C20のアルケニル基またはC6〜C12のアリール基またはCO−C1〜C18のアルキル基であり、R5はH又はC1〜C8のアルキル基であり、R6はC1〜C12のアルキル基又はC2〜C12のアルケニル基又はC5〜C6のシクロアルキル基である。)
上記一般式(1)中のR1及びR2は下記一般式(3)で示される置換基であることが好ましく、一般式(3)中のqが1、X1及びX2が水素原子であることがさらに好ましい。また、R3は−CH(R5)−CO−O−R6であることが好ましく、R5が−CH3、R6が−C817であることがさらに好ましい。
一般式(3)
【0022】
【化2】

【0023】
(但し、X1、X2は互いに独立して水素原子又はヒドロキシル基、二トリル基、C1〜C20のアルコキシ基、C1〜C12のアルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基を示し、qは0又は1を示し、qが0の場合にはX1及びX2はヒドロキシル基を表さない。)
本発明において、一般式(1)で示される紫外線吸収剤は、下記化学式(4)で示される化合物が好ましい。化学式(4)は、例えばチバ・スペシャリティケミカルズ社製「TINUVIN479」を使用できる。
化合物(4)
【0024】
【化3】

【0025】
本発明において一般式(1)で示される紫外線吸収剤は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、耐候性及び初期着色性の点から0.5〜20重量部用いることが好ましく、2〜10重量部がより好ましい。0.5重量部より少ないと耐候性向上効果が不十分となる恐れがある。一方、20重量部より多いと、紫外線吸収剤が可視光域の波長を過剰に吸収してしまうため、得られるシートに初期着色が発生する恐れがある。
【0026】
また、基材には、本発明の効果を損なわない範囲であれば一般式(1)で示される紫外線吸収剤以外の紫外線吸収剤を併用しても良い。具体的には、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノール系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0027】
本発明において熱安定剤(A)は、金属石鹸(a1)、および錫化合物(a2)からなる群より選択される1種以上の化合物からなり、シート成型時の加熱着色を防ぐ目的で用いられる。
【0028】
金属石鹸(a1)としては、置換基を有するまたは有しない、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、多価カルボン酸およびフェノール化合物からなる群より選択される1種と、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、錫、鉛、亜鉛からなる群より選択される金属との塩を用いることが好ましい。
【0029】
飽和脂肪酸の例としては、ヘキサン酸、オクタン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、イソデカン酸、ミリスチン酸、プロピオン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、2−エチルヘキサン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、カプリン酸、カプロン酸、乳酸、ナフテン酸、ベヘン酸、メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
【0030】
不飽和脂肪酸の例としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アトロバ酸、クロトン酸、イソクロトン酸、リシノール酸、パルミトレイン酸、ミリストレイン酸、メタクリル酸、安息香酸、エチル安息香酸、4−tert−ブチル安息香酸、クロロ安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、ケイ皮酸、サリチル酸、アニス酸、キシリル酸、トルイル酸、ニコチン酸、フェニルステアリン酸等が挙げられる。
【0031】
多価カルボン酸の例としては、アジピン酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アゼライン酸、グルタル酸、スベリン酸、セバシン酸、ピメリン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0032】
フェノール化合物の例としては、ノニルフェノール、4−tert−ブチルフェノール、4−オクチルフェノール、ジノニルフェノール、デシルフェノール、ドデシルフェノール等が挙げられる。
【0033】
本発明では、置換基を有するまたは有しない、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、多価カルボン酸およびフェノール化合物からなる群より選択される1種の化合物は、飽和脂肪酸またはフェノール化合物が好ましく、飽和脂肪酸とフェノール化合物の組合せがより好ましい。
【0034】
これらと塩化合物を構成する金属石鹸の具体例としては、カルシウムオクトエート、カルシウムステアレート、カルシウムヒドロキシステアレート、カルシウムベヘネート、カルシウムベンゾエート、カルシウムミリステート、バリウムオクトエート、バリウムステアレート、バリウムヒドロキシステアレート、バリウムベヘネート、バリウムベンゾエート、バリウムミリステート、バリウムノニルフェネート、マグネシウムオクトエート、マグネシウムステアレート、マグネシウムヒドロキシステアレート、マグネシウムベヘネート、マグネシウムベンゾエート、マグネシウムミリステート、リチウムオクトエート、リチウムステアレート、リチウムヒドロキシステアレート、リチウムベヘネート、リチウムベンゾエート、リチウムミリステート、ジンクオクトエート、ジンクステアレート、ジンクヒドロキシステアレート、ジンクべへネート、ジンクベンゾエート、ジンクミリステート等が挙げられる。
【0035】
本発明では、金属石鹸(a1)として、ジンクオクトエート、バリウムノニルフェノールが好ましい。
【0036】
有機錫化合物(a2)としては、下記一般式(2)で示される化合物を用いることが好ましい。
【0037】
7m−Sn−Y4-m 一般式(2)
(但し、R7はC1〜C12のアルキル基、Yはメルカプト基又はマレエート基又はカルボキシレート基であり、mは1又は2である)
一般式(2)で示される化合物として具体的には、ジメチル錫ジラウレート、ジメチル錫ジマレエート、ジメチル錫ジメルカプチド、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジメルカプチド、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジマレエート、ジオクチル錫ジメルカプチド等が挙げられる。本発明では、ジオクチル錫ジメルカプチドが好ましい。
【0038】
本発明において熱安定剤(A)は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、1〜10重量部が好ましく、2〜5重量部がより好ましい。1重量部より少ない場合には安定化効果が不十分でシート成型時に着色が生じる恐れがある。一方、10重量部より多いと経年変化により熱安定剤が装飾シート表面にブリードし、外観が損なわれる恐れがある。
【0039】
また、基材には、本発明の効果を損なわない範囲であれば他の熱安定剤を併用しても良い。具体的にはエポキシ化合物、有機ホスファイト化合物等が挙げられる。エポキシ化合物として具体的には、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。有機ホスファイト化合物として具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0040】
本発明において基材には、シートに柔軟性、伸張性を付与するために可塑剤を含有することができる。可塑剤としては特に制限はなく、一般に塩化ビニル用として使用されるフタル酸系可塑剤、二塩基酸とグリコールからなるポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤等を用いることができる。
【0041】
フタル酸系可塑剤としては具体的に、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート等が挙げられる。
【0042】
二塩基酸とグリコールからなるポリエステル系可塑剤としては、マレイン酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸等の二塩基と、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等のグリコールからなる可塑剤である。
【0043】
エポキシ系可塑剤としては具体的に、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油等が挙げられる。
【0044】
これらの可塑剤は1種、または2種以上を混合して用いてもよく、その使用量は塩化ビニル樹脂100重量部に対して、10〜100重量部であることが好ましい。10重量部より小さい場合にはシートの柔軟性、伸張性が不十分となり、3次曲面などへの施工が困難となる恐れがある。100重量部より大きい場合にはシートが軟化しすぎ、作業性が低下する恐れがある。
【0045】
また、本発明の基材には、意匠性、隠蔽性を付与するために顔料や染料等の各種の着色剤を含有することができる。顔料としては、従来公知のものを用いることができるが、なかでも、耐光性、耐候性の高いものが好ましい。具体的には、例えば、キナクリドン系、アンスラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、モノアゾ系、不溶性アゾ系、ナフトール系、フラバンスロン系、アンスラピリミジン系、キノフタロン系、ピランスロン系、ピラゾロン系、チオインジゴ系、アンスアンスロン系、ジオキサジン系、フタロシアニン系、インダンスロン系等の有機顔料や、ニッケルジオキシンイエロー、銅アゾメチンイエロー等の金属錯体、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等の金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどの金属塩、カーボンブラック、アルミニウム、雲母などの無機顔料、アルミニウムなどの金属微粉やマイカ微粉等挙げられる。染料としては、例えば、アゾ系、キノリン系、スチルベン系、チアゾール系、インジゴイド系、アントラキノン系、オキサジン系等が挙げられる。これら着色剤は、粉体をそのまま用いても構わないし、あらかじめ樹脂等と混合して着色ペースト、着色ペレット等に加工してから用いても構わない。着色剤の添加量は塩化ビニル樹脂100重量部に対して、150重量部以下であることが好ましく、100重量部以下がさらに好ましい。
【0046】
また、本発明において、基材には必要に応じ、本発明の効果を妨げない範囲で、光安定剤、ラジカル捕捉剤、充填剤、チクソトロピー付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、ダレ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、増粘剤、減粘剤、顔料分散剤、シランカップリング剤、改質剤等の各種の添加剤を添加してもよい。
【0047】
本発明において装飾シートは、上記のような塩化ビニル樹脂、紫外線吸収剤、熱安定剤、可塑剤、溶剤、及び添加剤等の混合物をシート成型して基材を作成し、その基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を形成することで得られる。
【0048】
上記混合物は、塩化ビニル樹脂に、上記の紫外線吸収剤、熱安定剤、可塑剤、溶剤及び添加剤等を混合して塗液、所謂塩ビゾルを作成する場合、塩化ビニル樹脂加工に通常使用される混合攪拌機を用いればよく、例えばディゾルバー、プラネタリミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、三本ロール、サンドミル等を用いればよい。
【0049】
また、上記のように塩ビゾルを作成する場合、塩ビゾルの粘度を調整する目的で適当な溶剤を用いることができる。適当な溶剤としては例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、イソホロン等のケトン類、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類、エクソン社製「ソルベッソ100」、「ソルベッソ150」、「ソルベッソ200」等の芳香族混合溶剤等が挙げられる。また、これら溶剤は2種以上を併用してもよい。
【0050】
基材をシート成型する方法としては、例えば、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、カーテンコート方式、スロットオリフィス方式、スプレーコート方式、バーコート方式等が挙げられる。例えばキャスト方式を用いて成型する場合は、塩ビゾルを剥離性シートの一方の面に塗布し、加熱乾燥させることで基材を成型できる。塩ビゾルの加熱乾燥は通常、室温〜350℃で行われるが、溶剤の揮発温度、生産性の向上の点から、30〜250℃で行うことが好ましい。乾燥後の基材の厚みは柔軟性、伸張性、施工性、生産性の点から10〜200μmが好ましく、30〜100μmがさらに好ましい。
【0051】
剥離性シートとしては、例えば、紙、またはポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロースアセテート等のプラスチックフィルムや、アルミ、ステンレスなどの金属箔等の片面または両面に剥離処理を施したシートを用いることができ、厚みが10〜250μmのものが好適に使用される。
【0052】
装飾シートは、基材の一方の面、あるいは剥離性シート上に粘着剤を塗工し乾燥し、それぞれ剥離性シートあるいは塩化ビニル基材を貼り合せることで製造できる。粘着剤としては、例えば、一般的な天然ゴム、合成イソプレンゴム、再生ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンゴム等を主成分とするゴム系粘着剤や、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコン系粘着剤等を用いることができ、用途、被着体の材質に応じた適当な粘着力を有する物を選択することができる。
【0053】
粘着剤の塗工は、粘着剤の種類、塗工適性に応じ、従来公知の方法、例えば、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、バーコート方式等を用いることができる。粘着剤層の厚みは1〜200μmが好ましく、10〜50μmがさらに好ましい。
【0054】
本発明の装飾シートにおける破断強度保持率は50%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。尚、ここで述べる破断強度保持率とは、以下の測定方法で求められる。
【0055】
[破断強度保持率]
得られた装飾シートについて、促進耐候性試験機(スガ試験機株式会社製「メタリングバーチカルウェザーメーター MV3000」)を用いて、紫外線照射試験1時間42分、照射及び降雨試験18分を1サイクルとし、100サイクル、つまり200時間の促進耐候性試験を行い、試験前、及び試験後の装飾シートから幅10mmの試験片を採取し、引張試験機に取り付け、レンジ10kg、速度30cm/分の条件で引っ張り、試験片が破断に至るまでの最大荷重をシートの破断強度として測定し、以下の計算式により破断強度保持率を計算する。
破断強度保持率:[(耐候性試験後の破断強度)/(耐候性試験前の破断強度)]×100
装飾シートの破断強度保持率が50%未満の場合、長期間屋外暴露された装飾シートを被着体から剥離する際にシートが破断し、効率よく装飾シートの変更を行うことができなくなる恐れがある。
【0056】
こうして得られた装飾シートは外装板、建材、各種案内板、交通標識、屋外広告、看板、シャッター、ウインドウ、自動車、二輪車などに着色、装飾、表示を施すために使用される。また、本発明により得られる装飾シートは、長時間紫外線に暴露された後でも伸張性、外観特性が損なわれないため、屋外で長期経時される交通標識、屋外広告、看板、自動車等の装飾、表示材料として好適に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
塩化ビニル樹脂(POLYONE社製「Geon178」)100重量部、前記化学式(4)で示される紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製「TINUVIN479」)3重量部、バリウム・亜鉛系金属石鹸(勝田化工株式会社製「BZ108D」:ジンクオクトエート及びバリウムノニルフェネート混合物)3重量部、ポリエステル系可塑剤(株式会社ADEKA製「アデカサイザーPN280」)30重量部、ヒンダードアミン系光安定剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製「CHIMASSORB944」)1重量部、芳香族系溶剤(エクソン社製「ソルベッソ150」)60重量部をディゾルバーにて均一に混合し、塩ビゾルを作成した。
【0059】
続いて、上記塩ビゾルをコンマコーターを用いて剥離性シートの片面に乾燥後の膜厚が50μmになるように塗布し、200℃で3分間加熱乾燥させ、膜厚50μmの塩化ビニル基材を得た。
【0060】
得られた塩化ビニル基材の片面に、コンマコーターを用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が30μmによるようにアクリル系粘着剤を塗布し、加熱乾燥させ、装飾シートを得た。
【0061】
[実施例2]
紫外線吸収剤(4)の添加量を1重量部とした以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0062】
[実施例3]
紫外線吸収剤(4)の添加量を10重量部とした以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0063】
[実施例4]
バリウム・亜鉛系金属石鹸の添加量を1重量部とした以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0064】
[実施例5]
バリウム・亜鉛系金属石鹸の添加量を5重量部とした以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0065】
[実施例6]
熱安定剤として、バリウム・亜鉛系金属石鹸に代えて、有機錫化合物(株式会社ADEKA製「アデカスタブ465E」:ジオクチル錫ジメルカプチド)3重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0066】
[実施例7]
塩化ビニル樹脂に加えて、東洋インキ製造製アクリル樹脂(メチルメタクリレート/ラウリルメタクリレート=85/15、Tg75℃、重量平均分子量70000)を20重量部添加した以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0067】
[比較例1]
紫外線吸収剤(4)3重量部に代えて、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製「TINUVIN384」)3重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0068】
[比較例2]
紫外線吸収剤(4)3重量部に代えて、シアノアクリレート系紫外線吸収剤(BASF社製「UVINUL3039」)3重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0069】
[比較例3]
紫外線吸収剤(4)の添加量を0.1重量部とした以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0070】
[比較例4]
紫外線吸収剤(4)3重量部に代えて、下記化学式(5)で示される紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製「TINUVIN400」)3重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0071】
化学式(5)
【0072】
【化6】

【0073】
[比較例5]
バリウム・亜鉛系金属石鹸の添加量を0重量部とした以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0074】
[比較例6]
紫外線吸収剤(4)の添加量を0重量部とした以外は実施例1と同様にして、装飾シートを得た。
【0075】
得られた装飾シートを用いて下記の試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0076】
[成膜着色性]
塩ビゾルを200℃で3分間加熱乾燥して得られた塩化ビニル基材の着色性を目視にて5段階で評価した。3以上が実用レベルである。
5:着色なし
4:僅かに着色
3:淡黄色に着色
2:黄色に着色
1:褐色
【0077】
[伸張性]
得られた装飾シートからJIS K6732に準じて試験片を採取し、引張試験機(不動工業株式会社製「REO METER NRM−2010J−CW」)に取り付け、レンジ10kg、速度30cm/分の条件で引っ張り、試験片が破断に至るまでの伸張率を測定し、5段階で評価した。3以上が実用レベルである。
5:180%以上
4:150%以上180%未満
3:100%以上150%未満
2:50%以上100%未満
1:50%未満
【0078】
[耐熱黄変性]
得られた装飾シートを100mm×100mmに切り抜き、アルミ板に貼付して80℃条件下で168時間経時した後のシートの黄変性を目視にて5段階で評価した。3以上が実用レベルである。
5:変化無し
4:僅かに着色
3:淡黄色に着色
2:黄色に着色
1:褐色
【0079】
<促進耐候性試験>
得られた装飾シートを促進耐候性試験機(スガ試験機株式会社製「メタリングバーチカルウェザーメーター MV3000」)を用いて、前記試験条件にて促進耐候性試験を200時間行った。試験前後の装飾シートを色差と破断強度保持率について評価した。
【0080】
[色差]
促進耐候性試験200時間経過前後の装飾シートの色差ΔEを色差計(MINOLTA
株式会社製「CR200」)を用いて測定し、5段階で評価した。3以上が実用レベルである。
5:1未満
4:1以上3未満
3:3以上5未満
2:5以上10未満
1:10以上
【0081】
[破断強度保持率]
引張試験機として不動工業株式会社製「REO METER NRM−2010J−CW」を用い、前記測定方法により装飾シートの破断強度保持率を測定し、5段階で評価した。3以上が実用レベルである。
5:95%以上
4:80%以上95%未満
3:50%以上80%未満
2:25%以上50%未満
1:25%未満
【0082】
[湿熱耐久性]
得られた装飾シートを100mm×100mmに切り抜き、塩化ビニル樹脂100重量部に対してジ−2−エチルヘキシル−フタレートを30重量部含有する軟質塩化ビニルシートに貼付して90℃90%RH条件化で168時間経過した後の装飾シートの外観を目視にて3段階で評価した。△以上が実用レベルである。
○:異常なし
△:僅かにシワ・浮きが発生
×:シワ・浮きが全面に発生
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示すように、実施例1〜7の装飾シートは長時間紫外線に暴露された後も破断強度、色調の変化が少なく、耐候性に優れた装飾シートであることがわかる。一方、比較例1〜6の装飾シートは破断強度、色調の変化が大きく、耐候性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、粘着剤層とを含む装飾シートであって、
前記基材が、塩化ビニル樹脂と、下記一般式(1)で示される紫外線吸収剤と、金属石鹸(a1)および有機錫化合物(a2)からなる群より選択される1種以上の化合物からなる熱安定剤(A)とを含み、
さらに塩化ビニル樹脂100重量部に対して、下記一般式(1)で示される紫外線吸収剤を0.5〜20重量部、熱安定剤(A)を1〜10重量部含むことを特徴とする装飾シート。
一般式(1)
【化1】

(但し、R1は、置換基を有してもよいビフェニル基であり、R2は、置換基を有してもよいフェニル基又はビフェニル基を示し、R3は−(CH2−CH2−O−)n−R4又は−CH2−CH(OH)−CH2−O−R4又は−CH(R5)−CO−O−R6を示し、nは0又は1であり、R4はC1〜C13のアルキル基又はC2〜C20のアルケニル基またはC6〜C12のアリール基またはCO−C1〜C18のアルキル基であり、R5はH又はC1〜C8のアルキル基であり、R6はC1〜C12のアルキル基又はC2〜C12のアルケニル基又はC5〜C6のシクロアルキル基である。)
【請求項2】
金属石鹸(a1)が、置換基を有するまたは有しない、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、多価カルボン酸およびフェノール化合物からなる群より選択される1種と、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、錫、鉛および亜鉛からなる群より選択される金属との塩であることを特徴とする請求項1記載の装飾シート。
【請求項3】
有機錫化合物(a2)が、下記一般式(2)で示される化合物あることを特徴とする請求項1または2記載の装飾シート。
7m−Sn−Y4-m 一般式(2)
(但し、R7はC1〜C12のアルキル基、Yはメルカプト基、マレエート基、またはカルボキシレート基であり、mは1又は2である)
【請求項4】
一般式(1)で示される紫外線吸収剤におけるR1およびR2が、下記一般式(3)で示される置換基であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の装飾シート。
【化2】

(但し、X1及びX2は互いに独立して水素原子又はヒドロキシル基、二トリル基、C1〜C20のアルコキシ基、C1〜C12のアルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基を示し、qは0又は1を示し、qが0の場合にはX1及びX2はヒドロキシル基を示さない。)
【請求項5】
基材が、さらにアクリル樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の装飾シート。

【公開番号】特開2012−97247(P2012−97247A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36260(P2011−36260)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】