説明

装飾部品用セラミックスおよび釣糸案内用装飾部品ならびに複合装飾部品

【課題】 優れた耐磨耗性を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる金色の色調を有する装飾部品用セラミックスおよびこの装飾部品用セラミックスからなる装飾部品を提供する。
【解決手段】 窒化チタンを主成分とし、ムライト,アルミナおよびニッケルを含む装飾部品用セラミックスである。これによれば、優れた耐磨耗性を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる金色の色調を有する装飾部品用セラミックスとなり、釣糸案内用装飾部品および複合装飾部品に好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金色の色調を醸し出す装飾部品用セラミックスおよびこの装飾部品用セラミックスからなる釣糸案内用装飾部品ならびに複合装飾部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、装飾部品に用いられる金色の色調が求められる部分には、純金やこれらの合金,黄銅等の各種金属が使用されていたが、いずれも硬度が低いため、硬質物質との接触により傷が生じやすかった。また、基材の表面に金メッキが施されたものも使用されていたが、硬質物質との接触や摩擦によって金メッキが剥離しやすかった。
【0003】
また、基材の表面に下地層を形成し、ガスをプラズマ状態に励起するCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長法)によってDLC(Diamond Like Carbon)皮膜を形成させる硬質コーティングによって、表面における耐磨耗性や硬度を向上させることができるものの、耐磨耗性や硬度が十分でないために装飾部品の表面に傷が生じやすく、次第に装飾性が損なわれるという問題があった。
【0004】
そのため、このような問題を解決するために、機械的特性に優れたセラミックスが用いられるようになりつつあり、本発明者は特許文献1に示すように、チタンの窒化物を含む第1の硬質相と、アルミナまたはジルコニアの少なくとも1種を含む第2の硬質相と、ニッケルを含む結合相とから構成されるセラミック焼結体を提案していた。このセラミック焼結体によれば、第2の硬質相によって第1の硬質相が保護されて第1の硬質相が脱離することがないので、優れた耐磨耗性および高い硬度を示すことができるというものであり、金色の色調が所有者に美的満足感,高級感および精神的安らぎ等を与えることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第05/093110号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が特許文献1にて提案したセラミック焼結体は、優れた耐磨耗性および高い硬度を示すことができるものではあるが、最近ではさらに優れた耐磨耗性を有していることが要求されている。さらに、このセラミック焼結体を装飾部品として用いるには、耐磨耗性とともに、高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる金色の色調を有していることが求められている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、優れた耐磨耗性を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる金色の色調を有する装飾部品用セラミックスおよびこの装飾部品用セラミックスからなる釣糸案内用装飾部品ならびに複合装飾部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、ムライト,アルミナおよびニッケルを含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記構成において、アルミニウムおよび珪素を酸化物換算の合計で7質量%以上12質量%以下の範囲で含み、前記ニッケルを3質量%以上11質量%以下の範囲で含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記いずれかの構成において、さらにクロムを炭化物換算で2質量%以上6質量%以下の範囲で含むことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記いずれかの構成において、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記いずれかの構成において、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が60以上70以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ3以上7以下,17以上25以下であることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の釣糸案内用装飾部品は、上記いずれかの構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の複合装飾部品用は、上記いずれかの構成の本発明の装飾部品用セラミックスと、該装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の装飾部品用セラミックスによれば、窒化チタンを主成分とし、ムライト,アルミナおよびニッケルを含むことから、装飾部品用セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張をムライトが抑えて、結晶粒子の脱粒を抑制することができる。また、アルミナを含むことにより、耐磨耗性を向上させることができる。また、ニッケルを含むことにより、窒化チタン結晶粒子同士を強固に結合する結合剤として作用するので破壊靱性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、アルミニウムおよび珪素を酸化物換算の合計で7質量%以上12質量%以下の範囲で含み、ニッケルを3質量%以上11質量%以下の範囲で含むときには、装飾部品用セラミックスの色調に与える影響が大きくなり過ぎることなく、耐磨耗性を向上させることができる。また、ニッケルの含有量が上記範囲内にあれば、ニッケルは流出しにくくなるとともに鮮やかさも損なわれないので、耐食性と鮮やかさとを兼ね備えることができる。
【0017】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、さらにクロムを炭化物換算で2質量%以上6質量%以下の範囲で含むときには、一部のクロムがニッケルと反応してニッケルクロム化合物を生成するため、ニッケルがイオン化して流出しにくくなるので、金属アレルギーの発症を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むときには、イオン化傾向が大きく、強い酸素吸着作用により、噴霧乾燥によって得られた顆粒の酸化を抑制することができるので、装飾面の色調のばらつきを抑えることができる。
【0019】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が60以上70以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ3以上7以下,17以上25以下であるときには、程良い明るさと鮮やかさを有する金色の色調となり、高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与え続けることができる。
【0020】
また、本発明の装飾部品用セラミックスからなる本発明の釣糸案内用装飾部品によれば、釣糸を案内するときに釣糸に付着した細かい砂等に擦られても、高い硬度を有しているので表面に傷が付きにくく、金色の色調を維持しつつ、長期間の使用に耐えるものとすることができる。
【0021】
また、本発明の複合装飾部品によれば、本発明の装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されているときには、例えば、異なる色調が紫色であると、本発明の装飾部品用セラミックスの呈する色調の金色との組み合わせによって、装飾が求められる店頭広告やインテリア雑貨に用いたときに、消費者の購買意欲を刺激することができる。また、異なる色調が黒色であると、本発明の装飾部品用セラミックスの呈する色調の金色との組み合わせによって、視認性が高まり、遠方からの視認が求められる用途、例えば、案内板等の表示部品として好適に用いることができる。さらに、異なる色調が銀色であれば、より高級感に溢れた装飾性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの一例を示す、(a)は釣糸用ガイドリングの斜視図であり、(b)は(a)の釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの斜視図である。
【図2】(a)〜(f)は、それぞれ本発明の複合装飾部品の一例を示す、装飾面を平面視した模式図である。
【図3】本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性の評価に用いる耐磨耗性評価装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の装飾部品用セラミックスの実施の形態の例について説明する。
【0024】
本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、ムライト,アルミナおよびニッケルを含むものである。なお、ここでいう主成分とは、装飾部品用セラミックスを構成する全成分100質量%に対して50質量%以上を占める成分である。この主成分である窒化チタンは、装飾部品として良好な金色の色調を呈するとともに、強度や硬度等の機械的特性が高いという特長を有していることから、本発明の装飾部品用セラミックスにおいては、窒化チタンを70質量%以上の含有量で含有させることが好適である。
【0025】
そして、窒化チタンを主成分とするセラミックスは、その表面に汗や泥水等が付着すると、表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されて酸化チタンとなるときに体積膨張して脱粒しやすい状態となるが、窒化チタンを主成分とし、ムライト,アルミナおよびニッケルを含むことにより、セラミックスの表面に汗や泥水等が付着しても、ムライトの結晶粒子が、このセラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を抑えて脱粒を抑制するとともに、硬度が高く耐磨耗性に優れたアルミナを含むことにより装飾部品用セラミックスの耐磨耗性を向上させることができる。また、ニッケルを含むことにより、窒化チタン結晶粒子同士を強固に結合する結合剤として作用し破壊靱性および剛性を向上させることができる。
【0026】
なお、本発明の装飾部品用セラミックスに含まれるアルミナとは、主成分である窒化チタンに酸化アルミニウム(以下、アルミナと称す。)および二酸化珪素の化合物であるムライトとニッケルとを加えて作製することにより、ムライトに含まれるSiが、ニッケルとの化合物であるNiSiおよび窒化チタン中のTi成分との化合物であるTiSiを形成し、余剰となって装飾部品用セラミックスの結晶中に存在することとなるアルミナのことである。このように、本発明の装飾部品用セラミックスの結晶中にアルミナが存在することにより、アルミナは硬度が高く耐磨耗性に優れているのでさらに耐磨耗性を向上させることができる。
【0027】
なお、本発明の装飾部品用セラミックスにおいて、窒化チタン,ムライト,アルミナおよびニッケルが含まれているか否かについては、市販のX線回折装置を用いて測定することにより確認することができる。具体的には、装飾部品用セラミックスである焼結体をX線回折測定し、得られたX線回折チャートと既存物質のX線回折チャートであるJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードとを照合して同定することにより、焼結体中に含まれる成分を知ることができる。
【0028】
また、ムライトの結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上2μm以下であることが好適である。この範囲であれば、窒化チタンの結晶粒子に高い圧縮応力を与えることができるので、高い剛性の装飾部品用セラミックスを得ることができる。例えば、ヤング率を380GPa以上にすることができる。
【0029】
なお、ムライトの結晶粒子の平均結晶粒径については、走査型電子顕微鏡で倍率を5000倍として撮影した、範囲が24μm×18μmの反射電子組成像を用いて、JIS R 1670-2006に準拠して求めることができる。
【0030】
ところで、ムライトが本発明の装飾部品用セラミックスに含まれず、ムライトを構成するアルミニウムおよび珪素がそれぞれアルミナおよび二酸化珪素として別々に含まれているとすると、アルミナは硬度が高いので耐磨耗性を向上させることができるが、二酸化珪素は硬度が低いので、耐磨耗性を十分に向上させることができない。
【0031】
また、組成式がAl13Siで表されるムライトのAl/Si原子比は理論的には3.0であるが、この値より小さ過ぎても大き過ぎても、ムライトの結晶粒子の内部には原子空孔が生成したり、さらに、この生成した原子空孔に過剰なカチオンが置換したアンチサイト欠陥が発生したりして、紫外線領域における光の吸収が生じるため、Al/Si原子比は2.6以上3.4以下の範囲、特に2.8以上3.2以下の範囲にあることが好適である。
【0032】
このように、本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、ムライト,アルミナおよびニッケルを含むことから、セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張をムライトが抑えて、結晶粒子が脱粒することがほとんどなく、硬度が高く耐磨耗性に優れたアルミナを含んでいることにより、耐磨耗性を向上させることができる。また、窒化チタンが呈する金色系の色調に、ニッケルが呈する銀色系の色調が絶妙に融合されるので、装飾的価値の極めて高い金色の色調を醸し出すことができる。
【0033】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、アルミニウムおよび珪素を酸化物換算の合計で7質量%以上12質量%以下の範囲で含み、ニッケルを3質量%以上11質量%以下の範囲で含むことが好適である。
【0034】
ムライトを構成するアルミニウムおよび珪素を酸化物換算の合計で7質量%以上12質量%以下の範囲で含むときには、装飾部品用セラミックスの色調に与える影響が大きくなり過ぎることなく、ムライトが装飾部品用セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を抑制することができる。また、主成分である窒化チタンにムライトとニッケルとを加えて装飾部品用セラミックスを作製することにより、本発明の装飾部品用セラミックスの結晶中にアルミナを存在させることができるので、耐磨耗性を向上させた金色の装飾部品用セラミックスを得ることができる。
【0035】
また、ニッケルを3質量%以上11質量%以下の範囲で含むときには、装飾部品用セラミックスの硬度をほとんど低下させることなく、窒化チタンの結晶粒子同士を強固に結合する結合剤として作用して、破壊靱性および剛性を向上させることができる。
【0036】
また、クロムを含むことにより、クロムが空気中の酸素と結合して表面に緻密な酸化皮膜を生成するので、耐食性を向上させることができる。さらに、クロムが窒化チタンの結晶粒子同士を結合する結合剤として作用するニッケルと反応し、組成がNiCr(但し、xおよびyは、0<x<1,0<y<1である。)として表される化合物を生成して、ニッケルがイオン化して流出することを抑制することができるので、金属アレルギーを引き起こすことを抑制することができる。
【0037】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、さらに、クロムを炭化物換算したときの含有量で2質量%以上6質量%以下の範囲で含むことが好適である。この範囲のクロムを含むことにより、ニッケルと反応して化合物を生成し、ニッケルがイオン化して流出するのを抑制するとともに、装飾部品用セラミックスの色調に鮮やかさを与えることができる。
【0038】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことが好適である。この範囲のマンガンを含むことにより、イオン化傾向が大きく、強い酸素吸着作用により、噴霧乾燥によって得られた顆粒の酸化を抑制し、装飾面の色調のばらつきを抑えることができる。
【0039】
そして、本発明の装飾部品用セラミックスを構成する窒化チタン,ムライト,ニッケル,炭化クロムおよびマンガンの各含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。具体的には、窒化チタンは、Tiの金属元素の含有量を測定して窒化物に換算し、ムライトについては、Al,Siの金属元素の含有量を測定し、それぞれ酸化物に換算して合計すればよい。また、ニッケルおよびマンガンについては、Ni,Mnの金属元素の測定値が含有量となる。また、クロムについては、Crの金属元素の含有量を測定し、炭化物に換算すればよい。なお、窒化チタンについては、測定を行なわず、ムライト,ニッケル,炭化クロムおよびマンガンの各含有量の和を100質量%から差し引いた値を窒化チタンの含有量としてもよい。
【0040】
また、本発明の装飾部品用セラミックスにおけるアルミナ,NiSiおよびTiSiの含有量については、X線回折を用いて定量分析することにより、確認することができる。
【0041】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値が60以上70以下であり、クロマティクネス指数a*およびb*の値がそれぞれ3以上7以下,17以上25以下であることが好適である。この範囲であれば、程良い明るさと鮮やかさとを有する金色の色調となり、高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続けることができる。
【0042】
ここで、本発明の装飾部品用セラミックスにおける装飾面とは、装飾部品の装飾的価値が要求される面を指し、装飾的価値が要求されない面を含む必要はないので、全ての面を指すものではない。例えば、本発明の装飾部品用セラミックスを時計用ケースに用いる場合では、この時計用ケースの外側の面は、鑑賞の対象となるものであり装飾的価値が要求されるので装飾面であるが、時計の駆動機構が嵌め込まれる内側の面等は、通常は装飾的価値を要求されないので装飾面ではない。
【0043】
そして、明度指数L*とは色調の明暗を示す指数であり、明度指数L*の値が大きいと色調は明るく、明度指数L*の値が小さいと色調は暗くなる。また、クロマティクネス指数a*は色調の赤から緑の度合いを示す指数であり、a*の値がプラス方向に大きいと色調は赤色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、a*の値がマイナス方向に大きいと色調は緑色になる。さらに、クロマティクネス指数b*は色調の黄から青の度合いを示す指数であり、b*の値がプラス方向に大きいと色調は黄色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、b*の値がマイナス方向に大きいと色調は青色になる。
【0044】
そして、このような装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722−2000に準拠して測定することで求められる。例えば、分光測色計(コニカミノルタ製 CM−3700d等)を用い、光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して測定することができる。
【0045】
また、装飾面の算術平均高さRaは、光の反射率に影響を及ぼして色調が変わるため、装飾面の算術平均高さRaを0.03μm以下としておくことが好ましい。これにより、光の反射率が高くなり、明度指数L*の値を上昇させることができる。この算術平均高さRaが0.03μmを超えると、明度指数L*の値が低下し、色調は暗くなり高級感が低下するおそれがある。
【0046】
この光とは、波長域380〜780nmの可視光線の集合であり、算術平均高さRaを0.03μm以下とすることによって、可視光線を分光し、青色を示す波長域450〜500nmの光の反射を少なくするとともに、黄色を示す波長域570〜590nmの光の反射を多くするように作用するので、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与える金色を呈することができる。特に、波長域570〜700nmの光に対する装飾面の反射率は、50%以上であることが好適である。
【0047】
なお、算術平均高さRaはJIS B 0601−2001に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmとし、触針式の表面粗さ計を用いて測定する場合であれば、例えば、装飾部品用セラミックスの装飾面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均高さRaの値とする。
【0048】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面における開気孔率が明度指数L*の値に影響を及ぼし、開気孔率が高いと明度指数L*の値は小さくなり、開気孔率が低いと明度指数L*の値は大きくなる。そのため、装飾面における開気孔率は2.5%以下であることが好ましく、開気孔率が1.1%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
なお、装飾面における開気孔率は、金属顕微鏡を用いて、倍率を200倍にしてCCDカメラで装飾面の画像を取り込み、画像解析装置(ニレコ製 LUZEX−FS等)により画像内の1視野の測定面積を2.25×10−2mm,測定視野数を20,つまり測定総面積が4.5×10−1mmにおける開気孔の面積を求めて測定総面積における割合を装飾面の開気孔率とすればよい。
【0050】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、主成分である窒化チタンの組成式をTiNとしたときに0.8≦x≦0.96であることが好ましい。組成式をTiNとしたときの原子数xの値により、その色調は影響を受ける。原子数xが小さくなると色調は金色から薄い金色になり、原子数xが大きくなると色調はくすんだ濃い金色になる。このような観点から組成式をTiNとしたときの原子数xの値は、0.8以上0.96以下であることが好ましく、原子数xの値がこの範囲であるときには、光沢のある色調感がさらに増すため、より高い高級感および美的満足感を得ることができる。
【0051】
そして、本発明の釣糸案内用装飾部品は、上記構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とし、その具体的な例としては、釣糸用ガイドリングおよびこれを備えた釣糸用ガイドがある。
【0052】
図1は、本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの一例を示しており、(a)は釣糸用ガイドリングの平面図であり、(b)は(a)の釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの斜視図である。
【0053】
図1に示す例の釣糸用ガイドリング1は、その内周側に釣糸(図示しない)を挿通して案内するものであり、釣糸用ガイド6は、釣糸用ガイドリング1を保持する保持部2を備え、この保持部2の支持部3および釣竿(図示しない)に固定する固定部4が一体的に形成された枠体5に釣糸用ガイドリング1を備えたものである。この釣糸用ガイドリング1を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0054】
また、金色の色調の釣糸用ガイドリング1と、釣糸用ガイド6や釣竿の色調との調和がよいので釣具に好適に用いることができる。特に、金色の色調を呈することから、嗜好品に高級感を求める人の好む釣具とすることができる。なお、釣糸用ガイドリング1の表面を透明な耐磨耗性の高い膜、例えば、非晶質硬質炭素からなる膜で被覆して、耐磨耗性をさらに向上させてもよい。
【0055】
図2は、本発明の複合装飾部品の一例を示す、装飾面を平面視した模式図である。
【0056】
図2に示す複合装飾部品10は、装飾面を平面視して、金色を呈する本発明の装飾部品用セラミックス11と、装飾部品用セラミックス11と異なる色調の装飾面を有する装飾部品12とが並べて配置されているものの例である。装飾部品用セラミックス11および装飾部品12の形状として、図2(a)はいずれも三角形状であり、(b)はいずれも四角形状であり、(c)はいずれも平行四辺形状であり、(d)は六角形状と三角形状との組み合わせであり、(e)は八角形状と四角形状との組み合わせであり、(f)は四角形状の装飾部品12と装飾部品12の周囲を囲んだ装飾部品用セラミックス11との組み合わせを示すものである。
【0057】
そして、装飾部品用セラミックス11と異なる色調として、具体的には、装飾部品12の色調が紫色であれば、装飾が求められる店頭広告やインテリア雑貨に用いたときに、消費者の購買意欲を刺激することができる。
【0058】
また、装飾部品12の色調が黒色であれば、本発明の装飾部品用セラミックス11の呈する色調の金色との組み合わせによって、視認性が高まり、遠方からの視認が求められる用途、例えば、案内板等の表示部品として好適に用いることができる。さらに、装飾部品12の色調が銀色であれば、より高級感に溢れた装飾性を高めることができる。
【0059】
なお、装飾部品12は、本発明の装飾部品用セラミックス11と異なる色調で装飾性を高めるものであればよいため、材質は問わず、また、装飾部品用セラミックス11および装飾部品12の形状や組み合わせについては、これら図2(a)〜(f)に示す例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0060】
そして、本発明の装飾部品用セラミックスのビッカース硬度および破壊靭性は、JIS R 1610−2003およびJIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)で測定することができる。
【0061】
なお、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性は、以下に示す構成の耐磨耗性評価装置を作製し、これを用いることにより評価することができる。
【0062】
図3は、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性の評価に用いる耐磨耗性評価装置の概略構成図である。この耐磨耗性評価装置20は、ナイロン製の糸22と、所定位置で糸22に張力を与える複数のプーリー23と、プーリー23の1つであるプーリー23aに連結して糸22を矢印の向きに走行させるモーター(図示しない)と、糸22に泥水を付着させる水槽24とからなり、おもり25の質量分の荷重が与えられ、水槽24を通って泥水が付着した糸22が、所定位置に治具(図示しない)等で固定された円柱状の装飾部品用セラミックス21の外周面を摺動する構造となっており、ナイロン製の糸22の号数は、例えば3号とすればよい。
【0063】
この耐磨耗性評価装置20を用いて装飾部品用セラミックス21の耐磨耗性を評価する際の条件は、例えば、おもり25の質量を500gとし、糸22が円柱状の装飾部品用セラミックス21の外周を摺動する速度を60m/分とし、糸22の走行距離が3000m以上になるように設定すればよい。そして、モーターを駆動して糸22を摺動させた後に、円柱状の装飾部品用セラミックス21が磨耗して生じた傷の最も深い部分を表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて測定し、この測定値を比較することによって、耐磨耗性を評価することができる。
【0064】
次に、本発明の装飾部品用セラミックスの製造方法の一例を説明する。
【0065】
本発明の装飾部品用セラミックスを得るには、まず、主成分である窒化チタンと、ムライトおよびニッケルとの各粉末を所定量秤量し、粉砕・混合して調合原料とする。より具体的には、平均粒径が10μm以上30μm以下の窒化チタンの粉末と、平均粒径が0.5μm以上2μm以下のムライトの粉末と、平均粒径が10μm以上20μm以下のニッケルの粉末とを準備する。
【0066】
そして、ムライトの粉末が7質量%以上12質量%以下、ニッケルの粉末が3質量%以上11質量%以下であって、残部が窒化チタンの粉末となるように秤量して粉砕・混合すればよい。
【0067】
さらに、クロムを含む装飾部品用セラミックスを得るには、組成式がCrとして表される、平均粒径が3μm以上10μm以下の炭化クロムの粉末を調合原料の一部とし、その比率を2質量%以上6質量%以下として、調合原料に加えればよい。
【0068】
さらに、マンガンを含む装飾部品用セラミックスを得るには、平均粒径が13μm以上23μm以下であり、その比率を0.2質量%以上2質量%以下のマンガンの粉末、または組成式がMnCOとして表される、平均粒径が13μm以上23μm以下であり、その比率を0.1質量%以上1質量%以下の炭酸マンガンの粉末を調合原料に加えればよい。
【0069】
なお、ニッケルがクロムを包囲した状態で、窒化チタンの各結晶粒子同士を結合する結合相を形成するには、ニッケルの粉末と炭化クロムの粉末とが接触する頻度を高くすることが必要である。この頻度を高くするためには、粉砕・混合時間を長くすればよく、例えば、粉砕・混合時間を150時間以上にすればよい。このとき、この調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適である。
【0070】
また、窒化チタンの粉末は化学量論的組成のTiNであっても、あるいは非化学量論的組成のTiN(0<x<1)であってもよいが、耐磨耗性および装飾的価値が高い色調という観点からは、各粉末の純度は99%以上であることが好ましく、窒化チタンの粉末が一部ニッケルの粉末と反応してTiNiを微量生成しても何等差し支えない。特に、装飾部品用セラミックスの主成分である窒化チタンの組成式をTiNとしたときに0.8≦x≦0.96とするには、窒化チタンの粉末は組成式をTiNとしたときに0.7≦x≦0.9のものを用いればよい。
【0071】
次いで、調合原料に有機溶媒として、例えばイソプロパノールを加え、ミルを用いて混合粉砕した後、結合剤としてパラフィンワックスを所定量添加し、所望の成形法、例えば、乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法等により円板,平板,円環体等の所望形状に成形する。
【0072】
また、成形法として乾式加圧を選択した場合は、成形圧力は装飾面における開気孔率およびビッカース硬度(Hv)に影響を与えることから、成形圧力を49MPa以上196MPa以下とすることが好適である。成形圧力を49MPa以上196MPa以下とすることにより、成形型の寿命を長くすることができるとともに、相対密度が95%以上であり,開気孔率が2.5%以下であり,ビッカース硬度(Hv)が10.5GPa以上の焼結体を得ることができる。
【0073】
そして、得られた成形体を必要に応じて窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で脱脂した後、窒素雰囲気中で焼成し、理論密度に対する相対密度が95%以上の焼結体を得る。なお、窒素雰囲気中で焼成するのは、酸化性雰囲気中で焼成すると、チタンが酸化してそのほとんどが組成式TiOで表される酸化チタンとなり、この酸化チタンが本質的に備えている白色の色調の影響を受けてしまい、装飾部品用セラミックスの全体の色調が白っぽくかすむからである。
【0074】
さらに、焼成温度を1650℃以上1700℃以下とすることが好適である。これにより、相対密度が95%以上で開気孔率が2.5%以下の焼結体を得ることができる。
【0075】
そして、得られた焼結体の装飾的価値が求められる面に、ラップ盤を用いてラップ加工を行なった後、バレル研磨を行なうことにより、焼結体のその表面は金色の色調を有する装飾面となって、本発明の装飾部品用セラミックスを得ることができる。なお、このような装飾面に現れる気孔は、その開口部の最大径を30μm以下にすることが好適で、この範囲にすることで、気孔内への雑菌,異物や汚染物等の凝着を低減することができる。
【0076】
装飾部品用セラミックスからなる製品の形状が複雑な形状の場合には、予め乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法,射出成形法等によってブロック形状または製品形状に近い形状に成形し、焼結した後に、製品形状になるように研削加工を施した後、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよく、あるいは最初から射出成形法によって製品形状とし、焼成後に、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよい。
【0077】
ここで、装飾面となる表面の算術平均高さRaを0.03μm以下とするには、錫製のラップ盤に平均粒径の小さいダイヤモンド砥粒を供給してラップ加工すればよく、例えば平均粒径1μm以下のダイヤモンド砥粒を用いればよい。また、バレル研磨では、回転バレル研磨機を用い、メディアとしてグリーンカーボランダム(GC)を回転バレル研磨機に投入し、湿式で24時間行なえばよい。
【0078】
以上のようにして得られる本発明の装飾部品用セラミックスは、高い硬度を有するとともに、所有者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる金色の色調を有するので、上述のように、釣糸用ガイドリング等の釣糸案内用装飾部品をはじめ、腕時計用ケースや時計用バンド駒等の時計用装飾部品、押して操作する各種キーやケース等の携帯端末機用装飾部品、石鹸ケースやコーヒーカップセット,ナイフ,フォーク,ハブラシやカミソリの柄,耳かき,ハサミ,印材や名刺等の生活用品用装飾部品、メーカーや車種名等のエンブレムやコーナーポール等の車両用品用装飾部品、ゴルフクラブのアクセサリーやスパイクシューズのスタッド等のスポーツ用品用装飾部品、ギターのベースプレート等の楽器用装飾部品、人工歯冠やイヤホンユニットのケースやめがねのブリッジ等の装身具用装飾部品に好適に用いることができる。
【0079】
また、この他にも、ブローチ,ネックレス,イヤリング,リング,ブレスレット,アンクレット,ネクタイピン,タイタック,メダル,ボタン等や、床,壁,天井を飾るタイルあるいはドアの取手等の建材用装飾部品および宗教用工芸品用装飾部材としても好適に用いることができる。
【0080】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0081】
まず、本発明の装飾部品用セラミックスとして、窒化チタン(TiN),ムライト(Al13Si)およびニッケル(Ni)の各粉末を用いて表1に示す含有量となるように秤量し、混合して調合原料とした。
【0082】
また、比較例として、上記と同じ窒化チタン(TiN),ニッケル(Ni)の各粉末を用いて表1に示す含有量となるように秤量し、混合して調合原料とした。
【0083】
次に、上記各調合原料に有機溶媒としてイソプロパノールを加え、振動ミルを用いて72時間粉砕・混合した後、ポリエチレングリコール等のバインダを調合原料に対して3質量%添加し混合して、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し顆粒とした。そして、得られた顆粒を成形型に充填し、98MPaの圧力で加圧成形して、それぞれ円板状および円柱状の成形体を作製した。これら成形体を窒素雰囲気中にて600℃で脱脂した後、窒素雰囲気中にて1650℃で2時間保持することで焼結体を得た。
【0084】
そして、円板状の焼結体を用いて破壊靱性をJIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)で測定した。
【0085】
また、耐磨耗性の評価については、図3に示す例の耐磨耗性評価装置を用いて、得られた円柱状の装飾部品用セラミックスを所定位置(図3において、装飾部品用セラミックス21の位置)に治具で固定した後、水0.001mに対して半磁器土(粘土の中に磁器土(陶石)を配合した粘土)を10g投入し混合して、水槽24中に泥水を準備した。そして、おもり25の質量を500gに、糸22が円柱状の装飾部品用セラミックスの外周側を摺動する速度を60m/分に、糸22の走行距離を3000mとなるように設定し、泥水が付着したナイロン製(東レ製 銀鱗Σ3号)の糸22を、円柱状の装飾部品用セラミックスの外周側で摺動させた。その後、表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて、糸22を摺動させることによって円柱状の装飾部品用セラミックスが磨耗して生じた傷の最も深い部分を測定した。
【0086】
また、円板状の焼結体については、錫製のラップ盤に平均粒径が1μmのダイヤモンド砥粒を供給して焼結体の表面を1時間ラップ加工して、JIS B 0601−2001で規定する算術平均高さ(Ra)が0.1μmとした本発明と比較例の装飾部品用セラミックスを得た。
【0087】
そして、この装飾部品用セラミックスを構成する窒化チタン,ムライトおよびニッケルの各含有量はICP発光分光分析法により金属元素の含有量を測定し、ニッケルは測定値が含有量であり、窒化チタンはTiの金属元素の含有量を測定して窒化物に換算し、ムライトはAlおよびSiの金属元素の含有量を測定して酸化物に換算した後に合計して求めた。また、X線回折装置を用いて測定し、アルミナの有無について確認した。
【0088】
得られた結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示す結果から、本発明と比較例の装飾部品用セラミックスは、破壊靱性の評価については大きな差が見られなかったものの、ムライトを含まず、アルミナを有していない比較例の装飾部品用セラミックスは、耐磨耗性が劣っていた。これに対し、本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、ムライト,およびニッケルを含むことから、耐磨耗性が優れていることが分かる。
【実施例2】
【0091】
まず、窒化チタン(TiN),ムライト(Al13Si)およびニッケル(Ni)の各粉末を用いて、焼結体での比率(含有量)が表2に示す比率となるように秤量し、混合して調合原料とした。
【0092】
次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.1〜13の円板状の装飾部品用セラミックスを得た。
【0093】
そして、これらの装飾部品用セラミックスの各成分の含有量を実施例1と同様にICP発光分光分析法により測定し、X線回折装置を用いてアルミナの有無について確認した。
【0094】
また、実施例1と同様に、試料No.1〜13の円板状の装飾部品用セラミックスを用いて、破壊靱性をJIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)で測定した。
【0095】
また、耐磨耗性の評価については、実施例1と同様に、試料No.1〜13の円板状の装飾部品用セラミックスを用い、磨耗して生じた傷の最も深い部分を測定した。
【0096】
次に、JIS B 7001−1995で規定する耐食試験のうち、人工汗半浸せき試験(40±2℃、24時間放置)を行ない、試験後の各試料の色調を測定し、試験前と試験後との明度指数L*,クロマティクネス指数a*,b*の差を算出した。
【0097】
そして、JIS Z 8722−2000に準拠して分光測色計(コニカミノルタ製 CM−3700d)を用い、光源にCIE標準光源D65を用い、視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して、円板状の装飾部品用セラミックスの表面の色調を測定した。
【0098】
さらに、色調については、20歳代〜50歳代の各年代について男女5名ずつ計40名のモニターに、高級感,美的満足感および精神的安らぎの3項目でアンケート調査を実施した。高級感,美的満足感,精神的安らぎの3項目の調査結果に対して、「得られる」と回答したモニターの比率がいずれも90%以上のものは「優」、上記3項目のうち1項目でも70%以上90%未満があるものは「良」と評価した。
【0099】
得られた結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
表2に示す結果から、試料No.1〜13は、破壊靱性および色調の評価については大きな差が見られなかったものの、本発明の範囲外である試料No.12およびNo.13は、ムライト,アルミナおよびニッケルのいずれかを含んでいないことから、耐磨耗性が劣っていた。これに対し、本発明の試料No.1〜11は、窒化チタンを主成分とし、ムライト,アルミナおよびニッケルを含むことから、耐磨耗性が優れていることが分かった。
【実施例3】
【0102】
クロムの含有量の違いによる特性の変化を確認する試験を行なった。
【0103】
まず、窒化チタン(TiN),ムライト(Al13Si),ニッケル(Ni)および炭化クロム(Cr)の各粉末を用意し、焼結体での比率(含有量)が表3に示す比率となるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.14〜19の円板状の本発明の装飾部品用セラミックスを得た。
【0104】
その後、各成分の含有量と色調とを実施例1と同様の方法で測定した。また、アルミナの有無についても実施例1同様に確認し、試料No.14〜19にアルミナが含まれていることを確認した。また、装飾面の算術平均高さRaについては、JIS B 0601−2001に準拠して触針式の表面粗さ計を用い、測定長さを5mm,カットオフ値を0.8mm,触針先端半径を2μm,触針の走査速度を0.5mm/秒として5箇所を測定し、その平均値を算出した。次に、JIS B 7001−1995で規定する耐食試験のうち、人工汗半浸せき試験(40±2℃、24時間放置)を行ない、試験後の各試料の色調を測定し、試験前と試験後との明度指数L*,クロマティクネス指数a*,b*の差を算出した。
【0105】
得られた結果を表3に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
表3に示す通り、クロムが炭化物換算で2質量%未満の含有量で含む試料No.14に比べて、試料No.15〜19は、クロムを炭化物換算で2質量%以上含むことから、空気中の酸素と結合して装飾面に緻密な酸化被膜を生成して耐食性を向上させ、明度指数L*およびクロマティクネス指数a*,b*とも試験前と試験後との変化が少なく、耐食性が良好であることが分かる。
【0108】
但し、クロムが炭化物換算で6質量%を超えると、試料No.19から分かるように耐食性は良好であるものの、鮮やかさを示すクロマティクネス指数a*が低下するため、耐食性と鮮やかさを兼ね備えたものにするには、試料No.15〜18に示すように、クロムを炭化物換算で2質量%以上6質量%以下の範囲で含むことがより好適である。
【実施例4】
【0109】
マンガンの含有量の違いによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン(TiN),ムライト(Al13Si),ニッケル(Ni),炭化クロム(Cr)および炭酸マンガン(MnCO)の各粉末を用意し、試料No.20については、装飾部品用セラミックスにおける含有量が実施例3の試料No.17と同様の含有量となるように秤量し、試料No.21〜23については、炭酸マンガンを含有させて装飾部品用セラミックスにおける含有量が表4に示す含有量となるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.20〜23の円板状の本発明の装飾部品用セラミックスを得た。
【0110】
その後、各成分の含有量を実施例1と同様の方法で測定した。また、アルミナの有無についても実施例1同様に確認し、試料No.20〜23にアルミナが含まれていることを確認した。
【0111】
さらに、試料No.20〜23の円板状の本発明の装飾部品用セラミックスの表面の中央部1箇所および周辺部4箇所の計5箇所における色調を実施例1と同様の方法で測定し、平均値ならびに標準偏差を算出した。
【0112】
得られた結果を表4に示す。
【0113】
【表4】

【0114】
表4に示す通り、マンガンを含まない試料No.20に比べて、マンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含む試料No.21〜23は、噴霧乾燥によって得られた顆粒がほとんど酸化されていないので、表面における色調のばらつきが少なく、良好であることが分かった。
【0115】
以上説明したように、本発明の装飾部品用セラミックスを用いて、釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよび複合装飾部品を作製したところ、いずれの場合にも耐磨耗性に優れ、高い硬度を有していることから表面に傷が付きにくく、金色の色調を長期にわたり維持することができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続ける魅力的な商品を得ることができて好適である。
【符号の説明】
【0116】
1:釣糸用ガイドリング
6:釣糸用ガイド
10:複合装飾部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化チタンを主成分とし、ムライト,アルミナおよびニッケルを含むことを特徴とする装飾部品用セラミックス。
【請求項2】
アルミニウムおよび珪素を酸化物換算の合計で7質量%以上12質量%以下の範囲で含み、前記ニッケルを3質量%以上11質量%以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1に記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項3】
さらにクロムを炭化物換算で2質量%以上6質量%以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項4】
さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項5】
装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が60以上70以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ3以上7以下,17以上25以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とする釣糸案内用装飾部品。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の装飾部品用セラミックスと、該装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されていることを特徴とする複合装飾部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−111366(P2011−111366A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269519(P2009−269519)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】