説明

複合ロールの遠心鋳造方法

【課題】本発明は、従来より寿命が長く、且つ圧延した製品に肌荒れが生じ難いロールを製造可能な複合ロールの遠心鋳造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】ロールのワーク部を形成する金型、両端部を形成する砂製の上型及び下型を備えた鋳型を一定角度で傾斜、回転させ、該鋳型に最初は溶融状態にある外層用素材を注入し、該外層用素材が凝固した後に芯材用素材を注入する複合ロールの遠心鋳造方法を改良した。その内容は、注入された溶融状態の素材の撹拌が促進されるよう、素材が凝固後にクロップとして切り捨てられる部分の下型内面に、断面視で中心側に突出した凸条を形成した下型を用いることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ロールの遠心鋳造方法に係わり、詳しくは、耐摩耗性に優れ、従来より寿命が長い複合ロールの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属材料、例えば鋼材や鋼板は、溶鋼を連続鋳造等して得た鋼鋳片を、熱間又は冷間で圧延して製造される。その圧延にはロールが使用されるが、該ロールの良否は、製造される鋼材、鋼板等の品質や価格に多大な影響を与える。特に、近年は、熱間圧延技術の進歩が目覚しく、それに伴い、使用する熱間圧延用ロールの特性、特に耐摩耗性の向上が強く要求されるようになった。
【0003】
このような耐摩耗性の向上要求に応え、ロールを芯材と被圧延材に接する外層(ワーク層ともいう)との二重構造とし、該外層の素材を高速度工具鋼の組成に類似した組成とし、ロールの製造時に硬質な炭化物を析出させて、耐摩耗性を格段に向上させた高性能の複合ロール(ハイス系ロール)が開発され、実用化されている。例えば、ロール芯材の上に、C:2.4〜2.9質量%,Si:1質量%以下,Mn:1質量%以下,Cr:12〜18質量%,Mo:3〜9質量%,V:3〜8質量%,Nb:0.5〜4質量%を含有し,0.27≦Mo/Cr≦0.7及び(C+0.2Cr)≦6.2を満足する組成のハイス系外層を有する熱間圧延用ロールが提案されている(特許文献1)。ここで、かかる複合ロールの製造には、図3に示すような遠心鋳造法が利用される。つまり、素材を電気炉(例えば、低周波溶解炉等)1で溶解し、一定角度で傾斜させて回転している鋳型2に注ぎ、遠心力をかけた状態で凝固させた後、熱処理炉3及び加工機械4を経由させてロール11とする。その際、素材には、最初に注入する外層用及び後から注入する芯材用の二種類を用いることになる。
【0004】
また、本出願人も、同様に遠心鋳造法で製造され、C:1.6〜2.9質量%,Si:1質量%以下,Mn:1質量%以下,Cr:4〜18質量%,Mo:1〜9質量%,V:3〜8質量%,Nb:0.5質量%以下の鉄で外殻を形成してなるロールであって、前記鉄に、さらに該鉄に非固溶な金属を含有させ、凝固後のロール使用層に鉄に非固溶な金属の微粒子を分散させてなることを特徴とする金属材料の熱間圧延用ロールを開示している(特許文献2参照)。このロールによれば、被圧延材との焼付き頻度が低減し、従来よりクラックの発生が減り、ロールの寿命が延長できるようになった。
【0005】
しかしながら、最近は、圧延製品の品質及び生産性の向上に対する要求が従来より一層高まり、それに呼応して、圧延に用いるロールの寿命を一段と延長することが熱望されている。
【特許文献1】特開平10−183289号公報
【特許文献2】特開2003−306740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、従来より寿命が長く、且つ圧延した製品に肌荒れが生じ難いロールを製造可能な複合ロールの遠心鋳造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ね、その成果を本発明に具現化した。
【0008】
すなわち、本発明は、ロールのワーク部を形成する金型、両端部を形成する砂製の上型及び下型を備えた鋳型を一定角度で傾斜、回転させ、該鋳型に最初は溶融状態にある外層用素材を注入し、該外層用素材が凝固した後に芯材用素材を注入する複合ロールの遠心鋳造方法において、外層用として注入された溶融状態の素材の撹拌が促進されるよう、素材が凝固後にクロップとして切り捨てられる部分の下型内面に、断面視で中心側に突出した凸条を形成した下型を用いることを特徴とする複合ロールの遠心鋳造方法である。この場合、前記凸条の形状を山形とするのが良い。また、前記鋳型の傾斜を5°以上、回転速度を300〜1000rpmとしたり、あるいは前記外層用素材がハイス系合金であり、前記芯材用素材がダクタイル鋳鉄であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鋳型の回転力が注入当初に下型に溜まった溶融状態にある素材へ迅速、且つ確実に伝達され、該素材に遠心力が作用するまでの時間が早くなる。その結果、ロールの外層表面の結晶粒が微細になり、耐摩耗性が向上する。つまり、従来より寿命が長く、且つ圧延した製品に肌荒れが生じ難いロールを安定して製造できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の最良の実施形態を説明する。
【0011】
遠心鋳造でロールを製造する場合、溶融状態にある素材(以下、溶湯5という)を上型6、金型7及び下型8を組合せて構成した一般的な鋳型2に注入開始すると、該溶湯5は、図2に溶湯の流れを矢印で示すように、一旦鋳型の下型8内に溜まり、鋳型2の回転が溶湯5に伝わって遠心力が働き、金型7へ移動して円筒状に広がる。その溶湯5への回転力は、溶湯5と鋳型2との摩擦力だけで付与されるが、該摩擦力は鋳型2の内面性状の影響が大きく、金型7に円筒状に溶湯5が充満されるまでの期間における溶湯5の挙動が一定しない傾向があった。そのため、凝固形態にムラが発生していた。つまり、ロール表面の結晶粒が大きいもの小さいもの様々で、不均一な粒度分布を呈し、肌荒れが存在するばかりでなく、耐摩耗性に好ましくないと考えられた。ところが、従来、このムラの解消に有効と考えられる下型内における溶湯の撹拌力強化については、何ら対策が施されていない。
【0012】
そこで、発明者は、この下型8内での溶湯5の撹拌力を強化できれば、特に注湯初期において金型7への溶湯5の逆上り流が多くなるばかりでなく、結晶の核生成が増大して結晶組織を細粒で均一にできると考えた。そして、まず、注入された溶湯が凝固後にクロップとして切り捨てられる長さ(図2では、記号Lで示す)に対応する下型の内面位置に、数枚の鋼鉄製フィン(板状の撹拌翼)を下型の長手方向に沿って設け、溶湯の撹拌を強化しようと試みた。
【0013】
しかしながら、該試みは、溶湯の注入後すぐにフィンが溶解してその形がくずれてしまうため失敗に終わった。そのため、発明者は、引き続きその代案を種々検討し、フィンに代えて、断面視で中心側に突出した凸条9を砂で形成したところ、溶湯5の回転が強まることを見出した。そして、該凸条9として、図1(b)〜(c)に断面視で示すような種々の形状を有する下型8を試作し、それを組み込んだ鋳型2で実際に溶湯5の遠心鋳造を行ってロールを製造した。つまり、図1(a)の下型において,記号Lで示す領域はB−B視のような凸条9を有する断面(図1(b)あるいは(c))とし、それより金型7側の領域はA−A視のような円形断面(図1(d))とした。なお、上記Lの長さは、通常、下型の底面より100mm以下であるが、撹拌効果を大きくするために、Lの長さを200mm程度とした。
【0014】
その結果、それらの凸条9が撹拌翼のように作用し、ロールの外層は結晶粒が従来より細かく、且つ均一で、緻密な肌を有するようになった。しかも、かかるロールで鋼鋳片を熱間圧延したところ、ロールの寿命が従来より20%程度長くなり、製造した鋼板の表面に生じる肌荒れも低減することが確認されたので、上記のような下型を用いる遠心鋳造方法を本発明としたのである。
【0015】
なお、本発明では、前記凸条9の形状としては、山形、スクリュウ状、堰状等、種々のものが採用できるが、山形の形状が最も好ましい。鋳造終了後に肉眼で観察したところ、最も形の崩れが少ないので、効果も大きいと予想できるからである。また、凸条の長さ(図1及び図2のL)や高さ、断面積、内面へ突き出すサイズ等については、本発明では特に限定しない。事前の試験等により予め定めれば良いからである。
【0016】
さらに、本発明では、前記鋳型2の傾斜を5°以上、回転速度を300〜1000rpmとするのが好ましい。鋳型2の傾斜が5°未満では、注入した溶湯が撹拌強化部(つまり、凸条を設けた部分)を十分に満たさず、意図する撹拌が得られない。また、鋳型の回転速度が300rpm未満だと撹拌力が弱すぎて、意図する効果が出現しないし、1000rpmを超えると、効果が飽和し無意味となるだけでなく、撹拌による下型内凸状の損傷が大きくなるという悪影響が生じる。
【0017】
なお、ロールを遠心鋳造する際の鋳型の回転速度は、鋳型内の溶湯にかかる遠心力によって決まり、重力に比べて溶湯にかかる遠心力が不十分だと、鋳型内で溶湯の形状が均一にならないという問題点が生じる。
【0018】
加えて、本発明では、溶湯5の組成についても特に限定しないことにした。凸条9を設けた下型8は、ロールの素材に利用できる溶鋼、各種金属及び合金のいずれに対しても有効だったからである。しかしながら、試作ロールの使用結果では、前記外層用素材がハイス系合金で、前記芯材用素材がダクタイル鋳鉄である場合が最も良い成績を示したので、それら溶湯を限定使用することも本発明に加えることにした。
【実施例】
【0019】
C:2.5質量%,Si:0.8質量%以下,Mn:0.9質量%以下,Cr:13質量%,Mo:5質量%,V:3質量%,Nb:0.3質量%を含み,残部鉄及び不可避不純物元素からなるハイス系合金をロールの外層材に、ダクタイル鋳鉄を芯材として、複合ロールを製造した。その際、外層の鋳造に図2に示した本発明に係る遠心鋳造法を適用した。上記素材は、電気炉1として低周波誘導方式の炉を用いて溶解し、温度が1450℃の溶湯として回転中の傾斜した鋳型2へ注入し、外層用のハイス系合金の凝固が完了した後、該鋳型の回転を止めて直立させ、芯材を鋳込むようにした。最初に鋳込むロール外層用のハイス系合金を3.6トン、後に鋳込む芯材用のダクタイル鋳鉄を7.6トンとした。なお、鋳型2の上型6及び下型8は、枠内に砂を固めて製作し、金型は鍛鋼で製作した。また、鋳型の傾斜角は20°で、回転速度は550rpmとした。さらに、鋳型は、本発明に基づき、その下型8の内面を特殊な形状とした。つまり、内径450mmφの円筒状内面に、Lが200mmで高さ50mmの山形の凸条を形成した。そして、内面(内径450mmφ)の通常通りの下型を用いる従来の鋳造方法での場合と比較した。
【0020】
実施結果を、製造したロールを用いて鋼材を圧延し、その圧延量が10000トンを超えた時における使用したロールの「表面疲労層厚」及び「無改削最大圧延量」で評価し、表1に一括整理した。ここで、「表面疲労層厚」は、圧延に使用した時にロール表層の数十μm厚に生成する微細なクラックが入った領域で、圧延ヘルツ応力及び急熱急冷によって生じると考えられているものである。また、表面疲労層は、表面波によるロールの超音波探傷において、その存在が確認でき、その厚さのことである。さらに、「無改削最大圧延量」とは、ロールを研磨せずに繰り返して使用できた時の圧延量の最大値である。
【0021】
【表1】

【0022】
表1より、本発明に係る複合ロールの遠心鋳造方法によれば、ロールの外層表面の結晶粒が微細になり、耐摩耗性が向上して従来より寿命が長く、且つ圧延した製品に肌荒れが生じ難いロールを安定して製造できることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る複合ロールの遠心鋳造方法を説明する図であり、(a)は鋳型全体の側面を、(b)〜(c)は(a)のB−B視であり、下型の内面に砂で形成した凸条を断面で示し、(d)は(a)のA−A視で、凸条が設けられていない部分である。
【図2】鋳型に最初の溶湯を注入し、回転を開始する前の状況を示す側面図である。
【図3】遠心鋳造でロールを製造する一般的な工程を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0024】
1 電気炉
2 鋳型
3 熱処理炉
4 加工機械
5 溶湯
6 上型
7 金型
8 下型
9 凸条
10 ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールのワーク部を形成する金型、両端部を形成する砂製の上型及び下型を備えた鋳型を一定角度で傾斜、回転させ、該鋳型に最初は溶融状態にある外層用素材を注入し、該外層用素材が凝固した後に芯材用素材を注入する複合ロールの遠心鋳造方法において、
注入された溶融状態の素材の撹拌が促進されるよう、素材が凝固後にクロップとして切り捨てられる部分の下型内面に、断面視で中心側に突出した凸条を形成した下型を用いることを特徴とする複合ロールの遠心鋳造方法。
【請求項2】
前記凸条の形状を山形とすることを特徴とする請求項1記載の複合ロールの遠心鋳造方法。
【請求項3】
前記鋳型の傾斜を5°以上、回転速度を300〜1000rpmとすることを特徴とする請求項1又は2記載の複合ロールの遠心鋳造方法。
【請求項4】
前記外層用素材がハイス系合金であり、前記芯材用素材がダクタイル鋳鉄であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合ロールの遠心鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−95595(P2006−95595A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288081(P2004−288081)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】