説明

製品検査装置および製品検査方法

【課題】 製品から発生する打音の周波数の範囲が広い場合であっても、精度良く製品を検査できるようにする。
【解決手段】 打撃アーム13を回動させて検査対象物OBを叩いて打音を発生させ、打音が発生している初期において、周波数測定回路44により打音の周波数を測定し、測定された周波数を中心周波数としたバンドパスフィルタ45の通過帯域を設定する。そして、フィルタ処理された打音信号からロックインアンプ46によりエンベロープ波形信号を生成し、エンベロープ波形信号の電圧値を積分回路49により所定時間積分する。この積分値は、打音の減衰度合いを表す値に相当し、電圧計50により測定される。電圧測定値が基準値未満であれば、検査対象物OBにクラックが発生していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品に打撃を与えることで発生する音を解析して、製品の良否を判定する検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製品に打撃を与えることで発生する音の周波数や減衰度合い等を測定して、その測定値から製品の良否を判定する検査装置や検査方法が知られている。例えば、特許文献1には、製品に打撃を与えることで発生する音を電気信号に変換し、電気信号の減衰度を測定することで製品の良否を判定する検査方法が提案されている。製品にクラック等の傷が付いていると、発生する打音の減衰度が良品とは大きく異なる。従って、この検査方法によれば比較的精度良く製品の良否を判定することができる。また、装置の構成が簡単であるため、検査コストを抑制することができる。
【0003】
また、この検査方法においては、音を電気信号に変換した後、フィルタを通すことで雑音による電気信号を除去できる構成になっている。これによれば、騒音レベルが高い工場内で検査を行う場合でも精度良く検査を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−92758号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案された検査方法は、製品から発生する打音が限られた周波数帯域のものであれば、その周波数帯域以外の周波数の信号をフィルタで除去することで精度良く検査を行うことができるが、製品の種類が多岐にわたっていたり、同じ製品でも打音の周波数がばらついたりして、発生する打音の周波数の範囲が広い場合には、フィルタの周波数帯域を広げざるを得ない。その場合には、雑音による電気信号を除去することができないケースがあり、そうしたケースにおいては検査精度が悪化するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、製品から発生する打音の周波数の範囲が広い場合であっても、精度良く製品を検査できる製品検査装置および製品検査方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の製品検査装置の特徴は、製品に打撃を与えることで製品から打音を発生させ、前記打音の減衰度合いから製品の良否を判定する製品検査装置において、前記製品から発生した打音を電気信号に変換する電気信号変換手段と、通過帯域が可変設定可能であり、前記電気信号変換手段により打音から変換された電気信号を入力し、通過帯域内の周波数の電気信号を出力するバンドパスフィルタと、前記電気信号変換手段により打音から変換された電気信号の周波数を、前記打音が発生している初期において測定する周波数測定手段と、前記周波数測定手段により測定された周波数に基づいて、前記打音が発生している期間内に前記バンドパスフィルタの通過帯域を設定するフィルタ特性設定手段と、前記フィルタ特性設定手段により前記バンドパスフィルタの通過帯域が設定された後に、前記バンドパスフィルタが出力する電気信号の減衰度合いを測定する減衰度合測定手段とを備えたことにある。
【0008】
本発明においては、電気信号変換手段が製品から発生した打音を電気信号に変換し、周波数測定手段が打音の発生している初期において電気信号の周波数を測定する。そして、フィルタ特性設定手段が、測定された周波数に基づいて、打音が発生している期間内にバンドパスフィルタの通過帯域を設定する。バンドパスフィルタは、打音から変換された電気信号を入力し、打音の周波数を中心周波数とした通過帯域内の電気信号を出力する。減衰度合測定手段は、フィルタ特性設定手段によりバンドパスフィルタの通過帯域が設定された後に、バンドパスフィルタが出力する電気信号の減衰度合いを測定する。
【0009】
このため、本発明によれば、打音の周波数に応じた適切なフィルタ処理を行うことができるため、製品から発生する打音の周波数のばらつきの範囲が広い場合であっても、精度良く製品検査を行うことができる。また、周波数測定は、打音の発生初期である音量が大きい時に行うため、検査現場の騒音が大きい場合でも良好に行うことができる。
【0010】
また、本発明の製品検査装置の他の特徴は、前記バンドパスフィルタは、クロック信号の周波数に基づいて通過帯域が設定されるスイッチトキャパシタフィルタであり、前記フィルタ特性設定手段は、前記周波数測定手段により測定された周波数に応じて前記スイッチトキャパシタフィルタのクロック信号の周波数を設定することにある。
【0011】
本発明によれば、バンドパスフィルタとしてスイッチトキャパシタフィルタを備えており、クロック信号の周波数の設定によりバンドパスフィルタの通過帯域を設定するため、その設定処理を瞬時に行うことができる。このため、打音の発生している期間中に、打音の周波数測定、バンドパスフィルタの通過帯域の設定、打音の減衰度合いの測定を容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明の製品検査装置の他の特徴は、前記減衰度合測定手段は、前記バンドパスフィルタが出力する電気信号から、信号出力の時間変化が打音の減衰カーブとなるエンベロープ波形信号を生成するエンベロープ波形信号生成手段と、前記エンベロープ波形信号生成手段により生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された設定期間のあいだ積分して、その積分値を前記減衰度合いを表す値として出力する積分手段とを備えたことにある。
【0013】
本発明においては、減衰度合測定手段が、エンベロープ波形信号生成手段と積分手段とを備えている。エンベロープ波形信号生成手段は、バンドパスフィルタが出力する電気信号から、信号出力の時間変化が打音の減衰カーブ(打音の音量変化を表すエクスポネンシャルカーブ)となるエンベロープ波形信号を生成する。積分手段は、エンベロープ波形信号の大きさを予め設定された設定期間のあいだ積分して、その積分値を打音の減衰度合いを表す値として出力する。エンベロープ波形信号は、製品の良否に応じて、その出力の減衰度合いが変化する。従って、積分手段の出力する積分値は、打音の減衰度合いを表す値となる。例えば、製品にクラックが発生している場合には、打音の減衰度合いが良品に比べて大きくなるため、積分手段の出力する積分値は、良品における積分値に比べて小さくなる。従って、積分値に基づいて製品の良否を簡単に判定することができる。
【0014】
尚、積分手段の出力する積分値は、その出力形態に応じた計測手段により測定すればよい。例えば、エンベロープ波形信号の出力により充電されるコンデンサを設け、コンデンサの両極間の電圧値を、エンベロープ波形信号の積分値として電圧計により測定することもできる。この場合には、マイクロコンピュータを用いなくても、減衰度合いを簡単に測定することができ、低コストにて実施することができる。また、本発明においては、製品から発生する打音の初期音量が一定となるように、製品に一定の力の打撃を与える打音発生手段を設けると精度が向上する。
【0015】
また、本発明の製品検査装置の他の特徴は、前記減衰度合測定手段は、前記バンドパスフィルタが出力する電気信号から、信号出力の時間変化が打音の減衰カーブとなるエンベロープ波形信号を生成するエンベロープ波形信号生成手段と、前記エンベロープ波形信号生成手段により生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された第1設定期間のあいだ積分して、その積分値を出力する第1積分手段と、前記エンベロープ波形信号生成手段により生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された第2設定期間のあいだ積分して、その積分値を出力する第2積分手段と、前記第1積分手段により出力された積分値と、前記第2積分手段により出力された積分値との比を前記減衰度合いを表す値として出力する積分値比算出手段とを備えたことにある。
【0016】
本発明においては、減衰度合測定手段が、エンベロープ波形信号生成手段と第1積分手段と第2積分手段と積分値比算出手段とを備えている。エンベロープ波形信号生成手段は、バンドパスフィルタが出力する電気信号から、信号出力の時間変化が打音の減衰カーブとなるエンベロープ波形信号を生成する。第1積分手段と第2積分手段は、それぞれ第1設定期間、第2設定期間のあいだエンベロープ波形信号の大きさを積分する。従って、異なる2つの期間においてエンベロープ波形信号の大きさの積分値が得られる。このため、2つの積分値の比から打音の減衰度合いを求めることができる。そこで、積分値比算出手段は、第1積分手段により出力された積分値と、第2積分手段により出力された積分値との比を打音の減衰度合いを表す値として出力する。従って、2つの積分値の比に基づいて製品の良否を簡単に判定することができる。
【0017】
また、2つの積分値の比を用いて打音の減衰度合いを算出するため、製品から発生する打音の初期音量を一定にしなくても精度の高い検査を簡単に行うことができる。このため、一定の力で製品を叩く打音発生装置を設ける必要が無く低コストにて実施することができる。また、例えば、エンベロープ波形信号の出力により第1設定期間のあいだ充電されるコンデンサと第2設定期間のあいだ充電されるコンデンサを設け、各コンデンサの両極間の電圧値の比を減衰度合いを表す値として算出するようにすれば、マイクロコンピュータを用いなくても減衰度合いを簡単に測定することができ、更に低コストにて実施することができる。
【0018】
更に、本発明の実施にあたっては、製品検査装置の発明に限定されることなく、製品検査方法の発明としても実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態に係る製品検査装置の概略構成図である。
【図2】周波数測定回路の概略構成図である。
【図3】バンドパスフィルタの概略構成図である。
【図4】ロックインアンプの概略構成図である。
【図5】積分回路の概略構成図である。
【図6】エンベロープ波形信号と積分回路の出力電圧波形を表すグラフである。
【図7】第2実施形態に係る製品検査装置の概略構成図である。
【図8】2種類のゲート信号波形を表すグラフである。
【図9】除算回路の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、第1実施形態に係る製品検査装置の概略構成を表す。製品検査装置は、検査対象となる製品(以下、検査対象物OBと呼ぶ)に対して打撃を与えて検査対象物OBから打音を発生させる打音発生部10と、検査対象物OBから発生した打音を集音して電気信号に変換するマイクロフォン20と、打音発生部10の作動を制御する打撃制御部30と、打音を解析する打音解析部40と、打音解析結果を電圧で表示する電圧計50と、製品検査装置内の各回路に電源を供給する主電源60と、製品検査の開始/終了を指示する操作スイッチ70とを備えている。打音発生部10とマイクロフォン20は、検査台11の上に設けられ、打撃制御部30と打音解析部40と主電源60は、製品検査装置本体内に設けられている。また、電圧計50の表示部と操作スイッチ70とは、製品検査装置本体の操作パネル(図示略)に設けられている。
【0021】
打音発生部10は、検査台11に立設された支柱12と、支柱12の先端に揺動自在に軸支された打撃アーム13と、打撃アーム13を吸着する電磁石14とを備えている。打撃アーム13の先端には、錘を兼用し検査対象物OBを叩く部位となる打撃部材15が固着されている。打撃アーム13には、水平となる位置で電磁石14の吸着面と当接する位置に鉄片16が固着されている。従って、打音発生部10は、電磁石14に通電しているときに打撃アーム13を吸着して水平位置に保持し、電磁石14への通電を解除したときに吸着を解除して、打撃アーム13をその自重により下方に揺動させる。
【0022】
検査台11の上には検査対象物OBが載置され、打撃アーム13が下方に揺動したとき、打撃部材15が検査対象物OBに衝突する。これにより、検査対象物OBから打音が発生する。検査対象物OBの上方にはマイクロフォン20が配設されており、このマイクロフォン20により打音を電気信号に変換する。尚、マイクロフォン20が本発明の電気信号変換手段に相当し、マイクロフォン20の行う処理が本発明の電気信号変換ステップに相当する。
【0023】
本実施形態の製品検査装置が検査する検査対象物OBは、電動モータ内に設けられるマグネットである。マグネットは、製造過程においてクラックが発生することがある。クラックは、その隙間が非常に小さい(例えば、4μm)ものであるため、従来においては、顕微鏡を使って目視検査が行われていた。このため、簡単に検査できないという問題があった。そこで、本実施形態の製品検査装置においては、検査対象物OBを叩いたときに発生する打音の減衰度合いに基づいてクラックの有無を判定する。
【0024】
打撃制御部30は、第1制御スイッチ31,第2制御スイッチ32を介在させて吸着用電源35から電磁石14に通電する通電回路を備えている。この第1,第2制御スイッチ31,32は、電磁石14の通電回路に並列に設けられている。第1制御スイッチ31は、制御信号としてハイレベル信号を入力しているときにオフ状態となるノーマルクローズスイッチであり、第2制御スイッチ32は、制御信号としてハイレベル信号を入力しているときにオン状態となり制御信号がローレベル信号に切り替わったのちに所定時間経過するとオフ状態に切り替わるオフディレイスイッチである。
【0025】
第1制御スイッチ31に入力される制御信号は、操作スイッチ70および第3制御スイッチ33を介して主電源60から供給されるように構成されている。また、第3制御スイッチ33は、遅延回路34の出力信号により開閉制御されるノーマルクローズスイッチである。遅延回路34は、操作スイッチ70がオン操作されると、その時点から所定時間経過した後にハイレベル信号を出力する。従って、第3制御スイッチ33は、操作スイッチ70がオン操作された後、所定時間経過後にオフ状態となる。このため、電磁石14の通電回路に設けられた第1制御スイッチ31は、操作スイッチ70がオン操作されるとオン状態からオフ状態に切り替わり、その後、所定時間経過するとオン状態に戻る。
【0026】
一方、第2制御スイッチ32は、制御信号として後述する音発生検出回路42の出力信号を入力するように構成されている。従って、第2制御スイッチ32は、音発生検出回路42から音検出信号(ハイレベル信号)が出力されたときにオン状態となり、その後、音検出信号が入力されなくなると、その時点から所定時間経過後にオフ状態に切り替わる。
【0027】
製品検査装置においては、操作スイッチ70がオフ状態となっているときには、第1制御スイッチ31を介して電磁石14と吸着用電源35とが電気的に接続され、図1に示すように、打撃アーム13が電磁石14に吸着されて水平状態に保持された状態となる。検査者は、この状態から操作スイッチ70をオン操作して検査を開始する。操作スイッチ70がオン操作されると、瞬時に第1制御スイッチ31がオフ状態に切り替わり、電磁石14への通電が断たれる。このため、打撃アーム13の吸着が解除されて打撃アーム13が自重で下方へ揺動する。これにより、打撃部材15が検査対象物OBを叩いて検査対象物OBから打音が発生する。この打音の発生により、後述する音発生検出回路42から音検出信号(ハイレベル信号)が出力され、第2制御スイッチ32がオン状態に切り替わり、電磁石14への通電が再開される。従って、打撃アーム13が下方に揺動して検査対象物OBと衝突した直後に、電磁石14に磁力が発生して打撃アーム13を上方に引き上げて吸着保持するため、打撃アーム13が検査対象物OB上をバウンドして打撃部材15が検査対象物OBを何回も叩くことはない。
【0028】
打撃アーム13が吸着保持される高さ、および、打撃アーム13の先端に固着された打撃部材15の重さは一定であるため、検査対象物OBの形状や材質が同一であれば、検査対象物OBから発生する打音の音量はほぼ一定となる。
【0029】
検査者が操作スイッチ70をオン操作したのち、遅延回路34の設定時間が経過すると第3制御スイッチ33がオフ状態に切り替わり、これに伴って、第1制御スイッチ31がオン状態となる。一方、第2制御スイッチ32は、音発生検出回路42の出力する音検出信号(ハイレベル信号)の立ち下がりから設定時間経過するとオフ状態に切り替わる。従って、本実施形態においては、第2制御スイッチ32がオフ状態に切り替わる前に、第1制御スイッチ31がオン状態に切り替わるように、遅延回路34の遅延時間と第2制御スイッチ32のオフディレイ時間との関係を設定することにより、打音発生後においても、打撃アーム13の吸着を維持させることができるようになっている。
【0030】
打撃アーム13の揺動により検査対象物OBから発生した打音は、マイクロフォン20により集音されて電気信号に変換される。この電気信号は、打音解析部40に出力される。打音解析部40は、アンプ41、音発生検出回路42、ゲート信号発生回路43、周波数測定回路44、バンドパスフィルタ45、ロックインアンプ46、遅延回路47、ゲート信号発生回路48、積分回路49を備えている。
【0031】
アンプ41は、マイクロフォン20で発生した電気信号を増幅する。アンプ41により増幅された電気信号は、音発生検出回路42、周波数測定回路44、バンドパスフィルタ45に出力される。音発生検出回路42は、アンプ41の出力信号を入力し、入力した信号の強度が閾値を越えたときにハイレベルとなる音検出信号を出力する。つまり、検査対象物OBから打音が発生した瞬間に音検出信号を出力する。この音検出信号は、ゲート信号発生回路43、遅延回路47、第2制御スイッチ32に出力される。
【0032】
ゲート信号発生回路43は、音発生検出回路42から出力された音検出信号が入力すると、予め設定されたパルス幅(例えば、10ミリ秒)のパルス信号を周波数測定回路44に出力する。周波数測定回路44は、図2に示すように、2値化回路441、アンド回路442、ゲート終了検出回路443、カウンタ444を備えている。2値化回路441は、アンプ41の出力する打音の電気信号を2値化してパルス列信号に変換する。アンド回路442は、2値化回路441とゲート信号発生回路43の出力を入力し、ゲート信号発生回路43からパルス信号が出力されているとき、つまり、ゲート信号発生回路43の出力がハイレベルとなっている期間において、2値化回路441の出力であるパルス列信号をカウンタ444に出力する。ゲート終了検出回路443は、ゲート信号発生回路43の出力するパルス信号を入力し、そのパルス信号の立ち下がりエッジを検出して検出信号をカウンタ444に出力する。
【0033】
カウンタ444は、アンド回路442の出力するパルス列信号のパルス数をカウントし、ゲート終了検出回路443から検出信号を入力したときに、その時点のカウント値をデジタルデータで出力するとともにカウント値をリセットする。従って、カウンタ444は、ゲート信号発生回路43が出力するパルス信号のパルス幅に相当する時間だけ(この例では10ミリ秒)、2値化回路441の出力するパルス列信号のパルス数をカウントすることになる。このため、カウンタ444から出力されるカウント値は、打音の周波数と対応関係を有する値となる。尚、周波数測定回路44が本発明の周波数測定手段に相当し、周波数測定回路44の行う処理が本発明の周波数測定ステップに相当する。
【0034】
アンプ41の出力および周波数測定回路44の出力は、バンドパスフィルタ45に入力される。バンドパスフィルタ45は、アンプ41の出力する電気信号を入力し、設定通過帯域の電気信号のみを出力するフィルタで、本実施形態においては、スイッチトキャパシタフィルタが使用される。スイッチトキャパシタフィルタは、キャパシタのスイッチングによりフィルタ処理を行うためデジタルフィルタとも呼ばれている。バンドパスフィルタ45(スイッチトキャパシタフィルタ)は、図3に示すように、クロック発生回路451、ローパスフィルタ452、ハイパスフィルタ453を備えている。ローパスフィルタ452およびハイパスフィルタ453は、そのカットオフ周波数が、クロック信号の周波数の設定により可変できる。例えば、中心周波数をfkHzとした通過帯域を設定する場合には、カットオフ周波数fkHzに対応するクロック信号(本実施形態においては、カットオフ周波数の100倍の周波数のクロック信号)をローパスフィルタ452およびハイパスフィルタ453に与えることで、中心周波数fkHzのバンドパスフィルタを構成することができる。
【0035】
クロック発生回路451は、周波数測定回路44の出力するカウント値を入力し、このカウント値に対応したクロック信号をローパスフィルタ452およびハイパスフィルタ453に出力する。周波数測定回路44の出力するカウント値は、打音の周波数に対応したものであるため、クロック発生回路451においては、打音の周波数がバンドパスフィルタ45の中心周波数となるような周波数のクロック信号を出力する。例えば、カウント値が、打音の周波数に換算して7kHzを示すものである場合には、その100倍の700kHzのクロック信号をローパスフィルタ452およびハイパスフィルタ453に出力する。これにより、ローパスフィルタ452とハイパスフィルタ453のカットオフ周波数が設定され、アンプ41の出力信号から設定通過帯域外の信号が除外され、設定通過帯域内の信号のみが出力される。尚、このようにクロック発生回路451によりバンドパスフィルタ45の通過帯域を設定する処理部(処理)が本発明のフィルタ特性設定手段(フィルタ特性設定ステップ)に相当する。また、バンドパスフィルタ45が本発明のバンドパスフィルタに相当し、バンドパスフィルタ45によるフィルタリング処理が本発明のバンドパスフィルタリングステップに相当する。
【0036】
バンドパスフィルタ45の出力信号は、ロックインアンプ46に入力される。ロックインアンプ46は、反転回路461、2値化回路462、同期検波回路463、ローパスフィルタ464を備えている。反転回路461は、バンドパスフィルタ45から出力された打音の電気信号を入力して正逆を反転し2値化回路462に出力する。2値化回路462は、入力した電気信号を、その大きさが閾値(この場合は振動の中心の値)以上となるときにハイレベルとなるパルス列信号に変換する。同期検波回路(PSD:Phase Sensitive Detector)463は、バンドパスフィルタ45から出力された打音の電気信号を測定信号として入力するとともに、2値化回路462から出力された2値化信号を参照信号として入力する。そして、参照信号がローレベルとなるときに「1」、参照信号がハイレベルとなるときに「−1」として、参照信号を測定信号に乗じる。このようにして、同期検波回路463は、バンドパスフィルタ45から出力された打音の電気信号から、その振動の中心でプラス側に折り重ねた波形となる電気信号を生成してローパスフィルタ464に出力する。
【0037】
ローパスフィルタ464は、同期検波回路463の出力信号の振動成分をカットしてエンベロープ波形信号を生成する。エンベロープ波形は、同期検波回路463の出力信号の波形の頂点を結ぶ包絡線を表すもので、打音の音量の変化を表す曲線(打音の減衰カーブ)となる。このエンベロープ波形信号は、ロックインアンプ46の出力として積分回路49に入力される。尚、ロックインアンプ46が本発明のエンベロープ波形信号生成手段に相当し、ロックインアンプ46の行う処理が本発明のエンベロープ波形信号生成ステップに相当する。
【0038】
積分回路49は、エンベロープ波形信号とは別に、積分期間を設定するための信号を入力する。この信号は、音発生検出回路42の出力する音検出信号に基づいて、遅延回路47とゲート信号発生回路48により生成される。遅延回路47は、音発生検出回路42から音検出信号を入力したタイミングから所定時間経過したときにハイレベル信号を出力する。音検出信号に対して遅延回路47がハイレベル信号を出力するまでの遅延時間は、ゲート信号発生回路43が出力するパルス信号のパルス幅と同じかやや大きめの時間に設定されている。この遅延時間は、検査対象物OBから打音が発生した後、積分回路49にて積分動作を開始させるまでの遅延時間に相当するものである。つまり、周波数測定回路44が打音の周波数測定を行い、それに基づいてバンドパスフィルタ45が通過帯域を設定するのに要するだけの時間が遅延時間として設定されている。
【0039】
遅延回路47の出力信号は、ゲート信号発生回路48に入力される。ゲート信号発生回路48は、遅延回路47からハイレベル信号を入力すると、設定されたパルス幅のパルス信号(以下、ゲート信号と呼ぶ)を出力する。ゲート信号のパルス幅は、積分回路49にて積分動作を行う時間を設定するものとなる。従って、パルス幅は、打音が発生してから収束するまでの時間を考慮して設定される。
【0040】
尚、本実施形態では遅延回路47に音発生検出回路42からの音検出信号を入力させているが、これに代えてゲート信号発生回路43からのパルス信号を入力させてもよい。この場合、遅延回路47は僅かな時間遅延させてパルス信号を出力し、ゲート信号発生回路48は入力したパルス信号の立ち下がりエッジを検出してゲート信号を出力するようにすればよい。
【0041】
積分回路49は、図5に示すように、ゲート回路491、抵抗492、オペアンプ493、コンデンサ494、放電用スイッチ495を備えている。ゲート回路491は、ロックインアンプ46の出力信号(エンベロープ波形信号)とゲート信号発生回路48の出力信号(ゲート信号)を入力し、ゲート信号発生回路48の出力信号がハイレベルとなっているときに、ロックインアンプ46の出力信号を通過させる。積分回路49は、ロックインアンプ46の出力でコンデンサ494を充電して、その充電電圧(コンデンサ494の両極間の電圧)を出力することにより、ロックインアンプ46の出力電圧を時間で積分した値に相当する電圧信号を出力する。
【0042】
ロックインアンプ46から積分回路49に入力されるエンベロープ波形信号Vinは、図6(a)に示すように、Vin=1/etの関数で表されるような減衰カーブを描く波形となる。従って、積分回路49から出力される電圧Voutは、ゲート信号発生回路48の出力信号がハイレベルとなっているときに、図6(b)に示すように、Vout=(1−(1/et))で表されるような増加カーブを描く波形となる。そして、ゲート信号発生回路48の出力信号がローレベルに切り替わると、その時点での電圧Voutが維持される。従って、積分回路49は、ゲート信号発生回路48で設定された時間だけロックインアンプ46の出力電圧を積分し、設定時間が経過すると、それまでに積分した値に相当する一定電圧を出力する。尚、積分回路49,遅延回路47,ゲート信号発生回路48からなる構成が本発明の積分手段に相当し、積分回路49,遅延回路47,ゲート信号発生回路48の行う処理が本発明の積分ステップに相当する。
【0043】
放電用スイッチ495は、検査開始時においてコンデンサ494の蓄電量をゼロにしておくもので、制御信号を入力しているときに接点を開くノーマルクローズスイッチで構成される。この放電用スイッチ495は、その制御端子が操作スイッチ70を介して主電源60と接続されているため、操作スイッチ70がオフしているときに、接点が閉じてコンデンサ494に溜まっている電荷を放出する。そして、操作スイッチ70がオンされると、接点を開いてコンデンサ494を充電可能状態にする。従って、充電用スイッチ495は、検査開始時おける積分回路49の積分値をゼロクリアしておくものである。
【0044】
検査対象物OBにクラックが発生している場合には、検査対象物OBから発生する打音の減衰度合いが大きい。打音の減衰度合いは、ロックインアンプ46の出力信号、つまり、エンベロープ波形信号の減衰度合いで表される。従って、検査対象物OBにクラックが発生していると、図6(a)に破線にて示すように、積分回路49に入力される電圧信号の減衰度合いが大きくなる。このため、積分回路49の出力電圧Voutは、図6(b)に破線にて示すように、増加度合いが少なくなり、積分期間の終了したときの最終電圧(積分値に相当する)が正常な検査対象物OBにおける最終電圧に比べて小さくなる。従って、積分回路49の積分終了時での出力電圧を測定することで、検査対象物OBの良否(クラックの有無)を判定することができる。
【0045】
積分回路49の出力電圧は、電圧計50により測定される。本実施形態における製品検査装置においては、電圧計50は製品検査装置本体内に組み込んで設けられるが、これに代えて、積分回路49の出力端子を電圧測定端子として製品検査装置の本体ケースに露出して設け、電圧測定端子に測定プローブを接続して別の電圧計により電圧測定できるようにした構成であってもよい。尚、ロックインアンプ46,遅延回路47,ゲート信号発生回路48,積分回路49,電圧計50が本発明の減衰度合測定手段に相当し、ロックインアンプ46,遅延回路47,ゲート信号発生回路48,積分回路49,電圧計50の行う処理が本発明の減衰度合測定ステップに相当する。
【0046】
ここで、本実施形態の製品検査装置の全体的な作動について説明する。まず、検査者は、操作スイッチ70がオフとなっている状態で、検査対象物OBを検査台11の所定位置に載置する。このとき、打撃アーム13は、電磁石14による吸着力で水平状態に保たれている。また、積分回路49のコンデンサ494は、放電用スイッチ495の接点が閉じていることから、蓄電量がゼロにセットされている。そして、検査者は、操作スイッチ70をオン操作する。これにより、電磁石14による吸着が解かれて打撃アーム13が自重で下方に揺動し、打撃部材15が検査対象物OBを叩く。打撃アーム13の吸着位置は一定であるため、打撃部材15が検査対象物OBを叩く力は一定となる。こうして、検査対象物OBから一定の音量の打音が発生する。また、操作スイッチ70のオン操作に伴って、積分回路49の放電用スイッチ495がオフ状態に切り替わり、コンデンサ494が充電可能状態となる。
【0047】
検査対象物OBから打音が発生すると、音発生検出回路42が打音を検出し、その打音検出時点から周波数測定回路44が打音の周波数を測定する。この時点においては、打音の音量は大きいため、検査現場において騒音が発生していても、良好に打音の周波数測定を行うことができる。そして、周波数測定結果(カウンタ444のカウンタ値)がバンドパスフィルタ45に出力され、バンドパスフィルタ45において、打音の周波数を中心周波数とした狭い通過帯域が設定される。バンドパスフィルタ45によりフィルタリングされた打音の電気信号は、ロックインアンプ46によりエンベロープ波形信号に変換される。
【0048】
そして、打音検出から所定時間経過したタイミングで、ゲート信号発生回路48から積分回路49にゲート信号が入力し、積分回路49によりエンベロープ波形信号の電圧値の積分が開始される。この積分回路49の作動開始タイミングは、遅延回路47により設定され、周波数測定およびバンドパスフィルタ45の通過帯域設定が完了するのに必要な時間相当分を見込んだものとなっている。
【0049】
積分回路49は、ゲート信号発生回路48により設定された時間だけ積分動作を行うと、その積分値に相当する出力電圧値を一定に保つ。この時点で、検査者は、電圧計50の表示する電圧値を読み取り、電圧値が基準値に満たない場合には検査対象物OBを不良品と判定し、電圧値が基準値以上であれば検査対象物OBを良品と判定する。そして、操作スイッチ70をオフ操作することにより、積分回路49のコンデンサ494の電荷が放電されて積分値がリセットされる。従って、電圧計50の表示電圧は0ボルトになる。こうして、1つの検査対象物OBの検査が完了する。
【0050】
以上説明した第1実施形態の製品検査装置によれば、検査対象物OBの打音の発生直後に打音の周波数を測定し、その周波数を中心周波数とした通過帯域をバンドパスフィルタ45に設定するため、検査対象物OBに応じた適切なフィルタ処理を行うことができる。このため、検査対象物OBから発生する打音の周波数のばらつきの範囲が広い場合であっても、精度良く製品検査を行うことができる。また、周波数測定は、打音の発生直後の音量が大きい時に行うため、検査現場の騒音が大きい場合でも良好に行うことができる。更に、スイッチトキャパシタフィルタを用いたバンドパスフィルタ45を使って通過帯域を設定するため、その設定を一瞬で行うことができる。このため、検査対象物OBを1回叩いただけで、打音の周波数測定、バンドパスフィルタ45の通過帯域設定、エンベロープ波形信号の積分といった一連の処理を実行することができ、製品検査を非常に簡単、かつ、短時間に行うことができる。更に、積分回路49によりエンベロープ波形信号の電圧値を積分し、その積分値の大きさを、打音の減衰度合いを表す検査値として用いているため、マイクロコンピュータを用いなくても簡易な構成で打音の減衰度合いを検出することができる。このため、低コストにて実施することができる。
【0051】
次に、第2実施形態としての製品検査装置について説明する。第1実施形態の製品検査装置においては、打音発生部10により、常に一定の力で検査対象物OBを叩いて一定音量の打音を発生させるようにしているが、この第2実施形態の製品検査装置においては、検査者が任意の力で叩いた打音から検査対象物OBの良否を判定できるようにしたものである。
【0052】
図7は、第2実施形態の製品検査装置の概略構成図である。この製品検査装置は、第1実施形態の製品検査装置において打音発生部10、打撃制御部30を削除し、遅延回路47、ゲート信号発生回路48、積分回路49に代えて、2組の遅延回路47a,47b、ゲート信号発生回路48a,48b、積分回路49a,49b、および、除算回路80を設けたものである。以下、第1実施形態の製品検査装置と同じ構成要素については、図面に第1実施形態で使用した符号を付して説明を省略する。
【0053】
この実施形態の製品検査装置においては、第1遅延回路47aと第1ゲート信号発生回路48aと第1積分回路49aとにより、ロックインアンプ46から出力されるエンベロープ波形信号の電圧値を積分する第1積分ブロックAと、第2遅延回路47bと第2ゲート信号発生回路48bと第2積分回路49bとにより、ロックインアンプ46から出力されるエンベロープ波形信号の電圧値を積分する第2積分ブロックBとを備えている。第1積分ブロックAと第2積分ブロックBとは、エンベロープ波形信号の電圧を積分する期間が相違している。
【0054】
第1実施形態においては、検査対象物OBを叩いた瞬間の打音の音量(初期音量と呼ぶ)を一定にしているため、1つの積分期間における積分値(積分回路49の出力電圧)から打音の減衰度合いを検出することができたが、この第2実施形態においては、初期音量が一定ではないため、2つの積分期間を設けて、各積分期間における積分値の比から打音の減衰度合いを検出する。従って、第1積分ブロックAと第2積分ブロックBは、回路構成に関しては、第1実施形態の遅延回路47、ゲート信号発生回路48、積分回路49と基本的に同一であるが、2種類のゲート信号を生成するために遅延時間の設定やゲート信号のパルス幅の設定に関して第1実施形態と相違する。以下、第1ゲート信号発生回路48aが出力するゲート信号を第1ゲート信号と呼び、第2ゲート信号発生回路48bが出力するゲート信号を第2ゲート信号と呼ぶ。
【0055】
2種類のゲート信号は、信号の立ち上がりのタイミングを相違させてパルス幅を同一にするように設定してもよいし、信号の立ち上がりタイミングを同一にしてパルス幅を相違させるように設定してもよいし、立ち上がりタイミングとパルス幅との両方を相違させるように設定してもよい。本実施形態においては、第1遅延回路47aに比べて第2遅延回路47bの遅延時間を長くして第1ゲート信号と第2ゲート信号の立ち上がりのタイミングをずらすとともに、各ゲート信号のパルス幅を同一にする。そして、第1遅延回路47aの遅延時間を第1実施形態の遅延回路47と同等にし、第1遅延回路47aと第2遅延回路47bの遅延時間の差をゲート信号のパルス幅分としている。従って、第1ゲート信号および第2ゲート信号は、図8に示すように、ゲート信号発生回路43の出力信号がローレベルになった後、所定の時間差をもって発生する。第1積分回路49a,第2積分回路49bは、それぞれ入力されたゲート信号がハイレベルとなっている期間においてエンベロープ波形信号の電圧値を積分し、積分値に相当する電圧Vout1,Vout2を出力する。尚、第1積分ブロックAが本発明の第1積分手段に相当し、第1積分ブロックAの行う処理が本発明の第1積分ステップに相当する。また、第2積分ブロックBが本発明の第2積分手段に相当し、第2積分ブロックBの行う処理が本発明の第2積分ステップに相当する。
【0056】
尚、本実施形態においても第1遅延回路47aと第2遅延回路47bにゲート信号発生回路43からのパルス信号を入力させ、第1ゲート信号発生回路48a,第2ゲート信号発生回路48bは入力したパルス信号の立ち下がりエッジを検出してゲート信号を出力するようにしてもよい。
【0057】
第1積分回路49aの出力電圧Vout1と第2積分回路49bの出力電圧Vout2は、除算回路80に入力される。除算回路80は、図9に示すように、トランジスタの対数特性を使用した第1ログ回路81、第2ログ回路82と、オペアンプ83aを使用した減算回路83(差動増幅回路で増幅がない回路)と、トランジスタの対数特性を使用したアンチログ回路84から構成される。第1ログ回路81は、第1積分回路49aの出力電圧Vout1を入力し対数に相当する電圧に変換する。第2ログ回路82は、第2積分回路49bの出力電圧Vout2を入力し対数に相当する電圧に変換する。減算回路83は、第2ログ回路82の出力電圧と第1ログ回路81の出力電圧との差に相当する電圧をアンチログ回路84に出力する。アンチログ回路84は、減算回路83の出力電圧を指数に相当する電圧に変換する。これにより、除算回路80は、第2積分回路49bの出力電圧Vout2を第1積分回路49aの出力電圧Vout1で除算した値に相当する電圧Vdivを出力する。第1積分回路49aおよび第2積分回路49bの出力電圧は、それぞれ異なった時間帯における打音の音量の積分値に相当するものであるため、除算回路80の出力電圧Vdivは、打音の減衰度合いを表すものとなる。従って、除算回路80の出力電圧Vdivを電圧計50により測定することで、検査対象物OBの良否(クラックの有無)を判定することができる。尚、除算回路80が本発明の積分値比算出手段に相当し、除算回路80の行う処理が本発明の積分値比算出ステップに相当する。
【0058】
検査を行うにあたって、第1実施形態においては、操作スイッチ70のオン操作により自動的に打撃アーム13が検査対象物OBを叩いたが、第2実施形態においては、操作スイッチ70のオン操作を行った後に、検査者が打撃棒90で検査対象物OBを叩く点において相違する。その後の検査者の行う処理については、第1実施形態と同様である。つまり、電圧計50の表示電圧と基準電圧とを比較し、その比較結果に基づいて検査対象物OBの良否を判定する。この実施形態においては、打音の減衰度合いが大きいほど電圧計50の測定電圧が減少するため、測定電圧が基準電圧を下回る場合に検査対象物OBを不良品と判定する。
【0059】
以上説明した第2実施形態の製品検査装置によれば、打音の音量を積分する期間を2つ設け、各期間における積分値の比から打音の減衰度合いを表す測定値を出力するようにしたため、打音の初期音量を一定にしなくても精度の高い検査を簡単に行うことができる。このため、検査対象物OBを一定の力で叩く打音発生部や打撃制御部が不要となり低コストにて実施することができる。また、第1実施形態と同様な効果も奏する。
【0060】
以上、本発明の2つの実施形態について説明したが、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形も可能である。
【0061】
例えば、第1実施形態においては、電圧計50にて積分回路49の出力電圧値を表示するように構成したが、積分回路49の出力をコンパレータに入力して、基準電圧との大小関係から良否を自動判定し、判定結果をランプの点灯/消灯、あるいは、表示器による文字表示で出力するようにしてもよい。同様に、第2実施形態においても、除算回路80の出力電圧値と基準電圧との大小関係から良否を自動判定して判定結果を表示するようにしてもよい。
【0062】
また、電圧計50に代えて、デジタルオシロスコープを接続して電圧値を測定するようにしてもよい。また、ロックインアンプ46の出力信号(エンベロープ波形信号)をA/D変換器に入力して所定のサンプリング周期でデジタルデータに変換し、マイクロコンピュータによりデジタルデータの推移から打音の減衰度合いを算出するようにしてもよい。この場合、積分回路49、ゲート信号発生回路48、遅延回路47、電圧計50を設ける必要は無い。
【0063】
また、第1実施形態においては、打音発生部10は電磁石14の吸着解除による打撃アーム13の回動により検査対象物OBを一定の力で叩く構成であったが、例えば、糸で結ばれた錘(打撃部材)を一定の高さから落下させ、打音を検出したタイミングで糸を上昇させる駆動装置を設けた構成であっても良い。
【0064】
また、上記2つの実施形態においては、打音の減衰度合いを表す値のみで検査対象物OBの良否を判定したが、周波数測定回路44で測定した打音の周波数を表示する周波数表示器を設け、検査者が、打音の減衰度合いを表す値(電圧計の測定値)と、打音の周波数とから検査対象物OBの良否を判定できるようにしてもよい。これによれば、検査の確実性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0065】
10…打音発生部、11…検査台、13…打撃アーム、14…電磁石、15…打撃部材、20…マイクロフォン、30…打撃制御部、40…打音解析部、41…アンプ、42…音発生検出回路、43…ゲート信号発生回路、44…周波数測定回路、45…バンドパスフィルタ、46…ロックインアンプ、47…遅延回路、48…ゲート信号発生回路、49…積分回路、50…電圧計、60…主電源、70…操作スイッチ、80…除算回路、90…打撃棒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品に打撃を与えることで製品から打音を発生させ、前記打音の減衰度合いから製品の良否を判定する製品検査装置において、
前記製品から発生した打音を電気信号に変換する電気信号変換手段と、
通過帯域が可変設定可能であり、前記電気信号変換手段により打音から変換された電気信号を入力し、通過帯域内の周波数の電気信号を出力するバンドパスフィルタと、
前記電気信号変換手段により打音から変換された電気信号の周波数を、前記打音が発生している初期において測定する周波数測定手段と、
前記周波数測定手段により測定された周波数に基づいて、前記打音が発生している期間内に前記バンドパスフィルタの通過帯域を設定するフィルタ特性設定手段と、
前記フィルタ特性設定手段により前記バンドパスフィルタの通過帯域が設定された後に、前記バンドパスフィルタが出力する電気信号の減衰度合いを測定する減衰度合測定手段と
を備えたことを特徴とする製品検査装置。
【請求項2】
前記バンドパスフィルタは、クロック信号の周波数に基づいて通過帯域が設定されるスイッチトキャパシタフィルタであり、
前記フィルタ特性設定手段は、前記周波数測定手段により測定された周波数に応じて前記スイッチトキャパシタフィルタのクロック信号の周波数を設定することを特徴とする請求項1記載の製品検査装置。
【請求項3】
前記減衰度合測定手段は、
前記バンドパスフィルタが出力する電気信号から、信号出力の時間変化が打音の減衰カーブとなるエンベロープ波形信号を生成するエンベロープ波形信号生成手段と、
前記エンベロープ波形信号生成手段により生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された設定期間のあいだ積分して、その積分値を前記減衰度合いを表す値として出力する積分手段と
を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の製品検査装置。
【請求項4】
前記減衰度合測定手段は、
前記バンドパスフィルタが出力する電気信号から、信号出力の時間変化が打音の減衰カーブとなるエンベロープ波形信号を生成するエンベロープ波形信号生成手段と、
前記エンベロープ波形信号生成手段により生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された第1設定期間のあいだ積分して、その積分値を出力する第1積分手段と、
前記エンベロープ波形信号生成手段により生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された第2設定期間のあいだ積分して、その積分値を出力する第2積分手段と、
前記第1積分手段により出力された積分値と、前記第2積分手段により出力された積分値との比を前記減衰度合いを表す値として出力する積分値比算出手段と
を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の製品検査装置。
【請求項5】
製品に打撃を与えることで製品から打音を発生させ、前記打音の減衰度合いから製品の良否を判定する製品検査方法において、
前記製品から発生した打音を電気信号に変換する電気信号変換ステップと、
前記電気信号変換ステップにより打音から変換された電気信号の周波数を、前記打音が発生している初期において測定する周波数測定ステップと、
前記周波数測定ステップにより測定された周波数に基づいて、前記打音が発生している期間内にバンドパスフィルタの通過帯域を設定するフィルタ特性設定ステップと、
前記電気信号変換ステップにより打音から変換された電気信号を、前記フィルタ特性設定ステップにより通過帯域が設定されたバンドパスフィルタに入力し、前記設定された通過帯域内の周波数の電気信号を出力するバンドパスフィルタリングステップと、
前記バンドパスフィルタが出力する電気信号の減衰度合いを測定する減衰度合測定ステップと
を含むことを特徴とする製品検査方法。
【請求項6】
前記バンドパスフィルタは、クロック信号の周波数に基づいて通過帯域が設定されるスイッチトキャパシタフィルタであり、
前記フィルタ特性設定ステップは、前記周波数測定ステップにより測定された周波数に応じて前記スイッチトキャパシタフィルタのクロック信号の周波数を設定することを特徴とする請求項5記載の製品検査方法。
【請求項7】
前記減衰度合測定ステップは、
前記バンドパスフィルタが出力する電気信号から、信号出力の時間変化が打音の減衰カーブとなるエンベロープ波形信号を生成するエンベロープ波形信号生成ステップと、
前記エンベロープ波形信号生成ステップにより生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された設定期間のあいだ積分して、その積分値を前記減衰度合いを表す値として出力する積分ステップと
を含むことを特徴とする請求項5または6記載の製品検査方法。
【請求項8】
前記減衰度合測定ステップは、
前記バンドパスフィルタが出力する電気信号から、信号出力の時間変化が打音の減衰カーブとなるエンベロープ波形信号を生成するエンベロープ波形信号生成ステップと、
前記エンベロープ波形信号生成ステップ手段により生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された第1設定期間のあいだ積分して、その積分値を出力する第1積分ステップと、
前記エンベロープ波形信号生成ステップにより生成されたエンベロープ波形信号の大きさを予め設定された第2設定期間のあいだ積分して、その積分値を出力する第2積分ステップと、
前記第1積分ステップにより出力された積分値と、前記第2積分ステップにより出力された積分値との比を前記減衰度合いを表す値として出力する積分値比算出ステップと
を含むことを特徴とする請求項5または6記載の製品検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−286437(P2010−286437A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142176(P2009−142176)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000112004)パルステック工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】