説明

複合シートおよびその製造方法

【課題】使い捨て着用物品の肌当接面を形成するための通気性のよい複合シート。
【解決手段】着用物品の肌当接面を形成する複合シート1が互いに重なり合う液透過性の第1シート2と液透過性の第2シート3とによって形成される。第2シート3は、熱可塑性合成繊維の集合体であって第1シート2の下面7から上面6へ向かう方向に高さ方向を有する複数の隆起部21を有し、隣り合う隆起部21どうしの間に第1シート2との接合部位13を有する。隆起部21には、薄肉部位16が凹となり、薄肉部位16どうしの間が凸となる上面側起伏20aが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、使い捨てのおむつや生理用ナプキン等の使い捨ての着用物品に対して使用するのに好適な複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体液吸収性着用物品の表面シートとして、その表面シートの肌当接面側に複数の隆起部が形成されたものは公知である。例えば、特開平7−328060号公報(特許文献1)に開示された体液吸収性物品では、表面シートと吸液性コアとの間に導液用繊維層が介在し、表面シートと導液用繊維層とが間欠的に形成された熱融着部位において一体化している。表面シートと導液用繊維層とは熱融着部位で厚さが局部的に薄くなり、融着部位どうしの間には隆起部が形成されている。
【0003】
また、特許第3587831号公報(特許文献2)に開示された表面シートは、互いに重なり合う第1繊維層と第2繊維層とからなるもので、これら両繊維層が、間欠的に形成された熱融着部位で一体化しており、熱融着部位以外の部位には隆起部が形成されている。
【特許文献1】特開平7−328060号公報
【特許文献2】特許第3587831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている表面シートや特許文献2に開示されている表面シートを使用した着用物品では、それを着用したときに、これら表面シートにおける隆起部の頂部が着用者の肌に接触する一方、隆起部と隆起部との間の谷間の部分が肌に接触し難いので、その谷間の部分が肌と着用物品との間における通気性を向上させ、肌の蒸れを防ぐことができる。しかし、その隆起部に体圧が作用すると、隆起部の頂部が潰れて肌と着用物品との接触面積が増す一方、谷間は幅が狭くなったり深さが浅くなったりして、蒸れを防ぐ効果が低下し易くなる。
【0005】
この発明では、複数の隆起部が形成されたシートを使用して使い捨ての着用物品の肌当接面を形成した場合に、その肌当接面に体圧が作用しても、隆起部の存在によって得られる肌と着用物品との間の通気性が著しく低下することがないように、そのシートに改良を施すことを課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのこの発明は、複合シートに係る第1発明と、その複合シートの製造方法に係る第2、第3発明とからなる。
【0007】
前記第1発明が対象とするのは、互いに重なり合う液透過性の第1シートと液透過性の第2シートとからなり、前記第1シートが、第1上面とその反対面である第1下面とを有していてほぼ平坦に形成されたものであり、前記第2シートが、熱可塑性合成繊維の集合体であって第2上面とその反対面である第2下面とを有していて前記第2下面が前記第1上面に複数の部位で接合されたものであり、前記第2シートには、前記第1下面から前記第1上面へ向かう方向に高さ方向を有する複数の隆起部が形成されている複合シートである。
【0008】
かかる複合シートにおいて、この発明が特徴とするところは、次のとおりである。前記第1シートと前記第2シートとは、互いに隣り合う前記隆起部どうしの間に形成される前記複数の部位で接合されている。前記第2シートは、前記隆起部に複数の局部的な薄肉部位を有していて、前記隆起部における前記第2上面には、前記薄肉部位が凹となり前記薄肉部位どうしの間が前記第2上面の上方に向かって凸となることによって上面側起伏が形成されている。
【0009】
かかる第1発明の実施形態の一つにおいて、前記隆起部における前記第2下面には、前記薄肉部位が凹となり前記薄肉部位どうしの間が前記第2下面の下方に向かって凸となることによって下面側起伏が形成されている。
【0010】
かかる第1発明の好ましい実施形態の他の一つにおいて、前記第2シートが、前記第2上面を形成する第1繊維層と、前記第2下面を形成する第2繊維層との積層体であって、前記第2繊維層は前記第1繊維層の親水度よりも高い親水度を有している。
【0011】
第1発明の好ましい実施形態の他の一つにおいて、前記第2シートが、前記第2上面を形成する第1繊維層と、前記第2下面を形成する第2繊維層との積層体であって、前記第2繊維層は前記第1繊維層の繊維間隙よりも小さな繊維間隙を有している。
【0012】
第1発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記第1シートが熱可塑性合成繊維の集合体および熱可塑性合成樹脂フィルムのいずれかである。
【0013】
前記第2発明は、前記第1発明に係る複合シートの製造方法を対象とし、その製造方法に次の工程が含まれることを特徴にしている。即ち、
a.互いに直交する縦方向と横方向と厚さ方向とを有しており熱可塑性合成繊維の集合体である液透過性のシートを前記縦方向と前記横方向とのうちの少なくとも一方向で所要寸法離間している複数の局部的な部位において前記集合体を前記厚さ方向へ圧縮して複数の薄肉部位を形成するとともに前記薄肉部位どうしの間に厚肉部位を形成することにより、前記シートの少なくとも片面に前記薄肉部位と前記厚肉部位とからなる起伏を有する起伏シートを得る工程。
複数の凹凸からなる起伏が形成された起伏シートを得る工程。
b.前記起伏シートを熱捲縮性の熱可塑性合成繊維の集合体であって液透過性を有する収縮性シートに重ね合わせ、前記一方向において前記離間寸法よりも大きな離間寸法を有する複数の接合部位において前記起伏シートと前記収縮性シートとを加熱溶着および接着のいずれかによって接合してこれらシートの複合体を形成する工程。
c.前記複合体を加熱することによって前記収縮性シートの前記熱可塑性合成繊維を捲縮させて前記収縮性シートを収縮させ、前記複合シートを得る工程。
【0014】
第2発明の好ましい実施態様の一つにおいて、前記起伏シートが熱捲縮性繊維を含むものであり、前記起伏シートを加熱してそれが含む前記熱捲縮性繊維を捲縮させた後に前記収縮性シートに重ね合わせる。
【0015】
第2発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記起伏シートが熱捲縮性繊維を含むものであり、前記複合体を加熱して前記収縮性シートを収縮させるとともに前記熱捲縮性繊維を捲縮させる。
【0016】
前記第3発明は、前記第1発明に係る複合シートの製造方法を対象とし、その製造方法に次の工程が含まれることを特徴にしている。即ち、
a.互いに直交する縦方向と横方向と厚さ方向とを有しており熱可塑性合成繊維の集合体である液透過性のシートを、前記縦方向と前記横方向とのうちの少なくとも一方向で所要寸法離間している複数の局部的な部位において前記集合体を前記厚さ方向へ圧縮して複数の薄肉部位を形成するとともに前記薄肉部位どうしの間に厚肉部位を形成することにより、前記シートの少なくとも片面に前記薄肉部位と前記厚肉部位とからなる起伏を有する起伏シートを得る工程。
b.弾性的に伸長可能であって液透過性を有する弾性シートを少なくとも前記一方向に伸長する工程。
c.前記起伏シートを伸長した前記弾性シートに重ね合わせ、前記一方向において前記離間寸法よりも大きな離間寸法を有する複数の接合部位で前記起伏シートと前記弾性シートとを加熱溶着および接着のいずれかによって接合してこれらシートの複合体を形成する工程。
d.前記複合体において前記弾性シートを収縮させて前記複合シートを得る工程。
【0017】
第3発明の好ましい実施態様において、前記起伏シートが熱捲縮性繊維を含むものであり、前記起伏シートを加熱してそれが含む前記熱捲縮性繊維を捲縮させた後に、前記弾性シートに重ね合わせる。
【発明の効果】
【0018】
第1発明に係る複合シートは、第2シートに隆起部が形成されていることに加えて、その隆起部には上面側起伏が形成されているから、この複合シートを着用物品に使用して第2シートの第2上面が肌に当接するようにすると、肌は隆起部における上面側起伏に接触しても、起伏のうちの凹の部分や隣り合う隆起部どうしの間の谷間の部分には接触することがないときには、これら凹の部分や谷間の部分が複合シートと肌との間に汗の蒸散を容易にする大きな空間を作り、肌の蒸れを防ぐ効果を奏する。隆起部に体圧が作用して隆起部と肌とが密着するような場合でも、隆起部に形成されている凹の部分とその近傍は、肌に接触し難くて、肌との間の大きな空間を維持することに役立つ。
【0019】
第2シートの第2下面に下面側起伏が形成されている形態の第1発明では、第2シートに体圧が作用して第2下面における起伏のうちの凸の部分が第1シートの第1上面に接触しても、第2シートの下面における起伏のうちの凹の部分が第1上面との間に空隙を形成することが可能になる。その空隙は、第2シートから第1シートへ移行した体液が第1シートから第2シートに向かって逆流することを防ぐように作用するとともに複合シート内部の通気性を向上させる。
【0020】
第2シートが、第2上面を形成する第1繊維層と第2下面を形成する第2繊維層との積層体であって、第2繊維層の親水度が第1繊維層の親水度よりも高い形態の第1発明では、第2上面から第2下面へ向かっての体液の移行を促進することが可能になる。
【0021】
第2シートが、第2上面を形成する第1繊維層と第2下面を形成する第2繊維層との積層体であって、第2繊維層の繊維間隙が第1繊維層の繊維間隙よりも小さい形態の第1発明では、第1、第2繊維層における繊維の親水度が同じであっても第2上面から第2下面へ向かっての体液の移行を促進することが可能になる。
【0022】
第2発明に係る複合シートの製造方法によれば、起伏シートと収縮性シートとの複合体を加熱すると、この複合体を形成している収縮性シートが収縮して、その収縮性シートに接合している起伏シートが収縮性シートとの接合部位を基点にして立ち上がる隆起部を形成し、第1発明に係る複合シートが得られる。起伏シートには薄肉部と厚肉部とからなる起伏が予め形成されているから、隆起部はその起伏を含んだものになる。
【0023】
第2発明において、起伏シートが熱捲縮性繊維を含むものである場合には、その起伏シートを熱捲縮性シートに接合する工程よりも前の工程で加熱して捲縮させておくと、そのように捲縮させておかない場合に比べて、得られる複合シートにおける起伏シートの起伏の差を大きくすることができる場合がある。
【0024】
この第2発明において起伏シートが熱捲縮性繊維を含むものであって、その繊維を捲縮させたときに観察される起伏シートの寸法収縮量が収縮性シートを加熱したときに観察される寸法収縮量よりも小さい場合には、第1複合シートを加熱するときに、起伏シートと収縮性シートとを同時に収縮させて第1発明に係る複合シートを得ることができる。
【0025】
第3発明に係る複合シートの製造方法によれば、第2発明において使用する収縮性シートに代えて、弾性的に伸長可能な弾性シートを使用して第1発明に係る複合シートを得ることができる。
【0026】
この第3発明においても、第2発明の場合と同様に、起伏シートとして熱捲縮性繊維を含むものを使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
添付の図面を参照してこの発明に係る複合シートおよびその製造方法の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0028】
図1,2は、複合シート1の斜視図と同図におけるII−II線切断面を示す図である。複合シート1は、生理用ナプキンや使い捨てのおむつ、使い捨てのトレーニングパンツ、使い捨ての医療用ガウン等の使い捨ての着用物品における肌当接面を形成するシートとして使用するのに好適なものであり、特に使い捨てのおむつや生理用ナプキン等の使い捨ての体液吸収性着用物品における体液吸収性コアを被覆すると同時に肌当接面を形成する体液透過性の表面シートとして使用するのに好適なものである。
【0029】
複合シート1は、上面6と下面7とを有する下層シート2と、上面8と下面9とを有する上層シート3とで形成されている。下層シート2は、熱捲縮した熱可塑性合成繊維11の集合体であって、ほぼ平坦に形成されている。上層シート3もまた熱可塑性合成繊維12の集合体であって、下層シート2に対して加熱溶着または接着により複数の接合部位13において接合するが、図示例では両シート2,3が接合部位13において加熱圧縮下に溶着して薄膜化した状態にある。上層シート3はまた、接合部位13以外の部位において上下面8,9間の繊維12どうしを圧縮下に加熱溶着して薄膜化せしめた複数の薄肉部位16を有する。ただし、この薄肉部位16は、接着剤を使用して繊維12どうしを圧縮下に接着して薄膜化したものに代えることもできる。図1において、複合シート1は、互いに直交する縦方向Aと、横方向Bと、厚さ方向Cとを有し、接合部位13が縦方向Aと横方向Bとに間欠的に形成されている。隣り合う接合部位13どうしの間では、上層シート3が下層シート2の下面7から上面6へ向かう方向である複合シート1の厚さ方向Cを高さ方向とするように立ち上がる複数の隆起部21が形成されている。隆起部21のそれぞれに形成された薄肉部位16においては上層シート3の厚さが局部的に薄くなる一方、薄肉部位16の周囲では上層シート3が直接的には圧縮されておらず厚肉部位17が形成されている。これら薄肉部位16と厚肉部位17とによって、上層シート3の上面8と下面9とには、上面側起伏20aと下面側起伏20bとが形成されている。上面側起伏20aは、薄肉部位16と厚肉部位17とによって形成される複数の凸部22と複数の凹部23とを含んでおり、下面側起伏20bは、薄肉部位16と厚肉部位17とによって形成される複数の凸部26と複数の凹部27とを含んでいる。なお、図1,2において、凸部22は上面8のうちで図の上方に向かって突出する部位を意味しており、凸部26は下面9のうちで図の下方に向かって突出する部位を意味している。また、凹部23,27には薄肉部位16が含まれており、凸部22には厚肉部位17が含まれている。上層シート3の下面9は、接合部位13の近傍において下層シート2の上面6に接触しているが、接合部位13と13との中間において下層シート2の上面6から離間しており、これらの下面9と上面6との間に空隙28が形成されている。ただし、上層シート3は、図示例と異なり、接合部位13と13との中間において凸部26の一部分が上面6と接触することもある。
【0030】
かような複合シート1における下層シート2の熱可塑性合成繊維11には、熱捲縮した複合繊維であって親水性のものを使用することができる。例えば、ポリプロピレンとそれよりも軟化温度が低くなるように変性されたポリプロピレンとのサイドバイサイド型複合繊維やポリエチレンテレフタレートとそれよりも軟化温度が低くなるように変性されたポリエチレンテレフタレートとのサイドバイサイド型複合繊維、ポリプロピレンとポリエチレンとのシースアンドコア型偏芯複合繊維等の複合繊維を親水化処理し、捲縮させたものを使用することができる。これらの複合繊維には、パルプ繊維やレーヨン繊維等の親水性繊維を混合することもできる。これらの熱可塑性合成繊維11は、好ましくは、繊度が0.1〜11.1dtexの範囲にあり、坪量が5〜60g/mの範囲にあり、接合部位13を除くその他の部位の密度が0.01〜0.15g/cmの範囲にある。
【0031】
複合シート1における上層シート3の熱可塑性合成繊維12は、親水性のものであることが好ましいが、60重量%を限度として疎水性のものを混合することができる。例えば、繊維12には、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等からなる繊維の他に、ポリプロピレンとそれよりも軟化温度が低くなるように変性されたポリプロピレンとのシースアンドコア型偏芯複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維等の複合繊維を熱捲縮させて得られる繊維を疎水性繊維として使用することもできれば、親水化処理して親水性繊維として使用することもできる。また、これらの繊維にパルプ繊維やレーヨン繊維等の親水性繊維を混合することもできる。上層シート3の熱可塑性合成繊維12は、好ましくは、繊度が0.1〜11.1dtexの範囲にあり、坪量が5〜80g/mの範囲にあり、厚肉部位17においての密度が0.05〜0.1g/cmの範囲にあって、その密度が下層シート2における前記密度よりも低く、両密度の差が0.01g/cmよりも大きい。
【0032】
下層シート2と上層シート3との接合部位13は、その直径の値に特別の規定はないが、例えば1.5mm程度にすることができる。上層シート3における薄肉部位16の直径の値にも特別の規定はないが、例えばその値を0.7mm程度にすることができる。接合部位13どうしの直線的な離間寸法Pは4〜30mmであり、薄肉部位16どうしの直線的な離間寸法Qは1〜10mmであって、寸法Pと寸法Qとの差は3〜25mm程度であることが好ましい。また、図2に示されている隆起部21において、下層シート2の上面6からの高さMは、0.7〜10mm程度であり、上面側起伏20aにおいて隣り合う凸部22の頂点部分どうしをつなぐ線25から薄肉部位16までの距離Nは0.5〜5mm程度であることが好ましい。
【0033】
このように形成される複合シート1は、それを使い捨てのおむつや生理用ナプキン等の着用物品における透液性表面シートとして使用する場合に、下層シート2をその着用物品の体液吸収性コアに接触させ、上層シート3を着用物品の着用者の肌に接触させる。そのときの上層シート3では、上面側起伏20aの凸部22が肌に接触しても、凹部23とその近傍が肌との間に空隙を作り、さらには隣り合う隆起部21どうしの間の谷間の部分10も肌との間に空隙を作るので、複合シート1と肌とが広い範囲にわたって密着した場合に生じる蒸れを防ぐことができる。上層シート3ではまた、隆起部21が体圧の作用でその高さMが低くなるように変化して、下面側起伏20bにおける凸部26が下層シート2に密着しても、下面側起伏20bにおける凹部27は下層シート2との間に空隙28を残すことが可能である。かような体圧の作用下にある複合シート1では、上層シート3の上に排泄された体液が、上層シート3から上層シート3と下層シート2とが接触する部位を通り下層シート2へ移行し、さらに下層シート2が接触するコア(図示せず)に吸収される。また、凹部27の近傍に残された空隙28は、複合シート1の内部における通気路として作用し、複合シート1が肌に密着したときに生じ易い肌の蒸れを軽減することに役立つ。複合シート1が体圧から解放されたときには、熱可塑性合成繊維12を含む上層シート3の隆起部21の高さMが図2の状態に弾性的に復元し、空隙28を大きく広げることができる。その状態にある複合シート1では、図2の如く上層シート3が下層シート2から離間することによって、コアに吸収された体液が肌にまで逆流することを防ぐことができる。
【0034】
このような作用・効果を発揮することが可能な複合シート1は、下層シート2が上層シート3よりも高い親水性を有するように形成されていることが好ましい。例えば、下層シート2では熱可塑性合成繊維11として上層シート3の熱可塑性合成繊維12よりも親水度の高いものを使用したり、繊維11と繊維12とが同じものである場合には、下層シート2の密度を上層シート3の密度よりも高くして下層シート2における繊維間隙が上層シート3における繊維間隙よりも小さくなるようにしたりすることが好ましい。また、上層シート3における隆起部21は、10g/cm程度の体圧が作用したときに下面側起伏20bにおける凸部26が下層シート2に接触し得ることが好ましく、また体圧の作用から解放されたときの隆起部21の弾性的な復元を確実なものにするために、熱可塑性合成繊維12には捲縮したものを使用することが好ましい。
【0035】
図3は、複合シート1の製造工程の一例を示す図である。図の工程(1)では、熱可塑性合成繊維、より好ましくは捲縮した熱可塑性合成繊維を含む第1上層用ウエブ103aを上下一対からなる熱エンボス用第1金型61,62の間に供給し、第1金型61,62それぞれの加熱されたエンボス用突起61a,62aによって第1上層用ウエブ103aを局部的に圧縮して機械方向MDとこれに直交する交差方向CD(図4参照)とに複数の薄肉部位116(工程(2)参照)を間欠的に形成する。薄肉部位116では熱可塑性合成繊維どうしが溶着し、薄膜化している。工程(2)では、第1金型61,62から第1上層用ウエブ103aを取り出して、上面側起伏120aと下面側起伏120bとを有する起伏シートとしての第2上層用ウエブ103bを得る。工程(3)では、熱捲縮性の熱可塑性合成繊維からなる収縮性シートしての下層用ウエブ102と第2上層用ウエブ103bとを重ねて上下一対からなる熱エンボス用第2金型63,64の間に供給し、加熱されている金型64のエンボス用突起64aによって、これら両ウエブ102,103bの機械方向MDと交差方向CD(図4参照)とに複数の溶着による接合部位113(工程(4)参照)を間欠的に形成して、両ウエブ102,103bを一体化する。工程(4)では、一体化したウエブ102,103bを第2金型63,64から取り出してこれらウエブ102,103の複合体である第1複合ウエブ101aを得る。工程(5)では、第1複合ウエブ101aを加熱して、第1複合ウエブ101aを形成している下層用ウエブ102を捲縮させて第2複合ウエブ101bを得る。第2複合ウエブ101bは、図1,2の複合ウエブ1と同じものであって、第2複合ウエブ101bにおける下層用ウエブ102は下層シート2に相当し、第2上層用ウエブ103bは上層シート3に相当する。また、工程(5)に示された薄肉部位116、上面側起伏120a、下面側起伏120bのそれぞれは、図1,2に示された薄肉部位16、上面側起伏20a、下面側起伏20bのそれぞれに相当する。
【0036】
図4は、図3の工程(4)における第1複合シート101aの平面図であるが、第2上層用ウエブ103bは、一部分が破断した状態で示されている。第1複合シート101aは、下層用ウエブ102と第2上層用ウエブ103bとが重なり合ったもので、第2上層用ウエブ103bには、それを間欠的に圧縮することによって形成した複数の薄肉部位116が機械方向MDと交差方向CDとのそれぞれにS,Sの間隔で現れている。また、下層用ウエブ102と第2上層用ウエブ103bとには、複数の接合部位113が機械方向MDと交差方向CDとのそれぞれにT,Tの間隔で形成されている。接合部位113は、薄肉部位116のうちの一部のものと重なり合っている。薄肉部位116では、第2上層用ウエブ103bが圧縮された繊維どうしが溶着している。
【0037】
図3,4の態様に従って得られた複合シート1の具体例には、次のものがある。即ち、第1上層用ウエブ103aとしては、ポリエチレンテレフタレートをコアとしポリエチレンをシースとする繊度が2.6dtex、長さが51mmの親水化処理した中空のシースアンドコア型複合繊維と、ポリエチレンテレフタレートをコアとしてポリエチレンをシースとする繊度が2.2dtex、長さが51mmの撥水性のシースアンドコア型複合繊維とを50:50の重量比で混合したものを原料とした。この原料からは、坪量30g/mのカードウエブを作り、このウエブを131℃で熱処理して複合繊維どうしを溶着させて第1上層用ウエブ103aを得た。この第1上層用ウエブ103aを直径0.7mmエンボス用突起61a,62aが機械方向MDと交差方向CDとに3mmの中心間隔S,Sで並ぶ第1金型61,62に供給して120℃の温度下で圧縮し、厚さ約0.1mmの薄肉部位116を有する第2上層用ウエブ103bを得た。一方、下層用ウエブ102としては、ポリプロピレンとこのポリプロピレンよりも軟化温度が低くなるように変性させたポリプロピレンとからなる繊度が2.2dtex、長さが51mmの親水化処理したサイドバイサイド型複合繊維の坪量20g/mを有するカードウエブを使用した。下層用ウエブ102と第2上層用ウエブ103bとを直径1.5mmのエンボス用突起64aが機械方向MDと交差方向CDとに9mmの中心間隔T,Tで並ぶ金型64と平坦な金型63との間に供給して120℃で圧縮し、厚さ約0.1mmの接合部位113を有する第1複合ウエブ101aを得た。第1複合ウエブ101aを131℃で熱処理して下層用ウエブ102を機械方向MDへ60%収縮させる一方、交差方向CDへ80%収縮させて、隆起部21の高さMが約6mmであり、上面側起伏20aの高さNが約3mmである第2複合ウエブ101b、即ち図1,2の複合シート1を得た。
【0038】
図5は、この発明の実施態様の一例を示す図1と同様な図である。図5の複合シート1は、下層シート2と上層シート3とが縦方向Aへ連続して延びる接合部位13において接着または溶着により一体化している。その接合部位13は横方向Bにおいて間欠的に形成されており、隣り合う接合部位13どうしの間には上層シート3によって隆起部21が形成されている。隆起部21には、縦方向Aへ間欠的または連続的に延びる互いに平行な複数条の薄肉部位16が形成されている。下層シート2と上層シート3との間には空隙28が形成されている。この複合シート1は、図3の工程にいくつかの変更を加えることによって製造することができる。即ち、図3の工程(1)は、第1上層用ウエブ103aに対して交差方向CDへ延びる薄肉部位116が機械方向MDにおいて間欠的に形成されるように変更する。また、工程(3)は、交差方向CDへ延びる接合部位113が機械方向MDにおいて間欠的に形成されるように変更する。さらに工程(4)は、下層用ウエブ102を、主として機械方向MDにのみ収縮するものに変更する。第1上層用ウエブ103aの薄肉部位116は、その第1上層用ウエブ103aを得るために使用する原料ウエブを一方向へ走行させながら、その一方向に直交する交差方向である原料ウエブの幅方向へ間欠的に並べたノズルから高圧柱状水流をその原料ウエブに向かって噴射することによっても得ることができる。
【0039】
図6もまた、この発明の実施態様の一例を示す図5と同様な図である。図6の複合シート1は、下層シート2として、図5における捲縮した熱可塑性合成繊維11からなる繊維質のシートに代えて、縦方向Aと横方向Bとのうちの少なくとも横方向Bに弾性的に伸長、収縮可能なシート、例えば天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性合成樹脂のエラストマー等からなる弾性フィルムやウレタン弾性糸等の弾性糸からなる不織布が使用されている。下層シート2と上層シート3とは、下層シート2が横方向Bに伸長された状態にあるときに、接合部位13において接着または溶着により接合され、その後に下層シート2が伸長状態から解放されて図6の複合シート1となる。図6の下層シート2が熱可塑性合成樹脂等のフィルムで形成される場合には、これを透液性のものにするために、例えば直径が0.3〜1.5mm程度の透孔42が1cm当たりにつき少なくとも一つ形成される。図の上層シート3には、図5と同じものが使用されている。
【0040】
図7もまた、この発明の実施態様の一例を示す図5と同様な図である。図7の複合シート1は、上層シート3に縦方向Aへ間欠的に延びる第1薄肉部位16aと、横方向Bへ間欠的に延びる第2薄肉部位16bとが形成されており、これら第1、第2薄肉部位16a,16bで囲まれた部分に上面側起伏20aの凸部22と下面側起伏20bの凸部26とが形成されている。
【0041】
図8もまた、この発明の実施態様の一例を示す図2と同様な図である。図8の複合シート1は、下層シート2と上層シート3を有するものであるが、その上層シート3が上面側起伏20aを形成する第1繊維層51と、下面側起伏20bを形成する第2繊維層52とで構成されている。第1繊維層51も第2繊維層52も親水性繊維を含んではいるが、第2繊維層52の密度は第1繊維層51の密度よりも高いので、体液は第1繊維層51から第2繊維層52に向かって容易に移行する。複合シート1はまた、このような態様に代えて、第2繊維層52には第1繊維層51の繊維の親水度よりも高い親水度を有する繊維を使用することによっても、体液は第1繊維層51から第2繊維層52へ容易に移行する。第1繊維層51と第2繊維層52とは、互いに密着するように重ね合わせて薄肉部位16を形成することによって一体化することができる他に、重ね合わせた両層51,52をニードリングやウォータージェット処理を施して一体化することもできる。なお、第2繊維層52と下層シート2との間では、下層シート2の親水度や密度を第2繊維層52の親水度や密度と同じにするかまたはそれらよりも高くすれば、第2繊維層52から下層シート2に向かって体液は容易に移行する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明によれば、体液吸収性着用物品に使用したときに体液の透過性と通気性とに優れた効果を発揮する複合シートの製造が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】複合シートの斜視図。
【図2】図1の端面図。
【図3】複合シートの製造工程図。
【図4】第1複合シートの部分破断平面図。
【図5】実施態様の一例を示す図1と同様な図。
【図6】実施態様の一例を示す図5と同様な図。
【図7】実施態様の一例を示す図1と同様な図。
【図8】実施態様の一例を示す図2と同様な図。
【符号の説明】
【0044】
1 複合シート
2 第1シート(下層シート)
3 第2シート(上層シート)
6 第1上面
7 第1下面
8 第2上面
9 第2下面
11 熱可塑性合成繊維
12 熱可塑性合成繊維
13 部位
16 薄肉部位
17 厚肉部位
20a 上面側起伏
20b 下面側起伏
21 隆起部
51 第1繊維層
52 第2繊維層
101a 複合体(第1複合ウエブ)
102 収縮性シート
103a シート
103b 起伏シート(第2上層用シート)
113 接合部
116 薄肉部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに重なり合う液透過性の第1シートと液透過性の第2シートとからなり、前記第1シートは、第1上面とその反対面である第1下面とを有していてほぼ平坦に形成されたものであり、前記第2シートは、熱可塑性合成繊維の集合体であって第2上面とその反対面である第2下面とを有していて前記第2下面が前記第1上面に複数の部位で接合されたものであり、前記第2シートには、前記第1下面から前記第1上面へ向かう方向に高さ方向を有する複数の隆起部が形成されている複合シートにおいて、
前記第1シートと前記第2シートとは、互いに隣り合う前記隆起部どうしの間に形成される前記複数の部位で接合されており、
前記第2シートは、前記隆起部に複数の局部的な薄肉部位を有していて、前記隆起部における前記第2上面には、前記薄肉部位が凹となり前記薄肉部位どうしの間が前記第2上面の上方に向かって凸となることによって上面側起伏が形成されていることを特徴とする前記複合シート。
【請求項2】
前記隆起部における前記第2下面には、前記薄肉部位が凹となり前記薄肉部位どうしの間が前記第2下面の下方に向かって凸となることによって下面側起伏が形成されている請求項1記載の複合シート。
【請求項3】
前記第2シートが、前記第2上面を形成する第1繊維層と、前記第2下面を形成する第2繊維層との積層体であって、前記第2繊維層は前記第1繊維層の親水度よりも高い親水度を有している請求項1または2記載の複合シート。
【請求項4】
前記第2シートが、前記第2上面を形成する第1繊維層と、前記第2下面を形成する第2繊維層との積層体であって、前記第2繊維層は前記第1繊維層の繊維間隙よりも小さな繊維間隙を有している請求項1〜3のいずれかに記載の複合シート。
【請求項5】
前記第1シートが熱可塑性合成繊維の集合体および熱可塑性合成樹脂フィルムのいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の複合シート。
【請求項6】
請求項1に記載の複合シートの製造工程に次の工程が含まれることを特徴とする前記複合シートの製造方法。
a.互いに直交する縦方向と横方向と厚さ方向とを有しており熱可塑性合成繊維の集合体である液透過性のシートを、前記縦方向と前記横方向とのうちの少なくとも一方向で所要寸法離間している複数の局部的な部位において前記集合体を前記厚さ方向へ圧縮して複数の薄肉部位を形成するとともに前記薄肉部位どうしの間に厚肉部位を形成することにより、前記シートの少なくとも片面に前記薄肉部位と前記厚肉部位とからなる起伏を有する起伏シートを得る工程。
b.前記起伏シートを熱捲縮性の熱可塑性合成繊維の集合体であって液透過性を有する収縮性シートに重ね合わせ、前記一方向において前記離間寸法よりも大きな離間寸法を有する複数の接合部位で前記起伏シートと前記収縮性シートとを加熱溶着するか接着するかのいずれかによって接合してこれらシートの複合体を形成する工程。
c.前記複合体を加熱することによって前記収縮性シートの前記熱可塑性合成繊維を捲縮させて前記収縮性シートを収縮させ、前記複合シートを得る工程。
【請求項7】
前記起伏シートが熱捲縮性繊維を含むものであり、前記起伏シートを加熱してそれが含む前記熱捲縮性繊維を捲縮させた後に前記収縮性シートに重ね合わせる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記起伏シートが熱捲縮性繊維を含むものであり、前記複合体を加熱して前記収縮性シートを収縮させるとともに前記熱捲縮性繊維を捲縮させる請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の複合シートの製造工程に次の工程が含まれることを特徴とする前記複合シートの製造方法。
a.互いに直交する縦方向と横方向と厚さ方向とを有しており熱可塑性合成繊維の集合体である液透過性のシートを、前記縦方向と前記横方向とのうちの少なくとも一方向で所要寸法離間している複数の局部的な部位において前記集合体を前記厚さ方向へ圧縮して複数の薄肉部位を形成するとともに前記薄肉部位どうしの間に厚肉部位を形成することにより、前記シートの少なくとも片面に前記薄肉部位と前記厚肉部位とからなる起伏を有する起伏シートを得る工程。
b.弾性的に伸長可能であって液透過性を有する弾性シートを少なくとも前記一方向に伸長する工程。
c.前記起伏シートを伸長した前記弾性シートに重ね合わせ、前記一方向において前記離間寸法よりも大きな離間寸法を有する複数の接合部位で前記起伏シートと前記弾性シートとを加熱溶着および接着のいずれかによって接合してこれらシートの複合体を形成する工程。
d.前記複合体において前記弾性シートを収縮させて前記複合シートを得る工程。
【請求項10】
前記起伏シートが熱捲縮性繊維を含むものであり、前記起伏シートを加熱してそれが含む前記熱捲縮性繊維を捲縮させた後に前記弾性シートに重ね合わせる請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−34968(P2009−34968A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203563(P2007−203563)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】