説明

複合レンズの成形方法

【課題】 成形型と複合層との離型を確実かつ容易に行えるようにした複合レンズの成形方法を得る。
【解決手段】 ガラスレンズの一面に成形型を用いて光硬化性樹脂からなる複合層を転写することにより成形する複合レンズの成形方法において、成形型4と複合層3との鏡面をなす第1の転写面4aの外周部に、成形型4の引き剥がし方向に対して当該成形型4と複合層3との離型のきっかけとなる直交する第3の転写面4cをもつようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非球面複合層を持った複合レンズの成形方法に関し、詳しくは、成形型と複合層との転写面の外周部に離型方向に対して略直交する面をもつことによって、成形型と複合層との離型を小さな力で容易に行えるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、ガラスレンズ等の単レンズに光硬化性樹脂からなる非球面複合層を形成した、いわゆる複合レンズは比較的安価に非球面レンズを成形する手段として実用化されている。この複合レンズは光学ガラス製の単レンズのレンズ面に紫外線硬化性樹脂等からなる複合層を形成することによって製作される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、複合層の成形段階においては、成形型の転写面形状を確実に転写させるために転写面が鏡面状に仕上げられており、このため、成形型と複合層との密着度が非常に高く成形型からどのように剥離し離型するかが問題となっていた。
【0004】上述した問題の解決方法として温度差による複合層と成形型との線膨張係数の差を用いたり、複合層と成形型とが密着しないように転写面の一部に鏡面状にしない部分を配置する方法をとっていた。
【0005】前者の方法は、温度差を与える方法として加熱や冷却する手段が特別に必要となったり、樹脂とガラスとの間の密着性との兼ね合いよりガラスとの間において剥離が発生することもあり、確実な方法とは言えず量産性に不向きであった。
【0006】また、後者の方法では鏡面状に仕上げないためにあえて荒れた面とするため、複合層と成形型との接する面積が増加し、このため、逆に接する部分の密着性が上がってしまったり、同じ面粗さをもった成形型が作りがたく、よって剥離時の条件が成形型によって異なることから剥離するための設備に負担をしいることとなり、この場合も量産性に不向きであった。
【0007】本発明は、上述したような課題を解消するためになされたもので、成形型と複合層との離型を確実かつ容易に行えるようにした複合レンズの成形方法を得ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するため本発明による複合レンズの成形方法は、単レンズの少なくとも一面に成形型を用いて光硬化性樹脂からなる複合層を転写することにより成形する複合レンズの成形方法において、成形型と複合層との鏡面をなす転写面の外周部の一部又は全域であって、成形型の離型方向に対して当該成形型と複合層との離型のきっかけとなる略直交する面をもつようにしたものである。
【0009】上述した複合レンズの成形方法によれば、成形型と複合層との転写面の外周部に成形型の離型方向に対して略直交する面をもつようにしたことによって、成形型を複合層から離型したときの剥がす力に対して直交する面には摩擦力が発生することもなく、従って、成形型を複合層から剥がす力は成形型と複合層との密着力と同等の力でよく、この略直交する面が離型のきっかけとなり、略直交な面が剥離したときの外周部から空気が入り込むことによって曲率をもつ成形型と複合層との転写面の密着力が低下し成形型の剥離が可能となる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明による複合レンズの成形方法の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0011】図1は複合レンズの成形装置とその成形方法の一例を示す。符号1がレンズ支持台であり、このレンズ支持台1上に単レンズからなるガラスレンズ(以下、レンズ2という)が載置される。符号3がレンズ2上に塗布等により形成される紫外線硬化樹脂からなる複合層であり、この複合層3を成形型4により転写し、この後、レンズ2側から紫外線Uを照射することにより複合層3が硬化され、成形型4を離型することでレンズ2と複合層3とが一体化された複合レンズが製作できる。
【0012】ところで、上述した複合レンズの成形においては、複合層3と接する成形型4の転写面は鏡面加工されていることから、複合層3と成形型4とに密着力が生じ複合レンズの形成後に複合層3から成形型4を剥離(離型)する方法については従来の技術で説明した方法以外にも種々提案されている。
【0013】そこで、本発明では成形型4の剥離を確実かつ容易に行えるようにした複合レンズ成形方法の第の実施形態の要部の拡大図を図2に示す。
【0014】すなわち、成形型4には複合層3のレンズ面を鏡面加工するための第1の転写面4aを有し、この第1の転写面4aの外周部には成形型4の離型方向Wに対して平行する鏡面加工された垂直な第2の転写面4bが形成され、この第2の転写面4bの外周部には成形型4の離型方向Wに対して直交する向きで鏡面加工された、いわゆる水平な第3の転写面4cが形成されている。この第3の転写面4cは第1の転写面4aの延長線上より凸状部5にされている。
【0015】次に、上述のようにすることで複合層3から成形型4の剥離が低減できる原理を図3に示した成形型が曲面状にされた場合と、図4に示した本発明の成形型とを比較して説明する。
【0016】まず、図3において複合層3上で成形型との間で離型に有効である外周部の点で、成形型4と複合層3との密着力をF1 としたとき、離型に働く力を密着力であるF1 と同等にするためには、成形型4の外周部では曲率をもつために、成形型4を垂直に動かす力F2 は、離型に働く力F1 と摩擦力F3 との合力となる。このため、成形型4を離型するためには離型に働く力F1 よりも大きな力F2 が必要となることが判る。
【0017】これに対して、図4において本発明のように成形型4の外周部に水平な第3の転写面4cを形成した場合では、離型外周部の水平な第3の転写面4cでは、離型に働く力F1 は複合層3との密着力F1 と同等であるため、成形型4を垂直に動かす力はF1 と同じでよい。従って、成形型4の外周部に水平な第3の転写面4cを形成することにより、離型に必要な力を図3の場合のF2 からF1 へ軽減された力により成形型の離型が可能になることが理解できる。
【0018】つまり、成形型4は外周部の水平な第3の転写面4cが離型のきっかけとなり、このあと、第3の転写面4cが剥離されることで、ここから空気が第1の転写面4aに入り込むことにより確実かつ容易に剥離することができる。ここで、離型に必要なトルクを図3と図4とで比較すると、成形型4を引き上げる力をそれぞれW0 、W1 とすると、W1 ≒1/3W1 の関係となり、離型に必要な力が低減されたことが実験値から確認された。
【0019】ここで、上述した第3の転写面4cの第2の実施の形態を図5に示す。これによれば、第3の転写面4cの外周縁部に仰角方向に僅かに緩く傾斜する鏡面加工した第4の転写面4dを設けたものである。このようにすることであっても、第4の転写面4dは形成型4の離型方向と略直交する面となり、この場合、僅かに緩く傾斜する第4の転写面4dは離型に働く力に対して摩擦力は無視できる小さなものとなり、従って、上述した図2に示した場合と同様に離型に必要な力を軽減することができ、成形型を引き上げたとき水平な第3の転写面4cと共に第4の転写面4dが剥離のきっかけとなり確実かつ容易に剥離することができる。
【0020】また、図6にさらに第3の実施の形態を示す。これによれば、第3の転写面4cに相当する転写面が全体に仰角方向に僅かに緩く傾斜する(余弦分の負荷増加は見込まれるが僅かである)鏡面加工した第3の転写面4eを設けたものである。この場合も第3の転写面4eは、形成型4の離型方向と略直交する面となり、この場合、僅かに緩く傾斜する第3の転写面4eは離型に働く力に対して摩擦力は無視できる小さなものとなり、従って、上述した図2に示した場合と同様に離型に必要な力を軽減することができ、成形型を引き上げたとき第3の転写面4eが剥離のきっかけとなり確実かつ容易に剥離することができる。
【0021】また、図7にさらに第4の実施の形態を示す。これによれば、第2の転写面4bはなく第1の転写面4aの外周部から成形型の離型方向と直交する水平な鏡面加工した第3の転写面4fを設け、この第3の転写面4fの外周縁部に仰角方向に僅かに緩く傾斜する鏡面加工した第4の転写面4gを設けたものである。このようにすることであっても、第4の転写面4gは形成型4の離型方向と略直交する面となり、この場合、僅かに緩く傾斜する第4の転写面4gは離型に働く力に対して摩擦力は無視できる小さなものとなり、従って、離型に必要な力を軽減することができ、成形型を引き上げたとき水平な第3の転写面4fと共に第4の転写面4gが剥離のきっかけとなり確実かつ容易に剥離することができる。
【0022】また、上述した図2、図5及び図6の各実施の形態において、第1の転写面4aの外周部を延長線上より凸状部5にすることによって、レンズ2に塗布した樹脂量のバラツキを吸収し成形型4外へのはみ出しを防止することができる。
【0023】さらに、第1の転写面4aの外周部に設けられる剥離のきっかけとなる略直交する面を有する凸状部5は、第1の転写面4aの外周部の全域あるいは外周部の一部に形成されることであってもよい。
【0024】本発明は、上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0025】尚、本例の実施の形態では、ガラスレンズの一面に複合層を成形する方法について説明したが、ガラスレンズの両面に複合層を成形する場合についても本発明の成形方法が広く適用可能である。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように本発明による複合レンズの成形方法は、成形型と複合層との鏡面をなす転写面の外周部の一部又は全域に、成形型の離型方向に対して当該成形型と複合層との離型のきっかけとなる略直交する面をもつようにしたことで、複合層から成形型が小さな引き剥がし力で容易にかつ確実に分離することができるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本例による成形方法を実施するための成形装置の概要図である。
【図2】本発明の要部である成形方法の第1の実施形態の説明図である。
【図3】従来の成形方法における成形型の引き剥がし力の原理図である。
【図4】本発明の成形方法における成形型の引き剥がし力の原理図である。
【図5】本発明の成形方法の第2の実施形態の説明図である。
【図6】本発明の成形方法の第3の実施形態の説明図である。
【図7】本発明の成形方法の第4の実施形態の説明図である。
【符号の説明】
9…ストロボ装置、10…ベース板金、11…ロックアームレバー、12…支点軸、13…ロックアーム、13a…水平受け面、14…リターン片、15…レバー、16…ボス、17…回転支点部、18…抑え板、22…プランジャー、23…ソケット、26…プランジャーホルダー、44…ポップアップ板金、46…コイルばね、49…ワイヤー、53…傾斜面板、54…リリースばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】 単レンズの少なくとも一面に成形型を用いて光硬化性樹脂からなる複合層を転写することにより成形する複合レンズの成形方法において、上記成形型と上記複合層との鏡面をなす転写面の外周部の一部又は全域であって、上記成形型の離型方向に対して当該成形型と複合層との離型のきっかけとなる略直交する面をもつことを特徴とする複合レンズの成形方法。
【請求項2】 請求項1記載の複合レンズの成形方法において、略直交する面が上記転写面の延長線上より凸状をなしていることを特徴とする複合レンズの成形方法。
【請求項3】 請求項1記載の複合レンズの成形方法において、略直交する面が上記転写面と同様な鏡面をなしていることを特徴とする複合レンズの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2003−311757(P2003−311757A)
【公開日】平成15年11月5日(2003.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−120930(P2002−120930)
【出願日】平成14年4月23日(2002.4.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】