説明

製鋼スラグから回収した鉄源の利用方法

【課題】製鋼スラグ中の小径粒鉄を鉄源として安定して効率的に利用する方法を提供する。
【解決手段】製鋼スラグを破砕し磁力選別して得た小径粒鉄を、溶銑予備処理後の取鍋内または混銑車内の溶銑の表面スラグ上に上置きするように散布し、表面スラグと結合し取り込ませた後に、溶銑と共に転炉または電気炉に装入し、脱炭精錬を行うことを特徴とする製鋼スラグから回収した鉄源の利用方法である。前記小径粒鉄は、径が10mm以下であると好ましい。小径粒鉄が10質量%以下の水分を含有してもかまわない。これにより、回収した粒鉄を飛散することなく溶鉄に添加でき、脱炭精錬で鉄分が溶鋼中に回収され、その後の精錬の負荷にも悪影響を与えることなく、効率的に鉄源を利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程で発生するスラグに含有する小径粒鉄を回収して鉄源として利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程では、溶銑予備処理、転炉や電気炉での1次精錬、RHやLFでの2次精錬によりスラグ(以下、製鋼スラグという。)が発生する。この製鋼スラグには、Si、P、SやAl等の酸化物などの不純物の他に鉄分が不可避的に含有している。この鉄分を回収して再資源化することが行われている。
【0003】
特許文献1には、製鋼スラグを磨鉱しスラグ中に含まれる粒鉄を回収し、冷却材として利用する方法が提案されている。この方法の具体例として、転炉取鍋内またはRH内の溶鋼に径が3〜80mmの粒鉄を添加するものであり、添加目的が冷却材として使用するものであるから、転炉取鍋内溶鋼への添加の際には、表面スラグを突き破って溶鋼内に入るように添加しなければならないとしているものである。
【0004】
また、特許文献2には、製鋼スラグの鉄分回収方法およびスラグのリサイクル方法および装置が提案されている。しかし、該特許文献2には、小径粒鉄を対象とした具体的なリサイクル方法が開示されていない。
【0005】
【特許文献1】特公平3−56287号公報
【特許文献2】特開平6−281363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1で開示された技術により、粒鉄を溶鋼に添加すると、粒鉄に付着している上記不純物も同時に溶鋼に添加されることになり、その後、不純物を鉄分から分離、除去する処理が必要となり、精錬負荷が高まり、好ましくない。
【0007】
さらに、小径粒鉄は、径が数mmのものが主体であるため、高い溶鋼温度による激しい上昇気流により、溶鋼に添加する際、飛散するという問題がある。また、小径粒鉄は、径が小さいがために比表面積が大きいことから、C濃度が高い溶銑に直接添加した場合、激しく反応し易く、安定した操業が得られないという問題がある。
【0008】
かかる状況を鑑み、本発明は、製鋼スラグ中の小径粒鉄を安定して効率的に鉄源として利用する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、小径粒鉄を、溶銑予備処理後であって脱炭精錬前の取鍋内または混銑車内の溶銑の表面スラグ上に上置きするように散布することにより、飛散することなく添加でき、脱炭精錬で鉄分が溶鋼中に回収され、その後の精錬の負荷にも悪影響を与えることなく、効率的に鉄源を利用できることを知見し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)製鋼スラグを破砕し磁力選別して得た小径粒鉄を、溶銑予備処理後の取鍋内または混銑車内の溶銑の表面スラグ上に上置きするように散布し、表面スラグと結合し取り込ませた後に、溶銑と共に転炉または電気炉に装入し、脱炭精錬を行うことを特徴とする製鋼スラグから回収した鉄源の利用方法。
(2)前記小径粒鉄が、径が10mm以下であることを特徴とする上記(1)記載の製鋼スラグから回収した鉄源の利用方法。
(3)前記小径粒鉄が、10質量%以下の水分を含有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の製鋼スラグから回収した鉄源の利用方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、小径粒鉄を、溶銑予備処理後であって脱炭精錬前の取鍋内または混銑車内の溶銑の表面スラグ上に上置きするように散布することにより、粒鉄が飛散することなく添加でき、添加時のスラグフォーミングも発生せず、脱炭精錬で鉄分が溶鋼中に回収され、その後の精錬の負荷にも悪影響を与えることなく、効率的に鉄源を利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、製鋼スラグを破砕し磁力選別して得た小径粒鉄を、溶銑予備処理後の取鍋内、または溶銑予備処理後の混銑車内の、溶銑の表面スラグ上に上置きするように散布するものである。
【0013】
脱硫、脱珪、及び脱燐の内の何れか1つ以上の溶銑予備処理後の溶銑温度は、1350℃程度であり、脱炭精錬後の溶鋼温度の1650℃程度に比べて低温であるため、溶銑表面からの上昇気流がそれ程激しくなく、また、溶銑予備処理後では、脱炭精錬中あるいは溶銑予備処理中と異なり、酸素等のガス吹込みが停止しているから、小径粒鉄であっても、飛散することがない。
【0014】
溶銑予備処理後の溶銑の表面スラグは、温度が1350℃程度の低温であり、組成上SiO2成分が高いために粘性が高いあるいは未溶融CaOが多いためスラグ固相率が高いため、上方から小径粒鉄を散布した場合、小径粒鉄は、このスラグ中に捕捉される。
【0015】
粒鉄が、スラグを突き破り溶銑中に達したり、或いは、溶銑中に巻き込まれてしまうと、粒鉄に付着しているFeOと溶銑中の高Cとが反応し、COガスが発生し、スラグがフォーミングして好ましくない。溶銑予備処理前では、取鍋内或いは混銑車内の溶銑の表面にスラグがほとんど存在せず、存在しても低粘度かつスラグ固相率が低いため、散布した小径粒鉄が直接溶銑中に達してしまう。また、溶銑予備処理中では、予備処理炉内で溶銑とスラグが攪拌状態にあるため、散布した小径粒鉄が溶銑中に巻き込まれてしまう。粒鉄が溶銑中に直接達しあるいは巻き込まれてしまわないためにも、スラグが存在しかつスラグが静止状態にある溶銑予備処理後とする必要がある。
【0016】
スラグ中に捕捉された小径粒鉄は、小径粒鉄に付着している複合酸化物融点が1200℃程度でありスラグの熱により溶融することで、スラグと容易に結合し取り込まれた後は安定した状態になる。このような状態にすることにより、溶銑と共に、転炉または電気炉に装入する際、小径粒鉄が飛散することなく安定して装入できると共に、次いで脱炭精錬を行うことにより、小径粒鉄中の鉄分が溶鋼中に回収され、粒鉄に付着していた酸化物等の不純物は浮上、分離され、以後の精錬の負荷に影響を及ぼすことがない。
【0017】
小径粒鉄を溶銑表面上のスラグ中に効果的に捕捉させてスラグと結合させ取り込ませるためには、該小径粒鉄の径を10mm以下にするのが好ましい。径が10mmを超えると、粒鉄がスラグを突き破って溶銑中に進入するため、効率的にスラグに結合し取り込まれない。磁力選別した後に回収鉄源を分級することにより、10mm以下の小径粒鉄とすることができる。分級した大径鉄分については、鋼屑と一緒に精錬炉に装入して鉄源とすることができる。
【0018】
小径粒鉄の散布は、高所からの落下投入は好ましくない。低い位置から、或いは、落下途中に陣笠状障害物を設けるなどして、スラグへの着地速度を低減させることが好ましい。
【0019】
本発明は、小径粒鉄をスラグ中に捕捉させ、スラグの熱によりスラグに結合させ取り込ませるものであるから、小径粒鉄には10質量%以下の水分が含まれていても良い。10質量%を超える水分が含まれていると、水蒸気爆発等の異常反応が発生し好ましくない。含有水分が10%以下であれば、含有水分ゼロであっても構わない。
【0020】
本発明は、水分が含まれている小径粒鉄の添加を許容することにより、露天で保管されていた製鋼スラグを乾燥させずに使用することができる。
【実施例】
【0021】
溶銑に脱珪、及び脱燐処理を施して発生したスラグを破砕し、磁力選別し、分級して、径が0.5〜7mmの小径粒鉄を準備した。この小径粒鉄は露天で保管してあったため、8〜9質量%の水分を含有していた。
【0022】
転炉に高炉からの溶銑293トンと鋼屑21トンの合計314トンを装入し、常法により脱珪、及び脱燐の予備処理を施し、該予備処理した溶銑(溶解した鋼屑含む)を取鍋に排出した。取鍋に排出した溶銑上には、不可避的にスラグが存在していた。このスラグの上方2mの位置に設置したホッパーから上記小径粒鉄1トンを自然落下させた。この際、落下中間位置に陣笠状障害物を配設して、自然落下した小径粒鉄を陣笠状障害物の斜面で受けた後、斜面をすべり落ちるようにして落下速度を減速し、少量づつスラグ面に均一に散布した。散布時には、小径粒鉄は飛散することがなく、スラグのフォーミングや水蒸気爆発も見られなかった。この場合、小径粒鉄は、スラグ中に止まり、溶銑中には進入しなかったものと推定される。
【0023】
その後、約20分経過させて、散布した小径粒鉄をスラグに結合させ取り込ませた後、溶銑と共に他の転炉に装入し、脱炭精錬を行った。
【0024】
脱炭精錬後、285トンの溶鋼を得た。このときの溶鋼歩留(溶鋼重量/(高炉からの溶銑重量+鋼屑重量))は、90.7%であり、小径粒鉄を投入しなかった場合に比べて0.2%の向上が見られ、小径粒鉄から鉄分を回収できたことを確認した。
【0025】
比較例として、径が15〜20mmであり、13〜15質量%の水分を含有する粒鉄2トンをスラグ面上4mの上方からスラグ面の局所に一気に落下投入した。このとき、水蒸気爆発が発生すると共に、スラグのフォーミングが発生した。この場合では、粒鉄は、溶銑中に進入したものと推定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグを破砕し磁力選別して得た小径粒鉄を、溶銑予備処理後の取鍋内または混銑車内の溶銑の表面スラグ上に上置きするように散布し、表面スラグと結合し取り込ませた後に、溶銑と共に転炉または電気炉に装入し、脱炭精錬を行うことを特徴とする製鋼スラグから回収した鉄源の利用方法。
【請求項2】
前記小径粒鉄は、径が10mm以下であることを特徴とする請求項1記載の製鋼スラグから回収した鉄源の利用方法。
【請求項3】
前記小径粒鉄が、10質量%以下の水分を含有することを特徴とする請求項1または2記載の製鋼スラグから回収した鉄源の利用方法。

【公開番号】特開2009−144179(P2009−144179A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319779(P2007−319779)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】