説明

製鉄用原料の造粒方法

【課題】製鉄用塊成鉱を製造する際に、製鉄用原料を高い成形歩留まりで所定の適正な粒度に造粒することができる造粒方法を提供する。
【解決手段】水とのぬれ性が異なる2種以上の酸化鉄原料が配合された製鉄用原料を水の存在下で造粒するに際し、前記2種以上の酸化鉄原料として、水との接触角の差が25度以内であるものを配合する。ぬれ性が近い酸化鉄原料を組み合わせて造粒することにより、成形歩留まりが向上するとともに、均質で適正な粒度分布の造粒物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄用原料の造粒方法に関するもので、特に高炉などの竪型製鉄炉で用いられる製鉄用塊成鉱の製造に好適な造粒方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉などの堅型製鉄炉(以下、高炉を例に説明する)を用いて行われる銑鉄製造プロセスでは、炉内の原料充填層内に還元ガスを流通させるために、原料充填層内の空隙率を一定値以上に保つことが重要である。このため鉄原料などの炉内装入物は粒度分布が大きいことが望ましく、装入後に粉化するおそれがある装入物は、その強度を高めて粉化を抑制する必要がある。
【0003】
このため、特に大型高炉においては、粉鉱石にバインダー、炭材などを配合した原料に水を加えて造粒し、この造粒物を炭材の燃焼熱により焼き固めた焼結鉱や、粉鉱石をペレタイザーなどで球状に成形した後、1000℃以上で高温加熱硬化させた焼成ペレットなどの焼成塊成鉱が広く用いられている。
一方、特に省エネルギーを目的に高温加熱処理しない非焼成塊成鉱に関する検討も進められており、例えば、特許文献1には、粉鉱石にバインダーと水分を加えてペレット化又はブリケット化する技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭53−129113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、焼成塊成鉱や非焼成塊成鉱には、種々の産地・銘柄の鉄鉱石(粉鉱石)のほか、焼結鉱製造時に発生する篩下粉である焼結返鉱、各種ダスト類、各種鉄粉類など様々な酸化鉄原料が用いられる。
このような酸化鉄原料を用いた塊成鉱の製造工程において、酸化鉄原料(通常、バインダーなどの副原料が添加された酸化鉄原料)を水の存在下で造粒する場合、成形歩留まりが十分に確保できず、また、造粒物の粒度分布が大きくなり、適正な粒径への制御が難しいという問題がある。
したがって本発明の目的は、製鉄用塊成鉱を製造する際に、複数種類の酸化鉄原料が配合された製鉄用原料を高い成形歩留まりで適正な粒度分布に造粒することができる造粒方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上述した種々の酸化鉄原料を用いた製鉄用塊成鉱の製造工程において、造粒物の成形歩留まりの低下や粒度分布の不良が生じる原因とその対策について検討を行い、その結果、以下のような知見を得た。
粉体を水の存在下で造粒して得られた造粒物を構成する粒子間の結合力は、水の表面張力や粘着力若しくは粉体の凹凸による結合など、主に物理的な力に起因して仮留めの役割を果たす一次結合力と、主に水や粉体の性状の変化に起因して粒子間を強固に結合する二次結合力に大別することができる。粉体の造粒工程においては、粉体はまず一次結合力で成形され、さらに二次結合力で結合力が強化され、所定の結合強度を有する成形体(造粒物)が得られる。上記一次結合力による成形では、水の表面張力に起因する結合力が重要な役割を果たすことが知られている。粉体の粒子間を水により結合する場合、水の表面張力による結合力は以下の式で計算することができる(「造粒技術」橋本健次著,エポック社刊,1991)。
【0006】
【数1】

F:粒子間の結合力
d:粒子径
T:水の表面張力
θ:粉体と水の接触角
【0007】
上記の式からして、造粒すべき製鉄用原料中に水とのぬれ性が異なる複数種類の酸化鉄原料が混在する場合、ぬれ性の大きい(=θが小さい)原料の粒子間の結合力は、ぬれ性が小さい(=θが大きい)原料の粒子間の結合力に較べて大きくなる。つまり、これらの酸化鉄原料を混在させて造粒を行う場合、ぬれ性の大きい原料は粒子どうしの結合力が強いため造粒されやすく、一方、ぬれ性の小さい原料は粒子どうしの結合力が弱いため造粒がされにくくなり、造粒物成分にはぬれ性の大きい原料が偏析することになる。また、ぬれ性の大きい原料に優先して水が付着することにより、ぬれ性の小さい原料には水が十分行き渡らなくなるため、ぬれ性の小さい原料は造粒することが困難となり、造粒物の粒度分布は、原料粒子に近い小さい粒径と非常に大きな粒径の二極に分かれる傾向がある。この結果、塊成鉱としての適切な粒度範囲に対する成形歩留まりは大幅に低下する。
【0008】
上記のような問題を解決するためには、ぬれ性が近い酸化鉄原料どうしを組み合わせて造粒すればよい。具体的には、酸化鉄原料のぬれ性は水との接触角により評価できるため、複数の種類の酸化鉄原料を配合する場合、水との接触角の差が所定の数値範囲内にある酸化鉄原料を用いるようにすればよく、これにより成形歩留まりが高められ、均質で適正な粒度分布(狭い粒度分布範囲)を有する造粒物を得ることができる。
【0009】
本発明は以上のような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]水とのぬれ性が異なる2種以上の酸化鉄原料が配合された製鉄用原料を水の存在下で造粒するに際し、前記2種以上の酸化鉄原料として、水との接触角の差が25度以内であるものを配合することを特徴とする製鉄用原料の造粒方法。
[2]上記[1]の造粒方法において、酸化鉄原料が細粒焼結鉱又は/及び細粒鉄鉱石であることを特徴とする製鉄用原料の造粒方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製鉄用原料の造粒方法によれば、製鉄用塊成鉱を製造する際に、製鉄用原料を高い成形歩留まりで適正な粒度分布に造粒することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、水とのぬれ性が異なる2種以上の酸化鉄原料が配合された製鉄用原料を水の存在下で造粒するに際し、ぬれ性がなるべく近い組み合わせの酸化鉄原料を用いて造粒を行うものである。
製鉄用原料には、種々の産地・銘柄の鉄鉱石(粉鉱石)のほか、焼結鉱製造時に発生する篩下粉である焼結返鉱、各種ダスト類、各種鉄粉類など様々な酸化鉄原料が用いられる。このような酸化鉄原料の水とのぬれ性は、酸化鉄原料と水との接触角により評価することができる。
【0012】
液体−固体間の接触角は、平面に切り出し研磨した固体面上に液滴を滴下して直接測定することが可能であるが、固体が粒体粒子である場合、そのような接触角の測定は困難であるため、間接的に接触角を測定する方法が採られる。液体と粉体間の接触角θを測定する方法については、吉永らによって詳細な測定方法(浸透速度法)が示されている(水曜会誌,18(1977)p561)。
すなわち、図2に示される試験装置において、試料管2の下端を濾紙4によって塞ぎ、この中に微粉砕した粒体試料3を装入した後、温度調節器6によって一定温度に保温された液体試料7(水)の中に静かに浸漬させる。この際の液面高さの上昇速度は以下の式で示される。
【0013】
【数2】

t:浸透時間
h:液面高さ
r:毛管半径
g:重力加速度
γ:液体の表面張力
η:液体の粘度
θ:粉体−液滴の接触角
【0014】
そして、観測される液面高さの逆数(1/h)をX軸、液面の上昇速度(dh/dt)をY軸にとって整理し、グラフの匂配を求めることにより、接触角θを算出することができる。具体的には、まず、酸化鉄原料を微粉砕して53〜105μmの粒度範囲に調整する。次に、この微粉砕試料(粉体試料)3gを図2に示した試験装置の試料管2(内径約6mm)に装入し、粉体試料を十分に圧密するためタッピング操作を200回行う。さらに、試料管2を図2に示すように静かに液面に浸し、液面の上昇速度がほぼ0になるまで一定時間ごとに液面高さを測定し、上記の手法で接触角θを算出する。
なお、粒子の粒径測定方法としては、篩い分けによる粒度測定方法のほか、JIS Z 8825-1に示されるレーザー回折散乱法などを用いることができる。
【0015】
図1は、水とのぬれ性が異なる2種類の酸化鉄原料を水の存在下で造粒した場合に、両酸化鉄原料の水との接触角の差と造粒時の成形歩留まり(10〜40mmに造粒された成形物の質量比)との関係を示したものである。この造粒試験では、表1に示される酸化鉄原料(鉄鉱石A〜E、焼結返鉱)のうち2種類を組み合わせて配合した製鉄用原料を用いて造粒試験を行った。造粒条件としては、2種類の酸化鉄原料(各10kg)を粉砕して粒度を100μm以下に調整したものに、水を0.6kg、二次結合力強化用バインダーであるアルミナセメントを0.6kg添加してミキサーで30分撹拌し、次いで、直径50cmのディスクペレタイザーを用いて30rpmで造粒を行った。
【0016】
図1によれば、2種以上の酸化鉄原料の水との接触角の差が25度以内であれば、優れた成形歩留まりが得られている。このため本発明では、水とのぬれ性が異なる2種以上の酸化鉄原料が配合された製鉄用原料を水の存在下で造粒するに際し、前記2種以上の酸化鉄原料として、水との接触角の差が25度以内であるものを配合し、造粒を行う。これにより、均質で適正な粒度分布の造粒物を得ることができる。
【0017】
本発明の製鉄用原料の造粒方法は、焼結鉱などのような焼成塊成鉱の製造工程、熱処理を伴わない非焼成塊成鉱の製造工程のいずれにも適用することができる。
造粒される製鉄用原料には、バインダーなどの酸化鉄原料以外の原料を配合できることは言うまでもない。一般には、焼結鉱などの焼成塊成鉱用の原料には、酸化鉄原料のほかに、石灰、炭材、珪石、蛇紋岩、ニッケルスラグ、ドロマイトなどが配合される。また、非焼成塊成鉱用の原料には、二次結合力により造粒物強度を強化するために、例えば、セメント、石灰などを配合してもよい。また、炉内高温域で焼結することにより熱間強度を確保するための酸化鉄微粉などを配合してもよい。この酸化鉄微粉としては、例えば、鋼材酸洗ライン回収粉(いわゆるルスナー酸化鉄など)、鉄鋼製造プロセスで生じる精錬ダスト、鉄鉱石微粉などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0018】
造粒方法としては、(1)ディスクペレタイザーを用いたペレタイジング法、ドラムミキサーを用いたドラム造粒法などの回転造粒法、(2)押出成型法、ブリケット成型法、打錠圧縮成型法などの圧縮成型法、などを適用できるが、本発明は回転造粒法による造粒に特に有効である。
造粒後の処理は任意であり、一般に、焼成塊成鉱の場合には、必要に応じて二次造粒などを経た後、焼成(焼結)して焼成塊成鉱とする。また、非焼成塊成鉱の場合には、必要に応じて二次造粒などを経た後、乾燥・養生して非焼成塊成鉱とする。
【実施例】
【0019】
表1に示される酸化鉄原料(鉄鉱石A〜E、焼結返鉱)のうちの2種類を組み合わせて配合した製鉄用原料を用い、造粒試験を行った。表1に示す各酸化鉄原料の水との接触角は、上述した浸透速度法により測定した。
造粒試験では、2種類の酸化鉄原料(各10kg)を破砕して粒度を100μm以下に調整したものに、水を0.6kg、二次結合力強化用バインダーであるアルミナセメントを0.6kg添加してミキサーで30分間攪拌し、次いで、直径50cmのディスクペレタイザーを用いて30rpmの造粒条件で造粒し、造粒物を得た。
【0020】
各造粒物の造粒性および強度を下記の方法で測定・評価した。その結果を表2に示す。なお、表2中のN/Pは造粒物一個を破壊する際に必要とされる力の大きさを示す。
造粒性の評価については、得られた造粒物の粒度分布を測定し、目標粒度である10〜40mmの粒度範囲の造粒物の質量割合を成形歩留まりとして求め、その質量割合が70mass%以上の場合を“○”、70mass%未満の場合を“×”と評価した。
また、造粒物の強度については、造粒物を24時間乾燥・養生した後、粒径25mmの造粒物20個を選択し、オートグラフ試験機により約1mm/minの速度で圧潰強度を測定し、造粒物20個の最小強度、最大強度、平均強度を求めた。
【0021】
[発明例1]
酸化鉄原料として、焼結返鉱(水との接触角74度)と鉄鉱石C(水との接触角68度)を用いた。両酸化鉄原料の水との接触角の差は6度である。
この発明例では、造粒物の粒度範囲は狭く、目標とする粒径10〜40mmの造粒物が多い粒度の揃った造粒物が得られた。また、造粒物の養生後の圧潰強度は最小・最大強度の差が小さく、ほぼ均一な組成の造粒物が得られたと考えられる。
【0022】
[発明例2]
酸化鉄原料として、焼結返鉱(水との接触角74度)と鉄鉱石A(水との接触角52度)を用いた。両酸化鉄原料の水との接触角の差は22度である。
この発明例では、造粒物の粒度範囲は狭く、目標とする粒径10〜40mmの造粒物が多い粒度の揃った造粒物が得られた。また、造粒物の養生後の圧潰強度は最小・最大強度の差が小さく、ほぼ均一な組成の造粒物が得られたと考えられる。
【0023】
[発明例3]
酸化鉄原料として、鉄鉱石D(水との接触角55度)と鉄鉱石A(水との接触角52度)を用いた。両酸化鉄原料の水との接触角の差は3度である。
この発明例では、造粒物の粒度範囲は狭く、目標とする粒径10〜40mmの造粒物が多い粒度の揃った造粒物が得られた。また、造粒物の養生後の圧潰強度は最小・最大強度の差が小さく、ほぼ均一な組成の造粒物が得られたと考えられる。
【0024】
[発明例4]
酸化鉄原料として、鉄鉱石D(水との接触角55度)と鉄鉱石E(水との接触角30度)を用いた。両酸化鉄原料の水との接触角の差は25度である。
この発明例では、造粒物の粒度範囲は狭く、目標とする粒径10〜40mmの造粒物が多い粒度の揃った造粒物が得られた。また、造粒物の養生後の圧潰強度は最小・最大強度の差が小さく、ほぼ均一な組成の造粒物が得られたと考えられる。
【0025】
[比較例1]
酸化鉄原料として、焼結返鉱(水との接触角74度)と鉄鉱石B(水との接触角37度)を用いた。両酸化鉄原料の水との接触角の差は37度である。
この比較例では、造粒物の粒度分布は、殆んど造粒されていない小径のものと、造粒が進んだ大径のものに2分され、目標とする粒径10〜40mmの造粒物は少量しか得られなかった。また、造粒物の養生後の圧潰強度は、粒子によって強度に大幅なばらつきが見られることから、造粒物の組成が偏っているものと考えられる。
【0026】
[比較例2]
酸化鉄原料として、鉄鉱石B(水との接触角37度)と鉄鉱石C(水との接触角68度を用いた。両酸化鉄原料の水との接触角の差は31度である。
この比較例では、造粒物の粒度分布は、殆んど造粒されていない小径のものと、造粒が進んだ大径のものに2分され、目標とする粒径10〜40mmの造粒物は少量しか得られなかった。また、造粒物の養生後の圧潰強度は、粒子によって強度に大幅なばらつきが見られることから、造粒物の組成が偏っているものと考えられる。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】水とのぬれ性が異なる2種類の酸化鉄原料を水の存在下で造粒した場合において、2種類の酸化鉄原料の水との接触角の差と成形歩留まりとの関係を示すグラフ
【図2】粉体と液体の接触角θを測定する試験装置を示す説明図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とのぬれ性が異なる2種以上の酸化鉄原料が配合された製鉄用原料を水の存在下で造粒するに際し、前記2種以上の酸化鉄原料として、水との接触角の差が25度以内であるものを配合することを特徴とする製鉄用原料の造粒方法。
【請求項2】
酸化鉄原料が細粒焼結鉱又は/及び細粒鉄鉱石であることを特徴とする請求項1に記載の製鉄用原料の造粒方法。

【図1】
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【図2】
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