説明

補助RF電圧を印加することによるイオンガイドからの質量対電荷比選択的な放出

【解決手段】開示されるイオンガイドにおいて、イオンガイドの出口側に軸方向直流電圧障壁103が形成される。一次RF電圧が電極に印加されると、イオンガイド内で径方向にイオンが閉じ込められる。電極には、さらに、補助RF電圧も印加される。補助RF電圧は、一次RF電圧よりも大きな軸方向反復長を有する。補助RF電圧の振幅は、時間とともに増大するため、イオンが不安定になり、軸方向直流電圧障壁をイオンが乗り越えるのに十分な軸方向運動エネルギーが得られる。イオンは、質量対電荷比の順に、イオンガイドから軸方向に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンガイド、質量分析計、イオンを誘導する方法及び質量分析の方法に関する。
【0002】
[クロスリファレンス]
本出願は、2010年1月26日に出願された米国仮特許出願No.61/298273及び2010年1月19日に出願された英国特許出願No.1000852.2に基づく優先権を主張するものであり、前記出願の内容は、参照することにより、その全体があらゆる目的で本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
質量分析計では、中間圧力に、すなわち、イオンがイオンガイドを通過する際にイオンとガス分子との間で衝突が生じやすい圧力に維持される領域を通してイオンを移動させる必要が一般的に存在する。たとえば、ある場合には、比較的高圧に維持されるイオン化領域から比較的低圧に維持される質量分析器までイオンを輸送する必要がある。約10-3〜10-1mbarの中間圧力で作動する高周波(radio frequency:RF)輸送イオンガイドを用いて、中間圧力に維持される領域を通してイオンを輸送する技術が知られている。また、交流不均一電場により荷電粒子又はイオンに加えられる時間平均力は、弱い電場の領域に荷電粒子又はイオンを加速させるものであることが知られている。電場が最小になる部分は、通常、疑似ポテンシャル井戸又はポテンシャルの谷と称される。周知のRFイオンガイドは、疑似ポテンシャル井戸を形成することによりこの現象を活用するように設計されている。疑似ポテンシャル井戸は、イオンガイドの中心軸に沿って最小になり、イオンガイド内で径方向にイオンが閉じ込められる。
【0004】
RFイオンガイドを用いて、イオンを径方向に閉じ込めて、イオンガイド内でイオンを衝突誘導解離又はフラグメント化(断片化)する技術が知られている。イオンのフラグメント化は、通常、10-3〜10-1mbarの範囲の圧力で、RFイオンガイド内又は専用ガス衝突セル内で行なわれる。
【0005】
また、RFイオンガイドを用いて、イオン移動度分離装置又はイオン移動度分光計内で径方向にイオンを閉じ込める技術も知られている。RF閉じ込めを伴うイオン移動度分離は、10-1〜10mbarの範囲の圧力で行なわれるものでもよい。
【0006】
多重極ロッドセット型イオンガイドやリングスタック型又はイオントンネル型イオンガイド等、さまざまな形態のRFイオンガイドが知られている。リングスタック型又はイオントンネル型イオンガイドは、積層リング型電極セットを備え、隣接する電極に逆位相のRF電圧が印加される。疑似ポテンシャル井戸が形成され、疑似ポテンシャル井戸はイオンガイドの中心軸に沿って最小になる。イオンはイオンガイド内で径方向に閉じ込められる。イオンガイドは、比較的高い透過効率を有する。
【0007】
周知のように、イオンガイド及びイオントンネルをリニアイオントラップとして用いることも可能である。
【0008】
イオン捕獲装置は、質量分析分野において、タンデム型機器の部品として、また、スタンドアロン型の分析装置として広く用いられている。従来用いられている分析用トラップには様々な種類があり、3Dイオントラップ、ポール(Paul)型イオントラップ、2Dイオントラップ、リニアイオントラップ、オービトラップ(RTM)装置及びFTICR装置等が挙げられる。
【0009】
これらの装置の大部分は高分解能装置であるが、単純な低分解能イオントラップが大きな効果を上げるような用途も数多く存在する。たとえば、タンデム型四重極質量分析計の第2の四重極(MS2)をスキャンモードで動作させる場合、第2の四重極の狭い分解質量窓(マスウィンドウ)を所望の質量範囲にわたってスキャンする必要があるため、装置のデューティサイクルが大幅に減少する。衝突セルからのイオンの質量選択的な放出を第2の四重極の質量窓スキャンに同期させることにより、デューティサイクルを著しく増大させることができる。
【0010】
イオンガイドの改良が望まれている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の一つの態様によれば、イオンガイドが提供される。イオンガイドは、
複数の電極と、
第1のRF電圧を前記電極の少なくとも一部に印加するように配置及び構成される第1の装置と、
1つ以上の電極に1つ以上の直流電圧及び/又は交流電圧又はRF電圧を印加することにより、1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を形成して、前記イオンガイド内で軸方向に少なくとも一部のイオンを閉じ込めるように配置及び構成される第2の装置と、を備え、
さらに、
第2のRF電圧を前記電極の少なくとも一部に印加するように配置及び構成される第3の装置であって、2つ以上の隣接する電極が前記第2のRF電圧の同一の第1のRF位相に維持されるとともに、次の2つ以上の隣接する電極が、前記第2のRF電圧の前記第1のRF位相と異なる位相である、又は、逆の位相である前記第2のRF電圧の同一の第2のRF位相に維持される、第3の装置と、
前記イオンの少なくとも一部が、前記1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を乗り越えて、前記イオンガイドから軸方向に放出されるように、前記第1のRF電圧及び/又は前記第2のRF電圧のいずれかの振幅、高さ又は深さ、及び/又は周波数を漸増させる、漸減させる、漸次変化させる、スキャンする、直線的に増大させる、直線的に減少させる、段階的、漸次、又はその他の方法で増大させる、又は、段階的、漸次、又はその他の方法で減少させるように配置及び構成される第4の装置と、を備える。
【0012】
前記第4の装置は、前記第1のRF電圧及び/又は前記第2のRF電圧のいずれかを傾斜させる、増大させる、減少させる、変化させる又は変更することにより、前記イオンガイド内で少なくとも一部のイオンが不安定になって、前記1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を乗り越えるのに十分な軸方向運動エネルギーを前記少なくとも一部のイオンが得られるように配置及び構成されることが望ましい。
【0013】
前記第1の装置は、
(i)隣接する電極が逆のRF位相に維持される、又は、
(ii)2つ、3つ、4つ又はそれ以上の隣接する電極が前記第1のRF電圧の同一の第1のRF位相に維持されるとともに、次の2つ、3つ、4つ又はそれ以上の隣接する電極が、前記第1のRF電圧の前記第1のRF位相と異なる位相である、又は、逆の位相である前記第1のRF電圧の同一の第2のRF位相に維持され、また、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の隣接する電極が前記第2のRF電圧の前記同一の第1のRF位相に維持されるとともに、次の2つ、3つ、4つ又はそれ以上の隣接する電極が、前記第2のRF電圧の前記同一の第2のRF位相に維持される、
のいずれかを満たすような前記第1のRF電圧を印加するように配置及び構成されることが望ましい。
【0014】
前記第1の装置は、第1のRF反復単位、パターン又は長さで、前記電極の少なくとも一部に前記第1のRF電圧を印加することが望ましく、また、前記第3の装置は、前記第1のRF反復単位、パターン又は長さよりも大きな第2のRF反復単位、パターン又は長さで、前記電極の少なくとも一部に前記第2のRF電圧を印加することが望ましい。
【0015】
前記第4の装置は、質量対電荷比の順に、又は、質量対電荷比依存的に、前記イオンガイドからイオンが軸方向に放出されるように配置及び構成されることが望ましい。
【0016】
イオンガイドが、さらに、
(i)使用時にイオンを透過させる孔を各々有する複数の電極を備えるイオントンネル型イオンガイド、又は
(ii)セグメント化多重極ロッドセット型イオンガイドのいずれかを備える構成が望ましい。
【0017】
一つの実施形態において、イオンガイドが、さらに、前記イオンガイドの軸方向の長さの少なくとも一部に沿ってイオンを駆動する又は駆り立てるように構成される装置を備える構成が望ましい。
【0018】
前記イオンを駆動する又は駆り立てる装置は、前記電極の少なくとも一部又は少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%に1つ以上の過渡直流電圧又は電位又は1つ以上の直流電圧波形又は電位波形を印加する装置を備えることが望ましい。
【0019】
動作モードにおいて、M1以上の質量対電荷比を有するイオンが前記イオンガイドから放出される一方で、M2以下の質量対電荷比を有するイオンが前記1つ以上の直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁によって前記イオンガイド内で軸方向にトラップされ、又は、閉じ込められ、
M1は、(i)<100、(ii)100〜200、(iii)200〜300、(iv)300〜400、(v)400〜500、(vi)500〜600、(vii)600〜700、(viii)700〜800、(ix)800〜900、(x)900〜1000及び(xi)>1000からなる群から選択される第1の範囲内の値であり、
M2は、(i)<100、(ii)100〜200、(iii)200〜300、(iv)300〜400、(v)400〜500、(vi)500〜600、(vii)600〜700、(viii)700〜800、(ix)800〜900、(x)900〜1000及び(xi)>1000からなる群から選択される第2の範囲内の値であることが望ましい。
【0020】
本発明の別の態様によれば、上述したイオンガイドを備える質量分析計が提供される。
【0021】
質量分析計が、さらに、前記イオンガイドからの質量対電荷比選択的なイオン放出に同期してスキャンされる質量分析器又はその他の装置を備える構成が望ましい。
【0022】
本発明のまた別の態様によれば、イオンを誘導する方法が提供される。イオンを誘導する方法は、
複数の電極を備えるイオンガイドを準備する工程と、
第1のRF電圧を前記電極の少なくとも一部に印加する工程と、
1つ以上の電極に1つ以上の直流電圧及び/又は交流電圧又はRF電圧を印加することにより、1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を形成して、前記イオンガイド内で軸方向に少なくとも一部のイオンを閉じ込める工程と、を備え、
さらに、
第2のRF電圧を前記電極の少なくとも一部に印加する工程であって、2つ以上の隣接する電極が前記第2のRF電圧の同一の第1のRF位相に維持されるとともに、次の2つ以上の隣接する電極が、前記第2のRF電圧の前記第1のRF位相と異なる位相である、又は、逆の位相である前記第2のRF電圧の同一の第2のRF位相に維持される工程と、
前記イオンの少なくとも一部が、前記1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を乗り越えて、前記イオンガイドから軸方向に放出されるように、前記第1のRF電圧及び/又は前記第2のRF電圧のいずれかの振幅、高さ又は深さ、及び/又は周波数を漸増させる、漸減させる、漸次変化させる、スキャンする、直線的に増大させる、直線的に減少させる、段階的、漸次、又はその他の方法で増大させる、又は、段階的、漸次、又はその他の方法で減少させる工程と、を備える。
【0023】
本発明のさらに別の態様によれば、前記イオンを誘導する方法を備える質量分析の方法が提供される。
【0024】
本発明の他の態様によれば、質量分析計が提供される。質量分析計は、
複数の電極と、
前記電極の少なくとも一部に一次RF電圧と補助RF電圧とを印加するように配置及び構成される装置であって、前記一次RF電圧の軸方向反復単位、パターン又は長さよりも大きな軸方向反復単位、パターン又は長さで、前記補助RF電圧を前記電極に印加する装置と、
前記質量分析計に沿った位置で軸方向電圧障壁を維持するように配置及び構成される装置と、
前記補助RF電圧の振幅を漸増させることにより、前記軸方向電圧障壁を漸次イオンが乗り越えるように配置及び構成される装置と、を備える。
【0025】
本発明のさらに他の態様によれば、イオンを質量分析する方法が提供される。イオンを質量分析する方法は、
複数の電極を備える質量分析計を準備する工程と、
前記電極の少なくとも一部に一次RF電圧と補助RF電圧とを印加する工程であって、前記一次RF電圧の軸方向反復単位、パターン又は長さよりも大きな軸方向反復単位、パターン又は長さで、前記補助RF電圧を前記電極に印加する工程と、
前記質量分析計に沿った位置で軸方向電圧障壁を維持する工程と、
前記補助RF電圧の振幅を漸増させることにより、前記軸方向電圧障壁を漸次イオンに乗り越えさせる工程と、を備える。
【0026】
好適な実施形態によれば、セグメント化イオンガイドが提供される。RF電圧を電極に印加して、イオンガイド内で径方向にイオンを閉じ込めることが望ましい。また、1つ以上の軸方向直流(又はRF)障壁電圧をイオンガイドの長さに沿って印加又は維持することにより、イオンガイド内で軸方向にイオンをトラップする又は閉じ込めることが望ましい。補助RF電圧を電極に印加することが望ましい。補助RF電圧は、径方向の有効電位成分に比べて著しく大きな軸方向の有効電位成分を有することが望ましい。所定の期間にわたって補助RF電圧を傾斜させて、イオンガイド内のイオンを質量依存的に不安定にさせることが望ましい。この工程で得られる軸方向のエネルギーは、軸方向の障壁を乗り越えてイオンを放出でき、この結果、装置からのイオンの質量選択的な軸方向の放出を可能にするのに十分なものであることが望ましい。
【0027】
好適な実施形態は、質量選択的にイオンを蓄積し放出することが可能なセグメント化イオンガイドに関する。閉じ込めRF電圧を印加して、従来のセグメント化RFイオンガイドと同様に径方向に閉じ込める。障壁電圧を印加してイオンを軸方向に閉じ込める。装置の出口端近傍にイオンを集中させることが望ましい。補助RF電圧を印加する際には、径方向の有効電位成分に対する軸方向の有効電位成分の比を閉じ込めRF電圧単独の場合よりも大きくすることが望ましい。補助RF電圧を、スキャン時間に対して、上向きに傾斜させる又は増大させることが望ましい。
【0028】
ゲルリッヒ(Gerlich、"Inhomogeneous RF Fields: A Versatile Tool for the Study of Processes With Slow Ions"「不均一RF場:低速イオンを用いる処理を研究するために多目的に用いられる道具」、Adv. In Chem. Phys. Ser.、vol. 82、 Ch. 1、1〜176ページ、1992年)によれば、単一の印加RF電圧を用いるRF場内のイオンに関する断熱性パラメータは、印加電圧に比例するとともに、イオンの質量に反比例する。したがって、断熱性が補助RF電圧のみに起因すると仮定した場合、補助RF電圧が増大するにつれて、最も低質量のイオンから質量順にイオンが不安定になっていく。閉じ込めRF電圧及び周波数は断熱性パラメータにほとんど寄与しないため、この仮定は妥当である。
【0029】
イオンは、不安定になると、RF電圧から運動エネルギーを得る。補助RF電圧の径方向の場成分に対する軸方向の場成分の比が大きくなるほど、軸方向の運動エネルギーが大幅に増大する。強い径方向の閉じ込め及び比較的弱い軸方向の障壁に加えて、この効果により、イオンは、径方向には閉じ込められたままで、軸方向に装置から放出されるのに十分な軸方向のエネルギーを得る。このようにして、質量の昇順に装置から軸方向にイオンが放出される。
【0030】
一つの実施形態において、装置は、さらに、
(a)(i)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization: ESI)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization: APPI)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization: APCI)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization: MALDI)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization: LDI)イオン源、(vi)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization: API)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon: DIOS)イオン源、(viii)電子衝撃(Electron Impact: EI)イオン源、(ix)化学イオン化(Chemical Ionization: CI)イオン源、(x)電界イオン化(Field Ionization: FI)イオン源、(xi)電界脱離(Field Desorption: FD)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma: ICP)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment: FAB)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry: LSIMS)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization: DESI)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(Atmospheric Sampling Glow Discharge Ionization: ASGDI)イオン源及び(xx)グロー放電(Glow Discharge: GD)イオン源からなる群から選択される1つ以上のイオン源、及び/又は、
(b)1つ以上の連続又はパルスイオン源、及び/又は、
(c)1つ以上のイオンガイド、及び/又は、
(d)1つ以上のイオン移動度分離装置及び/又は1つ以上の電界非対称イオン移動度分光計(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometer)、及び/又は、
(e)1つ以上のイオントラップ又は1つ以上のイオン捕捉領域、及び/又は、
(f)(i)衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation: CID)フラグメンテーション装置、(ii)表面誘起解離(Surface Induced Dissociation: SID)フラグメンテーション装置、(iii)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation: ETD)フラグメンテーション装置、(iv)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation: ECD)フラグメンテーション装置、(v)電子衝突(Electron Collision)又は電子衝撃解離(Electron Impact Dissociation)フラグメンテーション装置、(vi)光誘起解離(Photo Induced Dissociation: PID)フラグメンテーション装置、(vii)レーザー誘起解離(Laser Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(viii)赤外線誘起解離装置、(ix)紫外線誘起解離装置、(x)ノズル・スキマー・インターフェース・フラグメンテーション装置、(xi)インソースフラグメンテーション装置、(xii)インソース衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(xiii)熱源又は温度源フラグメンテーション装置、(xiv)電場誘起フラグメンテーション装置、(xv)磁場誘起フラグメンテーション装置、(xvi)酵素消化又は酵素分解フラグメンテーション装置、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション装置、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション装置、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション装置、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション装置、(xxiii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオン(生成イオン)を形成するイオン−イオン反応装置、(xxiv)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−分子反応装置、(xxv)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−原子反応装置、(xxvi)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定イオン反応装置、(xxvii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定分子反応装置、(xxviii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定原子反応装置、及び(xxix)電子イオン化解離(Electron Ionization Dissociation: EID)フラグメンテーション装置、からなる群から選択される衝突、フラグメンテーション又は反応セル、及び/又は、
(g)(i)四重極質量分析器、(ii)2次元又はリニア四重極質量分析器、(iii)ポール(Paul)トラップ型又は3次元四重極質量分析器、(iv)ペニング(Penning)トラップ型質量分析器、(v)イオントラップ型質量分析器、(vi)磁場型質量分析器、(vii)イオンサイクロトロン共鳴(Ion Cyclotron Resonance: ICR)質量分析器(viii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance: FTICR)質量分析器、(ix)静電またはオービトラップ型質量分析器、(x)フーリエ変換(Fourier Transform)静電又はオービトラップ型質量分析器、(xi)フーリエ変換(Fourier Transform)質量分析器、(xii)飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、(xiii)直交加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、及び(xiv)線形加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、からなる群から選択される質量分析器、及び/又は、
(h)1つ以上のエネルギー分析器又は静電エネルギー分析器、及び/又は、
(i)1つ以上のイオン検出器、及び/又は、
(j)(i)四重極マスフィルタ、(ii)2次元又はリニア四重極イオントラップ、(iii)ポール(Paul)又は3次元四重極イオントラップ、(iv)ペニング(Penning)イオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁気セクタ型マスフィルタ、(vii)飛行時間型(Time of Flight: TOF)マスフィルタ、及び(viii)ウィーン(Wien)フィルタ、からなる群から選択される1つ以上のマスフィルタ、及び/又は、
(k)イオンをパルス状にする装置又はイオンゲート、及び/又は、
(l)、実質的に連続的なイオンビームをパルスイオンビームに変換する装置、のいずれかを備える構成が望ましい。
【0031】
質量分析計は、さらに、
(i)C型トラップと、外側たる形電極及び同軸の内側紡錘形電極を備えるオービトラップ型(RTM)質量分析器と、を備え、第1の動作モードにおいて、イオンは、前記C型トラップに送られ、次に、前記オービトラップ型(RTM)質量分析器に注入され、第2の動作モードにおいて、イオンは、前記C型トラップに、次に、衝突セル又は電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)装置に送られて、少なくとも一部のイオンがフラグメント(断片)イオンにフラグメント化(断片化)され、前記フラグメントイオンは、前記C型トラップに送られた後、オービトラップ型(RTM)質量分析器に注入される、及び/又は、
(ii)使用時にイオンを透過させる開口部を各々有する複数の電極を備える積層リング型イオンガイドを備え、前記電極間の間隔がイオン通路の長さ方向に沿って増大し、前記イオンガイドの上流部分に配置される電極の開口部が第1の直径を有する一方で、前記イオンガイドの下流部分に配置される電極の開口部が前記第1の直径よりも小径の第2の直径を有し、使用時に、連続する電極に、逆相のAC又はRF電圧を印加する、
のいずれかを備える構成が望ましい。
【0032】
好適な実施形態において、1つ以上の過渡直流電圧又は電位又は1つ以上の直流電圧波形又は電位波形は、(i)1つのポテンシャル(電位)の山又は障壁、(ii)1つのポテンシャル井戸、(iii)複数のポテンシャルの山又は障壁、(iv)複数のポテンシャル井戸、(v)1つのポテンシャルの山又は障壁と1つのポテンシャル井戸との組み合わせ、又は(vi)複数のポテンシャルの山又は障壁と複数のポテンシャル井戸との組み合わせを形成する。
【0033】
1つ以上の過渡直流電圧波形又は電位波形は、反復波形又は方形波を備えることが望ましい。
【0034】
イオンガイドの長さの少なくとも一部に沿って複数の軸方向の直流ポテンシャル井戸を移動させることが望ましい。あるいは、イオンガイドの軸方向の長さに沿って、複数の過渡直流電位又は電圧を漸次印加することも望ましい。
【0035】
第1の及び/又は第2のRF電圧は、(i)<50Vのピークピーク値、(ii)50〜100Vのピークピーク値、(iii)100〜150Vのピークピーク値、(iv)150〜200Vのピークピーク値、(v)200〜250Vのピークピーク値、(vi)250〜300Vのピークピーク値、(vii)300〜350Vのピークピーク値、(viii)350〜400Vのピークピーク値、(ix)400〜450Vのピークピーク値、(x)450〜500Vのピークピーク値、(xi)500〜550Vのピークピーク値、(xxii)550〜600Vのピークピーク値、(xxiii)600〜650Vのピークピーク値、(xxiv)650〜700Vのピークピーク値、(xxv)700〜750Vのピークピーク値、(xxvi)750〜800Vのピークピーク値、(xxvii)800〜850Vのピークピーク値、(xxviii)850〜900Vのピークピーク値、(xxix)900〜950Vのピークピーク値、(xxx)950〜1000Vのピークピーク値及び(xxxi)>1000Vのピークピーク値からなる群から選択される振幅を有することが望ましい。
【0036】
第1の及び/又は第2のRF電圧は、(i)<100kHz、(ii)100〜200kHz、(iii)200〜300kHz、(iv)300〜400kHz、(v)400〜500kHz、(vi)0.5〜1.0MHz、(vii)1.0〜1.5MHz、(viii)1.5〜2.0MHz、(ix)2.0〜2.5MHz、(x)2.5〜3.0MHz、(xi)3.0〜3.5MHz、(xii)3.5〜4.0MHz、(xiii)4.0〜4.5MHz、(xiv)4.5〜5.0MHz、(xv)5.0〜5.5MHz、(xvi)5.5〜6.0MHz、(xvii)6.0〜6.5MHz、(xviii)6.5〜7.0 MHz、(xix)7.0〜7.5MHz、(xx)7.5〜8.0MHz、(xxi)8.0〜8.5MHz、(xxii)8.5〜9.0MHz、(xxiii)9.0〜9.5MHz、(xxiv)9.5〜10.0MHz及び(xxv)>10.0MHzからなる群から選択される周波数を有することが望ましい。
【0037】
イオンガイドは、動作モードで、(i)<1.0×10-1mbar、(ii)<1.0×10-2mbar、(iii)<1.0×10-3mbar及び(iv)<1.0×10-4mbarからなる群から選択される圧力にイオンガイドを維持する装置をさらに備える構成が望ましい。別の実施形態において、イオンガイドが、動作モードで、(i)>1.0×10-3mbar、(ii)>1.0×10-2mbar、(iii)>1.0×10-1mbar、(iv)>1mbar、(v)>10mbar、(vi)>100mbar、(vii)>5.0×10-3mbar、(viii)5.0×10-2mbar、(ix)10-4〜10-3mbar、(x)10-3〜10-2mbar及び(xi)10-2〜10-1mbarからなる群から選択される圧力にイオンガイドを維持する装置をさらに備える構成が望ましい。
【0038】
好適な実施形態において、イオンは、動作モードで、イオンガイド内でトラップされるが実質的にフラグメント化(断片化)されないように構成される。一つの実施形態において、イオンガイド内で、イオンが衝突で冷却される、又は、実質的に熱運動化されるものでもよい。
【0039】
以下、例示を目的として、本発明のさまざまな実施例を添付の図面を参照して詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の好適な実施形態におけるイオンガイドを直流電圧プロファイルと共に示す図。
【図2】イオンガイドの電極に印加される一次RF電圧と補助RF電圧との間の位相関係の例を示す図。
【図3】さまざまな補助RF反復単位、パターン又は長さに対して、イオンガイドの軸方向の長さに沿って有効軸方向電位が変化する様子を示す図。
【図4】さまざまな補助RF反復単位、パターン又は長さに対して、径方向に有効径方向電位が変化する様子を示す図。
【図5】本発明の一つの実施形態において、イオンガイドの電極に印加可能な4つの反復単位進行波直流パルスの直流電圧プロファイルを示す図。
【図6】++/−−RF反復単位、パターン又は長さで電極に補助RF電圧を印加する場合に実施形態のSIMION(RTM)モデルから算出される放出時間ピークを示す図。
【図7】+++/−−−RF反復単位、パターン又は長さで電極に補助RF電圧を印加する場合に実施形態のSIMION(RTM)モデルから算出される放出時間ピークを示す図。
【図8】++/−−RF反復単位、パターン又は長さで、かつ、緩衝ガスとしてヘリウムを用いて補助RF電圧をイオンガイドの電極に印加した場合に得られた実験ピーク(正規化された強度対放出質量)を示す図。
【図9】++/−−RF反復単位、パターン又は長さで、かつ、緩衝ガスとしてヘリウムを用いて補助RF電圧をイオンガイドの電極に印加した場合のイオンガイドの実験分解能を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。好適な実施形態において、複数の電極101、102、103、104を備える積層リング型イオンガイドを提供する。積層リング型イオンガイドを形成する各電極101、102、103、104は、使用時にイオンが透過される穴を有することが好ましい。
【0042】
イオンガイドを形成する電極101、102、103、104に一次RF電圧を印加することが望ましい。隣接する電極間の位相が180度異なるように、逆位相の一次RF電圧を隣接する電極に印加することが好ましい。電極101、102、103、104に一次RF電圧を印加することにより、イオンガイド内で径方向にイオンを閉じ込めるように働く径方向の疑似電位(ポテンシャル)障壁が形成される。
【0043】
図1は、直流電圧波形を示し、また、電極101、102、103、104に印加することが望ましい直流電位を示す。
【0044】
図1に示すように、一つの実施形態において、イオンガイドの入口に面する一対のプレート又は電極101に直流電圧を印加して、イオンガイドの入口に直流電位障壁(ポテンシャル障壁)を形成することが望ましい。直流ポテンシャル障壁は、イオンガイドの入口を介して、すなわち、負の軸方向に、イオンがイオンガイドから放出されることを防ぐことが望ましい。
【0045】
イオンガイドの入口に配置される電極101の下流側に、中間イオンガイド領域102を備える。1つ以上の過渡直流電圧又は電位を含む進行波直流電圧パルスを、中間イオンガイド領域102を形成する電極に印加することが望ましい。この結果、イオンガイド内部のイオンが、イオンガイドの入口領域からイオンガイドの出口領域に向かって、イオンガイドの長さに沿って移動することが望ましい。直流電圧進行波は、図1に矢印で示すように、イオンガイドの出口に向かって正の軸方向に移動することが望ましい。電極102に1つ以上の過渡直流電圧を印加することにより、イオンガイドの出口に向かってイオンガイドの長さに沿ってイオンを駆動する又は駆り立てることが望ましい。
【0046】
イオンガイドの出口領域において、第2のプレート又は電極対103に直流電圧又は電位を供給して、第2の直流電圧又は電位障壁を形成することが望ましい。イオンガイドの出口領域において、直流障壁電圧又は電位は、直流進行波のみの影響下でイオンが正の軸方向にイオンガイドから放出されることを防ぐように働くことが望ましい。直流進行波とイオンガイドの出口における直流障壁電圧とを組み合わせることにより、イオンガイドの出口領域近傍にイオンを集中させることが望ましい。
【0047】
一つの実施形態において、イオンガイドの出口領域の下流側に出口/冷却領域104を備えるようにしてもよい。
【0048】
好適な実施形態において、イオンガイドの入口領域101に備えられるプレート又は電極、及び/又は、イオンガイドの中間領域102に備えられるプレート又は電極、及び/又は、イオンガイドの出口領域103に備えられるプレート又は電極に補助RF電圧をさらに印加することが望ましい。一次RF電圧よりも大きな軸方向反復単位、パターン又は長さで、補助RF電圧をプレート又は電極に印加することが望ましい。
【0049】
図2は、一次RF電圧201と、イオンガイドの電極にさらに印加することが望ましい補助RF電圧202との様々な軸方向反復単位、パターン又は長さを示す。図2に示すように、イオンガイド内で径方向にイオンを閉じ込めるように、逆位相の一次RF電圧201を隣接する電極に印加することが望ましい。図2に示す例では、一次RF電圧201とは異なる軸方向の反復単位、パターン又は長さで、補助RF電圧202を電極に印加する。マイナス(−)記号は、プラス(+)記号で示される電極に印加されるRF電圧と位相が180度異なるRF電圧を示す。図2に示す例では、補助RF電圧202の反復単位、パターン又は長さは、++++/−−−−である(すなわち、4つの連続する電極を同じ位相に維持するとともに、次の4つの電極を最初の4つの電極の位相と180度異なる位相に維持する)。
【0050】
補助RF電圧202の軸方向の反復単位、パターン又は長さが大きくなると、印加RF電圧の径方向成分に対して、印加RF電圧からの有効電位の軸方向成分が増大する。この結果、イオンガイドは、放出領域として機能し、イオンガイドから質量対電荷比依存的にイオンを放出させることができる。
【0051】
好適な実施形態において、電極に印加される補助RF電圧202の振幅を時間とともに上向きに傾斜させる又は増大させることによって、一部のイオンがその質量に依存して、又は、質量対電荷比に依存して、不安定になる。イオンは、その質量順に、又は、質量対電荷比順に不安定になる。すなわち、比較的低質量のイオン又は比較的低質量対電荷比のイオンは、比較的高質量のイオン又は比較的高質量対電荷比のイオンより先に、イオンガイド内で不安定になる。イオンは、不安定になると、補助RF電圧202から軸方向のエネルギーを得る。不安定になったイオンにより得られる軸方向のエネルギーは、イオンガイドの出口に備えられる軸方向の直流障壁をイオンが乗り越えるのに十分な大きさのエネルギーである。この結果、イオンガイドが質量分析器として機能し、補助RF電圧202の振幅が増大するにつれて、イオンの質量対電荷比の順にイオンガイド又は質量分析器からイオンが漸次放出される。
【0052】
イオンが得る軸方向のエネルギーは、イオンガイド内で径方向にイオンを閉じ込めるように働く径方向の疑似電位障壁(ポテンシャル障壁)をイオンが乗り越えるのには不十分な大きさであることが望ましい。この結果、イオンガイドの出口領域に備えられる出口障壁103をイオンが乗り越えて逃げる又は通り越す。出口/冷却領域104が設けられる場合には、イオンがさらにこの領域に入るようにしてもよい。出口/冷却領域104に入ったイオンが、例えば四重極質量分析器又はその他の装置を備える下流側装置にさらに入るようにしてもよい。
【0053】
一実施形態において、衝突セルをイオンガイドの上流側に備えるようにしてもよい。質量選択的なスキャン又は質量対電荷比選択的なスキャンを所望のイオンガイド内で実行する間、イオンが衝突セル内に蓄積されるものでもよい。
【0054】
一実施形態において、電極に一つおきに逆の位相が印加されるようにして電極に一次RF電圧201を印加するようにしてもよい。一次RF電圧201は、400Vのピークピーク値の振幅と2.65MHzの周波数を有するものでもよい。補助RF電圧は、1.3MHzの周波数を有するものでもよく、25V/msの速度でスキャンされるものでもよい。補助RF電圧は、+++/−−−の反復単位、パターン又は長さを有するものでもよい(すなわち、3つの連続する電極を同じ位相に維持するとともに、次の3つの電極を最初の3つの電極の位相と180度異なる位相に維持する)。イオンガイドの入口における軸方向直流障壁101及び/又はイオンガイドの出口における軸方向直流障壁103を3Vに設定するようにしてもよい。直流進行波の最適な進行波パルス速度及び振幅を、イオンガイド内のガス圧に応じて設定するようにしてもよい。
【0055】
図3は、積層型リング装置の中心軸に沿った軸方向の位置の関数として、本発明の一実施例におけるイオンガイド又は質量分析器内の有効軸方向電位を示す。補助RF電圧のさまざまな反復単位、パターン又は長さに対して、有効軸方向電位を示す。図3は、+/−、++/−−及び+++/−−−に対応するRFの反復単位、パターン又は長さに対する有効電位を示す。図3に示すように、RF反復単位、パターン又は長さが大きくなる又は長くなるにつれて、有効電位の軸方向RF電圧成分の大きさが増大する。
【0056】
図4は、+/−、++/−−及び+++/−−−に対応する補助RFの反復単位、パターン又は長さに対して、積層型リング装置における径方向の位置の関数として、対応する有効径方向電位を示す。図4から明らかなように、RF反復単位、パターン又は長さが大きくなる又は長くなるにつれて、有効電位の径方向成分の大きさが減少する。
【0057】
図5は、本発明の一実施形態において、4つの反復単位進行波パルスに関して、イオンガイドの電極に印加可能な直流電圧パルスの時間変化を示す。
【0058】
図6は、++/−−のRF反復単位、パターン又は長さで補助RF電圧をイオンガイドの電極に印加した場合に所望のイオンガイド又は質量分析器からイオンが放出されるまでの時間に関するSIMION(RTM)モデル化の結果を示す。100、200、300、400、500、600、700、800、900及び1000Daの質量を持つイオンをモデル化した。また、軸方向のポテンシャル障壁を3Vとしてモデル化するとともに、200V0-pの振幅と2.7MHzの周波数を持つように主RF電圧をモデル化した。さらに、700kHzの周波数で供給されるように補助RF電圧をモデル化し、0.05トール(0.06mbar)の窒素圧力に維持されるように緩衝ガスをモデル化した(剛体球衝突モデル)。図6に示すイオンピークは、イオン放出時間の平均及び標準偏差の算出値がガウス分布を形成する。ピークの高さは、透過率、すなわち、装置からの放出できたイオンの割合を示す。
【0059】
図7は、図6を参照して上述した例よりも大きな+++/−−−の反復単位、パターン又は長さで、補助RF電圧を電極に印加した場合における所望のイオンガイドのSIMION(RTM)モデル化の結果を示す。イオンガイド内に最初に備えられるものとして100、200、300、400、500、600、700、800、900及び1000Daの質量を持つイオンをモデル化した。また、軸方向のポテンシャル障壁を3Vとしてモデル化するとともに、主RF電圧を200V0-p及び2.7MHzの周波数に維持した。さらに、補助RF電圧の周波数を1.3MHzの周波数まで増大するようにモデル化した。また、0.05トール(0.06mbar)のアルゴン圧力に維持されるように緩衝ガスをモデル化した(剛体球衝突モデル)。図7に示すイオンピークは、イオン放出時間の平均及び標準偏差の算出値がガウス分布を形成する。ピークの高さは、透過率、すなわち、装置から放出できたイオンの割合を示す。
【0060】
図8及び図9に本発明の一実施形態において得られた実験データを示す。++/−−のRF反復単位、パターン又は長さで、所望のイオンガイドの電極に補助RF電圧を印加した。イオンガイド内で軸方向にイオンを閉じ込めるように、出口側電極に5Vの障壁を印加した。補助RF電圧を、570kHzの周波数で電極に印加し、(約2300Da/秒のスキャン速度に対応する)500ミリ秒にわたって傾斜させた。イオンガイドの中間領域102の電極には、進行波パルスを印加しなかった。緩衝ガスとしてヘリウムを用いて、約3×10-3mbarの圧力に維持した。
【0061】
既知の質量又は質量対電荷比のイオンを含有する所定の溶液をイオンガイド内に供給し、イオンガイドから下流側の四重極にイオンを放出させて、放出されたイオンの同定を行なった。図8は、(既知の質量に対する放出時間の線形フィッティングにより算出された)見かけの質量対電荷比に対する正規化ピーク強度のプロットを示す。図9は、m/Δmとして算出されるピークの分解能を示す。ここで、ΔmはピークのFWHM(半値全幅)を表わす。
【0062】
本発明は様々に変更可能である。
【0063】
一つの実施形態において、補助RF電圧を傾斜させる代わりに、一次RF電圧を傾斜させるようにしてもよい。さらに/あるいは、++/−−等の異なる反復単位、パターン又は長さで、一次RF電圧を電極に印加するようにしてもよい。
【0064】
補助RF電圧の反復単位、パターン又は長さ及び周波数は、一次RF電圧の反復単位、パターン又は長さ及び周波数と異なるものでもよい。
【0065】
1つ以上のプレート又は電極に印加されるように、直流及び/又は交流又はRF電圧障壁を配置するようにしてもよい。
【0066】
一つの実施形態において、補助RF電圧の反復単位、パターン又は長さに対する直流及び/又は交流又はRF電圧障壁の位置を変更するようにしてもよい。
【0067】
一つの実施形態において、直流障壁電圧によって、及び/又は、RF障壁電圧によって、イオンガイド内で軸方向にイオンを保持するようにしてもよい。
【0068】
一つの実施形態において、電極に直流進行波を印加するのに加えて、又は、その代わりに、イオンガイドの長さに沿って又は長さを通じてイオンを駆動するようにしてもよい。たとえば、軸方向の直流電圧勾配をイオンガイドの長さの少なくとも一部に沿って維持するようにしてもよい。さらに、ガスフロー効果を利用して、イオンガイドの長さに沿ってイオンを駆動するようにしてもよい。
【0069】
一つの実施形態において、補助RF電圧を障壁プレート又は電極の一部にだけ印加するようにしてもよい。
【0070】
一つの実施形態において、補助RF電圧を異なる振幅で装置の異なる領域に印加するようにしてもよい。
【0071】
一つの実施形態において、一次RF電圧とは異なる物理的な手段で補助RF電圧を印加するようにしてもよい。たとえば、1つ以上のベーン電極に補助RF電圧を印加するようにしてもよい。
【0072】
一つの実施形態において、進行波パルス又は直流電圧をイオンガイドの出口領域に印加して、イオンガイドの出口領域において直流及び/又はRFポテンシャル障壁を乗り越えたイオンのデバイスからの放出を促進するようにしてもよい。
【0073】
一つの実施形態において、イオンガイドは、セグメント化された多重極ロッドセット型イオンガイドを備えるものでもよい。
【0074】
以上、本発明をその好適な実施形態を参照して詳述したが、当業者には自明のことであるが、特許請求の範囲に記載される本発明の要旨を逸脱しない範囲において、形態や詳細において、種々の変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンガイドであって、
複数の電極と、
第1のRF電圧を前記電極の少なくとも一部に印加するように配置及び構成される第1の装置と、
1つ以上の電極に1つ以上の直流電圧及び/又は交流電圧又はRF電圧を印加することにより、1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を形成して、前記イオンガイド内で軸方向に少なくとも一部のイオンを閉じ込めるように配置及び構成される第2の装置と、を備え、
さらに、
第2のRF電圧を前記電極の少なくとも一部に印加するように配置及び構成される第3の装置であって、2つ以上の隣接する電極が前記第2のRF電圧の同一の第1のRF位相に維持されるとともに、次の2つ以上の隣接する電極が、前記第2のRF電圧の前記第1のRF位相と異なる位相である、又は、逆の位相である前記第2のRF電圧の同一の第2のRF位相に維持される、第3の装置と、
前記イオンの少なくとも一部が、前記1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を乗り越えて、前記イオンガイドから軸方向に放出されるように、前記第1のRF電圧及び/又は前記第2のRF電圧のいずれかの振幅、高さ又は深さ、及び/又は周波数を漸増させる、漸減させる、漸次変化させる、スキャンする、直線的に増大させる、直線的に減少させる、段階的、漸次、又はその他の方法で増大させる、又は、段階的、漸次、又はその他の方法で減少させるように配置及び構成される第4の装置と、を備えるイオンガイド。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンガイドであって、
前記第4の装置は、前記第1のRF電圧及び/又は前記第2のRF電圧のいずれかを傾斜させる、増大させる、減少させる、変化させる又は変更することにより、前記イオンガイド内で少なくとも一部のイオンが不安定になって、前記1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を乗り越えるのに十分な軸方向運動エネルギーを前記少なくとも一部のイオンが得られるように配置及び構成される、イオンガイド。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載のイオンガイドであって、
前記第1の装置は、
(i)隣接する電極が逆のRF位相に維持される、又は、
(ii)2つ、3つ、4つ又はそれ以上の隣接する電極が前記第1のRF電圧の同一の第1のRF位相に維持されるとともに、次の2つ、3つ、4つ又はそれ以上の隣接する電極が、前記第1のRF電圧の前記第1のRF位相と異なる位相である、又は、逆の位相である前記第1のRF電圧の同一の第2のRF位相に維持され、また、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の隣接する電極が前記第2のRF電圧の前記同一の第1のRF位相に維持されるとともに、次の2つ、3つ、4つ又はそれ以上の隣接する電極が、前記第2のRF電圧の前記同一の第2のRF位相に維持される、
のいずれかを満たすような前記第1のRF電圧を印加するように配置及び構成される、イオンガイド。
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3のいずれかに記載のイオンガイドであって、
前記第1の装置は、第1のRF反復単位、パターン又は長さで、前記電極の少なくとも一部に前記第1のRF電圧を印加し、
前記第3の装置は、前記第1のRF反復単位、パターン又は長さよりも大きな第2のRF反復単位、パターン又は長さで、前記電極の少なくとも一部に前記第2のRF電圧を印加する、イオンガイド。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のイオンガイドであって、
前記第4の装置は、質量対電荷比の順に、又は、質量対電荷比依存的に、前記イオンガイドからイオンが軸方向に放出されるように配置及び構成される、イオンガイド。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のイオンガイドであって、
さらに、
(i)使用時にイオンを透過させる孔を各々有する複数の電極を備えるイオントンネル型イオンガイド、又は
(ii)セグメント化多重極ロッドセット型イオンガイドのいずれかを備える、イオンガイド。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のイオンガイドであって、
さらに、前記イオンガイドの軸方向の長さの少なくとも一部に沿ってイオンを駆動する又は駆り立てるように構成される装置を備える、イオンガイド。
【請求項8】
請求項7に記載のイオンガイドであって、
前記イオンを駆動する又は駆り立てる装置は、前記電極の少なくとも一部又は少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%に1つ以上の過渡直流電圧又は電位又は1つ以上の直流電圧波形又は電位波形を印加する装置を備える、イオンガイド。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のイオンガイドであって、
動作モードにおいて、M1以上の質量対電荷比を有するイオンが前記イオンガイドから放出される一方で、M2以下の質量対電荷比を有するイオンが前記1つ以上の直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁によって前記イオンガイド内で軸方向にトラップされ、又は、閉じ込められ、
M1は、(i)<100、(ii)100〜200、(iii)200〜300、(iv)300〜400、(v)400〜500、(vi)500〜600、(vii)600〜700、(viii)700〜800、(ix)800〜900、(x)900〜1000及び(xi)>1000からなる群から選択される第1の範囲内の値であり、
M2は、(i)<100、(ii)100〜200、(iii)200〜300、(iv)300〜400、(v)400〜500、(vi)500〜600、(vii)600〜700、(viii)700〜800、(ix)800〜900、(x)900〜1000及び(xi)>1000からなる群から選択される第2の範囲内の値である、イオンガイド。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のイオンガイドを備える、質量分析計。
【請求項11】
請求項10に記載の質量分析計であって、
さらに、前記イオンガイドからの質量対電荷比選択的なイオン放出に同期してスキャンされる質量分析器又はその他の装置を備える、質量分析計。
【請求項12】
イオンを誘導する方法であって、
複数の電極を備えるイオンガイドを準備する工程と、
第1のRF電圧を前記電極の少なくとも一部に印加する工程と、
1つ以上の電極に1つ以上の直流電圧及び/又は交流電圧又はRF電圧を印加することにより、1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を形成して、前記イオンガイド内で軸方向に少なくとも一部のイオンを閉じ込める工程と、を備え、
さらに、
第2のRF電圧を前記電極の少なくとも一部に印加する工程であって、2つ以上の隣接する電極が前記第2のRF電圧の同一の第1のRF位相に維持されるとともに、次の2つ以上の隣接する電極が、前記第2のRF電圧の前記第1のRF位相と異なる位相である、又は、逆の位相である前記第2のRF電圧の同一の第2のRF位相に維持される工程と、
前記イオンの少なくとも一部が、前記1つ以上の軸方向直流電圧障壁及び/又は交流電圧障壁又はRF電圧障壁を乗り越えて、前記イオンガイドから軸方向に放出されるように、前記第1のRF電圧及び/又は前記第2のRF電圧のいずれかの振幅、高さ又は深さ、及び/又は周波数を漸増させる、漸減させる、漸次変化させる、スキャンする、直線的に増大させる、直線的に減少させる、段階的、漸次、又はその他の方法で増大させる、又は、段階的、漸次、又はその他の方法で減少させる工程と、を備える方法。
【請求項13】
請求項12に記載のイオンを誘導する方法を備える質量分析の方法。
【請求項14】
質量分析計であって、
複数の電極と、
前記電極の少なくとも一部に一次RF電圧と補助RF電圧とを印加するように配置及び構成される装置であって、前記一次RF電圧の軸方向反復単位、パターン又は長さよりも大きな軸方向反復単位、パターン又は長さで、前記補助RF電圧を前記電極に印加する装置と、
前記質量分析計に沿った位置で軸方向電圧障壁を維持するように配置及び構成される装置と、
前記補助RF電圧の振幅を漸増させることにより、前記軸方向電圧障壁を漸次イオンが乗り越えるように配置及び構成される装置と、を備える質量分析計。
【請求項15】
イオンを質量分析する方法であって、
複数の電極を備える質量分析計を準備する工程と、
前記電極の少なくとも一部に一次RF電圧と補助RF電圧とを印加する工程であって、前記一次RF電圧の軸方向反復単位、パターン又は長さよりも大きな軸方向反復単位、パターン又は長さで、前記補助RF電圧を前記電極に印加する工程と、
前記質量分析計に沿った位置で軸方向電圧障壁を維持する工程と、
前記補助RF電圧の振幅を漸増させることにより、前記軸方向電圧障壁を漸次イオンに乗り越えさせる工程と、を備える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−517610(P2013−517610A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549419(P2012−549419)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050073
【国際公開番号】WO2011/089419
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509314666)マイクロマス・ユーケイ・リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】MICROMASS UK LIMITED
【Fターム(参考)】