説明

装飾体及びその製造方法

【課題】本発明は、入射光の一部から赤色、緑色、青色のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有する干渉光で白色光を反射し、残りの入射光を透過させる装飾体に関する。
【解決手段】装飾体Xは、板体1と、該板体の一方の表面に形成された複数の薄膜を含み、入射した可視光の反射及び透過により干渉光を生成する膜2と、を備える。膜によって生成された前記干渉光は、光の三原色(R、G、B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有するので、白色の反射光を生成でき、入射された光の一部を透過させることができる。白色光による装飾効果が得られ、見せたくない部分を隠すことができる。さらに、干渉光の生成に寄与しない入射光を透過光として有効に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の薄膜を板体の表面に積層形成した膜によって、入射された光の反射及び屈折による干渉光を生成する装飾体及びその製造方法に関し、特に、生成された干渉光が、光の三原色のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有するようにして、白色の反射光を生成するとともに、入射された光の一部を透過させ、機器の装飾性を豊かにする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物を入れる収納容器、電子部品が組み込まれるケースなど、或いは、車両のバンパー、オートバイのカウル、ヘルメットなどの筐体は、金属、合成樹脂などの素材から成る板によって立体的に組み立てられるか、或いは、一枚の板から立体的に一体成形されていた。この様に構成された筐体の外表面を色彩装飾するとき、金属素材による場合には、その筐体の表面を塗装するか、着色シートを貼着していた。また、合成樹脂素材による場合には、合成樹脂自体に着色しておくか、或いは、着色シートを貼着するようにしている。さらに、筐体表面に金属光沢を付与するために、メッキ、金属蒸着などの手法が適用されていた。
【0003】
これらの様に、従来技術により作製された筐体においては、その表面に施された装飾用の色彩は、固定的で全く変化しないか、又は、変化したとしても、その変化は限定的なものである。例えば、筐体の表面に、透明な着色シートを貼着した場合にあっては、着色シートの色と筐体自体の透けて見える色とが重なって混合色を呈するという程度であり、外観上、見方によって色彩が変化するものではない。
【0004】
そこで、その特殊な色彩効果を奏する方法として、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射及び透過することによって干渉光を生成し、見る角度によって様々に変化し、虹彩色を得られる装飾手法がある。例えば、偏光フィルムなどのように、入射光を反射及び透過する複数の薄膜を積層した膜を接着して、虹彩色を施し、装飾性が豊かで、模様の深み、立体感を付与するというものである。
【0005】
上記の装飾手法として、装飾可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより鮮やかな虹彩色を呈する加飾の仕方が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この加飾の仕方は、樹脂成形体の表面に多層積層が設けられ、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより、虹彩色を得ている。この多層積層膜は、第1の樹脂フィルムからなる第1の層と、第1の樹脂フィルムとは異なる屈折率を有する第2の樹脂フィルムからなる第2の層とを合計11層以上交互に積層している。
【0006】
一方、この多層積層膜の加飾以外の利用の仕方として、入射光から干渉光を生成できる多層積層膜を太陽電池の表面に層着することが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この積層膜は、屈折率の異なる2種類の誘電体層を交互に繰り返して積層され、狭帯域の波長だけ反射するように構成されている。波長に対する反射率のピークを鋭くしてあるため、太陽電池のキャリア収集効果の良い波長の透過損失を最小限に抑えられる。しかも、積層膜自体が保護膜としての役目も果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−216493号公報
【特許文献2】特開昭60−147681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来に提案されている装飾の仕方では、干渉光を生成できる多層積層膜が装飾対象物の筐体表面に設けられた場合には、見る角度によって複雑に変化する色調が得られ、装飾対象に、鮮やかな虹彩色を呈する加飾を施すことができ、反射色、干渉色、透過色の混色とすることもでき、見る角度によって複雑に変化する色調を得ることが可能であるが、この装飾の仕方では、反射される干渉光は虹彩色を呈するだけであり、白色が装飾上必要であっても、白色の反射光が得られないという限界があった。
【0009】
また、干渉光を生成できる多層積層膜を太陽電池の表面に適用された場合には、太陽電池のキャリア収集効果の良い波長の透過損失を最小限に抑えられるように、多層積層膜を透過する波長領域が調整され、太陽電池の発電効率への影響を少なくできるものの、太陽電池の表面が外部から見えてしまうため、装飾上、都合が悪いという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、内部を見せたくない部分を隠すことができ、しかも、光の三原色のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有する干渉光を多層積層膜で生成して、白色の反射光が得られるとともに、入射された光の一部を透過させることができる装飾体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明による装飾体は、板体と、該板体の少なくとも一方の表面に形成された複数の薄膜を含み、入射した可視光の反射及び透過により干渉光を生成する膜と、を備え、該膜によって生成された前記干渉光は、光の三原色のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有することとした。
【0012】
前記膜は、前記可視光が入射する前記板体の表面上に設けられ、さらには、前記板体が、光発電用セル又は光発電用パネルであることとした。
【0013】
前記膜は、前記可視光が透過する側の前記板体の表面に設けられていることとし、また、前記膜は、前記板体の両方の表面に設けられていることとし、さらには、前記膜は、屈折率及び膜厚の異なる複数の薄膜が組み合わされて積層された積層膜であることとした。
【0014】
前記複数の薄膜は、前記板体の表面上において順次成膜されることとし、前記複数の薄膜の各々は、酸化物、窒化物、金属の中から選択された材料を真空蒸着又はスパッタリングすることにより成膜されることとした。
【0015】
前記板体は、有色であることとし、或いは、前記板体は、入射した前記可視光の少なくとも一部を散乱するものであることとした。
【0016】
また、本発明による装飾体の製造方法では、板体の少なくとも一方の面上において、屈折率及び膜厚の異なる複数の薄膜を順次成膜して積層膜を形成し、該積層膜は、入射する可視光を反射及び透過させて光の三原色のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを含む干渉光を生成することとし、さらに、前記板体の一方の面上における所定の範囲に、前記積層膜を形成することとした。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明では、板体と、該板体の少なくとも一方の表面に形成された複数の薄膜を含み、入射した可視光の反射及び透過により干渉光を生成する膜と、を備えた装飾体とし、該膜によって生成された前記干渉光は、光の三原色のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有するので、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有する干渉光によって、白色の反射光を生成でき、入射された光の一部を透過させることができる。そのため、白色光による装飾効果が得られるとともに、見せたくない部分を隠すことができる。さらに、干渉光の生成に寄与しない入射光を透過光として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態による装飾体の断面の概要を説明する図である。
【図2】本実施形態による装飾体の具体例の断面を説明する図である。
【図3】本実施形態の装飾体に用いられる積層膜における入射光の反射及び屈折を説明する図である。
【図4】従来技術による白色を反射させる場合の反射率を説明するグラフである。
【図5】本実施形態の装飾体における白色反射の原理を説明するグラフである。
【図6】本実施形態による他の装飾体の断面の概要を説明する図である。
【図7】本実施形態の装飾体を装飾対象物に接着した適用例1を説明する図である。
【図8】本実施形態の装飾体を装飾対象物に接着した適用例2を説明する図である。
【図9】本実施形態の装飾体を装飾対象物に接着した適用例3を説明する図である。
【図10】本実施形態の装飾体の具体例1について測定された波長対透過率・反射率の関係を示したグラフである。
【図11】本実施形態の装飾体の具体例2について測定された波長対透過率・反射率の関係を示したグラフである。
【図12】本実施形態の装飾体の具体例3について測定された波長対透過率・反射率の関係を示したグラフである。
【図13】本実施形態の装飾体の具体例4について測定された波長対透過率・反射率の関係を示したグラフである。
【図14】本実施形態の装飾体の具体例5について測定された波長対透過率・反射率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明による装飾体及びその製造法の実施形態について、図1乃至図14を参照しながら、以下に説明する。
【0020】
先ず、本実施形態の装飾体の基本構成について、図1に示した。その装飾体は、装飾対象物体、例えば、建築用外壁ガラス、建築用窓ガラス、家具、カーテン、服飾、オフィス機器、携帯電話端末、パーソナルコンピュータ(PC)、時計の文字板、太陽電池等における平面、略平面又は緩やかな曲面を有する機器の表面部分に、装飾対象物体の材質(ガラス、樹脂、金属、カーボン、織布等)に関わらず、接着剤等により貼り付けて使用される形態になっている。装飾対象物体における装飾必要部分に、装飾体が配置されて、装飾される。
【0021】
図1に示されるように、本実施形態の装飾体Xは、ガラス、合成樹脂、例えば、ポリカーボネード、アクリル樹脂などのいずれかで形成された透明な板体1と、該板体の片面上に設けられ、入射した可視光の反射により干渉色を生成できる膜2とを有している。図1では、装飾体の断面を示しているが、説明の都合上、その構造を模式的に表しており、図示の形状、大きさに限定されない。例えば、装飾体の板体には、例えば、所定厚さを有し、所定面積及び所定形状の硬い板、可撓性を有するフィルム等を使用することができる。
【0022】
ここで、本実施形態の装飾体Xに使用する膜2の具体的な構造が、図2に示されている。入射した可視光の反射及び透過により干渉光を生成するために、屈折率の異なる薄膜が、複数積層されている。図2に示された膜2の例では、屈折率が異なる2種類の薄膜aと薄膜bを使用し、薄膜a(a1〜a7)と薄膜b(b1〜b7)とが交互に積層され、全体で14層となっている。
【0023】
薄膜a及び薄膜bは、例えば、TiO、SiO、Ta、Nb、Al等の酸化物や、Si、AlN等の窒化物や、4フッ化エチレン樹脂等の有機化合物、MgF等のフッ化物のいずれかによる材料の単独又は組み合わされて成膜され、その材料は、成膜された薄膜aと薄膜bとが互いに異なる屈折率となるように選択される。なお、図2は、膜2の断面を示しているが、説明の都合上、模式的に示しており、膜2は、14層構造の場合を例示しているが、この層構造に限られず、さらに多くの薄膜が積層されてもよい。
【0024】
図3には、薄膜を複数積層した膜における干渉の原理を示した。ここでは、例示的に、4層構造の場合を示しており、基板1の上に、膜2として、薄膜a1、b1、a2、b2が成膜されている。この4層構造の場合に限られず、5層以上の多層構造の場合においても、その原理は同様である。図3では、平行光は、代表的に、薄膜に入射する光Lとして示される。
【0025】
光Lが、平行平面を有する膜2に入射すると、その光の一部は、薄膜の表面及び各薄膜内部の入射面と異なる界面で反射し、さらに、その残りは、下層の薄膜が存在すれば、その薄膜の内部に屈折して進入する。この様にして、光Lは、図3に示されるような経路に沿って、反射と内部進入とが繰り返されて、出射光LR1、LR2、LR3、LR4、LR5として、膜2の表面から出射される。例えば、人間の眼には、これらの出射光が観察されることになる。
【0026】
出射光LR1、LR2、LR3、LR4、LR5には、各薄膜における反射と内部進入が繰り返されることにより、それぞれの光路長に差異が生じ、各出射光の間に、背面における位相のずれが発生する。そのため、観察者には、位相の異なる出射光LR1、LR2、LR3、LR4、LR5が膜2から到達する。
【0027】
ここで、各薄膜の界面で反射された出射光LR1、LR2、LR3、LR4、LR5の位相が一致していれば、観察者の眼には、膜2により反射した光が明るく見え、それらの位相が互いに逆となれば、その光が暗く見える。この様に、この位相差により、光の明暗が発生し、観察者の眼から見ると、ある波長、即ち、ある色は、明るく反射され、ある色は、反射されないという現象が生じる。ここにおいて観察される光が、干渉光である。
【0028】
以上において、屈折率が異なる薄膜を複数積層した膜に起こる干渉現象の原理について説明したが、多層薄膜の場合には、薄膜の層数を増やすとともに、その厚さと屈折率を精密に制御し、特定の光のみを反射させ、或いは、逆に、透過させることができる。層数のより多い多層薄膜の場合には、層数が少ない多層薄膜の場合に比べて、透過光及び反射光の制御性が増す。実際には、膜における多層薄膜の層数をより多くして、波長の選択性を高めている。
【0029】
この様に、屈折率が異なる複数の薄膜の積層による膜では、薄膜干渉現象を利用することができ、色素を使用しないでも、異なる色を発現させることができ、或いは、金属膜を使用しないでも、金属的光沢を実現できる。白色光が積層膜フィルムに入射される場合には、薄膜に入射した光の波長に応じた屈折の差があるため、白色光は、長波長から短波長の虹色の光に分解され、分解された各光が白色光の入射点で互いに干渉しあい、結果として、玉虫色の装飾効果を得ることができる。
【0030】
本実施形態の装飾体Xに設けられる膜2の薄膜a1・a2・a3と薄膜b1・b2には、上述したように、例えば、TiO、SiO、Al、Ta、Nb等の酸化物や、Si、AlN等の窒化物や、MgF等のフッ化物や、4フッ化エチレン樹脂等の有機化合物のいずれかによる材料が、互いに屈折率が異なるように選択され、組み合わされて成膜される。
【0031】
上述の各薄膜の成膜では、選択された材料の真空蒸着、スパッタリング等が使用され、薄膜a1は、装飾体Xの基材である板体1の片面上に直接成膜され、所定厚さに形成される。次いで、薄膜b1は、成膜された薄膜a1の表面上に直接成膜され、所定厚さに形成される。この様に、以降に積層される各薄膜は、薄膜aと薄膜bとが交互に成膜され、図2に例示されるように、所定数の薄膜a1〜a7、b1〜b7が積層され、膜2が板体1の片面上に形成される。
【0032】
以上に説明した多層積層膜による膜では、従来の多層積層膜の場合と同様に、干渉光による虹彩色が得られるだけで、しかも、板体1は透明であるため、装飾対象物体の表面が見えてしまう。そこで、本発明の上記課題を実現するための原理について、以下に説明する。
【0033】
例えば、板体上に形成されたTiO層の上面に、膜厚1〜40〔nm〕を有する金属薄膜(例えば、Ag)を成膜した膜の場合でも、図4に示されるように、入射する白色光の一部を反射し、その残りの白色光を透過させることができる。白色光の一部が反射されるため、外部からは、白色光が反射され、内部を見ることができない状態になっている。なお、上記金属薄膜を用いて測定すると、可視光波長に亘った平均では、膜厚が厚い方では、反射率が60〜70〔%〕、透過率が10〜20〔%〕であるのに対して、膜厚が薄くなると、反射率が10〜30〔%〕、透過率が50〜60〔%〕であった。
【0034】
しかし、この場合には、白色光の全波長に亘って、反射され、或いは、一部が透過されるため、図4の場合には、例えば、太陽電池表面に適用した場合には、外部からは、白色光が反射されて見えるが、発電に寄与する波長の光量が減少してしまい、入射した白色光を有効に利用できない。
【0035】
そこで、本実施形態の装飾体では、光の三原色、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有する干渉光を膜2で生成して、この干渉光を白色の反射光とするとともに、入射された光の一部を透過させるという原理を採用した。この原理が、図5に示されている。
【0036】
図5では、横軸に、入射光の波長〔nm〕を、そして、縦軸に、入射光の反射率を示している。同図中、曲線Aが、本実施形態の原理に従った反射率の変化を示しており、破線A0は、参考として示され、図4の従来技術による反射率に対応している。曲線Aによる反射率の変化は、光の三原色、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークにおいて、他の波長領域に比較して際だって高くされている。各狭帯域反射ピークでは、透過率が減少するものの、他の波長領域では、透過率を十分に確保できる。
【0037】
本実施形態の装飾体Xでは、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有する反射光を、膜2の多層積層膜による干渉光で実現している。図2に示された膜2においては、模式的に表す都合上、各薄膜の膜厚がどれも同じに描かれているが、実際には、各薄膜の膜厚を異ならせ、反射される干渉光が各狭帯域反射ピークで強調されるように、各薄膜の膜厚を異ならせてある。この様な干渉光が得られるように、各薄膜の透過率、反射率を、日本工業規格(JIS)で示されたプラスチックの光学的特性試験方法に準じて計算し、膜を構成する薄膜の層数に応じて、各薄膜の膜厚が決められる。
【0038】
以上で説明した図1の本実施形態における装飾体Xでは、膜2が、入射光が入射する側の板体1の上面に形成されたが、これに限定されず、膜2は、板体1の下面側、即ち、入射光が板体1を透過して出射する側に形成されてもよい。図2に示された膜2と同様の構造を有していれば、図6に示された場合でも、透明な板体1を透過した白色光が膜2に入射され、膜2においては、図3に示した反射と透過の原理に従って、図1の装飾体と同様の効果を有する。
【0039】
次に、以上で説明した本実施形態の装飾体Xが、機器の装飾対象物体上に貼り付けられて加飾される適用例について、図7乃至図9を参照しながら説明する。
【0040】
(適用例1)
図7の適用例1では、図1に示された装飾体Xが使用されており、断面図で示されている。ここでも、説明の都合上、模式的に表示されている。この適用例1では、装飾体Xが、膜2を上側にし、板体1が下側になるように、透明な接着剤4によって装飾対象物体3に貼り付けられている。なお、接着剤4には、ポリエチレン樹脂系のものを使用できる。
【0041】
ここで、装飾体Xを、装飾対象物体3、例えば、太陽電池(セル又はパネル)の表面に貼り付けた場合には、太陽電池の発電効率に影響をあたえることなく、太陽電池自体が外部から見えないように隠すことができ、しかも、白色光で反射されるので、太陽電池の装飾性を改善できる。例えば、単結晶又は多結晶シリコンによる太陽電池の場合には、キャリア収集効果の良い波長が可視光領域の波長より長い領域に偏っているため、狭帯域反射ピークの存在はあまり影響しない。また、アモルファスシリコンによる太陽電池の場合には、そのキャリア収集効果の良い波長が可視光領域に入っているが、狭帯域反射ピークをより急峻なものとすることにより、発電効率への影響を最小限にすることができる。
【0042】
また、図1に示された本実施形態の装飾体Xを太陽電池に適用する場合には、板体1として太陽電池セル自体を利用し、板体を省略することができる。この場合には、膜2が太陽電池セルの保護膜としても利用でき、しかも、上述の太陽電池への適用例と同様に、発電効率に影響をあたえることなく、太陽電池セル自体を外部から見えないように隠すことができ、太陽電池の装飾性を改善できる。
【0043】
例えば、太陽電池が文字板に組み込まれている時計のように、数字又は文字は外部から見えるようにしたいが、その他の太陽電池部分を見せたくないという場合には、数字又は文字の部分に対応する部分には、膜2を成膜せず、太陽電池部分のみに膜2を成膜するとよい。
【0044】
図1に示された装飾体Xでは、膜2が板体1の上面に成膜されているので、膜2を、板体1の全面にではなく、所定形状に成膜しておくと、白色光による装飾効果が得られる。例えば、模様、文字・記号等の形に成膜すれば、それらの形に応じて、自然光の入射に対して白色光を反射する。ここで、それらの残りの部分では、板体1が透明であれば、装飾対象物体3の表面が見える。この場合に、板体1に有色のもの、或いは、模様等の装飾を施しておくこともでき、模様等の中に、白色光反射の部分が存在する装飾効果が得られる。また、装飾対象物体3の内部又は表面を外部から隠したい部分の形状に合わせて、膜2を成膜することもできる。
【0045】
また、板体1には、微細粒子又は微細片による反射物質が分散され、或いは、表面を粗面化されて、入射した可視光の少なくとも一部を散乱する透明な板体又はフィルムを使用することもできる。この場合には、膜2を透過した光が板体1内で散乱され、その散乱された光の一部が膜2を通って表面に出射されるので、装飾体Xは、弱いパール色の輝きを呈する。
【0046】
(適用例2)
これまでに説明した適用例1では、装飾体Xを装飾対象物体3に貼り付ける際に、板体1の下側を装飾対象物3の表面に貼り付ける使用形態であったが、図8に示された適用例2では、図6に示された装飾体Xが使用され、装飾体Xを上側とし、膜2を装飾対象物体3の表面に貼り付ける使用形態とした。図8の適用例2でも、断面図で示され、説明の都合上、模式的に表示されている。適用例2における装飾体Xの膜構造は、図2に示された装飾体と同様であるが、図6に示されるように、板体1と膜2との位置関係が、図2の場合と逆になっている。
【0047】
適用例2においても、装飾体Xを、装飾対象物体3、例えば、太陽電池の表面に貼り付けた場合には、太陽電池の発電効率に影響をあたえることなく、太陽電池自体が外部から見えないように隠すことができ、しかも、白色光で反射されるので、太陽電池の装飾性を改善できる。適用例2の場合も、適用例1の場合と同様に、狭帯域反射ピークの存在はあまり影響せず、狭帯域反射ピークをより急峻なものとすることにより、発電効率への影響を最小限にすることができる。また、太陽電池自体を外部から見えないように隠すことができ、太陽電池の装飾性を改善できる。
【0048】
適用例2の場合も、適用例1と同様に、膜2を、板体1の全面にではなく、所定形状に成膜しておくと、白色光による装飾効果が得られる。例えば、模様、文字・記号等の形に成膜すれば、それらの形に応じて、自然光の入射に対して白色光を反射し、それらの残りの部分では、板体1が透明であるので、装飾対象物体3の表面が見える。この場合に、板体1に有色のもの、或いは、模様等の装飾を施しておくこともでき、模様等の中に、光反射の部分が存在する装飾効果が得られる。また、装飾対象物体3の内部又は表面を外部から隠したい部分の形状に合わせて、膜2を成膜することもできる。
【0049】
また、板体1には、適用例1の場合と同様に、微細粒子又は微細片による反射物質が分散され、或いは、表面を粗面化されて、入射した可視光の少なくとも一部を散乱する透明な板体又はフィルムを使用することもでき、装飾体Xに、パール色の輝きを付与することもできる。
【0050】
(適用例3)
適用例3は、上述した適用例1の変形例と言うことができ、図2に示された装飾体Xと同様の構造を有する2枚の装飾体X1、X2が、装飾対象物体の表面に重ねて貼り付けられている場合である。図9に、適用例3が断面図で示されている。ここでも、説明の都合上、模式的に表示されている。
【0051】
図9に示されるように、装飾体X1は、板体1−1と膜2−1で構成され、装飾体X2は、板体1−2と膜2−2で構成され、装飾体X1の板体1−1の下面が接着層4−1で装飾対象物体3に貼り付けられ、装飾体X2の板体1−2の下面が装飾体X1の膜2−1上に接着層4−2で貼り付けられている。
【0052】
適用例3の場合には、装飾体X1及びX2に、同じ構造のものを使用すれば、光の三原色、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有する干渉光をより強調できるので、白色光の反射度を強めることができ、適用例1の場合と同様の装飾効果が得られ、しかも、隠したい部分を外部から見えないようにすることもできる。また、装飾体X1の板体1−1を透視性のないものに、そして、装飾体X2の板体1−2を透視性のあるものにすることもできる。
【0053】
(具体例)
次に、以上に説明した適用例1乃至3に使用することができる装飾体Xの具体例について、図10乃至図14を参照しながら説明する。
【0054】
上述したように、本実施形態の装飾体Xでは、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有する反射光を、膜2の多層積層膜による干渉光で実現している。この様な干渉光が得られるように、各薄膜の透過率、反射率を、前記の光学的特性試験方法に準じて計算し、膜を構成する薄膜の層数に応じて、各薄膜の膜厚を求めた。ここで、14層の場合の膜厚を、具体例1とし、16層の場合の膜厚を、具体例2、3とし、18層の場合の膜厚を、具体例4とし、そして、20層の場合の膜厚を、具体例5として、〔表1〕に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
〔表1〕においては、「層」欄には、膜2に含まれる薄膜の層番号が、「膜厚」欄には、各具体例に対応して、各層の膜厚〔nm〕が、そして、「酸化物」欄には、各層に使用された酸化物名が、それぞれ示されている。これらの具体例では、膜2における薄膜aに、TiOを使用し、薄膜bに、SiOを使用している。
【0057】
ここで、具体例1乃至5による膜2に係る反射率及び透過率の測定結果について、図10乃至14に示した。各図中、横軸は、波長〔nm〕を、そして、縦軸は、反射率〔%〕と透過率〔%〕を表している。また、図中に示された曲線A1乃至A5は、反射率の変化を、そして、同じく曲線B1乃至B5は、透過率の変化を示している。さらに、各図中では、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークの位置が太い破線で示されている。
【0058】
図10乃至図14に示された各具体例の曲線A1乃至A5と、曲線B1乃至B5を見ると、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)に対応する波長の付近では、反射率が高く、透過率が低くなっている。そして、各々に対応する波長の付近以外においては、反射率が低く、透過率が高くなっている。
【0059】
これらのことから、本実施形態の装飾体Xにおいて、膜2の多層積層膜における入射光の反射及び透過によって生成された干渉光が、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークが存在し、白色の反射光が得られることを示している。また、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)に対応する波長の付近以外においては、残りの入射光が透過光として確保されていることも示している。
【0060】
また、例えば、図10の具体例1における曲線A1と、図14の具体例5における曲線A5とを比較すると、曲線A1では、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)に対応する波長付近のピークがややなだらかであるのに対して、曲線A5では、それらのピークが急峻になっている。ピークが急峻であるほど、透過光線量が増えることを意味し、透過光線を有効に利用する場合に適しているといえる。
【0061】
なお、〔表1〕に示した具体例1乃至5は、例示であって、膜2における各薄膜の膜厚は、これらに限定されるものでなく、薄膜に使用する材料の屈折率に応じて、反射率及び透過率が異なり、計算によって適宜調整でき、膜2の層数も、さらに増やすことも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1、1−1、1−2 板体
2、2−1、2−2 膜
3 装飾対象物体
4 4−1、4−2接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板体と、
前記板体の少なくとも一方の表面に形成された複数の薄膜を含み、入射した可視光の反射及び透過により干渉光を生成する膜と、を備え、
前記膜によって生成された前記干渉光は、光の三原色のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを有することを特徴とする装飾体。
【請求項2】
前記膜は、少なくとも前記可視光が入射する前記板体の表面上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の装飾体。
【請求項3】
前記板体が、太陽電池セル又は太陽電池パネルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の装飾体。
【請求項4】
前記膜は、前記可視光が透過する側の前記板体の表面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の装飾体。
【請求項5】
前記膜は、前記板体の両方の表面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の装飾体。
【請求項6】
前記膜は、屈折率及び膜厚の異なる複数の薄膜が組み合わされて積層された積層膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項7】
前記複数の薄膜は、前記板体の表面上において順次成膜されることを特徴とする請求項6に記載の装飾体。
【請求項8】
前記複数の薄膜の各々は、酸化物、窒化物、フッ化物の中から選択された材料を真空蒸着又はスパッタリングすることにより成膜されることを特徴とする請求項6又は7に記載の装飾体。
【請求項9】
前記板体は、有色であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項10】
前記板体は、入射した前記可視光の少なくとも一部を散乱することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項11】
板体の少なくとも一方の面上において、屈折率及び膜厚の異なる複数の薄膜を順次成膜して積層膜を形成し、
前記積層膜は、入射する可視光を反射及び透過させて光の三原色のそれぞれに対応する狭帯域反射ピークを含む干渉光を生成することを特徴とする装飾体の製造方法。
【請求項12】
前記板体の一方の面上における所定の範囲に、前記積層膜を形成することを特徴とする請求項11に記載の装飾体の製造方法。
【請求項13】
前記板体の一方の面上における特定の範囲において、前記複数より少ない数の薄膜の数を成膜して、前記積層膜を形成することを特徴とする請求項11に記載の装飾体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−201644(P2010−201644A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47103(P2009−47103)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】