説明

装飾部品、時計、及び装飾部品の製造方法

【課題】発色させるための作業性を向上でき、且つ装飾性を高めることができる装飾部品、時計、及び装飾部品の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン、及びチタン合金の何れか一方からなる回転錘体164の表面に陽極酸化膜22a,22bを形成することにより、回転錘体164の表面が発色されている回転錘160であって、回転錘体164の表面には、陽極酸化膜22a,22bが形成されている部位のうち、陽極酸化膜22aを形成する部位に、窒化処理層21が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、装飾部品、時計、及び装飾部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、純チタン(以下、単に「チタン」という)やチタン合金は軽量であり、かつ比強度が大きいという特徴を有し、さらに耐食性などの点で優れた金属であるため、幅広い分野においてチタンやチタン合金の利用量が増大している。
例えば、機械式時計に用いられる部品には、落下等による耐衝撃性が高く、高強度、高弾性、高振動吸収性等が求められるため、チタンやチタン合金等は使用に適していると言える。また、チタンやチタン合金は十分な耐食性を有するため、防錆等の後処理は必要ないが、部品がチタンやチタン合金以外の金属である場合、鉄等のような防錆処理が必要になる。
【0003】
防錆処理としては、例えばメッキ等を施すことが考えられるが、メッキが薄膜であるとピンホールを生じやすく耐久性が低下する虞がある。一方、メッキを厚膜にすると、公差の厳しい時計部品においては寸法誤差が大きくなる虞がある。このため、部品をチタンやチタン合金で形成し、陽極酸化処理を施すことにより、防錆処理を必要とせず、且つ発色させて装飾性を高めることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4053127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来技術にあっては、陽極酸化処理を施すことにより発色させたい部位の周囲を、テープやマスキング剤を用いてマスキングする必要がある。とりわけ、多色に発色させる場合、発色させたい色ごとにマスキングの位置をずらす必要があり、作業性が悪いという課題がある。
【0006】
また、テープを用いてマスキングを行う場合、テープの貼り付け位置合わせを高精度に行うことが困難であり、装飾性を損なう虞があるという課題がある。
さらに、マスキング剤を用いて確実にマスキングを行う場合、チタンやチタン合金との密着性を高める必要があるが、このような場合、マスキング剤を除去する作業が煩わしく作業性が悪いという課題がある。そして、マスキング剤を除去する際、部品を損傷してしまい、装飾性を損なう虞があるという課題がある。
【0007】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、発色させるための作業性を向上でき、且つ装飾性を高めることができる装飾部品、時計、及び装飾部品の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る装飾部品は、チタン、及びチタン合金の何れか一方からなる母材を有し、この母材の表面に酸化膜を形成することにより、前記母材の表面が発色されている装飾部品であって、前記母材の表面には、前記酸化膜が形成される部位の少なくとも一部に、不活性化処理が施されていることを特徴とする。
【0009】
このように構成することで、不活性化処理が施された部位の酸化反応速度を、不活性化処理が施されていない部位の酸化反応速度よりも遅くすることができる。このため、不活性化処理が施された部位に形成される酸化膜の膜厚が、不活性化処理が施されていない部位に形成される酸化膜の膜厚よりも薄膜に設定される。この結果、不活性化処理が施された部位と、不活性化処理が施されていない部位とを異色にすることができる。
よって、従来のように、テープやマスキング剤を用いてマスキングを行うことなく、所望の箇所を所望の色に発色させることができるので、装飾部品を発色させる作業性を向上させることができると共に、テープやマスキング剤を除去する際、装飾部品の損傷を防止して装飾性を確実に高めることができる。
【0010】
本発明に係る装飾部品は、前記不活性化処理は、窒化処理であることを特徴とする。
【0011】
このように構成することで、簡単、且つ確実に母材に不活性化処理を施すことができる。このため、不活性化処理が施された部位と、不活性化処理が施されていない部位とを異色にすることができ、装飾性を高めることが可能になる。
【0012】
本発明に係る時計は、請求項1又は請求項2に記載の装飾部品を備えていることを特徴とする。
【0013】
このように構成することで、発色させるための作業性を向上でき、且つ装飾性を高めることができる時計を提供することが可能になる。
【0014】
本発明に係る装飾部品の製造方法は、チタン、及びチタン合金の何れか一方からなる母材を有し、この母材の表面に酸化膜を形成することにより、前記母材の表面が発色されている装飾部品の製造方法であって、前記母材の表面の少なくとも一部に不活性化処理を施す不活性化処理工程と、前記母材の表面における、前記不活性化処理が施された部位、及びこの他の部位に、酸化膜を形成する酸化膜形成工程とを有することを特徴とする。
【0015】
このような方法とすることで、テープやマスキング剤を用いてマスキングを行うことなく、所望の箇所を所望の色に発色させることができる。このため、装飾部品を発色させる作業性を向上させることができると共に、テープやマスキング剤を除去する際、装飾部品の損傷を防止して装飾性を確実に高めることができる。
【0016】
本発明に係る装飾部品の製造方法は、前記酸化膜形成工程において前記母材の表面に形成される酸化膜は、陽極酸化膜であることを特徴とする。
【0017】
このような方法とすることで、装飾部品を綺麗に発色させることができる。
【0018】
本発明に係る装飾部品の製造方法は、前記不活性化処理工程において前記母材の表面に施される不活性化処理は、窒化処理であることを特徴とする。
【0019】
このような方法とすることで、確実に母材に不活性化処理を施すことができ、装飾性を高めることが可能になる。
【0020】
本発明に係る装飾部品の製造方法は、前記窒化処理は、前記母材に窒素ガスを吹き付けながら前記母材の表面にレーザー光を照射することによって行うことを特徴とする。
【0021】
このような方法とすることで、窒化処理を施した部位と、窒化処理を施していない部位との境界を高精度に設定することができる。このため、装飾性をさらに高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、不活性化処理が施された部位の酸化反応速度を、不活性化処理が施されていない部位の酸化反応速度よりも遅くすることができる。このため、不活性化処理が施された部位に形成される酸化膜の膜厚が、不活性化処理が施されていない部位に形成される酸化膜の膜厚よりも薄膜に設定される。この結果、不活性化処理が施された部位と、不活性化処理が施されていない部位とを異色にすることができる。
よって、従来のように、テープやマスキング剤を用いてマスキングを行うことなく、所望の箇所を所望の色に発色させることができるので、装飾部品を発色させる作業性を向上させることができると共に、テープやマスキング剤を除去する際、装飾部品の損傷を防止して装飾性を確実に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態におけるムーブメントを表側からみた平面図である。
【図2】本発明の実施形態における自動巻機構の概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態における回転錘の平面図である。
【図4】本発明の実施形態における回転錘の製造方法を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態における回転錘の製造過程での状態説明図である。
【図6】本発明の実施形態における回転錘の製造過程での状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(自動巻腕時計)
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、自動巻機構を取り外した状態でムーブメントを表側からみた平面図、図2は、自動巻機構の概略構成図である。
図1、図2に示すように、本発明に係る装飾部品(例えば、後述の回転錘160)が組み込まれた自動巻腕時計10は、ムーブメント100と、このムーブメント100を収納する不図示のケーシングとにより構成され、ムーブメント100に不図示の文字板が取り付けられている。ムーブメント100は、基板を構成する地板102と、一番受105と、二番受106と、てんぷ受108と、アンクル受109とを備えている。二番受106は、一番受105と地板102との間に配置される。地板102には巻真案内孔103が形成されており、ここに巻真110が回転可能に組み込まれている。
【0025】
ここで、地板102の両側のうち、文字板が配置される側(図1、図2における紙面奥側)をムーブメント100の裏側と称し、文字板が配置される側とは反対側(図1、図2における紙面手前側)をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の裏側には、裏輪列と称する輪列や、おしどり140、かんぬき142、及びおしどり押さえ144を含む切換装置が配置されている。この切換装置により、巻真110の軸方向の位置が決定するようになっている。
【0026】
一方、ムーブメント100の表側には、表輪列と称する輪列、表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置40、および自動巻機構60等が組み込まれている。
表輪列は、香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128により構成されている。香箱車120は、一番受105と地板102とにより回転可能に支持されており、不図示のぜんまいを有している。そして、巻真104を回転させると不図示のつづみ車が回転し、さらにきち車、丸穴車(何れも不図示)、及び角穴車118を介してぜんまいが巻き上げられる。
【0027】
さらに、角穴車118の歯部には、板状のこはぜ117が噛合されており、これにより、角穴車118の回転が規制されるようになっている。
一方、ぜんまいが巻き戻される際の回転力により香箱車120が回転し、さらに二番車124が回転するように構成されている。二番車124は、二番受106と地板102とにより回転可能に支持されている。二番車124が回転すると、三番車126が回転する。
【0028】
三番車126は、一番受105と地板102とにより回転可能に支持されている。三番車126が回転すると、四番車128が回転する。四番車128は、一番受105と二番受106とにより回転可能に支持されている。四番車128が回転することにより脱進・調速装置40が駆動する。
【0029】
(脱進・調速装置)
脱進・調速装置40は、てんぷ136と、がんぎ車134と、アンクル138とを備えている。アンクル138は、アンクル受109と地板102とにより回転可能に支持されている。てんぷ136は、てんぷ受108と地板102とにより回転可能に支持されている。てんぷ136は、てん真136aと、てん輪136bと、ひげぜんまい136cとを有している。
【0030】
このような構成のもと、脱進・調速装置40は、二番車124が1時間に1回転するように制御する。二番車124の回転に基づいて不図示の筒かなが同時に回転するように構成されており、この筒かなに取り付けられた不図示の分針が「分」を表示するようになっている。
また、筒かなには、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かなの回転に基づいて、日の裏車の回転を介し、筒車(何れも不図示)が12時間に1回転するように構成されている。そして、筒車に取付けられた不図示の時針が「時」を表示するようになっている。
さらに、二番車124の回転により、三番車126の回転を介し、四番車128が1分間に1回転するように構成されている。四番車128には、不図示の秒針が取り付けられている。
【0031】
(自動巻機構)
自動巻機構60は、この自動巻機構60を構成する回転錘160をユーザーの腕の動きで動かし、香箱車120の不図示のぜんまいを巻き上げるものである。回転錘160は、ボールベアリング162と、回転錘体164と、回転重錘166とを有している。ボールベアリング162は、内輪と、外輪と、これら外輪と内輪との間に設けられた複数のボール(何れも不図示)とを有しており、内輪がボールベアリング止めねじ168を介して一番受105に固定されている。
【0032】
(回転錘)
図3は、回転錘の平面図である。
図2、図3に示すように、回転錘160の回転錘体164は、陽極酸化処理が可能なチタン(Ti)、及びチタン合金の何れか一方により、平面視略扇状に形成されたものである。回転錘体164の回転中心には、ボールベアリング162が配置され、ボールベアリング162の外輪と回転錘体164とが固定されている。
また、回転錘体164の外周縁には、この外周縁に沿うように湾曲した回転重錘166が一体成形されている。尚、回転錘体164と回転重錘166とが一体成形されていなくてもよく、これら回転錘体164と回転重錘166とを締結部材を介して固定してもよい。
【0033】
回転錘体164のボールベアリング162の外輪には、回転錘かな178が設けられている。この回転錘かな178は、一番伝え車182の一番伝え歯車182aに噛合わされる。
一番伝え歯車182aは、一番受105と地板102とにより回転可能に支持されている。さらに、一番伝え車182と一番受105との間には、つめレバー180が組み込まれている。つめレバー180は、一番伝え車182の軸心から偏心した形で取り付けられたものであって、引きつめ180a、および押しつめ180bを有している。これら引きつめ180a、および押しつめ180bは、二番伝え車184の二番伝え歯車184aに噛合わされる。
【0034】
二番伝え車184は、二番伝え歯車184aの他に二番伝えかな184bを有している。二番伝え歯車184aは、回転錘体164と一番受105との間に位置している。一方、二番伝えかな184bは、角穴車118と噛み合うようになっている。
そして、二番伝え歯車184aに噛合うつめレバー180の引きつめ180a、および押しつめ180bは、二番伝え歯車184aの中心に向かって弾性力により付勢されている。
【0035】
このような構成のもと、回転錘160が回転すると、回転錘かな178も同時に回転し、回転錘かな178の回転により、一番伝え車182が回転する。この一番伝え車182の軸心から偏心した形で取り付けられているつめレバー180は、一番伝え車182の回転により往復運動を行う。そして、引きつめ180a、および押しつめ180bにより二番伝え車184を一定の方向に回転させる。すると、二番伝え車184の回転により角穴車118が回転し、香箱車120の不図示のぜんまいを巻き上げる。
【0036】
ここで、自動巻腕時計10の不図示のケーシングの裏側は、内部が視認可能なように透明になっている。このため、不図示のケーシングを介して視認される回転錘160の表面が発色されており、自動巻腕時計10のデザイン性が向上されている。以下に、図4〜図6に基づいて、具体的な回転錘160の発色方法について説明する。
【0037】
(回転錘の発色方法)
図4は、回転錘160の製造方法を示す説明図、図5、図6は、回転錘160の製造過程における状態を示す説明図である。
ここで、回転錘160の表面を発色させるにあたって、まず、回転錘160の所望の箇所に窒化処理を行うことにより、その所望の箇所を不活性化させる(不活性化処理工程)。この後、回転錘160の表面に陽極酸化処理を行い、回転錘160の表面に酸化膜を形成する(酸化膜形成工程)。
【0038】
(不活性化処理工程)
不活性化処理工程について詳述する。
図4、図5に示すように、まず、チタン、及びチタン合金の何れかにより、回転錘160の外形状を形成した後、洗浄剤で洗浄し、油分や汚れを十分に除去する。この後、窒化処理装置200を用い、回転錘160の表面に窒素ガスGを吹き付けながら所望の箇所にレーザー光Lを照射する。すると、レーザー光Lが照射された箇所に、窒化処理された窒化処理層21が形成される。
【0039】
ここで、レーザー光Lを用いて回転錘160の表面の窒化処理を行うので、図4に示すように、窒化処理層21を平面視で文字となるように形成することが可能である。また、回転錘160の表面に吹き付ける窒素ガスGの窒素純度は、例えば99%以上である。そして、窒化処理層21の膜厚は、例えば15nm〜30nm程度に設定される。
尚、膜厚が厚くなるに従って、この膜厚の色彩が金色、紫色、青色、ピンク色、青色、緑色へとこの順に変化していく。このため、窒化処理層21の厚さが15nm〜30nm程度に設定されている場合、回転錘160の表面は、ほぼ金色に発色する。
【0040】
(酸化膜形成工程)
続いて、酸化膜形成工程について詳述する。
図6に示すように、電解液中に回転錘160浸漬して陽極に接続し、陰極との間を通電する、所謂陽極酸化処理を行う。これにより水が電気分解され、回転錘160の表面に陽極酸化膜22a,22bが形成される。この後、純水で洗浄し、エアブローで回転錘160を乾燥させ、酸化膜形成工程が終了する。
【0041】
陽極酸化処理の具体的な条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。
1.電解液:リン酸(H3PO4)15mlを溶かして1000mlの溶液を作製してなる
2.処理環境温度:室温(例えば、約25℃)
3.通電条件
・昇圧速度:9.75[V/sec]に設定して2秒間通電
・保持電圧:19.5[V/sec]に設定して60秒間通電
・降圧速度:0.975[V/sec]に設定して20秒間通電
【0042】
ここで、回転錘160の表面には、所望の箇所に窒化処理層21が形成されている。この窒化処理層21が形成されている箇所は不活性化され、窒化処理層21が形成されていない箇所と比較して陽極酸化反応速度が遅くなる。このため、窒化処理層21の表面に形成されている陽極酸化膜22aの膜厚は、窒化処理層21が形成されていない箇所の表面に形成されている陽極酸化膜22bの膜厚よりも薄膜になる。
【0043】
より具体的には、例えば、窒化処理層21が形成されていない箇所の表面に形成されている陽極酸化膜22bの膜厚が約70nmになっている場合、窒化処理層21の表面に形成されている陽極酸化膜22aの膜厚は、約50nm〜60nm程度になっている。
このような膜厚の場合、窒化処理層21が形成されていない箇所の表面は、ほぼ青色に発色し、窒化処理層21が形成されている箇所の表面は、ほぼ紫色に発色する。
【0044】
(効果)
したがって、上述の実施形態によれば、回転錘160の所望の箇所に窒化処理層21を形成し、この窒化処理層21上の陽極酸化反応速度を、窒化処理層21が形成されていない箇所の陽極酸化反応速度と比較して遅くすることができる。このため、窒化処理層21の表面に形成されている陽極酸化膜22aの膜厚を、窒化処理層21が形成されていない箇所の表面に形成されている陽極酸化膜22bの膜厚よりも薄くすることができる。各陽極酸化膜22a,22bの膜厚が異なるので、これら陽極酸化膜22a,22bの色彩も異なる。
【0045】
よって、従来のように、テープやマスキング剤を用いてマスキングを行うことなく、所望の箇所を所望の色に発色させることができるので、装飾部品を発色させる作業性を向上させることができると共に、テープやマスキング剤を除去する際、回転錘160の損傷を防止でき、回転錘160の装飾性を確実に高めることができる。
また、陽極酸化膜22a,22bにより回転錘160を発色させることにより、この回転錘160を綺麗に発色させることができる。
【0046】
また、窒化処理層21で回転錘160の所望の箇所を不活性化処理しているので、その後に行う陽極酸化反応の反応速度を、簡単、且つ確実に遅くすることができる。このため、回転錘160の所望の箇所の色彩を、確実にその他の箇所と異色にすることができる。
さらに、回転錘160にレーザー光Lを照射して窒化処理層21を形成しているので、窒化処理層21を形成する箇所と、窒化処理層21を形成しない箇所との境界を高精度に設定することができる。このため、回転錘160の装飾性をさらに高めることが可能になる。
【0047】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、回転錘160に窒化処理層21を形成するにあたり、回転錘160の表面に窒素ガスGを吹き付けながら所望の箇所にレーザー光Lを照射する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、窒素雰囲気下で回転錘160の異なる色彩に発色させたい箇所を加熱することにより、この発色させたい箇所の窒化処理を行うように構成してもよい。この場合、窒化処理の条件としては、例えば以下の条件が挙げられる。
1.処理環境温度:950℃
2.処理時間:10h
3.窒素純度:99%以上
このような条件のもと、回転錘160に形成される窒化処理層の厚さは、15nm〜30nm程度になる。
【0048】
また、上述の実施形態では、回転錘160の所望の箇所の陽極酸化反応速度を遅らせるための不活性化処理として窒化処理を行い、回転錘160の表面に窒化処理層21を形成する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、回転錘160の所望の箇所の陽極酸化反応速度を遅らせるための不活性化処理であればよい。
例えば、窒化処理に代わって炭化処理を行い、回転錘160の表面に窒化処理層21に代わって炭化処理層を形成するように構成してもよい。
【0049】
また、回転錘160の所望の箇所に予め陽極酸化処理を行って陽極酸化膜を形成しておき、この後、回転錘160全体に陽極酸化処理を行って、回転錘160全体に陽極酸化膜を形成するように構成してもよい。このように構成した場合であっても、予め陽極酸化処理を行った箇所は、既に酸化反応させているので不活性化される。すなわち、その後に回転錘160全体に陽極酸化処理を行っても、予め陽極酸化処理を行った箇所に形成される陽極酸化膜の膜厚と、予め陽極酸化処理を行っていない箇所に形成される陽極酸化膜の膜厚とを異ならせることができる。
【0050】
さらに、上述の実施形態では、回転錘160の回転錘体164における所望の箇所を、その他の箇所と異なる色彩に発色させる場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、回転錘160の回転重錘166における所望の箇所を、異なる色彩に発色させてもよい。
この他、自動巻腕時計10に用いられるさまざまな部品に本発明を適用することができる。例えば、回転錘160の他に、地板102、一番受105、二番受106、てんぷ受108、アンクル受109、各車120〜128、てん輪136b等、さまざまな部品に本発明の適用することができる。さらには、自動巻腕時計10を構成する部品に限らず、酸化膜を形成することで発色させるさまざまな部品に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 自動巻時計(時計)
21 窒化膜
22a,22b 陽極酸化膜(酸化膜)
160 回転錘(装飾部品)
164 回転錘体(母材)
166 回転重錘(母材)
G 窒素ガス
L レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン、及びチタン合金の何れか一方からなる母材を有し、この母材の表面に酸化膜を形成することにより、前記母材の表面が発色されている装飾部品であって、
前記母材の表面には、前記酸化膜が形成される部位の少なくとも一部に、不活性化処理が施されていることを特徴とする装飾部品。
【請求項2】
前記不活性化処理は、窒化処理であることを特徴とする請求項1に記載の装飾部品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の装飾部品を備えていることを特徴とする時計。
【請求項4】
チタン、及びチタン合金の何れか一方からなる母材を有し、この母材の表面に酸化膜を形成することにより、前記母材の表面が発色されている装飾部品の製造方法であって、
前記母材の表面の少なくとも一部に不活性化処理を施す不活性化処理工程と、
前記母材の表面における、前記不活性化処理が施された部位、及びこの他の部位に、酸化膜を形成する酸化膜形成工程とを有することを特徴とする装飾部品の製造方法。
【請求項5】
前記酸化膜形成工程において前記母材の表面に形成される酸化膜は、陽極酸化膜であることを特徴とする請求項4に記載の装飾部品の製造方法。
【請求項6】
前記不活性化処理工程において前記母材の表面に施される不活性化処理は、窒化処理であることを特徴とする請求項4に記載の装飾部品の製造方法。
【請求項7】
前記窒化処理は、前記母材に窒素ガスを吹き付けながら前記母材の表面にレーザー光を照射することによって行うことを特徴とする請求項6に記載の装飾部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−1989(P2013−1989A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137040(P2011−137040)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】